(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023074961
(43)【公開日】2023-05-30
(54)【発明の名称】米粉含有組成物及びゲル状食品素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20230523BHJP
A23L 29/206 20160101ALI20230523BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L29/206
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188182
(22)【出願日】2021-11-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出強化研究推進事業(うち米粉を使用した嚥下障害者のための嚥下食の開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】502275757
【氏名又は名称】株式会社フードケア
(71)【出願人】
【識別番号】504320293
【氏名又は名称】株式会社圖司穀粉
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 かなえ
(72)【発明者】
【氏名】竹内 祐也
(72)【発明者】
【氏名】図司 一智
【テーマコード(参考)】
4B023
4B041
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE07
4B023LE30
4B023LP07
4B023LP13
4B023LP15
4B041LC03
4B041LC10
4B041LD03
4B041LH03
4B041LK23
4B041LP01
4B041LP02
(57)【要約】
【課題】本発明は、嚥下食素材等のゲル状食品として簡便に利用できる米粉含有組成物、及び、嚥下食素材等のゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、以下を提供する:(A)Wxa遺伝子及びアルカリ崩壊性難遺伝子を有する高アミロース米の米粉、並びに、(B)糊化開始温度が75℃未満である米粉を含む、米粉含有組成物;工程1)前記組成物に加水して分散体を得ること、及び、工程2)分散体を加熱処理し糊化すること、を含む、嚥下食素材の製造方法。前記工程1は、工程1-1)前記組成物に一次加水すること、及び、工程1-2)さらに二次加水して70℃以上80℃以下に予備加熱処理し分散体を得ること、を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)又は(a2)をコードするWxa遺伝子、及びアルカリ崩壊性難遺伝子を有する高アミロース米の米粉、並びに、
(B)糊化開始温度が75℃未満である米粉
を含む、
米粉含有組成物。
(a1)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質
(a2)配列番号1のアミノ酸配列と同一性90%のアミノ酸配列を有し、415番目のプロリンが保存され、かつ、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の澱粉粒結合型澱粉合成酵素I活性を有するタンパク質
【請求項2】
(B)が、高アミロース米である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(B)が、易アルカリ崩壊性イネの米粉である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
(A)及び/又は(B)が、未α化米粉である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
(A)及び(B)の重量比が、(A):(B)=1:5~5:1である、請求項1~4のいずれか1項に記載の米粉含有組成物。
【請求項6】
工程1)請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物に加水して分散体を得ること、
工程2)分散体を加熱処理して糊化すること、
を含む、ゲル状食品素材の製造方法。
【請求項7】
工程1が、
工程1-1)請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物に一次加水すること、及び、
工程1-2)さらに二次加水して70℃以上80℃以下に予備加熱処理し分散体を得ること
を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
加水量の総量が、米粉(A)及び(B)の総量に対し8倍以上である請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
一次加水の加水量が米粉(A)及び(B)の総量に対し1.5倍以上である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
一次加水において添加する水の温度が、米粉(B)の糊化開始温度以下である、請求項7~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
二次加水において添加する水の温度が、80℃以上である、請求項7~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
