IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特開2023-80633包装用多層フィルム、これを用いる包装材
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080633
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】包装用多層フィルム、これを用いる包装材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230602BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194078
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】アウリア アウェルロース
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AC07
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB02
3E086BB13
3E086BB51
3E086CA01
3E086CA28
3E086CA35
4F100AA17A
4F100AB09A
4F100AK02B
4F100AK05C
4F100AK07D
4F100AK63A
4F100AK63C
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10D
4F100GB15
4F100GB23
4F100JC00
4F100JC00A
4F100JD04
4F100JD04A
4F100JL12A
(57)【要約】
【課題】水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌性能を発揮することができる多層フィルムと、これを用いる包装材を提供する。
【解決手段】シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、多層フィルムのシール層側表面のpHが8.5以上かつ多層フィルムの水蒸気透過度が9g/m/24時間以下であることを特徴とする多層フィルムによって、これを解決する。本発明の多層フィルム及びこれを用いた包装材は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌性及び防カビ性を発揮し、食品の可食期間延長を達成することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面のpHが8.5以上かつ前記多層フィルムの水蒸気透過度が9g/m/24時間以下であることを特徴とする、多層フィルム。
【請求項2】
前記多層フィルムが、さらに環状オレフィン系樹脂層を有する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記環状オレフィン系樹脂層の厚みが2μm以上である、請求項2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
シール層と環状オレフィン系樹脂層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含むことを特徴とする、多層フィルム。
【請求項5】
前記シール層の厚みと前記抗菌剤の粒子径の比率が、1:8~8:1である、請求項1~4のいずれかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
請求項1 5のいずれかに記載の多層フィルムを有する包装材。
【請求項7】
食品包装用である、請求項6に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等を包装する包装材に関するものであって、包装する食品に水分が少ない場合でも高い抗菌性や防カビ性と安全性を両立し、食品の可食期間延長を達成する多層フィルム及び当該多層フィルムからなる包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、賞味期限又は消費期限の切れた食品や鮮度の低下した青果物の廃棄が、フードロスとして問題になっている。また、家庭では食品包装を開封後に再封して残った食品を保存する場合があるが、そういった食品にはカビが生えることがあり、カビの生えた食品は廃棄されてしまう。そのため、食品の鮮度及び衛生性を保ち、食品の可食期間を延ばすための包装材の需要が高まっている。
【0003】
食品の可食期間を延ばす包装材として、抗菌剤を含むフィルムが検討されている。食品包装材に抗菌剤を添加する場合、抗菌剤には内部に収容する食品や人体に接触しても問題のない安全性が求められる。
貝殻あるいは卵殻等の原料を焼成した粉末は、安全性の高い抗菌性添加剤として知られている。これら焼成粉末の主成分である水酸化カルシウムは、水分と反応して水酸化物イオンを発生させるため、pHが10以上の強アルカリ環境を作ることができる。ウイルス類や細菌類、カビの原因となる真菌類等は、強アルカリ環境では不活化されるため、水酸化カルシウムを含む抗菌剤は、抗菌・抗ウイルス・防カビ効果を発揮する。
【0004】
このような水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含む包装材として、特許文献1が知られている。特許文献1の食品包装用フィルムは、可塑性樹脂を主体とするフィルム又はシートからなり、貝殻を高温焼成し、水和して得られた水酸化カルシウムを主体とする抗菌性粉末を含有する抗菌層を有している。
【0005】
また、水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含む包装材として、特許文献2が知られている。特許文献2の食品包装フィルムは、最外層として第1樹脂と水酸化カルシウム粒子とを含む第1樹脂層を備え、前記第1樹脂は、エチレン-プロピレン-ブテン三元共重合体を含む食品包装用フィルムであり、野菜等の生鮮食品が、雑菌の作用によって発酵したり、腐敗したりすることを抑制する。
