IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2023-76342共有結合性有機構造体及びその製造方法
<>
  • 特開-共有結合性有機構造体及びその製造方法 図1
  • 特開-共有結合性有機構造体及びその製造方法 図2
  • 特開-共有結合性有機構造体及びその製造方法 図3
  • 特開-共有結合性有機構造体及びその製造方法 図4
  • 特開-共有結合性有機構造体及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076342
(43)【公開日】2023-06-01
(54)【発明の名称】共有結合性有機構造体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/18 20060101AFI20230525BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20230525BHJP
【FI】
C08G73/18
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189705
(22)【出願日】2021-11-22
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 南
(72)【発明者】
【氏名】佐野 光
【テーマコード(参考)】
4J043
5G301
【Fターム(参考)】
4J043PA14
4J043PB08
4J043PB11
4J043QB44
4J043RA42
4J043SA09
4J043TA09
4J043UA121
4J043UA122
4J043XA02
4J043XA16
4J043ZA27
4J043ZA44
4J043ZB49
5G301CD01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、電位窓の広い固体電解質を提供する。
【解決手段】非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、アミノ基とアルデヒド基の縮合により形成されるイミダゾール連結によりポリマー化することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(1A)及び/又は(1B):
【化1】
[式中、
、R及びRは同一又は異なって、アルキル基又はアリール基を示す。
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【請求項2】
前記R、R及びRが、同一又は異なって、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基である、請求項1に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項3】
前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、請求項1又は2に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項4】
前記M、M及びMが、同一又は異なって、リチウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(III)一般式(2A)及び/又は(2B):
【化2】
[式中、Ar、Ar、Ar、M、M及びMは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、ボラン化合物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【請求項6】
非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(2A)及び/又は(2B):
【化3】
[式中、
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【請求項7】
前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、請求項6に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項8】
前記M、M及びMが、同一又は異なって、リチウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6又は7に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(II)一般式(3A)及び/又は(3B):
【化4】
[式中、Ar、Ar及びArは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、アルカリ金属水素化物及び/又はアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【請求項10】
非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(3A)及び/又は(3B):
【化5】
[式中、Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【請求項11】
前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、請求項10に記載の共有結合性有機構造体。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(I)ヘキサアミノベンゼン又はその塩と、一般式(4A)及び/又は(4B):
【化6】
[式中、Arは前記に同じである。R及びRは同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。]
で表される化合物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体を含有する、固体電解質。
【請求項14】
