(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023076872
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】熱硬化性エポキシ樹脂組成物及び熱硬化性エポキシ樹脂シート
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20230529BHJP
C08G 59/62 20060101ALI20230529BHJP
C08G 59/56 20060101ALI20230529BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20230529BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20230529BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/62
C08G59/56
C08L63/00 C
C08K3/36
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021189863
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串原 直行
(72)【発明者】
【氏名】金田 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
4M109
【Fターム(参考)】
4J002CD03X
4J002CD04X
4J002CD05W
4J002CD06X
4J002CD07X
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ00
4J036AA05
4J036AC02
4J036AD08
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4J036AF08
4J036DA05
4J036DB05
4J036DC38
4J036DC40
4J036DC45
4J036FA05
4J036FA14
4J036FB08
4J036JA07
4M109AA01
4M109EA03
4M109EB03
4M109EB04
4M109EB13
4M109EB16
4M109EC01
4M109EC05
(57)【要約】
【課題】硬化前の可とう性に優れ、保存安定性及び成形性に優れ、得られる硬化物のガラス転移温度が高く、金属基板、特にCu(合金)基板への接着力に優れる熱硬化性エポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】
下記(A)~(F)成分を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
(A)結晶性エポキシ樹脂
(B)25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂
(C)フェノール化合物
(D)窒素原子含有硬化促進剤
(E)反応抑制剤
(F)無機充填材
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(F)成分を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
(A)結晶性エポキシ樹脂
(B)25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂
(C)フェノール化合物
(D)窒素原子含有硬化促進剤
(E)反応抑制剤
(F)無機充填材
【請求項2】
(E)成分がホウ酸、ホウ酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
ホウ酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物が炭素数1~10の1価炭化水素基を有するものである、請求項2に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
(D)成分が尿素系硬化促進剤又はイミダゾール系硬化促進剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
(E)成分の配合量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.01~5質量部である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
(F)成分が球状シリカである、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物をシート状に成形してなる、熱硬化性エポキシ樹脂シート。
【請求項8】
厚さが0.1~5mmである、請求項7に記載の熱硬化性エポキシ樹脂シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化前の可とう性に優れ、保存安定性及び成形性に優れる樹脂シートを与える、熱硬化性エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、接着力に優れ、耐熱性、電気特性に優れることから、電気・電子機器部品、自動車部品などの分野で、接着剤や封止材として使用されている。
【0003】
近年、大型基板やウエハを一括成形するためにシート状の封止材料が検討されている。一般的なシート状の材料は割れやすいため、熱可塑性樹脂を配合することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、熱可塑性樹脂を配合することで、硬化後のシート材料のガラス転移温度が低下するため、用途が限られるといった問題が発生している。
【0004】
また、シート材料は冷凍保管すると樹脂が固くなり、割れやすくなるため冷蔵保管または常温保管が推奨されている。保存安定性を向上させるため、硬化剤にフェノール化合物を用い、硬化促進剤としてリン化合物とのホウ酸塩を用いたエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献2、3)。リン化合物とのホウ酸塩を硬化促進剤として用いることで、保存安定性に優れるものの、成形性の悪化や、金属基板との接着力が不十分といった問題が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-213391号公報
【特許文献2】特許第6857836号公報
