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特開2023-80875内燃機用燃料油組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080875
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】内燃機用燃料油組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20230602BHJP
   C10L 1/02 20060101ALI20230602BHJP
   C11C 3/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C10L1/08
C10L1/02
C11C3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194417
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貞憲
【テーマコード(参考)】
4H013
4H059
【Fターム(参考)】
4H013BA02
4H059BC03
4H059BC13
4H059CA09
(57)【要約】
【課題】エチレンボトム油を有効活用し、極めて厳しい通油性能及び貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をも満足する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】特定の性状を満足する動植物油及びエチレンボトム油を特定の含有量で含む、(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下、(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下、(3)CCAIが835以下及び(4)潜在セジメントが0.10質量%以下をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油、並びに下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油を含み、前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上である、下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
【請求項2】
更に、下記(c)及び(c)をいずれも満足する直脱重油留分を含み、前記直脱重油留分の組成分全量基準の含有量が50.0容量%以上70.0容量%以下である、請求項1に記載の内燃機用燃料油組成物。
(c)硫黄分含有量が0.50質量%以上0.60質量%以下
(c)50℃における動粘度が100.0mm/s以上200.0mm/s以下
【請求項3】
前処理装置として遠心分離装置を装備する船舶用ディーゼルエンジンに用いられる請求項1又は2に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項4】
下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油と、
下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油と、を、
前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下となり、
前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上となるように混合する、
下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
【請求項5】
更に、下記(c)及び(c)をいずれも満足する直脱重油留分を、組成分全量基準の含有量が50.0容量%以上70.0容量%以下となるように混合する、請求項4に記載の内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(c)硫黄分含有量が0.50質量%以上0.60質量%以下
(c)50℃における動粘度が100.0mm/s以上200.0mm/s以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機用燃料油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS K2205:2006の3種重油(以下、「C重油」とも称する。)は、灯油、軽油、A重油(JIS K2205:2006の1種重油)等と比べて単位体積当たりの発熱量が高く、燃料油使用量(体積)を低減することができ、また安価であることから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油として、また発電用ボイラ等の外燃機の燃料油として広く使用されている。
一方、C重油は一般に灯油、軽油、A重油等と比べて硫黄分含有量、残留炭素分が多く、環境負荷が大きく、またスラッジも発生しやすく、スラッジの生成により燃料油フィルタの目詰まりが発生しやすくなることが知られている。これに対して、15℃密度、50℃動粘度、残留炭素分、アスファルテン分、硫黄分、芳香族分が所定範囲内となる、脱硫灯油、ライトサイクルオイル等の脱硫処理した留分、未脱硫の軽油留分等を含むC重油組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、植物油、スラリー油、減圧残油等を含むC重油組成物(例えば、特許文献2参照)、エチレンボトム油を水素化処理したものを配合するC重油組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0003】
