(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076230
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】光触媒並びにこれを用いた水素及び酸素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230525BHJP
B01J 23/652 20060101ALI20230525BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230525BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/652 M
C01B3/04 A
C01B13/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189527
(22)【出願日】2021-11-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.令和2年11月24日、アドレスhttps://pcat.cat.hokudai.ac.jp/light/cgi-bin/application/db_application_e.cgi?showPrevious=light2020からリダイレクトされるウェブサイト(https://pcat.cat.hokudai.ac.jp/meeting/cgi-bin/application/db_application_e.cgi#Con)内の「ダウンロード」ボタンよりダウンロード可能な講演要旨として掲載して公開 2.令和2年11月27日、第39回光がかかわる触媒化学シンポジウムにおいて、文書をもって発表して公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】海谷 恭平
(72)【発明者】
【氏名】山口 友一
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隼矢
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健太
(72)【発明者】
【氏名】新城 亮
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
【Fターム(参考)】
4G042BA08
4G042BB04
4G169AA03
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC12A
4G169BC12B
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC58A
4G169BC58B
4G169BC67A
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169CC33
4G169EA01Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FB07
4G169FB14
4G169FB30
4G169FC08
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC02
4G169HD03
4G169HE09
4G169HF01
(57)【要約】
【課題】犠牲試薬を使用せずに、水の全分解を可視光によって可能とする光触媒並びにこれを用いた可視光による水の全分解により水素及び酸素を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る光触媒は、一般式SrTi
(1-x-y)M
xSb
yO
3で表される金属酸化物と、Rh及び/又はCrの酸化物と、を含む。式中、Mは、Co、Rh、Ir、及びRuの少なくとも1種であり、xは、0.00005~0.0006の範囲内の数であり、yは0~0.0012の範囲内の数である。xは好ましくは0.00008~0.0004、より好ましくは0.0001~0.00025の範囲内の数、yは好ましくは0.00008~0.001、より好ましくは0.00015~0.0008の範囲内の数、Mは好ましくはIrである。本発明に係る水素及び酸素の製造方法は、上記光触媒と水との共存下で、該光触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表される金属酸化物と、Rh及び/又はCrの酸化物と、を含む光触媒。
SrTi(1-x-y)MxSbyO3
(式中、Mは、Co、Rh、Ir、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは、0.00005~0.0006の範囲内の数であり、yは0~0.0012の範囲内の数である。)
【請求項2】
前記xは、0.00008~0.0004の範囲内の数である請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記xは、0.0001~0.00025の範囲内の数である請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記yは、0.00008~0.001の範囲内の数である請求項1~3のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項5】
前記yは、0.00015~0.0008の範囲内の数である請求項1~4のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項6】
