(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077224
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】熱伝導率測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20230529BHJP
【FI】
G01N25/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190444
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】足立 渉
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀明
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB09
2G040BA08
2G040BA24
2G040CA01
2G040DA02
2G040DA03
2G040DA14
2G040DA21
2G040EA02
2G040GA04
2G040GC07
2G040HA11
(57)【要約】
【課題】センサーの劣化等を防止しつつ、短時間で高精度の測定結果が得られる融体の熱伝導率測定方法を提供する。
【解決手段】ホットディスク法を用いて加熱装置中の融体の熱伝導率を測定する測定方法において、加熱装置は、チャンバーと、チャンバー内に配置され、対象材料である融体が収容されるるつぼと、融体に一端が挿入された熱電対と、融体の熱伝導率を測定するホットディスクセンサーと、るつぼ及びホットディスクセンサーを加熱する加熱機構とを含み、この測定方法は、チャンバー内を不活性ガスで満たす工程と、ホットディスクセンサーを保持して融体の温度に近い温度に加熱する工程と、ホットディスクセンサーを融体に浸漬して融体の熱伝導率を測定する工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットディスク法を用いて加熱装置中の融体の熱伝導率を測定する測定方法であって、
加熱装置は、
チャンバーと、
チャンバー内に配置され、対象材料である融体が収容されるるつぼと、
融体に一端が挿入された熱電対と、
融体の熱伝導率を測定するホットディスクセンサーと、
るつぼ及びホットディスクセンサーを加熱する加熱機構と、を含み、
この測定方法は、
チャンバー内を不活性ガスで満たす工程と、
ホットディスクセンサーを保持して融体の温度に近い温度に加熱する工程と、
ホットディスクセンサーを融体に浸漬して融体の熱伝導率を測定する工程と、を含む測定方法。
【請求項2】
ホットディスクセンサーの検出温度をT1(℃)、熱電対の検出温度をT2(℃)とした場合に、以下の条件(1)~(3):
(1)T1、T2が融体の融点以上、
(2)ΔT=|(T1×W1+T2×W2)/(W1+W2)-T0|<20℃、
ただし、T0:測定目標温度(℃)、W1:ホットディスクセンサーの重量(g)、W2:融体の重量(g)、
(3)|T1-T2|<20℃、
を満たした場合に、ホットディスクセンサーを融体に浸漬する請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
チャンバー内に、さらに還元性ガスが加えられる請求項1または2に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融体の熱伝導率測定方法に関し、特に、ホットディスク法を用いて高温融体の熱伝導率を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al合金の鋳造プロセスにおける湯流れ・伝熱・凝固解析といった鋳造CAEでは、熱伝導率などの精度の高い溶融状態の物性が必要となる。また、金属材料の精錬や半導体単結晶の作製において熱移動を制御することが重要であり、そのために融体の熱伝導率が必要となる。以上より、熱伝導率を正確に測定することが必要となる。このような融体の熱伝導率測定方法には、平板定常法、非定常レーザーフラッシュ法、非定常細線加熱法、ホットディスク法がある。特に融体の熱伝導率の測定に関しては、融体の高い反応性による腐食の問題や熱対流の影響による測定値のずれなどがあり、これらに対応するための工夫が検討されている。ホットディスク法では、融体の測定に対応可能なホットディスクセンサー(特許文献1参照)が報告されており、短時間で測定することで熱対流の影響のない範囲で融体の熱伝導率の測定が可能である。
