(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079839
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】易破砕性電析銅
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20230601BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20230601BHJP
【FI】
C22C9/00
C25C1/12
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193500
(22)【出願日】2021-11-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】福成 朱夏
(72)【発明者】
【氏名】細川 侑
【テーマコード(参考)】
4K058
【Fターム(参考)】
4K058AA12
4K058BA21
4K058BB03
4K058CA03
4K058CA08
4K058CA11
4K058CA13
4K058CA22
4K058EB16
4K058EC04
(57)【要約】
【課題】 コブ発生が抑制されると同時に、破砕性に優れた高純度電析銅を提供する。
【解決手段】 銅及び不可避不純物からなる高純度電析銅であって、純度が6N以上であり、不純物として含有されるAgが0.2ppm以下であり、含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が20000個/g以下であり、電析断面の平均粒径が40~400μmの範囲であって、電析断面の最大粒径が300~2700μmの範囲にあり、電着面の平均粒径が25~150μmの範囲であって、電着面の最大粒径が100~450μmの範囲にある高純度電析銅。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅及び不可避不純物からなる高純度電析銅であって、
純度が6N以上であり、
不純物として含有されるAgが0.2ppm以下であり、
含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が20000個/g以下であり、
電析断面の平均粒径が40~400μmの範囲であって、
電析断面の最大粒径が300~2700μmの範囲にあり、
電着面の平均粒径が25~150μmの範囲であって、
電着面の最大粒径が100~450μmの範囲にある高純度電析銅。
【請求項2】
電析断面の平均粒径が50~350μmの範囲であって、
電析断面の最大粒径が450~2500μmの範囲にある、請求項1に記載の高純度電析銅。
【請求項3】
電着面の平均粒径が65~115μmの範囲であって、
電着面の最大粒径が150~350μmの範囲にある、請求項1~2のいずれかに記載の高純度電析銅。
【請求項4】
不純物として含有される元素として、Agが0.1ppm以下であり、Brが0.05ppm以下であり、Clが5ppm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の高純度電析銅。
【請求項5】
含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が15000個/g以下である、請求項1~4のいずれかに記載の高純度電析銅。
【請求項6】
高破砕性高純度電析銅である、請求項1~5のいずれかに記載の高純度電析銅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は易破砕性電析銅に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体生産に使用されるCu系ターゲットの原料として、高純度銅に対する要求が年々高まっている。Cu系ターゲットの原料となる高純度銅は、高純度であることに加えて、パーティクルと呼ばれる微少な介在物が生じないこと、いわゆるパーティクルフリー化が求められている。高純度銅の生産においては、必ず銅の電析の過程を経るために、この電析銅の製造技術に対する要求が年々高まっている。
【0003】
電析銅の生産性をあげるために、電流密度をあげると、電析銅の表面に多くコブと呼ばれる突起部分が発生するようになる。このコブが発生して成長すると、電場の形成が不均一となり、予期しない電気的な短絡が発生する恐れがあるから、電析において望ましくない。そこで、このコブの発生を防ぐために、有機物系添加剤を用いて電析銅の表面の平滑化がなされている。
【0004】
また、得られた電析銅は、この後に破砕や溶解の処理を受けて、Cu系ターゲットの原料となるインゴットへと成型される。