前記Mは、Irである請求項1~5のいずれか1項に記載の光触媒。
【請求項7】
下記一般式で表される金属酸化物と、Rh及び/又はCrの酸化物と、を含む光触媒と水との共存下で、前記光触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含む、水素及び酸素の製造方法。
SrTi(1-x-y)MxSbyO3
(式中、Mは、Co、Rh、Ir、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは、0.00005~0.0006の範囲内の数であり、yは0~0.0012の範囲内の数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒並びにこれを用いた水素及び酸素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光で触媒反応を行う技術としては、光触媒能を有する固体化合物に光を照射し、生成した励起電子又はホールで反応物を酸化又は還元して目的物を得る方法が既に知られている。中でも、水の光分解反応は光エネルギー変換の観点から興味が持たれている。また、水の光分解反応に活性を示す光触媒は、光吸収、電荷分離、表面での水の酸化還元反応といった機能を備えた高度な光機能材料と見ることができる。
【0003】
工藤、加藤らは、タンタル酸アルカリ、アルカリ土類等が、水の完全光分解反応に高い活性を示す光触媒であることを多くの先行文献を挙げて説明している〔例えば、非特許文献1~4(以下、「文献A類」ともいう)〕。文献A類においては、水を水素及び/又は酸素に分解する反応を進めるのに有用な光触媒材料について解説されており、発生した電子により水を還元する水素生成反応、発生したホールにより水を酸化する酸素生成反応、及び水の完全光分解反応用光触媒について、多くの示唆がなされている。また、文献A類においては、白金、NiO等の助触媒又はプロモータを担持した光触媒等についても言及されている。
【0004】
しかしながら、文献A類で解説されている光触媒は、非金属としては酸素を含むものが主である。また、多くの固体光触媒は、価電子帯と伝導帯との間にある禁制帯の幅、即ち、バンドギャップエネルギーが3eVよりも大きいため、3eV未満の低いエネルギーを有する可視光で作動させることができない。一方、バンドギャップエネルギーが小さく、可視光で電子及びホールを生ずることのできる従来の固体光触媒のほとんどは水の光分解反応等の反応条件下で不安定である。例えば、CdS、Cu-ZnS等の固体光触媒は、バンドギャップが2.4eVであるが、酸化的な光腐食作用を受けるため、適用可能な触媒反応が限定されている。地表に到達する太陽光のほとんどはエネルギーの小さい可視光であり、太陽光で効率的に多様な触媒反応を進行させるためには、可視光で作動しかつ安定な光触媒が必要不可欠である。
【0005】
このような状況下で、光触媒の研究に携わっている多くの研究者が、可視光、それもより長波長の可視光に活性を持つ光触媒、特に、水の分解に活性を持つ光触媒の開発に努力している。しかしながら、犠牲試薬を必要とせずに、可視光による水の分解を可能にする実用的な光触媒を提供するところまで至っていない。
【0006】
前記可視光に活性を有する光触媒の開発では、先ず、より長波長の可視光において活性を示す光半導体の開発が重要であり、更に光半導体を微量の活性化元素と組み合わせて、より長波長域での活性特性の改善、及び安定性の改善を図ることも重要である。また、水の完全分解(全分解)の触媒とはいかなくても、水の還元反応及び水の酸化反応の少なくとも一方の効率的な分解が可能な光触媒が見出せれば、これら光触媒のライブラリーを構成し、多くの触媒の中から前記完全分解の触媒系、例えばZスキーム型触媒系の構築への可能性を提供できる点で重要である。
【0007】
前記したように地表で利用できる太陽光のほとんどは可視光であるので、可視光で励起電子とホールを生成でき、かつ少なくとも還元反応が高効率で進行する光触媒を提供することについて、多くの提案がなされている。前記従来の光触媒のほとんどは金属酸化物、即ち非金属元素として酸素を含むものである。金属酸化物は、伝導帯及び価電子帯のエネルギー的な位置関係は酸素の価電子、O2p軌道のエネルギーによって大きく支配されるため、バンドギャップエネルギーは3eVより大きく、可視光で光触媒機能を発現させることができない。そこで、価電子帯がO2pより高い準位にあるN2pで構成することによって可視光で水を分解できる触媒材料が作れるのではないかと考え、オキシナイトライド化合物からなる光触媒の検討が堂免、原らによって既になされている〔非特許文献5(文献Bともいう)〕。また、価電子帯S3pがO2pより高い準位にあることに着目してオキシサルファイド化合物からなる光触媒の検討も堂免、原らによって既になされている〔非特許文献6(文献Cともいう)〕。また、O2p以外の価電子帯を形成する元素としてBi3+やAg+も候補として挙げることが工藤らによって提案されている。BiVO4やAgNbO3は可視光照射下で水溶液からの酸素生成に活性を示す光触媒である〔非特許文献7〕。
【0008】
これに対して、金属酸化物を微量の活性化元素又は化合物と組み合わせて、より長波長域での活性特性の改善、及び安定性の改善を図る検討もなされている。例えば、Lehnらは、SrTiO3を貴金属助触媒と組み合わせて、例えば、Rh/SrTiO3が水の完全光分解に光活性を示すことを証明している。特許文献1には、光触媒の可視光活性を改善するために、Pt、Ru、Rh、Ir、Ni等の金属又は当該金属の酸化物を光触媒に担持させることが開示されている。しかしながら、これらは担持させるものであるから、バンドギャップエネルギーを可視光域まで改善するものではない。
