(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023075897
(43)【公開日】2023-05-31
(54)【発明の名称】外観検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20230524BHJP
【FI】
G01N21/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102045
(22)【出願日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2021188997
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】浅野 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】豊田 千恵
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 一哉
(72)【発明者】
【氏名】江藤 政彦
(72)【発明者】
【氏名】岡田 大樹
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB01
2G051AB02
2G051AB07
2G051BB07
2G051BB11
2G051CA04
2G051CB01
2G051CC09
2G051EA09
(57)【要約】
【課題】 本技術の目的は、基準面と基準面に対してある程度傾斜する傾斜面とを含む検査対象物について基準面および傾斜面を同時に高い精度で検査することができる外観検査装置を提供することである。
【解決手段】 外観検査装置100は、検査対象物OB1に光を照射するためのLED光源110と、検査対象物OB1からの反射光を透過させるテレセントリックレンズ130と、テレセントリックレンズ130を透過させた光を撮像するカメラ120と、検査対象物OB1に入射する入射光の平行度を変更する遮蔽板150と、制御部160と、を有する。制御部160は、カメラ120により受光された光の輝度を積算した光輝度積算値を算出する光輝度積算値算出部163と、光輝度積算値算出部163により算出された光輝度積算値から検査対象物OB1の表面状態を判断する判断部164と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に光を照射するための光源と、
前記検査対象物からの反射光を透過させるテレセントリックレンズと、
前記テレセントリックレンズを透過させた光を撮像する撮像部と、
前記検査対象物に入射する入射光の平行度を変更する光平行度変更部と、
制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記撮像部により受光された光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する光強度積算値算出部と、
前記光強度積算値算出部により算出された前記光強度積算値から前記検査対象物の表面状態を判断する判断部と、を有し、
前記光強度積算値算出部は、
前記光強度積算値として、前記光平行度変更部により変更された複数の平行度の光に対する前記検査対象物からの反射光の光の強度に関する指標を積算した前記光強度積算値を算出すること
を含む外観検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の外観検査装置において、
前記光強度積算値算出部は、
前記光強度積算値として、前記検査対象物からの反射光の輝度を積算した光輝度積算値を算出すること
を含む外観検査装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の外観検査装置において、
前記光源は、
発光する領域を設定することが可能であること
を含む外観検査装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の外観検査装置において、
前記光平行度変更部は、
前記光源からの光を遮蔽する遮蔽板を有し、
前記制御部は、
前記遮蔽板の開口幅を制御する遮蔽板制御部を有すること
を含む外観検査装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の外観検査装置において、
前記光源と前記検査対象物との間に位置するハーフミラーを有し、
前記ハーフミラーは、
前記光源からの光を前記検査対象物に照射し、
前記検査対象物からの反射光を前記テレセントリックレンズに照射すること
を含む外観検査装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の外観検査装置において、
前記検査対象物は、
基準面と、
前記基準面に対して傾斜している傾斜面と、
を含む外観検査装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の外観検査装置において、
前記制御部は、
前記光の平行度に対する前記光の強度に関する指標を予め定めた最大値と最小値との間の数値範囲にスケーリングするスケーリング処理部を有すること
を含む外観検査装置。
【請求項8】
請求項7に記載の外観検査装置において、
前記光強度積算値算出部は、
前記スケーリング処理部によりスケーリングされた後の前記光の強度に関する指標を積算することにより前記光強度積算値を算出すること
を含む外観検査装置。
【請求項9】
請求項8に記載の外観検査装置において、
前記スケーリング処理部は、
スケーリングされた後の前記光の強度に関する指標を再度スケーリングすること
を含む外観検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の技術分野は、金属部品等の傷の有無を検査する外観検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象物に光を照射し、その反射光を受光することにより、検査対象物を検査する技術がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、面光源1と、第1遮光マスクM1と、第2遮光マスクM2と、レンズ2と、ハーフミラー4と、撮像装置Cと、を有する検査システム200が開示されている。検査システム200は、撮像装置Cにより得られる画像の明暗により、キズ等を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
