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特開2023-79887基板の搬送を行う装置、及び基板の搬送を行う方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079887
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】基板の搬送を行う装置、及び基板の搬送を行う方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/677 20060101AFI20230601BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20230601BHJP
   H02P 25/064 20160101ALI20230601BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B65G54/02
H02P25/064
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193577
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健弘
(72)【発明者】
【氏名】李 東偉
(72)【発明者】
【氏名】蒋 凌欣
(72)【発明者】
【氏名】岡野 真也
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 航
【テーマコード(参考)】
3F021
5F131
5H540
【Fターム(参考)】
3F021AA07
3F021BA02
3F021CA06
5F131AA02
5F131BA04
5F131BA15
5F131BA19
5F131BA24
5F131BB03
5F131BB05
5F131BB23
5F131CA35
5F131DB03
5F131DB52
5F131DB76
5F131DB82
5F131DC18
5F131DD32
5F131DD52
5F131DD74
5F131DD82
5F131DD85
5F131DD86
5F131HA09
5F131HA12
5F131HA35
5F131JA09
5H540AA01
5H540BA05
5H540BB03
5H540BB05
5H540BB09
5H540EE02
5H540EE05
5H540EE10
5H540EE20
5H540FA03
5H540FA04
5H540FC10
(57)【要約】
【課題】基板搬送モジュールを用いて、基板以外の搬送物の搬送を行う場合にも、正確な動作制御を行う技術を提供する。
【解決手段】基板搬送室の床面部に設けられた第1の磁石の磁力を調節し、第2の磁石を備えた基板搬送モジュールにより基板の搬送を行う装置の制御部について、パラメータ記憶部は、搬送物と基板搬送モジュールとを一体に表現した制御用モデルに加える作動力と運動との関係を表現するためのモデルパラメータ記憶し、制御スケジュール作成部は、搬送物に対応するモデルパラメータと、基板搬送モジュールの運動を規定した動作スケジュールとを用いて、基板搬送モジュールを動作させるための作動力を規定した制御スケジュールとして出力する。磁力調節部は、制御スケジュールに基づいた前記作動力が加わるように前記第1の磁石の磁力を調節するフィードフォワード制御を実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理室に対する基板の搬送を行う装置であって、
磁力を調節可能な第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で前記基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室と、
前記基板であるか、前記基板搬送室または前記基板処理室にて使用する機器である複数種類の搬送物を、各々保持することが可能に構成された保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内を移動可能に構成された基板搬送モジュールと、
前記第1の磁石の磁力を調節して前記反発力を変化させることにより、前記基板搬送モジュールの動作をさせるための作動力を、フィードフォワード制御を用いて制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記搬送物と前記基板搬送モジュールとを一体に表現した制御用モデルに加える作動力と、前記制御用モデルの運動との関係を表現するための少なくとも1つのモデルパラメータを、前記複数種類の搬送物の各々に対応付けて記憶するパラメータ記憶部と、
前記搬送物を特定するための特定情報と、時間軸に沿って前記基板搬送モジュールの運動を規定した動作スケジュールとを取得し、前記パラメータ記憶部に記憶されている、前記特定情報に対応する前記制御用モデルの前記モデルパラメータを用いて、前記特定情報に対応する前記搬送物を保持した前記基板搬送モジュールを、前記動作スケジュールに基づいて動作させる場合に加えるべき前記作動力を求め、前記時間軸に沿って前記作動力を規定した制御スケジュールとして出力する制御スケジュール作成部と、
前記特定情報に対応する前記搬送物を搬送する前記基板搬送モジュールに対し、前記制御スケジュールに基づいた前記作動力が加わるように前記第1の磁石の磁力を調節することにより、前記フィードフォワード制御を実行する磁力調節部と、を備えた、装置。
【請求項2】
前記モデルパラメータは、下記(1)~(3)の少なくとも1つのパラメータのセットである、請求項1に記載の装置。
(1)直線運動を行うために加えられる作動力と加速度との関係を表現するための前記制御用モデルの質量
(2)回転運動を行うために加えられる作動力と角加速度との関係を表現するための前記制御用モデルの慣性モーメント、
(3)アーム状に形成された前記保持部を板バネと見たとき、制振動作を行うために、前記保持部に発生する振動を表現するための前記搬送物の質量、前記搬送物を保持した前記保持部の慣性モーメント、ばね定数、減衰係数
【請求項3】
前記モデルパラメータは、前記制御用モデルの運動との関係を表現する理論式に基づいて決定されたものである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記モデルパラメータは、前記基板搬送モジュールを用いた前記搬送物の搬送を実際に複数回実施した結果に基づく機械学習により決定されたものである、請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記基板処理室を移動する前記基板搬送モジュールの位置及び姿勢を検出するセンサ部を備え、
前記制御部は、前記動作スケジュールに基づいて特定される前記基板搬送モジュールの位置または姿勢と、前記センサ部により検出された、前記搬送物を搬送する前記基板搬送モジュールの位置または姿勢とを比較し、これら位置または姿勢のずれ量が小さくなるように前記磁力調節部による前記第1の磁石の磁力の調節の補正を行うフィードバック補正部を備える、請求項1ないし4のいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
前記フィードバック補正部の補正量が、予め設定したしきい値を超える状態が、予め設定された期間継続した場合には、前記補正量が小さくなるように前記パラメータ記憶部に記憶されている前記モデルパラメータを更新するパラメータ更新部を備える、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記パラメータ更新部は、前記基板搬送モジュールを用いた前記搬送物の搬送を実際に複数回実施した結果に基づく機械学習により、前記補正量が小さくなるように前記モデルパラメータを更新する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記基板搬送モジュールは、複数の前記基板搬送モジュールが協働して共通の前記搬送物を搬送するように構成されていることと、
前記磁力調節部は、一の前記基板搬送モジュールをマスター機として、前記マスター機に対して前記フィードフォワード制御を実行し、残る前記基板搬送モジュールをスレーブ機として、前記スレーブ機に対しては、前記マスター機に追従して動作する前記作動力が加わるように、前記第1の磁石の磁力を調節することと、を有する、請求項1ないし7のいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
