(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077703
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極および当該負極を備えるリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20230530BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230530BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230530BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191091
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】小林 義和
(72)【発明者】
【氏名】国実 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】関 志朗
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050CB29
5H050FA20
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA16
(57)【要約】
【課題】繰り返し使用においても劣化が抑制され、充放電サイクル特性に優れ、黒鉛の理論容量を上回るリチウムイオン二次電池用負極を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、炭素材中に、金属または金属酸化物からなる粒子が一次粒子の状態で分散している複合材料を含有し、前記金属および前記金属酸化物を構成する金属が、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウム、銀、カドミウム、水銀、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、スズ、亜鉛、鉛、アンチモン、ビスマス、テルル、およびゲルマニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材中に、金属または金属酸化物からなる粒子が一次粒子の状態で分散している複合材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記金属および前記金属酸化物を構成する金属が、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウム、銀、カドミウム、水銀、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、スズ、亜鉛、鉛、アンチモン、ビスマス、テルル、およびゲルマニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記炭素材が非晶質である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
ラマン分光測定のR値が0.5~1.5である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
多孔質体である、請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
BET比表面積が0.1m2/g~100m2/gである、請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記複合材料100質量%中、前記金属または前記金属酸化物の含有量が1~99質量%である、請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記金属または前記金属酸化物からなる粒子の一次粒子径が1nm~10000nmである、請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
前記複合材料の粒子径が1~50μmである、請求項1~7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項9】
さらに黒鉛を含有する、請求項1~8のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項10】
