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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080515
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】端子付き電線、ワイヤハーネス、端子
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20230602BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H02G1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021193898
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】河中 裕文
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】平岩 徹也
【テーマコード(参考)】
5E085
5G355
【Fターム(参考)】
5E085BB01
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD14
5E085DD16
5E085EE01
5E085EE11
5E085FF01
5E085GG11
5E085HH06
5E085JJ03
5E085JJ36
5G355BA08
5G355CA06
(57)【要約】
【課題】 圧着作業性が良好であり、接続強度と接続抵抗を両立することが可能な端子付き電線等を提供する。
【解決手段】 端子付き電線10は、端子1と被覆導線11とが電気的に接続されて構成される。端子1の圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、被覆導線11の被覆部15の先端側から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9とを有する。導線圧着部7の外面の一部には、周方向に板状部材が重ね合わせられて厚肉部となる。すなわち、厚肉部の厚みは、導線圧着部7の厚肉部以外の他の部位の厚みよりも厚い。導線圧着部7の厚肉部と他の部位は、軸方向に垂直な方向の外面の寸法が、軸方向に沿って略同一の寸法となるように圧縮されているため、厚肉部の圧縮率が、導線圧着部7の他の部位の圧縮率よりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆導線と端子とが電気的に接続される端子付き電線であって、
前記端子は、前記被覆導線の先端の被覆部から露出する導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、
前記導線圧着部の軸方向に対する一部において、前記導線圧着部の外面側の一部には、他の部分より厚みが厚くなっている厚肉部が形成され、
前記厚肉部の圧縮率が、前記導線圧着部の前記他の部位の圧縮率よりも小さいことを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記導線圧着部の前記厚肉部と前記他の部位は、軸方向に垂直な方向の外面の寸法が、軸方向に沿って略同一の寸法となるように圧縮されていることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記厚肉部は、前記導線圧着部の先端側に形成され、前記導線圧着部の先端側には、前記導線を保持する電線保持部が設けられ、前記導線圧着部の後端側には、前記導線との導通を得るための導通部が設けられ、
前記電線保持部は、前記導通部よりも厚みが厚いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
前記電線保持部において、前記導線の少なくとも一部が破断していることを特徴とする請求項3記載の端子付き電線。
【請求項5】
前記厚肉部は、前記導線圧着部の後端側に形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項6】
前記被覆導線は、複数の前記導線と、少なくとも1本の抗張力体からなることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項7】
前記被覆導線の長手方向に垂直な断面において、前記抗張力体が前記被覆導線の略中心に位置し、前記導線が前記抗張力体の外周部に配置されていることを特徴とする請求項6記載の端子付き電線。
【請求項8】
前記導線の断面積が0.35sq以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項9】
前記導線圧着部は、周方向に閉じた管状であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項10】
前記導線圧着部は、オープンバレル型であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の端子付き電線。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の端子付き電線を含む、複数の端子付き電線が一体化されたことを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項12】
被覆導線と電気的に接続される端子であって、
前記被覆導線の先端の被覆部から露出する導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、
前記導線圧着部の軸方向に対する一部において、前記導線圧着部の外面側の一部には、他の部分より厚みが厚くなっている厚肉部が形成されることを特徴とする端子。
【請求項13】
前記厚肉部が、前記導線圧着部の先端側に形成されることを特徴とする請求項12記載の端子。
【請求項14】
前記厚肉部が、前記導線圧着部の後端側に形成されることを特徴とする請求項12記載の端子。
【請求項15】
前記導線圧着部は、周方向に閉じた管状であることを特徴とする請求項12から請求項14のいずれかに記載の端子。
【請求項16】
