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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075391
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】インク吐出方法及びインク吐出装置
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20230524BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230524BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
C09D11/30
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021188266
(22)【出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】百武 大希
(72)【発明者】
【氏名】梁川 宜輝
(72)【発明者】
【氏名】戸村 辰也
(72)【発明者】
【氏名】松下 友樹
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186AB02
2H186AB08
2H186AB12
2H186AB23
2H186AB27
2H186AB55
2H186AB61
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB50
2H186FB53
4J039BC07
4J039BC10
4J039BC50
4J039BE02
4J039EA29
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】使用する水系インクのpHの制約がなく、1年以上の長期間に亘って優れた吐出安定性を実現できるインク吐出方法の提供。
【解決手段】pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクを、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドを有するインク吐出装置を用いて吐出するインク吐出工程を含み、前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であるインク吐出方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクを、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドを有するインク吐出装置を用いて吐出するインク吐出工程を含み、
前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であることを特徴とするインク吐出方法。
【請求項2】
前記シリコーン接着剤を90℃において4時間硬化させた硬化物の質量をW0とし、
前記硬化物を前記水系インクに60℃において4週間浸漬させた後の浸漬物の質量をW1とすると、下記数式(1)で表される質量増加率が-5%以上15%以下である、請求項1に記載のインク吐出方法。
質量増加率(%)={(W1-W0)/W0}×100 ・・・数式(1)
【請求項3】
前記水系インクのpHが1以上4以下又はpHが11以上12以下である、請求項1から2のいずれかに記載のインク吐出方法。
【請求項4】
前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が33以上38以下である、請求項1から3のいずれかに記載のインク吐出方法。
【請求項5】
前記水系インクがビニルスルホン色素を含有する、請求項1から4のいずれかに記載のインク吐出方法。
【請求項6】
インクジェット印刷方法である、請求項1から5のいずれかに記載のインク吐出方法。
【請求項7】
pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクと、
液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドと、を有し、
前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であることを特徴とするインク吐出装置。
【請求項8】
インクジェット印刷装置である、請求項7に記載のインク吐出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク吐出方法及びインク吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インク吐出装置に用いられるインクには色材として染料又は顔料が一般的に用いられているが、安全性及び環境負荷の観点から水系インクが求められているため、水系インクに適用可能な染料又は顔料が選択されている。
【0003】
このような水系インクをインク吐出装置に用いた場合、インク吐出ヘッドの各部材を接合するのに用いられている接着剤を膨潤及び溶解し易くなり、インク吐出ヘッドの耐久性が低下してしまうという問題がある。
そこで、例えば、インク吐出ヘッドの接着剤としてシリコーン接着剤を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。シリコーン接着剤はノニオン性(非イオン性)の接着剤であり、このシリコーン接着剤を用いたインク吐出ヘッドは、撥水性が極めて高く、水系インクに対する耐久性が高いという利点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、使用する水系インクのpHの制約がなく、1年以上の長期間に亘って優れた吐出安定性を実現できるインク吐出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明のインク吐出方法は、pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクを、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドを有するインク吐出装置を用いて吐出するインク吐出工程を含み、前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、使用する水系インクのpHの制約がなく、1年以上の長期間に亘って優れた吐出安定性を実現できるインク吐出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、印刷装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、メインタンクの一例を示す斜視説明図である。
図3図3は、インク吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(圧力室長手方向)に沿う一例を示す断面説明図である。
図4図4は、インク吐出ヘッドのノズル配列方向に沿う一例を示す断面説明図である。
図5図5は、インク吐出装置の一例を示す概略説明図である。
図6図6は、インク吐出装置のヘッドユニットの一例を示す平面説明図である。
図7図7は、インク循環装置の一例を示すブロック説明図である。
図8図8は、印刷装置の一例を示す要部平面説明図である。
図9図9は、印刷装置の一例を示す要部側面説明図である。
図10図10は、インク吐出ユニットの一例を示す要部平面説明図である。
図11図11は、インク吐出ユニットの一例を示す正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(インク吐出方法及びインク吐出装置)
本発明のインク吐出方法は、pHが1以上5以下、又はpHが10以上12以下である水系インクを、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドを有するインク吐出装置を用いて吐出するインク吐出工程を含み、前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であり、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0009】
本発明のインク吐出装置は、pHが1以上5以下、又はpHが10以上12以下である水系インクと、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドと、を備え、前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であり、更に必要に応じてその他の手段を備える。
【0010】
本発明のインク吐出方法は、本発明のインク吐出装置により好適に実施することができ、前記インク吐出工程は前記インク吐出ヘッドにより行うことができ、前記その他の工程は前記その他の手段により行うことができる。
【0011】
シリコーン接着剤を用いたインク吐出ヘッドにおけるシリコーン接着剤は、強酸と強塩基に弱いという欠点があり、pHの低いインク又はpHの高いインクではインク吐出ヘッド中のシリコーン接着剤を侵食し易くなる。その結果、インクをインク吐出ヘッドに充填して1年も経たないうちに接着部材の剥がれ及び接着剤の劣化部分からのインクリーク、接着剤の劣化に伴うインクの吐出異常が発生することがある。