【特許文献3】特開2003-292732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、硬化前の可とう性に優れ、保存安定性及び成形性に優れ、得られる硬化物のガラス転移温度が高く、金属基板、特にCu(合金)基板への接着力に優れる熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、結晶性エポキシ樹脂、25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂、フェノール化合物、窒素原子含有硬化促進剤、反応抑制剤及び無機充填材を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物は可とう性に優れ、保存安定性及び成形性に優れ、更には耐熱信頼性および耐湿信頼性に優れる硬化物を与えることができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記(A)~(F)成分を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物を提供する。
<1>下記(A)~(F)成分を含有する熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
(A)結晶性エポキシ樹脂
(B)25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂
(C)フェノール化合物
(D)窒素原子含有硬化促進剤
(E)反応抑制剤
(F)無機充填材
<2>
(E)成分がホウ酸、ホウ酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物からなる群から選ばれる1種以上である、<1>に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
<3>
ホウ酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物が炭素数1~10の1価炭化水素基を有するものである、<2>に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
<4>
(D)成分が尿素系硬化促進剤又はイミダゾール系硬化促進剤である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
<5>
(E)成分の配合量が、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.01~5質量部である<1>~<4>のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
<6>
(F)成分が球状シリカである、<1>~<5>のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
<7>
<1>~<6>のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物をシート状に成形してなる、熱硬化性エポキシ樹脂シート。
<8>
厚さが0.1~5mmである、<7>に記載の熱硬化性エポキシ樹脂シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、硬化前の可とう性に優れるため、シート状に成形しやすく、保存安定性に優れ、かつ耐熱信頼性および耐湿信頼性に優れる硬化物を与える。したがって、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、大型基板やウエハを一括成形するためにシート状の封止材料に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物について、より詳細に説明する。
【0011】
(A)結晶性エポキシ樹脂
(A)成分は結晶性を有するエポキシ樹脂であり、公知の結晶性エポキシ樹脂を用いてもよい。結晶性エポキシ樹脂は、結晶性を有するエポキシ樹脂であれば、分子構造、分子量等に制限されることなく用いることができる。例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。好ましくはビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂である。なお、本発明において「結晶性を有する樹脂」とは、融点以上の温度で固体状から液状となり、高い流動性を有する樹脂であり、融点未満の温度で結晶化するエポキシ樹脂である。特に、常温で結晶化する、特には40℃以上の融点を有する、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。
【0012】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において(A)成分の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対し、5~35質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは8~33質量部であり、さらに好ましくは10~30質量部である。5質量部以上であれば成形して得られるシートに十分な可とう性を付与でき、35質量部以下であれば、十分な柔軟性を保持しつつも、タック性が強くなったり、シートとしての保持力が低下したり、シートを構成する樹脂のガラス転移温度が低くなりすぎたりするおそれがない。
【0013】
(B)25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂
(B)成分は(A)成分以外の25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂であり、公知のものを使用することができる。25℃で固体のエポキシ樹脂は、25℃で固体で非結晶性であれば、分子構造、分子量等に制限されることなく用いることができる。例えば、非結晶性ビスフェノールA型エポキシ樹脂、非結晶性ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂及び4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂等のビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリスフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多官能フェノール類及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物並びにこれらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0014】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において(B)成分の配合量は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、15~75質量部であることが好ましく、20~70質量部であることがより好ましい。
