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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076104
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20230525BHJP
   H01L 33/08 20100101ALI20230525BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189304
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA58
5F241CB28
(57)【要約】
【課題】発光効率を向上できる発光素子を提供すること。
【解決手段】発光素子は、下方から上方に向かって順に、第1活性層を有する第1発光部と、トンネル接合部と、第2活性層を有する第2発光部とを備える。第1活性層は、複数の第1井戸層と、複数の第1井戸層のうち隣り合う第1井戸層間に位置する第1障壁層とを有する。第2活性層は、複数の第2井戸層と、複数の第2井戸層のうち隣り合う第2井戸層間に位置する第2障壁層とを有する。第2障壁層は、n型不純物とガリウムとを含み、第1障壁層のn型不純物濃度よりも高いn型不純物濃度を有する窒化物半導体層である。第2障壁層におけるn型不純物濃度のピークは、第1発光部側にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方から上方に向かって順に、第1活性層を有する第1発光部と、トンネル接合部と、第2活性層を有する第2発光部とを備え、
前記第1活性層は、複数の第1井戸層と、前記複数の第1井戸層のうち隣り合う第1井戸層間に位置し、前記第1井戸層のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第1障壁層とを有し、
前記第2活性層は、複数の第2井戸層と、前記複数の第2井戸層のうち隣り合う第2井戸層間に位置し、前記第2井戸層のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2障壁層とを有し、
前記第2障壁層は、n型不純物とガリウムとを含み、前記第1障壁層のn型不純物濃度よりも高いn型不純物濃度を有する窒化物半導体層であり、
前記第2障壁層におけるn型不純物濃度のピークは、前記第1発光部側にある発光素子。
【請求項2】
前記第2障壁層は、第1発光部側から順に、第1層と、第2層とを有し、
前記第2障壁層におけるn型不純物濃度のピークは、前記第1層に位置し、
前記第1層の厚さは、前記第2障壁層の厚さの10%以上50%以下である請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第1層の厚さは、0.5nm以上2nm以下である請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記トンネル接合部は、n型不純物を含む窒化物半導体層を含み、
前記第1層のn型不純物濃度は、前記トンネル接合部のn型不純物濃度よりも低い請求項2または3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1層のn型不純物濃度は、2×1018cm-3以上5×1018cm-3以下である請求項2~4のいずれか1つに記載の発光素子。
【請求項6】
前記第2障壁層は、前記第1層よりも前記第1発光部側に位置する第3層をさらに有し、
前記第2層のn型不純物濃度及び前記第3層のn型不純物濃度は、前記第1層のn型不純物濃度よりも低い請求項2~5のいずれか1つに記載の発光素子。
【請求項7】
前記第2活性層は、3以上の前記第2井戸層と、2以上の前記第2障壁層とを有し、
すべての前記第2障壁層におけるn型不純物濃度のピークは、前記第1発光部側にある請求項1~6のいずれか1つに記載の発光素子。
【請求項8】
前記第2活性層は、前記第2活性層において最も上方に位置する第3障壁層をさらに有し、
