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特開2023-77977散乱体、照明装置および散乱体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023077977
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】散乱体、照明装置および散乱体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20230530BHJP
   F21V 3/00 20150101ALI20230530BHJP
   F21V 3/06 20180101ALI20230530BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20230530BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20230530BHJP
【FI】
G02B5/02 C
F21V3/00 100
F21V3/00 320
F21V3/00 510
F21V3/06 110
F21Y115:10
F21Y115:30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191508
(22)【出願日】2021-11-25
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】安原 亮
(72)【発明者】
【氏名】梶田 信
【テーマコード(参考)】
2H042
【Fターム(参考)】
2H042BA01
2H042BA15
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れる散乱体、照明装置および散乱体の製造方法を提供する。
【解決手段】散乱体20は、基板21に直接または他の層を介して形成され、繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する散乱層22を備える。照明装置は、散乱体20と、散乱体20に光を出射する発光体10と、を備える。散乱体20の製造方法は、基板21に直接または他の層を介して形成された金属膜にプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマ照射工程でプラズマが照射された金属膜を酸化する酸化工程と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に直接または他の層を介して形成され、繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する散乱層を備える、
ことを特徴とする散乱体。
【請求項2】
前記散乱層は、10nm以上100nm以下の太さの前記繊維を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の散乱体。
【請求項3】
前記散乱層は、200nm以上の厚みを有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の散乱体。
【請求項4】
前記散乱層は、10nm以上100nm以下の範囲で自己相似な凹凸を有し、2より大きいフラクタル次元を有するフラクタル構造を有する、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の散乱体。
【請求項5】
前記散乱層は、酸化金属を含む前記繊維を有する、
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の散乱体。
【請求項6】
前記基板は、サファイア基板、石英ガラス基板、光学ガラス基板またはダイヤモンド基板のうち何れかを含む、
ことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の散乱体。
【請求項7】
前記散乱層は、二次元結晶を含む、
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の散乱体。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の散乱体と、
前記散乱体に光を出射する発光体と、
を備える、ことを特徴とする照明装置。
【請求項9】
前記発光体は、前記散乱体が有する前記基板に形成されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の照明装置。
【請求項10】
基板に直接または他の層を介して形成された金属膜にプラズマを照射するプラズマ照射工程と、
前記プラズマ照射工程でプラズマが照射された金属膜を酸化する酸化工程と、
を備える、ことを特徴とする散乱体の製造方法。
【請求項11】
前記プラズマ照射工程では、金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成される、
