(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023078641
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】単結晶引上装置及び単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/20 20060101AFI20230531BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20230531BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C30B15/20
C30B15/00 Z
C30B29/06 502H
C30B29/06 502Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021191870
(22)【出願日】2021-11-26
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】坪田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉亮
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG19
4G077EG22
4G077EG23
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】ゲートバルブを閉じた際のシリコン融液へのCOガス等の導入を抑制し、引き上げる単結晶の炭素濃度の上昇を抑制する。
【解決手段】制御部11は、ゲートバルブ18を開いている間は、不活性ガス供給手段17により第一のガス導入口10aからメインチャンバ10Aに対して不活性ガスGを導入させ、前記ゲートバルブを閉じてプルチャンバ10Bと前記メインチャンバとを分離している間は、前記不活性ガス供給手段により第二のガス導入口20cからルツボ3に収容されたシリコン融液Mに向けて不活性ガスを導入させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を収容するルツボと、シリコン融液を加熱するヒータと、前記ルツボ及び前記ヒータを収容するメインチャンバと、前記メインチャンバの上方に配置され、前記メインチャンバと分離可能なプルチャンバと、前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離する開閉可能なゲートバルブと、前記プルチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに不活性ガスを供給するための第一のガス導入路と、前記メインチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに供給される不活性ガスを整流する整流筒と、を有する単結晶引上装置であって、
前記メインチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに不活性ガスを前記整流筒の内周面に沿って供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路と、
前記第一のガス導入路と前記第二のガス導入路に不活性ガスを導入する不活性ガス供給装置と、
前記不活性ガス供給装置の制御を行う制御部と、を有し、
前記制御部は、前記ゲートバルブが開いている間は、前記不活性ガス供給装置により前記第一のガス導入路から前記メインチャンバに対して不活性ガスを導入させ、
前記ゲートバルブが閉じて前記プルチャンバと前記メインチャンバとが分離している間は、前記不活性ガス供給装置により前記第二のガス導入路から前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入させることを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項2】
前記メインチャンバに設けられ、育成中のシリコン単結晶に対する前記ヒータからの輻射熱を遮蔽する輻射シールドを更に有し、
前記第二のガス導入路の前記開口部は、鉛直方向において前記輻射シールドと重ならないことを特徴とする請求項1に記載の単結晶引上装置。
【請求項3】
前記メインチャンバに設けられ、育成中のシリコン単結晶に対する前記ヒータからの輻射熱を遮蔽する輻射シールドを更に有し、
前記第二のガス導入路の前記開口部は、鉛直方向において前記輻射シールドの先端部近傍に位置することを特徴とする請求項1に記載の単結晶引上装置。
【請求項4】
前記開口部は、円環状のスリット形状であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の単結晶引上装置。
【請求項5】
前記開口部は、円環状に沿って配置された複数の孔により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の単結晶引上装置。
【請求項6】
