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特開2023-79531フルオロポリエーテル含有ポリシラザン組成物、およびその硬化膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079531
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル含有ポリシラザン組成物、およびその硬化膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20230601BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20230601BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193032
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】齊川 誠
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038DF042
4J038JB01
4J038KA06
4J038PB05
4J038PB07
(57)【要約】
【課題】25℃程度の常温で硬化することで優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性、硬度を示す硬化膜を与えるポリシラザン組成物を提供する。
【解決手段】ポリシラザン組成物であって、(A)ポリシラザン、(B)有機溶剤、(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、及び(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物、を含むものであることを特徴とするポリシラザン組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザン組成物であって、
(A)ポリシラザン、
(B)有機溶剤、
(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、及び
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物、
を含むものであることを特徴とするポリシラザン組成物。
【請求項2】
前記(A)成分がペルヒドロポリシラザンであることを特徴とする請求項1に記載のポリシラザン組成物。
【請求項3】
前記(D)成分の1分子中に含まれる窒素原子の数が1~3であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリシラザン組成物。
【請求項4】
前記(D)成分の配合量が、前記(A)成分100質量部に対して、5~100質量部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリシラザン組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の配合量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリシラザン組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリシラザン組成物を硬化してなるものであることを特徴とする硬化膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシラザン組成物、およびその硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の外壁やガラス窓、自動車ボディーなど主に屋外での使用を想定される物体は、大気中のゴミや有機物成分など多岐にわたる汚染物質に晒される。これらの物体は、汚れても性能面では特に問題は生じないが、意匠性や清潔感の低下に繋がるため汚染対策として表面に防汚コーティングを施すことが一般的である。特に公衆トイレや電柱、道路、橋などの公共建造物の多くは数十年単位で数多くの人目に付くため防汚コーティングを施すことは必須である。
【0003】
硬化膜表面が撥水撥油性を示すコーティング剤は防汚用途に使用され、汚染物質を付着しにくくし、汚染物質が付着しても清掃を容易にする機能を示す。このような防汚コーティング剤にはフッ素原子を含有する材料(フッ素系材料)が含まれることがある。その理由は、フッ素原子を含有することで水や油などに比べて表面張力が小さくなり撥水撥油性を示すためである。フッ素系材料を使用した防汚コーティングの手法としては、フッ素原子含有アクリルオリゴマーを高周波プラズマCVD装置で成膜する方法が提案されている(特許文献1)。この方法では高強度で高い防汚性を示す塗膜を基材表面に成膜できるが、屋外建造物の多くは建造後に防汚コーティング処理を行うためCVDや蒸着などのチャンバーが必要な工程は採用できない。
【0004】
他には硬化性シラン化合物をフルオロポリエーテル基で変性させた低温硬化性フッ素ポリマー(特許文献2)によるコーティングが開示されている。硬化性シラン化合物はウェットプロセスによりコーティングすることも可能である。そのためCVDや蒸着などのドライプロセスと比較すると、施工用具はスプレーやスポンジ等の簡易なもので良いために屋外でもコーティングすることが可能となる。
【0005】
一方で、屋外では飛び石などの衝突によりコーティングや場合によっては基材にまでチッピング傷が生じる場合がある。コーティングのみが傷ついたのであればリコートすることよって外観やコーティングの機能を回復させることが可能であるが、基材まで届く深い傷の場合は回復が困難になる。チッピング傷の対策としては、ハードコートによって基材の表面硬度を高くすることが挙げられる。チッピング傷の対策は屋外を高速で走行する物体(例えば自動車)のコーティングおいて特に重要である。そこで、例えば、樹脂基材上に熱可塑性エラストマー層とハードコート層を積層させた自動車用樹脂部材が開示されている(特許文献3)。
