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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074130
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】発電システムまたは発電方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/02 20060101AFI20230522BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230522BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20230522BHJP
   F02G 5/02 20060101ALN20230522BHJP
   F01K 25/10 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
C01B3/02 B
C01B3/04 R
H01M8/00 Z
F02G5/02 B
F01K25/10 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021186912
(22)【出願日】2021-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 秀高
(72)【発明者】
【氏名】松村 栄郎
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
【テーマコード(参考)】
3G081
【Fターム(参考)】
3G081BA02
3G081BC11
(57)【要約】
【課題】効率の良い発電システムを提供する。
【解決手段】熱源と、供給された熱を用いて低温熱化学水分解による水素製造を行う反応器と、前記反応器によって製造された水素を燃料として発電する第1発電機構と、前記熱源からの熱に加えて前記第1発電機構の廃熱を前記反応器に供給する供給部と、を備える発電システムを提供する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源と、
供給された熱を用いて、アルカリ金属を利用した低温熱化学水分解による水素製造を行う反応器と、
前記反応器によって製造された水素を燃料として発電する第1発電機構と、
前記熱源からの熱に加えて前記第1発電機構の廃熱を前記反応器に供給する供給部と、
を備える発電システム。
【請求項2】
前記第1発電機構は、
前記反応器によって製造された水素を燃料として駆動するロータリエンジン、レシプロエンジンおよびガスタービンから選択される、熱を発生させる装置と、
前記装置から得られる動力を用いて発電する発電機と、を有する、請求項1に記載の発電システム。
【請求項3】
前記第1発電機構及び前記反応器の少なくとも1つの廃熱を用いて発電する第2発電機構をさらに備える、請求項1または2に記載の発電システム。
【請求項4】
前記第2発電機構は、オーガニックランキンサイクルまたはバイナリー発電による発電を行う、請求項3に記載の発電システム。
【請求項5】
前記熱源は、発電所及び工場の少なくとも1つの廃熱を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の発電システム。
【請求項6】
前記熱源から供給される熱の温度は摂氏100度以上400度未満である、請求項1から5のいずれか1項に記載の発電システム。
【請求項7】
前記熱源から供給される熱の温度は摂氏100度以上200度以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の発電システム。
【請求項8】
前記反応器を複数備え、
複数の前記反応器の間では前記水素製造の周期の位相が異なる、
請求項1から7のいずれか1項に記載の発電システム。
【請求項9】
前記第1発電機構は燃料電池を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の発電システム。
【請求項10】
供給された熱を用いて、アルカリ金属を利用した低温熱化学水分解による水素製造を行う製造工程と、
前記製造工程によって製造された水素を燃料として発電する第1発電工程と、
前記製造工程及び前記第1発電工程の少なくとも1つで排出された廃熱を用いて発電する第2発電工程と、
熱源からの熱に前記第1発電工程で排出された廃熱を加えて前記製造工程に供給する工程と、を含む、
