(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077325
(43)【公開日】2023-06-05
(54)【発明の名称】撮像装置及び撮像方法
(51)【国際特許分類】
G03H 1/06 20060101AFI20230529BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20230529BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20230529BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20230529BHJP
G03B 35/08 20210101ALI20230529BHJP
G01B 9/021 20060101ALI20230529BHJP
【FI】
G03H1/06
G02B5/30
G02B5/18
G03B15/00 M
G03B35/08
G01B9/021
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021190591
(22)【出願日】2021-11-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
【テーマコード(参考)】
2F064
2H059
2H149
2H249
2K008
【Fターム(参考)】
2F064GG12
2F064GG23
2F064GG31
2F064GG38
2F064HH08
2F064LL06
2H059AA07
2H059AC04
2H149AA22
2H149BA01
2H149BA02
2H149BA04
2H149DA04
2H149DA12
2H249AA12
2H249AA55
2H249AA64
2H249AA65
2K008BB04
2K008HH12
2K008HH13
2K008HH14
2K008HH18
2K008HH19
2K008HH28
(57)【要約】
【課題】光の利用効率を向上させ、高画質のホログラム画像/再構成画像を得る。
【解決手段】撮像装置は、インコヒーレントな光波を直線偏光にする第1の偏光板と、前記第1の偏光板を透過した光波を偏光方向により第1分割光と第2分割光に分割する偏光ビームスプリッタと、互いに曲率の異なる第1及び第2のミラーと、前記偏光ビームスプリッタと前記第1及び第2のミラーの間に配置される第1及び第2の1/4波長板と、前記第1のミラーで反射された第1分割光と、前記第2のミラーで反射された第2分割光を、円偏光にする第3の1/4波長板と、を備え、前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光板を通して撮影し、同時に複数の干渉縞を取得することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレントな光波を直線偏光にする第1の偏光板と、
前記第1の偏光板を透過した光波を偏光方向により第1分割光と第2分割光に分割する偏光ビームスプリッタと、
第1分割光及び第2分割光をそれぞれ反射する、互いに曲率の異なる第1及び第2のミラーと、
前記偏光ビームスプリッタと前記第1のミラーの間に配置される第1の1/4波長板と、
前記偏光ビームスプリッタと前記第2のミラーの間に配置される第2の1/4波長板と、
前記第1のミラーで反射され前記第1の1/4波長板を透過した第1分割光と、前記第2のミラーで反射され前記第2の1/4波長板を透過した第2分割光を、円偏光にする第3の1/4波長板と、
を備え、
前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光板を通して撮影し、同時に複数の干渉縞を取得することを特徴とする、撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光カメラにより撮影し、異なる位相の干渉縞を同時に取得することを特徴とする、撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、回折格子により複数の方向に回折し、各方向の回折光を異なる偏光方向の偏光板を通してカメラで撮影し、異なる位相の干渉縞を同時に取得することを特徴とする、撮像装置。
【請求項4】
請求項1に記載の撮像装置において、