従来技術では、インク組成物中の遊離のアンモニア濃度を2,000ppm以下とすることによりプラスチック材料を劣化させないことを課題としており、使用する水系インクのpHの制約がなく、1年以上の長期間に亘って優れた吐出安定性を実現できるものではない。また、従来技術におけるインクとインク吐出ヘッドに用いられているシリコーン接着剤の間のHSP距離値は38を超えており、インク吐出ヘッドの耐久性が低下してしまうという問題がある。
【0012】
本発明においては、水系インクとインク吐出ヘッドに用いられているシリコーン接着剤の間のHSP距離値は30以上38以下であり、好ましくは33以上38以下とすることにより水系インクに含まれる溶剤成分とインク吐出ヘッドに用いられているシリコーン接着剤との親和性が低くなり、インクのpHに関わらずインクの吐出性が長期に亘って安定し、インク吐出ヘッドの耐久性が飛躍的に向上する。
【0013】
ここで、水系インクとインク吐出ヘッドに用いられているシリコーン接着剤の間のHSP距離値について説明する。HSP距離値とは2種の物質のHSP値の間の距離を意味する。
HSP値はハンセンの溶解度パラメータであり、分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)で構成されており、これら三つのベクトル和としてHSP値が得られる。
HSP値はハンセンやその研究後継者らにより多く求められており、Polymer Handbook(fourth edition)、VII-698~711、Wesley L.Archer著、Industrial Solvents Handbookに記載されている。また、HSP値はハンセン溶解度パラメータ計算ソフトウェアHSPiP(ver.5.2 Hansen-Solublity.com製)により算出することができる。
【0014】
HSP値はハンセンの溶解度パラメータであり、分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)で構成されており、これら三つのベクトル和としてHSP値が得られる。
2種の物質のHSP値の間の距離であるHSP距離値は、以下の数式(2)で求めることができる。
HSP距離値=[4(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh1/2 ・・・数式(2)
ここで、前記数式(2)中、δd、δp、及びδhにおける添え字1、2は、それぞれ第1の物質及び第2の物質であることを意味する。
【0015】
<インクと接着剤のHSP距離値>
上記数式(2)中のδd、δp、及びδhは、溶媒種や接着剤の種類ごとに固有の値が決まっており、溶媒種や接着剤の組み合わせによってHSP距離値は異なる。更に実際のインクは、溶媒物質単体ではなく複数の物質の混合物であるため、混合物としてHSP距離値を算出する必要がある。
インクと接着剤の間のHSP距離値は、インクに用いられる各種溶媒成分と接着剤のHSP距離値のベクトルの合計として得ることができる。ベクトル和を求める場合、各有機溶剤及び水の含有率をそれぞれのベクトル成分に掛け合わせ、組成比を考慮した形で求めることができる。
【0016】
本発明において、インクと接着剤のHSP距離値は以下の定義に基づいて算出する。
溶媒A、溶媒B、及び溶媒Cからなるインクがあり、それぞれx、x、及びxの組成(溶媒成分の質量比)であるとする。インク吐出ヘッドに用いる接着剤として樹脂Wを用いる場合を考える。樹脂Wと溶媒AのHSP距離値をDAW、樹脂Wと溶媒BのHSP距離値をDBW、樹脂Wと溶媒CのHSP距離値をDCWとする。このとき、樹脂Wとインク全体の間のHSP距離値Dinkを以下の数式(3)のように定義することができる。
ink=(DAW×x)+(DBW×x)+(DCW×x) ・・・数式(3)
【0017】
同様にして、3つ以上の溶媒を含む場合について以下の数式で定義することができる。
全部でn種類の溶媒からなるインクがあり、溶媒iの組成をxとする。溶媒iと樹脂Wの間のHSP距離値をDiWとする。このとき、樹脂Wとインク全体の間のHSP距離値Dinkを以下の数式(4)のように定義する。
ink=Σi=1~n(DiW×x) ・・・数式(4)
【0018】
シリコーン樹脂とインクの溶媒の間のHSP距離値の一例について、下記表1に示す。シリコーン樹脂AはKF-96、信越シリコーン株式会社製である。
【0019】
【表1】
【0020】
<水系インク>
水系インクとしては、pHが1以上5以下、又はpHが10以上12以下である水系インクが用いられ、有機溶剤、水、色材、樹脂、添加剤などを含有する。
【0021】
<<有機溶剤>>
本発明に使用する有機溶剤としては特に制限されず、水溶性有機溶剤を用いることができる。例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類等のエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、ペトリオール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等の含窒素複素環化合物、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等のアミド類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール等の含硫黄化合物、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンなどが挙げられる。
これらの中でも、色材として用いられる顔料及び染料の安定性の点から、グリセリン、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールが好ましい。
【0022】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物も好適に使用される。炭素数8以上のポリオール化合物の具体例としては、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールなどが挙げられる。
グリコールエーテル化合物の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
【0023】
炭素数8以上のポリオール化合物、及びグリコールエーテル化合物は、記録媒体として紙を用いた場合に、インクの浸透性を向上させることができる。
【0024】
有機溶剤のインク中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上60質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。
【0025】
<<水>>
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出信頼性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%~60質量%がより好ましい。
【0026】
<<色材>>
色材としては、特に限定されず、顔料、染料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、混晶を使用してもよい。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンダ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色などの光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶媒と親和性のよいものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、又は銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0027】
更に、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0028】
染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能であり、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
【0029】
これらの染料の中でも、インク中における染料の安定性の点から、リアクティブレッド24、218、245、リアクティブオレンジ13、リアクティブブラック5、12、39、リアクティブイエロー95、リアクティブブルー72、49、アシッドブラック172、ダイレクトブルー193、199、アシッドイエロー79、250、アシッドオレンジ94、アシッドレッド52、249が好ましい。
【0030】
インク中の色材の含有量は、画像濃度の向上、良好な定着性及び吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0031】
顔料を分散してインクを得るためには、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法、などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えばカーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
