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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074345
(43)【公開日】2023-05-29
(54)【発明の名称】糖及び/又は脂質代謝改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/12 20160101AFI20230522BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20230522BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230522BHJP
   A23K 20/142 20160101ALI20230522BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20230522BHJP
   C12N 9/99 20060101ALN20230522BHJP
【FI】
A23L33/12
A61K31/16
A61P3/06
A61P3/10
A23K20/142
A23K20/158
C12N9/99
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021187256
(22)【出願日】2021-11-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 2021年2月5日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://www.jsbba.or.jp/2021/ https://jsbba2.bioweb.ne.jp/jsbba2021/ https://jsbba2.bioweb.ne.jp/jsbba2021/index.php (その2) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 2021年2月25日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://www.jsbba.or.jp/2021/ https://jsbba2.bioweb.ne.jp/jsbba2021/ https://www.jsbba.or.jp/2021/wp-content/uploads/file/program/MeetingofJSBBA2021_program.pdf (その3) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 2021年3月5日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://www.jsbba.or.jp/2021/ https://jsbba2.bioweb.ne.jp/jsbba2021/schedule.php http://jsbba.bioweb.ne.jp/jsbba2021/down-load_pdf.php?p_code=4E01-04 (その4) ▲1▼開催日 2021年3月18日から2021年3月21日(公開日は2021年3月21日) ▲2▼集会名、開催場所 日本農芸化学会2021年度大会(オンライン開催) (その5) ▲1▼発行日 2021年11月13日 ▲2▼刊行物 第60回日本栄養・食糧学会近畿支部大会 講演要旨集の大会プログラム (その6) ▲1▼発行日 2021年11月15日 ▲2▼刊行物 第60回日本栄養・食糧学会近畿支部大会 講演要旨集
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】591016839
【氏名又は名称】長岡香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山地 亮一
(72)【発明者】
【氏名】小林 恭之
(72)【発明者】
【氏名】窪田 舞
(72)【発明者】
【氏名】杉本 圭一郎
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C206
【Fターム(参考)】
2B150AA10
2B150AB10
2B150DA26
4B018MD10
4B018MD18
4B018ME03
4B018ME04
4B018ME07
4B018ME14
4B018MF10
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA03
4C206GA22
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZC33
4C206ZC35
(57)【要約】
【課題】糖及び/又は脂質代謝改善剤を提供すること。
【解決手段】一般式(1):
[式中:R1は炭化水素基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。]
で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
[式中:R1は炭化水素基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。]
で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項2】
R2及びR3が共に水素原子である、請求項1に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項3】
R1が鎖式炭化水素基である、請求項2に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項4】
R1が炭素数11~23の直鎖不飽和炭化水素基である、請求項2又は3に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項5】
前記化合物がオレアミドである、請求項1~4のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項6】
経口摂取形態である、請求項1~5のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項7】
食品組成物、食品添加剤、医薬組成物、又は飼料である、請求項1~6のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項8】
低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善に用いるための、請求項1~7のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項9】
低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化が、体重増加、血糖値増加、耐糖能減少、脂肪量増加、及び脂肪組織における炎症性サイトカイン発現増加からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項10】
低運動量の対象に投与するための、請求項1~9のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項11】
体重抑制、血糖抑制、耐糖能向上、体内脂肪量抑制、血中中性脂肪抑制、及び脂肪組織における炎症性サイトカイン発現抑制からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、請求項1~10のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【請求項12】
脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤を含有する、或いは脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤と併用するための、請求項1~11のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖及び/又は脂質代謝改善剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、世界的に深刻な健康問題の1つと考えられている。2016年の世界保健機関の調査によると、全世界の肥満・過体重者は 約22 億人以上にのぼると報告されている。このように「肥満人口」は増加し続けており、肥満に対する早急な対策が必要である。肥満の原因として、ライフスタイルの現代化に伴う過剰栄養や運動不足が考えられる。2018年の世界保健機関の調査によると、世界の成人(18歳以上)の4人に1人に当たる14億人以上が運動不足と示されている。また、11~17歳の若者を対象とした調査では、146ヵ国中約半数の国において、約80%の若者が運動不足であることが明らかとなっている。現代におけるデスクワークを中心とした座りがちな生活習慣は、慢性的な運動不足を引き起こし、肥満をはじめとする、糖代謝、脂質代謝に関連した様々な疾病のリスクを高める危険性がある。
【0003】