基板処理室に対する基板の搬送を行う方法であって、
磁力を調節可能な第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室内に収容され、前記基板であるか、前記基板搬送室または前記基板処理室にて使用する機器である複数種類の搬送物を、各々保持することが可能に構成された保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内を移動可能に構成された基板搬送モジュールを用いて搬送を行うにあたり、
前記複数種類の搬送物の各々に対応付けられ、前記搬送物と前記基板搬送モジュールとを一体に表現した制御用モデルに加える作動力と、前記制御用モデルの運動との関係を表現するためのモデルパラメータを決定する工程と、
前記搬送物を特定するための特定情報と、時間軸に沿って前記基板搬送モジュールの運動を規定した動作スケジュールとを取得し、前記パラメータを決定する工程にて決定された、前記特定情報に対応する前記制御用モデルの前記モデルパラメータを用いて、前記特定情報に対応する前記搬送物を保持した前記基板搬送モジュールを、前記動作スケジュールに基づいて動作させる場合に加えるべき作動力を求め、前記時間軸に沿って前記作動力を規定した制御スケジュールとして出力する工程と、
前記特定情報に対応する前記搬送物を搬送する前記基板搬送モジュールに対し、前記制御スケジュールに基づいた前記作動力が加わるように前記第1の磁石の磁力を調節することにより、フィードフォワード制御を実行する工程と、を含む方法。
【請求項10】
前記モデルパラメータは、下記(1)~(3)の少なくとも1つのパラメータのセットである、請求項9に記載の方法。
(1)直線運動を行うために加えられる作動力と加速度との関係を表現するための前記制御用モデルの質量
(2)回転運動を行うために加えられる作動力と角加速度との関係を表現するための前記制御用モデルの慣性モーメント
(3)アーム状に形成された前記保持部を板バネと見たとき、制振動作を行うために、前記保持部に発生する振動を表現するための前記搬送物の質量、前記搬送物を保持した前記保持部の慣性モーメント、ばね定数、減衰係数
【請求項11】
前記モデルパラメータは、前記制御用モデルの運動との関係を表現する理論式に基づいて決定されたものである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記モデルパラメータは、前記基板搬送モジュールを用いた前記搬送物の搬送を実際に複数回実施した結果に基づく機械学習により決定されたものである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
前記基板処理室を移動する前記基板搬送モジュールの位置及び姿勢を検出する工程と、
前記フィードフォワード制御を実行する工程にて、前記動作スケジュールに基づいて特定される前記基板搬送モジュールの位置または姿勢と、前記検出する工程にて検出された前記搬送物を搬送する前記基板搬送モジュールの位置または姿勢とを比較し、これら位置または姿勢のずれ量が小さくなるように前記磁力調節部による前記第1の磁石の磁力の調節の補正を行うフィードバック補正を実施する工程と、を含む、請求項9ないし12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
前記フィードバック補正を実施する工程における、前記第1の磁石の磁力の調節を補正する前記フィードバック補正の補正量が、予め設定したしきい値を超える状態が、予め設定された期間継続した場合には、前記補正量が小さくなるように前記モデルパラメータを決定する工程にて決定された前記モデルパラメータを更新する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記モデルパラメータを更新する工程では、前記基板搬送モジュールを用いた前記搬送物の搬送を実際に複数回実施した結果に基づく機械学習により、前記補正量が小さくなるように前記モデルパラメータを更新する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
複数の前記基板搬送モジュールが協働して共通の前記搬送物を搬送するように構成されている場合に、前記フィードフォワード制御を実行する工程では、一の前記基板搬送モジュールをマスター機として、前記マスター機に対して前記フィードフォワード制御を実行し、残る前記基板搬送モジュールをスレーブ機として、前記スレーブ機に対しては、前記マスター機に追従して動作する前記作動力が加わるように、前記第1の磁石の磁力を調節する、請求項9ないし15のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板の搬送を行う装置、及び基板の搬送を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、基板である半導体ウエハ(以下、「ウエハ」ともいう)に対する処理を実施する装置(ウエハ処理装置)においては、ウエハを収容したキャリアと、処理が実行されるウエハ処理室との間でウエハの搬送が行われる。ウエハの搬送にあたっては、種々の構成のウエハ搬送機構が利用される。
出願人は、磁気浮上を利用した基板搬送モジュールを利用して基板の搬送を行うウエハ処理装置の開発を進めている。
【0003】
例えば特許文献1には、磁気浮上を利用してプレートから浮いた状態にて処理チャンバ間で半導体基板を移送する基板キャリアが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-504784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、基板搬送モジュールを用いて、基板以外の搬送物の搬送を行う場合にも、正確な動作制御を行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、基板処理室に対する基板の搬送を行う装置であって、
磁力を調節可能な第1の磁石が設けられた床面部と、前記基板処理室が接続され、当該基板処理室との間で前記基板の搬入出が行われる開口部が形成された側壁部とを有する基板搬送室と、
前記基板であるか、前記基板搬送室または前記基板処理室にて使用する機器である複数種類の搬送物を、各々保持することが可能に構成された保持部と、前記第1の磁石との間に反発力が働く第2の磁石と、を備え、前記反発力を用いた磁気浮上により、前記基板搬送室内を移動可能に構成された基板搬送モジュールと、
前記第1の磁石の磁力を調節して前記反発力を変化させることにより、前記基板搬送モジュールの動作をさせるための作動力を、フィードフォワード制御を用いて制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記搬送物と前記基板搬送モジュールとを一体に表現した制御用モデルに加える作動力と、前記制御用モデルの運動との関係を表現するための少なくとも1つのモデルパラメータを、前記複数種類の搬送物の各々に対応付けて記憶するパラメータ記憶部と、
前記搬送物を特定するための特定情報と、時間軸に沿って前記基板搬送モジュールの運動を規定した動作スケジュールとを取得し、前記パラメータ記憶部に記憶されている、前記特定情報に対応する前記制御用モデルの前記モデルパラメータを用いて、前記特定情報に対応する前記搬送物を保持した前記基板搬送モジュールを、前記動作スケジュールに基づいて動作させる場合に加えるべき前記作動力を求め、前記時間軸に沿って前記作動力を規定した制御スケジュールとして出力する制御スケジュール作成部と、
前記特定情報に対応する前記搬送物を搬送する前記基板搬送モジュールに対し、前記制御スケジュールに基づいた前記作動力が加わるように前記第1の磁石の磁力を調節することにより、前記フィードフォワード制御を実行する磁力調節部と、を備えた、装置に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、基板搬送モジュールを用いて、基板以外の搬送物の搬送を行う場合にも、正確な動作制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ウエハ処理システムの第1の構成例を示す平面図である。
図2】搬送モジュールの第1の構成例を示す平面図である。
図3】搬送モジュール及びタイルの構成例を示す透視斜視図である。
図4】ウエハ処理システムの構成例に係るブロック図である。
図5A】制御用モデルの第1の構成例に係る斜視図である。
図5B】制御用モデルの第2の構成例に係る斜視図である。
図6】搬送モジュールの動作の例を示す平面図である。
