(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079191
(43)【公開日】2023-06-07
(54)【発明の名称】自己修復性高分子、自己修復性材料、及び液晶膜
(51)【国際特許分類】
C08B 15/05 20060101AFI20230531BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20230531BHJP
【FI】
C08B15/05
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185974
(22)【出願日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021191816
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古海 誓一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 蓉
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直人
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA08
4C090BA34
4C090BB05
4C090BB51
4C090BB55
4C090BB63
4C090BB68
4C090BB93
4C090BB94
4C090CA14
4C090CA18
4C090CA28
4C090CA35
4C090DA40
(57)【要約】
【課題】熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子の提供
【解決手段】ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格と、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造と、を含む自己修復性高分子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格と、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造と、を含む自己修復性高分子。
【請求項2】
前記セルロース誘導体骨格は、下記一般式(1A)で表される構造単位を有する請求項1に記載の自己修復性高分子。
【化1】
一般式(1A)中、X
11、X
12及びX
13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基又は-(R
14-O)
h-(R
14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)を表し、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置を表す。但し、X
11、X
12及びX
13の少なくとも1つはアルキレン基又は-(R
14-O)
h-(R
14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)であり、R
11、R
12及びR
13の少なくとも1つは結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置である。
【請求項3】
前記セルロース誘導体骨格は、下記一般式(1A-1)で表される構造単位を有する請求項1に記載の自己修復性高分子。
【化2】
一般式(1A-1)中、R
1は、それぞれ独立に、-CH
2-CH
2-、又は、-CH
2-CH(CH
3)-を表し、R
11、R
12及びR
13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置を表す。m1、t1及びr1は、それぞれ独立に、0以上10以下の整数を表す。但し、R
11、R
12及びR
13の少なくとも1つは結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置である。
【請求項4】
前記結合交換反応が可能な共有結合を有する基は、ボロン酸エステル骨格を含む基である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の自己修復性高分子。
【請求項5】
前記ボロン酸エステル骨格を含む基が下記一般式(2)で表される構造である請求項4に記載の自己修復性高分子。
【化3】
一般式(2)中、R
1は、2価の連結基を表し、R
2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R
3はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。*は結合位置を表す。
【請求項6】
結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含まず、結合非交換型の基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造をさらに含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の自己修復性高分子。
【請求項7】
前記結合非交換型の基は、2価の連結基の両端にスルフィド結合を有する基である請求項6に記載の自己修復性高分子。
【請求項8】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の自己修復性高分子を含む自己修復性材料。
【請求項9】
請求項8に記載の自己修復性材料を含む液晶膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己修復性高分子、自己修復性材料、及び液晶膜に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、天然に最も豊富に存在する原料であり、安価な材料であるため、多岐にわたる産業分野で広く利用されている。例えば、セルロースは紙、綿、パルプの主成分であり、その誘導体であるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、人体及び環境に対して無害であるため、医薬品、サプリメント等の凝固剤などにも使用されている汎用性の高い高分子である。
【0003】
セルロース誘導体を原料として用いた液晶材料、液晶フィルム、フォトニックデバイス等の開発も行われている。セルロース誘導体を用いた液晶材料等は、安全性の観点及び環境負荷を低減する観点からも有用であり、セルロース誘導体が持つ液晶性、光学特性等を、液晶材料等への利用がさらに期待されている。
【0004】
セルロース誘導体は、構造中の側鎖部位を適切な修飾を施すことにより、コレステリック液晶相由来のブラッグ反射を示す。その一例として、液晶性を備えたセルロース誘導体として、ヒドロキシプロピルセルロースが有する水酸基の水素原子が、カルバメート基(ウレタン結合)を有する置換基で置換されたセルロース誘導体が知られている。
【0005】
また、特定セルロース誘導体と不飽和二重結合を有する基を分子内に有するモノマーとを含有し、ゴム弾性と室温で可視波長領域に反射特性(反射色)を示すリオトロピック液晶材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリオトロピック液晶材料では、特定セルロース誘導体に由来の不飽和二重結合を含む側鎖と、重合性モノマーに含まれる不飽和二重結合と、が反応して架橋構造を形成することで、得られる液晶膜はゴム弾性を示し、外力(例えば機械的圧力)によりブラッグ反射の波長シフト、即ち色相変化が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、セルロース誘導体は、人体、地球環境に対して低負荷な材料であり、かつ安価な材料であるため、液晶材料、液晶フィルム、フォトニックデバイス等に加え、他の用途への適用も期待されている。
【0008】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子、並びにこれを備える自己修復性材料、及び液晶膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格と、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造と、を含む自己修復性高分子。
<2> 前記セルロース誘導体骨格は、下記一般式(1A)で表される構造単位を有する<1>に記載の自己修復性高分子。
【0010】
【0011】
一般式(1A)中、X11、X12及びX13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)を表し、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置を表す。但し、X11、X12及びX13の少なくとも1つはアルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)であり、R11、R12及びR13の少なくとも1つは結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置である。
<3> 前記セルロース誘導体骨格は、下記一般式(1A-1)で表される構造単位を有する<1>に記載の自己修復性高分子。
【0012】
【0013】
一般式(1A-1)中、R1は、それぞれ独立に、-CH2-CH2-、又は、-CH2-CH(CH3)-を表し、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置を表す。m1、t1及びr1は、それぞれ独立に、0以上10以下の整数を表す。但し、R11、R12及びR13の少なくとも1つ
は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置である。
<4> 前記結合交換反応が可能な共有結合を有する基は、ボロン酸エステル骨格を含む基である<1>~<3>のいずれか1つに記載の自己修復性高分子。
<5> 前記ボロン酸エステル骨格を含む基が下記一般式(2)で表される構造である<4>に記載の自己修復性高分子。
【0014】
【0015】
一般式(2)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R3はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。*は結合位置を表す。
<6> 結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含まず、結合非交換型の基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造をさらに含む<1>~<5>のいずれか1つに記載の自己修復性高分子。
<7> 前記結合非交換型の基は、2価の連結基の両端にスルフィド結合を有する基である<6>に記載の自己修復性高分子。
<8> <1>~<7>のいずれか1つに記載の自己修復性高分子を含む自己修復性材料。
<9> <8>に記載の自己修復性材料を含む液晶膜。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子、並びにこれを備える自己修復性材料、及び液晶膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1の架橋膜について、25℃~80℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図2】実施例1の架橋膜について、25℃~80℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図3】実施例1の架橋膜について、切断及びヒートプレスを行うことで自己修復性を確認した図である。
【
図4】実施例1の修復前後の架橋膜について、圧縮-解放におけるS-Sカーブである。
【
図5】実施例1の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示すグラフである。
【
図6】実施例2の架橋膜について、40℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図7】実施例2の架橋膜について、40℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図8】実施例2の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例3の架橋膜について、25℃~90℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図10】実施例3の架橋膜について、25℃~90℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図11】実施例4の架橋膜について、40℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図12】実施例4の架橋膜について、40℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図13】実施例1の架橋膜及び実施例4の架橋膜について、70℃における応力緩和曲線である。
