(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079879
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G06F 12/00 20060101AFI20230601BHJP
【FI】
G06F12/00 564A
G06F12/00 597D
G06F12/00 550E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193563
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】茂木 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】仙波 圭
【テーマコード(参考)】
5B160
【Fターム(参考)】
5B160CC01
(57)【要約】
【課題】画像形成装置の動作モードおよび経年劣化状況に関わらず、常に最適なEye開口電圧の設定およびDRAMの消費電力の低減の両立を実現できる画像形成装置を提供する。
【解決手段】本発明は、データを処理するためのメモリを有するデジタル回路システムを使った画像形成装置であって、前記メモリのOCDおよびODTの組合せ毎に、前記メモリとの通信プロトコルにおいてHighまたはLowを切り分けるEye開口マージンと、前記メモリの消費電流と、の関係を示すテーブルを記憶部に保存する保存部と、前記テーブルに基づいて、前記画像形成装置のステート毎に、前記Eye開口マージンを設定し、前記ステートの切り替えのタイミングで、切替後の前記ステートに設定された前記Eye開口マージンのうち最も前記消費電流が小さくなる前記Eye開口マージンに対応する前記組合せを設定する設定部と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを処理するためのメモリを有するデジタル回路システムを使った画像形成装置であって、
前記メモリのOCDおよびODTの組合せ毎に、前記メモリとの通信プロトコルにおいてHighまたはLowを切り分けるEye開口マージンと、前記メモリの消費電流と、の関係を示すテーブルを記憶部に保存する保存部と、
前記テーブルに基づいて、前記画像形成装置のステート毎に、前記Eye開口マージンを設定し、前記ステートの切り替えのタイミングで、切替後の前記ステートに設定された前記Eye開口マージンのうち最も前記消費電流が小さくなる前記Eye開口マージンに対応する前記組合せを設定する設定部と、
を備える画像形成装置。
【請求項2】
前記保存部は、前記OCDおよび前記ODTをパラメータにして、前記メモリとの通信プロトコルにおいてHighまたはLowを識別可能な基準電圧を調節するVref Trainingを実施し、前記メモリとの通信プロトコルにおいてHighまたはLowを識別できる前記基準電圧の範囲を前記Eye開口マージンと判定する、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記保存部は、前記画像形成装置の起動時間および累計動作時間に基づいて、最後に前記Vref Trainingを実施してから所定期間経過後、再度、前記Vref Trainingを実施して、前記テーブルを取得し直す、請求項2に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリとの通信プロトコルであるDDR(Double Data Rate)は、高速化および低消費電力化のため、規格が新しくなる毎に高周波数化および低動作電圧化が進んでいる。これにより、Eye開口が小さくなり、伝送路内でデータビットおよびアドレスビットが化けて(例えば、“0”と“1”とが反転して)、動作不調を引き起こすリスクが高まってきている。
【0003】
それを受け、DDR2以降は、出力抵抗にあたるOCD(Off Chip Driver)の他、ICチップ内に終端抵抗を内蔵するODT(On Die Termination)が採用され、より近端または遠端に抵抗が配置されることで、インピーダンスの不整合による多重反射を防止できるようになっている。OCDおよびODTをパラメータにすると、波形のスルーレート、反射、リングバックの程度を調整でき、結果的に、Eye開口を広げることができる。例えば、特許文献1には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)の消費電力を最適化することを目的として、主に、セルフリフレッシュ(以下、SRという)への移行または復帰の条件、SR時に外部回路によって特定の制御系信号を遮断する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的には、OCDおよびODTは、設計段階において、PWB(Printed Wiring Board)の特性インピーダンス等、波形シミュレータ等を用いて一意に決定される。しかし、実際には、PWB毎の製造ばらつき、動作時のデバイス温度変化、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等のメモリの負荷率等で波形が変動するため、最適な設定値は、ダイナミックに変化し、一意的ではないことが予測される。また、実際のノイズ影響に対して、Eye開口のマージンを広く取りすぎると、オーバースペックとなり、消費電力が過剰に消費されていること等も考えられる。