【0009】
一方、Cr3+とSb5+又はTa5+とを共ドープしたSrTiO3及びTiO2が,可視光照射下で、それぞれ、メタノール水溶液からの水素生成、及び、硝酸銀水溶液からの酸素生成に活性を示すことが知られている〔非特許文献8、非特許文献9〕。
【0010】
また、In又はInとZnとの酸化物からなる層構造の化合物が可視光下においてメタノール水溶液から水素を発生させる活性等についても検討されている〔非特許文献10(文献Dともいう)〕。また、ZnSに種々の金属元素をドープして可視光における活性を改善する試みも多々行われている〔非特許文献11及び非特許文献12(文献E類ともいう)〕。
【0011】
一方、SrTiO3系にRhとIrとをドープした金属酸化物触媒を用いて、犠牲試薬の存在下に、水から水素を生成する方法が報告されている(特許文献2)。これは可視光で水を分解できる珍しい金属酸化物触媒の例である。しかし、可視光により所謂水の全分解による水素及び酸素の発生を可能とする金属酸化物触媒は、ほとんど報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-189806号公報
【特許文献2】特開2004-8963号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Catal.Lett.,58(1999).153-155
【非特許文献2】Chem.Phys.Lett.,331〔5/6〕373-377(2000)
【非特許文献3】J.Phys.Chem.B,105〔19〕,4285-4292(2001)
【非特許文献4】表面,Vol.36,No.12(1998),625-645
【非特許文献5】マテリアルインテグレーションVol.14,No.2(2001)
【非特許文献6】日本化学会79回大会における講演予稿集、Vol.79th、No.1、pp366;オキシサルファイドによる水の可視光分解の検討
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.,121(49),11459-11467 (1999),マテリアルステージ,No.5, 21-26 (2002)
【非特許文献8】J. Phys. Chem., 106(19), 5029-5034 (2002)
【非特許文献9】マテリアルステージ,No.5,21-26(2002)
【非特許文献10】A.KudoandI.Mikami,Chem.Lett.,1027(1998)
【非特許文献11】Catal.Lett.,58〔4〕,241-243(1999)
【非特許文献12】Chem.Commun.,1371-1372(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
金属酸化物は、金属硫化物等に比して、比較的安価で簡便に製造し易く、安定な化合物であるが、前記の通り、金属酸化物触媒での可視光による水の分解、特に全分解による水素と酸素とを製造する方法は極めて少ないのが実情である。
【0015】
よって、本発明の課題は、犠牲試薬を使用せずに、水の全分解を可視光によって可能とする光触媒並びにこれを用いた可視光による水の全分解により水素及び酸素を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決するために検討した結果、Srと、Tiと、Ir等の、特定の第8族元素及び特定の第9族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、好ましくはSbとを特定の比率で含有する金属酸化物と、所謂助触媒として、特にRh及び/又はCrの酸化物との組み合わせが、水の分解を予想外に高い効率で可能とする光触媒となることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0017】
[1]下記一般式で表される金属酸化物と、Rh及び/又はCrの酸化物と、を含む光触媒。
SrTi(1-x-y)MxSbyO3
(式中、Mは、Co、Rh、Ir、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは、0.00005~0.0006の範囲内の数であり、yは0~0.0012の範囲内の数である。)
【0018】
[2]前記xは、0.00008~0.0004の範囲内の数である[1]に記載の光触媒。
【0019】
[3]前記xは、0.0001~0.00025の範囲内の数である[1]又は[2]に記載の光触媒。
【0020】
[4] 前記yは、0.00008~0.001の範囲内の数である[1]~[3]のいずれか1つに記載の光触媒。
【0021】
[5]前記yは、0.00015~0.0008の範囲内の数である[1]~[4]のいずれか1つに記載の光触媒。
【0022】
[6]前記Mは、Irである[1]~[5]のいずれか1つに記載の光触媒。
【0023】
[7]
下記一般式で表される金属酸化物と、Rh及び/又はCrの酸化物と、を含む光触媒と水との共存下で、前記光触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含む、水素及び酸素の製造方法。
SrTi(1-x-y)MxSbyO3
(式中、Mは、Co、Rh、Ir、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは、0.00005~0.0006の範囲内の数であり、yは0~0.0012の範囲内の数である。)
【発明の効果】
【0024】