【0006】
特許文献2で開示されているような硬化性シラン化合物によるコーティングは基材表面に単分子膜類似の極薄膜を形成する。この膜設計は防汚コーティングとしては十分に機能するものの、基材をチッピング傷から守るハードコートとしての機能は不十分である場合がある。基材がガラスや金属のような無機物の場合は、基材自体の表面硬度が高いために、防汚性付与のみを意識したコーティングで十分である。しかし、プラスチックのような有機物はチッピング等で問題になる石等の無機物よりも圧倒的に表面硬度が劣るために、屋外での基材の保護という観点からは従来の防汚コーティング剤では不十分である。そこで、ハードコート性の付与に着目してプラスチック基材の表面硬度を上げる手法としてポリシラザン化合物とナノシリカを用いたハードコート剤が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-003510号公報
【特許文献2】特開2017-082194号公報
【特許文献3】特開2019-126985号公報
【特許文献4】特開2021-16995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、25℃程度の常温で硬化することで優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性、硬度を示す硬化膜を与えるポリシラザン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、ポリシラザン組成物であって、
(A)ポリシラザン、
(B)有機溶剤、
(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、及び
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物、
を含むものであるポリシラザン組成物を提供する。
【0010】
このようなポリシラザン組成物であれば、各成分の相溶性に優れ、かつ25℃程度の常温で硬化することで優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、硬度を示す硬化膜を与えるポリシラザン組成物となる。
【0011】
また、本発明では、前記(A)成分がペルヒドロポリシラザンであることが好ましい。
【0012】
このようなポリシラザン組成物であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0013】
また、本発明では、前記(D)成分1分子中に含まれる窒素原子の数が1~3であることが好ましい。
【0014】
このようなポリシラザン組成物であれば、本発明の効果をさらに向上させることができる。
【0015】
また、本発明では、前記(D)成分の配合量が、前記(A)成分100質量部に対して、5~100質量部であることが好ましい。
【0016】
このようなポリシラザン組成物であれば、本発明の効果をより一層向上させることができる。
【0017】
また、本発明では、前記(C)成分の配合量が、前記(A)成分と前記(B)成分の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましい。
【0018】
このようなポリシラザン組成物であれば、本発明の効果をさらに一層向上させることができる。
【0019】
また、本発明では、上記ポリシラザン組成物を硬化してなるものである硬化膜を提供する。
【0020】
このような硬化膜であれば、優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性、硬度を示すため、防汚性に優れた硬化膜として有用である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテルおよび鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物を含むポリシラザン組成物は、25℃程度の常温で硬化することで優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性、硬度を示す硬化膜を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記で述べたように防汚コーティングとハードコートは別々の設計思想に基づき、独立した製品として開発されている。これらを併用することは可能であるが、塗工の工程が2工程になり、さらに塗工に際してハードコート層と防汚コーティング層の接着性も考慮しなければ、各層が本来発揮しうる機能が十分に得られないという問題がある。
【0023】
よって、1工程のみのコーティングで防汚性と高い表面硬度の発現できるようなコーティング剤の開発が求められている。
【0024】
以上のことから、ポリシラザンとフッ素ポリマーを独立成分として組成物化したコーティング剤は、塗布後にポリシラザン層とフッ素ポリマー層が相分離することで、防汚性と高い硬度を両立できると考えられ、ポリシラザンとフッ素ポリマーを独立成分として含み、25℃程度の常温で硬化することで優れた防汚性と耐久性、硬度を実現する技術の開発が求められている。
【0025】
つまり、1回のみの塗工かつ25℃程度の常温で硬化することで優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、硬度を示す硬化膜を与えるポリシラザン組成物の開発が求められている。
そこで本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、適切な組み合わせのフルオロポリエーテルおよびアミン化合物を含むポリシラザン組成物から得られる硬化膜が撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性、硬度に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