二次加水における加水量が、一次加水における加水量の3倍以上である、請求項7~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉含有組成物及びゲル状食品素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食への要望としては、高品質、調理の簡便性、高安全性、低価格、低カロリー、が挙げられており、このような消費者の要望に応えた米粉含有食品が求められている。
【0003】
米粉含有食品は、嚥下調整食への利用が期待されている。嚥下調整食(嚥下食)とは、加齢、病気、手術等により食べることや飲み込むことに支障のある嚥下障害者のための食事である。日本では高齢化が進み、嚥下食のニーズが高まっている。主食であるコメを嚥下食とするために、粥を炊き、粘りを抑えるための澱粉分解酵素を加えてミキサーにかけ、さらにゲル化剤で固めて粥ゼリーの状態にする必要があり、人手不足の中、より簡便な嚥下食素材の調理方法の開発が求められている。
【0004】
非特許文献1には、アミロース含有率が25%以上の高アミロース米の米粉に10倍量の水を加えて加熱することにより得られる糊を冷却することで、消費者庁の嚥下食の基準IIに適合するゲルを調製可能であることが記載されている。特許文献1には、高アミロース米粉をα化度が60~95%となるように制御した部分α化米粉は、水と混合すると粘弾性のあるゲルとなり、嚥下食等の各種食品の物性をみたし、食感の向上ももたらすことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】芦田ら、(2019)日本食品科学工学会誌 66(8) 290-298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1の技術は、米粉に水を加えて加熱して糊を調整する際、常に撹拌を行わないとダマを生じ、均一な糊を得ることが難しい場合がある。また、特許文献1の部分α化米粉は、α化度を制御するために特殊な設備が必要であるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、嚥下食素材等のゲル状食品として簡便に利用できる米粉含有組成物、及び、嚥下食素材等のゲル状食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の〔1〕~〔12〕を提供する。
〔1〕(A)(a1)又は(a2)をコードするWxa遺伝子、及びアルカリ崩壊性難遺伝子を有する高アミロース米の米粉、並びに、
(B)糊化開始温度が75℃未満である米粉
を含む、
米粉含有組成物。
(a1)配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質
(a2)配列番号1のアミノ酸配列と同一性90%のアミノ酸配列を有し、415番目のプロリンが保存され、かつ、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の澱粉粒結合型澱粉合成酵素I活性を有するタンパク質
〔2〕(B)が、高アミロース米である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕(B)が、易アルカリ崩壊性イネの米粉である、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕(A)及び/又は(B)が、未α化米粉である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕(A)及び(B)の重量比が、(A):(B)=1:5~5:1である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の米粉含有組成物。
〔6〕工程1)〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物に加水して分散体を得ること、
工程2)分散体を加熱処理して糊化すること、
を含む、ゲル状食品素材の製造方法。
〔7〕工程1が、
工程1-1)〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物に一次加水すること、及び、
工程1-2)さらに二次加水して70℃以上80℃以下に予備加熱処理し分散体を得ること
を含む、〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕加水量の総量が、米粉(A)及び(B)の総量に対し8倍以上である〔6〕または〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕一次加水の加水量が米粉(A)及び(B)の総量に対し1.5倍以上である、〔7〕又は〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕一次加水において添加する水の温度が、米粉(B)の糊化開始温度以下である、〔7〕~〔9〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔11〕二次加水において添加する水の温度が、80℃以上である、〔7〕~〔10〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔12〕二次加水における加水量が、一次加水における加水量の3倍以上である、〔7〕~〔11〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、嚥下食素材等のゲル状食品素材としての物性を示すことができ、一般的な調理器具を用いて簡便に嚥下食等のゲル状食品への調理が可能な、米粉含有組成物およびこれを用いるゲル状食品素材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、参考例1~3の各サンプルの、硬さの経時的な変化を示すグラフである。