【0005】
特許文献1は、粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が10,000個/g以下へと低減された高純度銅を記載している。特許文献1は、この高純度銅が電解銅をさらに溶解して得られたとしている。
【0006】
特許文献2は、特定の結晶子サイズ及び配向指数を備えた高純度電気銅を記載している。特許文献2は、ポリエチレングリコールとポリビニルアルコール(PVA)の混合物からなる添加剤を電解液に添加し、特定条件を満たす電流密度で電解することにより得られたとしている。
【0007】
特許文献3は、塩酸を添加した硫酸系電解液を用いて低銀品位電気銅を製造する方法を記載している。特許文献3は、臭化水素酸を電解液に添加して銀イオンを除去したとしている。しかし、平滑化のための有機物系添加剤は電解液中へ添加されておらず、特許文献3の電析銅はコブの発生が多数あった蓋然性が大きい。
【0008】
特許文献4は、硝酸銅溶液中での電解精製において、電着銅表面で亜硝酸ガスが発生しない高純度銅の製造方法を記載している。特許文献4は、電解液中にハロゲン化水素酸を所定量添加することで、亜硝酸ガス気泡の発生を抑制したとしている。しかし、平滑化のための有機物系添加剤は電解液中へ添加されておらず、特許文献4の電析銅はコブの発生が多数あった蓋然性が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許4620185号公報
【特許文献2】特許6714909号公報
【特許文献3】特許5010535号公報
【特許文献4】特許3102177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機物系添加剤の使用は、電析銅のコブ発生の抑制の観点から、極めて有効性が大きい。そして、電析銅のコブ発生の抑制は、安定的な操業の観点から、極めて価値が大きい。
【0011】
一方で、本発明者の検討によれば、電析銅の製造において、有機物系添加剤を電解液中へ添加して用いると、得られる電析銅は強度があがり、破砕性が悪化してしまうことがわかった。
【0012】
一般に、得られた電析銅は、この後に破砕や溶解の処理を受けて、Cu系ターゲットの原料となるインゴットへと成型されるから、破砕性の悪化は生産性を低下させる。それに加えて、破砕性が悪化すると、破砕のために金属製の破砕器具を使用しなければならず、破砕の操作によって不純物の混入の機会が増大し、パーティクル発生のリスクが増大してしまう。すなわち、得られた直後の電析銅の特性が優れたものであったとしても、破砕性が劣る電析銅は、Cu系ターゲットの原料となる前に、破砕の工程によって優れた特性が失われてしまう。
【0013】
したがって、本発明の目的は、コブ発生が抑制されると同時に、破砕性に優れた高純度電析銅を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意研究の結果、後述する手段によって、上記目的が達成できることを見出して、本発明に到達した。
【0015】
したがって、本発明は以下の(1)を含む:
(1)
銅及び不可避不純物からなる高純度電析銅であって、
純度が6N以上であり、
不純物として含有されるAgが0.2ppm以下であり、
含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が20000個/g以下であり、
電析断面の平均粒径が40~400μmの範囲であって、
電析断面の最大粒径が300~2700μmの範囲にあり、
電着面の平均粒径が25~150μmの範囲であって、
電着面の最大粒径が100~450μmの範囲にある高純度電析銅。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、コブ発生が抑制されると同時に、破砕性に優れた高純度電析銅を製造することができる。この高純度電析銅は、強度が低減されて、破砕性に優れているために、その後の破砕の工程は容易なものとなっており、破砕の工程における不純物の混入のリスクは最小限となっている。このため、本発明の高純度電析銅は、優れた特性が、破砕の工程で失われることなく、Cu系ターゲットの原料として好適に使用可能なものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、実施例1によって得られた電析銅(試料1)の一部を、50mm角に切断した試験片の外観の画像である。
【
図1B】
図1Bは、破砕性試験によって破砕された試料1の試験片の外観の画像である。
【
図2A】
図2Aは、比較例1によって得られた電析銅(試料2)の一部を、50mm角に切断した試験片の外観の画像である。
【
図2B】
図2Bは、破砕性試験によって破砕されなかった試料2の試験片の外観の画像である。