測定温度30℃で電圧範囲0~2.5V、電流密度約50μAcm-2、活物質量0.5~5mgcm-2の条件で充放電を100サイクル繰り返したときの100サイクル目の充放電効率が98%以上である、請求項1~9のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極および当該負極を備えるリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの小型電気製品から自動車など大型機械製品まで種々の技術分野で二次電池の利用が検討されている。二次電池としては、電解質として有機電解質等を使用する非水電解液二次電池、または固体電解質を使用する固体電池など種々のタイプが検討されている。いずれのタイプの二次電池においても、二次電池の電荷担体となる化学種(たとえばリチウムイオンなど)が、正極の電極活物質層と負極の電極活物質層とを移動することによって充電および放電が繰り返される。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極材料には主に黒鉛が用いられているが、黒鉛は理論容量が372mAh/g程度である。近年、携帯電話、タブレット端末、ノートパソコン等のモバイル機器の高性能化に伴い、リチウムイオン二次電池の高容量化を実現できる負極材料が求められている。
【0004】
特許文献1には、SiOX(0<X<2)で示される酸化ケイ素と、炭素材とを含むリチウムイオン二次電池用負極活物質であって、該リチウムイオン二次電池用負極活物質が内部に空隙を有するリチウムイオン二次電池用負極活物質は開示されている。
【0005】
特許文献2には、ケイ素酸化物粒子と、前記ケイ素酸化物粒子の表面を被覆する炭素の単体と、前記炭素の単体が表面に存在したケイ素酸化物粒子の表面に付着する粒状黒鉛及びカーボンブラックよりなる群から選択される一種の導電性粒子と、を含むリチウムイオン二次電池用負極材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-30428号公報
【特許文献2】特開2015-210961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、リチウムイオン二次電池の充放電に伴いケイ素酸化物が膨張収縮することから負極材料が劣化し、所望の充放電サイクル特性を得られない場合があった。
【0008】
特許文献2の技術においては、リチウムイオン二次電池の充放電に伴うケイ素酸化物粒子の膨張収縮を抑制するために、当該ケイ素酸化物粒子の表面を炭素の単体で被覆しており、製造工程が煩雑であり生産性が低かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、炭素材中に、所定の金属または金属酸化物を一次粒子の状態で分散している複合材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極を用いることで、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0010】
本発明によれば、
炭素材中に、金属または金属酸化物からなる粒子が一次粒子の状態で分散している複合材料を含有するリチウムイオン二次電池用負極であって、
前記金属および前記金属酸化物を構成する金属が、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウム、銀、カドミウム、水銀、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、スズ、亜鉛、鉛、アンチモン、ビスマス、テルル、およびゲルマニウムからなる群から選ばれた少なくとも1種である、リチウムイオン二次電池用負極が提供される。
本発明によれば、
前記負極を備えるリチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繰り返し使用においても劣化が抑制され、充放電サイクル特性に優れた黒鉛の理論容量を上回るリチウムイオン二次電池用負極および当該負極を備えるリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0013】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は複合材料を含む。
前記複合材料は、炭素材中に、金属または金属酸化物からなる粒子が一次粒子の状態で分散している。金属または金属酸化物が一次粒子の状態で分散していることは、走査型電子顕微鏡(SEM)により複合材料の表面または断面を観察することにより確認することができる。
【0014】
これにより、一次粒子である金属または金属酸化物からなる粒子間に炭素材がマトリックス状に存在し、当該粒子の膨張収縮の影響を効果的に抑制することができることから、当該複合材料含むリチウムイオン二次電池用負極の劣化が抑制され、充放電サイクル特性に優れとともに、黒鉛の理論容量を上回ることが可能となる。
【0015】
[炭素材]
炭素材は、炭素前駆体を炭化処理してなる化合物であって、炭素前駆体としては、例えば石油ピッチ、石炭ピッチ、熱硬化性樹脂などの易黒鉛化材料又は難黒鉛化材料を挙げることができる。
【0016】
本実施形態においては、炭素材が非晶質であることが好ましい。
これにより炭素材の硬度が高く、靭性にも優れることから、一次粒子である金属または金属酸化物の膨張収縮によるリチウムイオン二次電池用負極の劣化がより抑制され、充放電サイクル特性により優れる。
【0017】
本実施形態の非晶質の炭素材を含む複合材料は、ラマン分光測定におけるR値が好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.75~1.25、さらに好ましくは0.85~1.15である。当該範囲にあることにより、上記効果にさらに優れる。