【
図2】
図2は、参考例1~3の各サンプルの、凝集性の経時的な変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、参考例1~3の各サンプルの、付着性の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔米粉含有組成物〕
米粉含有組成物は、以下の米粉(A)及び(B)を含む。
【0013】
(米粉(A))
米粉(A)は、所定のWxa遺伝子及びアルカリ崩壊性難遺伝子を有する高アミロース米の米粉である。
【0014】
-高アミロース米-
米粉(A)は、高アミロース米の米粉である。本明細書において高アミロース米とは、アミロースを豊富に含む米である。高アミロース米のアミロース含有率は、通常、24%以上である。上限は特に限定されず、30%を超えてもよい。アミロース含有率は、ヨウ素呈色法によって求めることができる。
【0015】
-ワキシー遺伝子-
米粉(A)の原料米は、所定のWxa遺伝子を有する。本明細書においてWxa遺伝子とは、ワキシー(Waxy)遺伝子(GBSSI)のWxaタイプを意味し、一般に、高アミロース米(例えば、インディカ米など)に存在する。Wxa遺伝子は、アミロースを合成にかかわる澱粉粒結合型澱粉合成酵素I(GBSSI)活性を有するタンパク質をコードする遺伝子であり、イントロン1(In1)の5’スプライシング部位の1番目(5´末端)の塩基がグアニン(G:In1_G)である。この塩基はSNPマーカーであり、一方、対立遺伝子であるWxbタイプ(例えば、コシヒカリなどのジャポニカ米に存在する)のワキシー遺伝子(Wxb遺伝子)ではチミンである点で区別される。Wxa遺伝子は、上記SNPマーカーがGであることにより、スプライシングが生じ転写が活性化し、高い澱粉粒結合型澱粉合成酵素I活性が発揮され、アミロース含量が高いが、Wxbではスプライシングが起こらないため、転写が不十分となり酵素活性も不十分であり、Wxbタイプを有する米粉のアミロース含量は、通常、Wxaタイプを有する米よりも低くなる(Hirano et al(1998)Mol.Biol.Evol.15(8)p978-987)。イントロン1を含むWxa遺伝子のプロモーター部位は、GenBankに登録されており(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AB008795)、In1のSNPマーカーは、登録された配列の1606番目のグアニン塩基に相当する。
【0016】
米粉(A)の原料米が有するWxa遺伝子は、以下の(a1)及び(a2)のタンパク質を発現し得る:
(a1)配列番号1のアミノ酸配列アミノ酸配列を含むタンパク質
(a2)配列番号1のアミノ酸配列と同一性90%のアミノ酸配列を有し、415番目のプロリンが保存され、かつ、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の澱粉粒結合型澱粉合成酵素I活性を有するタンパク質
【0017】
配列番号1のアミノ酸配列のうち415番目のアミノ酸残基は、イネのWxa遺伝子のエキソン10中のSNPマーカーであり、プロリン(Ex10_C)であると、アミロペクチン長鎖の含有量が中程度以下であることが知られている(Crofts et al(2019)J.Appl.Glycosci.,66,p37-46)。
(a2)において、アミノ酸配列の同一性は、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%以上であってもよい。同一性は、例えばNCBIのBLAST(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)を用い、デフォルトの条件で決定できる。「同様の活性を有する」とは、同一条件で測定された場合、タンパク質が有する活性の、例えば、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は100%以上の活性を有することを意味する。
【0018】
アミノ酸配列における改変部位は、触媒ドメイン中の部位、及び触媒ドメイン以外の部位のいずれでもよい。目的活性を保持し得る、タンパク質中の変異が導入されてもよいアミノ酸残基の位置は、当業者であれば特定可能である。例えば、当業者は、1)同種の活性を有する複数のタンパク質のアミノ酸配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)を比較し、2)相対的に保存され又はされていない領域を明らかにし、次いで、3)相対的に保存されている領域及び保存されていない領域から、機能に重要な役割を果たし得る領域及び果たし得ない領域を予測できるので、構造及び/又は機能の相関性を認識し、変異が導入されてもよい部位を特定できる。
【0019】