即ち、本発明は、ポリシラザン組成物であって、
(A)ポリシラザン、
(B)有機溶剤、
(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、及び
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物、
を含むものであるポリシラザン組成物である。
【0027】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これは例示的に示されるもので、本発明はこれらに限定されず種々の変形が可能なことは言うまでもない。
【0028】
<ポリシラザン組成物>
本発明は、(A)ポリシラザン、(B)有機溶剤、(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、及び(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物を含むポリシラザン組成物である。前記ポリシラザン組成物は(A)~(D)成分以外の成分を含んでもよい。以下各成分について詳細に説明する。
【0029】
<(A)ポリシラザン>
本発明のポリシラザン組成物を構成する(A)ポリシラザンは、硬化することによってガラス質の硬化膜を形成するものである。前記ポリシラザンとしては、特に限定されないが、例えば無機ポリシラザンであるペルヒドロポリシラザン、もしくは有機ポリシラザンであるメチルポリシラザン、ジメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザンなどの変性ポリシラザン、ポリシラザンと化学的に反応し架橋構造を生成するヒドロキシル基、ビニル基、アミノ基、シリル基などの反応基を有する炭化水素化合物、環状飽和炭化水素化合物、環状不飽和炭化水素化合物、飽和複素環化合物、不飽和複素環化合物およびシリコーン化合物などの化合物で化学的に架橋された架橋ポリシラザンなどが挙げられる。前記ポリシラザンは、1種単独、もしくは2種以上の中から選定されたポリシラザン混合物、あるいは2種以上のポリシラザン構造からなるポリシラザン共重合体から任意に選択して使用できる。(A)成分は、1分子中にケイ素原子に直接結合した水素原子を少なくとも1つ以上含むことが好ましく、ペルヒドロポリシラザンがより好ましい。
【0030】
また、ポリシラザンは後述する(B)成分である有機溶剤への溶解性や塗布時の作業性の観点から重量平均分子量が100~100,000,000、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは2,000~500,000の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量が100以上だと揮発性が低く、有機溶剤の揮発および硬化工程時にポリシラザンそのものが揮発することで塗膜の膜質が劣化する恐れがないため好ましく、100,000,000以下だと、有機溶剤に対する溶解性が高いため好ましい。
【0031】
なお、本明細書中で言及する重量平均分子量は、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質として得られた値を指す。
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器
カラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-M
TSKgel SuperMultipore HZ-M
(4.6mmI.D.×15cm,4μm×4)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:20μL(濃度0.5質量%のTHF溶液)
【0032】
<(B)有機溶剤>
本発明で用いる前記ポリシラザンは、塗布時の作業性や保存安定性を改善することを目的として、有機溶剤で希釈して用いられる。前記有機溶剤としては、前記(A)ポリシラザンおよび後述する(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル、(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物を溶解する有機溶剤であれば特に限定されない。例えば、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタン、イソヘプタン、n-オクタン、イソオクタン、n-ノナン、イソノナン、n-デカン、イソデカンなどの飽和脂肪族炭化水素、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、β-ミルセンなどの不飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの飽和脂環式炭化水素、シクロヘキセンなどの不飽和脂環式炭化水素、p-メンタン、d-リモネン、l-リモネン、ジペンテンなどのテルペン化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリフルオロメチルベンゼン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレンなどの芳香族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコールなどのケトン化合物、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、アセト酢酸エチル、カプロン酸エチルなどのエステル化合物、ジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、tert-ブチルメチルエーテルなどのアルキルエーテル化合物、アニソール、ジフェニルエーテルなどのアリールエーテル化合物、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ビス(2-エトキシエチル)エーテル、ビス(2-ブトキシエチル)エーテルなどのグリコールエーテル化合物、テトラデカフルオロヘキサン、ヘキサデカフルオロペンタン、オクタデカフルオロオクタン、エイコサフルオロノナン、オクタフルオロシクロペンテン、テトラデカフルオロメチルシクロヘキサン、オクタデカフルオロデカヒドロナフタレン、ヘキサフルオロベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、オクタフルオロトルエン、ヘキサフルオロイソプロピルメチルエーテルなどのフルオラス溶媒などが挙げられる。