【0018】
本実施形態の炭素材は細孔が多く、当該炭素材を含む複合材料は多孔質体である。
炭素材は細孔が多いことから比表面積大きく、リチウムイオンの流路になることから、充放電特性に優れる。さらに、炭素材の細孔が、金属および金属酸化物が膨張収縮する際のクッションの役割を果たすと考えられ、膨張収縮による応力を緩和し、リチウムイオン二次電池用負極の劣化がより抑制される。
【0019】
実施形態の多孔質の炭素材を含む複合材料は、BET比表面積が好ましくは0.1m2/g~100m2/g、より好ましくは0.2m2/g~25m2/g、さらに好ましくは0.5m2/g~10m2/gである。当該範囲にあることにより、上記効果にさらに優れる。
【0020】
BET比表面積は、窒素ガス吸着法にて測定され、BET法に基づいて得られる比表面積である。本実施形態において、BET比表面積を求めるために用いられる窒素吸着法は、予め100℃で予備乾燥した試料をガラス製のセルに入れ、150℃で6時間真空脱気し、77Kの温度にて少量ずつ窒素ガスを導入し、平衡圧と吸着量を測定することにより実施される。
【0021】
[金属または金属酸化物からなる粒子]
本実施形態において、複合材料に含まれる金属および金属酸化物を構成する金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、イリジウム、銀、カドミウム、水銀、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、スズ、亜鉛、鉛、アンチモン、ビスマス、テルル、ゲルマニウムが挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記金属としては、スズ、アンチモン、ケイ素、銀、亜鉛、鉛、アルミニウム、ゲルマニウムが好ましく、スズ、ケイ素、アルミニウム、ゲルマニウムがより好ましく、ケイ素が特に好ましい。
【0022】
本実施形態において、前記金属または前記金属酸化物からなる粒子(以下、金属粒子とも記載する)の一次粒子径は、本発明の効果の観点から、好ましくは1nm~10000nm、より好ましくは5nm~1000nm、さらに好ましくは10nm~100nmである。
一次粒子径は、APS(Aerodynamic Particle Sizeによって測定することができる。
【0023】
本実施形態において、複合材料100質量%中における、前記金属または前記金属酸化物の含有量は、本発明の効果の観点から、好ましくは1~99質量%、より好ましくは2~50質量%、さらに好ましくは5~25質量%であり、炭素材の含有量は好ましくは1~99質量%、より好ましくは50~98質量%、さらに好ましくは75~95質量%である。
【0024】
本実施形態の複合材料は、粒子状であってもよく、その粒子径が好ましくは1~50μm、より好ましくは2~30μm、さらに好ましくは5~20μmである。複合材料の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される。
本実施形態の粒子状の複合材料は、当該粒子径の炭素材中に、ナノオーダーの金属粒子が一次粒子の状態で分散している。このような粒子状の複合材料を用いることによりハンドリング性に優れ、リチウムイオン二次電池用負極の生産性に優れる。
【0025】
<樹脂組成物およびその製造方法
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極に含まれる複合材料は、前記金属粒子と、炭素前駆体とを含む、樹脂組成物から得られる。
炭素前駆体としては、例えば石油ピッチ、石炭ピッチ、熱硬化性樹脂などの易黒鉛化材料又は難黒鉛化材料を挙げることができ、熱硬化性樹脂が好ましい。
【0026】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、またはポリアクリロニトリル等を挙げることができ、1種または2種以上を混合して用いることができる。
本実施形態においては、本発明の効果の観点から、フェノール樹脂を用いることがより好ましく、レゾール型フェノール樹脂またはヘキサメチレンテトラミンを含むノボラック型フェノール樹脂であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物は、さらにその他の成分として天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンチューブ等を含むことができる。これらの導電材を添加すると電極材料の導電性を向上させることができ好ましい。
【0028】