cis- 9 - octadecenamide(oleamide、オレアミド)は、様々な生理活性作用を示す脂肪酸アミドであり、カンナビノイド受容体1の内在性アゴニストである。生理活性作用として、睡眠誘導作用が知られている。その他の生理活性作用としては、マウスを用いた実験からアルツハイマー病の原因の一つとして考えられているアミロイドβの沈着をオレアミドが抑制することや、マクロファージ細胞RAW 264.7を用いた実験からオレアミドが炎症性サイトカインの発現を抑制することが示されている。また、オレアミドは骨格筋増強作用を有することが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-202969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一態様において、糖及び/又は脂質代謝改善剤を提供することを課題とする。好ましい一態様において、本発明は、低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、一般式(1)で表される脂肪酸アミドが糖及び/又は脂質代謝改善作用を有することを見出した。本発明は、一態様において、下記の態様を包含する。
【0007】
項1. 一般式(1):
【0008】
【化1】
【0009】
[式中:R1は炭化水素基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。]
で表される化合物、その塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0010】
項2. R2及びR3が共に水素原子である、項1に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0011】
項3. R1が鎖式炭化水素基である、項2に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0012】
項4. R1が炭素数11~23の直鎖不飽和炭化水素基である、項2又は3に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0013】
項5. 前記化合物がオレアミドである、項1~4のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0014】
項6. 経口摂取形態である、項1~5のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0015】
項7. 食品組成物、食品添加剤、医薬組成物、又は飼料である、項1~6のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0016】
項8. 低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善に用いるための、項1~7のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0017】
項9. 低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化が、体重増加、血糖値増加、耐糖能減少、脂肪量増加、及び脂肪組織における炎症性サイトカイン発現増加からなる群より選択される少なくとも1種である、項8に記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0018】
項10. 低運動量の対象に投与するための、項1~9のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0019】
項11. 体重抑制、血糖抑制、耐糖能向上、体内脂肪量抑制、血中中性脂肪抑制、及び脂肪組織における炎症性サイトカイン発現抑制からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、項1~10のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【0020】
項12. 脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤を含有する、或いは脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤と併用するための、項1~11のいずれかに記載の糖及び/又は脂質代謝改善剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、糖及び/又は脂質代謝改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】試験例1の測定結果を示す。試験例1では、安定同位体標識オレアミド(50 mg/kg 体重)をマウスに経口投与1時間後に解剖し、GC-MSを用いて組織に蓄積した安定同位体標識オレアミド量を測定した。縦軸は、各組織1 mg中の安定同位体標識オレアミドのモル数(pmol)を示す。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す。
図2】試験例2-4の測定結果を示す。試験例2-4では、行動範囲制限マウスにおけるオレアミド投与による体重への影響を調べた。左側の図中、縦軸は体重を示し、横軸は週齢を示す。右側の図中、縦軸は、19週齢時の体重を示す。カラム上端及びプロットは平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。*はsedentary(行動範囲制限)群との比較でt検定を行った場合のp値が0.05未満であることを示す。
図3】試験例2-5の測定結果を示す。試験例2-5では、行動範囲制限とオレアミド投与による耐糖能に与える影響を評価するため、腹腔内糖負荷試験(IPGTT)を行い、血糖値を測定した。糖負荷試験は、14週齢時に行った。(A)は空腹時血糖値(14週齢時に6時間の絶食後、尾静脈より採血した血糖値)を示す。(B)は14週齢時に6時間の絶食後、2 g glucose/kg体重の濃度で腹腔内注射し、尾静脈より採血した血糖値の推移と、その血糖曲線下面積(area under the curve、AUC)を示す。(B)の左側の図中、横軸はグルコース溶液投与後の経過時間を示す。カラム上端及びプロットは平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。*はsedentary(行動範囲制限)群との比較でt検定を行った場合のp値が0.05未満であることを示す。
図4】試験例2-6の測定結果を示す。試験例2-6では、3カ月の飼育終了時に解剖し、各脂肪組織重量を測定した。図上方に、測定した脂肪組織を示す。縦軸は、脂肪組織重量の相対値を示す。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。*はsedentary(行動範囲制限)群との比較でt検定を行った場合のp値が0.05未満であることを示す。
図5】試験例2-7-3の測定結果を示す。試験例2-7-3では、試験例2-6で採取した脂肪組織における脂肪細胞の面積を測定した。(A)は、精巣上体周辺脂肪の脂肪細胞面積を示す。(B)は、(A)で測定された脂肪細胞面積の分布を示し、横軸は脂肪細胞面積を示し、縦軸はその面積の細胞の頻度を示す。カラム上端及びプロットは平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。*はsedentary(行動範囲制限)群との比較でt検定を行った場合のp値が0.05未満であることを示す。
図6】試験例2-8の測定結果を示す。試験例2-8では、19週齢時に血漿中トリグリセリド濃度を測定した。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。
図7】試験例2-9の測定結果を示す。試験例2-9では脂肪組織における炎症系関連因子のmRNAレベルを測定した。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=7~9)。
図8】試験例3において、オレアミドの腸間膜透過性に対する脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤(URB-597)の影響を調べた結果を示す。具体的には、トランスウェル上で21日間培養し分化させたCaco-2細胞を、1 μMの安定同位体標識オレアミドと0.01、1、10 μMのURB-597共存下で30分間培養後、上層・下層・細胞内の安定同位体標識オレアミド量をGC-MSを用いて測定した。縦軸は、安定同位体標識オレアミドのモル数(pmol)を示す。横軸中、vehicleはURB-597添加無しの場合であり、その他はURB-597の培地中最終濃度を示す。上層の測定結果のグラフ中、0分は上記培養開始直前の結果であり、30分は上記培養終了時点の結果である。細胞内及び下層の測定結果のグラフは、上記培養終了時点の結果である。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=3)。カラム上のアルファベットが異なることは、そのカラム間のp値が0.05未満であることを示す。
図9】試験例3において、オレアミドの腸間膜透過性に対するFAAH阻害剤(genistein)の影響を調べた結果を示す。具体的には、トランスウェル上で21日間培養し分化させたCaco-2細胞を、1 μMの安定同位体標識オレアミドと30 μMのgenistein共存下で30分間培養後、上層・下層・細胞内の安定同位体標識オレアミド量をGC-MSを用いて測定した。縦軸は、安定同位体標識オレアミドのモル数(pmol)を示す。横軸に、genisteinの有無(+又は-)を示す。上層の測定結果のグラフ中、0分は上記培養開始直前の結果であり、30分は上記培養終了時点の結果である。細胞内及び下層の測定結果のグラフは、上記培養終了時点の結果である。カラム上端は平均値を示し、バーにより標準誤差を示す(n=3)。カラム上のアルファベットが異なることは、そのカラム間のp値が0.05未満であることを示す。*はバーで示す群間でt検定を行った場合のp値が0.05未満であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0024】