ヒータにより加熱して形成したシリコン融液を収容するルツボと、前記ルツボ及び前記ヒータを収容するメインチャンバと、前記メインチャンバの上方に配置され、シリコン単結晶が引き上げられるとともに、ゲートバルブにより前記メインチャンバと分離可能なプルチャンバと、前記メインチャンバ側に設けられ前記メインチャンバに供給される不活性ガスを整流する整流筒と、を備える単結晶引上装置における、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、
前記プルチャンバ側に設けられた第一のガス導入路から、前記メインチャンバに不活性ガスを供給するとともに、シリコン融液からシリコン単結晶を育成するステップと、
前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップと、
を備えることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップにおいて、
円環状のスリット形状に形成された前記開口部から不活性ガスを供給することを特徴とする請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップにおいて、
円環状に沿って配置された複数の孔として形成された前記開口部から不活性ガスを供給することを特徴とする請求項6に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法を用いて単結晶を引き上げる単結晶引上装置及び単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、従来から
図8に示すような単結晶引上装置が用いられている。
この単結晶引上装置は、シリコン融液Mを収容する石英ガラスルツボ51と、石英ガラスルツボ51を収容するメインチャンバ50Aと、石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52と、メインチャンバ50Aの上に重ねられ、単結晶Cが引き上げられるプルチャンバ50Bとを備える。
【0003】
プルチャンバ50Bの上部には、チャンバ内に不活性ガスGを供給するためのガス導入口50aが設けられ、プルチャンバ50Bからメインチャンバ50Aに向けて不活性ガスGの流れが形成される(不活性ガスGはメインチャンバ50Aに設けられた流出口50bより排気される)。このようにメインチャンバ50A内に不活性ガスGの流れを形成することによって、シリコン融液Mから蒸発するSiOガス、或いはヒータ52等のメインチャンバ50A内に配置された部材から発生するCOガスをチャンバ内に滞らせることなくチャンバ外へ排出するようにしている。
【0004】
また、育成中の単結晶Cの冷却効果を高めるために、ルツボ51内に形成されるシリコン融液Mの上方に、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド55が配置される。
更に冷却効果を向上するために、特許文献1に開示されるようにメインチャンバ50Aの天井部から下方に延設された円筒状の整流筒56が設けられることもある。単結晶Cは、この整流筒56の中を通って引き上げられることになる。
【0005】
このように構成された単結晶引上装置にあっては、メインチャンバ50A内に設置した石英ルツボ51に原料であるポリシリコンを充填し、石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液Mとする。
その後、シードチャックに取り付けた種結晶P(シード)を当該シリコン融液Mに浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックをプルチャンバ50Bに引上げることによりシリコン単結晶Cを育成する。
【0006】
ところで、上記CZ法による単結晶Cの引上げにおいて、1つのチャンバ50Aから複数本の単結晶Cを連続して引き上げるマルチプーリング法がある。このマルチプーリング法にあっては、1本のシリコン単結晶Cの引上げが完了すると、
図9に示すようにプルチャンバ50Bの下部に設けられたゲートバルブ54によりメインチャンバ50Aを密閉する(ゲートバルブを用いたチャンバ構成については、例えば特許文献2に開示される)。
次いで、プルチャンバ50B内にリチャージ管60を搬入する。このリチャージ管60には、例えばナゲット状の原料ポリシリコン70が充填され、リチャージ管60の下部に設けられた円錐バルブ61によって管内に原料ポリシリコン70が保持されている。
【0007】
プルチャンバ50B内にリチャージ管60がセットされると、
図10に示すようにゲートバルブ54が開けられ、リチャージ管60がワイヤ65によってメインチャンバ50A内に降下される。ここで、リチャージ管60の外周面に設けられたフランジ突起60aがプルチャンバ50B内周面に設けられた突起50bに係止することによりリチャージ管60の位置が固定される。
引き続きワイヤ65によって円錐バルブ61のみが降下されると、リチャージ管60の下面が開放され、管内からポリシリコン70が石英ルツボ51内に落下し、石英ルツボ51に残るシリコン融液Mに原料ポリシリコン70が追加装填される。
そして、石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコン70を加熱して溶融し、単結晶Cの育成に必要な量のシリコン融液Mとして、再びシリコン単結晶Cの引上げが行われることになる。