前記導線圧着部の内面側において、前記導線圧着部の軸方向に対する前記厚肉部と他の部位との間に段差が形成されないことを特徴とする請求項12から請求項15のいずれかに記載の端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子付き電線等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車用ワイヤハーネスは、被覆導線の導体に圧着端子が接続された後に束ねられて、自動車等の信号線などとして配索される。一般的な被覆導線と圧着端子は、被覆導線の先端部の被覆が除去され、露出させた導体と導線圧着部とが圧着され、被覆部が被覆圧着部で圧着されて接続される。自動車用ワイヤハーネスはこの導線圧着部の接続強度と被覆圧着部の接続強度の合算で、圧着端子と被覆導線の接続強度の要求を満足させている。
【0003】
ここで、使用される電線が細くなると、電線を構成する導体だけでは強度を保つのが難しいため、抗張力体入りの電線が検討されている。例えば、引張強度が30N程度である導体からなる電線を使用する場合において、自動車用電線で要求される80Nを超える引張強度を確保する為に、抗張力体入りの電線として、金属製や非金属製の抗張力体の外周に導線が螺旋状に巻かれているものが提案されている。このような電線は、導体を段剥きし、抗張力体を露出させてスリーブに挿入し、抗張力体を鋼製クランプで圧着し、さらに接着剤等の硬化性樹脂により一体化するとともに、導体部分をアルミニウム等のクランプで圧着する方法がある(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61-046827号公報
【特許文献2】特開平8-237839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、特に、自動車分野においては、CASE等の対応により、ECUやセンサ類等が増加し、これに伴い使用する電線本数の増加が著しい。このような中、ワイヤハーネスの線径増大が課題となる。このため、自動車用電線のさらなる細径電線が求められている。例えば、従来の一般的な0.35sq(sq:mmの意味)以下の細径の電線が求められている。
【0006】
ここで、導線圧着部では、電線と端子の接続強度と、導体と端子の電気的な接続抵抗の両方の要求を満足する必要がある。このように、電線との接続強度と、導体との電気的な接続抵抗の両方に対して、要求仕様を満足するためには、導線圧着部の圧縮率を適切に設定する必要がある。しかし、電線径が細くなると、同じ圧縮率では、両者を満足することが困難となる。
【0007】
例えば、太径の被覆導線を用いて従来の技術で圧着端子と接続を行う場合には、接続強度と接続抵抗が両立するような圧縮率で導線圧着部での圧着を行うことができるが、電線の径が細くなると、接続強度も電気抵抗も適切な圧着条件範囲が狭くなる。これは、接続強度を確保しようとすると導体が破断して接続抵抗が高くなり、接続抵抗を重視すると、接続強度を得ることができず、電線の抜けの要因となるためである。このように、電線径が細くなればなるほど、接続強度と電気抵抗の両立は難しくなる。
【0008】
一方、例えば抗張力体を有する被覆導線を圧着する場合、抗張力体は、導線と比較して圧着時の変形が少ない。このため、導線圧着部で導線を圧縮すると、抗張力体に対して、導線が優先的に潰れて変形する。この際、導線は、変形によって断面積が減少するとともに軸方向に伸びるため、導線圧着部の後方に導線の一部がはみ出してくる。しかし、抗張力体はほとんど伸びないため、導線圧着部の後方に位置する抗張力体には変化がほとんどない。この結果、導線圧着部の後方において、抗張力体よりも導線の長さが長くなり、導線が径方向に広がることとなる。
【0009】
このように、導線が径方向に広がると、圧着部の端部のエッジや、他の部材との接触等によって断線のおそれがある。このように、導線圧着部の後方への導線の伸びは、接続強度と接続抵抗の低下のおそれがある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、圧着作業性が良好であり、接続強度と接続抵抗を両立することが可能な端子付き電線等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために第1の発明は、被覆導線と端子とが電気的に接続される端子付き電線であって、前記端子は、前記被覆導線の先端の被覆部から露出する導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、前記導線圧着部の軸方向に対する一部において、前記導線圧着部の外面側の一部には、他の部分より厚みが厚くなっている厚肉部が形成され、前記厚肉部の圧縮率が、前記導線圧着部の前記他の部位の圧縮率よりも小さいことを特徴とする端子付き電線である。
【0012】
前記導線圧着部の前記厚肉部と前記他の部位は、軸方向に垂直な方向の外面の寸法が、軸方向に沿って略同一の寸法となるように圧縮されていることが望ましい。
【0013】
前記厚肉部は、前記導線圧着部の先端側に形成され、前記導線圧着部の先端側には、前記導線を保持する電線保持部が設けられ、前記導線圧着部の後端側には、前記導線との導通を得るための導通部が設けられ、前記電線保持部は、前記導通部よりも厚みが厚くてもよい。
【0014】
この場合、前記電線保持部において、前記導線の少なくとも一部が破断していてもよい。
【0015】
前記厚肉部は、前記導線圧着部の後端側に形成されてもよい。
【0016】
前記被覆導線は、複数の前記導線と、少なくとも1本の抗張力体からなってもよい。
【0017】
前記被覆導線の長手方向に垂直な断面において、前記抗張力体が前記被覆導線の略中心に位置し、前記導線が前記抗張力体の外周部に配置されてもよい。
【0018】
前記導線の断面積が0.35sq以下であってもよい。
【0019】
前記導線圧着部は、周方向に閉じた管状であってもよい。
【0020】
前記導線圧着部は、オープンバレル型であってもよい。
【0021】
第1の発明によれば、導線圧着部の外面の一部に、他の部位の厚みよりも厚い厚肉部が形成されるため、導線圧着部を圧着する際に、部分的に圧縮率を変えることができる。この際、圧着時に使用される金型は、従来と同じものを使用することができる。すなわち、特殊な金型形状によって圧縮率を変えるのではなく、端子の肉厚によって圧縮率を変えるため、圧着作業性が良好である。また、導線圧着部の内面に段差が形成されることがないため、導線の挿入作業が容易である。
【0022】
