(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079177
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】二次電池用負極材料、二次電池用負極層、固体二次電池およびその充電方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20230531BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230531BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230531BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230531BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230531BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/42
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181961
(22)【出願日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2021192390
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(71)【出願人】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直毅
(72)【発明者】
【氏名】藤木 聡
(72)【発明者】
【氏名】有満 望
(72)【発明者】
【氏名】山口 東吾
【テーマコード(参考)】
5H029
5H030
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM12
5H029CJ16
5H029HJ19
5H030AA06
5H030BB03
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB13
5H050CB29
5H050GA18
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】デンドライトの発生や成長による短絡を、従来よりもさらに抑制することができる固体二次電池を提供する。
【解決手段】無定形炭素と、電気化学反応によってリチウムと合金を形成する第1元素とを含有するものであり、前記無定形炭素がカーボンブラックであり、前記カーボンブラックの一次粒子が多孔性であり、平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm
2/g)の値が5以上35以下で規定されることを特徴とする二次電池用負極材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無定形炭素と、電気化学反応によってリチウムと合金を形成する第1元素とを含有するものであり、
前記無定形炭素がカーボンブラックであり、
前記カーボンブラックの一次粒子が多孔性であり、平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)の値が5以上35以下であることを特徴とする二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記カーボンブラックがさらに以下の(1)及び(2)の条件を満たしている、請求項1記載の二次電池用負極材料。
(1)前記カーボンブラックの平均一次粒径が、10nm以上80nm以下である。
(2)前記カーボンブラックの凝集体径が、50nm以上300nm以下である。
【請求項3】
前記カーボンブラックが以下の(1)乃至(4)の全ての条件を満たしている、請求項1記載の二次電池用負極材料。
(1)前記カーボンブラックの平均一次粒径が、10nm以上80nm以下である。
(2)前記カーボンブラックの凝集体径が、50nm以上300nm以下である。
(3)前記カーボンブラックのオイル吸収量が、200ml/100g以上、350ml/100g以下である。
(4)前記カーボンブラックの全細孔容積が0.5ml/g以上、3ml/g以下であること。
【請求項4】
前記カーボンブラックがファーネスブラックである、請求項1記載の二次電池用負極材料。
【請求項5】
前記無定形炭素と前記第1元素との合計含有量を100質量部とした場合における前記無定形炭素の含有量が50質量部以上85質量部以下である、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項6】
前記第1元素が、銀、亜鉛、白金、金及びパラジウムからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項7】
前記第1元素が、銀または亜鉛であることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項8】
電気化学反応によってリチウムと合金を形成しない第2元素をさらに含有する、請求項1に記載の二次電池用負極材料。
【請求項9】
前記無定形炭素の含有量を100質量部とした場合における前記第2元素の含有量が、16質量部以上100質量部以下である、請求項8に記載の二次電池用負極材料。
【請求項10】
前記第2元素が鉄またはニッケルである、請求項8に記載の二次電池用負極材料。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の二次電池用負極材料を含有する二次電池用負極層。
【請求項12】
板状の集電体と、
該集電体上に形成された負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層が請求項1乃至10の何れか一項に記載の二次電池用負極材料からなるものであり、
前記負極活物質層が前記集電体上に1cm2あたり0.3mg以上2mg以下の範囲で形成されている、請求項11に記載の二次電池用負極層。
【請求項13】
請求項11に記載の二次電池用負極層と、正極層と、これら負極層及び正極層の間に配置された固体電解質層とを備えた全固体二次電池。
【請求項14】
前記正極層の初期充電容量と前記負極層の初期充電容量との比が、以下の数式(1)の要件を満たすことを特徴とする、請求項13に記載の全固体二次電池。
0.01<b/a<0.5 (1)
a:正極層の初期充電容量(mAh)
b:負極層の初期充電容量(mAh)
【請求項15】
請求項14に記載の全固体二次電池を、前記負極層の充電容量を超えて充電することを特徴とする全固体二次電池の充電方法。
【請求項16】
前記負極層の充電容量の2倍以上100倍以下の範囲で充電する、請求項15記載の全固体二次電池の充電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極材料、二次電池用負極層、固体二次電池およびその充電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムを負極活物質として使用する固体二次電池としては、充電によって負極層に析出するリチウムを活物質として用いるものを挙げることができる。このような固体二次電池においては、負極側に析出したリチウムが、固体電解質層の隙間を縫うように枝状に成長することがあり(いわゆるリチウムデンドライト)、これが電池の短絡の原因となるばかりでなく、電池容量の低下を引き起こしてしまう。
【0003】