タンパク質に導入される変異は、アミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換でもよく、類似の側鎖を有するアミノ酸残基への置換が好ましい。類似の側鎖を有するアミノ酸残基によるアミノ酸の分類としては、例えば、以下が挙げられる:リジン、アルギニン、ヒスチジン等の塩基性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン等の非荷電性極性側鎖を有するアミノ酸;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン等の非極性側鎖を有するアミノ酸;ロイシン、バリン、イソロイシン等のβ位分岐側鎖を有するアミノ酸;チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン等の芳香族側鎖を有するアミノ酸;セリン、スレオニン、チロシン等のヒドロキシル基含有側鎖(例えば、アルコール、フェノキシ基含有側鎖)を有するアミノ酸;及びシステイン、メチオニン等の硫黄含有側鎖を有するアミノ酸。
【0020】
米粉(A)のWxa遺伝子は、ハプロタイプとして(In1_G-Ex10_C)であっても良いし、(In1_G)及び/又は(Ex10_C)が導入された遺伝子組み換え体でも良いが、前者が好ましい。
【0021】
-アルカリ崩壊性難遺伝子-
米粉(A)の原料米は、アルカリ崩壊性難遺伝子(ALK、スターチシンターゼIIa(SSIIa))を有する。本明細書において、アルカリ崩壊性難遺伝子(ALK)は、機能型であり、配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質、又は、配列番号2のアミノ酸配列と同一性90%以上のアミノ酸配列を有し、かつ配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等のスターチシンターゼIIa活性を有するタンパク質をコードする塩基配列を含む、遺伝子である。配列番号2のアミノ酸配列、及びこれをコードする塩基配列は、GenBankに登録され、Accession番号はAY423717である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AY423717)。
【0022】
本明細書において、アルカリ崩壊性は、米粒をアルカリ性溶液に数時間浸した後の澱粉の溶出の有無で判定できる。例えば1.5%の水酸化カリウム水溶液に割断した玄米を浸し、室温で静置した場合に、穀粒から澱粉の溶出が認められればアルカリ崩壊性易、澱粉の溶出が認められなければアルカリ崩壊性難と評価できる。米粉(A)は、アルカリ崩壊性難遺伝子(ALK)を有することにより、通常、アミロペクチン長鎖が豊富であり、糊化開始温度が高い。アルカリ崩壊性難遺伝子を有する米の糊化開始温度は、通常、米粉(B)のそれと比較して高く、例えば、5~10℃(通常、6~9℃、好ましくは7~8℃程度)高い。米粉(A)のコメの糊化開始温度は、75℃以上が好ましい。
【0023】
米粉(A)の原料米としては、例えば、「亜細亜のかおり」「越のかおり」「ベニロマン」、それらの後代品種及びこれらのうちの2種以上の組み合わせが挙げられる。これらのうち、亜細亜のかおり及びその後代品種が好ましい。米粉(A)は、収穫年度、栽培方法、米粉の製造方法、物性(例えば粒度)が異なる2以上の組み合わせでもよい。
【0024】
(米粉(B))
米粉(B)は、糊化開始温度が75℃未満である米粉であり、米粉(A)以外の米粉である。
【0025】
-糊化開始温度-
本明細書において、糊化開始温度とは、α化(糊化)が開始する温度である。糊化開始温度は、米粉に常温の水を加え(加水量:米粉2.5gに対し水25mL)50℃下で1分間保持した後99℃まで昇温した際に、粘度が上昇し始める温度として確認できる。米粉(B)の糊化開始温度は、75℃未満、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下である。
【0026】
-アルカリ崩壊性難遺伝子-
米粉(B)の原料米は、アルカリ崩壊性難遺伝子の自然変異型(機能低下型)を含むものでもよい。前記自然変異型としては、SNP3(翻訳開始点から塩基番号2209番目に存在)がG→A、もしくはSNP4(翻訳開始点から塩基番号2341番目に存在)がC→Tである変異型が挙げられる(文献:農研機構2005年度研究成果情報(https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/nics/2005/nics05-07.html)、Umemoto and Aoki(2005)Funct.Plant Biol.32:763‐768)。
【0027】
-易アルカリ崩壊性-
米粉(B)の原料米は、易アルカリ崩壊性であることが好ましい。これにより、組成物に加水した際にとろみがつきやすくなる。アルカリ崩壊性は、米粒をアルカリ性溶液に数時間浸した後の澱粉の溶出の有無で判定できる。例えば1.5%の水酸化カリウム水溶液に割断した玄米を浸し、室温で静置した場合に、穀粒から澱粉の溶出が認められればアルカリ崩壊性易、澱粉の溶出が認められなければアルカリ崩壊性難と評価できる。アルカリ崩壊性難遺伝子の自然変異型を含むものは、通常、易アルカリ崩壊性である。
【0028】
米粉(B)の原料米は、うるち米、もち米のいずれでもよいが、通常はうるち米である。ジャポニカ種、ジャパニカ種、インディカ種のいずれでもよい。また、高アミロース米、中アミロース米(例えば、アミロース含有量15%以上20%未満)、低アミロース米(例えば、アミロース含有量15%未満)のいずれでもよいが、高アミロース米(例えば、アミロース含有率24%以上)が好ましい。
【0029】
-ワキシー遺伝子-
米粉(B)の原料米は、Wxa遺伝子(In1_G-Ex10_T)又はWxa遺伝子(In1_G-Ex10_C)を有することが好ましい。Wxa遺伝子(In1_G-Ex10_C)については、米粉(A)の項目で説明したとおりである。Wxa遺伝子(In1_G-Ex10_T)は、イントロン1(In1)のSNPマーカーがグアニン(G)であり、エキソン10(Ex10)のSNPマーカーがチミン(T)であるWxa遺伝子である。