【0006】
さらに、水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含む包装材として、特許文献3が知られている。特許文献3の食品包装容器は、樹脂製の基材層と機能層とを積層してなる抗菌容器であって、前記機能層は、樹脂層に抗菌性粉末を配合して形成され、前記抗菌性粉末は、貝殻及び卵殻のうち少なくとも一方に由来する水酸化カルシウムを含有する。
【0007】
しかし、これら従来の水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含む包装材は、レタスやサラダといった水分を十分に含む食品に対して適用されていた。一方、パン等の水分の比較的少ない食品を包装する場合は、水酸化カルシウムと反応する水分が乏しくなることから、抗菌性能が落ちてしまう。すなわち、従来の水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含む包装材は、包装する食品によっては十分な抗菌性を発揮できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-030842号公報
【特許文献2】特開2020-196489号公報
【特許文献3】特開2019-014500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌性能を発揮することができる多層フィルムと、これを用いる包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意研究した結果、シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、多層フィルムのシール層側表面のpHが8.5以上かつ多層フィルムの水蒸気透過度が9g/m/24時間以下である多層フィルムが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、シール層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面のpHが8.5以上かつ前記多層フィルムの水蒸気透過度が9g/m/24時間以下であることを特徴とする、多層フィルムを提供する。
【0012】
また、本発明は、前記多層フィルムが、さらに環状オレフィン系樹脂層を有する多層フィルムを提供する。
【0013】
また、本発明は、前記環状オレフィン系樹脂層の厚みが2μm以上である多層フィルムを提供する。
【0014】
また、本発明は、シール層と環状オレフィン系樹脂層を含む多層フィルムであって、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含むことを特徴とする、多層フィルムを提供する。
【0015】
また、本発明は、前記シール層の厚みと前記抗菌剤の粒子径の比率が、1:8~8:1である多層フィルムを提供する。
【0016】
また、本発明は、上記の多層フィルムを有する包装材、及び食品包装用の包装材を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多層フィルム及びこれを用いた包装材は、水分の比較的少ない食品を包装した場合であっても、抗菌性及び防カビ性を発揮し、食品の可食期間延長を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の多層フィルムとこれを用いてなる包装材を構成する各部分について詳述する。
【0019】
<シール層>
本発明の多層フィルムは、シール層を含む。当該シール層は、本発明の多層フィルムの一方の面の表面層を構成し、内部に収容する食品等に直接接触する層である。
また、当該シール層は水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、抗菌効果を有する。
【0020】
本発明の多層フィルムのシール層は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。当該ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等が挙げられ、当該多層フィルムの当該シール層以外の層と積層できる樹脂であれば、特に限定されない。
【0021】
上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられ、それぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。中でも、線状低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0022】
上記線状低密度ポリエチレンとしては、シングルサイト触媒を用いた低圧ラジカル重合法により、エチレン単量体を主成分として、これにコモノマーとしてブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン等のα-オレフィンを共重合したものである。LLDPE中のコモノマー含有率としては、0.5~10モル%の範囲であることが好ましく、1~7モル%の範囲であることがより好ましい。なお、コモノマーとしてブテン-1を用いた場合、透明性、耐衝撃性、易引き裂き性等が向上するので好ましく、このとき該ブテン単量体の含有率は、1~5モル%の範囲であることが最も好ましい。
【0023】
上記シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せ等のメタロセン触媒系等の種々のシングルサイト触媒が挙げられる。また、シングルサイト触媒は活性点が均一であるため、活性点が不均一なマルチサイト触媒と比較して、得られる樹脂の分子量分布がシャープになるため、フィルムに成膜した際に低分子量成分の析出が少なく、シール強度の安定性や耐ブロッキング適性に優れた物性の樹脂が得られるので好ましい。
【0024】