船舶用の燃料油としては、ISO8217「Petroleum products-Fuels(class F)-Specification of marine fuels」を満足する燃料油等が知られている。この船舶用の燃料油は、燃料油フィルタの閉塞を生じる場合があるため、硫黄分、残留炭素分、アスファルテン分含有量、15℃密度、Total sediment by hot filtration(ISO 10307-1)等の所定性状を備える直接脱硫重油を所定量で含む重油組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-203802号公報
【特許文献2】特開2009-227933号公報
【特許文献3】特開2012-012460号公報
【特許文献4】特開2014-028977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の通油性能を向上した内燃機用燃料油組成物を用いても、とりわけ大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンに内燃機用燃料油組成物を用いる場合、通常使用時に燃料油フィルタの閉塞頻度が高くなりやすく、船舶内の燃料油タンク等で長期貯蔵した後に使用すると、閉塞頻度はより高くなる傾向にある。そのため、内燃機用燃料油組成物には、特に長期貯蔵した後であっても常温通油性能を維持する貯蔵安定性能が求められるようになっており、要求される性能はより厳しくなっている。また、このような大型船舶等の船舶用ディーゼルエンジンには、燃料油組成物の前処理装置として遠心分離装置を装備した形式のものが採用されることがあるが、このような形式のディーゼルエンジンには特に厳しい貯蔵安定性能が求められる。
【0006】
とりわけ大型船舶のディーゼルエンジン等の大型ディーゼルエンジンの用途においては、内燃機用燃料油組成物の使用環境は著しく変化することから、内燃機用燃料油組成物には、その環境の変化に対応することが求められる。中でも着火遅れ等がない着火性能及び安定した燃焼性能(これらをあわせて「燃焼性能」と称することがある。)を有することは重要である。特許文献2に記載されるC重油組成物は、着火性、燃焼性に優れるものとして提案されている。しかし、そのCCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index)は860、872と大きく、近年求められる燃焼性能を満足するものではない。
【0007】
ところで近年、環境汚染防止は世界的な最重要課題の一つとして挙げられており、国際海事機関(IMO)では、大気汚染防止対策の一環として、2020年から全ての船舶に対して燃料油中の硫黄分濃度を現行3.5質量%以下から0.5質量%以下と規制が強化された。そのため、船舶用の燃料油組成物については、硫黄分濃度を0.5質量%以下とすることで、環境への負荷を低減する環境性能に優れたものとすることが急務となっている。しかし、特許文献1に記載されるC重油組成物の硫黄分はいずれも2質量%を超えており、また特許文献2に記載されるC重油組成物の硫黄分は1.3~1.5質量%であるため、環境性能の点で満足するものとはいえない。
【0008】
また、上記性能以外にも、適度な動粘度を有する粘度適性が求められる。特許文献1のように、C重油相当品を得る手法として、脱硫軽油等の脱硫処理した軽油留分を用いる方法がある。脱硫処理した軽油留分等を用いると、硫黄分含有量を低減することができる。他方、脱硫処理した軽油留分等を用いると、動粘度が低くなりすぎるため、燃料油組成物をエンジンに送液するためのポンプ、流量計等の各種機器の使用範囲に適合しないものとなり、また潤滑性能の悪化の要因の一つとなる。
【0009】
特許文献3に記載されるC重油組成物は、エチレンボトム油の有効活用方法として有効な手段である。エチレンボトム油とは、ナフサ留分等の原料油を水蒸気とともに熱分解してエチレン、プロピレン等を製造するエチレン製造装置において生成される留分(ボトム油)のことである。このエチレンボトム油は臭気が強く、着火性、性状安定性が低いことから、ボイラ等の燃料油以外の用途がなく、ボイラ設備がないような製油所等の工場設備内では余剰になるという事態が発生するようになっているからである。
【0010】
しかし、特許文献3に記載される手法では、エチレンボトム油の水素化処理を要するため、工場設備内における水素の需給バランスがくずれてしまう、逆に割高になってしまう場合があった。また、特許文献3に記載されるC重油組成物の硫黄分は、2.62~2.88質量%であるため、上記特許文献1及び2に記載されるC重油組成物と同様に、環境性能の点で満足するものとはいえない。
【0011】
このように、従来のC重油、また上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物は、これらの性能の全てを十分に満足するものとはいえないものであり、また燃料油組成物の前処理装置として遠心分離装置を装備した船舶用ディーゼルエンジンのように特に厳しい貯蔵安定性能が求められる用途においては、これらの性能を同時に満足し得ることは極めて困難である。
このような状況下、本発明は、エチレンボトム油を有効活用し、極めて厳しい通油性能及び貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をも満足する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供するものである。
【0013】
