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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079493
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】位相測定装置および位相補償装置
(51)【国際特許分類】
   G01J 9/04 20060101AFI20230601BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
G01J9/04
G02B6/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021192991
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】平野 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB11
2H147AB31
2H147AC01
2H147AC04
2H147BE14
2H147CD02
2H147FD19
(57)【要約】
【課題】光フェーズドアレイにおいて各チャンネルを伝搬する導波光の位相のばらつきを精度よく測定する。
【解決手段】位相測定装置1は、光フェーズドアレイ10の出射光を物体光と参照光との干渉縞情報として取得する出射光取得部3と、光フェーズドアレイの位相シフターにおける位相を制御する制御信号を発生する信号発生器5と、信号発生器5を制御すると共に複数の干渉縞情報のそれぞれの取得タイミングを出射光取得部3に設定する出射光取得制御部6と、位相シフトされた複数の干渉縞情報と、位相シフトデジタルホログラフィ法によって適用される参照光である再生照明光と、を用いて、光導波路構造の予め定められた異なる複数の解析条件でそれぞれ算出された複数の再生光を、光導波路間クロストークの影響を考慮した所定の目的関数に適用して目的関数の最小値を得るときの再生光の位相を計算することで位相のばらつきを測定する演算部7と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルの光導波路のそれぞれに光の位相を制御する位相シフターが設けられた光フェーズドアレイの光出力部から出射される出射光を取得して各光導波路に生じた位相のばらつきを測定する位相測定装置であって、
前記出射光を物体光と参照光との干渉縞情報として取得する出射光取得部と、
それぞれの前記位相シフターにおける位相を個別に制御する制御信号を発生する信号発生器と、
前記信号発生器を制御すると共に、複数の前記干渉縞情報のそれぞれの取得タイミングを前記出射光取得部に設定する出射光取得制御部と、
位相シフトされた複数の前記干渉縞情報と、位相シフトデジタルホログラフィ法によって適用される参照光である再生照明光と、を用いて、光導波路構造の予め定められた異なる複数の解析条件でそれぞれ算出された複数の再生光を、光導波路間クロストークの影響を考慮した所定の目的関数に適用して前記目的関数の最小値を得るときの再生光の位相を計算することで前記位相のばらつきを算出する演算部と、を備える
ことを特徴とする位相測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記解析条件において、前記複数チャンネルのいずれか1つである所定の参照光チャンネルの光導波路のみに位相振幅を与えたときに、前記複数チャンネルの光導波路内および前記出射光取得部までの光伝搬計算により前記再生照明光を求め、前記位相シフトデジタルホログラフィ法を適用して、位相シフトされた複数の前記干渉縞情報から前記再生照明光を用いて前記出射光取得部において再生される再生光である第1再生光の複素振幅分布を求め、前記第1再生光が前記光フェーズドアレイの所定位置まで伝搬したときの再生光である第2再生光の複素振幅分布を算出し、前記目的関数に対して異なる複数の解析条件で算出された複数の前記第2再生光の複素振幅分布をそれぞれ適用して前記目的関数の最小値を探索し、前記目的関数の最小値を得るときの第2再生光の複素振幅分布について前記複数チャンネルの光導波路がそれぞれ存在する位置座標の位相を計算することで前記位相のばらつきを測定する
ことを特徴とする請求項1に記載の位相測定装置。
【請求項3】
前記目的関数は、前記光フェーズドアレイの前記複数チャンネルの外側の架空のチャンネルからの物体光を示す偽物体光の強度であり、
前記演算部は、前記異なる複数の解析条件において、3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の前記干渉縞情報を共通に用いて複数の前記第2再生光の複素振幅分布を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の位相測定装置。
【請求項4】
前記目的関数は、前記第2再生光における前記参照光チャンネルの光強度であり、
前記演算部は、前記異なる複数の解析条件において、3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の前記干渉縞情報を共通に用いて複数の前記第2再生光の複素振幅分布を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の位相測定装置。
【請求項5】
前記目的関数は、前記光フェーズドアレイの出射光の光軸に沿った0°方向成分の光強度が最大であるときに最小になる関数であり、
前記演算部は、前記解析条件毎にその都度取得した3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の前記干渉縞情報を用いて前記第2再生光の複素振幅分布を算出し、
前記信号発生器は、前記解析条件毎にその都度算出した前記第2再生光の複素振幅分布の逆符号の位相を前記光フェーズドアレイのそれぞれの前記位相シフターに付与する制御信号を発生する
ことを特徴とする請求項2に記載の位相測定装置。
【請求項6】
前記目的関数は、第1関数と第2関数と第3関数とをそれぞれ重みづけして3つの関数のうち少なくともいずれか2つを加算したものであり、
前記第1関数は、前記光フェーズドアレイの前記複数チャンネルの外側の架空のチャンネルからの物体光を示す偽物体光の強度であり、前記第2関数は、前記光フェーズドアレイの前記参照光チャンネルの光強度であり、前記第3関数は、前記光フェーズドアレイの出射光の0°方向成分の光強度が最大であるときに最小になる関数であり、
前記演算部は、前記第1関数および前記第2関数については、前記異なる複数の解析条件において、3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の前記干渉縞情報を共通に用いて複数の前記第2再生光の複素振幅分布を算出し、
前記演算部は、前記第3関数については、前記解析条件毎にその都度取得した3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の前記干渉縞情報を用いて前記第2再生光の複素振幅分布を算出し、かつ、前記信号発生器が、前記解析条件毎にその都度算出した前記第2再生光の複素振幅分布の逆符号の位相を前記光フェーズドアレイのそれぞれの前記位相シフターに付与する制御信号を発生する
ことを特徴とする請求項2に記載の位相測定装置。
【請求項7】
前記目的関数にそれぞれ適用される第2再生光の複素振幅分布は、前記光フェーズドアレイの前記位相シフターまで伝搬したときの再生光の複素振幅分布である
ことを特徴とする請求項2から請求項6のいずれか一項に記載の位相測定装置。
【請求項8】
前記目的関数にそれぞれ適用される第2再生光の複素振幅分布は、前記光フェーズドアレイの前記光出力部まで伝搬したときの再生光の複素振幅分布であり、
前記演算部は、前記目的関数の最小値を得るときの第2再生光が、前記光フェーズドアレイの前記位相シフターまで伝搬したときの再生光の複素振幅分布を算出し、当該算出された複素振幅分布を前記位相のばらつきとして測定する
ことを特徴とする請求項3に記載の位相測定装置。
【請求項9】
前記出射光取得制御部は、
前記光フェーズドアレイの前記複数チャンネルのうち端に配置されたチャンネルを前記参照光チャンネルとして当該参照光チャンネルに対して前記干渉縞情報に対応した位相シフト量を設定する制御信号を生成するように前記信号発生器を制御する