また、上記ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRとも呼称する場合がある)(190℃における)が0.5~30.0g/10分であるものが、押出成形が容易となることから好ましく、より好ましくはMFRが2.0~15.0g/10分のものである。更に、当該ポリエチレン系樹脂が、融点が80~135℃のものであれば、ヒートシール時のフィルムの収縮が起こりにくく、包装適性が向上する。より好ましくは融点が90~130℃のものである。
【0025】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。当該ポリプロピレン系樹脂を本発明に使用するシール層に用いた場合には、フィルムの耐熱性が向上し、ヒートシール強度を高くすることができるため、特に重量物の包装材として好適に用いることが出来る。
【0026】
また、上記ポリプロピレン系樹脂は、MFR(230℃における)が0.5~30.0g/10分で、融点が120~165℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃における)が2.0~15.0g/10分で、融点が125~162℃のものである。MFR及び融点が当該範囲であれば、ヒートシール時のフィルムの収縮が少なく、更にフィルムの成膜性も向上する。
【0027】
<水酸化カルシウムを含む抗菌剤>
本発明に使用する抗菌剤は、貝殻あるいは卵殻を焼成した後水和して得られる、水酸化カルシウムを含む抗菌剤である。抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムは、抗菌剤全体に対して40質量%以上であることが好ましい。抗菌剤に含まれる水酸化カルシウムの比率が当該比率であると、十分な抗菌効果を発揮することができる。
材料として用いられる当該貝殻は、ホタテ貝殻、アワビ貝殻、サザエ貝殻、ホッキ貝殻、ウニ貝殻等や、珊瑚殻等が挙げられ、これらは天然であっても養殖であってもよい。中でも、貝殻組成が均一である点及び供給量が多い等の点から、ホタテ貝殻を使用することが好ましい。
【0028】
抗菌剤の製造は、当業者に既知の方法により実施することができる。例えば、貝殻を特殊電気炉等により850~1200℃で高温焼成し、貝殻に含まれる炭酸カルシウムを酸化カルシウムに変換した後、水和させることで、水酸化カルシウムを含む抗菌剤を製造することができる。また、市販の抗菌剤を使用することもできる。市販の水酸化カルシウムを含む抗菌剤としては、スカロープレミアム、スカロープレミアムS、スカロープレミアムHK、スカロープレミアムR(全てWM株式会社製)、ホタテ貝殻焼成パウダー(ユニセラ株式会社)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明に使用する抗菌剤の配合量は、本発明に使用するシール層全質量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが特に好ましい。当該シール層にこの範囲で当該抗菌剤を使用することで、優れた抗菌効果を得ることができる。また、当該配合量の上限は、当該シール層全質量に対して20質量%未満であることが好ましく、15質量%未満であることがより好ましく、10質量%未満であることが特に好ましい。当該シール層が当該抗菌剤をこの範囲で使用すると、本発明の多層フィルムの透明性と抗菌効果を両立することができる。
【0030】
(抗菌剤の粒子径)
本発明に使用する水酸化カルシウムを含む抗菌剤の粒子径は、当該抗菌剤の焼成又は水和の過程で、種々の粉砕機により粉砕処理を行うことで調整することができる。当該抗菌剤の粒子径の好ましい範囲としては、下限が0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが特に好ましい。当該下限が好ましい範囲であれば、当該抗菌剤をマスターバッチ化する際にメッシュ詰まりを起こしづらくなる。また、当該上限は1000μm未満であることが好ましく、100μm未満であることがより好ましく、20μm未満であることが特に好ましい。当該上限が好ましい範囲未満であれば、樹脂に混合する際に均一に分散させることができ、また多層フィルム化した時に透明性を維持しやすくなる。
【0031】
抗菌剤の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定器(株式会社セイシン企業製 LMS-2000e)によって測定することができる。具体的な測定方法として、当該抗菌剤の粒子を水槽中のIPA溶媒に分散させ、前述の装置を用いて、光の回折散乱強度分布を測定及び解析し、粒子径及び体積基準の粒子分布を測定することにより算出できる、D50の値を、抗菌剤の粒子径とすることができる。
【0032】
<シール層の厚みと抗菌剤の粒子径の比率>
本発明に使用するシール層の厚みと本発明に使用する抗菌剤の粒子径の比率は、1:8~8:1であることが好ましく、1:2~2:1であることが特に好ましい。当該シール層の厚みと当該抗菌剤の粒子径の比率が好ましい範囲であるとき、本発明の多層フィルムが良好な抗菌効果を発揮する理由は定かでないが、発明者は次のように推測している。すなわち、当該シール層の厚みより当該抗菌剤の粒子径の方が大きいため、当該シール層中の当該抗菌剤が当該シール層から突出し、当該多層フィルムの当該シール層側表面に突出した抗菌剤が分布することになる。その結果、少量の抗菌剤で高い抗菌効果を得ることができる。
【0033】
本発明に使用する抗菌剤をフィルムに添加するために、予め樹脂と混合した抗菌剤マスターバッチを製造しておくことが好ましい。当該樹脂は、シール層に用いられる樹脂であることが、当該抗菌剤マスターバッチとシール層に用いられる樹脂を混合しやすくなるため好ましい。
また、当該抗菌剤マスターバッチとのシール層に用いられる樹脂との混合方法は、特に限定されず、従来公知の方法で混合することができる。例えば、ドライブレンドでもよいし、メルトブレンドでもよい。なかでもメルトブレンドが好ましく具体的には、例えば当該抗菌剤マスターバッチを、押出機等の溶融混練装置に当該抗菌剤と当該樹脂をメルトブレンドにてコンパウンドし、ペレット化して製造することが好ましい。また、抗菌剤マスターバッチは、市販の抗菌剤マスターバッチを使用してもよい。市販の抗菌剤マスターバッチとしては、スカロープレミアム抗菌剤PEマスターバッチ(WM株式会社)等が挙げられる。