また、特許文献1記載の技術によれば、JEDECによって規定されるDDRの制御方式を逸脱しない範囲で、制御若しくは回路の改変により信号線が消費する電力を低減させることはできるが、DRAMの信号線の多数を占めるデータ信号に対しての電力の最適化が発生されていない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、画像形成装置の動作モードおよび経年劣化状況に関わらず、常に最適なEye開口電圧の設定およびDRAMの消費電力の低減の両立を実現できる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、データを処理するためのメモリを有するデジタル回路システムを使った画像形成装置であって、前記メモリのOCDおよびODTの組合せ毎に、前記メモリとの通信プロトコルにおいてHighまたはLowを切り分けるEye開口マージンと、前記メモリの消費電流と、の関係を示すテーブルを記憶部に保存する保存部と、前記テーブルに基づいて、前記画像形成装置のステート毎に、前記Eye開口マージンを設定し、前記ステートの切り替えのタイミングで、切替後の前記ステートに設定された前記Eye開口マージンのうち最も前記消費電流が小さくなる前記Eye開口マージンに対応する前記組合せを設定する設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、画像形成装置の動作モードおよび経年劣化状況に関わらず、常に最適なEye開口電圧の設定およびメモリの消費電力の低減の両立を実現できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施の形態にかかる画像形成装置を適用したMFPのハードウェア構成図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“L”における単一信号線の電流の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“L”における単一信号線の電圧の一例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“H”における単一信号線の電流および電圧の一例を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態にかかるMFPにおけるOCDおよびODTの設定と消費電流の変動の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態にかかるMFPの特徴を実現する機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本実施の形態にかかるMFPにおけるVref Trainingの一例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本実施の形態にかかるMFPにおけるテーブルの取得処理の一例を説明するための図である。
【
図9】
図9は、本実施の形態にかかるMFPにおけるテーブルの作成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、画像形成装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、本実施の形態にかかる画像形成装置を適用したMFPのハードウェア構成図である。
図1に示されているように、MFP(Multi-function Peripheral/Product/Printer)9は、コントローラ910、近距離通信回路920、エンジン制御部930、操作パネル940、ネットワークI/F950を備えている。
【0011】
これらのうち、コントローラ910(デジタル回路システムの一例)は、コンピュータの主要部であるCPU901、システムメモリ(MEM-P)902、ノースブリッジ(NB)903、サウスブリッジ(SB)904、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)906、記憶部であるローカルメモリ(MEM-C)907、HDDコントローラ908、および、記憶部であるHD909を有し、NB903とASIC906との間をAGP(Accelerated Graphics Port)バス921で接続した構成となっている。
【0012】
これらのうち、CPU901は、MFP9の全体制御を行う制御部である。NB903は、CPU901と、MEM-P902、SB904、およびAGPバス921とを接続するためのブリッジであり、MEM-P902に対する読み書き等を制御するメモリコントローラと、PCI(Peripheral Component Interconnect)マスタおよびAGPターゲットとを有する。
【0013】
MEM-P902は、データを処理するためのメモリの一例であり、コントローラ910の各機能を実現させるプログラムおよびデータの格納用メモリであるROM902a、プログラムやデータの展開、およびメモリ印刷時の描画用メモリ等として用いるRAM902bとからなる。なお、RAM902bに記憶されているプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して提供するように構成してもよい。
【0014】