竹本油脂株式会社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
<<顔料分散体>>
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
前記顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いるとよい。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度は20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
前記顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
前記顔料分散体は、必要に応じて、フィルタ、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0033】
<<樹脂>>
インク中に含有する樹脂の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。
これらの樹脂からなる樹脂粒子を用いてもよい。樹脂粒子を、水を分散媒として分散した樹脂エマルションの状態で、色材や有機溶剤などの材料と混合してインクを得ることが可能である。前記樹脂粒子としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種類以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
樹脂粒子の体積平均粒径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な定着性、高い画像硬度を得る点から、10nm以上1,000nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が特に好ましい。
前記体積平均粒径は、例えば、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0035】
樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、定着性、インクの保存安定性の点から、インク全量に対して、1質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0036】
インク中の固形分の粒径については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性、画像濃度などの画像品質を高くする点から、最大個数換算で最大頻度は20nm以上1000nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。固形分は樹脂粒子や顔料の粒子等が含まれる。粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
【0037】
<<添加剤>>
インクには、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、防腐防黴剤、防錆剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0038】
-界面活性剤-
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。
【0039】
シリコーン系界面活性剤には特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するものが、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物などが挙げられる。
【0040】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいので特に好ましい。前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
【0041】
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
【0043】
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(S-1)式で表わされる、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入したものなどが挙げられる。
【0044】
[一般式(S-1)]
【化1】
(但し、前記一般式(S-1)式中、m、n、a、及びbは、それぞれ独立に、整数を表わし、Rは、アルキレン基を表し、R’は、アルキル基を表す。)
【0045】
上記のポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、KF-618、KF-642、KF-643(信越化学工業株式会社)、EMALEX-SS-5602、SS-1906EX(日本エマルジョン株式会社)、FZ-2105、FZ-2118、FZ-2154、FZ-2161、FZ-2162、FZ-2163、FZ-2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社)、BYK-33、BYK-387(ビックケミー株式会社)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(東芝シリコン株式会社)などが挙げられる。
【0046】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16である化合物がより好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、特に一般式(F-1)及び一般式(F-2)で表わされるフッ素系界面活性剤が好ましい。
【0047】
[一般式(F-1)]
【化2】
上記一般式(F-1)で表される化合物において、水溶性を付与するためにmは0~10の整数が好ましく、nは0~40の整数が好ましい。
【0048】
[一般式(F-2)]
2n+1-CHCH(OH)CH-O-(CHCHO)-Y
上記一般式(F-2)で表される化合物において、YはH、又はC2n+1でnは1~6の整数、又はCHCH(OH)CH-CnF2n+1でnは4~6の整数、又はCpH2p+1でpは1~19の整数である。aは4~14の整数である。
【0049】
上記のフッ素系界面活性剤としては市販品を使用してもよい。
この市販品としては、例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも、旭硝子株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(いずれも、DIC株式会社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(いずれも、Chemours社製);FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれも、株式会社ネオス製)、ポリフォックスPF-136A,PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられ、これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のポリフォックスPF-151N及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0050】
インク中における界面活性剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、濡れ性、吐出安定性に優れ、画像品質が向上する点から、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上5質量%以下がより好ましい。
【0051】
-消泡剤-
消泡剤としては、特に制限はなく、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、破泡効果に優れる点から、シリコーン系消泡剤が好ましい。
【0052】
-防腐防黴剤-
防腐防黴剤としては、特に制限はなく、例えば、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オンなどが挙げられる。
【0053】
-防錆剤-
防錆剤としては、特に制限はなく、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0054】
-pH調整剤-
pH調整剤としては、pHを1以上5以下、又はpHが10以上12以下に調整することが可能であれば、特に制限はなく、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0055】
<インクの物性>
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば回転式粘度計(東機産業社製RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