検査対象物の表面が単なる平坦面でなく、基準面と、基準面に対してわずかに傾斜している傾斜面と、を含むことがある。基準面を高い精度で検査するには、基準面と基準面への光の照射位置、反射光の受光位置等を基準面の検査に都合の良い位置に合わせる必要がある。その結果、傾斜面も含めて、基準面と同時に高い精度で検査することは困難となる。したがって、従来の検査システムにおいては、そのような検査対象物の基準面と、複数箇所ある可能性のある傾斜面と、を同時に高い精度で検査することは決して容易ではない。
【0006】
そのため、例えば、基準面を検査した後に傾斜面を検査しなければならなくなることがある。この場合には、検査対象物を検査する工数が多くなってしまう。また、高い精度で検査するためには、一つ一つの面を高い精度で位置合わせする必要がある。
【0007】
本明細書の技術が解決しようとする課題は、基準面と基準面に対してある程度傾斜する傾斜面とを含む検査対象物について基準面および傾斜面を同時に高い精度で検査することができる外観検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様における外観検査装置は、検査対象物に光を照射するための光源と、検査対象物からの反射光を透過させるテレセントリックレンズと、テレセントリックレンズを透過させた光を撮像する撮像部と、検査対象物に入射する入射光の平行度を変更する光平行度変更部と、制御部と、を有する。制御部は、撮像部により受光された光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する光強度積算値算出部と、光強度積算値算出部により算出された光強度積算値から検査対象物の表面状態を判断する判断部と、を有する。光強度積算値算出部は、光強度積算値として、光平行度変更部により変更された複数の平行度の光に対する検査対象物からの反射光の光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する。
【0009】
この外観検査装置は、光強度積算値を算出する。光強度積算値は、複数の平行度の光の反射光の情報を含んでいる。このため、外観検査装置は、基準面に対して大きくない角度で傾斜する面について、同時に、キズもしくは打痕の有無を検査することができる。
【発明の効果】
【0010】
本明細書では、基準面と基準面に対してある程度傾斜する傾斜面とを含む検査対象物について基準面および傾斜面を同時に高い精度で検査することができる外観検査装置が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の外観検査装置が検査する検査対象物OB1を示す平面図である。
【
図2】
図1の矢印K1の方向から視た検査対象物の側面図である。
【
図3】第1の実施形態の外観検査装置100の概略構成図である。
【
図4】第1の実施形態の外観検査装置100の制御部160を示すブロック図である。
【
図5】照射角が27°のときの照明パターンと光の平行度との間の関係を示す図である。
【
図6】照射角が1°のときの照明パターンと光の平行度との間の関係を示す図である。
【
図7】キズもしくは打痕がある場合における光輝度積算値を例示するグラフである。
【
図8】キズもしくは打痕がない場合における光輝度積算値を例示するグラフである。
【
図9】第1の実施形態の外観検査装置100における基準面からの角度と光輝度積算値との間の関係を例示するグラフである。
【
図10】第1の実施形態の外観検査装置100における検査対象物OB1上の基準面Sf0および表面Sf1、Sf2、Sf3の光輝度積算値プロファイルを例示するグラフである。
【
図11】光の平行度を変化させない場合における基準面からの角度と光の輝度との間の関係を例示するグラフである。
【
図12】光の平行度を変化させない場合における位置と光の輝度との間の関係を例示するグラフである。
【
図13】第1の実施形態の外観検査装置100の処理を示すフローチャートである。
【
図14】第1の実施形態の外観検査装置100の変形例における処理を示すフローチャートである。
【
図15】第2の実施形態の外観検査装置200の概略構成図である。
【
図16】第2の実施形態の外観検査装置200におけるディスプレイ210の照明パターンと平行度との間の関係を示す図である。
【
図17】表面に液体がない金属部品における光の反射を示す図である。
【
図18】表面に液体がある金属部品における光の反射を示す図である。
【
図19】光が空気からパラフィンオイルに入射したしたときの反射率の角度依存性を示すグラフである。
【
図20】加工油の付着がない場合の輝度値を示すグラフである。
【
図21】加工油の付着がある場合の輝度値を示すグラフである。
【
図22】正規化処理後における加工油の付着がない場合の輝度値を示すグラフである。
【
図23】正規化処理後における加工油の付着がある場合の輝度値を示すグラフである。
【
図24】キズもしくは打痕が無い試験片の角度と光輝度積算値との間の関係を示すグラフである。
【
図25】キズもしくは打痕が無い試験片の角度と輝度値との間の関係を示すグラフである。
【
図26】打痕が有る試験片の位置と光輝度積算値との間の関係を示すグラフ(その1)である。
【
図27】打痕が有る試験片の位置と輝度値との間の関係を示す(その1)グラフである。
【
図28】打痕が有る試験片の位置と光輝度積算値との間の関係を示すグラフ(その2)である。
【
図29】打痕が有る試験片の位置と輝度値との間の関係を示すグラフ(その2)である。
【
図30】光の輝度値の計測値を概念的に分解したものを示す図である。
【
図31】光の輝度値の最大値と最小値と中央値とを示すグラフである。
【
図32】加工油の付着がある試験片1の測定結果を示す図である。
【
図33】加工油の付着がある試験片2の測定結果を示す図である。
【