ことを特徴とする請求項2から請求項8のいずれか一項に記載の位相測定装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の位相測定装置で測定された前記位相のばらつきを用いて、測定された位相の逆符号の位相を位相補償量として前記光フェーズドアレイのそれぞれの前記位相シフターに付与する
ことを特徴とする位相補償装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相測定装置および位相補償装置に係り、特に、導波路型の光フェーズドアレイの各位相シフターにおける導波光の位相ばらつきを測定する位相測定装置と、その位相ばらつきを補償する位相補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的な機構を用いることなく出射光の出射方向やビーム形状を制御可能なデバイスとして、光フェーズドアレイが知られている。光導波路構造からなる光フェーズドアレイは、光源からの入射光を光スプリッターにより分岐し、2本以上の光導波路からなる光導波路アレイの各チャンネルに入射させる。光導波路アレイを構成する各光導波路には、光導波路内を伝搬する光(導波光)の位相を制御するための位相シフターが設けられている。位相シフターで各チャンネルを伝搬する導波光の位相を制御することにより、光出力部における位相分布を制御することができ、位相分布に応じて出射方向やビーム形状を制御することができる。
【0003】
作製された光フェーズドアレイにおいては、光導波路のレイアウトや作製時のプロセスの不均一性等により、各チャンネルを伝搬する導波光の位相にばらつきが生じる。そのため、光フェーズドアレイに対して精緻な位相制御を行うには、この位相ばらつきを補償する必要がある。
【0004】
位相のばらつきの補償手法として、勾配法による光ビーム形状の最適化がある。本従来手法では、たとえば0°方向に出射する光ビームを得るために位相シフターに与える補償量を最適化する場合には、所定の位相シフターにより、1本の光導波路内を伝搬する導波光の位相を微小に変化させ、0°方向に出射される光ビームの強度が大きくなる方向に、位相操作を加える。そして、導波光の位相を微小に変化させた際に、0°方向に出射される光ビームの強度がこれ以上大きくならないときに、その位相値が、位相ばらつきを補償するための最適値であるものとする。前記操作を、光導波路アレイを構成する全光導波路に適用することにより、光導波路アレイの初期位相のばらつきを補償することができ、光ビーム形状を改善することができる。また、勾配法の中でも局所最適解に陥ることの少ない確率的勾配降下法を用いた位相補償手法が知られているが、局所最適解に陥る可能性がある(非特許文献1参照)。また、勾配法は、各チャンネルの位相操作を加えるたびに出射光分布を測定する必要があるため、チャンネル数の多い光フェーズアレイに対してこの手法を適用する場合には、膨大な回数の出射光の測定を行う必要があり、位相補償に時間がかかるという課題がある。
【0005】
他の位相補償手法として、位相シフトデジタルホログラフィ法を用いた位相補償手法が知られている(特許文献1参照)。本手法によれば、まず、光フェーズドアレイの1つのチャンネルから出射する光を参照光として、残りのチャンネルから出射する光を物体光として位相シフトデジタルホログラフィ法を適用することにより、出射光の複素振幅分布(振幅位相分布)を測定する。この出射光の複素振幅分布を逆フーリエ変換することにより、光フェーズドアレイの光出力部における複素振幅分布を測定することができる。そして、測定結果から補償量を導出し、各位相シフターにフィードバックすることにより、位相補償を行うことができる。この手法は位相測定に基づくため、勾配法を用いた場合に課題となる局所最適解に陥る可能性はない。また、位相シフトデジタルホログラフィ法を適用する際には、参照光チャンネルの位相をπ/2ずつシフトさせ3回または4回撮影するのみであるため、光フェーズドアレイのチャンネル数が大きい場合においても、撮影回数が増えず、短時間で位相補償を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.N. Hutchison et al., "High-resolution aliasing-free optical beam steering," Optica 3, pp.887-890 (2016).
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-18182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された従来技術は、1つのチャンネルからの出射光を参照光として用いるため、光導波路間クロストークの影響によって他の光導波路に光振幅が一部移行するような光導波路のピッチが極めて小さい場合においては、位相測定精度が低下してしまうことから改良の余地があった。
また、参照光分布として、光フェーズドアレイの設計段階で、光導波路間クロストークの影響を考慮した設計値を与えることも示唆されているが、プロセスの不均一性等に起因する設計値と実機の特性差の影響により位相測定精度が低下する可能性がある。
【0009】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定と位相補償の精度を向上させることのできる位相測定装置および位相補償装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明に係る位相測定装置は、複数チャンネルの光導波路のそれぞれに光の位相を制御する位相シフターが設けられた光フェーズドアレイの光出力部から出射される出射光を取得して各光導波路に生じた位相のばらつきを測定する位相測定装置であって、前記出射光を物体光と参照光との干渉縞情報として取得する出射光取得部と、それぞれの前記位相シフターにおける位相を個別に制御する制御信号を発生する信号発生器と、前記信号発生器を制御すると共に、複数の前記干渉縞情報のそれぞれの取得タイミングを前記出射光取得部に設定する出射光取得制御部と、位相シフトされた複数の前記干渉縞情報と、位相シフトデジタルホログラフィ法によって適用される参照光である再生照明光と、を用いて、光導波路構造の予め定められた異なる複数の解析条件でそれぞれ算出された複数の再生光を、光導波路間クロストークの影響を考慮した所定の目的関数に適用して前記目的関数の最小値を得るときの再生光の位相を計算することで前記位相のばらつきを算出する演算部と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る位相補償装置は、前記位相測定装置で測定された前記位相のばらつきを用いて、測定された位相の逆符号の位相を位相補償量として前記光フェーズドアレイのそれぞれの前記位相シフターに付与する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明に係る位相測定装置は、光導波路構造の予め定められた解析条件を入力として、参照光の複素振幅分布を計算により導出し、光導波路間クロストークの影響を考慮した目的関数を用いて、計算で求めた参照光と、作製した光フェーズドアレイから出射される参照光との差を最小化することにより、位相シフトデジタルホログラフィ法によって導出される位相測定結果の精度を向上させる。したがって、位相測定装置は、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定の精度を向上させることができる。
本発明に係る位相補償装置は、位相測定結果から導出される補償量を光フェーズドアレイに反映させる装置であり、位相測定装置の測定精度の向上により、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても、位相補償の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る位相測定装置および位相補償装置の構成を示す模式図である。
