(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074291
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20230522BHJP
C01B 32/23 20170101ALI20230522BHJP
C01B 32/198 20170101ALI20230522BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20230522BHJP
B01J 27/224 20060101ALI20230522BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20230522BHJP
H01M 4/90 20060101ALN20230522BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
C01B32/21
C01B32/23
C01B32/198
C01B32/194
B01J27/224 M
C01B32/05
H01M4/90 X
H01M4/88 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187165
(22)【出願日】2021-11-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「マイクロ波を用いた高性能炭素系非白金触媒合成プロセスの創出」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】岩村 振一郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐作
(72)【発明者】
【氏名】小野 博信
(72)【発明者】
【氏名】鴻巣 修
(72)【発明者】
【氏名】高松 雄輝
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
5H018
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AA15
4G146AA16
4G146AB01
4G146AC07B
4G146AC15B
4G146AC16B
4G146AC19B
4G146AC27B
4G146AD14
4G146AD22
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4G146AD30
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4G146AD40
4G146BA02
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4G146CB16
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4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169AA11
4G169BA08A
4G169BA08B
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4G169BC62A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BD01C
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4G169BD06C
4G169BE14C
4G169CC32
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4G169EC03Y
4G169FA01
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4G169FC03
4G169FC04
4G169FC06
4G169FC07
4G169FC08
5H018AS03
5H018BB16
5H018EE06
(57)【要約】
【課題】酸素還元性能に優れる材料を得る方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射する工程、及び、該照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料に遷移金属元素を担持させる工程を含むことを特徴とする遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射する工程、及び、
該照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料に遷移金属元素を担持させる工程を含むことを特徴とする遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項2】
前記照射する工程は、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でおこなうことを特徴とする請求項1に記載の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項3】
前記照射する工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、酸化黒鉛が混合及び/又は吸着されたものであるか、及び/又は、窒素ドープ酸化黒鉛を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属元素は、マンガン、鉄、コバルト、及び、ニッケルからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項5】
前記遷移金属担持含窒素炭素材料は、酸素還元触媒に用いられるものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法。
【請求項6】