そこで、固体電解質層におけるリチウムデンドライトの発生や成長を抑えることが出来る固体二次電池として特許文献1のようなものが考えられている。この特許文献1記載の全固体二次電池においては、負極活物質として無定形炭素と、リチウムと合金又は化合物を形成する元素とを使用する。この電池を充電すると、充電の初期には前述した負極活物質によって形成された負極活物質層内にリチウムが吸蔵され、この負極活物質層の充電容量を超えた後に、負極活物質層の内部又は負極活物質層の裏側(集電体側)にリチウムを析出させることができる。その結果、固体電解質層におけるリチウムデンドライトの発生や成長を抑えて、短絡及び電池容量の低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Naoki Suzuki等、「Synthesis and Electrochemical Properties of I4--type Li1+2xZn1-xPS4 Solid Electrolyte」、Chemistry of Materials、2018年3月9日発行、No.30、2236-2244(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リチウムデンドライトの発生や成長をさらに抑制するべく、本発明者が鋭意検討した結果、負極活物質として使用する無定形炭素の多孔度を所定の範囲内のものとすることにより、固体二次電池の短絡がさらに抑制されることを見出して初めて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る二次電池用負極材料は、無定形炭素と、電気化学反応によってリチウムと合金を形成する第1元素とを含有するものであり、前記無定形炭素が多孔性のカーボンブラックであり、その平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)の値が5以上35以下であることを特徴とするものである。
【0008】
なお、電気化学反応によって、ある元素がリチウムと合金又は化合物を形成するかどうかは、例えば以下のような実験をすることによって判断することができる。まず、Li金属箔を対極とし、対象の元素の粉末と固体電解質の粉末とを重量比1:1で混合した粉末10mgを作用極として、OCV(開放電圧)から0.01VまでCC-CV充電を行う。対象の元素がリチウムと合金又は化合物を形成する場合は、対象元素の重量当たり数百~数千mAh/gの容量が観測される。一方合金又は化合物を形成しない場合は、ほとんど容量が観察されない。
【0009】
このように構成した二次電池用負極材料によれば、固体二次電池における短絡を従来よりもさらに抑制することができる。
【0010】
より短絡抑制効果を発揮するためには、前記カーボンブラックがさらに以下の(1)及び(2)の条件を満たしていることが好ましい。
(1)前記カーボンブラックの平均一次粒子径が、10nm以上80nm以下である。
(2)前記カーボンブラックの凝集体径が、50nm以上300nm以下である。
【0011】
前記カーボンブラックが、前述した(1)及び(2)に加えてさらに以下の(3)及び(4)の条件をも全て満たしていることがより好ましい。
(3)前記カーボンブラックのオイル吸収量が、200ml/100g以上、350ml/100g以下である。
(4)前記カーボンブラックの全細孔容積が0.5ml/g以上、3ml/g以下であること。
【0012】
前記カーボンブラックとして、ファーネスブラックを使用することが特に好ましい。
【0013】
前記二次電池用負極材料に含有される前記無定形炭素と前記第1元素との合計含有量を100質量部とした場合における前記無定形炭素の含有量が33質量部以上95質量部以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の具体的な実施態様としては、前記第1元素が銀または亜鉛である態様を挙げることができる。
【0015】
固体二次電池の製造コストを低減するためには、前記二次電池用負極材料が電気化学反応によってリチウムと合金を形成しない第2元素を含有するものであることが好ましい。
【0016】
本発明の具体的な実施態様としては、二次電池用負極材料中に含有される前記無定形炭素の含有量を100質量部とした場合における前記第2元素の含有量が、16質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0017】
固体二次電池の製造コストを低減し、かつ固体二次電池の電池特性を従来以上に向上させるためには、前記第2元素が鉄またはニッケルであることが好ましい。
【0018】
板状の集電体と、この集電体上に積層された前記二次電池用負極材料からなる負極活物質層とを備え、前記集電体上に前記負極活物質層が1cm2あたり0.3mg以上2mg以下の範囲で形成されている二次電池用負極層とすれば、固体二次電池における短絡をより抑制できるので好ましい。
【0019】
本発明の具体的な実施態様としては、正極層と、負極層と、これら正極層と負極層との間に配置された固体電解質層とを備え、前記負極層が前述したような負極活物質材料を含有するものであり、前記正極層の初期充電容量と前記負極層の初期充電容量とが以下の式(1)を満たしている固体二次電池を挙げることができる。
0.01<b/a<0.5 (1)
式(1)中のaは正極層の充電容量(mAh)を、bは負極層の充電容量(mAh)をそれぞれ表している。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明によれば、固体二次電池における短絡を従来よりもさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る全固体二次電池においてリチウム金属層が析出した場合を示す概略構成を示す断面図である。
【
図4】本実施形態に係る全固体二次電池においてリチウム金属層が析出した場合を示す概略構成を示す断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る全固体二次電池の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<1.本実施形態に係る固体二次電池の基本構成>
本実施形態に係る固体二次電池1は、
図1に示すように、正極層10、負極層20、及び固体電解質層30を備える全固体二次電池である。
【0024】
(1-1.正極層)
正極層10は、正極集電体11及び正極活物質層12を含む。正極集電体11としては、例えば、インジウム(In)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)またはこれらの合金からなる板状体または箔状体等が挙げられる。正極集電体11は省略されても良い。
【0025】
正極活物質層12は、正極活物質及び固体電解質を含む。なお、正極層10に含まれる固体電解質は、固体電解質層30に含まれる固体電解質と同種のものであっても、同種でなくてもよい。固体電解質の詳細は固体電解質層30の項にて詳細に説明する。
【0026】
正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出することが可能な正極活物質であればよい。
【0027】
例えば、正極活物質は、コバルト酸リチウム(以下、LCOと称する)、ニッケル酸リチウム(Lithium nickel oxide)、ニッケルコバルト酸リチウム(lithium nickel cobalt oxide)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、NCAと称する)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、NCMと称する)、マンガン酸リチウム(Lithium manganate)、リン酸鉄リチウム(lithium iron phosphate)等のリチウム塩、硫化ニッケル、硫化銅、硫化リチウム、硫黄、酸化鉄、または酸化バナジウム(Vanadium oxide)等を用いて形成することができる。これらの正極活物質は、それぞれ単独で用いられてもよく、また2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0028】
また、正極活物質は、上述したリチウム塩のうち、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩を含んで形成されることが好ましい。ここで「層状岩塩型構造」とは、立方晶岩塩型構造の<111>方向に酸素原子層と金属原子層とが交互に規則配列し、その結果それぞれの原子層が二次元平面を形成している構造である。また「立方晶岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことを表し、具体的には、陽イオンおよび陰イオンの各々が形成する面心立方格子が互いに単位格子の稜の1/2だけずれて配置された構造を表す。
【0029】
このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、LiNixCoyAlzO2(NCA)、またはLiNixCoyMnzO2(NCM)(ただし、0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z=1)などの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0030】