また、(A)成分と(B)成分の量比は、(A)成分及び(B)成分の合計100質量部に対し、(B)成分が30~90質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは40~85質量部であり、さらに好ましくは50~85質量部である。30質量部以上であれば成形性が良好であり、90質量部以下であれば、得られる硬化物の機械特性が低下するおそれがない。
【0015】
(C)フェノール化合物
(C)成分はフェノール化合物であり、公知のフェノール化合物であればよい。フェノール化合物は、分子構造、分子量等に制限されることなく用いることができる。例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリスフェノールアルカン樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、及びジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独又は2種以上の併用であってもよい。これらフェノール化合物は、分子量、軟化点、及び水酸基量等に制限なく選択することができるが、軟化点が低く比較的低粘度のものが好ましい。
【0016】
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物において(C)成分の配合量は、(A)成分及び(B)成分中のエポキシ基の合計1モルに対する、(C)成分中のフェノール性水酸基のモルの比が0.5~2となる量が好ましく、より好ましくは0.7~1.5となる量である。モル比が上記範囲内であれば、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化性、及び機械特性等が低下するおそれがない。
また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物中、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量は、10~80質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、15~60質量%であることが更に好ましい。
【0017】
(D)窒素原子含有硬化促進剤
(D)成分は窒素原子含有硬化促進剤であり、(A)成分及び(B)成分のエポキシ樹脂と(C)フェノール化合物との硬化を促進する目的で配合される。該硬化促進剤としては、例えばトリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α-メチルベンジルジメチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7等の第3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物等のイミダゾール化合物(イミダゾール系硬化促進剤);1,1-ジメチル尿素、1,1,3-トリメチル尿素、1,1-ジメチル-3-エチル尿素、1,1-ジメチル-3-フェニル尿素、1,1-ジエチル-3-メチル尿素、1,1-ジエチル-3-フェニル尿素、1,1-ジメチル-3-(3,4-ジメチルフェニル)尿素、1,1-ジメチル3-(p-クロロフェニル)尿素、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素(DCMU)、N’-[3-[[[(ジメチルアミノ)カルボニル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチルシクロヘキシル]-N,N-ジメチルウレア等の尿素系硬化促進剤等が挙げられる。
【0018】
硬化促進剤の配合量は(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.05~20質量部であることが好ましく、特に0.1~15質量部であることがより好ましい。0.05~20質量部であれば、組成物の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなったり、成形時の硬化速度が非常に遅く又は速くなったりするおそれがない。
【0019】
(E)反応抑制剤
(E)成分は反応抑制剤であり、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を向上させる目的で配合される。(E)成分の反応抑制剤は特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。該反応抑制剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ酸エステル化合物、アルミニウムキレート化合物、亜リン酸エステル化合物、有機酸等が挙げられる。中でも、ホウ酸エステル化合物および亜リン酸エステル化合物が好ましい。また、ホウ酸エステル化合物および亜リン酸エステル化合物中炭素数1~10の1価炭化水素基を有しているものが好ましい。
【0020】
ホウ酸エステル化合物としては例えば、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリ-n-プロピルボレート、トリイソプロピルボレート、トリ-n-ブチルボレート、トリペンチルボレート、トリアリルボレート、トリヘキシルボレート、トリシクロヘキシルボレート、トリオクチルボレート、トリノニルボレート、トリデシルボレート、トリドデシルボレート、トリヘキサデシルボレート、トリオクタデシルボレート、トリス(2-エチルヘキシロキシ)ボラン、ビス(1,4,7,10-テトラオキサウンデシル)(1,4,7,10,13-ペンタオキサテトラデシル)(1,4,7-トリオキサウンデシル)ボラン、トリベンジルボレート、トリフェニルボレート、トリ-o-トリルボレート、トリ-m-トリルボレート、トリエタノールアミンボレート等が挙げられる。
【0021】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、トリエチルアルミネート、トリプロピルアルミネート、トリイソプロピルアルミネート、トリブチルアルミネート、トリオクチルアルミネート等が挙げられる。
【0022】
亜リン酸エステル化合物としては、例えば、亜リン酸モノメチル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸モノエチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸モノブチル、亜リン酸ジブチル、亜リン酸モノラウリル、亜リン酸ジラウリル、亜リン酸モノオレイル、亜リン酸ジオレイル、亜リン酸モノフェニル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸モノナフチル、亜リン酸ジナフチル、亜リン酸ジ-o-トリル、亜リン酸ジ-m-トリル、亜リン酸ジ-p-トリルや、亜リン酸ジ-p-クロロフェニル、亜リン酸ジ-p-ブロモフェニル、亜リン酸ジ-p-フルオロフェニル等が挙げられる。
これらの反応抑制剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0023】