図2】光フェーズドアレイの構成を示す模式図であって、(a)は各光導波路へ制御信号を付与する信号線を含む模式図、(b)は(a)の光導波路アレイを一般化した概念図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る位相測定装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る位相測定装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る位相測定装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図6】本発明の第4実施形態に係る位相測定装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図7】本発明の第5実施形態に係る位相補償装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図8】本発明の第6実施形態に係る位相測定装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図9】本発明の第7実施形態に係る位相補償装置の主として演算部の処理の流れを示す概念図である。
図10】参照光分布の推定をシミュレーションによって検証する検証実験の説明図であって、(a)は参照光分布の模式図、(b)は偽物体光の出現を示す模式図、(c)は偽物体光の最小化を示す模式図である。
図11】シミュレーション条件の説明図であって、(a)は参照光導波路の断面構造、(b)は干渉縞の光強度分布をそれぞれ示している。
図12】偽物体光強度の変化を示すグラフである。
図13】実施例および比較例について測定された位相分布を示すグラフである。
図14】位相補償結果を示す出射光の強度分布であって、(a)は実施例、(b)は比較例をそれぞれ示している。
図15図14の破線部における出射光の一次元プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る位相測定装置および位相補償装置の実施形態について説明する。
[位相測定装置および位相補償装置の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る位相測定装置および位相補償装置の構成を示す模式図である。なお、特許文献1に記載の位相測定装置および位相補償装置と同様の構成については適宜説明を省略する。
【0015】
位相測定装置1は、光フェーズドアレイ10から出射される出射光を取得して光フェーズドアレイ10の各光導波路に生じた位相のばらつきを測定するものである。光フェーズドアレイ10には、複数チャンネルの光導波路のそれぞれに光の位相を制御する位相シフターが設けられている。
【0016】
位相補償装置2は、位相測定装置1で測定された位相のばらつきを用いて、測定された位相の逆符号の位相を位相補償量として光フェーズドアレイ10のそれぞれの位相シフターに付与するものである。ここでは、位相補償装置2は、位相測定装置1と同様の構成を備えるものとして、位相補償装置2の構成の詳細な説明を省略する。
【0017】
図1に示すように、位相測定装置1は、出射光取得部3と、制御端末4と、信号発生器5と、を備えており、制御端末4は、出射光取得制御部6と、演算部7と、を備えている。出射光取得部3は、光フェーズドアレイ10から出射される出射光を物体光と参照光との干渉縞情報として取得するものである。信号発生器5は、光フェーズドアレイ10の光導波路のそれぞれの位相シフターにおける位相を個別に制御する制御信号を発生するものである。出射光取得制御部6は、信号発生器5を制御すると共に、複数の干渉縞情報のそれぞれの取得タイミングを出射光取得部3に設定するものである。演算部7は、位相シフトされた複数の干渉縞情報と、位相シフトデジタルホログラフィ法によって適用される参照光である再生照明光と、を用いて、光導波路構造の予め定められた異なる複数の解析条件でそれぞれ算出された複数の再生光を、光導波路間クロストークの影響を考慮した所定の目的関数に適用して目的関数の最小値を得るときの再生光の位相を計算することで位相のばらつきを算出するものである。
【0018】
演算部7は、前記解析条件において、複数チャンネルのいずれか1つである所定の参照光チャンネルの光導波路のみに位相振幅を与えたときに、複数チャンネルの光導波路内および出射光取得部3までの光伝搬計算により再生照明光を求める。この演算部7は、位相シフトデジタルホログラフィ法を適用して、位相シフトされた複数の干渉縞情報から再生照明光を用いて出射光取得部3において再生される再生光である第1再生光の複素振幅分布を求める。また、演算部7は、前記第1再生光が光フェーズドアレイ10の所定位置まで伝搬したときの再生光である第2再生光の複素振幅分布を算出する。さらに、演算部7は、前記目的関数に対して異なる複数の解析条件で算出された複数の第2再生光の複素振幅分布をそれぞれ適用して目的関数の最小値を探索する。そして、演算部7は、前記目的関数の最小値を得るときの第2再生光の複素振幅分布について複数チャンネルの光導波路15がそれぞれ存在する位置座標の位相を計算することで位相のばらつきを測定する。
【0019】
なお、本実施形態では、参照光チャンネルの光導波路に備わっている位相シフターで位相制御された光を参照光と呼ぶ。参照光チャンネル以外の物体光チャンネルの光導波路に備わっている位相シフターで位相制御された光を物体光と呼ぶ。これらを合わせて光フェーズドアレイ10から出てくる光が図1の出射光である。
【0020】
出射光取得部3は、例えば遠視野像カメラで構成され、レンズと、撮像素子とを備えている。なお、レンズは必ずしも必要ではなく、出射光取得部3は、イメージセンサで構成されてもよい。また、光フェーズドアレイ10の光導波路アレイが1次元アレイであれば、出射光取得部3は、ラインセンサでもよい。
【0021】
制御端末4は、例えばパーソナルコンピュータで構成され、CPU(Central Processing Unit)や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置を備えている。記憶装置は、コンピュータの起動時にCPUにより実行されるブートプログラム、コンピュータのハードウェアに係るプログラム、CPUにより実行されるプログラム(出射光取得制御プログラム、演算プログラム)および当該プログラムによって使用されるデータ等を記憶する。
【0022】
信号発生器5は、測定対象の光フェーズドアレイ10の各位相シフターの動作原理に応じた構成を備え、出射光取得制御部6の制御の下、各位相シフターの制御信号を発生する公知の電子機器である。光フェーズドアレイ10の各位相シフターの動作原理が、例えば電気光学効果(電界によって材料の屈折率が変化する現象)である場合には、信号発生器5は、電圧印加手段を備える。また、光フェーズドアレイ10の各位相シフターの動作原理が例えば、熱光学効果(熱によって材料の屈折率が変化する現象)である場合には、信号発生器5は、電流注入手段を備える。
【0023】
[光フェーズドアレイの構成例]
次に、位相測定装置1および位相補償装置2の適用対象として、光フェーズドアレイ10の構成例について図2を参照して説明する。なお、図2(a)は各光導波路へ制御信号を付与する信号線を含む模式図であり、図2(b)は図2(a)の光導波路アレイを一般化した概念図である。
【0024】
光フェーズドアレイ10は、基板11上に、光入力部12と、光スプリッター13と、光導波路アレイ14と、を備えている。光導波路アレイ14は、N本(図2(a)では8本)の光導波路15からなる。これら光導波路15を識別するときにはチャンネル番号で識別する。各光導波路15には位相シフターn(n=1,…,N)が備わっており、各チャンネルを伝搬する導波光の位相を制御することができる。位相シフターは、その動作原理に応じた構成を備えている。例えば、動作原理が電気光学効果である場合には、位相シフターは、対となる電極を光導波路15を挟んで備えており、一方の電極をGNDとして他方の電極に、制御信号としての電圧を印加することにより、電気光学効果を有する材料からなるコアまたはクラッドの屈折率を変調する。また、例えば、動作原理が熱光学効果である場合には、位相シフターは、流れる電流によりジュール熱を発生するヒーター(抵抗)で構成され、制御信号としての電流を注入することにより、熱光学効果を有する材料からなるコアまたはクラッドの屈折率を変調する。なお、図1および図2(a)では、光導波路15としてコアのみ図示しており、コア周囲のクラッド層の図示を省略している。
【0025】