前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光板を通してビームスプリッタで2つの光路に分岐し、前記ビームスプリッタから異なる距離で各光路に配置したカメラで撮影し、光路の距離の異なる干渉縞を同時に取得することを特徴とする、撮像装置。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の撮像装置において、
さらに、異なる位相の複数の干渉縞から位相シフト法により複素振幅情報を求め、光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像を得ることを特徴とする、撮像装置。
【請求項6】
請求項4に記載の撮像装置において、
さらに、異なる距離で取得した干渉縞の振幅情報から位相回復により位相情報を求め、取得した振幅情報と求めた位相情報を用いて光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像を得ることを特徴とする、撮像装置。
【請求項7】
偏光板を透過した光波を偏光ビームスプリッタで第1分割光と第2分割光に分割し、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ1/4波長板を通して曲率の異なるミラーで反射させ、再度1/4波長板を通して前記偏光ビームスプリッタで合成し、合成した第1分割光及び第2分割光を1/4波長板と異なる偏光方向を有する偏光板を通してカメラで撮影することで、異なる位相の干渉縞を同時に取得することを特徴とする、インコヒーレントデジタルホログラフィの撮像方法。
【請求項8】
偏光板を透過した光波を偏光ビームスプリッタで第1分割光と第2分割光に分割し、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ1/4波長板を通して曲率の異なるミラーで反射させ、再度1/4波長板を通して前記偏光ビームスプリッタで合成し、合成した第1分割光及び第2分割光を1/4波長板と偏光板を通してビームスプリッタで2つの光路に分岐し、前記ビームスプリッタから異なる距離で各光路に配置したカメラで撮影することで、光路の距離の異なる干渉縞を同時に取得することを特徴とする、インコヒーレントデジタルホログラフィの撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は撮像装置及び撮像方法に関し、特にインコヒーレントデジタルホログラフィにおける撮像装置及び撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インコヒーレントデジタルホログラフィはレーザなどの特殊な照明を使わずに3次元情報を取得できる方法として検討されている。被写体からのインコヒーレントな物体光を2つの光路に分岐して、一方の光路に凹面ミラーやレンズを設けてわずかに光路差を生じさせる。再度これらの光を合成して干渉させることで、被写体を干渉縞として撮影する。異なる位相の干渉縞画像(ホログラム)を複数枚取得して計算することで、撮像素子面における被写体の複素振幅情報が得られる。この複素振幅情報から光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の2次元画像、すなわち3次元画像情報が得られる。
【0003】
3次元情報を含む動画像を撮影するためには、被写体の複素振幅情報をフレームごとに取得する必要があり、そのためには、例えば異なる位相の干渉縞を同時に取得する必要がある。その方法として、偏光を用いて異なる位相の干渉縞画像を同時に生成して取得する方法が提案されている(特許文献1,非特許文献1)。
【0004】
図7、
図8は、従来のインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像装置の例である。
図7の撮像装置は、複屈折レンズを用いる光学系で構成されている。被写体1からの物体光はレンズ2と波長フィルタ3を通り、偏光板4で任意の方向の直線偏光成分のみとする。この偏光方向から±45°となる偏光方向に対して異なる焦点距離を有する複屈折レンズ5を設ける。複屈折レンズ5を透過した物体光は、1/4波長板6で右回り、左回りの円偏光になる。これを各画素に45°おきに偏光板が設けられた偏光カメラ20で撮影し、各偏光方向の画像(各偏光方向の画素データを集約して構成された画像)を生成することで、異なる位相の干渉縞画像を同時に取得することができる。これらの干渉縞画像から複素振幅情報を得て、光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像が得られる。この光学系により、フレームレート25fpsの動画が取得できたことが報告されている(非特許文献1)。