図7】フィードフォワード制御に係るタイムチャート例である。
図8】搬送モジュールの動作制御に係るフローチャート例である。
図9】ウエハ処理システムの第2の構成例を示す平面図である。
図10】搬送モジュールの第2の構成例を示す平面図である。
図11】前記搬送モジュールの搬送動作例に係る側面図である。
図12】故障した搬送モジュールの搬送動作の例を示す模式図である。
図13】部品の搬送動作の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<ウエハ処理システム>
以下、図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係る「基板の搬送を行う装置」の構成について説明する。当該基板の搬送を行う装置は、ウエハ処理システム101に設けられている。
図1には、基板処理室である複数のウエハ処理室110を備えたマルチチャンバタイプのウエハ処理システム101を示してある。図1に示すように、ウエハ処理システム101は、ロードポート141と、大気搬送室140と、ロードロック室130と、真空搬送室160と、複数のウエハ処理室110とを備えている。以下の説明では、ロードポート141が設けられている位置を手前側とする。
【0010】
ウエハ処理システム101において、ロードポート141、大気搬送室140、ロードロック室130、真空搬送室160は、手前側から水平方向にこの順に配置されている。また複数のウエハ処理室110は、手前側から見て、真空搬送室160の左右に並べて設けられている。
【0011】
ロードポート141は、処理対象のウエハWを収容するキャリアCが載置される載置台として構成され、手前側から見て左右方向に4台並べて設置されている。キャリアCとしては、例えば、FOUP(Front Opening Unified Pod)を用いることができる。
【0012】
大気搬送室140は、大気圧(常圧)雰囲気となっており、例えば清浄空気のダウンフローが形成されている。また、大気搬送室140の内部には、ウエハWを搬送するウエハ搬送機構142が設けられている。大気搬送室140内のウエハ搬送機構142は、例えば多関節アームにより構成されている。このウエハ搬送機構142は、キャリアCとロードロック室130との間でウエハWの搬送を行う。また大気搬送室140の例えば左側面にはウエハWのアライメントを行う不図示のアライメント室が設けられている。
【0013】
真空搬送室160と大気搬送室140との間には例えば3つのロードロック室130が左右に並べて設置されている。ロードロック室130は、搬入されたウエハWを下方から突き上げて保持する昇降ピン131を有する。例えば昇降ピン131は、周方向に沿って等間隔に3本設けられ、昇降自在に構成されている。なお、後述の昇降ピン113についても同様に構成されている。
【0014】
ロードロック室130は、大気圧雰囲気と真空雰囲気とを切り替えることができるように構成されている。ロードロック室130と大気搬送室140とは、ゲートバルブ133を介して接続されている。またロードロック室130と真空搬送室160とは、ゲートバルブ132を介して接続されている。
【0015】
真空搬送室160は本開示の基板搬送室に相当している。図1に示すように、真空搬送室160は、前後方向に長い、平面視、矩形状の筐体により構成されている。真空搬送室160は、不図示の真空排気機構により減圧され、真空雰囲気となっている。図1に示す例のウエハ処理システム101において、真空搬送室160の左右の側壁部には、各々3基、合計6基のウエハ処理室110が、ゲートバルブ111を介して接続されている。ゲートバルブ111により開閉される開口部を介して、真空搬送室160とウエハ処理室110との間でのウエハWの搬入出が行われる。
【0016】
各ウエハ処理室110は、不図示の真空排気機構により減圧され、真空雰囲気となっている。各ウエハ処理室110の内部には、載置台112が設けられ、ウエハWはこの載置台112に載置された状態で所定の処理が実施される。ウエハWに対して実施する処理としては、エッチング処理、成膜処理、クリーニング処理、アッシング処理などを例示することができる。
【0017】
例えば、ウエハWを加熱しながら処理を実施する場合には、載置台112には、ヒーターが設けられる。ウエハWに対して実施する処理が処理ガスを利用するものである場合は、ウエハ処理室110には、シャワーヘッドなどにより構成される処理ガス供給部が設けられる。なお、これらヒーターや処理ガス供給部は、図示を省略してある。また載置台112には、搬入出されるウエハWの受け渡しを行うための昇降ピン113が設けられている。ウエハ処理室110は本実施の形態の基板処理室に相当している。
【0018】
<搬送モジュール30>
本例のウエハ処理システム101においては、磁気浮上式の搬送モジュール(基板搬送モジュール)30を用いてウエハWの搬送が行われる。図2に示すように、搬送モジュール30は平面視矩形状の本体部31を備え、この本体部31の上面に直接、ウエハWを保持する構成となっている。即ち、搬送モジュール30の本体部31は、ウエハWを保持するための保持部であるステージ34となっている。例えばステージ34は、扁平な角板状に形成される。また搬送モジュール30の本体部31の内部には、モジュール側磁石33が設けられているが、その構成例については、図3を参照しながら後述する。
【0019】
搬送モジュール30は、ウエハ処理室110やロードロック室130内に進入し、昇降ピン113、131との間でウエハWの受け渡しを行う。搬送モジュール30には、昇降ピン113、131との干渉を避けつつウエハWの受け渡しを行うためのスリット341が形成されている。スリット341は、昇降ピン113、131に保持されたウエハWの下方位置にステージ34を進入、退出させるにあたり、昇降ピン113、131が通過する軌道に沿って形成されている。またスリット341は、ウエハWの下方位置への進入方向を180°反転させることも可能なように形成されている。この構成により、搬送モジュール30と昇降ピン113、131との干渉を避けつつ、搬送モジュール30とウエハWとの中心を揃えて上下に配置することができる。
【0020】
<磁気浮上機構>
図3に模式的に示すように、真空搬送室160の床面部には複数のタイル(移動用タイル)10が設けられている。これらタイル10は、搬送モジュール30の移動領域となる真空搬送室160内の床面部全体に設けられている。また、本例の搬送モジュール30は、ロードロック室130内やウエハ処理室110内にまで進入して移動するように搬送領域が設定されているので、これらロードロック室130やウエハ処理室110の床面部にもタイル10が設けられる。
【0021】
タイル10には、その内部に各々、複数の移動面側コイル11が配列されている。移動面側コイル11は、電力供給部53から電力が供給されることにより磁場を発生する。移動面側コイル11は、本開示の第1の磁石に相当する。
【0022】
一方、搬送モジュール30の内部には、例えば永久磁石により構成される複数のモジュール側磁石33が配列されている。モジュール側磁石33に対しては、移動面側コイル11によって生成される磁場との間に反発力(磁力)が働く。この作用によりタイル10の上面側の移動面に対して搬送モジュール30を磁気浮上させることができる。搬送モジュール30に設けられたモジュール側磁石33は、本開示の第2の磁石に相当する。
【0023】
また、タイル10は、複数の移動面側コイル11により、磁場を生成する位置や磁力の強さを調節し、磁界の状態を変化させることができる。この磁界の制御により、移動面上で搬送モジュール30を所望の方向に移動させることや、移動面からの浮上距離の調節、搬送モジュール30の向きの調節を行うことができる。タイル10側の磁界の制御は、電力が供給される移動面側コイル11の選択や、移動面側コイル11に供給される電力の大きさを調節することにより実施される。
【0024】
なお、複数のモジュール側磁石33は、搬送モジュール30内に設けられたバッテリーより電力が供給され、電磁石として機能するコイルによって構成してもよい。また、永久磁石及びコイルの双方を設けてモジュール側磁石33を構成してもよい。
【0025】
以上に説明した構成の真空搬送室160には、複数台の搬送モジュール30が設けられ、これらの搬送モジュール30を同時に移動させてウエハWの搬送を行うことができる。
以上に説明した、搬送モジュール30を備え、ウエハ処理室110が接続される真空搬送室160は、本開示の基板の搬送を行う装置に相当する。
【0026】
<制御部5>