光導波路アレイ14のうち、位相シフターが配設されている部分を位相シフター部16と呼び、位相シフター部16の後段(光出射側)において位相シフターが配設されていない部分を光出力部17と呼ぶ。出射端18は、光出力部17のN本(図2(a)では8本)の光導波路15のそれぞれの端部である。信号線19は、信号発生器5(図1参照)からの制御信号を位相シフターに供給する。
【0026】
このように構成された光フェーズドアレイ10において、例えばレーザ光源等の光源9からの光は、光入力部12に入射され、光スプリッター13によりN本の光導波路15からなる光導波路アレイ14に分配される。各チャンネルを伝搬する導波光は、位相シフター部16で位相が制御されて光出力部17まで伝搬し、光出力部17の出射端18から位相分布に応じた光が出射される。一般に、光フェーズドアレイ10においては、光導波路のレイアウトや作製プロセスの不均一性等により、各チャンネルを伝搬する導波光には位相のばらつきが生じる。位相測定装置1は、この位相ばらつきを高精度に測定し、位相補償装置2は、この位相ばらつきを補償するものである。
【0027】
[目的関数の原理]
次に、位相測定装置1の演算部7で適用する目的関数がどのように光導波路間クロストークの影響を考慮しているのかを数式を用いて説明する。
前記したように、位相測定装置1の出射光取得部3は、光フェーズドアレイ10から出射される出射光を物体光と参照光との干渉縞情報として取得する。
具体的には、出射光取得制御部6は、信号発生器5を介して、光フェーズドアレイ10の1つのチャンネルを参照光チャンネルと決めて、参照光チャンネルに配設された位相シフターを参照光用の位相シフターとした上で、その参照光用の位相シフターに、位相シフト量Δφm=m×π/2(m=0,1,2,-1)を与え、出射光取得部3は、それぞれに対応した干渉縞の強度(干渉縞情報)IΔφmを取得する。ここで、位相シフターに与える位相を-πからπの間に収めるため4ステップ目の位相を-π/2としたが、3π/2としてもよい。位相シフトデジタルホログラフィ法(4ステップ位相シフトデジタルホログラフィ法)を適用することにより、干渉縞の位置(出射光取得部3の位置)における物体光の複素振幅分布O(u,v)は、以下の式(1)のように表すことができる。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、R(u,v)は、参照光の複素振幅分布であり、R(u,v)は、その複素共役を表す。なお、参照光の複素振幅分布は、未知であり、推定する対象である。u,vは、水平方向と垂直方向の空間周波数をそれぞれ示す。どのような座標変換が適用されたかによって、以下の式(2a)~式(4b)ようにu,vの具体例は異なったものになる。
例えば、出射光取得部3が遠視野像を角度単位で出力する場合は、次の式(2a)および式(2b)により座標変換を行う。
【0030】
u=sin(θ)/λ … 式(2a)
v=sin(θ)/λ … 式(2b)
ここで、θとθはそれぞれ水平方向と垂直方向の出射角を、λは波長を表す。
【0031】
また、出射光取得部3が遠視野像を角度単位ではなく、いわゆる光学的フーリエ変換結果として出力する場合は、次の式(3a)および式(3b)により座標変換を行う。
【0032】
u=x/(λ×f) … 式(3a)
v=y/(λ×f) … 式(3b)
ここで、xとyは空間座標であり、fはレンズの焦点距離である。
【0033】
また、出射光取得部3がレンズを用いない構成の場合は、次の式(4a)および式(4b)により座標変換を行う。
【0034】
u=x/(λ×z) … 式(4a)
v=y/(λ×z) … 式(4b)
ここで、zは出射端18と出射光取得部3の間の距離である。
【0035】
なお、座標変換処理では、適宜内挿処理を行ってもよい。また、ここでは4ステップ位相シフトデジタルホログラフィ法について説明したが、取得する干渉縞を3枚として、3ステップ位相シフトデジタルホログラフィ法を適用してもよい。
【0036】
3ステップ位相シフトデジタルホログラフィ法の場合、例えば、位相シフト量Δφm=m×π/2(m=0,1,2)を与え、物体光の複素振幅分布O(u,v)を以下の式(5)のように表すことができる。
【0037】
【数2】
【0038】
あるいは、位相シフト量Δφm=m×2π/3(m=0,1,-1)として、物体光の複素振幅分布O(u,v)を以下の式(6)のように表すこととしてもよい。
【0039】
【数3】
【0040】
なお、式(6)において、位相シフターに与える位相を-πからπの間に収めるため3ステップ目の位相を-2π/3としたが、4π/3としてもよい。
【0041】
(u,v)を光フェーズドアレイ10の光出力部17における参照光の角スペクトル分布の複素共役として与える場合、式(1)に示す物体光の複素振幅分布O(u,v)は、光フェーズドアレイ10の光出力部17における物体光の複素振幅分布o(x,y)の角スペクトル分布と一致するため、以下の式(7)に示す関係が成立する。x,yは、図2(a)に示す座標軸に対応した水平方向と垂直方向の位置をそれぞれ示す。
【0042】
【数4】
【0043】
ここで、FT-1[ ]は逆フーリエ変換を表す。なお、出射光取得部3の位置と光フェーズドアレイ10の所定位置との間で(フーリエ変換の前後で)大文字と小文字を区別している。
式(7)に示す光出力部17における複素振幅分布について、光導波路アレイ14を構成する光導波路15が存在する座標の複素振幅を測定することで、各チャンネルの導波光の複素振幅を求めることができる。なお、式(1)および式(7)の詳細については、特許文献1に記載されている。
【0044】
本願発明者らは、後記するシミュレーション等の解析により、干渉縞IΔφmを形成する際に用いた参照光R(u,v)とは異なる光分布を持った参照光を用いて位相シフトデジタルホログラフィ法により再生計算を行うと、物体光とは異なった光が再生されることを見出したので、これを説明する。ここで、干渉縞取得時の参照光R(u,v)とは異なる参照光を再生照明光R′(u,v)とする。この再生照明光R′(u,v)を用いて、干渉縞の位置において得られる再生光(第1再生光)の複素振幅分布O′(u,v)は、以下の式(8)のように表すことができる。
【0045】
【数5】
【0046】
式(8)に示す再生光の複素振幅分布O′(u,v)を逆フーリエ変換することで、光フェーズドアレイ10の光出力部17における再生光(第2再生光)の複素振幅分布o′(x、y)は、以下の式(9)のように表すことができる。
【0047】
【数6】
【0048】
一例として、簡単化のために再生照明光R′(u,v)が0°入射の平面波であるものとすると、式(9)に示す再生光(第2再生光)の複素振幅分布o′(x、y)は、さらに以下の式(10)のように表すことができる。
【0049】
【数7】
【0050】
式(10)は、光導波路間クロストークの影響により参照光チャンネル以外に光振幅が移行したとすると、本来は光導波路がない位置(光導波路アレイ14のチャンネル外)に偽の物体光(偽物体光)が発生することを意味する。偽物体光は、光フェーズドアレイ10の複数チャンネルの両端から外側の架空のチャンネルからの物体光を示す。
また、再生照明光として、干渉縞取得時の参照光R(u,v)を用いた場合に、光フェーズドアレイ10の光出力部17において再生される再生光の複素振幅分布o′(x、y)は、以下の式(11)のように表すことができるので、偽物体光は発生しない。
【0051】
【数8】
【0052】
以上のように、本願発明者らは、この式(10)および式(11)で表される現象に着目し、参照光チャンネルの位相をπ/2ずつシフトさせて4枚の干渉縞を取得し、光フェーズドアレイ10のチャンネル外に出現する偽物体光の強度を最小化する目的関数を採用した。そして、偽物体光の強度を最小化することにより、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の再生照明光分布の最適化を行い、位相測定精度の向上を図ることができるか後記するシミュレーン実験を行って検証した。
【0053】
以下、位相測定装置1または位相補償装置2における演算部7(図1参照)の処理が異なる7つの実施形態について図3図9を順次参照して説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態に係る位相測定装置1の動作について図3を参照(適宜図1参照)して説明する。図3は、主として演算部の処理の流れを示す概念図である。図3には、位相測定装置1の出射光取得制御部6が、出射光取得部3と信号発生器5とを制御する動作を模式的に示すと共に、位相測定装置1の演算部7がステップS11~S18,S21,S30,S40の各処理を実行する動作を模式的に示している。