図34】加工油の付着がある試験片3の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、具体的な実施形態について、外観検査装置を例に挙げて説明する。しかし、本明細書の技術はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(第1の実施形態)
1.検査対象物
図1は、第1の実施形態の外観検査装置が検査する検査対象物OB1を示す平面図である。
図2は、
図1の矢印K1の方向から視た検査対象物の側面図である。検査対象物OB1は、板状に近い金属部品である。
【0014】
図1および
図2に示すように、検査対象物OB1は、基準面Sf0と、表面Sf1、Sf2、Sf3と、を有する。基準面Sf0と、表面Sf1、Sf2、Sf3とは、光を反射する反射面である。基準面Sf0と、表面Sf1、Sf2、Sf3とは、平行に近い面である。表面Sf1は、基準面Sf0に対して1°の角度で傾斜している傾斜面である。表面Sf2は、基準面Sf0に対して2°の角度で傾斜している。表面Sf3は、基準面Sf0に対して3°の角度で傾斜している。
【0015】
このように、検査対象物OB1は、複数の反射面を有し、それらの表面は互いにわずかに傾斜している。このような検査対象物OB1に対して光を用いた外観検査を実施する場合には、表面Sf1と表面Sf2とを同時に検査することは一般に困難である。
【0016】
2.外観検査装置
2-1.各部
図3は、第1の実施形態の外観検査装置100の概略構成図である。外観検査装置100は、LED光源110と、カメラ120と、テレセントリックレンズ130と、ハーフミラー140と、遮蔽板150と、制御部160と、を有する。外観検査装置100は、検査対象物OB1に光を照射し、その反射光から検査対象物OB1の傷の有無を検査する。
【0017】
LED光源110は、検査対象物OB1に光を照射するための光源である。LED光源110は、面光源であるとよい。
【0018】
カメラ120は、検査対象物OB1により反射された光を撮像する撮像部である。カメラ120は、テレセントリックレンズ130を透過させた光を撮像する。
【0019】
テレセントリックレンズ130は、主光線をレンズ光軸に対して平行にする。テレセントリックレンズ130は、検査対象物OB1からの反射光を透過させる。テレセントリックレンズ130は、カメラ120に取り付けられている。ハーフミラー140からの光は、テレセントリックレンズ130に入射した後にカメラ120に入射する。
【0020】
ハーフミラー140は、LED光源110からの光を検査対象物OB1に向けて照射するとともに検査対象物OB1からの反射光をカメラ120に向けて照射する。ハーフミラー140は、検査対象物OB1の配置位置とLED光源110との間に配置されている。ハーフミラー140は、LED光源110からの光の進行方向に対して傾斜して配置されている。例えば、ハーフミラー140は、LED光源110からの光に対して45°の角度で傾斜している。
【0021】
遮蔽板150は、LED光源110からの光の一部を遮蔽することができる。遮蔽板150は、開口部を有し、その開口部の大きさを変えることができる。このため、遮蔽板150は、LED光源110から検査対象物OB1に入射する入射光の平行度を変更することが可能な光平行度変更部の一部である。つまり、光平行度変更部は、遮蔽板150を有する。
【0022】
制御部160は、各部を制御する。制御部160は、例えば、遮蔽板150における開口部の大きさを制御する。これにより、制御部160は、LED光源110からの光の平行度を制御することができる。また、制御部160は、カメラ120が受光した光を演算する演算部を有する。
【0023】
2-2.各部の配置と光の経路
LED光源110は、ハーフミラー140を間に挟んで検査対象物OB1の配置位置と対面している。ハーフミラー140は、LED光源110と検査対象物OB1との間に位置する。ハーフミラー140は、LED光源110からの光を検査対象物OB1に照射し、検査対象物OB1からの反射光をテレセントリックレンズ130に照射する。
【0024】
LED光源110から発せられた光は、遮蔽板150により平行度を調整された後にハーフミラー140を透過し、検査対象物OB1により反射される。検査対象物OB1に反射された光は、ハーフミラー140により反射され、カメラ120に向かう向きに進行する。ハーフミラー140に反射された光は、テレセントリックレンズ130を透過し、カメラ120に入射する。
【0025】
3.制御部
図4は、第1の実施形態の外観検査装置100の制御部160を示すブロック図である。
図4に示すように、制御部160は、遮蔽板制御部161と、光強度検出部162と、光輝度積算値算出部163と、判断部164と、を有する。
【0026】
遮蔽板制御部161は、遮蔽板150の開口幅を制御する。これにより、LED光源110からの光の平行度を調整する。光の平行度は、
図3の照射角θにより表現される。遮蔽板150の開口幅が小さいほど、照射角θは小さくなる。遮蔽板制御部161は、光の照射角θを、例えば、1°から15°まで1°刻みで変化させることができる。
【0027】
光強度検出部162は、遮蔽板150を制御することにより光の平行度を変えたLED光源110からの光を検査対象物OB1に照射し、その反射光を受光するカメラ120により受光された光の輝度を検出する。
【0028】
光輝度積算値算出部163は、カメラ120により受光された光の輝度を積算した光輝度積算値を算出する。実際には、光輝度積算値算出部163は、光強度検出部162により検出された光の輝度を積算することにより、光輝度積算値を算出する。この光輝度積算値は、例えば、1°から15°までの照射角θの光を照射した場合における検査対象物OB1からの反射光の輝度を積算した積算値である。つまり、光輝度積算値は、例えば、照射角θが1°の光を入射した場合の反射光と、照射角θが2°の光を入射した場合の反射光と、を順次足し合わせた値である。
【0029】
判断部164は、光輝度積算値算出部163により算出された光輝度積算値から検査対象物OB1の表面状態を判断する。例えば、判断部164は、検査対象物OB1にキズもしくは打痕があるか否かを判断する。
【0030】
4.光輝度積算値
4-1.照射角と光の平行度
図5は、照射角が27°のときの照明パターンと光の平行度との間の関係を示す図である。