【0005】
一方、
図8に示すように、複屈折レンズの代わりに反射型液晶パネルを用いる光学系も提案されている。被写体1からの物体光は、レンズ2、波長フィルタ3、及び偏光板4を透過後、直線偏光の光波となる。この直線偏光をビームスプリッタ(BS)7を介して反射型液晶パネル8に入射する。反射型液晶パネル8は、この偏光方向から±45°となる偏光方向に対して異なる球面の位相分布を付与する。
【0006】
反射型液晶パネル8とビームスプリッタ(BS)7で反射した物体光は、1/4波長板9を透過して右回りと左回りの円偏光となり、回折格子21で4方向に分岐する(
図8は平面図であるため、2方向の光が描かれているが、実際は4方向に回折する。)。なお、この回折格子21は、例えば、2種類の位相物体(光の位相のみを変化させる物体)が市松模様状に配置された市松状回折格子を用いる。市松状の回折格子(位相格子)は、その周期的な構造から、上下左右の4方向に光を回折させることができ、これにより、入射光と同質の光を4方向に伝搬させる作用がある。
【0007】
次に、4方向に回折された光波を、偏光板アレイ22に入射させる。
図9は、偏光板アレイ22の透過軸の例を示す図である。偏光板アレイ22は、例えば、透過軸が0°、45°、90°、135°の4種類(4領域)の直線偏光子で構成されている。偏光子の透過軸がx軸に対してηの角度となるように設置した場合、右回り円偏光と左回り円偏光は、それぞれ+ηと-ηの位相シフトを生じ、偏光状態が同じで相対的な位相差が2ηの2つの直線偏光として直線偏光子から出力される。すなわち、直線偏光子の透過軸の角度に応じて、領域ごとに異なる位相シフト量0、π/2、π、3π/2 [rad]がそれぞれの直線偏光の組に付与される。
【0008】
偏光板アレイ22を透過した直線偏光の組をそれぞれカメラ23,24(実際は、4台のカメラ)で撮影することにより、異なる位相の干渉縞画像を同時に取得することができる。これらの干渉縞画像から複素振幅情報を得て、光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像が得られる(特許文献1)。
【0009】
図8の撮像装置は、1/4波長板9を通過後の物体光を偏光板アレイ22とカメラ23,24で撮影することで、
図7と同様に干渉縞の一括取得が可能であり、さらにこの手法は各偏光方向の干渉縞を高解像度で取得することができるため、
図7に比べて干渉縞画像の分解能が縦横それぞれ2倍になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】KiHong Choi, Kyung-Il Joo, Tae-Hyun Lee, Hak-Rin Kim, Junkyu Yim, Hyeongkyu Do, and Sung-Wook Min, “Compact self-interference incoherent digital holographic camera system with real-time operation,” Optics Express, Vol. 27, No 4, pp. 4818-4833, (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図7に示す撮像装置の光学系は、複屈折レンズ5を用いている。しかし、複屈折素材でレンズを構成する場合、インコヒーレントデジタルホログラフィに使用可能な大きさの複屈折率を有し、レンズを形成できるほど大きな素材は取得することが困難である。また、回折型の複屈折レンズ5では余計な回折光が生じて、再構成画像の劣化を引き起こす。
【0013】
図8に示す撮像装置の光学系は、ビームスプリッタ(BS)7を用いている。この光学系は物体光がビームスプリッタを2回通過するため、光の利用効率が1/4になる。また、ビームスプリッタを使わずに斜めから反射型液晶パネルに物体光を入射させると光の利用効率は減少しないが、液晶パネルの角度依存性により、正確に球面の位相分布を付与することができない。