【
図14】実施例1の架橋膜、実施例3の架橋膜及び実施例4の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図15】実施例5の架橋膜について、40℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図16】実施例5の架橋膜について、40℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図17】実施例6の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図18】実施例6の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図19】実施例1の架橋膜、実施例2の架橋膜及び実施例6の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図20】実施例7の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図21】実施例7の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図22】比較例1の架橋膜について、25℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図23】実施例8において、加熱及びずり配向処理を施した硬化膜にUVを照射した後の透過率を示す透過スペクトルである。
【
図24】実施例9の架橋膜について、40℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図25】実施例9の架橋膜について、40℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図26】実施例10の架橋膜について、40℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図27】実施例10の架橋膜について、40℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図28】実施例11の架橋膜について、70℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図29】実施例11の架橋膜について、70℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図30】実施例12の架橋膜について、70℃~110℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図31】実施例12の架橋膜について、70℃~110℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図32】実施例2、6、5及び7の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図33】実施例1、9及び10の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図34】14OSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図35】14OSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図36】14OSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図37】架橋剤(B14OS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図38】架橋剤(B14OS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図39】架橋剤(B14OS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図40】実施例13で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図41】実施例13の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図42】実施例13の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図43】14COSの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図44】14COSの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図45】14COSのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図46】架橋剤(B14COS)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図47】架橋剤(B14COS)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図48】架橋剤(B14COS)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図49】実施例14で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図50】実施例14の架橋膜について、50℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図51】実施例14の架橋膜について、50℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図52】14Sの
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図53】14Sの
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図54】14SのFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図55】架橋剤(B14S)の
1H-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図56】架橋剤(B14S)の
13C-NMRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図57】架橋剤(B14S)のFT-IRスペクトルの測定結果を示すグラフである。
【
図58】実施例15で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図59】実施例15の架橋膜について、40℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図60】実施例15の架橋膜について、40℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【
図61】実施例16で作製した架橋膜の透過スペクトルを示すグラフである。
【
図62】実施例16の架橋膜について、50℃~100℃におけるG(t)/G
0を示すグラフである。
【
図63】実施例16の架橋膜について、50℃~100℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の自己修復性高分子、自己修復性材料、及び液晶膜について詳細に説明する。
【0019】
本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
また、本開示では、アクリロイル基及びメタクリロイル基の双方或いはいずれかを「(メタ)アクリロイル基」と表記する場合がある。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、置換又は無置換を明記していない化合物については、本開示における効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい。
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、任意の組み合わせにおいて、2つ以上の好ましい態様を組み合わせてもよい。
【0020】
<自己修復性高分子>
本開示の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造と、を含む。
本開示の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含む前述の分子構造によってセルロース誘導体骨格が架橋されているため、当該自己修復性高分子は、光、熱などの外部刺激により自己修復性を有する。これにより、自己修復性高分子を含む材料に対して切断等により物理的損傷を与えた場合であっても、物理的損傷が与えられた自己修復性高分子同士を接触させた状態で光、熱などの外部刺激を与えることで物理的損傷が与えられた自己修復性高分子同士を接合させ、自己修復性高分子を修復することが可能となる。
【0021】
本開示の自己修復性高分子は、ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格を含む。ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格としては、例えば、下記一般式(1A)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0022】
【0023】
一般式(1A)中、X11、X12及びX13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)を表し、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置を表す。但し、X11、X12及びX13の少なくとも1つはアルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)であり、R11、R12及びR13の少なくとも1つは結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置である。
【0024】
一般式(1A)において、X11、X12及びX13で表されるアルキレン基としては特に制限されず、例えば、直鎖又は分岐の炭素数1~18(好ましくは1~12、より好ましくは1~4)のアルキレン基、環状の炭素数3~18(好ましくは3~12)のシクロアルキレン基が挙げられる。直鎖又は分岐のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、イソペンチレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。
【0025】
一般式(1A)において、X11、X12及びX13で表される-(R14-O)h-は、アルキレンオキシ基(アルキレンエーテル基)又はポリアルキレンオキシ基(ポリアルキレンエーテル基)である。-(R14-O)h-で表される基におけるアルキレン基
(-R14-)としては、前述で例示したアルキレン基(X11、X12及びX13で表されるアルキレン基)と同様のものが挙げられる。-(R14-O)h-としては、例えば、エチレンオキシ基、ポリエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ポリプロピレンオキシ基等が挙げられる。
一般式(1A)において、hとしては、架橋によって適度な弾性を有する自己修復性高分子を得る観点から、好ましくは1以上6以下、より好ましくは1以上4以下、さらに好ましくは1以上3以下であり、特に好ましくは1である。
【0026】
なお、上述のアルキレン基及び-(R14-O)h-は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3~6のシクロアルキル基、炭素数6~12のアリル基、ハロゲン原子が挙げられる。なお、置換基が2以上ある場合には、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