図5には光の照射角θが示されている。照射角θは、照明パターンの中心を挟んで対向する2点からの光が検査対象物OB1の表面でなす角のうちの最大の角度である。
図5に示すように、照明パターンが大きいと、照射角θは大きく、平行度は低い。平行度が低いとは、照射角θが大きいことをいう。
【0031】
図6は、照射角が1°のときの照明パターンと光の平行度との間の関係を示す図である。
図6に示すように、照明パターンが小さいと、照射角θは小さく、平行度は高い。
【0032】
後述するように、外観検査装置100は、光源の照明パターンの大きさを変化させながら光を検査対象物OB1に照射し、平行度が異なる光の輝度を積算した光輝度積算値を算出する。この光輝度積算値に基づいて、外観検査装置100は検査対象物OB1のキズもしくは打痕の有無を判断する。
【0033】
4-2.光輝度積算値の算出
例えば、照射角が1°から27°まで1°ずつ変化させる場合について説明する。この場合には、照射角が1°の輝度値、照射角が2°の輝度値、…、照射角が27°の輝度値を順次足し合わせる。光輝度積算値は、照射角が1°から照射角が27°までの輝度の総和である。このため、外観検査装置100は、照明パターンの大きさを1°ずつ変化させながら、検査対象物OB1からの光を観測する。外観検査装置100は、光輝度積算値を算出する。
【0034】
5.光輝度積算値およびキズ等の有無
5-1.キズ等の有無の判断
図7は、キズもしくは打痕がある場合における光輝度積算値を例示するグラフである。
図7に示すように、キズもしくは打痕がある領域の周辺で光輝度積算値が比較的大きく変化している。
【0035】
図8は、キズもしくは打痕がない場合における光輝度積算値を例示するグラフである。
図8に示すように、キズもしくは打痕がない場合には、光輝度積算値はほぼ一定値をとる。
【0036】
判断部164は、
図7のように光輝度積算値が局所的に大きく変化している場合には、検査対象物OB1にキズもしくは打痕があると判断する。判断部164は、
図8のように光輝度積算値が位置によってほとんど変化しない場合には、検査対象物OB1にキズもしくは打痕がないと判断する。
【0037】
5-2.光輝度積算値と傾斜面との間の関係
光輝度積算値は、検査対象物OB1に平行度を変えながら光を照射した後の反射光を積算した値である。このため、光輝度積算値は、基準面Sf0からの反射光だけでなく、表面Sf1、Sf2、Sf3からの反射光の情報をも含んでいる。
【0038】
5-3.基準面および傾斜面の測定
図9は、第1の実施形態の外観検査装置100における基準面からの角度と光輝度積算値との間の関係を例示するグラフである。
図9の横軸は基準面Sf0からの角度(°)である。
図9の縦軸は光輝度積算値である。
【0039】
図9に示すように、基準面Sf0からの角度が0°の場合には、光輝度積算値はa0である。基準面Sf0からの角度が1°の場合には、光輝度積算値はa1である。基準面Sf0からの角度が2°の場合には、光輝度積算値はa2である。基準面Sf0からの角度が3°の場合には、光輝度積算値はa3である。
【0040】
前述のように、光輝度積算値は、基準面Sf0以外からの反射光の情報をも含んでいる。このため、例えば、基準面からの角度と光輝度積算値との間の関係が
図9に示すような外観検査装置100の場合には、基準面Sf0に対して、0°以上5°以下の傾斜面からの反射光を検出することができる。このように、部位により表面の角度が変化しているような検査対象物OB1を検査する場合であっても、外観検査装置100は複数の部位を同時に検査することができる。
【0041】
図10は、第1の実施形態の外観検査装置100における検査対象物OB1上の基準面Sf0および表面Sf1、Sf2、Sf3の光輝度積算値プロファイルを例示するグラフである。
図10の横軸は検査対象物OB1上の位置である。
図10の縦軸は光輝度積算値である。
【0042】
図10は、検査対象物OB1の基準面Sf0、表面Sf1、Sf2、Sf3にキズもしくは打痕が存在しないことを示している。仮に、キズもしくは打痕がある検査対象物OB1のロットを計測した場合には、
図10のいずれかの線が、
図7に示すように、大きく変動する。例えば、表面Sf1にキズもしくは打痕がある場合には、光輝度積算値a1を出力する線が大きく変動する。このように、光輝度積算値を算出することにより、どの表面にキズもしくは打痕があるかを特定することができる。
【0043】
5-4.平行度を変化させない場合
第1の実施形態の外観検査装置100は、平行度を変化させながら光輝度積算値を算出する。そこで、第1の実施形態との比較のために、平行度を変化させることなく光の輝度を検出する場合について説明する。
【0044】
図11は、光の平行度を変化させない場合における基準面からの角度と光の輝度との間の関係を例示するグラフである。
図11の横軸は基準面Sf0からの角度(°)である。
図11の縦軸は光の輝度である。
【0045】
図11に示すように、基準面Sf0からの角度が0°では光の輝度は高いが、その他の角度では光の輝度はほとんどゼロである。このため、この場合の外観検査装置は、基準面Sf0からの角度が0°近傍の光のみ検出できる。
【0046】
図12は、光の平行度を変化させない場合における位置と光の輝度との間の関係を例示するグラフである。
図12の横軸は検査対象物OB1の位置である。
図12の縦軸は光の輝度である。
【0047】
図12に示すように、基準面Sf0からの反射光の輝度は正の値をとる。しかし、表面Sf1、Sf2、Sf3からの反射光の輝度はほとんどゼロである。つまり、光の平行度を変化させない装置においては、基準面Sf0を検査できるが、表面Sf1、Sf2、Sf3を同時に検査することができない。
【0048】
光の平行度を変化させない外観検査装置においては、一つ一つの面を順次検査する必要がある。また、基準面Sf0に対して、少しでも傾斜していると反射光をカメラ120で受光することが困難である。すなわち、検査対象物OB1を毎回、非常に高い精度で位置合わせする必要がある。このように、光の平行度を変化させない外観検査装置においては、検査対象物OB1のうちの測定したい面を測定の度に高精度で位置合わせする必要がある。したがって、この場合の外観検査装置においては、位置合わせの精度が落ちると、キズもしくは打痕を検出しそこなうおそれがある。また、検査にかかる工数も増大する。