リチウムイオン二次電池用固体電解質である、請求項13に記載の固体電解質。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体又は請求項13若しくは14に記載の固体電解質と、溶媒とを含有する、イオン伝導性組成物。
【請求項16】
請求項13若しくは14に記載の固体電解質又は請求項15に記載のイオン伝導性組成物を含有する、リチウムイオン二次電池。
【請求項17】
請求項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体、請求項13若しくは14に記載の固体電解質又は請求項15に記載のイオン伝導性組成物を含有する、二酸化炭素吸着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共有結合性有機構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の (有機溶媒系) 電解液を固体電解質 (硫化物系固体電解質等) に置き換えた全固体リチウムイオン二次電池の開発は、液漏れ等による危険性を抑制し、電極層と電解質層とを積層できるためセルパッケージ単位での高エネルギー密度化が期待されている。
【0003】
しかしながら、硫化物固体電解質は、大気中の水分子と反応し、硫化水素を発生するため、製造コストや安全のためのセル構成が課題となっており、実際には高い安全性と高エネルギー密度化とを兼ね備えた全固体リチウムイオン二次電池は実現できていない。従来の高分子電解質は、鎖状の高分子に電解質塩を溶解させたものであり、イオン伝導率は高分子のセグメント運動に依存し、輸率が低い。このため、リチウムイオン輸率とイオン伝導度とが高く、化学的安定性が高く、加工成形容易という条件を同時に満たす高分子固体電解質の開発が要求されてきた。
【0004】
固体電解質としては、例えば、多数の孔を有し、当該孔の内部に有機電解液を保持し、イオン拡散経路が確保された多孔性リチウムイオン伝導性高分子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、イオン液体と混合することにより、室温でリチウムイオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、リチウムイオン輸率の優れた鎖状リチウムイオン伝導性高分子も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-373705号公報
【特許文献2】特開2019-160566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでに報告されている前記多孔性リチウムイオン伝導性高分子及び鎖状リチウムイオン伝導性高分子はいずれも、その電位窓は広くても0~4.5V程度に過ぎず、電解液と大差ない電位窓しか有していない。固体電解質が広い電位窓を有することは、高エネルギー密度化につながることが知られている。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、電位窓の広い固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の構造を有する共有結合性有機構造体が、イオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、電位窓の広い固体電解質であることを見出した。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0010】
項1.非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(1A)及び/又は(1B):
【0011】
【化1】
【0012】
[式中、
、R及びRは同一又は異なって、アルキル基又はアリール基を示す。
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【0013】
項2.前記R、R及びRが、同一又は異なって、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基である、項1に記載の共有結合性有機構造体。
【0014】
項3.前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、項1又は2に記載の共有結合性有機構造体。
【0015】
項4.前記M、M及びMが、同一又は異なって、リチウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1~3のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体。
【0016】
項5.項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(III)一般式(2A)及び/又は(2B):
【0017】
【化2】
【0018】
[式中、Ar、Ar、Ar、M、M及びMは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、ボラン化合物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【0019】
項6.非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(2A)及び/又は(2B):
【0020】
【化3】
【0021】
[式中、
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【0022】
項7.前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、項6に記載の共有結合性有機構造体。
【0023】
項8.前記M、M及びMが、同一又は異なって、リチウム、ナトリウム及びカリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6又は7に記載の共有結合性有機構造体。
【0024】
項9.項6~8のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(II)一般式(3A)及び/又は(3B):
【0025】
【化4】