一般式(1A)において、R11、R12及びR13で表されるアルキル基としては、炭素数3~10のアルキル基であってもよく、炭素数4~8のアルキル基であってもよく、炭素数4~6のアルキル基であってもよい。アルキル基の炭素数を変更することで、自己修復性高分子の緩和時間を調整することができる。R11、R12及びR13で表されるアルキル基としては、直鎖であってもよく、分岐であってもよい。
【0028】
一般式(1A)において、R11、R12及びR13で表される結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつセルロース誘導体骨格を架橋する分子構造(以下、「第1の分子構造」とも称する。)との結合位置としては、エステル交換反応、トランス-N-アルキル化反応、ウレタン交換反応、ボロン酸エステル交換反応等の結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつセルロース誘導体骨格を架橋する分子構造との結合位置が挙げられる。
【0029】
本開示の自己修復性高分子は、第1の分子構造を介して2つ以上の一般式(1A)で表される構造単位が結合した構造を有することが好ましい。
【0030】
第1の分子構造は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基自体であってもよく、R11、R12及びR13における第1の分子構造との結合位置に一方が結合し、結合交換反応が可能な共有結合を有する基に他方が結合する2価の連結基と、結合交換反応が可能な共有結合を有する基と、を含む構造であってもよい。
【0031】
結合交換反応が可能な共有結合を有する基としては、エステル交換反応、トランス-N-アルキル化反応、ウレタン交換反応、ボロン酸エステル交換反応等が可能な共有結合を有する基であれば特に限定されない。中でも、ボロン酸エステル交換反応が可能な共有結合を有する基であることが好ましく、ボロン酸エステル骨格を含む基であることがより好ましい。
【0032】
ボロン酸エステル骨格を含む基は、ボロン酸エステル骨格を2つ以上含む基であることが好ましく、ボロン酸エステル骨格を2つ含む基であることがより好ましく、下記一般式(2)で表される構造であることがさらに好ましい。
【0033】
【0034】
一般式(2)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R3はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。*は結合位置を表す。
【0035】
一般式(2)中、R1における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、これらの2つ以上の組み合わせ等が挙げられる。中でも、アルキレン基、アリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
一般式(2)中、R2における3価の連結基としては、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに5員環を構成する基であることが好ましい。
一般式(2)中、R1における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、これらの2つ以上の組み合わせ等が挙げられる。中でも、アルキレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
一般式(2)中、R3における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
【0036】
一般式(2)で表される構造は、下記一般式(3)で表される構造であってもよい。一般式(2)におけるR3が一般式(3)におけるR4-S-R5であってもよい。
【0037】
【0038】
一般式(3)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R4はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R5はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。*は結合位置を表す。
【0039】
一般式(3)中、R1及びR2の好ましい態様は、一般式(2)中のR1及びR2の好ましい態様と同様である。
【0040】
一般式(3)中、R4における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
R4における2価の連結基は、アルキレンオキシ基の酸素原子にアルキレン基が結合したアルキレンオキシアルキレン基であってもよく、*1-(CH2)3-O-CH2-*2(*1は、Sとの結合位置を表し、*2は、R2との結合位置を表す)であってもよい。
【0041】
一般式(3)中、R5における2価の連結基としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンオキシ基、ポリアルキレンオキシ基、スルフィド結合、カルボニル基、エステル結合、アミド結合、これらの内の2つ以上を組み合わせた基等が挙げられる。
R5における2価の連結基は、炭素数1~10のアルキレン基、*3-(RO)n-R-*4(Rは、炭素数1~3のアルキレン基を表し、nは1以上の整数を表し、*3は、結合位置*側の硫黄原子との結合位置を表し、*4は、R2側の硫黄原子との結合位置を表す)、*3-Rx-C(=O)O-RY-O(O=)C-Rx-*4(RX及びRYは、それぞれ独立にアルキレン基を表し、*3は、結合位置*側の硫黄原子との結合位置を表し、*4は、R2側の硫黄原子との結合位置を表す)であってもよい。
【0042】
R11、R12及びR13における第1の分子構造との結合位置に一方が結合し、結合交換反応が可能な共有結合を有する基に他方が結合する2価の連結基は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含む化合物と不飽和二重結合を有する基との反応によって形成された基であってもよく、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含む化合物と不飽和二重結合を有する基とのチオール-エン反応によって形成された基であってもよい。前述の不飽和二重結合を有する基は、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部が置換されることによって導入されたものであってもよい。
【0043】
不飽和二重結合を有する基としては、アリル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
【0044】
本開示の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含まず、結合非交換型の基を含み、かつ前記セルロース誘導体骨格を架橋する分子構造(以下、「第2の分子構造」)をさらに含んでいてもよい。これにより、熱、光等の外部刺激によって可逆的な結合交換反応を生じない架橋構造が自己修復性高分子に導入されることになるため、外部刺激に対する過度な自己修復が抑制される。その結果、自己修復性高分子の緩和時間を増加できる傾向にある。
【0045】
結合非交換型の基としては、熱、光等の外部刺激によって可逆的な結合交換反応が生じない構造であれば特に限定されない。例えば、結合非交換型の基は、2価以上の連結基に2つ以上のスルフィド結合を有する基であることが好ましく、2価の連結基の両端にスルフィド結合を有する基であることがより好ましい。
【0046】
本開示の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能な共有結合を有する基としてボロン酸エステル骨格を含む基を含み、かつ結合非交換型の基として2価の連結基の両端にスルフィド結合を有する基を含むことが好ましい。
【0047】
2価の連結基の両端にスルフィド結合を有する基としては、2価の連結基の両端に2つのメルカプト基を有する化合物における2つのメルカプト基から2つの水素原子を除いた残基である。
【0048】
2価の連結基の両端に2つのメルカプト基を有する化合物としては、1,6-ヘキサンジチオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、3,7-ジチア-1,9-ノナンジチオール等が挙げられる。
【0049】
本開示の自己修復性高分子が第2の分子構造をさらに含む場合、結合交換反応が可能な共有結合を有する基及び結合非交換型の基の合計モル数に対する結合非交換型の基のモル数の比率は、0.01~0.5(1%~50%)であってもよく、0.05~0.4(5%~40%)であってもよく、0.1~0.3(10%~30%)であってもよい。
【0050】
前記セルロース誘導体骨格は、下記一般式(1A-1)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0051】
【0052】
一般式(1A-1)中、R1は、それぞれ独立に、-CH2-CH2-、又は、-CH2-CH(CH3)-を表し、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は結合交換反応が可能な共有結合を有する基を含み、かつセルロース誘導体骨格を架橋する分子構造(第1の分子構造)との結合位置を表す。m1、t1及びr1は、それぞれ独立に、0以上10以下の整数を表す。但し、R11、R12及びR13の少なくとも1つは第1の分子構造との結合位置である。
式中の3つのR1は、全てが同一の基を表す態様でもよいし、3つのR1のうち、1つが他の2つと異なる態様でもよい。例えば、全てのR1が-CH2-CH2-又は-CH2-CH(CH3)-を表す態様でもよいし、1つのR1が-CH2-を表し、他の2つのR1が-CH2-CH(CH3)-を表す態様でもよい。
【0053】
一般式(1A-1)において、R11、R12及びR13は、前述の一般式(1A)におけるR11、R12及びR13と同義である。
一般式(1A-1)において、m1、t1及びr1としては、セルロース誘導体の合成のし易さの観点から、それぞれ独立に、好ましくは0以上8以下、より好ましくは0以上5以下、さらに好ましくは0以上3以下が好ましい。
【0054】
前記セルロース誘導体骨格は、一般式(1A)で表される構造単位又は一般式(1A-1)で表される構造単位を複数有していてもよい。複数の構造単位は、同一でもよいし、X11、X12及びX13並びにR11、R12及びR13の少なくとも1つが異なることにより互いに異なる構造単位であってもよい。
【0055】
前記セルロース誘導体骨格は、R11、R12及びR13の全てが水素原子又はアルキル基であり、かつ一般式(1A)で表される構造単位(架橋に寄与しない構造単位)又はR11、R12及びR13の全てが水素原子又はアルキル基であり、かつ一般式(1A-1)で表される構造単位(架橋に寄与しない構造単位)を1つ以上含んでいてもよい。
【0056】
ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格を構成するモノマー単位(例えば、β-グルコース由来の構造単位)の数は、特に限定されず、例えば、2以上800以下の整数であってもよい。
本開示の自己修復性高分子では、例えば、2つ以上の「モノマー単位の数が2以上800以下の整数であるセルロース誘導体骨格」が、第1の分子構造を介して結合していてもよい。
【0057】
ヒドロキシアルキルセルロースに由来するセルロース誘導体骨格を構成するモノマー単位(例えば、β-グルコース由来の構造単位)の数は、30以上800以下であってもよく、30以上400以下であってもよく、30以上300以下であってもよい。
【0058】
<自己修復性高分子の製造方法>
以下、本開示の自己修復性高分子の製造方法の一例について記載する。本開示の自己修復性高分子の製造方法の一例は、ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース誘導体と架橋剤とを反応させることで、第1の分子構造を介してセルロース誘導体骨格が架橋された高分子を生成する工程を含む。
【0059】
ヒドロキシアルキルセルロースはヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。ヒドロキシアルキルセルロース誘導体は、ヒドロキシプロピルセルロース誘導体であることが好ましい。
【0060】
ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量及びヒドロキシアルキルセルロース誘導体の重量平均分子量は、架橋によって適度な弾性を有する自己修復性高分子を得る観点から、それぞれ独立に、2万以上であってもよく、3万以上であってもよく、5万以上であってもよく、7万以上であってもよく、10万以上であってもよい。ヒドロキシアルキルセルロースの重量平均分子量及びヒドロキシアルキルセルロース誘導体の重量平均分子量は、それぞれ独立に、30万以下であってもよく、20万以下であってもよく、15万以下であってもよい。これらの重量平均分子量が大きくなるにつれて自己修復性高分子、これを含む架橋膜等の緩和時間が増加する傾向にある。
