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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079746
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】モータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/10 20060101AFI20230601BHJP
   H02K 1/16 20060101ALI20230601BHJP
   H02K 1/24 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
H02K19/10 A
H02K1/16
H02K1/24
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193357
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【テーマコード(参考)】
5H601
5H619
【Fターム(参考)】
5H601AA26
5H601CC01
5H601CC17
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601EE06
5H601GA02
5H601GB13
5H601GB34
5H601GB48
5H601GB49
5H619BB01
5H619BB06
5H619BB24
5H619PP01
5H619PP02
5H619PP04
5H619PP14
(57)【要約】
【課題】回転子の径を小さくしても鉄損を抑制することが可能なモータ装置を提供する。
【解決手段】回転軸を中心に回転可能に配置された回転子(11)と、内周に複数のティース部(13)が形成された固定子(12)を有し、回転子(11)が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、複数のティース部(13)には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、回転子(11)の極数Pと、ティース部(13)のスロット数Sの比は、P:S=7:12であることを特徴とするモータ装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、
前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記A相と前記F相、前記F相と前記E相、前記E相と前記D相、前記D相と前記C相、前記C相と前記B相、前記B相と前記A相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、
前記第1部分巻線と前記第2部分巻線は、それぞれ電気角で210度の位相差で配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、この順に環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置に関し、特に、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータのモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、複数の相を備えた多相巻線を複数系統備えたモータ装置も提案されている。
【0003】
従来の三相巻線を2系統備えたモータ装置では、第1系統の三相巻線としてA相コイル、E相コイル、C相コイルを有し、第2系統の三相巻線としてD相コイル、B相コイル、F相コイルを有している。このような従来のモータ装置では、各相に対応したスイッチを用いて、各相の巻線に電流が流れるタイミングを交互に切替えることで、各相のコイルに適切に電流が流れて、スイッチトリラクタンスモータを回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-103957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような従来のモータ装置では、固定子のティース部で構成されるスロット数Sと、回転子の突極数Pとを大きくした場合には、突極やスロットの間隔が小さくなり、隣接するスロットと突極との間で磁束の短絡が発生しやすく鉄損が大きくなるという問題があった。特に、モータ装置の小型化を図るために、回転子の外径や固定子の内径を小さくする場合には、磁束の短絡と鉄損の悪影響が大きくなる。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、回転子の径を小さくしても鉄損を抑制することが可能なモータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であることを特徴とする。
【0008】
このような本発明のモータ装置では、スロット数Sが12に対して突極数Pが7の割合であり、突極同士の間隔が広いため隣接するスロットとの間における磁束の短絡が抑制され、回転子の径を小さくしても鉄損を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記A相と前記F相、前記F相と前記E相、前記E相と前記D相、前記D相と前記C相、前記C相と前記B相、前記B相と前記A相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されている。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、前記第1部分巻線と前記第2部分巻線は、それぞれ電気角で210度の位相差で配置されている。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されている。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、この順に環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されている。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されている。
【0014】
また、本発明の一態様では、前記巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、回転子の径を小さくしても鉄損を抑制することが可能なモータ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るモータ装置におけるモータ部10の構造例を示す模式図である。