また、導線圧着部が、接続強度を高くするために導線を保持する電線保持部と、接続抵抗を低くするために導線との導通を確保する導通部の二つの機能部を有すれば、接続強度と接続抵抗の両者を満足することができる。
【0023】
より詳細には、電線保持部と導通部との圧縮率を異なるようにすることで、電線保持部における圧縮力と導通部における圧縮力を変えることができる。このため、それぞれの機能に適切な圧縮力で圧着することができる。この場合において、電線保持部における圧縮率を、導通部における圧縮率よりも小さくすることで、すなわち、電線保持部を強圧縮することで、より確実に端子と被覆導線との接続強度を確保することができる。
【0024】
また、電線保持部においては、導線の少なくとも一部が破断していてもよい。この場合、電線保持部において、例えば破断した導線の隙間に抗張力体の一部等が入り込むことで、導線の引き抜き抵抗を高めて、接続強度を確保することができる。一方、導線と圧着端子とは導通部で導通が確保される。
【0025】
また、厚肉部を導線圧着部の後端側に形成すれば、導線圧着部を圧着する際に、被覆部側の導線圧着部の一部の圧着を、導線の先端側の導線圧着部の一部の圧着よりも先に開始させることができる。このため、圧着中における導線の被覆部側への伸びを規制することができ、圧着時において導線が被覆部側へ伸びることにより生じる、導線圧着部と被覆部との間における導線の広がり等を抑制することができる。
【0026】
また、被覆導線が、複数の導線と抗張力体とを有することで、抗張力体によって導線の引張強度を確保することができる。この際、電線保持部で、導線と抗張力体の両方が保持されるため、高い接続強度を確保することができる。また、従来のように、抗張力体と導線を別々のクランプで接続する必要がないため、部品点数も少なくて済み、接続作業も容易である。
【0027】
また、被覆導線の長手方向に垂直な断面において、中心の抗張力体の外周部に導線が配置されていれば、確実に導線を圧着することができる。この際、抗張力体の外周部に、導線が長手方向に撚られていてもよい。
【0028】
また、導線の断面積が0.35sq以下の細径の被覆導線、さらには導線の断面積が0.3sq以下の細径の被覆導線を用いるような場合には、本発明は特に有効である。特に、導線の断面積が0.05sq以下の細径の被覆導線を用いて、50N以上の導線の引張強度を得るような場合には、本発明はさらに有効である。
【0029】
また、導線圧着部の少なくとも一部が管状であれば、導線を、全周から確実に圧着することができる。このため、圧着時に、導線へ局所的な応力(変形)が生じることを抑制することができる。
【0030】
また、導線圧着部がオープンバレル型であれば、導線を、端子の上方から容易に導線圧着部へ配置することができる。このため、端子と被覆導線との圧着作業が容易である。
【0031】
第2の発明は、第1の発明にかかる端子付き電線を含む、複数の端子付き電線が一体化されたことを特徴とするワイヤハーネスである。
【0032】
第2の発明によれば、細径の電線が複数束ねられたワイヤハーネスを得ることができる。
【0033】
第3の発明は、被覆導線と電気的に接続される端子であって、前記被覆導線の先端の被覆部から露出する導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、前記導線圧着部の軸方向に対する一部において、前記導線圧着部の外面側に、他の部分より厚みが厚くなっている厚肉部が形成されることを特徴とする端子である。
【0034】
前記厚肉部が、前記導線圧着部の先端側に形成されてもよい。
【0035】
前記厚肉部が、前記導線圧着部の後端側に形成されてもよい。
【0036】
前記導線圧着部は、周方向に閉じた管状であってもよい。
【0037】
前記導線圧着部の内面側において、前記導線圧着部の軸方向に対する前記厚肉部と他の部位との間に段差が形成されないことが望ましい。
【0038】
第3の発明によれば、特殊な金型を用いることなく、第1の発明にかかる端子付き電線を容易に得ることができる。
【0039】
また、導線圧着部の先端を厚くすることで、導線圧着部の先端側を強圧着して、電線保持部とすることができる。このため、高い引張強度を確保することができる。
【0040】
また、導線圧着部の後端を厚くすることで、被覆部側の導線圧着部の一部の圧着を、導線の先端側の導線圧着部の一部の圧着よりも先に開始させることができる。このため、圧着中における導線の被覆部側への伸びを規制することができ、圧着時において導線が被覆部側へ伸びることにより生じる、導線圧着部と被覆部との間における導線の広がり等を抑制することができる。
【0041】
また、導線圧着部が管状であれば、導線を、全周から確実に圧着することができる。このため、圧着時に、導線へ局所的な応力(変形)が生じることを抑制することができる。
【0042】
また、導線圧着部の軸方向に対する前記厚肉部と他の部位との間に段差が形成されないようにすることで、導線の挿入が容易である。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、圧着作業性が良好であり、接続強度と接続抵抗を両立することが可能な端子付き電線等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】端子付き電線10を示す斜視図。
図2】端子付き電線10を示す断面図。
図3】(a)~(c)は、導線圧着部7における断面図。
図4】圧着前の端子1と被覆導線11を示す図。
図5】(a)は、導線13の先端部を示す図、(b)~(d)は、端末処理前の導線13の先端部を示す図。
図6】他の端末処理部19の形態を示す図。
図7】(a)、(b)は、圧着部5の圧着工程を示す図。
図8】圧着前の端子1aと被覆導線11を示す図。
図9】端子付き電線10aを示す斜視図。
図10】(a)、(b)は、導線圧着部7における断面図。
図11】圧着前の端子1bと被覆導線11を示す図。
図12】端子付き電線10bを示す斜視図。
図13】端子付き電線10bを示す断面図。
図14】圧着前の端子1cと被覆導線11を示す図。
図15】(a)、(b)は、圧着部5の圧着工程を示す図。
図16】圧着前の端子1dと被覆導線11を示す図。
図17】圧着前の端子1eと被覆導線11を示す図。
図18】(a)は、端子付き電線10cを示す断面図、(b)は、端子付き電線10dを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、図2は、端子付き電線10の断面図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11とが電気的に接続されて構成される。
