(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007801
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】振動信号生成装置、振動提示装置、それらの方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20230112BHJP
【FI】
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110878
(22)【出願日】2021-07-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】宇治土公 雄介
(72)【発明者】
【氏名】広田 光一
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555AA62
5E555BA01
5E555BB01
5E555BC01
5E555DA24
5E555DD06
5E555EA09
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】振動刺激により位置情報を提示する。
【解決手段】振動提示装置1は、人間の身体部位に振動を提示する。伝達情報入力部11は、振動を提示する位置を表す伝達情報を取得する。伝達情報補正部121は、認識特性情報に基づいて伝達情報を補正する。振動子選択部122は、補正後の伝達情報が表す位置近傍の振動子を選択する。振動波形生成部123は、選択された振動子から出力する振動信号の波形を生成する。振動提示部13は、振動信号に基づいて人間の身体部位に振動を提示する。振動提示部13は、身体部位の接触位置を中心として半径が異なる複数の同心円それぞれの円周上に所定の数の振動子が等間隔で配置されている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の身体部位に振動を提示するための振動信号を生成する振動信号生成装置であって、
振動源が存在する刺激位置と人間が振動源の存在を認識する認識位置との関係を表す認識特性情報に基づいて前記振動を提示する位置を表す伝達情報を補正する伝達情報補正部と、
補正後の伝達情報が表す位置から出力する前記振動信号の波形を生成する振動波形生成部と、
を含む振動信号生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動信号生成装置であって、
前記伝達情報補正部は、前記伝達情報が前記認識位置を示すものとして、その認識位置に対応する前記刺激位置が前記補正後の伝達情報となるように、前記伝達情報を補正するものである、
振動信号生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の振動信号生成装置であって、
前記認識特性情報は、前記身体部位から前記刺激位置までの刺激距離および所定の軸に対して前記身体部位と前記刺激位置とを結ぶ直線がなす刺激角度の少なくともいずれかを入力とし、前記身体部位から前記認識位置までの認識距離および前記所定の軸に対して前記身体部位と前記認識位置とを結ぶ直線がなす認識角度の少なくともいずれかを出力する関数であり、
前記伝達情報補正部は、前記伝達情報を前記関数の逆関数へ入力することで、前記伝達情報を補正するものである、
振動信号生成装置。
【請求項4】
請求項2に記載の振動信号生成装置であって、
前記認識特性情報は、前記身体部位から前記刺激位置までの刺激距離および所定の軸に対して前記身体部位と前記刺激位置とを結ぶ直線がなす刺激角度の少なくともいずれかと前記身体部位から前記認識位置までの認識距離および前記所定の軸に対して前記身体部位と前記認識位置とを結ぶ直線がなす認識角度の少なくともいずれかとの組を記憶したテーブルであり、
前記伝達情報補正部は、前記テーブルに記憶された前記刺激距離および前記刺激角度の少なくともいずれかと前記認識距離および前記認識角度の少なくともいずれかとの組を補完することで、前記伝達情報を補正するものである、
振動信号生成装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の振動信号生成装置が生成した振動信号に基づいて人間の身体部位に振動を提示する振動提示部を含み、
前記振動提示部は、前記身体部位の接触位置を中心として半径が異なる複数の同心円それぞれの円周上に所定の数の振動子が等間隔で配置されている、
振動提示装置。
【請求項6】
人間の身体部位に振動を提示するための振動信号を生成する振動信号生成方法であって、
伝達情報補正部が、振動源が存在する刺激位置と人間が振動源の存在を認識する認識位置との関係を表す認識特性情報に基づいて前記振動を提示する位置を表す伝達情報を補正し、
振動波形生成部が、補正後の伝達情報が表す位置から出力する前記振動信号の波形を生成する、
振動信号生成方法。
【請求項7】
振動提示部が、請求項6に記載の振動信号生成方法により生成された振動信号に基づいて人間の身体部位に振動を提示し、