特許文献1には、メインチャンバ50Aの上部において整流筒56の上部外側から整流筒56の外周面及びメインチャンバ50Aの内周面に沿って不活性ガスを導入する第二のガス導入口を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-184863号公報
【特許文献2】特開昭51-77064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、例えばマルチプーリング法において、プルチャンバ50Bにリチャージ管60を設置する間には、ゲートバルブ54が閉じられる。また、マルチプーリング法以外にも、シリコン原料をシリコン融液Mに追加する追加チャージ時においてもゲートバルブ54が閉じられる。
しかしながら、ゲートバルブ54が閉じられると、プルチャンバ50Bに設けられたガス導入口50aから導入されていた不活性ガスGがゲートバルブ54により遮断されるため、メインチャンバ50A内に導入されなくなる。そのため、ヒータ52等のメインチャンバ50A内に配置された部材から発生するCOガスがチャンバ外に排出されず、シリコン融液Mに溶けて導入されやすくなる。その結果、シリコン融液M内の炭素濃度が増加し、引き上げる単結晶Cの炭素濃度が、より高くなってしまうという課題があった。
【0010】
本発明の目的は、ゲートバルブを閉じた際のシリコン融液へのCOガス等の導入を抑制し、引き上げる単結晶の炭素濃度の上昇を抑制することのできるシリコン単結晶引上装置及びシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、シリコン融液を収容するルツボと、シリコン融液を加熱するヒータと、前記ルツボ及び前記ヒータを収容するメインチャンバと、前記メインチャンバの上方に配置され、前記メインチャンバと分離可能なプルチャンバと、前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離する開閉可能なゲートバルブと、前記プルチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに不活性ガスを供給するための第一のガス導入路と、前記メインチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに供給される不活性ガスを整流する整流筒と、を有する単結晶引上装置であって、前記メインチャンバ側に設けられ、前記メインチャンバに不活性ガスを前記整流筒の内周面に沿って供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路と、前記第一のガス導入路と前記第二のガス導入路に不活性ガスを導入する不活性ガス供給装置と、前記不活性ガス供給装置の制御を行う制御部と、を有し、前記制御部は、前記ゲートバルブが開いている間は、前記不活性ガス供給装置により前記第一のガス導入路から前記メインチャンバに対して不活性ガスを導入させ、前記ゲートバルブが閉じて前記プルチャンバと前記メインチャンバとが分離している間は、前記不活性ガス供給装置により前記第二のガス導入路から前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入させることに特徴を有する。
【0012】
尚、前記メインチャンバに設けられ、育成中のシリコン単結晶に対する前記ヒータからの輻射熱を遮蔽する輻射シールドを更に有し、前記第二のガス導入路の前記開口部は、鉛直方向において前記輻射シールドと重ならないことが望ましい。
或いは、前記メインチャンバに設けられ、育成中のシリコン単結晶に対する前記ヒータからの輻射熱を遮蔽する輻射シールドを更に有し、前記第二のガス導入路の前記開口部は、鉛直方向において前記輻射シールドの先端部近傍に位置することが望ましい。
また、前記開口部は、円環状のスリット形状であることが望ましく、或いは、前記開口部は、円環状に沿って配置された複数の孔により形成されていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、ルツボに新たな原料ポリシリコンを追加装填するために、メインチャンバがゲートバルブによって閉じられた際であっても、メインチャンバ内には、鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入口から導入される不活性ガスが整流筒の内周面に沿って鉛直方向真下に流れる。その結果、シリコン融液の液面上を覆うように不活性ガスが流れ、特に外周側のシリコン融液の液面上にも充分なガス流が形成される。
これにより、チャンバ内に配置されているヒータ等の装置からCOガスが発生しても、不活性ガスのガス流によってチャンバ外に排出されるため、COガスがシリコン融液に溶け込むことが抑制され、引き上げるシリコン単結晶の炭素濃度の上昇を抑制することができる。
【0014】
また、上記の課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶の製造方法は、ヒータにより加熱して形成したシリコン融液を収容するルツボと、前記ルツボ及び前記ヒータを収容するメインチャンバと、前記メインチャンバの上方に配置され、シリコン単結晶が引き上げられるとともに、ゲートバルブにより前記メインチャンバと分離可能なプルチャンバと、前記メインチャンバ側に設けられ前記メインチャンバに供給される不活性ガスを整流する整流筒と、を備える単結晶引上装置における、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、前記プルチャンバ側に設けられた第一のガス導入路から、前記メインチャンバに不活性ガスを供給するとともに、シリコン融液からシリコン単結晶を育成するステップと、前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0015】