1.下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油、並びに下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油を含み、前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上である、下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
2.更に、下記(c)及び(c)をいずれも満足する直脱重油留分を含み、前記直脱重油留分の組成分全量基準の含有量が50.0容量%以上70.0容量%以下である、上記1に記載の内燃機用燃料油組成物。
(c)硫黄分含有量が0.50質量%以上0.60質量%以下
(c)50℃における動粘度が100.0mm/s以上200.0mm/s以下
3.前処理装置として遠心分離装置を装備する船舶用ディーゼルエンジンに用いられる上記1又は2に記載の内燃機用燃料油組成物。
4.下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油と、
下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油と、を、
前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下となり、
前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上となるように混合する、
下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
5.更に、下記(c)及び(c)をいずれも満足する直脱重油留分を、組成分全量基準の含有量が50.0容量%以上70.0容量%以下となるように混合する、上記4に記載の内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(c)硫黄分含有量が0.50質量%以上0.60質量%以下
(c)50℃における動粘度が100.0mm/s以上200.0mm/s以下
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エチレンボトム油を有効活用し、極めて厳しい通油性能及び貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をも満足する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る内燃機用燃料油組成物について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されることはなく、発明の効果を阻害しない範囲において任意に変更して実施し得るものである。
また、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値である。例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。
【0016】
〔内燃機用燃料油組成物〕
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油、並びに下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油を含み、前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上である、下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物、である。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
【0017】
(内燃機用燃料油組成物の組成及び性状)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、以下の(1)~(4)で規定された組成及び性状をいずれも満足する。
【0018】
(1)硫黄分含有量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量は、0.400質量%以下である。硫黄分含有量が0.400質量%を超えると、排ガス中の硫黄酸化物の上昇により環境への負荷が高くなるため環境性能が低下し、また酸露点の上昇により酸露点腐食が生じやすくなる。環境性能の向上及び腐食の発生の抑制の観点から、硫黄分含有量は、好ましくは0.395質量%以下、より好ましくは0.385質量%以下、更に好ましくは0.380質量%以下、より更に好ましくは0.375質量%以下である。また、硫黄分含有量の含有量は、環境性能の観点から少なければ少ないほど好ましく、通常上記のように0.010質量%以上であり、本実施形態の燃料油組成物の製造のしやすさを考慮すると、好ましくは0.050質量%以上、より好ましくは0.100質量%以上である。
本明細書において、硫黄分含有量は、その含有量に応じて測定方法を選択して測定され、含有量が0.01~5質量%の場合はJIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法に準じて測定される値である。
【0019】
(2)50℃における動粘度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、50.0mm/s以上100.0mm/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、ポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、潤滑性能を確保できず、内燃機用燃料油組成物として使用することができなくなる場合がある。また、燃焼性能が低下する、取扱い性が低下する、エンジン入口の加熱温度が低下するといった場合がある。