金属酸化物は、金属硫化物等に比して、比較的安価に簡便に製造し易く、安定な化合物であるが、前記の通り、金属酸化物触媒での可視光による水の分解、特に全分解による水素と酸素とを製造する方法は極めて少ないのが実情である。
【0025】
本発明によれば、犠牲試薬を使用せずに、水の全分解を可視光によって可能とする光触媒並びにこれを用いた可視光による水の全分解により水素及び酸素を製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の光触媒を用いて水を分解する装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をより詳細に説明する。
1,金属酸化物:SrTi(1-x-y) MxSbyO3
本発明の光触媒の構成要素の1つである金属酸化物は、Sr、Ti、M、Sb、及びOを特定の割合で含むことを特徴とする。前記Mは、周期表の第8族元素及び第9族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、具体的には、Co、Rh、Ir、及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。一般式として、SrTi(1-x-y)MxSbyO3で特定することが出来る。ただし、前記xは、0.00005~0.0006の範囲内の数である。また、yは、0~0.0012の範囲内の数である。前記xは、Mの含有比を特定するための係数であり、yはSbの含有比を特定するための係数である。(なお、本明細書において、m~n(但し、m及びnは、任意の実数であり、m<nを満たす。)とは、m以上、n以下であることを意味するものとする。)
【0028】
本発明において、MとSbとは、所謂ドープされた形態であることが好ましい。また、ドープされた形態の有無は、常法(ラマン分光法やXRD測定法)にて確認することが出来る。
【0029】
前記xの下限値は、好ましくは0.00008、より好ましくは0.0001、更に好ましくは0.00011である。一方、前記xの上限値は、好ましくは0.00045、より好ましくは0.0004、更に好ましくは0.0003、特に好ましくは0.00025である。
【0030】
前記yの下限値は、好ましくは0.00008、より好ましくは0.0001、更に好ましくは0.00015である。一方、前記yの上限値は、好ましくは0.001、より好ましくは0.0008、更に好ましくは0.0006、特に好ましくは0.0005である。
【0031】
上記のx及びyの値は、互いに、同一である場合も、異なる場合もある。
上記のx及びyは、従来のSrTiO3系金属酸化物の例に比して、極めて小さい値であることを特徴とする。また、x、yの値が小さい場合、当該複合金属酸化物の粒子径が小さい傾向となる場合がある。
【0032】
また、上記Mは、好ましくはCo,Ir、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、より好ましくはIr及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、特に好ましくはIrである。
【0033】
本発明による水の分解反応は、上記複合金属酸化物に含まれるIr等の所謂不純物準位を利用していることが予想される。このため、類似の電子配置を有する周期表の第8族及び/又は第9族元素を含む構成が、本発明の光触媒として好適なのであろう。
【0034】
前記の特許文献2から分かる通り、Ir、Sbは、SrTiO3に導入されることで、光触媒として特徴ある機能を発現することは明白であると言えよう。本発明者らの検討によれば、驚くべきことに、Irを含む周期表の第8族元素及び第9族元素から選ばれるこれらの元素の含有率を従来よりも少なくすることで、予想に反して水分解反応の光触媒としての機能が高まり、犠牲試薬を用いて水素及び酸素を発生させることが出来るだけでなく、可視光で水を全分解するという効果を示すことが見いだされた。また、前記可視光が従来よりも長波長側の光でも機能する場合があることが見いだされた。また、本発明の金属酸化物を含む光触媒であれば、好ましくは可視光のみであっても水の全分解を実現することが出来る場合もある。
本発明の金属酸化物を含む光触媒は、上記のような予想外の効果を示す有用な触媒であると言える。
【0035】
本発明の光触媒を構成する金属酸化物は、本発明の目的の阻害しない範囲であれば、Sr、Ti、M、Sb、及びO以外の元素を含むことが出来る。このような元素としては、例えば、アルカリ金属類(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属類(マグネシウム、カルシウム等)、周期表の第13族金属(アルミニウム等)等の典型金属元素を挙げることが出来る。その他、(周期表の第14族金属(スズ等)等の典型金属元素、第4族のジルコニウム、ハフニウム、第5族のバナジウム、ニオブ、タンタル、第6族のタングステン、ランタノイド(スカンジウム、イットリウム、ランタン等)等が含まれていてもよい。このような金属元素は、例えば、酸化物、複合酸化物、塩等として、例えば担体として用いられるような例を挙げることが出来る。
【0036】
本発明に用いられる前記の金属酸化物の製造方法は、特に制限はない。例えば、固相法、錯体重合法等、公知の方法を制限なく用いることが出来る。またこれらの方法と、フラックス法による処理を併用することも可能である。前記の方法の中では、固相法が好ましい方法であり、固相法とフラックス処理とを組み合わせることが更に好ましい。このフラックス処理としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む塩を用いたフラックス処理法が好ましい。特にはハロゲン化塩である。またフラックス処理を行った場合、用いたアルカリ金属等が前記金属酸化物に少量含まれる場合もある。その際の含有量は、好ましくは2.0重量%以下、より好ましくは1.5重量%以下、更に好ましくは1.0重量%以下、特に好ましくは0.8重量%以下である。