前記第3障壁層のn型不純物濃度は、前記第2障壁層におけるn型不純物濃度よりも低い請求項1~7のいずれか1つに記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、例えば、トンネル接合層を有する窒化物半導体層を含む発光素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-157667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような発光素子において、発光効率の向上が望まれる。本発明は、発光効率を向上できる発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、発光素子は、下方から上方に向かって順に、第1活性層を有する第1発光部と、トンネル接合部と、第2活性層を有する第2発光部とを備え、前記第1活性層は、複数の第1井戸層と、前記複数の第1井戸層のうち隣り合う第1井戸層間に位置し、前記第1井戸層のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第1障壁層とを有し、前記第2活性層は、複数の第2井戸層と、前記複数の第2井戸層のうち隣り合う第2井戸層間に位置し、前記第2井戸層のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有する第2障壁層とを有し、前記第2障壁層は、n型不純物とガリウムとを含み、前記第1障壁層のn型不純物濃度よりも高いn型不純物濃度を有する窒化物半導体層であり、前記第2障壁層におけるn型不純物濃度のピークは、前記第1発光部側にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、発光効率を向上できる発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の発光素子の断面図である。
図2】実施形態の第1活性層の断面図である。
図3】実施形態の第2活性層の断面図である。
図4】実施形態の変形例の第2活性層の一部の断面図である。
図5A】実施形態の発光素子の順電圧の測定結果を示すグラフである。
図5B】実施形態の発光素子の光出力の測定結果を示すグラフである。
図6A】実施形態の発光素子の順電圧の測定結果を示すグラフである。
図6B】実施形態の発光素子の光出力の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照し、実施形態について説明する。各図面中、同じ構成には同じ符号を付している。なお、各図面は、実施形態を模式的に示したものであるため、各部材のスケール、間隔若しくは位置関係などが誇張、又は部材の一部の図示を省略する場合がある。また、断面図として、切断面のみを示す端面図を示す場合がある。
【0009】
図1は、実施形態の発光素子1の断面図である。
発光素子1は、基板10と、半導体構造体20と、p側電極11と、n側電極12とを有する。
【0010】
基板10は、半導体構造体20を支持する。基板10の材料として、例えば、サファイア、シリコン、SiC、GaNなどを用いることができる。基板10としてサファイア基板を用いる場合、半導体構造体20はサファイア基板のc面上に配置される。
【0011】
半導体構造体20は、窒化物半導体からなる複数の半導体層が積層された積層体である。窒化物半導体は、InAlGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1)からなる化学式において組成比x及びyをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含み得る。例えば、半導体構造体20は、基板10上にエピタキシャル成長させることで形成する。
【0012】
本明細書において、下方は、上方よりも相対的に基板10に近い側を表す。半導体構造体20は、下方から上方に向かって順に、第1発光部21と、トンネル接合部30と、第2発光部22とを備える。
【0013】
第1発光部21は、基板10上に位置するn側窒化物半導体層41と、n側窒化物半導体層41上に位置する第1超格子層50と、第1超格子層50上に位置する第1活性層60と、第1活性層60上に位置する第1p側窒化物半導体層42とを有する。
【0014】
第2発光部22は、トンネル接合部30上に位置する第2超格子層70と、第2超格子層70上に位置する第2活性層80と、第2活性層80上に位置する第2p側窒化物半導体層43とを有する。
【0015】