【0056】
<前処理液>
前処理液は、凝集剤、有機溶剤、水を含有し、必要に応じて界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含有してもよい。
有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤は、インクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料を使用できる。
凝集剤の種類は特に限定されず、水溶性カチオンポリマー、酸、多価金属塩等が挙げられる。
【0057】
<後処理液>
後処理液は、透明な層を形成することが可能であれば、特に限定されない。後処理液は、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等、必要に応じて選択し、混合して得られる。また、後処理液は、記録媒体に形成された記録領域の全域に塗布してもよいし、インク像が形成された領域のみに塗布してもよい。
【0058】
<記録媒体>
記録に用いる記録媒体としては、特に限定されないが、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等が挙げられる。
【0059】
記録媒体としては、一般的な記録媒体として用いられるものに限られず、壁紙、床材、タイル等の建材、Tシャツなど衣料用等の布、テキスタイル、皮革等を適宜使用することができる。また、記録媒体を搬送する経路の構成を調整することにより、セラミックスやガラス、金属などを使用することもできる。
【0060】
<記録物>
本発明のインク記録物は、記録媒体上に、本発明のインクを用いて形成された画像を有してなる。
インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法により記録して記録物とすることができる。
【0061】
<記録装置、記録方法>
本発明のインクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、プリンタ/ファックス/コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
本発明において、記録装置、記録方法とは、記録媒体に対してインクや各種処理液等を吐出することが可能な装置、当該装置を用いて記録を行う方法である。記録媒体とは、インクや各種処理液が一時的にでも付着可能なものを意味する。
この記録装置には、インクを吐出するヘッド部分だけでなく、記録媒体の給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
記録装置、記録方法は、加熱工程に用いる加熱手段、乾燥工程に用いる乾燥手段を有してもよい。加熱手段、乾燥手段には、例えば、記録媒体の印字面や裏面を加熱、乾燥する手段が含まれる。加熱手段、乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。加熱、乾燥は、印字前、印字中、印字後などに行うことができる。
また、記録装置、記録方法は、インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
また、記録装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、この記録装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とする広幅の記録装置や、例えばロール状に巻き取られた連続用紙を記録媒体として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
【0062】
記録装置の一例について図1乃至図2を参照して説明する。図1は同装置の斜視説明図である。図2はメインタンクの斜視説明図である。記録装置の一例としての画像形成装置400は、シリアル型画像形成装置である。画像形成装置400の外装401内に機構部420が設けられている。ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク410(410k、410c、410m、410y)の各インク収容部411は、例えばアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケース414内に収容される。これによりメインタンク410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
一方、装置本体のカバー401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダ404が設けられている。カートリッジホルダ404には、メインタンク410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブ436を介して、メインタンク410の各インク排出口413と各色用の吐出ヘッド434とが連通し、吐出ヘッド434から記録媒体へインクを吐出可能となる。
【0063】
この記録装置には、インクを吐出する部分だけでなく、前処理装置、後処理装置と称される装置などを含むことができる。
前処理装置、後処理装置の一態様として、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)などのインクの場合と同様に、前処理液や、後処理液を有する液体収容部とインク吐出ヘッドを追加し、前処理液や、後処理液をインクジェット記録方式で吐出する態様がある。
前処理装置、後処理装置の他の態様として、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法による前処理装置、後処理装置を設ける態様がある。
【0064】
本発明のインクの用途は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、印刷物、塗料、コーティング材、下地用などに応用することが可能である。更に、インクとして用いて2次元の文字や画像を形成するだけでなく、3次元の立体像(立体造形物)を形成するための立体造形用材料としても用いることができる。
立体造形物を造形するための立体造形装置は、公知のものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、インクの収容手段、供給手段、吐出手段や乾燥手段等を備えるものを使用することができる。立体造形物には、インクを重ね塗りするなどして得られる立体造形物が含まれる。また、記録媒体等の基材上にインクを付与した構造体を加工してなる成形加工品も含まれる。前記成形加工品は、例えば、シート状、フィルム状に形成された記録物や構造体に対して、加熱延伸や打ち抜き加工等の成形加工を施したものであり、例えば、自動車、OA機器、電気・電子機器、カメラ等のメーターや操作部のパネルなど、表面を加飾後に成形する用途に好適に使用される。
【0065】
また、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印刷等は、いずれも同義語とする。
記録媒体、メディア、被印刷物は、いずれも同義語とする。
【0066】
<インク吐出ヘッド>
インク吐出ヘッドは、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されている。
本発明は、ピエゾインクジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式などの吐出方法によっては限定されない。
【0067】
<<ノズルプレート>>
インクを吐出する最表面のノズル面部分に使用するプレートである。ノズルプレートにはノズル孔があり、そこからインクを押し出す。
【0068】
<<接着剤>>
インク吐出ヘッドの部材の接合に用いられる接着剤としては、撥水性が極めて高く、水系インクに対する耐久性の高い点から、シリコーン接着剤が用いられる。
シリコーン接着剤としては、例えば、ジメチルシロキサンで構成されるシリコーン樹脂、ポリフェニルメチルシランで構成されるシリコーン樹脂などが挙げられる。
なお、シリコーン接着剤以外にも、例えば、エポキシ接着剤、ウレタン接着剤、オレフィン接着剤などを必要に応じて用いることができる。
【0069】
以下、本発明のインク吐出装置の実施形態について図3及び図4を参照して説明する。図3はインク吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向(圧力室長手方向)に沿う断面説明図、図4はインク吐出ヘッドのノズル配列方向に沿う断面説明図である。
【0070】
インク吐出ヘッド100は、ノズル板1と、個別流路部材である流路板2と、壁面部材としての振動板部材3とを積層接合している。そして、振動板部材3の振動領域(振動板)30を変位させる圧電アクチュエータ11と、ヘッドのフレーム部材を兼ねている共通流路部材20とを備えている。
【0071】
ノズル板1は、液体を吐出する複数のノズル4を有している。
【0072】
流路板2は、複数のノズル4に通じる複数の圧力室6と、各圧力室6にそれぞれ通じる個別流路である個別供給流路7と、1又は複数(本実施形態では1つ)の個別供給流路7に通じる液導入部となる中間供給流路8を形成している。