SB904は、NB903とPCIデバイス、周辺デバイスとを接続するためのブリッジである。ASIC906は、画像処理用のハードウェア要素を有する画像処理用途向けのIC(Integrated Circuit)であり、AGPバス921、PCIバス922、HDD908およびMEM-C907をそれぞれ接続するブリッジの役割を有する。このASIC906は、PCIターゲットおよびAGPマスタ、ASIC906の中核をなすアービタ(ARB)、MEM-C907を制御するメモリコントローラ、ハードウェアロジック等により画像データの回転等を行う複数のDMAC(Direct Memory Access Controller)、並びに、スキャナ部931およびプリンタ部932との間でPCIバス922を介したデータ転送を行うPCIユニットとからなる。なお、ASIC906には、USB(Universal Serial Bus)のインターフェース、IEEE1394(Institute of Electrical and Electronics Engineers 1394)のインターフェースを接続するようにしてもよい。
【0015】
MEM-C907は、コピー用画像バッファおよび符号バッファとして用いるローカルメモリである。HD909は、画像データの蓄積、印刷時に用いるフォントデータの蓄積、フォームの蓄積を行うためのストレージである。HD909は、CPU901の制御にしたがってHD909に対するデータの読出または書込を制御する。AGPバス921は、グラフィック処理を高速化するために提案されたグラフィックスアクセラレータカード用のバスインタフェースであり、MEM-P902に高スループットで直接アクセスすることにより、グラフィックスアクセラレータカードを高速にすることができる。
【0016】
また、近距離通信回路920には、近距離通信回路920aが備わっている。近距離通信回路920は、NFC(Near Field Communication)、Bluetooth(登録商標)等の通信回路である。
【0017】
さらに、エンジン制御部930は、スキャナ部931およびプリンタ部932によって構成されている。また、操作パネル940は、現在の設定値や選択画面等を表示させ、操作者からの入力を受け付けるタッチパネル等のパネル表示部940a、並びに、濃度の設定条件等の画像形成に関する条件の設定値を受け付けるテンキーおよびコピー開始指示を受け付けるスタートキー等からなる操作パネル940bを備えている。コントローラ910は、MFP9全体の制御を行い、例えば、描画、通信、操作パネル940からの入力等を制御する。スキャナ部931またはプリンタ部932には、誤差拡散やガンマ変換などの画像処理部分が含まれている。
【0018】
なお、MFP9は、操作パネル940のアプリケーション切り替えキーにより、ドキュメントボックス機能、コピー機能、プリンタ機能、およびファクシミリ機能を順次に切り替えて選択することが可能となる。ドキュメントボックス機能の選択時にはドキュメントボックスモードとなり、コピー機能の選択時にはコピーモードとなり、プリンタ機能の選択時にはプリンタモードとなり、ファクシミリモードの選択時にはファクシミリモードとなる。
【0019】
また、ネットワークI/F950は、通信ネットワーク100を利用してデータ通信をするためのインターフェースである。近距離通信回路920およびネットワークI/F950は、PCIバス922を介して、ASIC906に電気的に接続されている。
【0020】
図2は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“L”における単一信号線の電流の一例を説明するための図である。
図2に示すように、送信デバイス(例えば、NB903のメモリコントローラ)と受信デバイス(例えば、MEM-P902)間の定常状態における論理“L(Low)”の電流は、単純なオームの法則によって求められる。例えば、OCDを40Ωに設定しかつODTを60Ωに設定した場合、DDR4の動作電圧が1.2Vであるから、信号線1本あたりの電流は、12mAと求められる。
【0021】
図3は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“L”における単一信号線の電圧の一例を説明するための図である。
図3に示すように、送信デバイスと受信デバイス間の定常状態における論理“L”の電圧も、単純なオームの法則によって求められる。例えば、OCDを40Ωに設定しかつODTを60Ωに設定した場合、論理“L”における電圧は、0.48Vとなる。
【0022】
図4は、本実施の形態にかかるMFPにおける送信デバイスと受信デバイス間のDDR4の論理“H”における単一信号線の電流および電圧の一例を説明するための図である。
図4に示すように、送信デバイスと受信デバイス間の定常状態における論理“H”の定常電圧は、VDDQ=1.2Vとなり、定常電流は、0mAとなる。以上より、OCDとODTの設定により、MEM-P902との通信による消費電流量と理論的なEye開口電圧が変動することがわかる。ここで、Eye開口電圧は、論理“H”と論理“L”の定常電圧の差である。
【0023】
すなわち、Eye開口電圧は、MEM-P902とのDDR4等の通信プロトコルにおいてHighまたはLowを切り分けるEye開口マージンである。実際には、信号線における反射およびクロストークといった外乱ノイズ、送信デバイスの出力特性等により、信号線の電圧の波形は、過渡的に、より複雑に変化することになる。
【0024】