【0034】
<環状オレフィン系樹脂層>
本発明の多層フィルムは、環状オレフィン系樹脂層を含むことが好ましい。当該環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂を主成分とする。すなわち当該環状オレフィン系樹脂層全質量に対し、環状オレフィン系樹脂を60質量%以上含む。
【0035】
上記環状オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」と称する場合がある)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」と称する場合がある)等が挙げられる。COP及びCOCの水素添加物が特に好ましい。また、当該環状オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0036】
上記ノルボルネン系重合体と原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0037】
上記ノルボルネン系共重合体(COC)は、上記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したものであり、このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数2~20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。これらのオレフィンは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。
【0038】
また、上記ノルボルネン系共重合体(COC)中のノルボルネン系単量体の含有比率は、40~90モル%が好ましく、より好ましくは50~80モル%である。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性が向上する。
【0039】
上記環状オレフィン系樹脂として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、チコナ(TICONA)社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0040】
本発明に使用する環状オレフィン系樹脂層中の上記環状オレフィン系樹脂の含有率は60質量%以上であることが好ましく、縦方向と横方向との引き裂き性により優れる観点から80質量%以上であることが好ましい。
また、当該環状オレフィン系樹脂層に、本発明の効果を損なわない範囲において環状オレフィン系樹脂以外の樹脂が含まれていてもよく、当該環状オレフィン系樹脂以外の樹脂としては、当該環状オレフィン系樹脂と混合できる樹脂であれば、特に限定されない。例えば、低密度ポリエチレン系樹脂との混合物、高密度ポリエチレン樹脂との混合物、又は低密度ポリエチレン系樹脂と高密度ポリエチレン系樹脂と環状ポリオレフィン系樹脂との混合物であっても良い。
【0041】
<環状オレフィン系樹脂層の厚み>
本発明に使用する環状オレフィン系樹脂層の厚みは、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが特に好ましい。当該環状オレフィン系樹脂層の厚みが2μm以上であると、当該層が水蒸気バリア機能を発揮するため、内容物から発散する水蒸気が本発明の包装体外部に逃げにくくなり、当該内容物から発散する水蒸気が無駄なく水酸化カルシウムを含む本発明に使用する抗菌剤と反応し、強アルカリ環境を作り、優れた抗菌効果を発現すると推定される。
また、本発明の多層フィルムは、当該環状オレフィン系樹脂層により、環状オレフィン系樹脂以外の樹脂を使用した多層フィルムより厚みが薄くても、水蒸気バリア機能を発現することができる。そのため、経済性の観点や、環境配慮のため薄膜化が求められている包装用フィルムに対して、特に有用である。
【0042】
(最外層)
本発明の多層フィルムは、シール層及び環状オレフィン系樹脂層の他に、当該シール層ではない他方の表面層として、最外層を含んでいることが好ましい。
当該最外層で用いる樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂が好ましい。当該ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン共重合体が挙げられる。当該プロピレン単独重合体としては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタックチックポリプロピレンを挙げることができるが、この内ではアイソタクチックポリプロピレンが好ましい。
【0043】
上記その他のα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、1-オクテン、1-ヘプテン、4-メチル-ペンテン-1、4-メチル-ヘキセン-1等が挙げられ、これらの2種以上を同時に共重合したものであっても良い。共重合形式としてはランダム共重合、ブロック共重合のいずれもでも使用できる。中でも、エチレンとの共重合体であることが好ましい。
また、共重合体における当該その他のα-オレフィンの含有率としては、2.0~23モル%が好ましく、より好ましくは2.5~15モル%である。
【0044】
上記最外層に用いる樹脂としては上記ポリプロピレン系樹脂を50質量以上含むことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリプロピレン系樹脂以外のその他の樹脂を併用しても良い。70質量%以上が当該ポリプロピレン系樹脂であることが好ましく、90質量%以上が当該ポリプロピレン系樹脂であることが特に好ましい。
【0045】
(中間層)
本発明の多層フィルムは、シール層及び環状オレフィン系樹脂層の他に、当該シール層と上記最外層の間に位置する中間層を含んでいてもよい。当該中間層は、オレフィン系樹脂を含むことが好ましい。
【0046】