【0026】
[式中、Ar、Ar及びArは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、アルカリ金属水素化物及び/又はアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【0027】
項10.非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(3A)及び/又は(3B):
【0028】
【化5】
【0029】
[式中、Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている、共有結合性有機構造体。
【0030】
項11.前記Ar、Ar及びArがベンゼン環である、項10に記載の共有結合性有機構造体。
【0031】
項12.項10又は11に記載の共有結合性有機構造体の製造方法であって、
(I)ヘキサアミノベンゼン又はその塩と、一般式(4A)及び/又は(4B):
【0032】
【化6】
【0033】
[式中、Arは前記に同じである。R及びRは同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。]
で表される化合物とを反応させる工程
を備える、製造方法。
【0034】
項13.項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体を含有する、固体電解質。
【0035】
項14.リチウムイオン二次電池用固体電解質である、項13に記載の固体電解質。
【0036】
項15.項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体又は項13若しくは14に記載の固体電解質と、溶媒とを含有する、イオン伝導性組成物。
【0037】
項16.項13若しくは14に記載の固体電解質又は項15に記載のイオン伝導性組成物を含有する、リチウムイオン二次電池。
【0038】
項17.項1~4のいずれか1項に記載の共有結合性有機構造体、請求項13若しくは14に記載の固体電解質又は項15に記載のイオン伝導性組成物を含有する、二酸化炭素吸着材料。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、イオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、電位窓の広い固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例1で得られた共有結合性有機構造体の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を示す。
図2】実施例1で得られた共有結合性有機構造体の固体核磁気共鳴スペクトル(固体NMRスペクトル)を示す。
図3】実施例3で得られた共有結合性有機構造体の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を示す。
図4】実施例3で得られた共有結合性有機構造体の固体核磁気共鳴スペクトル(固体NMRスペクトル)を示す。
図5】実施例3で得られた共有結合性有機構造体を用いたサイクリックボルタモグラム(上図)及び電位窓測定の結果(下図)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0042】
1.共有結合性有機構造体(一般式(1A)及び(1B))
本発明の共有結合性有機構造体は、非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(1A)及び/又は(1B):
【0043】
【化7】
【0044】
[式中、
、R及びRは同一又は異なって、アルキル基又はアリール基を示す。
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている。
【0045】
本発明の共有結合性有機構造体は、骨格中にアニオン部位が固定されているため、イオン移動のための規則的に連続したポテンシャル場を形成でき、電位窓を向上させることができる。
【0046】
具体的には、従来の有機固体電解質の電位窓は広くても4.5V化であったところ、本発明の共有結合性有機構造体は、5.0V以上(好ましくは6.0V以上)という極めて広い電位窓を有しており、リチウムイオン二次電池を高エネルギー密度化することが可能である。
【0047】
本発明の共有結合性有機構造体は、C、H、O、N、B等の軽元素で構成することができるため軽量であり、リチウムイオン二次電池の軽量化が期待される。
【0048】
また、本発明の共有結合性有機構造体は、Ar、Ar及びArの組合せ等によって、共有結合性有機構造体が有する細孔サイズを調整可能であり、イオン伝導度も要求特性に応じて適宜調製可能である。
【0049】
また、本発明の共有結合性有機構造体は、有機材料であるため柔軟であり、薄膜を作製することが可能である。
【0050】
また、本発明の共有結合性有機構造体は、ベンゼン環に3個のイミダゾールが縮合した骨格を中心として共有結合によって構成されているため、熱的安定性やリチウムイオンに対する安定性等の各種安定性に優れ、大気暴露条件下で取り扱うことが可能である。特に、本発明の共有結合性有機構造体は、0V vs Li/Li以下でリチウムの析出挙動が観測されるため、電気化学的安定性を向上させることが可能である。
【0051】
一般式(1A)及び(1B)において、R、R及びRで示されるアルキル基としては、特に制限はなく、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用し得るが、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から直鎖アルキル基が好ましい。このようなアルキル基の炭素数は、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、1~12が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~2が特に好ましい。このようなアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0052】