本実施形態において、樹脂組成物100質量%中における、前記金属粒子の含有量は、好ましくは1~99質量%、より好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~30質量%であり、熱硬化性樹脂の含有量は好ましくは1~99質量%、より好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物は、前記複合体中に前記金属粒子が一次粒子で分散している状態を維持するために、前記熱硬化性樹脂中に前記金属粒子が一次粒子の状態で分散していることが好ましい。また、前記金属粒子が一次粒子の状態で炭素を含む複合材料として分散状態を維持するためには、前記熱硬化性樹脂の状態がゲル状であることがより好ましい。これにより炭化工程の昇温過程などで樹脂組成物の融解が起こらず、故に樹脂組成物中の金属粒子が一次粒子の状態で分散した状態を保持したまま炭化し、金属粒子が凝集することを抑制し、炭素材中に前記金属粒子が一次粒子で分散した状態の複合材料が得られる。また、樹脂組成物を添加材などとして用いた際にも、同様に成型時あるいは高温に曝されても樹脂組成物の融解が起こらず、樹脂組成物中に金属粒子が一次粒子で分散した状態を高温下、あるいは長期間保持することができる。ゲル状の前記熱硬化性樹脂とは、熱硬化性樹脂のBステージの状態からCステージの状態を含み、溶剤に樹脂組成物を溶解した際に不溶解物が生じる状態もしくは加熱しても軟化や膨張はするが完全には溶融や溶解しない状態から最終的に硬化した状態までを含む。
【0030】
本実施形態において、混合する方法は、ニーダー、混錬機、ロール等の機械式混錬機が好ましい。前記機械式混練機で、前記金属粒子と前記熱硬化性樹脂とを混合し、必要に応じて混錬機を加温し、前記熱硬化性樹脂を硬化させ、ゲル状に至らしめることが好ましく、機械式混錬機と同様に混合を継続した状態でゲル化させる機能を有する装置であれば用いることができる。また、あらかじめ予備混合してもよく、予備混合する方法に特に制限はなく、ホモディスパー、ホモジナイザー等の撹拌機による溶融又は溶液混合;遠心粉砕機、自由ミル、ジェットミル等の粉砕機による粉砕混合;乳鉢、乳棒による混練混合;等を採用することができる。混合する順序にも特に制限はない。溶媒を用いて、前記金属粒子と、前記熱硬化性樹脂とを混合し、スラリー状混合物としてもよく、前記金属粒子と前記熱硬化性樹脂とを混合し、前記熱硬化性樹脂を硬化させ、ゲル状にしてもよい。また、上記スラリーにおいて、前記熱硬化性樹脂が液状であれば、溶媒を使用しなくても良い。
【0031】
本実施形態においては、上記の方法により、熱硬化性樹脂中に前記金属粒子を一次粒子の状態で分散させることが好ましく、ゲル状の熱硬化性樹脂中に分散状態を維持することがより好ましい。
【0032】
例えば、ラボプラストミル等で前記熱硬化性樹脂と前記金属粒子とを混錬して、前記金属粒子を樹脂中に一次粒子で分散させる。混練を継続し、混錬する際に発生する熱(110~120℃程度)で前記熱硬化性樹脂の硬化反応を進行させ、樹脂中に前記金属粒子が一次粒子で分散した状態でゲル状の樹脂組成物とすることで、一次粒子で分散した状態が維持される。これにより炭化時にも凝集が抑制され、炭化物(複合材料)としたときにも、前記金属粒子が一次粒子で分散した状態を保つことができる。
【0033】
なお、混錬する際に加熱することもでき、加熱温度は50~150℃程度である。特に、低温で混練を開始し、機械的せん断力で徐々に樹脂温度を高めていくことにより均一に一次粒子で分散した状態が維持されるため、好ましい。
【0034】
<複合材料の製造方法>
本実施形態の複合材料の製造方法は、前記樹脂組成物を炭化する工程を含む。
この炭化工程により、前記炭素前駆体が炭素材に転化し、当該炭素材中に前記金属粒子を一次粒子の状態で分散する。
【0035】
前記炭化処理の装置としては、特に限定されるものではないが、ロータリーキルン、縦型シャフトキルン、バッチ式加熱炉、ローラーハースキルン、噴霧熱分解装置、スプレードライのいずれか、あるいはそれらを組み合わせた装置を用いることができる。
【0036】
炭化工程の加熱温度は、好ましくは400~1500℃、より好ましくは600~1300℃の範囲内で適宜設定すればよい。また、炭化処理は、アルゴン、窒素、二酸化炭素等の還元雰囲気において実施すればよい。
【0037】
本実施形態においては、前記炭化工程を複数回繰り返して行うことが好ましく、これにより、得られる樹脂炭素材の物性を制御することができる。さらに、複数回の炭化工程の間に前工程で得られた炭化物を粉砕する工程を少なくとも1回含むことが好ましい。
さらに、最終の炭化工程における最高炭化温度が400~1500℃であることが好ましく、より好ましくは600~1300℃である。
【0038】
例えば、炭化処理を2回に分けて実施する場合、150~700℃の温度で一次炭化した後、さらにその炭素材を800℃以上の温度で処理(二次炭化)することができる。
【0039】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウムイオン二次電池用負極合剤を含む。本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極合剤は、複合材料(負極活物質)を含み、好ましくはさらに導電剤を含む。
【0040】
前記導電剤は、導電補助材として通常使用されている材料であればよく、例として、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられ、黒鉛が好ましい。