【0073】
振動板部材3は、流路板2の圧力室6の壁面を形成する変位可能な複数の振動板(振動領域)30を有する。ここでは、振動板部材3は2層構造(限定されない)とし、流路板2側から薄肉部を形成する第1層3Aと、厚肉部を形成する第2層3Bで構成されている。
【0074】
そして、薄肉部である第1層3Aで圧力室6に対応する部分に変形可能な振動領域30を形成している。振動領域30内には、第2層3Bで圧電アクチュエータ11と接合する厚肉部である凸部30aを形成している。
【0075】
そして、振動板部材3の圧力室6とは反対側に、振動板部材3の振動領域30を変形させる駆動手段(アクチュエータ手段、圧力発生手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ11を配置している。
【0076】
この圧電アクチュエータ11は、ベース部材13上に接合した圧電部材にハーフカットダイシングによって溝加工をして、ノズル配列方向において、所要数の柱状の圧電素子12を所定の間隔で櫛歯状に形成している。そして、圧電素子12は、振動板部材3の振動領域30に形成した厚肉部である凸部30aに接合している。
【0077】
この圧電素子12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極(端面電極)に接続され、外部電極にフレキシブル配線部材15が接続されている。
【0078】
共通流路部材20は複数の圧力室6に通じる共通供給流路10を形成している。共通供給流路10は、振動板部材3に設けた開口部9を介して液導入部となる中間供給流路8に連通し、中間供給流路8を介して個別供給流路7に通じている。
【0079】
このインク吐出ヘッド100においては、例えば圧電素子12に与える電圧を基準電位(中間電位)から下げることによって圧電素子12が収縮し、振動板部材3の振動領域30が引かれて圧力室6の容積が膨張することで、圧力室6内に液体が流入する。
【0080】
その後、圧電素子12に印加する電圧を上げて圧電素子12を積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4に向かう方向に変形させて圧力室6の容積を収縮させることにより、圧力室6内の液体が加圧され、ノズル4から液体が吐出される。
【0081】
本実施形態のインク吐出ヘッド100は、循環型インク吐出ヘッドであり、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材としての振動板部材3とを積層接合している。そして、振動板部材3の振動領域(振動板)30を変位させる圧電アクチュエータ11と、ヘッドのフレーム部材を兼ねている共通流路部材20とを備えている。
【0082】
そして、流路板2は、複数のノズル4に各々ノズル連通路5を介して通じる複数の圧力室6と、複数の圧力室6に各々通じる複数の流体抵抗部を兼ねる個別供給流路7と、2以上の個別供給流路7に通じる1又は複数の液導入部となる中間供給流路8などを形成している。
【0083】
個別供給流路7は、前記実施形態と同様に、個別供給流路7は、圧力室6よりも流体抵抗が高い2つの第1流路部7A及び第2流路部7Bと、第1流路部7Aと第2流路部7Bとの間に配置され、第1流路部7A及び第2流路部7Bよりも流体抵抗が低い第3流路部7Cとを含む。
【0084】
なお、流路板2は、複数枚の板状部材2A~2Eを積層して構成しているが、これに限るものではない。
【0085】
また、流路板2は、複数の圧力室6にノズル連通路5を介して各々通じる流路板2の面方向に沿う複数の個別回収流路57と、2以上の個別回収流路57に通じる1又は複数の液導出部となる中間回収流路58を形成している。
【0086】
個別回収流路57は、圧力室6よりも流体抵抗が高い2つの第1流路部57A及び第2流路部57Bと、第1流路部57Aと第2流路部57Bとの間に配置され、第1流路部57A及び第2流路部57Bよりも流体抵抗が低い第3流路部57Cとを含む。個別回収流路57は、第2流路部57Bよりも循環方向において下流側となる流路部57Dは第3流路部57Cと同じ流路幅にしている。
【0087】
共通流路部材20は、共通供給流路10と共通回収流路50とを形成している。なお、本実施形態においては、共通供給流路10は、ノズル配列方向において共通回収流路50と並ぶ流路部分10Aと、共通回収流路50と並ばない流路部分10Bとで構成している。
【0088】
共通供給流路10は、振動板部材3に設けた開口部9を介して液導入部となる中間供給流路8に連通し、中間供給流路8を介して個別供給流路7に通じている。共通回収流路50は、振動板部材3に設けた開口部59を介して液導出部となる中間回収流路58に連通し、中間回収流路58を介して個別回収流路57に通じている。
【0089】
また、共通供給流路10は供給ポート71に通じ、共通回収流路50は回収ポート72に通じている。
【0090】
なお、その他の振動板部材3の層構成、圧電アクチュエータ11の構成などは、前記第1実施形態と同様である。
【0091】
このインク吐出ヘッド100においても、前記第1実施形態と同様にして、圧電素子12を積層方向に伸長させ、振動板部材3の振動領域30をノズル4に向かう方向に変形させて圧力室6の容積を収縮させることにより、圧力室6内の液体が加圧され、ノズル4から液体が吐出される。
【0092】
また、ノズル4から吐出されない液体はノズル4を通過して個別回収流路57から共通回収流路50に回収され、共通回収流路50から外部の循環経路を通じて共通供給流路10に再度供給される。また、ノズル4から液体吐出を行っていないときも、共通供給流路10から圧力室6を経て共通回収流路50に液体が循環し、外部の循環経路を通じて共通供給流路10に再度供給される。
【0093】
本実施形態においても、簡単な構成で、液体吐出に伴う圧力変動を減衰して、共通供給流路10、共通回収流路50に対する伝搬を抑制することができる。
【0094】
次に、本発明に係るインク吐出装置の一例について図5及び図6を参照して説明する。図5はインク吐出装置の概略説明図、図6はインク吐出装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0095】
このインク吐出装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連帳紙、シート材などの連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503と、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509などを備えている。
【0096】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。
【0097】
この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550及びヘッドユニット555に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が形成され、ヘッドユニット555から吐出される処理液で後処理が行われる。
【0098】
ここで、ヘッドユニット550には、例えば、搬送方向上流側から、4色分のフルライン型ヘッドアレイ551A、551B、551C、551D(以下、色の区別しないときは「ヘッドアレイ551」という。)が配置されている。
【0099】
各ヘッドアレイ551は、液体吐出手段であり、それぞれ、搬送される連続体510に対してブラックK,シアンC、マゼンタM、イエローYの液体を吐出する。なお、色の種類及び数はこれに限るものではない。
【0100】
ヘッドアレイ551は、例えば、本発明に係るインク吐出ヘッド(これを、単に「ヘッド」ともいう。)100をベース部材552上に千鳥状に並べて配置したものであるが、これに限らない。
【0101】
次に、インク循環装置の一例について図7を参照して説明する。図7は同循環装置のブロック説明図である。なお、ここでは1つのヘッドのみ図示しているが、複数のヘッドを配列する場合には、マニホールドなどを介して複数のヘッドの供給側、回収側にそれぞれ供給側液体経路、回収側液体経路を接続することになる。
【0102】
インク循環装置600は、供給タンク601、回収タンク602、メインタンク603、第1送液ポンプ604、第2送液ポンプ605、コンプレッサ611、レギュレータ612、真空ポンプ621、レギュレータ622、供給側圧力センサ631、回収側圧力センサ632などで構成されている。
【0103】
ここで、コンプレッサ611及び真空ポンプ621は、供給タンク601内の圧力と回収タンク602内の圧力とに差圧を生じさせる手段を構成している。
【0104】
供給側圧力センサ631は、供給タンク601とヘッド100との間であって、ヘッド100の供給ポート71に繋がった供給側液体経路に接続されている。回収側圧力センサ632は、ヘッド1と回収タンク602との間であって、ヘッド100の回収ポート72に繋がった回収側液体経路に接続されている。
【0105】
回収タンク602の一方は、第1送液ポンプ604を介して供給タンク601と接続されており、回収タンク602の他方は第2送液ポンプ605を介してメインタンク603と接続されている。
【0106】