正極活物質が、上記の層状岩塩型構造を有する三元系遷移金属酸化物のリチウム塩を含む場合、全固体二次電池1のエネルギー(energy)密度および熱安定性を向上させることができる。
【0031】
正極活物質は、被覆層によって覆われていても良い。ここで、本実施形態の被覆層は、全固体二次電池の正極活物質の被覆層として公知のものであればどのようなものであってもよい。被覆層の例としては、例えば、Li2O-ZrO2等が挙げられる。
【0032】
また、正極活物質が、NCAまたはNCMなどの三元系遷移金属酸化物のリチウム塩にて形成されており、正極活物質としてニッケル(Ni)を含む場合、前記被覆層は全固体二次電池1の容量密度を上昇させ、充電状態での正極活物質からの金属溶出を少なくすることができる。これにより、本実施形態に係る全固体二次電池1は、充電状態での長期信頼性およびサイクル(cycle)特性を向上させることができる。
【0033】
ここで、正極活物質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状を挙げることができる。また、正極活物質の粒径は特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極活物質に適用可能な範囲であれば良い。なお、正極層10における正極活物質の含有量も特に制限されず、従来の全固体二次電池の正極層10に適用可能な範囲であれば良い。
【0034】
また、正極層10には、上述した正極活物質および固体電解質に加えて、例えば、導電助剤、結着材、フィラー(filler)、分散剤、イオン導電助剤等の添加物が適宜配合されていてもよい。
【0035】
正極層10に配合可能な導電助剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等を挙げることができる。また、正極層10に配合可能なバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。さらに、正極層10に配合可能なフィラー、分散剤、イオン導電助剤等としては、一般に全固体二次電池の電極に用いられる公知の材料を用いることができる。
【0036】
正極層10は液体の電解液を含んでいてもよい。この場合は正極層10に固体電解質が含まれていなくてもよい。電解液はリチウムイオン電池に使用可能なものであれば、どのような種類のものであってもよい。電解液を含有する正極層10とすることによって、正極活物質粒子間のイオン伝導が容易になり出力が向上する。ただし、正極層10が電解液を含有する場合には、固体電解質層30によって、電解液の負極側への浸入が抑止されていなければならない。
【0037】
(1-2.負極層)
負極層20は、負極集電体21及び負極活物質層22を含む。負極集電体21は、リチウムと反応しない、すなわち合金および化合物のいずれも形成しない材料で構成されることが好ましい。負極集電体21を構成する材料としては、例えば、銅(Cu)、ステンレス鋼、チタン(Ti)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、およびニッケル(Ni)が挙げられる。負極集電体21は、これらの金属のいずれか1種で構成されていても良いし、2種以上の金属の合金またはクラッド材で構成されていても良い。負極集電体21は、例えば板状または箔状である。
【0038】
ここで、
図2に示すように、負極集電体21の表面に薄膜24が形成されていてもよい。薄膜24はリチウムと合金を形成することが可能な元素を含む。該元素としては、例えば、金、銀、亜鉛、錫、インジウム、ケイ素、アルミニウム、ビスマスなどを挙げることができる。薄膜24は、これらの金属のいずれか1種で構成されていてもよく、複数種類の合金で構成されていても良い。薄膜24が存在することにより、金属層23の析出形態がより平坦になり、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0039】
ここで、薄膜24の厚さは特に制限されないが、1nm以上500nm以下であることが好ましい。薄膜24の厚さが1nm未満となる場合、薄膜24による機能を十分に発揮できない可能性がある。薄膜24の厚さが500nmを超える場合、薄膜24自身のリチウム吸蔵により、負極へのリチウムの析出量が減少し、全固体二次電池1の特性がかえって低下する可能性がある。薄膜24は、例えば真空蒸着法、スパッタ法、メッキ法により負極集電体21上へ形成される。
【0040】
負極活物質層22は、リチウムと合金又は化合物を形成する負極活物質を含む。正極活物質層12の充電容量と負極活物質層22の充電容量との比、すなわち容量比は、以下の数式(1)の要件を満たす。
0.01<b/a<0.5 (1)
a:正極活物質層12の充電容量(mAh)
b:負極活物質層22の充電容量(mAh)
【0041】
ここで、正極活物質層12の充電容量は、正極活物質の充電容量密度(mAh/g)に正極活物質層12中の正極活物質の質量を乗じることで得られる。正極活物質が複数種類使用される場合、正極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を正極活物質層12の充電容量とすれば良い。負極活物質層22の充電容量も同様の方法で算出される。すなわち、負極活物質層22の充電容量は、負極活物質の充電容量密度(mAh/g)に負極活物質層22中の負極活物質の質量を乗じることで得られる。負極活物質が複数種類使用される場合、負極活物質毎に充電容量密度×質量の値を算出し、これらの値の総和を負極活物質層22の容量とすれば良い。ここで、正極および負極活物質の充電容量密度は、リチウム金属を対極に用いた全固体ハーフセルを用いて見積もられた容量である。実際には、全固体ハーフセルを用いた測定により正極活物質層12および負極活物質層22の充電容量が直接測定される。
【0042】
充電容量を直接測定する具体的な方法としては、以下の様な方法を挙げることができる。まず正極活物質層12の充電容量は、正極活物質層12を作用極、Liを対極として使用したテストセルを作製し、OCV(開放電圧)から上限充電電圧までCC-CV充電を行うことで測定する。該上限充電電圧とは、JIS C 8712:2015の規格で定められたものであり、リチウムコバルト酸系の正極に対しては4.25V、それ以外の正極についてはJIS C 8712:2015のA.3.2.3(異なる上限充電電圧を適用する場合の安全要求事項)の規定を適用して求められる電圧を指す。負極活物質層22の充電容量については、負極活物質層22を作用極、Liを対極として使用したテストセルを作製し、OCV(開放電圧)から0.01VまでCC-CV充電を行うことで測定する。
【0043】
前述したテストセルについては、例えば、以下のような方法で作製することができる。充電容量を測定したい正極活物質層12又は負極活物質層22を直径13mmの円板状に打ち抜く。全固体二次電池1に用いるものと同じ固体電解質粉末200gを40MPaで固めて、直径13mmで厚みが約1mmのペレット状にする。内径が13mmの筒の内部にこのペレットを入れて、その片側から円板状に打ち抜いた正極活物質層12又は負極活物質層22を入れ、反対側から直径13mm厚みが0.03mmのリチウム箔を入れる。さらに両側からステンレス鋼の円板を1つずつ入れて、全体を筒の軸方向に300MPaで一分間加圧して内容物を一体化させる。一体化した内容物を筒から取り出して、常時22MPaの圧力がかかるようにケース内に封入してテストセルとする。正極活物質層12の充電容量測定は、上記のようにして作製したテストセルを、例えば、電流密度0.1mAでCC充電をした後、0.02mAまでCV充電をすることによって行うことができる。
【0044】
この充電容量をそれぞれの活物質の質量で除算することで、充電容量密度が算出される。正極活物質層12および負極活物質層22の初期充電容量は、1サイクル目の充電時に測定される初期充電容量であってもよい。後述する実施例では、この値を用いた。
【0045】
このように、負極活物質層22の充電容量に対して正極活物質層12の充電容量が過大になる。後述するように、本実施形態では、全固体二次電池1を、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。すなわち、負極活物質は、正極層10から移動してきたリチウムイオンと合金又は化合物を形成する。負極活物質層22の容量を超えてさらに充電が行われると、