n側窒化物半導体層41は、n型不純物を含むn型層を有する。n型層は、例えば、n型不純物としてシリコン(Si)を含む。または、n型層は、n型不純物としてゲルマニウム(Ge)を含んでもよい。n側窒化物半導体層41は、電子を供給する機能を有していればよく、n型不純物やp型不純物を意図的にドープせずに形成したアンドープ層を含んでいてもよい。アンドープ層がn型不純物及び/又はp型不純物を意図的にドープした層と隣接している場合は、その隣接した層からの拡散等によって、アンドープ層にn型不純物及び/又はp型不純物が含まれる場合がある。
【0016】
第1p側窒化物半導体層42及び第2p側窒化物半導体層43は、p型不純物を含むp型層を有する。p型層は、例えば、p型不純物としてマグネシウム(Mg)を含む。第1p側窒化物半導体層42及び第2p側窒化物半導体層43は、正孔を供給する機能を有していればよく、アンドープ層を含んでいてもよい。
【0017】
第1活性層60及び第2活性層80は、後述するように、複数の井戸層と複数の障壁層とを含む多重量子井戸構造を有する。第1活性層60及び第2活性層80は、例えば、青色光又は緑色光を発することができる。青色光の発光ピーク波長は、430nm以上490nm以下である。緑色光の発光ピーク波長は、500nm以上540nm以下である。第1活性層60の発光ピーク波長と第2活性層80の発光ピーク波長は、同じでも、異なっていてもよい。第1活性層60及び第2活性層80は、青色光よりも短い発光ピーク波長の光、あるいは緑色光よりも長い発光ピーク波長の光を発することもできる。
【0018】
トンネル接合部30は、窒化物半導体層を含む。トンネル接合部30は、第1p側窒化物半導体層42とトンネル接合を形成する。トンネル接合部30は、p型層及びn型層のうち少なくとも1つの半導体層を有する。p型層は、第1p側窒化物半導体層42の上面に接して配置され、p型不純物として、例えばマグネシウムを含む。n型層は、p型層を配置する場合、p型層の上面に接して配置される。またp型層を配置しない場合、n型層は第1p側窒化物半導体層42の上面に接して配置される。n型層は、n型不純物として、例えばシリコンを含む。
【0019】
第1超格子層50は、n側窒化物半導体層41と第1活性層60との間に位置する。第2超格子層70は、トンネル接合部30と第2活性層80との間に位置する。第1超格子層50及び第2超格子層70を配置することで、基板10と半導体構造体20との間の格子不整合を緩和し、半導体構造体20における結晶欠陥を低減することができる。
【0020】
第1超格子層50及び第2超格子層70のそれぞれは、複数の第1窒化物半導体層と、複数の第2窒化物半導体層とを有する。第1超格子層50及び第2超格子層70のそれぞれは、例えば、第1窒化物半導体層と第2窒化物半導体層の組を15個以上25個以下有することができる。第1超格子層50及び第2超格子層70のそれぞれは、例えば、20層の第1窒化物半導体層と、20層の第2窒化物半導体層とを有することができる。第1超格子層50及び第2超格子層70のそれぞれにおいて、最も下方(最下層)に第2窒化物半導体層が位置し、最も上方(最上層)に第1窒化物半導体層が位置する。最下層の第2窒化物半導体層から最上層の第1窒化物半導体層に向かって、第2窒化物半導体層と第1窒化物半導体層とが交互に配置されている。
【0021】
第1窒化物半導体層の組成と第2窒化物半導体層の組成とは異なる。第1超格子層50の第1窒化物半導体層は、例えば、アンドープのInGaN層である。このInGaN層におけるIn組成比は5%以上10%以下とすることができる。第1超格子層50の第2窒化物半導体層は、例えば、アンドープのGaN層である。第2超格子層70の第1窒化物半導体層は、例えば、シリコンがドープされたn型のInGaN層である。このInGaN層におけるIn組成比は5%以上10%以下とすることができる。第2超格子層70の第2窒化物半導体層は、例えば、シリコンがドープされたn型のGaN層である。第2超格子層70の第1窒化物半導体層及び第2窒化物半導体層のn型不純物濃度は、例えば、1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下とすることができる。なお、第1窒化物半導体層及び第2窒化物半導体層のn型不純物濃度とは、第1窒化物半導体層及び第2窒化物半導体層におけるn型不純物濃度のうち、最も高いn型不純物濃度である。
【0022】
第1超格子層50及び第2超格子層70において、第1窒化物半導体層の厚さは、第2窒化物半導体層の厚さよりも薄い。例えば、第1窒化物半導体層の厚さを0.5nm以上1.5nm以下とすることができる。例えば、第2窒化物半導体層の厚さを1.5nm以上3nmとすることができる。
【0023】