【0030】
米粉(B)の原料米としては、例えば、「ふくのこ」、「モミロマン」、「ホシニシキ」、「ホシユタカ」、「日本晴」、「コシヒカリ」、「北瑞穂」、「夢十色」、それらの後代品種、及びこれらの2種以上を組み合わせが挙げられ、「ふくのこ」およびその後代品種が好ましい。米粉(B)は、収穫年度、栽培方法、米粉の製造方法、物性(例えば粒度)が異なる2以上の組み合わせでもよい。
【0031】
(α化の有無)
米粉(A)及び(B)は、α化処理済みでも、部分的にα化処理されていても、又は、α化未処理でもよく、α化未処理であること(未α化米粉)が好ましい。
【0032】
(米の原産地)
米粉(A)及び(B)の原料である米の原産地は特に限定されず、ジャポニカ種、インディカ種及びジャバニカ(ジャパニカ)種のいずれでもよい。
【0033】
((A):(B)の比率)
組成物中の(A):(B)の含有比率(質量比)は、(A):(B)が1:5~5:1が好ましく、1:4~4:1が好ましく、1:3~3:1が更に好ましい。これにより、予備加熱後にとろみがつきやすくなり、糊化後にダマの発生を防ぐことができ、えん下食に適した物性が実現できる。
【0034】
(米粉の製法、粒度)
米粉(A)及び(B)の製法は、通常、原料米(精米済み)を製粉処理する方法等の常法であればよく、湿式気流製粉等の湿式製粉法が好ましい。これにより、製粉時の米粉へのダメージによるべとつきが抑制でき、粒度の細かい、ザラつきが抑制された米粉を得ることができる。米粉の澱粉損傷度、粒子径は、特に限定されないが、一例をあげると、澱粉損傷度は好ましくは10%未満、より好ましくは7%以下、さらにより好ましくは5%以下である。平均粒子径は好ましくは100μm未満、より好ましくは70μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。澱粉損傷度は、損傷を受けた澱粉を特異的に分解する酵素(カビα―アミラーゼ)を作用させて生じるブドウ糖を定量することで測定できる。粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定できる。後段の実施例の各数値もこの測定方法に従って測定した数値である。
【0035】
(米粉以外の原料)
組成物は、米粉(A)及び(B)以外の他の原料を用いてもよい。他の原料としては、例えば、塩、胡椒、油脂、動物性クリーム(生クリーム、ホイップなど)、スキムミルク、植物性(例:豆乳、ココナツ、アーモンドなどの豆)クリーム、植物性タンパク(豆類など)、植物性デンプン(コーンスターチ、タピオカスターチなど)、穀物・野菜・果実類、卵、ココア、果汁(レモン果汁など)、タンパク質(肉、魚、それらの加工品、大豆等植物加工品)、酒、香料、香辛料、甘味料(砂糖、グラニュー糖、ハチミツなど)、豆乳、添加剤(酸味料、着色料、保存料、膨化剤(発泡剤)など)、及び、これらから選ばれる2以上の組み合わせが挙げられる。他の原料の添加目的としては、例えば、食品素材への風味付け、保存性向上が挙げられるが、特に限定されない。
【0036】
組成物は、米粉(A)及び(B)以外の米粉を含んでいてもよい。組成物をゲル状食品素材として用いる場合には、ゲル状食品素材としての物性への影響の少ない米粉及び添加量を選択することが好ましい。
【0037】
(組成物の用途)
組成物は、加水して糊化させると均一なゲル状を示すことができるので、ゲル状食品素材として利用でき、嚥下食素材等のゲル状食品素材の原料(いわゆる、嚥下食素材ミックス等のゲル状食品素材ミックス)として有用である。
【0038】
〔ゲル状食品素材の製造方法〕
上記組成物をゲル状食品素材の原料として用いる場合、ゲル状食品素材の製造は、例えば、以下の工程1~2を含む方法によることができる。
【0039】
(工程1:加水)
工程1では、米粉含有組成物に加水して分散体を得る。
【0040】
-加水における水性原料-
加水は、水性原料の添加により行うことができる。水性原料としては、常温で液状の原料であればよく、例えば、水が挙げられる。水は、水道水、天然水、ミネラルウォーター、精製水(例えば、イオン交換水、蒸留水)、その他の食品用に用いられる水のいずれでもよい。水性原料は水以外でもよく、例えば、液状の食品又は食品原料が挙げられ、具体的には例えば、牛乳、豆乳、果汁、乳飲料、茶、コーヒー、出汁、スープ、及び、これらの水溶液が挙げられる。
【0041】
-加水における水温-
加水において添加する水性原料の温度は、上限は、米粉(A)の糊化開始温度より4~6℃高い温度が好ましく、通常、80℃以下であり、79℃以下でもよく、78℃以下でもよい。これにより、米粉をダマのない状態に完全に分散することができる。下限は、水性原料が液状を示す温度であればよく、通常、4℃以上である。これにより、予備加熱における温度調整が容易となる。従って、加水において添加する水性原料の温度は、通常、4~80℃であり、4~79℃でもよく、4~78℃でもよい。水温の調整方法としては、例えば、系内へ添加する前の水性原料の温度の調整、系内へ添加後の加熱による調整、水性原料に高温の水性原料を追加することによる調整、等が挙げられ、これらの組み合わせによってもよい。
【0042】
加水の際には、撹拌すること(いわゆる水溶きすること)が好ましい。撹拌は、手作業、機械を用いて行ってもよく、例えば、米粉の塊がほぐれ、細かな塊がなくなり均一な状態になるまで行う(水溶き)ことができる。
【0043】
-加水量-