発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電システムまたは発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、廃熱を利用して発電を行う方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63-005102号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小島由継、他3名、"500℃以下の熱を利用した水分解による水素製造"、2015年9月8日、新技術説明会、[2021年7月5日検索]、インターネット<URL:https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/15/hiroshima/hiroshima06.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に廃熱は温度が低いことが多く、廃熱を利用して発電を行っても、従来では効率の良い発電を実現することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した課題を解決する主たる本発明は、一態様として、熱源と、供給された熱を用いて低温熱化学水分解による水素製造を行う反応器と、前記反応器によって製造された水素を燃料として発電する第1発電機構と、前記熱源からの熱に加えて前記第1発電機構の廃熱を前記反応器に供給する供給部と、を備える発電システムを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効率の良い発電システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る発電システムの構成を示す図である。
図2】第1実施形態に係るORC発電機構の構成を示す図である
図3】第1実施形態に係る反応器の構成を示す図である。
図4】反応器における反応1の過程を(a)~(c)の順に示す図である。
図5】反応器における反応2、3の過程を(a)~(c)の順に示す図である。
図6】反応器における反応4の過程を(a)~(c)の順に示す図である。
図7】反応器における反応4の過程を(a)~(b)の順に示す図である。
図8】(a)反応器における温度経過を示すグラフである。(b)、(c)の各図は、第2、第3の反応器(変形例)での温度経過を示すグラフである。
図9】発電システムにおける熱量の移動と発電効率を示す図であり、熱源から供給される熱が(a)100℃であった場合と(b)150℃であった場合とにおける、計算結果を示す。
図10】第2実施形態に係る発電システムを示す図である。
図11】変形例に係る、低温加熱媒体として蒸気を使用した発電システムの構成を示す図である。
図12】変形例に係る、低温加熱媒体として空気を使用した発電システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
図1図9を参照しつつ、発電方法の一実施形態である発電システム100について、以下のとおり説明する。図1は、発電システム100の構成の一例を示す図である。
【0010】
なお、明細書及び図面では、物質の個体、液体、気体の別を、物質名の後にそれぞれ(s)、(l)、(g)を付すことによって示している。
【0011】
(概要)
発電システム100は、図1に示すように、熱源1、熱交換器2、反応器3、水素(H)タンク4、圧縮機5、発電機構6、ORC発電機構7、ファン8、ポンプ9、及び供給部10A、10B、10Cを備える。
【0012】
熱源1は、発電所及び工場の少なくとも1つから排出される廃熱を含む。例えば、ボイラ煙道や製造設備からの廃熱などである。または、熱源1は、太陽熱などの自然エネルギーを由来とする熱源を含んでもよい。
【0013】
熱源1から供給される熱の温度は、100℃(摂氏100度)以上400℃未満であり、特に工場や発電所の廃熱である場合は、100℃以上200℃以下である。
【0014】
熱交換器2は、熱源1からの熱を用いて媒体(低温加熱媒体)を加熱する機能を有する。本実施形態では図1のように低温加熱媒体として水を用いるが、この場合、熱交換器2は水を加熱して蒸気(100℃以上150℃以下)を生成する。なお、熱源1から熱を運ぶ低温加熱媒体としては、空気などの気体など、水の他にも様々な物質が考えられる。
【0015】
反応器3は、熱交換器から低温加熱媒体を介して熱の供給を受け、水素を製造する。反応器3が用いる水素の製造方法は、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属を用いた低温熱化学水分解である(非特許文献1参照)。本実施形態ではアルカリ金属としてナトリウムを用いるものとし、詳細は後述する。
【0016】
水素タンク4は、反応器3で製造された水素を貯蔵するタンクである。圧縮機5は、水素タンク4から水素を取り出して加圧し、発電機構6へ供給する機能を有する。
【0017】