【0049】
6.検査フロー
図13は、第1の実施形態の外観検査装置100の処理を示すフローチャートである。
【0050】
まず、遮蔽板制御部161が遮蔽板150の開口幅を設定する(S101)。そして、LED光源110が光を照射する。遮蔽板150は、この光の平行度を変更する。ハーフミラー140は、LED光源110からの光を検査対象物OB1に向けて透過させる。検査対象物OB1からの反射光は、ハーフミラー140により反射されてテレセントリックレンズ130に入射した後にカメラ120に入射する。そして、S102に進む。
【0051】
次に、制御部160の光強度検出部162がカメラ120に入射した光の強度を検出する(S102)。光強度検出部162は、検出した光の強度の情報を保持する。そして、S103に進む。
【0052】
S103では、光の平行度の数が予め定めた閾値n以上であるか否かを判断する。光の平行度の数が予め定めた閾値n以上である場合には(S103:Yes)、S104に進む。光の平行度の数が予め定めた閾値n未満である場合には(S103:No)、S101に戻る。
【0053】
S104では、光輝度積算値算出部163は、光強度検出部162により検出されるとともに保持されている複数の光の平行度に対する輝度の情報を取得する。そして、光輝度積算値算出部163は、検査対象物OB1の各位置における光輝度積算値を算出する。この光輝度積算値は、複数の平行度に対する検査対象物OB1からの反射光の光の輝度を積算した値である。
【0054】
7.第1の実施形態の効果
第1の実施形態の外観検査装置100は、LED光源110から検査対象物OB1に光を照射し、その反射光をカメラ120に入射させる。その際に、LED光源110側の光の平行度を徐々に変えながら検査対象物OB1に照射し、その反射光の光輝度積算値を算出する。
【0055】
光輝度積算値は、異なる平行度の光を検査対象物OB1に照射した後の反射光を積算した値である。このため、光輝度積算値は、基準面Sf0の情報だけでなく、基準面Sf0に対してそれほど大きくない角度で傾斜する面からの反射光の情報をも含んでいる。したがって、外観検査装置100は、基準面Sf0に対して0°の面だけでなく、基準面Sf0に対して多少傾斜している傾斜面をも、同時に検査することができる。
【0056】
外観検査装置100は、検査対象物OB1の観測面の位置が多少傾斜していても検査することができる。このため、外観検査装置100は、キズもしくは打痕を正確に検出することができる。また、外観検査装置100は、検査にかかる工数を削減することができる。
【0057】
8.変形例
8-1.光強度積算値算出部
第1の実施形態の外観検査装置100においては、光輝度積算値により検査対象物OB1の傷の有無を検査する。光の輝度の代わりに、その他の光の強度に関する指標を積算した積算値を用いてもよい。例えば、光輝度積算値算出部163の代わりに、光強度積算値算出部を有する。光強度積算値算出部は、光強度積算値として、光平行度変更部により変更された複数の平行度の光に対する検査対象物OB1からの反射光の光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する。
【0058】
8-2.検査対象物が大きい場合
図14は、第1の実施形態の外観検査装置100の変形例における処理を示すフローチャートである。検査対象物OB1が大きい場合には、検査対象物OB1の位置をずらして、複数回にわたって検査を行えばよい。
【0059】
図13と異なる点について説明する。S103において、光の平行度の数が予め定めた閾値n以上である場合には(S103:Yes)、S211に進む。
【0060】
S211では、光を照射した検査対象物OB1の位置の数が、予め定めた閾値m以上である場合には(S211:Yes)、S104に進む。光を照射した検査対象物OB1の位置の数が、予め定めた閾値m未満である場合には(S211:No)、S101に戻る。このために、検査対象物OB1の位置を動かせばよい。
【0061】
8-3.検査対象物の表面の角度
検査対象物OB1において、表面Sf1、Sf2、Sf3は、それぞれ、基準面Sf0に対して、1°、2°、3°傾斜している。もちろん、これらの傾斜角は、上記以外であってもよい。
【0062】
8-4.検査対象物の形状
検査対象物OB1は、基準面Sf0と、表面Sf1、Sf2、Sf3と、を有する。基準面Sf0に対して傾斜する面は、1以上であってもよい。また、基準面Sf0に対して傾斜する面は無くてもよい。
【0063】
8-5.光の平行度
第1の実施形態では、光の平行度は、1°刻みで1°から15°までの15通りを採用している。平行度の刻み幅は、上記以外であってもよい。また、光の平行度の下限角度および上限角度は、上記以外であってもよい。
【0064】
8-6.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0065】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
【0066】
1.外観検査装置
図15は、第2の実施形態の外観検査装置200の概略構成図である。外観検査装置200は、ディスプレイ210と、カメラ120と、テレセントリックレンズ130と、ハーフミラー140と、平凸レンズ250と、制御部160と、を有する。
【0067】
ディスプレイ210は、検査対象物OB1に光を照射するための光源である。ディスプレイ210は、画面の全部または一部を発光させることができる。つまり、ディスプレイ210は、発光する領域を設定することが可能である。
【0068】
平凸レンズ250およびディスプレイ210は、光の平行度を変更することのできる光平行度変更部である。
【0069】
図16は、第2の実施形態の外観検査装置200におけるディスプレイ210の照明パターンと平行度との間の関係を示す図である。
図16に示すように、光っている領域の径を大きくするほど、光の平行度は低くなる。逆に、光っている領域の径を小さくするほど、光の平行度は高くなる。
【0070】
2.第2の実施形態の効果
平面画面の全部または一部を発光させるディスプレイ210および平凸レンズ250を組み合わせて用いることにより、光の平行度を調整することができる。このため、第1の実施形態と同様に、光輝度積算値算出部163は、光輝度積算値を算出することができる。