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0025】
【化2】
【0026】
[式中:R1は炭化水素基を示し、R2及びR3は同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。]
で表される化合物(本明細書において、「本発明の化合物」と示すこともある。)、その塩、及びそれらの水和物からなる群より選択される少なくとも1種(本明細書において、「本発明の有効成分」と示すこともある。)を含有する、糖及び/又は脂質代謝改善剤(本明細書において、「本発明の剤」と示すこともある。)、に関する。以下にこれについて説明する。
【0027】
<1.有効成分>
本明細書において、「炭化水素」という用語は、本明細書で使用される場合、共有結合している水素原子及び炭素原子を含む化合物を指す。本明細書の「炭化水素基」という用語は、特定の基に必要とされる1つ以上の水素原子を炭化水素から除去することによって形成される一般化された基を指す。
【0028】
R1で示される炭化水素基は、鎖式(直鎖又は分枝鎖)炭化水素基、環状炭化水素基、及びそれらが組み合わされてなる基のいずれも包含する。R1で示される炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば3~29、好ましくは7~25、より好ましくは11~23、さらに好ましくは13~21、よりさらに好ましくは15~19、特に好ましくは16~18である。鎖式炭化水素基としては、例えば鎖式飽和炭化水素基(アルキル基)、鎖式不飽和炭化水素基(例えばアルケニル基、アルキニル基等)等が挙げられる。環状炭化水素基としては、例えば環状飽和炭化水素基(シクロアルキル基)、環状不飽和炭化水素基(例えばシクロアルケニル基、シクロアルキニル基等)、芳香族炭化水素基(アリール基)等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、R1で示される炭化水素基は、好ましくは鎖式炭化水素基、より好ましくは直鎖炭化水素基、より好ましくは直鎖不飽和炭化水素基である。直鎖不飽和炭化水素基は、二重結合を1つのみ有することが好ましい。二重結合の位置は特に制限されず、また二重結合はシス型及びトランス型のいずれでもよい。鎖式炭化水素基の具体例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、9-ペンタデセニル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、cis-9-ヘプタデセニル基、11-ヘプタデセニル基、cis,cis-9,12-ヘプタデカジエニル基、9,12,15-ヘプタデカントリエニル基、6,9,12-ヘプタデカントリエニル基、9,11,13-ヘプタデカントリエニル基、ノナデシル基、8,11-ノナデカジエニル基、5,8,11-ノナデカトリエニル基、5,8,11,14-ノナデカテトラエニル基、ヘンイコシル基、トリコシル基、cis-15-トリコセニル基、ペンタコシル基、ヘプタコシル基、ノナコシル基等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくはcis-9-ヘプタデセニル基が挙げられる。
【0030】
R2、R3で示される炭化水素基は、鎖式(直鎖又は分枝鎖)炭化水素基、環状炭化水素基、及びそれらが組み合わされてなる基のいずれも包含する。R2、R3で示される炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されず、例えば1~8、1~6、1~4、1~3、又は1~2である。炭化水素基としては、例えばアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基が挙げられる。R2、R3で示される炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、3-メチルペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0031】
R2及びR3は、好ましくは少なくとも一方が水素原子であり、特に好ましくは共に水素原子である。
【0032】
本発明の化合物は、糖及び/又は脂質代謝改善の観点から、特に低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善作用の観点から、オレアミドであることが好ましい。オレアミドは、一般式(1)においてR1がcis-9-ヘプタデセニル基であり且つR2及びR3が共に水素原子である化合物であり、その構造式は以下のとおりである。
【0033】
【化3】
【0034】
本発明の化合物の塩は、薬学的に許容される塩である限り、特に制限されない。当該塩としては、例えば酸性塩が挙げられる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、並びに酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩及びp-トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられる。
【0035】
本発明の化合物及び本発明の化合物の塩の溶媒和物としては、薬学的に許容される溶媒和物である限り、特に制限されない。溶媒和物を構成する溶媒としては、例えば、水、薬学的に許容される有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0036】
本発明の化合物は、様々な方法で入手することができる。例えば、本発明の化合物は、公知の方法に従った又は準じた方法で合成することができる。合成方法としては、例えば、R1-COOHを活性化してR1-COClを得て、当該R1-COClをNHR2R3と反応させることにより、本発明の化合物を得る方法が挙げられる(具体的には実施例を参照)。また、本発明の化合物は、市販品を利用することもできる。本発明の化合物の塩、本発明の化合物及び本発明の化合物の塩の溶媒和物は、公知の方法に従った又は準じた方法で合成することができるし、市販品を利用することもできる。
【0037】
また、本発明の化合物を含む天然物そのものやその抽出物も使用できる。本発明においては、抽出物には溶媒を用いて抽出されたものだけでなく、植物の種子などの各種部位から絞り出して得られた精油成分なども含まれる。抽出方法も特に制限されるものではなく、天然物又はその粉砕物を、水や、メタノール、エタノール、ブタノール、酢酸エチルなどの有機溶媒、水と有機溶媒との混液などを用いて抽出する方法、二酸化炭素等による超臨界流体を用いた超臨界抽出法などが例示される。また、抽出溶媒は、ベンゼンやヘキサンのような親油性溶媒も用いられ得るが、酢酸エチルやメタノールなどの親水性溶媒を用いるのが好ましい。本発明では、単離されあるいは合成された本発明の化合物の他に、溶媒や超臨界流体を用いて得られた抽出液や、抽出液に濃縮や乾燥を施したエキスはもちろんのこと、それらに分画操作を行うことで得られた粗精製物を使用することもできる。また、抽出時における泡立ちなどを防ぐために、抽出の前処理として、植物に対して酸やアルカリを用いた加水分解処理を行うこともできる。
【0038】
本発明の化合物を含む天然物としては、植物や動物の如何を問わず、例えばセリ科オランダミツバ属の植物であるセロリ(Apium graveolens)やセリ科ミツバ属の植物でマウンテンセロリ(Cryptotaenia japonica Hassk:Cheng MC. et al.、J. Agric Food Chem. 2008、56、3997-4003; Moon SM. et al.、Int. Immunopharmacol. 2018、56、179-185)、クロウメモドキ科ナツメ属の植物であるナツメ(Ziziphus jujuba:Periasamy S. et al.、Asian Pac. J. Cancer Prev. 2015、16、7561-7566)、スベリヒユ科スベリヒユ属の植物であるスベリヒユ(別名:バシケン)(Portulaca oleracea:Nazeam JA. et al.、Nat. Prod. Res. 2018、32、1484-1488)、キク科ゴボウ属の植物であるゴボウ(Yang WS. et. al.、J. Agric. Food Chem. 2016、64、3564-3573)などが例示される。使用部位も特に限定されず、植物の場合であれば、例えば葉であり、根であり、茎であり、種子であり、花であり、全草であり得る。動物の場合であれば、例えば内臓であり、筋肉であり、皮であり得る。
【0039】
<2.用途>
本発明の有効成分は、糖及び/又は脂質代謝改善作用を有する。よって、本発明の有効成分は、糖及び/又は脂質代謝改善剤(本発明の剤)として利用することができる。
【0040】
本明細書において、糖代謝とは、体内における、糖の消費(例えば異化反応等)、糖の蓄積(例えば同化反応等)、糖の細胞内への吸収等を包含する。糖代謝の改善とは、糖の消費の向上、糖の蓄積の抑制、糖の細胞内への吸収の向上等を包含する。本明細書において、脂質代謝とは、体内における、脂質の消費(例えば異化反応等)、脂質の蓄積(例えば細胞内蓄積、血中量増加等)等を包含する。脂質代謝の改善とは、脂質の消費の向上、脂質の蓄積の抑制、脂質の細胞内への吸収の低下等を包含する。糖及び/又は脂質代謝の改善の具体例としては、体重抑制、血糖抑制(例えば空腹時血糖抑制)、耐糖能向上、体内脂肪量抑制(例えば内臓脂肪量抑制、皮下脂肪量抑制等)、血中中性脂肪抑制、脂肪組織における炎症性サイトカイン発現抑制等が挙げられる。
