(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023079901
(43)【公開日】2023-06-08
(54)【発明の名称】アルデヒドの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20230601BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20230601BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230601BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193597
(22)【出願日】2021-11-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】古城 篤志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 暢之
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC45
4H006BA24
4H006BA48
4H006BB11
4H006BC10
4H006BE20
4H006BE40
4H039CA62
4H039CF10
(57)【要約】
【課題】触媒の存在下に原料オレフィンをH2及びCOとヒドロホルミル化反応させてアルデヒドを製造する方法において、大気圧のような低圧条件下でアルデヒドを製造することが可能であり、且つ、ヒドロホルミル化反応の反応速度を向上することが可能な、アルデヒドの製造方法を提供すること。
【解決手段】触媒の存在下で、原料オレフィンと、水素及び一酸化炭素を含むガスとを、ヒドロホルミル化反応させることを含む、アルデヒドの製造方法であって、
前記ガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態で前記原料オレフィンと反応させることを含む、アルデヒドの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下で、原料オレフィンと、水素及び一酸化炭素を含むガスとを、ヒドロホルミル化反応させることを含む、アルデヒドの製造方法であって、
前記ガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態で前記原料オレフィンと反応させることを含む、アルデヒドの製造方法。
【請求項2】
前記ファインバブルが、少なくともマイクロバブル又はウルトラファインバブルのいずれかを含む、請求項1に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項3】
前記ヒドロホルミル化反応が、有機溶媒の存在下で行われる、請求項1又は2に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、芳香族炭化水素を含む、請求項3に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、ウベローデ粘度計を用いて測定した25℃における粘度が0.68cp以上である、請求項3又は4に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項6】
前記芳香族炭化水素が、側鎖にアルキル基を有する芳香族炭化水素を含む、請求項4又は5に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項7】
前記側鎖にアルキル基を有する芳香族化合物が、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、及びキユメンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項8】
前記ヒドロホルミル化反応が、大気圧下で行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項9】
前記触媒が、遷移金属化合物を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項10】
前記触媒が、長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物及び有機リン系配位子化合物を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項11】
前記第8~10族遷移金属化合物が、1価以上3価以下のロジウム化合物を含む、請求項10に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項12】
前記ロジウム化合物が、酢酸ロジウムを含む、請求項11に記載のアルデヒドの製造方法。
【請求項13】
前記触媒が、有機リン系配位子化合物を配位子とするロジウム錯体触媒を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のアルデヒドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機リン系化合物を配位子とする、長周期型周期表第8~10族遷移金属由来の金属錯体触媒の存在下に、原料オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを製造するヒドロホルミル化反応が広く知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このヒドロホルミル化反応は「オキソ反応」とも称され、反応に使用される水素(H2)と一酸化炭素(CO)の混合ガスは「オキソガス」と呼称されている。
【0004】
前記金属錯体触媒としては、例えば、ロジウム錯体触媒が知られており、例えば、前記遷移金属源として、酢酸ロジウム等のロジウム系化合物を用い、前記有機リン系化合物として、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(以下、「DBPO」と略記する場合がある。)、シクロジフェニルホスフィンなどを用いる技術(特許文献2、3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-188413号公報
【特許文献2】特表2017-521402号公報
【特許文献3】国際公開第2017/010618号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2及び3に開示されている技術では、ロジウム系化合物(酢酸ロジウム)のカルボニル化反応を高圧条件下で行うため、圧力制御ための製造設備やユーテリテイーによるコストアップが課題であった。すなわち、大気圧のような低圧条件下でアルデヒドを製造する技術が求められていた。