【0061】
重量平均分子量は、ゲルバーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により算出(ポリスチレン標準)される値である。詳細には、以下の測定条件で得られた測定結果からポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出される。
-測定条件-
装置 :東ソー社製:HLC-8220GPC(型番)
溶剤 :テトラヒドロフラン
カラム :東ソー社製:0021815 TSKgel SuperMultiporeHZ-N(粒子径3μm、内径4.6mm×長さ15cm)
流速 :0.15mL/分
試料濃度:2.0質量%
注入量 :10μL
検出器 :示差屈折検出器
温度 :40℃
【0062】
ヒドロキシアルキルセルロース誘導体としては、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部が不飽和二重結合を有する基に置換された化合物(以下、「特定のセルロース誘導体」とも称する。)が挙げられる。
【0063】
ヒドロキシアルキルセルロース誘導体は、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部がアルキル基によって置換された化合物であってもよく、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部が不飽和二重結合を有する基及びアルキル基によってそれぞれ置換された化合物であってもよい。
【0064】
ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部がアルキル基によって置換されている場合、当該アルキル基の炭素数は特に限定されず、例えば、3個~10個であってもよく、4個~8個であってもよく、4個~6個であってもよい。アルキル基の炭素数を変更することで、自己修復性高分子の緩和時間を調整することができる。
【0065】
ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部がアルキル基によって置換されている場合、「モノマー単位当りに存在するアルキル基の合計個数/3」で表されるアルキル基の置換度は、特に限定されず、例えば、液晶性の観点から、2以上であってもよい。
【0066】
例えば、ヒドロキシアルキルセルロースと、ハロゲン化アルキルとを反応させることによって、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部をアルキル基に置換することができる。
【0067】
ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部が不飽和二重結合を有する基によって置換されている場合、「モノマー単位当りに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3」で表される不飽和二重結合を有する基の置換度は、特に限定されず、例えば、架橋剤との反応により自己修復性を示す架橋膜等を好適に形成する観点から、0.1以上であってもよく、0.1以上0.6以下であってもよく、0.1以上0.5以下であってもよい。
【0068】
例えば、ヒドロキシアルキルセルロースと、不飽和二重結合を有する化合物とを反応させることによって、ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基の一部を不飽和二重結合を有する基に置換することができる。不飽和二重結合を有する化合物としては、不飽和二重結合とともにヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基と反応する構造を有していればよい。ヒドロキシアルキルセルロースに含まれる水酸基と反応する構造としては、水酸基における水素原子とともに脱離するハロゲン原子、水酸基と反応する官能基(カルボキシ基、イソシアネート基等)が挙げられる。
【0069】
不飽和二重結合を有する化合物に含まれる不飽和二重結合としては、アリル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。
【0070】
アルキル基の置換度、不飽和二重結合を有する基の置換度等は、核磁気共鳴(1H-NMR)法により、各置換基が有する特徴的なプロトンピークの積分値から算出される。具体的には、ヒドロキシアルキルセルロース誘導体を重クロロホルムに溶解させた溶液について、以下の測定条件で1H-NMRスペクトルを測定し、測定された1H-NMRスペクトルに基づき、不飽和二重結合を有する基に由来するプロトンピーク、セルロース骨格由来のプロトンピーク(例えばβ-グルコースモノマー単位にあるプロトンピーク等)、セルロース骨格がヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の場合、HPC由来のプロトンピーク鎖中のヒドロキシプロピル基が有するメチン基のプロトンピーク、メチル基のプロトンピーク等の積分値に基づき算出される。
-測定条件-
装置 :JEOL製 ECZ-400S
周波数:400MHz
【0071】
ヒドロキシアルキルセルロース誘導体は、下記一般式(1B)で表される構造単位を有する化合物であることが好ましい。
【0072】
【0073】
一般式(1B)中、X11、X12及びX13は、それぞれ独立に、単結合、アルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)を表し、R21、R22及びR23は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基又は不飽和二重結合を有する基を表す。但し、X11、X12及びX13の少なくとも1つはアルキレン基又は-(R14-O)h-(R14はアルキレン基を表し、hは1以上10以下の整数を表す)であり、R21、R22及びR23の少なくとも1つは不飽和二重結合を有する基である。
【0074】
ヒドロキシアルキルセルロース誘導体が一般式(1B)で表される構造単位を有する化合物である場合、一般式(1B)で表され、R21、R22及びR23は、水素原子又はアルキル基である構造単位(不飽和二重結合を有する基を含まない構造単位)をさらに含んでいてもよい。
【0075】
一般式(1B)中のX11、X12及びX13の好ましい態様は、前述の一般式(1A)中のX11、X12及びX13の好ましい態様と同様である。
【0076】
一般式(1B)中のR21、R22及びR23について、アルキル基の炭素数は、例えば、3個~10個であってもよく、4個~8個であってもよく、4個~6個であってもよい。
一般式(1B)中のR21、R22及びR23について、不飽和二重結合を有する基としては、アリル基を有する基又は(メタ)アクリロイル基を有する基が好ましい。
【0077】
(特定の架橋剤)
ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース誘導体と反応させる架橋剤としては、架橋により生成される高分子に結合交換反応が可能な共有結合を有する基を導入できれば特に限定されない。このような結合交換反応が可能な共有結合を有する基を導入できる架橋剤(以下、「特定の架橋剤」とも称する。)としては、架橋により生成される高分子にエステル交換反応、トランス-N-アルキル化反応、ウレタン交換反応、ボロン酸エステル交換反応等の結合交換反応が可能な共有結合を導入できるものであればよい。中でも、特定の架橋剤としては、ボロン酸エステル骨格を有する化合物が好ましい。
【0078】
特定の架橋剤としてボロン酸エステル骨格を有する化合物を用いる場合、不飽和二重結合を有する基を含むヒドロキシアルキルセルロース誘導体(特定のセルロース誘導体)と、ボロン酸エステル骨格を有する化合物とを反応させて第1の分子構造を形成することが好ましく、特定のセルロース誘導体とボロン酸エステル骨格及び2つ以上のメルカプト基を有する化合物とを反応(具体的にはチオール-エン反応)させて第1の分子構造を形成することがより好ましい。
【0079】
ボロン酸エステル骨格及び2つ以上のメルカプト基を有する化合物は、ボロン酸エステル骨格及び2つのメルカプト基を有する化合物であることが好ましく、以下の一般式(2A)で表される化合物であることがより好ましい。
【0080】
【0081】
一般式(2A)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R3はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。一般式(2A)中のR1、R2及びR3の好ましい態様は、一般式(2)中のR1、R2及びR3の好ましい態様と同様である。
【0082】
一般式(2A)で表される化合物は、下記の一般式(3A)で表される化合物で表される化合物であってもよい。
【0083】
【0084】
一般式(3A)中、R1は、2価の連結基を表し、R2はそれぞれ独立に、ホウ素原子及び2つの酸素原子とともに4員環~6員環を構成する3価の連結基を表し、R4はそれぞれ独立に、2価の連結基を表し、R5はそれぞれ独立に、2価の連結基を表す。一般式(3A)中のR1、R2、R4及びR5の好ましい態様は、一般式(3)中のR1、R2及びR3の好ましい態様と同様である。
【0085】
一般式(3A)で表される化合物は、例えば、以下のようにして合成することができる。
(1)両末端にメルカプト基をそれぞれ有するジチオール化合物(例えば、1,8-オクタンジチオール、エチレンビス(チオグリコラート)、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオールなど)と、エチレン性不飽和二重結合及びヒドロキシ基を2つ有するジオール化合物(例えば、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール)とをエンチオール反応させて、末端チオール基と、ヒドロキシ基を2つ有する中間化合物を得る。
(2)前述の中間化合物に対して2当量のジボロン酸(例えば、ベンゼン-1,4-ジボロン酸)を反応させて一般式(3A)で表される化合物を得る。
【0086】
特定のセルロース誘導体とボロン酸エステル骨格及び2つ以上のメルカプト基を有する化合物とを反応させる際、不飽和二重結合のモル数に対するメルカプト基のモル数の比率(不飽和二重結合/メルカプト基)は、特に限定されず、0.5~2であってもよい。
なお、メルカプト基のモル数とは、特定の架橋剤及び必要に応じて使用される後述のその他の架橋剤に含まれるメルカプト基の総モル数を意味する。
【0087】
(その他の架橋剤)
ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース誘導体と、特定の架橋剤と、を反応させる際に、必要に応じて外部刺激によって可逆的な結合交換反応を生じない架橋構造である第2の分子構造をヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース誘導体と形成する架橋剤(以下、「その他の架橋剤」とも称する。)を用いてもよい。
【0088】
その他の架橋剤としては、外部刺激によって可逆的な結合交換反応を生じない架橋構造を導入可能な化合物であれば特に限定されない。特定の架橋剤としてボロン酸エステル骨格及び2つ以上のメルカプト基を有する化合物を用いる場合、その他の架橋剤としては、2つ以上のメルカプト基を有する化合物であることが好ましく、2価以上の連結基の両端に2つのメルカプト基を有する化合物であることがより好ましい。2価以上の連結基の両端に2つのメルカプト基を有する化合物の好ましい例としては、前述した通りである。
【0089】
ヒドロキシアルキルセルロース又はヒドロキシアルキルセルロース誘導体と、特定の架橋剤と、必要に応じてその他の架橋剤と、を反応させる際には、特定のセルロース誘導体と特定の架橋剤とを含む硬化性組成物に光を照射する、又は熱を加えることにより、架橋構造を形成して自己修復性高分子を生成してもよい。
【0090】
(重合開始剤)
例えば、硬化性組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を用いることができ、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。中でも、紫外線照射等の光照射により架橋構造を形成する観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0091】