ことを特徴とする請求項10に記載の散乱体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱体、照明装置および散乱体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(light emitting diode)およびレーザから放射された光は、白熱電球等と比較して、指向性が高い。このため、LEDおよびレーザを用いた照明装置が対象に均一に光を照射するためには、LEDまたはレーザから放射された光を散乱体により拡散する必要がある。
【0003】
特許文献1は、LEDと、放射に対して透過性のマトリックス材料とマトリックス材料に埋め込まれた粒子材料からなる散乱粒子とを有する散乱体と、を備える照明装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-529842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に記載の散乱体は、樹脂中に散乱粒子を分散させる方法で作製されている。樹脂により作製された散乱体は、耐熱性が低く、LEDの高出力化に伴い、散乱体の温度上昇による熱破壊や、屈折率変化に伴う散乱特性の変化が問題となっている。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、耐熱性に優れる散乱体、照明装置および散乱体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る散乱体の一態様は、
基板に直接または他の層を介して形成され、繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する散乱層を備える、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る照明装置の一態様は、
前記散乱体と、
前記散乱体に光を出射する発光体と、
を備える、ことを特徴とする。
【0009】
本発明の目的を達成するため、本発明に係る散乱体の製造方法の一態様は、
基板に直接または他の層を介して形成された金属膜にプラズマを照射するプラズマ照射工程と、
前記プラズマ照射工程でプラズマが照射された金属膜を酸化する酸化工程と、
を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性に優れる散乱体、照明装置および散乱体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る照明装置を示す図である。
図2】実施の形態に係る散乱体を製造する線形プラズマ装置を示す図である。
図3】実施の形態に係る散乱体の製造工程を示すフローチャートである。
図4】(A)および(B)は、実施の形態に係る散乱体の製造工程を説明する図である。
図5】変形例に係る散乱体を示す図である。
図6】変形例に係る照明装置を示す図である。
図7】実施例に係る散乱体の散乱層を示す図である。
図8図7のVIII部分の拡大図である。
図9】実施例に係る散乱体および比較例に係る基板の散乱特性を測定する測定装置を示す図である。
図10】実施例に係る散乱体および比較例に係る基板の波長毎の透過率を示す図である。
図11】実施例に係る散乱体の散乱特性を測定する測定装置を示す図である。
図12】実施例に係る散乱体の距離毎の透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態に係る照明装置、散乱体および散乱体の製造方法について図面を参照しながら説明する。
【0013】
実施の形態に係る照明装置1は、図1に示すように、発光体10と、散乱体20と、を備える。照明装置1は、発光体10から出射された光を散乱体20で散乱することで、照明対象に均一に光を照射することができる。
【0014】
発光体10は、電極11a、11bを有し、紫外領域、可視領域または赤外領域の光を出射するものである。発光体10は、紫外領域、可視領域または赤外領域の光を発光するものであれば限定されず、LED(light emitting diode)またはレーザ(LASER:Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)発信器を含む。LEDとしては、GaN系LED、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)系LED、ガリウムヒ素リン(GaAsP)系LED、インジウム窒化ガリウム(InGaN)系LED、窒化ガリウム(GaN)系LED、アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)系LED等を用いることができる。レーザ発信器としては、LD(Laser Diode)、ファイバーレーザ、マイクロチップレーザなどを用いることができる。
【0015】
散乱体20は、基板21と、基板21に形成された散乱層22と、を備える。
【0016】
基板21は、発光体10から出射された光の波長域で透明であればよく、ガラス基板、サファイア基板、ダイヤモンド基板などを含む。ガラス基板は、石英ガラス基板、光学ガラス基板を含む。基板21は、発光体10から出射された光により発生した熱を冷却できるように、熱伝導率が高いことが好ましい。また、基板21は、製造工程で加熱されるため、耐熱性に優れたものが好ましい。このため、基板21として、サファイア基板、ダイヤモンド基板を用いることが好ましい。
【0017】