【0041】
本明細書において、「抑制」とは、対象値を減少させることのみならず、増加基調にある対象値の増加幅を減少させること、減少基調にある対象値の減少幅を増加させること等も包含することができる。
【0042】
本明細書において、「向上」とは、対象値を増加させることのみならず、減少基調にある対象値の減少幅を低減させること、増加基調にある対象値の増加幅を増加させること等も包含することができる。
【0043】
本発明の有効成分は、上記作用に基づいて、メタボリックシンドローム、又は高コレステロール血症、高脂血症などの脂質異常症、糖尿病、肥満、及び脂肪肝からなる群より選択される少なくとも1種の疾患又は状態などの予防又は改善剤として利用することも可能である。
【0044】
本発明の剤は、糖及び/又は脂質代謝改善の中でも、特に、低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善のために、好適に用いることができる。「低運動量」の状態は、具体的には、例えば外出機会が少ないこと、デスクワーク従事、運動機会が少ないこと、交通機関の利用が多いこと、狭い飼育スペース、老化、気力の低下、疾病への罹患、怪我、ギプス固定、リハビリ時、寝たきり、要介護状態、宇宙旅行等によって引き起こされる。低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化としては、例えば体重増加、血糖値増加(例えば空腹時血糖増加)、耐糖能減少、脂肪量増加(例えば内臓脂肪量増加、皮下脂肪量増加等)、脂肪組織における炎症性サイトカイン発現増加等が挙げられる。低運動量に起因する脂質及び/又は糖代謝悪化の改善とは、例えば低運動量に起因する上記増加現象を抑制すること、低運動量に起因する上記減少現象を向上させることであることができる。
【0045】
本発明の剤は、様々な対象に投与することができる。投与対象としては、例えばヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びシカ等の様々な哺乳動物が挙げられる。本発明の剤は、低運動量の対象に対して投与することが好ましい。低運動量の対象は、例えば低運動量であることを自覚する対象、低運動量であると判定(例えば医師、獣医師により判定)された対象、低運動量の判定基準を満たす対象等であることができる。
【0046】
本発明の剤は、各種分野において、例えば食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬組成物、飼料などとして用いることができる。
【0047】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。本発明の剤は、好ましくは経口摂取形態(すなわち、経口摂取に適した形態)であることができる。
【0048】
本発明の剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、乳製品(例えば、粉末状、液状、ゲル状、固形状等)、パン、菓子(例えば、クッキー等)などが挙げられる。
【0049】
本発明の剤の形態としては、用途が添加剤、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0050】
本発明の剤の形態としては、用途が化粧品である場合は、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、ボディソープ、シャンプー、リンス、化粧用ゲル、パック、ファンデーション、リップクリーム、洗顔剤等が挙げられる。
【0051】
本発明の剤の形態としては、用途が医薬組成物である場合は、例えば軟膏剤、外用液剤(リニメント剤、ローション剤等)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(プラスター剤、硬膏剤等のテープ剤(リザーバー型、マトリックス型等)、パップ剤、パッチ剤、マイクロニードル等)、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤等の非経口摂取に適した製剤形態(特に、外用製剤形態); 錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)が挙げられる。
【0052】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬組成物、飼料などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0053】
本発明の剤は、脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤を含有することが好ましい。また、本発明の剤は、脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤と併用するために用いられることが好ましい。これにより、本発明の有効成分の体内吸収を促進することができ、その効果の増大を図ることが可能である。
【0054】
脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH:fatty acid amide hydrolase)は、生体内に存在する酵素であり、脂肪酸アミドを脂肪酸とアミンとに分解する酵素である。
【0055】
脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤は、脂肪酸アミド加水分解酵素の酵素活性、すなわち脂肪酸アミドを脂肪酸とアミンとに分解する活性を阻害することができるものである限り、特に制限されない。当該阻害剤としては、例えばURB-597(CAS番号:546141-08-6)が挙げられる。また、これ以外にも、当該阻害剤としては、例えばフラボノイド、例えば大豆に含まれるダイゼイン(daidzein)や腸内での代謝物のS-エクオール(S-equol)、大豆に含まれるゲニステイン(genistein)、ブロッコリーに含まれるケンペロール(kaempferol)、アカツメクサに含まれるビオカミンA(biochanin A)等が挙げられる。
【0056】
脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤は、合成又は単離品として本発明の剤に含まれていてもよいし、天然物又は天然物由来混合物として本発明の剤に含まれていてもよい。
【0057】
本発明の剤を、脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤と併用する態様は、特に制限されない。本発明の剤の投与と脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤の投与は、いずれが先であってもよい。また、これらの投与は、同時に行ってもよいし、間隔(特に制限されないが、例えば1時間~3日)を空けて行ってもよい。
【0058】
本発明の一態様において、本発明の剤は、本発明の有効成分及び脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤以外の、生理活性又は薬理作用を示す他の成分の含有量が、少ないことが好ましい。例えば、本発明の有効成分、脂肪酸アミド加水分解酵素の阻害剤、及び生理活性又は薬理作用を示さない他の成分(例えば医薬品添加物)の合計含有量は、本発明の剤100質量%に対して、例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、よりさらに好ましくは90質量%以上、とりわけ好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上であることができる。
【0059】
本発明の剤における有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0060】
本発明の剤の投与量は、糖及び/又は脂質代謝改善作用を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の乾燥重量として、一般に1日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【実施例0061】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0062】
以下の合成例、試験例で使用した材料及び試薬の情報は以下のとおりである。
【0063】
安定同位体標識 オレイン酸 、15N-標識水酸化アンモニウム(3.3 N in H2O)はCambridge Isotope Laboratoriesより、cis-10-ヘプタデセン酸 、スルホスクシンイミジルオレイン酸(SSO)、URB-597(catalog no. 10046)はCayman Chemicalより、ジメチルスルホキシド(DMSO)(濾過滅菌済・細胞培養用特製試薬)、クレモフォール、28%水酸化アンモニウム、テトラヒドロフラン(HPLC用)はナカライテスクより、Eagle’s minimum essential medium(MEM)、cis - 9 - octadecenamide(オレアミド)はSigma-Aldrichより、オレイン酸、アセトン(HPLC用)、クロロホルム(HPLC用)、ヘキサン(HPLC用)、ジクロロメタン(超脱水)、N,N-ジメチルホルムアミド(超脱水)、キシレン(90%キシレン、6%エチルベンゼン含有)、トリグリセライドE-テストワコー(Triglyceride E-test)は富士フィルム・和光純薬工業より、塩化オキサリル は東京化成工業より、アセトニトリル(HPLC用)、酢酸エチル(HPLC用)、メタノール(HPLC用)は関東化学より、ウシ胎児血清(FBS)はGibcoより入手した。その他は市販の特級試薬を用いた。