尚、前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップにおいて、円環状のスリット形状に形成された前記開口部から不活性ガスを供給することが望ましい。
或いは、前記ゲートバルブを閉じて前記メインチャンバと前記プルチャンバとを分離するとともに、前記メインチャンバ側に設けられて前記整流筒の内周面に沿って不活性ガスを供給する鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入路から、前記ルツボに収容されたシリコン融液に向けて不活性ガスを導入するステップにおいて、円環状に沿って配置された複数の孔として形成された前記開口部から不活性ガスを供給してもよい。
【0016】
このような方法によれば、ルツボに新たな原料ポリシリコンを追加装填するために、メインチャンバがゲートバルブによって閉じられた際であっても、メインチャンバ内には、鉛直方向下向きの開口部を備える第二のガス導入口から導入される不活性ガスが整流筒の内周面に沿って鉛直方向真下に流れる。その結果、シリコン融液の液面上を覆うように不活性ガスが流れ、特に外周側のシリコン融液の液面上にも充分なガス流が形成される。
これにより、チャンバ内に配置されているヒータ等の装置からCOガスが発生しても、不活性ガスのガス流によってチャンバ外に排出されるため、COガスがシリコン融液に溶け込むことが抑制され、引き上げるシリコン単結晶の炭素濃度の上昇を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゲートバルブを閉じた際のシリコン融液へのCOガスの導入を抑制し、引き上げる単結晶の炭素濃度の上昇を抑制することのできる単結晶引上装置及び単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る単結晶引上装置の断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1の単結晶引上装置が備えるガス導入治具の平面図であり、
図2(b)は、その断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る単結晶の製造方法のフロー図である。
【
図4】
図4は、
図1の単結晶引上装置においてメインチャンバ内を流れる不活性ガスのガス流を示す断面図である。
【
図5】
図5(a)は、ガス導入治具の変形例を示す平面図であり、
図5(b)は、その断面図である。
【
図6】
図6(a)、(b)、(c)は、実施例において、比較例の構成を説明するための断面図である。
【
図8】
図8は、従来の単結晶引上装置の断面図である。
【
図9】
図9は、マルチプーリング法を説明するための単結晶引上装置の断面図である。
【
図10】
図10は、マルチプーリング法を説明するための単結晶引上装置の他の断面図である。
【
図11】
図11は、マルチプーリング法を説明するための単結晶引上装置の他の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る単結晶引上装置および単結晶の製造方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係る単結晶引上装置の断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10Aの上にプルチャンバ10Bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンルツボ(或いは黒鉛ルツボ)2と、カーボンルツボ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンルツボ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0020】
また、カーボンルツボ2の下方には、このカーボンルツボ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンルツボ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0021】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融してシリコン融液Mとする抵抗加熱によるヒータ4と、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9とを備えている。引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。
尚、ヒータ4には供給電力量を制御するヒータ制御部4aが接続され、引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
【0022】