加水量(米粉含有組成物に加える水の総量)は、米粉の重量(組成物中の米粉(A)及び(B)、並びに、必要に応じて用いる(A)及び(B)以外の米粉の総量、以下同じ)に対し、8倍以上が好ましく、9倍以上がより好ましく、10倍以上が更により好ましい。これにより、ダマがなく、とろみがあるゲル状食品素材を得ることができる。また、前記ゲル状食品素材は嚥下食許可区分IIに適しているため、嚥下食素材として有用である。上限は、13倍以下が好ましく、12倍以下がより好ましく、11倍以下が更により好ましい。これにより、予備加熱後にとろみをつけることができ、ダマの発生を抑制できる。従って、加水水の総量は、米粉の重量に対し、8~13倍が好ましく、9~12倍がより好ましく、10~11倍が更に好ましい。
【0044】
工程1の加水は、一次加水により米粉をダマのない状態に完全に分散する工程(工程1-1)、及び、二次加水により工程1で得られる試料に二次加水して予備加熱処理する工程(工程1-2)の二工程に分けてもよい。
【0045】
(工程1-1:一次加水)
工程1-1では、上記組成物に一次加水する。
【0046】
-一次加水における水温-
一次加水において添加する水性原料の温度は、米粉(B)の糊化開始温度より低いこと(例えば、2~10℃、又は4~6℃低い)ことが好ましい。通常、70℃以下であり、65℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。これにより、ダマの発生を抑制できる。下限は、水性原料が液状を示す温度であればよく、通常、4℃以上である。これにより、予備加熱における温度調整が容易となる。従って、一次加水において添加する水性原料の温度は、通常、4~70℃であり、好ましくは4~65℃、より好ましくは4~60℃である。
【0047】
-一次加水量-
一次加水量は、組成物中の米粉(A)及び(B)の総量に対し、1.5倍以上、好ましくは1.6倍以上、より好ましくは1.7倍以上である。これにより、米粉をダマのない状態に完全に分散することができる。上限は、好ましくは3倍以下、より好ましくは2.8倍以下、更により好ましくは2.5倍以下である。これにより、予備加熱における温度調整が容易となる。従って、一次加水量は通常は1.5~3倍、好ましくは1.6~2.8倍、より好ましくは1.7~2.5倍である。
【0048】
一次加水の際(工程2より前)には、撹拌すること(いわゆる水溶きすること)が好ましい。撹拌は、手作業、機械を用いて行ってもよく、例えば、米粉の塊がほぐれ、細かな塊がなくなり均一な状態になるまで行う(水溶き)ことができる。
【0049】
(工程1-2:二次加水と予備加熱)
工程2では、工程1で得られる試料に二次加水して予備加熱処理する。
【0050】
-二次加水における水性原料-
二次加水の際の水性原料としては、一次加水の項目で例示した水性原料を用いることができる。二次加水の水性原料は、一次加水の水性原料と同一でも異なってもよい。
【0051】
-二次加水量-
二次加水量は、一次加水量と二次加水量の総量が上記加水量の範囲内となることが好ましい。例えば、組成物中の米粉(A)及び(B)の総量に対し、下限は、好ましくは5倍以上、より好ましくは6倍以上である。上限は、好ましくは11倍以下、より好ましくは10倍以下、更により好ましくは9倍以下である。これにより、ゲル状食品素材にとろみをつけることができ、ダマの発生を抑制できる。従って、加水量は通常は5~11倍、好ましくは5~10倍、より好ましくは6~9倍である。
【0052】
-予備加熱温度-
予備加熱は、系内の温度が、通常70℃以上、好ましくは71℃以上である。これにより、適度なとろみをつけることができる。上限は、米粉(A)の糊化開始温度より4~6℃高い温度が好ましく、通常は80℃以下、79℃以下が好ましく、78℃以下がより好ましい。これにより、予備加熱後にとろみがつきやすくなり、糊化後にダマの発生を抑制でき、ゲル状食品若しくは嚥下食に適した物性が実現できる。従って、予備加熱による系内の温度は、通常70~80℃、好ましくは70~79℃、より好ましくは71~78℃である。
【0053】
-二次加水における水温-
二次加水において添加する水性原料の温度は、一次加水における水性原料の温度よりも高いことが好ましく、通常は90℃以上、好ましくは95℃以上である。これにより、二次加水による予備加熱が達成できる。水温の上限は特に限定されず、沸騰温度(100℃)でもよい。二次加水と同時に、系内の温度を上昇させ予備加熱処理も行うことができるが、二次加水後に適宜加熱手段を用いて系内を加熱し、温度調整してもよい。調整の例としては、例えば、電子レンジ等の電磁波調理機器を用い、短時間(例、10~60秒、好ましくは20~30秒)加熱する処理が挙げられる。
【0054】
-一次加水量に対する二次加水量の比率-
二次加水量は、一次加水量の4倍以上が好ましく、4.1倍以上がより好ましく、4.2倍以上が更に好ましい。上限は、4.7倍以下が好ましく、4.6倍以下がより好ましく、4.5倍以下が更により好ましい。これにより、予備加熱処理における温度調整が容易となり、とろみをつけることができ、ダマの発生を抑制できる。従って、工程2における加水量は、工程1における加水量の4~4.7倍であることが好ましく、4.1~4.6倍であることがより好ましく、4.2~4.5倍であることが更により好ましい。
【0055】
-分散処理-
工程1では、二次加水、予備加熱処理後に分散体を得る。分散体を得るために、通常は、撹拌等の分散処理を行う。分散処理は、撹拌等常法により行えばよい。
【0056】
(工程2:糊化)
工程2では、工程1で得られた分散体を加熱処理し糊化する。
【0057】
-加熱処理-