一般式(1A)及び(1B)において、R、R及びRで示されるアリール基としては、特に制限はなく、単環アリール基(フェニル基)及び多環アリール基のいずれも採用し得るが、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から単環アリール基(フェニル基)が好ましい。このようなアリール基の炭素数は、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、6~12が好ましく、6~11がより好ましく、6~10がさらに好ましい。このようなアリール基としては、具体的には、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0053】
一般式(1A)及び(1B)において、R、R及びRとしては、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、アルキル基が好ましい。
【0054】
一般式(1A)及び(1B)において、Ar、Ar及びArで示される(複素)芳香環としては、芳香環(芳香族炭化水素環)及び複素芳香環のいずれも採用できるが、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から芳香環(芳香族炭化水素環)が好ましい。このような(複素)芳香環の炭素数は、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、6~20が好ましく、6~18がより好ましく、6~16がさらに好ましい。このような芳香環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環等が挙げられる。これら芳香環(芳香族炭化水素環)は、フェニル基等の置換基を1~6個(特に1~3個)程度有していてもよい。
【0055】
一般式(1A)及び(1B)において、M、M及びMで示されるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属は、構成される電池の種類によって適調整することができ、例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合はリチウムを採用することができる。
【0056】
以上のような条件を満たす、一般式(1A)及び(1B)で表される繰り返し単位としては、例えば、
【0057】
【化8】
【0058】
等が挙げられる。
【0059】
本発明の共有結合性有機構造体は、上記した繰り返し単位が共有結合により構成されるものであるが、同一の繰り返し単位のみから構成されていてもよいし、複数種の繰り返し単位から構成されていてもよい。なかでも、後述の製造方法によれば、同一の繰り返し単位のみから構成される共有結合性有機構造体が製造されやすい。
【0060】
このような条件を有する本発明の共有結合性有機構造体は、中心骨格に対してボラン化合物が導入されており、その立体障害により、イオン伝導性を示す。具体的には、本発明の共有結合性有機構造体の室温(25℃)におけるイオン伝導度は、1.0×10-7S/cm以上が好ましく、2.0×10-7S/cm以上がより好ましい。本発明の共有結合性有機構造体に対して、有機電解液等を意図的に含有させることで、さらにイオン伝導度を向上させることができる。なお、本発明の共有結合性有機構造体のイオン伝導度は、高ければ高いほどよく上限値は特に設定されないが、例えば、1.0×10-1S/cm以下とすることができる。
【0061】
以上のような条件を満たす本発明の一般式(1A)及び/又は(1B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、イオン伝導性を示し、熱安定性に優れ、電位窓が広い。このため、リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質として有用である。
【0062】
また、以上のような条件を満たす本発明の一般式(1A)及び/又は(1B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、窒素吸着比表面積と比較して二酸化炭素吸着比表面積が著しく多い。つまり、以上のような条件を満たす本発明の一般式(1A)及び/又は(1B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、窒素ガスと比較して二酸化炭素ガスを選択的に吸着する。このため、以上のような条件を満たす本発明の一般式(1A)及び/又は(1B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、二酸化炭素吸着材料として有用である。
【0063】
2.共有結合性有機構造体(一般式(2A)及び(2B))
本発明の共有結合性有機構造体は、非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(2A)及び/又は(2B):
【0064】
【化9】
【0065】
[式中、
Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。
、M及びMは同一又は異なって、アルカリ金属を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている。
【0066】
一般式(2A)及び(2B)において、Ar、Ar及びArで示される(複素)芳香環としては、芳香環(芳香族炭化水素環)及び複素芳香環のいずれも採用できるが、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から芳香環(芳香族炭化水素環)が好ましい。このような(複素)芳香環の炭素数は、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、6~12が好ましく、6~11がより好ましく、6~10がさらに好ましい。このような芳香環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環等が挙げられる。これら芳香環(芳香族炭化水素環)は、フェニル基等の置換基を1~6個(特に1~3個)程度有していてもよい。