前記振動提示部は、前記身体部位の接触位置を中心として半径が異なる複数の同心円それぞれの円周上に所定の数の振動子が等間隔で配置されている、
振動提示方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の振動信号生成装置もしくは請求項5に記載の振動提示装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、振動刺激により位置情報を提示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の振動定位能力を活用して、周辺にある物体の位置や移動状況等の情報を、人間に認知させるための技術がある。例えば、非特許文献1には、人間の身体表面に多数の振動モータを接触させ、振動の位置により身体周辺にある障害物等の物体が存在する方向を提示する技術が開示されている。このとき、振動の振幅により物体までの距離を表現すれば、方向と距離とを併せた位置情報を提示することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. H. Hogema, S. C. De Vries, J. B. F. Van Erp and R. J. Kiefer, "A Tactile Seat for Direction Coding in Car Driving: Field Evaluation," in IEEE Transactions on Haptics, vol. 2, no. 4, pp. 181-1188, Oct.-Dec. 2009, doi: 10.1109/TOH.2009.35.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、振動源が存在する位置と人間が振動源の存在を認識する位置とは、線形の関係ではない。非特許文献1の従来技術では、このような振動の刺激位置に対する認識特性を考慮しながら、位置情報を提示することはできていない。
【0005】
この発明の目的は、上記のような技術的課題に鑑みて、振動の刺激位置に対する人間の認識特性に基づいて、振動刺激により位置情報を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の第一の態様の振動信号生成装置は、人間の身体部位に振動を提示するための振動信号を生成する振動信号生成装置であって、振動源が存在する刺激位置と人間が振動源の存在を認識する認識位置との関係を表す認識特性情報に基づいて振動を提示する位置を表す伝達情報を補正する伝達情報補正部と、補正後の伝達情報が表す位置から出力する振動信号の波形を生成する振動波形生成部と、を含む。
【0007】
この発明の第二の態様の振動提示装置は、第一の態様の振動信号生成装置が生成した振動信号に基づいて人間の身体部位に振動を提示する振動提示部を含み、振動提示部は、身体部位の接触位置を中心として半径が異なる複数の同心円それぞれの円周上に所定の数の振動子が等間隔で配置されている。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、振動の刺激位置に対する人間の認識特性に基づいて、振動刺激により位置情報を提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は実験システムの概念を説明するための図である。
【
図2】
図2は実験の実施環境を説明するための図である。
【
図3】
図3は振動子の配置条件を説明するための図である。
【
図4】
図4は身体部位の姿勢条件を説明するための図である。
【
図5】
図5は姿勢条件ごとの実験結果を説明するための図である。
【
図6】
図6は刺激距離ごとの実験結果を説明するための図である。
【
図7】
図7は振動提示装置の機能構成を例示する図である。
【
図8】
図8は振動提示方法の処理手順を例示する図である。
【
図10】
図10は振動子決定部の処理を説明するための図である。
【
図11】
図11はコンピュータの機能構成を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、図面中において同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【0011】
[発明の原理]
この発明は、振動刺激により位置情報を提示する際に、振動の刺激位置に対する人間の認識特性に基づいて、提示する振動の位置(距離および方向)を補正するものである。その認識特性は、身体の外部に存在する振動源の定位がどの程度可能かを調査した実験結果から得られた知見に基づくものである。その実験結果では、振動源が存在する位置と人間が振動源の存在を認識する位置とは、線形の関係にないことが示されている。以下、その実験の詳細を説明する。
【0012】
<実験条件>