図3に示すように、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって金属層23が形成される。金属層23は、例えば、
図4に示すように、負極活物質層22の内部に形成されることがある。言い換えると、2枚に割れた負極活物質層22に挟まれるようにして金属層23が形成される場合もある。金属層23は主にリチウム(すなわち、金属リチウム)で構成される。このような現象は、負極活物質として特定の物質、すなわちリチウムと合金又は化合物を形成する元素を含有するものとすることで生じる。放電時には、負極活物質層22および金属層23中のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。したがって、全固体二次電池1では、リチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極活物質層22は、金属層23を被覆するので、金属層23の保護層として機能するとともに、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池1の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池1の特性が向上する。
【0046】
ここで、前記容量比は0.01より大きい。容量比が0.01以下となる場合、全固体二次電池1の特性が低下する。この理由としては、負極活物質層22が保護層として十分機能しなくなることが挙げられる。例えば、負極活物質層22の厚さが非常に薄い場合、容量比が0.01以下となりうる。この場合、充放電の繰り返しによって負極活物質層22が崩壊し、デンドライトが析出、成長する可能性がある。この結果、全固体二次電池1の特性が低下する。また、前記容量比は、0.5よりも小さいことが好ましい。前記容量比が0.5以上になると、負極におけるリチウムの析出量が減って、電池容量が減ってしまうことが考えられるからである。同様の理由から、前記容量比が0.25未満であることがより好ましいと考えられる。また、前記容量比が0.25未満であることによって電池の出力特性も、より向上させることができる。
【0047】
上述する機能を実現するための負極活物質層22としては、例えば、負極活物質として、無定形炭素と、第1元素とを含むもの挙げることができる。
前記無定形炭素としては、カーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック(acetylene black, furnace black, ketjen black)等を挙げることができる。
前記第1元素は、リチウムと合金又は化合物を形成する元素であり、具体的には、金、白金、パラジウム、銀及び亜鉛からなる群から選択されるいずれか1種以上を挙げることができる。
【0048】
前記第1元素として金、白金、パラジウム、銀及び亜鉛のいずれか1種以上を使用する場合、これらの負極活物質は、例えば粒形状のものであり、その粒径は4μm以下、より好ましくは300nm以下であることが好ましい。この場合、全固体二次電池1の特性が更に向上する。ここで、負極活物質の粒径は、例えばレーザー式粒度分布系を用いて測定したメジアン径(いわゆるD50)を用いることができる。以下の実施例、比較例では、この方法により粒径を測定した。粒径の下限値は特に制限されないが、10nmであってもよい。
【0049】
前記負極活物質層22は、リチウムと合金又は化合物を形成しない第2元素をさらに含有するものとしても良い。
前記第2元素は、元素周期表の第4周期に属する元素であり、かつ第3族から第11属までに属する元素であれば良い。より具体的には、前記第2元素は、鉄、銅、ニッケル及びチタンからなる群より選ばれる1種以上であり、これらのうちの何れか一種のみであっても良いし、これらのうちの複数種類を併用するものとしても良い。
これら第2元素は、粒状のものであることが好ましく、好ましい平均一次粒径は各元素によっても違うが、例えば、65nm以上800nm以下であることが好ましい。
【0050】
負極活物質層22に含まれる無定形炭素の含有量は、負極活物質の含有量(本実施形態の場合には、無定形炭素及び第1元素の合計含有量)を100質量部とした場合に、33質量部以上95質量部以下の範囲であることが好ましい。
前記第1元素は、負極活物質層22に含まれる無定形炭素の含有量を100質量部とした場合に、10質量部以上25質量部以下であることが好ましく、15質量部以上20質量部以下であることがより好ましい。
前記第2元素の含有量は、負極活物質層22に含まれる無定形炭素の含有量を100質量部とした場合に、16質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0051】
さらに、負極活物質層22は、バインダを含んでいても良い。このようなバインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等が挙げられる。バインダは、これらの1種で構成されていても、2種以上で構成されていても良い。
【0052】
負極活物質層22にバインダを含めることで、負極活物質層22を負極集電体21上で安定化させることができる。例えば、負極活物質層22にバインダを含めない場合、負極活物質層22が負極集電体21から脱離しやすくなる可能性がある。負極活物質層22が負極集電体21から離脱した箇所では、負極集電体21がむき出しになるので、短絡が発生する可能性がある。さらに、詳細は後述するが、負極活物質層22は、負極活物質層22を構成する材料が分散したスラリーを負極集電体21上に塗布、乾燥することで作製される。バインダを負極活物質層22に含めることで、前述したスラリー中に負極活物質を安定して分散させることができる。この結果、例えばスクリーン印刷でスラリーを負極集電体21上に塗布する場合、スクリーンへの目詰まり(例えば、負極活物質の凝集体による目詰まり)を抑制することができる。
【0053】
ここで、負極活物質層22にバインダを含める場合、バインダの含有率は、負極活物質の総質量を100質量部とした場合に0.3質量部以上15質量部以下であることが好ましい。バインダの含有率が0.3質量部以上であれば、膜の強度が十分なものとなり、特性が低下することを抑えることができる。バインダの含有率が20質量部以下である場合、全固体二次電池1の特性低下を抑えることができる。バインダの含有率の好ましい下限値は1質量部である。
【0054】
負極活物質層22の厚さは、上記数式(1)の要件を満たされる範囲であれば特に制限されないが、1μm以上20μm以下であることが好ましい。負極活物質層22の厚さが1μm未満となる場合、全固体二次電池1の特性が十分に改善しない可能性がある。負極活物質層22の厚さが20μmを超える場合、負極活物質層22の抵抗値が高くなり、結果として全固体二次電池1の特性が十分に改善しない可能性がある。
負極活物質層22の厚みは、例えば、全固体二次電池を組み立てて、加圧成形した後の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察することによって見積もることができる。
【0055】
負極活物質層22には、従来の全固体二次電池で使用される添加剤、例えばフィラー、分散剤、イオン導電剤等が適宜配合されていてもよい。
【0056】
(1-3.固体電解質層)
固体電解質層30は、正極層10および負極層20の間に形成され、固体電解質を含む。
【0057】
固体電解質は、例えば硫化物系固体電解質材料や酸化物系固体電解質で構成される。硫化物系固体電解質材料としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiX(Xはハロゲン元素、例えばI、Cl)、Li2S-P2S5-Li2O、Li2S-P2S5-Li2O-LiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B2S3-LiI、Li2S-SiS2-P2S5-LiI、Li2S-B2S3、Li2S-P2S5-ZmSn(m、nは正の数、ZはGe、ZnまたはGaのいずれか)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-LipMOq(p、qは正の数、MはP、Si、Ge、B、Al、GaまたはInのいずれか)等を挙げることができる。ここで、硫化物系固体電解質材料は、出発原料(例えば、Li2S、P2S5等)を溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法等によって処理することで作製される。また、これらの処理の後にさらに熱処理を行っても良い。固体電解質は、非晶質であっても良く、結晶質であっても良く、両者が混ざった状態でも良い。