光重合開始剤としては、例えば、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(HMPP)、アセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(HHEMPP)、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジフルオロ-3
-(1-ヒドロピロール-1-イル)フェニル)チタノセン等が挙げられる。
【0092】
重合開始剤の含有量は、硬化性組成物の全質量に対して、0.1質量%~5質量%の範囲が好ましく、0.5質量%~4質量%の範囲がより好ましい。
【0093】
(他の成分)
本開示の硬化性組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、重合性モノマー、架橋剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤(剥離剤)、耐光剤、耐候剤、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤等が挙げられる。
【0094】
本開示の硬化性組成物は、自己修復性高分子を含む自己修復性材料、液晶膜等の形成に用いられるものであってもよい。
【0095】
<自己修復性材料>
本開示の自己修復性材料は、前述の本開示の自己修復性高分子を含む。本開示の自己修復性材料は、前述の本開示の硬化性組成物を架橋により硬化させたものであってもよく、自己修復性高分子の成形物であってもよく、自己修復性高分子及び前述の他の成分を含む材料であってもよい。
【0096】
<液晶膜>
本開示の液晶膜は、前述の本開示の自己修復性材料を含む。
本開示の液晶膜は、コレステリック液晶膜であることが好ましい。
【0097】
本開示の液晶膜の製造方法は特に限定されず、前述の本開示の硬化性組成物を架橋により硬化させたものであればよく、例えば、基板上に本開示の硬化性組成物を付与し、基板上に付与された硬化性組成物を架橋により硬化させたものであってもよい。
【0098】
基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板(例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド(PI)基板等)、アルミ基板、ステンレス基板等の金属基板、シリコン基板等の半導体基板等を用いることができる。
基板の厚さ、形状は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することが好ましい。
基板上への硬化性組成物の付与方法としては、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法等の塗布法;インクジェット法;スクリーン印刷法;減圧注入法等の注入法;等が挙げられる。
【0099】
基板の硬化性組成物が付与される面には配向膜が形成されていてもよい。配向膜にラビング処理が施されていてもよい。
例えば、配向膜が形成された第1の基板及び配向膜が形成された第2の基板を準備し、第1の基板及び第2の基板の配向膜同士を対面させた状態で第1の基板及び第2の基板の間に液晶膜を配置してもよい。あるいは、第1の基板及び第2の基板の配向膜同士を対面させた状態で第1の基板及び第2の基板の間に、スペーサーを介して、硬化性組成物を注入し、次いで架橋させて液晶膜を形成してもよい。
【実施例0100】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0101】
[実施例1]
(HPC誘導体1の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体1を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥した下記一般式(1a)で表されるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(富士フイルム和光純薬株式会社製、製品名;ヒドロキシプロピルセルロース6.0~10.0、製品番号;086-07945、重量平均分子量:4.45×104、r11、t11及びm11は0以上の数、モノマー単位当たりに存在するヒドロキシプロピル基の水酸基の数(平均):2.7、モノマー単位当たりに存在する未置換の水酸基の数(平均):0.3、n13:繰り返し数)5.0 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに室温で溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)、1-ブロモヘキサン26.5 mL(0.189 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ヘキシル基で置換されたHPC誘導体1(HPC-Al/HeEt)を合成した。透析と再沈殿の操作によって、HPC誘導体1 4.6 gを得た。
【0102】
【0103】
HPC誘導体1において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3)及び1-ヘキシル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する1-ヘキシル基の合計個数/3)を求めた。アリル基の置換度は0.26であり、1-ヘキシル基の置換度は2.66であった。
【0104】
参考として、モノマー単位における1つの水酸基がアリル基に置換され、モノマー単位における別の1つの水酸基がヘキシル基に置換された構造(1C)を以下に示す。なお、HPC誘導体1は構造(1C)に限定されない。
【0105】
【0106】
(架橋剤の合成)
HPC誘導体1の架橋剤を以下のようにして合成した。まず、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(1.00 g、6.00 mmol)及び1-チオグリセロール(0.994 mL、11.5 mmol)をテトラヒドロフラン12 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を3.5時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤(BDB)を得た。架橋剤は、白色固体であり、収率は88.6%であった。さらに、架橋剤(BDB)は、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0107】
【0108】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体1(HPC-Al/HeEt)及び架橋剤(BDB)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体1 0.613 gと、架橋剤(BDB)38.7 mgを少量のテトラヒドロフランに溶解させた溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン12.3 mgと、を混合させて光硬化性組成物1を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(BDB)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物1を減圧乾燥させて溶媒を除去したのち、基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して紫外線を照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、BDBにおけるメルカプト基と、HPC誘導体1におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
【0109】
参考として、BDBにおける2つのメルカプト基と、HPC誘導体1に含まれる2つのアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる構造(1D)を以下に示す。なお、実施例1の架橋膜に含まれる高分子は、構造(1D)に限定されない。
【0110】
【0111】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(後述のτ
2)を求めた。
また、40℃~80℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。25℃~80℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図1に示す。
図1に示すように、25℃~80℃にて応力の緩和が確認された。
図1に示す曲線は、以下に示すKohlrausch-Williams-Watts(KWW)式に基づく曲線である。式中、G(t)は緩和弾性率であり、τ
1は短時間スケールの緩和時間であり、τ
2は長時間スケールの緩和時間であり、A
1及びA
2(A
1=1-A
2)はそれぞれの緩和強度、β
1及びβ
2はそれぞれの緩和時間の分布である(参考文献:Hayashi, M.; Chen, L. Polym. Chem. 2020, 11 (10), 1713-1719.)。長時間スケールの緩和時間τ
2が結合交換反応に由来する、と考えられる。
【0112】
【0113】
さらに、長時間スケールの緩和時間τ2を用い、以下の式に基づいて平均緩和時間<τ2>を求めた。式中、β2は緩和時間の分布、Γはガンマ関数を表す。
【0114】
【0115】
図2に示すように、25℃~80℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式(In<τ
2>=A+RT/E
a、R:気体定数、T:絶対温度、E
a:活性化エネルギー)に従う直線が得られた。この結果は、先行研究(L. Leibler et al., Science, 2011, 334, 965.)と同様の挙動であるため、前述のようにして作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0116】
(架橋膜の自己修復性)
前述のようにして作製した架橋膜が自己修復性を有することを、架橋膜を切断及びヒートプレスを繰り返すことで確認した。具体的には、切断した架橋膜をアルファベットTの形状に並べた後にヒートプレスを行うことで、
図3に示すようなT字状の架橋膜を得た。T字状の架橋膜では切断面が修復されていることが確認できた。同様の操作によって、
図3に示すようなU字状の架橋膜及びS字状の架橋膜を順番に形成した。U字状の架橋膜及びS字状の架橋膜においても切断面が修復されていることが確認できた。
以上により、実施例1の架橋膜に含まれる高分子は、自己修復性高分子であることが確認できた。自己修復性が得られる理由については、セルロース誘導体骨格を架橋する架橋剤(BDB)由来の共有結合が、外部刺激(光、熱等)によって結合交換可能なことに起因すると推測される。
【0117】
(修復前後の架橋膜の機械特性)
前述のようにして作製した架橋膜(修復前の架橋膜に相当)及び当該架橋膜を切断及びヒートプレスして修復させた架橋膜(修復後の架橋膜に相当)について、機械特性の変化を評価した。具体的には、修復前後の架橋膜を、圧縮引張試験機(製品名;オートグラフAGS-X、(株)島津製作所製)を用いて、ロードセル荷重1000N、圧縮速度は0.5mm/分でひずみが0.2となるように圧縮後、ひずみ0となるまで開放することで、ひずみ(Strain)と応力(Stress)との関係を確認した。
図4に、圧縮-解放におけるS-Sカーブを示す。
図4に示すように、低ひずみ領域では、修復前後の架橋膜においてヤング率(応力/ひずみ)がほとんど変わらないことが確認できた。
【0118】
(動的粘弾性測定)
前述のようにして作製した架橋膜に対して一定の周波数のひずみを与え、温度を変化させたときの弾性率を測定する動的粘弾性測定を行った。具体的には、アントンパール社の動的粘弾性測定装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、周波数1Hz、測定温度-80℃~120℃、温度変化速度3℃/minの条件で貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)を測定した。G’’が最大値となる温度をガラス転移温度(Tg)とした。
図5に実施例1の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示す。
図5に示すように実施例1の架橋膜のTgは-67.9℃であった。
【0119】
[実施例2]