【0064】
合成例1.脂肪酸アミドの合成
<合成例1-1.オレアミドの合成>
オレイン酸を等モル量のジクロロメタンに溶解し、1.2倍モル量の塩化オキサリルを加えた。パスツールピペットで1滴のN,N-ジメチルホルムアミドを加え、室温で2時間スターラーを用いて攪拌し反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を蒸発乾固した。合成されたクロロ化合物1 gあたり20 mLのテトラヒドロフランと10倍モル量の水酸化アンモニウムを加え室温で3時間スターラーを用いて攪拌し反応させた。生成物をADVANTEC No.2濾紙を用いて一晩かけて濾過し、濾紙上で濾過後の生成物を一晩かけて風乾させた。風乾後、スパテルを用いて濾紙上から生成物を回収し、収量を測定した。
【0065】
<合成例1-2.オレアミドの分析>
オレアミドの生成と純度を確認するため、生成物を酢酸エチルに溶解し高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析を行った。日本分光のHPLCシステム(HPLCポンプ:JASCO PU-2089 Plus、オートサンプラー:AS-2057 Plus、LC-Net コントローラー:LC-Net II /ADC、紫外・可視光検出器:UV-2075 Plus、もしくはHPLC用PDA検出器 MD-2018、フラクションコレクターコントローラー:FC-2088-30、データ解析ソフトウェア:JASCO ChromNAV Chromatograph Data Station)を用いて分析した。分析カラムはInertSustain C18(5 μm、4.6 x 250 mm)(ジーエルサイエンス)を使用し、ガードカラムとして HPLC Guard Column InertSustain C18(5 μm、4.6 × 10 mm)(ナカライテスク)を使用した。カラムオーブンはCSL-300C(クロマトサイエンス)を用いて、40℃でカラムを保温した。移動相AとしてHPLC用アセトニトリルを用いた。分析タイムプログラムは、流量は0.4 mL/min、100%アセトニトリルのアイソクラティック条件で30分間流し、サンプル濃度は10 mMとし、注入量は10 μLで行った。検出波長はUV検出器において210 nmで分析を行った。
【0066】
<合成例1-3.安定同位体標識オレアミドとヘプタデセン酸アミドの合成>
安定同位体標識オレイン酸とcis-10-ヘプタデセン酸を等モル量のジクロロメタンに溶解し、1.2倍モル量の塩化オキサリルを加えた。パスツールピペットで1滴のN,N-ジメチルホルムアミドを加え、室温で2時間スターラーを用いて攪拌し反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒を蒸発乾固した。合成されたクロロ化合物1 gあたり20 mlのテトラヒドロフランと10倍モル量の安定同位体標識水酸化アンモニウム、水酸化アンモニウムを加え室温で3時間スターラーを用いて攪拌し反応させた。
【0067】
<合成例1-4.安定同位体標識オレアミドとヘプタデセン酸アミドの精製と分析>
生成物の水酸化アンモニウムをドラフト内でとばし、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固した。生成物は酢酸エチルに溶解し、合成例1-2. と同じ装置・条件によりHPLC分析を行った。その後、目的の化合物と思われるピークを、上記と同様にHPLCシステム、フラクションコレクター、カラムオーブンを用いて分取を行った。分取カラムはInertSustain C18(5 μm、10 x 250 mm)(ジーエルサイエンス)を使用し、ガードカラムとして HPLC Guard Column InertSustain C18(5 μm、10 x 50 mm)(ナカライテスク)を使用した。移動相AにはHPLC用アセトニトリルを用いた。分析タイムプログラムは、流量は4.73 mL/minで注入量は47.3 μLで行った。検出波長はUV検出器において210 nmで分取を行い、得られたサンプルを蒸発乾固した。合成物の分子量を確認した。
【0068】
試験例1.オレアミドの体内動態の解析
オレアミドをマウスに投与してから一定時間経過後、各組織中のオレアミド量を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0069】
<試験例1-1.実験動物の飼育条件>
動物の飼育は、室温を23±3℃、湿度を50±20%、照明時間を12時間定時照明(8:00~20:00)に設定した飼育室で、床敷チップ(日本クレア)を敷いたプラスチックゲージで行った。飼料としてCE2(日本クレア)を用いた。予備飼育期間中は摂水・摂食は自由とした。実験期間中も摂水は自由とした。
【0070】
<試験例1-2.安定同位体標識オレアミド溶液の調製法>
5%エタノール、5%クレモフォール、90%生理食塩水に安定同位体標識オレアミドを溶解した。安定同位体標識オレアミドに5%エタノールを加え、超音波分散機(power 3)で粉末を破砕した。その後、5%クレモフォールを加え、超音波分散機(power 3)で破砕した。投与直前に生理食塩水を加え、撹拌を数秒行い析出する前に素早く経口投与した。
【0071】
<試験例1-3.安定同位体標識オレアミド投与と組織摘出>
6週齢のKwl:ddYマウス(紀和実験動物研究所)を予備飼育後の7週齢のマウス(約31 g)(9匹)を経口投与前3匹、経口投与1時間後6匹に分け、実験に用いた。試験開始16時間前に飼育ケージの床敷きチップを交換し、糞食を回避させた状態で飼育し絶食させた。マウス用経口ゾンデ(φ0.9 x L 50 mm)(夏目製作所)を用いて、マウス一匹につき上記試験例1-2 のように調製した安定同位体標識オレアミドを50 mg/10 mL/kgで経口投与した。経口投与1時間後、ドミトールを0.3 mg/kg体重、ミダゾラム(サンド)を4 mg/kg、ベトルファールを5 mg/kg体重となるように滅菌生理食塩水に溶解(ドミトール(1.0 mg/mL)(Orion Pharma)30 μL、ミダゾラムを(5 mg/mL)80 μL、ベトルファール(5 mg/mL)(明治製菓ファルマ)100 μLを滅菌生理食塩水で1 mLに定容)し、10 mL/kg体重を腹腔内投与した。麻酔をかけた後、開腹し腹部後大静脈より全採血した。得られた血液は室温で6時間静置した後8000 x gで10分間、4℃で遠心分離し、上清を回収して血漿を得た。安楽殺後、大脳、小脳、心臓、肝臓、腎臓、精巣、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、骨格筋(ハムストリングス、大腿四頭筋、前脛骨筋、長趾伸筋、腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋)、脂肪組織(腸管膜脂肪、腎周囲 / 後腹膜脂肪、精巣上体周辺脂肪、鼠径部皮下脂肪、肩甲骨周辺脂肪、褐色脂肪)を摘出した。採取した組織は即座に液体窒素で凍結し、-80℃で保管した。
【0072】
<試験例1-4.組織中の安定同位体標識オレアミド抽出>
鼠径部皮下脂肪、肝臓は全量凍結粉砕を行った。鼠径部皮下脂肪、肝臓以外の組織全量とメタルコーンをスクリューチューブ(ビオラモ 1-2960-03)に入れた。MULTI-BEADS SHOCKER(安井器械)を用いて、2000 rpmで30秒間粉砕後10秒静置を3回繰り返し、組織を粉砕した。凍結粉砕処理またはビーズショッカー処理を行った20~50 mgの組織サンプルをスクリューチューブに量り、内部標準として10 μLの5 μM ヘプタデセン酸アミド(50 pmol)、550 μLのクロロホルム:メタノール:超純水= 1 : 2 : 0.3(v/v/v)の抽出溶媒、メタルコーンを加えた。MULTI-BEADS SHOCKERを用いて、2000 rpmで30秒間粉砕後10秒静置を6回繰り返し、組織から抽出を行い、遠心分離(20000 x g、15分間、25℃)を行った。約500 μLの上清(上清1)を回収し、664 μLのクロロホルム:超純水= 1 : 1(v/v)の抽出溶媒を加え、ボルテックス(power 8)を1分間行った。遠心分離(20000 x g、15分間、25℃)を行い、約500 μLの下層(下層1)を回収し、一晩風乾させた。上清1を回収した後の下層に633 μLのクロロホルム:MeOH:超純水= 1 : 2 : 0.8(v/v/v)の抽出溶媒を加え、ボルテックス(power 8)を1分間行った。遠心分離(20000 x g、15分間、25℃)を行い、約600 μLの上清(上清2)を回収し、664 μLのクロロホルム:超純水= 1 : 1(v/v)の抽出溶媒を加え、ボルテックス(power 8)を1分間行った。遠心分離(20000 x g、15分間、25℃)を行い、約500 μLの下層(下層2)を回収し、一晩風乾させた。一晩風乾させた下層1と下層2を500 μLの20%メタノールに溶解し、MonoSpinC18(ジーエルサイエンス)を用いて固相抽出し、サンプル化を行った。廃液用チューブをスピンカラムに付け、100 μLの酢酸エチルをスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1分間、25℃)し、コンディショニングを行った。500 μLの20%メタノールに溶解したサンプルをスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1分間、25℃)し、カラムにサンプルを吸着させた。廃液用チューブに回収されたサンプルをスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1分間、25℃)し、もう一度カラムにサンプルを吸着させた。300 μLの超純水をスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1分間、25℃)し、洗浄を行った。300 μLのヘキサンをスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1 分間、25℃)し、洗浄を行った。スピンカラムを回収用チューブに付け替えた後、100 μLの酢酸エチルをスピンカラムに加え、遠心分離(5000 x g、1分間、25℃)し、溶出を行った。一晩風乾させた後、50 μLの酢酸エチルに再溶解したものをGC-MSサンプルとした。
