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特開2023-74933ベンゾチオフェンを有する液晶性化合物、液晶組成物および素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074933
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】ベンゾチオフェンを有する液晶性化合物、液晶組成物および素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 333/54 20060101AFI20230523BHJP
   C09K 19/34 20060101ALI20230523BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20230523BHJP
   C09K 19/38 20060101ALI20230523BHJP
【FI】
C07D333/54 CSP
C09K19/34
C09K19/54 B
C09K19/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188140
(22)【出願日】2021-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596032100
【氏名又は名称】JNC石油化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】枝連 一志
(72)【発明者】
【氏名】岡部 英二
(72)【発明者】
【氏名】森 崇徳
(72)【発明者】
【氏名】片野 裕子
【テーマコード(参考)】
4H027
【Fターム(参考)】
4H027BA01
4H027BD02
4H027BD03
4H027BD07
4H027BD10
4H027BE04
4H027DJ01
4H027DJ04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御用の素子に使用される材料として、熱に対する安定性、高い透明点、液晶相の低い下限温度、小さな粘度、非常に大きな屈折率異方性、他の液晶性化合物との優れた相溶性の少なくとも1つの物性を有する液晶性化合物を提供すること。および、この化合物を含有する液晶組成物、この組成物を使用した、広い温度範囲で電磁波制御することができる素子を提供すること。
【解決手段】式(1)で表される化合物。

例えば、Rは炭素数1から11のアルコキシであり;Rは炭素数1から12のアルキルであり;
環Wは、

であり;Lはメチルであり;環Aは1,4-フェニレンであり;Zは-C≡C-であり;aは0であり、bは1である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物。


式(1)において、
は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
環Wは、
、または
であり、これらの環上の少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数1から3のアルキルであり、Lは、水素または炭素数1から3のアルキルであり;
環Aおよび環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、2,6,7-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
およびZは、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-COO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
aおよびbは、0、1、2、3、または4であり、aおよびbの和は1以上4以下である。
【請求項2】
式(1-1)または(1-2)で表される、請求項1に記載の化合物。
式(1-1)および式(1-2)において、
11およびR12は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数1から3のアルキルであり、Lは、水素または炭素数1から3のアルキルであり;
環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、2,6,7-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-COO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
bは、1、2、3、または4である。
【請求項3】
式(1-1)において、


環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく;
bは、1または2である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
式(1-2)において、

環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく;
bは、1または2である、請求項2に記載の化合物。
【請求項5】
式(1-1-1)から(1-1-4)および式(1-2-1)から(1-2-5)のいずれか一つで表される、請求項1から4のいずれか1項に記載の化合物。
式(1-1-1)から(1-1-4)および式(1-2-1)から(1-2-5)において、
11およびR12は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよい。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも1つ含有する液晶組成物。
【請求項7】
液晶組成物の重量に基づいて、式(1)で表される化合物の割合が10重量%から70重量%の範囲である、請求項6に記載の液晶組成物。
【請求項8】
波長589nmにおける25℃の屈折率異方性が0.20から0.80の範囲である、請求項6または7に記載の液晶組成物。
【請求項9】
1GHzから10THzの周波数の範囲における25℃の誘電率異方性が0.4から3.0の範囲である、請求項6から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項10】
光学活性化合物を含む、請求項6から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項11】
重合性化合物を含む、請求項6から10いずれか1項に記載の液晶組成物。
【請求項12】
請求項6から11のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する素子。
【請求項13】
請求項12に記載の素子の、1GHzから10THzの周波数の範囲の電磁波制御のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性化合物、液晶組成物および素子に関する。さらに詳しくは、周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御に使用される、熱に対する安定性、高い透明点、液晶相の低い下限温度、小さな粘度、非常に大きな屈折率異方性、他の液晶性化合物との優れた相溶性のような、化合物の物性の少なくとも一つを充足する液晶性化合物、この化合物を含有する液晶組成物、およびこの組成物を含む素子に関する。この液晶組成物はネマチック相、および正の誘電率異方性を有する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ用途に多く用いられている液晶組成物の新規用途として、液晶組成物を用いた電磁波の送受信を行うアンテナなど高周波技術への応用が注目されている。