【0046】
被覆導線11は、例えば、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。すなわち、被覆導線11は、被覆部15と、その先端から露出する導線13とを具備する。
【0047】
端子1は、例えば銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金製である。端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。
【0048】
端子本体3は、所定の形状の板状素材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状素材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて雄型端子の挿入タブを設けてもよいし、丸型端子のようなボルト締結部を設けても良い。
【0049】
端子1の圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、被覆導線11の被覆部15の先端側から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9とを有する。すなわち、被覆部15が剥離されて露出する導線13が、導線圧着部7により圧着され、導線13と端子1とが電気的に接続される。また、被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。なお、本実施形態では、導線圧着部7と被覆圧着部9は、一体で、周方向に閉じた管状(略円筒状)に構成される。
【0050】
なお、導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられてもよい。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。
【0051】
図2に示すように、導線圧着部7の軸方向に対する一部において、導線圧着部7の外面の一部には、例えば、周方向に板状部材が重ね合わせられて厚肉部となる。すなわち、厚肉部の厚みは、導線圧着部7の厚肉部以外の他の部位の厚みよりも厚い。導線圧着部7の厚肉部と他の部位は、軸方向に垂直な方向の外面の寸法が、軸方向に沿って略同一の寸法となるように圧縮されているため、厚肉部の圧縮率が、導線圧着部7の他の部位の圧縮率よりも小さい。圧縮率については詳細を後述する。
【0052】
本実施形態では、厚肉部は、導線圧着部7の先端側(導線圧着部7の端子本体3側)に形成される。ここで、導線圧着部7の先端側には、導線13を保持する電線保持部7aが設けられ、導線圧着部7の後端側には、導線13との導通を得るための導通部7bが設けられる。すなわち、導線圧着部7は、電線保持部7aと導通部7bとを有し、電線保持部7aは、導通部7bよりも厚みが厚い。
【0053】
なお、導線圧着部7の先端側(端子本体3側)に設けられる電線保持部7aは、導通部7bと比較して導線13の保持力が相対的に強く、導線圧着部7の後端側(被覆圧着部9側)に設けられる導通部7bは、導線13との導通を得るために形成される。
【0054】
図3(a)は、導線圧着部7の軸方向に垂直な断面図である。電線保持部7a(左図)と導通部(右図)は、略同一の外径であるが、前述したように、電線保持部7aは、導通部7bよりも厚みが厚いため、内径は小さくなる。すなわち、電線保持部7aにおける圧縮率(圧縮後の導線13の断面積/圧縮前の導線13の断面積)は、導通部7bにおける圧縮率よりも小さい。すなわち、電線保持部7aにおける圧縮量は、導通部7bにおける圧縮量よりも大きく、電線保持部7aは、強圧着される。このため、電線保持部7aにおける導線13の引張強度(接続強度)は、導通部7bにおける導線13の引張強度(接続強度)よりも強い。
【0055】
電線保持部7aでは、導線13が略円形に圧縮されて圧着される。なお、電線保持部7aの圧着後の形態は、必ずしも略円形でなくてもよいが、導通部7bの圧着後の断面形状は略円形であることが望ましい。
【0056】
なお、図3(a)に示す例では、導線13が7本の素線からなるが、導線13の素線数は特に限定されない。例えば、図3(b)に示すように、素線は16本であってもよい。なお、素線同士は互いに撚り合わせられていることが望ましい。
【0057】
また、被覆導線11は、複数の導線13(複数の導体素線)と、抗張力体とが被覆部15で被覆されていてもよい。抗張力体は、引張荷重に対して張力を受ける部材である。例えば、図3(c)に示すように、被覆導線11の長手方向に垂直な断面において、少なくとも1本の抗張力体17が被覆導線11の略中心に位置し、複数の導線13が抗張力体17の外周部に配置されていてもよい。この場合には、電線保持部7a及び導通部7bでは、導線13と抗張力体17の両方が圧着されて保持される。なお、抗張力体17と導線13とから構成される導線を、複合導体12とする。
【0058】
この際、抗張力体17の外周に配置されるそれぞれの導線13(素線)が、同一断面積の同一形状の導線13(素線)であってもよい。さらに、抗張力体17の外周部に、導線13が、被覆導線11の長手方向に螺旋状に撚られていてもよい。また、抗張力体17は、1本(一体)の抗張力線であってもよく、複数の素線からなってもよい。
【0059】
前述したように、電線保持部7aは強圧着される。このため、導線13の少なくとも一部が破断していてもよい。導線13の一部が破断することで、電気抵抗は増大するが、破断した導線13の隙間に抗張力体の繊維の一部等が入り込むことで、導線13の引き抜き抵抗を高めて、接続強度を確保することができる。一方、導通部7bにおいては、電気抵抗を低く保つため、導線13は破断していない。
【0060】
ここで、導線13の断面積(素線の断面積の総計)又は抗張力体17が用いられる場合には、複合導体12の断面積(導線13と抗張力体17の断面積の総計)は、0.35sq以下であることが望ましく、この場合には、端子1は、断面積が0.35sq以下の導線13を圧着可能であることが望ましい。さらには、導線13又は複合導体12の断面積(素線の断面積の総計又は導線13と抗張力体17の断面積の総計)は、0.3sq以下であることが望ましく、この場合には、端子1は、断面積が0.3sq以下の導線13を圧着可能であることが望ましい。また、例えば複合導体12が用いられる場合には、導線13と抗張力体17の断面積の総計は0.05sq以下であってもよい。導線13の断面積(または導線13と抗張力体17の断面積の総計)が小さいほど、本実施形態の効果が大きい。