図1に、実験システムの概念を示す。この実験システムでは、振動源と人間が媒体に接触しており、振動源で発生した振動が媒体を介して人間に到達する。実験では、振動源の位置、および、媒体に接触する身体部位の姿勢によって、定位結果に影響が出るか否かを調査した。すなわち、振動源の位置と媒体に接触する身体部位の姿勢をそれぞれ変化させながら、定位位置にどのような変化が発生するかを調査した。媒体は、プラスチックや金属のような硬い素材であると媒体全体が振動して定位できないことから、シリコンゴムを使用した。また、最初に振動が到達した部位で振動が減衰しすぎないように、厚みのあるシリコンゴムを採用した。媒体に接触する身体部位は、振動検出の閾値が比較的低く、様々な装置の入出力部へのインターフェースとして使われることが多いことから、手を使用することとした。
【0013】
図2に、実験の実施環境を示す。被験者は、スリープマスクとノイズキャンセリングヘッドフォンを装着して視覚と聴覚を封じた状態で、肘をアームレストに置いて腕を安定させながら、インパルス生成装置に手で触れる。インパルス生成装置は、振動子として用いる複数のソレノイドが埋め込まれたウレタンシートの表面に、媒体とするシリコンゴムシートを貼ったものである。シリコンゴムシートは硬度30(デュロメータタイプAにより測定)のものを採用した。シリコンゴムシートのサイズは、縦横500ミリメートル、厚さ10ミリメートルとした。
【0014】
図3に、実験で用いた振動子の配置条件を示す。被験者はシリコンゴムシートの中心に手で触れる。振動子は、シリコンゴムシートの中心(すなわち、手の接触位置)から縦横斜めの八方向に放射状に3個ずつ配置される。各方向において最も中心に近い振動子(第一振動子)は中心から130ミリメートルの位置に配置される。二番目に中心に近い振動子(第二振動子)は第一振動子から50ミリメートル(すなわち、中心から180ミリメートル)の位置に配置される。最も中心から遠い振動子(第三振動子)は第二振動子から50ミリメートル(すなわち、中心から230ミリメートル)の位置に配置される。つまり、縦横斜めの八方向に向かってそれぞれ3個の振動子が等間隔で一列に配置される。これにより、半径が異なる3個の同心円それぞれの円周上にそれぞれ8個ずつの振動子が等間隔で配置される。
【0015】
図4に、実験で用いた身体部位の姿勢条件を示す。本実験では、“二本の指先”、“五本の指先”、および“手全体”の三姿勢を用いた。“二本の指先”の場合、シリコンゴムシートに人差し指と中指の先端のみで触れ、それぞれの指を手の中心線から23度ずつ開く姿勢とした。“五本の指先”の場合、シリコンゴムシートにすべての指の先端で触れ、中指を手の中心線に合わせた状態で、親指は手の中心線から78度開き、人差し指と薬指はそれぞれ手の中心線から23度開き、小指は手の中心線から55度開く姿勢とした。“手全体”の場合、シリコンゴムシートにすべての指全体と手の平で触れ、五本の指先の場合と同様に指を開く姿勢とした。
【0016】
<実験結果>
図5に、姿勢条件ごとの誤差を示した実験結果を示す。(a) absolute positional errorは、振動源の位置と被験者が振動源を認識した位置との誤差を、姿勢条件ごとに示したグラフである。(b) absolute directional errorは、振動源の方向と被験者が振動源を認識した方向との誤差を、姿勢条件ごとに示したグラフである。(c) absolute distance errorは、振動源までの距離と被験者が振動源を認識した位置までの距離との誤差を、姿勢条件ごとに示したグラフである。グラフ中の“two”は二本の指先の姿勢としたときの結果、“five”は五本の指先の姿勢としたときの結果、“hand”は手全体の姿勢としたときの結果である。いずれの実験結果においても、手全体を媒体に接触した方が、指先のみを媒体に接触するよりも誤差が小さいことが示されている。
【0017】
図6に、身体部位から振動源までの距離(以下、「刺激距離」とも呼ぶ)ごとの実験結果を示す。(a) absolute positional errorは、振動源の位置と被験者が振動源を認識した位置との誤差を、刺激距離ごとに示したグラフである。(b) distance biasは、振動源までの距離と被験者が振動源を認識した位置までの距離(振動源までの実際の距離ではなく、振動源までの距離として認識する距離である。以下、「認識距離」とも呼ぶ)とのバイアスを、刺激距離ごとに示したグラフである。グラフ中の“130”は刺激距離を130ミリメートルとしたとき(すなわち、第一振動子を振動源としたとき)の結果、“180”は刺激距離を180ミリメートルとしたとき(すなわち、第二振動子を振動源としたとき)の結果、“230”は刺激距離を230ミリメートルとしたとき(すなわち、第三振動子を振動源としたとき)の結果である。
図5の実験結果から手全体を媒体に接触させる姿勢条件のときが最も誤差が小さいことが判明したため、いずれも手全体を媒体に接触する姿勢条件で実験を行った。(a) absolute positional errorの実験結果からは、刺激距離が近いほど誤差が小さくなる(言い換えると、刺激距離が大きいほど誤差が大きくなる)ことが示されている。(b) distance biasの実験結果からは、刺激距離が大きいほど認識距離が小さくなることが示されている。