【0007】
また、ロジウムは高価な金属であることから、基質である原料オレフィンに対する触媒使用量を低減することが課題であった。すなわち、反応速度を向上することで、従来よりも少ない触媒量で、アルデヒドを製造することが可能な技術が求められていた。
【0008】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の課題は、触媒の存在下に原料オレフィンをH2及びCOとヒドロホルミル化反応させてアルデヒドを製造する方法において、大気圧のような低圧条件下でアルデヒドを製造することが可能であり、且つ、ヒドロホルミル化反応の反応速度を向上することが可能な、アルデヒドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は下記<1>~<13>に関するものである。
<1>触媒の存在下で、原料オレフィンと、水素及び一酸化炭素を含むガスとを、ヒドロホルミル化反応させることを含む、アルデヒドの製造方法であって、
前記ガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態で前記原料オレフィンと反応させることを含む、アルデヒドの製造方法。
<2>前記ファインバブルが、少なくともマイクロバブル又はウルトラファインバブルのいずれかを含む、<1>に記載のアルデヒドの製造方法。
<3>前記ヒドロホルミル化反応が、有機溶媒の存在下で行われる、<1>又は<2>に記載のアルデヒドの製造方法。
<4>前記有機溶媒が、芳香族炭化水素を含む、<3>に記載のアルデヒドの製造方法。
<5>前記有機溶媒が、ウベローデ粘度計を用いて測定した25℃における粘度が0.68cp以上である、<3>又は<4>に記載のアルデヒドの製造方法。
<6>前記芳香族炭化水素が、側鎖にアルキル基を有する芳香族炭化水素を含む、<4>又は<5>に記載のアルデヒドの製造方法。
<7>前記側鎖にアルキル基を有する芳香族化合物が、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、及びキユメンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、<6に記載のアルデヒドの製造方法。
<8>前記ヒドロホルミル化反応が、大気圧下で行われる、<1>~<7>のいずれか一つに記載のアルデヒドの製造方法。
<9>前記触媒が、遷移金属化合物を含む、<1>~<8>のいずれか一つに記載のアルデヒドの製造方法。
<10>前記触媒が、長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物及び有機リン系配位子化合物を含む、<1>~<9>のいずれか一つに記載のアルデヒドの製造方法。
<11>前記第8~10族遷移金属化合物が、1価以上3価以下のロジウム化合物を含む、<10>に記載のアルデヒドの製造方法。
<12>前記ロジウム化合物が、酢酸ロジウムを含む、<11>に記載のアルデヒドの製造方法。
<13>前記触媒が、有機リン系配位子化合物を配位子とするロジウム錯体触媒を含む、<1>~<12>のいずれか一つに記載のアルデヒドの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルデヒドの製造方法によれば、低圧条件、特に大気圧下で、アルデヒドを製造できる。その結果、圧力制御ための製造設備やユーテリテイーが不要となり、製造コストの削減や生産効率の向上が可能となる。
【0011】
さらに、本発明のアルデヒドの製造方法によれば、ヒドロホルミル化反応の反応速度を向上することができる。その結果、生産効率の向上や、触媒使用量の低減による製造コストの削減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のアルデヒドの製造方法に用いたファインバブル発生装置の概略図である。
【
図2】実施例で用いられたファインバブル発生装置、反応容器、及び反応器を含む反応装置の概略図である。
【
図3】実験例1及び2おける、反応系内におけるウルトラファインバブル及びマイクロバブルの個数濃度及びバブルサイズの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0014】
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0015】
[アルデヒドの製造方法]
本発明のアルデヒドの製造方法は、触媒の存在下で、原料オレフィンと、水素及び一酸化炭素を含むガス(以下、「原料ガス」ということもある。)とを、ヒドロホルミル化反応させることを含むアルデヒドの製造方法であって、前記ガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態で前記原料オレフィンと反応させることを含む。
【0016】
本発明のアルデヒドの製造方法で用いられる触媒は、例えば、原料化合物と、原料ガスとを化学反応させることによって得ることができる。
【0017】
触媒の原料化合物は遷移金属化合物を含むことが好ましい。原料化合物に含まれる遷移金属化合物としては、例えば、長周期型周期表第8~10族遷移金属化合物(以下、「第8~10族遷移金属化合物」という。)を挙げることができる。長周期型周期表第8~10族遷移金属(以下、「第8~10族遷移金属」という。)とは、長周期型周期表において、8~10族に属する遷移金属である。なかでも、ルテニウム、コバルト、ロジウム、パラジウム及び白金が触媒にした際に活性が高いため好ましく、ロジウムは活性が特に高いためより好ましい。
【0018】
前記第8~10族遷移金属化合物としては、例えば、塩化ロジウム、塩化パラジウム、塩化ルテニウム、塩化白金、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウム、硫酸ロジウム、硝酸ロジウム、硝酸パラジウム、塩化ロジウムアンモニウム及び塩化ロジウムナトリウム等の水溶性の無機塩又は無機錯化合物や、ギ酸ロジウム、酢酸ロジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸ロジウム、プロピオン酸パラジウム及びオクタン酸ロジウム等の水溶性の有機酸塩等を挙げることができる。また、それぞれの金属の錯体種を用いてもよい。
【0019】
前記第8~10族遷移金属化合物としては、上記のなかでも、1価以上3価以下のロジウム化合物を用いることが好ましく、その中でも反応活性及び触媒コストに優れる観点から、酢酸ロジウムを用いることがより好ましい。
【0020】
また、ロジウム化合物としては、例えば、ヒドリドテトラカルボニルロジウム、オクタカルボニルジロジウム、ジカルボニルアセチルアセトナートロジウム、ドデカカルボニルテトラロジウム、ヘキサデカカルボニルヘキサロジウム等のカルボニル錯体を用いることもできる。
【0021】