【0014】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、従来のインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像装置と比較して、光の利用効率を向上させ、高画質のホログラム画像/再構成画像を得ることができる撮像装置及び撮像方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像装置は、インコヒーレントな光波を直線偏光にする第1の偏光板と、前記第1の偏光板を透過した光波を偏光方向により第1分割光と第2分割光に分割する偏光ビームスプリッタと、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ反射する、互いに曲率の異なる第1及び第2のミラーと、前記偏光ビームスプリッタと前記第1のミラーの間に配置される第1の1/4波長板と、前記偏光ビームスプリッタと前記第2のミラーの間に配置される第2の1/4波長板と、前記第1のミラーで反射され前記第1の1/4波長板を透過した第1分割光と、前記第2のミラーで反射され前記第2の1/4波長板を透過した第2分割光を、円偏光にする第3の1/4波長板と、を備え、前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光板を通して撮影し、同時に複数の干渉縞を取得することを特徴とする。
【0016】
また、前記撮像装置は、前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光カメラにより撮影し、異なる位相の干渉縞を同時に取得することが望ましい。
【0017】
また、前記撮像装置は、前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、回折格子により複数の方向に回折し、各方向の回折光を異なる偏光方向の偏光板を通してカメラで撮影し、異なる位相の干渉縞を同時に取得することが望ましい。
【0018】
また、前記撮像装置は、前記第3の1/4波長板を透過した第1分割光及び第2分割光を、偏光板を通してビームスプリッタで2つの光路に分岐し、前記ビームスプリッタから異なる距離で各光路に配置したカメラで撮影し、光路の距離の異なる干渉縞を同時に取得することが望ましい。
【0019】
また、前記撮像装置は、さらに、異なる位相の複数の干渉縞から位相シフト法により複素振幅情報を求め、光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像を得ることが望ましい。
【0020】
また、前記撮像装置は、さらに、異なる距離で取得した干渉縞の振幅情報から位相回復により位相情報を求め、取得した振幅情報と求めた位相情報を用いて光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像を得ることが望ましい。
【0021】
上記課題を解決するために本発明に係るインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像方法は、偏光板を透過した光波を偏光ビームスプリッタで第1分割光と第2分割光に分割し、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ1/4波長板を通して曲率の異なるミラーで反射させ、再度1/4波長板を通して前記偏光ビームスプリッタで合成し、合成した第1分割光及び第2分割光を1/4波長板と異なる偏光方向を有する偏光板を通してカメラで撮影することで、異なる位相の干渉縞を同時に取得することを特徴とする。
【0022】
上記課題を解決するために本発明に係るインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像方法は、偏光板を透過した光波を偏光ビームスプリッタで第1分割光と第2分割光に分割し、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ1/4波長板を通して曲率の異なるミラーで反射させ、再度1/4波長板を通して前記偏光ビームスプリッタで合成し、合成した第1分割光及び第2分割光を1/4波長板と偏光板を通してビームスプリッタで2つの光路に分岐し、前記ビームスプリッタから異なる距離で各光路に配置したカメラで撮影することで、光路の距離の異なる干渉縞を同時に取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明における撮像装置及び撮像方法によれば、従来のインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像装置と比較して、光の利用効率を向上させ、高画質のホログラム画像/再構成画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の撮像装置に用いる干渉計の原理図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の撮像装置の概略図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態の撮像装置の概略図である。