【0054】
位相測定装置1の演算部7は、目的関数が、光フェーズドアレイ10の複数チャンネルの外側の架空のチャンネルからの物体光を示す偽物体光の強度であるものとして演算する。この目的関数を、以下、第1関数と呼称する場合がある。
演算部7は、異なる複数の解析条件において、3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の干渉縞情報を共通に用いて複数の再生光(第2再生光)の複素振幅分布を算出する。
ここでは、演算部7の処理を以下のフェーズP1~フェーズP4の処理段階に分けて、各処理段階における処理ステップについて図3を参照しながら説明する。
【0055】
<フェーズP1:干渉縞の取得フェーズ>
前提として、位相測定装置1の出射光取得制御部6は、信号発生器5を介して、光フェーズドアレイ10の任意の1つの位相シフターを参照光用の位相シフターとした上で、その参照光用の位相シフターに、位相シフト量Δφm=m×π/2(m=0,1,2,-1)を与え、出射光取得部3は、それぞれに対応した干渉縞IΔφmを取得する。
そして、演算部7は、出射光取得部3から干渉縞情報I0,Iπ/2,Iπ,I-π/2を取得し(ステップS11)、平面波を再生照明光として位相シフトデジタルホログラフィ法を適用し、干渉縞の位置における再生光(第1再生光)の複素振幅分布O′(u,v)を求めておく(ステップS12)。
【0056】
<フェーズP2:再生照明光の複素振幅分布の計算フェーズ>
演算部7は、任意の参照光チャンネルnrefの光導波路15のみに位相振幅を与え(ステップS13)、条件iを初期値(例えばi=0)として、解析条件Ci(光導波路長や形状、ピッチなど)を反映させた上で(ステップS14)、光導波路アレイ14内の伝搬計算を行い、光出力部17(詳細には出射端18)における複素振幅分布ri(x,y)を求める(ステップS15)。そして、演算部7は、自由空間における伝搬計算として、光出力部17における複素振幅分布ri(x,y)をフーリエ変換することにより、出射光取得部3における参照光(遠視野像)の複素振幅分布Ri(u,v)を得る(ステップS16)。なお、伝搬計算には例えば、公知のビーム伝搬法(beam propagation method:BPM)を用いることができる。
【0057】
<フェーズP3:再生照明光を用いた再生光の計算フェーズ>
演算部7は、参照光(遠視野像)の複素振幅分布Ri(u,v)を再生照明光として位相シフトデジタルホログラフィ法を適用し、干渉縞の位置における再生光(第1再生光)の複素振幅分布Oi′(u,v)を求める(ステップS17)。そして、演算部7は、自由空間における逆伝搬計算として、この再生光の複素振幅分布Oi′(u,v)に対して逆フーリエ変換を適用することにより、光フェーズドアレイ10の光出力部17における再生光(第2再生光)の複素振幅分布oi′(x,y)を求める(ステップS18)。そして、演算部7は、光導波路アレイ14のチャンネル外の光(偽物体光)の光強度を評価する(ステップS21)。つまり、本実施形態では、目的関数にそれぞれ適用される再生光(第2再生光)の複素振幅分布は、光フェーズドアレイ10の光出力部17まで伝搬したときの再生光の複素振幅分布である。そして、ステップS21において、偽物体光の光強度が最小ではない場合(ステップS21:No)、現在の条件iに1を加算、つまり解析条件Ciを変える反復処理を行って(ステップS30)、ステップS14に戻って、続けてステップS15~S18、S21の処理を繰り返す。なお、例えば、解析条件Ciの総数(iの総数)の試行をすべて終えた場合、あるいは、すべてを終えなくとも解析条件Ciごとに算出された結果の履歴から最小になった蓋然性が高いと予測される場合、偽物体光の光強度が最小になったと判定される。
【0058】
<フェーズP4:測定結果の取得フェーズ>
演算部7は、偽物体光の光強度が最小となった場合(ステップS21:Yes)、そのときの再生光(第2再生光)が、光フェーズドアレイ10の位相シフターまで伝搬したときの再生光の複素振幅分布oi′(x,y)について、光導波路15内の逆伝搬計算を行うことで、位相シフター部16における再生光(第2再生光)を計算する。
この再生光の複素振幅分布について、光導波路15が存在する座標の位相θi reconstを計算することで、位相ばらつきをθobjとして測定することができる(ステップS40)。ここで、θi reconstは、x方向においてN個の光導波路15が存在する位置座標におけるそれぞれの位相の測定結果を示すN次元ベクトルであり、θobjは、x方向においてN個の光導波路15が存在する位置座標における目的の位相ばらつきを示すN次元ベクトルである。
以上の動作により、位相測定装置1は、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定の精度を向上させることができる。
【0059】
ここで、演算部7の計算により求めることができる位相は、物体光チャンネルの位相のみであり、位相シフトデジタルホログラフィ法の適用時に参照光チャンネルとしたチャンネルの位相を求めることはできない。ただし、本計算により求められる位相は、参照光チャンネルの位相からの相対値であることから、参照光チャンネルの位相も0ラジアン(既知)となり、全チャンネルの位相(位相ばらつき)を求めることができる。
【0060】
(第1実施形態の変形例)
本実施形態では、演算部7は、偽物体光の光強度が最小となった後に、光導波路15内の逆伝搬計算を行うこととしたが、光導波路15内の逆伝搬計算を行った後に、偽物体光の光強度を評価するようにしてもよい。その場合には、演算部7が、目的関数にそれぞれ適用する再生光の複素振幅分布は、光フェーズドアレイ10の位相シフターまで伝搬したときの再生光(第2再生光)の複素振幅分布となる。
【0061】
(第2実施形態)
本願発明者らは、偽物体光の強度を最小化するシミュレーションの解析により、干渉縞取得時の参照光R(u,v)と、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の参照光(再生照明光Ri′(u,v))とが一致した場合、光フェーズドアレイ10における再生光(第2再生光)に参照光成分は含まれないことを見出した。そこで、光フェーズドアレイ10の参照光チャンネルの光強度を目的関数として最小化する実施形態を第2実施形態として説明する。図4は、第2実施形態に係る位相測定装置1Bの演算部7がステップS11~S18,S41,S22,S30,S42の各処理を実行する動作を模式的に示している。
【0062】
位相測定装置1Bの演算部7は、目的関数が、再生光(第2再生光)における参照光チャンネルの光強度であるものとして目的関数の最小化を演算する。この目的関数を、以下、第2関数と呼称する場合がある。演算部7は、異なる複数の解析条件において、3枚または4枚の干渉縞に対応した複数の干渉縞情報を共通に用いて複数の再生光(第2再生光)の複素振幅分布を算出する。
ここでは、演算部7の処理として、第1実施形態との差分について図4を参照しながら説明する。演算部7は、フェーズP1、フェーズP2、フェーズP3におけるステップS17およびステップS18については、第1実施形態と同様の処理をする。
【0063】
演算部7は、ステップS18で求めた再生光の複素振幅分布oi′(x,y)について、光導波路15内の逆伝搬計算を行うことで、位相シフター部16における再生光(第2再生光)を計算する(ステップS41)。そして、演算部7は、この再生光における参照光チャンネルの光強度を評価する(ステップS22)。つまり、本実施形態では、目的関数にそれぞれ適用される再生光(第2再生光)の複素振幅分布は、光フェーズドアレイ10の位相シフターまで伝搬したときの再生光の複素振幅分布である。そして、ステップS22において、参照光チャンネルの光強度が最小ではない場合(ステップS22:No)、現在の条件iに1を加算、つまり解析条件Ciを変える反復処理を行って(ステップS30)、ステップS14に戻って、続けてステップS15~S18、S41の処理を繰り返す。
【0064】
フェーズP4(測定結果の取得フェーズ)において、演算部7は、参照光チャンネルの光強度が最小となった場合(ステップS22:Yes)、そのときの再生光(第2再生光)の複素振幅分布について、光導波路15が存在する座標の位相θi reconstを計算することで、位相ばらつきをθobjとして測定することができる(ステップS42)。