散乱層22は、基板21に形成され、発光体10から出射された光を散乱する層である。散乱層22の厚みT1は、発光体10から出射された光を散乱できる厚みであればよく、好ましくは、200nm以上、より好ましくは、300nm以上、さらに好ましくは、500nm以上の厚みを有する。これらの厚みを有することで、光を散乱することが可能である。散乱層22の厚みT1は、大きいほど、より長波長の光を散乱することができる。また、散乱層22の厚みT1の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000nmである。
【0018】
また、散乱層22は、繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する。散乱層22の一例としては、後述する実施例で作成された図6および図7に示す形状を有する。また、散乱層22は、好ましくは、10nm以上100nm以下の太さの繊維を含む。また、散乱層22は、好ましくは、10nm以上100nm以下の範囲で自己相似な凹凸を有し、2より大きいフラクタル次元を有するフラクタル構造を有する。フラクタル次元は、好ましくは、2.1以上2.9以下である。散乱層22を透過した光は、繊維の表面に乱反射され、また、繊維を透過した光が屈折することにより散乱されると考えられる。散乱層22は、自己相似な凹凸を有し、特定の長さを有さないため、特定の波長の光の干渉が発生せず、紫外領域、可視領域または赤外領域の光を良好に散乱することが可能である。また、散乱層22の繊維は、透過率を高めるため、発光体10から放射される光の波長域で透明であることが好ましい。また、散乱層22の繊維は、金属酸化物を含むことで、耐熱性を有することができる。散乱層22の繊維は、好ましくは、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化鉄、酸化ニッケル、のうち何れかを含む。
【0019】
つぎに、上記構成を有する散乱体20を製造する線形プラズマ装置100について説明する。
【0020】
線形プラズマ装置100は、金属膜が成膜されている基板21にHeなどのプラズマを照射して、基板21に繊維状のナノ構造を形成するものである。金属膜は、プラズマ照射により、金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成されるものであれば特に限定されないが、例えば、タングステン、モリブデン、チタン、鉄、ニッケルなどを含む。
【0021】
線形プラズマ装置100は、図2に示すように、真空槽110と、基板ホルダ120と、温度計130と、プラズマ生成部140と、磁場発生部150と、真空ポンプ160と、を備える。
【0022】
真空槽110は、基板21を保持する基板ホルダ120等を格納する密閉された空間を形成するものである。
【0023】
基板ホルダ120は、真空槽110内に配置され、金属膜が成膜された基板21を保持するものである。
【0024】
温度計130は、基板ホルダ120に保持された基板21の表面温度を測定する放射温度計である。
【0025】
プラズマ生成部140は、LaBカソードを備え、DC(Direct Current)アーク放電を使用してHeなどのプラズマを定常状態で生成するものである。基板ホルダ120とプラズマ生成部140との距離D1は、例えば、1.5mである。プラズマ生成部140が生成するHeのプラズマの電子密度は、例えば1×1019-3であり、プラズマ温度は5eVである。
【0026】
磁場発生部150は、プラズマ生成部140で生成されたHeなどのプラズマを磁場により、基板ホルダ120に保持された基板21に照射するものである。基板21に照射されるHeフルエンスは、例えば、1~20×1025-2であり、プラズマの入射イオンエネルギーは、例えば、50eVである。
【0027】
真空ポンプ160は、真空槽110内の空気を排出するためのものである。真空ポンプ160は、真空槽110内の圧力を1×10-3Pa以下に減圧する。なお、プラズマ生成時には、ヘリウムガス等が導入されるので、真空槽110内は1Pa程度のガス圧になる。
【0028】
つぎに、上記構成を有する散乱体20の製造工程について説明する。
【0029】
散乱体20の製造工程は、図3に示すように、成膜工程(ステップS101)と、プラズマ照射工程(ステップS102)と、酸化工程(ステップS103)と、を備える。
【0030】
成膜工程(ステップS101)では、図4(A)に示すように、基板21に金属膜23を成膜する。基板21として、好ましくは、サファイア基板またはダイヤモンド基板を用いる。金属膜23の成膜方法は、特に限定されないが、好ましくは、スパッタ法または蒸着法である。金属膜23は、メッキによって成膜されてもよい。金属膜23としては、プラズマ照射により、金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成されるものであれば特に限定されないが、例えば、タングステン、モリブデン、チタン、鉄、ニッケルなどを含む。金属膜23の厚みは、好ましくは、50nm以上200nm以下である。なお、基板21は、金属膜23を形成する前に洗浄したものを用いることが好ましい。洗浄液としては、例えば、アセトン、メタノールおよび脱イオン水を用いるとよい。
