(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078186
(43)【公開日】2023-06-06
(54)【発明の名称】切断高分子量キニノーゲンを検出するイムノアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230530BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20230530BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20230530BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20230530BHJP
【FI】
G01N33/53 Z ZNA
C07K16/18
C07K17/00
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023031415
(22)【出願日】2023-03-01
(62)【分割の表示】P 2021104359の分割
【原出願日】2016-10-19
(31)【優先権主張番号】62/335,311
(32)【優先日】2016-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/243,505
(32)【優先日】2015-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】セクストン,ダニエル,ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】フォーセット,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】コシック,ジャニャ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生体試料中の切断高分子量キニノーゲン(HMWK)のレベルを検出する高感度で信頼できるアッセイの提供。
【解決手段】切断HMWKを高い感度および特異性で検出するイムノアッセイに関する。このようなイムノアッセイは、切断HMWKと特異的に結合する薬剤を、96ウェルプレートであってよい支持要素上に固定化するサンドイッチELISA法を含み得る。本明細書に記載されるイムノアッセイにより、インタクトのHMWKおよび切断HMWKの両方、ならびにLMWKを含み得る生体試料、例えば血清試料または血漿試料中の切断HMWKを選択的に検出することが可能である。ならびに切断HMWKと特異的に結合する単離抗体を提供する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願の明細書または図面に記載される発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は米国特許法第119条の下、2015年10月19日に出願された米国仮特許出願第62/243,505号および2016年5月12日に出願された米国仮特許出願第62/335,311号の利益を主張するものであり、上記出願はそれぞれ、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
キニノーゲンは、ブラジキニンおよびカリジンなどのキニンの前駆体である。ヒトのキニノーゲンには、スプライシングバリアントである高分子量キニノーゲン(HMWK)と低分子量キニノーゲン(LMWK)の2種類がある。HMWKは、主として凝固および炎症の補因子として作用し、血漿カリクレイン(pKal)を介するブラジキニン生成の優先基質となる。
【0003】
血漿カリクレイン(pKal)は循環血中の主要なブラジキニン生成酵素である。pKalの活性化は、遺伝性血管性浮腫(HAE)の疾患病理と関係があるとされている接触系を介して起こる。pKalがHMWK(一本鎖ポリペプチド)を分解するとブラジキニンおよびジスルフィド結合によって結合した2本のポリペプチド鎖を含む切断型のHMWKを生じる。Cugnoら,Blood(1997)89:3213-3218。
【0004】
遺伝性血管性浮腫(HAE)の発作時には切断HMWKがキニノーゲン全体の約47%に増大し(Cugnoら,Blood(1997)89:3213-3218)、このため切断HMWKはHAE発作をモニターするバイオマーカーである。このため、生体試料中の切断HMWKのレベルを検出する高感度で信頼できるアッセイの開発に関心がもたれている。
【発明の概要】
【0005】
本開示のいくつかの態様は、切断高分子量キニノーゲン(HMWK)を高い感度および特異性で検出するイムノアッセイを提供する。この方法は、(i)切断HMWKと特異的に結合する第一の薬剤(例えば、559B-M004-B04などの抗体)が結合した支持要素を準備すること;(ii)(i)の支持要素と、切断HMWKを含有することが疑われる生体試料とを接触させること;(iii)(ii)で得られた支持要素と、標識とコンジュゲートされておりHMWKと結合する第二の薬剤とを接触させること;および(iv)支持要素と直接的または間接的に結合した第二の薬剤の標識から放出されるシグナルを検出して、生体試料中の切断HMWKのレベルを決定することを含む。いくつかの場合には、ZnCl2の存在下で段階(ii)を実施し得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、段階(ii)の前に(i)の支持要素をブロッキング緩衝液とインキュベートする。
【0007】
いくつかの実施形態では、第二の薬剤は、HMWKと結合するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体または2種以上のモノクローナル抗体の混合物である。混合物中の2つ以上のモノクローナル抗体は、HMWKの異なるエピトープと結合し得る。いくつかの実施形態では、標識はシグナル放出物質である。いくつかの実施形態では、標識は受容体-リガンド対の要素である。その場合、イムノアッセイは、段階(iv)の前に、支持要素上に固定化した(iii)の第二の薬剤と、受容体-リガンド対の他方の要素とを接触させることをさらに含み、ここで、他方の要素はシグナル放出物質とコンジュゲートされている。1つの例では、受容体-リガンド対はビオチンとストレプトアビジンである。
【0008】
本開示の別の態様は、試料中の切断高分子量キニノーゲン(HMWK)を検出する方法を提供し、この方法は、(i)切断HMWKを含有することが疑われる試料と、本明細書に記載されるいずれかの抗体(例えば、559B-M004-B04)とを接触させること;(ii)段階(i)で形成された切断HMWKと抗体の複合体を測定すること;および(iii)段階(ii)の結果に基づき試料中の切断HMWKのレベルを決定することを含む。いくつかの実施形態では、ZnCl2の存在下で段階(i)を実施する。いくつかの実施形態では、酵素結合免疫測定法(ELISA)または免疫ブロット法を用いて段階(i)を実施する。
【0009】
本明細書に記載されるいずれかの方法では、試料は、対象(例えば、ヒト患者)から採取した生体試料、例えば血漿試料の血清試料などであり得る。いくつかの実施形態では、この方法は、1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を含む真空採血管に試料を採取することをさらに含み得る。
【0010】
本明細書に記載されるいずれかのアッセイ法(例えば、イムノアッセイ)は、ELISAアッセイ、ウエスタンブロットアッセイまたはラテラルフローアッセイであり得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、疾患を有する対象(例えば、ヒト患者)から生体試料を採取する。このアッセイ法は、切断HMWKのレベルに基づき、疾患が血漿カリクレインの介在によるものであるかどうかを決定することをさらに含み得るものであり、試料中の切断HMWKのレベルが対照試料のレベルから逸脱していれば、疾患が血漿カリクレインの介在によるものであることを示している。
【0012】
本明細書に記載されるいずれかのアッセイ法は、切断HMWKのレベルに基づき、血漿カリクレイン介在性の疾患もしくは障害を有する患者を特定すること、または疾患もしくは障害の治療の有効性を評価することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、この方法は、対象が障害を有すると同定された場合、障害を治療するため、対象に有効量の治療剤、例えば血漿カリクレイン(pKal)阻害剤、ブラジキニン2受容体(B2R)阻害剤および/またはC1エステラーゼ阻害剤などを投与することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、pKal阻害剤は抗pKal抗体である。いくつかの実施形態では、治療剤は、ラナデルマブ、エカランチド、イカチバントまたはヒト血漿由来C1エステラーゼ阻害剤である。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象は、障害の治療を受けているヒト患者であり、この方法は、段階(iii)で切断HMWKのレベルに基づき治療の有効性を評価することをさらに含み、対象由来の試料中の切断HMWKのレベルが対照試料のレベルから逸脱していれば、治療が有効であることを示している。いくつかの実施形態では、この方法は、切断HMWKのレベルに基づき対象に適した治療を特定することをさらに含む。いくつかの実施形態では、この方法は、切断HMWKのレベルに基づき、対象が疾患の治療の候補者であると同定することをさらに含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態では、ヒト患者は疾患(例えば、HAE)の病歴を有する。いくつかの実施形態では、この方法は、切断HMWKのレベルに基づき対象の疾患の発作のリスクを評価することをさらに含み、対象由来の試料中の切断HMWKのレベルが対照試料のレベルから逸脱していれば、疾患の発作のリスクがあることを示している。いくつかの実施形態では、この方法は、対象に疾患の発作のリスクがある場合、対象に治療剤を投与することをさらに含む。
【0015】
別の態様では、切断高分子量キニノーゲン(HMWK)を検出するキットが提供され、このキットは、切断HMWKと特異的に結合する第一の薬剤(例えば、本明細書に記載される抗体)を含む。いくつかの実施形態では、キットは、HMWKと結合する第二の薬剤、支持要素またはその両方、および任意選択で、切断HMWKを検出するための指示書をさらに含む。いくつかの例では、支持要素は96ウェルプレートである。
【0016】
本開示の別の態様では、切断高分子量キニノーゲン(HMWK)と特異的に結合する単離抗体が提供される。いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M004-B04と同じエピトープと結合するか、または切断HMWKとの結合に関して559B-M004-B04と競合する。いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M004-B04と同じ重鎖相補性決定領域および軽鎖相補性決定領域、例えば、559B-M004-B04と同じ重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。1つの例では、抗体は559B-M004-B04である。
【0017】
本明細書に記載される切断HMWKに特異的ないかなる抗体も、試料中の切断高分子量キニノーゲン(HMWK)を検出する方法に用いることができる。このような方法は、(i)切断HMWKを含有することが疑われる試料と抗体とを接触させること;(ii)段階(i)で形成された切断HMWKと抗体の複合体を測定すること;および段階(ii)の結果に基づき試料中の切断HMWKのレベルを決定することを含み得る。いくつかの実施形態では、試料は、ヒト対象から採取した血清試料または血漿試料などの生体試料である。この方法で得られる結果は、試料を得る対象にHAEなどの血漿カリクレイン介在性の障害が発症するリスクを決定する際に利用することができる。いくつかの場合には、ZnCl2の存在下で段階(i)を実施することができる。
【0018】
本明細書に記載されるいずれかのイムノアッセイ法は、ウエスタンブロットまたはELISAの形式で実施することができる。
【0019】
さらに別の態様では、インタクトの高分子量キニノーゲン(HMWK)および切断HMWKの両方と結合する単離抗体が提供される。
【0020】
いくつかの実施形態では、インタクトのHMWKおよび切断HMWKの両方と結合する抗体は、低分子量キニノーゲン(LMWK)とは結合しない。いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M0067-E02、559B-M0039-G07、559B-M0044-E09、559B-M0003-C08、559B-M0039-H06、559B-M0039-D08、559B-M0068-C07、559B-M0021-G11、559B-M0061-G06、559B-M0036-G12、559B-M0042-E06、559B-M0070-H10、559B-M0068-D01または559B-M0004-E08と同じエピトープと結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、インタクトのHMWKおよび/または切断HMWKとの結合に関して559B-M0067-E02、559B-M0039-G07、559B-M0044-E09、559B-M0003-C08、559B-M0039-H06、559B-M0039-D08、559B-M0068-C07、559B-M0021-G11、559B-M0061-G06、559B-M0036-G12、559B-M0042-E06、559B-M0070-H10、559B-M0068-D01または559B-M0004-E08と競合する。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M0067-E02、559B-M0039-G07、559B-M0044-E09、559B-M0003-C08、559B-M0039-H06、559B-M0039-D08、559B-M0068-C07、559B-M0021-G11、559B-M0061-G06、559B-M0036-G12、559B-M0042-E06、559B-M0070-H10、559B-M0068-D01または559B-M0004-E08と同じ重鎖CDRおよび軽鎖CDRを含む。いくつかの例では、抗体は、559B-M0067-E02、559B-M0039-G07、559B-M0044-E09、559B-M0003-C08、559B-M0039-H06、559B-M0039-D08、559B-M0068-C07、559B-M0021-G11、559B-M0061-G06、559B-M0036-G12、559B-M0042-E06、559B-M0070-H10、559B-M0068-D01および559B-M0004-E08からなる群より選択される。
【0022】
他の実施形態では、インタクトのHMWKおよび切断HMWKの両方と結合する抗体は、LMWKとも結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M0069-C09、559B-M0038-F04、559B-M0044-C05、559B-M0047-H01、559B-M0019-E12、559B-X0004-B05、559B-M0048-D12、559B-M0053-G01、559B-M0038-H03、559B-M0017-H08、559B-M0035-F05、559B-M0035-H09、559B-M0043-C06、559B-M0003-A08、559B-M0054-B11、559B-M0067-G11、559B-M0064-H02または559B-M0065-B10と同じエピトープと結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、インタクトのHMWK、切断HMWKおよび/またはLMWKとの結合に関して559B-M0069-C09、559B-M0038-F04、559B-M0044-C05、559B-M0047-H01、559B-M0019-E12、559B-X0004-B05、559B-M0048-D12、559B-M0053-G01、559B-M0038-H03、559B-M0017-H08、559B-M0035-F05、559B-M0035-H09、559B-M0043-C06、559B-M0003-A08、559B-M0054-B11、559B-M0067-G11、559B-M0064-H02または559B-M0065-B10と競合する。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体は、559B-M0069-C09、559B-M0038-F04、559B-M0044-C05、559B-M0047-H01、559B-M0019-E12、559B-X0004-B05、559B-M0048-D12、559B-M0053-G01、559B-M0038-H03、559B-M0017-H08、559B-M0035-F05、559B-M0035-H09、559B-M0043-C06、559B-M0003-A08、559B-M0054-B11、559B-M0067-G11、559B-M0064-H02または559B-M0065-B10と同じ重鎖CDRおよび軽鎖CDRを含む。いくつかの例では、抗体は、559B-M0069-C09、559B-M0038-F04、559B-M0044-C05、559B-M0047-H01、559B-M0019-E12、559B-X0004-B05、559B-M0048-D12、559B-M0053-G01、559B-M0038-H03、559B-M0017-H08、559B-M0035-F05、559B-M0035-H09、559B-M0043-C06、559B-M0003-A08、559B-M0054-B11、559B-M0067-G11、559B-M0064-H02および559B-M0065-B10からなる群より選択される。
【0024】
以下の説明では、本開示の1つまたは複数の実施形態の詳細を記載する。以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明、ならびに添付の「特許請求の範囲」からも、本開示の他の特徴または利点が明らかになるであろう。
【0025】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本開示の特定の態様をさらに明らかにするために含められ、これらの図面のうち1つまたは複数を本明細書に記載される特定の実施形態の詳細な説明とともに参照することにより、そのような態様に関する理解を深めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、表記のELISA条件下での559B-M0004-B04とインタクトのHMWK(暗灰色のバー)または切断HMWK(薄灰色のバー)との結合を示すグラフである。
【
図2】
図2は、様々なFabクローンとインタクトの一本鎖(インタクトの)HMWK、二本鎖(切断)HMWKまたはLMWKとの結合を示すグラフである。A:本明細書に記載されるファージディスプレイスクリーニング法を用いて同定されたFabクローン。インタクトのHWMKを暗灰色のバー、切断HMWKを薄灰色のバー、およびLMWKを中間灰色のバーで示す。B:いくつかの例のFabクローンの結合。LWMKを暗灰色のバー、インタクトのHMWKを薄灰色のバー、および切断HWMKを中間灰色のバーで示す。
【
図3】
図3は、インタクトのHMWK、切断HMWKまたはLMWKに対する559B-M0004-B04の特異性を示すグラフである。精製した切断HMWKをSBTアッセイ緩衝液(丸)またはHMWK欠損血漿(四角)に添加した。精製したインタクトのHMWKをSBTアッセイ緩衝液に添加した(三角)。精製LMWKをSBTアッセイ緩衝液に添加した(菱形)。y軸はELISAのシグナルを吸光度単位で表し、x軸はキニノーゲンの濃度をμg/mLで表している。
【
図4】
図4は、血漿またはアッセイ緩衝液中の二本鎖HMWK(切断HMWK)の検出を示すグラフである。精製した切断HMWKをSBTアッセイ緩衝液(白丸)に添加し、10%血漿(四角)またはHMWK欠損血漿の存在下で分析し、および10%血漿(三角)の存在下で分析した。精製した切断HMWKを同様にアッセイ緩衝液に添加し、2.5%血漿(菱形)またはHMWK欠損血漿の存在下で分析し、および2.5%血漿(黒丸)の存在下で分析した。y軸はELISAのシグナルを吸光度単位で表し、x軸はキニノーゲンの濃度をμg/mLで表している。