【0037】
本発明のような構成の金属酸化物が前記の予想外の効果を示す理由は現時点では不明であるが、本発明者らは例えば、以下のような仮説を考えている。
Ir等の周期表第8族及び第9族元素並びに任意にSbを微量用いる場合、恐らくSrTiO3結晶の基本骨格に大きな影響を与えずに、SrTiO3結晶の格子欠陥等の最適な位置に導入されやすいのではないか? 更に適量を超えたIr等及び/又はSbの導入を試みると、SrTiO3結晶の基本的な配置に負の影響を及ぼしたり、最適配座を阻害するような悪影響を及ぼしたりするのではないか? より具体的には、適量を超えたIr等及び/又はSbの導入は、Irの再結合中心が増加してしまい、水分解反応を阻害する傾向が有るのかもしれない。
また、x及びyが上記のような小さい値の場合、前記した通り、金属複合酸化物粒子が小さくなる傾向が有るので、比表面積が増加する傾向となることが一因かもしれない。
このような観点から、ごく微量のIr等の前記元素及び任意にSbが含まれる態様が、予想外の効果を発現したのではないかと推測される。
【0038】
以下、固相法で金属酸化物を調製する方法について例示する。
(A.Sb及びMを含有するSrTiO3系触媒の調製方法)
(固相法による調製)
原料のSrCO3、TiO2(ルチル)、並びに金属酸化物Sb2O3及びIrO2(添川理化学、85.5%)を所定量、アルミナ乳鉢上で混ぜた後、アルミナるつぼに入れて電気炉で焼成する方法が挙げられる。原料に用いたSrCO3は、例えば500℃(773K)で数時間焼成したものを使用することが好ましい。乳鉢上で原料を混ぜる際、より均一に混ざるようにメタノールを数回加えることが好ましい。例えば700~1100℃で数時間仮焼後、電気炉から取り出して再びアルミナ乳鉢上で混ぜ合わせてからアルミナるつぼに入れ、900~1300℃で数時間焼成する方法を挙げることが出来る。
【0039】
(フラックス処理)
本発明で使用することが出来るフラックス処理は、前記の通り、公知の方法を制限なく用いることが出来る。以下、本発明に用いるフラックス法の例を示す。
【0040】
フラックス法において用いられるフラックス剤は、特に限定されない。例えば、金属塩化物、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム等のアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。焼成温度を低くできる等の点からは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウムがより好ましく、これら塩を2種以上混合する態様は、焼成工程の温度を効果的に下げることが出来る等の利点が有るので、焼成温度に制限のある系等では特に好ましい。(例えば、塩化リチウム(融点605℃)と塩化カリウム(融点770℃)の混合物は、59.5:40.5のモル比で融点352℃の共晶溶融塩を形成する。また、塩化ナトリウム(融点801℃)と塩化セシウム(融点645℃)の混合物も35:65のモル比で融点486℃の共晶溶融塩となる。)
【0041】
その他にも、後述する様な理由でフラックス処理が好ましい場合が有る。この場合は、特に塩化ストロンチウム、塩化バリウム等のアルカリ土類金属塩、より好ましくはそのハロゲン化塩が好ましく、特に好ましくは塩化ストロンチウムである。本発明の場合、これらの塩がより好ましい場合がある。
【0042】
用いるフラックス剤、即ち、上記金属塩の量は、特に限定されないが、原料の金属化合物(Srベース)量に対して、フラックス剤の金属元素ベースでのモル比で「1以上、約20以下」が好ましく、「5以上、約10倍以下」がより好適である。かかる範囲内であると、前記のような効果を得やすい傾向がある。
【0043】
本実施態様における熱処理、即ち、フラックス時の温度としては、400℃以上、1500℃以下が好ましく、450℃以上、1300℃以下がより好ましい。
【0044】
熱処理の時間としては、0.5時間以上、50時間以下が好ましく、1時間以上、30時間以下がより好ましく、2時間以上、20時間以下が更に好ましい。
【0045】
熱処理における昇温速度としては、0.5℃/分以上、20℃/分以下が好ましく、1℃/分以上、15℃/分以下がより好ましい。
【0046】
本実施態様における熱処理における降温速度としては、0.5℃/分以上、20℃/分以下が好ましく、1℃/分以上、15℃/分以下がより好ましい。特に、降温については、結晶成長への影響が大きいことから、一定速度で降温するだけでなく、途中で一定温度において保持する、途中で降温速度を変更する等の工夫が有効な場合がある。具体的には、1℃/分以上、15℃/分以下の降温速度において降温した後、300℃以上、600℃以下における一定温度において30分以上、300分以下の時間保持し、次いで1℃/分以上、15℃/分以下の降温速度において室温付近まで降温する方法等が挙げられる。
【0047】