【
図4】本発明の第3の実施形態の撮像装置の概略図である。
【
図5】本発明の撮像装置により、点物体を撮影したときの位相の異なる4つの干渉縞の例である。
【
図6】本発明の撮像装置により、移動するグレースケールを動画で撮影したときの1フレームの再構成画像の例である。
【
図7】従来のインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像装置の例である。
【
図8】従来のインコヒーレントデジタルホログラフィの撮像装置の例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の撮像装置に用いる干渉計の原理図である。干渉計は、偏光板11、偏光ビームスプリッタ(PBS)12、1/4波長板13,15,17、凹面ミラー14及び平面ミラー16で構成される。さらに、撮像装置として、干渉縞を撮影するため、偏光板18とカメラ19を備えている。以下、各構成について説明する。
【0026】
偏光板11(第1の偏光板)は、被写体からの物体光を直線偏光にする。例えば、水平面に対して45°のみの直線偏光が透過するように、偏光板11を設置する。
【0027】
偏光ビームスプリッタ(PBS)12は、偏光板11を透過した物体光を、偏光成分により第1分割光と第2分割光に分割する。PBS12は、偏光板11を透過した物体光のうちs偏光成分(第1分割光とする。)を反射して進行方向を(図面上方向に)変え、また、偏光板11を透過した物体光のうちp偏光成分(第2分割光とする。)を透過させる。なお、後述するように、ミラーで反射後に、第1分割光はp偏光としてPBS12に入射し、第2分割光はs偏光としてPBS12に入射するため、PBS12は、ミラー反射後の第1分割光を透過させ、第2分割光を反射して進行方向を(図面下方向に)変えて、第1分割光及び第2分割を合成する。
【0028】
1/4波長板13(第1の1/4波長板)は、PBS12で反射したs偏光成分の物体光(第1分割光)を透過させ、円偏光にする。さらに、凹面ミラー14で反射されて入射する円偏光を透過させてp偏光にし、PBS12に導く。
【0029】
1/4波長板15(第2の1/4波長板)は、PBS12を透過したp偏光成分の物体光(第2分割光)を透過させ、円偏光にする。さらに、ミラー16で反射されて入射する円偏光を透過させてs偏光にし、PBS12に導く。
【0030】
凹面ミラー14(第1のミラー)は、1/4波長板13を透過してきた円偏光に対し、所定の焦点距離(曲率)の位相分布を与え、1/4波長板13に向けて反射する。
【0031】
平面ミラー16(第2のミラー)は、1/4波長板15を透過してきた円偏光に対し、平面(無限大の焦点距離)の位相分布を与え、1/4波長板15に向けて反射する。なお、本原理図では、ミラー16を平面ミラーとして説明しているが、凹面ミラー14と異なる焦点距離(曲率)を有する任意のミラーであってよい。
【0032】
1/4波長板17(第3の1/4波長板)は、ミラーで反射されPBS12を透過/反射した第1分割光と第2分割光を透過させ、それぞれを右回り、左回りの円偏光にする。
【0033】
この干渉計では、第1分割光と第2分割光が、凹面ミラー14と平面ミラー16の反射によりわずかな光路差が生じるため干渉する。1/4波長板17を透過後の第1分割光と第2分割光について、偏光板18を通してカメラ19で撮像することにより、干渉縞を取得することができる。例えば、偏光カメラにより位相の異なる複数の干渉縞を同時に取得する。その後、これらの干渉縞画像から撮像面における複素振幅情報を求め、光の逆伝搬計算をすることにより、任意の奥行き距離の再構成画像が得られる。
【0034】
なお、本説明では、物体光のうちs偏光成分を第1分割光とし、物体光のうちp偏光成分を第2分割光としたが、第1分割光と第2分割光は反対であってもよい。
【0035】