遷移金属担持含窒素炭素材料を温度473K、圧力0.01Pa以下で180分間真空排気して得られた前処理品の、温度298K、相対湿度25%RHにおける単位表面積当たりの水の吸着分子数が0.8nm-2以下であることを特徴とする遷移金属担持含窒素炭素材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法に関する。より詳しくは、酸素還元触媒、半導体等として好適に用いることができる遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法、及び、遷移金属担持含窒素炭素材料に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェン系炭素材料は、安価で豊富であるとともに、触媒性能や、機械的強度、電気伝導性、熱伝導性等の点で放熱材料、触媒、電極材料等の種々の用途への利用が期待され、数多くの研究開発が行われている。
【0003】
例えば、グラフェン系炭素材料にマイクロ波を照射して改質する技術に関し、研究開発が行われている。
先ず、液パルスインジェクション(LPI)法で得られるカーボンナノファイバーや、かさ高い還元型酸化グラフェン(rGO)にマイクロ波を照射すると効率的に放電が起き、これによって高結晶化や欠陥密度の低下が進行することが報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。この他にも、還元型酸化グラフェンにマイクロ波を照射する方法が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
またラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料に、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でマイクロ波を照射する工程を含む低欠陥化含窒素炭素材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2)。
更に、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する炭素材料を流動化しながら、該炭素材料にマイクロ波を照射する工程を含む低欠陥化炭素材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
グラフェン系炭素材料に遷移金属を担持させた遷移金属担持炭素材料についても、上述した種々の用途への利用が期待されている。
例えば、窒素ドープ炭素基材(N-C)に化学気相析出法(CVD)で鉄を担持させることによってFe担持触媒(Fe-N-C)を得ることができ、得られたFe担持触媒(Fe-N-C)の酸素還元(ORR)性能が向上することが示されている(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-145435号公報
【特許文献2】特開2020-090409号公報
【特許文献3】特開2021-006497号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ogino, I. et al., J. Energy. Chem. 27 (2018) 1468-1474
【非特許文献2】D. Voiry et al., Science 10.1126/science.aah3398 (2016)
【非特許文献3】Jingkun Li et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 1417-1423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、酸素還元性能により優れる新規な材料が望まれるところであった。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、酸素還元性能に優れる材料を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸素還元性能等に優れる材料を得る方法について種々検討し、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射して改質したうえで遷移金属元素を担持させると、得られる遷移金属担持含窒素炭素材料の酸素還元性能が顕著なものとなることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0011】
すなわち本発明は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射する工程、及び、該照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料に遷移金属元素を担持させる工程を含むことを特徴とする遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法により、酸素還元性能に優れる遷移金属担持含窒素炭素材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】窒素ドープ還元型酸化黒鉛を示す写真である。
【
図2】窒素ドープ還元型酸化黒鉛にマイクロ波を照射する工程(照射して改質する工程)を示す概略図である。
【
図3】窒素ドープ還元型酸化黒鉛及び改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれの、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量を示すグラフである。
【
図4】酸化黒鉛を水熱処理して窒素ドープ還元型酸化黒鉛を作製する工程を示す模式図である。
【
図5】窒素ドープ還元型酸化黒鉛及び改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれのラマン分光データ(ラマンスペクトル)を示すグラフである。
【
図6】化学気相析出法(CVD)により窒素ドープ還元型酸化黒鉛又は改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛に鉄を担持させる工程を示す模式図である。
【
図7】
図6に示した鉄を担持させる工程における時間に対する試験管内の温度を示すグラフである。
【
図8】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれの、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量を示すグラフである。
【
