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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077908
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】光学接合構造体及びガス検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/01 20060101AFI20230530BHJP
   G01N 21/3504 20140101ALI20230530BHJP
【FI】
G01N21/01 Z
G01N21/3504
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191411
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】桑田 圭一郎
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059GG02
2G059HH01
2G059JJ02
2G059JJ05
2G059JJ14
2G059JJ17
2G059KK02
2G059KK09
2G059LL03
(57)【要約】
【課題】中赤外光に用いられる光学部材間を光学的に接合可能な光学接合構造体及びガス検出装置が提供される。
【解決手段】光学接合構造体(10)は、波長λの中赤外光が透過する第一の光学部材(11)と、波長λの中赤外光が透過する第二の光学部材(12)と、第一の光学部材(11)と第二の光学部材(12)とを接合し、波長λの中赤外光が透過する接合層(13)を備え、接合層(13)は、樹脂(14)と屈折率nの高屈折粒子(15)との混合物からなり、高屈折粒子(15)の大きさがλ/(2n)以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長λの中赤外光が透過する第一の光学部材と、
前記波長λの中赤外光が透過する第二の光学部材と、
前記第一の光学部材と前記第二の光学部材とを接合し、前記波長λの中赤外光が透過する接合層を備え、
前記接合層は、樹脂と屈折率nの高屈折粒子との混合物からなり、
前記高屈折粒子の大きさがλ/(2n)以下である、光学接合構造体。
【請求項2】
前記第一の光学部材及び前記第二の光学部材は、屈折率が2.5以上である、請求項1に記載の光学接合構造体。
【請求項3】
前記第一の光学部材及び前記第二の光学部材は、GaAs、Si、Ge、InP、InAs及びZnSeの少なくとも1つを含んで構成される、請求項1に記載の光学接合構造体。
【請求項4】
前記高屈折粒子は、屈折率が2.5以上である、請求項1から3のいずれか一項に記載の光学接合構造体。
【請求項5】
前記高屈折粒子は、GaAs、Si、Ge、InP、InAs及びZnSeの少なくとも1つを含んで構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載の光学接合構造体。
【請求項6】
前記接合層に含まれる前記高屈折粒子は、体積が前記接合層に対して10%以上である、請求項1から5のいずれか一項に記載の光学接合構造体。
【請求項7】
前記第一の光学部材及び前記第二の光学部材の平均屈折率をnとし、前記接合層の屈折率をnとした場合に、前記接合層の厚みがλ/(π(n-n))以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の光学接合構造体。
【請求項8】
前記接合層の厚みがλ/(10n)以下である、請求項7に記載の光学接合構造体。
【請求項9】
前記接合層は、前記高屈折粒子の含有量が異なる領域及び前記樹脂が異なる領域の少なくとも1つを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の光学接合構造体。
【請求項10】
前記波長λの中赤外光を発する発光部と、
前記波長λの中赤外光に感度を有する受光部と、
前記発光部からの前記波長λの中赤外光を前記受光部に導く導光部と、
請求項1から9のいずれか一項に記載の光学接合構造体と、を備え、