また、単結晶引上装置1は、プルチャンバ10Bの上部に第一のガス導入口(第一のガス導入路)10aを備え、この第一のガス導入口10aには、不活性ガス供給手段17よりアルゴンガスなどの不活性ガスGが供給される。炉10内においては、第一のガス導入口10aから下方のメインチャンバ10Aに向けて例えば300L/minの流量で不活性ガスGが導入される。
単結晶引上中において第一のガス導入口10aから炉内に導入される不活性ガスGは、単結晶Cの外周面に沿って下方のシリコン融液Mに向かって流れる。不活性ガスGがシリコン融液Mの液面に当たると、液面全体を覆うように径方向外側に向かって流れ、ルツボ3の外に出るとガス流出管19を通ってチャンバ外に排気されるように構成されている。
このように不活性ガスGの流れを形成することによって、シリコン融液Mから蒸発するSiOガス、或いはヒータ4等のメインチャンバ10A内に配置された部材から発生するCOガスを炉内に滞らせることなく炉外へ排出するようにしている。
【0023】
また、ルツボ3内に形成されるシリコン融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するヒータ4やシリコン融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド7の下端(先端部)と溶融液面との間のギャップは、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を一定(例えば50mm)に維持するよう制御される。
【0024】
更に、本実施の形態において、メインチャンバ10Aの天井部付近には、引き上げるシリコン単結晶Cの冷却効果を向上するために、単結晶Cの周囲を囲うように整流筒16が下方に延設されている。
単結晶引上中において第一のガス導入口10aから導入される不活性ガスGは、整流筒16の中を通り、単結晶Cの外周面に沿って下方のシリコン融液Mに向かって流れることになる。
【0025】
また、プルチャンバ10B内の下部において、整流筒16の上方には、ゲートバルブ駆動部18aにより開閉可能なゲートバルブ18が設けられ、このゲートバルブ18でプルチャンバ10Bを塞ぐ(バルブを閉じる)ことによって、メインチャンバ10A内を密閉可能となされている。即ち、プルチャンバ10Bとメインチャンバ10Aとはゲートバルブ18により、分離可能に構成されている。
また、ゲートバルブ18より下方であって、且つ整流筒16の上方には、第二のガス導入口20cが形成されたガス導入治具20が設けられている。このガス導入治具20は、ゲートバルブ18が閉じられ、メインチャンバ10Aが密閉された際に用いられる。
【0026】
図2(a)は、ガス導入治具20の平面図であり、
図2(b)は、その断面図である。ガス導入治具20は、断面L字形の管体が環状に形成されたものであり、メインチャンバ10A内において、環状の本体がシリコン融液Mの液面と平行(即ち水平)になるように配置される。
図2(a)に示すように、ガス導入治具20の外周面には、複数(図では2箇所)のガス導入管20aが外側に突出して設けられ、これらガス導入管20aは
図1に示すようにメインチャンバ10Aの側壁からチャンバ外に突出するよう配置される。ガス導入管20aには、不活性ガス供給装置17より所定流量の不活性ガスが必要に応じて供給される。
【0027】
また、ガス導入治具20の内周縁部には、下方に向かって延設された環状のスリット管20bが形成されており、このスリット管20bの外周面は、整流筒16の内周面に沿って配置されている。即ち、環状に配置されたスリット管20bの外径は、整流筒16の内径に略一致するように形成されている。
スリット管20bの先端には、円環状の開口部である第二のガス導入口20cが形成されている。これにより、ガス導入管20aからガス導入治具20内に導入される不活性ガスは、スリット20bを通って第二のガス導入口20cより炉10内に導入される。第二のガス導入管20a、スリット20b、開口部である第二のガス導入口20cが不活性ガスGをメインチャンバに導入する第二のガス導入路となる。即ち、第二のガス導入口20cから導入される不活性ガスGは、整流筒16の内周面に沿って下方のメインチャンバ10A側に流れるように構成されている。
また、第二のガス導入路の開口部(第二のガス導入口20c)は、鉛直方向において輻射シールド7と重ならないように位置している。ただし、第二のガス導入路の開口部は鉛直方向において輻射シールド7の先端部近傍に位置するようにしても良い。
【0028】
このように整流筒16の内周面に沿って不活性ガスGが下方(真下)に流れることによって、不活性ガス流がシリコン融液Mの液面に当たり、それから融液面全体を覆うように液面に沿って不活性ガスGが流れるように構成されている。これは、(単結晶Cを引き上げていない状態で)不活性ガスGを融液面中心に当てて、それから融液面に沿って径方向外側に向かって不活性ガスGを流す場合よりも、融液面の外周部まで確実に不活性ガスGが到達するガス流を形成することができ、不活性ガスの拡散を防止することができるためである。
【0029】
尚、第二のガス導入口20cから導入される不活性ガスの流量は、300L/minであることが望ましい。
また、スリット管20bのスリット幅は、6mm~13mmが望ましい。スリット幅が13mmより大きくなると、直下のルツボに流れた不活性ガスが滞留しやすくなり、ルツボ外周方向へ流れ難くなるため好ましくない。