図9】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄成分と改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛との物理混合物それぞれの、回転電極による酸素還元反応活性を評価した結果を示すグラフである。
【
図10】鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄成分と改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛との物理混合物それぞれの、回転電極により評価した電位0.7Vでの鉄の質量当たりの電流密度を示すグラフである。
【
図11】窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれを前処理した後の、298Kにおける相対湿度p/p0に対する単位表面積当たりの水吸着分子数(nm
-2)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0015】
<遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法>
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射する工程、及び、該照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料に遷移金属元素を担持させる工程を含む。
なお、改質とは、マイクロ波を照射することにより生じた何らかの物理的又は化学的変化であればよいが、例えば低欠陥化であってもよく、表面の疎水性の向上であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
本明細書中、低欠陥化とは、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(ID/IG)が減少することを言う。欠陥が少ない方が、電子がよく流れるようになり、電気伝導性がより優れるものとなるとともに、熱伝導性、潤滑性、強度、触媒性能等もより優れるものとなる。
Gバンドのピーク、Dバンドのピークについては、後述する。
表面の疎水性の向上とは、実施例で示すような単位表面積当たりの水吸着分子数が減少することを言う。
【0016】
本発明の製造方法により得られる遷移金属担持含窒素炭素材料の酸素還元性能が顕著なものとなる原理は不明であるが、後述するように、マイクロ波により含窒素炭素材料の表面の疎水性が適度に向上し、電解液等の液体よりもガスである酸素が表面に吸着し易くなる結果、酸素還元反応がより促進されている可能性がある。このような作用が、遷移金属が窒素原子を介して担持されることによる酸素還元性能の向上作用と相まって、酸素還元性能が相乗的に向上すると考えられる。
【0017】
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料の製造方法において、上記照射する工程は、アンモニア及び/又はアミンを含む雰囲気下でおこなうことが好ましい。
上記アンモニアは、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液(アンモニア水)としたうえで雰囲気中に噴霧する等して用いてもよいが、気体状の単体としてそのまま用いることが好ましい。
上記アミンとしては、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンが挙げられる。アミン化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記アミンも、気体状でそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよいが、中でも、常温で気体のものが好ましく、例えば、メチルアミン、エチルアミン等の第1級アミン;ジメチルアミン等の第2級アミン;トリメチルアミン等の第3級アミン等が好ましい。
【0018】
上記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンの分圧が3×104Pa以上の雰囲気下で行われることが好ましい。該アンモニア及び/又はアミンの分圧は、4×104Pa以上であることがより好ましく、5×104Pa以上であることが更に好ましい。アンモニア及び/又はアミンの分圧は、その上限は特に限定されないが、通常は1×106Pa以下である。
また上記雰囲気中の全圧に対する、アンモニア及び/又はアミンの分圧の比が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.5以上であることが更に好ましい。なお、該分圧の比は、その上限は特に限定されず、1以下であればよい。
なお、上記アンモニア及び/又はアミンの分圧は、アンモニアとアミンとを併用する場合は、アンモニアとアミンの合計の分圧である。
【0019】
上記照射工程は、アンモニア及び/又はアミンを反応系に流通させながらおこなうこともまた本発明における好ましい実施形態の1つである。アンモニア及び/又はアミンの流量は、例えば、10~1000mL/minとすることができる。
【0020】
上記照射工程における雰囲気は、アンモニア及び/又はアミン以外の成分としては、例えば酸素等の活性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとすることができる。中でも、不活性ガスが好ましい。
なお、上記照射工程は、例えばマイクロ波照射装置に石英管等の試験管(管型反応器)を挿入し、試験管に原料である含窒素炭素材料を入れ、試験管にアンモニア及び/又はアミンを流しながら行うことができる(例えば、
図2参照。)。
【0021】
本発明の製造方法において、上記照射工程で照射されるマイクロ波は、波長が100μm~1mの範囲内の電磁波である。
上記マイクロ波の周波数は、例えば300MHz~300GHzの範囲内であることが好ましく、500MHz~50GHzの範囲内であることがより好ましく、900MHz~25GHzの範囲内であることが更に好ましい。
【0022】
上記マイクロ波の照射温度は、例えば-50℃以上であることが好ましく、0℃以上であることがより好ましい。また、該照射温度は、1000℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましい。
なお、該照射温度は、マイクロ波の照射を行う際の雰囲気の温度であり、マイクロ波の照射開始時の温度が上記温度であることが好ましい。