前記光学接合構造体は、前記発光部、前記受光部及び前記導光部の少なくとも1つに含まれる、ガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は光学接合構造体及びガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学接合構造体は光学通信の分野などで利用されている。例えば特許文献1は、光学素子と光ファイバーとを空気を介さずに光学的に接合する光学接合構造体を開示する。近年、中赤外域での半導体デバイスの発展に伴い、光学機能の拡張のために、中赤外光での光接合技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-48628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中赤外半導体デバイスは可視光半導体デバイスに比べて、デバイスに使用される部材と空気との屈折率差が大きいため、空間へ光を放射させるのが難しいという特質がある。この特質のため、光学機能を拡張するレンズ、光学フィルタ、光ファイバーなどの光学部材を光学システムに組み込む場合に、空気を介して中赤外半導体デバイスと光学結合させると、空気と中赤外半導体デバイスとの間で大きな反射ロスが発生してしまう課題がある。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、中赤外光に用いられる光学部材間を光学的に接合可能な光学接合構造体及びガス検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一実施形態に係る光学接合構造体は、
波長λの中赤外光が透過する第一の光学部材と、
前記波長λの中赤外光が透過する第二の光学部材と、
前記第一の光学部材と前記第二の光学部材とを接合し、前記波長λの中赤外光が透過する接合層を備え、
前記接合層は、樹脂と屈折率nの高屈折粒子との混合物からなり、
前記高屈折粒子の大きさがλ/(2n)以下である。
【0007】
本開示の一実施形態に係るガス検出装置は、
前記波長λの中赤外光を発する発光部と、
前記波長λの中赤外光に感度を有する受光部と、
前記発光部からの前記波長λの中赤外光を前記受光部に導く導光部と、
上記の光学接合構造体と、を備え、
前記光学接合構造体は、前記発光部、前記受光部及び前記導光部の少なくとも1つに含まれる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の実施形態によれば、中赤外光に用いられる光学部材間を光学的に接合可能な光学接合構造体及びガス検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る光学接合構造体の概略構成図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係るガス検出装置の斜視図である。
図3図3は、Siである高屈折粒子の透過性を例示する図である。
図4図4は、Siである高屈折粒子の体積率と透過性の関係を例示する図である。
図5図5は、接合層の厚みと透過性の関係を例示する図である。
図6図6は、接合層の厚みと透過性の関係を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態が説明される。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものである。例えば厚みと幅との関係等は現実のものと異なる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置を例示するものであって、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでなく、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、様々な変更を加えることができる。
【0011】
<光学接合構造体>
図1は、本実施形態に係る光学接合構造体10の概略構成図である。光学接合構造体10は、第一の光学部材11と、第二の光学部材12と、接合層13と、を備える。詳細な原理について後述するが、図1に示されるような構成によって、光学接合構造体10は、中赤外光に用いられる光学部材間を光学的に接合することを可能にする。光学接合構造体10は、光学システムに組み込まれて使用される。
【0012】
ここで、特に2~15μm程度の波長を有する短波長から、中波長、長波長赤外線の領域(中赤外域と称する)の赤外線は、気体分子が特有の吸収帯を示すことから、例えば非分散赤外吸収式のガス濃度測定装置に用いられている。中赤外光は、中赤外域の赤外線すなわち波長が2~15μmの赤外線を意味する。
【0013】
<光学部材>
第一の光学部材11及び第二の光学部材12は、中赤外光を透過させる光学部品であり、中赤外光を通す光学部材で構成されている。ここで、透過とは、光が物体に垂直入射した場合に50%以上の光のエネルギーが物体の背後に通過することである。
【0014】
本実施形態において第一の光学部材11は中赤外光のLED(light emitting diode、発光ダイオード)の一部である。別の例として、第一の光学部材11は、受光素子、レーザーダイオード、光ファイバー、光学フィルタ又は回折格子であり得る。