【0071】
3.変形例
3-1.プロジェクター
光源として、プロジェクターおよびスクリーンを用いてもよい。プロジェクターからの光はスクリーンを透過し、その透過光はハーフミラー140に入射する。ハーフミラー140を透過した光は、検査対象物OB1に入射する。
【0072】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。第3の実施形態の外観検査装置のハードウェア構成は第1の実施形態と同様である。
【0073】
1.プレス加工部品
1-1.プレス加工と検査
第3の実施形態における検査対象物OB1はプレス加工部品である。プレス加工部品はプレス型内での潤滑を目的として加工油に覆われる。プレス成形された後のプレス加工部品を検査する場合には、加工油を除去後のプレス加工部品を検査すればよい。しかし、プレス加工の金型に異物の付着等の問題が生じた場合には連続して生産される多数の加工部品に同様にキズもしくは打痕が生じるおそれがある。このため、プレス成形直後、すなわち加工油の除去前のプレス加工部品を検査することにより、異常を早期に発見することができれば、加工ラインの問題点を早期に解決し、歩留まりを向上させることができる。
【0074】
1-2.加工油がある場合の問題点
図17は、表面に液体がない金属部品における光の反射を示す図である。ここで、金属部品の表面は理想的な鏡面であるとする。光は金属部品に入射し、鏡面で反射する。この場合には入射光の強度I
0と反射光の強度I
1とは等しい。
【0075】
図18は、表面に液体がある金属部品における光の反射を示す図である。ここで、金属部品の表面は理想的な鏡面であるとする。また、液体は完全に透明ではない。光は液体に入射した後に金属部品の鏡面で反射し、再び液体の内部を進行する。この場合には、光が空気から液体に進入する際、および液体から空気に進入する際に反射される。また、光は液体に吸収されるため、光の強度は減衰する。この場合には、反射光I
2は入射光I
0よりも小さい。
【0076】
したがって、表面が加工油で覆われている加工部品の場合には、加工油による光の反射および吸収が生じる。加工油が加工部品の上に存在する場合には、光の強度が相対的に小さい。このため、加工部品の表面のキズもしくは打痕を計測することは決して容易ではない。
【0077】
図19は、光が空気からパラフィンオイルに入射したしたときの反射率の角度依存性を示すグラフである。ここで、空気の屈折率を1とし、パラフィンオイルの屈折率を1.67とした。
図19の横軸は光の入射角(°)であり、縦軸は反射率(%)である。
【0078】
入射角が50°程度以下の場合には、反射率はほとんど変化せず、入射角が60°程度以上の場合には、反射率が急激に上昇する。なお、入射角が0°の場合の反射率と入射角が15°の場合の反射率との差は0.15%程度である。
【0079】
したがって、プレス加工部品が基準面に対してそれほど大きくない角度を持つような部品であれば、加工油による光の反射および吸収の効果は照射角によらず一定であると仮定することができる。
【0080】
2.規格化処理部
制御部160は、光の平行度に対する光の強度に関する指標を予め定めた最大値と最小値との間の数値範囲にスケーリングするスケーリング処理部を有する。このとき、光強度積算値算出部163は、スケーリング処理部によりスケーリングされた後の光の強度に関する指標を積算することにより光強度積算値を算出する。
【0081】
3.画像処理方法
3-1.処理方法
第3の実施形態では、加工油による光の強度の減少を正規化処理により補正する。ここで、正規化処理とは、一つの加工部品から測定される光の輝度の最大値を1とおき、最小値を0とおくように規格化する処理である。この正規化処理を行うことにより、測定された光の強度を定数倍することと同様の効果が得られる。
【0082】
まず、データ配列M(Xi,Yj,Am,In)を作成する。ここで、Xi、Yjは、撮像した画像のX座標、Y座標である。Amは、照射角である。Inは、光の輝度値である。
【0083】
次に、座標(Xi,Yj)ごとに、輝度値Inの最大値および最小値を抽出する。ほとんどの場合、照射角Amが大きいときに最大値をとり、照射角Amが小さいときに最小値をとる。例えば、1°から27°までの照射角Amを採用する場合には、照射角が1°のときに輝度値Inは最小値をとり、照射角が27°のときに輝度値Inが最大値をとることがほとんどである。
【0084】
次に、座標(Xi,Yj)ごとに、最小値が0、最大値が1となるように輝度値Inをスケーリングする。これにより、座標(Xi,Yj)ごとに輝度値がスケーリングされる。例えば、座標(X1,Y2)では、すべての照射角Amに対する輝度値Inが1.2倍され、座標(X3,Y4)では、すべての照射角Amに対する輝度値Inが1.6倍される。このように、座標ごとに規格化される際にかかる因子の大きさが異なる。
【0085】
次に、スケーリングされた輝度値Inに対して、座標(Xi,Yj)ごとに、光輝度積算値を算出する。すなわち、異なる照射角Amに対する輝度値Inを足し合わせる。
【0086】
3-2.処理結果
図20は、加工の付着油がない場合の輝度値を示すグラフである。
図21は、加工油の付着がある場合の輝度値を示すグラフである。
図20および
図21に示すように、照射角が一定以上の大きい領域では、加工油がある場合の輝度値は加工油がない場合の輝度値よりも小さい。
【0087】
図22は、正規化処理後における加工油の付着がない場合の輝度値を示すグラフである。
図23は、正規化処理後における加工油の付着がある場合の輝度値を示すグラフである。正規化処理を実施することにより、加工油の有無によらず、測定される光の輝度の最大値は1に規格化されている。
【0088】
このように、正規化処理を実施することにより、加工油の有無によらず光の輝度値を評価することができる。これは、座標ごとに規格化される際にかかる因子の大きさが異なるためである。
【0089】
4.第3の実施形態の効果
第3の外観検査装置は、計測した光の輝度値を正規化処理する。これにより、加工油がない場合の輝度値の最大値と加工油がある場合の輝度値の最大値とが等しくなる。このため、外観検査装置は、加工油の有無によらずプレス加工部品のキズもしくは打痕の有無を判断することができる。