【0003】
具体的に周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御に使用される素子として、ミリ波帯またはマイクロ波帯アンテナ、および赤外線レーザー素子等が挙げられる。これらの素子は種々の方式が検討されているが、機械的な可動部が無いため故障が少ないと考えられる液晶組成物を用いた方式が注目されている。
【0004】
誘電率異方性を有する液晶組成物は、配向分極の緩和が行われる周波数(緩和周波数)より低い周波数(数100kHzから数100MHz程度以下)では、液晶組成物の配向方向に対し垂直方向および水平方向の誘電率が異なる。
緩和周波数より高い周波数、すなわちマイクロ波からテラヘルツ波(凡そ10THz程度)の範囲においても、値は小さくなるが、液晶組成物の配向方向に対し垂直方向および水平方向の誘電率の差が見られ、誘電率異方性がある(非特許文献1)。そのため液晶組成物は、外場(電界)に応じて分子の配向方向を変化させることにより、一方向における誘電率を変化させることができる。
【0005】
この性質を利用すれば、液晶組成物は、外部からの電界に応じて分子の配向が変化し、誘電率を変化させることができる。例えば、高周波伝送線路の伝送特性を外部から電気的に制御できるマイクロ波デバイスの実現が可能になる。このようなデバイスは、導波管にネマチック液晶組成物を充填した電圧制御ミリ波帯可変移相器や、マイクロストリップ線路の誘電体基板としてネマチック液晶組成物を用いたマイクロ波・ミリ波帯の広帯域可変移相器などが報告されている(特許文献1および2)。
【0006】
また近年、光を含む電磁波に対して自然界の物質には無い振る舞いを示すメタマテリアル技術の研究が進んでいる。その特性から高周波デバイス、マイクロ波デバイス又はアンテナなどの技術分野へ応用され、様々な電磁波制御素子が考案されている。メタマテリアルを用いた伝送線路のキャパシタンス制御材料として、外部からの電界に応じて分子の配向が変化し、誘電率を変化させることができる液晶組成物の利用も考えられている。
【0007】
このような電磁波制御に使用される素子は、高利得かつ低挿入損失であるなどの特性を有する事が望ましい。高周波信号の位相制御を考えると、液晶組成物に求められる特性は、位相制御に使用される周波数領域において、大きな位相制御を可能とする誘電率異方性が大きなこと、および液晶組成物の電磁波信号の吸収エネルギーに比例する誘電正接(tanδ)が小さなことが求められる(非特許文献1)。
【0008】
液晶組成物は誘電体であるため外場(電界)に対し分極(誘電分極)を生じる。誘電率は電界に対する誘電体の応答を示す物性量であり、誘電率の大きさは誘電分極に関係する。誘電分極が生じるメカニズムは大きく3つに分けられる。電子分極、イオン分極、および配向分極である。配向分極は双極子モーメントの配向に伴う分極であり、上記に示すように数100kHzから数100MHz程度の周波数において緩和し、配向分極は小さくなる。その結果、高周波(マイクロ波からテラヘルツ波(凡そ10THz程度)の範囲)における、誘電分極は電子分極及びイオン分極のみが関与することになる。なお挿入損失のない誘電体においては誘電率と屈折率にはε=nの関係があり、液晶組成物のイオン分極を小さいと考えるならば、電子分極に起因する可視光における屈折率異方性(Δn)が大きいほど高周波領域における誘電率異方性(Δε)もより大きくなると考えられる(非特許文献2)。そのため液晶組成物としては大きな屈折率異方性を持つことが好ましい。
【0009】
また、当該素子のスイッチング特性および高エネルギー効率を実現するために、低い駆動電圧であることが望ましい。そのため液晶組成物としては低周波数(緩和周波数より低い周波数)においても大きな誘電率異方性を持つことが好ましい。
【0010】
そのほかに、電磁波制御に使用される素子は、使用できる温度範囲が広いこと、素子の応答時間が短いことなどが求められ、液晶組成物の特性としては、ネマチック相の高い上限温度、ネマチック相の低い下限温度、熱に対する安定性、および低い粘度なども求められる。
【0011】
従来の当該素子に使用される液晶組成物は、下記の特許文献3から4に開示されている。
【0012】
これまでに、ベンゾチオフェン骨格を有する液晶性化合物がいくつか合成されてきた。
特許文献5には、化合物(A)、(B)等が示されている。しかしながらこれらの化合物
は、Δnが小さい、製造コストが高い等、液晶表示素子へ用いる液晶化合物として充分に適しているとは言えなかった。
【0013】
【0014】
新規な化合物には、従来の化合物にはない優れた物性が期待できる。新規な化合物は、
液晶組成物を調製する際に必要な、2つ以上の物性の間で適切なバランスを有すると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開2017/201515号
【特許文献2】国際公開2017/208996号
【特許文献3】特開2004-285085号公報
【特許文献4】特開2011-74074号公報
【特許文献5】国際公開2016/132998号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】EKISHO、23巻(1号)、(2019年)、51-55項
【非特許文献2】誘電体現象論 社団法人 電気学会 株式会社オーム社 1973年7月25日 92-95頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
電磁波制御に使用される素子用の材料として、液晶組成物はネマチック相の高い上限温度およびネマチック相の低い下限温度を有しながら、電磁波制御を行う周波数領域での大きな誘電率異方性(大きな屈折率異方性)、小さな誘電正接(tanδ)、および駆動電圧の低減のための低周波数における大きな誘電率異方性を有し、さらに好ましくは、小さな粘度、駆動周波数領域での大きな比抵抗および熱に対する安定性を有することが要求されている。
【0018】
しかし、このような電磁波制御に使用される素子へ使用するための液晶組成物として、従来のディスプレイ用途等で使用される液晶組成物は特性面で不十分である。それらは高い挿入損失(insertion loss)および/または不十分な位相シフト等、高周波制御用に使用するには不十分な特性だからである。
【0019】
電磁波制御に使用される素子用の液晶材料の開発はまだ発展途上であり、高周波制御の特性を改善するために、そのような素子の最適化を可能にする新規の化合物を開発するための試みが常になされている。そして電磁波制御に使用される素子用の材料として使用するために、特異な液晶媒体が必要とされる。
【0020】
本発明の目的は、周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御用の素子に使用される材料として、上記に示した要求特性が良好で、かつ特性バランスに優れた液晶化合物、この化合物を含有する液晶組成物、この組成物を含む素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する式(1)で表される液晶化合物を含む液晶組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
本発明は、下記の項などである。
【0023】
項1.式(1)で表される化合物。
式(1)において、
は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
環Wは、
、または