図2】第1実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部20の接続を示す等価回路図である。
図3】第1実施形態の変形例に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部20の接続を示す等価回路図である。
図4】第1実施形態に係るモータ装置におけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートであり、スイッチインバータ部20の各相スイッチに印加される信号を示している。
図5】第1実施形態に係るモータ装置の駆動状態を示すシミュレーション結果であり、図5(a)は出力されるトルクを示し、図5(b)は各相に供給されるライン電流を示し、図5(c)は各相の巻線を流れるコイル電流を示している。
図6】14突極20スロットと20突極24スロットのモータ装置を比較したシミュレーション結果であり、図6(a)はトルク波形の比較であり、図6(b)は電流実効値の比較であり、図6(c)は鉄損の比較である。
図7】第2実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部30の接続を示す等価回路図である。
図8】第2実施形態の変形例に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部30の接続を示す等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るモータ装置におけるモータ部10の構造例を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように本実施形態のモータ部10は、回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティース(突極)が配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13に巻線(コイル)14が、A1相巻線~F1相巻線、A2相巻線~F2相巻線として巻回されている。図1に示した例では、モータ装置は14突極24スロットのスイッチトリラクタンスモータを構成している。モータ部10の突極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=7:12の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0019】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0020】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されると共に等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0021】
図1に示したように、各巻線14は固定子12の円周に沿って順にA1相、D2相、F1相、C2相、E1相、B2相、D1相、A2相、C1相、F2相、B1相、E2相として12スロットが配置されており、2周期の12スロットが同じ順番で配列されて合計24スロットが構成されている。ここで、A1相巻線~F1相巻線とA2相巻線~F2相巻線は、対応する相を合わせてA相巻線~F相巻線を構成している。換言すると、A相巻線~F相巻線のうち第1部分巻線がA1相巻線~F1相巻線であり、第2部分巻線がA2相巻線~F2相巻線である。
【0022】
上述したようにA1相巻線~F1相巻線およびA2相巻線~F2相巻線が1周期12スロットを構成しており、電気角においては1周期が360度であるため、各相の間は電気角で30度の位相差とされている。また、A相とF相、F相とE相、E相とD相、D相とC相、C相とB相、B相とA相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されており、各相の第1部分巻線と第2部分巻線は、それぞれ電気角で210度の位相差で配置されている。したがって第1部分巻線の6相のうち、A1相とE1相とC1相の3相の組み合わせ、およびD1相とB1相とF1相の3相の組み合わせは、それぞれ電気角の位相差が120度の3相交流を構成している。同様に、第2部分巻線の6相のうち、A2相とE2相とC2相の3相の組み合わせ、およびD2相とB2相とF2相の3相の組み合わせは、それぞれ電気角の位相差が120度の3相交流を構成している。
【0023】
図2は、本実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部20の接続を示す等価回路図である。図2に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部20は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に3つのスイッチ群(AD群、EB群、CF群)が並列に接続されている。各スイッチ群には、2つのスイッチとその間に逆接続された還流ダイオード21a~21cが直列接続されており、合計6個のスイッチ(スイッチA相~スイッチF相)と3個の還流ダイオード21a~21cによる改良型9スイッチインバータで、スイッチインバータ部20が構成されている。ここでは還流ダイオード21a~21cを用いた例を示したが、逆接続したダイオードに代えて、電源電圧側に電流を流すように構成したトランジスタを用いるとしてもよい。
【0024】
各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。また、各スイッチはスイッチ制御部(図示省略)によって動作が制御される。
【0025】
巻線14におけるA相、E相、C相、D相、B相およびF相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、一端が共通の中性点に接続されたスター結線を構成している。また、A相、E相、C相、D相、B相およびF相の他端は、それぞれスイッチインバータ部20に接続されている。より詳細には、A1相とA2相、B1相とB2相、C1相とC2相、D1相とD2相、E1相とE2相、F1相とF2相がそれぞれ直列に接続されている。また、A2相、B2相、C2相、D2相、E2相、F2相の一端が中性点に接続されている。
【0026】