【
図3A】
図3Aは、比較例2によって得られた電析銅(試料3)の一部を、50mm角に切断した試験片の外観の画像である。
【
図3B】
図3Bは、破砕性試験によって破砕されなかった試料3の試験片の外観の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を具体的な実施の形態をあげて以下に詳細に説明する。本発明は以下に開示された具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
[高純度電析銅]
本発明は、銅及び不可避不純物からなる高純度電析銅であって、純度が6N以上であり、不純物として含有されるAgが0.2ppm以下であり、含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が例えば20000個/g以下、好ましくは15000個/g以下であり、電析断面の平均粒径が40~400μmの範囲であって、電析断面の最大粒径が300~2700μmの範囲にあり、電着面の平均粒径が25~150μmの範囲であって、電着面の最大粒径が100~450μmの範囲にある高純度電析銅を提供する。
【0020】
[純度]
好適な実施の態様において、高純度電析銅の純度は、例えば6N(99.9999質量%)以上とすることができる。高純度電析銅の純度の上限には特に制約はないが、例えば、7N(99.99999質量%)以下とすることができる。
【0021】
[不純物]
好適な実施の態様において、高純度電析銅に含有される不純物としては、以下の元素と含有量(質量ppm)をあげることができる。
Ag: 例えば0.2ppm以下、好ましくは0.1ppm以下
Br: 例えば0.1ppm以下、好ましくは0.05ppm以下
Cl: 例えば1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下
【0022】
[非金属介在物]
好適な実施の態様において、高純度電析銅に含有される非金属介在物は、例えば粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が例えば20000個/g以下、好ましくは15000個/g以下とすることができる。本発明における非金属介在物とは、LPC測定として検出されるLPCのことをいう。非金属介在物は、実施例において後述する手段によって測定することができる。非金属介在物の含有量の下限は特に制約はないが、例えば、粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が50個/g以上、あるいは100個/g以上、あるいは500個/g以上、あるいは1000個/g以上とすることができる。
【0023】
[電析断面]
好適な実施の態様において、高純度電析銅は、その電析断面において観察される平均粒径が、例えば40~400μmの範囲、好ましくは50~350μmの範囲、さらに好ましくは80~300μmの範囲、さらに好ましくは100~250μmの範囲、特に好ましくは100~200μmの範囲、あるいは好ましくは80~400μmの範囲、さらに好ましくは100~400μmの範囲、さらに好ましくは100~300μmの範囲とすることができる。
【0024】
好適な実施の態様において、高純度電析銅は、その電析断面において観察される最大粒径が、例えば300~2700μmの範囲、好ましくは450~2500μmの範囲、さらに好ましくは450~2000μmの範囲、さらに好ましくは450~1500μmの範囲、さらに好ましくは450~1000μmの範囲、あるいは300~2000μmの範囲、さらに好ましくは300~1500μmの範囲、さらに好ましくは300~1000μmの範囲とすることができる。
【0025】
電析断面とは、カソード板に電析した銅を、カソード板の面の法線方向に平行な面で切断した断面をいう。電析断面における平均粒径、及び最大粒径は、実施例において後述する手段によって測定することができる。
【0026】
[電着面]
好適な実施の態様において、高純度電析銅は、その電着面において観察される平均粒径が、例えば25~150μmの範囲、好ましくは50~130μmの範囲、さらに好ましくは65~115μmの範囲、特に好ましくは75~100μmの範囲とすることができる。
【0027】
好適な実施の態様において、高純度電析銅は、その電着面において観察される最大粒径が、例えば100~450μmの範囲、好ましくは150~350μmの範囲、特に好ましくは200~300μmの範囲、あるいは好ましくは150~450μmの範囲、さらに好ましくは200~450μmの範囲、特に好ましくは250~400μmの範囲とすることができる。
【0028】