であり、これらの環上の少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数1から3のアルキルであり、Lは、水素または炭素数1から3のアルキルであり;
環Aおよび環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、2,6,7-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
およびZは、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-COO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
aおよびbは、0、1、2、3、または4であり、aおよびbの和は1以上4以下である。
【0024】
項2.式(1-1)または(1-2)で表される、項1に記載の化合物。

式(1-1)および式(1-2)において、
11およびR12は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
は、炭素数1から3のアルキルであり、Lは、水素または炭素数1から3のアルキルであり;
環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、2,6,7-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-COO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
bは、1、2、3、または4である。
【0025】
項3.式(1-1)において、

環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく;
bは、1または2である、項2に記載の化合物。
【0026】
項4.式(1-2)において、

環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよく;
は、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく;
bは、1または2である、項2に記載の化合物。
【0027】
項5.式(1-1-1)から(1-1-4)および式(1-2-1)から(1-2-5)のいずれか一つで表される、項1から4のいずれか1項に記載の化合物。

式(1-1-1)から(1-1-4)および式(1-2-1)から(1-2-5)において、
11およびR12は、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく;
は、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよく;
環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよい。
【0028】
項6.項1から5のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも1つ含有する液晶組成物。
【0029】
項7.液晶組成物の重量に基づいて、式(1)で表される化合物の割合が10重量%から70重量%の範囲である、項6に記載の液晶組成物。
【0030】
項8.波長589nmにおける25℃の屈折率異方性が0.20から0.80の範囲である、項6または7に記載の液晶組成物。
【0031】
項9.1GHzから10THzの周波数の範囲における25℃の誘電率異方性が0.4から3.0の範囲である、項6から8のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0032】
項10.光学活性化合物を含む、項6から9のいずれか1項に記載の液晶組成物。
【0033】
項11.重合性化合物を含む、項6から10いずれか1項に記載の液晶組成物。
【0034】
項12.項6から11のいずれか1項に記載の液晶組成物を含有する素子。
【0035】
項13.項12に記載の素子の、1GHzから10THzの周波数の範囲の電磁波制御のための使用。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、熱に対する安定性、高い透明点、液晶相の低い下限温度、小さな粘度、非常に大きな屈折率異方性、他の液晶性化合物との優れた相溶性のような、化合物の物性の少なくとも一つを充足する液晶性化合物を提供することができる。本発明の化合物を含有する組成物は、ネマチック相の高い上限温度およびネマチック相の低い下限温度を有しながら、電磁波制御を行う周波数領域での大きな誘電率異方性(大きな屈折率異方性)、小さな誘電正接(tanδ)、および駆動電圧の低減のための低周波数における大きな誘電率異方性のような、組成物の特性の少なくとも一つを充足することができる。さらに、小さな粘度、駆動周波数領域での大きな比抵抗および熱に対する安定性を有する液晶組成物のような、組成物の特性の少なくとも一つをさらに充足させることができる。この組成物を使用した素子は、広い温度範囲で電磁波制御することができる優れた特性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
この明細書における用語の使い方は次のとおりである。「液晶性化合物」は、ネマチック相、スメクチック相のような液晶相を有する化合物および液晶相を有しないが、液晶相の温度範囲、粘度、誘電率異方性のような特性を調節する目的で組成物に混合される化合物の総称である。この化合物は、例えば1,4-シクロヘキシレンや1,4-フェニレンのような六員環を有し、その分子(液晶分子)は棒状(rod like)である。「液晶組成物」および「電磁波制御素子」の用語をそれぞれ「組成物」および「素子」と略すことがある。「電磁波制御素子」は電磁波制御パネルおよび電磁波制御モジュールの総称である。「重合性化合物」は、組成物中に重合体を生成させる目的で添加する化合物である。アルケニルを有する液晶性化合物は、その意味では重合性化合物に分類されない。
【0038】
液晶組成物は、複数の液晶性化合物を混合することによって調製される。液晶性化合物の割合(含有量)は、この液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。この液晶組成物に、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、磁性化合物のような添加物が必要に応じて添加される。添加物の割合(添加量)は、液晶性化合物の割合と同様に、液晶組成物の重量に基づいた重量百分率(重量%)で表される。重量百万分率(ppm)が用いられることもある。重合開始剤および重合禁止剤の割合は、例外的に重合性化合物の重量に基づいて表される。
【0039】
「ネマチック相の上限温度」を「上限温度」と略すことがある。「ネマチック相の下限温度」を「下限温度」と略すことがある。「誘電率異方性を上げる」の表現は、誘電率異方性が正である組成物のときは、その値が正に増加することを意味し、誘電率異方性が負である組成物のときは、その値が負に増加することを意味する。
【0040】
式(1)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1)」と略すことがある。「化合物(1)」は、式(1)で表される1つの化合物または2つ以上の化合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「置き換えられてもよい」に関する「少なくとも1つの」は、位置だけでなく、その個数についても制限なく選択してよいことを意味する。
【0041】


上記の化合物(1z)を例にして説明する。式(1z)において、六角形で囲んだαおよびβの記号はそれぞれ環αおよび環βに対応し、六員環、縮合環のような環を表す。添え字‘x’が2のとき、2つの環αが存在する。2つの環αが表す2つの基は、同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、添え字‘x’が2より大きいとき、任意の2つの環αに適用される。このルールは、結合基Zのような、他の記号にも適用される。環βの一辺を横切る斜線は、環β上の任意の水素が置換基(-Sp-P)で置き換えられてもよいことを表す。添え字‘y’は置き換えられた置換基の数を示す。添え字‘y’が0のとき、そのような置き換えはない。添え字‘y’が2以上のとき、環β上には複数の置換基(-Sp-P)が存在する。この場合にも、「同一であってもよく、または異なってもよい」のルールが適用される。なお、このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。
【0042】
式(1z)において、例えば、「RaおよびRbは、アルキル、アルコキシ、またはアルケニルである」のような表現は、RaおよびRbが独立して、アルキル、アルコキシ、およびアルケニルの群から選択されることを意味する。ここで、Raによって表される基とRbによって表される基が同一であってもよく、または異なってもよい。このルールは、Raの記号を複数の化合物に用いた場合にも適用される。このルールは、複数のRaを1つの化合物に用いた場合にも適用される。
【0043】
式(1z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物を「化合物(1z)」と略すことがある。「化合物(1z)」は、式(1z)で表される1つの化合物、2つの化合物の混合物、または3つ以上の化合物の混合物を意味する。他の式で表される化合物についても同様である。「式(1z)および式(2z)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物」の表現は、化合物(1z)および化合物(2z)の群から選択された少なくとも1つの化合物を意味する。
【0044】
「少なくとも1つの‘A’」の表現は、‘A’の数は任意であることを意味する。「少なくとも1つの‘A’は、‘B’で置き換えられてもよい」の表現は、‘A’の数が1つのとき、‘A’の位置は任意であり、‘A’の数が2つ以上のときも、それらの位置は制限なく選択できる。「少なくとも1つの-CH-は-O-で置き換えられてもよい」の表現が使われることがある。この場合、-CH-CH-CH-は、隣接しない-CH-が-O-で置き換えられることによって-O-CH-O-に変換されてもよい。しかしながら、隣接した-CH-が-O-で置き換えられることはない。この置き換えでは-O-O-CH-(ペルオキシド)が生成するからである。
【0045】
液晶性化合物のアルキルは、直鎖アルキルまたは分岐鎖アルキルであり、特にことわりがない限り環状アルキルを含まない。液晶相の安定性(幅広い温度範囲で液晶相を示すということ)の観点から、直鎖アルキルは、分岐鎖アルキルよりも好ましい。これらのことは、アルコキシ、アルケニルのような末端基についても同様である。1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置は、上限温度を上げるためにシスよりもトランスが好ましい。2-フルオロ-1,4-フェニレンは、下記の2つの二価基を意味する。化学式において、フッ素は左向き(L)であってもよいし、右向き(R)であってもよい。このルールは、2,5-ジフルオロ-1,4-フェニレン、2,6-ジフルオロ-1,4-フェニレン、ピリジン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、テトラヒドロピラン-2,5-ジイルのような、非対称な環の二価基にも適用される。なお、好ましいテトラヒドロピラン-2,5-ジイルは、上限温度を上げるために右向き(R)である。