【0058】
また、固体電解質として、上記の硫化物固体電解質材料のうち、少なくとも構成元素として硫黄(S)、リン(P)およびリチウム(Li)を含むものを用いることが好ましく、特にLi2S-P2S5を含むものを用いることがより好ましい。
【0059】
ここで、固体電解質を形成する硫化物系固体電解質材料としてLi2S-P2S5を含むものを用いる場合、Li2SとP2S5との混合モル比は、例えば、Li2S:P2S5=50:50~90:10の範囲で選択されてもよい。また、固体電解質層30には、バインダを更に含んでいても良い。固体電解質層30に含まれるバインダは、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリエチレン(polyethylene)等を挙げることができる。固体電解質層30内のバインダは、正極活物質層12および負極活物質層22内のバインダと同種であってもよいし、異なっていても良い。
【0060】
酸化物系固体電解質としては、例えばガーネット型複合酸化物、ペロブスカイト型酸化物、LISICON型複合酸化物、NASICON型複合酸化物、Liアルミナ型複合酸化物、LiPON、酸化物ガラスが挙げられる。これらの酸化物系固体電解質のうち、リチウム金属に対しても安定的に使用できる酸化物系固体電解質を選択することが好ましい。例えば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al10.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al10.5Ge1.5(PO4)3が好適である。
【0061】
<2.本実施形態に係る固体二次電池の特徴構成>
しかして、本実施形態に係る全固体二次電池1の負極活物質層22が含有する前記無定形炭素の一次粒子は多孔性であり、その平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)の値が5以上35以下である。ここで、我々が用いる指標[平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)]の物理的な意味について説明する。無定形炭素の一次粒子を直径a(cm)の真球と考えた場合、表面積(cm2/g)は、6/aρとなる。(ρは炭素粒子の真密度(g/cm3)。)カーボンを多孔化した場合、表面積が増大し、6/aρよりも大きい値となるはずである。したがって、表面積に一次粒径をかけることにより、この指標は粒径に依存しなくなり、多孔性によって表面積が増大している度合いを表すことになる。すなわち、この指標の値が大きくなれば、前記無定形炭素の多孔性も大きくなる。この指標[平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)]の値は、5以上35以下であることがより好ましく、10以上30以下であることがさらに好ましく、13以上30以下であることが特に好ましい。
【0062】
なお、無定形炭素の平均一次粒径(cm)は、例えばレーザー式粒度分布計や透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。前記無定形炭素の平均一次粒径は、10nm以上80nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、10nm以上40nm以下であることが特に好ましい。
また、窒素吸着比表面積(cm2/g)は、窒素吸着法(多点法)(JIS K6217-2:2017)により測定することができる。具体的には、高温で一度脱気した例えばカーボンブラック等の無定形炭素を、真空下で液体窒素温度に冷却する。そして窒素ガスを導入し、平衡状態に達したのち、窒素雰囲気圧と窒素吸着量を測定する。この測定を相対圧力[窒素雰囲気圧/飽和蒸気圧]が0.05~0.35付近の範囲で複数回測定を行い、得られた窒素雰囲気圧と窒素吸着量の値をBET(Brunauer-Emmett-Teller)の式に当てはめることにより単分子吸着量(試料表面第一層に吸着した窒素ガスの体積)を求める。この単分子吸着量と試料重量から窒素吸着比表面積の値を算出することができる。
前記無定形炭素は、例えば、平均一次粒径が、10nm以上80nm以下であり、凝集体径が50nm以上300nm以下であるカーボンブラックを原料として用いて、これを多孔化したものを使用することが好ましい。多孔化する手法としては、例えばガス賦活法や薬品賦活法が挙げられる。なお、この多孔化の工程の前後で、無定形炭素の平均一次粒径及び凝集体径が変化することはない。
無定形炭素の凝集体径は、例えばTEMを用いて測定することができる。前記無定形炭素の凝集体径は、50nm以上300nm以下であることが好ましく、60nm以上250nm以下であることが特に好ましい。
【0063】
さらに、前記無定形炭素のオイル吸収量が、200ml/100g以上、350ml/100g以下であることが好ましく、200ml/100g以上、340ml/100g以下であることがより好ましい。
ここでの無定形炭素のオイル吸収量とは、無定形炭素が1種である場合は、当該1種の無定形炭素のオイル吸収量である。また、無定形炭素が複数種である場合は、複数種の無定形炭素のそれぞれのオイル吸収量である。
【0064】
無定形炭素のオイル吸収量は、JIS K6217-4:2017に準拠するオイル吸収量の測定により算出することができる。具体的には、回転翼によってかき混ぜられている試料にオイル(フタル酸ジブチル(DBP)又はパラフィンオイル)を定速度ビュレットで滴定する。オイルを添加するにつれて、この混合物は自由に流動する粉体から、やや粘性をもつ塊へと変化する。粘性特性の変化によって発生するトルクが、設定値に達するか、又はトルク曲線から得られた最大トルクの一定割合に達した時点をこの測定の終点とする。終点時のオイルの体積(ml)を試料質量(g)で割り、100倍することにより、オイル吸収量(ml/100g)を求めることができる。
【0065】
さらに言えば、前記無定形炭素の全細孔容積が0.5ml/g以上、3ml/g以下であることが好ましく、0.55ml/g以上、2.5ml/g以下であることがより好ましく、0.55ml/g以上、2.0ml/g以下であることが特に好ましい。
ここで前記無定形炭素の全細孔容積は、前述した窒素吸着比表面積の測定と一緒に行うことができる。飽和蒸気圧付近の圧力では、細孔内で吸着ガスの毛管凝縮現象が起こり、吸着ガスが殆どの細孔内に液相状態で存在する。したがって前述した窒素雰囲気圧と窒素吸着量の測定を飽和蒸気圧付近で行い、このときの吸着ガスの量を液体換算することにより全細孔容積を求めることができる。
【0066】
なお、無定形炭素のオイル吸収量及び全細孔容積については、これら両方が前述した範囲を満たしていることがより好ましい。
【0067】
<3.本実施形態に係る固体二次電池の製造方法>
続いて、本実施形態に係る全固体二次電池1の製造方法について説明する。本実施形態に係る全固体二次電池1は、正極層10、負極層20、および固体電解質層30をそれぞれ製造した後、上記の各層を積層することにより製造することができる。
【0068】
(3-1.正極層作製工程)
まず、正極活物質層12を構成する材料(正極活物質、バインダ等)を非極性溶媒に添加することで、スラリー(slurry)(スラリーはペースト(paste)であってもよい。他のスラリーも同様である。)を作製する。ついで、得られたスラリーを正極集電体11上に塗布し、乾燥する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、正極層10を作製する。加圧工程は省略されても良い。正極活物質層12を構成する材料の混合物をペレット(pellet)状に圧密化成形するか、あるいはシート状に引き伸ばすことで正極層10を作製してもよい。これらの方法により正極層10を作製する場合、正極集電体11は、作製したペレットあるいはシートに圧着しても良い。
【0069】
(3-2.負極層作製工程)