図2に示したように、A1相の他端は、スイッチA相と還流ダイオード21aの間に接続されている。また、B1相の他端は、スイッチB相と還流ダイオード21bの間に接続されている。C1相の他端は、スイッチC相と還流ダイオード21cの間に接続されている。D1相の他端は、スイッチD相と還流ダイオード21aの間に接続されている。E1相の他端は、スイッチE相と還流ダイオード21bの間に接続されている。F1相の他端は、スイッチF相と還流ダイオード21cの間に接続されている。つまり、第1系統および第2系統の各系統において互いに対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の各相は、それぞれスイッチインバータ部20における同じ相に電気的に接続される。
【0027】
したがって巻線A1の他端には、スイッチA相のソース側電位Vaが印加される。同様に、巻線B1の他端には、スイッチB相のドレイン側電位Vbが印加される。同様に、巻線C1の他端には、スイッチC相のソース側電位Vcが印加される。同様に、巻線D1の他端には、スイッチD相のドレイン側電位Vdが印加される。同様に、巻線E1の他端には、スイッチE相のソース側電位Veが印加される。同様に、巻線F1の他端には、スイッチF相のドレイン側電位Vfが印加される。
【0028】
(第1実施形態の変形例)
図3は、本実施形態の変形例に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部20の接続を示す等価回路図である。巻線14におけるA相、B相、C相、D相、E相およびF相は、順に環状に直列接続されており、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されてヘキサゴン結線を構成している。より詳細には、A1相とA2相、F1相とF2相、E1相とE2相、D1相とD2相、C1相とC2相、B1相とB2相がそれぞれ順に列に接続されている。また、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の間は、それぞれスイッチインバータ部20に接続されている。
【0029】
図3に示したように、A2相とF1相の間は、スイッチA相と還流ダイオード21aの間に接続されている。また、B2相とA1相の間は、スイッチB相と還流ダイオード21bの間に接続されている。C2相とB1相の間は、スイッチC相と還流ダイオード21cの間に接続されている。D2相とC1相の間は、スイッチD相と還流ダイオード21aの間に接続されている。E2相とD1相の間は、スイッチE相と還流ダイオード21bの間に接続されている。F2相とE1相の間は、スイッチF相と還流ダイオード21cの間に接続されている。つまり、第1系統および第2系統の各系統において互いに対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の各相は、それぞれスイッチインバータ部20における同じ相に電気的に接続される。
【0030】
したがって、巻線A1,A2の両端には、スイッチA相のソース側電位Vaと、スイッチB相のドレイン側電位Vbが印加される。同様に、巻線B1,B2の両端には、スイッチB相のドレイン側電位Vbと、スイッチC相のソース側電位Vcとが印加される。同様に、巻線C1,C2の両端には、スイッチC相のソース側電位Vcと、スイッチD相のドレイン側電位Vdが印加される。同様に、巻線D1,D2の両端には、スイッチD相のドレイン側電位Vdと、スイッチE相のソース側電位Veが印加される。同様に、巻線E1,E2の両端には、スイッチE相のソース側電位Veと、スイッチF相のドレイン側電位Vfが印加される。同様に、巻線F1,F2の両端には、スイッチF相のドレイン側電位Vfと、スイッチA相のソース側電位Vaが印加される。
【0031】
図4は、本実施形態に係るモータ装置におけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートであり、スイッチインバータ部20の各相スイッチに印加される信号を示している。図4の横軸は電気角(度)を示し、縦軸は各スイッチに印加されるオン信号とオフ信号を示している。図4に示したように、A相~F相の各スイッチには、オン信号とオフ信号が180度(π)ずつ交互に印加される。また、A相~F相のオン信号とオフ信号は、それぞれ60度(π/3)ずつ位相がずれている。また、A相とD相、B相とE相、C相とF相は位相が180度(π)異なって互いに反転した信号が印加されている。換言すると、A相~F相の各スイッチには、A相、C相、E相と、B相、D相、F相の2つの三相交流信号が印加されている。したがって、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2は、スイッチA相~F相で制御されることで、それぞれ2つの三相モータを備えた合計6相を有するモータとして機能する。
【0032】
次に、有限要素法を用いたシミュレーションで、電気回路との連成解析を実施した。シミュレーション条件は、スイッチインバータ部20およびモータ部10の構成を図2に示した改良型9スイッチインバータとスター結線の組み合わせとした。また、回転子11の直径を200mmとし、回転子11の長さを60mmとし、巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の巻き数は34とした。
【0033】
図5は、本実施形態に係るモータ装置の駆動状態を示すシミュレーション結果であり、図5(a)は出力されるトルクを示し、図5(b)は各相に供給されるライン電流を示し、図5(c)は各相の巻線を流れるコイル電流を示している。図5において、横軸は経過時間(秒)を示し、図5(a)の縦軸はトルク(Nm)を示し、図5(b)の縦軸はスイッチインバータ部20から巻線14までの間の配線を流れる電流値(A)を示し、図5(c)の縦軸は巻線14を流れる電流値(A)を示している。図4に示したような信号をスイッチインバータ部20に印加することで、図5(a)~(c)に示したように、僅かにトルク脈動があるものの回転子11を回転させて、継続的にモータ装置からトルクを出力できる。
【0034】
図6は、14突極20スロットと20突極24スロットのモータ装置を比較したシミュレーション結果であり、図6(a)はトルク波形の比較であり、図6(b)は電流実効値の比較であり、図6(c)は鉄損の比較である。シミュレーションの条件は図5と同様である。また、固定子12とティース部13の構成は14突極24スロットと20突極24スロットで共通とした。
【0035】