前記の熱処理は、大気中で行うことができ、通常、0.1×105Pa以上、2000×105Pa以下、例えば1×105Pa以上、1000×105Pa以下の圧力において行うことができる。かかる熱処理は、例えば、開放系の反応容器内において行うことができる。従って、本実施態様における熱処理は、必ずしも真空下に熱処理する必要がなく、また、必ずしも原料とする金属化合物及びフラックス剤とする金属塩を石英製ガラス管、石英アンプル管等の閉鎖系の反応容器内において熱処理する必要はない。一方で、本実施態様における熱処理ないしフラックスを行う場合、その雰囲気は特に限定されず、大気下、又は不活性ガス雰囲気下、更には、通常、減圧下ないし真空下のいずれの雰囲気も適用可能であり、密閉系あるいは開放系のいずれの反応容器内における熱処理を行ってもよい。
【0048】
上記熱処理(フラックス)を行った後は、水により洗浄することにより、触媒中に過剰に残ったフラックス剤を除去することが好ましい。本発明の複合金属化合物は水に不溶である一方、金属塩は水に可溶であるので、水洗浄により効果的にフラックス剤である金属塩を除去することができる。
【0049】
洗浄に用いる水の量、洗浄回数、洗浄時間等は、特に限定されず、洗浄水に塩素が検出されなくなるまでというのが通常の指標となる。水による洗浄方法としては、例えば、1回の洗浄あたり固形物の2~20倍の体積の水を用いて、洗浄回数は通常3回以上、洗浄時間は5分以上/回で行うことが挙げられる。通常、かかる範囲内であれば、洗浄回数は6回以下、洗浄時間は60分以下/回で行うことができる。
【0050】
洗浄後は、通常、乾燥させる。乾燥方法は、特に限定されないが、熱負荷をあまりかけずに水分を除去することが望ましい。室温~50℃くらいで、常圧又は減圧下に乾燥させることが好ましい。
【0051】
上記製造方法により得られる本発明の光触媒を構成する複合金属化合物において、含まれるフラックス剤由来の金属の量は、水洗工程には依存せず、フラックス剤の種類、原料の金属化合物の組成、フラックス時の温度や時間等に依存することがある。
【0052】
本発明において好ましく用いられるフラックス処理を行うことによって、光触媒の性能が向上する場合がある。前記フラックス処理が有用である理由は現時点で明確ではないが、本発明者らは、SrTiO3を主成分とする結晶の構造が光触媒としての好適な配置となるかもしれないことや、前記のMやSb、更には他に含まれてもよい元素を結晶全体に分散させたり、好適な配置にさせたりし易くする効果があることを仮説の1つとして考えている。
【0053】
(Rh及び/又はCr等並びにその酸化物)
光触媒に併用される助触媒や金属酸化物には、下記の様な化合物が知られている。
周期律表の第6族~第11族の元素から選択される金属やその酸化物が挙げられ、例えば、Cr、Pt、Rh、Ir、Ru、Ni、Au等が好ましく、Cr、Pt、Rh、Ir、Ru、Niがより好ましく、Cr、Pt、Rh、Ruが更に好ましい。本願発明においてはCr及び/又はRhの酸化物が特に好ましく用いられる。RhCrOx’と例示される様な複合酸化物の形態で用いられることが殊に好ましい。(左記のx’は、Rh及びCrの酸化数によって決まる数値である。)
【0054】
上記のような金属や金属化合物は、助触媒の他、前記の光触媒の主要成分であるSr,Ti、M、Sbを含む酸化物や、前記の助触媒を被覆する様な成分として機能する場合もある。好ましくは、助触媒として機能するものである。
【0055】
本発明の光触媒は、前記の通り、(1)Sr、Ti、M、及び任意にSbを含む金属酸化物と、(2)Rh及び/又はCrの酸化物等の金属酸化物とを有している。これらの成分の割合は特に制限されるものではないが、(1)Sr、Ti、M、及び任意にSbを含む金属酸化物100重量部に対して(2)Rh及び/又はCrの酸化物等の金属酸化物の量は、好ましくは、0.01~20重量部、より好ましくは0.1~10重量部である。
【0056】
本発明の(1)Sr、Ti、M、及び任意にSbを含む金属酸化物、(2)Rh及び/又はCrの酸化物等の金属酸化物は、接触した態様で用いることが好ましい。このような態様を得る方法は特に制限はなく、混合、攪拌等、公知の方法を制限なく用いることが出来る。
【0057】
上記の助触媒を代表例とする金属やその酸化物は、前記のSr、Ti、M、及び任意にSbを含む金属酸化物と組み合わせて用いる具体的な方法としては、下記のような担持等の例を挙げることが出来る。
公知の担持方法であれば特に制約はないが、好ましい担持方法としては、含浸法、共沈法、CVD(chemical vapor deposition)法、ポアフィリング法、光電着法等が挙げられる。含浸法や光電着法が好ましく、例えば、含浸法では、周期律表の第6族~第11族の金属の塩や金属の錯体を水や有機溶媒に均一に溶解して含浸液を調製し、次に前記金属酸化物粉末を加えて加熱攪拌下に水あるいは有機溶媒を留去し、更に水素あるいは水素含有ガス雰囲気下(窒素やアルゴンを併用することも出来る)や、空気又は酸素含有ガス雰囲気下で熱処理(焼成)することによって担持することができる。前記の熱処理(焼成)温度は、好ましくは100~500℃、より好ましくは150~400℃の範囲である。好ましい焼成時間は、1分~50時間、より好ましくは1~10時間である。
【0058】
また、例えば、光電着法では、犠牲剤を用いた担持方法もある。具体的には、周期律表の第6族~第11族の金属の塩を水に溶解して、犠牲剤の存在下に光照射することによって担持する方法を挙げることが出来る。この方法は、Rh、Ru、Pt、Ir、Ni、Au等の0価より大きい原子価の金属塩を用いて、還元的にメタル状の金属(0価)として担持させる方法であり、水素発生用の助触媒の担持方法として知られている。この方法では、メタノールや硫黄化合物等、正孔を消費する犠牲剤の存在下に光照射することによって、水溶液中の金属を還元して前記金属酸化物の表面上に担持させる方法である。また、主として酸素発生助触媒の担持方法として知られている方法としては、IrやCo等の金属を0価のメタル状として、あるいは、0価より大きい原子価の金属酸化物又は水酸化物として担持する方法を挙げることが出来る。また、同様に還元的あるいは酸化的に光電着によって担持することが可能である。前記の酸化的に行う場合は、励起電子を消費する犠牲剤の存在下に光照射することによって、水溶液中の低原子価の金属イオンを高原子価の金属酸化物あるいは水酸化物として前記複合金属酸化物の表面上に担持させる方法である。