【0041】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極合剤は、従来公知の方法を用いて調製することができ、本実施形態の複合材料に、導電剤と、バインダーを加えて適当な溶媒又は分散媒で所定粘度としたスラリーとして調製することができる。
【0042】
バインダーは、従来公知の材料であればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を使用することができる。また、さらに、前記負極合剤に用いられる溶媒又は分散媒は、複合材料、バインダー、導電剤等を均一に混合できる材料であればよく、例として、水、N-メチル-2-ピロリドン、メタノール、アセトニトリル等が挙げられる。
【0043】
リチウムイオン二次電池用負極は、特に限定されないが、アルミや銅等の金属箔等による集電体に、複合材料が積層された構造を有するものが好ましい。本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、上述のリチウムイオン二次電池用負極合剤を金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm~数百μmのコーティング層を形成させ、そのコーティング層を50~200℃程度で熱処理することにより溶媒又は分散媒を除去することにより作製することができる。
【0044】
本実施形態の複合材料を含むリチウムイオン二次電池用負極は、充放電サイクル特性に優れるとともに、黒鉛の理論容量を上回ることができる。
例えば、測定温度30℃で電圧範囲0~2.5V、電流密度約50μAcm-2、活物質量0.5~5mgcm-2の条件で充放電を100サイクル繰り返したときの100サイクル目の充放電効率が98%以上である、
【0045】
<リチウムイオン二次電池>
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムイオン二次電池用負極を備える。
【0046】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、従来公知の方法で作製することができ、一般に、本実施形態の負極と、正極と、電解質とを含み、さらにこれらの負極と正極が短絡しないようにするセパレータを含む。
電解質がポリマーと複合化された固体電解質または無機系の固体電解質であってセパレータの機能を併せ持つものである場合には、独立したセパレータは不要である。
【0047】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用の作製に用いられる正極は、従来公知の方法で作製することができる。例えば、正極活物質に、バインダー、導電剤等を加えて適当な溶媒又は分散媒で所定粘度としたスラリーを調製し、これを金属箔等の集電体に塗工し、厚さ数μm~数百μmのコーティング層を形成させ、そのコーティング層を50~200℃程度で熱処理することにより溶媒又は分散媒を除去すればよい。正極活物質は、従来公知の材料であればよく、例えば、LiCoO2等のコバルト複合酸化物、LiMn2O4等のマンガン複合酸化物、LiNiO2等のニッケル複合酸化物、これら酸化物の混合物、LiNiO2のニッケルの一部をコバルトやマンガンに置換したもの、LiFeVO4、LiFePO4等の鉄複合酸化物、等を使用することができる。
【0048】
電解質としては、公知の電解液、常温溶融塩(イオン液体)、及び有機系若しくは無機系の固体電解質などを用いることができる。公知の電解液としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートなどの環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネートおよびジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステルなどが挙げられる。また、常温溶融塩(イオン液体)としては、例えば、イミダゾリウム系塩、ピロリジニウム系塩、ピリジニウム系塩、アンモニウム系塩、ホスホニウム系塩、スルホニウム系塩などが挙げられる。前記固体電解質としては、例えば、ポリエーテル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリイミン系ポリマー、ポリビニルアセタール系ポリマー、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリフッ化アルケン系ポリマー、ポリ塩化ビニル系ポリマー、ポリ(塩化ビニル-フッ化ビニリデン)系ポリマー、ポリ(スチレン-アクリロニトリル)系ポリマー、及びニトリルゴムなどの直鎖型ポリマーなどに代表される有機系ポリマーゲル;ジルコニアなどの無機セラミックス;リチウムーゲルマニウムーリンー硫黄系などの硫化物系固体電解質;リチウムーアルミニウムーチタンーリンー酸素系、リチウムーランタンーチタンー酸素系、リチウムーランタンージルコニアー酸素系、リチウムーリンー窒素―酸素系などの酸化物系固体電解質;ヨウ化銀、ヨウ化銀硫黄化合物、ヨウ化銀ルビジウム化合物などの無機系電解質;などが挙げられる。また、前記電解質にリチウム塩を溶解したものを二次電池用の電解質として用いることができる。また、電解質に難燃性を付与するために難燃性電解質溶解剤を加えることもできる。同様に、電解質の粘度を低下させるために可塑剤を加えることもできる。