【0033】
塗布時の作業性やポリシラザンの保存安定性の観点から、希釈比率は(A)ポリシラザン100質量部に対して(B)有機溶剤が100~100,000質量部の範囲内であることが好ましく、400~10,000質量部であることがさらに好ましい。
【0034】
(B)有機溶剤はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0035】
本発明のポリシラザン組成物に含まれる水分量は500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。水分量が500ppm以下であれば、ポリシラザンと含有水分とが反応しないため、発熱したり、水素ガスやアンモニアガスが発生したりする恐れがなく、また、増粘、ゲル化などを引き起こす恐れもないので好ましい。従って、(B)有機溶剤中の水分量は、本発明のポリシラザン組成物に含まれる水分量が上記範囲となるように制御されていることが好ましい。
【0036】
<(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテル>
(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル(アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテル)は、本発明のポリシラザン組成物に含まれることで、本発明のポリシラザン組成物から得られる硬化膜に撥水撥油性や防汚性を付与する役割を果たす。具体的には、本発明のポリシラザン組成物の硬化過程において、このアルコキシシリル基が縮合することで(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルが(A)ポリシラザンに結合し、本発明における効果を発揮する硬化膜が得られる。
【0037】
(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルは下記式(c-1)で示される2価の直鎖フルオロポリエーテル基を分子中に有することができる。
-(CFO)(CFCFO)(CFCFCFO)(CFCFCFCFO)- (c-1)
【0038】
上記p、q、r、sの値は19F NMRの積分比から得られる値であり、pは1以上、好ましくは1~80、より好ましくは3~30の整数、qは1以上、好ましくは1~80、より好ましくは3~30の整数、rは0以上、好ましくは0~20、より好ましくは0~5の整数、sは0以上、好ましくは0~20、より好ましくは0~5の整数で、各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。上述のような撥水撥油性や防汚性は、フッ素原子の存在に起因するため、pおよびqが1以上で、p、q、r、sが上記の範囲内であれば、ポリシラザン組成物への相溶性が良好になる。
【0039】
上記フルオロポリエーテルにおけるアルコキシシリル基は下記式(c-2)で示されることができる。
-Si(ORc1c2 (c-2)
式中、mは1≦m≦3、nは0≦n≦2、m+n=3を満たす整数であり、mは3、nは0が好ましい。
【0040】
ORc1はケイ素原子に直接結合するアルコキシ基を表しており、ORc1の酸素原子がケイ素原子に直接結合することでアルコキシシリル基をなす。
【0041】
c1として例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭化水素基、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基などのエーテル結合含有炭化水素基、メチルチオメチル基などのチオエーテル結合含有炭化水素基などが挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0042】
c2はアルコキシ基以外の基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、シクロヘキシル基、フェニル基などの炭化水素基、メトキシメチル基、ベンジルオキシメチル基、メトキシエトキシメチル基などのエーテル結合含有炭化水素基、メチルチオメチル基などのチオエーテル結合含有炭化水素基などが挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0043】
上記(c-1)で示される2価の直鎖フルオロポリエーテル基と、上記(c-2)で示されるアルコキシシリル基は連結基を介して連結される。上記連結基は、(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルの(B)有機溶剤への溶解性を向上させることで、本発明のポリシラザン組成物への相溶性を高める役割を果たす。
【0044】
上記(c-1)で示される2価の直鎖フルオロポリエーテル基と、上記(c-2)で示されるアルコキシシリル基は、2価以上の連結基からなる分子鎖を介して共有結合によって連結されていれば、上記2価以上の連結基の分子鎖の構造は特に限定されない。
【0045】