カルボニルオキシのような結合基も同様に、-COO-であってもよいし、-OCO-であってもよい。
【0046】
成分化合物の化学式において、末端基Rの記号を複数の化合物に用いた。これらの化合物において、任意の2つのRが表わす2つの基は同一であってもよく、または異なってもよい。例えば、化合物(1-1-1)のRがメチルであり、化合物(1-1-2)のRがエチルであるケースがある。化合物(1-1-1)のRがエチルであり、化合物(1-1-2)のRがプロピルであるケースもある。このルールは、R、R11、R12などの記号にも適用される。
【0047】
本発明は、次の項(a)から(f)も含む。(a)光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物のような添加物から選択された少なくとも1つをさらに含有する上記の組成物。(b)上記の組成物を含有する素子。(c)上記の組成物を含有し、1GHzから10THzのいずれかの周波数の電磁波信号の位相制御に使用される素子。(d)重合性化合物をさらに含有する上記の組成物、およびこの組成物を含有する素子。(e)ネマチック相を有する組成物として、上記の組成物の使用。(f)上記の組成物に光学活性化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用。
【0048】
本発明の液晶組成物は、1GHzから10THzの範囲の電磁波信号の周波数領域で大きな誘電率異方性および小さな誘電正接(tanδ)を有する。その為、1GHzから10THz、さらには1GHzから50GHzの範囲の電磁波に関わる素子に使用する事が好ましい。
【0049】
1-1.化合物(1)
本発明の化合物(1)について説明する。化合物(1)における末端基、環構造、結合基などの好ましい例、およびそれらの基が物性に及ぼす効果は、化合物(1)の下位式にも適用される。
【0050】
式(1)において、Rは、水素、ハロゲン、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよい。
【0051】
アルケニルにおける-CH=CH-の好ましい立体配置は、二重結合の位置に依存する。-CH=CHCH、-CH=CHC、-CH=CHC、-CH=CHC、-CCH=CHCH、または-CCH=CHCのような奇数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはトランス配置が好ましい。-CHCH=CHCH、-CHCH=CHC、または-CHCH=CHCのような偶数位に二重結合をもつアルケニルにおいてはシス配置が好ましい。好ましい立体配置を有するアルケニル化合物は、高い透明点または液晶相の広い温度範囲を有する。Mol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 109およびMol. Cryst. Liq. Cryst., 1985, 131, 327、に詳細な説明がある。
【0052】
の好ましい例は、アルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、アルケニル、アルキニル、およびアルケニルオキシである。Rのさらに好ましい例は、アルキル、アルコキシ、およびアルキニルである。
【0053】
アルキルの例は、-CH、-C、-C、-C、-C11、-C13、-C15、-C17、-C19、-C1021、-C1123、および-C1225である。
【0054】
アルコキシの例は、-OCH、-OC、-OC、-OC、-OC11、-OC13、-OC15、-OC17、-OC19、-OC1021、および-OC1123である。
【0055】
アルコキシアルキルの例は、-CHOCH、-CHOC、-CHOC、-(CH-OCH、-(CH-OC、-(CH-OC、-(CH-OCH、-(CH-OCH、および-(CH-OCHである。
【0056】
アルケニルの例は、-CH=CH、-CH=CHCH、-CHCH=CH、-CH=CHC、-CHCH=CHCH、-(CH-CH=CH、-CH=CHC、-CHCH=CHC、-(CH-CH=CHCH、および-(CH-CH=CHである。
【0057】
アルキニルの例は、-C≡CH、-C≡CCH、-C≡CC、-C≡CC、-C≡CC、-C≡CC11、および-C≡CC13である。
【0058】
アルケニルオキシの例は、-OCHCH=CH、-OCHCH=CHCH、および-OCHCH=CHCである。
【0059】
少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられたアルキルの例は、-CHF、-CHF、-CF、-(CH-F、-CFCH、-CFCHF、-CFCHF、-CHCF、-CFCF、-(CH-F、-CFCHCH、-CHCHFCH、-CHCFCH、-(CF-F、-CFCHFCF、-CHFCFCF、-(CH-F、-CF(CHCH、-(CF-F、-(CH-F、-(CF-F、-CHCl、-CHCl、-CCl、-(CH-Cl、-CClCH、-CClCHCl、-CClCHCl、-CHCCl、-CClCCl、-(CH-Cl、-CClCHCH、-(CCl-Cl、-CClCHClCCl、-CHClCClCCl、-(CH-Cl、-(CCl-Cl、-CCl(CHCH、-(CH-Cl、および-(CCl-Clである。
【0060】
少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられたアルコキシの例は、-OCHF、-OCHF、-OCF、-O-(CH-F、-OCFCHF、-OCFCHF、-OCHCF、-O-(CH-F、-O-(CF-F、-OCFCHFCF、-OCHFCFCF、-O(CH-F、-O-(CF-F、-O-(CH-F、-O-(CF-F、-OCHCHFCHCH、-OCHCl、-OCHCl、-OCCl、-O-(CH-Cl、-OCClCHCl、-OCClCHCl、-OCHCCl、-O-(CH-Cl、-O-(CCl-Cl、-OCClCHClCCl、-OCHClCClCCl、-O(CH-Cl、-O-(CCl-Cl、-O-(CH-Cl、および-O-(CCl-Clである。
【0061】
少なくとも1つの水素がハロゲンで置き換えられたアルケニルの例は、-CH=CHF、-CH=CF、-CF=CHF、-CH=CHCHF、-CH=CHCF、-(CH-CH=CF、-CHCH=CHCF、-CH=CHCFCF、-CH=CHCl、-CH=CCl、-CCl=CHCl、-CH=CHCHCl、-CH=CHCCl、-(CH-CH=CCl、-CHCH=CHCCl、および-CH=CHCClCClである。
【0062】
式(1)において、Rは、水素、ハロゲン、-C≡N、-N=C=S、-C≡C-C≡N、または炭素数1から12のアルキルであり、このアルキルにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-S-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素は、ハロゲンで置き換えられてもよい。Rの好ましい例は、Rと同様であり、さらに-N=C=S、-C≡C-C≡Nである。
【0063】
式(1)において、環Wは、