通常、ロジウム錯体触媒を用いたヒドロホルミル化反応では、触媒のロスを極力抑えるために、ロジウム回収プロセスを設け、反応後ロジウムを回収して再生、再利用することが行われているが、本発明のように基質に対する触媒使用量を少なくすることで、このロジウム回収プロセスを省略することができ、回収に要する手間とコスト、時間を削減することができる。
【0022】
触媒の原料化合物は、さらに有機リン系配位子化合物を含むことが好ましい。有機リン系配位子化合物は、単座配位子となる化合物でもよいし、多座配位子となる化合物でもよい。このような有機リン系配位子化合物は、第8~10族遷移金属に単座配位子又は多座配位子として配位して、錯体触媒を形成することができる。
【0023】
単座配位子となる有機リン系化合物としては、下記一般式で表されるトリオルガノホスフィンが挙げられる。
【0024】
【0025】
(上記一般式中、Rはそれぞれ独立して、置換基を有してもよい1価の炭化水素基を表す。)
【0026】
Rで示される1価の炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、炭素数3~12のアリール基、炭素数6~24のアルキルアリール基、炭素数6~24のアリールアルキル基等が挙げられる。即ち、トリオルガノホスフィンは、例えば、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、アルキルアリールホスフィン、シクロアルキルアリールホスフィン、アルキルシクロアルキルホスフィン等である。
【0027】
1価の炭化水素基が有し得る置換基としては、限定されるものではないが、アルキル基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0028】
トリオルガノホスフィンの具体例としては、例えば、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、モノブチルジフェニルホスフィン、ジプロピルフェニルホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィンな等が挙げられる。これらの中でも、活性が低いため化学的に安定で、かつ入手し易いことから、トリフェニルホスフィンが好ましい。
【0029】
有機リン系配位子化合物のその他の例としては、例えば、下記の式(1)~(10)のいずれかで示される3価のホスファイト化合物を用いることができる。
【0030】
<式(1)で表される3価のホスファイト化合物>
【0031】
【0032】
(式(1)中、R1~R3はそれぞれ独立して、置換基を有してもよい1価の炭化水素基を示す。)
【0033】
式(1)中、R1~R3で示される置換基を有してもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。
【0034】
式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、n-ブチルジエチルホスファイト、トリ-n-ブチルホスファイト、トリ-n-プロピルホスファイト、トリ-n-オクチルホスファイト、トリ-n-ドデシルホスファイト等のトリアルキルホスファイト;トリフェニルホスファイト、トリナフチルホスファイト等のトリアリールホスファイト;ジメチルフェニルホスファイト、ジエチルフェニルホスファイト、エチルジフェニルホスファイト等のアルキルアリールホスファイト等が挙げられる。また、例えば、特開平6-122642号公報に記載されているビス(3,6,8-トリ-t-ブチル-2-ナフチル)フェニルホスファイト、ビス(3,6,8-トリ-t-ブチル-2-ナフチル)(4-ビフェニル)ホスファイト等を用いてもよい。これらの中で最も好ましいものはトリフェニルホスファイトである。
【0035】
<式(2)で表される3価のホスファイト化合物>
【0036】
【0037】
(式(2)中、R4は置換基を有してもよい2価の炭化水素基を示し、R5は置換基を有してもよい1価の炭化水素基を示す。)
【0038】
式(2)中、R4で示される置換基を有してもよい2価の炭化水素基としては、炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子等を含んでいてもよいアルキレン基;炭素鎖の中間に酸素、窒素、硫黄原子等を含んでいてもよいシクロアルキレン基;フェニレン、ナフチレン等の2価の芳香族基;2価の芳香環が直接又は中間にアルキレン基、酸素、窒素、硫黄等の原子を介して結合した2価の芳香族基;2価の芳香族基とアルキレン基とが直接又は中間に酸素、窒素、硫黄等の原子を介して結合したもの等が挙げられる。R5で示される置換基を有してもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。
【0039】
式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、ネオペンチル(2,4,6-t-ブチル-フェニル)ホスファイト、エチレン(2,4,6-t-ブチル-フェニル)ホスファイト等の米国特許第3415906号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0040】
<式(3)で表される3価のホスファイト化合物>
【0041】
【0042】
(式(3)中、R10は式(2)におけるR5と同義であり、Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換基を有してもよいアリーレン基を示し、x及びyは、それぞれ独立して、0又は1を示し、Qは-CR11R12-,-O-,-S-,-NR13-,-SiR14R15及び-CO-よりなる群から選ばれる架橋基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~12のアルキル基、フェニル基、トリル基又はアニシル基を示し、R13、R14及びR15は、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を示し、nは0又は1を示す。)
【0043】
式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル-(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト等の米国特許第4599206号公報に記載されている化合物、3,3’-ジ-t-ブチル-5,5’-ジメトキシ-1,1’-ビフェニル-2,2’-ジイル-(2-t-ブチル-4-メトキシフェニル)ホスファイト等の米国特許第4717775号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0044】
<式(4)で表される3価のホスファイト化合物>
【0045】
【0046】
(式(4)中、R6は環状又は非環状の置換基を有してもよい3価の炭化水素基を示す。)