上記マイクロ波の照射時間は、例えば10秒以上であることが好ましく、30秒以上であることがより好ましく、60秒以上であることが更に好ましく、酸素還元活性をより向上する観点からは、180秒以上であることが一層好ましく、240秒以上であることが特に好ましい。該照射時間は、120分以下であることが好ましく、90分以下であることがより好ましく、60分以下であることが更に好ましい。
【0023】
なお、本発明の製造方法において、上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、ガス流れにより流動化されていても構わない。
炭素材料を流動化させるためのガスは、特に限定されず、例えば上述したアンモニア及び/又はアミンであってもよく、酸素等の活性ガス、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【0024】
本発明の製造方法において、上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料がラマンスペクトルにおいて有するGバンドのピークは、炭素原子で構成される連続した6員環構造に由来する、ラマンシフト1550~1620cm-1のピークである。
なお、Dバンドのピークは、構造の乱れと欠陥に由来する、ラマンシフト1270~1450cm-1のピークである。
【0025】
本明細書中、所定のラマンシフトの範囲のピークとは、ベースラインに対して当該ラマンシフトの範囲内にピークトップが明確に観測されるものであればよい。例えば、Gバンドであれば1550~1620cm-1の範囲内に明確なピークトップが存在するということである。なお、ピークトップは1550~1620cm-1の範囲内に無いがピークのショルダーがその範囲内にかかっているというだけでは、ラマンシフト1550~1620cm-1のピークとは言わない。
なお、本明細書中、ラマンスペクトルは、実施例に記載の方法で測定されるものである。
【0026】
上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、ラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料であればよく、例えば窒素ドープ酸化黒鉛、窒素ドープ炭素繊維、窒素ドープカーボンナノファイバー、窒素ドープカーボンナノチューブ等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0027】
上記窒素ドープ酸化黒鉛は、酸化黒鉛に窒素原子をドープして得られるものであり、その積層数は特に限定されないが、例えば炭素原子1層のみからなるシートであるか、又は、2層~100層積層した構造を有するものが好ましい。このような積層数のものを窒素ドープ酸化グラフェンとも言う。中でも、積層数が20層以下であることがより好ましい。
【0028】
上記窒素ドープ炭素繊維は、炭素繊維に窒素原子をドープして得られる構造をもつものである。炭素繊維は、炭素原子が構成する六角網目構造が直線状(ファイバー状)に連なった構造を有し、直径が100nmを超えるものである。
上記窒素ドープカーボンナノファイバーは、カーボンナノファイバーに窒素原子をドープして得られる構造をもつものである。カーボンナノファイバーは、炭素原子が構成する六角網目構造が直線状(ファイバー状)に連なった構造を有し、直径が1~100nmであるものである。
【0029】
窒素ドープカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブに窒素原子をドープした構造をもつものである。カーボンナノチューブは、炭素原子が構成する六角網目構造が円筒状(チューブ状)に連なった構造を有するものであり、単層カーボンナノチューブであってもよく、多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0030】
上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、酸化黒鉛が混合及び/又は吸着されたものであるか、及び/又は、窒素ドープ酸化黒鉛を含むことが好ましい。
上記含窒素炭素材料に混合及び/又は吸着された酸化黒鉛とは、それ自体は実質的に窒素原子を有さないものをいう。当該含窒素炭素材料が、酸化黒鉛が混合及び/又は吸着されたものであるとは、例えば、窒素ドープ酸化黒鉛以外の含窒素炭素材料に、酸化黒鉛を混合(吸着)させた材料を構成するものが挙げられる。酸化黒鉛はsp2炭素を多く保有しているため、含窒素炭素材料に混合(吸着)させて用いることで電子伝導性を上げ、性能向上に寄与する可能性がある。
含窒素炭素材料に、酸化黒鉛を混合及び/又は吸着させる場合、含窒素炭素材料と酸化黒鉛との質量比は、特に限定されないが、例えば1000:1~1:1000であることが好ましく、500:1~1:500であることがより好ましく、100:1~1:100であることが更に好ましく、50:1~1:50であることが特に好ましい。
【0031】
上記窒素ドープ酸化黒鉛は、sp2炭素を多く保有しているため、性能向上に寄与すると考えられる。上記窒素ドープ酸化黒鉛は、窒素ドープ還元型酸化黒鉛であることが好ましい。
なお、酸化黒鉛は、Hummers法における酸化方法を採用した、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する工程を含む方法等により適宜得ることができる。
【0032】
上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、窒素量が1原子%以上であることが好ましく、1.5原子%以上であることがより好ましい。また、該窒素量が20原子%以下であることが好ましく、10原子%以下であることがより好ましい。
また上記含窒素炭素材料は、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、酸素量が20原子%以下であることが好ましく、19原子%以下であることがより好ましく、18原子%以下であることが更に好ましく、17原子%以下であることが特に好ましい。
【0033】
上記含窒素炭素材料は、更に、硫黄含有基等の官能基を有していてもよいが、XPS分析で検出される全元素の総和100原子%中、炭素、水素、酸素、及び、窒素以外の元素量が3原子%以下であることが好ましく、1原子%以下であることがより好ましく、含窒素炭素材料が炭素、水素、酸素、及び、窒素のみを構成元素とするものであることが更に好ましい。