【0059】
本発明の光触媒は、前記の複合金属酸化物や助触媒成分以外に、他の金属や金属酸化物や同水酸化物等を含有させることもできる。このような成分は、例えば、前記の複合金属化合物と助触媒との組み合わせた成分を被覆するように形成させるのが一例である。このような構成を実現する方法としては、例えば、(1)前記複合酸化物の存在下で(2)助触媒を形成する助触媒形成工程と、前記助触媒形成工程後、(3)酸化物・水酸化物部位を形成する酸化物・水酸化物部位形成工程とを備える光触媒の製造方法により製造することが好ましい。このような工程は、焼成工程を含んでいてもよい。
【0060】
本発明においては、前記の通り、助触媒としては金属の酸化物が好ましく、特にはRh及び/又はCrの酸化物であることが好ましい。
【0061】
本発明においては、上記の様な金属元素や金属酸化物を助触媒として用いる場合、これらの金属元素は、前記複合金属酸化物のSrを100モル%として、0.001~10モル%含まれることが好ましい。下限値は、より好ましくは0.005モル%、更に好ましくは0.01モル%、特に好ましくは0.03モル%である。一方、上限値は、より好ましくは5モル%、更に好ましくは1モル%、特に好ましくは0.8モル%である。
【0062】
本発明の光触媒は、上記のような金属元素や金属酸化物を助触媒等として含むので、犠牲試薬を用いることなく水の全分解が可能となり、また犠牲試薬を用いた結果から期待される以上の水分解性能を示すことが有る。
【0063】
<光触媒の利用例と、水素と酸素の製造方法>
本発明の光触媒と水との共存下で、当該光触媒に光(可視光を含むことが好ましい)を照射することによって、水素と酸素とを製造することが出来る。本発明の光触媒は、前記のような方法で粉末や塊状で得られることが多い。このような光触媒の使用方法は特に制限はなく、前記のような粉末状、塊状でそのまま用いることが出来る。また、例えば光触媒プレートの形状で用いることを挙げることも出来る。前記光触媒プレートの形成方法としては、金属や樹脂のシートやフィルム上に、前記の粒子状の光触媒をカーボンブラックのようなバインダーを併用して、シート状に加工するのが好ましい方法の1つである。前記のバインダー材としては還元型酸化グラフェン(RGO)が好適な材料である。
前記光触媒プレートの好ましい製造方法は、基材を加圧によって結着して光触媒プレートとする方法である。
【0064】
更にこの工程で形成された光触媒プレートの光触媒粒子層の表面に更に光触媒粒子層を追加形成させる所謂「積層工程」を経て得られる構成体を加圧処理して光触媒プレートを形成する工程も好ましい例である。この場合、追加する光触媒粒子層は他の光触媒粒子層とは別の組成あるいは形態の光触媒粒子から構成されてもかまわない。
【0065】
一例として、本発明の金属酸化物に還元型酸化グラフェン(RGO)を添加して成る光触媒粒子を形成し、ついでこの混合物を基材の表面に光触媒粒子層として成膜した構成体を形成し、更に加圧処理して光触媒プレートを形成する方法が挙げられる。
【0066】
更には、前記の積層工程を複数回繰り返して成膜し加圧を行って光触媒プレートを形成する工程も挙げることが出来る。
【0067】
複数の光触媒粒子層が積層して成膜された光触媒プレートを形成する場合、各層の成膜の度に逐次的に加圧を行っても良いし、すべての層を形成し終えた後に一括的に加圧を行っても良い。
【0068】
基材の配置は基材の片面のみに光触媒粒子層を配置してもかまわないし両面にこれを配置してもかまわない。両面にこれを配置する場合は各々に構成される組成の種類及び重量や加圧の荷重が異なってもかまわない。
【0069】
本発明の光触媒プレートの製造における加圧の方法としては特に限定しないが光触媒粒子層を配置した基材に対してプレス器で加圧する方法やロールツーロールによる加圧を行う方法が挙げられる。
【0070】
光触媒粒子層を形成する部材を前記金属酸化物に対して不活性な液体に分散させたペーストを作製し、基材の上に塗布乾燥させる工程を加えると各部材が均質に混合された光触媒粒子層を形成しやすい。
一例として試験的には油圧プレス器と錠剤成形器を利用する方法が挙げられる。錠剤成形器に光触媒粒子層を配置した基材を充填し、油圧プレス器で加圧して光触媒プレートを製造する。
【0071】
更にこの工程の際に剥離フィルムを介して光触媒粒子層に加圧をおこなう方がのぞましい。剥離フィルムとしては例えばITO等の無機化合物を被覆した樹脂フィルムを用い、この被覆面を光触媒粒子層に接触させて加圧を行う方法が加圧面に光触媒粒子を転写させることがなく有効である。
【0072】
(光触媒の触媒機能の評価)
前記した通り、本発明の粉末状、塊状、プレート状等の光触媒と水との共存下、例えば可視光あるいは可視光を含む光を光触媒に照射することにより水を分解させて、水素と酸素とを得ることが出来る。この際、波長が凡そ700ナノメートルの領域の光まで、即ち、広い波長領域の可視光線に対して活性を示す場合がある。なお、前記の光は、可視光線やそれよりも高エネルギー領域の光を含むことが好ましい。勿論、赤外領域よりも長波長側の光が含まれていても構わないが、前記の可視光領域よりも短波長側の光を含むことが好ましい。また、本発明の光触媒を用いれば、可視光の波長領域の光(好ましくはλ≧440nm)だけでも水の全分解が起こる場合がある。