【0067】
一般式(2A)及び(2B)において、M、M及びMで示されるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属は、構成される電池の種類によって適調整することができ、例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合はリチウムを採用することができる。
【0068】
以上のような条件を満たす、一般式(2A)及び(2B)で表される繰り返し単位としては、例えば、
【0069】
【化10】
【0070】
等が挙げられる。
【0071】
本発明の共有結合性有機構造体は、上記した繰り返し単位が共有結合により構成されるものであるが、同一の繰り返し単位のみから構成されていてもよいし、複数種の繰り返し単位から構成されていてもよい。なかでも、後述の製造方法によれば、同一の繰り返し単位のみから構成される共有結合性有機構造体が製造されやすい。
【0072】
3.共有結合性有機構造体(一般式(3A)及び(3B))
本発明の共有結合性有機構造体は、非金属の共有結合によって構成された有機多孔質材料である共有結合性有機構造体であって、
一般式(3A)及び/又は(3B):
【0073】
【化11】
【0074】
[式中、Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている。
【0075】
一般式(3A)及び(3B)において、Ar、Ar及びArで示される(複素)芳香環としては、芳香環(芳香族炭化水素環)及び複素芳香環のいずれも採用できるが、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から芳香環(芳香族炭化水素環)が好ましい。このような(複素)芳香環の炭素数は、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、6~12が好ましく、6~11がより好ましく、6~10がさらに好ましい。このような芳香環としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、ピレン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環等が挙げられる。これら芳香環(芳香族炭化水素環)は、フェニル基等の置換基を1~6個(特に1~3個)程度有していてもよい。
【0076】
以上のような条件を満たす、一般式(3A)及び(3B)で表される繰り返し単位としては、例えば、
【0077】
【化12】
【0078】
等が挙げられる。
【0079】
本発明の共有結合性有機構造体は、上記した繰り返し単位が共有結合により構成されるものであるが、同一の繰り返し単位のみから構成されていてもよいし、複数種の繰り返し単位から構成されていてもよい。なかでも、後述の製造方法によれば、同一の繰り返し単位のみから構成される共有結合性有機構造体が製造されやすい。
【0080】
本発明の共有結合性有機構造体においては、上記した繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有していてもよいが、適切な細孔を有しやすく、柔軟性にも優れやすく、また、合成及び解析の容易さと、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、本発明の共有結合性有機構造体は、上記した繰り返し単位のみからなることが好ましい。
【0081】
本発明の共有結合性有機構造体の吸着ガスとしてアルゴンガスを用いてBET法により測定した比表面積は、特に制限されないが、適切な細孔を有しやすく、柔軟性にも優れやすく、また、合成及び解析の容易さと、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、80~700m/gが好ましく、100~650m/gがより好ましい。
【0082】
本発明の共有結合性有機構造体の吸着ガスとしてアルゴンガスを用いてBET法により測定した細孔容積は、特に制限されないが、適切な細孔を有しやすく、柔軟性にも優れやすく、また、合成及び解析の容易さと、電位窓、安定性(熱的安定性、電気化学的安定性等)、イオン伝導度等の観点から、0.30~2.00m/gが好ましく、0.35~1.50m/gがより好ましい。
【0083】
4.共有結合性有機構造体の製造方法(工程(I))
本発明の共有結合性有機構造体(一般式(3A)及び(3B))の製造方法は、特に制限されない。
【0084】
例えば、
(I)ヘキサアミノベンゼン又はその塩と、一般式(4A)及び/又は(4B):
【0085】
【化13】
【0086】
[式中、Arは前記に同じである。R及びRは同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を示す。]
で表される化合物とを反応させる工程
により、一般式(3A)及び/又は(3B):
【0087】
【化14】
【0088】
[式中、Ar、Ar及びArは同一又は異なって、(複素)芳香環を示す。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を製造することができる。
【0089】
ヘキサアミノベンゼン又はその塩は、ベンゼン環上に結合しているアミノ基が、一般式(4A)及び/又は(4B)で表される化合物におけるアルデヒド基と反応することで、ベンゼン環に3個のイミダゾール環が縮合した腫瘍骨格を有する共有結合性有機構造体を合成することができる。
【0090】
ヘキサアミノベンゼンの塩としては、一般式(4A)及び(4B)で表される化合物におけるアルデヒド基と反応することができれば特に制限されるものではなく、例えば、酢酸塩、ギ酸塩等の有機酸塩;硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩等の無機酸塩等を採用することができる。
【0091】
ヘキサアミノベンゼン又はその塩としては、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0092】
次に、一般式(4A)及び(4B)において、Arで示される(複素)芳香環、R及びRで示されるアルキル基は、上記したものを採用できる。好ましい具体例も同様である。