まず、負極活物質層22を構成する負極活物質層材料(無定形炭素、第1元素、第2元素、バインダ等)を極性溶媒または非極性溶媒に添加することで、スラリーを作製する。ついで、得られたスラリーを負極集電体21上に塗布し、乾燥する。この時、負極集電体上に形成される負極活物質層22の乾燥後の重量が1cm2あたり0.3mg以上2mg以下の範囲となるように塗布することが好ましい。
ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、負極層20を作製する。加圧工程は省略されても良い。
【0070】
(3-3.固体電解質層作製工程)
固体電解質層30は、硫化物系固体電解質材料にて形成された固体電解質により作製することができる。
【0071】
まず、溶融急冷法やメカニカルミリング(mechanical milling)法により出発原料を処理する。
【0072】
例えば、溶融急冷法を用いる場合、出発原料(例えば、Li2S、P2S5等)を所定量混合し、ペレット状にしたものを真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することによって硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、Li2SおよびP2S5の混合物の反応温度は、好ましくは400℃~1000℃であり、より好ましくは800℃~900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間~12時間であり、より好ましくは1時間~12時間である。さらに、反応物の急冷温度は、通常10℃以下であり、好ましくは0℃以下であり、急冷速度は、通常1℃/sec~10000℃/sec程度であり、好ましくは1℃/sec~1000℃/sec程度である。
【0073】
また、メカニカルミリング法を用いる場合、ボールミルなどを用いて出発原料(例えば、Li2S、P2S5等)を撹拌させて反応させることで、硫化物系固体電解質材料を作製することができる。なお、メカニカルミリング法における撹拌速度および撹拌時間は特に限定されないが、撹拌速度が速いほど硫化物系固体電解質材料の生成速度を速くすることができ、撹拌時間が長いほど硫化物系固体電解質材料への原料の転化率を高くすることができる。
【0074】
その後、溶融急冷法またはメカニカルミリング法により得られた混合原料を所定温度で熱処理した後、粉砕することにより粒子状の固体電解質を作製することができる。固体電解質がガラス転移点を持つ場合は、熱処理によって非晶質から結晶質に変わる場合がある。
【0075】
続いて、上記の方法で得られた固体電解質を、例えば、エアロゾルデポジション(aerosol deposition)法、コールドスプレー(cold spray)法、スパッタ法等の公知の成膜法を用いて成膜することにより、固体電解質層30を作製することができる。なお、固体電解質層30は、固体電解質粒子単体を加圧することにより作製されてもよい。また、固体電解質層30は、固体電解質と、溶媒、バインダを混合し、塗布乾燥し加圧することにより固体電解質層30を作製してもよい。
【0076】
(3-4.固体二次電池の組立工程)
上記の方法で作製した正極層10、負極層20、および固体電解質層30を、正極層10と負極層20とで固体電解質層30を挟持するように積層し、加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことにより、本実施形態に係る全固体二次電池1を作製することができる。
【0077】
上記の方法で作製した全固体電池を動作させる際に、全固体電池に圧力をかけた状態で行ってもよい。
【0078】
上記圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下であってもよい。また圧力の印加は、ステンレス、真鍮、アルミニウム、ガラスなどの2枚の硬い板の間に全固体電池を挟み、この2枚の板の間をねじで締めるなどの方法で行ってもよい。
【0079】
<4.固体二次電池の充電方法>
つぎに、本実施形態に係る全固体二次電池1の充電方法について説明する。本実施形態では、前述したように、全固体二次電池1を、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。負極活物質層22の充電容量を超えて充電が行われると、例えば、
図3に示すように、負極活物質層22の裏側、すなわち負極集電体21と負極活物質層22との間にリチウムが析出し、このリチウムによって製造時には存在していなかった金属層23が形成される。放電時には、負極活物質層22および金属層23中のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。
なお、充電量は、負極活物質層22の充電容量の2倍以上100倍以下の間の値、より好ましくは4倍以上100倍以下の範囲とすることが好ましい。
【0080】
<5.本実施形態の効果>
前述したように構成した全固体二次電池1によれば、負極活物質層22が、負極活物質として、無定形炭素と、第1元素とを含有するものであるので、リチウムを負極活物質として使用することができ電池において、負極活物質の充電容量を超えて充電したときに、負極活物質層22の固体電解質層30側の表面におけるリチウムの析出を抑制することができる。
【0081】
また、負極活物質層22を過充電することによって、例えば、
図3又は
図4に金属層23として示すように、リチウムを層状に析出させることができる。その結果、リチウムが層状に析出しない場合に比べて、充放電による全固体二次電池1内部の圧力上昇を抑えることができる。また、リチウムが層状に析出しない場合に比べて、充放電によって全固体二次電池1内部でのボイドの発生を抑えることができる。
【0082】
以上に説明したような理由から、本実施形態に係る全固体二次電池1においては、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池の短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池の特性が向上する。
【0083】
本実施形態に係る全固体二次電池1においては、負極活物質層22がさらに前述した第2元素を含有するものであるので、前述したようにデンドライトの析出や成長を抑制しながらも、負極活物質層22中に含まれる第1元素としての貴金属の使用量を減らすことが出来る。その結果、全固体二次電池1の製造コストをできるだけ小さく抑えることができる。
【0084】
なお、本実施形態に係る全固体二次電池1においては、金属層23は初回充電前に予め形成されていないので、後述するように予め金属層23を形成してある本発明の第2の実施形態に係る全固体二次電池1に比べて製造コストをさらに低減することができる。
【0085】
<6.本発明の他の実施形態について>
<6-1.本発明の第2の実施形態に係る固体二次電池の構成>
つぎに、
図5に基づいて、第2の実施形態に係る全固体二次電池1aの構成について説明する。全固体二次電池1aは、
図5に示すように、正極層10、負極層20、及び固体電解質層30を備える。正極層10および固体電解質層30の構成は第1の実施形態と同様である。
【0086】
(6-1-1.負極層の構成)
負極層20は、負極集電体21、負極活物質層22、および金属層23を備える。つまり、第1の実施形態では、負極活物質層22の過充電によって負極集電体21と負極活物質層22との間に最初の充電前には存在しない金属層23を形成する。これに対して、第2の実施形態では、
図5に示すように、この金属層23′が予め(すなわち、最初の充電前に)負極集電体21と負極活物質層22との間に形成されている。
この場合であっても、前述した第1の実施形態と同様に、析出したリチウムによって負極活物質層22の内部に金属層23がさらに形成されてもよい。
【0087】
負極集電体21および負極活物質層22の構成は第1の実施形態と同様である。金属層23・23′は、リチウムまたはリチウム合金を含む。すなわち、金属層23・23′はリチウムのリザーバー(reservoir)として機能する。リチウム合金としては、例えば、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-In合金、Li-Ag合金、Li-Au合金、Li-Zn合金、Li-Ge合金、Li-Si合金であってもよい。金属層23・23′は、これらの合金のいずれか1種またはリチウムで構成されていてもよく、複数種類の合金で構成されていても良い。第2の実施形態では、金属層23・23′がリチウムのリザーバーとなるので、全固体二次電池1の特性がさらに向上する。