【0003】
従来のホットディスク法では、例えばチャンバー内に配置されたるつぼ内に、固体の対象材料と共にホットディスクセンサーを挿入した状態で対象材料を加熱溶融した後、高温融体となった対象材料の熱伝導率を測定していた(特許文献1参照)。また、非定常細線加熱法では、対象材料を加熱溶融した後に、融体にセンサーを浸漬して熱伝導率を測定していた(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-242734号公報
【特許文献2】特開2000-310605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のホットディスクセンサーでは、金属箔と絶縁性薄板との間に発生する隙間に無機微粉末を充填して融体の侵入を抑制しているが、金属箔を酸化させるような酸素などのガスの侵入を完全に防ぐことは出来ない。そのため、雰囲気ガス中に酸素が残存すると、ホットディスクセンサーの金属箔が酸化し、センサーは劣化する。一般に金属の酸化は高温ほど激しく、酸素分圧が高いほど起こりやすいため、ホットディスクセンサーの劣化を抑制するために高温に保持する時間を短くしたり、系内の酸素を積極的に除去することは有効である。また、対象材料が固体の場合では、完全に溶融するまでの間、センサーが長時間高温に晒されるため、好ましくなく、対象材料の形状が不規則な場合には、溶融時にセンサーとの間に気泡が残存することが多く、気泡の存在は熱伝導率の測定に大きな誤差を生じさせる。さらに融体が酸化されやすい金属の場合には、センサーと融体との間に融体の酸化層が介在することがあり、測定精度が低下する等の問題がある。
【0006】
一方、特許文献2のように対象材料を加熱溶融した後に融体にセンサーを浸漬する方法では、センサーの温度が低い状態で融体に浸漬した場合に、融体の表面が固化してセンサーを破損したり、センサーの感温部に破損などの悪影響を与えたりすることがある。また、融体にセンサーを浸漬した後、センサーの温度が測定したい融体と同程度の温度になるまでに時間がかかり、この間にセンサーの劣化を引き起こす場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、センサーの劣化等を防止しつつ、短時間で高精度の測定結果が得られる融体の熱伝導率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの態様は、ホットディスク法を用いて加熱装置中の融体の熱伝導率を測定する測定方法であって、
加熱装置は、
チャンバーと、
チャンバー内に配置され、対象材料である融体が収容されるるつぼと、
融体に一端が挿入された熱電対と、
融体の熱伝導率を測定するホットディスクセンサーと、
るつぼ及びホットディスクセンサーを加熱する加熱機構と、を含み、
この測定方法は、
チャンバー内を不活性ガスで満たす工程と、
ホットディスクセンサーを保持して、融体の温度に近い温度に加熱する工程と、
ホットディスクセンサーを融体に浸漬して融体の熱伝導率を測定する工程と、を含む測定方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、ホットディスクセンサーの検出温度(以後、「センサー温度」と呼ぶ)をT1(℃)、熱電対の検出温度(以後、「熱電対温度」と呼ぶ)をT2(℃)とした場合に、以下の条件(1)~(3):
(1)T1、T2が融体の融点以上、
(2)ΔT=|(T1×W1+T2×W2)/(W1+W2)-T0|<20℃、
ただし、T0:測定目標温度、W1:ホットディスクセンサーの重量(g)、W2:融体の重量(g)、
(3)|T1-T2|<20℃、
を満たした場合に、ホットディスクセンサーを融体に浸漬する測定方法である。
【0010】
本発明の他の態様は、チャンバー内に、さらに還元性ガスが加えられる測定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる測定方法を用いることにより、ホットディスク法を用いて融体の熱伝導率を正確かつ短時間で測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明にかかる熱伝導率測定方法に使用する加熱装置の概略断面図である。