【0093】
一般式(4A)及び(4B)で表される化合物としては、具体的には、
【0094】
【化15】
【0095】
等が挙げられる。
【0096】
一般式(4A)及び(4B)で表される化合物の使用量は、特に制限されるわけではないが、収率等の観点から、ヘキサアミノベンゼン又はその塩1モルに対して、0.3~3.0モルが好ましく、0.5~2.0モルがより好ましい。
【0097】
工程(I)における反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。使用できる溶媒としては、特に制限はなく、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒を採用することができる。副反応を抑制しやすい観点から、これら溶媒は、水を除去した脱水溶媒であることが好ましい。また、これら溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0098】
工程(I)における反応は、副反応を抑制しやすい観点から、水分を除去した雰囲気、特に、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0099】
工程(I)における反応温度は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、-100~200℃が好ましく、-50~150℃がより好ましい。例えば、-100~50℃(特に-50~0℃)で反応させた後に、50~200℃(特に100~150℃)で、脱水素環化のために酸素をバブリングした後に反応させることもできる。
【0100】
工程(I)における反応時間は、反応が十分に進行する程度であればよく、適宜調整することができる。
【0101】
反応終了後、必要に応じてメタノール等のアルコール溶媒中で析出、沈殿させ、さらに必要に応じて常法で乾燥させ、精製することもできる。
【0102】
5.共有結合性有機構造体の製造方法(工程(II))
本発明の共有結合性有機構造体(一般式(2A)及び(2B))の製造方法は、特に制限されない。
【0103】
例えば、
(II)一般式(3A)及び(3B):
【0104】
【化16】
【0105】
[式中、Ar、Ar及びArは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、アルカリ金属水素化物及び/又はアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程
により、一般式(2A)及び/又は(2B):
【0106】
【化17】
【0107】
[式中、Ar、Ar、Ar、M、M及びMは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を合成することができる。
【0108】
一般式(3A)及び(3B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、上記した工程(I)で得られたものを使用することができる。
【0109】
アルカリ金属水素化物及びアルカリ金属水酸化物におけるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属は、本発明の共有結合性有機構造体により構成される電池の種類によって適調整することができ、例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合はリチウムを採用することができる。
【0110】
アルカリ金属水素化物及びアルカリ金属水酸化物としては、具体的には、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0111】
アルカリ金属水素化物及びアルカリ金属水酸化物としては、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0112】
アルカリ金属水素化物及び/又はアルカリ金属水酸化物の使用量は、特に制限されるわけではないが、収率等の観点から、一般式(3A)及び/又は(3B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体1モルに対して、1.0~10.0モルが好ましく、2.0~5.0モルがより好ましい。
【0113】
工程(II)における反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。使用できる溶媒としては、特に制限はなく、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒を採用することができる。副反応を抑制しやすい観点から、これら溶媒は、水を除去した脱水溶媒であることが好ましい。また、これら溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0114】
工程(II)における反応は、副反応を抑制しやすい観点から、水分を除去した雰囲気、特に、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0115】
工程(II)における反応温度は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、-50~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。例えば、-50~100℃(特に0~50℃)で反応させた後に、0~150℃(特に50~100℃)で反応させることもできる。
【0116】
工程(II)における反応時間は、反応が十分に進行する程度であればよく、適宜調整することができる。
【0117】
反応終了後、必要に応じて常法で精製することもできる。
【0118】
6.共有結合性有機構造体の製造方法(工程(III))
本発明の共有結合性有機構造体(一般式(1A)及び(1B))の製造方法は、特に制限されない。
【0119】
例えば、
(III)一般式(2A)及び/又は(2B):
【0120】
【化18】
【0121】