【0088】
ここで、金属層23′の厚さは特に制限されないが、1μm以上200μm以下であることが好ましい。金属層23′の厚さが1μm未満となる場合、金属層23′によるリザーバー機能を十分に発揮できない可能性がある。金属層23′の厚さが200μmを超える場合、全固体二次電池1の質量および体積が増加し、特性がかえって低下する可能性がある。このような理由から金属層23′は、例えば上記厚さを有する金属箔で構成される。
【0089】
<6-2.本発明の第2の実施形態に係る固体二次電池の製造方法>
続いて、第2の実施形態に係る全固体二次電池1の製造方法について説明する。正極層10および固体電解質層30は第1の実施形態と同様の方法で作製される。
【0090】
(6-2-1.負極層作製工程)
第2の実施形態では、金属層23′上に負極活物質層22が配置される。金属層23′は実質的には金属箔となることが多い。リチウム箔またはリチウム合金箔上に負極活物質層22を形成することは難しいので、以下の方法により負極層20を作製しても良い。
【0091】
まず、なんらかの基材(例えばNi板)上に第1の実施形態と同様の方法により負極活物質層22を形成する。具体的には、負極活物質層22を構成する材料を溶媒に添加することで、スラリーを作製する。ついで、得られたスラリーを基材上に塗布し、乾燥する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、基材上に負極活物質層22を形成する。加圧工程は省略されても良い。
【0092】
ついで、負極活物質層22上に固体電解質層30を積層し、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)。ついで、基材を除去する。これにより、負極活物質層22および固体電解質層30の積層体を作製する。
【0093】
ついで、負極集電体21上に、金属層23′を構成する金属箔と、負極活物質層22および固体電解質層30の積層体と、正極層10とを順次積層する。ついで、得られた積層体を加圧する(例えば、静水圧を用いた加圧を行う)ことで、全固体二次電池1aを作製する。
【0094】
上記の方法で作製した全固体電池を動作させる際に、全固体電池に圧力をかけた状態で行ってもよい。
【0095】
上記圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下であってもよい。また圧力の印加は、ステンレス、真鍮、アルミニウム、ガラスなどの2枚の硬い板の間に全固体電池を挟み、この2枚の板の間をねじで締めるなどの方法で行ってもよい。
【0096】
<6-3.本発明の第2の実施形態に係る固体二次電池の充電方法>
本実施形態に係る全固体二次電池1aの充電方法は第1の実施形態と同様である。すなわち、全固体二次電池1aを、負極活物質層22の充電容量を超えて充電する。すなわち、負極活物質層22を過充電する。充電の初期には、負極活物質層22内にリチウムが吸蔵される。負極活物質層22の容量を超えて充電が行われると、金属層23′中(または金属層23′上)にリチウムが析出する。放電時には、負極活物質層22および金属層23′中(または金属層23上)のリチウムがイオン化し、正極層10側に移動する。
【0097】
<6-4.本発明の第2の実施形態による効果>
このように構成した全固体二次電池1aによっても、前述した実施形態と同様に、リチウムを負極活物質として使用することができる。さらに、負極活物質層22は、金属層23を被覆するので、金属層23の保護層として機能するとともに、デンドライトの析出、成長を抑制することができる。これにより、全固体二次電池1aの短絡および容量低下が抑制され、ひいては、全固体二次電池1aの特性が向上する。
【0098】
<6-5.本発明の第3の実施形態>
前記第1の実施形態及び第2の実施形態においては、固体二次電池が全固体二次電池であるものについて説明したが、本発明に係る二次電池用負極材料及び二次電池用負極層は、固体の負極層と固体の固体電解質層とを備えている固体二次電池であれば適用可能である。例えば、正極層の一部又は全部が固体ではない固体二次電池や、固体電解質に加えて電解液を含有する固体二次電池等にも適用可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0099】
以下に本発明に係る負極活物質層材料、この負極活物質層材料を用いて作成された負極活物質層及びこの負極活物質層を備える全固体二次電池について、実施例を挙げてより詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0100】
(1.各実施例及び比較例の説明)
<実施例1>
本実施例においては、負極活物質として銀と多孔性カーボンブラックを使用し、下記の方法で全固体二次電池用負極材料を作製した。
(1-1.負極層の作製)
本実施例では、銀粒子として平均粒径が約60nmのものを用い、多孔性カーボンブラック(CB-1)は、平均一次粒径が38nm、凝集体径が250nm、窒素吸着比表面積が54m2/gのファーネスブラック粒子(CB-0)を出発原料として用い、窒素比表面積が461m2/gとなるように多孔化したもの(CB-1)を用いた。カーボンブラックの平均一次粒径は、TEMを用いて1000個以上のカーボンブラックの一次粒子の粒径を測定し、平均値を求めることにより見積もられた。またTEMを用いて1000個以上の凝集体のTEM像を撮影し、その画像解析から面積を求め、その面積から円相当径を算出し、これを凝集体径と見なした。多孔化は、バッチ式反応器にCB-0を投入し、水蒸気の存在下で、所定の比表面積となるように900℃で加熱処理を行うことにより実施した。
多孔化処理後の無定形炭素のオイル吸収量は、JIS K6217-4:2017に準拠するオイル吸収量の測定により算出した。具体的には、回転翼によってかき混ぜられている試料にオイルを定速度ビュレットで滴定し、オイルを添加するにつれて、この混合物は自由に流動する粉体から、やや粘性をもつ塊へと変化する際の粘性特性の変化によって発生するトルクが、設定値に達するか、又はトルク曲線から得られた最大トルクの一定割合に達した時点をこの測定の終点とした。終点時のオイルの体積(ml)を試料質量(g)で割り、100倍することにより、オイル吸収量(ml/100g)を求めた。
無定形炭素の窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2017に準拠する窒素吸着法(多点法)により測定した。あらかじめ重量が測定された無定形炭素を真空中、150℃で一度脱気したのち、液体窒素温度に冷却する。ここで窒素ガスを導入し、相対圧力[窒素雰囲気圧/飽和蒸気圧]が0.05~0.35の範囲で、平衡状態での窒素雰囲気圧と窒素吸着量の値をBETの式に当てはめることにより、単分子吸着量を求めた。この単分子吸着量と試料重量から窒素吸着比表面積(cm2/g)の値を算出した。また、全細孔容積は、上記の測定を飽和蒸気圧付近で行い、そのときの吸着ガスの量を液体換算し体積(ml)を求め、試料重量(g)で割ることにより算出した。
12gのCB-1と銀粒子4gを容器に入れ、そこへバインダ(Kureha社製#9300)8wt%を含むNMP溶液を、バインダの乾燥重量がカーボンブラックと銀とバインダとの乾燥重量の合計に対して7重量%となるように加え、これにNMPを少しずつ加えながら撹拌し負極活物質層用スラリーを得た。この負極活物質層用スラリーをブレードコーターで、10ミクロン厚のステンレス箔上に塗布し、空気中80℃で約20分間乾燥させたのち、100℃で約12時間真空乾燥し負極とした。負極層の初期充電容量は約0.5mAh/cm2であった。
【0101】
(1-2.正極層の作製)
正極活物質としてLiNi0.8Co0.15Mn0.05O2(NCM)を用い、この活物質に対し、非特許文献1に書かれている方法でLi2O-ZrO2被覆を行った。固体電解質として、Argyrodite型結晶であるLi6PS5Clを用い、固体電解質、導電剤であるカーボンナノファイバー(CNF)、及びバインダとしてテフロンバインダを、正極活物質:固体電解質:CNF:テフロンバインダ=83:13.5:2:1.5(質量)の比率で混合し、シート状に引き伸ばしたものを正極活物質層シートとした。さらにこの正極活物質層シートを約2cm角に成形し、18μm厚のアルミ箔の正極集電体に圧着することにより、正極層を作製した。正極層の初期充電容量(1サイクル目の充電容量)は4.25V 充電に対して約7mAh/cm2であった。したがって、負極層容量/正極層容量は約0.07であり、前述した式(1)の要件を満たす。