n側窒化物半導体層41は、他の半導体層が設けられていないn側コンタクト面41aを有する。n側コンタクト面41a上にn側電極12が配置されている。n側電極12は、n側窒化物半導体層41に電気的に接続している。
【0024】
第2p側窒化物半導体層43の上面上に、p側電極11が配置されている。p側電極11は、第2p側窒化物半導体層43に電気的に接続している。
【0025】
p側電極11とn側電極12との間に順方向の電圧を印加する。このとき、第2発光部22の第2p側窒化物半導体層43と、第1発光部21のn側窒化物半導体層41との間に順方向の電圧が印加され、第1活性層60及び第2活性層80に正孔および電子が供給されることで第1活性層60及び第2活性層80が発光する。
【0026】
実施形態の発光素子1によれば、第1活性層60の上に第2活性層80を配置することで、1つの活性層を有する発光素子に比べて、単位面積当たりの出力を高くすることができる。
【0027】
p側電極11とn側電極12との間に順方向の電圧が印加されたとき、トンネル接合部30と第1p側窒化物半導体層42とが形成するトンネル接合には逆方向電圧が印加されることになる。そのため、トンネル接合を形成するp型層及びn型層の不純物濃度を高くすることで、トンネル接合部30と第1p側窒化物半導体層42との接合により形成される空乏層の幅を狭くしている。これにより、p型層の価電子帯に存在する電子を、n型層の伝導帯にトンネリングさせることでトンネル接合部30に電流を流しやすくできる。
【0028】
以下、第1活性層60及び第2活性層80の詳細について説明する。
【0029】
<第1活性層>
図2に示すように、第1活性層60は、複数の第1井戸層61と、少なくとも1つの第1障壁層65とを有する。第1活性層60は、例えば、3以上の第1井戸層61と、2以上の第1障壁層65とを有する。第1活性層60は、例えば、7層の第1井戸層61と、6層の第1障壁層65とを有することができる。それぞれの第1障壁層65は、複数の第1井戸層61のうち隣り合う第1井戸層61間に位置する。さらに、第1活性層60は、第1活性層60において最も下方に位置する第4障壁層63と、第1活性層60において最も上方に位置する第5障壁層64とを有することができる。複数の第1障壁層65のうちの最も下方に位置する第1障壁層65と、第4障壁層63との間に、第1井戸層61が配置されている。複数の第1障壁層65のうちの最も上方に位置する第1障壁層65と、第5障壁層64との間に第1井戸層61が配置されている。第4障壁層63と第5障壁層64との間において、第1井戸層61と第1障壁層65とが交互に配置されている。
【0030】
第1障壁層65、第4障壁層63、及び第5障壁層64のバンドギャップは、第1井戸層61のバンドギャップよりも広い。第1井戸層61、第1障壁層65、第4障壁層63、及び第5障壁層64は、ガリウムを含む窒化物半導体層である。第1井戸層61は、ガリウム及びインジウムを含む。例えば、第1井戸層61は、アンドープのInGaN層である。第1井戸層61をInGaN層とする場合、In組成比は12%以上18%以下とすることができる。第1井戸層61は、アルミニウムを含んでいてもよい。第1障壁層65及び第5障壁層64は、例えば、アンドープのGaN層である。第1障壁層65のn型不純物濃度は、例えば、1×1017cm-3以下とすることができる。第4障壁層63は、例えば、n型GaN層である。第4障壁層63は、n型不純物として、シリコン又はゲルマニウムを含む。
【0031】
第1障壁層65の厚さ及び第5障壁層64の厚さは、第1井戸層61の厚さよりも厚い。例えば、第1井戸層61の厚さは、2.5nm以上4nm以下とすることできる。例えば、第1障壁層65の厚さ及び第5障壁層64の厚さは、3nm以上5nm以下とすることができる。また、第4障壁層63の厚さは、3nm以上5nm以下とすることができる。
【0032】
<第2活性層>
図3に示すように、第2活性層80は、複数の第2井戸層81と、少なくとも1つの第2障壁層82とを有する。第2活性層80は、例えば、3以上の第2井戸層81と、2以上の第2障壁層82とを有する。第2活性層80は、例えば、7層の第2井戸層81と、6層の第2障壁層82とを有することができる。それぞれの第2障壁層82は、複数の第2井戸層81のうち隣り合う第2井戸層81間に位置する。
【0033】