【0061】
なお、抗張力体17は、鋼線などの金属線であってもよく、樹脂や繊維強化樹脂であってもよい。また、前述したように、抗張力体17としては、単線であってもよく、アラミド繊維などの複数の繊維を束ねたものであってもよい。このような抗張力体17を用いることで、例えば、複合導体12の断面積が0.05sq以下であっても、導線圧着部7における導線の引張強度として、50N以上を確保することができる。なお、このような複合導体としては、例えば表1のような電線を適用可能である。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。図4は、圧着前の端子1と被覆導線11を示す斜視図である。前述したように、端子1は、端子本体3と圧着部5とを有する。圧着部5は、導線圧着部7と被覆圧着部9とが一体で略円筒状に構成される。圧着部5は、例えば、板部材を丸めて端部同士を突き合わせて、長手方向に溶接やロウ付けによって接合される。
【0064】
また、前述したように、電線保持部7aの外面には板状部材が張り付けられて一体化される。すなわち、電線保持部7aの外径は、導通部7bの外径よりも大きい。一方、電線保持部7aと導通部7bの内径(サイズ)は略同一である。すなわち、導線圧着部7の内面側において、導線圧着部7の軸方向に対する厚肉部(電線保持部7a)と他の部位(導通部7b)との間に段差が形成されない。なお、内面において、厚肉部(電線保持部7a)と他の部位(導通部7b)との間には、加工時等における多少の段差が形成されてもよい。また、導線圧着部7と被覆圧着部9は、同一径であってもよいが、図示したように、被覆圧着部9の内径を導線圧着部7の内径よりも大きくしてもよい。なお、板状部材は、電線保持部7aの全周に配置されることが望ましいが、周方向に対して一部であってもよい。
【0065】
まず、前述したように、被覆導線11の先端部の被覆部15を剥離して、先端部の導線13を露出する。次に、図5(a)に示すように、端子1の圧着部5へ挿入する前に、導線13の先端部に端末処理部19を形成してもよい。端末処理部19は、導線13の各素線がばらけないように一体化する処理部である。
【0066】
図5(b)は、端末処理前における導線13の先端部の形態を示す図である。本実施形態では、被覆導線11の先端から見た際に、抗張力体17が略中央に配置され、その外周に導線13が配置される。導線13は複数の素線からなる。なお、本実施形態では、中央に抗張力体17を有する場合について説明するが他の被覆導線でも同様である。
【0067】
このような場合において、図5(b)に示すように、導線13の少なくとも先端部を、外周側から圧縮することで、端末処理部19を形成することができる。このように、導線13の先端部が外周側から圧縮されることで、素線がばらけることが抑制され、管状の圧着部5への挿入が容易である。
【0068】
また、図5(c)に示すように、導線13の少なくとも先端部に、一括してめっき処理を施して、めっき層21によって端末処理部19を形成してもよい。このように、導線13の先端部に外周から一括してめっき処理が施されていることで、素線がばらけることが抑制され、管状の圧着部5への挿入が容易である。
【0069】
なお、導線13の外周から一括してめっき処理を施す際に、めっき方法によっては高温になる場合がある。このようなめっき方法によって、導線13を撚った後に一括めっきを行うと、抗張力体17が熱により劣化して、引張強度が低下するおそれがある。
【0070】
このような場合には、図5(d)に示すように、それぞれの導体ごとにめっき層21を形成してから抗張力体17の外周に撚り合わせてもよい。また、図6に示すように、それぞれの導体ごとにめっき層21を形成し、さらに、複数の導体の先端部に外周から一括してめっき処理を施してもよい。この場合、導体ごとのめっきと、一括めっきの種類を変えてもよい。一括めっきを行うことで、導体のばらけを抑制することが可能であるが、導体を束ねて一括してめっき処理を行うと、導体の形状等の影響によって、部分的にめっきの厚い部分や薄い部分が生じてしまうおそれがある。これに対し、事前に導体ごとに下地めっき処置を行うことで、この影響を小さくして、略均一な一括めっきが可能となる。
【0071】
なお、端末処理部19は、圧縮やめっきによる方法には限られず、例えば、導線13の先端を半田処理や溶接処理によって素線のばらけを抑制してもよい。また、外周からの圧縮と一括めっきなどの複数の端末処理を併用してもよい。
【0072】
次に、このように先端部を処理した被覆導線11を、端子1の管状の圧着部5の後端部側から挿入する。被覆導線11の先端部を圧着部5へ挿入すると、導線圧着部7の内部には導線13の露出部が位置し、被覆圧着部9の内部には被覆部15が位置する。この際、導線13の先端が導線圧着部7の先端からはみ出してもよい。
【0073】
図7(a)は、端子付き電線10を製造するための端子圧着刃型の圧着前における上刃型31a、下刃型31b等を示す断面図、図7(b)は、圧着中の圧着部5を示す断面図である。上刃型31a、下刃型31bは、長手方向に延びる略半円柱状の空洞を有する。また、上刃型31aは、被覆圧着部9に対応するとともに被覆圧着部9の半径よりも僅かに小さい径の被覆圧着刃型34と、導線圧着部7に対応するとともに被覆圧着刃型34よりも径の小さい導線圧着刃型32とを備える。すなわち、上刃型31a、下刃型31bは、導線圧着部7と被覆圧着部9に対応するいずれの部位も、端子1を圧着した際に、略円形断面となるように形成される。
【0074】
なお、導通部7bは、被覆導線11と端子1との導通性を確保するため、電線保持部7aと比較して相対的に長さが長くてもよい。一方、電線保持部7aは、長さが短くても、確実に導線13もしくは抗張力体17と端子1とが適切な圧力で密着していれば、両者の強度は十分高くなるため、電線保持部7aは、導通部7bと比較して相対的に長さが短くてもよい。
【0075】
図7(b)に示すように、上刃型31aと下刃型31bを噛み合わせて、圧着部5を圧縮すると、導線圧着部7が導線13に圧着され、被覆圧着部9は、被覆部15に圧着される。この際、電線保持部7aが最も内径が小さくなり、次いで導通部7bの内径が小さく、被覆圧着部9の内径が最も大きくなる。以上により、端子付き電線10を得ることができる。さらに、得られた端子付き電線10を含む、複数の端子付き電線が一体化されたワイヤハーネスを得ることができる。