本発明の撮像装置の干渉計(光学系)によれば、PBS12に入射した物体光のs偏光成分は凹面ミラー14で反射され、再び1/4波長板13を透過してp偏光になり、PBS12を透過する。すなわち、PBS12に入射した物体光のs偏光成分はすべてp偏光となってPBS12を透過するため、従来技術のようにビームスプリッタ(BS)7で干渉計を構成したときに生じる光の減衰は生じない。同様に、PBS12を透過したp偏光成分の物体光は平面ミラー16で反射され、再び1/4波長板15を透過してs偏光になり、PBS12で反射する。PBS12を入射した物体光のp偏光成分はすべてs偏光となってPBS12で反射するため、ビームスプリッタ(BS)7で干渉計を構成したときに生じる光の減衰は生じない。したがって、光の利用効率を向上させることができる。
【0036】
また、この干渉計では、干渉計を構成するPBS12、凹面ミラー14、平面ミラー16は一般的な光学部品であり、凹面ミラー14の焦点距離、あるいは平面ミラー16を凹面ミラーに変えて、再構成画像に求められる分解能に応じて干渉縞の大きさを容易に調整することができる。さらに、回折型複屈折レンズを使用していないため、回折による高調波成分などに起因するノイズが抑制できる。また、複屈折素材や回折型のレンズと異なり、凹面ミラー、平面ミラーでは色収差の影響が生じない。
【0037】
以下、複屈折レンズ及び反射型液晶パネルを用いずに、偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いて干渉計を構成することで、光の利用効率を向上するインコヒーレントデジタルホログラフィ撮像装置の実施形態について説明する。
【0038】
(第1の実施形態)
図2は、本発明の第1の実施形態の撮像装置の概略図である。撮像装置は、偏光板11、偏光ビームスプリッタ(PBS)12、1/4波長板13,15,17、凹面ミラー14及び平面ミラー16で構成される干渉計に、さらに、レンズ2、波長フィルタ3、偏光カメラ20を備えている。干渉計の構成は
図1と同じであるので、干渉計を構成する各光学素子の説明は省略する。
【0039】
被写体1からの物体光は、インコヒーレントな光波であり、レンズ2に入射する。なお、物体光は、反射光、透過光、或いは被写体1から発せられた光であってもよい。
【0040】
レンズ2は、物体光を集光し、波長フィルタ3に入射させる。レンズ2は、通常のカメラのレンズと同様に、像の拡大・広角等の調整機能を有している。なお、被写体1はレンズ2の焦点位置に無関係に任意の位置に配置することができる。
【0041】
波長フィルタ3は、所定の波長幅(例えば、3nm~20nm)の光波を透過させるバンドパスフィルタであり、光波の時間的コヒーレンスを向上させる。なお、波長幅を狭くすれば画質は向上するが画像の光量が減少するため、求める画像に応じて適切な波長フィルタ3が選択される。波長フィルタ3を透過した光波は、干渉計の偏光板11に入射する。
【0042】
なお、レンズ2及び波長フィルタ3は、撮像装置として必須の構成ではなく、物体光を直接偏光板11に入力させてもよい。
【0043】
偏光板11に入射後の物体光の動き、及び各光学素子の機能は、
図1の原理図で説明したとおりである。偏光板11を透過した物体光は水平面に対して45°の直線偏光となり、PBS12によりs偏光成分が反射し、p偏光成分が透過する。s偏光成分の物体光は1/4波長板13を透過して円偏光になり、凹面ミラー14で反射され、再び1/4波長板13を透過してp偏光になり、PBS12を透過する。p偏光成分の物体光は1/4波長板15を透過して円偏光になり、平面ミラー16で反射され、再び1/4波長板15を透過してs偏光になり、PBS12で反射する。この2つの光(第1分割光と第2分割光)は1/4波長板17により、右回り、左回りの円偏光となる。それぞれの光は凹面ミラー14と平面ミラー16の反射によりわずかな光路差が生じるため、干渉する。
【0044】
この干渉光を、画素ごとに45°おきの偏光板が設けられた偏光カメラ20で撮影する。例えば、1画素が3.75μmピッチであり、隣接する2×2の4画素ごとに45°おきの4種類の偏光板が設けられている偏光カメラ20を用いることができる。それぞれの偏光方向の画素から画像を構成することにより、縦・横方向にそれぞれ6.5μmピッチの分解能で干渉縞を撮影でき、異なる位相の4つの干渉縞が得られる。
【0045】
撮像装置は、さらに情報処理装置(図示せず)を備えていてもよい。情報処理装置は、取得した4つの干渉縞から、位相シフト法等により偏光カメラ20の撮像面における被写体1の複素振幅情報を得る。さらに、この複素振幅情報から波面逆伝搬計算により、任意の奥行き距離の画像を再構成することができる(特許文献1参照)。本実施形態によれば、従来よりも光の利用効率が高く露光時間を短くできるため、動画像を容易に取得することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態の撮像装置の概略図である。撮像装置は、偏光板11、偏光ビームスプリッタ(PBS)12、1/4波長板13,15,17、凹面ミラー14及び平面ミラー16で構成される干渉計に、さらに、レンズ2、波長フィルタ3、回折格子21、偏光板アレイ22、カメラ23,24を備えている。