ウエハ処理システム101は、制御部5を備える。制御部5は、CPUと記憶部とを備えたコンピュータにより構成され、ウエハ処理システム101の各部を制御するものである。記憶部には搬送モジュール30の移動制御やウエハ処理室110の動作などを制御するためのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリカード、不揮発メモリなどの記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0027】
<ウエハWの搬送動作>
次に、上述の構成を備えるウエハ処理システム101におけるウエハWの搬送動作の一例について説明する。初めに、ロードポート141に対し、処理対象のウエハWを収容したキャリアCが載置されると、大気搬送室140内のウエハ搬送機構142によって、キャリアCからウエハWが取り出される。次いで、ウエハWは、不図示のアライメント室に搬送されて、ウエハWのアライメントが行われる。さらにウエハ搬送機構142によりウエハWがアライメント室から取り出されると、ゲートバルブ133が開かれる。
【0028】
ウエハ搬送機構142がロードロック室130内に進入すると、昇降ピン131は、ウエハWを突き上げて受け取る。しかる後、ウエハ搬送機構142がロードロック室130から退避すると、ゲートバルブ133が閉じられる。さらにロードロック室130内が大気圧雰囲気から真空雰囲気へと切り替えられる。
【0029】
ロードロック室130内が真空雰囲気となったら、ゲートバルブ132が開かれる。このとき真空搬送室160内では、ロードロック室130の接続位置の近傍にて、搬送モジュール30がロードロック室130に正対し、磁気浮上した状態で待機している。
【0030】
そして図1に示すように搬送モジュール30は、ロードロック室130内に進入し、昇降ピン131に支持されたウエハWの下方に位置する。さらに昇降ピン131を降下させると、搬送モジュール30のステージ34上にウエハWを受け渡す。
【0031】
次いでウエハWを保持した搬送モジュール30は、ロードロック室130から退出し、ウエハWの搬送先のウエハ処理室110まで、予め設定された移動経路に沿って真空搬送室160内を移動する。図1に示すように、搬送モジュール30がウエハ処理室110に正対する位置に到達したら、ゲートバルブ111を開き、搬送モジュール30をウエハ処理室110内に進入させる。しかる後、昇降ピン113を介して載置台112にウエハWを受け渡し、搬送モジュール30をウエハ処理室110から退避させる。さらにゲートバルブ111を閉じた後、ウエハWの処理を開始する。
【0032】
ウエハWの処理においては、必要に応じて載置台112に載置されたウエハWの加熱を行い、予め設定された温度に昇温する。また処理ガス供給部が設けられている場合には、ウエハ処理室110内に処理ガスを供給する。こうして、ウエハWに対する所望の処理が実行される。
【0033】
予め設定した期間、ウエハWの処理を実行したら、ウエハWの加熱を停止すると共に、処理ガスの供給を停止する。また、必要に応じてウエハ処理室110内に冷却用ガスを供給し、ウエハWの冷却を行ってもよい。しかる後、搬入時とは逆の手順でウエハWを搬送して、ウエハ処理室110からロードロック室130にウエハWを戻す。
さらに、ロードロック室130の雰囲気を常圧雰囲気に切り替えた後、大気搬送室140側のウエハ搬送機構142によりロードロック室130内のウエハWを取り出し、所定のキャリアCに戻す。
【0034】
<フィードフォワード制御>
以上に説明したウエハ処理システム101におけるウエハWの搬送動作において、搬送モジュール30は真空搬送室160、ロードロック室130やウエハ処理室110の床面部から浮上した状態で移動する。磁気浮上を利用した移動は、例えば多関節アームロボットと異なり、摩擦や姿勢の変化に伴う物理特性の変化が少ない。このため、搬送モジュール30は、理想的な剛体として扱うことが可能であり、外部から加えられる力と搬送モジュール30の運動との関係を特定しやすい。
【0035】
上述の関係を特定することができれば、搬送モジュール30の位置や姿勢を予めスケジューリングし、このスケジュールに基づいて搬送モジュール30が動作するように加える力(移動面側コイル11とモジュール側磁石33との反発力)を調節するフィードフォワード制御(以下、「FF制御」とも記載する)が可能となる。FF制御は、搬送モジュール30の位置や姿勢の検出結果に基づいて加える力を調節するフィードバック制御と比較して、遅れの少ない制御が可能となる。
そこで本例のウエハ処理システム101において、既述の制御部5は、FF制御を用いて搬送モジュール30の動作制御を実行するように構成されている。
【0036】
一方で、ウエハ処理室110や真空搬送室160には、多種の部品が配置されており、これらの部品の補修、交換やクリーニングが必要となる場合がある。また、ウエハ処理室110や真空搬送室160内に必要に応じて各種のセンサを配置して、当該センサによりその内部の状態を検出することができれば、ウエハWの処理や機器保全の改善に役立てることができる。さらには、真空搬送室160やウエハ処理室110の内部にてウエハWが破損したり、搬送モジュール30が故障したりしてしまい、破損したウエハWや搬送モジュール30を取り出す必要が生じる場合もある。
【0037】
これらの場合においては、ウエハ処理室110、真空搬送室160内の部品や搬送モジュール30を取り出し、またはこれらの内部にセンサを配置する作業が必要となる。しかしながら、当該作業を実施するためには、必要に応じてウエハ処理システム101の稼働を停止し、対象となるウエハ処理室110や真空搬送室160の内部を真空雰囲気から大気圧雰囲気に戻した後に開放作業を行う必要がある。また、ウエハ処理システム101の稼働を再開するためには、ウエハ処理室110や真空搬送室160を再度、真空雰囲気に減圧しなければならない。これらの作業に要する時間は、ウエハWの処理を行うことができないため、機会損失となってしまう。
【0038】
この点、本例のウエハ処理システム101は、真空搬送室160やウエハ処理室110内を移動することが可能な搬送モジュール30を備えている。この搬送モジュール30を利用し、例えばロードロック室130を介して部品や破損したウエハW、故障した搬送モジュール30、センサの搬入出を行うことができれば、ウエハ処理室110、真空搬送室160の圧力の切り替えや解放の作業が不要となる。
一方で、破損していないウエハW(以下、「通常のウエハW」ともいう)とは重量、形状が異なる搬送物の搬送は、FF制御を用いた搬送モジュール30の動作制御を悪化させる要因となってしまう。
【0039】
そこで本例のウエハ処理システム101は、通常のウエハWに加え、補修、交換などの対象となる部品や破損したウエハW、故障した搬送モジュール30、各種のセンサなど、複数種類の搬送物を搬送モジュール30によって搬送することを予め想定してFF制御を実行する。
ここで、ウエハ処理室110や真空搬送室160で使用される部品、破損したウエハW、故障した搬送モジュール30やセンサは、本例の「真空搬送室160またはウエハ処理室110にて使用する機器」に相当する。また正常なウエハW、及び複数種類の機器は搬送モジュール30の「搬送物」に相当する。
【0040】
そして制御部5は、これら搬送物の種類に応じて、FF制御の内容を変更することができるように構成されている。
以下、図4図8を参照し搬送モジュール30の動作制御に係る制御部5の構成、及び制御の内容について説明する。
【0041】
<制御部5の詳細構成>
図4は搬送モジュール30の動作制御に係る電気的構成を示すブロック図である。フィードバック制御を用いた搬送モジュール30の動作制御に関し、制御部5は、パラメータ記憶部503と制御スケジュール作成部502と磁力調節部501とを備えている。
パラメータ記憶部503は、搬送物を保持した状態の搬送モジュール30に加える力と、当該搬送モジュール30の運動との関係を表現するためのモデルパラメータを記憶している。
【0042】
このモデルパラメータは、通常のウエハWを含む複数種類の搬送物に各々対応付けて記憶されている。通常のウエハW以外の搬送物としては、ウエハ処理室110や真空搬送室160内で用いられる部品、破損したウエハW、故障した搬送モジュール30、各種のセンサを例示することができる。部品の具体例としては、プラズマ化した処理ガスを用いたウエハWの処理が行われるウエハ処理室110において、載置台112に配置されるフォーカスリング114がある。また、センサの例としては、ウエハWとほぼ同じ直径の円板にカメラが搭載されたカメラ付きウエハが挙げられる。
【0043】