【0073】
<試験例1-5.GC-MSを用いた組織中の安定同位体標識オレアミドの分析>
島津製作所のGC-MSシステム(GC-MS機器:GC-MS QP-2010、オートサンプラー:AOC-20i、データ解析ソフトウェア:GCMSsolution)を用いて分析した。キャピラリーカラムはInertCap 5MS/NP(30 m x 0.25 mm、膜厚0.25 μm)(ジーエルサイエンス)を使用した。キャリアガスには高純度のヘリウムガス(ジャパンファインプロダクツ)を使用した。全流量は43.6 mL/min、カラム流量は 1.31 mL/minとした。1 μLのサンプルをスプリットレスで注入し、スプリット比が30の条件で分析した。分析開始後はカラムの温度を初期温度70℃で、10℃/minで300℃まで昇温した後に15分間保持した。インターフェースとイオン源温度は、それぞれ250℃、230℃に設定した。MSは、質量範囲をm/z 30~650に設定した。データ取得はサンプル注入より5分後から38分後まで行った。
【0074】
<試験例1 結果>
結果を図1に示す。各組織において安定同位体標識オレアミドが検出された。
【0075】
試験例2.行動範囲制限マウスへのオレアミド投与動物実験
行動範囲を制限したマウスへオレアミドを投与し、体重、血糖値、脂肪重量、脂肪細胞サイズ、及び血漿トリグリセリド濃度を測定した。具体的には以下のようにして行った。
【0076】
<試験例2-1.行動範囲制限マウスへのオレアミド投与における飼育条件>
動物の飼育は、試験例1-1.と同じ条件に設定された飼育室で、床敷チップを敷いたプラスチックゲージで行った。飼料としてCE2を用いた。予備飼育期間中は節水・摂食は自由とした。実験期間中も摂水は自由とした。6 週齢のKwl:ddYマウス(貴和実験動物研究所)を予備飼育後の7 週齢のマウス(約38 g)(24匹)を7~9匹ずつ以下の3群に分けた。
(1)3ヶ月間通常状態で、行動範囲を制限したsedentary群が摂取した食餌量を翌日に与えた群
(control群)n=8
(2)3ヶ月間行動範囲制限で、摂食は自由に行える群(sedentary群)n=7
(3)3ヶ月間行動範囲制限で、行動制限群が摂取した食餌量を翌日に与え、オレアミドを強制経口投与する群(oleamide群)n=9
飼育状態として通常状態のマウス(control群)は161.3 cm2 の床面積のケージ(単飼用のケージサイズの床面積)で個別に飼育し、sedentary群とoleamide群は行動範囲を制限するために 26.9 cm2の床面積のケージ(単飼用のケージサイズの1/6の床面積)で個別に飼育した。床面積以外の条件は同一とする。
【0077】
<試験例2-2.vehicleおよびオレアミド溶液の調製法>
5%エタノール、5%クレモフォール、90%生理食塩水にオレアミドを溶解した。オレアミドに5%エタノールを加え、超音波分散機(power 3)で粉末を破砕した。その後、5%クレモフォールを加え、超音波分散機(power 3)で破砕した。投与直前に生理食塩水を加え、撹拌を数秒行い析出する前に素早く経口投与した。
【0078】
<試験例2-3.マウスへのオレアミドの経口投与法>
マウス用経口ゾンデ(φ0.9 x L 50 mm)を用いて、マウス一匹につき試験例4-2のように調製したオレアミドを、毎日1回、50 mg/10 mL/kg体重で経口投与した。
【0079】
<試験例2-4.体重、摂食量、測定法>
体重は週に1度(3、4日毎に1度)測定した。餌は毎日交換し、交換時の餌の残量から摂食量を算出した。(1)と(3)の群は(2)の群が摂取した食餌量を翌日に与え、(1)・(2)・(3)群の全摂食量を合わせた。
【0080】
<試験例2-5.糖負荷試験(IPGTT)>
試験開始6時間前に飼育ケージの床敷きチップを交換し、糞食を回避させた状態で飼育し絶食させた。水は自由摂水させた。グルコースを2 g/10 mL /kg体重となるように腹腔内投与した。グルコース溶液投与直前、投与後30、60、120分時に尾静脈血液を採取し血糖値を測定した。測定にはワンタッチウルトラ(Johnson & Johnson)にLFSクイックセンサー(Johnson & Johnson)を装着して用いた。
【0081】
センサーに浸透させた血液中のグルコースは内部に含まれるグルコースオキシダーゼと特異的に反応し、フェリシアン化カリウムを還元し、血液中のグルコース濃度に応じたフェロシアン化カリウムを生成する。このフェロシアン化カリウムが電気化学的に酸化することで生ずる電流を測定し、血中グルコース濃度が求まる。
【0082】
<試験例2-6.解剖>
解剖開始4時間前に飼育ケージの床敷きチップを交換し、糞食を回避させた状態で飼育し絶食させた。マウス用経口ゾンデ(φ0.9 x L 50 mm)を用いて、マウス一匹につき試験例4-2のように調製したオレアミドを50 mg/10 mL/kg体重で経口投与した。経口投与2時間後に、ドミトール0.3 mg/kg体重、ミダゾラム4 mg/kg、ベトルファール5 mg/kg体重となるように濃度調整された混合溶液10 mL/kg体重を腹腔内投与した。麻酔をかけた後、開腹し腹部後大静脈より全採血した。採血は血液凝固防止剤として1000 U/mLのヘパリンナトリウム溶液を通した1 mLのガラスシリンジを用いてガラス製チューブに回収し、得られた血液は室温で6時間静置した後8000 x gで10分間、4℃で遠心分離し、上清を回収して血漿を得た。安楽殺後、大脳、小脳、心臓、肝臓、膵臓、腎臓、精巣、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、盲腸内容物、骨格筋(ハムストリングス、大腿四頭筋、前脛骨筋、長趾伸筋、腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋)、脂肪組織(腸管膜脂肪、腎周囲 / 後腹膜脂肪、精巣上体周辺脂肪、鼠径部皮下脂肪、肩甲骨周辺脂肪、褐色脂肪)を摘出した。採取した組織は即座に液体窒素で凍結し、-80℃で保管した。
【0083】
<試験例2-7.脂肪組織の形態的評価>
<試験例2-7-1.パラフィン包埋>
10%中性緩衝ホルムアルデヒド溶液に24時間以上室温で固定した組織をHistosette I(Simport)に入れて、エタノール:キシレン = 1 : 1 (v/v) の溶液中にて40℃で2時間振盪後、新しいエタノール:キシレン = 1 : 1 (v/v) 溶液に交換し、40℃で16時間振盪した。80%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、無水エタノールの順に室温で2時間ずつ浸した。その後、キシレンに30分間ずつキシレンを3回交換しながら室温で計90分間浸した。次に65℃で溶解させたパラフィンワックス II 60(サクラファインテックジャパン)とキシレンを等量混合したものに65℃で2時間浸した。その後、65℃で溶解させたパラフィンワックス II 60に30分間ずつパラフィンワックス II 60を4回交換しながら65℃で計120分間浸した。新しいパラフィンワックス II 60で包埋を行った。パラフィン包埋後のサンプルは4℃で保存した。
【0084】
<試験例2-7-2.ヘマトキシリン&エオシン染色(HE染色)>
ミクロトームを用いて、上記の試験例2-7-1で包埋した組織を6 μmに薄切後、42℃に調節したウォーターバスの中で切片を伸展させ、剥離防止コートスライドガラス(MAS-GP type A; 松浪硝子)に載せた。65℃で1時間以上乾燥させ、水分を除去した。その後、キシレンに15分間ずつキシレンを3回交換しながら65℃で計45分間浸し、脱パラフィン処理を行った。100%エタノール、100%エタノール、90%エタノール、70%エタノールの順に室温で5分間ずつ浸し、イオン交換水に10分間ずつイオン交換水を2回交換しながら室温で計20分間浸した。その後、ヘマトキシリン溶液を用いて室温で5分間染色し、45℃の微温浴で5分間色出しを行った。次に、1%エオシン Y染色液を用いて室温で5分間染色し、70%エタノールを用いて室温で5分間脱色を行った。70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、100%エタノールの順に室温で5分間ずつ浸した。その後、キシレンに5分間ずつキシレンを3回交換しながら室温で計15分間浸した。ドラフト内でキシレンを風乾させた後、組織にマリノールを少量のせ、カバーガラス(イワキ)で封入した。封入後のサンプルは遮光し、4℃で保存した。
【0085】
<試験例2-7-3.脂肪細胞面積の測定>
蛍光顕微鏡(BZ-X810; キーエンス)を用いて、上記の試験例2-7-2.で作製した組織切片を撮影し、ImageJを用いて細胞面積を算出した。各マウスにつき400個の細胞面積を求めた。
【0086】
<試験例2-8.血漿中トリグリセリドの測定>