上記中間層で用いるオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が挙げれられる。当該ポリエチレン系樹脂としては、低密度ポリエチレン系樹脂、高密度ポリエチレン系樹脂が挙げられる。
【0047】
上記低密度ポリエチレン系樹脂としては、密度が0.900~0.940g/cmのポリエチレン系樹脂であればよく、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリエチレン樹脂や、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられる。これらの中でも易引き裂き性と耐ピンホール性とのバランスが良好なことから低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0048】
上記低密度ポリエチレンとしては、高圧ラジカル重合法で得られる分岐状低密度ポリエチレンであれば良く、好ましくは高圧ラジカル重合法によりエチレンを単独重合した分岐状低密度ポリエチレンである。
【0049】
上記線状低密度ポリエチレンとしては、シングルサイト触媒を用いた低圧ラジカル重合法により、エチレン単量体を主成分として、これにコモノマーとしてブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン等のα-オレフィンを共重合したものである。LLDPE中のコモノマー含有率としては、0.5~10モル%の範囲であることが好ましく、1~7モル%の範囲であることがより好ましい。なお、コモノマーとしてブテン-1を用いた場合、透明性、耐衝撃性、易引き裂き性等が向上するので好ましく、このとき該ブテン単量体の含有率は、1~5モル%の範囲であることが最も好ましい。
【0050】
上記シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せ等のメタロセン触媒系等の種々のシングルサイト触媒が挙げられる。また、シングルサイト触媒は活性点が均一であるため、活性点が不均一なマルチサイト触媒と比較して、得られる樹脂の分子量分布がシャープになるため、フィルムに成膜した際に低分子量成分の析出が少なく、耐ブロッキング適性や中間層とシール層が隣接した場合のシール強度の安定性に優れた物性の樹脂が得られるので好ましい。
【0051】
上記低密度ポリエチレン系樹脂の密度は前述の通り0.900~0.940g/cmであるが、0.905~0.935g/cmの範囲であることがより好ましい。密度がこの範囲であれば、適度な剛性を有し、耐ピンホール性等の機械強度も優れ、フィルム成膜性、押出適性が向上する。また、融点は95~120℃の範囲であることが好ましく、100~130℃がより好ましい。融点がこの範囲であれば、加工安定性が向上する。また、当該低密度ポリエチレン系樹脂のMFR(190℃、21.18N)は2~20g/10分であることが好ましく、3~10g/10分であることがより好ましい。MFRがこの範囲であれば、フィルムの押出成形性が向上する。
【0052】
上記の低密度ポリエチレン系樹脂は機械強度が弱いため、他のポリオレフィン系樹脂と比べて比較的もろく引き裂き性が良好になる。また接着性樹脂等を使用することなく、中間層以外のその他の層との層間接着強度も保持でき、柔軟性も有しているため、耐ピンホール性も良好となる。さらに、耐ピンホール性を向上させる場合は線状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0053】
上記高密度ポリエチレン系樹脂は、易引き裂き性、包装適性向上のために使用するものであり、密度0.950g/cm以上のポリエチレンであればよく、中でも密度0.955g/cm以上のポリエチレンであることが好ましい。
【0054】
また、上記高密度ポリエチレン系樹脂としては、一般にフィルム成形等の押出成形で用いられる高密度ポリエチレン(HDPE)、例えばMFR(190℃)が5~20g/10分の流動性の良好な高密度ポリエチレンであることが、上記低密度ポリエチレン系樹脂と共に溶融混練して押出成形した場合に比較的分散が良好になり、表面が平滑で透明性の良いフィルムが得られることから好ましい。
【0055】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、上記最外層に用いることのできるポリプロピレン系樹脂と同様のものを挙げることができる。
【0056】
上記中間層の樹脂成分としては、上記低密度ポリエチレン系樹脂と、上記高密度ポリエチレン系樹脂を併用することが好ましい。
当該中間層中の上記低密度ポリエチレン系樹脂の含有率は25~65質量%であることが好ましく、縦方向と横方向との引き裂き性により優れる観点から35~65質量%含有することが特に好ましい。また、上記高密度ポリエチレン系樹脂の中間層中の含有率としては、透明性・平滑性・水蒸気透過性の観点並びに中間層以外のその他の層との接着強度の観点から35~75質量%であることが好ましく、35~65質量%であることがより好ましい。
【0057】
<多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、シール層を含み、前記シール層に水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含み、多層フィルムのシール層側表面のpHが8.5以上かつ多層フィルムの水蒸気透過度が9g/m/24時間以下である。
【0058】
<シール層側表面のpH>
本発明の多層フィルムは、本発明に使用するシール層側表面のpHが8.5以上である。当該シール層側表面のpHとは、フィルムの当該シール層側表面に、300μL以上の超純水を垂らしてアズワン株式会社製平面型pH計(FPH70)でpHを測定した測定結果を指す。
【0059】
本発明に使用する抗菌剤の主成分である水酸化カルシウムは、水分と反応して水酸化物イオンを発生させるため、強アルカリ環境を作ることができる。ウイルス類や細菌類、カビの原因となる真菌類等は、強アルカリ環境では不活化されるため、水酸化カルシウムを含む抗菌剤は、抗菌・抗ウイルス・防カビ効果を発揮する。