【0015】
また、本実施形態において第二の光学部材12はレンズである。別の例として、第二の光学部材12は、受発光素子、レーザーダイオード、光ファイバー、光学フィルタ又は回折格子であり得る。
【0016】
第一の光学部材11及び第二の光学部材12は、中赤外光を通す材料を含んで構成される。本実施形態において、第一の光学部材11はLEDであってGaAsを含んで構成されている。また、本実施形態において、第二の光学部材12はレンズであってSiで構成される。別の例として、第一の光学部材11及び第二の光学部材12の材料は、中赤外光を通すGe、InP、InAs、ZnSeなどであってよい。また、第一の光学部材11及び第二の光学部材12の材料は蛍石、誘電体などであってよい。第一の光学部材11及び第二の光学部材12の材料は、中赤外光が外に漏れ出て損失がでないようにする観点から、中赤外域での屈折率が高いことが望ましい。一例として、第一の光学部材11及び第二の光学部材12は、屈折率が2.5以上である。
【0017】
また、第一の光学部材11及び第二の光学部材12は表面に凹凸があってよい。第一の光学部材11及び第二の光学部材12の接合層13と接する面は、乱反射による透過光量の低減を抑止する観点から平坦であることが最も好ましいが、接合層13の厚さに対して1/2以下の凹凸を有してよい。第一の光学部材11及び第二の光学部材12の接合層13と接する面の凹凸は、接合層13の厚さに対して例えば1/10以下であることが好ましい。
【0018】
<接合層>
接合層13は、第一の光学部材11と第二の光学部材12との間に存在し、第一の光学部材11と第二の光学部材12とを物理的に接合するとともに、中赤外光を透過させて光学的な接合を行う。接合層13の厚みは一例として2μmである。接合層13は、樹脂14と屈折率を向上させるための高屈折粒子15との混合物からなる。高屈折粒子15は、樹脂14より高い屈折率を有する微粒子である。
【0019】
本実施形態において、接合層13の樹脂14はアクリル樹脂である。ただし、接合層13の樹脂14の材料は、第一の光学部材11と第二の光学部材12とを接合可能であればよく、アクリル樹脂に限定されない。接合層13の樹脂14の材料は、例えば接着剤として一般に用いられるエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などであり得る。
【0020】
また、本実施形態において接合層13に含まれる高屈折粒子15はSiである。図3は、Siである高屈折粒子15の透過性を例示する図である。図3に示すように、Siである高屈折粒子15は、可視光(波長がおよそ380nm~780nm)に対して不透明であるが、赤外線の領域で透明である。別の例として、高屈折粒子15の材料はGe、GaAs、InP、InAs、ZnSeなどであってよい。また、高屈折粒子15の材料は蛍石、誘電体などであってよい。ここで、光が巨大な粒子での表面反射を受けて損失することを防ぐ観点から、高屈折粒子15の大きさは、高屈折粒子15が屈折率nである場合に、透過させる中赤外光の波長の1/(2n)以下であるように設定される。
【0021】
ここで、高屈折粒子15の大きさは統計的手法で定められてよい。例えば、高屈折粒子15の円相当径の分布における中央値が高屈折粒子15の大きさとされてよい。また、大きな粒子があると反射による損失が起こるため、好ましくは高屈折粒子15の円相当径の分布における累積度数分布の下位90%が光の波長λ以下であるとよい。高屈折粒子15の大きさは、接合層13の断面画像解析から得られる。例えば、断面SEM画像又は断面TEM画像の輝度解析から高屈折粒子15と樹脂14の境界を特定し、境界で囲われた個別領域の円相当径(面積の平方根の1.128倍)がそれぞれの高屈折粒子15の大きさとされてよい。また、高屈折粒子15及び樹脂14の屈折率は、例えば、成分分析から成分を推定し、その該当成分の文献値を用いてよい。
【0022】
樹脂材料と高屈折粒子15の混合性を高めるために高屈折粒子15を表面修飾することが望ましい。表面修飾に用いられる修飾剤及び手法については限定されない。
【0023】
接合層13は樹脂14と高屈折粒子15を混合した部材を第一の光学部材11に塗布し、塗布面に第二の光学部材12を押し付けることで成形されてよい。量産性の観点から、半導体製造で用いられるマウント装置などが利用されてよい。
【0024】
<ガス検出装置>
図2は、本開示の一実施形態に係るガス検出装置1の斜視図である。ガス検出装置1は、一例として30mm×20mm×10mmの小型の装置であって、ガスセンサと称されることがある。本実施形態において、ガス検出装置1は、導入した気体を通過した赤外線に基づいて被検出ガスの濃度を測定する、NDIR(Non Dispersive InfraRed)方式の装置である。