これにより、供給タンク601から供給ポート71を通ってヘッド100内に液体が流入し、回収ポート72から回収タンク602へ回収され、第1送液ポンプ604によって回収タンク602から供給タンク601へ液体が送られることによって、液体が循環する循環経路が構成される。
【0107】
ここで、供給タンク601にはコンプレッサ611がつなげられており、供給側圧力センサ631で所定の正圧が検知されるように制御される。一方、回収タンク602には真空ポンプ621がつなげられており、回収側圧力センサ632で所定の負圧が検知されるよう制御される。
【0108】
これにより、ヘッド100内を通って液体を循環させつつ、メニスカスの負圧を一定に保つことができる。
【0109】
また、ヘッド100のノズル4から液体を吐出すると、供給タンク601及び回収タンク602内の液体量が減少していく。そのため、適宜、第2送液ポンプ605を用いて、メインタンク603から回収タンク602に液体を補充する。
【0110】
なお、メインタンク603から回収タンク602への液体補充のタイミングは、回収タンク602内の液体の液面高さが所定高さよりも下がったときに液体補充を行うなど、回収タンク602内に設けた液面センサなどの検知結果によって制御することができる。
【0111】
次に、本発明に係るインク吐出装置としての印刷装置の他の例について図8及び図9を参照して説明する。図8は同装置の要部平面説明図、図9は同装置の要部側面説明図である。
【0112】
この印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0113】
このキャリッジ403には、本発明に係るインク吐出ヘッド100及びヘッドタンク441を一体にしたインク吐出ユニット440を搭載している。インク吐出ユニット440のインク吐出ヘッド100は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、インク吐出ヘッド100は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
【0114】
インク吐出ヘッド100は、前述したインク循環装置600と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0115】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
【0116】
搬送ベルト412は用紙410を吸着してインク吐出ヘッド100に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
【0117】
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0118】
更に、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方にインク吐出ヘッド100の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
【0119】
維持回復機構420は、例えばインク吐出ヘッド100のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
【0120】
主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0121】
このように構成したこの印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
【0122】
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じてインク吐出ヘッド100を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0123】
次に、本発明に係るインク吐出ユニットの他の例について図10を参照して説明する。図10はインク吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0124】
このインク吐出ユニット440、前記インク吐出装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、インク吐出ヘッド100で構成されている。
【0125】
なお、このインク吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けたインク吐出ユニットを構成することもできる。
【0126】
次に、本発明に係るインク吐出ユニットの更に他の例について図11を参照して説明する。図11はインク吐出ユニットの正面説明図である。
【0127】
このインク吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられたインク吐出ヘッド100と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0128】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部にはインク吐出ヘッド100と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0129】
本発明において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、又は加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0130】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0131】
「インク吐出ユニット」は、インク吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「インク吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、インク循環装置の構成の少なくとも一つをインク吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0132】
ここで、一体化とは、例えば、インク吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、インク吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていてもよい。
【0133】
例えば、インク吐出ユニットとして、インク吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、インク吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらのインク吐出ユニットのヘッドタンクとインク吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0134】
また、インク吐出ユニットとして、インク吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0135】
また、インク吐出ユニットとして、インク吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、インク吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、インク吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0136】
また、インク吐出ユニットとして、インク吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、インク吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0137】
また、インク吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられたインク吐出ヘッドにチューブが接続されて、インク吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体がインク吐出ヘッドに供給される。
【0138】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
【0139】
「インク吐出装置」には、インク吐出ヘッド又はインク吐出ユニットを備え、インク吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。インク吐出装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を 気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0140】
この「インク吐出装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0141】
例えば、「インク吐出装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0142】
また、「インク吐出装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0143】