図5は、本実施の形態にかかるMFPにおけるOCDおよびODTの設定と消費電流の変動の一例を示す図である。上述したように、一般的には、OCDおよびやODTは、設計段階において、一意に決定し、固定値として扱われる。しかし、MFP9等の画像形成装置への応用を考えた場合、MEM-P902に高負荷がかかって、MEM-P902が有するDRAM等のメモリのノイズが激しくなる状態(すなわち、Eye開口電圧を広くとらなければならない状態)は、起動時、省エネ復帰時、および印刷時といった一部の状態に限られる。そのため、その他の状態では、むしろDRAMの消費電力を低減させる方向にOCDとODTを調節した方が良い場合が想定される。
【0025】
そこで、本実施の形態にかかるMFP9は、以下の2つの特徴を有することにより、最適なEye開口電圧の設定と、DRAM等のメモリの消費電力の低減の両立を実現する。
【0026】
まず、本実施の形態にかかるMFP9は、1つ目の特徴として、MEM-P902のOCDおよびODTの組合せ毎に、Vref Trainingを実施し、Eye開口電圧とMEM-P902の消費電流との関係を示すテーブルを取得(生成)し、当該テーブルを不揮発メモリに保存する機能を有する。ここで、Vref Trainingは、MEM-P902のOCDおよびODTの組合せ毎に、Eye開口電圧と、MEM-P902の消費電流との、関係を求める処理である。
【0027】
また、本実施の形態にかかるMFP9は、2つ目の特徴として、MFP9のステート毎に、Eye開口電圧を設定し、MFP9のステートの切り替えのタイミングで、最適なOCDおよびODTに設定する機能を有する。
【0028】
図6は、本実施の形態にかかるMFPの特徴を実現する機能構成の一例を示すブロック図である。本実施の形態にかかるMFP9は、
図6に示すように、CPU901、ストレージ601、メモリコントローラ602、およびメモリ603と、を有する。
【0029】
CPU901は、MFP9全体制御を行う制御部である。ストレージ601は、HD909等を有し、各種データを記憶する記憶部の一例である。メモリ603は、MEM-P902等を有し、各種データを処理するためのメモリの一例である。
【0030】
メモリコントローラ602は、NB903により実現され、DDR4等の通信プロトコルに従ってメモリ603と通信を行う。具体的には、メモリコントローラ602は、保存部602a、および設定部602bを有する。
【0031】
保存部602aは、メモリ603のOCDおよびODTの組合せ毎に、Eye開口マージン(Eye開口電圧)と、メモリ603の消費電流と、の関係を示すテーブルを取得(生成)する。そして、保存部602aは、当該取得したテーブルをストレージ601に保存する。
【0032】
また、保存部602aは、メモリ603のOCDおよびODTをパラメータにして、メモリ603との通信プロトコル(例えば、DDR4)においてHighまたはLowを識別可能な基準電圧を調節(調整)するVref Trainingを実施する。そして、保存部602aは、調節(調整)した基準電圧の範囲をEye開口マージンと判定する。これにより、DDR4において、OCDおよびODTのテーブルを作成する手段としてJEDEC標準の機能を用いることで、高信頼かつ短時間で、OCDおよびODTの組合せに対応するEye開口マージンを推定することができる。
【0033】
さらに、保存部602aは、MFP9の起動時間および累計動作時間に基づいて、最後にVref Trainingを実施してから所定期間経過後、再度、Vref Trainingを実施して、Eye開口マージンを含むテーブルを取得し直す。これにより、MFP9の経時劣化およびMFP9の温度上昇によるEye開口マージンの序列変化を防止する。また、定期的にテーブルを逐次変更させることによって、MFP9のダイナミックな特性変動に対応できるようになり、テーブルの高信頼化につなげることができる。
【0034】
設定部602bは、ストレージ601に記憶されるテーブルに基づいて、MFP9のステート毎に、Eye開口マージンを設定する。また、設定部602bは、MFP9のステート切り替えのタイミングで、切替後のステートに設定されたEye開口マージンのうち、最もメモリ603の消費電力が小さくなるEye開口マージンに対応するOCDおよびODTの組合せを設定する。
【0035】
これにより、MFP9等の機器のステートに合わせてDRAM等のメモリ603の出力抵抗(OCD)と内部終端抵抗(ODT)を調節することができる。その結果、メモリ603の消費電力と波形品質を動的に最適化することができる。すなわち、MFP9等の機器の動作モードおよび機器の経年劣化状況に関わらず、常に、最適なEye開口マージンの設定およびメモリ603の消費電力の省力化の両立を実現できる。
【0036】
図7は、本実施の形態にかかるMFPにおけるVref Trainingの一例を説明するための図である。
図8は、本実施の形態にかかるMFPにおけるテーブルの取得処理の一例を説明するための図である。まずは、OCDおよびODTの組合せ毎のEye開口電圧(Eye開口マージン)とメモリ603の消費電流の関係の特定手段について解説する。DDR4の場合、Vref Trainingの機能を応用することで簡単に達成可能である。基準電圧Vrefとは、信号線を伝送される信号のHighとLowの閾値を決める電圧である。DDR4では、
図7に示すように、Vref Trainingによって基準電圧Vrefを調節することができる。
【0037】