上記各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性能及び燃焼性能の向上、また取扱い性の向上等の観点から、50℃における動粘度は、95.0mm/s以下、より好ましくは90.0mm/s以下、更に好ましくは85.0mm/s以下、より更に好ましくは80.0mm/s以下であり、下限としては好ましくは55.0mm/s以上、より好ましくは60.0mm/s以上である。
本明細書において、50℃における動粘度は、JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定される値である。
【0020】
(3)CCAI:Calculated Carbon Aromaticity Index
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のCCAIは835以下である。CCAIが835より大きいと、燃焼性能が低下する。燃焼性能の向上の観点から、CCAIは好ましくは833以下、より好ましくは830以下、更に好ましくは825以下である。また、下限としては、燃焼性能の観点から低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常750以上、775以上、800以上である。
本明細書において、CCAIは、ISO 8217-2012のAnnex F記載の計算式より算出される値である。
【0021】
(4)潜在セジメント
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潜在セジメントは、0.10質量%以下である。潜在セジメントが0.10質量%よりも大きいと貯蔵安定性能が低下する。貯蔵安定性能を向上させる観点から、潜在セジメントは、好ましくは0.09質量%以下、より好ましくは0.08質量%以下である。また、下限としては、貯蔵安定性能の観点から低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常0.01質量%以上である。
本明細書において、潜在セジメント(Total Sediment Potential)は、ISO10307-2A(Thermal Aging)に準じて、試料(本実施形態の内燃機用燃料油組成物)を100℃で24時間放置し、濾紙を通して得られる濾紙に残存するスラッジ量とした。
【0022】
また、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)~(4)の性状、組成に加えて、更に以下(5)~(12)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(5)~(12)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0023】
(5)残留炭素分
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.9質量%以下、更に好ましくは4.7質量%以下、より更に好ましくは4.5質量%以下であり、下限としては特に制限はないが、通常0.1質量%以上である。残留炭素分が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の燃焼性能が向上し、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、内燃機のより安定した運転が可能となる。
本明細書において、残留炭素分は、JIS K 2270-1:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第1部:コンラドソン法)に準じて測定される値である。
【0024】
(6)ろ過時間の傾き
本実施形態の内燃機用燃料油組成物のろ過時間の傾きは、好ましくは0.12以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.07以下、より更に好ましくは0.60以下である。下限としては特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましく、通常0.01以上である。
ろ過時間の傾き(Tn)は、実施例に記載されるろ過時間の傾き(Tn)の算出方法に基づき算出した値である。
【0025】
(7)15℃における密度
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、好ましくは0.9300g/cm以上、より好ましくは0.9320g/cm以上、更に好ましくは0.9350g/cm以上であり、上限として好ましくは0.9600g/cm以下、より好ましくは0.9580g/cm以下、更に好ましくは0.9550g/cm以下である。15℃における密度が上記範囲内にあると、大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等の前に前処理装置として付設される遠心分離装置によるスラッジの分離性能が向上し、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。また、総発熱量も向上する。
本明細書において、15℃における密度は、JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定される値である。
【0026】
(8)引火点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点は、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは90.0℃以上、更に好ましくは110.0℃以上、より更に好ましくは120.0℃以上、特に好ましくは130.0℃以上である。引火点が上記範囲内であると、取扱い上の安全性が向上する。上限としては特に制限はないが、通常200.0°以下である。