上記「インクが付着可能なもの」とは、インクが少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0144】
上記「インクが付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0145】
また、「インク吐出装置」は、インク吐出ヘッドとインクが付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、インク吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、インク吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0146】
また、「インク吐出装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0147】
なお、本発明の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【実施例0148】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0149】
(インクの製造例1~13)
表2及び表3に示すインク処方を撹拌し均一に混合し、得られた混合液を平均孔径0.8μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにより加圧濾過し、粗大粒子及びゴミを除去して、インク1~13を製造した。
【0150】
次に、得られた各インクについて、以下のようにして、pHを測定した。結果を表2及び表3に示した。
【0151】
<インクのpH>
得られた各インクのpHを室温(25℃)下、pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製、HM-30R)により測定した。
【0152】
【表2】
【0153】
【表3】
【0154】
表2及び表3中の各成分の詳細については、以下のとおりである。
・フッ素界面活性剤:FS-3100(Chemours社製)
・C.I.リアクティブブラック5:ビニルスルホン染料
・C.I.リアクティブブラック12:トリアジン染料
【0155】
・グリセリン
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=17.4、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=11.3、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=27.2
【0156】
・2-ピロリドン
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=18.2、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=12.0、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=9.0
【0157】
・カプロラクタム
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=19.4、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=13.8、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=3.9
【0158】
・プロピレングリコール
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=16.8、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=10.4、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=21.3
【0159】
・イオン交換水
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=15.5、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=16.0、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=42.3
【0160】
<インク吐出ヘッドを構成する接着剤>
インク吐出ヘッドとしては、図3に示すような積層PZTを液室流路の加圧に使用したノズル径27μm、600dpiのノズルを有するものを使用した。
インク吐出ヘッドの各部材を接合する接着剤としては、下記の接着剤を用いた。
<接着剤>
-シリコーン接着剤-
・シリコーン樹脂A(KF-96、信越シリコーン株式会社製)
ジメチルシロキサンで構成される接着剤
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=12.3、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=0.4、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=0.3
【0161】
・シリコーン樹脂B
ポリフェニルメチルシランで構成される接着剤
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=15.8、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=0.0、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=0.0
【0162】
-ビスフェノールA型エポキシ接着剤-
下記の処方を下記条件で硬化させたものを用いた。
・主剤:ビスフェノールAジグリシジルエーテル(東京化成工業株式会社製)170質量部
・硬化剤:ジエチレントリアミン(東京化成工業株式会社製)21質量部
・硬化条件:90℃、30分間
分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)=18.4、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)=7.5、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)=7.0
【0163】
(実施例1~11及び比較例1~5)
<記録媒体への前処理方法>
イオン交換水90質量%、アルギン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)2質量%、尿素(富士フイルム和光純薬株式会社製)3質量%、炭酸水素ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)5質量%を攪拌して混合し、前処理液を得た。この前処理液をコットンメディア(綿ブロード 未シル(シルケット加工無し)、株式会社色染社製)に均一に塗布した後、乾燥させることで、記録媒体となる前処理済み記録媒体を得た。
【0164】
<記録媒体への印刷方法>
表7から表9に示すように、インク1~12とインク吐出ヘッド1~3とを組み合わせ、各インクをインクジェットプリンター(Ri100、株式会社リコー製)に充填し、インクジェットプリンターに上記の前処理済み記録媒体をセットし、付着量1.0mg/cmで各インクを均一に吐出してベタ画像を印刷した。
次に、得られたベタ画像に対して100℃のスチーム処理を行った後、50℃に加熱したアルカリ溶液(pH=10に調整したもの)で40分間洗浄した。以上により、各印刷物を作製した。
【0165】
次に、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表4から表9に示した。
【0166】
<インクと接着剤のHSP距離値>
HSP値はハンセンの溶解度パラメータであり、分子間の分散力によるエネルギーδd(MPa0.5)、分子間の双極子相互作用によるエネルギーδp(MPa0.5)、分子間の水素結合によるエネルギーδh(MPa0.5)で構成されており、これら三つのベクトル和としてHSP値が得られる。
【0167】
インクと接着剤のHSP値の間の距離であるHSP距離値は、以下の数式(2)で求めることができる。
HSP距離値=[4(δd-δd+(δp-δp+(δh-δh1/2 ・・・数式(2)
ここで、前記数式(2)中、δd、δp、及びδhにおける添え字1、2は、それぞれインク及び接着剤であることを意味する。
【0168】
インクとインク吐出ヘッドに用いられる接着剤とのHSP距離値は下記数式(3)に基づき算出した。
溶媒A、溶媒B、及び溶媒Cを含有するインクがあり、それぞれx、x、xの組成(溶媒成分の質量比)であるとする。
インク吐出ヘッドに用いる接着剤として樹脂Wを用いる場合を考える。樹脂Wと溶媒AのHSP距離値をDAW、樹脂Wと溶媒BのHSP距離値をDBW、樹脂Wと溶媒CのHSP距離値をDCWとする。このとき、樹脂Wとインク全体の間のHSP距離値Dinkを以下の数式(3)のように定義した。
ink=(DAW×x)+(DBW×x)+(DCW×x) ・・・数式(3)
【0169】
同様にして、3つ以上の溶媒を含む場合も以下の数式で定義した。