上記XPS分析は、X線源Mg-Kα、パスエネルギー10eVの条件下で行われるものである。
【0034】
上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、粒径範囲が0.01mm以上、2.4mm以下であることが好ましい。
上記粒径範囲は、0.02mm以上、2.0mm以下であることがより好ましく、0.05mm以上、1.5mm以下であることが更に好ましく、0.1mm以上、1.0mm以下であることが特に好ましい。
上記粒径範囲の含窒素炭素材料は、例えば、目開きが上記粒径範囲内にあるふるいを用いた分級操作によって得ることができる。
また上記含窒素炭素材料の平均粒径が上記好ましい粒径範囲内であることもまた好ましい。例えば、本発明の製造方法において、上記照射工程においてマイクロ波を照射される含窒素炭素材料は、平均粒径が0.01mm以上、2.4mm以下であることが好ましい。平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定した体積基準の平均粒径である。
【0035】
上記含窒素炭素材料は、マイクロ波を照射される際に、その他の成分との混合物であってもよいが、混合物中、含窒素炭素材料の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更に好ましく、実質的に含窒素炭素材料からなるものであることが特に好ましい。
【0036】
炭素材料に窒素原子をドープして含窒素炭素材料とすることは、炭素材料にアンモニア水を添加して水熱処理を行ったり、炭素材料をアンモニア及び/又はアミン含有ガス流通下で焼成したり、これらの方法の組み合わせ(例えば、炭素材料を水熱処理後、焼成する等)により行うことができる。窒素原子をドープする炭素材料としては、酸化黒鉛、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等が挙げられるが、例えば酸化黒鉛が好ましい。なお、窒素原子をドープする炭素材料として用いられる酸化黒鉛は、還元型酸化黒鉛であってもよく、窒素原子をドープする際に還元されて窒素ドープ還元型酸化黒鉛となるものであってもよい。
なお、窒素原子をドープする炭素材料として酸化黒鉛を用いる場合、窒素原子をドープした後に、更に還元を進行させるために、窒素等の不活性ガス流通下で焼成しても良い。
窒素原子をドープする炭素材料として還元型酸化黒鉛を用いる場合、還元型酸化黒鉛は、酸化黒鉛を、液相還元、気相還元等で還元することにより適宜得ることができる。
【0037】
上記水熱処理の温度は、例えば80~250℃とすることができる。該温度は、140~220℃であることが好ましい。また、上記水熱処理の時間は、例えば1~60時間とすることが好ましく、2~18時間とすることがより好ましい。
上記焼成の温度は、例えば200~1000℃とすることができる。該焼成の温度は、300~800℃であることが好ましい。また、上記焼成の時間は、例えば10分~10時間とすることが好ましく、30分~5時間とすることがより好ましい。
【0038】
上記照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料は、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(ID/IG)が2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることが更に好ましい。該ピーク強度の比(ID/IG)の絶対値は、その下限値は特に限定されず、0であってもよい。
また上記照射する工程により、改質含窒素炭素材料の上記ピーク強度の比(ID/IG)が原料の含窒素炭素材料のID/IGと比べて0.05以上減少することが好ましく、0.1以上減少することがより好ましく、0.3以上減少することが更に好ましい。ID/IGの減少量は、その上限値は特に限定されないが、通常2以下である。
上記ピーク強度の比(ID/IG)は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0039】
本発明の製造方法は、上記照射する工程で得られた改質含窒素炭素材料に遷移金属元素を担持させる工程を含む。
上記担持工程としては、化学気相析出法(CVD)等による、原料である改質含窒素炭素材料と遷移金属元素含有成分とを非接触状態で配置しておこなう方法、これら原料を溶媒に溶解して接触させたうえでおこなう方法等が挙げられ、中でも、化学気相析出法によるものが好ましい。
本明細書中、遷移金属元素を担持させるとは、(改質)含窒素炭素材料の表面に、遷移金属元素が付着している状態にさせるものであればよく、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合を介して化学的に結合させるものであっても、分子間力によって物理的に吸着させるものであってもよい。
【0040】
上記担持工程の温度は、例えば200~1000℃とすることができる。該温度は、300~900℃であることが好ましく、500~850℃であることがより好ましい。また、上記担持工程の時間は、例えば30分~60時間とすることが好ましく、1~30時間とすることがより好ましく、2~18時間とすることが更に好ましい。
上記担持工程は、空気中でおこなってもよく、酸素等の活性ガスの存在下(流通下)でおこなってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスの存在下でおこなってもよいが、不活性ガスの存在下でおこなうことが好ましい。
また上記担持工程は、加圧下でおこなってもよく、常圧下でおこなってもよく、減圧下でおこなってもよい。
【0041】
上記担持工程における遷移金属元素は、その種類は特に限定されないが、例えばマンガン、鉄、コバルト、及び、ニッケルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、鉄及び/又はコバルトであることがより好ましく、鉄であることが更に好ましい。
原料である遷移金属元素含有成分としては、上記遷移金属元素の単体、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、ハロゲン化物、アンモニウム塩、シュウ酸塩、アルコキシド等を使用でき、中でも硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物が好ましく、ハロゲン化物がより好ましく、塩化物、臭化物が更に好ましい。