本明細書において、引火点は、JIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定される値である。
【0027】
(9)流動点
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点は、好ましくは20.0℃以下、より好ましくは15.0℃以下、更に好ましくは12.5℃以下である。流動点が20.0℃以下であると、低温時におけるタンク内、配管内等における燃料油組成物の流動性能が向上する。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-10.0℃以上程度である。
本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定される値である。
【0028】
(10)水分含有率
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。水分含有率が上記範囲内であると、貯蔵安定性能の低下(アスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジ生成)を抑制し、スラッジによる閉塞を防止することができる。また、下限としては少なければ少ないほど好ましく、特に制限はなく、0.0容量%であってもよい。
本明細書において、水分含有率は、JIS K 2275-3:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第3部:カールフィッシャー式電量滴定法)に準じて測定される値である。
【0029】
(11)灰分量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。灰分量が上記範囲内であると、貯蔵安定性能及び燃焼性能が向上し、またシリンダー、ノズル等の摩耗をより抑制することができ、排ガスによる環境負荷の低減を図ることができる。
本明細書において、灰分量は、JIS K 2272:1998(原油及び石油製品-灰分及び硫酸灰分試験方法-)に準じて測定される値である。
【0030】
(12)総発熱量
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量は、好ましくは40,000(kJ/L)以上、より好ましくは40,500(kJ/L)以上、更に好ましくは41,000(kJ/L)以上、より更に好ましくは41,400(kJ/L)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、燃料油組成物の使用量が低減するため燃費性能が向上する。
本明細書において、総発熱量は動植物油、脱硫軽油留分、分解軽油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定される原油、灯油、軽油、A重油及びB重油の場合の計算式により推定)した。また、燃料油組成物、エチレンボトム油、直脱重油留分、分解重油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるC重油の場合の計算式により推定)した。
【0031】
(動植物油)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油を、組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下で含有する。動植物油を上記含有量で含有しないと、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、優れた貯蔵安定性能、燃焼性能が得られない。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
【0032】
本実施形態で用いられる「動植物油」は、動物由来の「動物油」、植物由来の「植物油」を含むものである。本実施形態の燃料油組成物においては、「動植物油」として、「動物油」、「植物油」のいずれを採用することができ、例えば「動物油」を単独で、又は複数種の「動物油」を用いることもできるし、「植物油」を単独で、又は複数種の「植物油」を用いることもできるし、「動植物」と「植物油」とを組み合わせて用いることもできる。
まず、「動植物油」に含まれ得る「植物油」について説明する。
【0033】
(植物油)
本実施形態で用いられる「植物油」は、植物に含まれる脂質を圧搾、抽出、精製等して得られる植物由来の油脂、植物由来の油脂に由来する炭化水素留分である。より具体的には、天然の植物油原料を圧搾、抽出して得られる粗油;粗油に含まれる浮遊不純物を除去するろ過、リン脂質等を除去する脱ガム、遊離脂肪酸を除去する脱酸、色素を除去する脱色、ロウ分を除去する脱ロウ等の各種精製処理を行った精製油;さらに、硬化、分別、エステル交換、水素添加等の処理を行った加工油脂等が挙げられる。また、植物油の主成分(通常植物油の95~98質量%を占める)グリセリンと脂肪酸とのエステル反応により人工的に合成したトリグリセライドを用いてもよい。
本実施形態において、植物油としては、上記の粗油、精製油、加工油脂等のいずれを用いてもよいが、燃料油組成物としての品質、コスト等を考慮すると、粗油、精製油が好ましく、精製油の中でも粗油に含まれる浮遊不純物をろ過により除去した精製油が好ましい。また、後述する(a)及び(a)、また他の性状である(a)~(a15)の性状を有しやすくなる。
【0034】