【0031】
プラズマ照射工程(ステップS102)では、成膜工程(ステップS101)で金属膜23が成膜された基板21に線形プラズマ装置100を用いてHeなどのプラズマを照射する。例えば、基板21に照射されるHeフルエンスは、1~20×1025-2であり、プラズマの入射イオンエネルギーは、50eVであり、真空槽110内の圧力は、1×10-3Paである。入射イオンエネルギーは基板21のバイアスを変えることによって制御さる。プラズマが照射されると、基板21の表面温度は、主にプラズマの電子密度によって制御される。例えば、金属膜23がタングステンである場合、基板21の表面温度は、好ましくは、1000K~2000Kに加熱される。金属膜23がモリブデンである場合、基板21の表面温度は、好ましくは、850K~1050Kに加熱される。Heのプラズマの照射時間は、好ましくは、5分以上1時間以下であり、より好ましくは、10分以上30分以下である。Heのプラズマが基板21に照射されることで、Heの気泡の形成と成長によって金属膜23にナノメートルスケールの形態変化がもたらされる。基板21に形成された金属膜23には、最初にピンホールと突起が表面に形成され、続いて金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成される。これにより、図4(B)に示すように、金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成された金属膜24が、基板21に形成される。
【0032】
酸化工程(ステップS103)では、プラズマ照射工程(ステップS102)でHeなどのプラズマが照射され、金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成された金属膜24を酸化する。具体的には、化学処理または酸素雰囲気中または大気中を含む酸化雰囲気中で加熱する酸化処理を実施する。大気中で加熱する場合の酸化処理の温度は、金属膜24を酸化できる温度であればよく、好ましくは、500℃以上700℃以下である。加熱処理の時間は、好ましくは、1時間以上24時間以下であり、より好ましくは3時間以上12時間以下である。酸化処理を実施することで、基板21に成膜された金属の繊維が酸化し、発光体10から放射される光の波長域で透明である酸化金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造に変化する。これにより、図1に示すように、酸化金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成された散乱層22が、基板21に形成される。
【0033】
以上のように、本実施の形態の照明装置1、散乱体20および散乱体20の製造方法によれば、繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する散乱層22を備えることで、耐熱性に優れる散乱体20を得ることができる。また、散乱層22は、200nm~500nm程度でも効果を発揮することができるため、小型化が容易である。このため、小型もしくは微小領域で散乱光が必要な用途、高出力光で散乱光が必要な用途で使用することが可能である。また、散乱体20は、フラクタル構造を有するため、LEDまたはレーザからの指向性が高い光を均一化し、光のコヒーレンシー(可干渉性)を低下させる光学素子として機能することができる。このため、干渉により解像度が低下するために、干渉性を下げる必要性が高い高性能な顕微鏡の照明に用いることが可能である。これに対して、従来の光散乱体は、樹脂中にマイクロ粒子を分散させる等の手法で作成されている。樹脂による光散乱体は、耐熱性が低く、高出力光の入力には用いることができないという問題がある。また散乱効率が低いため、体積が大きく、小型化に限界がある。
【0034】
(変形例)
上述の実施の形態では、散乱体20の基板21に散乱層22が形成される例について説明した。散乱体20は、散乱層22を備え、光を散乱することができればよく、図5に示すように、基板21と散乱層22との間に中間層25を備えてもよい。中間層25は、光を透過するように、透明膜であることが好ましい。中間層25は、以下のように形成される。上述した散乱体20の製造工程のプラズマ照射工程(ステップS102)で、基板21に成膜された金属膜23にプラズマ照射され、金属膜23の表面に金属の繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造が形成された場合、金属膜23の一部がそのまま残る。残った金属膜23は、酸化工程(ステップS103)で中間層25である酸化金属膜に変化する。たとえば、散乱層22が酸化タングステンの繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する場合、中間層25は、酸化タングステン層を含む。また、成膜工程(ステップS101)で金属膜23を成膜する前に、基板21と金属膜23との密着性を高めるなどの目的により、中間層25を成膜してもよい。
【0035】