3価以上の連結基を用いてアルコキシシリル基の含有数を増加させることで本発明の効果を向上させることができる。
【0046】
アルコキシシリル基の分子内縮合に起因するフルオロポリエーテルの高分子量化によって、フルオロポリエーテルの本発明のポリシラザン組成物への相溶性が低下することを回避する目的で、連結基の価数は2~10価が好ましく、2~5価がより好ましい。
【0047】
上記連結基はエーテル結合、アミド結合、エステル結合、及びシロキサン結合より選ばれる1種類または2種類以上の構造を介在させたものであってもよい。
【0048】
連結基は、これを介して(c-1)と(c-2)を連結するが、分岐構造や環状構造を含んでいても良く、連結基由来の原子数が2~50であることが好ましく、4~30であることがより好ましい。上記原子数が50以下であれば、添加(C)成分に含まれる重量当たりのフッ素原子の量が低下しないため、防汚性能が低下しない。
【0049】
連結基としては、例えば、-CFCHO(CH-などが挙げられる。
【0050】
(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルはそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】
(C)成分(アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテル)の配合量は、(A)成分(ポリシラザン)と(B)成分(有機溶剤)の合計100質量部に対して、0.1~5.0質量部が好ましく、0.1~1.0質量部がより好ましく、0.2~0.6質量部がさらにより好ましい。
【0052】
(C)アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルとしては、例えば、KY-1281(信越化学工業製)(アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルがMEKに溶解した有効成分濃度20質量%溶液)や、下記式CBで表わせられるものなどが挙げられる。
【化1】
【0053】
<(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物>
(D)成分(鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物)は、本発明のポリシラザン組成物から得られる硬化膜において、(C)成分の固定化効率を向上させることで、汚れ拭き取り性を発現させる効果を持ち、さらに(A)成分のポリシラザンの硬化反応速度を向上させることで硬化膜の耐摩耗性や硬度を向上させる効果を併せ持つ。
【0054】
(D)成分のアミン化合物は、鎖状の脂肪族炭化水素基で置換されたアミノ基(鎖状脂肪族アミノ基)を有していれば特に限定されず、脂肪族炭化水素基はトリアルコキシシリル基を有していてもよく、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、窒素原子同士が脂肪族炭化水素基を介して連結されていてもよく、さらに、酸素原子などの窒素原子以外のヘテロ原子で置換されていてもよい。脂肪族炭化水素基は、1価の場合は好ましくはトリアルコキシシリル基変性のアルキル基、または直鎖のアルキル基であり、更に好ましくはトリアルコキシシリル基変性の炭素数2~6のアルキル基、または炭素数4~12の直鎖アルキル基であり、2価の場合は好ましくは直鎖アルキレン基であり、更に好ましくは炭素数3~8の直鎖アルキレン基である。(D)成分のアミン化合物が環状であると汚れ拭き取り性、耐久性、硬度に劣る。(D)成分の効果は(D)成分が塩基性であることに起因する。(D)成分が環状の場合、鎖状脂肪族アミンと比較して塩基性が非常に高くなることがある。このとき(A)成分の硬化反応速度が加速されすぎるために、ポリシラザン層とフッ素ポリマー層の相分離が妨げられる。その結果、ポリシラザン層中にフッ素ポリマーが残留し、上述のように膜特性が劣ると考えられる。
【0055】
本発明で用いる鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物の構造は、室温下での静置、UV照射などによる硬化反応の触媒となるものであれば特に制約はなく、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリ-n-プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、n-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、イソブチルアミン、tert-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジ-sec-ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-tert-ブチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、トリ-sec-ブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリ-tert-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、2-ペンチルアミン、3-ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、ジ-n-ペンチルアミン、ジイソペンチルアミン、ジネオペンチルアミン、トリ-n-ペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリネオペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、ジ-n-ヘキシルアミン、トリ-n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