天然の植物から得られる植物油としては、大豆、菜種、亜麻仁、紅花種子、ひまわり種子、パーム核、綿実、ブドウ種子、カボチャ種子、椿の実、茶の実、ボラージ種子、シソの種、ゴマ、エゴマ、カカオ等の種子;ココナッツ、マカデミアナッツ、ヘーゼルナッツ、クルミ、落花生等のナッツ;オリーブの実、パームヤシの実、アボカド等の実の果肉;大豆胚芽、小麦胚芽、コーン等の胚芽、米ぬか等の副産物;等の植物油原料から得られるものが挙げられる。
【0035】
本実施形態において、植物油としては、上記の植物油原料から選ばれるものであれば特に制限なく用いることができ、下記(a)及び(a)をいずれも満足する植物油の得られやすさ、燃料油組成物としての品質、コスト等を考慮すると、パーム核及びパームヤシの少なくとも一方から得られるパーム油;菜種油、大豆油、ココナッツ油等が好ましい。また、後述する(a)及び(a)、また他の性状である(a)~(a15)の性状を有しやすくなる。
【0036】
また、植物油は、植物油原料の一の植物の部位に応じて名称が異なる場合があるが、本明細書においては、どの部位を用いたものであっても、当該植物油原料の植物の名称を冠する油に属するものとして扱う。また、既述のように、精製処理により主成分(グリセライド化合物)を分別した油は、当該主成分に応じて名称が異なる場合があるが、本明細書においては、植物油原料となる植物の名称を冠する油に属するものとして扱う。
【0037】
例えばパーム油は、狭義にはパームヤシの実(果肉部分)から得られる植物油のことを意味するが、またパームヤシの実(果肉部分)から得られる植物油をパームヤシ油と称し、パーム核(パームヤシの実の種子部分)から得られる植物油のことをパーム核油と称することがある。このように、植物油原料としてパームヤシを用いる場合でも、パームヤシのどの部分を用いるかによって名称が異なる場合がある。本明細書では、パーム核油、パームヤシ油はいずれもパーム油に属するものとして扱う。
また、パーム油に含まれるオレイン酸により構成されるグリセライド化合物、ステアリン酸により構成されるグリセライドを分別したものを、各々パームオレイン、パームステアリンと称することがある。本明細書においては、これらのパームオレイン、パームステアリン等の分別油も、パーム油に属するものとして扱う。
【0038】
これらの植物油に含まれる油成分は、グリセライド化合物であり、その含有量は植物油の原料の種類、製法等によって変わり得るため一概にはいえないが、植物油の全量基準で通常95~98質量%である。
グリセライド化合物は、飽和又は不飽和脂肪酸とグリセリンとのエステル化合物であり、植物油に含まれるグリセライド化合物は、植物油原料に応じてかわるものである。グリセライド化合物を構成する飽和又は不飽和脂肪酸は、通常炭素数6以上22以下の飽和又は不飽和脂肪酸である。
【0039】
上記植物油のうち、中でも好ましいもの、すなわちパーム油、菜種油、大豆油、ココナッツ油について、これらの植物油に含まれるグリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成について説明する。
【0040】
パーム油(パームヤシの果肉から得られる植物油)に含まれるグリセライド化合物は、パームヤシの原産地及び品種、また製法等によっても変わり得るため一概にはいえないが、グリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成としては、通常ミリスチン酸(炭素数14、飽和酸)が0.5~1.5質量%、パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が40.0~50.0質量%、パルミトオレイン酸(炭素数16、不飽和酸)が0.1~1.5質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が1.5~4.0質量%、オレイン酸(炭素数18、不飽和酸)が35.0~45.0質量%、リノール酸(炭素数18、不飽和酸)が5.0~12.5質量%、リノレン酸(炭素数18、不飽和酸)が0.5~1.5質量%、アラキジン酸(炭素数20、飽和酸)が0.01~1.0質量%である。
また、パーム核油(パームヤシの種子から得られる植物油)に含まれるグリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成としては、通常カプリル酸(炭素数8、飽和酸)が1.5~2.5質量%、カプリン酸(炭素数10、飽和酸)が2.0~3.5質量%、ラウリン酸(炭素数12、飽和酸)が45.0~55.0質量%、ミリスチン酸(炭素数14、飽和酸)が10.0~20.0質量%、パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が5.0~10.0質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が1.5~3.5質量%、リノール酸(炭素数18、不飽和酸)が15.0~22.5質量%、リノレン酸(炭素数18、不飽和酸)が1.0~3.0質量%である。
【0041】
菜種油に含まれるグリセライド化合物は、菜種の原残地及び品種(例えば在来種、低エルカ酸種等)、製法等によっても変わり得るため一概にはいえないが、グリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成としては、在来種の場合は、通常パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が2.0~5.0質量%、パルミトオレイン酸(炭素数16、不飽和酸)が0.1~0.5質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が0.5~2.0質量%、オレイン酸(炭素数18、不飽和酸)が10.0~20.0質量%、リノール酸(炭素数18、不飽和酸)が10.0~20.0質量%、リノレン酸(炭素数18、不飽和酸)、オクタデカテトラエン酸(炭素数18、不飽和酸)及びアラキジン酸(炭素数20、飽和酸)の合計が7.5~12.5質量%、ゴンド酸(炭素数20、不飽和酸)が5.0~12.0質量%、ベヘン酸(炭素数22、飽和酸)が0.5~1.0質量%、エルカ酸(炭素数22、不飽和酸)が35.0~45.0質量%である。