上述の実施の形態では、プラズマ照射工程(ステップS102)で線形プラズマ装置100を用いてHeなどのプラズマを照射する例について説明した。プラズマ照射工程(ステップS102)では、金属膜23が成膜された基板21にプラズマを照射することができればよく、線形プラズマ装置100以外の構造を有するプラズマ装置を用いてもよい。例えば、プラズマ照射工程(ステップS102)で、RF(Radio Frequency)プラズマ装置またはマグネトロンスパッタ装置を用いても、散乱体20を作成できる。また、プラズマとしては、He以外のNeなどのプラズマを用いても同様の結果が得られると考えられる。
【0036】
また、上述の実施の形態では、散乱層22が酸化金属を含む例について説明したが、散乱層22は、添加物をさらに含んでもよい。たとえば、添加物として、硫化イオウ等の二次元結晶を含んでもよい。このようにすることで、光の強度に対して、非線形応答する散乱層22が得られる。この場合、散乱層22に、基準値より弱い光が照射された場合の透過率は、基準値より強い光が照射された場合の透過率より小さい。このように、その他の添加物を含むことにより、散乱層22が、光の散乱以外の特性を得ることができる。
【0037】
また、上述の実施の形態では、発光体10と、散乱体20と、を別体として備える照明装置1について説明した。照明装置1は、発光体10と、散乱体20と、を一体として作成されてもよい。発光体10がサファイア基板等の基板21に形成されている場合、図6に示すように、基板21の表面に散乱層22が形成され、基板21の裏面に発光体10が形成されてもよい。このようにすることで、より小型の照明装置1を作成することができる。
【実施例0038】
以下、散乱体20の効果を実施例により実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0039】
まず、実施例1の散乱体20の製造方法について説明する。
【0040】
成膜工程(ステップS101)において、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、基板21に金属膜23としてタングステン膜を成膜した。基板21として、10×10×2mmのサイズの石英ガラス基板を用いた。タングステン膜の厚みは、100nmであった。なお、基板21は、タングステン膜を形成する前に洗浄した。
【0041】
プラズマ照射工程(ステップS102)において、成膜工程(ステップS101)でタングステン膜が成膜された基板21にHeのプラズマを照射した。プラズマの照射は、線形プラズマ装置100であるNAGDIS-II(Nagoya University Divertor Plasma Simulator II)を用いて実施した。基板ホルダ120とプラズマ生成部140との距離D1は、1.5mであった。プラズマの電子密度は、1×1019-3、プラズマ温度は5eVであった。基板21に照射されるHeフルエンスは、20×1025-2、プラズマの入射イオンエネルギーは、50eVであった。真空槽110内の圧力は、1×10-3Paであった。これにより、基板21の表面温度は、1400Kに加熱された。Heのプラズマ照射時間は、15分であった。Heのプラズマ照射により、タングステン繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有するタングステン層が形成された。
【0042】
酸化工程(ステップS103)において、プラズマ照射工程(ステップS102)でタングステン繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有するタングステン層が形成された基板21を大気中で加熱処理した。加熱処理の温度は、600℃、加熱処理の時間は、6時間であった。加熱処理を実施したことで、基板21に成膜された、タングステン繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有するタングステン膜が酸化し、酸化タングステン(WO)繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する酸化タングステン膜に変化した。これにより、酸化タングステン繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有する散乱層22を備え、紫外線から近赤外光に透明な実施例1の散乱体20が得られた。
【0043】
実施例1の散乱体20の散乱層22は、図7および図8に示すように、酸化タングステン繊維がランダムからみ合う綿毛状のFuzz構造を有していた。また、散乱層22は、10nm以上100nm以下の太さの繊維を含んでいた。散乱層22は、10nm以上100nm以下の範囲で自己相似な凹凸を有し、2より大きいフラクタル次元を有するフラクタル構造を有していた。散乱層22の厚みは、500nmであった。
【0044】
また、比較例1の基板を作成した。具体的には、10×10×2mmのサイズの石英ガラス基板に厚み100nmのタングステン膜を成膜したものを酸化雰囲気中で酸化させて、石英ガラス基板に酸化タングステン膜が形成された比較例1の基板を得た。
【0045】
つぎに、実施例1の散乱体20および比較例1の基板の散乱特性を測定した。
【0046】
図9に示す測定装置200を用いて、実施例1の散乱体20および比較例1の基板に光を照射し、透過した光の波長毎に透過率を測定することにより散乱特性を測定した。
【0047】