さらに、第2活性層80は、第2活性層80において最も下方に位置する第6障壁層83と、第2活性層80において最も上方に位置する第3障壁層84とを有することができる。複数の第2障壁層82のうちの最も下方に位置する第2障壁層82と、第6障壁層83との間に、第2井戸層81が配置されている。複数の第2障壁層82のうちの最も上方に位置する第2障壁層82と、第3障壁層84との間に、第2井戸層81が配置されている。第6障壁層83と第3障壁層84との間において、第2井戸層81と第2障壁層82とが交互に配置されている。
【0034】
第2障壁層82、第6障壁層83、及び第3障壁層84のバンドギャップは、第2井戸層81のバンドギャップよりも広い。第2井戸層81、第2障壁層82、第6障壁層83、及び第3障壁層84は、ガリウムを含む窒化物半導体層である。
【0035】
第2井戸層81は、ガリウムとインジウムを含むことができる。第2井戸層81は、例えば、アンドープのInGaN層である。第2井戸層81をInGaN層とする場合、In組成比は12%以上18%以下とすることができる。第2井戸層81は、アルミニウムを含んでいてもよい。
【0036】
第2障壁層82は、n型不純物とガリウムを含む。第2障壁層82は、n型不純物として、例えば、シリコン又はゲルマニウムを含む。第2障壁層82のn型不純物濃度は、第1活性層60の第1障壁層65のn型不純物濃度よりも高い。少なくとも1つの第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークは、第1発光部21側にある。すべての第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークが、第1発光部21側にあることが好ましい。
【0037】
少なくとも1つの第2障壁層82は、第1発光部21側から順に、第1層82aと、第2層82bとを有する。すべての第2障壁層82が、第1層82aと第2層82bとを有することが好ましい。第1層82aを形成した後に、第1層82a上に第2層82bを形成することで、第1層82a及び第2層82bを含む第2障壁層82が形成される。例えば、第1層82aとしてn型GaN層を形成した後に、第1層82a上に第2層82bとしてアンドープのGaN層を形成することで、第2障壁層82が形成される。
【0038】
第1層82aのn型不純物濃度は、第2層82bのn型不純物濃度よりも高い。第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークは、第1層82aに位置する。第1層82aのn型不純物濃度は、トンネル接合部30のn型不純物濃度よりも低い。また、第1層82aのn型不純物濃度は、第2超格子層70のn型不純物濃度よりも低い。第1層82aのn型不純物濃度は、例えば、2×1018cm-3以上5×1018cm-3以下とすることができる。トンネル接合部30のn型不純物濃度は、1×1020cm-3以上5×1021cm-3以下とすることができる。第2超格子層70のn型不純物濃度は、1×1019cm-3以上1×1020cm-3以下とすることができる。また、第1層82aのn型不純物濃度は、第2障壁層82におけるp型不純物濃度よりも高いことが好ましい。これにより、後述する第2発光部22の第2活性層80が意図せずp型化することを低減することができる。なお、第1層82aのn型不純物濃度とは、第1層82aにおけるn型不純物濃度のうち、最も高いn型不純物濃度である。第2障壁層82におけるp型不純物濃度とは、第2障壁層82におけるp型不純物濃度のうち、最も高いp型不純物濃度である。
【0039】
第3障壁層84のn型不純物濃度は、第2障壁層82におけるn型不純物濃度よりも低い。第3障壁層84は、例えば、アンドープのGaN層である。第6障壁層83は、例えば、n型GaN層である。第6障壁層83は、n型不純物として、シリコン又はゲルマニウムを含む。第3障壁層84のn型不純物濃度とは、第3障壁層84におけるn型不純物濃度のうち、最も高いn型不純物濃度である。
【0040】
第2障壁層82の厚さ及び第3障壁層84の厚さは、第2井戸層81の厚さよりも厚い。例えば、第2井戸層81の厚さは、2.5nm以上4nm以下とすることできる。例えば、第2障壁層82の厚さ及び第3障壁層84の厚さは、3nm以上5nm以下とすることができる。また、第6障壁層83の厚さは、3nm以上5nm以下とすることができる。
【0041】