[式中、Ar、Ar、Ar、M、M及びMは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体と、ボラン化合物とを反応させる工程
により、一般式(1A)及び/又は(1B):
【0122】
【化19】
【0123】
[式中、R、R、R、Ar、Ar、Ar、M、M及びMは前記に同じである。]
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を合成することができる。
【0124】
一般式(2A)及び/又は(2B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、上記した工程(II)で得られたものを使用することができる。
【0125】
ボラン化合物は、一般式(2A)及び/又は(2B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体における窒素アニオンと反応して、-BR 、-BR 、-BR を導入することができる化合物を採用することができ、一般式(5):
BR (5)
[式中、Rは前記に同じである。]
で表される化合物を使用することができる。
【0126】
一般式(5)において、Rは前記したものを採用できる。好ましい具体例も同様である。
【0127】
このような一般式(5)で表される化合物としては、具体的には、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリフェニルボラン等が挙げられる。これらのボラン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0128】
ボラン化合物の使用量は、特に制限されるわけではないが、収率等の観点から、一般式(2A)及び/又は(2B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体1モルに対して、2.0~20.0モルが好ましく、4.0~10.0モルがより好ましい。
【0129】
工程(III)における反応は、通常、溶媒の存在下で行うことができる。使用できる溶媒としては、特に制限はなく、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒を採用することができる。副反応を抑制しやすい観点から、これら溶媒は、水を除去した脱水溶媒であることが好ましい。また、これら溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0130】
工程(III)における反応は、副反応を抑制しやすい観点から、水分を除去した雰囲気、特に、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0131】
工程(III)における反応温度は、反応が十分に進行する程度であればよく、例えば、0~150℃が好ましく、50~100℃がより好ましい。
【0132】
工程(III)における反応時間は、反応が十分に進行する程度であればよく、適宜調整することができる。
【0133】
反応終了後、必要に応じて常法で濾過及び乾燥させて精製することもできる。
【0134】
7.イオン伝導性組成物
上記のとおり、本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体は、固体電解質として有用である。
【0135】
本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を固体電解質として使用する場合は、そのまま使用することもできるが、溶媒と混合し、本発明の一般式(1A)及び/又は(1B)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を固体電解質と、溶媒とを含有するイオン伝導性組成物として使用することも可能である。
【0136】
使用できる溶媒は、特に制限はなく、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒を採用することができる。副反応を抑制しやすい観点から、これら溶媒は、水を除去した脱水溶媒であることが好ましい。また、これら溶媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0137】
8.リチウムイオン二次電池
本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を用いるリチウムイオン二次電池(好ましくは全固体リチウムイオン二次電池)は、公知の手法により製造することができる。
【0138】
例えば、本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を常法により層状に成形し、電解質層として使用することができる。
【0139】
さらに、その他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、リチウムイオン二次電池(全固体リチウムイオン二次電池)を組立てることができる。なお、本発明において、「リチウムイオン二次電池」とは、負極材料として金属リチウムを用いた「リチウム二次電池」も包含する概念である。
【実施例0140】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0141】
[実施例1]
1,2,3,4,5,6-ベンゼンヘキサアミントリヒドロクロリド(ヘキサアミノベンゼトリヒドロクロリド;64.9mg,1当量)をフラスコに入れ、Arガス置換し、脱水ジメチルホルムアミド50mLを入れたあと、-30℃に冷却し、脱水ジメチルホルムアミド15mLに1,3,5-ベンゼントリカルボアルデヒド(113mg,1当量)を溶解させた溶液をゆっくりとフラスコ内に滴下し、Arガス雰囲気下、-30℃で1時間程度攪拌した後、室温下で8~15時間攪拌した。次に酸素バブリングを20分程度行い、密封し、130℃の恒温槽に3日間、静置した。その後、メタノールで24時間ソックスレー抽出を行い、反応混合物を得た。得られた混合物は、エタノールで置換後、tert-ブチルアルコールで置換し、凍結乾燥後、室温~100℃で真空乾燥することにより、橙褐色の以下の式:
【0142】