血漿中のトリグリセリドは、添付マニュアルに従いトリグリセライドE-テストワコーを用いて測定した。付属のトリオレイン基準液を超純水で100、200、300 mg/dLに希釈し、検量線作成に用いた。血漿サンプルは1 μLを測定に使用した。1 μLの血漿または基準液と200 μLの発色試薬を96-well microtiter plates(Greiner Bio One)で混合し、37℃で5分間インキュベートを行った。測定はコロナ吸光グレーティングマイクロプレートリーダー(SH-1200Lab)を用いて行い、595 nmの吸光度より濃度を求めた。
【0087】
なお、試料中のジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、グリセリンも本キットで測定されるが、その含量はトリグリセリドの10分の1以下であり、測定結果に大きな影響を与えない。
【0088】
<試験例2-9. 脂肪組織における炎症系関連因子のmRNAレベルの評価>
<試験例2-9-1. 組織からの全RNAの抽出>
RNA抽出試薬(Sepasol-RNA I Super G(ナカライテスク))を用いたAGPC法によりRNAを抽出した。以下の操作はすべてRNase-freeの状態で行い、すべてRNase-freeの試薬を使用した。水はすべてDiethylpyrocarborate(DEPC)(ナカライテスク)処理した超純水(DEPC水)を用いた。組織は摘出後、RNA later(Merck)に浸した後、凍結保存した。精巣上体周辺脂肪(約100 mg)に対して10個の直径2.0 cmのジルコニアビーズ(TORAYCERAM・BEADS; 東レ)と500 μLのSepasol-RNA I Super Gをスクリューチューブ(深江化成・ワトソン)に加えた。MULTI-BEADS SHOCKERを用いて、2000 rpmで30秒間粉砕後10秒静置を2回繰り返した。その後、500 μLのSepasol-RNA I Super Gを加え、MULTI-BEADS SHOCKERを用いて、2000 rpmで30秒間粉砕後10秒静置を2回繰り返した。10分間氷上で静置後、遠心分離(12000 x g、10分間、4℃)を行い、上清の脂質層を除いた。200 μLのクロロホルム加え、ボルテックスミキサー(power 8)を用いて1分間攪拌を行い、3分間氷上で静置した。遠心分離(20000 x g、15分間、4℃)を行い、水層を新しい1.5 mLチューブに回収した。水層に等量のイソプロパノールを加え転倒混和し、室温で10分間静置した。遠心分離(20000 x g、30分間、4℃)を行い、上清を取り除いた。沈殿物に700 μLの 80%エタノール(20% DEPC水)を加え、遠心分離(20000 x g、15分間、4℃)を行い、上清を完全に取り除いた後、沈殿物を風乾した。沈殿物は20 μLのDEPC水で溶解し、全RNAとした。
【0089】
<試験例2-9-2. DNase処理>
2-9-1で得られた全RNAをDNAase処理した。26.4 μLの全RNA溶液(20 μg)を3.0 μLの10×DNase I buffer、0.3 μL RNase inhibitor (12 U)、0.3 μLのDNase (3.3 U)を含む全量30 μLの反応系で37℃、1時間反応させた。DNase処理後、370 μLのDEPC水を加え、400 μLのフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25 : 24 : 1 (v/v/v))を加え、ボルテックスミキサー(power 8)を用いて1分間攪拌を行い、遠心分離(20000 x g、15分間、4℃)を行った。上清を新しいチューブに移し、等量のクロロホルムを加えて、ボルテックスミキサー(power8)を用いて30秒間攪拌を行い、遠心分離(20000 x g、15分間、4℃)を行った。上清を新しいチューブに移し、総量の7割になるように100%エタノールを加えて混和後、-20℃で一晩静置した。遠心分離(20000 x g、30分間、4℃)後、上清を除いた。沈殿物に1 mLの80%エタノール(20% DEPC水)を加え、遠心分離(20000 x g、15分間、4℃)を行い、上清を完全に取り除いた後、沈殿物を風乾した。風乾後、沈殿物を15 μLのDEPC水に溶解し、RNA量を測定し、-80℃で保存した。
【0090】
<試験例2-9-3. cDNAの合成>
逆転写反応はReverTra Aceキット(東洋紡)を用いて行った。6 μLの全RNA(1 μg)を37.5 μM のoligo dT20と37.5 μM のrandom hexamerを含む全量7.0 μLの反応系で70℃、5分間反応後、5分間氷冷した。その後、7 μLの全RNA溶液(1 μg)に2.5 μLの5×Reaction buffer、2.5 μLの2.5 mM dNTPs、0.5 μLのReverTra Ace(50 U)を含む全量12.5 μLの反応系を調製し、サーマルサイクラーを用いて30℃で10分間、42℃で60分間、95℃で5分間の条件で逆転写反応を行った。反応終了後、氷冷し、cDNAサンプルとし、-20℃で保存した。
【0091】
<試験例2-9-4. リアルタイム定量RCR(qPCR)>
逆転写反応を行ったcDNAサンプルを超純水で20倍希釈し、テンプレートとしてqPCR法による解析を行った。サーマルサイクラーはThermal Cycler Dice Real Time(TP870; タカラバイオ)を使用した。2.0 μLのテンプレートに0.25 μLの20 μM forward primer、0.25 μLの20 μM reverse primer、5.0 μLの2xTB Green、2.5 μLの超純水を含む全量10 μLの反応系を調製し、qPCR を行った。解析は検量線法を用いて行い、2ndDerivative maximum法によりCt値を算出した。18S rRNAの値を内部標準とし、各遺伝子の発現量を相対値として算出した。
【0092】
<試験例2-10.統計処理>
データの有意差検定は、JMP statistical software version 8.0.1(SAS Institute)を用いてStudentのt検定、もしくは多重比較検定であるTurkeyまたはDunnett検定を行った。
【0093】
<試験例2 結果>
体重測定結果を図2に示す。体重は、sedentary群と比較してcontrol群においては、10週齢以降(13週齢を除く)有意に減少し、sedentary群と比較してoleamide群においては、10週齢以降有意に減少した。解剖時の体重は、sedentary群と比較してcontrol群とoleamide群において有意に減少した。なお、累積摂食量に3群間に有意な差はなかった。
【0094】
血糖値の測定結果を図3に示す。空腹時の血糖値については、sedentary群と比較してcontrol群とoleamide群において有意に減少した。糖負荷試験における血糖値の推移は、sedentary群と比較してcontrol群において、30分の時点で有意に減少した。糖負荷試験におけるAUCは、sedentary群と比較してcontrol群において有意に減少し、sedentary群と比較してoleamide群においては、減少傾向が示された。減少傾向の結果については、n数を増やすことにより有意差が出ると考えられる。
【0095】
脂肪重量の測定結果を図4に示す。脂肪組織重量においては、sedentary群と比較してcontrol群においては、腎周囲/後腹膜脂肪、精巣上体周辺脂肪、鼠径部皮下脂肪は有意に減少し、褐色脂肪(p=0.051)は減少傾向であった。sedentary群と比較してoleamide群においては、腎周囲/後腹膜脂肪、精巣上体周辺脂肪は有意に減少し、腸間膜脂肪(p=0.079)、鼠径部皮下脂肪(p=0.070)、肩甲骨周辺脂肪(p=0.081)、褐色脂肪(p=0.071)は減少傾向であった。減少傾向の結果については、n数を増やすことにより有意差が出ると考えられる。
【0096】
脂肪細胞サイズの測定結果を図5に示す。sedentary群と比較してcontrol群とoleamide群の脂肪細胞サイズが有意に減少した。また、脂肪細胞サイズの分布は、sedentary群では脂肪細胞サイズが大きいものの割合が高く、oleamide群はcontrol群と同様の分布を示した。
【0097】
血漿中トリグリセリドの測定結果を図6に示す。sedentary群と比較してcontrol群では有意な差はなかったが、sedentary群と比較してoleamide群では減少傾向(p=0.094)であった。減少傾向の結果については、n数を増やすことにより有意差が出ると考えられる。
【0098】
脂肪組織における炎症性サイトカインのmRNAレベルの測定結果を図7に示す。炎症性サイトカインであるTNF-α mRNAの発現レベルは、sedentary群と比較してoleamide群では有意に低下した。また、MCP-1 mRNAの発現は、sedentary群ではcontrol群と比較して有意に増加し、oleamide群ではsedentary群と比較して有意に減少した。
【0099】
試験例3.オレアミドの腸間膜透過の解析
オレアミドの腸間膜透過性を検討するために、トランスウェル上で21日間培養し分化させたCaco-2細胞を、1 μMの安定同位体標識オレアミドと共に培養し、上層・下層・細胞内の安定同位体標識オレアミド量を定量した。その際に、脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤(URB-597またはgenistein)を添加して、その影響を評価した。具体的には、以下のようにして行った。
【0100】
<試験例3-1.細胞の通常培養および継代方法>