、または
であり、これらの環上の少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよく、Lは、炭素数1から3のアルキルであり、Lは、水素または炭素数1から3のアルキルである。環Wの好ましい例は、
である。
【0064】
式(1)において、環Aおよび環Aは、1,4-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキセニレン、1,4-フェニレン、テトラヒドロピラン-2,5-ジイル、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル、ピリミジン-2,5-ジイル、2,6,7-トリオキサビシクロ[2.2.2]オクタン-1,4-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルであり、これらの環上の少なくとも1つの水素は、ハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられていてもよい。
【0065】
環Aまたは環Aの好ましい例は、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がメチルで置き換えられた1,4-フェニレン、ピリミジン-2,5-ジイル、ナフタレン-2,6-ジイル、またはピリジン-2,5-ジイルである。さらに好ましい例は、1,4-フェニレン、少なくとも1つの水素がフッ素で置き換えられた1,4-フェニレン、および少なくとも1つの水素がメチルで置き換えられた1,4-フェニレンである。
【0066】
少なくとも1つの水素がハロゲンまたは炭素数1から6のアルキルで置き換えられた1,4-フェニレンの好ましい例は、式(A-1)から(A-22)で表される基である。他の液晶性化合物との優れた相溶性を有するためには、式(A-1)、(A-2)、(A-12)、(A-15)、または(A-16)で表される基がより好ましい。
【0067】
【0068】
式(1)において、ZおよびZは、単結合または炭素数1から4のアルキレンであり、このアルキレンにおいて、少なくとも1つの-CH-は、-O-または-COO-で置き換えられてもよく、少なくとも1つの-(CH-は、-CH=CH-または-C≡C-で置き換えられてもよく、これらの基において、少なくとも1つの水素はハロゲンで置き換えられてもよい。
【0069】
またはZの好ましい例は、単結合、-CH=CH-、-CF=CF-、-C≡C-、-CH=CH-(CH-、および-(CH-CH=CH-である。さらに好ましい例は、単結合、-CH=CH-、および-C≡C-である。
【0070】
式(1)において、aおよびbは、0、1、2、3、または4であり、aおよびbの和は1以上4以下である。他の液晶性化合物との相溶性を考慮すると、aおよびbの和が、1から3である化合物が好ましい。aおよびbの和が1であるときは下限温度が低く、粘度が小さい。aおよびbの和が2であるときは、上限温度が高く、大きな屈折率異方性を有する。aおよびbの和が3であるときは上限温度が高い。
【0071】
以上のように、末端基、環構造、結合基などの種類を適切に選択することによって目的
の物性を有する化合物を得ることができる。化合物の物性に大きな差異がないので、化合
物(1)は、2H(重水素)、13Cなどの同位体を天然存在比の量より多く含んでいてもよい。
【0072】
1-2.好ましい化合物
好ましい化合物(1)の態様は、化合物(1-1)および(1-2)である。
さらに好ましい化合物(1)の態様は、化合物(1-1-1)から(1-1-4)および化合物(1-2-1)から(1-2-5)である。
化合物(1-1)、(1-2)、(1-1-1)から(1-1-4)、および(1-2-1)から(1-2-5)における、R11またはR12の好ましい例、およびそれらの基が物性に及ぼす効果は、式(1)におけるRと同様である。
【0073】
1-3.化合物(1)の合成
化合物(1)の合成法について説明する。化合物(1)は、有機合成化学の方法を適切
に組み合わせることにより合成できる。出発物に目的の末端基、環、および結合基を導入
する方法は、「オーガニックシンセシス」(Organic Syntheses, John Wiley & Sons, Inc)、「オーガニック・リアクションズ」(Organic Reactions, John Wiley & Sons, Inc)、「コンプリヘンシブ・オーガニック・シンセシス」(Comprehensive Organic Synthesis, Pergamon Press)、「新実験化学講座」(丸善)などの成書に記載されている。
【0074】
1-3-1.合成例
化合物(1)の一態様である化合物(1)’を合成する方法の例は、次のとおりである。これらの化合物において、R、R、環A、Z、およびbの定義は、前述の通りであり、LはRの置換位置によりLまたはLに相当する。公知の方法によって合成された化合物(a-1)をBuLi等によりリチオ化し、これによう素を反応させ中間体(a-2)を得る。これを用い公知の方法で化合物(1)’へ誘導する。
【0075】
2.組成物
組成物における成分化合物の構成を説明する。本発明の組成物は、組成物Aと組成物Bに分類される。組成物Aは、化合物(1)から選択された液晶性化合物の他に、その他の液晶性化合物、添加物などをさらに含有してもよい。「その他の液晶性化合物」は、化合物(1)とは異なる液晶性化合物である。このような化合物は、特性をさらに調整する目的で組成物に混合される。添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。
【0076】
組成物Bは、実質的に、化合物(1)から選択された液晶性化合物のみからなる。「実質的に」は、組成物が添加物を含有してもよいが、その他の液晶性化合物を含有しないことを意味する。組成物Bは組成物Aに比較して成分の数が少ない。コストを下げるという観点から、組成物Bは組成物Aよりも好ましい。その他の液晶性化合物を混合することによって特性をさらに調整できるという観点から、組成物Aは組成物Bよりも好ましい。
【0077】
化合物(1)の主要な特性、およびこの化合物が組成物の特性に及ぼす主要な効果を説明する。化合物(1)のaおよびbの和の選択により、上限温度、粘度、屈折率異方性はある程度制御可能である。すなわち、aとbの和を小さくすると、上限温度は低くなり、粘度は小さくなり、屈折率異方性は低い傾向にある。aとbの和を大きくすると、上限温度は高くなり、粘度は大きくなり、屈折率異方性は高い傾向にある。誘電率異方性はRの選択に依存し、アルキル基等の極性を持たない基の場合はほぼゼロであり、-C≡C≡Nおよび-NCS等の極性を持つ基の場合は正に大きくなる。比抵抗は総じて低い。
【0078】
液晶組成物の重量に基づいて、化合物(1)の好ましい割合は、ネマチック相の温度範囲を拡げるため、そして屈折率異方性を上げるために約10重量%以上であり、誘電率異方性を上げるために約70重量%以下である。さらに好ましい割合は約20重量%から約60重量%の範囲である。特に好ましい割合は約30重量%から約50重量%の範囲である。
【0079】
好ましい組成物は、少なくとも1つの他の液晶性化合物を含む。組成物を調製する際、化合物(1)の液晶相の下限温度や誘電率異方性などの物性を考慮して成分を選択することができる。成分を適切に選択した組成物は、ネマチック相の高い上限温度およびネマチック相の低い下限温度を有しながら、電磁波制御を行う周波数の範囲での大きな誘電率異方性(大きな屈折率異方性)、小さな誘電正接(tanδ)、および駆動電圧の低減のための低周波数における大きな誘電率異方性のような、組成物の特性の少なくとも一つを充足させることができる。さらに小さな粘度、駆動周波数の範囲での大きな比抵抗および熱に対する安定性のような、組成物の特性の少なくとも一つをさら充足させ、より好ましい組成物を得ることができる。
【0080】
組成物に添加してもよい添加物を説明する。このような添加物は、光学活性化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線および熱に対する安定剤、消光剤、色素、消泡剤、重合性化合物、重合開始剤、重合禁止剤、極性化合物などである。以下において、これらの添加物の混合割合は、特に断らない場合は、液晶組成物の重量に基づく割合(重量)である。
【0081】
液晶のらせん構造を誘起してねじれ角を与える目的で光学活性化合物が組成物に添加される。このような化合物の例は、化合物(5-1)から(5-6)である。光学活性化合物の好ましい割合は約5重量%以下である。さらに好ましい割合は約0.01重量%から約2重量%の範囲である。
【0082】

【0083】
大気中での加熱による比抵抗の低下を防止するために、または素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するために、酸化防止剤が組成物に添加される。酸化防止剤の好ましい例は、tが1から9の整数である化合物(6)などである。