【
図2】本発明にかかる熱伝導率測定方法に使用するホットディスクセンサーの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、全体が100で表される、本発明にかかる熱伝導率測定方法に使用する加熱装置の概略断面図である。加熱装置100はチャンバー3を含む。チャンバー3にはガス流入口8とガス排出口9が設けられている。ガス流入口8、ガス排出口9には、それぞれバルブが設けられている。チャンバー3には、蓋(図示せず)が設けられているが、蓋を閉めることで密閉状態になる。さらに単一のチャンバー3とすることで、センサー2を融体1に浸漬する際の操作性が向上するとともに、チャンバー3内での温度のばらつきを低減できる。
【0014】
チャンバー3の中には、例えばアルミナるつぼ5が配置され、るつぼ5の中に対象材料の融体1が保持される。融体1の中には、温度測定用の熱電対4が挿入される。またチャンバー3の上方から下方に向かって、ホットディスクセンサー2が先端に固定されたセンサー保持装置6が設けられる。センサー保持装置6は、例えばロッドからなり、上下左右に移動したり、回転することによりセンサー2の位置を変えることができる。
【0015】
チャンバー3の周囲には、チャンバー3を囲むように電気炉等の加熱機構7が設けられている。加熱機構7は、浸漬前のホットディスクセンサー2と、るつぼ5を加熱するように配置する。加熱機構7でるつぼ5を加熱することにより、るつぼ5内で対象材料を溶融して融体1を形成する。また、対象材料によっては、加熱機構7によって直接加熱される場合もある。
【0016】
図2は、ホットディスクセンサー2の分解斜視図であり、例えば特許文献1に記載されたセンサーが用いられる。センサー2は金属箔21を有する。金属箔21は、細線が2重のらせん状に巻かれたらせん部21aと、その両端にそれぞれ接続された電極部21bとを有する。金属箔21は、例えばモリブデン、タンタル、タングステン、ニオブ、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム等の高融点金属またはこれらの合金(例えば白金-ロジウム、タングステンーレニウム等)からなる。
【0017】
金属箔21は、上下から絶縁性厚板25で挟まれる。絶縁性厚板25には、円形の開口部27が設けられている。さらに、絶縁性厚板25と金属箔21との間には、絶縁性薄板23が挟まれる。
【0018】
図2から分かるように、センサー2は、開口部27の中に、金属箔21のらせん部21aが配置され、その上下が絶縁性薄板23で覆われる構造となる。絶縁性薄板23、絶縁性厚板25は、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、石英ガラス等の材料からなる。金属箔21、絶縁性薄板23、絶縁性厚板25の間は、無機接着剤や窒化ホウ素等の無機微粉末を用いて接着され、さらに固定用のねじ等(図示せず)で固定される。
【0019】
図2のセンサー2は、測定装置(図示せず)に接続される。測定装置は、センサー2への電流供給およびセンサー2の抵抗測定を行うためのソースメーターと、ソースメーターの制御およびデータの取得、解析を行うためのコンピュータ(いずれも図示せず)を含む。測定装置には、例えば京都電子工業製「ホットディスク法熱物性測定装置TPS3500」が用いられる。
【0020】
測定装置から、センサー2の金属箔21の電極部21bの間に一定電流を通電して、抵抗値を測定する。センサー2に用いられている金属箔の抵抗値と温度との間には1対1の関係が成り立っており、センサー2の温度と抵抗値との関係をあらかじめ測定しておくことにより、抵抗値の測定結果からセンサー2の温度T1を算出することができる。
【0021】
続いて、
図1、2を参照しながら、本発明にかかるホットディスク法を用いた融体の熱伝導率測定方法について説明する。
【0022】
図1の加熱装置100で、チャンバー3の蓋(図示せず)を開いて、るつぼ5の中に対象材料を挿入する。対象材料は、例えば鉄やアルミニウムのような金属材料、シリコン等の半導体材料のような高融点材料であり、通常は室温で固体である。
【0023】
熱電対4の先端は、固体の対象材料の中に挿入される。一方、センサー2は、るつぼ5の上方に保持される。この状態でチャンバー3の蓋が閉じられ、チャンバー3内は密閉状態となる。
【0024】