したがって、当該シール層側表面のpHが8.5以上であることは、本発明に使用する抗菌剤が水酸化物イオンを発生させ、抗菌効果が発揮されていることを意味する。
【0060】
上記pHが8.5以上のとき、アオカビ等の真菌の生存可能pH以上となるため、防カビ効果を発揮できる。また、当該pHが9以上であれば、大腸菌や黄色ブドウ球菌といった細菌の生存可能pH以上となり、抗菌効果が高くなる。さらに、当該pHが11以上であると、ノロウイルスやインフルエンザウイルス等のウイルスの生存可能pH以上となるため、抗ウイルス効果を発現する。
【0061】
<多層フィルムの水蒸気透過度>
本発明の多層フィルムの水蒸気透過度とは、水蒸気透過度計(システックイリノイ社製、LyssyL80-5000)を用いて、JIS K7129Aに準じて、40℃、90%RH、測定時間24時間の条件で測定した測定結果である。この場合の単位は、「g/m/24時間」である。
【0062】
本発明の多層フィルムの水蒸気透過度は、9g/m/24時間以下であることが好ましい。当該水蒸気透過度が低いと、抗菌効果が高まる。その理由は定かでないが、当該水蒸気透過度が低いと、内容物から発散する水蒸気が本発明の包装体外部に逃げにくくなり、当該内容物から発散する水蒸気が無駄なく水酸化カルシウムを含む本発明に使用する抗菌剤と反応し、強アルカリ環境を作るためと推測している。
【0063】
(多層フィルムの層構成)
本発明の多層フィルムは、シール層を含み、環状オレフィン系樹脂層を含むことが好ましい。また、本発明の多層フィルムにおいて、当該シール層に含まれる抗菌剤が隣接する層へ移行することを防ぐため、当該シール層に隣接する層は、当該シール層と異なる樹脂を主成分とする層であることが好ましい。中でも、水蒸気透過度の観点から、当該シール層に隣接する層が、環状オレフィン系樹脂層であることが好ましい。
【0064】
当該多層フィルムの層構成としては、最外層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/中間層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/環状オレフィン系樹脂層/中間層/シール層、最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/中間層/シール層等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、最外層/環状オレフィン系樹脂層/シール層と積層したものであることが好ましく、最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層と積層したものであることも好ましい。
【0065】
前述の通り、当該シール層の厚みと、本発明に使用する水酸化カルシウムを含む抗菌剤の粒子径との比率は、1:8~8:1であることが好ましい。当該抗菌剤の粒子径の好ましい範囲は2μmから20μmであるから、したがって、当該シール層の厚みは、2.5μmから16μmであることが好ましい。
また、前述の通り、当該環状オレフィン系樹脂層の厚みは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。
【0066】
当該最外層の厚みは、フィルムの剛性・包装適正・透明性・表面光沢及び横方向の引き裂き容易性の観点から、本発明の多層フィルムの全厚の5~35%であることが好ましく、より好ましくは6~25%である。
当該中間層の厚みは、本発明の多層フィルムの全厚の30~80%の範囲であることが好ましく、より好ましくは35~70%である。当該多層フィルムの全厚に対する中間層の厚さの比率がこの範囲であれば、透明性、引き裂き性、耐ピンホール性、ヒートシール性が向上する。
【0067】
さらに、本発明の多層フィルムは、フィルムの厚さが15~90μmのものが好ましく、より好ましくは20~80μmである。フィルムの厚さがこの範囲であれば、安定したシール強度、包装機械適性、優れた耐ピンホール性能、易引き裂き性能等が得られる。
【0068】
本発明の多層フィルムの上記各層には、必要に応じて、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、当該多層フィルムの表面となる最外層及びシール層の摩擦係数は1.5以下、中でも1.0以下であることが好ましいので、当該最外層及び当該シール層には、滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加することが好ましい。
【0069】
(多層フィルムの製造方法)
本発明の多層フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、最外層、中間層、環状オレフィン系樹脂層、シール層に用いる各樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。さらに、本発明の中間層で用いる低密度ポリエチレン系樹脂と、高密度ポリエチレンの軟化点(融点)の差が大きいため、相分離やゲルを生じることがある。このような相分離やゲルの発生を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0070】
また、上記樹脂混合物を各層に積層する場合、ドライブレンドした当該樹脂混合物を直接、共押出機により押出すことで積層させることができる。あるいは、当該樹脂混合物を事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサーなどの溶融混練装置を用いてメルトブレンドしたものをペレット化し、共押出機を用いて押出すことで積層させることもできる。
【0071】
本発明の多層フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形も可能となる。
【0072】
さらに、印刷インキとの接着性、ラミネート適性を向上させるため、上記最外層に表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の表面凹凸処理を挙げることができるが、好ましくはコロナ処理である。