【0049】
電解質に溶解させるリチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiBF4、LiAsF6、LiN(SO2F)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2およびLiC(CF3SO2)3などが挙げられる。上記リチウム塩は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記リチウム塩は、電解質全体に対して、一般に0.1質量%~89.9質量%、好ましくは1.0質量%~79.0質量%の含有量で用いられる。電解質のリチウム塩以外の成分は、リチウム塩の含有量が上記範囲内にあることを条件に、適当な量で添加することができる。
【0050】
上記電解質に用いられるポリマーとしては、電気化学的に安定であり、イオン伝導度が高いものであれば特に制限はなく、例えば、アクリレート系ポリマー、ポリフッ化ビニリデン等を使用することができる。また、重合性官能基を有するオニウムカチオンと重合性官能基を有する有機アニオンとから構成される塩モノマーを含むものから合成されたポリマーは、特にイオン伝導度が高く、充放電特性のさらなる向上に寄与し得る点で、より好ましい。電解質中のポリマー含有量は、好ましくは0.1質量%~50質量%、より好ましくは1質量%~40質量%の範囲内である。
【0051】
上記難燃性電解質溶解剤としては、自己消火性を示し、かつ、電解質塩が共存した状態で電解質塩を溶解させることができる化合物であれば特に制限はなく、例えば、リン酸エステル、ハロゲン化合物、フォスファゼン等を使用することができる。
【0052】
上記可塑剤の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状炭酸エステル、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル、等が挙げられる。上記可塑剤は、単独で用いても、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用にセパレータを用いる場合、正極と負極の間の短絡を防止することができ、電気化学的に安定である従来公知の材料を使用すればよい。セパレータの例としては、ポリエチレン製セパレータ、ポリプロピレン製セパレータ、セルロース製セパレータ、不織布、無機系セパレータ、グラスフィルター等が挙げられる。電解質にポリマーを含める場合には、その電解質がセパレータの機能を兼ね備える場合もあり、その場合、独立したセパレータは不要である。
【0054】
本実施形態の二次電池の製造方法としては、公知な方法が適用できる。例えば、まず、上記で得た正極および負極を、所定の形、大きさに切断して用意し、次いで、正極と負極を直接接触しないように、セパレータを介して貼りあわせ、それを単層セルとする。次いで、この単層セルの電極間に、注液などの方法により、電解質を注入する。このようにして得られたセルを、例えば、ポリエステルフィルム/アルミニウムフィルム/変性ポリオレフィンフィルムの三層構造のラミネートフィルムからなる外装体に挿入し封止することにより、二次電池が得られる。得られた二次電池は、用途により、単セルとして用いても、複数のセルを繋いだモジュールとして用いてもよい。
【0055】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例0056】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
(樹脂組成物の作製)
東洋精機製ラボプラストミルの混練部を70℃にあらかじめ加熱し、50rpmで撹拌した状態でレゾール型フェノール樹脂PR-51723(住友ベークライト社製)20部を加え、均一に溶融するまで混錬した後、50nm以下のケイ素粉末(Alfa Aesar製、Silicon powder, crystalline, APS |<50nm、 98%, Laser synthesized from vapor phase)を2.8部加え混練を続け、混錬に伴う発熱で樹脂温度が約120℃まで昇温した後、温度が低下したことを確認し、粉末状となった樹脂組成物を取り出した。
(複合材料の作製)
得られた樹脂組成物を窒素雰囲気下にて室温から100℃/時間の昇温速度にて昇温し、550℃に到達後、焼成状態を1.5時間保持して炭化処理を行った(第一焼成工程)。その後に、粉砕工程を実施し、炭素材前駆体を得た。
上記炭素材前駆体を、窒素雰囲気下にて室温から100℃/時間の昇温速度にて焼成し1000℃に到達後、焼成状態を6時間保持して炭化処理を行った(第二焼成工程)。これにより得られた炭素材を、実施例1複合材料とした。