【
図5】
図5は、接触系活性化の前および後における表記のヒト血漿試料中の切断HMWKのレベルを示すグラフである。A:FXIIaまたはエラグ酸による接触系活性化の前および後。B:FXIIa、pKalまたはエラグ酸による接触系活性化の前および後。
【
図6】
図6は、エラグ酸による接触系活性化の前および後における12人の健常ヒトドナー由来の血漿試料中の切断HMWKのレベルを示すグラフである。
【
図7】
図7は、pKal阻害剤による阻害後の切断HMWKのレベルを示すグラフである。A:エラグ酸による接触系活性化前のラナデルマブ(landadelumab)/DX-2930またはC1-INHによる阻害。B:10nM FXIIaによる接触系活性化前のラナデルマブ/DX-2930によるプールしたクエン酸ナトリウム加血漿試料の阻害。
【
図8】
図8は、FXIIaまたはエラグ酸による接触系活性化後の表記の時点における切断HMWK生成を示すグラフである。
【
図9】
図9は、正常対象およびHAEを有する対象由来の血漿試料中の二本鎖HMWKのレベルを示すグラフである。
【
図10】
図10は、HMWKのウエスタンブロット分析から得られた結果を示す写真であり、本明細書に記載される二本鎖HMWKのELISAアッセイから得られた結果と一致している。ヒトクエン酸加血漿試料(正常血漿、FXII欠損血漿およびプレカリクレイン欠損血漿)をマウスモノクローナル抗HMWK軽鎖抗体、次いでヤギ抗マウス検出抗体でプロービングした。分析した血漿試料は無処置であるか、または100nM pKal、10nM FXIIaもしくは10%エラグ酸で活性化した試料のいずれかである。
【
図11】
図11は、クエン酸加血漿試料またはEDTA加血漿試料のいずれかにZnCl
2を添加することによりELISAアッセイの二本鎖HMWKのシグナルが増大したことを示すグラフである。x軸は、40倍希釈後のアッセイウェル中のZnCl
2の濃度を示している。
【
図12】
図12は、本明細書に記載される抗体を用いたアッセイの発見および開発の模式図である。A:二本鎖HMWK結合抗体の発見に用いたファージディスプレイ法の模式図。B:二本鎖HMWK特異的抗体/Fab(例えば、559B-M0004-B04)を96ウェルプレートに固定化してクエン酸加血漿中の二本鎖HMWKを捕捉した後、洗浄し、標識とコンジュゲートした抗HMWK抗体(抗HMWK-HRP)で検出するサンドイッチELISAアッセイの例。
【
図13】
図13は、クエン酸加血漿試料に二本鎖HMWKを添加した(最終希釈10%)二本鎖HMWKサンドイッチELISA法の標準曲線から得られた結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、ファージディスプレイによる選択およびスクリーニングによる二本鎖HMWK特異的抗体の同定を示す図である。A:各被験抗体(Fab)について、y軸上のLMWK結合アッセイの結果に対する二本鎖HWMK結合アッセイの結果の比と、x軸上の一本鎖HMWK結合アッセイの結果に対する二本鎖HMWK結合アッセイの結果の比を比較してプロットしたもの。384ウェルプレートに組換えFabフラグメントを受動的に固定化した後、ビオチン化二本鎖HMWK、一本鎖HMWKまたはLMWK、次いでストレプトアビジン-HRPを添加した。B:表記の単離Fabフラグメントの一本鎖HMWK、二本鎖HMWKまたはLMWKとの結合を示している。
【
図15】
図15は、559B-M0004-B04との結合に関する二本鎖HMWKおよびキニノーゲンペプチド(HKH20およびGCP28)の競合を示すグラフである。
【
図16】
図16は、ヒト血漿試料中の二本鎖HMWKの検出に関して最適化したサンドイッチELISA法の標準曲線を示すグラフである。
【
図17】
図17は、クエン酸加血漿試料中の二本鎖HMWKのレベルを健常対象由来の試料とHAE患者由来の試料とで比較したウエスタンブロット分析のグラフである。A:試料中の二本鎖HMWKのパーセントを健常対象(「HV」)由来の試料ならびにHAE発作間(「基礎状態」)およびHAE発作時(「発作」)のHAE患者由来の試料で比較した散布図。B:検出の感度および特異性をHAE基礎状態の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC(受診者動作特性)解析(AUC=0.977)。C:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=1)。D:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料とHAE基礎状態の試料とで比較したROC解析(AUC=0.625)。
【
図18】
図18は、SCAT169血漿試料中の二本鎖HMWKのレベルを健常対象由来の試料とHAE患者由来の試料とで比較したウエスタンブロット分析のグラフである。A:試料中の二本鎖HMWKのパーセントを健常対象(「HV」)由来の試料ならびにHAE発作間(「基礎状態」)およびHAE発作時(「発作」)のHAE患者由来の試料で比較した散布図。B:検出の感度および特異性をHAE基礎状態の試料と健常由来の試料とで比較したROC解析(AUC=0.915)。C:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=0.967)。D:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料とHAE基礎状態の試料とで比較したROC解析(AUC=0.597)。
【
図19】
図19は、クエン酸加血漿試料中の二本鎖HMWKのレベルを健常対象由来の試料とHAE患者由来の試料とで比較したELISA分析のグラフである。A:試料中の二本鎖HMWKのパーセントを健常対象(「HV」)由来の試料ならびにHAE発作間(「基礎状態」)およびHAE発作時(「発作」)のHAE患者由来の試料で比較した散布図。B:検出の感度および特異性をHAE基礎状態の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=0.795)。C:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=0.866)。D:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料とHAE基礎状態の試料とで比較したROC解析(AUC=0.709)。
【
図20】
図20は、SCAT169試料中の二本鎖HMWKのレベルを健常対象由来の試料とHAE患者由来の試料とで比較したELISA分析のグラフである。A:試料中の二本鎖HMWKのパーセントを健常対象(「HV」)由来の試料ならびにHAE発作間(「基礎状態」)およびHAE発作時(「発作」)のHAE患者由来の試料で比較した散布図。B:検出の感度および特異性を基礎状態の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=0.999)。C:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料と健常対象由来の試料とで比較したROC解析(AUC=1)。D:検出の感度および特異性をHAE発作時の試料とHAE基礎状態の試料とで比較したROC解析(AUC=0.8176)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本開示の詳細な説明)
血漿カリクレイン(PKal)は、接触系のセリンプロテアーゼ成分であり、循環血中の主要なブラジキニン生成酵素である。接触系は、異物表面または負荷電表面と接触した際に第XIIa因子(活性型の第XII因子または第FXII因子)によって活性化されるか、あるいはプロリルカルボキシペプチダーゼによって内皮細胞表面上で活性化される(Sainz I.M.ら,Thromb Haemost 98,77-83,2007)。血漿カリクレインが活性化すると、第XII因子のフィードバック活性化を介して内因性の凝固が増幅され、キニノーゲン前駆体である高分子量キニノーゲン(HMWK)がタンパク質分解作用によって切断され、炎症誘発性ノナペプチドのブラジキニン、およびジスルフィド結合によって結合した2本のポリペプチド鎖を含む切断HMWK(二本鎖HMWKとしても知られる)が放出される。
【0028】
循環血中の主要なキニノゲナーゼである血漿カリクレインは、主として血管系のブラジキニン生成を担っている。C1阻害タンパク質(C1-INH)に遺伝的欠陥があると、遺伝性血管性浮腫(HAE)が生じる。HAE患者はしばしば、原因不明のトリガーによって誘発され痛みを伴う急性発作に見舞われる(Zuraw B.L.ら,N Engl J Med 359,1027-1036,2008)。動物モデルでの薬理学作用物質の使用または遺伝学的研究から、血漿カリクレイン-キニン系(血漿KKS)は様々な疾患に関与している。
【0029】
HAE発作、ならびに他のpKalに関連する障害では切断HMWKのレベルが上昇することが見出された。このため、切断HMWKは、疾患の発症および/または治療の有効性をモニターするバイオマーカーとしての役割を果たすことができる。しかし、当該技術分野には、インタクトのHMWKと切断型のHMWKとを有効に識別することができる適切な薬剤および/または適切なアッセイが存在しない。
【0030】
本開示は、少なくとも部分的には、切断HMWKを高い特異性および感度で検出することが可能な特異的イムノアッセイの開発に基づく。切断HMWKと特異的に結合する薬剤を支持要素(例えば、多ウェルプレート)上に固定化するサンドイッチELISA法により、抗原(この場合、切断HMWK)を支持要素上に固定化するELISAの状況と比較して検出効率が意外にも増大するのが観察された。さらに、予想外にも、ウシ血清アルブミン(BSA)を含有するブロッキング緩衝液ではなくLowCrossブロッキング緩衝液(カゼインを含有する)を使用することにより、切断HMWKに特異的な抗体を発見する最初のスクリーニング時の検出特異性および検出感度が増大するのが観察された。さらに、96ウェルプレートを使用すると、384ウェルプレートと比較して検出特異性および検出感度がさらに増大した。本開示はまた、少なくとも部分的には、切断HMWKと特異的に結合する抗体の単離にも基づく。
【0031】
したがって、本明細書において、切断HMWK(例えば、分子量が46kDaの切断HMWK)と特異的に結合する薬剤(例えば、抗体)を用いて、HMWK種を含有することが疑われる生体試料中の切断HMWKの存在を検出する、またはそのレベルを測定するイムノアッセイが提供される。切断HMWKのレベルと、pKalに関連する障害またはpKal介在性の障害(例えば、HAE)との間に相関があることを考えると、本明細書に記載されるイムノアッセイは、そのような疾患のリスクがある患者を特定すること、疾患進行をモニターすることおよび/またはそのような障害に対する治療の有効性をモニターすることに適用することができる。
【0032】
I.切断HMWKを特異的に検出するイムノアッセイ
本開示の一態様は、切断HMWKを高い感度および特異性で検出するイムノアッセイに関する。このようなイムノアッセイは、切断HMWKと特異的に結合する薬剤を、96ウェルプレートであってよい支持要素上に固定化するサンドイッチELISA法を含み得る。本明細書に記載されるイムノアッセイにより、インタクトのHMWKおよび切断HMWKの両方、ならびにLMWKを含み得る生体試料、例えば血清試料または血漿試料中の切断HMWKを選択的に検出することが可能である。
【0033】
(i)高分子量キニノーゲン
高分子量キニノーゲン(HMWK)は、血漿中に分子量が約110kDaの単一ポリペプチド(一本鎖)マルチドメイン(ドメイン1~6)タンパク質として存在し、本明細書ではインタクトのHWMKと呼ばれる。HMWKをコードするヒト遺伝子はキニノーゲン1(KNG1)である。KNG1は、転写され選択的スプライシングを受けて、HMWKまたは低分子量キニノーゲン(LMWK)のいずれかをコードするmRNAを形成する。HMWKの例示的タンパク質配列を下に記載する:
>gi|156231037|ref|NP_001095886.1|キニノーゲン-1アイソフォーム1前駆体[ヒト(Homo sapiens)]
MKLITILFLCSRLLLSLTQESQSEEIDCNDKDLFKAVDAALKKYNSQNQSNNQFVLYRITEATKTVGSDTFYSFKYEIKEGDCPVQSGKTWQDCEYKDAAKAATGECTATVGKRSSTKFSVATQTCQITPAEGPVVTAQYDCLGCVHPISTQSPDLEPILRHGIQYFNNNTQHSSLFMLNEVKRAQRQVVAGLNFRITYSIVQTNCSKENFLFLTPDCKSLWNGDTGECTDNAYIDIQLRIASFSQNCDIYPGKDFVQPPTKICVGCPRDIPTNSPELEE
TLTHTITKLNAENNATFYFKIDNVKKARVQVVAGKKYFIDFVARETTCSKESNEELTESCETKKLGQSLDCNAEVYVVPWEKKIYPTVNCQPLGMISLMKRPPGFSPFRSSRIGEIKEETTVSPPHTSMAPAQDEERDSGKEQGHTRRHDWGHEKQRKHNLGHGHKHERDQGHGHQRGHGLGHGHEQQHGLGHGHKFKLDDDLEHQGGHVLDHGHKHKHGHGHGKHKNKGKKNGKHNGWKTEHLASSSEDSTTPSAQTQEKTEGPTPIPSLAKPGVTVTFSDFQDSDLIATMMPPISPAPIQSDDDWIPDIQIDPNGLSFNPISDFPDTTSPKCPGRPWKSVSEINPTTQMKESYYFDLTDGLS(配列番号1)
【0034】
本明細書で「インタクトのキニノーゲン」とも呼ばれるインタクトのHMWKは、例えば、凝固法または免疫学的方法、例えばラジオイムノアッセイを用いてアッセイすることができる(例えば、Kerbiriou-Nabias,D.M.,Br J Haematol,1984,56(2):2734-86を参照されたい)。ヒトHMWKの軽鎖に対するモノクローナル抗体が知られている。例えば、Reddigari,S.R.およびKaplan,A.P.,Blood,1999,74:695-702を参照されたい。発色基質に依存するHMWKのアッセイも同様に用いることができる。例えば、Scott,C.F.ら,Thromb Res,1987,48(6):685-700;Gallimore,M.J.ら,Thromb Res,2004,114(2):91-96を参照されたい。
【0035】
HMWKは、ドメイン4内でpKalにより切断されて、9アミノ酸の炎症誘発性ペプチドであるブラジキニン、および本明細書で切断HMWKと呼ばれる二本鎖型HMWKを放出する。HMWKの2本の鎖は、ドメイン1~3を含む重鎖とドメイン5および6を含む軽鎖であり、この2本はジスルフィド結合により結合している。インタクトのHMWKが最初に切断されたとき、重鎖および軽鎖の分子量はそれぞれ約65kDaおよび約56kDaである。さらなるタンパク質分解プロセシングを受けて46kDaの軽鎖が生じる。
【0036】
切断されたキニノーゲンの重鎖および軽鎖の例示的配列を下に記載する。
【0037】
>切断されたキニノーゲン-1の重鎖
QESQSEEIDCNDKDLFKAVDAALKKYNSQNQSNNQFVLYRITEATKTVGSDTFYSFKYEIKEGDCPVQSGKTWQDCEYKDAAKAATGECTATVGKRSSTKFSVATQTCQITPAEGPVVTA
QYDCLGCVHPISTQSPDLEPILRHGIQYFNNNTQHSSLFMLNEVKRAQRQVVAGLNFRITYSIVQTNCSKENFLFLTPDCKSLWNGDTGECTDNAYIDIQLRIASFSQNCDIYPGKDFVQ
PPTKICVGCPRDIPTNSPELEETLTHTITKLNAENNATFYFKIDNVKKARVQVVAGKKYFIDFVARETTCSKESNEELTESCETKKLGQSLDCNAEVYVVPWEKKIYPTVNCQPLGMISL
MK(配列番号2)
>切断されたキニノーゲン-1の軽鎖
SSRIGEIKEETTVSPPHTSMAPAQDEERDSGKEQGHTRRHDWGHEKQRKHNLGHGHKHERDQGHGHQRGHGLGHGHEQQHGLGHGHKFKLDDDLEHQGGHVLDHGHKHKHGHGHGKHKNK
GKKNGKHNGWKTEHLASSSEDSTTPSAQTQEKTEGPTPIPSLAKPGVTVTFSDFQDSDLIATMMPPISPAPIQSDDDWIPDIQIDPNGLSFNPISDFPDTTSPKCPGRPWKSVSEINPTT
QMKESYYFDLTDGLS(配列番号3)
【0038】
(ii)切断HMWKに特異的な抗体
本明細書に記載されるイムノアッセイでは、切断HMWKと特異的に結合することができる任意の薬剤、例えば、インタクトのHMWK上には存在しない切断HMWK上のネオエピトープを認識する薬剤を使用し得る。いくつかの実施形態では、切断HMWK結合剤は抗体である。
【0039】
抗体(互換的に複数形で使用される)とは、免疫グロブリンの可変領域に存在する少なくとも1つの抗原認識部位を介して炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的と特異的に結合することが可能な免疫グロブリン分子のことである。本明細書で使用される「抗体」という用語は、インタクト(すなわり、完全長)のポリクローナルまたはモノクローナル抗体のみならず、その抗原結合フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)、その変異体、抗体部分を含む融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ならびに抗体のグリコシル化バリアント、抗体のアミノ酸配列バリアントおよび共有結合により改変された抗体を含む、必要な特異性を有する抗原認識部位を含み、立体配置が改変された他の任意の免疫グロブリン分子も包含する。抗体は、任意のクラス、例えばIgD、IgE、IgG、IgAまたはIgMなど(またはそのサブクラス)の抗体を含み、抗体は、いずれかの特定のクラスの抗体である必要はない。免疫グロブリンは、その重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列に応じて様々なクラスに分けることができる。免疫グロブリンの主要なクラスには、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5種類があり、このうちのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分けることができる。免疫グロブリンの様々なクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミューと呼ばれる。免疫グロブリンの様々なクラスのサブユニット構造および三次元立体配置についてはよく知られている。
【0040】
本明細書に記載されるいかなる抗体も、モノクローナルまたはポリクローナルのいずれかであり得る。「モノクローナル抗体」は均一な抗体集団を指し、「ポリクローナル抗体」は不均一な抗体集団を指す。この2つの用語は、抗体の供給源も抗体の作製方法も限定するものではない。
【0041】
切断HMWKまたはそのエピトープと「特異的に結合する」抗体は、当該技術分野で十分に理解されている用語であり、そのような特異的結合を決定する方法も当該技術分野で周知である。ある分子が代替の標的(例えば、インタクトのHMWKおよび/またはLMWK)を結合するよりも高い頻度、速やかに、長い持続時間および/または高い親和性で特定の標的抗原(ここでは切断HMWK)と反応または会合する場合、その分子は「特異的結合」を示すと言う。ある抗体が他の物質と結合するよりも高い親和性、高いアビディティ、速やかにおよび/または長い持続時間で標的抗原と結合する場合、その抗体は標的抗原に「特異的に結合する」。例えば、切断HMWKまたはそのエピトープと特異的(または優先的)に結合する抗体は、他の抗原(例えば、インタクトのHMWKまたはLMWK)または同じ抗原の他のエピトープと結合するよりも高い親和性、高いアビディティ、より容易におよび/または長い持続時間でこの標的抗原と結合する抗体である。この定義を読むことによって、例えば、第一の標的抗原と特異的に結合する抗体は、第二の標的抗原と特異的または優先的に結合してもよく、またはしなくてもよいこともまた理解される。したがって、「特異的結合」または「優先的結合」は、排他的結合を必ずしも必要としない(ただし、そのような結合を含み得る)。一般的には、結合と言う場合、それは優先的結合を意味するが、必ずしもそれを意味するわけではない。