前記の水は、好ましくは循環させる等の流れる状況下で、光触媒と接触させることが好ましい。
【0073】
このような光による水の分解は、下記のような装置を用いて実施し、水素及び酸素の製造、あるいは、触媒性能の評価を行うことが出来る。
図1に示す閉鎖循環系により、得られた光触媒の水素生成活性として、発生する水素量(水素ガス量)及び酸素生成活性として、発生する酸素量(酸素ガス量)を測定することによって光触媒機能の評価を行うことができる。
図1において、201は反応管、202はカットオフフィルター、203は真空ポンプに接続される発生水素・酸素ガス排気系真空ライン、204はガスクロマトグラフ用アルゴンガス供給ライン、205は恒温槽、206はスターラー、207は撹拌子、208は光触媒、209は水溶媒の液面、210は循環器、211は圧力計、212はガスクロマトグラフ、213はリービッヒ冷却管、L1は光源又は可視光を含む光である。水溶媒とは水である。
【0074】
具体的には、
図1の閉鎖循環系において、その内部がアルゴンガス雰囲気や減圧環境下の反応管201に、水120mlを満たし
図1に示したような位置に光触媒を配置する。例えば、光触媒をプレート状で使用する場合、支持台で固定して配置することもできる。この水面及び光触媒に対して、当該反応管201の上部から、例えば、300W のキセノンランプ「CERMA X LX-300」(ILC technology社製)よりなる光源L1からの放射光のうちの波長440nmよりも長波長側の光を、波長440nm 以下の光をカットするカットオフフィルター「HOYA Y44」(HOYA社製)よりなるカットオフフィルター202を介することによって照射する。(勿論、太陽光であっても構わない。)
そして、ガスクロマトグラフ「GC-8A」(島津製作所社製;MS-5A column;TCD;Ar carrier)よりなるガスクロマトグラフ212によって生成した水素(水素ガス)及び酸素(酸素ガス)の定量を行なうことにより、水素生成活性及び酸素生成活性より成る水分解反応が起こっていることを確認し、水分解活性を測定することが出来る。
水分解活性の測定の際には、例えば、1時間ごとにガス発生量の定量を行い、生成速度が安定した時間帯の測定値を比較することで水分解活性の評価することが出来る。
【0075】
上記のように、本発明の光触媒は、広い可視光領域の光にも活性を示す場合が有るので、従来よりも高い効率で水を分解することが出来、水素と酸素とを得ることが出来る。
【実施例0076】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、この例示により本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0077】
実施例1~8、比較例1~2
(固相法でのSrTiO3系結晶の製造)
SrCO3(Kanto Chemical,99.9%)、TiO2(Kojundo Chemical, 99.9%)、IrO2(Kojundo Chemical)、及びSb2O3(Nakarai Tesque, 99.5%)をアルミナ乳鉢で粉砕混合した後、アルミナるつぼを用いて900℃(1173 K)で1時間仮焼成し、その後1000℃(1273K)で10時間、大気中で焼成した。表1に、得られた結晶の組成を記載した。
【0078】
(フラックス処理)
上記固相法で得られた複合金属酸化物を、10mol当量のSrCl2・6H2O(Wako Pure Chemical,99%)をフラックス剤として用いて、アルミナ乳鉢で粉砕混合した後、アルミナるつぼを用いて1373Kで10時間、大気中で焼成した。その後,純水で洗浄し,吸引ろ過することで目的物を得た。
【0079】
(助触媒の担持)
純水の全分解での評価における助触媒としては、RhCrOx’を用いた。犠牲試薬としてメタノールを用いた評価においては、助触媒として、Ptを用いた(表1参照)。
助触媒の担持方法としては、含浸法又は光電着法(in situ)を用いた(表1参照)。
含浸法では,磁性るつぼに光触媒粉末と助触媒源を入れ、蒸発乾固後大気中で焼成した。RhCrOx’を用いた場合は350℃(623 K)で1時間焼成した。
光電着法(in situ)では、反応溶液に助触媒源を添加することで担持した。
【0080】
(光触媒反応)
Sr、Ti、Ir、及び任意にSbを含む上記の複合金属酸化物と、助触媒となる金属酸化物とを含む光触媒粉末を、水との共存下、また必要に応じて犠牲試薬存在下で、水の分解反応(水素生成反応及び酸素生成反応)に供した。当該水の分解反応は、
図1の構成の装置を用い、減圧下の閉鎖循環系で行った。
電子ドナー(犠牲試薬)にはメタノール(関東化学,99.8%)、電子アクセプター(犠牲試薬)にはAgNO
3(東洋化学,99.90%)、光源にはロングパスフィルター(Hoya, Y44)により照射波長を制御した300W Xe lamp(PerkinElmer,CERMAX PE300BF、λ≦440nmの光はカット)、及びソーラーシミュレーター(ASAHI SPECTRA, HAL-320, 100mW・cm
-2)を用いた。生成したガスはオンラインガスクロマトグラフ(Shimadzu, GC-8A, MS-5A column, TCD, Ar carrier)により定量した。
各条件と結果を表1に示した。
【0081】
【0082】
表1の結果から分かる通り、本発明の光触媒は、犠牲試薬を用いなくても、高い効率で水の全分解を達成することが出来る。本発明の光触媒による水の全分解の効率は、犠牲試薬使用時よりも、犠牲試薬不使用時に高い場合がある結果となった。