電着面とは、カソード板に電析した銅が、カソード板へ接していた面をいう。この電着面は、カソード板から電析銅を剥がすことによって、観察が可能となる。電着面における平均粒径、及び最大粒径は、実施例において後述する手段によって測定することができる。
【0029】
[破砕性]
好適な実施の態様において、本発明の高純度電析銅は、優れた破砕性を備えたものとなっている。本発明の高純度電析銅は、強度が低減されて、破砕性に優れているために、その後の破砕の工程は容易なものとなっており、破砕の工程における不純物の混入のリスクは最小限となっている。このため、本発明の高純度電析銅は、優れた特性が、破砕の工程で失われることなく、Cu系ターゲットの原料として好適に使用可能なものとなっている。破砕性は、実施例において後述する試験によって確認することができる。
【0030】
[本発明の好適な態様]
好適な実施の態様として、本発明は、次の(1)以下を含む。
(1)
銅及び不可避不純物からなる高純度電析銅であって、
純度が6N以上であり、
不純物として含有されるAgが0.2ppm以下であり、
含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が20000個/g以下であり、
電析断面の平均粒径が40~400μmの範囲であって、
電析断面の最大粒径が300~2700μmの範囲にあり、
電着面の平均粒径が25~150μmの範囲であって、
電着面の最大粒径が100~450μmの範囲にある高純度電析銅。
(2)
電析断面の平均粒径が50~350μmの範囲であって、
電析断面の最大粒径が450~2500μmの範囲にある、(1)に記載の高純度電析銅。
(3)
電着面の平均粒径が65~115μmの範囲であって、
電着面の最大粒径が150~350μmの範囲にある、(1)~(2)のいずれかに記載の高純度電析銅。
(4)
不純物として含有される元素として、Agが0.1ppm以下であり、Brが0.05ppm以下であり、Clが5ppm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の高純度電析銅。
(5)
含有される粒径0.5μm以上20μm以下の非金属介在物が15000個/g以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の高純度電析銅。
(6)
高破砕性高純度電析銅である、(1)~(5)のいずれかに記載の高純度電析銅。
【実施例0031】
以下に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
[電析銅の製造]
以下の条件によって電解槽を用いた電解を行って、高純度電析銅を製造した。
カソード:Ti板
アノード:4N電気銅
カソードとアノード間の距離:40~60mm
電解液組成:硝酸銅溶液
電解液中のHBr(添加剤):Br濃度が1~10mg/LとなるようHBrを添加した
電解液Cu濃度: 50~100g/リットル
電解液温度 : 15~35℃
電解液pH : 0.8~1.8
電流密度 : 0.5~1.5A/dm2
電解時間 : 240時間
【0033】
表1に、実施例1において、電解液中に添加した添加剤の種類、及び開始時における電解液成分の含有量を示す。PVAはポリビニルアルコールである。
【0034】
【0035】
[電析銅の評価]
[電析銅の品位]
実施例1によって電析銅は、通常程度のこぶの発生は見られたが、短絡するような異常に成長したコブは特に見られなかった。すなわち、製造の工程において、十分な程度に、コブ発生が抑制されたものとなっていた。
実施例1によって得られた電析銅(試料1)を、一部採取して、含有成分をGDMS(Glow Discharge Mass Spectrometry)によって分析した。得られた結果を表2-1~表2-2に示す。特に記載のない場合には、それぞれの含有量の単位は質量ppmである。不等号で記載された値は、それぞれの測定限界値未満であったことを示す。実施例1で作製した電析は、GDMSによる測定で純度6N(99.9999質量%)とわかった。GDMSにて測定したうちの15成分を以下に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
[電析銅の結晶粒度]
実施例1によって得られた電析銅(試料1)を、10~20mm角に切断して電着面、及び電析断面についてそれぞれ#1000まで湿式研磨後、電解研磨装置(Struers/レクトロポール-5)にて電解研磨とエッチングを施した。
【0039】