発電機構6は、水素を燃料として発電を行う機構である。発電機構6は、発動機61と発電機62とを備える。
【0018】
発動機61は、水素を燃料として動力を発生させる装置であり、本実施形態ではロータリエンジンが用いられる。発電機62は発動機61から動力を得て、発電を行う。発動機61は高温の廃熱を発生させる。
【0019】
なお、発動機61にはレシプロエンジン、ガスタービン等、ロータリエンジン以外の発動機が用いられてもよいし、発電機構6として燃料電池が用いられてもよい。いずれの装置も熱を発生させるが、廃熱温度が高いロータリエンジンを発動機61として用いることが好適である。また、ロータリエンジンは、レシプロエンジンと異なってローターの慣性力が大きく、定常運転に適している。
【0020】
ORC発電機構7は、100℃以下で気化する有機媒体を用いたオーガニックランキンサイクル(ORC)による発電を行う機構である。ORC発電機構7は、蒸発器71、タービン72、タービン72によって駆動される発電機73、及び凝縮器74を備える(図2)。
【0021】
蒸発器71は、有機媒体を加熱して蒸発させる装置である。なお、図2では有機媒体として、シリコンオイルを用いた例を示す。蒸発器71の熱源は、反応器3で発生する約100℃の加熱空気または蒸気である。
【0022】
蒸発器71で蒸発した有機媒体は、タービン72を駆動し、発電機73はタービン72から駆動力を得て発電を行う。
【0023】
タービン72を駆動した後の有機媒体は凝縮器74で凝縮し、ポンプによって再び蒸発器71へ供給される。
【0024】
ファン8は、外気を冷却媒体として反応器3へ送り込む機能を有する。
【0025】
ポンプ9は、蒸発器71で冷却された水を熱交換器2へ供給する機能を有する。
【0026】
供給部10Aは、発電機構6で発生した熱を、発動機61へ供給する機能を有する。本実施形態において、供給部10Aは、発動機61の廃熱を用いて500℃以上800℃以下の蒸気を発生させ、発生した蒸気を高温加熱媒体として配管を介して反応器3へ供給する。
【0027】
供給部10Bは、熱源1からの熱を、低温加熱媒体を用いて反応器3へ供給する配管である。低温加熱媒体としては水または空気が考えられるが、本実施形態では水が用いられる。
【0028】
供給部10Cは、ファン8から空気の供給を受け、冷却媒体として反応器3へ供給する配管である。
【0029】
(反応器の詳細)
反応器3の詳細を以下に説明する。反応器3は、ナトリウムレドックスサイクルによる低温熱化学水分解を行う装置である。反応器3は、図3に示すように、熱交換部31、反応部32、凝縮部33、冷却部34、配管35A、35B、配管37A、37B、37Cを備え、これらは格納容器30の内部に格納される。
【0030】
格納容器30は、反応器3の外殻を成す容器であり、反応器3を構成する主要な装置を内部に格納する。格納容器30の内部には、ナトリウム流出時の火災や被害拡大を防止するため、窒素などの不活性ガスが充填される。
【0031】
反応部32は密閉可能な容器であり、内部で水素の生成、製造がおこなわれる。反応部32にはナトリウムまたはナトリウム化合物が貯蔵される。反応部32は凝縮部33と配管35A、35Bを介して接続されている。反応部32に貯蔵されるナトリウムは、配管35A、35Bを介して凝縮部33との間で移動可能である。反応部32の上部には、配管37A、37B、37Cが接続されており、水、酸素、及び水素の排出又は供給が行われる。
【0032】
熱交換部31は、反応部32の加熱と冷却を行う装置である。熱交換部31は、供給部10A、10B、10Cと接続されており、それぞれから高温加熱媒体、低温加熱媒体、及び冷却媒体の供給を受ける。供給部10A、10B、10Cには、熱交換部31との接続部付近においてそれぞれ弁が備えられており、配管の開閉が可能である。
【0033】
凝縮部33は中空の容器であり、反応部32で気化したナトリウムを凝縮させる機能を有する。凝縮部33は、配管35A、35Bを介して反応部32と接続され、反応部32との間でナトリウムの授受を行う。
【0034】
配管35A、35Bにはそれぞれ、配管の開閉を可能とする弁が備わっている。また、配管35A、35Bは加温されており、通過するナトリウムの相変化が防止されている。
【0035】
配管35Aは、反応部32の上部と凝縮部33の上部とを接続し、配管35Aは、気化したナトリウムを反応部32から凝縮部33へ移動させる機能を備える。
【0036】
配管35Bは、反応部32の下部と凝縮部33の下部とを接続し、液体ナトリウムを凝縮部33から反応部32へ流す機能を備える。配管35Bは、凝縮部33から反応部32へ向けて下方に傾斜しており、ナトリウムの流動を容易にしている。
【0037】