第2障壁層82の第1層82aの厚さは、第2障壁層82の厚さの10%以上50%以下とすることが好ましく、第2障壁層82の厚さの10%以上25%以下とすることがさらに好ましい。第2障壁層82の第1層82aの厚さを、第2障壁層82の厚さの10%以上50%以下とすることで発光素子の順電圧を低減しつつ、光出力を高くしやすい。第2障壁層82の第1層82aの厚さを、第2障壁層82の厚さの10%以上25%以下とすることで発光素子の順電圧を低減しつつ、光出力をより向上させることができる。第1層82aの厚さは、例えば、0.5nm以上2nm以下の厚さの範囲とすることが好ましく、0.5nm以上1nm以下の厚さの範囲にすることがさらに好ましい。
【0042】
第1発光部上にトンネル接合部を介して第2発光部を形成する発光素子において、例えば第1p側窒化物半導体層に含まれるp型不純物(例えばマグネシウム)が、トンネル接合部上に第2発光部を形成する際に第2発光部に拡散するおそれがある。第2発光部にp型不純物が拡散すると第2発光部の第2活性層が意図せずp型化し、発光素子の順電圧が上昇してしまう。この結果、発光素子の発光効率が低下してしまう。
【0043】
実施形態によれば、第2発光部22の第2活性層80の第2障壁層82は、第1発光部21の第1活性層60の第1障壁層65よりも高い濃度でn型不純物を含み、第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークが第1発光部21側にある。これにより、第1p側窒化物半導体層42からp型不純物が拡散することによる第2活性層80のp型化を低減することができる。この結果、第2発光部22への電子の注入効率を向上させ、内部量子効率を向上できるので、順電圧を低減し発光効率を高くすることができる。
【0044】
なお、第1発光部21側において第1活性層60の第1障壁層65のn型不純物濃度を比較的高くしても、発光素子1の発光効率の向上にはつながりにくい傾向がある。これは、第1p側窒化物半導体層42に含まれるp型不純物は第2発光部22側に拡散しやすく、第1発光部21では、第1活性層60が意図せずp型化する事態が生じにくいためである。
【0045】
また、第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークが、第1発光部21側ではなく、第2p側窒化物半導体層43側にあると、第2障壁層82の上に形成される第2井戸層81にn型不純物が意図せず混入し結晶性が悪化してしまうおそれがある。実施形態によれば、第2障壁層82におけるn型不純物濃度のピークを第1発光部21側にすることで、第2活性層80がp型化することを低減しつつ、第2井戸層81の結晶性を維持することができる。その結果、発光効率が向上された発光素子を提供することができる。
【0046】
次に、実施形態の発光素子1のサンプルを作製し、順電圧と光出力を測定した結果について説明する。
【0047】
発光素子1のサンプルは、以下の構成を有する。
基板10はサファイア基板である。
n側窒化物半導体層41は、n型不純物としてシリコンを含む。n側窒化物半導体層41のシリコン濃度は、約1×1019cm-3である。なお、n側窒化物半導体層41のシリコン濃度とは、n側窒化物半導体層41におけるシリコン濃度のうち、最も高いシリコン濃度である。n側窒化物半導体層41の厚さは、約5μmである。
第1超格子層50は、20層のアンドープのInGaN層と、20層のアンドープのGaN層とを有する。第1超格子層50において、最も下方(最下層)にGaN層が位置し、最も上方(最上層)にInGaN層が位置する。最下層のGaN層から最上層のInGaN層に向かって、GaN層とInGaN層とが交互に配置されている。InGaN層におけるIn組成比は、約7%である。InGaN層の厚さは、約1nmである。GaN層の厚さは、約2nmである。
第1活性層60は、7層の第1井戸層61と、6層の第1障壁層65とを有する。さらに、第1活性層60は、第1活性層60において最も下方に位置する第4障壁層63と、第1活性層60において最も上方に位置する第5障壁層64とを有する。第1井戸層61は、アンドープのInGaN層である。第1井戸層61におけるIn組成比は、約15%である。第1井戸層61の厚さは約3.5nmである。第1障壁層65は、アンドープのGaN層である。第1障壁層65の厚さは、約4nmである。第4障壁層63は、第1超格子層50側から順に、シリコンがドープされたInGaN層と、アンドープのGaN層とを含む。第4障壁層63の厚さは、約3.5nmである。第5障壁層64は、アンドープのGaN層である。第5障壁層64の厚さは、約4nmである。