上記担持工程において、原料を溶媒に溶解して接触させる場合、溶媒としては、水や原料を溶解することが可能な有機溶剤を使用できる。必要に応じて塩酸、硫酸等の酸を使用してもよい。
上記担持工程において、原料である改質含窒素炭素材料と遷移金属元素含有成分の質量比は、100:1~1:10であることが好ましく、50:1~1:1であることがより好ましく、40:1~3:1であることが更に好ましく、30:1~5:1であることが特に好ましい。
【0042】
なお、本発明の製造方法により得られた遷移金属担持含窒素炭素材料の酸洗や水洗、乾燥等を適宜行うことができる。
【0043】
本発明の製造方法により得られた遷移金属担持含窒素炭素材料は、BET比表面積が100m2/g以上であることが好ましく、150m2/g以上であることがより好ましく、200m2/g以上であることが更に好ましい。該BET比表面積は、その上限値は特に限定されないが、通常は1500m2/g以下である。
上記BET比表面積は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0044】
本発明の製造方法により得られた遷移金属担持含窒素炭素材料は、水素電極(RHE)に対する電位0.7Vでの遷移金属の含有量(質量%)で規格化した電流密度の絶対値が0.01mA/(cm2・wt%-Fe)以上であることが好ましく、0.1mA/(cm2・wt%-Fe)以上であることがより好ましく、1.0mA/(cm2・wt%-Fe)以上であることが更に好ましく、2.0mA/(cm2・wt%-Fe)以上であることが特に好ましい。該電流密度の絶対値は、その上限値は特に限定されないが、通常は10mA/(cm2・wt%-Fe)以下である。
上記電流密度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0045】
本発明の製造方法により得られた遷移金属担持含窒素炭素材料は、ピリジン型窒素含有量を充分に維持しながら、表面積の変化が充分に抑制されたものであり、酸素還元反応活性に非常に優れ、酸素還元触媒等の触媒、半導体等として有用である。
中でも、上記遷移金属担持含窒素炭素材料は、酸素還元触媒に用いられるものであることが好ましい。
【0046】
<遷移金属担持含窒素炭素材料>
本発明はまた、遷移金属担持含窒素炭素材料を温度473K、圧力0.01Pa以下で180分間真空排気して得られた前処理品の、温度298K、相対湿度25%RHにおける単位表面積当たりの水の吸着分子数が0.8nm-2以下であることを特徴とする遷移金属担持含窒素炭素材料である。
上記水の吸着分子数は、0.7nm-2以下であることが好ましく、0.65nm-2以下であることがより好ましく、0.6nm-2以下であることが更に好ましい。
また上記水の吸着分子数は、0.1nm-2以上であることが好ましく、0.2nm-2以上であることがより好ましく、0.4nm-2以上であることが更に好ましい。これにより、酸素還元性能により優れる。
なお、上述した試料の前処理条件・測定条件下であれば、水の吸着分子数の測定値は実質的に変動せず、一義的に定まると言える。
【0047】
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料は、遷移金属担持含窒素炭素材料中、遷移金属元素の含有割合が0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましい。
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料は、上記遷移金属元素の含有割合が5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記遷移金属元素の含有割合は、実施例に記載のICP発光分光分析法で測定することができる。
【0048】
本発明の遷移金属担持含窒素炭素材料は、上述した本発明の製造方法により好適に得ることができる。
【実施例0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0050】
下記実施例及び比較例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<BET比表面積の測定方法>
自動比表面積計(BELSORP-miniII、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、吸着ガスとして窒素を用いてBET比表面積を測定した。各試料は、吸着測定前に窒素気流下で250℃、4時間前処理を行った。
【0051】
<低欠陥化の進行度合いの評価>
Cancado, L. G. et al., App. Phys. Lett. 88.16 (2006) 163106-163106に記載の方法に沿って、試料の低欠陥化の進行度合いをラマン分光測定により評価した。
【0052】
<ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)>
TFM分解容器に試料と濃硝酸と過酸化水素水を入れ、マイクロ波試料前処理装置(ETHОS Оne、マイルストーンゼネラル株式会社製)を用いて処置した後、35%塩酸を加えて超純水で希釈した液を濾過し、その濾液をマルチタイプICP発光分光分析装置(ICPE-9000、島津製作所製)により分析した。
【0053】
<窒素ドープ炭素基材(N-C)の作製>
(調製例1〔窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1の調製〕)
特開2021-006497号公報に記載の調製例2の方法で調製し、粒子サイズを0.6mmから1.0mmの範囲に分級した還元型酸化黒鉛rGO-1(液相還元品、試料重量:500mg)を、NH
3流通下(NH
3ガス流量:40mL/min)、800℃で100分間処理して窒素ドープし、窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1を得た(
図1)。
【0054】
(調製例2〔改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1の調製〕)