【0076】
なお、前述したように、電線保持部7aの圧縮率は、導通部7bの圧縮率よりも小さく、被覆圧着部9の圧縮率は、導通部7bの圧縮率よりも小さい。ここで、圧着工程前の被覆部15における断面積(被覆圧着部9の外周面に対する内側の全断面積)をA0とし、上刃型31aと下刃型31bによって圧縮された後の被覆圧着部9の内部の断面積をA2とすると、被覆圧着部9の圧縮率=A2/A0(%)である。
【0077】
同様に、圧着工程前の導線13の断面積(導線13の全断面積)をA1とし、上刃型31aと下刃型31bによって圧縮された後の導通部7b及び電線保持部7aの内部の断面積(導線13の全断面積)をそれぞれA3、A4とすると、電線保持部7aの圧縮率=A4/A1(%)であり、導通部7bの圧縮率=A3/A1(%)である。
【0078】
なお、抗張力体17は、導線13と比較して強度が高く変形しにくいため、圧縮時には、抗張力体17の断面積は大きく低下せず、主に導線13の変形(断面積減少)が進行する。
【0079】
また、圧縮時における抗張力体素線の移動によって、抗張力体17の外形が凹凸形状となることで、導線13と抗張力体17の接触面積が増え、摩擦力が大きくなる。このため、引張に対して導線13から抗張力体17へ力が伝わりやすくなり、導線13に引張力が付与された際の強度の上昇が見込める。
【0080】
なお、抗張力体17は、導線13と比較して変形量が少ないため、断面積の減少による破断は生じにくい。特に、導線圧着部7が管状であるため、導線13が全周から圧縮され、抗張力体17と導線圧着部7との間に導線13が配置され、抗張力体17と導線圧着部7が接触しないため、抗張力体17が損傷することもない。
【0081】
以上説明したように、本実施形態によれば、導線圧着部7が、電線保持部7aと導通部7bとを有するため、接続強度を確保するのに適した圧縮率で電線保持部7aを圧着し、導通を確保するのに適した圧縮率で導通部7bを圧着することができる。すなわち、電線保持部7aと導通部7bのそれぞれの圧縮率(圧縮量)を異なるようにすることができるため、各部を目的に適した圧縮率で圧着を行うことができる。
【0082】
より詳細には、導線圧着部7の先端部側(端子本体3側)を電線保持部7aとすることで、より強い圧着を行い、高い接続強度を確保することができる。この際、導線13の一部が破断してもよい。一方、導通部7bは、導線圧着部7の後端部側(被覆部15側)に配置されるため、仮に電線保持部7aにおいて、導線13の一部が破断しても、被覆導線11と端子1との導通を確保することができる。
【0083】
また、電線保持部7aは、外面側に板状部材が張り付けられており、外径が大きい。このため、通常の端子付き電線の圧着と同様の作業で圧着作業を行うことで、電線保持部7aと導通部7bの圧縮率を適切に代えることができる。このため、作業が容易である。また、圧着前において、厚肉部が外面側に形成されるため、電線保持部7aと導通部7bとを同一径となるように圧着しても、圧着後の外面においては、電線保持部7aと導通部7bの境界部にわずかに段差等(マーク)が形成される。このため、外観において、電線保持部7aと導通部7bを把握することができる。また、導線圧着部7の内面には、軸方向に対する段差が形成されないため、導線圧着部7に導線13を挿入するのが容易である。また、圧着時に電線保持部7aと導通部7bとの間の内面に、急激な段差が形成されることがないため、導線13が傷つくことを抑制することができる。
【0084】
なお、板状部材の厚みは一定でもよいが、先後端の厚みが徐々に薄くなるようにテーパ形状とすることで、厚みの急激な変化を抑制することができる。このようにすることで、圧着時に電線保持部7aと導通部7bとの間の内面の径変化をよりなだらかにすることができる。
【0085】
また、抗張力体17を含む被覆導線11にも適用可能であり、この場合、細径の被覆導線11であっても、高い接続強度を確保することができる。例えば、導線13の断面積が0.05sq以下であっても、電線保持部7aにおける導線13の引張強度を50N以上とすることができる。例えば、実際に、複合導体断面積0.05sqの被覆導線(導線材質:軟銅、抗張力体材質:PBO繊維)について、導体の圧縮率80%で圧着した結果、引張強度50N以上で、抵抗0.75mΩ以下の良好な結果を得ることができた。
【0086】
この際、抗張力体17と導線13の両方が一括して電線保持部7aで圧着されるため、抗張力体17と導線13とを別々に圧着する必要がなく、圧着作業も容易である。なお、抗張力体17を含む被覆導線11の場合において、断面の略中央に抗張力体17を配置し、外周に導線13を配置することで、圧着時に端子1と導線13とを確実に圧着し、端子1と導線13とを接触させることができる。
【0087】
また、導線圧着部7が略円筒状であるため、導線13の全周360°から確実に圧着することができる。このため、圧着時に、導線13へ局所的な応力(変形)が生じることを抑制することができる。
【0088】
ここで、抗張力体17の周囲に導線13が配置された被覆導線11の導線圧着部7においては、圧着された際に、導線圧着部7の内部には径方向に圧縮応力が作用する。この圧縮応力が小さい場合には、導線13と抗張力体17との接触面における摩擦力が、端子1と導線13との接触面における摩擦力よりも小さくなる。このために、端子付き電線10に引張荷重を与えた場合に、導線13に荷重が集中し、導線13が破断しやすくなる。
【0089】
一方、導線13と抗張力体17との接触面においては滑りが生じ、抗張力体17に圧縮応力が作用せず、抗張力体17は切断することなく抜ける現象が生じ、抗張力体17による引張強度が十分に発現しないおそれがある。上記のような現象を防ぎ、圧着により十分な圧縮応力を得るために、導線13と抗張力体17との間の摩擦力を増大させても良い。例えば、導線圧着部7の内面に凹凸を設けることで、部分的に抗張力体17への圧縮応力を高め、引き抜け防止することができる。
【0090】
さらには、本実施形態のように導線圧着部7が筒状であり、接合部にロウ付け部分がある場合には、硬度の低いロウ付け部は、導線13への圧縮応力が小さくなるため、抗張力体17が引き抜け易くなる。このため、ロウ付け部を除去するか、あるいは、ロウ付け部分がなく、導線圧着部7に形成される接合部の硬さを、導線圧着部7における材料の硬さと同等とすることが望ましい。