【0084】
化合物(6)において、好ましいtは、1、3、5、7、または9である。さらに好ましいtは7である。tが7である化合物(6)は、揮発性が小さいので、素子を長時間使用したあと、室温だけではなく上限温度に近い温度でも大きな電圧保持率を維持するのに有効である。酸化防止剤の好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないように約600ppm以下である。さらに好ましい割合は、約100ppmから約300ppmの範囲である。
【0085】
紫外線吸収剤の好ましい例は、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾエート誘導体、トリアゾール誘導体などである。立体障害のあるアミンのような光安定剤もまた好ましい。これらの吸収剤や安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、上限温度を下げないように、または下限温度を上げないために約10000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0086】
紫外線および熱に対する安定剤の好ましい例は、化合物(7)で表されるアミノ-トラン化合物などである(米国登録特許第6495066号)。


式(7)において、RおよびRは、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニルまたは炭素数2から12のアルケニルオキシであり;Xは、-NO、-C≡N、-N=C=S、フッ素、または-OCFであり;YおよびYは、水素またはフッ素である。これらの安定剤における好ましい割合は、その効果を得るために1から20重量%の範囲であり、好ましくは5から10重量%の範囲である。
【0087】
消光剤は、液晶性化合物が吸収した光エネルギーを受容し、熱エネルギーに変換することにより、液晶性化合物の分解を防止する化合物である。これらの消光剤における好ましい割合は、その効果を得るために約50ppm以上であり、下限温度を下げるために約20000ppm以下である。さらに好ましい割合は約100ppmから約10000ppmの範囲である。
【0088】
GH(guest host)モードの素子に適合させるために、アゾ系色素、アントラキノン系色素などのような二色性色素(dichroic dye)が組成物に添加される。色素の好ましい割合は、約0.01重量%から約10重量%の範囲である。泡立ちを防ぐために、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどの消泡剤が組成物に添加される。消泡剤の好ましい割合は、その効果を得るために約1ppm以上であり、表示不良を防ぐために約1000ppm以下である。さらに好ましい割合は、約1ppmから約500ppmの範囲である。
【0089】
高分子安定化された素子に適合させるために重合性化合物が組成物に添加される。重合性化合物の好ましい例は、アクリレート、メタクリレート、ビニル化合物、ビニルオキシ化合物、プロペニルエーテル、エポキシ化合物(オキシラン、オキセタン)、ビニルケトンなどの重合可能な基を有する化合物である。さらに好ましい例は、アクリレートまたはメタクリレートの誘導体である。重合性化合物の好ましい割合は、その効果を得るために、約0.05重量%以上であり、駆動温度の上昇を防ぐために約20重量%以下である。さらに好ましい割合は、約0.1重量%から約10重量%の範囲である。重合性化合物は紫外線照射により重合する。光重合開始剤などの開始剤の存在下で重合させてもよい。重合のための適切な条件、開始剤の適切なタイプ、および適切な量は、当業者には既知であり、文献に記載されている。例えば光重合開始剤であるIrgacure651(登録商標;BASF)、Irgacure184(登録商標;BASF)、またはDarocure1173(登録商標;BASF)がラジカル重合に対して適切である。光重合開始剤の好ましい割合は、重合性化合物の重量100重量部に基づいて約0.1重量部から約5重量部の範囲である。さらに好ましい割合は、約1重量部から約3重量部の範囲である。
【0090】
重合性化合物を保管するとき、重合を防止するために重合禁止剤を添加してもよい。重合性化合物は、通常は重合禁止剤を除去しないまま組成物に添加される。重合禁止剤の例は、ヒドロキノン、メチルヒドロキノンのようなヒドロキノン誘導体、4-tert-ブチルカテコール、4-メトキシフェノ-ル、フェノチアジンなどである。
【0091】
この明細書において、極性化合物は、極性をもつ有機化合物であり、イオン結合を有する化合物は含まれない。酸素、硫黄、および窒素のような原子は、より電気的に陰性であり、部分的な負電荷をもつ傾向にある。炭素および水素は中性であるか、または部分的な正電荷をもつ傾向がある。極性は、化合物中の別種の原子間で部分電荷が均等に分布しないことから生じる。例えば、極性化合物は、-OH、-COOH、-SH、-NH、>NH、>N-のような部分構造の少なくとも1つを有する。
【0092】
組成物の用途を説明する。本発明の組成物は主として、約-10℃以下の下限温度、約70℃以上の上限温度、および波長589nmにおける25℃の屈折率異方性が約0.20から約0.80の範囲であるという特性を有する。
【0093】
成分化合物の割合を制御することによって、またはその他の液晶性化合物を混合することによって、約0.30から約0.60の範囲の屈折率異方性を有する組成物、さらには約0.40から約0.55の範囲の屈折率異方性を有する組成物を調製することもできる。この組成物は、ネマチック相を有する組成物としての使用、光学活性化合物を添加することによって光学活性な組成物としての使用が可能である。
【0094】
3.電磁波制御素子
この組成物は、周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御に使用される素子への使用が可能である。応用例として例えば、ミリ波帯可変移相器、ライダー(LiDAR;Light Detection and Ranging)素子、メタマテリアル技術を応用したアンテナ等が挙げられる。また、5G/beyond5Gのカバレッジを拡張するための向けの動的反射板等への適用も可能である。
【0095】
周波数約100kHzまでの素子の駆動での使用において、組成物の誘電率異方性(Δε)は、素子の駆動電圧を低減するために大きい方が望ましいが、粘度の上昇も考慮する必要がある。誘電率異方性は、好ましくは1から50の範囲であり、さらに好ましくは1から30の範囲である。周波数1GHzから10THzの範囲の電磁波制御に使用される素子への使用の観点からは、1GHzから10THzの範囲のいずれかの周波数における25℃の誘電率異方性(例えばΔε@28GHz)が0.8から3.0の範囲であることが好ましく、1.0から3.0の範囲であることがより好ましい。
【実施例0096】
実施例により本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例によっては制限されない。
【0097】
1-1.化合物(1)の実施例
化合物(1)は、下記の手順により合成した。合成した化合物は、NMR分析などの方法により同定した。化合物の物性は、下記に記載した方法により測定した。
【0098】
NMR分析
測定装置は、DRX-500(ブルカーバイオスピン(株)社製)を用いた。H-NMRの測定では、試料をCDClなどの重水素化溶媒に溶解させ、測定は、室温で、500MHz、積算回数16回の条件で行った。テトラメチルシランを内部標準として用いた。19F-NMRの測定では、CFClを内部標準として用い、積算回数24回で行った。核磁気共鳴スペクトルの説明において、sはシングレット、dはダブレット、tはトリプレット、qはカルテット、quinはクインテット、sexはセクステット、mはマルチプレット、brはブロードであることを意味する。
【0099】
測定試料
相構造および転移温度を測定するときには、液晶性化合物そのものを試料として用いた。ネマチック相の上限温度、粘度、光学的異方性、誘電率異方性などの物性を測定するときには、化合物を母液晶に混合して調製した組成物を試料として用いた。
【0100】
化合物を母液晶と混合した試料を用いる場合には、次の方法で測定を行った。化合物20重量%と母液晶80重量%とを混合して試料を調製した。この試料の測定値から、次の式で表わされる外挿法にしたがって、外挿値を計算し、この値を記載した。〈外挿値〉=(100×〈試料の測定値〉-〈母液晶の重量%〉×〈母液晶の測定値〉)/〈化合物の重量%〉
【0101】
化合物と母液晶との割合がこの割合であっても、結晶(または、スメクチック相)が25℃で析出する場合には、化合物と母液晶との割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更をしていき、結晶(または、スメクチック相)が25℃で析出しなくなった割合で試料の物性を測定した。なお、特に断りのない限り、化合物と母液晶との割合は、20重量%:80重量%である。
【0102】
母液晶としては、下記の母液晶(i)を用いた。母液晶(i)の成分の割合を重量%で
示す。
【0103】
【0104】
測定方法:特性の測定は下記の方法で行った。これらの多くは、社団法人電子情報技術産業協会(Japan Electronics and Information Technology Industries Association;以下JEITAという)で審議制定されるJEITA規格(JEITA・ED-2521B)に記載された方法、またはこれを修飾した方法であった。測定に用いたTN素子には、薄膜トランジスター(TFT)を取り付けなかった。
【0105】
ネマチック相の上限温度(TNI;℃):
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。
【0106】
ネマチック相の下限温度(T;℃):
ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、Tを<-20℃と記載した。
【0107】