また、第二のガス導入口20cからの不活性ガスの導入方向は、断面視におけるスリット管20bの傾斜方向によって決まるが、
図2(b)に示すように垂直下方向(シリコン融液面に対し90°の方向)であることが好ましい。
【0030】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコントローラ11(制御部)を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、回転駆動制御部9aは、ゲートバルブ駆動部18aは、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0031】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径200mmの単結晶Cをマルチプーリング法により連続して育成する場合、次のように引き上げが行われる。尚、本発明はマルチプーリング法に限定されず、ポリシリコン原料をシリコン融液に追加して溶融する追加チャージにも適用可能である。
最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば150kg)を装填し(
図3のステップS1)、コントローラ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0032】
次いで、コントローラ11は、不活性ガス供給手段17を駆動し、第一のガス導入口10aから不活性ガス(例えばアルゴンガス)を流量300L/minでチャンバ内に導入する。チャンバ10内は、所定の雰囲気(例えば、炉内圧60~110torr)となされる(
図3のステップS2)。
そして、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で所定方向に回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、サイドヒータ4による加熱によって溶融され、シリコン融液Mとされる(
図3のステップS3)。
【0033】
また、サイドヒータ4への供給電力や、引き上げ速度、磁場印加強度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、種結晶Pが軸回りに所定の回転速度で回転開始される。回転方向はルツボ3の回転方向とは逆方向になされる。そして、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pがシリコン融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部が形成される。
【0034】
そして、単結晶引上工程が開始される。すなわち、結晶径が徐々に拡径されて肩部が形成され、製品部分となる直胴部を形成する工程に移行する。
単結晶の育成が継続され、有転位することなく所望の長さまで単結晶が引き上げられると単結晶育成が完了する。即ち、所定の長さまで直胴部が形成されると、最終のテール部工程に移行し、このテール部工程において、結晶下端とシリコン融液Mとの接触面積が徐々に小さくされ、単結晶Cとシリコン融液Mとが切り離されてシリコン単結晶が製造される(
図3のステップS4)。
【0035】
1本の単結晶Cの引上げが完了し、連続して次の単結晶を引き上げる場合(ステップS5)、ゲートバルブ18が閉じられ、メインチャンバ10Aとプルチャンバ10Bとが分離される(
図3のステップS6)。
ゲートバルブ18が閉じられ、メインチャンバ10Aが密閉されると、コントローラ11は、第一のガス導入口10aからの不活性ガス導入を停止するとともに、不活性ガス供給手段17により、第二のガス導入口20cから例えば流量300L/minの不活性ガスG(例えばアルゴンガス)をメインチャンバ10A内に導入開始する。これにより、
図4に矢印で示すようにメインチャンバ10A内に不活性ガスGによる所定のガス流が形成される(
図3のステップS7)。
【0036】
より具体的には、第二のガス導入口20cから導入された不活性ガスGは、
図4に示すように整流管16の内周面に沿って下方に流れ、(育成する単結晶の径より直径が大きい)筒状のガス流を形成し、ルツボ3内に残るシリコン融液Mの液面にぶつかる。そして不活性ガスGは、シリコン融液Mの液面全体を覆うように、径方向外側に向かって流れるガス流を形成する。融液面Mの外周部に到達した不活性ガスは、ルツボ上端を乗り越えてルツボ側方に流れ、チャンバ内の下方に向かって流れ、ガス流出管19によってチャンバ外に排気される。
【0037】
このようにメインチャンバ10Aがゲートバルブ18によって閉じられている間、メインチャンバ10A内には、第二のガス導入口20cから導入される不活性ガスによって、シリコン融液Mの液面上を覆うように流れるガス流が形成される。これにより、チャンバ内に配置されているヒータ等の装置からCOガスが発生しても、不活性ガスGのガス流によってチャンバ外に排出される。
【0038】
一方、ゲートバルブ18が閉じられると、プルチャンバ10B内に、原料ポリシリコンが充填されたリチャージ管(図示せず)がセットされ(
図3のステップS8)、その後再びゲートバルブ18が開けられる(
図3のステップS9)。