【0091】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図8は、第2の実施形態にかかる端子1aの圧着前の斜視図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能を奏する構成については、図1図7と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0092】
端子1aは、端子1と略同様の構成であるが、圧着部5の形態が異なる。端子1aは、導線圧着部7と被覆圧着部9が、いずれも略U字状に上方が開口したオープンバレル型である。この場合でも、導線圧着部7の先端側の外面の一部に板状部材が配置される。なお、板状部材は、バレル片の先端(上端)まで同じ長さに配置されればよいが、バレル片の先端よりも板状部材をはみ出すように配置してもよい。すなわち、板状部材の周方向の長さを、導線圧着部7の周方向長さ(一対のバレル片の先端同士の間の長さ)よりも長くしてもよい。また、板状部材の周方向の両端部において、厚みが徐々に薄くなるようなテーパ形状を形成してもよい。
【0093】
図9は、端子1aと被覆で導線13とを圧着した端子付き電線10aを示す斜視図、図10(a)は導通部7bの軸方向に垂直な断面図、図10(b)は、電線保持部7aの軸方向に垂直な断面図である。なお、図示した例では、導線13が抗張力体17の外周に配置された例を示すが、抗張力体17は必ずしも必須ではない。オープンバレル型の導線圧着部7では、導線圧着部7の上部において、対向する一対のバレル片が幅方向の略中央で突き合わせられて、導線圧着部7の内部側に折り込まれて導線13が圧着される。この際、図10(b)に示すように、板状部材の長さをバレル片よりも長めにしておくことで、板状部材の内側において、バレル片が過剰に導線13に食い込むことを抑制することができる。
【0094】
この場合でも、電線保持部7aと導通部7bとは、外径(圧縮高さ)が略同一であり、電線保持部7aは、板状部材の厚み分だけ、内径(内部の断面積)が導通部7bよりも小さい。このため、電線保持部7aの圧縮率が導通部7bの圧縮率よりも強くなる。
【0095】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、導線圧着部7がオープンバレル型であるため、例えば導線13を管状の圧着部へ挿入する必要がなく、端子1aの導線圧着部7へ導線13を容易に配置することができる。また、導線圧着部7の内部に段差が形成されていないため、導線13を配置する際に、導線13が段差に引っかかることもない。このため、圧着作業が容易である。
【0096】
また、板状部材の先端をバレル片(2重部分)よりもはみ出させておくことで、外側の板状部材によって、内側のバレル片が内部の導線13へ過剰に食い込むことを抑制することができる。
【0097】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。図11は、第3の実施形態にかかる端子1bの圧着前の斜視図である。端子1bは、端子1と略同様の構成であるが、圧着部5の形態が異なる。端子1bは、電線保持部7a、導通部7b、被覆圧着部9との間にスリットが形成される。すなわち、導線圧着部7と被覆圧着部9とが分離して形成される。
【0098】
端子1bも端子1と同様に圧着することができる。この場合には、被覆部15の端部が、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のスリット部に位置するように圧着すればよい。このように、導線圧着部7において、電線保持部7aと導通部7bを形成するように圧着することで、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0099】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。図12は、第4の実施形態にかかる端子1cを用いた端子付き電線10bの斜視図であり、図13は、軸方向断面図である。第1の実施形態から第3の実施形態では、板状部材を導線圧着部7の先端側に配置することで、厚肉部である電線保持部7aを形成したが、本実施形態では、板状部材が導線圧着部7の後端側(被覆圧着部9側)に配置される。すなわち、厚肉部7cが、導線圧着部7の後端側に形成される。
【0100】
このように、導線圧着部7の外面側の少なくとも一部に板状部材が重ね合わされて厚肉部7cが形成されるが、導線圧着部7の厚肉部7cと他の部位の外面は、略同一の径(圧縮高さ)である。このため、導線圧着部7の後端側(被覆部15側)の厚肉部7cの圧縮率が、導線圧着部7の先端側(端子本体3側)の圧縮率より小さい。
【0101】
次に、端子付き電線10bの製造方法について説明する。図14は、圧着前の端子1cと被覆導線11を示す斜視図である。端子1cの圧着部5は、周方向に閉じた管状である。圧着部5は、例えば、板部材を丸めて端部同士を突き合わせて、長手方向に溶接によって接合される。導線圧着部7の後端側の外面の少なくとも一部には、板状部材が配置されて厚肉部7cが形成される。なお、導線圧着部7の厚肉部7cの外径は、導線圧着部7の他の部位の外径よりも大きい。また、導線圧着部7の厚肉部7cと他の部位の内面は、略同一のサイズ(同一径)である。すなわち、導線圧着部7の内面側において、導線圧着部7の軸方向に対する厚肉部7cと他の部位との間に段差が形成されない。
【0102】
まず、前述したように、被覆導線11の先端部の被覆部15を剥離して、先端部の導線13を露出する。次に、被覆導線11の先端を、圧着部5へ挿入する。この際、導線13の先端部に端末処理部を形成してもよい。
【0103】
次に、被覆導線11を圧着部5に配置した端子1cを金型にセットする。図15(a)、図15(b)は、圧着中における端子付き電線10bを製造するための端子圧着刃型の上刃型31a、下刃型31b等を示す断面図である。前述したように、上刃型31a、下刃型31bは、長手方向に延びる略半円柱状の空洞を有する。また、上刃型31aは、被覆圧着部9に対応するとともに被覆圧着部9の半径よりも僅かに小さい径の被覆圧着刃型34と、導線圧着部7に対応するとともに被覆圧着刃型34よりも径の小さい導線圧着刃型32とを備える。すなわち、上刃型31a、下刃型31bは、導線圧着部7と被覆圧着部9に対応するいずれの部位も、端子1cを圧着した際に、略円形断面となるように形成される。