<モデルパラメータ>
本例のウエハ処理システム101において、モデルパラメータは、搬送物と搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデルに基づいて決定されている。以下、図5A図5Bも参照しながら、制御用モデル及びモデルパラメータの具体例について説明する。
【0044】
図5Aは、搬送物として、通常のウエハWを搬送している搬送モジュール30の外観斜視図である。搬送モジュール30の質量をm、ウエハWの質量をmとし、図5A中に示した矢印の方向に力Fを加える。この結果、ウエハWを搬送する搬送モジュール30が直線運動するとき、力Fと加速度aとの関係を表現する理論式は下記(1)式で表される。
=(m+m)a …(1)
【0045】
ここでウエハWと搬送モジュール30とを一体の制御用モデル3Aと見て、これらの合計の質量をM(=m+m)とすると(1)式は、下記(1)’式に書き換えられる。
=Ma …(1)’
(1)’式は、ウエハWと搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデル3Aに加える力と、制御用モデル3Aの直線運動との関係を表現している。このとき、制御用モデル3Aの質量Mは、直線運動を行うために加えられる力と加速度との関係を表現するためのモデルパラメータに相当する。
【0046】
次に図5A中に破線で示した回転中心Oの周りを時計回りに回転運動するように制御用モデルに回転力Nを加える。ここで、ウエハWは、概略正方形の平面形状を有する搬送モジュール30の中心位置とウエハWの中心位置とが重なるように搬送モジュール30に保持されている。本例の回転中心Oは、ウエハW及び搬送モジュール30の中心位置を通るように設定されている。また、ウエハWに形成されているノッチやオリエンテーションフラットの影響や、図2を用いて説明した搬送モジュール30のスリット341の影響を無視できる場合、回転中心Oは、制御用モデル3Aの重心Gを通る。
【0047】
図5Aに記載の制御用モデル3Aが回転運動するとき、回転力Nと角加速度αとの関係を表現する理論式は下記(2)式で表される。
=Iα …(2)
但し、Iは制御用モデル3Aの質量Mや形状、重心Gの位置、回転中心Oの位置に応じて決定される、制御用モデル3Aの慣性モーメントである。
【0048】
(2)式は、制御用モデル3Aに加える回転力と、制御用モデル3Aの回転運動との関係を表現している。このとき、慣性モーメントIは、回転運動を行うために加えられる回転力と角加速度との関係を表現するためのモデルパラメータに相当する。なお、回転中心Oは制御用モデル3Aの外側にあってもよい。この場合には、制御用モデル3Aは、回転中心Oの周囲を回転する円運動を行う。
【0049】
次いで図5Bは、搬送物として、L字状の部材である搬送物4を搬送している搬送モジュール30の外観斜視図である。搬送物4の質量をmとし、図5A中に示した矢印の方向に力Fを加える。この結果、搬送物4を搬送する搬送モジュール30が直線運動するとき、力Fと加速度aとの関係は下記(3)式で表される。
=(m+m)a …(3)
【0050】
ここで搬送物4と搬送モジュール30とを一体と見て、これらの合計の質量をM(=m+m)とすると(3)式は、下記(3)’式に書き換えられる。
=Ma …(3)’
(3)’式は、搬送物4と搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデル3Bに加える力と、制御用モデル3Bの直線運動との関係を表現している。このとき、制御用モデル3Bの質量Mは、直線運動を行うために加えられる力と加速度との関係を表現するためのモデルパラメータに相当する。
【0051】
次に図5B中に破線で示した回転中心Oの周りを時計回りに回転運動するように制御用モデル3Bに回転力Nを加える。ここで、搬送物4は、搬送モジュール30上の予め設定された位置に、予め設定された姿勢で保持されている。また回転中心Oは、搬送モジュール30の中心位置を通るように設定されている。この例においては、回転中心Oは、制御用モデル3Bの重心Gからずれた位置を通っている。
【0052】
図5Bに記載の制御用モデルが回転運動するとき、回転力Nと角加速度αとの関係を表現する理論式は下記(4)式で表される。
=Iα …(4)
但し、Iは制御用モデル3Bの質量Mや形状、重心Gの位置、回転中心Oの位置に応じて決定される、制御用モデル3Bの慣性モーメントである。
(4)式は、制御用モデル3Bに加える回転力と、制御用モデル3Bの回転運動との関係を表現している。このとき、慣性モーメントIは、回転運動を行うために加えられる力回転と角加速度との関係を表現するためのモデルパラメータに相当する。なお、回転中心Oは制御用モデル3Aの外側にあってもよい点は、図5Aの制御用モデル3Aと同様である。
【0053】
以上に例示したように、モデルパラメータは、搬送物と搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデル3A、3Bに応じて決定され、複数種類の搬送物に各々対応付けて設定されている。また、モデルパラメータは、直線運動や回転運動など、運動の種類に応じて設定されている。なお、搬送物を搬送していない搬送モジュール30についても、この状態のモデルパラメータを設定しておく。
【0054】
<制御スケジュール作成部502>
制御スケジュール作成部502は、予め設定された「動作スケジュール」に基づいて、搬送物を保持した搬送モジュール30を動作させる場合に加えるべき作動力を、時間軸に沿って表した「制御スケジュール」を出力する機能を有する。
【0055】
ウエハ処理システム101においては、キャリアCをロードポート141に載置すると、キャリアC内に収容された各々のウエハWについての搬送スケジュールが作成される。搬送スケジュールには、キャリアCから取り出した各ウエハWを、いつ、どのウエハ処理室110に搬送し、その後、処理が完了した前記ウエハWをいつ、ウエハ処理室110から搬出してキャリアCまで搬送するのかを時間軸に沿って規定する情報が設定される。
【0056】
搬送スケジュールは、例えばキャリアC内の各ウエハWに対して実施される処理の内容(処理変数:ウエハWの加熱温度やウエハ処理室110内の圧力、処理ガスの供給時間や処理時間など)を規定した処理レシピに基づいて作成される。処理変数は、インターフェイス部54を介して設定される。インターフェイス部54は、例えばオペレータが操作するタッチパネルなどにより構成される、
【0057】
搬送スケジュールが作成されると、例えば図1の真空搬送室160内に複数、配置されている搬送モジュール30の動作(運動)を規定した動作スケジュールが作成される。動作スケジュールには、各搬送モジュール30がいつ、どこでウエハWを受け取り、受け取ったウエハWをいつまでにどこへ搬送するかを時間軸に沿って規定する情報や、搬送モジュール30の移動経路が設定される
【0058】
正常なウエハW以外の搬送物についても、各搬送物をいつ、どこで受け取り、いつまでにどこへ搬送するのかを時間軸に沿って規定する情報が設定される。
以上に説明した搬送スケジュールや動作スケジュールは、例えば制御部5にて作成される。また、外部で作成された動作スケジュールを通信により取得する構成としてもよい。
【0059】
制御スケジュール作成部502は、搬送モジュール30によって搬送される搬送物を特定するための特定情報と、上述の動作スケジュールとを取得する。特定情報は、例えばインターフェイス部54を介して設定される。そして制御スケジュール作成部502は、パラメータ記憶部503に記憶されている、特定情報に対応する搬送物のモデルパラメータを読み出す。しかる後、当該パラメータを用いて、特定情報に対応する搬送物を保持した搬送モジュール30を、動作スケジュールに基づいて動作させる場合に加えるべき作動力を求め、時間軸に沿って作動力を表した制御スケジュールとして出力する。なお、特定情報には、「搬送物を搬送していない」状態も特定することができるようになっている。
【0060】
簡略化した例を挙げると、図6には、動作スケジュールに基づいて実施する搬送モジュール30の動作の例を示している。この搬送モジュール30は、ロードロック室130を出た点P1から、真空搬送室160の奥手側(搬送モジュール30に設定された副座標のX’方向)へ直線移動する。次いで、搬送モジュール30は、点P2にて移動方向を変え、点P3まで手前側から見て左手(前記副座標のY’方向)へ直線移動する。しかる後、搬送モジュール30は、右回りに90度回転するように設定されている。なお、この前記副座標は左回りのθ方向を正の回転方向に設定されている。