粘度(バルク粘度;η;20℃で測定;mPa・s):
測定には東京計器株式会社製のE型回転粘度計を用いた。
【0108】
粘度(回転粘度;γ1;25℃で測定;mPa・s):
測定は、M. Imai et al., Molecular Crystals and Liquid Crystals, Vol. 259, 37 (1995)に記載された方法に従った。ツイスト角が0°であり、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が5μmであるTN素子に試料を入れた。この素子に16Vから19.5Vの範囲で0.5V毎に段階的に印加した。0.2秒の無印加のあと、ただ1つの矩形波(矩形パルス;0.2秒)と無印加(2秒)の条件で印加を繰り返した。この印加によって発生した過渡電流(transient current)のピーク電流(peak current)とピーク時間(peak time)を測定した。これらの測定値とM. Imaiらの論文中の40頁記載の計算式(8)とから回転粘度の値を得た。この計算で必要な誘電率異方性の値は、この回転粘度を測定した素子を用い、下に記載した方法で求めた。
【0109】
屈折率異方性(Δn<0.30の場合;25℃で測定):
測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率nは偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率nは偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。屈折率異方性の値は、Δn=n-n、の式から計算した。
【0110】
屈折率異方性(Δn≧0.30の場合;25℃で測定):
2枚のガラス基板にて構成される素子に試料を入れアンチパラレル配向をさせた。この素子の厚み方向リタデ一ション(Rth)を位相差フイルム・光学材料検査装置(大塚電子株式会社製、商品名:RETS-100)を用いて測定し、リタデーション値(Rth)とガラス基板の間隔(d:セルギャップ)より屈折率異方性(Δn)を以下の式により算出した。使用した光の波長は589nmである。
Rth =Δn・d
【0111】
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):
2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、そしてツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(10V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε)を測定した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε-ε、の式から計算した。
【0112】
しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):
測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプであった。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が0.45/Δn(μm)であり、ツイスト角が80度であるノーマリーホワイトモード(normally white mode)のTN素子に試料を入れた。この素子に印加する電圧(32Hz、矩形波)は0Vから10Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が90%になったときの電圧で表した。
【0113】
比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm):
電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
【0114】
28GHzでの誘電率異方性(室温で測定):
28GHzでの誘電率異方性(Δε@28GHz)は、Applied Optics,Vol.44,No.7,p1150(2005)に開示された方法により、窓材を取り付けたVバンドの可変短絡導波管に液晶を充填し、0.3Tの静磁場内に3分保持した。導波管に28GHzのマイクロ波を入力し、入射波に対する反射波の振幅比を測定した。静磁場の向きと短絡器の管長を変えて測定し、屈折率(n:ne,no)および損失パラメーター(α:αe,αo)を決定した。
複素誘電率の算出には、前項で算出した屈折率、損失パラメータと以下の関係式を用いた。
ε’=n
ε”=2nκ
α=2ωκ/c
ここでcは真空の光速度である。nからε’を、nからε’を算出し、誘電率異方性(Δε@28GHz)は、ε’-ε’から計算した。
【0115】
28GHzでの誘電正接(tanδ;室温で測定):
28GHzでのtanδは、複素誘電率(ε’,ε”)を用い、tanδ=ε”/ε’として計算した。tanδにも異方性が発現するため、値の大きい方を記載した。
【0116】
[実施例1]
化合物(No.1):5-クロロ-3-メチル-2-((4-ペンチルフェニル)エチニル)ベンゾ[b]チオフェンの合成
【0117】
市販原料5-クロロ-3-メチルベンゾ[b]チオフェン(10g)のTHF(200mL)溶液の入ったフラスコをドライアイスバスで冷却し、n-BuLi(2.64M)(21.8mL)を滴下し30分間撹拌した。次いでよう素を投入し2時間撹拌した後、室温に戻した。チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え過剰のよう素を還元後、トルエン、水を加え有機層を水で洗浄し濃縮し、得られた固体をメタノールで洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:トルエン:ヘプタン=2:8(容積比))で精製し、ヘプタンから再結晶し中間体1(14.3g)を得た。
【0118】
H-NMR(δppm:CDCl3):7.65(d、1H)、7.64(d、1H)、7.26(dd、1H)、2.37(s、9H).
【0119】
中間体1(5g)、1-エチニル-4-ペンチルベンゼン(2.9g)、トリエチルアミン(15mL)、THF(15mL)、CuI(0.03g)、Pd(PPh(0.19g)の入ったフラスコを窒素置換した。70℃まで昇温して2時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水、塩化アンモニウム、酢酸エチルを加え有機層を水で洗浄し濃縮し、得られた固体をソルミックスで洗浄した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘプタン)で精製し、熱ソルミックスから再結晶を繰り返すことで化合物(No.1)(3.4g)を得た。
【0120】
H-NMR(δppm:CDCl3):7.66(d、1H)、7.65(d、1H)、7.47(d、2H)、7.33(dd、1H)、7.19(d、2H)、2.63(t、2H)、2.51(s、3H)、1.63(quin、2H)、1.39-1.28(m、4H)、0.90(t、3H).
【0121】
化合物(No.1)の物性は次のとおりであった。TNI=41.1℃;Δn=0.311;Δε=3.8;η=105.7mPa・s.
【0122】
[実施例2]
化合物(No.2):5-メチル-2-((2-メチル-4-ペンチルフェニル)エチニル)ベンゾ[b]チオフェンの合成
【0123】
市販原料5-メチルベンゾ[b]チオフェン(10g)を用い、前述した合成実施例と同様の方法で中間体2(16.5g)を合成した。
【0124】
H-NMR(δppm:CDCl3):7.62(1H、d)、7.50(s、1H)、7.44(s、1H)、7.11(dd、1H)、2.44(s、3H).
【0125】
中間体2(4g)、1-エチニル-2-メチル-4-ペンチルベンゼン(2.9g)、トリエチルアミン(15mL)、THF(15mL)、CuI(0.03g)、Pd(PPh(0.19g)の入ったフラスコを窒素置換した。60℃まで昇温して1時間撹拌した。反応液を室温まで冷却した後、水、塩化アンモニウム、酢酸エチルを加え有機層を水で洗浄し濃縮した。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:ヘプタン)で精製し、熱ソルミックスから再結晶を繰り返すことで化合物(No.2)(3.6g)を得た。
【0126】
H-NMR(δppm:CDCl3):7.65(d、1H)、7.54(s、1H)、7.42(d、1H)、7.39(s、1H)、7.19(d、1H)、7.06(s、1H)、7.00(d、1H)、2.58(t、2H)、2.49(s、3H)、2.46(s、3H)、1.61(quin、2H)、1.38-1.27(m、4H)、0.90(t、3H).
【0127】
化合物(No.2)の物性は次のとおりであった。TNI=63.1℃;Δn=0.325;Δε=0.6;η=79.4mPa・s.
【0128】
[実施例3]
化合物(No.3):6-メトキシ-3-メチル-2-((4-プロピルフェニル)エチニル)ベンゾ[b]チオフェンの合成
【0129】
前述した合成実施例と同様の方法を用い、化合物(No.3)を合成した。
NMR測定により得られた化合物の構造を確認した。
H-NMR(CDCl3):δ=7.55(d、1H)、7.46(d、2H)、7.23(d、1H)、7.17(d、2H)、7.00(dd、1H)、3.87(s、3H)、2.60(t、2H)、2.50(s、3H)、1.65(sext、2H)、0.95(t、3H).
【0130】
化合物(No.3)の物性は次のとおりであった。TNI=144.1℃;Δn=0.344;Δε=1.0;η=121.7mPa・s.
【0131】
[実施例4]
化合物(No.4):6-メトキシ-3-メチル-2-((4’-プロピル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)エチニル)ベンゾ[b]チオフェンの合成
【0132】