(HPC誘導体2の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体2を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥した実施例1にて用いたヒドロキシプロピルセルロース(HPC)5.0 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)、1-ブロモペンタン23.2 mL(0.191 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ペンチル基で置換されたHPC誘導体2(HPC-Al/PeEt)を合成した。実施例1と同様の操作によって、HPC誘導体2 2.7 gを得た。
【0120】
HPC誘導体2において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3)及び1-ペンチル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する1-ペンチル基の合計個数/3)を求めた。アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60であった。
【0121】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt)及び架橋剤(BDB)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.161 gと、架橋剤(BDB)17.6 mgと、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン5.5 mgと、を混合させて光硬化性組成物2を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(BDB)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物2を用いて実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0122】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例2の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。40℃~110℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図6に示す。
図6に示すように、40℃~110℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図7に示すように、40℃~110℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0123】
(動的粘弾性測定)
実施例1と同様にして、実施例2の架橋膜に対して動的粘弾性測定を行った。
図8に実施例2の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示す。
図8に示すように実施例1の架橋膜のTgは-52.1℃であった。
【0124】
[実施例3]
(架橋膜の作製)
実施例3は、架橋剤としてBDBだけでなく、熱等の外部刺激によって可逆的な結合交換反応が生じない(つまり、結合非交換型の)架橋構造を形成する架橋剤を併用した点で実施例1と相違する。具体的には、HPC誘導体1 0.601 gと、架橋剤(BDB)34.3 mgと、以下の構造式で表される架橋剤(3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、以下「DODT」とも称する。)18.7 mgと、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン11.4 mgと、を混合させて光硬化性組成物3を調製した。このとき、アリル基のモル数に対するBDB及びDODTに含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。さらに、BDB及びDODTの合計モル数に対するDODTのモル数の比率(以下、「永久架橋比率」とも称する。)は、10%であった。調製した光硬化性組成物3を用いて実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0125】
参考として、BDBにおける2つのメルカプト基又はDODTにおける2つのメルカプト基と、HPC誘導体1に含まれる2つのアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる構造(1E)を以下に示す。なお、実施例3の架橋膜に含まれる高分子は、構造(1E)に限定されない。
【0126】
【0127】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例3の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。25℃~90℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図9に示す。
図9に示すように、25℃~90℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図10に示すように、25℃~90℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0128】
[実施例4]
(架橋膜の作製)
BDB及びDODTの合計モル数に対するDODTのモル数の比率を10%から30%に変更した光硬化性組成物4を調製し、かつ光硬化性組成物4を用いて架橋膜を作製した点で実施例3と相違する。
【0129】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例4の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。40℃~110℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図11に示す。
図11に示すように、40℃~110℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図12に示すように、40℃~110℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0130】
(実施例1及び実施例4の比較)
実施例1の架橋膜(永久架橋比率0%の架橋膜)及び実施例4の架橋膜(永久架橋比率30%の架橋膜)について、70℃における応力緩和曲線を
図13に示す。実施例1では70℃における平均緩和時間が11.4秒であり、実施例4では70℃における平均緩和時間が2090秒であった。実施例4の平均緩和時間は、実施例1の平均緩和時間の約180倍であった。
【0131】
実施例1の架橋膜、実施例3の架橋膜及び実施例4の架橋膜について、各温度(具体的には、1000/T(K))に対する緩和時間(具体的には、In<τ
2>)のプロットを
図14に示す。
図14に示すように、各温度において、実施例1、実施例3及び実施例4の順番で緩和時間が増大していることが確認された。
【0132】
図13及び
図14から、結合非交換型の架橋構造を形成する架橋剤を用いることで緩和時間が増加可能であり、かつ、高分子中の結合非交換型の架橋構造の割合を増やすことで緩和時間が増加可能であった。したがって、高分子中の結合非交換型の架橋構造の割合を調整することで、架橋膜の再成形温度が調整可能であることが分かった。例えば、緩和時間が増加することで、再成形が可能となる温度が高まる。そのため、緩和時間を増加させることで、高温条件下にて架橋膜の自己修復機能を発揮させることが可能であり、かつ架橋膜を使用する比較的低温条件下にて意図せぬ修復等によって架橋膜同士が接合するといった問題を抑制することが可能である。
【0133】
[実施例5]
(架橋膜の作製)
実施例5は、架橋剤としてBDBだけでなく、結合非交換型の架橋剤であるDODTを併用した点で実施例2と相違する。具体的には、実施例2に対し、BDB及びDODTの合計モル数に対するDODTのモル数の比率を0%から30%に変更した光硬化性組成物5を調製し、かつ光硬化性組成物5を用いて架橋膜を作製した。
【0134】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例5の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。40℃~110℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図15に示す。
図15に示すように、40℃~110℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図16に示すように、40℃~110℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0135】
[実施例6]
(架橋膜の作製)
(HPC誘導体3の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体3を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥した実施例1にて用いたヒドロキシプロピルセルロース(HPC)5.00 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)、1-ブロモブタン20.6 mL(0.191 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ブチル基で置換されたHPC誘導体3(HPC-Al/BuEt)を合成した。実施例1と同様の操作によって、HPC誘導体3 約3gを得た。
【0136】
HPC誘導体3において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する不飽和二重結合を有する基の合計個数/3)及び1-ブチル基の置換度(モノマー単位当たりに存在する1-ブチル基の合計個数/3)を求めた。アリル基の置換度は0.40であり、1-ブチル基の置換度は2.60であった。
【0137】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体3(HPC-Al/BuEt)及び架橋剤(BDB)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体3 0.302 gと、架橋剤(BDB)30.8 mgと、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン5.0 mgと、を混合させて光硬化性組成物6を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(BDB)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物6を用いて実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0138】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例6の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図17に示す。
図17に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図18に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0139】
(実施例1、実施例2及び実施例6の比較)
実施例1の架橋膜、実施例2の架橋膜及び実施例6の架橋膜について、各温度(具体的には、1000/T(K))に対する緩和時間(具体的には、In<τ
2>)のプロットを
図19に示す。
図19に示すように、1-ヘキシル基を導入したHPC誘導体1を用いて作製した架橋膜(実施例1の架橋膜)、1-ペンチル基を導入したHPC誘導体2を用いて作製した架橋膜(実施例2の架橋膜)及び1-ブチル基を導入したHPC誘導体3を用いて作製した架橋膜(実施例6の架橋膜)の順で緩和時間が増大していることが確認された。この結果から、HPCに導入する置換基の構造(例えば、アルキル基の長さ)により緩和時間を調節できることが分かった。
【0140】
[実施例7]
(架橋膜の作製)
実施例7は、架橋剤としてBDBだけでなく、結合非交換型の架橋剤であるDODTを併用した点で実施例6と相違する。具体的には、実施例6に対し、BDB及びDODTの合計モル数に対するDODTのモル数の比率を0%から30%に変更した光硬化性組成物7を調製し、かつ光硬化性組成物7を用いて架橋膜を作製した。
【0141】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例7の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図20に示す。
図20に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、