石英管である試験管(管型反応器)に窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1(試料重量:350mg)を入れ、試験管の一端から他端に向けてNH
3ガスを流通させながら(NH
3ガス流量:15mL/min)、電子レンジを用いて設定出力700Wで5分間マイクロ波を照射し、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1を得た(
図2)。
【0055】
(調製例3〔窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-2の調製〕)
酸化グラフェン(GO)水分散体(不揮発分2.8質量%)20gと、25質量%アンモニア水溶液12gと水8gを混合して得られた不揮発分1.4質量%の水溶液をテフロン(登録商標)製の容器に収容し、180℃で12時間加熱して水熱処理した。
水熱処理後に得られた固体を容器に入れ、第3級ブチルアルコール(TBA)を加えた後、50℃の恒温振盪槽を用いて12時間加温した。冷却して固液分離操作を行った後、新しいTBAを加えた。この操作を5回繰り返してTBA置換を行った。
TBA置換後、-10℃で2週間凍結乾燥した。
窒素雰囲気下、1000℃で3時間加熱して炭素化し、窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-2を得た(
図4)。
【0056】
(調製例4〔改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-2の調製〕)
[窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-2のマイクロ波による改質]
石英管である試験管(管型反応器)に窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-2(試料重量:20mg以下)を入れ、試験管の一端から他端に向けてNH
3ガスを流通させながら(NH
3ガス流量:15mL/min)、電子レンジを用いて設定出力700Wで5分間マイクロ波を照射し、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-2を得た(
図2に示す装置と同様の装置を用いた。)。
下記表1に、各調製例で得られた試料のBET比表面積を示す。
【0057】
【0058】
表1の結果から、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1、MW-NrGO-2において、改質前と比較して、BET比表面積が充分に維持されていると言える。なお、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-2は、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1と比較してより多孔性であると言える。
【0059】
図3は、窒素ドープ還元型酸化黒鉛及び改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれの、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量を示すグラフである。
図3の結果から、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1、MW-NrGO-2において、改質前と比較して、炭素との結合を2つもち、酸素還元反応の触媒活性点を形成するのに寄与すると考えられるピリジン型窒素の含有量が充分に維持されていると言える。
【0060】
図5は、各調製例で得られた試料(窒素ドープ還元型酸化黒鉛及び改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれ)のラマン分光データ(ラマンスペクトル)を示すグラフである。また、下記表2に、各調製例で得られた試料の、ラマンスペクトルにおけるGバンドのピーク強度に対するDバンドのピーク強度の比(I
D/I
G)を示す。
【0061】
【0062】
図5、表2の結果から、いずれの試料も、Gバンドのピーク及びDバンドのピークが観測された。
また改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-2において、改質前と比較して上記ピーク強度の比(I
D/I
G)が大きく減少しており、低欠陥化が進行していることが明らかである。なお、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1も、改質前と比較して、低欠陥化が進行していると考えられる。
改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-2は、改質前と比べて、2700cm
-1付近の2Dバンドのピークが大きくなっている。これは、酸化黒鉛の規則的に積層している層数が減少していることを示唆する。
【0063】
<窒素ドープ炭素基材(N-C)への化学気相析出法(CVD)による鉄担持>
(実施例1〔鉄担持改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1の調製〕)
図6は、化学気相析出法(CVD)により窒素ドープ還元型酸化黒鉛又は改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛に鉄を担持させる工程を示す模式図である。
石英管である試験管(管型反応器)に原料である改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1(30mg)をボートに入れたもの、及び、塩化鉄(II)四水和物FeCl
2・4H
2O(2mg)をボートに入れたものをそれぞれ配置し、試験管の一端から他端に向けてN
2ガスを650mL/minで流し、750℃で3時間処理して鉄担持改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1を得た(例えば、
図6参照。)。
図7は、
図6に示した鉄を担持させる工程における時間に対する試験管内の温度を示すグラフである。
【0064】
(比較例1〔鉄担持窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1の調製〕)