冷却部34は、凝縮部33の周囲を囲むように取り付けられた中空の容器であり、凝縮部33を冷却する機能を有する。冷却部34は供給部10Cと接続しており、その内部に冷却媒体として空気の供給を受ける。また、冷却部34は供給部10Bと接続しており、蒸気(低温加熱媒体)の供給を受ける。そのため冷却部34は、凝縮部33を加熱することもできる。
【0038】
配管37A、37B、37Cは、反応部32に接続される。配管37A、37B、37Cにはそれぞれ、配管の開閉を可能とする弁が備わっている。配管37Aは反応部32への水の供給を行う機能を有し、配管37Bは反応部32から酸素(g)の排出を行う機能を有する。配管37Cは、反応部32と水素タンク4を接続しており、水素を反応部32から水素タンク4へ供給する機能を有する。
【0039】
(水素製造)
反応器3における水素製造は、反応1~反応4という、4つの過程によって構成される。簡略に述べると、反応1は、アルカリ金属(本実施形態ではナトリウム)とアルカリ金属水酸化物とを反応させて、アルカリ金属酸化物と水素を生成させる過程である。反応2は、アルカリ金属酸化物を分解してアルカリ金属過酸化物とアルカリ金属を生成させる過程である。反応3はアルカリ金属を凝縮させる過程であり、反応2と並行して実施される。反応4は、アルカリ金属過酸化物と水とを反応させて、アルカリ金属水酸化物と酸素を発生させる過程である。
【0040】
以下に各反応の詳細を図4図8を用いて順次説明する。
【0041】
〔反応1〕
反応1では、まず供給部10A、10Bによって熱交換部31に低温加熱媒体及び高温加熱媒体が供給され、反応部32が350℃に加熱される(図4(a))。配管35A、35Bはいずれも閉鎖されている。
【0042】
反応部32の加熱に伴い、反応部32に貯蔵される液体ナトリウムと水酸化ナトリウム(s)が加熱され、酸化ナトリウム(s)と水素(g)が生成される(図4(b)、(c))。これは吸熱反応である。発生した水素(g)は、配管37Cを介して反応部32から取り出され、水素タンク4へ供給される。
【0043】
〔反応2〕
次に、低温加熱媒体及び高温加熱媒体を用いて、反応部32及びその内部の酸化ナトリウム(s)が、さらに400℃まで加熱される(図5(a))。一方で、冷却部34に供給部10Cを介して冷却媒体が供給され、凝縮部33は100℃以下に保たれる。
【0044】
加熱されることにより、酸化ナトリウム(s)は、過酸化ナトリウム(s)とナトリウム(g)に分解される(図5(b))。ナトリウム(g)の生成に伴って配管37Aが開かれ、ナトリウム(g)は凝縮部33へ移動する。
【0045】
生成したナトリウム(g)の移動が完了すると、配管35Aは再び閉鎖される(図5(c))。
【0046】
反応2でナトリウム(g)を全て凝縮部33へ移動させることにより、後工程の反応4において、水とナトリウムとが爆発的に反応してしまうことが防止されている。
【0047】
〔反応3〕
凝縮部33へ移動したナトリウム(g)は100℃以下に冷却されて凝縮し、ナトリウム(l、s)となる(図5(b))。ナトリウム(s)が含まれている場合、後で冷却部34により凝縮部33を加熱し、ナトリウム(s)を融解させてもよい。
【0048】
〔反応4〕
反応4では、まず供給部10Cから熱交換部31に冷却媒体が供給され、反応部32は110℃に保持される(図6(a))。一方、凝縮部33は、100℃以下に保たれ、ナトリウム(l、s)が内部に保持される。同時に、反応部32に配管37Aから水(l)が注入される。
【0049】
反応部32の内部では、過酸化ナトリウム(s)と水(l)とが反応し、酸素(g)と水酸化ナトリウム(s)が生成される(図6(b))。水(l)の注入は、全ての過酸化ナトリウム(s)が反応するまで継続される(図6(c))。発生した酸素(g)は、配管37Bによって反応部32から排出される。
【0050】
全ての過酸化ナトリウム(s)が反応した後、配管35Bが開かれ、ナトリウム(l)が凝縮部33から反応部32へと移動する(図7(a))。ナトリウム(l)の移動完了後、配管35Bは閉鎖される。
【0051】
反応4の終了後は、図7(b)に示すように、反応1の開始時と同じ状態となっている。図8(a)は、反応1~4における反応器3の温度変化を示したものであるが、この図に示すように、反応器3において反応1~4のサイクル(周期)を繰り返すことによって、水素の製造が継続される。
【0052】
(熱効率)
上記のように構成される発電システム100における発電効率を、図9を用いて説明する。図9では、発電システム100における熱量の移動を矢印で示し、さらに各装置、機構において消費される熱量を計算している。
【0053】
図9におけるカッコ内の数字は各装置及び機構に供給される熱量を示したものであり、熱源1から反応器3へ供給される熱量を100として基準化している。
【0054】
図9では、反応器3に供給された熱量の35%が水素製造に利用され、65%の熱量が排出されるものとしている。