加熱処理の条件は、米粉(A)および(B)が処理後に糊化する条件で行えばよい。加熱処理には、恒温槽、鍋、電磁調理器(例えば、電子レンジ)等の機器を用いてもよい。加熱処理の際、試料を撹拌(例えば、手作業による撹拌、機械による撹拌)しながら行ってもよい。
【0058】
加熱処理の一例を挙げると、以下のとおりである。加熱温度は、糊化温度以上であればよく、例えば、通常、90℃以上、95℃以上が好ましく、100℃がより好ましい。上限は、通常120℃以下である。従って、加熱温度は、通常、90~120℃、95~120℃が好ましく、100℃がより好ましい。これにより、分散体が沸騰し、ゲル状の米粉含有組成物を得ることができる。加熱時間は、電子レンジを用いて分散体250~350gを処理する場合、500Wで、通常1分30秒~2分50秒、1分40秒~2分40秒が好ましく、2分~2分30秒がより好ましい。
【0059】
(任意の処理)
ゲル状食品素材を製造する際、他の原料を添加してもよい。他の原料の添加時期は、工程1~2のいずれの段階でもよく、例えば、工程1の加水前に添加、工程1の加水後に添加、工程1-1、1-2を行う場合には、工程1-1の一次加水前に添加、工程1-2の二次加水前(予備加熱前)に添加、加熱処理前に添加、及び、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。添加後は必要に応じて撹拌してもよい。
【0060】
工程2を経て糊化した試料は、そのままゲル状食品素材として用いることができる。ゲル状食品素材は、そのまま、又は、調味、他の材料の添加等の加工後に、嚥下食として利用できる。調味する場合には、上述した米粉以外の原料を必要に応じて選択して用いることができる。必要に応じて、調理、加工に利用するまで、冷蔵、冷凍等して保管してもよい。また、密封できる包装材に充填し、レトルトパウチ食品として利用してもよい。あるいは、冷凍して、冷凍食品として利用してもよい。冷凍の際には、冷凍による品質低下を抑制するための前処理(例えば、加熱後に糖類の添加処理)を行ってもよい。
【0061】
〔ゲル状食品素材の用途〕
ゲル状食品素材は、菓子(例えば、ゼリー、プリン)、パン類、麺類、餅、焼成菓子、クリーム類、総菜(例えば、ピザ、お好み焼き、茶わん蒸し)等の各種食品の原料として利用できる。
【0062】
〔嚥下食素材の物性〕
上記方法により得られるゲル状食品素材は、嚥下食素材として利用できる。嚥下食素材は、消費者庁「えん下困難者用食品の許可基準」(平成30年8月8日 消食表第403号)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180808_0005.pdf)嚥下困難者用食品の規格(許可基準I~IIIのいずれか)を満たすことが好ましく、許可基準II又はIIIを満たすことが好ましく、許可基準IIを満たすことがより好ましい。具体的には、常温で均質であり、硬さ(一定速度で圧縮したときの抵抗、以下同じ)が3×102~2×104、付着性が1.5×103以下である場合には、許可基準IIIを満たし、硬さが1×103~1.5×104N/m2、付着性が1×103J/m3以下、凝集性が0.2~0.9である場合には、許可基準IIを満たす。
【実施例0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0064】
[物性の測定条件]
以下の実施例における物性の測定条件は、以下のとおりとした。
【0065】
-付着性、硬さ、凝集性、許可基準-
消費者庁「えん下困難者用食品の許可基準」(平成30年8月8日 消食表第403号)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/health_promotion/pdf/health_promotion_180808_0005.pdf)に従い、以下の条件で測定した。試料をステンレス製シャーレに充填し、樹脂製プランジャーを用い、クリープメーターにて、所定の圧縮速度、クリアランスで2回圧縮測定した。各測定値が、上記許可基準で規定される規格のうち、許可基準2に適合するか否かも評価した。
測定機器:CREEP METER RE2-33005C(山電社製)
プランジャー 直径20mm、高さ8mm
ステンレスシャーレ 直径40mm、高さ15mm
圧縮速度:10mm/sec
圧縮回数:2回圧縮
クリアランス:5mm
【0066】
-とろみの評価-
熱湯を加えた後のサンプルをスプーンでかき混ぜた後、スプーンですくった。スプーンを傾けた再に落下する様子を観察し、とろみの程度を、以下のいずれかに分類した。
+++:強いとろみ(スプーンを傾けると濃厚なポタージュスープのようにドロッと流れる)
++:中間のとろみ(スプーンを傾けると薄いカレールーのようにとろとろと流れる)
+:弱いとろみ(スプーンを傾けると中濃ソースのようにややトロッと流れ落ちる。加熱後にダマが生じなかった)
-:とろみがない(スプーンを傾けると水のようにさらさら流れ落ちる。加熱後にダマが生じた)
【0067】
参考例1~3
米粉30gに水45mlを加えてポリプロピレン製スプーンを用いて水溶きし、そこに沸騰直後の熱湯275mlを加えて前記スプーンで撹拌してとろみをつけた後、電子レンジ500Wで2分半加熱してサンプルを調製した。「北瑞穂」(アミロース含有率:25%、糊化開始温度:63℃、易アルカリ崩壊性:参考例1)、「亜細亜のかおり」(アミロース含有率:28%、糊化開始温度:75℃、難アルカリ崩壊性:参考例2)及び「ふくのこ」(アミロース含有率:27%、糊化開始温度:70℃、易アルカリ崩壊性:参考例3)の各米粉(いずれも澱粉損傷度2~5%、平均粒子径約50μm)を用いた。得られたサンプルは、糊状であった。サンプルを4℃下で2時間冷却後、24℃に取り出し、0~3時間後の硬さ、凝集性、付着性を測定した(