【0047】
被写体1からの物体光は、インコヒーレントな光波であり、レンズ2に入射する。レンズ2及び波長フィルタ3の機能は第1の実施形態と同じである。また、干渉計の構成は
図1と同じであるので、干渉計を構成する各光学素子の説明は省略する。物体光は干渉計の中で第1分割光と第2分割光に分かれ、それぞれ凹面ミラー14と平面ミラー16で反射され、1/4波長板17により、右回り、左回りの円偏光となる。
【0048】
干渉計を経た物体光(第1分割光と第2分割光)は、回折格子21で4方向に分岐する(
図3では2方向の光が描かれているが、実際は4方向に回折する。)。この回折格子21は、例えば、2種類の位相物体(光の位相のみを変化させる物体)が市松模様状に配置された市松状回折格子を用いる。
【0049】
次に、4方向に分岐した回折光を、偏光板アレイ22の各領域に入射させる。偏光板アレイ22は、例えば、
図9に示すように、透過軸が0°、45°、90°、135°の4種類(4領域)の直線偏光子で構成されている。直線偏光子の透過軸の角度に応じて、領域ごとに異なる位相シフト量0、π/2、π、3π/2 [rad]がそれぞれの直線偏光の組に付与される。
【0050】
偏光板アレイ22を透過した直線偏光の組をそれぞれカメラ23,24(実際は、4台のカメラ)で撮影することにより、異なる位相の干渉縞画像を4枚同時に取得することができる。なお、ここでは4台のカメラを用いたが、受光面積の広い1台のカメラ(撮像素子)で4つの干渉縞を同時に取得してもよい。
【0051】
撮像装置は、さらに情報処理装置(図示せず)を備えていてもよい。情報処理装置により、取得した4つの干渉縞から位相シフト法等により撮像面における被写体1の複素振幅分布を得て、さらに、この複素振幅分布から波面逆伝搬計算により、任意の奥行き距離の画像を再構成することは、第1の実施形態と同じである。
【0052】
なお、上記実施形態においては、市松状回折格子を用いて光を4方向に分岐させたが、ライン状回折格子を用いて光を3方向に分岐させてもよい。例えば、入射光に対して、1軸方向(x方向)には周期的に変化し、これと直交する方向(y方向)には一定の2階調の位相分布を付与する機能を有する回折格子(光変調素子)を回折格子21として用いると、1/4波長板17を透過した第1分割光と第2分割光である左回り・右回りの円偏光は、それぞれ3つ(中央及び左右)に分岐する。偏光板アレイ22を3領域分割偏光板(中央及び左右で透過軸の方向が異なる3つの直線偏光子からなる偏光板)とし、3つに分岐した回折光を3領域分割偏光板の各領域に入射させる。各領域を透過した光を3台のカメラにより撮影することにより、異なる位相の干渉縞画像を3枚同時に取得することができる。
【0053】
さらに、情報処理装置により、取得した3つの干渉縞から位相シフト法等により撮像面における複素振幅分布を得て、この複素振幅分布から波面逆伝搬計算により、任意の奥行き距離の画像を再構成することができる。
【0054】
このように、第1の実施形態(
図2)では偏光カメラ20を用いてそれぞれの偏光成分の分離をしたが、第2の実施形態(
図3)では、回折格子21、偏光板アレイ22、及びカメラ23,24を用いることで、偏光成分を分離して、異なる位相の干渉縞を同時に取得している。本実施形態は、干渉縞を各カメラで高密度で取得できるため、第1の実施形態と比較して、干渉縞の分解能を向上することができる。
【0055】
(第3の実施形態)
図4に、本発明の第3の実施形態の撮像装置の概略図を示す。第3の実施形態の撮像装置は、位相回復により干渉縞の複素振幅情報を取得するインコヒーレントデジタルホログラフィ撮像装置である。撮像装置は、偏光板11、偏光ビームスプリッタ(PBS)12、1/4波長板13,15,17、凹面ミラー14及び平面ミラー16で構成される干渉計に、さらに、レンズ2、波長フィルタ3、偏光板25、ビームスプリッタ(BS)26、カメラ27,28を備えている。
【0056】
被写体1からの物体光は、インコヒーレントな光波であり、レンズ2に入射する。レンズ2及び波長フィルタ3の機能は第1の実施形態と同じである。また、干渉計の構成は