【0047】
式(4)で表される化合物の具体例としては、例えば、4-エチル-2,6,7-トリオキサ-1-ホスファビシクロ-[2,2,2]-オクタン等の米国特許第4567306号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0048】
<式(5)、(6)で表される3価のホスファイト化合物>
【0049】
【0050】
(式(5)中、R7は式(2)におけるR4と同義であり、R8及びR9は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基を示し、a及びbはそれぞれ0~6の整数を示し、aとbの和は2~6であり、Xは(a+b)価の炭化水素基を示す。)
【0051】
式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、6,6’-[[3,3’,5,5’-テトラキス(1,1’-ジメチルエチル)-[1,1’-ビフェニル]-2,2’-ジイル]ビス(オキシ)]ビス-ベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサホスフェビン等の特開平2-231497号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0052】
式(5)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
(式(6)中、Xはアルキレン、アリーレン及び-Ar1-(CH2)x-Qn-(CH2)y-Ar2-よりなる群から選ばれた2価の基を示し、R16及びR17は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基を示す。Ar1、Ar2、Q、x、y、nは式(3)と同義である。)
【0055】
式(6)で表される化合物の具体例としては、例えば、特開昭62-116535号公報及び特開昭62-116587号公報に記載されている化合物等が挙げられる。
【0056】
<式(7)で表される3価のホスファイト化合物>
【0057】
【0058】
(式(7)中、X、Ar1、Ar2、Q、x、y、nは式(6)と同義であり、R18は式(2)におけるR4と同義である。)
【0059】
<式(8)で表される3価のホスファイト化合物>
【0060】
【0061】
(式(8)中、R19及びR20は、それぞれ独立して、芳香族炭化水素基を示し、かつ少なくとも一方の芳香族炭化水素基は、酸素原子が結合する炭素原子に隣接する炭素原子に炭化水素基を有しており、mは2~4の整数を示し、各-O-P(OR19)(OR20)基は互いに異なっていてもよく、Xは置換基を有してもよいm価の炭化水素基を示す。)
【0062】
式(8)で表される化合物の中では、例えば、特開平5-178779号公報に記載されている化合物や2,2’-ビス(ジ-1-ナフチルホスファイト)-3,3’,5,5’-テトラ-t-ブチル-6,6’-ジメチル-1,1’-ビフェニル等の特開平10-45776号公報に記載されている化合物等が好ましい。
【0063】
<式(9)で表される3価のホスファイト化合物>
【0064】
【0065】
(式(9)中、R21~R24は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい炭化水素基を示し、R21とR22、R23とR24が互いに結合して環を形成していてもよく、Wは置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、Lは置換基を有していてもよい飽和又は不飽和の2価の脂肪族炭化水素基を示す。)
【0066】
式(9)で表される化合物としては、例えば、特開平8-259578号公報に記載の化合物等が挙げられる。
【0067】
<式(10)で表される3価のホスファイト化合物>
【0068】
【0069】
(式(10)中、R25~R28は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい1価の炭化水素基を示し、R25とR26、R27とR28は互いに結合して環を形成していてもよく、A及びBは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基を示し、nは0又は1の整数を示す。)。
【0070】
R25~R28で示される置換を有してもよい1価の炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基などが挙げられる。A,Bで示される置換基を有していてもよい2価の炭化水素基としては、芳香族、脂肪族又は脂環族のいずれであってもよい。
【0071】
これらの有機リン系配位子化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、通常は1種のみが用いられる。
【0072】
有機リン系配位子化合物としては、オキソ反応の観点から、上述したトリオルガノホスフィンが好ましく、特にトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0073】
触媒の原料ガスは、水素及び一酸化炭素を含むことが好ましい。原料ガスが水素及び一酸化炭素を含む場合、水素及び一酸化炭素の比率は、特に限定されるものではなく、通常はモル比率で、H2/CO=0.1~10であり、より好ましくは0.5~6であり、さらに好ましくは0.8~1.2である。
【0074】
原料ガスが水素及び一酸化炭素を含む場合、原料ガスに含まれる、水素及び一酸化炭素の合計含有割合は、特に限定されるものではなく、原料ガス全量100モル%に対して、通常は50モル%以上であり、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特にさらに好ましくは95モル%以上である。或いは又、原料ガスは、実質的に水素及び一酸化炭素から成る混合ガスであってもよい。
【0075】
触媒を製造する際に原料化合物と原料ガスとを化学反応させるには、例えば、まず原料化合物及び有機溶媒を含む触媒混合液を調製する。有機溶媒は、原料化合物を溶解するために用いる。なお、この触媒混合液中の溶質はすべて溶解している必要はなく、一部は溶解せずに分散していてもよい。
【0076】
触媒混合液中の有機溶媒としては、例えば、アルコール及び芳香族炭化水素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0077】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2―プロピルヘキサノール等の炭素数1~10の低級アルコール等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶解性の観点から、メタノールを用いることが好ましい。
【0078】
酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物をアルコールに溶解したアルコール溶液において、酢酸ロジウム等の第8~10族遷移金属化合物の濃度には特に制限はないが、第8~10族遷移金属化合物の濃度が過度に高いと結晶が析出する可能性があり、過度に低いと経済性が悪化することから、0.3~15質量%が好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。
【0079】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。溶解性の観点から、キシレンを用いることが好ましい。
【0080】
有機リン系配位子化合物を芳香族炭化水素に溶解した芳香族炭化水素溶液中の有機リン系配位子化合物の濃度は、1~90質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましい。
【0081】
触媒混合液中のロジウム等の第8~10族遷移金属の濃度の下限は、特に限定されるものではなく、通常1質量ppm以上であり、好ましくは10質量ppm以上であり、より好ましくは50質量ppm以上である。一方、触媒混合液中のロジウム等の第8~10族遷移金属の濃度の上限は、特に限定されるものではなく、通常10質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは1000質量ppm以下である。ロジウム等の第8~10族遷移金属の濃度が低すぎると反応速度が遅くなり、十分な反応が行えない場合があり、ロジウム等の第8~10族遷移金属の濃度が高すぎると高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、ロジウム等の高価な第8~10族遷移金属のロスが多くなってしまう。
【0082】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、触媒混合液中のロジウム等の第8~10族遷移金属の濃度は、1質量ppm~10質量%が好ましく、10質量ppm~1質量%がより好ましく、50~1000質量ppmがさらに好ましい。
【0083】
また、触媒混合液中の有機リン系配位子化合物のリンとロジウム(Rh)等の第8~10族遷移金属との比率は、特に限定されるものではなく、通常はモル比率でP/第8~10族遷移金属=1~10000であり、好ましくはP/第8~10族遷移金属=1~1000であり、より好ましくは1~100である。有機リン系配位子化合物が少なすぎるとロジウム等の第8~10族遷移金属への配位量が少なくなるため、第8~10族遷移金属が十分に安定化されないことがある。有機リン系配位子化合物が多すぎると反応系内での濃度が高くなり、高沸物をパージする時に同伴して抜き出されるため、ロスが多くなってしまう。
【0084】
本発明では、触媒混合液を原料ガスと接触させて化学反応させるときの触媒混合液の液温は90℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、105℃以上がさらに好ましい。一方、前記液温の上限は、130℃以下が好ましく、127℃以下がより好ましく、125℃以下がさらに好ましい。この液温が90℃未満であると、本発明の効果を十分に得ることができないことがあり、一方、液温が130℃を超えると触媒が失活することがある。
【0085】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、触媒混合液を原料ガスと接触させて化学反応させるときの触媒混合液の液温は、温度90~130℃が好ましく、100~127℃がより好ましく、105~125℃がさらに好ましい。
【0086】
触媒混合液を原料ガスと接触させるには、触媒混合液を仕込んだ容器に原料ガスを1~10MPa程度の圧力で圧入し、この容器の全圧が例えば1~10MPaとなるようにし、液温が上記液温の範囲となるように維持しながら、0.5~5時間程度撹拌すればよい。
【0087】
なお、触媒混合液を仕込む容器は、後述のヒドロホルミル化反応を行う反応器とは別のものであってもよく、同じのものであってもよい。触媒混合液を仕込む容器とヒドロホルミル化反応を行う反応器が異なる場合は、容器から触媒混合液を抜き出して反応器に投入すればよい。触媒混合液を仕込む容器とヒドロホルミル化反応を行う反応器が同じである場合は、金属錯体触媒の製造後、そのまま続けてヒドロホルミル化反応によってアルデヒドの製造を行うことができる。
【0088】
本発明のアルデヒドの製造方法では、例えば上記の方法で製造した触媒の存在下で、原料オレフィンと、水素及び一酸化炭素を含むガスとを、ヒドロホルミル化反応させる。
【0089】
原料オレフィンとしては、通常、直鎖又は分岐鎖状のα-オレフィン又は内部オレフィンが用いられ、好ましくは炭素数2~8のオレフィンであり、具体的にはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ドデセン、1-テトラデセン等が挙げられ、より好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテンである。特に好ましいオレフィンはプロピレン、1-オクテンである。
【0090】
また、本発明のアルデヒドの製造方法では、水素及び一酸化炭素を含むガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態で原料オレフィンと反応させる。ファインバブルの形態とする原料ガスの割合の下限は、特に限定されるものではなく、原料ガス全量100モル%に対して、通常は10モル%以上であり、好ましくは30モル%以上であり、より好ましくは50モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上である。或いは又、原料ガスの全量100モル%が、実質的にファインバブルであってもよい。
【0091】
前記ガスは、水素及び一酸化炭素を含み、水素及び一酸化炭素の比率は、特に限定されるものではなく、通常はモル比率で、H2/CO=0.1~10であり、より好ましくは0.5~6であり、さらに好ましくは0.8~1.2である。
【0092】
また、原料ガスが水素及び一酸化炭素を含む場合、原料ガスに含まれる、水素及び一酸化炭素の合計含有割合は、原料ガス全量100モル%に対して、通常は50モル%以上であり、好ましくは70モル%以上であり、より好ましくは80モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上であり、特にさらに好ましくは95モル%以上である。或いは又、原料ガスは、実質的に水素及び一酸化炭素から成る混合ガスであってもよい。
【0093】