【0018】
[実施形態]
この発明の実施形態は、振動の刺激位置に対する人間の認識特性に基づいて振動を発生させる位置を補正して、人間の身体部位に振動を提示する振動提示装置およびその方法である。
図7に示すように、実施形態の振動提示装置1は、認識特性記憶部10-1、振動子情報記憶部10-2、伝達情報入力部11、振動信号生成部12、および振動提示部13を備える。振動信号生成部12は、伝達情報補正部121、振動子選択部122、および振動波形生成部123を備える。この振動提示装置1が
図8に示す各ステップの処理を実行することにより、実施形態の振動提示方法が実現される。
【0019】
振動提示装置1は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。振動提示装置1は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。振動提示装置1に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。振動提示装置1が備える各処理部は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。振動提示装置1が備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。
【0020】
以下、
図8を参照して、実施形態の振動提示装置1が実行する振動提示方法について説明する。
【0021】
認識特性記憶部10-1には、振動の刺激位置に対する人間の認識特性を表す認識特性情報が記憶されている。認識特性情報は、人間に振動を提示した際に、その振動源が存在する位置(以下、「刺激位置」と呼ぶ)と、人間が振動源の存在を認識する位置(以下、「認識位置」と呼ぶ)との関係を表す情報である。認識特性情報は、例えば、(1)数理モデル、または、(2)テーブルとして実装することができる。
【0022】
(1)数理モデルとして実装する場合、
図9に示すように、認識特性情報をD_recognition = C(D_stimulus)と表すことができる。ここで、D_recognitionは人間が振動源の存在を認識した位置までの距離(以下、「認識距離」と呼ぶ)、D_stimulusは振動源の位置までの距離(以下、「刺激距離」と呼ぶ)、Cは認識距離と刺激距離との関係を表す関数(以下、「認識特性関数」とも呼ぶ)である。認識特性関数は、例えば、上述の実験システムを用いて取得した認識距離と刺激距離との関係を近似することで得ることができる。
【0023】
(2)テーブルとして実装する場合、表1に示すように、認識特性情報を離散的なテーブルとして保持する。この情報は、例えば、上述の実験システムを用いて、人間を対象に振動定位評価を行うことで得ることができる。このテーブルに記憶された情報を線形補間等で補完することで、任意の刺激距離に対する認識距離を得ることができる。なお、テーブル上の刺激距離と認識距離の単位は同一とすることが望ましい。表1における刺激距離と認識距離の単位はいずれもセンチメートルである。
【表1】
【0024】
図9や表1に示すように、刺激距離と認識距離とは合致せず、刺激距離が大きくなるほど、刺激距離に対して認識距離が小さくなることが、上述の実験により判明している。ここでは距離に関する情報のみを示したが、距離だけでなく角度(方向)に関しても、同様に認識特性情報として保持することができる。角度とは、所定の軸(例えば、人間が媒体に触れたときの身体正面方向)に対して、媒体に接触している身体部位の中心(例えば、接触領域の重心)と振動源の位置を結んだ線が、媒体面上でなす角度である。振動源の位置を、実際に振動源が存在する位置(すなわち、刺激位置)とし、所定の軸に対して身体部位の中心と刺激位置とを結んだ直線が媒体面上でなす角度を「刺激角度」とも呼ぶ。振動源の位置を、媒体に接触している人間が振動源の存在を認識した位置(すなわち、認識位置)とし、所定の軸に対して身体部位の中心と認識位置とを結んだ直線が媒体面上でなす角度を「認識角度」とも呼ぶ。認識特性情報は、距離のみの情報(すなわち、刺激距離および認識距離)としてもよいし、角度(方向)のみの情報(すなわち、刺激角度および認識角度)としてもよいし、距離と角度(方向)の両方の情報(すなわち、刺激距離と刺激角度および認識距離と認識角度)としてもよい。つまり、本実施形態では、刺激距離と認識距離からなる認識特性情報を用いる例を説明しているが、刺激距離と認識距離、および/または、刺激角度と認識角度からなる認識特性情報と読み替えた実施形態としてもよい。例えば、認識特性情報を数理モデルとして実装する場合、A_recognition = C'(A_stimulus)、もしくは、(D_recognition, A_recognition) = C"(D_stimulus, A_stimulus)と表せばよい。ここで、A_recognitionは認識角度、A_stimulusは刺激角度、C'は認識角度と刺激角度との関係を表す関数、C"は認識距離および認識角度と刺激距離および刺激角度との関係を表す関数である。また、例えば、認識特性情報をテーブルとして実装する場合、刺激角度および認識角度からなる離散的なテーブル、もしくは、刺激距離、刺激角度、認識距離、および認識角度からなる離散的なテーブルとすればよい。