【0042】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される切断HMWKと特異的に結合する抗体(同様に切断HMWKとインタクトのHMWKの両方および任意選択でLMWKと結合する他の抗体)は、切断HMWK(または本明細書に記載される別の標的抗原)に対して適切な結合親和性を有する。本明細書で使用される「結合親和性」は見かけの結合定数またはKAを指す。KAは解離定数(KD)の逆数である。本明細書に記載される抗体は、少なくとも10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10Mまたはそれ以下の結合親和性(KD)を有し得る。結合親和性の増大はKDの減少に対応する。ある抗体が第二の標的よりも高い親和性で第一の標的と結合することは、第一の標的との結合に対するKAが第二の標的との結合に対するKA(またはKDの数値)よりも大きい(またはKDの数値が小さい)ことによって示され得る。このような場合、その抗体は、第二の標的(例えば、第二のコンホメーションの同じタンパク質もしくはその模倣体;または第二のタンパク質)と比較して第一の標的(例えば、第一のコンホメーションのタンパク質またはその模倣体)に対して特異性を有する。(例えば、特異性またはその他を比較する際の)結合親和性の差は、少なくとも1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、15倍、20倍、37.5倍、50倍、70倍、80倍、91倍、100倍、500倍、1000倍、10,000倍または105倍であり得る。例えば、本明細書に記載される切断HMWKと特異的に結合する抗体の結合親和性は、インタクトのHMWKおよび/またはLMWKに対するその抗体の結合親和性の10倍、100倍、10,000倍または105倍であり得る。
【0043】
結合親和性は、平衡透析法、平衡結合、ゲルろ過、ELISA、表面プラズモン共鳴または分光測定法(例えば、蛍光アッセイを用いるもの)を含む様々な方法によって決定することができる。結合親和性を評価する例示的条件は、HBS-P緩衝液(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、0.005%(v/v)界面活性剤P20)中である。これらの技術を用いて、結合した結合タンパク質の濃度を標的タンパク質濃度の関数として測定することができる。結合した結合タンパク質の濃度([結合])は以下の方程式:
[結合]=[N][遊離]/(Kd+[遊離])
により遊離の標的タンパク質濃度([遊離])および標的上にある結合タンパク質の結合部位の濃度に関連し、式中、(N)は1標的分子当たりの結合部位の数である。
【0044】
必ずしもKAを正確に決定する必要はなく、その理由は、例えばELISAまたはFACS解析などの方法を用いて決定され、KAに比例し、このため比較に使用することができる親和性の定量的測定を得ること、例えばより高い親和性が、例えば2倍高い親和性であるかどうかを決定すること、親和性の定性的測定を得ること、または例えば機能的アッセイ、例えばin vitroアッセイもしくはin vivoアッセイでの活性によって親和性の推論を得ることで十分であるためである。
【0045】
いくつかの実施形態では、切断HMWKと特異的に結合する抗体(抗切断HMWK抗体とも呼ばれる)は、切断HMWKの559B-M004-B04と同じエピトープと結合する。「エピトープ」は、結合タンパク質(例えば、Fabまたは完全長抗体などの抗体)が結合する標的抗原上の部位を指す。この部位は、もっぱらアミノ酸要素からなるものであっても、もっぱらタンパク質のアミノ酸が化学修飾されたもの(例えば、グリコシル部分)からなるものであっても、その組合せからなるものであってもよい。重複するエピトープは、少なくとも1つの共通のアミノ酸残基、グリコシル基、リン酸基、硫酸基またはその他の分子構造を含む。エピトープは、直線状である場合もあれば、他の例では、エピトープはコンフォメーションエピトープである。
【0046】
第一の抗体が、第二の抗体が結合するのと同じ標的抗原上の部位と結合するか、または第二の抗原が結合する部位と例えば、アミノ酸配列または他の分子構造(例えば、グリコシル基、リン酸基または硫酸基)が重複する(例えば、50%、60%、70%、80%、90%または100%重複する)部位と結合する場合、その第一の抗体は第二の抗体と「同じエピトープと結合する」。
【0047】
いくつかの実施形態では、切断HMWKと特異的に結合する抗体は、HMWKとの結合に関して559B-M004-B04と競合する。第一の抗体がそのエピトープと結合することにより、そのエピトープと結合する第二の抗体の量が(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%またはそれ以上)減少する場合、第一の抗体は第二の抗体と「結合に関して競合する」。競合は、直接的(例えば、第一の抗体が、第二の抗体が結合するエピトープと同じであるか、または重複するエピトープと結合する)または間接的(例えば、第一の抗体がそのエピトープと結合することによって標的抗原に立体的変化が起こり、第二の抗体がそのエピトープと結合する能力が低下する)であり得る。
【0048】
いくつかの例では、切断HMWKと特異的に結合する抗体は、559B-M004-B04の対応するVHCDRと少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVHCDR1、VHCDR2および/またはVHCDR3を含む、VH鎖を含む。あるいはまたはこれに加えて、切断HMWKと特異的に結合する抗体は、559B-M004-B04の対応するVLCDRと少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVLCDR1、VLCDR2および/またはVLCDR3を含む。いくつかの実施形態では、切断HMWKと特異的に結合する抗体は、559B-M004-B04と同じ重鎖および/または軽鎖の相補性決定領域(CDR)を有する。
【0049】
「相補性決定領域」または「CDR」は、当該技術分野では、抗原特異性および結合親和性を付与する抗体可変領域内の非連続的なアミノ酸配列として知られている。一般に、各重鎖可変領域に3つのCDRおよび各軽鎖可変領域に3つのCDRがある。所定のCDRの正確なアミノ酸配列の境界は、よく知られた多数のスキームのいずれかを用いて容易に決定することが可能であり、このようなスキームとしては、Kabatら(1991)により記載されているもの(Public Health Service,第5版,国立衛生研究所,ベセスダ,メリーランド州)(Kabat番号付けスキーム)、Al-Lazikaniら(1997)(JMB 273,927-948)により記載されているもの(Chothia番号付けスキーム)、MacCallumら(J.Mol.Biol.262:732-745(1996))により記載されているもの(Contact番号付けスキーム)、Lefranc MPら(Dev Comp Immunol,2003 January;27(1):55-77)により記載されているもの(IMGT番号付けスキーム)およびHonegger AおよびPluckthun A(J Mol Biol,2001 Jun.8;309(3):657-70)により記載されているもの(AHo番号付けスキーム)が挙げられる。
【0050】
所定のCDRの境界は、同定に用いるスキームによって異なり得る。例えば、Kabatスキームは構造アライメントに基づくものであるが、Chothiaスキームは構造情報に基づくものである。Contactスキームは複雑な結晶構造の解析に基づくものであり、多くの点でChothia番号付けスキームと類似している。したがって、特に明記されない限り、所定の抗体の「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、上記のいずれかの既知のスキームによって決定される相補性決定領域を包含するものとして理解すべきである。
【0051】
ある抗体が、同じ番号付けスキームによって決定した場合に559B-M004-B04(ならびに本明細書に開示される他の例示的抗体)と同じVHCDRおよび/またはVLCDRを有する場合、そのような抗体は559B-M004-B04(または本明細書に開示される他の例示的抗体)と同じCDRを有するものと考えられ、本開示の範囲内に含まれる。例えば、そのような抗体は、Chothia番号付けスキームによって決定した場合にクローン559B-M004-B04と同じVHCDRおよび/またはVLCDRを有し得る。別の例では、本開示の範囲内に含まれる抗切断HMWK抗体は、Kabat番号付けスキームによって決定した場合にクローン559B-M004-B04と同じVHCDRおよび/またはVLCDRを有し得る。
【0052】
あるいはまたはこれに加えて、抗切断HMWK抗体は、559B-M004-B04のVH鎖と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVH鎖および/または559B-M004-B04のVL鎖と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVL鎖を含む。いくつかの実施形態では、抗体は559B-M004-B04である。
【0053】
2つのアミノ酸配列の「パーセント同一性」は、KarlinおよびAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990)をKarlinおよびAltschulのProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993のように修正したものを用いて決定する。このようなアルゴリズムはAltschulら(J.Mol.Biol.215:403-10,1990)のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。XBLASTプログラムにより、スコア=50、ワード長=3でBLASTタンパク質検索を実施して、目的とするタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列間にギャップが存在する場合、Altschulら,Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されているようにGapped BLASTを用いることができる。BLASTプログラムおよびGapped BLASTプログラムを用いる場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。
【0054】
559B-M004-B04の重鎖可変領域および軽鎖可変領域の配列を以下に示す。重鎖のCDR1、CDR2およびCDR3の配列ならびに軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3の配列には下線が施され、太字となっている(1例として1つのスキームによって同定したもの)。
【0055】
【0056】
いくつかの場合には、切断HMWKと特異的に結合する抗体は、559B-M0004-B04における1つもしくは複数の重鎖CDRまたは1つもしくは複数の軽鎖CDRの例えば、残基が切断HMWKとの相互作用に関与しないと思われる位置に1つまたは複数(例えば、最大5つ、最大3つまたは最大1つ)の保存的変異を含み得る。本明細書で使用される「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸置換を行うタンパク質の相対電荷またはサイズ特徴を変化させることのないアミノ酸置換を指す。当業者に公知であるポリペプチド配列を変化させる方法、例えば、そのような方法をまとめた参考文献、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrookら編,第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989)またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら編(John Wiley & Sons,Inc.,New York)に記載されている方法などに従ってバリアントを調製することができる。アミノ酸の保存的置換は、以下のグループ内:(a)M、I、L、V;(b)F、Y、W;(c)K、R、H;(d)A、G;(e)S、T;(f)Q、N;および(g)E、Dのアミノ酸の間で行われる置換を含む。
【0057】
本明細書に記載される切断HMWKと結合することが可能な抗体(ならびにインタクトのHMWKおよび/またはLMWKと結合することが可能な抗体)は、当該技術分野で公知の任意の方法により作製することができる。例えば、HarlowおよびLane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory,New York)を参照されたい。
【0058】
いくつかの実施形態では、標的抗原(切断HMWK、インタクトのHMWKおよび/またはLMWK)に特異的な抗体を従来のハイブリドーマ技術によって作製することができる。任意選択でKLHなどの担体タンパク質と結合させた完全長の標的抗原またはそのフラグメントを用いて宿主動物を免疫し、その抗原と結合する抗体を産生させることができる。宿主動物を免疫する経路およびスケジュールは一般に、本明細書にさらに記載するように、抗体を刺激し産生させる確立された従来の技術と一致する。マウス抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を産生させる一般的な技術は当該技術分野で公知であり、本明細書に記載される。ヒトを含む任意の哺乳動物対象またはそれに由来する抗体産生細胞を操作して、ヒトを含む哺乳動物のハイブリドーマ細胞系を作製する土台とすることが可能であると企図される。通常、本明細書に記載のものを含む免疫原のある量を、宿主動物の腹腔内、筋肉内、口腔内、皮下、足底内および/または皮内に接種する。
【0059】
ハイブリドーマは、Kohler,B.およびMilstein,C.(1975)(Nature 256:495-497)の一般的な体細胞ハイブリダイゼーション技術またはこれをBuck,D.W.ら(In Vitro,18:377-381(1982))が修正したものを用いてリンパ球および不死化ミエローマ細胞から調製することができる。ハイブリダイゼーションには、特に限定されないがX63-Ag8.653およびソーク研究所の細胞配布センター(サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)のものを含む入手可能なミエローマ細胞株を用いることができる。この技術では一般に、ポリエチレングリコールなどの融合剤を用いて、あるいは当業者に周知の電気的手段によって、ミエローマ細胞とリンパ球系細胞とを融合させる。融合後、融合培地から細胞を分離し、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地などの選択的増殖培地で増殖させて、ハイブリダイズしていない親細胞を除去する。モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの培養には、血清の添加の有無を問わず本明細書に記載されるいかなる培地も用いることができる。細胞融合技術に代わる別の技術として、EBVで不死化したB細胞を用いて本明細書に記載される抗PKalモノクローナル抗体を産生してもよい。ハイブリドーマを必要に応じて拡大およびサブクローン化し、従来のイムノアッセイ法(例えば、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫測定法または蛍光イムノアッセイ)によって上清の抗免疫原活性をアッセイする。
【0060】
抗体の供給源として使用し得るハイブリドーマは、PKal活性を妨害することが可能なモノクローナル抗体を産生する親ハイブリドーマのあらゆる派生物、子孫細胞を包含する。このような抗体を産生するハイブリドーマを既知の方法を用いてin vitroまたはin vivoで増殖させ得る。必要に応じて、硫酸アンモニウム沈殿法、ゲル電気泳動、透析法、クロマトグラフィーおよび限外ろ過などの従来の免疫グロブリン精製法により、培地または体液からモノクローナル抗体を単離し得る。望ましくない活性がみられる場合、例えば、固相に結合させた免疫原で作製した吸着剤上に調製物を流し、免疫原から所望の抗体を溶離または解離させることによって、これを除去することができる。宿主動物を標的抗原で免疫するか、または二官能性薬剤もしくは誘導化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介したコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基を介したコンジュゲーション)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOClまたはRおよびR1が異なるアルキル基であるR1N=C=NRを用いて、免疫する種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリンまたはダイズトリプシン阻害剤とコンジュゲートした標的アミノ酸配列を含むフラグメントで免疫することにより、抗体(例えば、モノクローナル抗体)の集団を得ることができる。
【0061】
必要に応じて、(例えば、ハイブリドーマが産生した)目的とする抗体(モノクローナルまたはポリクローナル)の配列を決定し、次いで、そのポリヌクレオチド配列を発現または伝播のためにベクターにおいてクローン化することができる。目的とする抗体をコードする配列を宿主細胞内のベクターの中で維持し、次いで、その宿主細胞を拡大し、のちに使用するために凍結してもよい。あるいは、ポリヌクレオチド配列を遺伝子操作に用いて、抗体の親和性(親和性成熟)または他の特性を改善してもよい。抗体配列を遺伝子操作して、標的抗原に対してより大きい親和性および/または特異性を得ることが望ましい場合もある。抗体に1つまたは複数のポリヌクレオチド変化を行ってもよく、それでもなお、その標的抗原に対する結合特異性を維持することが可能であることは、当業者に明らかであろう。
【0062】
他の実施形態では、特定のヒト免疫グロブリンタンパク質を発現するよう操作されている市販のマウスを用いることによって完全なヒト抗体を得ることができる。同様に、より望ましい免疫応答(例えば、完全ヒト抗体)またはより強固な免疫応答が生じるよう設計されたトランスジェニック動物も、ヒト化抗体またはヒト抗体の作製に用いることができる。このような技術の例は、Amgen社(フリーモント、カリフォルニア州)のXenomouse(登録商標)、ならびにMedarex社(プリンストン、ニュージャージー州)のHuMAb-Mouse(登録商標)およびTC Mouse(商標)である。別の代替法において、ファージディスプレイ技術または酵母技術によって組換えにより抗体を作製してもよい。例えば、米国特許第5,565,332号;同第5,580,717号;同第5,733,743号;および同第6,265,150号;ならびにWinterら,(1994)Annu.Rev.Immunol.12:433-455を参照されたい。あるいは、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら,(1990)Nature 348:552-553)を用いて、非免疫ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからin vitroでヒト抗体および抗体フラグメントを作製することができる。
【0063】
ルーチンの方法によりインタクト抗体(完全長抗体)の抗原結合フラグメントを調製することができる。例えば、抗体分子のペプシン消化によって、F(ab’)2フラグメントを作製することができ、F(ab’)2フラグメントのジスルフィド架橋の還元によってFabフラグメントを作製することができる。
【0064】
組換え技術により重鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列と軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を連結することによって、一本鎖抗体を調製することができる。2つの可変領域の間にフレキシブルリンカーを組み込むのが好ましい。あるいは、一本鎖抗体の作製に関して記載されている技術(米国特許第4,946,778号および同第4,704,692号)を適用してファージまたは酵母のscFvライブラリーを作製し、ルーチンの方法に従いライブラリーからPKalに特異的なscFvクローンを特定することができる。陽性クローンにさらにスクリーニングを実施して、切断HMWKなどの標的抗原と特異的に結合するクローンを同定することができる。
【0065】