図1と同じであるので、干渉計を構成する各光学素子の説明は省略する。物体光は干渉計の中で第1分割光と第2分割光に分かれ、それぞれ凹面ミラー14と平面ミラー16で反射され、1/4波長板17により、右回り、左回りの円偏光となる。
【0057】
1/4波長板17を透過した物体光(第1分割光と第2分割光)は、偏光板25を通過して直線偏光となる。そして、ビームスプリッタ(BS)26で2つの光路に分岐される。
【0058】
各光路のカメラ27,28は、ビームスプリッタ(BS)26から互いに異なる距離に設置される。分岐した物体光(第1分割光と第2分割光を含む)をそれぞれカメラ27,28で撮影することにより、光路の距離(したがって、拡大率)の異なる干渉縞を同時に取得することができる。
【0059】
撮像装置は、さらに情報処理装置(図示せず)を備えていてもよい。情報処理装置は、異なる距離で取得した2つの干渉縞の強度分布(振幅情報)から、TIE(Transport of Intensity Equation)法やGS(Gerchberg-Saxton)アルゴリズムなどの位相回復により、位相情報を求めることができる。取得した振幅情報と求めた位相情報を用いて光の逆伝搬計算することにより、任意の奥行き距離の画像を再構成することができる。
【0060】
本実施形態は、位相シフト法とは異なる手法である位相回復により複素振幅情報を得るものであるが、第1及び第2の実施形態と同様に、偏光ビームスプリッタ(PBS)を用いて干渉計を構成することで光の利用効率を向上させることができる。
【0061】
(実験結果と効果の検証)
図5は、本発明の第1の実施形態の撮像装置により、点物体を撮影したときの位相の異なる4つの干渉縞の例である。
【0062】
図5(a)は、画素に設けられた偏光板の偏光方向が水平方向に対して0°の干渉縞である。
図5(b)は偏光方向が135°の干渉縞であり、
図5(c)は偏光方向が45°の干渉縞であり、
図5(d)は偏光方向が90°の干渉縞である。なお、
図5の各画像は、1024×1024画素の画像である。取得した4つの干渉縞から波面逆伝搬計算により、任意の奥行き距離の画像を再構成することができる。本発明によれば、従来よりも光の利用効率が高く、鮮明な干渉縞を撮影できることが確認できた。
【0063】
図6は、本発明の第1の実施形態の撮像装置により、移動するグレースケールを動画で撮影したときの1フレームの再構成画像の例である。図で左右方向に明度が異なるグレースケールのチャート(上側は右が明るく左が暗くなっており、中央は黒いラインであり、下側は右が暗く左が明るい配置である。)を、水平方向に移動させた映像である。
【0064】
図6(a)は、グレースケールをフレームレート10fpsで撮影したときの1フレームの再構成画像であるが、10fpsでは各輝度レベルの境界が不鮮明である。一方、
図6(b)は、フレームレート60fpsで撮影したときの1フレームの再構成画像であり、画像はぼやけず、各輝度レベルの境界が鮮明になっている。
【0065】
本発明の撮像装置は、光利用効率が高く、露光時間を短くできるため、動画像を容易に取得することができる。このため、フレームレート60fpsの動画(再構成画像)も撮影可能であることが確認された。
【0066】
本発明の実施の形態では、撮像装置の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、インコヒーレントデジタルホログラフィの撮像方法として構成されてもよい。すなわち、各図の物体光(光波)の流れに従って、偏光板を透過した光波を偏光ビームスプリッタで第1分割光と第2分割光に分割し、第1分割光及び第2分割光をそれぞれ1/4波長板を通して曲率の異なるミラーで反射させ、再度1/4波長板を通して偏光ビームスプリッタで合成し、合成した第1分割光及び第2分割光を1/4波長板と偏光板を通してカメラで撮影することで、複数の干渉縞を同時に取得する、撮像方法として構成されても良い。
【0067】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 被写体
2 レンズ
3 波長フィルタ
4 偏光板
5 複屈折レンズ
6 1/4波長板
7 ビームスプリッタ
8 反射型液晶パネル
9 1/4波長板
11 偏光板
12 偏光ビームスプリッタ
13 1/4波長板
14 凹面ミラー
15 1/4波長板
16 平面ミラー
17 1/4波長板
18 偏光板
19 カメラ
20 偏光カメラ
21 回折格子
22 偏光板アレイ
23 カメラ
24 カメラ
25 偏光板
26 ビームスプリッタ
27 カメラ
28 カメラ