【0073】
<包装材>
本発明の多層フィルムからなる包装材としては、食品、薬品、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。本発明の効果を活かすために、内容物は食品であることが好ましく、中でも水分の比較的少ない食品であることが特に好ましい。当該水分の比較的少ない食品とは、水分活性値(Aw)が0.95以下の食品を指し、例えば餅、食パン、魚肉練り製品、米、菓子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の多層フィルムは、水分活性値(Aw)が0.95以下の食品であっても、好適な抗菌機能を発揮することができる。
【0074】
上記包装袋は、本発明の多層フィルムのシール層同士を重ねてシール、あるいは最外層とシール層とを重ね合わせてシールすることにより形成した包装袋であることが好ましい。例えば当該多層フィルム2枚を所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をシールして袋状にした後、シールをしていない1辺から内容物を充填しシールして密封することで包装袋として用いることができる。さらには自動包装機によりロール状のフィルムを円筒形に端部をシールした後、上下をシールすることにより包装袋を形成することも可能である。
【0075】
また、本発明の多層フィルムは、本発明に使用するシール層とシール可能な別のフィルムを重ねてシールすることにより包装袋・容器を形成することも可能である。その際、当該別のフィルムとしては、比較的機械強度の弱いLDPE、EVA等のフィルムを用いることができる。また、LDPE、EVA等のフィルムと、比較的引き裂き性の良い延伸フィルム、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等とを貼り合わせたラミネートフィルムも用いることができる。
【0076】
(シール方法)
本発明の多層フィルムは、ヒートシール性を持ち、ヒートシールにより包装体を形成することができる。本発明の多層フィルムのヒートシール強度は、使用態様に応じて適宜調整すればよいが、例えば、本発明の多層フィルムを、A-PETシート(軟化点77℃、結晶化温度126℃)に、温度170℃、圧力0.2MPaで、1.0秒間ヒートシールした後、15mm幅の試験片を切り取り、23℃、50%RHの恒温室において引張速度300mm/分の条件で180度方向に剥離した際の最大荷重が5N/15mm以上であることが好ましく、6N/15mm以上であることがより好ましい。また、当該最大荷重の上限は、20N/15mm未満であることが好ましく、15N/15mm未満であることがより好ましい。当該剥離強度とすることで多層フィルムの剥離や脱落が生じにくく、かつ、開封時の易開封性が特に好適となる。
また、本発明の多層フィルムは、ヒートシール以外にも、超音波によるシールも適用可能である。超音波によりシールする方法としては、特に制限はなく目的に応じて、公知の超音波シール方法や、公知の超音波シール装置を用いた方法等を適宜選択することができる。
【0077】
本発明の共押出多層フィルムを用いた包装材には、初期の引き裂き強度を弱め、開封性を向上するため、シール部にVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔等の任意の引き裂き開始部を形成することが好ましい。
【実施例0078】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0079】
<抗菌剤の粒子径測定>
抗菌剤の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定器(株式会社セイシン企業製 LMS-2000e)によって測定した値とした。具体的な測定方法として、抗菌剤の粒子を水槽中のIPA溶媒に分散させ、上記の装置を用いて、光の回折散乱強度分布を測定及び解析し、粒子径及び体積基準の粒子分布を測定することにより算出できる、D50の値を、抗菌剤の粒子径とした。この測定方法によれば、抗菌剤(スカロープレミアムS、WM株式会社製)の粒子径は4μmである。
【0080】
(実施例1)
最外層用樹脂として、プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm、MFR8.0g/10分)(以下、HOPPと称する。)50質量部と、プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR7.0g/10分)(以下、COPPと称する。)50質量部との樹脂混合物を用いた。また、中間層用樹脂として、線状低密度ポリエチレン(密度0.935/cm、MFR4.0g/10分)(以下、LLDPEと称する。)65質量部と、高密度ポリエチレン(密度0.960g/cm、MFR8.0g/10分)(以下、HDPEと称する。)35質量部との樹脂混合物を用いた。また、環状オレフィン系樹脂層用樹脂として、ノルボルネン系共重合体(密度1.010g/cm、MFR7.0g/10分)(以下、COCと称する。)100質量部を用いた。また、シール層用樹脂として、LLDPE91.4質量部と、スカロープレミアム抗菌剤PEマスターバッチ(WM株式会社製、粒子径4μm、抗菌剤濃度35%)(以下、抗菌剤PEMBと称する。)8.6質量部との樹脂混合物を用いた。これらの樹脂をそれぞれ、最外層用押出機(口径50mm)、中間層用押出機(口径50mm)、環状オレフィン系樹脂層用押出機(口径50mm)及びシール層用押出機(口径50mm)に供給して200~230℃で溶融し、その溶融した樹脂をフィードブロックを有するTダイ・チルロール法の共押出多層フィルム製造装置(フィードブロック及びTダイ温度:250℃)にそれぞれ供給して共溶融押出を行って、フィルムの層構成が最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層の4層構成で、各層の厚みが9.2μm/20.0μm/3.6μm/7.2μm(合計40μm)である多層フィルムを得た。シール層に含まれる抗菌剤の濃度は、3質量%である。