いくつかの実施形態では、切断HMWK(またはインタクトのHMWKまたはLMWK)に特異的な抗体を抗体ライブラリーから単離してもよく、このような抗体ライブラリーは合成のライブラリーであっても天然のライブラリーであってもよい。天然の抗体ライブラリーは、ルーチンの作業に従って天然の供給源(例えば、ヒトドナー)から得られたライブラリーを指す。合成の抗体ライブラリーは、既定の規則(例えば、CDRなどの完全な無作為化CDR領域または重鎖、軽鎖もしくはその両方のCDR1もしくはCDR2などの準無作為化CDR領域を有すること)に従って数を設計したライブラリーを指す。
【0066】
いくつかの場合には、抗体ライブラリーはディスプレイライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリーまたは酵母ディスプレイライブラリー)である。ディスプレイライブラリーとは実体の収集物のことであり、各実体は、利用可能なポリペプチド要素、およびポリペプチド要素をコードまたは同定する回収可能な要素を含む。ポリペプチド要素は多様であるため、様々なアミノ酸配列で表される。ポリペプチド要素は、例えば3アミノ酸から300アミノ酸超までの任意の長さのものであり得る。ディスプレイライブラリーの実体は、1つ超のポリペプチド要素、例えばsFabの2本のポリペプチド鎖を含み得る。ある例示的実施形態では、ディスプレイライブラリーを用いて切断HMWK(および本明細書に記載される他の標的抗原)と結合するタンパク質を同定することができる。選択にあたっては、ライブラリーの各メンバーのポリペプチド要素を切断HMWK(またはそのフラグメント)でプロービングし、ポリペプチド要素が切断HMWKと結合すれば、そのディスプレイライブラリーのメンバーは通常、支持体上に保持されることにより同定される。ファージディスプレイ抗体ライブラリーを用いて切断HMWKに特異的な抗体を特定する実例を
図12に示す。
【0067】
保持されたディスプレイライブラリーのメンバーを支持体から回収し分析する。分析は、同じ条件または異なる条件下での増幅とそれに続く選択を含み得る。例えば、ポジティブ選択とネガティブ選択を交互に実施し得る。分析はまた、詳細な特徴付けのために、ポリペプチド要素のアミノ酸配列を決定し、ポリペプチド要素を精製することを含み得る。
【0068】
当該技術分野で公知の方法および本明細書に記載される方法によって得られた抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて特徴付けることができる。例えば、1つの方法として、抗原が結合するエピトープを特定すること、すなわち「エピトープマッピング」がある。タンパク質上のエピトープの位置をマッピングし特徴付ける方法は、例えば、HarlowおよびLane,Using Antibodies,a Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1999)の第11章に記載されているような抗体抗原複合体の結晶構造の解析、競合アッセイ、遺伝子フラグメント発現アッセイおよび合成ペプチドに基づくアッセイを含む、当該技術分野で公知の方法が多数存在する。別の例では、エピトープマッピングを用いて、抗体が結合する配列を決定することができる。エピトープは、直線状エピトープ、すなわち単一の一続きのアミノ酸の形で含まれているエピトープ、または必ずしも単一の一続きのアミノ酸(一次構造の直線状配列)の形で含まれていなくてもよいアミノ酸の三次元相互作用によって形成されるコンフォメーションエピトープであり得る。様々な長さ(例えば、長さが少なくとも4~6アミノ酸)のペプチドを単離または(例えば、組換えにより)合成し、抗体との結合アッセイに使用することができる。また別の例では、体系的スクリーニングで標的抗原配列に由来する重複ペプチドを用いて抗体の結合を決定することにより、抗体が結合するエピトープを決定することができる。遺伝子フラグメント発現アッセイでは、標的抗原をコードするオープンリーディングフレームをランダムにまたは特定の遺伝子構築物のいずれかによって断片化し、発現した抗原のフラグメントと被験抗体との反応性を決定する。遺伝子フラグメントを、例えば、PCRにより生成した後、放射性アミノ酸の存在下、in vitroで転写させてタンパク質に翻訳させてもよい。次いで、免疫沈降およびゲル電気泳動により抗体と放射標識抗原フラグメントとの結合を決定する。
【0069】
ファージ粒子の表面に提示されるランダムペプチド配列の大規模ライブラリー(ファージライブラリー)を用いることにより、特定のエピトープを同定することもできる。あるいは、規定の重複ペプチドフラグメントのライブラリーを、単純な結合アッセイで被験抗体との結合に関して試験することができる。別の例では、抗原結合ドメインの変異誘発、ドメインスワッピング実験およびアラニンスキャニング変異誘発を実施して、エピトープ結合に必要な残基、十分な残基および/または必須の残基を同定することができる。例えば、ドメインスワッピング実験は、HMWKポリペプチドの様々なフラグメントが近縁ではあるが抗原性の異なるタンパク質由来の配列に置き換えられている(スワップされている)標識抗原の変異体を用いて実施することができる。抗体と変異体HMWKとの結合を評価することにより、抗体結合に対する特定の抗原フラグメントの重要性を評価することができる。
【0070】
あるいは、同じ抗原と結合することがわかっている他の抗体を用いて競合アッセイを実施し、ある抗体が他の抗体と同じエピトープと結合するかどうかを決定することができる。競合アッセイは当業者には周知である。
【0071】
いずれの抗切断HMWK抗体も本開示の範囲内に含まれる。
【0072】
(iii)イムノアッセイ
本明細書において、切断HMWKを検出するイムノアッセイを提供する。本明細書で使用される「イムノアッセイ」という用語は、免疫ベースのアッセイまたはイムノベースのアッセイと互換的に言及され得る。イムノアッセイは一般に、ある分子(例えば、HMWK)と結合する抗体などの薬剤を用いて、試料中のその分子の存在および/または濃度(レベル)を検出するものである。イムノアッセイの例としては、ウエスタンブロット法、酵素結合免疫測定法(ELISAs)、ラテラルフローアッセイ、ラジオイムノアッセイ、電気化学発光ベースの検出アッセイ、磁気イムノアッセイおよび関連技術が挙げられる。いくつかの実施形態では、イムノアッセイはELISAアッセイである。いくつかの実施形態では、イムノアッセイはサンドイッチELISAアッセイである。いくつかの実施形態では、イムノアッセイはラテラルフローアッセイである。
【0073】
ELISAは当該技術分野で公知であり(例えば、Crowther,John R(2009).「The ELISA Guidebook」.第2版.Humana PressおよびLequin R(2005).「Enzyme immunoassay(EIA)/enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)」.Clin.Chem.51(12):2415-8を参照されたい)、本明細書に例示的ELISAを記載する。ELISAを実施するキットも当該技術分野で公知であり、市販されている(例えば、Life Technologies社およびBD Biosciences社のELISAキットを参照されたい)。
【0074】
本明細書に記載されるイムノアッセイを実施するにあたって、試料は対象から得たものであり得る。本明細書で使用される「試料」は、対象由来の組織、例えば血液、血漿またはタンパク質を含む組成物を指す。試料には、対象から採取した最初の未処理試料ならびにのちに処理した形態のもの、例えば一部精製された形態または保存形態のものがともに含まれる。例示的試料としては、血液、血漿、涙液または粘液が挙げられる。いくつかの実施形態では、試料は血清試料または血漿試料などの体液試料である。本明細書に記載されるイムノアッセイにより分析する試料は、対象から採取した最初の未処理試料またはのちに処理した形態のもの、例えば一部精製された形態または保存形態のものであり得る。いくつかの実施形態では、例えば、疾患もしくは障害の進行を評価するため、または治療の有効性を評価するために、対象から経時的にまたは特定の時間間隔で複数(例えば、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上)の試料を採取してもよい。複数の試料は、治療の前および後に採取しても、または治療の過程で採取してもよい。
【0075】
試料は、当該技術分野で公知の任意の手段を用いて対象から採取することができる。いくつかの実施形態では、真空採取管(例えば、真空採血管)に試料(例えば、血液試料)を採取することにより対象から試料を得る。いくつかの実施形態では、例えば試料採取時に接触系のex vivo活性化を低下または防止するために、真空採取管は1つまたは複数のプロテアーゼ阻害剤を含む。このようなプロテアーゼ阻害剤は液体製剤の形で含まれ得る。いくつかの実施形態では、プロテアーゼ阻害剤は、少なくとも1つのセリンプロテアーゼ阻害剤と少なくとも1つのシステインプロテアーゼ阻害剤とを含む。このような採取管は当該技術分野で公知である。例えば、国際出願PCT/US2016/046681号を参照されたい。任意選択で、真空採血管は1つまたは複数の抗凝固剤をさらに含み得る。
【0076】
本発明の方法によって治療する「患者」、「対象」または「宿主」(これらの用語は互換的に使用される)は、ヒトまたは非ヒト動物のいずれかを意味し得る。いくつかの実施形態では、対象は、カリクレイン介在性の障害、例えばブラジキニン介在性の障害、例えば遺伝性血管性浮腫(HAE)、非ヒスタミン依存性特発性血管性浮腫、関節リウマチ、クローン病、狼瘡、アルツハイマー病、敗血症性ショック、熱傷、脳虚血/再灌流傷害、脳浮腫、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、黄斑浮腫、血管炎、動脈または静脈血栓症、心室補助装置またはステントに関連する血栓症、血栓症を伴うヘパリン誘導性血小板減少症、血栓塞栓性疾患、および不安定狭心症を伴う冠動脈心疾患、浮腫、眼疾患、痛風、腸疾患、口腔粘膜炎、神経因性疼痛、炎症性疼痛、脊柱管狭窄症-変性脊椎疾患、術後イレウス、大動脈瘤、変形性関節症、遺伝性血管性浮腫、肺塞栓症、脳卒中、頭部外傷または腫瘍周囲脳浮腫、敗血症、急性中大脳動脈(MCA)虚血性事象(脳卒中)、再狭窄(例えば、血管形成術後)、全身性エリテマトーデス腎炎、自己免疫疾患、炎症疾患、心血管疾患、神経疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する疾患、血管新生に関連する疾患、高血圧性腎症および糖尿病性腎症、アレルギー性および呼吸器疾患(例えば、アナフィラキシー、喘息、慢性閉塞性肺疾患、急性呼吸窮迫症候群、嚢胞性線維症、持続性鼻炎)ならびに組織損傷(例えば、熱傷または化学的損傷)などが疑われるか、またはそのリスクがあるか、またはそれに罹患している。
【0077】
あるいはまたはこれに加えて、本明細書に記載される分析を必要とする対象は、疾患または障害の患者であり得る。このような対象は、現時点で疾患(例えば、HAE)の発作がみられる対象または過去に疾患に罹患していた(例えば、現時点で疾患の休止期にある)対象であり得る。いくつかの例では、対象は、疾患の治療中、例えばC1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)、血漿カリクレイン阻害剤またはブラジキニン阻害剤を用いる治療中であり得るヒト患者である。別の場合には、このようなヒト患者は、上記のような治療を受けていない患者であり得る。
【0078】
本明細書に記載される試料を、切断HMWKと特異的に結合する薬剤を用いる分析に供し、試料中の切断HMWKのレベルを決定することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるイムノアッセイは、切断HMWKと特異的に結合する第一の薬剤(例えば、本明細書に記載される抗体)を支持要素上に固定化するサンドイッチELISA法の形式であり得る。次いで、切断HMWK/第一の薬剤(例えば、抗体)の複合体の形成を可能にする条件下、支持要素を適切な時間にわたって本明細書に記載される試料とインキュベートすることができる。次いで、HMWKと結合する第二の薬剤を用いて、そのような複合体を検出することができる。第二の薬剤は、シグナルを直接的または間接的に放出し得る標識とコンジュゲートすることができる。そのシグナルの強度によって試料中の切断HMWKのレベルが表される。
【0079】
この方法には、限定されないが、膜、ビーズ、スライドまたは多ウェルプレートを含む当該技術分野で公知の任意の支持要素を使用することができる。イムノアッセイに適した支持要素の選択は様々な要因、例えば試料の数および第二の薬剤とコンジュゲートした標識から放出されるシグナルの検出方法などに依存する。
【0080】
いくつかの実施形態では、支持要素は、ニトロセルロース膜、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜または酢酸セルロース膜などの膜である。いくつかの例では、イムノアッセイは、ウエスタンブロットアッセイ形式またはラテラルフローアッセイ形式のものであり得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、支持要素はELISAプレートなどのマルチウェルプレートである。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるイムノアッセイをハイスループットプラットフォームで実施することができる。いくつかの実施形態では、ハイスループットイムノアッセイにマルチウェルプレート、例えば24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェルまたはそれ以上のウェルのプレートを使用し得る。各ウェルで個々のイムノアッセイを同時に実施することができる。このため、一般に、複数のウェルを同時に測定するプレートリーダーを用いてアッセイのスループットを増大させるのが望ましい。いくつかの実施形態では、複数のウェル(例えば、4ウェル、16ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェルまたはそれ以上のウェル)を同時に撮像することが可能なプレートリーダーをこのプラットフォームに使用することができる。例えば、市販のプレートリーダー(例えば、Perkin Elmer社(ウォルサム、マサチューセッツ州)から入手可能なplate::visionシステム)を使用してもよい。このプレートリーダーは動態ベースの蛍光分析が可能なものである。plate::visionシステムは、収集効率の高い光学を有し、96ウェルを同時に分析するよう設計された特殊な光学を有する。適切な並行プレートリーダーとしてはほかにも、特に限定されないが、SAFIRE(Tecan社、サンノゼ、カリフォルニア州)、FLIPRTETRA(登録商標)(Molecular Devices社、ユニオンシティ、カリフォルニア州)、FDSS7000(Hamamatsu社、ブリッジウォーター、ニュージャージー州)およびCellLux(Perkin Elmer社、ウォルサム、マサチューセッツ州)が挙げられる。
【0082】
実施例1に記載するように、マルチウェルプレートのウェルの表面積および/または容積がイムノアッセイの結果に影響を及ぼし得ることが意外にも発見された。いくつかの実施形態では、記載されているイムノアッセイを96ウェルELISAプレートなどの96ウェルプレートで実施する。
【0083】
他の実施形態では、本開示のハイスループットスクリーニングイムノアッセイを自動化する(例えば、ロボットによるアッセイに適合させる)ことができる。
【0084】
いくつかの実施形態では、単一イムノアッセイ形式を含むロースループットプラットフォームでイムノアッセイを実施することができる。例えば、診断方法、疾患および/もしくは治療の進行のモニタリングならびに/または特定の治療から疾患または障害に利益がもたらされ得るかどうかの予測のために、ロースループットプラットフォームを用いて生体試料(例えば、生体組織、組織抽出物)中の切断HMWKの有無および量を測定することができる。
【0085】
切断HMWKと特異的に結合する薬剤、例えば本明細書に記載される抗体を同じく本明細書に記載される支持要素上に固定化するのに、当該技術分野で公知の任意の方法を用いることができる。いくつかの実施形態では、固定化は、薬剤(例えば、抗体)と支持要素との結合を伴う。他の実施形態では、固定化は、抗体を支持要素に吸着させることを伴う。このような吸着方法は、例えば、緩衝液に入れた抗体をマルチウェルプレートのウェルでインキュベートすることにより実施することができる。いくつかの実施形態では、抗体などの薬剤をコーティング緩衝液に入れ、マルチウェルプレートのウェルでインキュベートする。コーティング緩衝液は当業者に明らかなものであり、調製してもよく、または商業的供給源から入手してもよい。コーティング緩衝液の非限定的な例としては、50mM炭酸水素ナトリウム、pH9.6;0.2M炭酸水素ナトリウム、pH9.4;リン酸緩衝溶液(50mMリン酸、pH8.0、0.15M NaCl);炭酸-炭酸水素溶液;およびTBS(50mMトリス、pH8.0、0.15M NaCl)が挙げられる。
【0086】
いくつかの実施形態では、第一の薬剤と支持要素との間の疎水性相互作用により第一の薬剤を支持要素上に固定化する。いくつかの実施形態では、電気泳動転写を用いて第一の薬剤を支持要素上に固定化する。
【0087】
固定化の前もしくは後または前後に、支持要素をブロッキング緩衝液とインキュベートしてもよい。ブロッキング緩衝液は一般に、支持膜のいずれかの露出表面(例えば、支持膜上で第一の薬剤が占める部位)をブロックするために使用するものである。ブロッキング緩衝液の使用により、検出されるベースラインシグナル(すなわち、「バックグラインド干渉」)を減少させ、および/またはイムノアッセイの感度を向上させ、および/または試料の成分と支持膜との非特異的結合を減少させることができる。実施例1に記載するように、ブロッキング緩衝液の選択がイムノアッセイの結果に影響を及ぼした。いくつかの実施形態では、ブロッキング緩衝液は、ウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンなどの血清アルブミンを含有する。いくつかの実施形態では、ブロッキング緩衝液はBSA緩衝液(例えば、PBS緩衝液中2%のBSA)である。いくつかの実施形態では、ブロッキング緩衝液は、ウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンなどの血清アルブミンを含まない。いくつかの実施形態では、ブロッキング緩衝液は、カゼインフラグメント、ならびに任意選択でNaClおよびTweenを含み、pHが7.0~7.4であり得る。いくつかの実施形態では、カゼインフラグメントは高純度のカゼインフラグメントである。このようなブロッキング緩衝液は、調製してもよく、または商業的供給源(例えば、CANDOR Bioscience社のBlocking Solution LowCross)から入手してもよい。
【0088】
切断HMWKに特異的な薬剤を結合させた支持要素を、切断HMWKを含有することが疑われる本明細書に記載の試料と接触させる(インキュベートする)ことができる。「接触」という用語は一般に、抗体などの薬剤と試料中の切断HMWK(存在する場合)との間で複合体を形成するのに十分な適切な時間にわたって、支持要素を生体試料または薬剤に曝露することを指す。そののち、支持要素から試料を除去し、次いで支持要素を数回洗浄して未結合の切断HMWKを除去することができる。いくつかの実施形態では、生体試料または薬剤が支持膜の表面全体に移動する毛管作用により接触を実施する。
【0089】
次いで、第二の薬剤と支持要素に結合したHMWKとを結合させるのに適した時間にわたって、支持要素をHMWKと結合する第二の薬剤とインキュベートすることができる。
【0090】
第二の薬剤は、HMWKと結合することが可能な任意の薬剤、例えばHMWKと結合することが可能な(切断型のHMWKに特異的であるか、切断HMWKとインタクトのHMWKの両方と交差反応し得る)抗体などであり得る。いくつかの実施形態では、第二の薬剤は、HWMK(切断HWMKおよび/またはインタクトのHWMK)と結合する1つまたは複数の抗体を含む。いくつかの実施形態では、抗体はマウスモノクローナル抗体またはモノクローナルヒツジ抗体である。これを直接的または間接的に(例えば、1つまたは複数の追加の化合物との相互作用を介して)シグナルを放出することが可能な化合物である標識とコンジュゲートする。
【0091】