【0061】
図6に例示した動作を所定の期間(例えば図7に示す時刻T0~T9までの期間)中に実施するため、動作スケジュールには、時間軸に沿った搬送モジュール30の直線移動(直線運動)の移動速度や回転速度が設定されている。ここで図7(a)、(c)は搬送モジュール30のX’方向、Y’方向への移動速度(VX’、VY’)を示し、図7(e)は、θ方向への回転速度(ωθ)を示している。
【0062】
制御スケジュール作成部502は、動作スケジュールと共に取得した、搬送物を示す特定情報に基づき、パラメータ記憶部503に記憶されているモデルパラメータを読み出す。特定情報により特定される搬送物が、図5Aに示すウエハWである場合は、点P1~P2、点P2~P3の直線移動、及び点P3における回転運動について、モデルパラメータM、Iを読み出す。
【0063】
そして、モデルパラメータMを用い、ウエハWと搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデル3A(ウエハWを保持した搬送モジュール30)に加えるべき作動力を求める。即ち、点P1~P2の直線移動(図7の時刻T~Tの期間)については、図7(a)に示すX’方向への搬送モジュール30の各時刻の移動速度VX’から、同方向に対する各時刻の加速度aX’が得られる(図7(b))。そして、各時刻における加速度aX’と、モデルパラメータMとを既述の(1)’式に代入すると、搬送モジュール30に加えるべき作動力を時間軸に沿って表した制御スケジュールが得られる。
【0064】
ここで、図7(b)に記載の各時刻の加速度aX’は、図7(a)の動作スケジュールを取得した制御スケジュール作成部502にて作成してもよい。または、図7(b)の各時刻の加速度aX’を、「搬送モジュール30の運動を規定した動作スケジュール」として外部から取得する構成としてもよい(後述の図7(d)、(f)において同じ)。
【0065】
そして点P2~P3の経路の直線移動(図7の時刻T~Tの期間)、及び点P3における回転(図7の時刻T~Tの期間))においても同様に、図7(c)、(e)のY’方向、θ方向への各速度の変化から、同方向に対する各時刻の加速度を得る(図7(d)、(f))。
【0066】
そして、点P2~P3の経路の直線移動については、図7(d)の各時刻の加速度aY’、及びモデルパラメータMを(1)’式に代入して制御スケジュールが得られる。また、P3における回転については、図7(f)の各時刻の加速度α、及びモデルパラメータIを(2)式に代入して制御スケジュールが得られる。
【0067】
一方、特定情報により特定される搬送物が、図5Bに示す搬送物4である場合は、パラメータ記憶部503からモデルパラメータM、Iを読み出す。そして、既述の(3)’式及び(4)式を用い、制御用モデル3Aの場合と同様の手法により制御用モデル3B(搬送物4を保持した搬送モジュール30)についての制御スケジュールを得る。
【0068】
<磁力調節部501>
制御スケジュール作成部502は、作成した制御スケジュールを磁力調節部501へ出力する。磁力調節部501は、図6の搬送モジュール30(但し搬送物を搬送している)に対し、制御スケジュールに基づいた作動力が加わるように移動面側コイル11の磁力を調節する制御を行う。即ち、図4に示す電力供給部53に対し、電力を供給する移動面側コイル11の選択、選択された移動面側コイル11対する供給電力の大きさの調節するための制御信号を出力する。
【0069】
電力供給部53は、磁力調節部501から取得した制御信号に基づき、電力を供給する移動面側コイル11の選択、選択された移動面側コイル11対する供給電力の大きさの調節を実行する。この結果、図7(a)、(c)、(e)に示す動作スケジュールに基づき、搬送モジュール30が、図6に示す移動経路の移動及び姿勢変更を実行するFF制御が行われる。
【0070】
ここで、搬送モジュール30の動作は、図6に例示した単純な動作だけでなく、曲線運動などを伴う複雑な動作であってもよい。図7の各図に示したX’方向、Y’方向の移動動作、及びθ方向の回転動作や円運動動作を組み合わせることにより、さらに複雑な動作についての制御スケジュールを作成することができる。また、搬送モジュール30が、ウエハ処理室110やロードロック室130などの真空搬送室160以外の領域に進入するように構成されている場合には、動作スケジュールや制御スケジュールは、これらの領域における動作を含むものが作成される。
【0071】
以上に説明したように、本例のウエハ処理システム101は、搬送物に応じて異なる制御用モデルを用いて設定されたモデルパラメータと、動作スケジュールとに基づいて制御スケジュールを作成する。この制御スケジュールに基づき、搬送モジュール30のFF制御を行うことにより、異なる種類の搬送物を搬送する場合であっても、遅れの少ない制御を実現できる。
【0072】
<フィードバック補正部504>
一方で、搬送モジュール30の動作制御を行うにあたっては、事前に予測できない、様々な外乱を受けるおそれがある。例えば、ウエハ処理システム101の周囲を人や重量物が移動したり、地震が発生したりすることに伴う振動の発生は、動作スケジュールと搬送モジュール30の実際の動作との間にずれを生じさせる要因となる。
【0073】
また、図3に示すようにタイル10に多数配置されている移動面側コイル11は、公差の範囲内での移動面側コイル11の巻回状態が互いに相違している場合がある。また、タイル10内における各移動面側コイル11の配置位置や、搬送モジュール30内における各モジュール側磁石33についても、公差の範囲内でずれて配置されている場合もある。これらの機器的な要因により、仮に同じ大きさの電力を供給しても、搬送モジュール30に加わる作動力が、タイル10の位置に応じて変化する場合がある。
【0074】
さらに、破損したウエハWのように、予め形状を一意に特定することができない搬送物は、「ウエハWの一部が欠けた場合」、「ウエハWが湾曲した場合」など、大まかな想定の下で制御用モデルを設定することになる。従って、この制御用モデルに対応するモデルパラメータが、実際の搬送モジュール30の運動を正確に表現しきれていない場合もある。
【0075】
このように、外乱を受けた場合や、位置に応じて作動力が変化する場合、高精度のモデルパラメータが得られない場合に、FF制御のみを行うと、正確な位置に所定の期間内に搬送モジュール30が到達できないおそれも生じる。そこで図4に記載の制御部5は、既述のFF制御を補完して、より正確な動作制御をするためのフィードバック(FB)補正部504を有している。
【0076】
FB補正部504にて利用する搬送モジュール30の位置及び姿勢の検出のため、真空搬送室160にはセンサ部51が設けられている。位置姿勢検出部52は、このセンサ部51から取得した情報に基づき、搬送モジュール30の位置及び姿勢を特定する。
【0077】
センサ部51としては、タイル10内の予め設定された位置に設けられた複数のホールセンサや、レーザー変位計、搬送モジュール30を撮像するカメラを例示することができる。図4には、センサ部51として、タイル10に複数のホールセンサを設けた例を記載してある。
【0078】
FB補正部504は、動作スケジュールに規定されている搬送モジュール30の位置または姿勢と、センサ部51により検出された、搬送モジュール30の実際の位置または姿勢とを比較する。そして、これら位置または姿勢のずれ量が小さくなるように、磁力調節部501による移動面側コイル11の磁力の調節の補正を行う。
【0079】
即ちFB補正部504は、電力を供給する移動面側コイル11の選択のタイミングや、選択された移動面側コイル11対する供給電力の大きさを補正するための補正信号を磁力調節部501に出力する。磁力調節部501は、制御スケジュールに基づいて得られた制御信号に対し、FB補正部504より取得した補正量を加算して電力供給部53へ出力する。
【0080】
<パラメータ更新部505>
FB補正部504を用い、FF制御を補正することにより、既述の機器要因やモデルパラメータ要因で生じる制御精度の低下を抑えることができる。一方で、FB補正部504から取得した補正量の割合が大きい状態が継続すると、遅れの少ない制御が可能であるという、FF制御の本来の特性を発揮することが困難になってしまう。
【0081】
そこで図4に記載のように制御部5は、モデルパラメータを更新するパラメータ更新部505を備えている。パラメータ更新部505は、FB補正部504の補正量が、予め設定したしきい値を超える状態が、予め設定された期間継続した場合に、この補正量が小さくなるようにモデルパラメータを更新する機能を備える。
【0082】