図21に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0142】
[比較例1]
(架橋膜の作製)
架橋剤であるBDBの代わりにDODTを用いた以外は実施例1と同様にして架橋膜を作製した。つまり、比較例1では、BDBを用いずに永久架橋比率100%の架橋膜を作製した。
【0143】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、比較例1の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。25℃~110℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図22に示す。
図22に示すように、25℃~110℃にて応力の緩和は確認できなかった。
【0144】
実施例1~7の架橋膜では、応力の緩和について同様の挙動が確認でき、自己修復性を有する架橋膜を得ることができた。一方、比較例1では、応力の緩和が確認できず、永久架橋比率100%の架橋膜であるため、自己修復性は確認できなかった。
【0145】
[実施例8]
(液晶膜の作製)
室温(25℃)下、市販の2枚のスライドガラス(基板)の間に約300μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)スペーサーとともに実施例1にて作製した硬化膜を挟んだ。
硬化膜を130℃まで昇温後にずり配向処理を施した。ずり配向処理の後に硬化膜を室温まで冷却した。ずり配向処理の硬化膜の厚さは、258μmであった。
室温まで冷却後、硬化膜に波長365nmの紫外線(UV)を照射後、透過スペクトルを測定した。測定結果を
図23に示す。
図23に示すように特定の波長の光を選択的に反射することが確認された。また、加熱及びずり配向処理が施された硬化膜においても構造色が確認された。以上の結果から、加熱及びずり配向処理が施された硬化膜は、従来のセルロース誘導体を含む液晶材料と同様にコレステリック液晶性を示す液晶膜として機能することが分かった。
【0146】
(HPC誘導体4の合成)
前述の(HPC誘導体1の合成)にてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(重量平均分子量:4.45×104)の替わりに、前述の一般式(1a)で表されるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(重量平均分子量:7.81×104、r11、t11及びm11は0以上の数、モノマー単位当たりに存在するヒドロキシプロピル基の水酸基の数(平均):2.7、モノマー単位当たりに存在する未置換の水酸基の数(平均):0.3、n13:繰り返し数)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、HPC誘導体4 2.2 gを得た。
【0147】
(HPC誘導体5の合成)
前述の(HPC誘導体4の合成)にてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(重量平均分子量:4.45×104)の替わりに、前述の一般式(1a)で表されるヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(重量平均分子量:13.64×104、r11、t11及びm11は0以上の数、モノマー単位当たりに存在するヒドロキシプロピル基の水酸基の数(平均):2.7、モノマー単位当たりに存在する未置換の水酸基の数(平均):0.3、n13:繰り返し数)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、HPC誘導体5 1.1 gを得た。
【0148】
(HPC誘導体6の合成)
前述の(HPC誘導体4の合成)にてアリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)の替わりに、アリルブロミド0.11 mL(1.3 mmol)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、HPC誘導体6 2.3 gを得た。
【0149】
(HPC誘導体7の合成)
前述の(HPC誘導体4の合成)にてアリルブロミド0.33 mL(3.8 mmol)の替わりに、アリルブロミド0.40 mL(4.6 mmol)を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、HPC誘導体7 2.5 gを得た。
【0150】
HPC誘導体4~7において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度及び1-ヘキシル基、1-ペンチル基、1-ブチル基の置換度を求めた。結果は表1に示す通りである。
【0151】
【0152】
[実施例9~12]
HPC誘導体4を重量平均分子量、アリル基の置換度及び1-ヘキシル基の置換度の少なくともいずれかが異なるHPC誘導体4~7に変更した以外は、実施例1の光硬化性組成物1の調製と同様にして光硬化性組成物8~11を調製した。光硬化性組成物8~11を用いて実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0153】
(動的粘弾性測定)
実施例9~12にて作製した架橋膜に対して一定の周波数のひずみを与え、温度を変化させたときの弾性率を測定する動的粘弾性測定を行った。具体的には、アントンパール社の動的粘弾性測定装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、周波数1Hz、測定温度-80℃~120℃、温度変化速度3℃/minの条件で貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G’’)を測定した。G’’が最大値となる温度をガラス転移温度(Tg)とした。
各実施例にて求めたガラス転移温度を表2に示す。
【0154】
各実施例において調製した光硬化性組成物1~11について、使用したHPC誘導体、永久架橋比率等を表2に示す。表2中のBDB及びDODTは、BDB:DODTのモル比を意味する。
【0155】
【0156】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして、実施例9~12の架橋膜に対して応力緩和測定を行った。各測定温度におけるG(t)/G
0を示すグラフ及び各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフを
図24~
図31に示す。
各図に示すように、実施例9~12の架橋膜では、測定温度にて応力の緩和が確認された。
さらに、実施例9~12の架橋膜では、測定温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0157】
実施例2、6及び実施例5、7の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフを
図32に示す。
図32に示すように、永久架橋比率が0%である実施例2及び6では、緩和時間のプロットに大きな差が見られなかった。一方、永久架橋比率が30%である実施例5及び7では、永久架橋を導入することで実施例2及び6よりも緩和時間が大きくなる傾向が確認され、さらに、アルキル鎖の違いによって緩和時間のプロットに大きな差が確認された。
【0158】
実施例1、9及び10の架橋膜(分子量が異なり、置換アルキル基が1-ヘキシル基であるHPC誘導体を使用し、かつ永久架橋比率が0%である架橋膜)について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフを
図33に示す。
図33では、HPC誘導体の重量平均分子量が大きくなるにつれて、緩和時間が大きくなる傾向が確認された。
【0159】
(架橋剤の合成)
各HPC誘導体と使用可能な架橋剤を以下のようにして合成した。架橋剤の中間体となる化合物(後述の14OS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤(B14OS)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、0.549 g、1.75 mmol)、3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT、3.78 g、20.7 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(4.8 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(6.0 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、チオール基及びヒドロキシ基を有する化合物(1-メルカプト-3,6,13-トリオキサ-9-チアヘキサデカン-15,16-ジオール、「14OS」とも称する。)を得た。14OSの収率は、60.8%であった。さらに、化合物(14OS)は、
図34~
図36に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0160】
【0161】
次に、合成した化合物(14OS、0.392 g、1.25 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.1089 g、0.657 mmol)及び硫酸マグネシウム(0.453 g)を脱水テトラヒドロフラン2.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤(B14OS)を得た。架橋剤は、室温で無色透明であり、収率は66.6%であった。さらに、架橋剤(B14OS)は、
図37~
図39に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0162】
【0163】
[実施例13]
(HPC誘導体8の合成)
以下の方法により架橋性基を有するHPC誘導体8を合成した。
減圧下、室温(25℃)で24時間以上乾燥したヒドロキシプロピルセルロース(HPC、重量平均分子量:4.45×104)5.0 gを、窒素充填させたフラスコ内で、N-メチルピロリドン80 mLに溶解させたのち、加熱(65℃)条件下で、水酸化ナトリウム7.6 g、アリルブロミド0.11 mL(1.27 mmol)、1-ブロモペンタン23.2 mL(0.191 mol)を加え48時間攪拌した。これにより、ヒドロキシプロピルセルロース中の水酸基の一部の水素がアリル基及び1-ペンチル基で置換されたHPC誘導体8(HPC-Al/PeEt)を合成した。実施例1と同様の操作によって、HPC誘導体8 1.73 gを得た。
【0164】
HPC誘導体8において、1H-NMRスペクトルのピーク測定から、アリル基の置換度及び1-ペンチル基の置換度を求めた。アリル基の置換度は0.12であり、1-ペンチル基の置換度は2.88であった。
HPC誘導体8は、室温で青紫色のブラッグ反射を示した。
【0165】
(架橋膜の作製)
HPC誘導体8(HPC-Al/PeEt)及び架橋剤(B14OS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体8 0.216 gと、架橋剤(B14OS)15.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン5.9 mgと、を混合させて光硬化性組成物12を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(B14OS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物12を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14OSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体11におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例13で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。実施例13で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図40に示す。
【0166】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例13の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τを求めた。
また、40℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図41に示す。