いくつかの実施形態では、標識は、シグナルを直接放出する薬剤(例えば、色素またはフルオロフォア)または基質と相互作用したときにシグナルを放出する薬剤(例えば、無色の基質を着色生成物に変換することができるHRPまたはβ-ガラクトシダーゼなどの酵素)のいずれかである、シグナル放出物質である。本明細書で使用される「フルオロフォア」(「蛍光標識」または「蛍光色素」とも呼ばれる)という用語は、特定の励起波長の光エネルギーを吸収し、これと異なる波長の光エネルギーを放出する部分を指す。
【0092】
他の実施形態では、標識は受容体-リガンド対の要素であり得る。本明細書で使用される「リガンド-受容体対」は、互いに対して特異的親和性を有する1対の分子(例えば、生体分子)、例えばビオチン-ストレプトアビジンを指す。この場合、第一の薬剤-切断HMWK-第二の薬剤を保持している支持要素をさらに、受容体-リガンド対の2つの要素が相互作用するように適した時間にわたって、リガンド-受容体対の他方の要素とインキュベートしてもよい。受容体-リガンド対の他方の要素は、本明細書に記載されるシグナル放出物質とコンジュゲートする。1つの例では、第二の薬剤をビオチンとコンジュゲートし、検出にHRPコンジュゲートストレプトアビジンを用いる。
【0093】
未結合のコンジュゲートをすべて洗い流した後、検出を助けるために基質溶液を加えてもよい。例えば、一定時間を置いた後、(例えば、1N NaOHの添加により)反応を停止させ、生成した着色生成物の濃度を分光光度計で測定することができる。色の強度は結合した抗原の濃度に比例する。
【0094】
次に、本明細書に記載される標識から放出されたシグナルを具体的なイムノアッセイの形式およびそれに使用するシグナル放出物質に応じたルーチンの方法論によって検出/測定することができる。本明細書で使用される「測定すること」または「測定」あるいは「検出すること」または「検出」という用語は、試料中の物質の有無、数量または量(有効量であり得る)を、そのような物質の定性的濃度または定量的濃度のレベルを誘導することを含め評価すること、またはそうでなければ対象の値もしくは分類を評価することを意味する。
【0095】
アッセイ、例えばウエスタンブロットアッセイではさらに、定量的撮像システム、例えば市販のLICOR撮像技術(例えば、LI-COR Biosciences社のOdyssey(登録商標)CLx赤外線撮像システムを参照されたい)の使用を伴い得る。いくつかの実施形態では、電気化学発光検出アッセイまたは電気化学発光とパターン化アレイ技術の組み合わせに依存するアッセイを用いる(例えば、Meso Scale Discovery(MSD)社のECL技術またはMULTI-ARRAY技術)。
【0096】
本明細書に記載されるいずれかのイムノアッセイ、例えば、イムノアッセイの1つまたは複数の段階を、当業者に明らかである適切なアッセイ緩衝液中で実施してもよい。いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液は、ZnCl2を含有するか、またはZnCl2が添加されている。いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液は、少なくとも約10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、150μM、200μM、250μM、300μM、350μM、400μM、450μM、500μMまたはそれ以上のZnCl2を含有する。いくつかの実施形態では、切断HMWKに特異的な薬剤(例えば、切断HMWKに特異的な抗体)が切断HMWKと結合する段階にこのようなZnCl2含有アッセイ緩衝液を用いる。ZnCl2により薬剤(例えば、抗体)と切断HMWKとの結合活性が増大する。
【0097】
いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液は、ウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミンなどの血清アルブミンを含有する。いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液は、BSAを少なくとも約0.01%.0.02%、0.03%、0.04%.0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%、0.12%、0.014%、0.16%、0.18%、0.2%、0.25%、0.3%、0.4%またはそれ以上含有する。いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液はTween-20などの界面活性剤を含有する。いくつかの実施形態では、アッセイ緩衝液は、界面活性剤を0.01%.0.02%、0.03%、0.04%.0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、0.1%またはそれ以上含有する。1つの例では、アッセイ緩衝液は、PBS中に0.1%のBSAと0.05%のTween-20とを含有する。
【0098】
(iv)診断および予後予測への適用
切断HMWKのレベルと血漿カリクレインに関連する疾患または障害との間に相関があることを考えると、本明細書に記載されるアッセイ法およびキットをそのような疾患または障害、例えば本明細書に記載される疾患または障害(例えば、HAE)などを評価するのに(例えば、バイオマーカーとして)適用することができる。あるいはまたはこれに加えて、そのような疾患の進行をモニタリングするため、疾患の治療の有効性を評価するため、特定の治療に適した患者を特定するため、および/または対象の疾患の状態(例えば、発作対休止期)を予測するために、本明細書に記載されるアッセイ法およびキットを用いることができる。
【0099】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるイムノアッセイによって決定した切断HMWKのレベルを利用して、生体試料を得た対象(例えば、ヒト患者)が血漿カリクレインに関連する疾患または障害、例えばHAEまたは自己免疫疾患(RA、UCおよびクローン病など)などを有する、またはそのリスクがあるかどうかを評価することができる。次いで、切断キニノーゲンのレベルを試料中のインタクトのキニノーゲンまたは総キニノーゲン量のいずれかと比較して、試料中の切断キニノーゲン値(例えば、パーセント)、インタクトのキニノーゲンの値またはその両方を決定することができる。切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンの値を基準値と比較して、対象がPKal介在性の障害、例えばHAEまたはRA、UCおよびクローン病などの自己免疫疾患を有する、またはそのリスクがあるかどうかを決定することができる。例えば、切断キニノーゲンのパーセントが基準値以上であれば、その対象はHAE、RA、UCおよびクローン病などのpKal介在性の障害を有するか、またはそのリスクがあると同定することができる。あるいは、インタクトのキニノーゲンのパーセントが基準値以下であれば、その対象はHAE、RA、UCおよびクローン病などのpKal介在性の障害を有するか、またはそのリスクがあると見なすことができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法の分析に供する試料は、遺伝性血管性浮腫(HAE)を有するか、またはそのリスクのあるヒト対象に由来するものである。HAEは「クインケ浮腫」、C1エステラーゼ阻害剤欠損症、C1阻害剤欠損症および遺伝性血管神経性浮腫(HANE)としても知られる。HAEは、例えば、四肢、顔面、生殖器、消化管および気道に起こり得る再発性の重度腫脹(血管性浮腫)エピソードを特徴とする。HAEの症状としては、例えば、腕、脚、口唇、眼球、舌および/もしくは咽頭の腫脹;咽頭腫脹および突発性の嗄声を伴い得る気道閉塞;原因不明の繰り返し腹部仙痛エピソード;ならびに/または重度になり得て、腹部仙痛、嘔吐、脱水症、下痢、疼痛および/またはショックを引き起こし得る腸の腫脹が挙げられる。このHAEを有する患者の約3分の1は、発作時に輪状紅斑と呼ばれる掻痒感を伴わない発疹を発症する。
【0101】
気道の腫脹は生命を脅かし得るものであり、一部の患者では死に至る。死亡率は15~33%と推定される。HAEが原因で毎年約15,000~30,000人が救急搬送される。
【0102】
外傷またはストレス、例えば、歯科処置、病気(例えば、感冒およびインフルエンザなどのウイルス性疾患)、月経および外科手術が血管性浮腫の発作を誘発し得る。HAEの急性発作を予防するため、患者は以前発作を引き起こした特定の刺激を避けるよう試みることができる。しかし、多くの場合、発作は既知のトリガーがなくても起こる。HAE症状は通常、小児期に最初にみられ、思春期に悪化する。治療を受けていない患者では平均1~2週間毎に発作が起こり、ほとんどのエピソードは約3~4日間持続する(ghr.nlm.nih.gov/condition/hereditary-angioedema)。発作の頻度および持続期間は、遺伝性血管性浮腫の患者の間で、さらには同じ家族の間でさえ大きなばらつきがみられる。
【0103】
HAEにはI型、II型およびIII型として知られる3つの病型がある。推定では、50,000人に1人がHAEに罹患し、I型が症例の約85パーセント、II型が症例の約15パーセントを占め、III型は極めてまれである。III型は最も新しく記載された型であり、当初は女性にのみ起こると考えられていたが、男性が罹患している家族も確認されている。
【0104】
HAEは常染色体優性で遺伝するため、罹患した人は、罹患した一方の親から変異を遺伝し得る。新たに遺伝子の変異が起こり得ることから、HAEは家族に既往歴がない人にも起こり得る。症例の20~25%が新たな自然発生突然変異に起因すると推定されている。
【0105】
SERPING1遺伝子に変異があるとI型およびII型の遺伝性血管性浮腫が起こる。SERPING1遺伝子は、炎症の制御に重要なC1阻害タンパク質の生成を指令する。C1阻害剤は、炎症を促進する特定のタンパク質の活性を阻止する。I型遺伝性血管性浮腫を引き起こす変異があると、血中C1阻害剤のレベルが低下する。これに対し、II型を引き起こす変異があると、機能が異常なC1阻害剤が産生される。機能的C1阻害剤のレベルが適切なものでなければ過剰量のブラジキニンが生成される。ブラジキニンは、血管壁から体組織を通しての体液の漏出を増大させることによって炎症を促進する。体液が体組織内に過剰に蓄積すると、I型およびII型の遺伝性血管性浮腫の患者にみられる腫脹エピソードを引き起こす。
【0106】
F12遺伝子の変異は、III型遺伝性血管性浮腫の一部の症例に関連している。F12遺伝子は第XII凝固因子の生成を指令する。第XII因子は、血液凝固(凝固)に極めて重要な役割を果たしていることに加え、重要な炎症の刺激因子でもあり、ブラジキニンの産生に関係している。F12遺伝子に何らかの変異が起こると活性の高い第XII因子が産生される。その結果、ブラジキニンの生成が増大して血管壁の漏出性が高くなり、これにより腫脹エピソードが起こる。III型遺伝性血管性浮腫の他の症例の原因はなおも不明である。このような症例では、未同定の1つまたは複数の遺伝子の変異が障害の原因であると思われる。
【0107】
HAEは、アレルギーまたは他の医学的状態を原因とする他の形態の血管性浮腫と類似性を示し得るが、原因および治療が大きく異なる。HAEがアレルギーと誤診された場合、最も一般的には抗ヒスタミン剤、ステロイド剤および/またはエピネフリンによって治療するが、エピネフリンは生命を脅かす反応に使用することができるものの、通常これらの薬物はHAEに対して無効である。腹部腫脹がみられる患者では、誤診によって不必要な診査手術も実施されており、一部のHAE患者では、腹痛が誤って心因性のものと診断されたこともある。
【0108】
Kaplan,A.P.,J Allergy Clin Immunol,2010,126(5):918-925には、C1阻害剤療法ならびに他のHAEの治療法が記載されている。
【0109】
HAE発作では、浮腫の進行を可能な限り迅速に停止させるため急性治療を実施する。ドナー血液由来のC1阻害剤濃縮物を静脈内に注射するのが急性治療の1つであるが、この治療法を用いることができる国は多くはない。C1阻害剤濃縮物が入手できない緊急時には、代替法として、同じくC1阻害剤を含有する新鮮凍結血漿(FFP)を用いることができる。
【0110】
ヨーロッパでは1979年以来、ヒト血液由来の精製C1阻害剤が用いられている。米国では現在、数種類のC1阻害剤治療剤が入手可能であり、カナダでは現在、2種類のC1阻害剤製品が入手可能である。急性発作には、殺菌済みのBerinert P(CSL Behring社)が2009年にF.D.Aによる承認を受けている。予防には、ナノろ過したCINRYZE(登録商標)が2008年にF.D.Aによる承認を受けている。Rhucin/Ruconest(Pharming社)は、開発段階にある組換えC1阻害剤であり、ヒト血液媒介病原体による感染症の伝染リスクがない。
【0111】
急性HAE発作の治療としては、疼痛緩和剤および/またはIV液の投与も挙げられる。
【0112】
その他の治療モダリティでは、C1阻害剤の合成を刺激する、またはC1阻害剤の消費を減少させることができる。ダナゾールなどのアンドロゲン剤の投与は、C1阻害剤の産生を刺激することにより発作の頻度および重症度を減少させることができる。
【0113】
ピロリ菌(Helicobacter pylori)が腹部発作を誘発することがある。抗生物質でピロリ菌(H.pylori)を処置することにより腹部発作が減少する。
【0114】
新規治療は、接触カスケードを攻撃する。エカランチド(KALBITOR(登録商標))は血漿カリクレインを阻害し、米国で承認されている。イカチバント(FIRAZYR(登録商標)、Shire社)はブラジキニンB2受容体を阻害し、ヨーロッパおよび米国で承認されている。
【0115】
HAEの診断には、例えば家族歴および/または血液検査を利用することができる。I型、II型およびIII型のHAEに関連する検査所見が例えば、Kaplan,A.P.,J Allergy Clin Immunol,2010,126(5):918-925に記載されている。I型HAEは、C1阻害剤のレベルは、C4のレベルと同様に減少するが、C1qレベルは正常である。II型HAEでは、C1阻害剤のレベルは正常であるか、または増加しているがが、C1阻害剤の機能は異常である。C4レベルは減少し、C1qレベルは正常である。III型では、C1阻害剤、C4およびC1qのレベルは全て正常である。本開示は、少なくとも部分的には、HAE患者由来の試料中のレベルが健常者のレベルと比較して異なるさらなるタンパク質が同定されたことに基づくものである(表1)。2-HMWKのレベルまたは有無の測定を用いて、対象がHAEなどの疾患を有するかどうかを明らかにすることができる。いくつかの実施形態では、この方法を用いて、患者がHAE発作を起こしたことがある、またはHAE発作を起こしているかどうかを決定してもよい。
【0116】
HAEの症状は例えば、質問票、例えば患者、臨床医または家族が記入する質問票を用いて評価することができる。このような質問票は当該技術分野で公知であり、例えば視覚的アナログスケールを含む。例えば、McMillan,C.V.ら,Patient.2012;5(2):113-26を参照されたい。
【0117】
対象由来の試料中に検出された切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンの値を基準値と比較して、対象がPKal介在性の障害(例えば、HAE)を有する、またはそのリスクがあるかどうかを決定することができる。あるいはまたはこれに加えて、対象由来の試料中に検出された切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを基準値と比較して、障害の治療の有効性、障害の予後もしくは重症度を評価し、および/または患者を治療の候補者として同定することができる。
【0118】
基準値は対照レベルの切断キニノーゲンのパーセントであり得る。いくつかの実施形態では、対照レベルは、対照試料、例えば健常対象または健常対象の集団から採取した試料(例えば、血液試料または血漿試料)中の切断キニノーゲンのパーセントであり、健常対象は候補対象と同じ種に属するものであるのが好ましい。本明細書で使用される健常対象とは、切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを測定する時点で標的疾患(例えば、HAEまたは自己免疫疾患、例えばRA、USおよびクローン病などのPKal介在性の障害)を明白に有しないか、またはその疾患の病歴を有しない対象のことである。
【0119】
対照レベルはまた、既定のレベルまたは閾値であり得る。このような既定のレベルは、標的疾患を有しないか、または標的疾患のリスクがない対象の集団の切断キニノーゲンのパーセントを表し得る。既定のレベルはまた、標的疾患を有する対象の集団の切断キニノーゲンのパーセントも表し得る。
【0120】
既定のレベルは様々な形態をとり得る。例えば、既定のレベルは、中央値または平均値などの単一のカットオフ値であり得る。いくつかの実施形態では、このような既定のレベルを、比較群、例えば一方の特定のグループは標的疾患を有することがわかっており、他方の特定のグループは標的疾患がないことがわかっている比較群に基づき確立することができる。あるいは、既定のレベルはある範囲、例えば既定の百分位数内の対象集団の切断キニノーゲンのパーセントを表す範囲であり得る。
【0121】
本明細書に記載される対照レベルは、ルーチンの技術によって決定することができる。いくつかの例では、本明細書にも記載される対照試料で従来の方法(例えば、本明細書に記載される被験試料中の切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを得るための同じアッセイ)を実施することにより対照レベルを決定することができる。別の例では、対照群のメンバーの切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを得て、その結果を例えば計算プログラムにより解析して、対照集団の切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを表す対照レベル(既定のレベル)を得ることができる。
【0122】
候補対象から得た試料中の切断キニノーゲンのパーセントを本明細書に記載される基準値と比較することにより、候補対象がPKal介在性の疾患(例えば、HAEまたはRA、UCおよびクローン病などの自己免疫疾患)を有する、またはそのリスクがあるかどうかを決定することができる。例えば、候補対象の試料中の切断キニノーゲンのパーセントが基準値から逸脱している(例えば、基準値と比較して増加している、または基準値と比較して減少している)場合、その候補対象は疾患を有するか、そのリスクがあると同定され得る。基準値が、標的疾患を有する対象の集団の切断キニノーゲンのパーセントの範囲を表す場合、ある候補の試料中の切断キニノーゲンのパーセントがその範囲内に収まっていれば、候補対象が標的疾患を有するか、またはそのリスクがあることを示している。いくつかの場合において、基準値は、切断キニノーゲンが存在しないことを示すバックグラウンドレベルを表し得る。切断キニノーゲンが存在すると、そのようなバックグラウンド基準値から逸脱すると考えられる。本明細書で使用される対照試料または基準値「からの逸脱」は、切断HMWKのレベルならびに試料中の切断HMWKの有無を包含する。
【0123】
本明細書で使用される「高いレベル、または基準値を上回るレベル」は、切断キニノーゲンのレベル/パーセントが基準値、例えば対照試料中の切断キニノーゲンのレベル/パーセントの既定の閾値よりも高いことを意味する。対照レベルについては本明細書に詳細に記載されている。
【0124】
切断キニノーゲンの高いパーセントは、例えば基準値を1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれ以上上回る切断キニノーゲンのパーセントを含む。切断キニノーゲンの高いパーセントはまた、ある事象をゼロの状態(例えば、試料中に捕捉試薬と結合する切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンが存在しないか、または検出されない状態)からゼロでない状態(例えば、切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンがある程度存在するか、または検出可能である状態)に増大させることを含む。
【0125】
本明細書で使用される「低いパーセント/レベル、または基準値を下回るパーセント/レベル」は、切断キニノーゲンのパーセント/レベルが基準値、例えば対照試料中の切断キニノーゲンの既定の閾値よりも低いことを意味する。対照レベルについては本明細書に詳細に記載されている。