FB補正部504を利用する例において、搬送モジュール30を動作させる作動力とFF制御の成分及びFBの補正量の成分との関係は、下記(5)式で表すことができる。
F=FFF+FFB …(5)
ここで、Fは、搬送モジュール30に加えられる作動力、FFFは、制御スケジュール作成部502によるFF制御の成分、FFBはFB補正部504の補正量の成分を表している。FFF、FFBの大きさは、制御スケジュール作成部502から出力される制御スケジュールが示す作動力や、FB補正部504から出力される補正量により把握することができる。
【0083】
例えばFFFの大きさに対するFFBの大きさの割合(|FFB|/|FFF|)が予め設定したしきい値を上回った状態が続く場合には、パラメータ更新部505は、パラメータ記憶部503に記憶されているモデルパラメータの更新を行う。しきい値の例としては、FFBの大きさがFFFの大きさの10%を超えた場合を例示できる。なおこのしきい値は、FFFの大きさに対する割合にて規定する場合に限定されるものではない。例えばFFBの絶対値に対してしきい値を設定してもよい。
また、搬送モジュール30に加えられる作動力が既述の(2)、(4)式に記載の回転力Nである場合にも、上述の例と同様の考え方でFBの補正量の影響の度合いを把握することができる。
【0084】
一方、FB補正部504の補正量が、しきい値を超える状態の発生が短時間に過ぎない場合にモデルパラメータの更新を実施すると、更新が頻繁に実施されてしまい、搬送モジュール30の動作制御が不安定になってしまうおそれがある。そこで、パラメータ更新部505は、補正量が、予め設定された期間を超える状態が予め設定された期間継続する場合に、モデルパラメータの更新を実施する。
【0085】
モデルパラメータの更新の要否を判断する期間の例としては、搬送物の受け取り位置から受け渡し位置までの搬送モジュール30の移動経路全体の動作制御にて、FFBの大きさがしきい値を超えている状態が継続する場合を例示できる。また、この状態が複数回、繰り返される場合にモデルパラメータの更新を実施するようにしてもよい。
【0086】
モデルパラメータの更新の手法としては、補正された後の作動力から逆算する場合を例示できる。図5A図5Bの例で説明すると、搬送モジュール30に対して実際に加えられた作動力((5)式のF)と、(1)’式や(3)’式とに基づき、制御用モデル3A、3Bの新たなモデルパラメータである質量M、Mを逆算する。逆算したモデルパラメータM、Mが経時的に変動している場合は、その平均値を新たなモデルパラメータとしてもよい。
搬送モジュール30を回転運動させる場合のモデルパラメータ(慣性モーメントI、I)についても、同様の手法により新たなモデルパラメータを求めることができる。
【0087】
なお、図4に示す制御部5において、FB補正部504やパラメータ更新部505を設けることは必須の要件ではない。例えば、搬送モジュール30による動作制御に要求される精度に応じて、FB補正部504による補正やモデルパラメータの更新を省略してもよい。
【0088】
<制御部5の作用>
以上に説明した構成を備える制御部5を用い、ある搬送モジュール30についての動作制御を行う作用の一例について、図8のフローチャートを参照しながら説明する。
初めに、ウエハ処理システム101の稼働を開始する前の事前準備として(スタート)、搬送モジュール30の内容に応じ、各搬送物のモデルパラメータを決定し、パラメータ記憶部503に記憶させる(ステップS101、パラメータを決定する工程)。
【0089】
次いで、ウエハ処理システム101が稼働し、搬送モジュール30により、ウエハWやその他の搬送物を搬送するタイミングとなったら、搬送物の特定情報、及び動作スケジュールを取得する(ステップS102)。しかる後、特定情報に対応する搬送物(搬送物を搬送していない状態も含む)のモデルパラメータを読み出し、動作スケジュールとモデルパラメータとを用いて制御スケジュールを作成、出力する(ステップS103、制御スケジュールを出力する工程)。
【0090】
磁力調節部501は、作成した制御スケジュールに基づき、電力供給部53による給電制御を実行し、搬送モジュール30による搬送物の搬送動作を実行する(ステップS104、フィードフォワード制御を実施する工程)。このとき、制御部5がFB補正部504を備えている場合には、センサ部51により搬送モジュール30の位置、姿勢を検出する(搬送モジュール30の位置または姿勢を検出する工程)。そして、動作スケジュールに規定された搬送モジュール30の位置や姿勢に対する、検出結果のずれ量が小さくなるように補正を行う(フィードバック補正を実施する工程)。そして、搬送動作が終了していない場合には、これらの動作を継続する(ステップS105:NO)。
【0091】
搬送動作が終了したら(ステップS105:YES)、FB補正部504の補正量がしきい値より大きく、且つ、その状態が予め設定された期間を超えるため、モデルパラメータを更新する必要があるか否かを確認する(ステップS106)。更新が不要な場合は、動作を終え、次の搬送物を搬送するタイミングを待つ(ステップS106;NO→ステップS102)。
【0092】
モデルパラメータの更新が必要な場合は(ステップS106;YES)、既述の手法により新たなモデルパラメータを求め、得られた結果をパラメータ記憶部503に入力してモデルパラメータの更新を行った後(ステップS107、モデルパラメータを更新する工程)、次の搬送物を搬送するタイミングを待つ(ステップS102へ)。
【0093】
<効果>
本開示のウエハ処理システム101によれば、以下の効果がある。搬送物と搬送モジュール30とを一体に表現した制御用モデルに基づき、当該制御用モデルに加える作動力と運動との関係を表現するためのモデルパラメータが、搬送物に応じて複数種類、準備されている。このモデルパラメータを切り替えて用い、搬送モジュール30を動作させるための作動力を時間軸に沿って規定した制御スケジュールを作成することにより、ウエハW以外の搬送物の搬送を行う場合にも、正確な動作制御(FF制御)を行うことができる。
【0094】
<ウエハ処理システム101a>
図9図11は、他の実施形態に係る搬送モジュール30aを用いて搬送物の搬送を行うウエハ処理システム101aの構成例である。なお、以下に説明する図9図13において、図1図6を用いて説明したウエハ処理システム101、搬送モジュール30と共通の構成には、これらの図に付したものと共通の符号を付してある。
【0095】
図9に示すウエハ処理システム101aは、アーム部32を備えた搬送モジュール30aを用いて搬送物の搬送を行う。この点、搬送モジュール30の本体部31の上面が、搬送物を保持するステージ34となっている第1の実施の形態に係る搬送モジュール30と相違する。搬送モジュール30aにおいて、平面視矩形状に形成された本体部31の構成は、第1の実施の形態に係る搬送モジュール30とほぼ同様である。即ち図3に示す例と同様に、本体部31の内部には複数のモジュール側磁石33が設けられている。但し、本例の搬送モジュール30aの本体部31には、スリット341は形成されていない。
【0096】
図10図11に示すように、本体部31には、ウエハWを水平に保持するアーム部32が設けられている。アーム部32は、本体部31側の基端部から、水平方向に延在するように設けられている。アーム部32の先端部には、3本の昇降ピン131、112が設けられた領域を左右から囲むように配置可能なフォークが設けられている。フォークは、搬送モジュール30aにおける保持部に相当する。
【0097】
搬送モジュール30aは、本体部31を真空搬送室160内に位置させたまま、ウエハ処理室110やロードロック室130内にアーム部32を挿入してウエハWの受け渡しを行う。従って、アーム部32の長さLは、当該アーム部32に保持されたウエハWを、昇降ピン113、131の上方位置に進入させることが可能な長さに構成されている。
【0098】
一方、図9に示す例において、平面視、矩形状である真空搬送室160の短辺方向の長さは、各々、ウエハWを保持した2台の搬送モジュール30aが、左右に並んだ状態ですれ違うことができる程度の幅となっている。またこの例の真空搬送室160の短辺方向の長さは、搬送モジュール30aがウエハWを保持したときの本体部31からウエハWの先端までの長さ(ウエハWを保持した状態の搬送モジュール30aの全長)よりも短い。
【0099】