全部でn種類の溶媒からなるインクがあり、溶媒iの組成をx(溶媒成分の質量比)とする。溶媒iと樹脂Wの間のHSP距離値をDiWとする。このとき、樹脂Wとインク全体の間のHSP距離値Dinkを下記数式(4)のように定義した。表4~表6にDiw、組成xiをそれぞれ示した。
ink=Σi=1~n(DiW×x) ・・・数式(4)
【0170】
【表4】
【0171】
【表5】
【0172】
【表6】
【0173】
表4から表6の結果に基づき、上記数式(4)から、実施例1~11及び比較例1~5におけるインクと接着剤のHSP距離値を算出した。結果を表7から表9に示した。
【0174】
<接着剤硬化物のインク浸漬時の膨潤度評価>
接着剤を90℃において4時間硬化させた硬化物の質量をW0とし、前記硬化物を表7から表9に示す水系インクに60℃において4週間浸漬させた後の浸漬物の質量をW1とし、下記数式(1)で表される質量増加率を算出し、下記の評価ランクに基づき膨潤度を評価した。
質量増加率(%)={(W1-W0)/W0}×100 ・・・数式(1)
[評価ランク]
ランクS:質量増加率が-2%以上+5%以下
ランクA:質量増加率が-3%以上-2%未満又は+5%超+10%以下
ランクB:質量増加率が-5%以上-3%未満又は+10%超+15%以下
ランクC:質量増加率が-7%以上-5%未満又は+15%超+20%以下
ランクD:質量増加率が-10%以上-7%未満又は+20%超+50%以下
【0175】
<ヘッドの接液寿命に関する評価>
ヘッドの寿命に影響するものとしては、「接着部材の剥がれ易さ」、「接着剤による部材どうしの接合部分からのインクリーク」、「接着剤の劣化、膨潤、溶出に伴うインク吐出安定性」が挙げられる。これらを判定する方法として以下の方法を実施した。
【0176】
[接着部材の剥がれ易さの評価]
Ni板/Siウエハを実施例1~11及び比較例1~5に記載の接着剤により接着し、20mm/minの速度で剥離強度を引っ張り強度試験で測定した。得られた剥離強度をN0とした。
硬化接着後のサンプルを表7~表9に示す水系インクに60℃において4週間浸漬させた後の浸漬物についても、20mm/minの速度で剥離強度を引っ張り強度試験で測定した。得られた剥離強度をN1とした。
下記数式(5)で表される剥離強度増加率を算出し、下記の評価ランクに基づき接着部材の剥がれ易さを評価した。
剥離強度増加率(%)={(N1-N0)/N0}×100 ・・・数式(5)
[評価基準]
ランクS:剥離強度増加率が-10%以上+30%未満
ランクA:剥離強度増加率が-30%以上-10%未満
ランクB:剥離強度増加率が-50%以上-30%未満
ランクC:剥離強度増加率が-70%以上-50%未満
ランクD:剥離強度増加率が-95%以上-70%未満
【0177】
[接着剤による部材どうしの接合部分からのインクリークの評価]
表7~表9に記載の実施例1~11及び比較例1~5の液滴吐出装置について、以下のように、インクリーク評価を行った。
インクリークの評価は、液滴吐出ヘッド内部の収容部に各インクを充填した状態で、60℃の恒温槽にて4週間保管し、その後、液滴吐出ヘッドにチューブをつないでその先端に送風ポンプをつなぎ、送風することによって圧力をかけた。この状態で30分間放置し、インク漏れがあるかどうかを下記の5つの評価基準にて評価した。
[評価基準]
ランクS:インク漏れが全く見られない
ランクA:インク漏れがほんの一部見られる
ランクB:インク漏れが見られるが、ヘッド内部に気泡が生じるほどではない
ランクC:インク漏れが見られ、ヘッド内部に気泡が生じている
ランクD:インク漏れが見られ、ヘッド内部に充填したインクの多くが外に流れ出している
【0178】
[接着剤の劣化、膨潤、溶出に伴うインクの吐出安定性の評価]
<<吐出安定性>>
表7~表9に記載の実施例1~11及び比較例1~5の液滴吐出装置について、以下のように、吐出安定性の評価を行った。
吐出安定性の評価は、液滴吐出ヘッド内部の収容部に各インクを充填した状態で、50
℃の恒温槽にて100日間保管し、その後、液滴吐出ヘッドを取り出してインクを吐出さ
せ、吐出されるインクの状態を確認し、以下の5ランクの評価基準にて評価した。
なお、恒温槽で保管している間、ノズル部のインクが乾燥しないよう、ノズル面が空気
に触れないように専用治具でカバーをした。また、液滴吐出ヘッドに充填しているインク
は、2週間に1度の頻度で入れ替えた。
[評価基準]
ランクS:吐出の乱れがなく、ノズル詰まりもない
ランクA:吐出が若干乱れるが、ノズル詰まりはない
ランクB:吐出が大きく乱れ、ノズル詰まりがややある
ランクC:吐出が大きく乱れ、ノズル詰まりが多くある
ランクD:吐出が大きく乱れ、ノズル詰まりが大半を占める
【0179】
<印刷物の画像濃度>
得られた各印刷物について、分光測色濃度計(装置名:X-Rite939、X-Rite社製)を用いて測色し、印刷物の画像濃度(OD)を下記基準で評価した。
[評価基準]
ランクS:ODが1.5以上
ランクA:ODが1.3以上1.5未満
ランクB:ODが1.2以上1.3未満
ランクC:ODが1.1以上1.2未満
ランクD:ODが1.1未満
【0180】
【表7】
【0181】
【表8】
【0182】
【表9】
【0183】
本発明の態様としては、例えば、以下のとおりである。
<1> pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクを、液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドを有するインク吐出装置を用いて吐出するインク吐出工程を含み、
前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であることを特徴とするインク吐出方法である。
<2> 前記シリコーン接着剤を90℃において4時間硬化させた硬化物の質量をW0とし、
前記硬化物を前記水系インクに60℃において4週間浸漬させた後の浸漬物の質量をW1とすると、下記数式(1)で表される質量増加率が-5%以上15%以下である、前記<1>に記載のインク吐出方法である。
質量増加率(%)={(W1-W0)/W0}×100 ・・・数式(1)
<3> 前記水系インクのpHが1以上4以下又はpHが11以上12以下である、前記<1>から<2>のいずれかに記載のインク吐出方法である。
<4> 前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が33以上38以下である、前記<1>から<3>のいずれかに記載のインク吐出方法である。
<5> 前記水系インクがビニルスルホン色素を含有する、前記<1>から<4>のいずれかに記載のインク吐出方法である。
<6> インクジェット印刷方法である、前記<1>から<5>のいずれかに記載のインク吐出方法である。
<7> pHが1以上5以下又はpHが10以上12以下である水系インクと、
液室、ノズル孔を有するノズルプレート、及び流路を有し、前記水系インクが接する部材がシリコーン接着剤により接合されているインク吐出ヘッドと、を有し、
前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が30以上38以下であることを特徴とするインク吐出装置である。
<8> 前記シリコーン接着剤を90℃において4時間硬化させた硬化物の質量をW0とし、
前記硬化物を前記水系インクに60℃において4週間浸漬させた後の浸漬物の質量をW1とすると、下記数式(1)で表される質量増加率が-5%以上15%以下である、前記<7>に記載のインク吐出装置である。
質量増加率(%)={(W1-W0)/W0}×100 ・・・数式(1)
<9> 前記水系インクのpHが1以上4以下又はpHが11以上12以下である、前記<7>から<8>のいずれかに記載のインク吐出装置である。
<10> 前記水系インクと前記シリコーン接着剤との間のHSP距離値が33以上38以下である、前記<7>から<9>のいずれかに記載のインク吐出装置である。
<11> 前記水系インクがビニルスルホン色素を含有する、前記<7>から<10>のいずれかに記載のインク吐出装置である。
<12> インクジェット印刷装置である、前記<7>から<11>のいずれかに記載のインク吐出装置である。
【0184】
前記<1>から<6>のいずれかに記載のインク吐出方法、及び前記<7>から<12>のいずれかに記載のインク吐出装置によると、従来における諸問題を解決し、本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0185】
400 画像形成装置
401 画像形成装置の外装
401c 装置本体のカバー
404 カートリッジホルダ
410 メインタンク
410k、410c、410m、410y ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各色用のメインタンク
411 インク収容部
413 インク排出口
414 収容容器ケース
420 機構部
434 吐出ヘッド
436 供給チューブ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0186】
【特許文献1】特開平11-10851号公報
図1
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