【0126】
切断キニノーゲンの低いレベルは、例えば、基準値より1%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、150%、200%、300%、400%、500%またはそれ以上低い切断キニノーゲンを含む。捕捉試薬と結合する切断キニノーゲンの低いレベルはまた、ある事象をゼロでない状態(例えば、試料中に切断キニノーゲンがある程度存在するか、または検出可能である状態)からゼロの状態(例えば、試料中に切断キニノーゲンが存在しないか、または検出されない状態)に減少させることを含む。
【0127】
いくつかの実施形態では、候補対象は、pKal介在性の障害、例えば、HAEまたはRA、UCおよびクローン病などの自己免疫疾患などの症状を有するヒト患者である。例えば、対象は浮腫、全部または大部分が末梢性である腫脹;蕁麻疹;感染の証拠がみられない発赤、疼痛および腫脹;非ヒスタミン介在性浮腫、腫脹の再発性発作またはその組合せを有する。他の実施形態では、対象には、試料採取時にpKal介在性の障害の症状がみられないか、pKal介在性の障害の症状の病歴歴がないか、またはHAEなどのpKal介在性の障害の病歴がない。また別の実施形態では、対象は抗ヒスタミン療法、副腎皮質ステロイド療法またはその両方に抵抗性である。
【0128】
本明細書に記載される方法で同定された対象に適切な治療を実施し得る。
【0129】
切断HMWKのレベルと血漿カリクレインに関連する疾患、例えば本明細書に記載される疾患との間に相関があることを考えると、本明細書に記載されるアッセイ法およびキットをそのような疾患の治療の有効性を評価するのに適用することができる。例えば、治療を実施する対象から治療の前後にまたは治療の過程で複数の生体試料(例えば、血液試料または血漿試料)を採取することができる。本明細書に記載されるいずれかのアッセイ法により切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを測定し、それに従って切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンの値(例えば、パーセント)を決定することができる。治療後にまたは治療の過程で(後で採取した試料中の切断キニノーゲンのパーセントを、前に採取した試料中のものと比較して)切断キニノーゲンのパーセントが減少すれば、または治療後にもしくは治療の過程でインタクトのキニノーゲンのパーセントが増加すれば、治療が有効であることを示している。いくつかの例では、治療は、カリクレイン阻害剤、ブラジキニンB2受容体アンタゴニストまたはC1-INH補充剤などの治療剤を伴う。治療剤の例としては、特に限定されないが、ラナデルマブ(DX-2930)、エカランチド(DX-88)、イカチバント(icantibant)およびヒト血漿由来C1-INHが挙げられる。
【0130】
対象が治療に反応しないと同定された場合、同定された対象に、高用量および/または頻回用量の治療剤を投与する。いくつかの実施形態では、治療に反応するとして、またはこれ以上の治療を必要としないとして同定された対象では、治療剤の投与量または投与頻度を維持するか、減らすか、または中止する。あるいは、最初の治療に反応しないことが見出された対象には、それとは異なる治療を適用することができる。
【0131】
他の実施形態では、切断キニノーゲンの値を単独で、またはインタクトのキニノーゲンの値とともに利用して、pKal阻害剤により治療可能であり得る障害を同定することができる。この方法を実施するには、適切なアッセイ、例えば、本明細書に記載されるウエスタンブロットまたはELISAアッセイなどのアッセイにより、標的疾患を有する対象から採取した試料(例えば、血液試料または血漿試料)中の切断キニノーゲンのレベルおよび/またはインタクトのキニノーゲンのレベルを測定することができる。切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンのパーセントなどの値は、本明細書に記載される通りに決定することができる。切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンの値を本明細書に記載される基準値と比較することができる。切断キニノーゲンおよび/またはインタクトのキニノーゲンの値が基準値から逸脱している(例えば、高いまたは低い)場合、その疾患の治療にpKal阻害剤が有効であり得ることを示す。例えば、治療後にまたは治療の過程で切断キニノーゲンのパーセントが減少している場合、その治療は有効であると特定することができる。あるいは、治療後にまたは治療の過程でインタクトのキニノーゲンのパーセントが増大している場合、その治療は効果的であると特定される。
【0132】
疾患がpKal阻害剤に対して感受性である(同薬剤により治療可能である)と同定された場合、方法は、疾患を有する対象に有効量のpKal阻害剤、例えばエカランチド(DX-88)、EPIKAL-2またはラナデルマブ(DX-2930)を投与することをさらに含み得る。
【0133】
血漿カリクレインに関連する疾患もしくは障害の重症度または病状を評価する方法もまた、本開示の範囲内である。例えば、本明細書に記載されるように、HAEは、対象に疾患の症状が認められない休止状態(基礎状態)であってもよい。HAEの発作は通常、再発性のエピソードであり、対象は、例えば手、足、顔面、消化管、生殖器および喉頭(咽頭)に2~5日間持続し得る疼痛および腫脹を示し得る。いくつかの実施形態では、2-HMWKのレベルは、対象にHAEの発作が発現するかどうか、発現中であるか、または間もなく発現するかの指標となる。いくつかの実施形態では、方法は、HAEを有する対象から得た試料中の2-HMWKのレベルを、同じ対象由来の試料、例えば、基礎状態にある同じ対象から得た試料またはHAEの発作時に同じ対象から得た試料中の2-HMWKのレベルと比較することを伴う。
【0134】
(v)非臨床応用
さらに、本明細書に記載される切断2-HMWKのレベルを検出するアッセイを研究目的で用いてもよい。血漿カリクレインに関連する、または血漿カリクレインが介在する疾患および障害が多数同定されているが、これに類似した機序を介するか、これに類似した構成要素を伴う疾患がほかにもある可能性が考えられる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法を用いて、ある疾患が、血漿カリクレインに関連している、血漿カリクレインが介在する、または接触活性化系の構成要素を有する疾患であるとして同定することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の方法を用いて、疾患の機序(例えば、疾患発症に関係する新たな生物学的経路または生物学的過程の発見)または進行を調べることができる。
【0135】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるアッセイを用いて測定した切断2-HMWKのレベルを、接触活性化系に関連する疾患に対する新たな治療剤の開発に利用することができる。例えば、新規治療剤(例えば、臨床試験)を投与されている対象から得た試料中の切断2-HMWKのレベルを測定し得る。いくつかの実施形態では、新規治療の前、治療期間中または治療の後の切断2-HMWKのレベルは、対象における新規治療剤の有効性または疾患の進行を示し得る。
【0136】
II.血漿カリクレインに関連する疾患の治療
本明細書に記載される方法およびアッセイを用いて特定された血漿カリクレインに関連する疾患のリスクがある対象または同疾患に罹患している対象を任意の適切な治療剤で治療し得る。いくつかの実施形態では、提供される方法は、記載されている方法、例えば切断2-HMWKのレベルの測定の結果に基づき、対象の治療を選択することを含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、方法は、アッセイ、例えば2-HMWK検出の結果に基づき、対象に投与する治療剤、例えばカリクレイン阻害剤、ブラジキニンB2受容体阻害剤および/またはC1エステラーゼ阻害剤を選択することまたは投与することのうちの一方または両方を含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、対象に治療剤を1回または複数回投与する。いくつかの実施形態では、対象に血漿カリクレイン阻害剤を投与する。いくつかの実施形態では、カリクレイン阻害剤は、ペプチド、小分子阻害剤、カリクレイン抗体またはそのフラグメントである。いくつかの実施形態では、対象にブラジキニンB2受容体のアンタゴニストを投与する。いくつかの実施形態では、対象にC1-INHを投与する。
【0139】
接触活性化系を伴う疾患または病態を治療する併用療法の一環として、治療剤、例えばカリクレイン阻害剤、ブラジキニンB2受容体阻害剤および/またはC1-INHを別の治療法とともに投与することができる。併用療法、例えば、カリクレイン阻害剤、ブラジキニンB2受容体アンタゴニストまたはC1-INH補充剤のうちの1つまたは複数との併用、例えば、カリクレイン阻害剤、ブラジキニンB2受容体アンタゴニストまたはC1-INH補充剤のうちの1つまたは複数との併用、および別の治療法との併用療法は、複数の異なる構成で提供され得る。第一の薬剤を他方の治療法の前または後に投与し得る。いくつかの状況では、第一の薬剤と別の治療法(例えば、治療剤の投与)は同時に、または極めて近接した時間内に(例えば、同じ治療セッションで実施するなど注射の時間間隔を短くして)投与される。第一の薬剤と他方の治療法はまた、さらに時間間隔を空けて投与してもよい。
【0140】
血漿カリクレイン結合剤(例えば、結合タンパク質、例えばポリペプチド、例えば阻害ポリペプチド、例えば抗体、例えば阻害抗体、または他の結合剤、例えば小分子)は様々な疾患および病態、例えば、血漿カリクレイン活性を伴う疾患および病態にとって有用な治療薬である。例えば、いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン活性を伴う疾患または病態は、遺伝性血管性浮腫(HAE)である。いくつかの実施形態では、接触活性化系に関連する疾患のリスクがあるか、または疾患に罹患している対象に血漿カリクレイン阻害剤などの血漿カリクレイン結合剤を投与する。
【0141】
多くの有用な組織カリクレインおよび/または血漿カリクレインのタンパク質阻害剤が、クニッツドメインを含む。本明細書で使用される「クニッツドメイン」とは、少なくとも51個のアミノ酸を有し、かつ少なくとも2つ、好ましくは3つのジスルフィドを含有するポリペプチドドメインのことである。このドメインは、1番目と6番目のシステイン、2番目と4番目のシステインおよび3番目と5番目のシステインがジスルフィド結合を形成する(例えば、アミノ酸が58個のクニッツドメインでは、以下に記載するBPTI相同配列の番号に従うアミノ酸5位、14位、30位、38位、51位および55位に対応する位置にシステインが存在し、5位と55位、14位と38位および30位と51位のシステインの間にジスルフィドが形成され得る)か、またはジスルフィドが2つ存在する場合、その対応するシステインのサブセットの間でジスルフィドが形成され得るよう折り畳まれている。それぞれのシステインの間隔は、以下に記載するBPTI配列の番号付け従う5~55位、14~38位および30~51位に対応する位置の間の間隔の7アミノ酸、5アミノ酸、4アミノ酸、3アミノ酸、2アミノ酸、1アミノ酸または0アミノ酸以内であり得る。BPTI配列は、任意の一般的なクニッツドメインの特定の位置を示すための基準として用いることができる。整列させたシステインの数が最大となる最適アライメントを同定することにより、目的とするクニッツドメインとBPTIとの比較を実施することができる。
【0142】
BPTIのクニッツドメインの(高解像度での)三次元構造は公知である。X線構造のうちの1つがBrookhaven Protein Data Bankに「6PTI」として寄託されている。いくつかのBPTI相同体の三次元構造(Eigenbrotら,Protein Engineering(1990)3(7):591-598;Hynesら,Biochemistry(1990)29:10018-10022)が公知である。少なくとも81のクニッツドメイン配列が公知である。公知のヒト相同体としては、組織因子経路阻害剤(TFPI)としても知られるLACIの3つのクニッツドメイン(Wunら,J.Biol.Chem.(1988)263(13):6001-6004;Girardら,Nature(1989)338:518-20;Novotnyら,J.Biol.Chem.(1989)264(31):18832-18837)、インターαトリプシン阻害剤、APP-Iの2つのクニッツドメイン(Kidoら,J.Biol.Chem.(1988)263(34):18104-18107)、コラーゲン由来のクニッツドメイン、TFPI-2の3つのクニッツドメイン(Sprecherら,PNAS USA(1994)91:3353-3357)、肝細胞増殖因子アクチベーター阻害剤1型のクニッツドメイン、肝細胞増殖因子アクチベーター阻害剤2型のクニッツドメイン、米国特許公開第2004-0152633号に記載されているクニッツドメインが挙げられる。LACIは、3つのクニッツドメインを含有する分子量39kDa(表1のアミノ酸配列)のヒト血清リン糖タンパク質である。
【0143】
【0144】
上記のクニッツドメインはLACI-K1(残基50~107)、LACI-K2(残基121~178)およびLACI-K3(213~270)と呼ばれる。LACIのcDNA配列はWunらが報告している(J.Biol.Chem.(1988)263(13):6001-6004)。Girardら(Nature(1989)338:518-20)は、3つのクニッツドメインのそれぞれのP1残基を変化させた変異試験を報告している。LACI-K1は、第VIIa因子(F.VIIa)が組織因子と複合体を形成するときにF.VIIaを阻害し、LACI-K2は第Xa因子を阻害する。
【0145】
配列データベースからクニッツドメインを同定するのに様々な方法を用いることができる。例えば、既知のクニッツドメインのアミノ酸配列、コンセンサス配列またはモチーフ(例えば、ProSiteモチーフ)を、例えばBLASTを用いてGenBank配列データベース(米国国立衛生研究所の米国立生物工学情報センター、ベセスダ、メリーランド州)に対して;(例えば、Pfam検索に既定のパラメータを用いて)HMM(隠れマルコフモデル)のPfamデータベースに対して;SMARTデータベースに対して;またはProDomデータベースに対して検索することができる。例えば、Pfam Release 9のPfamアクセッション番号PF00014は、多数のクニッツドメイン、およびクニッツドメインを同定するためのHMMを提供する。Pfamデータベースについての記載は、Sonhammerら,Proteins(1997)28(3):405-420に見出され、HMMについての詳細な記載は、例えば、Gribskovら,Meth.Enzymol.(1990)183:146-159;Gribskovら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1987)84:4355-4358;Kroghら,J.Mol.Biol.(1994)235:1501-1531;およびStultzら,Protein Sci.(1993)2:305-314に見出され得る。HMMのSMARTデータベース(Simple Modular Architecture Research Tool、EMBL社、ハイデルベルク、ドイツ)は、Schultzら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1998)95:5857およびSchultzら,Nucl.Acids Res(2000)28:231に記載されている。SMARTデータベースは、HMMer2検索プログラム(RR.Durbinら(1998)Biological sequence analysis:probabilistic models of proteins and nucleic acids.Cambridge University Press)の隠れマルコフモデルを用いたプロファイリングにより同定されたドメインを含む。このデータベースは、注釈が付けられてモニターされている。ProDomタンパク質ドメインデータベースは相同ドメインの自動コンパイルからなるものである(Corpetら,Nucl.Acids Res.(1999)27:263-267)。最新版のProDomは、SWISS-PROT 38タンパク質データベースおよびTREMBLタンパク質データベースの再帰PSI-BLAST検索(Altschulら,Nucleic Acids Res.(1997)25:3389-3402;Gouzyら,Computers and Chemistry(1999)23:333-340)を用いて構築されたものである。データベースは、各ドメインのコンセンサス配列を自動的に作成する。Prositeは、クニッツドメインをモチーフとしてリストアップし、クニッツドメインを含むタンパク質を同定する。例えば、Falquetら,Nucleic Acids Res.(2002)30:235-238を参照されたい。
【0146】
クニッツドメインは、主に2つのループ領域(「結合ループ」)のアミノ酸を使用して標的プロテアーゼと相互作用する。第一のループ領域は、おおよそBPTIのアミノ酸13~20位に対応する残基の間にある。第二のループ領域は、おおよそBPTIのアミノ酸31~39位に対応する残基の間にある。クニッツドメインの例示的なライブラリーは、第一のループ領域および/または第二のループ領域の1つまたは複数のアミノ酸位置が異なる。カリクレインと相互作用するクニッツドメインをスクリーニングする場合または親和性が改善されたバリアントを選択する場合に変化させるべき特に有用な位置としては、BPTIの配列の13位、15位、16位、17位、18位、19位、31位、32位、34位および39位が挙げられる。これらの位置の少なくとも一部は標的プロテアーゼと密に接触することが予想される。他の位置、例えば、三次元構造内で上記の位置と近接している位置を変化させるのも有用である。
【0147】
クニッツドメインの「フレームワーク領域」は、クニッツドメインの一部である残基と定義されるが、具体的には第一および第二の結合ループ領域の残基、すなわち、おおよそBPTIのアミノ酸13~20位およびBPTIのアミノ酸31~39位に対応する残基を除外する。これとは逆に、結合ループ内に存在しない残基は、より広い範囲のアミノ酸置換(例えば、保存的置換および/または非保存的置換)を忍容し得る。
【0148】
一実施形態では、これらのクニッツドメインは、ヒトリポタンパク質関連凝固阻害因子(LACI)タンパク質のクニッツドメイン1を含むループ構造のバリアント型である。LACIは、パラダイムクニッツドメインである3つの明確な内部ペプチドループ構造を含む(Girard,T.ら,Nature(1989)338:518-520)。本明細書に記載されるLACIのクニッツドメイン1のバリアントは、スクリーニングされて単離されており、高い親和性および特異性でカリクレインと結合する(例えば、米国特許第5,795,865号および同第6,057,287号を参照されたい)。これらの方法を他のクニッツドメインフレームワークにも適用して、カリクレイン、例えば血漿カリクレインと相互作用する他のクニッツドメインを得ることができる。カリクレイン機能の有用なモジュレーターは通常、カリクレイン結合アッセイおよびカリクレイン阻害アッセイを用いて決定した場合に、カリクレインと結合し、および/またはこれを阻害する。
【0149】
いくつかの態様では、血漿カリクレイン阻害剤は活性型の血漿カリクレインと結合する。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は、血漿カリクレイン、例えばヒト血漿カリクレインおよび/またはマウスカリクレインと結合し、これを阻害する。例示的ポリペプチド血漿カリクレイン剤は、米国特許第5,795,865号、米国特許第5,994,125号、米国特許第6,057,287号、米国特許第6,333,402号、米国特許第7,628,983号、および米国特許第8,283,321号、米国特許第7,064,107号、米国特許第7,276,480号、米国特許第7,851,442号、米国特許第8,124,586号、米国特許第7,811,991号および米国特許出願公開第20110086801号(それぞれ内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は阻害ポリペプチドまたは阻害ペプチドである。いくつかの実施形態では、阻害ペプチドはエカランチド(DX-88またはKALBITOR(登録商標)とも呼ばれる;配列番号80)である。いくつかの実施形態では、カリクレイン阻害剤は、配列番号80のアミノ酸3~60の約58アミノ酸の配列または配列番号80の約60アミノ酸の配列を有するDX-88ポリペプチドを含むか、またはからなる。