【0055】
ORC発電機構7では反応器3から排出される熱量の60%が利用され、その60%の熱量のうち19%が電気に変換されるものとする。また、発電機構6では発動機61としてロータリエンジンを使用し、水素の燃焼により発生する熱量の30%が電気に変換されるものとする。
【0056】
このような前提の下で、反応器3での水素製造に使用される熱量と排出される熱量、並びに、ORC発電機構7及び発電機構6における発電効率は、図9に示すように計算される。
【0057】
詳細に述べると、発動機61であるロータリエンジンの廃熱は高温であるため、エンジンの廃熱から500℃以上800℃以下の蒸気(高温加熱媒体)を生成して、さらに熱源1から供給される100℃の蒸気(低温加熱媒体)に加えることにより、400℃以上の蒸気を得ることができる。400℃以上の蒸気を反応器3で用いることにより、400℃以上の温度を必要とする低温熱化学水分解が実行可能となる。
【0058】
この場合、発動機61から供給されるべき熱量は、熱源1からの熱量の22%程度(エンジン廃熱の約75%)で足りる。これは、0.1MPa(1気圧)における400℃の過熱蒸気の比エンタルピ(3279kJ/kg)が、100℃の過熱蒸気の比エンタルピ(2676kJ/kg)の約122%であることから明らかである。
【0059】
発電システム100の全体での発電効率は、発電機構6での発電量12.8とORC発電機構7での発電量9.0とを加算し、システム全体での発電量が21.8であることから、21.8%と導出できる。発電システム100は、100℃の廃熱を使用しながらも、このような高効率な発電を実現している。
【0060】
なお、熱源1からの熱が150℃である場合、反応器3へ供給する熱を450℃とできるため、図9(b)に示すように、発電効率は22.6%とさらに高くなる。このように熱源1から供給される温度が高いほどシステムの発電効率は高くなる。
【0061】
熱源1から供給される熱の温度は400℃未満であるため、この熱を直接用いても水素製造を実行することはできない。水素製造ができない場合、100℃の廃熱からはORC発電が実行できるだけであり、システム全体での発電効率は11%程度しか望めない。
【0062】
一方、発電システム100では、高温の廃熱を生み出す発電機構6を組み込むことによって400℃以上の温度生成を実現し、低温熱化学水分解による水素製造を可能としている。そして、製造された水素を燃料とした発電が実行されることにより、上記のような高効率の発電を実現している。
【0063】
特に、発電機構6の発電効率が12.8%であり、ORC発電機構7よりも高効率であることに着目すべきである。これは、熱源1-反応器3-発電機構6という系統だけで、従来と同等か、それよりも高い発電効率を実現していることを示唆する。
【0064】
<第2実施形態>
第1実施形態では、低温加熱媒体として蒸気を用いたが、第2実施形態として以下に示すように、低温加熱媒体として空気を用いることも可能である。
【0065】
第2実施形態による、低温加熱媒体として空気を用いた発電システム101を図10に示す。発電システム101では、熱交換器2で加熱される低温加熱媒体として空気を用いている。熱交換器2で加熱された空気は、100℃以上150℃以下の加熱空気として供給部10Bにより反応器3へ供給される。
【0066】
また、発電システム101では、ポンプ9の代わりにファン8が空気を熱交換器2に供給するため、ポンプ9が省略されて簡易な構成となっている。その他の構成は、第1実施形態の発電システム100と同様である。
【0067】
上記のような発電システム101においても、第1実施形態と同様に、低温熱化学水分解による水素製造を用いた高効率な発電を行うことができる。
【0068】
<変形例>
また、第1、第2実施形態において発電システム100、101は反応器3を1つ備える構成であったが、変形例として図11及び図12に示すように、反応器3を複数個用いる構成としてもよい。
【0069】
図11及び図12は、それぞれ、低温加熱媒体を蒸気及び空気とした発電システム100A、101Aである。いずれのシステムも、反応器3を複数基並列に備える。
【0070】
発電システム100A、101Aでは、水素製造過程における反応1~4の周期の位相を、複数の反応器3の間でずらしている。図8(a)~(c)では、3基の反応器3(図中、第1~第3反応器としている)による水素製造の周期を示しているが、反応1を3基の反応器3が順次起こし、システム全体として定常的に水素が製造される状態となっている。
【0071】
発電システム100A、101Aでは、反応1がいずれかの反応器3で発生し、定常的に水素が製造、供給される。発電機構6に常に水素が供給されるため、発電効率を下げずに安定した発電を行うことができる。また、高温及び低温の加熱媒体を常にいずれかの反応器3に供給することができ、加熱媒体の滞留や、これに伴う熱損失が低減される。そのため、発電システム100A、101Aでは高効率の水素製造または高効率の発電が実現できる。