図6(a)に示したように、14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりもトルクが大きくなっている。また、突極数が多いため、20突極24スロットのほうが14突極24スロットよりもトルク脈動の周期が短く(周波数が高く)なっている。このシミュレーション条件のように回転子11の直径が小さく、突極と隣接するスロットの間隔が小さい場合には、磁束の短絡が生じやすくなっていると考えられる。したがって、突極数が少ない14突極24スロットを用いることで、20突極24スロットを用いるよりもモータ装置の出力トルクを高めることができる場合がある。図6(b)に示したように、相電流の電流実効値も14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりも大きくなっている。
【0036】
また、図6(c)に示したように、回転子11での鉄損は僅かに14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりも大きいが、固定子12での鉄損は14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりも小さく、全体の鉄損は14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりも小さくなっている。これは、14突極24スロットのほうが20突極24スロットよりも回転時の電流変化の周波数が小さいためである。
【0037】
上述したように本実施形態および変形例のモータ装置では、固定子12のスロット数Sが12に対して回転子11の突極数Pが7の割合であり、突極同士の間隔が広いため隣接するスロットとの間における磁束の短絡が抑制され、回転子11の径を小さくしても鉄損を抑制することができる。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図7を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。図7は、本実施形態に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部30の接続を示す等価回路図である。
【0039】
図7に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部30は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に6つのスイッチA相~F相が並列に接続されている。スイッチA相,C相,E相は、下流側に還流ダイオード21a,21c,21eが直列接続され、スイッチB相,D相,F相は、上流側に還流ダイオード21b,21d,21fが直列接続されている。これにより、合計6個のスイッチ(スイッチA相~スイッチF相)と6個の還流ダイオード21a~21fで三相非対称型のスイッチインバータ部が構成されている。各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFETを用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に逆接続された等価回路となる。また、各スイッチはスイッチ制御部(図示省略)によって動作が制御される。
【0040】
巻線14におけるA相、E相、C相、D相、B相およびF相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、一端が共通の中性点に接続されたスター結線を構成している。また、A相、E相、C相、D相、B相およびF相の他端は、それぞれスイッチインバータ部30に接続されている。
【0041】
図7に示したように、A1相の他端は、スイッチA相と還流ダイオード21aの間に接続されている。また、B1相の他端は、スイッチB相還流とダイオード21bの間に接続されている。C1相の他端は、スイッチC相と還流ダイオード21cの間に接続されている。D1相の他端は、スイッチD相と還流ダイオード21dの間に接続されている。E1相の他端は、スイッチE相と還流ダイオード21eの間に接続されている。F1相の他端は、スイッチF相と還流ダイオード21fの間に接続されている。つまり、第1系統および第2系統の各系統において互いに対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の各相は、それぞれスイッチインバータ部20における同じ相に電気的に接続される。
【0042】
したがって巻線A1の他端には、スイッチA相のソース側電位Vaが印加される。同様に、巻線B1の他端には、スイッチB相のドレイン側電位Vbが印加される。同様に、巻線C1の他端には、スイッチC相のソース側電位Vcが印加される。同様に、巻線D1の他端には、スイッチD相のドレイン側電位Vdが印加される。同様に、巻線E1の他端には、スイッチE相のソース側電位Veが印加される。同様に、巻線F1の他端には、スイッチF相のドレイン側電位Vfが印加される。
【0043】
(第2実施形態の変形例)
図8は、本実施形態の変形例に係るモータ装置のモータ部10とスイッチインバータ部30の接続を示す等価回路図である。巻線14におけるA相、B相、C相、D相、E相およびF相は、順に環状に直列接続されており、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されてヘキサゴン結線を構成している。また、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の間は、それぞれスイッチインバータ部30に接続されている。
【0044】
図8に示したように、A2相とF1相の間は、スイッチA相と還流ダイオード21aの間に接続されている。また、B2相とA1相の間は、スイッチB相と還流ダイオード21bの間に接続されている。C2相とB1相の間は、スイッチC相と還流ダイオード21cの間に接続されている。D2相とC1相の間は、スイッチD相と還流ダイオード21dの間に接続されている。E2相とD1相の間は、スイッチE相と還流ダイオード21eの間に接続されている。F2相とE1相の間は、スイッチF相と還流ダイオード21fの間に接続されている。つまり、第1系統および第2系統の各系統において互いに対応する巻線A1~巻線F1と巻線A2~巻線F2の各相は、それぞれスイッチインバータ部30における同じ相に電気的に接続される。
【0045】
したがって、巻線A1,A2の両端には、スイッチA相のソース側電位Vaと、スイッチB相のドレイン側電位Vbが印加される。同様に、巻線B1,B2の両端には、スイッチB相のドレイン側電位Vbと、スイッチC相のソース側電位Vcとが印加される。同様に、巻線C1,C2の両端には、スイッチC相のソース側電位Vcと、スイッチD相のドレイン側電位Vdが印加される。同様に、巻線D1,D2の両端には、スイッチD相のドレイン側電位Vdと、スイッチE相のソース側電位Veが印加される。同様に、巻線E1,E2の両端には、スイッチE相のソース側電位Veと、スイッチF相のドレイン側電位Vfが印加される。同様に、巻線F1,F2の両端には、スイッチF相のドレイン側電位Vfと、スイッチA相のソース側電位Vaが印加される。