【0058】
[実施例2]
第二焼成工程の温度を1100℃とした以外は実施例1と同様の原料および同様の方法で樹脂組成物、複合材料を得た。以上のとおり得られた複合材料を実施例2複合材料とした。
【0059】
実施例1、2で得られた複合材料の特性は表1に記載した。
なお、Si含有量は、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定された(100℃‐800℃における重量減少)/(100℃-200℃における重量減少)から算出した。
【0060】
[ラマン分光測定]
レニショー(株)製のinViaラマンマイクロスコープを用い、倍率20倍で、波長532nmのレーザーで取込時間5秒、積算回数4回で、任意の16点を測定し最小、最大値を除外してDバンドとGバンドをピークフィッティングによりピーク強度を算出し、ピーク強度比の平均値を算出した。
【0061】
実施例1,2で得られた複合材料の特性は表1のようになった。実施例1、2で得られた複合材料のラマン測定におけるR値はそれぞれ0.94、0.97であり、炭素が非晶質炭素であることを示している。実施例1、2のR値はそれぞれ0.94、0.97であり、実施例1、2の複合材料における炭素材は非晶質である。
また、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)で測定された、複合材料を常温屋内で1か月放置したときの200℃における重量減少は8.9%、4.6%であり、これは吸収した水分の揮発に伴うものであり、炭素材が多孔質であることを示している。800℃における重量減少は有機物の燃焼伴うものであり、残渣はケイ素粉末によるものである。このため、Si含有量は(100℃‐800℃における重量減少)/(100-200℃における重量減少)より算出した。
【0062】
【0063】
[実施例3~6、比較例1~2]
リチウムイオン2次電池の作成
上述のとおり得られた各実施例複合材料を負極作用極に用いた際の電池特性を評価するために、以下のとおり各複合材料を用いた塗布電極を作成した。
各実施例複合材料、人造黒鉛、アセチレンブラック、PVdFを表2の比率で合計100質量%となるように配合し、NMPを適量加えて希釈混合し、スラリー状の負極用混合物を得た(表2)。
上述で得たスラリー状の負極用混合物を銅箔(集電体)に同量ずつ塗布し、80℃で12時間以上、真空乾燥した。次いで、一軸プレスによって1.5tで20秒加圧成形したものを所定形状に打ち抜き、直径16mmの円盤状のリチウムイオン二次電池用の負極を作成した。
(対極の作成)
対極として厚さ0.2mmのリチウム金属箔を準備した。
(電解液の調製)
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液(体積比3:7)にLiN(SO2F)2を1モル/リットルの濃度で溶解させて、電解液を調製した。
(評価用ハーフセルの作成)
上述のとおり得た負極、対極、電解液を用い、以下のとおりリチウムイオン二次電池を作成した。
負極、セパレータ(ポリプロピレン製多孔質フィルム:厚さ25μm)、対極の順に、2032型コインセルの所定の位置に配置し、電解液を注液し、リチウムイオン二次電池を作成した。
【0064】
[初回充放電特性評価]
上述のとおり作成した評価用ハーフセルを用いて以下のとおり電池特性を評価した。
測定温度を30℃とし、充電時の電流密度を約50μA/cm-2として定電流充電を行い、電位が0Vに達した時点まで充電した電気量を充電容量とした。
次いで、放電時の電流密度を約50μA/cm-2として定電流放電を行い、電圧が2.5Vに達した時点の電気量を放電容量とした。
サイクル試験における充放電効率は下記数式(1)に示すとおり、各サイクルに応じた充電容量で放電容量を除した値に100を乗じて充放電効率を算出した。
尚、本充放電特性評価において、「充電」とは、電流の通電により、金属リチウムで構成された対極から主として炭素材を用いて構成された負極作用極にリチウムイオンを挿入させることをいう。また「放電」とは、主として炭素材を用いて構成された負極作用極から、金属リチウムで構成された対極にリチウムイオンが移動、析出させる現象のことをいう。
数式(1):各サイクルにおける充放電効率(%)=[各サイクルにおける放電容量(mAh/g)/各サイクルにおける充電容量(mAh/g)]×100
【0065】
【0066】
比較例1、2は実施例1,2で用いたケイ素粉末と人造黒鉛を混合した複合電極で、初期の放電容量は大きいものの、それぞれ15、28サイクルでは黒鉛の理論容量より放電容量が低くなった。これに対して、実施例3~6は実施例1、2で得られた複合材料と人造黒鉛を混合した複合電極で、黒鉛の理論容量と同等レベルかそれを上回る放電容量を100サイクル以上維持することができる。
このように、本発明によれば、繰り返し使用においても劣化が抑制され、充放電サイクル特性に優れ、黒鉛の理論容量を上回るリチウムイオン二次電池用負極が得られる複合材料、当該複合材料用の樹脂組成物、当該複合材料の製造方法を提供することができることが分かった。