電解研磨とエッチングを行った後に、電着面と電析断面について、光学顕微鏡(Nikon/ECRIPSE MA200)にて組織写真を撮影し、解析ソフト(Nikon/NIS-Elements)を用いて、ASTM規格中のASTM E 112-96に従って結晶粒度評価を行った。観察倍率は実施例1については50倍とした。比較例1、2では、観察される結晶粒が小さかったために、測定の精度を考慮して、観察倍率を400倍とした。結晶粒度評価の結果を、表3に示す。平均粒径とは、組織写真を撮影した視野中の粒径の平均値のことを、最大粒径とは、組織写真を撮影した視野中で測定された粒径の最大値のことをいう。組織観察するサンプルは電析の中心付近から切り出して、電着面、電析断面それぞれ1つのサンプル中ランダムに選択した2か所について観察倍率50倍では2502.6μm×1779.6μm、400倍では314.2μm×223.4μmの視野を観察し粒度測定を行った。電析断面については、電着面から成長する電析物の成長方向の全体にわたる観察を行うために、電析断面のうち電析の中心付近において、2カ所の測定位置を選んで、それぞれの測定位置において電着面から電析物の成長方向の先端までの全長を、観察倍率50倍では2502.6μm×1779.6μm、400倍では314.2μm×223.4μmの大きさの視野に分割して撮影した画像のそれぞれについて粒度測定を行った。観察倍率50倍では、分割された視野の枚数が2~5枚であったので、この全ての視野について粒度測定を行った。観察倍率400倍では、分割された視野の個数が数十枚に及んだので、それぞれの測定位置について2つの視野を抽出して、その視野について粒度測定した。視野の抽出は、それぞれの測定位置について電着面から電析成長先端までの間を電析成長方向において上半分と下半分に分けて、上半分からは電析成長先端近傍を避けて半分のラインに寄り過ぎないところで1つの代表的な視野を抽出し、下半分からはカソード板近傍を避けて半分のラインに寄り過ぎないところで1つの代表的な視野を抽出することによって、それぞれの測定位置についての2つの視野の抽出を行った。
【0040】
【0041】
[電析銅のLPC分析]
実施例1によって得られた電析銅(試料1)に対して、LPC(Liquid Particle Counter)分析を以下の手順で行った。
電析銅を5gサンプリングし、介在物が溶解しないように、ゆっくりと210ccの酸で溶解し、さらにこれを500ccになるように、純水で希釈し、この10ccを取り、液中パーティクルセンサ(九州リオン株式会社)のKS-42CにてJIS B9925に基づき測定した。
【0042】
LPC分析の結果を、表3に示す。このLPC分析は、装置の仕様から、粒径0.5μm以上20μm以下の非金属粒子が測定される分析となっている。
【0043】
[電析銅の抗折試験]
実施例1によって得られた電析銅(試料1)に対して、抗折試験を以下の手順で行った。
電析銅を3×4×35mmに切断して、#200まで湿式研磨した。作製したサンプルを一軸試験機(エー・アンド・デイ)のSTB-1225Sにて抗折試験を実施。試験条件は下記の通り。
動作モード:単一動作
動作方向:Down
変形モード:3点曲げ試験
速度モード:移動速度一定制御
移動速度:0.5mm/min
目標荷重:5N
クリープ速度:10mm/min
保持時間:3s
【0044】
抗折試験の結果を、表3に示す。
【0045】
[電析銅の破砕性]
実施例1によって得られた電析銅(試料1)の一部を、20mm角に切断した試験片を作成して、破砕性試験を行った。
【0046】
破砕性試験は、試験片の中央付近にたがねをあてて、それをハンマーで一定の力で繰り返し叩くことによって、試験片が破砕するかを観察することによって行った。
【0047】
実施例1の電析銅(試料1)による試験片は、10回ほど叩くと、たがねを当てている箇所から亀裂が進展していき、割ることができた。
【0048】
図1Aに、実施例1によって得られた電析銅(試料1)の一部を、20mm角に切断した試験片の外観の画像を示す。
図1Bに、破砕性試験によって破砕された試料1の試験片の外観の画像を示す。
【0049】
[比較例1]
[電析銅の製造]
以下に示す条件を変更したことを除いて、実施例1と同様に電析を行って、比較例1の高純度電析銅を製造した。
電解液組成 :硝酸銅溶液
HCl(添加剤):Cl濃度が20~40mg/LとなるようHClを添加した
PVA(添加剤):PVA濃度が0.5~1.5mg/Lとなるよう添加した
電流密度 : 1.4~2.0A/dm2
【0050】
表1に、比較例1において、電解液中に添加した添加剤の種類、及び開始時と終了時における電解液成分の含有量を示す。
【0051】
[電析銅の評価]
電析銅の品位を評価するために、比較例1によって得られた電析銅(試料2)を、一部採取して、実施例1と同様に、含有成分をGDMSによって分析した。得られた結果を表2-1~表2-2に示す。比較例1にて作製した電析は純度が5Nであった。
【0052】
電析銅の結晶粒度について、比較例1によって得られた電析銅(試料2)を、実施例1と同様に、評価した。結晶粒度評価の結果を、表3に示す。