【0025】
ガス検出装置1は、基板2と、発光部3と、受光部4と、導光部材5と、を備える。図2では、導光部材5の一部を透明化してガス検出装置1の構成例を示しており、基板2の主面20に設けられた発光部3及び受光部4が見えている。図2では、xy平面が基板2の主面20と平行であるように、直交座標が設定されている。z軸方向は、基板2の主面20に垂直な方向である。
【0026】
基板2は、ガス検出装置1の部品を実装し、実装された電子部品の電気的な接続を行う板状の部材である。基板2は、発光部3と、受光部4と、を主面20に設ける。基板2はさらに別の電子部品を実装してよい。例えば、基板2は主面20又は主面20と反対の面である底面に、発光部3及び受光部4の少なくとも一方を制御するコントローラを設けてよい。
【0027】
発光部3は、被検出ガスの検出に用いられる光を発する部品である。発光部3は、被検出ガスによって吸収される波長を含む光を出力するものであれば特に制限されない。本実施形態において、発光部3が発する光は中赤外光である。本実施形態において、発光部3はLEDであるが、別の例として、有機発光部又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータ等のインコヒーレント光源であり得る。
【0028】
発光部3は、矩形の発光面31を備える。発光部3は、発光面31の全体から光を発する面光源である。図2に示すように、発光部3は、発光面31からz軸方向すなわち基板2の厚み方向に光を発する。
【0029】
受光部4は、導入した気体を通過した光を受け取る部品である。受光部4は、被検出ガスによって吸収される波長を含む光の帯域に感度を有するものであれば特に制限されない。本実施形態において、受光部4は、中赤外光に感度を有し、中赤外光を含む光を受け取る。本実施形態において、受光部4はフォトダイオード(Photodiode)であるが、別の例としてフォトトランジスタ又はサーモパイル、焦電センサ、ボロメータ等であり得る。受光部4は、受け取った光を電気信号に変換して、変換した電気信号を出力する。電気信号に基づいて被検出ガスの濃度が演算される。受光部4は、z軸方向において、後述する第5のミラー513と対向する位置に設けられる。
【0030】
受光部4は、矩形の受光面41を備える。図2に示すように、受光部4は、受光面41でz軸方向すなわち基板2の厚み方向の光を受け取る。
【0031】
導光部材5は、発光部3が発した光を受光部4に導く部材である。導光部材5は光学部材を備え、発光部3から受光部4への光路を構成する。ここで、光学部材は例えばミラー及びレンズ等である。
【0032】
本実施形態において、導光部材5は、第1の反射部51と、第2の反射部52と、を備える。第1の反射部51は、光学部材として、第1のミラー511と、第3のミラー512と、第5のミラー513と、を備える。第1の反射部51は、発光部3から発せられた光及び受光部4が受け取る光を直接的に反射する。第2の反射部52は、光学部材として、第2のミラー521と、第4のミラー522と、を備える。第2の反射部52は、第1の反射部51との間で光を反射する。導光部材5は、発光部3が発した光を、第1のミラー511、第2のミラー521、第3のミラー512、第4のミラー522及び第5のミラー513の順に反射して、受光部4に導く。光路は、導光部材5と基板2との間に設けられた、気体が導入されるセル54を通過するように構成される。導光部材5が備えるミラーの数は5つに限られず、1つ以上であればよい。また、導光部材5は光路の一部においてレンズを備える構成であってよい。
【0033】
第1のミラー511、第2のミラー521、第3のミラー512、第4のミラー522及び第5のミラー513を構成する材料は、例えば、金属、ガラス、セラミックス、ステンレス等であってよいが、この限りではない。検出感度向上の観点から、これらのミラーを構成する材料は、光の吸収係数が小さく反射率が高い材料で構成されることが好ましい。
【0034】
ここで、発光部3はレンズをさらに備えてよい。このとき、第一の光学部材11がLEDであり、第二の光学部材12がレンズである光学接合構造体10を含んで、ガス検出装置1が構成される。また、受光部4は波長選択機能を有する光学フィルタをさらに備えていてよい。このとき、第一の光学部材11が光学フィルタであり、第二の光学部材12がフォトダイオードである光学接合構造体10を含んで、ガス検出装置1が構成される。別の例として、発光部3から中赤外光を受光部4に導く導光部が光ファイバー等を含んで構成される場合に、光学接合構造体10は導光部に含まれてよい。また、光学接合構造体10は導光部と発光部3又は受光部4との間に設けられてよい。つまり、ガス検出装置1は、光学接合構造体10を、発光部3、受光部4及び導光部の少なくとも1つに含むように構成されてよい。また、ガス検出装置1が含む光学接合構造体10の数は限定されず、1つであってよいし、複数であってよい。