【0104】
図15(a)に示すように、上刃型31aを降下させて圧着を開始した際、まず、厚肉部7cの圧着が、他の部位よりも先に開始する。すなわち、厚肉部7cの圧着が開始された段階では、導線13の先端側の他の部位では、まだ圧着が開始されない状態となる。最初に圧着が開始された厚肉部7cは、他の部位(導線圧着部7の先端側の一部)と比較して先に強く押圧されるため、他の部位が圧着された際には、他の部位と比較して導線13の伸び(移動)が規制される。このため、導線13は、先端側に向かって優先的に伸び、後端側への伸びが抑制される。この結果、導線13が導線圧着部7の後方へ伸びて、外方へ広がることを抑制することができる。
【0105】
図15(b)に示すように、この状態から、さらに上刃型31aを降下させると、上刃型31aと下刃型31bが噛み合い、導線圧着部7と導線13とが完全に圧着される。すなわち、圧着部5を圧縮すると、導線圧着部7が導線13に圧着され、被覆圧着部9は、被覆部15に圧着される。
【0106】
例えば、管状の導線圧着部7では、略円形に導線13が圧着される。すなわち、端子1は、被覆導線11と電気的に接続される。なお、この場合でも、前述したように、厚肉部7cの圧縮率A4/A1(%)は、他の部位の圧縮率A3/A1(%)よりも小さく、被覆圧着部9の圧縮率A2/A0(%)は、導通部7bの圧縮率よりも小さい。
【0107】
以上説明したように、第4の実施形態によれば、第1~第3の実施形態と同様に、従来と同じ上刃型31aと下刃型31bを用いても、厚肉部7cを形成することで、導線圧着部7の部位によって圧縮量を変えることができる。また、従来の方法では、圧着時に、抗張力体17に対して導線13が優先的に変形するため、導線13が導線圧着部7の先後端側に伸びるが、本実施形態のように、最初に導線圧着部7の後端側の厚肉部7cの圧着を開始することで、それよりも先端側の導線13の後端側への伸びを抑制することができる。このため、導線圧着部7の後端側において、導線13が広がることを抑制することができる。
【0108】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。図16は、第5の実施形態にかかる端子1dの圧着前の斜視図である。端子1dは、端子1cと略同様の構成であるが、圧着部5の形態が異なる。端子1dは、導線圧着部7と被覆圧着部9が、いずれも略U字状に上方が開口したオープンバレル型である。
【0109】
この場合でも、導線圧着部7の後端側の外面の一部に板状部材が配置される。なお、板状部材は、バレル片の先端まで配置されればよいが、板状部材をバレル片の先端部からはみ出すようにしてもよい。すなわち、板状部材の周方向の長さを、導線圧着部7の周方向長さ(一対のバレル片の先端同士の間の長さ)よりも長くしてもよい。また、板状部材の周方向の両端部において、厚みが徐々に薄くなるようなテーパ形状を形成してもよい。
【0110】
第5の実施形態によれば、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、導線圧着部7がオープンバレル型であるため、例えば導線13を管状の圧着部へ挿入する必要がなく、端子1dの導線圧着部7へ導線13を容易に配置することができる。また、導線圧着部7の内部に段差が形成されていないため、導線13を配置する際に、導線13が段差に引っかかることもない。このため、圧着作業が容易である。
【0111】
また、板状部材の先端をバレル片(2重部分)よりもはみ出させておくことで、外側の板状部材によって、内側のバレル片が内部の導線13へ過剰に食い込むことを抑制することができる。
【0112】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。図17は、第6の実施形態にかかる端子1eの圧着前の斜視図である。端子1eは、端子1cと略同様の構成であるが、圧着部5の形態が異なる。端子1eは、導線圧着部7において、厚肉部7cと他の部位の間と、導線圧着部7と被覆圧着部9との間にスリットが形成される。すなわち、導線圧着部7と被覆圧着部9とが分離して形成される。
【0113】
端子1eも端子1cと同様に圧着することができる。この場合には、被覆部15の端部が、導線圧着部7と被覆圧着部9の間のスリット部に位置するように圧着すればよい。このように、導線圧着部7の後端側に厚肉部7cを形成して圧着することで、第4の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0114】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0115】
例えば、各実施形態は互いに組み合わせることができる。例えば、導線圧着部7を筒状として、被覆圧着部9をオープンバレル型としてもよい。
【0116】
また、板状部材は、導線圧着部7の先端側と後端側に配置する実施形態について説明したが、先端側又は後端側とは、必ずしも導線圧着部7の先端又は後端と板状部材の端部とが一致する場合には限られない。例えば、第1~第3の実施形態において、図18(a)に示す端子付き電線10cのように、端子1fは、厚肉部7cが、導線圧着部7の先端からわずかに軸方向中央寄りにずれていてもよい。同様に、第4~第6の実施形態において、図18(b)に示す端子付き電線10dのように、端子1gは、厚肉部7cが、導線圧着部7の後端からわずかに軸方向中央寄りにずれていてもよい。また、厚肉部は、端子素材に板状部材を張り付けるのではなく、端子素材自体の厚みを変えて、外面側に突出するように形成してもよい。
【符号の説明】
【0117】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g………端子
3………端子本体
4………トランジション部
5………圧着部
7………導線圧着部
7a………電線保持部
7b………導通部
7c………厚肉部
9………被覆圧着部
10、10a、10b、10c、10d……端子付き電線
11………被覆導線
12………複合導体
13………導線
15………被覆部
17………抗張力体
19………端末処理部
21………めっき層
31a………上刃型
31b………下刃型
32………導線圧着刃型
34………被覆圧着刃型
図1
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