、ジ-n-オクチルアミン、トリ-n-オクチルアミン、1,2-ジアミノエタン、N,N’-ジメチル-1,2-ジアミノエタン、N,N,N’,N’-1,2-テトラメチルジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、N,N’-ジメチル-1,3-ジアミノプロパン、N,N,N’,N’-1,3-テトラメチルジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、N,N’-ジメチル-1,4-ジアミノブタン、N,N,N’,N’-1,4-テトラメチルジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、N,N’-ジメチル-1,5-ジアミノペンタン、N,N,N’,N’-1,5-テトラメチルジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、N,N’-ジメチル-1,6-ジアミノヘキサン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)アミン、N,N-ビス[3-(メチルアミノ)プロピル]アミン、N,N-ビス[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アミン、N-メチル-N,N-ビス(3-アミノプロピル)アミン、N-メチル-N,N-ビス[3-(メチルアミノ)プロピル]アミン、N-メチル-N,N-ビス[3-(ジメチルアミノ)プロピル]アミンなどの脂肪族アミン類、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有脂肪族アミン類、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N-エチルエタノールアミン、N-ベンジルエタノールアミン、N,N-ジベンジルエタノールアミン、ジエチレングリコールアミンなどの脂肪族アミノアルコール類、2-メトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、2-n-プロポキシエチルアミン、2-イソプロポキシエチルアミン、2-n-ブトキシエチルアミン、2-メトキシプロピルアミン、2-エトキシプロピルアミン、2-n-プロポキシプロピルアミン、2-イソプロポキシプロピルアミン、2-n-ブトキシプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-n-プロポキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミン、3-n-ブトキシプロピルアミン、2-メトキシブチルアミン、2-エトキシブチルアミン、2-n-プロポキシブチルアミン、2-イソプロポキシブチルアミン、2-n-ブトキシブチルアミン、3-メトキシブチルアミン、3-エトキシブチルアミン、3-n-プロポキシブチルアミン、3-イソプロポキシブチルアミン、3-n-ブトキシブチルアミン、4-メトキシブチルアミン、4-エトキシブチルアミン、4-n-プロポキシブチルアミン、4-イソプロポキシブチルアミン、4-n-ブトキシブチルアミン、ビス(2-アミノエチル)エーテル、ビス(3-アミノプロピル)エーテル、ビス(4-アミノブチル)エーテル、1,4-ブタンジオールビス(2-アミノエチル)エーテル、1,4-ブタンジオールビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,4-ブタンジオールビス(4-アミノブチル)エーテル、ビス[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(3-アミノプロポキシ)エチル]エーテル、ビス[2-(4-アミノブトキシ)エチル]エーテル、トリエチレングリコールビス(2-アミノエチル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(4-アミノブチル)エーテルなどの脂肪族アミノエーテル類などが挙げられる。
【0056】
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物はそれぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0057】
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物は、1分子中に含まれる窒素原子の数が1~3であることが好ましい。1分子中に含まれる窒素原子の数が1~3であると(D)成分の親油性が十分であり、ポリシラザン組成物への相溶性が良好になる。
【0058】
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物の配合量は、(A)ポリシラザン100質量部に対して、5~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。配合量が5質量部以上であると(D)成分の効果が十分に得られ、100質量部以下であると硬化膜の硬度が大きく低下する恐れがない。
【0059】
<その他の添加剤>
本発明のポリシラザン組成物には目的に応じ、これら以外の添加剤を添加することができる。添加剤として、例えば、シリカ、アルミナ、チタニアなどの無機充填剤を添加することで硬化膜の特性(塗膜強度、耐熱性)を向上できる。また、添加剤として、例えば、ベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤及び/またはヒンダードアミン化合物などの光安定剤を添加することで耐候性を向上できる。
【0060】
<硬化膜>
本発明では、上記ポリシラザン組成物を硬化してなるものである硬化膜とすることができる。このような硬化膜であれば、優れた撥水撥油性や汚れ拭き取り性、耐久性を示すため、防汚性に優れた硬化膜として有用である。