また、低エルカ酸種の場合は、通常パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が2.5~7.0質量%、パルミトオレイン酸(炭素数16、不飽和酸)が0.1~0.6質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が0.0~2.5質量%、(炭素数18、不飽和酸)が50.0~60.0質量%、リノール酸(炭素数18、不飽和酸)が15.0~25.0質量%、リノレン酸(炭素数18、不飽和酸)、オクタデカテトラエン酸(炭素数18、不飽和酸)、オクタデカテトラエン酸(炭素数18、不飽和酸)及びアラキジン酸(炭素数20、飽和酸)の合計が7.5~12.5質量%、ゴンド酸(炭素数20、不飽和酸)が1.0~7.0質量%、ベヘン酸(炭素数22、飽和酸)が0.1~1.0質量%、エルカ酸(炭素数22、不飽和酸)が3.0~7.5質量%である。
【0042】
大豆油に含まれるグリセライド化合物は、大豆の原産地及び品種、製法等によっても変わり得るため一概にはいえないが、グリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成としては、通常パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が8.0~15.0質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が2.0~6.0質量%、オレイン酸(炭素数18、不飽和酸)が15.0~25.0質量%、リノール酸(炭素数18、不飽和酸)が50.0~60.0質量%、リノレン酸(炭素数18、不飽和酸)が5.0~12.5質量%である。
【0043】
ココナッツ油(ヤシ油)に含まれるグリセライド化合物は、ココナッツの原産地及び品種、製法等によっても変わり得るため一概にはいえないが、グリセライド化合物を構成する脂肪酸の組成としては、カプリル酸(炭素数8、飽和酸)が4.0~7.5質量%、カプリン酸(炭素数10、飽和酸)が5.0~8.0質量%、ラウリン酸(炭素数12、飽和酸)が47.5~55.0質量%、ミリスチン酸(炭素数14、飽和酸)が15.0~20.0質量%、パルミチン酸(炭素数16、飽和酸)が5.0~10.0質量%、ステアリン酸(炭素数18、飽和酸)が1.0~5.0質量%、オレイン酸(炭素数18、不飽和酸)が0.5~2.0質量%である。
【0044】
植物油としては、人工的に脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応により合成した上記グリセライド化合物を一種又は二種以上で含むものを用いることもできる。
【0045】
(動物油)
本実施形態で用いられる「動物油」としては、例えば、牛脂、豚脂、羊脂、馬油、ミンク油等の哺乳類に由来する油、鶏油等の鳥類に由来する油、また魚類(例えば、タラ、ニシン、マグロ、イワシ、サンマ、サバ等)、イルカ、鯨、鮫、イカ等の水産動物の脂肪、特定部位から得られる体油、肝油等が挙げられる。
【0046】
「動物油」についても、「植物油」と同様に、粗油、精製油、加工油脂等のいずれを用いてもよいが、燃料油組成物としての品質、コスト等を考慮すると、粗油、精製油が好ましく、精製油の中でも粗油に含まれる浮遊不純物をろ過により除去した精製油が好ましい。また、後述する(a)及び(a)、また他の性状である(a)~(a15)の性状を有しやすくなる。
【0047】
本実施形態の内燃機用燃料油組成物において採用される動植物油としては、植物油が好ましく、植物油の中でも、既述のようにパーム油、菜種油、大豆油、ココナッツ油が好ましく、パーム油、菜種油がより好ましい。植物油の方が、後述する(a)及び(a)、また他の性状である(a)~(a15)の性状を有しやすく、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、優れた通油性能及び貯蔵安定性能、さらには燃焼性能、環境性能及び潤滑性能が得られやすくなる。
【0048】
次に、動植物油が有する性状について説明する。
本実施形態で用いられる動植物油は、下記の(a)及び(a)をいずれも満足するものである。本実施形態で用いられる動植物油は、上記説明した動植物油から得られる動植物油を採用することにより、下記の(a)及び(a)、更には(a)~(a15)等の性状を有しやすいものとなる。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
【0049】
(a)硫黄分含有量
動植物油の硫黄分含有量は、0.02質量%以下である。動植物油の硫黄分含有量が0.02質量%を超えると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の環境性能が低下する。
環境性能の向上の観点から、動植物油の硫黄分含有量は、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
【0050】
(a)50℃における動粘度
動植物油の50℃における動粘度は、20.0mm/s以上50.0mm/s以下である。動植物油の動粘度が上記範囲内にないと、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潤滑性能及び燃焼性能が低下し、また各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、取扱い性が低下しやすくなる。