Caco-2ヒト結腸癌由来細胞株は、RIKEN Bioresource Center Cell Bankより購入した。Caco-2細胞の培養は、MEM培地(20% FBS)(9.3 g/L MEM、20% FBS、0.292 g/L L-グルタミン、0.011 g/L フェノールレッド、2.2 g/L 炭酸水素ナトリウム)を用いた。DishにはVIOLAMO培養細胞dish(アズワン)を用いた。培養は95% Air、5% CO2、37℃のインキュベータ内で行った。細胞はリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))(137 mM 塩化ナトリウム、2.68 mM リン酸水素二ナトリウム、8.18 mM 塩化カリウム、1.47 mM リン酸二水素カリウム)で洗浄し、0.25%トリプシンと0.02%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を処理することで細胞を剥がし、新鮮な培地に懸濁することによって継代を行った。細胞は飽和状態の50~60%に達した時点で1/5量を継代した。
【0101】
<試験例3-2.Caco-2細胞単層膜の形成>
12 well plateに培養用メンブレンインサート(12 well、0.4 μM pore size、catalog no. 353180)(FALCON)を入れた。メンブレンは以下の通りにコラーゲンコートした。0.3%コラーゲン酸性液(フナコシ)を0.01 N HClにより0.01%に希釈した溶液を200 μLインサート内に添加し、37℃、5% CO2インキュベータ内に30分間静置後、PBSでインサート内を2回洗浄した。12 well plateに1 mLのMEM培地(20% FBS)を加え、MEM培地を用いてインサート内にCaco-2細胞を播種した。小腸上皮細胞様に分化するまで21日間培養を行なった。2、3日に1度インサート内外の培地交換を行った。また、12 well plate上で培養する場合は、コラーゲンコートは行わなかった。
【0102】
<試験例3-3.透過試験用バッファーの調製>
タウロコール酸ナトリウムを10 mMとなるように、30分間37℃、5% CO2インキュベータ内で平衡化したハンクス平衡塩溶液(HBSS)に溶解後、ボルテックスミキサーで混合してから15分間洗浄用超音波装置でソニケーションし、HBSS-TCを調製した。安定同位体標識オレアミド(エタノールに溶解)を1 μMとなるように調製したHBSS-TCに溶解し、ボルテックスミキサーで混合後、15分間洗浄用超音波装置でソニケーションを行い、サンプルバッファーを調製した。
【0103】
<試験例3-4.transwellを用いた透過性試験法>
メンブレンフィルター上で培養したCaco-2細胞を光学顕微鏡で観察し、単層膜上に破れがないことを確認した。MILLICELL-ERSを用いてtransepithelial electrical resistance(TEER)値(経上皮電気抵抗値)を測定し、細胞が十分に分化していることを確認した(TEER≧700Ω・cm2)。下層の培地を取り除き、HBSSで3回洗浄した後、1 mLのHBSSを添加した。次に、上層の培地を取り除き、HBSSで3回洗浄した後、上記のように調製した1 μM 安定同位体標識オレアミドを含むHBSS-TCを1 mL添加し、37℃、5% CO2インキュベータ内で静置した。各時間インキュベートした後、上層と下層のバッファーをチューブに回収し、測定まで-80℃で保存した。メンブレンフィルター上のCaco-2細胞は、氷冷洗浄用HBSS(0.1% BSA、0.05%アジ化ナトリウム)で3回洗浄した後、氷冷HBSSで2回洗浄してから700 μLのHBSSを加えて、セルスクレーパーで細胞を剥がし、チューブに移した。その後、250 x g、10分間遠心分離することでHBSSを取り除き、測定まで-80℃で保存した。
【0104】
<試験例3-5.URB-597またはgenistein存在下での透過性試験法>
HBSS-TCに10 μM、1 mM、10 mMの URB-597(DMSOに溶解)をそれぞれ最終濃度が10 nM、1 μM、10 μMとなるように、また30 mM genistein(DMSOに溶解)を最終濃度が30 μMとなるように溶解後、20秒間ボルテックスミキサーで混合し、プレインキュベーション用バッファーを調製した。また、1 μM 安定同位体標識オレアミドを含むHBSS-TCにも同様に各種リガンドを溶解後、20秒間ボルテックスミキサーで混合し、サンプルバッファーを調製した。メンブレンフィルター上で培養したCaco-2細胞を光学顕微鏡で観察し、単層膜上に破れがないことを確認した。MILLICELL-ERSを用いてTEER値を測定し、細胞が十分に分化していることを確認した(TEER≧700Ω・cm2)。下層の培地を取り除き、HBSSで3回洗浄した後、1 mLのHBSSを添加した。次に、上層の培地を取り除き、HBSSで3回洗浄した後、プレインキュベーション用バッファーを1 mL添加し15分間37℃、5% CO2インキュベータ内で静置した。次に、プレインキュベーション用添加サンプルを取り除き、サンプルバッファーを1 mL添加し30分間37℃、5% CO2インキュベータ内で静置後、上層と下層のバッファーを回収した。培養上清は測定まで-80℃で保存した。メンブレンフィルター上のCaco-2細胞は、氷冷洗浄用HBSS(0.1% BSA、0.05%アジ化ナトリウム)で3回洗浄した後、氷冷HBSSで2回洗浄してから700 μLのHBSSを加えて、セルスクレーパーで細胞を剥がし、チューブに移した。その後、250 x g、10分間遠心分離することでHBSSを取り除き、測定まで-80℃で保存した。
【0105】
<試験例3-6.37℃条件での透過性試験法>
12 well plate上に培養したCaco-2細胞を光学顕微鏡で観察し、単層膜上に破れがないことを確認した。HBSSで2回洗浄した後、37℃のHBSS-TCを1 mL添加し、15分間37℃、5% CO2インキュベータ内で静置した。37℃の1 μM安定同位体標識オレアミドを含むHBSS-TCを1 mL添加し37℃、5% CO2インキュベータ内で静置した。各時間インキュベート後、培養上清を回収した。培養上清は測定まで-80℃で保存した。
【0106】
<試験例3-7.サンプル化及び測定>
25 μLの上層のバッファーを225 μLのHBSSと混合した溶液(250 μL)、または250 μLの下層のバッファーに、内部標準として10 μLの5 μM ヘプタデセン酸アミド(50 pmol)を加えた。4倍量の氷冷アセトンを加えボルテックスミキサー(power max)で30秒間混合後-20℃で30分間静置し、遠心分離(13800 x g、10分間、4℃)することで除タンパクを行った。アセトンを風乾後900 μLの酢酸エチルを加えボルテックスミキサー(power max)で30秒間混合し、遠心分離(380 x g、5分間、4℃)した。吹付け式試験管濃縮装置(東京理化器械)を用い窒素ガスを吹き付けて、回収した上清を除去した。上層は60 μL、下層は50 μLの酢酸エチルに再溶解したものをGC-MSサンプルとした。
【0107】
細胞は、120 μLの1% Triton-100で懸濁後、氷冷しながら超音波発生機(トミー精工)(Power 3~4)を用いて5秒間のソニックを3回行った。サンプル化はMonoSpinC18を用いた固相抽出で行った。初めにカラムの前処理として、廃液用チューブをスピンカラムに付け、200 μLの酢酸エチルをスピンカラムに加え、遠心(5000 x g、1分間、4℃)した後、200 μLのmiliQをスピンカラムに加え、遠心(5000 x g、1分間、4℃)した。100 μLのサンプルと内部標準として10 μLの5 μM ヘプタデセン酸アミド(50 pmol)をスピンカラムに加え、遠心(5000 x g、1分間、4℃)した。300 μLの30%メタノールをスピンカラムに加え、遠心(5000 x g、1分間、4℃)した。スピンカラムを回収用チューブに付け替えた後、300 μLの酢酸エチルを加え遠心(5000 x g、1分間、4℃)した。回収したサンプルを、吹付け式試験管濃縮装置を使用し窒素ガスを吹き付けて除去した。40 μLの酢酸エチルに再溶解したものをGC-MSサンプルとした。
【0108】
上層・下層・細胞内の安定同位体標識オレアミド量を、上記で得られたサンプルを用いてGC-MSにより測定した。
【0109】
<試験例3-8.統計処理>
統計解析は、JMP statistical software version 8.0.1を用いてStudentのt検定、もしくはone-way ANOVA、Turkeyによる多重比較検定で評価し、p<0.05をもって統計的有意とした。
【0110】
<試験例3 結果>
オレアミドの腸間膜透過性に対するURB-597の影響を調べた結果を図8に示す。URB-597の濃度の違いによる上層の安定同位体標識オレアミドの減少量は変化がみられなかった一方で、下層および細胞内における安定同位体標識オレアミド量は濃度依存的に増加した。このとき、10 μMのURB-597共存下で細胞内および下層で検出された安定同位体標識オレアミド量は、上層での安定同位体標識オレアミドの減少量の約43%であった。よって、オレアミドが小腸上皮細胞内においてFAAHによって分解されることが示唆された。
【0111】
オレアミドの腸間膜透過性に対するgenisteinの影響を調べた結果を図9に示す。genisteinによって上層の安定同位体標識オレアミド量は変化がみられないが、下層および細胞内における安定同位体標識オレアミド量が増加した。このとき、genistein共存下で細胞内および下層で検出された安定同位体標識オレアミド量は、上層での安定同位体標識オレアミドの減少量の約35%であった。
【0112】
以上より、オレアミドとFAAH阻害剤を同時に摂取することで、オレアミドの生体利用率の向上が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9