次に、ガス流入口8から不活性ガスを導入しながら、ガス排出口9から排気することにより、チャンバー3の内の雰囲気10を不活性ガスで満たす。不活性ガスには、例えば、アルゴン、窒素ガス等が用いられる。これによりチャンバー3中の酸素を減らして融体1やセンサー2の金属箔21の酸化を防止できる。
【0025】
雰囲気10は、不活性ガスに還元性ガスを加えたものの方がより好ましい。還元性ガスには、例えば水素、一酸化炭素、炭化水素が用いられる。還元性ガスの比率については熱伝導率の測定に支障の無い範囲であれば特に制約はされない。好ましくは1~10%の範囲で還元性ガスを加えることにより、系内に残存する酸素を消費し、酸素分圧がさらに低下するために、酸化防止効果が向上する。
【0026】
この状態で、加熱機構7を用いてるつぼ5を加熱し、るつぼ5の中の対象材料を溶融して融体1を形成する。熱電対4は融体1に浸漬した状態となり、熱電対温度T2を示す。一方、センサー2の位置はセンサー保持装置6により調整され、融体1と非接触状態で液面の上方に配置され、センサー温度T1を示す。融体1とセンサー2は近い温度領域に配置して、融体の温度に近い温度に加熱する。
【0027】
本発明では、センサー2を融体1に浸漬する時期を、センサー温度T1、熱電対温度T2が以下の条件(1)~(3)を満たすタイミングとする。
【0028】
(1)T1、T2が融体1の融点以上
(2)センサー2の測定目標温度をT0(℃)、センサー2の重量W1(g)、融体1の重量をW2(g)とした場合、
ΔT=|(T1×W1+T2×W2)/(W1+W2)-T0|<20℃
(3)|T1-T2|<20℃
【0029】
条件(1)~(3)を満たすタイミングで、センサー保持装置6によりセンサー2を融体1に浸漬して、融体1の熱伝導率を測定する。熱伝導率はセンサー温度の変化より求めることができる。融体1の熱伝導率を測定した後、センサー保持装置6によりセンサー2を融体1から引抜き、融体1の熱伝導率測定が終了する。
【0030】
このように、本発明にかかる方法では、測定前に、融体1にセンサー2を非接触状態で保持することにより、融体1の温度とセンサー2の温度が近くなり、センサー2を融体1に浸漬した際に、融体1に比べて温度の低いセンサー2が融体1と接触することによる接触面の固化を防止できる。
【0031】
また、対象材料がアルミニウムのような元々、酸化被膜を有している材料の場合、従来のように、固体の対象材料にセンサー2を挿入した状態で加熱すると、加熱過程でセンサー2と融体1との間に対象材料の酸化層が挟まれた状態で固定され、正確な熱伝導率測定ができない場合があった。また、固体の対象材料の形状が不規則な場合には、溶融時にセンサーとの間に気泡が残存することがあり、気泡の存在は熱伝導率の測定に大きな誤差を生じさせた。これに対して本発明の方法では、対象材料が融体1になってから、センサー2を融体1に浸漬させたため、センサー保持装置6でセンサー2を上下左右に移動させたり、回転することで、酸化層の挟まりや気泡を積極的に除去することが可能となり、融体1の熱伝導率を正確に測定できる。
【0032】
また、事前にセンサー2をるつぼ5内に入れておく必要がないため、るつぼ容積に十分な余裕が確保されるため、固体の対象材料の形状が不規則であってもるつぼ5に収容可能な量を確保できる。
【0033】
さらに、センサー2を融体1に浸漬する時期を、条件(1)~(3)を満たすタイミングとすることより、T1とT2の温度から、センサー2を融体1に浸漬するタイミング、即ち測定開始のタイミングを知ることができ、不必要に長くT1、T2の温度が近づくのを待つ必要がなくなり、センサーの劣化抑制が出来るとともに効率的な熱伝導率測定が可能となる。
【0034】
条件(1)のように、センサー温度T1、熱電対温度T2が共に対象材料が融体となる温度(融点)以上であることにより、センサー2の浸漬時に融体1との接触面での固化を防止できる。
【0035】
また条件(2)により、センサー温度T1と熱電対温度T2の双方を測定目標温度T0に近づけることが容易となり、センサー2を浸漬してから、温度が安定して測定するまでの時間を短縮できる。ここでは、センサー2および融体1の熱容量を、重量W1、W2で近似しており、10W1<W2を満たす範囲での調整が好ましい。
【0036】