本発明において、「ファインバブル」とは、直径が100μm未満の原料ガスの気泡を意味し、「マイクロバブル」とは、前記ファインバブルの中でも直径が1μm以上100μm未満の原料ガスの気泡を意味し、「ウルトラファインバブル」とは、前記ファインバブルの中でも直径が1μm未満の原料ガスの気泡を意味する。
【0094】
本発明の製造方法は、原料ガスの少なくとも一部をファインバブルの形態で用いることにより、次の特徴を備えている。
(1)液体中での遅い上昇速度
原料ガスの気泡がミリバブルの形態、即ち直径1mm以上のミリバブルの場合は、水のような比較的低粘性の液体中では、ミリバブルは急速に上昇し、液相表面で破裂して消滅する。これに対し、原料ガスの気泡がファインバブルの形態の場合は、ファインバブルの水中での上昇速度は非常に遅く、直径1μmのもので僅か約2mm/時しかない。これは、ファインバブルの浮力が微小であるために現れる特徴である。水以外の他の液体中でも同様の傾向が認められ、原料ガスをファインバブルの形態で供給することにより、液体中での原料ガスの滞在時間が著しく増加する。
【0095】
(2)気液界面の増大
同体積の気体を気泡として液相中に導入する場合、気泡の直径が小さい程、液体中における気液界面の面積は増大する。また、ファインバブルの表面電荷の計測から、ファインバブルの表面は負の電荷を帯びていることが明らかになっており、この電荷により気泡同士は互いに反発して原料ガスの気泡同士の結合が妨げられ、気泡の粗大化による気液界面が減少することも防止される。このため、原料ガスの気相と液相との界面が著しく増大した状態が長時間にわたって維持される。
【0096】
(3)液相を気体で過飽和状態にすることが可能
原料ガスのファインバブルと液相との界面に働く表面張力は表面積を小さくするように働くため、気泡内部の気体はそれにより加圧される。このとき個々の原料ガスの気泡内の圧力は、表面張力に起因する圧力成分p1と液中の深度に起因する圧力成分p2との和と釣り合っている。液体への気体の溶解度は、圧力の上昇とともに増加するため、原料ガスの気泡が通常のミリバブルの形態、即ち直径1mm以上のミリバブルである場合に比べて、原料ガスの気泡がファインバブルの形態である場合は、ファインバブル内の気体の液相への溶解はp1分だけ促進され、過飽和の状態がつくり作り出される。
【0097】
本発明のアルデヒドの製造方法では、水素及び一酸化炭素を含むガスの少なくとも一部を、ファインバブルの形態とすることによって、低圧条件、特に大気圧下で、ヒドロホルミル化反応の反応速度を向上させ、触媒量を低減して、アルデヒドを製造できる。その理由として、ヒドロホルミル化反応において、従来のように原料ガスをミリバブルの形態で供給した場合には、ガス拡散が反応律速となりヒドロホルミル化反応の効率が不十分であったが、原料ガスをファインバブルの形態で供給した場合は、ファインバブルは上述した特徴(1)~(3)を有することから、気相(原料ガス)と液相とを長時間、広い界面で効率よく接触させることができると共に、液相中における原料ガスの過飽和状態を長時間持続させることができ、その結果、気相-液相界面及びその近傍におけるヒドロホルミル化反応の反応速度が著しく向上するためと推察される。
【0098】
本発明におけるファインバブルは、触媒活性に優れた金属錯体触媒を製造する観点から、少なくともマイクロバブル又はウルトラファインバブルのいずれかを含むことが好ましい。即ち、本発明におけるファインバブルは、マイクロバブル及びウルトラファインバブルの両方を含んでもよいし、実質的にマイクロバブルのみを含んでもよいし、或いは又、実質的にウルトラファインバブルのみを含んでもよい。「実質的に含む」とは、ファインバブルの全数100%に対して、対象となるマイクロバブル及び/又はウルトラファインバブルが95%以上含まれることをいう。
【0099】
ファインバブルの製造方法としては、例えば、旋回液流式、加圧溶解・減圧式、及び微細孔式等の公知のファインバブル製造方法を挙げることができる。
【0100】
旋回液流式では、円筒容器に液を高速で圧入し、内部に高速旋回流を形成して、その中心部で圧力降下部を発生させる。ここで、円筒容器の下部の小孔からガスを導入し、上部の小孔からガスを導出すると、ファインバブルが得られる。
【0101】
加圧溶解・減圧式では、ガスを加圧して液中に溶解させる。そして、その液を、減圧又は常圧の液体中に、急激に吐出することによって、溶解したガスをファインバブルとして析出させることができる。
【0102】
微細孔式では、ナノレベルの微細孔からガスを液中に噴出させる。
【0103】
ここで、本発明のアルデヒドの製造方法に用いることができるファインバブル発生装置の概略図を
図1に示す。
図1に示すように、ファインバブル発生装置100に供給された液体1及び気体2が、ノズル筐体3を通過し、ノズル穴4からファインバブル5が排出される。
【0104】
本発明のアルデヒドの製造方法では、上述の原料オレフィンと、上述のガスとを、ヒドロホルミル化反応させる。
【0105】
ガス中の水素と一酸化炭素は、別々に反応器に供給しても反応器に供給する前に、予め混合されたオキソガスとして、反応器に一緒に供給してもよい。例えば、改質炉などによって発生するガスや、これらのガスから水素と一酸化炭素を分離して反応器に供給してもよい。
【0106】
ヒドロホルミル化の反応条件としては、水素分圧は通常0.0001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下である。水素分圧が低すぎると反応速度が低下してしまい、高すぎると副生物の生成が増えてしまう。
【0107】
一酸化炭素分圧は通常0.0001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.1MPa以上であり、通常20MPa以下、好ましくは10MPa以下、より好ましくは5MPa以下である。一酸化炭素分圧が低すぎると反応が進行しなくなってしまい、高すぎるとオレフィンの分圧が下がるため、反応が進行しなくなってしまう。
【0108】
全圧は通常0.0001MPaG以上であり、通常50MPaG以下、好ましくは30MPaG以下、より好ましくは20MPaG以下である。全圧が低すぎると反応速度が遅くなり、十分な反応が行えず、また高すぎると反応器の設計圧力が高くなり、装置の価格が高くなってしまう。本発明において、ヒドロホルミル化反応は、大気圧(0.10MPa)下で行われることが最も好ましい。
【0109】
水素分圧/一酸化炭素分圧比、即ち、水素/一酸化炭素のモル比は、通常0.1~10、好ましくは0.5~6、より好ましくは0.8~1.2である。この分圧比が小さすぎると反応が十分に進まなくなってしまい、また大きすぎても反応が十分に進まなくなったり、副生物の生成が増えたりする。
【0110】
反応温度は通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると反応が十分に進行せず、反応温度が高すぎると副生物の生成が増えたり、触媒が失活したりする場合がある。
【0111】