以上の動作により、位相測定装置1Bは、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定の精度を向上させることができる。
【0065】
(第3実施形態)
本願発明者らは、偽物体光の強度を最小化するシミュレーションの解析により、干渉縞取得時の参照光R(u,v)と、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の参照光(再生照明光Ri′(u,v))とが一致した場合、位相補償量を反映させた光フェーズドアレイからの出射光の0°方向成分が大きくなることを見出した。そこで、出射光の0°方向成分が最大であるときに最小になる関数を目的関数として用いる実施形態を第3実施形態として説明する。図5は、第3実施形態に係る位相測定装置1Cの演算部7がステップS11~S18,S41C,S23,S30,S42の各処理を実行する動作を模式的に示している。
【0066】
位相測定装置1Cの演算部7は、目的関数が、光フェーズドアレイ10の出射光の光軸に沿った0°方向成分の光強度の逆数であるものとして目的関数の最小化を演算する。この目的関数を、以下、第3関数と呼称する場合がある。ここでは、演算部7の処理として、第2実施形態との差分について図5を参照しながら説明する。演算部7は、フェーズP1、フェーズP2、フェーズP3におけるステップS17,ステップS18,ステップS41Cについては、第2実施形態と同様の処理をする。ただし、ステップS41Cの処理では、演算部7は、解析条件毎にその都度取得した干渉縞情報を用いて位相シフター部16における再生光(第2再生光)の複素振幅分布を算出する(ステップS41)だけでなく、この計算結果(測定結果)を、測定の都度、出射光取得制御部6を介して信号発生器5に暫定的な位相補償量としてフィードバックさせる点が、第2実施形態のステップS41の処理と相違している。これにより、信号発生器5は、解析条件毎にその都度算出された再生光の複素振幅分布の逆符号の位相を光フェーズドアレイ10のそれぞれの位相シフターに付与する制御信号を発生する。
【0067】
そして、ステップS41Cに続いて、ステップS23において、演算部7は、0°方向出射光強度の逆数が最小であるか否かを判別する。すなわち、演算部7は、ステップS41Cで算出した再生光における0°方向成分の光強度の逆数を評価する。つまり、本実施形態も第2実施形態と同様に、目的関数にそれぞれ適用される再生光(第2再生光)の複素振幅分布は、光フェーズドアレイ10の位相シフターまで伝搬したときの再生光の複素振幅分布である。そして、ステップS23において、再生光における0°方向成分の光強度の逆数が最小ではない場合(ステップS23:No)、現在の条件iに1を加算、つまり解析条件Ciを変える反復処理を行って(ステップS30)、ステップS14に戻って、続けてステップS15~S18、S41Cの処理を繰り返す。ただし、本実施形態では、解析条件Ciを変えるたびに、信号発生器5が暫定的な位相補償量を光フェーズドアレイ10のそれぞれの位相シフターに付与して光フェーズドアレイ10から出射光を取得するので、演算部7は、解析条件Ciを変えるたびに、フェーズP1およびフェーズP2を実行する。
以上の動作により、位相測定装置1Cは、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定の精度を向上させることができる。なお、第3実施形態の目的関数は、0°方向の出射光強度が最大のときに最小となるものであればよく、例えば0°方向の出射光強度に-1を乗算したものでもよい。
【0068】
(第4実施形態)
次に図6を参照(適宜図5参照)して、第4実施形態に係る位相測定装置1Dの動作について説明する。図6は、第4実施形態に係る位相測定装置1Dの演算部7がステップS11~S18,S41C,S24,S30,S42の各処理を実行する動作を模式的に示している。ここでは、演算部7の処理として、第3実施形態との差分について図6を参照しながら説明する。本実施形態では、ステップS24の処理が、第3実施形態のステップS23の処理に置き換えられている点が主に相違している。
【0069】
位相測定装置1Dの演算部7は、ステップS24の処理において、目的関数が、前記した第1関数と第2関数と第3関数とをそれぞれ重みづけして3つの関数のうち少なくともいずれか2つを加算したものとして目的関数の最小化を演算する。
演算部7は、第1関数および第2関数については、異なる複数の解析条件において、干渉縞を共通に用いて複数の再生光(第2再生光)の複素振幅分布を算出する(ステップS41までの処理)。
演算部7は、第3関数については、解析条件毎にその都度取得した干渉縞を用いて再生光(第2再生光)の複素振幅分布を算出し、かつ、信号発生器5が、解析条件毎にその都度算出した再生光の複素振幅分布の逆符号の位相を光フェーズドアレイ10のそれぞれの位相シフターに付与する制御信号を発生する(ステップS41Cまでの処理)。
ここで、重み付けに関与させない値については測定する必要はなく、測定に必要な処理を省略してもよい。
以上の動作により、位相測定装置1Dは、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定の精度を向上させることができる。
【0070】
(第5実施形態)
次に図7を参照(適宜図6参照)して、第5実施形態に係る位相補償装置2Dについて説明する。図7は、第5実施形態に係る位相補償装置2Dの演算部7がステップS11~S18,S41C,S24,S30,S42Dの各処理を実行する動作を模式的に示している。ここでは、演算部7の処理として、第4実施形態との差分について図7を参照しながら説明する。
ステップS42Dの処理では、演算部7は、目的関数が最小となったときの再生光(第2再生光)の複素振幅分布から位相ばらつきをθobjとして測定する(ステップS42)だけなく、この測定した位相の逆符号の位相を位相補償量として求め、測定対象の光フェーズドアレイ10に適用する点が、第4実施形態のステップS42の処理と相違している。
位相補償装置2Dの演算部7は、光フェーズドアレイ10の各チャンネルの位相補償量を出射光取得制御部6に出力し、出射光取得制御部6は、位相補償量に対応した制御信号を発生して光フェーズドアレイ10の各位相シフターに付与する。
以上の動作により、位相補償装置2Dは、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相補償の精度を向上させることができる。
【0071】
(第5実施形態の変形例)
本実施形態では、第4実施形態に係る位相測定装置1Dによって最終的に測定された位相から求めた位相補償量を光フェーズドアレイ10に適用することとしたが、位相測定装置1、1B、1Cのいずれかによって測定された位相から位相補償量を求めるようにしてもよい。
【0072】
(第6実施形態)
次に図8を参照(適宜図2および図6参照)して、第6実施形態に係る位相測定装置1Eの動作について説明する。図8は、第6実施形態に係る位相測定装置1Eの演算部7がステップS11~S18,S41C,S24,S30,S42の各処理を実行する動作を模式的に示している。ここでは、演算部7の処理として、第4実施形態(図6)との差分について図8を参照しながら説明する。
【0073】
第1~第4実施形態では、フェーズP1(干渉縞の取得フェーズ)の前提として、出射光取得制御部6は、信号発生器5を介して、光フェーズドアレイ10の任意の1つの位相シフターを参照光用の位相シフターとした上で、その参照光用の位相シフターに、位相シフト量Δφm=m×π/2(m=0,1,2,-1)を与え、出射光取得部3は、それぞれに対応した干渉縞IΔφmを取得していた。本実施形態では、フェーズP1の前提として、出射光取得制御部6は、光フェーズドアレイ10の複数チャンネルのうち端に配置されたチャンネルを参照光チャンネルとして当該参照光チャンネルに対して干渉縞情報に対応した位相シフト量を設定する制御信号を生成するように信号発生器5を制御する点が上記各実施形態と相違している。そして、演算部7は、フェーズP2(再生照明光の複素振幅分布の計算フェーズ)のステップS13において、出射光取得制御部6によって位相シフト量が設定された参照光チャンネルnrefの光導波路15のみに位相振幅を与える。
【0074】