【0025】
振動子情報記憶部10-2には、振動を提示する振動子の配置を示す振動子情報が記憶されている。振動子情報は、例えば、表2に示すように、媒体の中心を原点とする極座標系で表した各振動子の座標からなるテーブルとして実装することができる。ここで媒体の中心とは、振動子の位置を定義するために設定する位置情報であり、媒体に触れて振動を感じる人間の身体部位との位置関係については無関係でよく、媒体の中心を原点とするのは一例である。表2における振動子番号とは、各番号に対応する所定の座標に配置された振動子を識別可能な番号である。例えば、
図3や
図10に示すように配置された振動子のそれぞれに相異なる振動子番号が割り振られている。
【表2】
【0026】
振動提示部13は、人間の身体部位が接触する媒体と、その身体部位の接触位置とは異なる位置に配置された複数の振動子を備える。振動提示部13における振動子の配置は限定されないが、身体部位の接触位置を囲むように相異なる距離で各振動子が配置されていると好適である。例えば、
図3に示すように、所定の数の振動子を、身体部位の接触位置を中心として半径が異なる複数の同心円それぞれの円周上に配置することができる。なお、複数の同心円それぞれの円周上に配置することは一例であり、これに限るものではない。例えば、方眼のマス目の交点に配置するなどしてもよい。
【0027】
ステップS11において、伝達情報入力部11は、ユーザに提示する位置情報を表す伝達情報を入力として取得し、取得した伝達情報を振動信号生成部12へ出力する。この伝達情報は、静的な座標情報であってもよいし、動的に変化する座標の時系列情報であってもよい。また、単一の座標情報ではなく、複数の座標情報でもよい。
【0028】
伝達情報が静的な座標情報である場合、例えば、表3に示すように、媒体の中心を原点とする直交座標系で表したX座標とY座標からなる1個の座標情報とする。ここでは、座標情報が直交座標系で表現される例を示したが、任意の座標系を用いて構わない。
【表3】
【0029】
伝達情報が動的に変化する座標の時系列情報である場合、例えば、表4に示すように、時刻とX座標とY座標からなる複数個の座標情報とする。
【表4】
【0030】
ステップS121において、振動信号生成部12の伝達情報補正部121は、振動信号生成部12へ入力された伝達情報を入力とし、認識特性記憶部10-1に記憶された認識特性情報に基づいて、入力された伝達情報を補正し、補正後の伝達情報を振動子選択部122へ出力する。伝達情報補正部121は、まず、入力された伝達情報の座標値を極座標に変換する。次に、例えば、認識特性記憶部10-1に距離に関する認識特性情報が記憶されていれば、極座標の動径(距離)をその認識特性情報に基づいて補正する。認識特性情報が、例えば、D_recogntion = C(D_stimulus)という数理モデルで表されるのであれば、補正後の動径(距離)はD_stimulus = C-1(D_recognition)で得られる。なお、C-1は認識特性関数Cの逆関数である。また、認識特性情報が、表1に例示したような離散的なテーブルで表されるのであれば、認識距離が極座標の動径(距離)に合致するデータを取得し、そのデータの刺激位置を補正後の動径(距離)として得る。極座標の動径(距離)がテーブル中の認識距離として存在しない場合、テーブル内に存在する近傍の認識距離群と、その認識距離群と対になる刺激距離の情報から補完して補正する。上記では距離に関する補正を説明したが、角度に関しても同様に補正することができる。
【0031】
ステップS122において、振動信号生成部12の振動子選択部122は、伝達情報補正部121が出力した補正後の伝達情報を入力とし、補正後の伝達情報に基づいて、振動子情報記憶部10-2に記憶された振動子情報から、振動を提示する振動子を選択し、選択された振動子の座標を示すマッピング座標を振動波形生成部123へ出力する。振動子選択部122は、例えば、
図10に示すように、補正後の伝達情報が示す座標(図中の「補正後の座標」)に最も近い振動子の座標(図中で点線で囲まれた振動子)を探索し、その振動子の座標をマッピング座標として出力する。また、例えば、補正後の伝達情報が示す座標近傍の複数の振動子の座標(図中で一点鎖線で囲まれた振動子)を選択し、選択された各振動子の座標をマッピング座標として出力してもよい。この場合、各振動子から出力される振動の強度の総和が提示したい振動の強度と一致するように各振動子に振動強度を分配し、複数のマッピング座標と各マッピング座標における振動強度とを合わせて出力する。
【0032】
ステップS123において、振動信号生成部12の振動波形生成部123は、振動子選択部122が出力したマッピング座標(および振動強度)を入力とし、マッピング座標に対応する各振動子について、その振動子から出力する振動信号を表す振動信号情報を生成し、生成した振動信号情報を振動提示部13へ出力する。振動信号情報は、各振動子を示す番号と、各時間においてその振動子から出力する振動波形を示す情報である。振動信号情報の例を、表5に示す。