【0090】
5.変形例
5-1.最大値および最小値
正規化処理された後の輝度値の最大値は1であり最小値は0である。しかし、最大値は1以外の数値であってよいし、最小値は0以外の数値であってよい。この場合、スケーリング処理部は、スケーリングされた後の光の強度に関する指標を再度スケーリングする。例えば、最大値は255であり、最小値は0であってよい。また、例えば、最大値が100であり、最小値が-100であってもよい。最大値および最小値を決め、最大値と最小値との間の数値の比例関係を保持すれば、その他の数値であってよい。
【0091】
5-2.組み合わせ
上記の変形例および第1の実施形態から第2の実施形態までの変形例を組み合わせてよい。
【0092】
(実施形態の組み合わせ)
第1の実施形態から第3の実施形態までを変形例を含めて組み合わせてもよい場合がある。
【0093】
(評価試験)
1.光輝度積算値
第1の実施形態の外観検査装置100を用いた。検査対象物OB1としてキズもしくは打痕が無い金属板を用いた。光源に対する金属板の角度を変えながら、カメラ120により画像を取得した。その際に、光の平行度も変えた。
【0094】
図24は、キズもしくは打痕が無い試験片の角度と光輝度積算値との間の関係を示すグラフである。
図24の横軸は試験片の角度(°)である。
図24の縦軸は光輝度積算値である。
【0095】
図24に示すように、光軸に対する試験片の表面(基準面)の角度が0°から小さい角度でずれている場合には、光輝度積算値はゼロでない値をとる。試験片の表面(基準面)の角度が、例えば、1°以上5°以下の場合には、光輝度積算値はゼロでない値をとる。このため、外観検査装置は、基準面に対して傾斜している面の傷の有無を検査することができる。
【0096】
図25は、キズもしくは打痕が無い試験片の角度と輝度値との間の関係を示すグラフである。
図25の横軸は試験片の角度(°)である。
図25の縦軸は輝度値である。
【0097】
図25に示すように、光軸に対する試験片の表面(基準面)の角度が0°からずれている場合には、輝度値はほぼゼロである。試験片の表面(基準面)の角度が、例えば、1°以上5°以下の場合には、輝度値はほぼゼロである。このため、外観検査装置は、基準面に対して傾斜している面の傷の有無を検査することが困難である。
【0098】
2.キズもしくは打痕の有無
第2の実施形態の外観検査装置200を用いた。検査対象物OB1としてキズもしくは打痕が有る金属板を用いた。光源に対する金属板の角度を変えながら、カメラ120により画像を取得した。その際に、光の平行度も変えた。
【0099】
2-1.試験片に角度をつけなかった場合(基準面Sf0)
まず、試験片に角度をつけなかった場合について説明する。第1の実施形態において基準面Sf0を測定する場合に対応している。
【0100】
図26は、打痕が有る試験片の位置と光輝度積算値との間の関係を示すグラフ(その1)である。
図26の横軸は試験片の位置である。
図26の縦軸は光輝度積算値である。
【0101】
図26に示すように、光輝度積算値は、中央付近の位置で大きく変動している。光輝度積算値は、2つの窪みを有する。これらの窪みは、打痕の左端と右端とを指していると考えられる。したがって、この場合には、打痕の有無を判別できる。
【0102】
図27は、打痕が有る試験片の位置と輝度値との間の関係を示す(その1)グラフである。
図27の横軸は試験片の位置である。
図27の縦軸は輝度値である。
【0103】
図27に示すように、輝度値は、中央付近の位置で大きく変動している。輝度値は、中央付近で2つのピークを有する。したがって、この場合には、打痕の有無を判別できる。
【0104】
2-2.試験片に角度をつけた場合(表面Sf1)
次に、試験片に角度をつけた場合について説明する。試験片の角度は1°である。第1の実施形態において表面Sf1を測定する場合に対応している。
【0105】
図28は、打痕が有る試験片の位置と光輝度積算値との間の関係を示すグラフ(その2)である。
図28の横軸は試験片の位置である。
図28の縦軸は光輝度積算値である。
【0106】
図28に示すように、光輝度積算値は、中央付近の位置で大きく変動している。光輝度積算値は、2つの窪みを有する。これらの窪みは、打痕の左端と右端とを指していると考えられる。したがって、この場合には、打痕の有無を判別できる。
【0107】
図29は、打痕が有る試験片の位置と輝度値との間の関係を示すグラフ(その2)である。
図29の横軸は試験片の位置である。
図29の縦軸は輝度値である。
【0108】
図29に示すように、輝度値は、中央付近で1つのピークを有する。このピークは、非常に小さい。したがって、この場合には、打痕の有無を判別することは困難である。
【0109】
3.加工油がある場合
3-1.評価方法
図30は、光の輝度値の計測値を概念的に分解したものを示す図である。
図30に示すように、計測値は、ベースラインと、信号と、雑音と、を含む。ただし、実際には、これらの3つを分離することは困難である。
【0110】
図31は、光の輝度値の最大値と最小値と中央値とを示すグラフである。中央値はある区間の輝度値を小さいものまたは大きいものから順に並べた場合に、順位が中央である値である。
【0111】
次に示す評価指標EIを用いる。
EI = (Imedian-Imin)/(Imax-Imedian)
Imax :最大値
Imin :最小値
Imedian:中央値
【0112】
上記の評価指標EIは、評価のために用いるものであって、外観検査装置が処理する処理項目ではない。評価指標EIが大きいほど、輝度値のコントラストが強い傾向にある。
【0113】
輝度積算値を8bitに規格化した。すなわち、輝度積算値の最小値を0とし、最大値を255とした。
【0114】
そして、平らな金属板に意図的にキズを設けた複数の試験片を作製し、これらの試験片に加工油を塗った。
【0115】
3-2.試験結果
図32は、加工油の付着がある試験片1の測定結果を示す図である。
図32(a)は、規格化処理前の試験片1の画像である。
図32(b)は、規格化処理前の試験片1の輝度積算値のプロファイルである。
図32(c)は、規格化処理後の試験片1の画像である。
図32(d)は、規格化処理後の試験片1の輝度積算値のプロファイルである。