コントローラ11は、第二のガス導入口20cからの不活性ガス導入を停止するとともに、不活性ガス供給手段17により、第一のガス導入口10aから例えば流量300L/minの不活性ガスG(例えばアルゴンガス)をメインチャンバ10A内に導入開始する(
図3のステップS10)。
そして、リチャージ管が下降され、ルツボ内に新たな原料ポリシリコンが投入されて装填される(
図3のステップS11)。
その後、
図3のステップS3に戻り、続けて次の単結晶Cの引上げが行われる。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、ルツボ3に新たな原料ポリシリコンを追加装填するために、メインチャンバ10Aがゲートバルブ18によって閉じられた際、メインチャンバ10A内には、第二のガス導入口20cから導入される不活性ガスGによって、シリコン融液Mの液面全体を覆うように流れ、その後チャンバ外に排気されるガス流が形成される。
これにより、チャンバ内に配置されているヒータ等の装置からCOガスが発生しても、不活性ガスGのガス流によってチャンバ外に排出されるため、COガスがシリコン融液Mに溶け込むことが抑制され、引き上げるシリコン単結晶の炭素濃度の上昇を抑制することができる。
【0040】
尚、前記実施の形態においては、ガス導入治具20の内周縁部に、下方に向かって延設された環状のスリット管20bが形成されている構成とした。しかしながら、本発明にあっては、この構成に限定されるものではない。例えば、
図5(a)の平面図、
図5(b)の断面図に示すようにスリット管20bに代えて複数の棒状の管20dを周方向に多数配置し(多孔方式)、それら複数の管20dの下端に形成された第二のガス導入口20eから不活性ガスを真下に流すようにしてもよい。或いは、多数配置せずに、2つの棒状の管20dのみを周上に配置して、第二のガス導入口20eから不活性ガスを真下に流すようにしてもよい。
また、第一のガス導入口と第二のガス導入口に不活性ガスを導入する不活性ガス供給装置17は、それぞれ別々に設けても良い。
【実施例0041】
本発明に係る単結晶引上装置および単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
本実施例では、
図1の構成において、直径32インチの石英ルツボ内に300kgのシリコン原料を充填し、炉内圧65torr、第一のガス導入口10aからアルゴンガスを流量300L/minでメインチャンバ10Aに流した。そして、ルツボ回転数を5~6rpm、結晶回転数を8rpm(ルツボ回転とは逆方向)とし、引上げ速度1.4mm/minで結晶径12インチを目標として単結晶育成を行った。
【0042】
1本目の単結晶を引き上げた後に、ゲートバルブ18を閉じ、アルゴンガスの供給を第一のガス導入口10aから第二のガス導入口20cに切り替え、この第二のガス導入口20cよりアルゴンガスを300L/minの流量でメインチャンバ内に導入した。
また、ゲートバルブを開くとともにアルゴンガスの供給を第二のガス導入口20cから第一のガス導入口10aに切り替え、原料ポリシリコンをルツボ内に追加した。
1本目と同じ引き上げ条件にて2本目の単結晶を引き上げ、この単結晶の最テール部を切り出して、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)により炭素濃度を測定し評価を行った。
【0043】
(実施例1)
実施例1では、第二のガス導入口を
図2に示したようなスリット管の下端に形成し(スリット方式)、直下に向けて(シリコン融液面に対し90°)、アルゴンガスを流した。スリット幅は13mmとした。
(実施例2)
実施例2では、第二のガス導入口を
図5に示したような12本の棒状の管の下端に形成し(多孔方式)、直下に向けて(シリコン融液面に対し90°)、アルゴンガスを流した。導入口の径は13mmとした。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、
図6(a)に示すように第二のガス導入口20cをスリット管20bの先端に形成し(スリット方式)、チャンバ中央に向けて(シリコン融液面に対し平行(180°))、アルゴンガスGを流した。スリット幅は13mmとした。
(比較例2)
比較例2では、
図6(b)に示すように第二のガス導入口20cをスリット管20bの先端に形成し(スリット方式)、シリコン融液面に対し斜め45°下方に向けてアルゴンガスGを流した。スリット幅は13mmとした。
(比較例3)
比較例3では、
図6(c)に示すように第二のガス導入口20cをスリット管20bの先端に形成し(スリット方式)、シリコン融液面に対し斜め75°下方に向けてアルゴンガスGを流した。スリット幅は13mmとした。
【0045】
図7のグラフに実施例の結果を示す。
図7のグラフにおいて、縦軸は炭素濃度(arb.unit)、横軸は、実施例1、2、比較例1、2、3である。
実施例1、2、比較例1、2、3ともに有転位化することなく単結晶を引き上げることができたが、実施例1、2では、炭素濃度1.0arb.unit以下となり、比較例1、2、3に対し大きく炭素濃度が低くなった。
本実施例によれば、マルチプーリング法において2本目以降に引き上げる単結晶を実施例1では1本目の単結晶と同程度の炭素濃度に抑えることができることを確認した。同様に実施例2についても2本目以降に引き上げる単結晶を1本目の単結晶とほぼ同程度の炭素濃度に抑えることができることを確認した。