原料である炭素材料として改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1(30mg)の代わりに窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1(30mg)を用いた以外は実施例1と同様にして、鉄担持窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1を得た。
【0065】
(実施例2〔鉄成分と改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛との物理混合物Fe-MW-NrGO-1Aの調製〕)
改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1(30mg)と塩化鉄(II)四水和物FeCl2・4H2O(2mg)とを物理的に混合した混合物が入ったボートを管状炉内に置き、50ml/minの窒素を流通させながら750℃で3時間熱処理して、鉄成分と改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛との物理混合物Fe-MW-NrGO-1Aを得た。
【0066】
図8は、窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれの、ピリジン型窒素の含有量、及び、グラファイト型窒素の含有量を示すグラフである。
鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1(比較例1)、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1(実施例1)において、鉄を担持させる前と比較して、ピリジン型窒素の含有量が充分に維持されていると言える。
【0067】
鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1(比較例1)、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1(実施例1)のそれぞれについて、ICP発光分光分析法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:ICP-AES)により鉄元素の含有量を測定した。結果を下記表3に示す。
【0068】
【0069】
(回転電極による酸素還元反応活性評価)
酸素を常温で飽和するまで溶解した0.5M H
2SO
4水溶液中で回転ディスク電極を用いてLSV(リニアスイープボルタンメトリー)測定により評価した。各試料を真空(負圧計で-0.1MPa)条件下において80℃で12時間加熱することにより前処理して乾燥させた炭素材料(触媒)2.5mgを量り取り、これに5質量%ナフィオン分散液25μL、エタノール300μL、蒸留水300μLを加え触媒インクを調製した。触媒インクを氷冷しながら120kHzで30分間超音波処理した後、マイクロピペットにより適量吸い取り、回転ディスク電極装置のグラッシーカーボン電極に4μL滴下して塗布し、乾燥させることで作用電極を作製した(電極には0.082mg/cm
2の触媒が塗布された。)。電極を回転速度1600rpmで回転し、電位を1mV/sの掃引速度、0.05~1.05V vs.RHEの掃引範囲で掃引して、そのときの電流を電位の関数として記録した。
各試料のORR測定結果を
図9及び
図10に示す。窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1に比べて、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1、鉄担持窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1は、それぞれ、過電圧が減少した。また、鉄成分と改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛との物理混合物Fe-MW-NrGO-1A、鉄担持改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1は、それぞれ、過電圧が大幅に減少した。特に、鉄担持改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1は、過電圧の減少が顕著であり、水素電極(RHE)に対する電位0.7Vでの電流密度の絶対値が大幅に向上した。
このようにラマンスペクトルにおいてGバンドのピークを有する含窒素炭素材料にマイクロ波を照射して改質したうえで遷移金属元素を担持させて得られた試料は、酸素還元に必要な活性化エネルギーを充分に下げることができると考えられる。
【0070】
(基材及び触媒の表面疎水性の評価)
図11は、窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれを前処理した後の、298Kにおける相対湿度p/p0に対する単位表面積当たりの水吸着分子数(nm
-2)を示すグラフである。また、下記表4に、窒素ドープ還元型酸化黒鉛、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛それぞれのBET比表面積を示す。
【0071】
【0072】
図11における、改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛MW-NrGO-1と、改質前の窒素ドープ還元型酸化黒鉛NrGO-1との比較、及び、鉄を担持させた改質窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-MW-NrGO-1と、鉄を担持させた窒素ドープ還元型酸化黒鉛Fe-NrGO-1との比較から、マイクロ波の照射により、炭素材料の表面疎水性が向上することが分かった。
マイクロ波により適度に向上した含窒素炭素材料の表面の疎水性が、酸素還元性能に影響している可能性がある。すなわち、表面の疎水性が適度に向上することで、電解液等の液体よりもガスである酸素が表面に吸着し易くなる結果、酸素還元反応がより促進されている可能性がある。このような作用が、遷移金属が窒素原子を介して担持されることによる酸素還元性能向上作用と相まって、酸素還元性能が相乗的に向上すると考えられる。なお、マイクロ波の照射以外の改質方法により、炭素材料の表面疎水性が向上し過ぎると、酸素を還元するために必要なプロトンを液体である酸成分から受け取りにくくなり、酸素還元性能が低くなるおそれがある。