図32(b)(d)における横軸は試験片の表面の位置であり、縦軸は輝度積算値である。
図32(a)(c)の破線は、それぞれ、
図32(b)(d)の輝度積算値のプロファイルの計測位置を示している。
【0116】
図32(a)に示すように、試験片1のキズはやや乱れた環状であり、画像からも確認することができる。
図32(a)の破線に示す計測位置において、キズは2箇所存在する。
図32(b)には、2mmの位置のキズを検出することができるが、1mmの位置のキズはノイズにより検出することが困難である。
図32(d)には、加工油に起因すると思われるノイズが除去されている。1mmの位置および2mmの位置のキズが明確である。また、規格化処理により、評価指標EIが1.9から3.5に増加している。評価指標EIの増加はコントラストが強くなっていることを示唆している。
【0117】
図33は、加工油の付着がある試験片2の測定結果を示す図である。
図33(a)(b)(c)(d)は、
図32(a)(b)(c)(d)に対応している。すなわち、
図33のグラフの縦軸および横軸等は、
図32と同様である。
【0118】
図33に示すように、規格化処理により、評価指標EIが1.7から3.8に増加し、コントラストが強くなっている。
図33(a)(c)に示すように、画像からキズを確認することが困難である。すなわち、試験片2のキズは十分に小さい。
図33(b)に示すように、規格化処理前ではノイズの影響が大きい。しかし、
図33(d)に示すように、規格化処理後では2箇所の計測位置にキズが生じていることが明確である。
【0119】
図34は、加工油の付着がある試験片3の測定結果を示す図である。
図34(a)(b)(c)(d)は、
図32(a)(b)(c)(d)に対応している。すなわち、
図34のグラフの縦軸および横軸等は、
図32と同様である。
【0120】
図34に示すように、規格化処理により、評価指標EIが1.2から2.9に増加し、コントラストが強くなっている。
図34(a)(c)に示すように、画像からキズを確認することが困難である。すなわち、試験片3のキズは十分に小さい。
図34(b)に示すように、規格化処理前ではノイズの影響が大きくキズの有無を判断することが非常に困難である。しかし、
図34(d)に示すように、規格化処理後ではキズが生じていることが明確である。
【0121】
4.実験のまとめ
光輝度積算値を用いる場合には、
図26および
図28に示すように、基準面Sf0および表面Sf1の両方の傷を同時に検出することができる。
【0122】
積算しない輝度値を用いる場合には、
図27および
図29に示すように、基準面Sf0の傷を検出することができるが、表面Sf1の傷を検出することは困難である。実験においては、大きめのキズもしくは打痕を試験片に形成したため、積算しない輝度値を用いる場合であっても小さいピークが観察された。しかし、キズもしくは打痕が小さい場合には、積算しない輝度値を用いる場合には、ピークが観察されないおそれがある。
【0123】
このように、第1の実施形態の外観検査装置100および第2の実施形態の外観検査装置200は、基準面に対して傾斜している面を有する検査対象物に対して、基準面および傾斜面を同時に検査することができる。
【0124】
第3の実施形態の外観検査装置は、加工油が付着しているプレス加工部品のキズもしくは打痕の有無を高い精度で検査することができる。
【0125】
(付記)
第1の態様における外観検査装置は、検査対象物に光を照射するための光源と、検査対象物からの反射光を透過させるテレセントリックレンズと、テレセントリックレンズを透過させた光を撮像する撮像部と、検査対象物に入射する入射光の平行度を変更する光平行度変更部と、制御部と、を有する。制御部は、撮像部により受光された光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する光強度積算値算出部と、光強度積算値算出部により算出された光強度積算値から検査対象物の表面状態を判断する判断部と、を有する。光強度積算値算出部は、光強度積算値として、光平行度変更部により変更された複数の平行度の光に対する検査対象物からの反射光の光の強度に関する指標を積算した光強度積算値を算出する。
【0126】
第2の態様における外観検査装置においては、第1の態様に加えて、光強度積算値算出部は、光強度積算値として、検査対象物からの反射光の輝度を積算した光輝度積算値を算出する。
【0127】
第3の態様における外観検査装置は、第1の態様または第2の態様に加えて、光源は、発光する領域を設定することが可能である。
【0128】
第4の態様における外観検査装置においては、第1の態様または第2の態様に加えて、光平行度変更部は、光源からの光を遮蔽する遮蔽板を有する。制御部は、遮蔽板の開口幅を制御する遮蔽板制御部を有する。
【0129】
第5の態様における外観検査装置は、第1の態様から第4の態様に加えて、光源と検査対象物との間に位置するハーフミラーを有する。ハーフミラーは、光源からの光を検査対象物に照射し、検査対象物からの反射光をテレセントリックレンズに照射する。
【0130】
第6の態様における外観検査装置においては、第1の態様から第5の態様に加えて、検査対象物は、基準面と、基準面に対して傾斜している傾斜面と、を有する。
【0131】
第7の態様における外観検査装置においては、第1の態様から第6の態様に加えて、制御部は、光の平行度に対する光の強度に関する指標を予め定めた最大値と最小値との間の数値範囲にスケーリングするスケーリング処理部を有する。
【0132】
第8の態様における外観検査装置においては、第7の態様に加えて、光強度積算値算出部は、スケーリング処理部によりスケーリングされた後の光の強度に関する指標を積算することにより光強度積算値を算出する。
【0133】
第9の態様における外観検査装置においては、第8の態様に加えて、スケーリング処理部は、スケーリングされた後の光の強度に関する指標を再度スケーリングする。
【符号の説明】
【0134】
100…外観検査装置
110…LED光源
120…カメラ
130…テレセントリックレンズ
140…ハーフミラー
150…遮蔽板
160…制御部
161…遮蔽板制御部
162…光強度検出部
163…光輝度積算値算出部
164…判断部