【0072】
(その他変形例)
上記の各実施形態、変形例において、ORC発電機構7は、反応器3の廃熱を用いていたが、発電機構6の廃熱を用いてもよい。またORC発電機構7は、反応器3及び発電機構6双方の廃熱を用いてもよい。加えて、ORC発電機構7は、オーガニックランキンサイクル発電の代わりに、バイナリー発電を行ってもよい。
【0073】
上記の各実施形態、変形例において、必要により反応器3と水素タンク4の間に反応器3から水素を吸引するための圧縮機を設置してもよい。
【0074】
<効果>
上述の各実施形態、変形例における発電システム100、101、100A、101Aは、供給された熱を用いて低温熱化学水分解による水素製造を行う反応器3と、反応器3によって製造された水素を燃料として発電する発電機構6(第1発電機構に相当)と供給部10A、10Bを備える。供給部10A、10Bは、熱源1からの熱に加えて発電機構6の廃熱を反応器3に供給する。
【0075】
上記構成では、発電機構6の廃熱を利用することにより、低温熱化学水分解による水素製造と、水素を燃料とした発電とを実現している。このようなシステムとすることで、熱源1から供給される熱が低温廃熱であっても水素を燃料とした発電が可能になる。また、高い発電効率を実現することができる。
【0076】
発電システム100、101、100A、101Aは、発電機構6及び反応器3の少なくとも1つの廃熱を用いて発電するORC発電機構7(第2発電機構)を備える。ORC発電機構7は、オーガニックランキンサイクルによる発電を行う。
【0077】
上記構成では、発電機構6だけでなくORC発電機構7による発電を行うため、有効に廃熱を利用し、発電効率を向上させることができる。特にオーガニックランキンサイクルは、100℃以下の低温廃熱でも発電に用いることができるため、発電システム100、101、100A、101Aでの利用に適している。
【0078】
発電システム100、101、100A、101Aでは、低温であるために未利用のまま廃棄されたり非効率な利用がなされたりしていた、発電所及び工場の廃熱が利用されている。
【0079】
上記構成では、発電システム100、101、100A、101Aが廃熱を有効に利用するため、社会全体での資源の使用効率や、発電効率を向上させることが可能となる。
【0080】
発電機構6は、反応器3によって製造された水素を燃料として駆動する発動機61としてロータリエンジンと、ロータリエンジンから得られる動力を用いて発電する発電機62とを有する。
【0081】
ロータリエンジンを発動機61として用いることによって、発電機62への動力を供給しつつ、高温の廃熱を得ることができる。高温の廃熱は、反応器3へ対する400℃以上の熱供給を容易とするため、水素製造の効率を上げ、したがってシステム全体での発電効率を向上させることができる。また、ロータリエンジンは慣性力の大きいローターを備えているため、一定の回転数で運転する場合に高い運転効率を得られる。発電機62の駆動源として好適である。
【0082】
熱源1から供給される熱の温度は摂氏100度以上摂氏400度未満である。特に、熱源1から供給される熱の温度は摂氏100度以上200度以下である。
【0083】
発電システム100、101、100A、101Aは、従来では水素の製造が実行できなかった400℃未満での廃熱でも水素製造を可能とし、高効率の発電を可能としている。過熱蒸気を用いて効率よく400度以上の熱を反応器3へ供給することができることから、廃熱は100℃以上であることが好ましい。一般的な工場や発電所での廃熱の温度は100℃以上200℃以下であるが、このような廃熱を効率よく利用することができる。
【0084】
変形例に示すように、発電システム100A、101Aは反応器3を複数基備えている。また、複数の反応器3の間で水素製造過程の周期の位相が異なる。
【0085】
このような構成とすることで、発電システム100、101、100A、101Aは、定常的に水素を製造できる。発電機構6に常に水素を供給できるため、安定した発電が可能となる。また、低温、高温加熱媒体を常にいずれかの反応器3に供給することができ、加熱媒体の滞留や、これに伴う熱損失が低減される。そのため、発電システム100A、101Aでは高効率の水素製造または高効率の発電が実現できる。
【符号の説明】
【0086】
発電システム100、101、100A、101A
熱源1
熱交換器2
反応器3
水素タンク4
圧縮機5
発電機構6
発動機61
発電機62
ORC発電機構7
ファン8
ポンプ9
供給部10A、10B、10C
図1
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