【0150】
Glu Ala Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号80)。
【0151】
血漿カリクレイン阻害剤は、完全長抗体(例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgM、IgA(例えば、IgA1、IgA2)、IgDおよびIgE)であってよいか、または抗原結合フラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメントまたはscFvフラグメント)のみを含んでよい。結合タンパク質は、2つの重鎖免疫グロブリンと2つの軽鎖免疫グロブリンとを含み得るか、または一本鎖抗体であり得る。血漿カリクレイン阻害剤は、ヒト化抗体、CDR移植抗体、キメラ抗体、脱免疫化抗体またはin vitroで作製した抗体などの組換えタンパク質であり得て、任意選択でヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する定常領域を含み得る。一実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤はモノクローナル抗体である。
【0152】
例示的な血漿カリクレイン結合タンパク質が、米国特許出願公開第20120201756号(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に開示されている。いくつかの実施形態では、カリクレイン結合タンパク質は、M162-A04、M160-G12、M142-H08、X63-G06、X101-A01(DX-2922とも呼ばれる)、X81-B01、X67-D03、X67-G04、X81-B01、X67-D03、X67-G04、X115-B07、X115-D05、X115-E09、X115-H06、X115-A03、X115-D01、X115-F02、X124-G01(本明細書ではDX-2930またはラナデルマブとも呼ばれる)、X115-G04、M29-D09、M145-D11、M06-D09およびM35-G04からなる群より選択される抗体の軽鎖および/または重鎖を有する抗体(例えば、ヒト抗体)である。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合タンパク質は、M162-A04、M160-G12、M142-H08、X63-G06、X101-A01(本明細書ではDX-2922とも呼ばれる)、X81-B01、X67-D03、X67-G04、X81-B01、X67-D03、X67-G04、X115-B07、X115-D05、X115-E09、X115-H06、X115-A03、X115-D01、X115-F02、X124-G01、X115-G04、M29-D09、M145-D11、M06-D09およびM35-G04と競合するか、またはこれらと同じエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン結合タンパク質はラナデルマブである。米国特許出願公開第20110200611号および同第20120201756号(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0153】
血漿カリクレイン阻害抗体の例はラナデルマブである。ラナデルマブの重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を以下に記載し、CDR領域を太字および下線で示す。
【0154】
ラナデルマブ重鎖可変領域の配列(配列番号81)
EVQLLESGGG LVQPGGSLRL SCAASGFTFS HYIMMWVRQA PGKGLEWVSG IYSSGGITVY ADSVKGRFTI SRDNSKNTLY LQMNSLRAED TAVYYCAYRR IGVPRRDEFD IWGQGTMVTV SS
ラナデルマブ軽鎖可変領域の配列(配列番号82)
DIQMTQSPS TLSASVGDRV TITCRASQSI SSWLAWYQQK PGKAPKLLIY KASTLESGVP SRFSGSGSGT EFTLTISSLQ PDDFATYYCQ QYNTYWTFGQ GTKVEI
【0155】
いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は、本明細書に記載される血漿カリクレイン阻害剤と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有し得る。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は、HCおよび/またはLCのフレームワーク領域(例えば、HCおよび/またはLCのFR1、FR2、FR3および/またはFR4)が本明細書に記載される血漿カリクレイン阻害剤と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有し得る。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は、HCおよび/またはLCのCDR(例えば、HCおよび/またはLCのCDR1、CDR2および/またはCDR3)が本明細書に記載される血漿カリクレイン阻害剤と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有し得る。いくつかの実施形態では、血漿カリクレイン阻害剤は、定常領域(例えば、CH1、CH2、CH3および/またはCL1)が本明細書に記載される血漿カリクレイン阻害剤と約85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を有し得る。
【0156】
いくつかの態様では、小分子が活性型の血漿カリクレインと結合し、これを阻害する。
【0157】
ブラジキニンB2受容体阻害剤
いくつかの実施形態では、対象にブラジキニンB2受容体阻害剤(例えば、アンタゴニスト)を投与する。例示的なブラジキニンB2受容体アンタゴニストとしてはイカチバント(Firazyr(登録商標))が挙げられ、これは、天然のブラジキニンがブラジキニンB2受容体と結合するのを遮断する10アミノ酸を含むペプチド模倣薬である。
【0158】
C1-INH補充剤
いくつかの実施形態では、対象にC1-INH補充剤などのC1エステラーゼ阻害剤(C1-INH)を投与する。例示的なC1-INH補充剤が公開されており、例えば、ヒト血漿由来C1-INH、例えばBerinert(登録商標)およびCINRYZE(登録商標)が挙げられる。
【0159】
III.切断HMWKを検出するためのキット
本開示はまた、切断HWMKを含有することが疑われる試料、例えば、ヒト患者由来の生体試料中の切断HMWKを評価するのに使用するためのキットを提供する。このようなキットは、インタクトのHMWKまたはLMWKと比較して切断HMWKと特異的に結合する第一の薬剤を含み得る。いくつかの実施形態では、第一の薬剤は抗体、例えば切断HMWKと特異的に結合する本明細書に記載のいずれかの抗体(例えば、本明細書に記載される559B-M004またはその機能的バリアント)である。いくつかの実施形態では、キットは、第一の薬剤と切断HMWKとの結合を検出する第二の薬剤(例えば、HMWKと結合する抗体)をさらに含む。第二の薬剤は標識とコンジュゲートすることができる。いくつかの実施形態では、第二の薬剤は切断HMWKと特異的に結合する抗体である。他の実施形態では、第二の薬剤は、切断HMWKおよびインタクトのHMWKの両方と交差反応する抗体である。
【0160】
キットは、イムノアッセイを実施して第一の薬剤を固定化する支持要素さらに含み得る。いくつかの実施形態では、支持要素は、96ウェルELISAプレートなどの96ウェルプレートである。キットはまた、本明細書に記載される1つまたは複数の緩衝液、特に限定されないが、コーティング緩衝液;ZnCl2を含有するアッセイ緩衝液などのアッセイ緩衝液;ブロッキング緩衝液;洗浄緩衝液;および/または停止緩衝液を含み得る。
【0161】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載されるいずれかの方法に従って使用するための指示書を含み得る。含まれる指示書は、キットに含まれる構成要素を試料中の切断HMWKおよび/またはインタクトのHMWKのレベルの測定に使用する方法に関する説明を含み得るものであり、試料はヒト患者から採取した生体試料であり得る。あるいは、またはこれに加えて、キットは、それに含まれる構成要素をLMWKのレベルの測定に使用する方法に関する説明を含み得る。
【0162】
キットの使用に関する指示書には一般に、本明細書に記載されるアッセイ法を実施する際の各構成要素の量および適切な条件に関する情報を含む。キットの構成要素は、単位用量、バルク包装(例えば、複数回用量の包装)またはサブ単位用量で存在し得る。本開示のキットに提供される指示書は通常、ラベルまたは添付文書(例えば、キットに含まれる紙)に書かれた指示書であるが、機械で読取り可能な指示書(例えば、磁気記憶ディスクまたは光学記憶ディスクに書き込まれた指示書)も同様に許容可能である。
【0163】
ラベルまたは添付文書には、キットが切断HMWKおよび/またはインタクトのHMWKのレベルを評価するのに使用するものであることが示される。いくつかの実施形態では、キットは、LWMKのレベルを評価するのに使用するものである。指示書は、本明細書に記載されるいずれかの方法を実施するために提供されるものであり得る。
【0164】
本開示のキットは、適切な包装容器に入ったものである。適切な包装容器としては、特に限定されないが、バイアル、ボトル、瓶、柔軟性のある包装容器(例えば、密閉式のMylarバッグまたはプラスチック袋)などが挙げられる。特定の装置、例えば吸入器、点鼻装置装置(例えば、噴霧器)またはミニポンプなどの注入装置などと組み合わせて使用するための包装も同様に企図される。キットは滅菌接続口を有し得る(例えば、容器が、皮下注射針を刺し通すことが可能なストッパーを有する静注液バッグまたはバイアルであり得る)。容器も滅菌接続口を備えたものであり得る(例えば、容器は、皮下注射針を刺し通すことが可能なストッパーを備えた静注液バッグまたはバイアルであり得る)。
【0165】
キットは任意選択で、さらなる構成要素、例えば解釈に用いる情報、例えば対照試料および/または標準試料もしくは基準試料などを提供し得る。キットは通常、容器と、容器面にある、または容器に添付されたラベルまたは添付文書(1つまたは複数)とを含む。いくつかの実施形態では、本開示は、上記のキットの内容物を含む製品を提供する。
【0166】
IV.切断HMWKと結合するその他の抗体
本明細書には、切断HMWKおよびインタクトのHMWKの両方と結合する単離抗体が提供される。いくつかの実施形態では、このような抗体は、LMWKと結合しないか、低い親和性でLMWKと結合する。他の実施形態では、このような抗体はLMWKとも結合する。
【0167】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される切断HMWKおよびインタクトのHMWK(またはさらにLMWK)と特異的に結合する抗体は、1つまたは複数の標的抗原に対して適切な結合親和性を有する。本明細書に記載される抗体は、少なくとも10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10Mまたはそれ以下の結合親和性(KD)を有し得る。
【0168】
上記の抗体およびその結合特異性の例を下の実施例2の表2に提供する。重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列を以下に記載し、CDR領域を太字と下線で示す(1つの例として1つのスキームによって決定したもの):
【化2】
【0169】
上に挙げたいずれかの例示的抗体の機能的等価物も同様に、本開示の範囲内に含まれる。このような機能的等価物は、上記の例示的抗体のうちの1つと同じ、切断HMWKおよび/もしくはインタクトのHMWKのエピトープまたはLMWKの試料エピトープと結合し得る。いくつかの実施形態では、機能的等価物は、標的抗原との結合に関して上記の例示的抗体のうちの1つと競合する。
【0170】
いくつかの実施形態では、機能的等価物は、上記の例示的抗体のうちの1つの対応するVHCDRと少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVHCDR1、VHCDR2および/またはVHCDR3を含むVH鎖を含む。あるいはまたはこれに加えて、機能的等価物は、上記の例示的抗体と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVLCDR1、VLCDR2および/またはVLCDR3を含む。いくつかの実施形態では、機能的等価物は、上記の例示的抗体のうちの1つと同じ重鎖相補性決定領域(CDR)および/または軽鎖CDRを含む。
【0171】
あるいはまたはこれに加えて、機能的等価物は、例示的抗体のVH鎖と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVH鎖および/または例示的抗体のVL鎖と少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%)同一であるVL鎖を含む。
【0172】
いくつかの場合には、機能的等価物は、例示的抗体の1つもしくは複数の重鎖CDRまたは1つもしくは複数の軽鎖CDRの例えば、残基が標的抗原との相互作用に関係する可能性のない位置に1つまたは複数(例えば、最大5つ、最大3または最大1つ)の保存的変異を含み得る。
【0173】
これ以上詳述することはないが、当業者であれば、上記の説明を踏まえ本開示を最大限に利用することができるものと考える。したがって、以下の具体的な実施形態は、単に例示的なものであって、決して本開示の残りの部分を限定するものではないものであると解釈するべきである。本明細書に引用される刊行物はいずれも、本明細書で言及される目的または主題に関して参照により組み込まれる。
【0174】
(実施例)
実施例1:切断HMWKを特異的に検出するためのイムノアッセイの開発
最初に、ファージディスプレイライブラリーにおいて切断HMWKまたはインタクトのHMWKと結合するFabフラグメントを同定するため、ELISAベースのイムノアッセイによるスクリーニングを開発した。アッセイ条件は一般に、ビオチン化したインタクトのHMWKまたは切断HMWKをストレプトアビジンでコートした384ウェルアッセイプレートに固定化し、ウシ血清アルブミン(BSA)ブロッキング緩衝液を用いてブロックし、固定化HMWKと、大腸菌(E.coli)の一晩培養物のファージ上に提示されたFabとを接触させる(抗M13-HRP抗体で検出する)ことを利用した。
【0175】
図12のパネルAに示されるように、最初に、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ(Dynabeads M280、Thermo Fisher社)上に固定化したビオチン化一本鎖HMWKに対し約1×10
12個のファージを投入したライブラリーのネガティブ選択を実施することにより、二本鎖HMWK特異的抗体を得ることを目的とする選択を実施した。次いで、枯渇したライブラリーと、ストレプトアビジンでコートした磁気ビーズ上に固定化したビオチン化二本鎖HMWKとを接触させた。ビーズをPBS緩衝液で十分に洗浄し、大腸菌(E.coli)の感染に用いてファージアウトプットを増幅し、選択のラウンドを完了した。選択を3ラウンド実施した後、ストレプトアビジンでコートしたプレートに固定化したビオチン化一本鎖HMWKおよび二本鎖HMWKを用いたELISAを行い、抗M13抗体とコンジュゲートした西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)による検出、および3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)の基質加水分解による吸光度の検出により個々のファージコロニーをスクリーニングした。組換えFabフラグメントを大腸菌(E.coli)に発現させ、プロテインAセファロースクロマトグラフィー(Wassafら,Anal.Biochem.(2006)351:241-253)により精製した。384ウェルプレートをコートし、ビオチン化一本鎖HMWK、ビオチン化二本鎖HMWKまたはビオチン化LMWKとの結合を、HRPとコンジュゲートしたストレプトアビジンによる検出、およびTMBによる検出で測定することにより、各精製Fabの特異性を決定した。これらのアッセイ条件により、インタクトのHMWKよりも切断HMWKと特異的に結合する559B-M004-B04単離体を同定した(
図1)。
【0176】
固定化HMWKはまた、大腸菌(E.coli)の一晩培養物から得た粗(未精製)559B-M004-B04 Fab調製物と接触させた。抗ヒトFab-HRP抗体を用いて、HMWKと結合したFabを検出したが、切断HMWKに対する特異的結合は起こらなかった(
図1)。
【0177】
ポリスチレン384ウェルアッセイプレートに559B-M004-B04の精製Fabフラグメントを受動的に固定化することにより、イムノアッセイの構成を逆にした。Fabとビオチン化HMWKとを接触させ、結合したHMWKをストレプトアビジン-HRPで検出した(
図1)。
【0178】
最初のスクリーニング分析時にBSAブロッキング緩衝液を市販のブロッキング緩衝液であるCandor Biosciences社製LowCross Blocking Solutionに替えたところ、意外にも559B-M004-B04 Fabの切断HMWKに対する特異性が増大した(
図1)。さらに、384ウェルプレートではなく96ウェルアッセイプレートを用いてイムノアッセイを実施することにより、観察される559B-M004-B04の切断HMWKに対する特異性がさらに増大した(
図1)。
【0179】
559B-M004-B04単離体を用いて得られた結果により、試料中の2-HMWKを検出するイムノアッセイ(ELISA)を開発した(
図12、パネルB)。このアッセイを用いて他のFabフラグメントおよび抗体の結合特性をさらに評価することもできる。簡潔に述べれば、Fabでマルチウェルプレートを一晩コートする。翌日、プレートを洗浄した後、BSA緩衝液でブロックする。洗浄後、LowCross緩衝液で希釈した試料、標準物質およびQCをプレートに加え、次いでインキュベートした後、洗浄し、HRP標識ヒツジ抗HMWKポリクローナル検出抗体の添加により、結合した二本鎖HMWKを検出する。検出抗体とインキュベートした後、プレートを洗浄し、プレートにTMB基質を加える。短時間インキュベートした後、リン酸で反応を停止させる。次いで、450nm~630nmでの吸光度を測定する。
【0180】
実施例2:本明細書に記載のイムノアッセイを用いたFabクローンの結合特異性の評価
実施例1に記載したイムノアッセイを用いて、36種類の精製Fabクローン(下の表2)の切断HWMK、インタクトのHMWKおよびLWMKに対する結合を評価した。具体的には、各精製Fabクローンを濃度1μg/L、PBSで全量100μLにして96ウェルアッセイプレートに固定化し、2~8℃で一晩インキュベートした。LowCrossブロッキング緩衝液を用いてアッセイプレートをブロックした。ビオチン化したインタクトのHMWK、ビオチン化切断HMWKまたはビオチン化LMWK(それぞれ1μg/L)を全量100μLで各ウェルに加え、2時間インキュベートした後、洗浄緩衝液で洗浄した。各ウェルに濃度100ng/mLのHRP標識ストレプトアビジンを加え、Ultra TMB Substrateを用いてシグナルを生成させた。未コートウェルにビオチン化タンパク質を加えた際に観察されるシグナルを用いて、シグナル対ノイズ比を算出した(
図2、パネルAおよびB)。ELISAの結果に基づき、抗体を5種類に分類することができる(表2)。
【0181】
【0182】
559B-M0064-H02のように一本鎖HMWK、二本鎖HMWKおよびLMWKのいずれとも結合する抗体がいくつか得られた。これらの抗体は、HMWKとLMWKに共通するドメイン1~4でエピトープと結合する可能性が高い。M070-H10は、一本鎖HMWKと二本鎖HMWKに共通するエピトープと結合するが、LMWKとは結合しないと推測される抗体の一例である。LMWKは、ドメイン1~4とドメイン5の一部とからなる短縮タンパク質を生じるキニノーゲンのスプライスバリアントである(Colmanら,Blood(1997)90:3819-3843)。したがって、M070-H10などの抗体はドメイン5またはドメイン6と結合する可能性が高い。