【0102】
(1-3.負極活物質層上への固体電解質層の形成)
次に、以下の方法により、負極活物質層上へ固体電解質層を形成した。前記Li6PS5Cl固体電解質に対して、1重量%のバインダを加え、キシレンとジエチルベンゼンを加えながら撹拌し、スラリーを作製する。これをペットフィルムの上にブレードコーターを用いて塗布し、空気中40℃で乾燥させたのち、40℃で12時間真空乾燥した。これをさらに、前述した負極上に、負極活物質層と固体電解質層とが接するように重ね、50MPaで静水圧処理を行った。処理後、ペットフィルムを除去することにより、負極活物質層上へ固体電解質層を形成した。固体電解質層の厚みは約40μmであった。
【0103】
(1-4.全固体二次電池の作製)
以上の方法で作製された正極層及び負極活物質層上に固体電解質層が形成された負極層とを、正極層と固体電解質層とが接するように重ねて、真空中でラミネートフィルムに封じることにより全固体電池を作製した。正極層と負極層とのそれぞれ一部が、電池の真空を破らないようにラミネートフィルムから外に出るようになっており、この外に出た部分をそれぞれ正極層及び負極層の端子とする。
この全固体電池を490MPaで静水圧処理した。この静水圧処理により電池としての特性が大幅に向上する。
【0104】
(1-5.全固体二次電池の評価)
このようにして作製した全固体リチウム電池の充放電特性を、以下の条件で評価した。
測定は全固体電池を45℃の恒温槽に入れて行った。充電は、電池電圧が4.25Vになるまで2.2mA/cm2の定電流で充電し、電流が0.66mAになるまで4.25Vの定電圧で充電を行った。放電は2.2mA/cm2の定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。この充電と放電を400回、あるいは途中で短絡するまで繰り返した。同じ材料及び手順で10個の電池を作製して測定を行ったところ400回までに短絡したものは一つもなかった(表1)。
【0105】
<比較例1>
カーボンブラックとして、多孔化していないカーボンブラック(実施例1の多孔性カーボンブラックの原料物質(CB-0))を用いた以外は、実施例1と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例1と同じ評価を行った。400回までの充放電で短絡したものが5個あった(表1)。
【0106】
<実施例2>
セルを短絡しやすくするために、固体電解質シートの厚みを約30μmにした以外は、実施例1と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例1と同じ条件で充放電を行い、200回までの充放電で短絡個数を評価した。200回までの充放電で短絡したものは一つもなかった(表1)。
【0107】
<実施例3>
実施例1で用いたCB-1と銀粒子との混合重量比率を1:1又は6:1にした以外は、実施例1と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同様の方法で測定を行った。結果を表1に示す。
【0108】
<比較例2>
カーボンブラックとして、比較例1で用いたCB-0を用い、銀粒子との混合重量比率を1:1、3:1又は6:1とした以外は、実施例2と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同様の方法で測定を行った。200回までの充放電で全て短絡した。結果を表1に示す。
【0109】
<実施例4>
CB-0を多孔化するに際し、熱処理時間を変えて、窒素吸着比表面積を207m2/g(CB-2)、673m2/g(CB-3)又は838m2/g(CB-4)とした以外は、実施例2と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同様の方法で測定を行った。母体のCB-0が同一であるため、平均一次粒径と凝集体径には変化はなかった。結果を表1に示す。
【0110】
<実施例5>
多孔性のカーボンブラックとして、CABOT社のBP-2000及びPBX-51のいずれかを用いた以外は、実施例2と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同様の方法で測定を行った。それぞれの平均一次粒径と凝集体径、オイル吸収量、全細孔容積は実施例1と同様の方法で求めた。結果を表1に示す。
【0111】
<実施例6>
多孔性カーボンブラックとして、実施例4で用いたCB-3を用いた。また、銀粒子の代わりに、平均粒径が約80nmの亜鉛粒子を用いて、実施例1と同様の手法で全固体電池を10個作製した。これらについて実施例1と同じ条件で充放電を行い、100回までの充放電で短絡個数を評価した。100回までの充放電で短絡したものが3個あった(表1)。
【0112】
<比較例3>
カーボンブラックとして、CB-0を用いた以外は実施例6と同様の手法で、全固体電池を10個作製し、実施例6と同様の方法で測定を行った。100回までの充放電で短絡したものが9個あった(表1)。
【0113】
<実施例7>
この実施例においては、セルをさらに短絡しやすくするために、固体電解質シートの厚みを約25μmにし、さらにCB-1と銀粒子との混合重量比率を6:1にした。それ以外は、実施例1と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同じ方法で測定を行った。200回の充放電までに短絡したものが7個あった(表1)。
【0114】
<実施例8>
粒径約70nmのニッケル粒子を用意し、このニッケル粒子とCB-1と銀粒子とを3:6:1の重量比で混合したものを用いてスラリーを作製した以外は、実施例7と同様の手法で全固体電池を10個作製し、実施例2と同じ方法で測定を行った。200回の充放電までに短絡したものが1個あった(表1)。
【0115】
<実施例9>
実施例5のニッケル粒子の代わりに、粒径約65~75nmの鉄粒子を用いた以外は、実施例8と同じ方法で測定を行った。200回の充放電までに短絡したものが2個あった(表1)。
【0116】
<実施例10>
実施例9の鉄粒子の代わりに、粒径約800nmの鉄粒子を用いた以外は、実施例8と同じ方法で測定を行った。200回の充放電までに短絡したものが2個あった(表1)。
【0117】
<実施例11>
ニッケル粒子とカーボンブラックとの混合重量比を1:6、5:6とした以外は、実施例8と同じ方法で測定を行った。200回の充放電までに短絡したものが、それぞれ2個、4個であった(表1)。
【0118】
【0119】
(2.結果の評価)
以上の実施例1及び比較例1の結果から、全固体二次電池用負極材料に多孔性のカーボンブラックであり、平均一次粒径(cm)×窒素吸着比表面積(cm2/g)の値が5以上35以下であるものを使用した場合には、全固体二次電池の短絡を従来よりもさらに抑制することができることが分かった。
また実施例2,3および比較例2の結果から、多孔性カーボンブラックと銀粒子の重量比が1:1、3:1、6:1のいずれにおいても、カーボンブラックの多孔化により全固体二次電池の短絡が抑制された。この結果から、不定形炭素と第1元素との含有量の比に関らず、短絡抑制効果が発揮されることが分かった。また、金、白金、パラジウムは銀とよく似た性質のものであるので、第1元素としてこれら金、白金、パラジウムを使用した場合にも同様の結果が得られることは十分に推測できることである。さらに、実施例6から第1元素が亜鉛である場合にも効果が得られることが分かった。
また、実施例5から、この短絡抑制の効果が、一次粒径10nm程度で、凝集体径が60-80nmの多孔性カーボンブラックにおいても効果があることが分かった。
さらに、実施例7では短絡する電池の数が一見多いようにも見えるが、この実施例7を比較例2と対比すると、比較例2よりも固体電解質層の厚みがさらに5μm小さいにも関わらず、短絡する電池の数を小さく抑えることができていることが分かる。また、実施例7~9により、負極層に第2元素である鉄又はニッケル粒子を添加することにより、短絡がさらに抑制された。この効果は、多孔性カーボンブラックと添加粒子との重量比が6:1、6:3、6:5のいずれにおいても効果が見られた。