【表5】
【0033】
振動波形、すなわち、振動信号の波形は、インパルスでもよいし、周期信号でもよい。表5において、t=0ms、t=1ms、…の欄に書かれている数字は、振動波形を表現する値であり、振動の変位や速度や加速度であってもよい。また振動を駆動する電圧や電流の値であってもよい。例えば、振動子番号10は、t=0msのときに変位1μm、t=1msのときに変位20μmをとる。なお、表5では1msごとに信号を変化させる例で説明したが、振動信号の出力時間や出力のタイミングに関しては、振動提示装置を利用するアプリケーションに依存して定義すればよい。例えば、常時位置情報をユーザに提示する必要があるアプリケーションの場合には、インパルス信号を数秒間隔で提示し続ける。例えば、位置情報が変化したときのみユーザに提示するアプリケーションの場合には、位置情報の変化したタイミングでインパルス信号を提示する。
【0034】
ステップS13において、振動提示部13は、振動信号生成部12が出力した振動信号情報を入力とし、入力された振動信号情報に基づいて、マッピング座標に対応する各振動子を振動させることで、振動提示部13に接触する人間の身体部位に振動を提示する。
【0035】
[変形例]
上述の実施形態では、入力された伝達情報を所定の認識特性に基づいて補正し、補正後の伝達情報に基づいて振動を提示する振動提示装置およびその方法を説明した。しかしながら、入力された振動信号に従って身体部位に振動を提示する振動提示装置と、その振動提示装置に入力する振動信号を生成する振動信号生成装置とを別個の装置として構成することも可能である。この変形例の振動信号生成装置は、伝達情報を入力とし、所定の認識特性に基づいて補正した伝達情報を提示するための振動信号を出力する。そのために、変形例の振動信号生成装置は、実施形態の認識特性記憶部10-1、振動子情報記憶部10-2、伝達情報入力部11、および振動信号生成部12を備える。また、この変形例の振動提示装置は、変形例の振動信号生成装置が出力する振動信号を入力とし、その振動信号に基づく振動を提示する。そのために、変形例の振動提示装置は、実施形態の振動提示部13を備える。
【0036】
上述の実施形態では、振動を提示する身体部位として人間の手1本を用いることを想定した振動提示装置を説明した。しかしながら、この発明において、振動を提示する身体部位は手1本に限定されず、例えば、2本の手を振動提示装置に置いて振動提示してもよい。また、身体部位として手だけでなく足の裏や頬など、振動定位が可能な身体部位であれば、どのような身体部位であっても適用可能である。
【0037】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計の変更等があっても、この発明に含まれることはいうまでもない。実施の形態において説明した各種の処理は、記載の順に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。
【0038】
[プログラム、記録媒体]
上記実施形態で説明した各装置における各種の処理機能をコンピュータによって実現する場合、各装置が有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムを
図11に示すコンピュータの記憶部1020に読み込ませ、演算処理部1010、入力部1030、出力部1040などに動作させることにより、上記各装置における各種の処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0039】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体は、例えば、非一時的な記録媒体であり、磁気記録装置、光ディスク等である。
【0040】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0041】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部1050に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の非一時的な記憶装置である補助記録部1050に格納されたプログラムを一時的な記憶装置である記憶部1020に読み込み、読み込んだプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み込み、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0042】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 振動提示装置
10-1 認識特性記憶部
10-2 振動子情報記憶部
11 伝達情報入力部
12 振動信号生成部
121 伝達情報補正部
122 振動子選択部
123 振動波形生成部
13 振動提示部