【0183】
図14のパネルAに示されるように、559B-M0004-B04は一本鎖HMWKおよびLMWKの両方よりも二本鎖HMWKに対して選択性を示し、さらなるアッセイ最適化のために選択した。ヒト血漿試料中の切断HMWKを検出するため、559B-M0004-B04(2μg/mLを100μL)を96ウェルプレート(Nunc Maxisorpプレート)に受動的に固定化するサンドイッチELISA法を開発した(
図12、パネルB)。翌日、プレートを洗浄し、次いでPBS緩衝液中2%のBSA(プロテアーゼ/IgGフリー)でブロックした。洗浄後、0.05%Tween-20を含むPBS中0.1%のBSA緩衝液(二本鎖HMWKアッセイ緩衝液)中に切断HMWKを含有する試料。HNKW HMWK欠損血漿に精製タンパク質標準物質(例えば、二本鎖HMWK、インタクトのHMWKまたはLMWK)を添加し、二本鎖HMWKアッセイ緩衝液で1:320に希釈した。プレートをPBSTで洗浄した後、二本鎖HMWKアッセイ緩衝液中で1μg/mLの2種類のマウスモノクローナル抗体(11H05および13B12)の混合物を室温で1時間加えた。未結合の検出抗体を洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)とコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体の1:2000希釈物を加えた。二次抗体を含有するアッセイを室温で1時間インキュベートし、二本鎖HMWKアッセイ緩衝液で洗浄することにより未結合の二次抗体を除去した。HRP基質である3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)の添加によりシグナルを検出した。リン酸で反応を停止させた。マイクロプレートリーダーを用いてTMB基質の加水分解を450nm~630nmで検出した(
図3)。さらに、二本鎖HMWKアッセイ緩衝剤緩衝液またはHMWK欠損血漿中に切断HMWKを含有する試料を用いてELISAアッセイを実施し、2.5%または10%の血漿のいずれかの存在下で分析したところ、同程度の結合が得られた(
図4)。これらのイムノアッセイ条件を用いて、切断HMWKとの特異的結合を検出した。このアッセイでは、二本鎖HMWKアッセイ緩衝液中またはHMWK欠損血漿中のいずれでHMWKを提供しても、同程度の成績が得られた(
図3および4)。さらに、559B-M0004-B04とLMWKとの結合はみられなかった。
【0184】
ヒト血漿中で接触活性化によって生成した切断HMWKの検出に関してELISAアッセイを評価した(
図5Aおよび5B)。FXIIからFXIIaへの自己活性化を引き起こし、それにより切断HMWKを生じさせる触媒量のFXIIa、pKalまたはエラグ酸の非存在下または存在下で、正常ヒト血漿中の切断HMWKの量を測定した(
図5のパネルAおよびB)。二本鎖HMWKの生成に必要な主要な血漿酵素としての血漿カリクレインの役割と一致するように、エラグ酸を添加してもまたはFXIIaを添加してもプレカリクレイン欠損血漿中に切断HMWKは生成されなかった。FXIIa、pKalまたはエラグ酸のいずれを用いてもFXI欠損血漿中の接触系が同程度に活性化され、この結果は、FXIaがFXIIaによって生成され、二本鎖HMWKを生じないとする見解と一致する。
【0185】
二本鎖HMWKのELISAで得られた結果は、マウスモノクローナル抗体11H05を用いたウエスタンブロット分析により、ヒト血漿中で接触活性化により生成した切断HMWKを検出することによって裏付けられた(
図10)。11H05抗体は、HMWKの軽鎖と特異的に結合し、56kDaの軽鎖と、HMWK軽鎖のN末端に近い部位で血漿カリクレインのタンパク質分解活性により生成する、さらにタンパク質分解された46kDaの軽鎖の両方を明らかにする(Colmanら,Blood(1997)90:3819-3843)。
【0186】
ELISAアッセイが、健常ドナー12人の血漿中に生成した切断HMWKを検出できるかどうかも評価した(
図6)。12の試料それぞれについて、接触活性化系のエラグ酸活性化後に切断HMWKを検出した。同様に、様々な濃度のラナデルマブ(DX-2930;血漿カリクレインの特異的阻害剤)またはセルピンC1-INHの阻害剤を用いて正常血漿の接触活性化系を阻害し、次いでエラグ酸で活性化させた後の切断HMWKの量も測定した(
図7のパネルAおよびB)。ラナデルマブ(DX-2930)は、血漿カリクレインを強力(K
i=0.12nM)かつ特異的に阻害する完全ヒト抗体であり、ファージを用いて発見され、HAE-C1INH発作の予防的治療に関する臨床開発の段階にある(Chyungら,Ann.Allergy Asthma Immunol.(2014)113:460-466;Kennistonら,J.Biol.Chem.(1994)289:23596-23608)。ラナデルマブを様々な濃度でクエン酸加血漿に添加したところ、ウエスタンブロット法およびサンドイッチELISA法によって示されるように、FXIIaによって誘導される二本鎖HMWKの生成を有効に阻害した(
図7B)。ラナデルマブによる二本鎖HMWK生成阻害のIC
50は212±28nMであり、この値は未希釈血漿中の全てのプレカリクレインを活性化した場合に予想される値(約500nM)と一致する。接触系アクチベーターで処理した血漿ではラナデルマブによってシグナルが完全に阻害されることから、M004-B04が、血漿カリクレインによって生成される二本鎖HMWKに特異的であることが裏付けられる。
【0187】
捕捉抗体としてM004-B04および検出抗体としてHRPコンジュゲートヒツジポリクローナル抗キニノーゲンを用いたこの予備的アッセイでは、キニノーゲン欠損血漿の接触系を活性化させてもELISAシグナルの増大はみられなかった(データ不掲載)。
【0188】
同様に、抗凝固剤としてEDTAを用いて健常対象から採取した血漿がクエン酸加血漿と同程度に活性化されたことは
図10からも明らかであり、このことは、金属イオンが接触系活性化に必要ではないという知見を裏付けている(Colmanら,Blood(1997)90:3819-3843)。しかし、EDTA加血漿ではELISAにより二本鎖HMWKが検出されず(
図5B)、このことは、二本鎖HMWKと結合するM004-B04抗体が金属イオンに依存することを示唆している。軽鎖のドメイン5にあるHMWKの亜鉛結合部位(アミノ酸479~498)がこれまでに同定されており、この部位はキニノーゲンと内皮細胞表面受容体gC1qR、サイトケラチン1およびウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体との相互作用を媒介し、それにより接触系活性化を増大させることが示されている(Kaplanら,Adv.Immunol.(2014)121:41-89;Bjorkqvistら,Biol.Chem.(2013)394:1195-1204)。アッセイ緩衝液へのZnCl
2の添加を様々な濃度で試験し、抗体と切断HMWKとの結合が増大することが見出された(
図11)。エラグ酸活性化クエン酸加血漿およびEDTA加血漿で観察されるELISAシグナルに対するZnCl
2の漸増濃度を調べた。EDTA加血漿のELISAシグナルは、400μM(ウェルでの濃度)を上回るZnCl
2濃度で見かけの最大値まで増大した。
【0189】
一本鎖HMWKと亜鉛が結合すると、より小型で球状の四次構造が促進されることが電子顕微鏡によりこれまでに明らかにされている(Herwaldら,Eur J.Biochem.(2001)268:396-404)。同様に、二本鎖HMWKが、EDTA含有緩衝液中では一本鎖HMWKよりも細長く球状度が低い四次構造をとることも電子顕微鏡により明らかにされている(Herwaldら,Eur J.Biochem.(2001)268:396-404)。亜鉛が二本鎖HMWKの構造に及ぼす影響については未だ報告されていないが、本明細書に記載されるM004-B04の明白な亜鉛依存的結合は、二本鎖HMWKが亜鉛の存在下で固有のコンホメーションで存在することを示唆している。
【0190】
市販のスプレーコートK
2EDTA管に採取した血漿中のEDTA濃度は約4mMであり、この数値は1:20で希釈することにより約200μMのウェル中濃度となり、EDTAのキレート能を圧倒するために十分なZnCl
2を添加すると亜鉛依存性の結合が回復することと一致している。これに対し、エラグ酸を用いて活性化したクエン酸加血漿のELISAシグナルは、25μMまたは50μM(ウェル濃度)のZnCl
2の存在下では増加しなかったが、100μMを上回るZnCl
2濃度では、ZnCl
2が約200μMを上回るとELISAシグナルが最大値まで増大した(
図11)。健常被験者の血漿中の正常な亜鉛濃度は10~17μMである(Wessellsら,J.Nutr.(2014)144:1204-1210)。ウェル中のZnCl
2濃度が50μM超となったときにELISAシグナルの増大が観察されたのは活性化クエン酸加血漿に限られ、このZnCl
2濃度は血漿中濃度1mM超に相当することから、ELISAは血漿中の亜鉛濃度の生理的変動の影響を受けないものと思われる。したがって、以後の実験ではアッセイ緩衝液にZnCl
2を添加しなかった。
【0191】
上記のように、559B-M004-B04と二本鎖HMWKとの結合は、生理的濃度を上回るZnCl
2によって増大し、高濃度のEDTAによる金属キレート化によって阻害された。二本鎖HWMKのドメインの亜鉛結合部位については既に記載されており、この部位を包含する合成ペプチド(HKH20、HKHGHGHGKHKNKGKKNGKH(配列番号83)は、細胞表面結合を弱めることにより接触系活性化を阻害することが示されている(Nakazawaら,Int.Immunopharmacol.(2002)2:1875-1885)。このため、HKH20ペプチドならびにドメイン3内の配列に対応するGCP28ペプチドが、二本鎖HMWKと559B-M004-B04との結合を阻害することができるかどうかをELISAにより試験した。
図15に示されるように、HKH20ペプチドは二本鎖HMWKとM004-B04との結合を阻害するが、GCP28ペプチドは阻害せず、このことは、M004-B04エピトープがドメイン5内で亜鉛結合部位付近に存在し得ることを示唆している。アッセイを実施するため、キニノーゲンペプチドを250μg/mLに希釈し、アッセイプレートでプレインキュベートした。次いで、欠損ヒト血漿中の精製二本鎖HMWKを160に希釈した後、プレートに加えた。
【0192】
正常なクエン酸加ヒト血漿中で切断HMWKが生成される時間依存性を、エラグ酸またはFXIIaによる接触活性化系の活性化後の様々な時点で評価した(
図8)。最後に、ELISAアッセイを用いて、遺伝性血管性浮腫(HAE)患者由来の血漿試料中の切断HMWKの有無および量を、(HAEに罹患していない)正常患者由来のクエン酸加血漿試料と比較して評価した。HAE患者由来の試料は、正常ドナー由来の試料(432.4±186ng/mL)よりも高レベル(1423±603ng/mL)の二本鎖HMWKを含むことが見出され(
図9)、これは、一元配置ANOVA解析により統計学的差が認められる(P=0.017)。
【0193】
M004-B04は、一本鎖HMWK上またはLMWK上に存在しない、二本鎖HMWK上のネオエピトープと特異的に結合し、抗体結合が血漿カリクレイン活性に依存することが明らかになったことから、検出のために1対のマウスモノクローナル抗体(11H05および13B12)を用いるアッセイも試験した(
図16)。抗体13B12はHMWKの重鎖と結合し、11H05はHMWKの軽鎖と結合すると思われることから、検出に両抗体を組み合わせることにより、おそらく抗原の結合エピトープが両者の間で重複していないことにより、シグナル増強がもたらされた。
【0194】
接触系を評価するうえで血漿採取が重要であることがこれまでに記載されている(Suffrittiら,Clin.Exp.Allergy(2014)44:1503-1514)。血漿がガラスまたは他の極性表面に接触すると、広範囲にわたってex vivoの接触系活性化が起こり、これが内因性の接触系活性化の高精度な測定を妨げ得ることはよく知られている(Colmanら,Blood(1997)90:3819-3843)。最適化したサンドイッチELISA法が二本鎖HMWKを検出する能力を、SCAT169(HTI社、エセックス、バーモント州)と呼ばれるプラスチック製の真空採血管を用いて、酸性のクエン酸デキストロース中にプロテアーゼ阻害剤の混合物を含有するカスタマイズされた血漿を含む様々な種類の血漿で比較した。
図6に示されるように、SCAT169血漿で作成した標準曲線は、クエン酸加血漿で作成した曲線よりも感度が低く、これはおそらく、採取した血漿中に2mMのEDTAが含まれることに起因する。このアッセイに用いた血漿希釈率(1:320)では、この濃度(3.1μM)のEDTAが二本鎖HMWKに有意に干渉せず、メタロプロテアーゼによるタンパク質分解から血漿を安定化させるのに役立ち得る。
【0195】
ウエスタンブロットアッセイおよびサンドイッチELISAアッセイにより、健常被験者由来のクエン酸加血漿およびSCAT169血漿を、HAE患者由来の試料と比較した。
図17のパネルA~Cでは、クエン酸加血漿中の二本鎖HMWK(すなわち、切断キニノーゲン)を検出するウエスタンブロット法は、曲線下面積(AUC)の値が基礎状態とHVとの比較に関して0.977であるか、または発作状態とHVとの比較に関して1.0である受診者動作特性(ROC)解析によって示されるように、HAE患者の試料と健常被験者(HV)の試料とを識別することが可能であった。休止期(基礎状態)のHAE患者由来のクエン酸加血漿試料は、AUC0.625で発作状態試料と識別された(
図17、パネルD)。
【0196】
図18のパネルA~Cに示されるように、SCAT169血漿中の二本鎖HMWKを検出するウエスタンブロット法は、AUC値が基礎状態とHVとの比較に関して0.915であるか、または発作状態とHVとの比較に関して0.967であるROC解析によって示されるように、HAE患者の試料と健常被験者(HV)の試料とを識別することが可能であった。休止期(基礎状態)のHAE患者由来のSCAT169試料は、AUC0.597で発作状態試料と識別された(
図18、パネルD)。
【0197】
図19のパネルA~Cでは、クエン酸加血漿中の二本鎖HMWKを検出する二本鎖ELISA法は、AUC値が基礎状態とHVとの比較に関して0.915であるか、または発作状態とHVとの比較に関して0.866であるROC解析によって示されるように、HAE患者由来の試料と健常被験者由来の試料とを識別することが可能であった。休止期(基礎状態)のHAE患者由来のクエン酸加血漿試料は、AUC0.709で発作状態試料と識別された(
図19、パネルD)。
【0198】
図20のパネルA~Cに示されるように、SCAT169試料中の二本鎖HMWKを検出する二本鎖ELISA法は、AUC値が基礎状態とHVとの比較に関して0.999であるか、または発作状態とHVとの比較に関して1.0であるROC解析によって示されるように、HAE患者由来の試料と健常被験者由来の試料とを識別することが可能であった。休止期(基礎状態)のHAE患者由来のクエン酸加血漿試料は、AUC0.8176で発作状態試料と識別された(
図20、パネルD)。
【0199】
上記のROC解析では、本明細書において証明した二本鎖HMWKウエスタンブロットおよび二本鎖HMWKELISAはともに、健常被験者と比較して、血漿中の切断キニノーゲンのレベルに基づきHAEを有するか、またはHAEを有するリスクのある患者を識別するのに有用であり得る。SCAT169血漿中にプロテアーゼ阻害剤が存在することにより、採血時のex vivoの血漿活性化が減少した。
【0200】
その他の実施形態
本明細書に開示される特徴は全て、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示される特徴はそれぞれ、同じ目的、同等の目的または類似した目的を果たす代替的特徴に置き換え得るものである。したがって、別途明記されない限り、開示される各特徴は一般的な一連の同等の特徴または類似した特徴の一例にすぎない。
【0201】
当業者は上の記載から、本開示の必須特性を容易に確認し、本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、本開示に様々な改変および修正を施して様々な用途および条件に適合させることができる。したがって、他の実施形態も特許請求の範囲内に含まれる。
【0202】
均等物および範囲
当業者は、ルーチンの実験のみを用いて、本明細書に記載される本開示の特定の実施形態の均等物を多数認識する、あるいは確認することが可能である。本開示の範囲は上記の記載に限定されないと意図され、添付の「特許請求の範囲」に記載される通りである。
【0203】
請求項では、「a」、「an」および「the」などの冠詞は、反対であることを示す場合またはそうでなければ文脈から明らかである場合を除き、1つまた複数を意味し得る。あるグループの1つまたは複数の要素の間に「または」を含む請求項または記載は、反対であることを示す場合またはそうでなければ文脈から明らかである場合を除き、そのグループの要素の1つ、1つ超、または全てが所定の製品または工程に存在するか、用いられるか、またはそうでなければ関連する場合に満たされるものと考えられる。本開示は、あるグループのまさに1つの要素が、所定の所与の製品または工程に存在するか、用いられるか、またはそうでなければ関連する実施形態を含む。本開示は、あるグループの1つ超または全ての要素が所定の製品または工程に存在するか、用いられるか、またはそうでなければ関連する実施形態を含む。
【0204】
さらに、本開示は、1つまたは複数の列記される請求項からの1つまたは複数の制限、要素、条項および記述用語が別の請求項に導入されるあらゆる変形形態、組合せおよび変更を包含する。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項を同じ基本請求項に従属する別の任意の請求項に記載される1つまたは複数の制限を含むよう修正することができる。要素が例えばマーカッシュ群形式のリストとして記載される場合、その要素の各サブグループも同様に開示され、グループから任意の(1つまたは複数)を削除することができる。一般に、本開示または本開示の態様が特定の要素および/または特徴を含むとして言及される場合、本開示の特定の実施形態または本開示の諸態様は、そのような要素および/または特徴からなるか、またはそのような要素および/または特徴から本質的になると理解すべきである。簡略化する目的で、上記の実施形態は本明細書にこれらの言葉で具体的に記載されていない。同様に、「comprising(含む)」および「containing(含む、含有する)」という用語は、制限がないと意図され、他の要素または段階を含めることを許容することに留意されたい。範囲が記載される場合、終点を含む。さらに、別途明示されるかまたは文脈および当業者の理解から明らかである場合を除き、範囲として表される値は、文脈上明らかに別の意味を表す場合を除き、本開示の様々な実施形態において記載される範囲内に含まれる、その範囲の下限の単位の10分の1までの任意の特定の値または部分範囲と見なすことができる。
【0205】
本願では、様々な発行済み特許、公開特許出願、学術論文、および他の刊行物を参照するが、これらはいずれも参照により本明細書に組み込まれる。組み込まれるいずれかの参考文献と本明細書との間に相違がみられる場合、本明細書が優先されるものとする。さらに、先行技術の範囲内に含まれる本開示のいかなる特定の実施形態も、1つまたは複数のいずれかの請求項から明確に除外され得る。このような実施形態は、当業者に公知であると考えられるため、たとえ除外が本明細書に明記されなくても除外され得る。本開示の任意の特定の実施形態は、先行技術の存在と関係があるかどうかを問わず、任意の理由で任意の請求項から除外され得る。
【0206】
当業者は、ルーチンの実験のみを用いて、本明細書に記載される特定の実施形態の均等物を多数認識する、あるいは確認することが可能である。本明細書に記載される本発明の実施形態の範囲は、上記の説明に限定されないと意図され、添付の「特許請求の範囲」に記載される通りである。当業者には、以下の銅請求項で定められる本開示の趣旨からも範囲からも逸脱することなく、この記載に様々な改変および修正を加え得ることが理解されよう。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-03-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】