第1p側窒化物半導体層42は、p型不純物としてマグネシウムを含む。第1p側窒化物半導体層42のマグネシウム濃度は、約5×1020cm-3である。なお、第1p側窒化物半導体層42のマグネシウム濃度とは、第1p側窒化物半導体層42におけるマグネシウム濃度のうち、最も高いマグネシウム濃度である。第1p側窒化物半導体層42の厚さは、約80nmである。
トンネル接合部30は、第1p側窒化物半導体層42側から順に、マグネシウムがドープされたp型GaN層と、シリコンがドープされたn型GaN層とを含む。n型GaN層のシリコン濃度は、約5×1020cm-3である。n型GaN層の厚さは、約150nmである。
第2超格子層70は、20層のシリコンがドープされたInGaN層と、20層のシリコンがドープされたGaN層とを有する。第2超格子層70において、最も下方(最下層)にGaN層が位置し、最も上方(最上層)にInGaN層が位置する。最下層のGaN層から最上層のInGaN層に向かって、GaN層とInGaN層とが交互に配置されている。InGaN層におけるIn組成比は、約7%である。InGaN層の厚さは、約1nmである。GaN層の厚さは、約2nmである。InGaN層及びGaN層のシリコン濃度は、約1×1019cm-3である。
第2活性層80は、7層の第2井戸層81と、6層の第2障壁層82とを有する。さらに、第2活性層80は、第2活性層80において最も下方に位置する第6障壁層83と、第2活性層80において最も上方に位置する第3障壁層84とを有する。第2井戸層81は、アンドープのInGaN層である。第2井戸層81におけるIn組成比は、約15%である。第2井戸層81の厚さは約3.5nmである。第2障壁層82は、第1層82aと第2層82bとを有する。第1層82aは、シリコンがドープされたGaN層である。第2層82bは、アンドープのGaN層である。第6障壁層83は、第2超格子層70側から順に、シリコンがドープされたInGaN層と、アンドープのGaN層とを含む。第6障壁層83の厚さは、約3.5nmである。第3障壁層84は、アンドープのGaN層である。第3障壁層84の厚さは、約4nmである。
第2p側窒化物半導体層43は、p型不純物としてマグネシウムを含む。第2p側窒化物半導体層43のマグネシウム濃度は、約5×1020cm-3である。なお、第2p側窒化物半導体層43のマグネシウム濃度とは、第2p側窒化物半導体層43におけるマグネシウム濃度のうち、最も高いマグネシウム濃度である。第2p側窒化物半導体層43の厚さは、約100nmである。
【0048】
図5Aは、順電流を120mAとしたときの発光素子1のサンプルの順電圧の測定結果を示すグラフである。それぞれの発光素子1のサンプルの第1層82aにおけるシリコン濃度は、約1×1018cm-3とした。図5Aにおいて、横軸は、第2障壁層82におけるシリコン濃度のピークが位置する第1層82aの厚さ(nm)を表す。図5A及び図5Bにおいて、第1層82aの厚さを、0.5nm、1nm、2nm、3nm、及び4nmとした場合の測定結果を表す。なお、第1層82aの厚さが0とは、第2障壁層82が第1層82aを含まず、アンドープのGaN層からなることを表す。また、それぞれの第2障壁層82の厚さは4nmであり、第1層82aの厚さが4nmとは、第2障壁層82が、シリコンがドープされたn型の第1層82aからなることを表す。図5Aにおいて、縦軸は、第1層82aの厚さが0の場合の順電圧(0.00V)に対する順電圧の変化量(V)を表す。
【0049】
図5Bは、順電流を120mAとしたときの発光素子1のサンプルの光出力の測定結果を示すグラフである。それぞれの発光素子1のサンプルの第1層82aにおけるシリコン濃度は、約1×1018cm-3とした。図5Bにおいて、横軸は、第2障壁層82における第1層82aの厚さ(nm)を表す。図5Bにおいて、縦軸は、第1層82aの厚さが0の場合の光出力(1.00)に対する光出力の相対値を表す。
【0050】
図5A及び図5Bに示す結果より、実施形態の発光素子1のサンプルにおいて、第1層82aの厚さが0.5nm以上4nm以下のときに、第1層82aの厚さが0の場合よりも順電圧が低減した。また、第1層82aの厚さが0.5nm以上2nm以下のときに、第1層82aの厚さが0の場合よりも順電圧を低減しつつ、第1層82aの厚さが0の場合と同等以上の光出力が得られた。したがって、順電圧を低減しつつ光出力を同等以上とするためには、第2障壁層82における第1層82aの厚さは0.5nm以上2nm以下が好ましい。また、第1層82aの厚さが0の場合よりも順電圧を低減しつつ、さらに光出力を高めるには、第1層82aの厚さは0.5nm以上1nm以下がより好ましい。