【0061】
<ポリシラザン組成物の製造方法>
本発明のポリシラザン組成物は、その製造方法に制限はなく、例えば、(A)成分と(B)成分とを混合した溶液に(C)成分と(D)成分を加えて、例えば、振とう撹拌することで、各成分が好適に相溶したポリシラザン組成物を得ることができる。
【0062】
<硬化膜の形成方法>
本発明のポリシラザン組成物を用いた硬化膜を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば、前記ポリシラザン組成物を基材に塗布する塗布工程、次いで、基材に塗布した塗工膜から有機溶剤を揮発・除去する溶剤揮発工程、有機溶剤以外のポリシラザン組成物成分を硬化する硬化工程を経る方法が挙げられる。
【0063】
(塗布工程)
基材に対して本発明のポリシラザン組成物を塗布する方法としては例えば、ダイレクトグラビアコータ、チャンバードクターコータ、オフセットグラビアコータ、リバースキスコータ、リバースロールコータ、スロットダイ、リップコータ、エアードクターコータ、一本ロールキスコータ、正回転ロールコータ、ブレードコータ、含浸コータ、MBコータ、MBリバースコータ、ナイフコータ、バーコータなどのロールコート法やスピンコート法、ディスペンス法、ディップ法、スプレー法、転写法、スリットコート法などが挙げられる。
【0064】
塗膜の厚さは硬化膜の使用目的などにより異なるが、硬化膜厚で10~100,000nmであることが好ましく、100~10,000nmであることがさらに好ましい。
【0065】
ポリシラザン組成物を塗布する前に基材に対して表面改質処理を行っても良い。表面改質処理は主に基材とポリシラザンとの密着性を向上させる目的で行われ、基材表面に付着した有機物の分解除去や、基材表面に化学反応点を形成することで実現される。表面改質処理方法としては例えば、アルゴンプラズマ処理、酸素プラズマ処理、オゾン処理、UV照射処理、キセノンエキシマ光照射処理などが挙げられ、基材の種類などにより使い分けられる。
【0066】
<基材>
上記基材は、例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、建築部材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0067】
(溶剤揮発工程)
前記塗布工程に次いで、基材上に形成された塗工膜から有機溶剤を揮発させる溶剤揮発工程に移行する。前記溶剤揮発工程は基材が変質しない温度で行われればよく、例えば20~300℃で行うことが好ましい。この範囲内であれば有機溶剤が速やかに揮発し硬化工程に移行できる。溶剤揮発工程の温度が300℃以下だと揮発した溶剤が発火する恐れがないため好ましい。
【0068】
上記の理由により、本発明で用いる(B)有機溶剤の沸点は、大気圧下(1013hPa)において25~300℃であることが好ましく、25~150℃であることがより好ましい。この範囲内であれば、有機溶剤が硬化膜内に残存することもなく、ハンドリング性も良好である。
【0069】
(硬化工程)
溶剤揮発工程の後はフルオロポリエーテル((C)成分)およびアミン化合物((D)成分)含有ポリシラザンを硬化する工程に移行する。フルオロポリエーテル(フッ素ポリマーなど)およびアミン化合物含有ポリシラザンの硬化処理は硬化反応が進行する方法であれば特に制約はないが、基材を変質させない方法より適宜選択される必要がある。硬化処理方法としては例えば、恒温恒湿下での静置、大気圧プラズマ処理、低温プラズマ処理、UV処理、エキシマ光処理などが挙げられる。
【実施例0070】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって限定されるものではない。重量平均分子量は、上述のようにゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質として得られた値を指す。
【0071】
(A)ポリシラザン
(合成例)
ポリシラザン(A)の合成
窒素雰囲気下で脱水ピリジン(4,500g)を-10℃まで冷却し、ジクロロシラン(64L)を吹き込んだ後-10℃で1時間撹拌した。アンモニア(216L)を吹き込み、25℃に戻しながら12時間撹拌した。生じた固体をろ別し、ろ液にジ-n-ジブチルエーテル(1,000g)を加えた。液中のピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去し、留出液が4,500gに達した時点で、ジ-n-ブチルエーテル(1,000g)をさらに加えた。続けてピリジンをジ-n-ブチルエーテルと共沸させながら減圧留去することでペルヒドロポリシラザンのジ-n-ブチルエーテル溶液を得た。なお、このペルヒドロポリシラザンの重量平均分子量は6,100であった。その後、溶液全体を100質量部としたときにポリシラザンが2.5質量部となるようにジ-n-ブチルエーテルを添加した。以下の実施例、比較例では、この溶液を(A)成分としてペルヒドロポリシラザン2.5質量部、(B-1)成分としてジ-n-ブチルエーテル97.5質量部を含有するものとみなして使用した。なお、(B-2)成分として1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを含有する場合は、(A)成分を2.5質量部、(B-1)成分を47.5質量部、(B-2)成分を50質量部含有するものとみなして使用した。
【0072】
(B)有機溶剤
(B-1):ジ-n-ブチルエーテル(関東化学製)
(B-2):1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(東京化成工業製)
【0073】
(C)分子内に1つ以上のアルコキシシリル基を有するフルオロポリエーテル
処理液(C-1):KY-1281(信越化学工業製)(アルコキシシリル基含有フルオロポリエーテルがMEKに溶解した有効成分濃度20質量%溶液)