(E)反応抑制剤の配合量は(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、特に0.05~3質量部であることがより好ましい。0.01~5質量部であれば、組成物の硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスが悪くなったり、成形時の硬化速度が非常に遅くなったりするおそれがない。
【0024】
(F)無機充填材
(F)成分は無機充填材であり、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の強度を高めるために配合される。(F)成分の無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができる。例えば、球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ類;窒化珪素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等の無機窒化物類;アルミナ、ガラス繊維及びガラス粒子等が挙げられるが、補強効果に優れている、得られる硬化物の反りを抑えられるなどの点から、(F)成分はシリカ類を含有するものであることが好ましく、球状シリカを含有することがより好ましい。
【0025】
(F)成分の無機充填材の平均粒径は特に限定されないが、平均粒径は0.1~40μmが好ましく、より好ましくは0.5~40μmである。なお、本発明において平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(またはメジアン径)として求めた値である。
【0026】
また、本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物を製造する際に、エポキシ樹脂組成物の高流動化の観点から、(F)成分として複数の粒径範囲の無機充填材を組み合わせたものを使用してもよい。このような場合では、0.1~3μmの微細領域、3~7μmの中粒径領域、及び10~40μmの粗領域の球状シリカを組み合わせて使用することが好ましく、これらを組み合わせた結果、(E)成分全体の平均粒径が0.5~40μmの範囲にあることがより好ましい。さらなる高流動化のためには、平均粒径がさらに大きい球状シリカを用いることが好ましい。
【0027】
(F)無機充填材としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理されることが好ましい。このようなカップリング剤としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールとγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-(チイラニルメトキシ)プロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0028】
(F)無機充填材の配合量は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の全体に対して好ましくは5~94質量%、より好ましくは10~92質量%、更に好ましくは20~90質量%、特に好ましくは50~90質量%である。
【0029】
<その他の添加剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記(A)~(F)成分の所定量を配合することによって得られるが、その他の添加剤を必要に応じて本発明の目的、効果を損なわない範囲で添加することができる。かかる添加剤としては、接着助剤、難燃剤、イオントラップ剤、離型剤、低応力化剤及び着色剤等が挙げられる。
【0030】
前記難燃剤は、難燃性を付与する目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。該難燃剤としては、例えば、ホスファゼン化合物、シリコーン化合物、モリブデン酸亜鉛担持タルク、モリブデン酸亜鉛担持酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化モリブデン等が挙げられる。
【0031】
前記接着助剤は、シリコンウエハ、金属基板や有機基板との接着性を高くしたりする目的で配合させる。特に制限されず公知のものを使用することができる。例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤を配合することができ、中でもシランカップリング剤が好ましい。
【0032】
このようなカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ官能性アルコキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミン官能性アルコキシシランなどが挙げられる。
【0033】
前記イオントラップ剤は、樹脂組成物中に含まれるイオン不純物を捕捉し、熱劣化や吸湿劣化を防ぐ目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。イオントラップ剤としては、例えば、ハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス化合物、希土類酸化物等が挙げられる。
【0034】
前記離型剤は、成形時の離型性を高める目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。離型剤としては、カルナバワックス、ライスワックス、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、モンタン酸、モンタン酸と飽和アルコール、2-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-エタノール、エチレングリコール、グリセリン等とのエステル化合物等のワックス;ステアリン酸、ステアリン酸エステル、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記低応力化剤は、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の応力を低減する目的で添加され、特に制限されることなく公知のものを全て使用することができる。低応力化剤としては、シリコーンオイル、シリコーンレジン、シリコーン変性エポキシ樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等のシリコーン化合物;スチレン樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0036】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物の製造方法