図41に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図41に示す曲線は、以下に示すKohlrausch-Williams-Watts(KWW)式に基づく曲線である。なお、実施例20の架橋膜について応力緩和測定を行った場合、短時間スケールの緩和が小さく、通常のKWW式に基づく曲線が確認された。式中、G(t)は緩和弾性率であり、τは緩和時間であり、βは緩和時間の分布である(参考文献:Hayashi, M.; Chen, L. Polym. Chem. 2020, 11 (10), 1713-1719.)。
【0167】
【0168】
さらに、以下の式に基づいて平均緩和時間<τ>を求めた。式中、βは緩和時間の分布、Γはガンマ関数を表す。
【0169】
【0170】
図42に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例13にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0171】
(架橋剤の合成)
各HPC誘導体と使用可能な架橋剤を以下のようにして合成した。架橋剤の中間体となる化合物(後述の14COS)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤(B14COS)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.02 g、7.71 mmol)、エチレンビス(チオグリコラート)(8.10g、38.5mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(32.2 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(12.0 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、チオール基及びヒドロキシ基を有する化合物(14COS)を得た。14COSの収率は、53.4%であった。さらに、化合物(14COS)は、
図43~
図45に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0172】
【0173】
次に、合成した化合物(14COS、1.22 g、3.55 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.309 g、1.86 mmol)及び硫酸マグネシウム(1.28 g)を脱水テトラヒドロフラン6.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤(B14COS)を得た。架橋剤は、室温で無色透明であり、収率は42.3%であった。さらに、架橋剤(B14COS)は、
図46~
図48に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0174】
【0175】
[実施例14]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤(B14COS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.114 gと、架橋剤(B14COS)28.4 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン1.7 mgと、を混合させて光硬化性組成物13を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(B14COS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物13を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14COSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例14で作製した架橋膜は、室温で緑色のブラッグ反射を示した。実施例14で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図49に示す。
【0176】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例14の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(前述のτ
2)を求めた。
また、50℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。50℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図50に示す。
図50に示すように、50℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図50に示す曲線は、2項のKWW式に基づく曲線である。
【0177】
図51に示すように、50℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例14にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0178】
(架橋剤の合成)
各HPC誘導体と使用可能な架橋剤を以下のようにして合成した。架橋剤の中間体となる化合物(後述の14S)を合成し、当該化合物を用いて架橋剤(B14S)を合成した。
まず、3-アリルオキシ-1,2-プロパンジオール(3-APD、1.07 g、8.10 mmol)、1,8-オクタンジチオール(7.21 g、40.4 mmol)及び光ラジカル発生剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(35.5 mg)を溶媒であるテトラヒドロフラン(12 mL)に溶解させた。次に、室温(25℃)条件下で溶液に365nmの紫外線を10分間照射し、以下の反応式に示すように、チオール基及びヒドロキシ基を有する化合物(1-メルカプト-9-チアヘキサデカン-15,16-ジオール、「14S」とも称する。)を得た。14Sの収率は、50.3%であった。さらに、化合物(14S)は、
図52~
図54に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0179】
【0180】
次に、合成した化合物(14S、1.07 g、3.45 mmol)、ベンゼン-1,4-ジボロン酸(0.301 g、1.82 mmol)及び硫酸マグネシウム(0.1.25 g)を脱水テトラヒドロフラン6.0 mLに溶解させた。次に、アルミホイルで遮光した状態で、室温(25℃)条件下でテトラヒドロフラン溶液を1時間攪拌した。以下の反応式に示すように、ボロン酸エステル骨格を有する架橋剤(B14S)を得た。架橋剤は、室温で無色透明であり、収率は32.4%であった。さらに、架橋剤(B14S)は、
図55~
図57に示す
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル及びFT-IRスペクトルのピーク測定から、以下の反応式に示す構造を有することを確認した。
【0181】
【0182】
[実施例15]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤(B14S)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.158 gと、架橋剤(B14S)37.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン6.7 mgと、を混合させて光硬化性組成物14を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(B14S)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物14を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14Sにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例15で作製した架橋膜は、室温で赤色のブラッグ反射を示した。実施例15で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図58に示す。
【0183】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例15の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τを求めた。
また、40℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。40℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図59に示す。
図59に示すように、40℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図59に示す曲線は、実施例13と同様に通常のKWW式に基づく曲線である。
【0184】
図60に示すように、40℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例15にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0185】
[実施例16]
(架橋膜の作製)
HPC誘導体2(HPC-Al/PeEt、アリル基の置換度は0.40であり、1-ペンチル基の置換度は2.60)及び架橋剤(B14OS)を反応させて架橋膜を作製した。具体的には、HPC誘導体2 0.221 gと、架橋剤(B14OS)51.2 mgとを混合した溶液と、光重合開始剤である2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン2.8 mgと、を混合させて光硬化性組成物15を調製した。このとき、アリル基のモル数に対する架橋剤(B14OS)に含まれるメルカプト基(-SH)のモル数の比率(メルカプト基/アリル基)は、100%であった。調製した光硬化性組成物15を基板上に膜状に塗布し、膜状の組成物に対して365nmの紫外線を10分間照射してアリル基とメルカプト基とを反応(チオール-エン反応)させた。これにより、B14OSにおけるメルカプト基と、HPC誘導体2におけるアリル基とがチオール-エン反応により架橋してなる高分子を含む架橋膜(厚さ500 μm)を作製した。
実施例16で作製した架橋膜は、室温で青色のブラッグ反射を示した。実施例16で作製した架橋膜の透過スペクトルを
図61に示す。実施例14と比較すると、アリル基の置換度が増加すると、架橋膜のブラッグ反射が短波長化する傾向が確認された。
【0186】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した実施例16の架橋膜に対して初期ひずみγ0を与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、25℃にて応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G
0)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/G
0をプロットした。また、応力σが、σ0/eとなるまでの時間である緩和時間τ(前述のτ
2)を求めた。
また、50℃~100℃の10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。50℃~100℃におけるG(t)/G
0のプロットを
図62に示す。
図62に示すように、50℃~100℃にて応力の緩和が確認された。
図62に示す曲線は、2項のKWW式に基づく曲線である。
【0187】
図63に示すように、50℃~100℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ
2>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。従って、実施例16にて作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0188】
合成したB14OS、B14COS及びB14Sは、いずれも室温で液体であり、溶媒を使用せずともHPC誘導体と相溶可能であった。
さらに、実施例15の架橋膜(B14Sを使用した架橋膜)では、実施例14の架橋膜(B14COSを使用した架橋膜)及び実施例16の架橋膜(B14OSを使用した架橋膜)と比較して緩和時間が短くなる傾向が確認された。この結果から、B14Sは、HPC誘導体と特に相溶性に優れる、と推測される。