上述の構成の搬送モジュール30aを用い、短辺方向の長さが搬送モジュール30aの全長よりも短い真空搬送室160内でウエハWの搬送を行う場合、ロードロック室130にてウエハWを受け取った搬送モジュール30aは、後退動作を行う。ウエハ処理室110の側方位置まで搬送モジュール30aを後退させる場合、本体部31は、ウエハ処理室110のゲートバルブ111の配置位置を通り過ぎて、奥手側まで移動する。この動作により、ウエハWを保持したアーム部32の先端側が、ゲートバルブ111の側方に配置される。
【0100】
こうして、アーム部32の先端側がゲートバルブ111の側方に到達したら、後退動作に加えて、アーム部32の先端側をゲートバルブ111に向けるように、回動する。続いてゲートバルブ111を開き、ウエハWをウエハ処理室110内に挿入するように回動しながら、搬送モジュール30aの移動方向を前進に切り替える。
【0101】
既述のように、真空搬送室160の短辺方向の長さは、ウエハWを保持した搬送モジュール30aの全長よりも短い。この場合であっても、回転動作を組み合わせながら搬送モジュール30aを前進/後退させる切り返し動作により、真空搬送室160内にてウエハ処理室110に対するウエハWの搬入を実施することができる。
【0102】
以上に例示した、搬送モジュール30aの動作制御においても、動作スケジュールとモデルパラメータとを用いて制御スケジュールを作成する制御部5の作用に変わりはない。一方で、アーム部32を用いて搬送物の搬送を行う搬送モジュール30aにおいては、振動の影響が大きくなるおそれがある。大きな振動が発生した状態のまま搬送物を搬送すると、アーム部32上の保持位置のずれや落下、搬送物と他の機器との接触が生じてしまうおそれがある。
【0103】
そこで本例のウエハ処理システム101aは、パラメータ記憶部503に、保持部であるアーム部32を板バネと見たとき、アーム部32に発生する振動を表現するためのモデルパラメータとして、搬送物の質量m、搬送物を保持した搬送モジュール30aの慣性モーメントI’、ばね定数k、減衰係数cを記憶している。
【0104】
アーム部32の固有振動数を表現する理論式により、アーム部32の振動fは、これらのモデルパラメータの関数f(m,I’,k,c)として表現できたとする。この振動を制振するため、図11中に記載の搬送モジュール30aをX’方向に移動させるとき、前記振動fと周波数が揃い、位相が反転した軌道を描くように搬送モジュール30を上下方向に移動させて、制振制御を行ってもよい(図11中に示す破線の矢印参照)。また、フィードバックループにノッチフィルターを設け、アーム部32の固有振動数に対応する振動fを低減してもよい。
【0105】
また、理論式による振動fの特定が困難な場合であっても、機械学習により、モデルパラメータを決定してもよい。例えば下記(6)式により振動fを表現し、制振制御を行わずに搬送物を搬送する動作を複数回繰り返し、例えばニューラルネットワークを利用した機械学習により、モデルパラメータA、ω、θを決定してもよい。
f=Asin(ωt+θ) …(6)
但し、Aは振幅、ωは角速度、θは初期位相である。
【0106】
また、ニューラルネットワークなどの機械学習は、モデルパラメータの決定の際だけでなく、パラメータ更新部505によるモデルパラメータの更新の際にも実施してもよい。例えば、本体部31にセンサ部である振動センサを設け、この振動センサにて検出される振動の振幅が小さくなるように制振運動の周波数や位相の補正を行っているとする。
【0107】
このとき、FB補正部504の補正量が予め設定されたしきい値を超える状態が、予め設定された期間継続した場合には、例えば(6)式中のモデルパラメータA、ω、θを更新してもよい。このとき、磁力調節部501から出力される、補正済みの制御信号に基づき、制振制御のための搬送モジュール30の上下方向の移動動作を把握することができる。この上下方向の移動動作を機械学習により学習し、(6)式を求め、新たなモデルパラメータを決定してもよい。
【0108】
以上の説明では、制御用モデルのモデルパラメータの決定、更新について、制御用モデルの運動との関係を表す理論式に基づいて決定する場合、機械学習により決定する場合について例示した。
これらの他、モデルパラメータを含み、搬送モジュール30、30aのFF制御、FB補正の内容を表す状態方程式を定式化し、さらにこの制御系の内部状態を推定するオブザーバを定式化してもよい。オブザーバによる制御系の内部状態の推定結果に基づき、モデルパラメータの決定、更新を行うことができる。
【0109】
図12図13は、複数の搬送モジュール30が協働して搬送物を搬送する場合の例を示している。
初めに図12は、搬送物が故障した搬送モジュール30bであり、他の2台の搬送モジュール30bにより、当該故障した搬送モジュール30bを搬送している様子を模式的に示している。同図中、故障した搬送モジュール30bには斜線のハッチを付してある。
【0110】
この例において、各搬送モジュール30bの側面には突起部35が設けられている。突起部35が設けられている面とは反対側の側面には、前記突起部35を挿入することが可能な凹部36が設けられている。そして図12に示すように、1の搬送モジュール30bの突起部35を他の搬送モジュール30bの凹部36に挿入することにより、複数の搬送モジュール30bを連結することができる。
【0111】
上述のように、複数の搬送モジュール30bを連結可能に構成することで、例えば1つの搬送モジュール30bが故障して移動不能になった場合に、他の搬送モジュール30bにより故障した搬送モジュール30bを挟み込むように連結することができる。故障した搬送モジュール30bは、他の搬送モジュール30により保持されて搬送されることになる。
【0112】
以上に例示した搬送モジュール30bについても、故障した搬送モジュール30bを搬送物とした制御用モデルに基づき、予めモデルパラメータを決定しておく。そして、このモデルパラメータと動作スケジュールとを用いて制御スケジュールを作成し、動作制御を行う。この作用については、図1図11を用いて説明した各例と同様である。
【0113】
一方、故障した搬送モジュール30bを協働して搬送する2台の搬送モジュール30bについて、各々、独立した動作制御を行うと、動作制御のずれが生じる場合がある。動作制御のずれが発生すると、2台の搬送モジュール30bの間隔が広がって、故障した搬送モジュール30bが落下してしまうおそれもある。そこで、本例の搬送モジュール30aは、一方側の搬送モジュール30bをマスター機30Aとして、このマスター機30Aに対して既述のFF制御を実行する。一方、残る搬送モジュール30bについては、スレーブ機30Bとし、スレーブ機30Bに対しては、マスター機30Aに追従して動作する作動力が加わるように、移動面側コイル11の磁力を調節する。このように、マスター-スレーブ制御を行うことにより、制御のずれに伴う搬送物の落下を防止することができる。
【0114】
また複数の搬送モジュール30は、協働して真空搬送室160内、あるいはウエハ処理室110内に設置される部品を搬送物として搬送してもよい。さらに複数の搬送モジュール30は、協働してロードロック室130内の部品を搬送できるように構成してもよい。
図13には、3台の搬送モジュール30が協働して、ウエハ処理室110の載置台112に設けられるフォーカスリング114を搬送している様子を示している。
【0115】
3台以上の搬送モジュール30が協働する場合においても、1台のマスター機30Aと他のスレーブ機30Bとを設定する。そしてマスター機30Aについてはモデルパラメータと動作スケジュールとを用いて作成した制御スケジュールに基づく動作制御を実行する。残るスレーブ機30Bについては、マスター機30Aに追従させることにより、搬送物の落下を防止しつつ、正確な動作制御を行うことができる。
【0116】
ここで、搬送モジュール30による搬送物の搬送が行われる装置の構成例は、既述の真空搬送室160の例に限定されない。例えば、大気圧雰囲気下にてウエハWの搬送を行い、大気圧雰囲気下でウエハWの処理を行う場合にも、本例の制御手法は適用することができる。大気圧雰囲気下で実施される処理としては、例えばウエハWに露光用のレジスト液や現像液を塗布する塗布、現像処理や、洗浄液で基板を洗浄する洗浄処理を例示することができる。
【0117】
今回開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0118】
W ウエハ
101、101a ウエハ処理システム
110 ウエハ処理室
160 真空搬送室
30、30a、30b
搬送モジュール
33 モジュール側磁石
5 制御部
501 磁力調節部
502 制御スケジュール作成部
503 パラメータ記憶部
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13