【0051】
図6Aは、順電流を120mAとし、第1層82aのシリコン濃度を変えたときの発光素子1のサンプルの順電圧の測定結果を示すグラフである。それぞれの第2障壁層82の厚さは約4nmとし、それぞれの第2障壁層82における第1層82aの厚さは、約0.5nmとした。図6Aにおいて、横軸は、第1層82aのシリコン濃度(cm-3)を表す。図6A及び図6Bにおいて、第1層82aのシリコン濃度を、2×1018cm-3、5×1018cm-3、及び1×1019cm-3とした場合の測定結果を表す。シリコン濃度が0とは、第2障壁層82が、第1層82aを含まず、アンドープのGaN層からなることを表す。図6Aにおいて、縦軸は、シリコン濃度が0の場合の順電圧(0.00V)に対する順電圧の変化量(V)を表す。
【0052】
図6Bは、順電流を120mAとし、第1層82aのシリコン濃度を変えたときの発光素子1のサンプルの光出力の測定結果を示すグラフである。それぞれの第2障壁層82の厚さは約4nmとし、それぞれの第2障壁層82における第1層82aの厚さは、約0.5nmとした。図6Bにおいて、横軸は、第1層82aのシリコン濃度(cm-3)を表す。図6Bにおいて、縦軸は、シリコン濃度が0の場合の光出力(1.00)に対する光出力の相対値を表す。
【0053】
図6A及び図6Bに示す結果より、実施形態の発光素子1のサンプルにおいて、第1層82aのシリコン濃度を2×1018cm-3以上1×1019cm-3以下のときに、シリコン濃度が0の場合よりも順電圧が低減した。また、第1層82aのシリコン濃度が2×1018cm-3以上5×1018cm-3以下のときに、シリコン濃度が0の場合よりも順電圧を低減しつつ、シリコン濃度が0の場合と同等以上の光出力が得られた。したがって、第1層82aのシリコン濃度は2×1018cm-3以上5×1018cm-3以下が好ましい。
【0054】
図4に示すように、第2障壁層82は、第1層82aよりも第1発光部21側に位置する第3層82cをさらに有することができる。図4は、実施形態の変形例による第2活性層80の一部の断面図である。図4には、隣り合う2層の第2井戸層81と、それら第2井戸層81間に位置する1層の第2障壁層82を示す。
【0055】
第2井戸層81を形成した後、第2井戸層81上に第3層82cを形成し、第3層82cを形成した後、第3層82c上に第1層82aを形成し、第1層82aを形成した後、第1層82a上に第2層82bを形成することで、第2障壁層82が形成される。例えば、第3層82cとしてアンドープのGaN層を形成し、その第3層82c上に第1層82aとしてn型GaN層を形成し、その第1層82a上に第2層82bとしてアンドープのGaN層を形成することで、第2障壁層82が形成される。このような第3層82cを配置することで、第1層82aを第2井戸層81上に接して形成する場合よりも第1層82aの結晶性を向上させ、その第1層82aの上方に位置する第2井戸層81の結晶性も向上させることができる。これにより、発光素子1の発光効率の向上させることができる。
【0056】
第2層82bのn型不純物濃度及び第3層82cのn型不純物濃度は、第1層82aのn型不純物濃度よりも低い。これにより、第1層82aの結晶性をより向上させることができる。第3層82cは、第2層82bよりも薄い。第3層82cの厚さは、0.1nm以上1nm以下とすることができる。
【0057】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。本発明の上述した実施形態を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての形態も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものである。
【符号の説明】
【0058】
1…発光素子、10…基板、20…半導体構造体、21…第1発光部、22…第2発光部、30…トンネル接合部、41…n側窒化物半導体層、42…第1p側窒化物半導体層、43…第2p側窒化物半導体層、50…第1超格子層、60…第1活性層、61…第1井戸層、65…第1障壁層、70…第2超格子層、80…第2活性層、81…第2井戸層、82…第2障壁層、82a…第1層、82b…第2層、82c…第3層、84…第3障壁層
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B