前述した合成実施例と同様の方法を用い、化合物(No.4)を合成した。
NMR測定により得られた化合物の構造を確認した。
H-NMR(CDCl3):7.62-7.57(m、4H)、7.56(d、1H)、7.54(d、2H)、7.27(d、2H)、7.24(d、1H)、7.02(dd、1H)、3.88(s、1H)、2.64(t、2H)、2.53(s、3H)、1.69(sext、2H)、0.98(t、3H).
【0133】
化合物(No.4)の物性は次のとおりであった。TNI=289.0℃;Δn=0.479;Δε=2.5;η=142.1mPa・s.
【0134】
これらの化合物は大きな屈折率異方性を有するため、液晶組成物の高周波(マイクロ波からテラヘルツ波(凡そ10THz程度)の範囲)におけるΔεを大きくすることができ、素子の優れた高周波制御の特性に寄与することができる。
【0135】
[比較例1]
特許文献5に開示されている化合物(A)と物性の観点から比較した。なおこの化合物は、特許文献5の実施例1に開示された化合物(No.18)である。特許文献5に開示の方法に従い化合物を合成し、本願記載の方法で屈折率異方性(Δn)を測定した。
【0136】
化合物(A):6-エトキシ-7-フルオロ-2-(4-プロピルシクロヘキシル)ベンゾ[b]チオフェン
【0137】
化合物(A)の屈折率異方性(Δn)は、0.154であった。
【0138】
化合物(A)の屈折率異方性(Δn)は、本願化合物が示すΔnよりも非常に小さいことから、液晶組成物の高周波(マイクロ波からテラヘルツ波(凡そ10THz程度)の範囲)における誘電率異方性(Δε)を大きくすることは困難と判断した。
【0139】
[比較例2]
特許文献5に開示されている化合物(B)と物性の観点から比較した。なおこの化合物は、特許文献5に開示された化合物(No.43)である。特許文献5に開示の方法に従い化合物を合成した。
【0140】
化合物(B):6-メトキシ-7-フルオロ-2-(4’-プロピル-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゾ[b]チオフェン
【0141】
この化合物(B)は、特許文献5の効果や目的を考慮した母液晶を使用して評価していたのに対し、本願発明で用いる母液晶(i)は、電磁波制御用の素子に使用することを考慮した化合物でのみで構成されている。この母液晶に対して、化合物(B)は溶解性が著しく悪く、物性を測定することができなかった。よって、化合物(B)の本発明の液晶組成物への適用は困難であると考えられる。
【0142】
1-2.組成物の実施例
化合物(No.1)から(No.4)を母液晶(i)に混合して、それぞれ組成物(No.1)から(No.4)を得た。各組成物の組成比は、化合物が20重量%、母液晶が80重量%とした。
組成物(No.1)から(No.4)の物性値を表1に示す。
【0143】
表1.組成物(No.1)から(No.4)の物性値

【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の液晶性化合物は、熱に対する安定性、高い透明点、液晶相の低い下限温度、小さな粘度、非常に大きな屈折率異方性、他の液晶性化合物との優れた相溶性のような、化合物の物性の少なくとも一つを有する。この化合物を含有する液晶組成物は、ネマチック相の高い上限温度およびネマチック相の低い下限温度を有しながら、電磁波制御を行う周波数の範囲での大きな誘電率異方性(大きな屈折率異方性)、小さな誘電正接(tanδ)、および駆動電圧の低減のための低周波数における大きな誘電率異方性のような、組成物の特性の少なくとも一つを有する。さらに好ましくは、小さな粘度、駆動周波数の範囲での大きな比抵抗および熱に対する安定性を有する液晶組成物を有する。この組成物を使用した素子は、広い温度範囲で電磁波制御することができる。