【0046】
図7および図8に示した本実施形態および変形例のモータ装置でも、図4に示したような信号をスイッチインバータ部30に印加することで、回転子11を回転させて、継続的にモータ装置からトルクを出力できる。また、固定子12のスロット数Sが12に対して回転子11の突極数Pが7の割合であり、突極同士の間隔が広いため隣接するスロットとの間における磁束の短絡が抑制され、回転子11の径を小さくしても鉄損を抑制することができる。
【0047】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10…モータ部
20,30…スイッチインバータ部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
21a~21f…還流ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、
前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であり、
前記ティース部には前記巻線が、前記固定子の周方向に沿ってA相、D相、F相、C相、E相、B相、D相、A相、C相、F相、B相、E相の順で巻回されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記A相と前記F相、前記F相と前記E相、前記E相と前記D相、前記D相と前記C相、前記C相と前記B相、前記B相と前記A相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、
前記第1部分巻線と前記第2部分巻線は、それぞれ機械角で210度差に配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、この順に環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されていることを
特徴とするモータ装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であり、
前記ティース部には前記巻線が、前記固定子の周方向に沿ってA相、D相、F相、C相、E相、B相、D相、A相、C相、F相、B相、E相の順で巻回されていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、前記第1部分巻線と前記第2部分巻線は、それぞれ機械角で210度の位相差で配置されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
上述したようにA1相巻線~F1相巻線およびA2相巻線~F2相巻線が1周期12スロットを構成しており、電気角においては1周期が360度であるため、各相の間は電気角で30度の位相差とされている。また、A相とF相、F相とE相、E相とD相、D相とC相、C相とB相、B相とA相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されており、各相の第1部分巻線と第2部分巻線は、それぞれ機械角で210度の位相差で配置されている。したがって第1部分巻線の6相のうち、A1相とE1相とC1相の3相の組み合わせ、およびD1相とB1相とF1相の3相の組み合わせは、それぞれ電気角の位相差が120度の3相交流を構成している。同様に、第2部分巻線の6相のうち、A2相とE2相とC2相の3相の組み合わせ、およびD2相とB2相とF2相の3相の組み合わせは、それぞれ電気角の位相差が120度の3相交流を構成している。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、
前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であり、
前記ティース部には前記巻線が、前記固定子の周方向に沿ってA相、D相、F相、C相、E相、B相、D相、A相、C相、F相、B相、E相の順で巻回され、
前記A相と前記F相、前記F相と前記E相、前記E相と前記D相、前記D相と前記C相、前記C相と前記B相、前記B相と前記A相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、それぞれ第1部分巻線と第2部分巻線が直列接続されており、
前記第1部分巻線と前記第2部分巻線は、それぞれ機械角で210度差に配置されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記A相、前記E相、前記C相、前記D相、前記B相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモータ装置であって、
前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、この順に環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、前記ティース部の複数にまとめて巻回された分布巻きとして構成されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記巻線は、個々の前記ティース部に巻回された集中巻きとして構成されていることを
特徴とするモータ装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有し、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであるモータ装置であって、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線が巻回されており、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=7:12であり、前記ティース部には前記巻線が、前記固定子の周方向に沿ってA相、D相、F相、C相、E相、B相、D相、A相、C相、F相、B相、E相の順で巻回され巻回され、前記A相と前記F相、前記F相と前記E相、前記E相と前記D相、前記D相と前記C相、前記C相と前記B相、前記B相と前記A相は、それぞれ電気角で60度の位相差で配置されていることを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】削除
【補正の内容】