また条件(3)により、センサー温度T1が平衡温度になるまでの時間を短くすることができる。なお、センサー2の劣化を抑制するためには、センサー温度T1は熱電対温度T2より低い方が好ましく、T2-T1<20℃を満たす範囲での調整が好ましい。
【0037】
さらにチャンバー3の内部の雰囲気10を不活性ガスで満たすことで、高温状態で保持するセンサー2の金属部分(例えば金属箔21)の酸化を防止できる。更に、不活性ガスに還元性ガスを加えることで、チャンバー3内に残存する酸素と還元性ガスが反応することにより酸素分圧を減らし、センサー2の金属部分(例えば金属箔21)の酸化防止効果が向上する。
【実施例0038】
表1は、本発明の測定方法で測定した場合(実施例1、2)と本発明とは異なる場合(比較例1)の測定条件および結果を示す。なお、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0039】
対象材料はアルミニウム(融点:660℃)であり、融体1の想定温度(測定目標温度)T0は700℃、センサー2の重量W1は10g、融体1の重量W2は200gで共通である。センサー2は、金属箔21がモリブデンで、絶縁性薄板23と絶縁性厚板25は窒化アルミニウムから成っている。比較例1、実施例1は雰囲気10がアルゴンガス、実施例2はアルゴンガスに水素ガス(3vol%)を加えた。実施例1、2および比較例1では、センサー2を融体1に非接触状態で保持した後にセンサー2を融体1に浸漬したが、実施例1、2では、上述の条件(1)~(3)を満足した時点でセンサー2を融体1に浸漬したのに対して、比較例1では条件(1)と(2)は満足していたが、条件(3)が未達の状態でセンサー2を融体1に浸漬した。融体1の熱伝導率は、センサー2の温度が平衡状態になった時点で測定した。
【0040】
【0041】
表1の結果から分かるように、実施例1、2および比較例1のいずれも、センサー2を融体1に浸漬する際にセンサー2の表面での融体1の凝固は発生せず、センサー2と融体1との間に酸化層や気泡が挟まることもなく、正確な熱伝導率測定ができた。
【0042】
一方、センサー2を融体1に浸漬することによるセンサー温度T1の昇温後、測定開始までにかかる時間、即ちセンサー温度T1が平衡状態になるまでの時間は、実施例1、2では10分であったのに対して、比較例1では60分となった。つまり、条件(1)~(3)を満たした後に、センサー2を融体1に浸漬することにより、センサー温度T1が平衡状態になるまでの時間、即ち測定時間を短くすることができた。測定条件から分かるように、条件(1)、(2)については、比較例1、実施例1、2の全てが満足した(ただし、ΔTは実施例1、2に比べて比較例1のほうが大きい)が、条件(3)については、比較例1は満足せず、実施例1、2のみ満足した。
【0043】
また、同じセンサーを用いて10分間の休止時間を設けて3回繰り返して熱伝導率の測定を行った。測定開始から終了までに要した時間は、実施例1、2では約45分であったが、比較例1では約1時間35分であった。測定された熱伝導率の測定値は、実施例1、2では繰り返し時に同様の値を得ることが出来たが、比較例1では繰り返し時の測定値にずれが生じていた。測定後にセンサーを取り出して見たところ、実施例1のセンサーの金属箔の表面には金属光沢が見られたが、薄い変色が見られわずかに酸化していると考えられた。実施例2のセンサーの金属箔は表面が金属光沢をしており、酸化の兆候は見られなかった。一方、比較例1のセンサーの金属箔の表面には金属光沢は見られず、変色の程度から表面酸化が実施例1より進んでいると考えられた。これは、雰囲気10中の残留酸素によりセンサー2の酸化が時間とともに進行したためであり、高温に保持される時間が長い比較例1の方が実施例1より酸化が進んでセンサーの劣化が顕著になったため測定値にずれが生じてきたと考えられる。雰囲気10中に還元性ガスを加えた実施例2ではセンサー2の酸化が起きなかったためであり、更に多くの繰り返し使用が可能と考えられる。
【0044】
総合評価として、実施例1、2が良好であり、実施例1は「○」、実施例2は「◎」となった。一方、比較例1は、測定時間が長く、繰り返し測定も不可であるため「×」となった。
【0045】
このように、本発明にかかる実施例では、条件(1)~(3)を用いてセンサー2を融体1に浸漬するタイミングを定めることにより、浸漬から測定までの時間を大幅に短縮できた。特に、測定雰囲気10の不活性ガスに還元性ガスを加えることにより、熱伝導率測定を繰り返し行うことができた。