【0081】
(実施例2)
実施例1におけるシール層の樹脂組成をLLDPE81.4質量部と抗菌MB18.6質量部との樹脂混合物に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の多層フィルムを得た。
【0082】
(実施例3)
実施例2における環状オレフィン系樹脂層及びシール層の厚みをそれぞれ7.2μm及び3.6μmに変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施例3の多層フィルムを得た。
【0083】
(実施例4)
実施例3における中間層及び環状オレフィン系樹脂層の厚みをそれぞれ12.8μm及び14.4μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして実施例4の多層フィルムを得た。
【0084】
(実施例5)
実施例4におけるシール層の樹脂組成をLLDPE77.1質量部と抗菌MB22.9質量部との樹脂混合物に変更したこと以外は、実施例4と同様にして実施例5の多層フィルムを得た。
【0085】
(実施例6)
実施例4における最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層の厚みをそれぞれ6.9μm/9.6μm/10.8μm/2.7μm(合計30μm)に変更したこと以外は、実施例4と同様にして実施例6の多層フィルムを得た。
(実施例7)
シール層用抗菌剤マスターバッチとして、抗菌剤(スカロープレミアムS、WM株式会社製)20質量部とCOPP80質量部を押出機(口径50mm)でメルトブレンドし、コンパウンドしたペレット(以下、抗菌PPMB)を用いた。実施例3におけるシール層の樹脂組成をLLDPE60質量部と抗菌PPMB40質量部との樹脂混合物に変更したこと以外は、実施例3と同様にして実施例7の多層フィルムを得た。
【0086】
(比較例1)
実施例1におけるシール層の樹脂組成を、LLDPE100部(抗菌MBを含まない)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の多層フィルムを得た。
【0087】
(比較例2)
実施例1における最外層用樹脂として、COPP100質量部を用いた。また、シール層用樹脂として、プロピレン-エチレンランダム共重合体(密度0.900g/cm、MFR5.0g/10分)(以下、COPP(2)と称する。)70質量部と、プロピレン-1-ブテン共重合体(密度0.90g/cm、MFR4.0g/10分)(以下、BP-1と称する。)30質量部との樹脂混合物を用いた。また、中間層用樹脂として、HOPP80質量部と、COPP(2)20質量部との樹脂混合物を用いた。各層の樹脂組成の変更以外は、実施例1と同様にして比較例2の多層フィルムを得た。
【0088】
(比較例3)
比較例2において、シール層の樹脂組成をCOPP(2)51.4質量部とBP-1を30質量部と抗菌PEMB18.6質量部との樹脂混合物に変更したこと以外は、比較例2と同様にして比較例3の多層フィルムを得た。
(比較例4)
実施例7における環状オレフィン系樹脂層を無くし、最外層/中間層/シール層の厚みをそれぞれ8.4μm/18.3μm/3.3μm(合計30μm)に変更したこと以外は、実施例7と同様にして比較例4の多層フィルムを得た。
【0089】
<pHの測定>
実施例1~7及び比較例1~4で作製した多層フィルムについて、シール層側表面のpHを測定した。pHは、シール層側表面に超純水を300μL以上垂らし、アズワン株式会社製平面型pH計(FPH70)により測定した。
【0090】
<水蒸気透過度の測定>
実施例1~7及び比較例1~4で作製した多層フィルムについて、水蒸気透過度計(システックイリノイ社製、LyssyL80-5000)を用いて、JIS K7129 Aに準じて、40℃、90%RH、測定時間24時間の条件で水蒸気透過度を測定した。
【0091】
(包装袋の作成)
実施例1~7及び比較例1~4で作製した多層フィルムをA4サイズに切り出して半分に折り、長辺の一辺を残して残りの二つの短辺を0.2MPa、1秒、120℃の条件でヒートシールすることで、包装袋を作製した。包装袋は多層フィルム1種につき2つ作製し、N=2での試験とした。
市販の食パン(6枚入り)を開封して速やかにニトリル手袋着用のもと取り出し、当該包装袋1点につき食パン一枚を入れ、空き部分であった長辺をインパルスシールでシールした。実施例1~7及び比較例1~4の多層フィルムにより作製した食パン入りの包装袋(N=2につき、合計22点)をトレーに置き、23℃55%の恒温恒湿室で保管した。
【0092】
<カビ増殖面積の算出>
上記食パン入りの包装袋を封止してから12日後に目視観察し、各面(表と裏)の写真を撮影し、画像解析ソフト(GIMP)を用いて、カビ繁殖領域であるカビ範囲を選択し、ヒストグラムダイアログで総ピクセル数を算出することで、予め算出した食パン全面積に対するカビ範囲の割合を数値化した。
N=2の算術平均値を計算し、評価結果をカビ増殖面積として、表1及び表2に示した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
上記表から明らかなとおり、実施例1~7の本発明の多層フィルムは、pHが8.5以上であり、かつ水蒸気透過度が9g/m/24時間以下であり、カビ繁殖抑制効果が高いことが分かった。また、実施例1~7の本発明の多層フィルムは、水酸化カルシウムを含む抗菌剤を含むシール層と環状オレフィン系樹脂層を含み、当該環状オレフィン系樹脂層の厚みが厚くなるほど、カビ繁殖抑制効果も高くなることが分かった。
一方、抗菌剤を含まない比較例1は、水蒸気透過度は低いがpHが低く、カビ繁殖抑制効果が見られなかった。また、シール層に抗菌剤を含まず環状オレフィン系樹脂層もない比較例2は、pHは低く水蒸気透過度は高くなってしまい、カビ繁殖抑制効果が見られなかった。さらに、シール層に抗菌剤を含むが環状オレフィン系樹脂層を含まない比較例3及び比較例4は、pHは高いものの水蒸気透過度も高くなってしまい、カビ繁殖抑制効果を発揮できなかった。