処理液(C-2):下記で合成したCBを(B-2)成分に溶解させた、有効成分濃度20質量%溶液
【0074】
前駆体(CA)の合成
100mL3つ口フラスコにFomblin D2(Solvay製)(50g)、30質量%水酸化ナトリウム水溶液(6g)、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(0.4g)を入れた。撹拌しながら臭化アリル(12g)を添加し、内温50℃で24時間加熱した。2.4M塩酸(12g)、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(40g)、純水(40g)を加え、振とう後、有機層と水層を分離した。有機層を純水(40g)で4回洗浄した。有機層に活性炭(シラサギP)(大阪ガスケミカル製)(0.4g)とキョーワード2200(協和化学工業製)(0.4g)を加え、室温で1時間撹拌した。ろ過し、溶媒を減圧留去することで前駆体(CA)を無色透明液体として収率85%で得た。
【0075】
処理液(C-2)の有効成分(CB)の合成
100mL3つ口フラスコに上記で合成したCA(10g)、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(20g)、白金触媒(信越化学工業製CAT-PL-50T)(0.015g)を加え、内温60℃に加熱した後、トリメトキシシラン(信越化学工業製03-MS)(1.5g)を滴下した。内温60℃で5時間加熱撹拌した後、活性炭(0.5g)を加え、室温に戻しながら1時間撹拌した。ろ過し、溶媒を減圧留去することで有効成分(CB)を無色透明液体として収率97%で得た。
【化2】
【0076】
処理液(C-2)の調製
上記で合成したCBを(B-2)成分に溶解させ、有効成分濃度20質量%溶液を調製した。
【0077】
処理液(C-3)の調製;比較例用
処理液(C-3):アルコキシシリル基を有さないポリエーテル基含有フルオロポリエーテル(商品名:Fluorolink PEG45(Solvay製))を(B-2)成分に溶解させ、有効成分濃度20質量%溶液を調製した。
【0078】
(D)鎖状脂肪族アミノ基を有するアミン化合物
(D-1):3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE-903)
(D-2):ヘキシルアミン(東京化成工業製)
(D-3):N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(東京化成工業製)
(D-4):3,3’-イミノビス(N,N,-ジメチルプロピルアミン)(東京化成工業製)
【0079】
アミン化合物;比較例用
(D-5):1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(東京化成工業製)
【0080】
[実施例1~13、比較例1~3]
(1)水接触角、ヘキサデカン接触角の評価
(溶液の調製)
表1に示す割合で、前記合成例で調製した(A)成分と(B-1)成分とを混合した溶液に上記で調製した(C)成分、および(D)成分、さらに場合により(B-2)成分を加えて、容器を10秒間振とう撹拌することでポリシラザン組成物を調製した。
【0081】
(塗布工程)
上記にて調製した溶液をソーダガラスにスピンコート(回転速度500rpm、回転時間30秒)した。
【0082】
(溶剤揮発工程及び硬化工程)
上記にて塗布したポリシラザン組成物を温度24℃、相対湿度40%の環境で24時間静置した。
接触角計DropmasterDMo-701(協和界面科学製)を用いて、上記にて作製した硬化膜に対する水またはヘキサデカンの接触角を測定し、測定した接触角の値を表1に示した。
【0083】
(2)油性ペン拭き取り性の評価
上記(1)の評価にて作製した硬化膜に油性ペン(ぺんてる製ぺんてるペンN50)を用いて長さ5cmの曲線を描いた。描いた曲線をケイドライ(日本製紙クレシア製)にて拭き取り、拭き取り回数3回以内で油性ペンのインクを全て拭き取れたものは〇、拭き取りに4回以上要した、または拭き取ることができなかったものには×を表1に示した。
【0084】
(3)耐摩耗性の評価
上記(1)の評価にて作製した硬化膜の表面を、トライボギア(新東科学製)を用いて下記の条件で摩耗させた。その後、上記(1)の評価と同様に水接触角を測定し、水接触角が100°以上だったものは〇、100°未満だったものは×を表1に示した。
[摩耗条件]
擦り材:ベンコットスーパーCN(旭化成製)
接触面積:3.0cm×2.8cm
荷重:1kg
擦り距離(片道):30mm
擦り速度:5,400 mm/分
回数:1,000往復
【0085】
(4)鉛筆硬度の評価
鉛筆硬度試験器(ペパレス製作所製)および鉛筆(三菱鉛筆製ハイユニの6B~6H)を用いて荷重750gにて上記(1)の評価にて作製した硬化膜の鉛筆硬度を測定し、結果を表1に示した。
【0086】
表1中、各成分の単位は質量部である。
【0087】
【表1】
【0088】
比較例1は(D)成分を含まないことから、(C)成分の表面固定化不足に起因して油性ペン拭き取り性と耐摩耗性に劣るものだった。また、比較例1は(D)成分を含まないことから、(A)成分の硬化不足に起因して硬度が実施例1~13よりも大きく劣っていた。比較例2に含まれる(C)成分、および、比較例3に含まれる(D)成分は、本発明での構造に合致しないため、少なくとも3つの評価項目において、実施例1~13よりも劣っていた。
【0089】
[産業上の利用可能性]
本発明のポリシラザン組成物は、防汚コーティング組成物として有用であり、撥水撥油性と防汚性、耐久性、硬度に優れた硬化膜を室温にて形成することができる。このことから、耐熱性が低い基材に対してや、加熱が困難な屋外での塗工環境において前述のような硬化膜を形成するのに有用である。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。