図1~3)。
【0068】
参考例1~3のいずれにおいても、サンプルの硬さは、冷却後温度が上昇するにつれ低下する傾向にあった(
図1)。参考例3(ふくのこ)は付着性が大きく、基準IIを外れる場合があった(
図3)。凝集性は、経時変化は少なかった(
図2)。なお、糊の硬さについては、参考例1(北瑞穂)は糊の硬さが過剰であるため糊が固まってしまい、調理後に他の容器に移す作業がしにくい場合があったのに対し、参考例2(亜細亜のかおり)では糊の硬さが出過ぎず、調理後の他容器への小分け等の作業性が良好であった。参考例の結果から、米粉を予め水溶きしてから熱湯を加えとろみをつけることにより、その後の加熱による沈殿の発生が抑制されることが示唆された。しかし、水溶きの際にダマがとけにくく、水溶き時に加える水の量はもう少し増やした方が作業しやすいことも示唆された。
【0069】
実施例1及び2、比較例1~3(米粉ブレンドの有無が組成物の物性へ与える影響の検討)
加水した水の量、温度、その後添加する熱湯の量を表1に示す量としたこと、二次加水後に軽く混ぜた直後の温度を測定したこと、のほかは、参考例1と同様に行った。とろみをつけた後に、電子レンジ500Wで2分半加熱して糊を調製した。二次加水後に得られるサンプルのとろみを評価した(表1)。なお、亜細亜のかおりの糊化開始温度は、75℃であった。
【0070】
【0071】
「ふくのこ」の米粉を単独で用いた比較例1~2では、とろみが出てその後加熱するとダマのないなめらかなゲルが得られた。「亜細亜のかおり」の米粉を単独で用いた比較例3では、とろみがつかず、その後加熱するとダマができ解消することはできなかった。これらに対し、「ふくのこ」を「亜細亜のかおり」と混合した米粉を用いた実施例1及び2において、その後加熱してもダマにならない程度の適度なとろみをつけることができた(表2)。
【0072】
参考例4~9(水温、加水量の検討)
米粉は用いず、水の量、温度、その後添加する熱湯の量を表2に示す量としたこと、室温を23℃としたこと、のほかは、実施例1と同様に行った。
【0073】
【0074】
水道水の温度および冷水を用いて水と熱湯を混合した際の温度を調査した。いずれの参考例でも混合直後の水温を70℃以上にすることができた。参考例7~9では、加水した水の温度が4℃であっても混合後に70℃以上の温度を示したことから、例えば、冬季の冷たい水を用いても、とろみをつけることができると期待できる。また、各参考例から、加水量および熱湯添加量を、計量カップ(通常、50mL単位)、大さじ(通常、15mL単位)で計測しやすい量に調整可能であり、作業性を高めることができることが分かった。
【0075】
実施例3~18(冷水を用いた電子レンジ調理と嚥下食としての物性の確認)
表3に示す各品種の米の米粉23gに、50mlの冷水(水温4℃)を加えてポリプロピレン製スプーンを用いて水溶きした(加水後の水温;72.8℃(参考例8より))。そこに熱湯200mLを加えて混ぜて前記スプーンでとろみをつけた。とろみをつけた後に、電子レンジ500Wで表3に示す時間加熱してサンプル(糊状)を調製した。サンプルは4℃下で20時間冷却し、翌日、表3に示す温度に設定した恒温器で1時間保管後、サンプルの硬さ、凝集性、付着性を測定した。また嚥下食許可区分IIに適合するか否かを評価するとともに、付着性の測定値の硬さの測定値に対する比率(付着/硬さ)を算出した(表3:3回測定の平均値)。
【0076】
【0077】
いずれの実施例においても、ウスターソースよりも薄い程度のとろみがつき、電子レンジ加熱において沈澱してダマになることなく、滑らかなゲルが調製できた。いずれの実施例も、嚥下食許可区分IIに相当する物性を示した。
【0078】
実施例19~21並びに比較例4及び5(水道水を用いたレンジ調理)
表4に示す各品種の米の米粉23gと、水道水(水温20℃)50mLを、レンジ調理用どんぶりに入れ、泡だて器で30秒混合した。そこに熱湯200mLを加えて混ぜて泡だて器で15秒混ぜ、とろみをつけ、混ぜた直後の温度を測定した。とろみをつけた後に、電子レンジ500Wで1分50秒加熱した(表4:5回測定の平均値)。
【0079】
【0080】
ふくのこ100%の比較例4及び亜細亜のかおり100%の比較例5と比較して、両者を所定の比率で用いる実施例19~21は、レンジ調理によって、適度な硬さ、凝集性及び付着性を示した。また、実施例のサンプルは、電子レンジで加熱することによって、嚥下食許可区分IIの物性を示す嚥下食素材を容易に調理することができた(表4)。
【0081】
実施例22~24及び比較例6及び7(水道水を用いた鍋調理)
表5に示す各品種の米の米粉40gと、水道水400ml(水温20℃、米粉に対して10倍量)を、鍋に入れ、泡立て器で30秒混合した。鍋を中火にかけ、かき混ぜながらふつふつと沸騰するまで加熱した。沸騰確認後、弱火に変更してかき混ぜながら2分間追加加熱を行った。それぞれから得られたサンプルを測定用シャーレに分注し、粗熱を取った後に冷蔵庫で1時間冷却した。冷却後のサンプルを、インキュベーターを用いて20℃に調温し、硬さ、凝集性、付着性を測定した(表5:5回測定の平均値)。
【0082】
【0083】
ふくのこ100%の比較例6及び亜細亜のかおり100%の比較例7と比較して、両者を所定の比率で用いる実施例22~24は、鍋調理においても、適度な硬さ、凝集性及び付着性を示した。また、実施例のサンプルは、鍋で水から調理しても、嚥下食許可区分IIの物性を示す嚥下食素材を容易に調理することができた(表5)。