ここで、複数チャンネルの両端のいずれか一方とは、具体的には、図2(a)に示すようなチャンネル数が8である光導波路アレイ14の場合、最も手前の0チャンネル、または、最も奥の7チャンネルのことを意味する。もしも参照光チャンネルの位相シフト量(π/2)に誤差がある場合には、物体光の共役光が発生し、再生された物体光に重畳されることがある。しかしながら、本実施形態は、参照光チャンネルを光導波路アレイ14(図2(a)参照)の端とすることにより、参照光チャンネルの位相シフト量(π/2)に誤差がある場合に発生する物体光の共役光が、再生された物体光に重畳されることを避けることができる。本実施形態は、このように物体光の共役光が発生しないように制御することにより、4枚の干渉縞取得時における参照光チャンネルの位相シフトの正確性を担保し、位相測定のさらなる向上を図ることができる。
【0075】
(第7実施形態)
次に図9を参照(適宜図2および図7参照)して、第7実施形態に係る位相補償装置2Eの動作について説明する。図9は、第7実施形態に係る位相補償装置2Eの演算部7がステップS11~S18,S41C,S24,S30,S42Dの各処理を実行する動作を模式的に示している。ここでは、演算部7の処理として、第5実施形態(図7)との差分について図9を参照しながら説明する。
本実施形態では、第6実施形態と同様に、参照光チャンネルを光導波路アレイ14(図2(a)参照)の端に設定した上で位相シフト量を設定し、ステップS13において、出射光取得制御部6によって位相シフト量が設定された参照光チャンネルnrefの光導波路15のみに位相振幅を与える。本実施形態は、物体光の共役光が発生しないように制御することにより、4枚の干渉縞取得時における参照光チャンネルの位相シフトの正確性を担保し、位相補償のさらなる向上を図ることができる。なお、本実施形態の変形例として、位相測定装置1Bまたは位相測定装置1Cによって測定された位相から位相補償量を求めるときに参照光チャンネルを光導波路アレイの端に設定するようにしてもよい。
【0076】
以上説明したように、各実施形態に係る位相測定装置1においては、光フェーズドアレイの諸元(光導波路の長さや形状、コア・クラッドの屈折率など)を入力として、参照光の複素振幅分布を計算により導出する。そして、計算で求めた参照光と、作製した光フェーズドアレイ10から出射される参照光(参照光チャンネルの位相シフターにより位相制御され、光導波路アレイ14において導波路間クロストークにより他のチャンネルに一部光振幅が移行したのち、光出力部17から出射した光)との差を最小化することにより、位相シフトデジタルホログラフィ法によって導出される位相測定結果の精度を向上させる。
また、各実施形態に係る位相補償装置2は、測定結果から導出される位相補償量を光フェーズドアレイ10に反映させる装置であり、位相測定装置1の精度の向上により、位相補償精度の向上を図ることができる。
したがって、位相測定装置および位相補償装置は、光フェーズドアレイの光導波路のピッチが狭小であっても位相測定と位相補償の精度を向上させることができる。その結果、光導波路のピッチが狭小で偏向角の大きな出射光を出射する光フェーズドアレイを、位相ばらつきが補償された形状の良好な光ビームが形成できる状態で所定の用途に供することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態に係る位相測定装置および位相補償装置について説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変などしたものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0078】
例えば、位相補償装置2は、作製した複数の光フェーズドアレイを補償対象とするように構成されているが、作製した1つの光フェーズドアレイを専属の補償対象とするように構成してもよい。その場合には、位相補償装置は、信号発生器5と、信号発生器5を制御して、位相測定装置1で測定された位相補償量の制御信号を発生させる制御を行う機能を有した制御部と、を備えていればよい。
【0079】
(シミュレーション)
[目的関数について]
狭ピッチの光フェーズドアレイの光出力部における光の伝搬を調べるシミュレーションをした結果を図10(a)に示す。図10(a)に示すx軸、z軸、位相シフター部、光出力部、出射端は、概ね図2(a)に示すx軸、z軸、位相シフター部16、光出力部17、出射端18に対応している。図10(a)の縦横の目盛りの単位はμmである。シミュレーションではチャンネル数は16、チャンネル番号は0~15、参照光チャンネルは0チャンネル、ピッチを2.5μmとして、参照光チャンネル(0チャンネル)にだけ光振幅を与えたところ、光導波路内を伝搬する光は、光導波路間クロストークの影響により隣の光導波路に移行し、出射端において二点鎖線で示すような参照光分布が形成された。従来手法では、参照光を1つのチャンネルからの出力光と想定していた。クロストークが十分に小さければ、この想定に問題はないが、クロストークが大きくなる狭ピッチの場合には、この想定は、位相シフトデジタルホログラフィ法を適用する際の誤差要因になると考えられる。実施形態では、参照光のことを、参照光チャンネルの光導波路に備わっている位相シフターで位相制御された光と定義し、参照光分布を推定することで位相シフトデジタルホログラフィ法を適用する際の誤差を低減し、測定精度を向上させている。
【0080】
シミュレーションの解析に基づき、干渉縞を形成する際に用いた参照光R(u,v)とは異なる再生照明光R′(u,v)を用いて位相シフトデジタルホログラフィ法により再生計算を行ったときに再生される再生光の振幅の模式図を図10(b)に示す。
図10(b)のグラフの横軸はチャンネル番号を示し、チャンネル数はN、チャンネル番号は0~(N-1)、参照光チャンネルは0チャンネルとしている。縦軸は光フェーズドアレイの出射端における再生光の振幅を示す。図示するように、0チャンネルの外側であって、架空の-1チャンネルの位置と、-2チャンネルの位置に、特徴的なノイズ光の振幅が出現した。これを、本来あるはずのない物体光という意味で偽物体光と称す。この偽物体光の強度を最小化したときが、すなわち、参照光分布が正しく推定されたときであると考え、このとき再生される再生光の模式図を図10(c)に示す。以下、偽物体光の強度を最小化することで、参照光分布が正しく推定されることを検証する検証実験(シミュレーション実験)について説明する。
【0081】
(検証実験)
[シミュレーション条件]
以下のシミュレーション条件を設定した。
チャンネル数:16
光導波路間ピッチ:2.5μm
光導波路長:500μm
結合係数:1.45mm-1
位相シフター部の位相:ランダム
参照光チャンネルの番号:0(最外のチャンネル)
設計波長:1.55μm
【0082】
図11(a)は、シミュレーションに用いた参照光導波路の断面構造である。参照光導波路には、図示するように、以下のシミュレーション条件を設定した。
コアサイズ:(x方向)1μm×(y方向)0.5μm
コア材料:Si-N(屈折率:1.965)
全クラッドサイズ:(x方向)6μm×(y方向)6μm
上部クラッドサイズ:(y方向)3.25μm
下部クラッドサイズ:(y方向)2.75μm
上部クラッド材料:SiO2(屈折率n:1.48)
下部クラッド材料:SiO2(屈折率n:1.48)
【0083】
ここでは、位相誤差を模倣するため、各チャンネルの位相はランダム位相としている。
ビーム伝搬法を用いて生成した4枚の干渉縞I0,Iπ/2,Iπ,I-π/2図11(b)に示す。なお、実機による実験では、これらは撮影して取得するものであるが、シミュレーションによる実験なので、計算により干渉縞を生成した。
これらの4枚の干渉縞から参照光分布を推定できるか、また各チャンネルの位相を正しく測定し、位相補償を行うことができるかを検証した。なお、これらのシミュレーションは、前記した第1実施形態(偽物体光強度の最小化)、第5実施形態(位相補償)、第6実施形態(参照光チャンネルを0チャンネルとする)等に対応しており、これらの実施形態の説明で参照した図面の符号を適宜付加して説明する。
【0084】
<参照光分布の推定結果>