本発明の熱硬化性エポキシ樹脂組成物は、上述の(A)成分及び(B)成分のエポキシ樹脂、(C)フェノール硬化合物、(D)窒素原子含有硬化促進剤、(E)反応抑制剤、(F)無機充填材及びその他の添加物を所定の組成比で配合し、これをミキサー等によって十分均一に混合して得られる。さらに該エポキシ樹脂組成物をシート状に成形することで熱硬化性エポキシ樹脂組成物シートを得る。成形は、例えば先端にTダイを設置した二軸押し出し機を用いたTダイ押し出し法等により行うことができる。他には、熱ロール、ニーダー、エクストルーダー等による溶融混合処理を行い、次いで冷却固化させ、適当な大きさに粉砕して得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物の粉砕品を加圧部材間で70~120℃で加熱溶融し、圧縮してシート状に成形することもできる。本発明の熱硬化性エポキシ樹脂シートは、厚さが0.1~5.0mmであることが好ましく、0.15~3.0mmであることがより好ましい。
【0037】
本発明の熱硬化性エポキシ樹組成物から得られるシートは、硬化前の状態において可とう性に優れる。また該組成物はハンドリング性が良好であり、硬化により高いガラス転移温度を有しながらも、保存安定性及び成形性にも優れる熱硬化性エポキシ樹脂シートを与える。本発明の熱硬化性エポキシ樹脂シートの硬化条件は特に制限されるものでない。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例、比較例で使用した原料を以下に示す。
(A)結晶性エポキシ樹脂
(A1):ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YL-6810:三菱ケミカル社製、エポキシ当量170、融点45℃)
【0040】
(B)25℃で固体の非結晶性エポキシ樹脂
(B1):クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EPICLON N-665:DIC社製、エポキシ当量210、軟化点65℃)
(B2):トリスフェノールメタンエポキシ樹脂(EPPN-501H:日本化薬社製、エポキシ当量168、軟化点53℃)
(B3):ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC-3000H:日本化薬社製、エポキシ当量272、軟化点70℃)
【0041】
(C)フェノール化合物
(C1):フェノールノボラック樹脂(BRG-555:アイカ工業社製、水酸基当量107)
(C2):トリスフェノールメタン樹脂(MEH-7500:明和化成社製、水酸基当量97)
(C3):フェノールビフェニルアラルキル樹脂(MEH-7851SS:明和化成社製、水酸基当量199)
【0042】
(D)窒素原子含有硬化促進剤
(D1):2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHZ-PW、四国化成工業社製)
(D2):2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物(2MAOK-PW、四国化成工業社製)
(D3):脂肪族ジメチルウレア(U-CAT 3513N、サンアプロ社製)
(D’)窒素原子非含有硬化促進剤(比較用)
(D’1):トリフェニルホスフィン(TPP、北興化学社製)
【0043】
(E)反応抑制剤
(E1):トリメチルボレート(TMB、大八化学工業社製)
(E2):トリ-n-ブチルボレート(TBB、大八化学工業社製)
【0044】
(F)無機充填材
(F1):球状溶融シリカ(質量平均粒径14μmの溶融球状シリカ、龍森社製)
【0045】
その他の成分
アミン化合物:4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM、東京化成工業社製)
【0046】
<実施例1~11、比較例1~5>
上記各成分を表1に示す配合(質量部)で、あらかじめヘンシェルミキサーで予備混合した後、2軸押し出し機を用いて熱硬化性エポキシ樹脂組成物を得た。尚、下記実施例及び比較例において、(C)成分の配合量は、(A)及び(B)成分中のエポキシ基の合計1モルに対し、(C)成分中のフェノール性水酸基のモルの比が1.0となる量である。
【0047】
[未硬化樹脂シートの可とう性]
上記方法で得られた熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、100mm×100mm、厚さ0.5mmのシート状に成形し熱硬化性エポキシ樹脂シートを作製し、未硬化状態で、該シートの折り曲げ試験を実施した。シートが割れることなく2つ折り可能なものを○、折り曲げ時にシートが割れてしまったものを×として未硬化樹脂シートの可とう性を評価した。結果を表1に示す。
【0048】
[ガラス転移温度]
EMMI規格に準じた金型を使用して、成形温度175℃、成形圧力6.9N/mm2、成形時間180秒の条件で、上記厚さ0.5mmの熱硬化性エポキシ樹脂シートを硬化し、180℃で4時間ポストキュアーした。ポストキュアーした硬化物から作製した試験片のガラス転移温度及び熱膨張係数をTMA(TMA8310リガク(株)製)で測定した。
昇温プログラムを昇温速度5℃/分に設定し、49mNの一定荷重が、ポストキュアーした硬化物の試験片に加わるように設定した後、25℃から300℃までの間で試験片の寸法変化を測定した。この寸法変化と温度との関係をグラフにプロットした。このようにして得られた寸法変化と温度とのグラフから、実施例及び比較例におけるガラス転移温度を求めた。結果を表1に示す。
【0049】
[保存安定性]
高化式フローテスター((株)島津製作所製 製品名 フローテスターCFT-500型)を用い、25kgfの加圧下、直径1mmのノズルを用い、温度175℃で各熱硬化性エポキシ樹脂組成物の最低溶融粘度を測定した。さらに、各熱硬化性エポキシ樹脂組成物を50℃に設定した恒温槽に入れ、72時間放置後の最低溶融粘度も同様の条件で測定した。50℃で72時間放置後の最低溶融粘度の、製造直後の最低溶融粘度に対する百分率を保存安定性とし、結果を表1に示す。
【0050】
[曲げ強度]
JISK6911に準じて、各熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、175℃で180秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形し、次いで180℃で4時間ポストキュアーすることにより、100mm×100mm、厚さ4mmの試験片を得た。試験片を、島津製作所製オートグラフを用いて3点曲げ試験を行い、曲げ強度を求めた。結果を表1に示す。
【0051】
[接着力]
実施例及び比較例の各熱硬化性エポキシ樹脂組成物を、15mm×15mm、厚さ0.15mmのCu合金(Olin C7025)製基板上に、175℃で180秒間、成形圧6.9MPaの条件でトランスファー成形により、底面積10mm2、高さ3.5mmの成形物を成形した後、180℃で4時間のポストキュアーにより試験片を得た。ついで、ダイシェアテスター(DAGE製)を用いて該成形物をせん断速度0.2mm/sでせん断力を加え、基板表面から剥がれるときのせん断強さ(接着力)を測定した。結果を表1に示す。
【0052】