【0053】
電析銅のLPC分析、抗折試験を、比較例1によって得られた電析銅(試料2)について、実施例1と同様に行った。評価の結果を、表3に示す。
【0054】
電析銅の破砕性の評価を、比較例1によって得られた電析銅(試料2)について、実施例1と同様に行った。
【0055】
比較例1の電析銅(試料2)による試験片は、20回叩いた後に、打痕が残ったが、割ることができなかった。
【0056】
図2Aに、比較例1によって得られた電析銅(試料2)の一部を、20mm角に切断した試験片の外観の画像を示す。
図2Bに、破砕性試験によって破砕されなかった試料2の試験片の外観の画像を示す。
【0057】
[比較例2]
[電析銅の製造]
以下に示す条件を変更したことを除いて、実施例1と同様に電析を行って、比較例2の高純度電析銅を製造した。
電解液組成 :硝酸銅溶液
HBr(添加剤):Br10~10mg/LとなるようHBrを添加
PVA(添加剤):PVA0.5~1.5mg/Lとなるよう添加
電流密度 : 1.4~2.0A/dm2
【0058】
表1に、比較例2において、電解液中に添加した添加剤の種類、及び開始時と終了時における電解液成分の含有量を示す。
【0059】
[電析銅の評価]
電析銅の品位を評価するために、比較例2によって得られた電析銅(試料3)を、一部採取して、実施例1と同様に、含有成分をGDMSによって分析した。得られた結果を表2-1~表2-2に示す。比較例2にて作製した電析は純度が4Nであった。
【0060】
電析銅の結晶粒度について、比較例2によって得られた電析銅(試料3)を、実施例1と同様に、評価した。結晶粒度評価の結果を、表3に示す。
【0061】
電析銅のLPC分析、抗折試験、引張試験を、比較例2によって得られた電析銅(試料3)について、実施例1と同様に行った。評価の結果を、表3に示す。
【0062】
電析銅の破砕性の評価を、比較例2によって得られた電析銅(試料3)について、実施例1と同様に行った。
【0063】
比較例2の電析銅(試料3)による試験片は、20回叩いた後に、打痕が残ったが、割ることができなかった。
【0064】
図3Aに、比較2によって得られた電析銅(試料3)の一部を、20mm角に切断した試験片の外観の画像を示す。
図3Bに、破砕性試験によって破砕されなかった試料3の試験片の外観の画像を示す。
【0065】
[評価結果について]
実施例1によって得られた電析銅は、その電解による製造時において、PVAの添加がないにもかかわらず、長時間の電解において何ら妨げとならない程度にこぶの発生が抑制されていた。そして、実施例1によって得られた電析銅は、破砕性に優れており、洗浄容易な器具を用いた簡単な操作によって破砕することができた。これによって、実施例1によって得られた電析銅は、電析銅をインゴットへ成型するためにるつぼに入れる等の作業に先立って、切断器具によって切断する作業が不要であった。すなわち、実施例1によって得られた電析銅は、切断器具によって切断する作業によってしばしば混入しがちな他の金属元素の混入の機会を、原理的に回避できるものとなっていた。
【0066】
比較例1及び比較例2によって得られた電析銅は、その電解による製造時において、PVAの添加によって、長時間の電解において何ら妨げとならない程度にこぶの発生が抑制されていた。しかし、比較例1及び比較例2によって得られた電析銅は、破砕性に劣っており、洗浄容易な器具を用いた簡単な操作によっては破砕することができなかった。そのために、比較例1及び比較例2によって得られた電析銅は、電析銅をインゴットへ成型するためにるつぼに入れる等の作業に先立って、切断器具によって切断する作業が必要であった。すなわち、比較例1及び比較例2によって得られた電析銅は、切断器具によって切断する作業によってしばしば混入しがちな他の金属元素の混入の機会が、回避できないものとなっていた。
【0067】
本願発明によって得られた電析銅が、大きなコブの発生が抑制されつつ、高純度で且つ介在物の少ない電析銅でありながら、強度が低く破砕性の良い電析銅となっている理由は不明であるが、電解液にハロゲン化水素酸を添加しつつ電解条件を調整して、電析断面の結晶粒を所定の粒径の範囲内へと制御し、同時に、電着面の結晶粒についても所定の粒径の範囲内へと制御することによって、実現できたのではないかと、本発明者は考えている。すなわち、PVA等の有機物系添加剤を添加すると得られる電析銅の組織が微細になって、コブの発生が効率的に抑制できる一方で、破砕性の低下が生じるのではないかと本発明者は考えている。そして、良好な破砕性と十分なコブ発生抑制のためには、電析断面と電着面の両面について、結晶粒の平均粒径と最大粒径を特定の範囲内へと制御することが、特に重要な要素となっていると、本発明者は考えている。