【化20】
【0143】
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を得た。
Imidazole-linked polymer: Element Anal. Cald for (C5H2N2・H2O)n: C, 55.56; H, 3.73; N, 25.91. Found: C, 53.61; H, 4.91; N, 16.03。
【0144】
また、得られた共有結合性有機構造体の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を図1に、固体核磁気共鳴スペクトル(固体NMRスペクトル)を図2に示す。
【0145】
[実施例2]
実施例1で得られた共有結合性有機構造体(99.9mg,1当量)をフラスコに入れ、Arガス置換し、脱水ジメチルスルホキシド4mLを加え攪拌しながら、脱水ジメチルスルホキシドにLiH(78.5mg,3.2当量)を分散させたものを加え、Arガス雰囲気下、室温で3時間攪拌し、80℃で2時間攪拌した。これにより、以下の式:
【0146】
【化21】
【0147】
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を得た。
【0148】
[実施例3]
実施例2の後、室温まで放冷し、0℃まで冷却した後、トリエチルボラン2.3mL(6当量)を加えた後、80℃で8~15時間撹拌した。得られた反応混合物をアセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン(重量比)=1:1)で濾過し、得られたポリマーを減圧下、乾燥させた(100℃、3時間)。これにより、以下の式:
【0149】
【化22】
【0150】
で表される繰り返し単位が共有結合することによって構成されている共有結合性有機構造体を得た。
Imidazole-linked polymer- Li salt: Element Anal. Cald for (C11H16BLiN2・2DMSO)n: C, 51.44; H, 8.06; N, 8.00. Found: C,42.47; H, 6.09; N, 8.18。
【0151】
また、得られた共有結合性有機構造体の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)を図3に、固体核磁気共鳴スペクトル(固体NMRスペクトル)を図4に示す。
【0152】
[実施例4]
実施例3で得られた共有結合性有機構造体22.2mgと、ジメチルスルホキシド4μLとをメノウ乳鉢で混合し、粉末状のリチウムイオン伝導性組成物Aを得た。
【0153】
[実施例5]
実施例4で得られたリチウムイオン伝導性組成物Aにジメチルスルホキシド4μLを添加し、粉末状のリチウムイオン伝導性組成物Bを得た。
【0154】
[実施例6]
実施例5で得られたリチウムイオン伝導性組成物Bをメノウ乳鉢ですりつぶし、さらに、ジメチルスルホキシド4μLを添加し、メノウ乳鉢で混合し、粉末状のリチウムイオン伝導性組成物Cを得た。
【0155】
[試験例1:BET測定]
実施例1で得られた共有結合性有機構造体の比表面積、全細孔容積及び平均細孔直径を求めるために、吸着ガスとして窒素ガス(77K)、Arガス(87K)又は二酸化炭素ガス(273K)を用いて、吸着等温線の測定を行った。結果を表1に示す。
【0156】
【表1】
【0157】
この結果、窒素ガスやArガスと比較して、二酸化炭素ガスのほうが吸着されやすいことが理解できる。このため、二酸化炭素ガスを選択的に吸着する二酸化炭素吸着材料として有用であることが理解できる。
【0158】
[試験例2:イオン伝導率]
実施例3で得られた共有結合性有機構造体及び実施例4~6で得られたリチウムイオン伝導性組成物A~Cの物性として、イオン伝導度の測定を行った。
【0159】
油圧プレス機を用いて厚み174μmに成形することにより、Li-TBI-COFペレットを作製した。次に、Li-TBI-COFペレットを2枚のステンレス(SUS)電極で挟持して全固体電池評価セル(宝泉(株)製)を構成し、温度25~60℃において、イオン伝導度の測定を行った。
【0160】
結果を表2に示す。
【0161】
【表2】
【0162】
この結果、J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 7518-7525に記載されている化合物(比較例):
【0163】
【化23】
【0164】
のイオン伝導度が約5×10-7S/cmであったことと比較すると、有機溶媒を使用しない場合のイオン伝導度で比較して、1桁以上高いイオン伝導度を実現することができた。
【0165】
[試験例3:リチウムの溶解及び析出挙動並びに電位窓]
実施例3の共有結合性有機構造体を用いて、油圧プレス機を用いて厚み100~200μmに成形することにより、Li-TBI-COFペレットを作製した。次に、Li-TBI-COFペレットを、ステンレス(SUS)を作用極、リチウム金属を対極として、全固体電池評価セル(宝泉(株)製)を構成し、電極面積0.78cmとし、室温(25℃)で、1V/sの条件で、サイクリックボルタモグラム(CV曲線)を測定した。結果を図5(上図)に示す。この結果、リチウムの溶解及び析出に相当する酸化還元波が観測されたが、0V vs Li/Li以下でリチウムの析出挙動が観測されるため、電気化学的安定性に優れることが示唆される。
【0166】
次に、電位窓を測定するため、同様に構成した全固体電池評価セルを、電極面積0.78cmとし、室温(25℃)で、50mV/sの条件で、リニアスイープボルタモグラム(LSV曲線)を測定した。結果を図5(下図)に示す。この結果、0~7.0Vの範囲で目立った酸化還元反応のピークは観測されず、電位窓は少なくとも7.0V以上であり、この範囲で電気化学的に安定であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明の共有結合性有機構造体は、例えば、リチウムイオン二次電池用をはじめとする各種二次電池用固体電解質や、二酸化炭素吸着材料等として利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5