反応時間は通常1分以上、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上であり、通常24時間以下、好ましくは10時間以下、より好ましくは5時間以下である。反応時間が短すぎると反応が十分に進行せず、反応時間が長すぎると高沸化が進んでしまう。
【0112】
本発明のアルデヒドの製造方法において、ヒドロホルミル化反応の反応媒体として、原料オレフィン及び触媒を溶解し、反応で生成するアルデヒドより高沸点で、反応阻害作用のない有機溶媒の存在下に行うことができる。
【0113】
本発明におけるヒドロホルミル化反応で使用できる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ブタノール、オクタノール、ポリエチレングリコール等のアルコール類、トリグライム等のエーテル類、酢酸ブチル、酪酸ブチルエステ、ジオクチルフタレート等のエステル類あるいはケトン類等が挙げられる。
これらの有機溶媒の中でも、芳香族炭化水素が特に好ましい。
【0114】
また、本発明のアルデヒドの製造方法において、ヒドロホルミル化反応の反応速度の観点から、前記有機溶媒のウベローデ粘度計を用いて測定した25℃における粘度の下限は、特に限定されるものではなく、0.60cp以上が好ましく、0.68cp以上がより好ましく、0.72cp以上がさらに好ましい。また、当該粘度の上限は、特に限定されないが、0.90cp以下が好ましく、0.85cp以下がより好まししく、0.80cp以下がさらに好ましい。前記粘度が低すぎると、溶液中で、原料ガスであるファインバブルの上昇速度が早くなり、ファインバブルの滞在時間が短くなる。その結果、ヒドロホルミル化反応の反応時間が短くなるため、当該反応が十分に進行しない。一方、前記粘度が高すぎると、原料オレフィンや原料ガスの拡散が反応律速となり、ヒドロホルミル化反応の反応速度が低下してしまう。
【0115】
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、前記有機溶媒のウベローデ粘度計を用いて測定した25℃における粘度は、0.60~0.90cpが好ましく、0.68~0.85cpがより好ましく、0.72~0.80cpがさらに好ましい。
【0116】
なお、ウベローデ粘度計を用いた粘度の測定は、常用の方法に従って行なえばよく、例えばJIS Z8803:2011や、ISO 3105に準拠して行うことができる。ウベローデ粘度計は、ISO 3105又はJIS K 2283に記載されている粘度計を用いることができる。
【0117】
本発明のアルデヒドの製造方法において、前記芳香族炭化水素は、側鎖にアルキル基を有する芳香族炭化水素を含むことが好ましい。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等を挙げることができる。
【0118】
側鎖にアルキル基を有する芳香族化合物の具体例としては、例えば、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、キユメンからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0119】
また、生成するアルデヒドに対して不活性な有機溶媒としては、反応で生成するアルデヒドや、その三量体や四量体などのアルデヒド縮合物を用いることもできる。さらに、原料オレフィンと同炭素数を有するパラフィン類を用いることもできる。例えば、プロピレンのヒドロホルミル化であれば、トルエンやブチルアルデヒド又は3量体や4量体などのアルデヒド縮合物との混合物を用いることが好ましい。
【0120】
反応媒体中における、触媒の濃度は、該錯触媒を構成する金属原子に換算して、通常1質量ppm~10質量%である。さらに、触媒の安定性を増大させるため、過剰量の有機リン系配位子化合物を反応媒体中に存在させることもできる。
【0121】
ヒドロホルミル化反応に用いる反応器の種類は特に限定されるものではなく、撹拌槽型、気泡塔型、棚段塔型、管型又はガスストリッピング型等を用いることができる。通常連続式の反応器に原料であるオレフィン、オキソガスおよび触媒混合液を連続的に供給し、上記ヒドロホルミル化反応条件下で実施されるが、回分式の反応器を使用することもできる。また、反応の温度を一定に保つために、反応器は、内部コイルやジャケット、外部熱交換器などを有してもよい。
【0122】
ヒドロホルミル化反応で生成したアルデヒドを含む反応液は反応器から抜き出されることができる。
反応器から抜き出された反応液からの生成アルデヒドの分離は、蒸留、蒸発、ガスストリッピング、ガス吸収又は抽出等の任意の分離操作及び装置を選んで行うことができる。これらの中でも、好ましくは蒸留による分離であり、この場合、蒸留塔を用いて、塔頂より生成アルデヒドを主成分として含む成分を留出させて分離することができる。蒸留の条件としては、特に限定されものではなく、通常は、塔底温度が50~150℃であることが好ましい。また、塔内の圧力としては、特に限定されものではなく、通常は、0.01~0.1MPaであることが好ましい。
【0123】
この生成アルデヒドの分離工程では、反応液から未反応オレフィンを回収する任意の手段と装置を付加してもよい。その際は、好ましくは向流接触塔等が用いられる。各装置間には適宜気液分離器等を設けてもよい。
【0124】
上記のように反応液から生成アルデヒドを分離した残渣である触媒液は、反応器に戻され循環される。
【実施例0125】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0126】
実施例及び比較例で使用した化合物は以下のとおりである。
アセチルアセトナートジカルボニルロジウム(商品名:Rh(acac)(CO)2、エヌ・イー ケムキャット株式会社製)
トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(商品名:DBPO、東京化成工業株式会社製)
トリフェニルホスフィン(商品名:TPP、北興化学工業株式会社製)
o-キシレン(商品名:o-Xylene、富士フイルム和光純薬株式会社製。25℃における粘度:0.76cp)
メシチレン(商品名:Mesitylene、東京化成工業株式会社製。25℃における粘度:0.66cp)
【0127】
[実施例1]
窒素ガス雰囲気下、乾燥した内容量100mLのガラス製反応容器に、Rh錯体触媒の原料化合物としてアセチルアセトナートジカルボニルロジウム(Rh(acac)(CO)2)0.1148g(0.445mmol)及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(DBPO)2.878g(4.45mmol)を量り取り、有機溶媒としてo-キシレン65gを加え数分間撹拌し、触媒及び配位子を溶解させた。その後、反応原料である1-オクテンを2.500g(22.28mmol)を加え、直径22mmのクロスヘッド回転子で撹拌しながら昇温した。