Vref Trainingは、基準電圧Vrefを調節しながら、メモリ603に対する既知のデータ列のリードおよびライトを実施し、正常にHighおよびLowが切り分けられる範囲を明らかにするDDR4に標準で搭載される機能である。本来のVref Trainingの結果は、この範囲の中央に基準電圧Vrefを設定するが、本実施の形態では、保存部602aは、この範囲をEye開口電圧として捉え、Eye開口電圧をOCDおよびODTの組合せ毎に網羅的に取得する。これにより、保存部602aは、
図8に示すように、OCDおよびODTの組合せ毎のEye開口電圧とメモリ603の消費電流の序列(テーブル)を取得する。
【0038】
図9は、本実施の形態にかかるMFPにおけるテーブルの作成処理の流れの一例を示すフローチャートである。MFP9等の画像形成装置を始めとする電子機器で使用される一般的な組み込みハードウェアの構成においては、CPU901は、MFP9を起動させる際、マスクROM(Read Only Memory)からの起動データ(ブートローダー)の読み込み等の起動準備を実行する(ステップS9001)。起動データの読み込み後に、CPU901は、レベリング等、DRAM等のメモリ603の初期化処理を実施する(ステップS9002)。この初期化処理はJEDECで規定される方式に従い、Write Leveling等がある。
【0039】
保存部602aは、初期化処理が完了した直後、メモリ603のOCDおよびODTの全ての組合せについてVref Trainingを実施する。具体的には、保存部602aは、まず、OCDおよびODTを最小に変更する(ステップS9003)。さらに、保存部602aは、変更したOCDおよびODTを設定時のMFP9のモード(ステート)をレジスタにセットする(ステップS9004)。
【0040】
次に、保存部602aは、Vref Trainingを実施する(ステップS9005)。具体的には、保存部602aは、Vref Trainingによって、メモリ603に対して正常にリードおよびライトできる基準電圧Vrefの範囲(マージン)、すなわち、Eye開口電圧を取得する。また、保存部602aは、オームの法則により、OCDおよびODTの各組合せにおけるメモリ603の消費電流についても併せて取得する。そして、保存部602aは、取得したEye開口電圧およびメモリ603の消費電流を含むテーブルをストレージ601に保存する(ステップS9006)。当該テーブルの記録先は、任意だが、起動時間の増加を防ぐ場合には、不揮発メモリに保存し、以降は、初回に取得したテーブルを取得しても良い。
【0041】
次に、保存部602aは、全てのOCDについてVref Trainingを実施したか否かを判断する(ステップS9007)。全てのOCDについてVref Trainingを実施していない場合(ステップS9007:No)、保存部602aは、OCDを変更して(ステップS9008)、ステップS9004に戻る。一方、全てのOCDについてVref Trainingを実施した場合(ステップS9007:Yes)、保存部602aは、全てのODTについてVref Trainingを実施したか否かを判断する(ステップS9009)。
【0042】
全てのODTについてVref Trainingを実施していない場合(ステップS9009:No)、保存部602aは、ODTを変更しかつOCDを最小に戻して(ステップS9010)、ステップS9004に戻る。一方、全てのODTについてVref Trainingを実施した場合(ステップS9009:Yes)、保存部602aは、Vref Trainingを終了する。
【0043】
テーブルの取得後は、設定部602bは、MFP9のステート切り替え時にテーブルを参照し、そのステートで品質が安定するのに必要なEye開口電圧の中で、最もメモリ603の消費電流が小さいOCDおよびODTの組み合わせを取得し、その都度、OCDおよびODTの設定を変更する。なお、MFP9のステート毎にどれだけのEye開口電圧が必要かについては、MFP9の起動が安定するか、印刷時に異常画像が発生しないか等の繰り返し評価を通じて、予め定めておく必要がある。一般的には、消費電力が大きくなるタイミングで、Eye開口電圧が小さくなることが知られているため、比較的大きいマージンを確保しておくと良い。
【0044】
このように、本実施の形態にかかるMFP9によれば、MFP9等の機器のステートに合わせてDRAM等のメモリ603の出力抵抗(OCD)と内部終端抵抗(ODT)を調節することができる。その結果、メモリ603の消費電力と波形品質を動的に最適化することができる。すなわち、MFP9等の機器の動作モードおよび機器の経年劣化状況に関わらず、常に、最適なEye開口マージンの設定およびメモリ603の消費電力の省力化の両立を実現できる。
【0045】
なお、上記実施の形態では、本発明の画像形成装置を、コピー機能、プリンタ機能、スキャナ機能およびファクシミリ機能のうち少なくとも2つの機能を有する複合機に適用した例を挙げて説明するが、複写機、プリンタ、スキャナ装置、ファクシミリ装置等の画像形成装置であればいずれにも適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
9 MFP
601 ストレージ
602 メモリコントローラ
602a 保存部
602b 設定部
603 メモリ
901 CPU
902 MEM-P
902a ROM
902b RAM
903 NB
【先行技術文献】
【特許文献】
【0047】