【0035】
<原理>
本実施形態に係る光学接合構造体10が中赤外光を透過させる原理が以下に説明される。例えば特許文献1に示されるような従来の接合は、可視光及び近赤外光(例えば波長が0.85μm又は1.3μm)を対象としており、中赤外光についての光学的な接合が難しい。
【0036】
本実施形態の光接合構造では、中赤外域でも高屈折率なSiなどの微粒子を接合層13に含むため、接合層13の屈折率が高くなる。第一の光学部材11と接合層13との屈折率差及び第二の光学部材12と接合層13との屈折率差が小さく、中赤外光の反射が少なくなるので良好な光学的接合が行われる。
【0037】
高屈折粒子15の屈折率が高いほど、樹脂14に対して混合する濃度(割合)が低くても接合層13の全体の屈折率を十分に高めることができ、多くの樹脂14が存在することによって接着力を高めることができる。高屈折粒子15は、屈折率が2.5以上であることが好ましい。例えばSi、GaAs、Ge、InP、InAs、ZnSeは、屈折率が高く、比較的容易に入手できるため高屈折粒子15の材料として好ましい。Siは、湿度による変性が少なく、安価であるため特に好ましい。接合層13の屈折率が第一の光学部材11又は第二の光学部材12と同じである場合に、無反射で中赤外光を透過させることができるので、第一の光学部材11又は第二の光学部材12と同一の材料を含むことがさらに好ましい。
【0038】
上記のように接着力を高める観点から高屈折粒子15の屈折率が高いほど好ましいが、高屈折粒子15には中赤外光がエバネッセント光として侵入するため、高屈折率になるほど高屈折粒子15に侵入しにくくなる。そのため、高屈折粒子15の大きさを十分に小さくする必要がある。定量的に説明すると、接合層13の樹脂14の屈折率をn、高屈折粒子15の屈折率をn、中赤外光の波長をλとした場合に、中赤外光の物質内への侵入特性長(L)は、以下の式(1)で与えられる。ここで、侵入特性長(L)はエバネッセント長の3倍に相当し、侵入減衰量がおおよそ5%になる長さである。侵入特性長(L)は光が中に侵入してくるかを示す閾値となり得る。ただし、樹脂14の屈折率nは、高屈折粒子15の屈折率nに対して十分低いとする。
【0039】
【数1】
【0040】
高屈折粒子15の大きさがλ/(2n)以下であれば、高屈折粒子15に侵入した中赤外光も高屈折粒子15の外に出るため、中赤外光が高屈折粒子15の中を伝搬しながら接合層13を透過する。接合層13は、高屈折粒子15によって中赤外光をランダムに散乱されることもなく、樹脂14だけの場合に比べて全体の屈折率を高めたように振る舞うことができる。
【0041】
ここで、大きさが上記のL以下の高屈折粒子15が接合層13に分散している場合に、接合層13における高屈折粒子15の体積割合をcとすると(つまり、樹脂14の体積割合を1-cとすると)、接合層13の屈折率nは以下の式(2)で与えられる。
【0042】
【数2】
【0043】
高屈折粒子15の体積割合(c)が多いほど、接合層13の屈折率nを高めて、第一の光学部材11から第二の光学部材12への透過性を向上させることができる。図4は、Siである高屈折粒子15の体積率と透過性の関係を例示する図である。図4の横軸の体積率は体積割合(c)に対応する。図4の結果から、接合層13に含まれる高屈折粒子15は、体積が接合層13に対して10%以上であることが好ましい。ここで、接合層13の厚みが2μm、中赤外光の波長が4.26μm、樹脂14の屈折率が1.4、高屈折粒子15の屈折率が3.3であるとして、図4のシミュレーションが行われた。
【0044】
また、接合層13の厚みは、第一の光学部材11から第二の光学部材12への透過性に関係する。第一の光学部材11から第二の光学部材12への透過率Tは、接合層13の厚みをdとすると、以下の式(3)で表すことができる。
【0045】
【数3】
【0046】
ここで、接合層13の厚みdが十分に薄いとすると、透過率Tは以下の式(4)で近似される。
【0047】
【数4】
【0048】
式(4)から、接合層13の厚みdが、以下の式(5)で示される膜厚特性長L以下である場合に透過率Tが高くなる。
【0049】
【数5】
【0050】
ここで、透過率Tはn=nの場合に最大値になる。つまり、第一の光学部材11と第二の光学部材12の屈折率が同じ場合に、透過率Tは最大値になる。第一の光学部材11と第二の光学部材12は、例えば同一の材料で構成される場合に屈折率が同じになる。
【0051】