参照光分布(再生照明光の分布)を算出(推定)するために、解析条件Ciは、一例として光導波路長であるものとした。光出力部17(図2(a)参照)の光導波路長が0~600μmまで、10μmずつ変化させて反復処理を行った。光導波路の長さに対する評価値(偽物体光強度)をプロットしたグラフを図12に示す。図12のグラフの横軸は、光導波路長を示し、縦軸は正規化した偽物体光強度を示す。このシミュレーションでは、真値が500μmであるのに対して、480μmで評価値(偽物体光強度)が最小となった。なお、図示を省略するが、出射端の参照光分布(近視野像)について、真値(500μm)の場合と算出値(480μm)の場合とを比較してもよい一致を示した。同様に、出射光(遠視野像)について、真値(500μm)の場合と算出値(480μm)の場合とを比較してもよい一致を示した。結論として、図11(b)に示す4枚の干渉縞から参照光分布を算出(推定)できることが分かった。このことは、干渉縞取得時の参照光(真値)と、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の参照光とを一致させることを示している。なお、真値と推定結果とのずれは、逆伝搬計算に用いたビーム伝搬法における数値計算誤差が主要要因と考えられる。
【0085】
<光フェーズドアレイの位相測定結果>
次に、シミュレーションにおける光フェーズドアレイの位相測定の流れの概略を説明する。まず、前記のように干渉縞から推定された参照光分布(偽物体光最小時)と、図11(b)に示す4枚の干渉縞と、を用いて、位相シフトデジタルホログラフィ法を適用し、干渉縞の位置における物体光の複素振幅分布を計算した。
次に、この物体光の複素振幅分布に基づいて、自由空間における逆伝搬計算を行って、光フェーズドアレイの出射端における物体光を計算した。
次に、出射端における物体光に基づいて、光導波路内の逆伝搬計算を行って、光フェーズドアレイの位相シフターにおける物体光を計算した。
次に、位相シフターにおける物体光の複素振幅分布に基づいて、16個のチャンネルの光導波路がそれぞれ存在する位置座標の位相を計算することで各チャンネルの位相を測定した。つまり、光フェーズドアレイの位相シフター部における各チャンネルの位相のばらつきを測定した。
【0086】
上記のように偽物体光の強度を最小化して位相を測定した結果を、以下では実施例と呼ぶ。また、測定対象の光フェーズドアレイの位相の真値は実験では分からないが、別のシミュレーションにより分かっている。さらに、参照光を1つのチャンネルからの出力光と想定している従来の位相シフトデジタルホログラフィ法を適用した手法によって位相を測定した結果を比較例とする。
【0087】
これら実施例、真値、比較例について、光フェーズドアレイの位相シフター部において、参照光チャンネルにおける位相(参照光位相)を基準にして、物体光チャンネルにおける位相の相対値をプロットしたグラフを図13に示す。図13のグラフの横軸は、チャンネル番号を示し、縦軸は参照光位相からの相対値を示す。図13において、実施例は実線、真値は一点鎖線、比較例は破線でそれぞれ示している。なお、本グラフで示される参照光位相からの相対値は-πからπの範囲に折り返されている。そのため、π以下からπを超える値への推移や、-π以上から-πを下回る値への推移は、見かけ上連続した一直線になっている箇所もある。
【0088】
図13に示すように、実線(実施例)と一点鎖線(真値)は、9チャンネルで僅かに差異があるものの、ほぼ重なって両者の区別ができないほどであり、実施例と真値がよい一致を示している。一方、破線(比較例)と一点鎖線(真値)は、差異があり、クロストークの影響を考慮していない比較例は、真値との誤差が大きい結果となった。
なお、実施例の手法で計算できるのは、物体光の位相分布であり、参照光チャンネルの位相は求めることができないが、求まる位相は、参照光を基準とした相対値であることから、参照光チャンネル自身の位相は既知であるものとすることができる。
【0089】
また、偽物体光の強度を最小化して位相を測定する前提として、光フェーズドアレイの位相シフターにおける物体光を計算しているが、シミュレーションの解析により、この物体光の参照光チャンネルの光強度は非常に微弱であることが分かった。偽物体光の強度が最小化するとき、つまり、干渉縞取得時の参照光(真値)と、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の参照光とを一致させる場合、光フェーズドアレイの位相シフターにおける物体光の参照光チャンネルの光強度が最小化する。つまり、実施例の手法における位相シフトデジタルホログラフィ法で計算される位相シフターにおける第2再生光の参照光チャンネルの光強度が最小化したときに、導波路間クロストークを考慮した精度のよい位相を測定することが可能である。したがって、前記第2実施形態では、参照光チャンネルの光強度(第2関数)を目的関数として採用した。
【0090】
図13に示す位相分布において、16個のチャンネルの光導波路がそれぞれ存在する位置座標の位相を位相補償量としてクロス記号で示している。なお、位相補償を実施する場合には、位相のばらつきを相殺するために、測定された位相の符号を逆転させる。
【0091】
<光フェーズドアレイの位相補償結果>
実施例として測定された位相の符号を逆転させた位相補償量を、測定対象(補償対象)の光フェーズドアレイの各位相シフターに付与したときに、1.55μmの波長の光を光フェーズドアレイに入射したときに出射される出射光(遠視野像)をシミュレーションにより生成し、図14(a)に示す。また、同様に、比較例として測定された位相の符号を逆転させた位相補償量に基づいてシミュレーションにより生成した出射光(遠視野像)を図14(b)に示す。
【0092】
図14(a)および図14(b)にそれぞれ付した水平の破線部における1次元プロファイルを取ってプロットしたグラフを図15に示す。図15のグラフの横軸は角度を示し、縦軸は正規化した光強度を示す。図15において、実施例は実線、比較例は破線でそれぞれ示している。図示するように、比較例の場合、10~35°の範囲と、-35~-10°の範囲にも光強度分布が出現したが、実施例の場合、該当の範囲に光強度分布が現れなかった。実施例は、比較例よりも0°方向に、よりシャープな光ビームを出すことができている。これにより、実施例は、比較例よりも、より精度の高い位相補償が可能であることが分かった。
【0093】
上記シミュレーションの解析によれば、偽物体光の強度が最小化するとき、つまり、干渉縞取得時の参照光と、位相シフトデジタルホログラフィ法適用時の参照光とを一致させるときに、測定された位相に基づく位相補償量が付与された光フェーズドアレイから出射される出射光の0°方向成分の光強度は、測定時における偽物体光の強度と相関関係がある。このときの出射光の0°方向成分の光強度は、実施例と比較例との比較から光強度が大きいほど、位相補償の精度がよりよく、つまり、位相測定の精度がよりよく、言い換えると、偽物体光の強度がより小さいことを意味する。要するに、位相補償時に出射光の0°方向成分の光強度の逆数がより小さくなることは、位相測定時に偽物体光の強度がより小さくなるという関係がある。そのため、位相測定時に、暫定的な位相補償量を求め、その暫定的な位相補償量を光フェーズドアレイの各位相シフターに付与したときの出射光の0°方向成分の光強度の逆数が最小化したときに、導波路間クロストークを考慮した精度のよい位相を測定することが可能である。したがって、前記第3実施形態では、出射光の0°方向成分の光強度の逆数(第3関数)を目的関数として採用した。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本実施形態に係る位相測定装置および位相補償装置は、空間光通信や光インターコネクション、距離センサー、ディスプレイ、3Dディスプレイ等に適用される導波路型の光フェーズドアレイの位相測定および位相補償に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
1,1B,1C,1D,1E 位相測定装置
2,2D,2E 位相補償装置
3 出射光取得部
4 制御端末
5 信号発生器
6 出射光取得制御部
7 演算部
9 光源
10 光フェーズドアレイ
11 基板
12 光入力部
13 光スプリッター
14 光導波路アレイ
15 導波路
16 位相シフター部
17 光出力部
18 出射端
19 信号線
図1
図2
図3
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図10
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