【0128】
(ヒドロホルミル化反応)
次いで、ウルトラファインバブル発生装置(PMT株式会社製、機器名:FBG-OS Type1)を用いて、反応容器内の内液(触媒混合液)を40ml/minの循環速度で循環させながら、内液を循環させるための循環ライン中にオキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比率))を10ml/minの流量で導入した。その際、反応容器内の内液中のオキソガスの気泡径が100~200nmの範囲内となるように、即ち、前記オキソガスがウルトラファインバブルの形態を維持するように導入した。なお、前記の操作は、反応容器内を大気圧下にして行った。次いで、反応容器内の内液の温度が90℃となるように加熱し、また反応容器内の圧力を大気圧下に維持したまま、オキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比))を前記反応容器中に導入し続け、6時間撹拌した。
【0129】
ヒドロホルミル化反応中に、前記反応容器内の内液を2時間ごとに採取し、基質の減少量をガスクロマトグラフィーにて分析し、1-オクテンの転化率を求めた。更に、反応容器内の内液の温度が90℃となった時間を起点として、前記転化率を前記時間に対して対数プロットすることにより、1-オクテンの転化率が60%(以下、「60%転化率」という。)に到達する時間を算出した。その結果、60%転化率の到達時間は1.8時間であり、60%転化率から算出した反応速度は0.0093[1/min]となった。
【0130】
[実施例2、3]
有機溶媒としてo-キシレンの代わりに、メシチレン又はo-キシレンとメシチレンの混合物(o-キシレン/メシチレン=1.0(質量比率))を用いた以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行った。評価結果を表1に記載する。
【0131】
[実施例4]
触媒配位子としてDBPOの代わりにトリフェニルホスフィン(TPP)を用いた以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行った。評価結果を表1に記載する。
【0132】
[比較例1]
ヒドロホルミル化反応において、ウルトラファインバブル発生装置を用いず、反応容器内の内液(触媒混合液)の循環を止め、オキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比))を10ml/minの流量で反応容器の気相部に導入した以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行った。なお、前記の操作は、反応容器内を大気圧下にして行った。評価結果を表1に記載する。
【0133】
[比較例2、3]
ヒドロホルミル化反応において、ウルトラファインバブル発生装置を用いず、反応容器内の内液(触媒混合液)の循環を止め、内径1.0mmのSUS管より、オキソガス(水素/一酸化炭素=1(モル比))を10ml/minの流量で反応容器内の液相部に導入した。その際、反応容器内の内液中のオキソガスの気泡径が1~2mmの範囲内となるように、即ち、前記オキソガスがミリバブルの形態を維持するように、反応容器内にオキソガスを導入した以外は実施例1と同様の条件で、ヒドロホルミル化反応を行った。なお、前記の操作は、反応容器内を大気圧下にして行った。評価結果を表1に記載する。
【0134】
実施例及び比較例の結果を表1に掲載した。
【0135】
【0136】
実施例1~4の製造条件では、ヒドロホルミル化反応の工程において、反応系内にオキソガスをファインバブルの状態で供給しているため、ヒドロホルミル化反応の反応速度は高く、少ない触媒使用量でアルデヒドを製造できると期待される。さらに、90℃の低温及び大気圧下でアルデヒドを製造することができた。
【0137】
比較例1の製造条件では、ヒドロホルミル化反応の工程において、反応系内にオキソガスをファインバブルの状態で供給せず、単に気相部のみに導入しているだけのため、ヒドロホルミル化反応の反応速度が低かった。
【0138】
比較例2及び3の製造条件では、ヒドロホルミル化反応の工程において、反応系内にオキソガスをファインバブルの状態で供給せず、ミリバブルの状態で供給しているため、ヒドロホルミル化反応の反応速度が低かった。
【0139】
[実験例1]
有機溶媒としてo-キシレンと、実施例1で使用したウルトラファインバブル発生装置を用いて、反応容器内の有機溶媒を40ml/minの循環速度で循環させながら、有機溶媒を循環させるための循環ライン中に水素ガスを10ml/minの流量で導入した。その際、反応容器内の内液中の水素ガスの気泡径が100~200nmの範囲内となるように、即ち、前記水素ガスがウルトラファインバブルの形態を維持するように導入した。なお、前記の操作は、反応容器内を大気圧下にして行った。
【0140】
次いで、反応容器内の有機溶媒の温度が30℃となるように温度制御し、また反応容器内の圧力を大気圧下に維持したまま、水素ガスの導入を続けながら、90~240分間撹拌した。
【0141】
有機溶媒中のウルトラファインバブルはナノ粒子解析システム(Malvern社製、装置名:ナノサイトLM10)を用いて、粒子径20~1000nmのナノ粒子について、粒度分布および粒子数濃度をナノトラッキング法により15分毎に観察した。マイクロバブルは形状・粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、装置名:マイクロトラックPartAn SI)を用いて、試料循環器で分散させた試料をフルフレームカメラでとらえ、画像解析により粒子径を測定し、個数濃度を15分毎に観察した。観察結果を、それぞれ
図3の(a)及び
図3の(c)に示す。
【0142】
[実験例2]
有機溶媒として、o-キシレンの代わりにメシチレンを用いた以外は、実験例1と同様の条件で有機溶媒中のウルトラファインバブル及びマイクロバブルの個数濃度及びバブルサイズを15分毎に観察した。観察結果を、それぞれ
図3の(b)及び
図3の(d)に示す。
【0143】
【0144】
図3の(a)及び
図3の(c)より、有機溶媒として粘度が高いo-キシレンを用いた場合、実験初期において水素ガスのウルトラファインバブル及びマイクロバブルが観察された。
【0145】
一方、
図3の(b)及び
図3の(d)より、有機溶媒として粘度の低いメシチレンを用いた場合、水素ガスのウルトラファインバブルは観察されず、マイクロバブルが観察された。
図3の(d)を、有機溶媒としてo-キシレンを用いた
図3の(c)と比較すると、初期における水素ガスのマイクロバブルの個数濃度が低かった。
【0146】
これは、有機溶媒の粘度が高いほど、反応系内において水素ガスの浮上速度が遅くマイクロバブルが高濃度に維持されるためと推察される。