測定装置200は、光源201と、光度計202と、を備える。光源201は、200nm~5000nmの光を照射するものである。光度計202は、実施例1の散乱体20または比較例1の基板を透過した光の波長毎の透過率を測定するものである。光度計202は、光源201から照射される光の光軸上であり、実施例1の散乱体20または比較例1の基板から距離D2離れた位置に配置されている。距離D2は、200mmである。
【0048】
実施例1の散乱体20および比較例1の基板を透過した光の波長毎の透過率を図10に示す。
【0049】
実施例1の散乱体20では、200nmから900nmの波長域において、光度計202で観測された実施例1の散乱体20を透過した光の透過率は、小さいことがわかった。これは、光源201から照射された200nmから900nmの波長域の光が散乱され、光軸上に配置された光度計202の位置に到達する光が少なくなるためである。従って、実施例1の散乱体20は、近紫外線領域から近赤外線領域である200nmから900nmの波長域において、光源201から照射された光を散乱することがわかった。900nmより長波長域では、散乱層の厚みが500nmであったため、波長が長くなるにつれ、散乱されにくくなったと考えられる。このため、散乱層の厚みを大きくすると、900nmより長波長域でも、より散乱されると考えられる。
【0050】
これに対して、比較例1の基板では、200nmから900nmの波長域において、光度計202で観測された比較例1の基板を透過した光の透過率は、大きいことがわかった。これは、光源201から照射された200nmから900nmの波長域の光が散乱されないため、光軸上に配置された光度計202の位置に到達する光が大きくなった。なお、光の透過率が、波長によって変動しているのは、膜厚による干渉またはタングステン膜による吸収のためである。従って、比較例1の基板は、光源201から照射された光を散乱できないことがわかった。
【0051】
つぎに、図11に示す測定装置210を用いて、実施例1の散乱体20にレーザ光を照射し、散乱体20からの距離毎に透過率を測定することにより散乱特性を測定した。
【0052】
測定装置210は、レーザ光源211と、光度計212と、を備える。レーザ光源211は、He-Neレーザ光源であり、632.8nmのレーザ光を照射するものである。光度計212は、実施例1の散乱体20を透過した光の透過率を測定するものである。光度計212は、レーザ光源211から照射される光の光軸上に移動可能に配置され、実施例1の散乱体20から距離D3離れた位置毎に透過率を測定する。
【0053】
実施例1の散乱体20を透過した光の距離毎の透過率を図12に示す。
【0054】
実施例1の散乱体20を透過した光の透過率は、距離D3が大きくなるにつれて、小さくなっている。D3=10mmでは、透過率が約18%、D3=15mmでは、透過率が約7%、D3=20mmでは、透過率が3%、D3=35mmでは、透過率が約1%である。透過率は、距離D3の略2乗に反比例していると考えられ、実施例1の散乱体20が光を散乱していることが実証できた。また、実施例1の散乱体20は、レーザ光であっても散乱できることがわかった。
【0055】
以上のように、実施例1の散乱体20は、波長毎の透過率を測定することで、近紫外線領域から近赤外線領域である200nmから900nmの波長域において、光源201から照射された光を散乱することがわかった。900nmより長波長域では、散乱層の厚みが500nmであったため、波長が長くなるにつれ、散乱されにくくなったと考えられる。このため、散乱層の厚みを大きくすると、900nmより長波長域でも散乱効果を得られると考えられる。また、実施例1の散乱体20を透過した光の透過率は、距離の略2乗に反比例していると考えられ、実施例1の散乱体20が光を散乱していることが実証できた。また、実施例1の散乱体20は、レーザ光であっても散乱できることがわかった。このため、レーザ光を光源とした照明装置に用いることも可能である。上述の実施例1では、散乱層が、酸化タングステンを含む場合について実証したが、散乱層は、Fuzz構造を有すればよく、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化鉄、酸化ニッケルなどのFuzz構造を有する酸化金属を含んでも同様の結果が得られると考えられる。また、上述の実施例1では、プラズマ照射工程(ステップS102)で線形プラズマ装置100を用いてプラズマを照射する例について説明した。詳細は記載しないが、プラズマ照射工程(ステップS102)で、RFプラズマ装置またはマグネトロンスパッタ装置を用いても、散乱体20を作成できた。
【0056】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0057】
1…照明装置
10…発光体
11a、11b…電極
20…散乱体
21…基板
22…散乱層
23、24…金属膜
25…中間層
100…線形プラズマ装置
110…真空槽
120…基板ホルダ
130…温度計
140…プラズマ生成部
150…磁場発生部
160…真空ポンプ
200、210…測定装置
201…光源
202、212…光度計
211…レーザ光源
T1…厚み
D1~D3…距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12