ただし、同一の材料で構成されなくても、第一の光学部材11と第二の光学部材12の屈折率が十分に近いため、同じであると扱える場合がある。例えば、Si、GaAs、Ge、InP、InAs及びZnSeの屈折率は互いに近似しており、第一の光学部材11及び第二の光学部材12の材料をこれらの中から選択するような場合に、屈折率が同じであると扱ってよい。n1=n2=nとして式(5)を変形すると以下の式(6)が得られる。ここで、変形において、式(7)の近似式が用いられる。
【0052】
【数6】
【0053】
式(6)の第二項より、接合層13の厚みdを、物質内波長λ/nの10分の1すなわちλ/(10n)以下にすることで、中赤外光がエバネッセント光と同様に接合層13をトンネリングして第一の光学部材11から第二の光学部材12に伝搬するため、透過率Tを上げることができる。また、少なくとも式(6)の第一項より、接合層13の厚みdをλ/(π(n-n))以下とすることで、同様の理由によって、透過率Tを上げることができる。ここで、n1とn2が異なる場合に、それらを平均した平均屈折率をnとすることで式(6)を用いてLを評価することができる。
【0054】
図5は、接合層の厚みdと透過性の関係を例示する図である。図5の横軸は、規格化された厚みとしてd/(λ/(π(n-n)))を用いている。つまり、図5の横軸における1以下の部分が、接合層13の厚みdがλ/(π(n-n))以下であることに対応する。図5に示すように、接合層13の厚みdをλ/(π(n-n))以下とすることで、透過率Tを上げることができる。また、図6は、接合層の厚みdと透過性の関係の別の例を示す図である。図6の横軸は、規格化された厚みとしてd/(λ/(10n))を用いている。つまり、図6の横軸における1以下の部分が、接合層13の厚みdがλ/(10n)以下であることに対応する。図6に示すように、接合層13の厚みdをλ/(10n)以下とすることで、透過率Tを上げて、ほとんどの中赤外光を透過させることができる。ここで、中赤外光の波長が4.26μm、樹脂14の屈折率が1.4、高屈折粒子15の屈折率が3.3であるとして、図5及び図6のシミュレーションが行われた。
【0055】
ここで、最も薄い部分で光学結合の効果が最も発現することから、厚みdは第一の光学部材11と第二の光学部材12との距離のうち最も近い部分で定義されてよい。
【0056】
本実施形態に係る光学接合構造体及びガス検出装置は、上記の構成によって、中赤外光に用いられる光学部材間を光学的に接合可能である。ここで、図3を参照しながら説明したように高屈折粒子15が可視光に対して不透明であることから、接合層13は、追加の部材を要することなく、可視光を透過させずに中赤外光を透過させるフィルタ機能を有する。したがって、本実施形態に係る光学接合構造体及びガス検出装置は中赤外光を扱う光学システムに特に適している。
【0057】
以上、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明したが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意すべきである。例えば、各部材、各手段などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段などを1つに組み合わせたり、又は分割したりすることが可能である。
【0058】
<他の実施形態>
上記の実施形態において、単一な接合層13により第一の光学部材11と第二の光学部材12が力学的に接合している場合を説明したが、本実施形態は第一の光学部材11と第二の光学部材12とを力学的に接合する場所と光学的に接合する場所が分離されていても同様の効果を奏する。すなわち、接合層13の一部に、高屈折粒子15を含まない領域、高屈折粒子15が含まれる量が少ない領域又は接合層13を形成する樹脂14が異なる領域が存在していてよい。このことにより、高屈折粒子15を多く含む場合に起こる接着力の低下を、高屈折粒子15の含有量が異なる一部の領域の接着力で補うことができ、光学的な接続は高屈折粒子15を多く含む領域で確保することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 ガス検出装置
2 基板
3 発光素子
4 受光素子
5 導光部材
10 光学接合構造体、
11 第一の光学部材
12 第二の光学部材
13 接合層
14 樹脂
15 高屈折粒子
20 主面
31 発光面
41 受光面
51 第1の反射部
52 第2の反射部
511 第1のミラー
512 第3のミラー
513 第5のミラー
521 第2のミラー
522 第4のミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6