潤滑性能及び燃焼性能の向上、各種機器の使用範囲への適合のしやすさ、取扱い性の向上を考慮すると、動植物油の50℃における動粘度は、好ましくは22.0mm/s以上、より好ましくは25.0mm/s以上、更に好ましくは27.0mm/s以上であり、上限として好ましくは45.0mm/s以下、より好ましくは40.0mm/s以下、更に好ましくは35.0mm/s以下である。
【0051】
また、本実施形態で用いられる動植物油は、上記(a)及び(a)の性状に加えて、更に以下(a)~(a15)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(a)~(a15)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0052】
(a)残留炭素分
動植物油の残留炭素分は、好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、更に好ましくは0.35質量%以下であり、下限としては特に制限はないが、通常0.10質量%以上である。
残留炭素分が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、内燃機用燃料油組成物の燃焼性能が向上し、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、内燃機のより安定した運転が可能となる。
【0053】
(a)15℃における密度
動植物油の15℃における密度は、好ましくは0.9000g/cm以上、より好ましくは0.9050g/cm以上、更に好ましくは9100g/cm以上であり、上限として好ましくは0.9300g/cm以下、より好ましくは0.9200g/cm以下である。
15℃における密度が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等の前に前処理装置として付設される遠心分離装置によるスラッジの分離性能が向上し、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。また、総発熱量も向上する。
【0054】
(a)引火点
動植物油の引火点は、好ましくは100.0℃以上、より好ましくは150.0℃以上、更に好ましくは200.0℃以上、より更に好ましくは240.0℃以上である。
引火点が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、取扱い上の安全性が向上する。
【0055】
(a)流動点
動植物油の流動点は、好ましくは30.0℃以下、より好ましくは27.5℃以下、更に好ましくは25.0℃以下である。また下限については、動植物油が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-25.0℃以上程度である。
流動点が30.0℃以下であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、低温時におけるタンク内、配管内等における燃料油組成物の流動性能が向上する。
【0056】
(a)水分含有率
動植物油の水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。動植物油水分含有率が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能の低下(アスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジ生成)を抑制し、スラッジによる閉塞を防止することができる。また、下限としては少なければ少ないほど好ましく、特に制限はなく、0.0容量%であってもよい。
【0057】
(a)灰分量
動植物油の灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。灰分量が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能及び燃焼性能が向上し、またシリンダー、ノズル等の摩耗をより抑制することができ、排ガスによる環境負荷の低減を図ることができる。また、下限としては特に制限はなく、0.0質量%であってもよい。
【0058】
(a)窒素含有率
動植物油の窒素含有率は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。窒素含有率が0.3質量%以下であると、排気中の窒素酸化物等の窒素含有化合物の含有量が低減するため、環境性能が向上する。また下限については、窒素含有率が少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
本明細書において、窒素含有率は、CHNコーダー法により測定された数値である。CHNコーダー法による測定は、例えば、炭素・水素・窒素同時定量装置等の元素分析装置を用いて行うことができる。
【0059】
(a10)炭素含有率
動植物油の炭素含有率は、特に制限なく、通常74.0質量%以上80.0質量%以下である。
本明細書において、炭素含有率は、CHNコーダー法により測定された数値である。CHNコーダー法による測定は、例えば、炭素・水素・窒素同時定量装置等の元素分析装置を用いて行うことができる。
【0060】
(a11)水素含有率
動植物油の水素含有率は、特に制限なく、通常9.0質量%以上14.0質量%以下である。
本明細書において、炭素含有率は、CHNコーダー法により測定された数値である。CHNコーダー法による測定は、例えば、炭素・水素・窒素同時定量装置等の元素分析装置を用いて行うことができる。
【0061】
(a12)酸素含有率
動植物油の酸素含有率は、好ましくは9.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、更に好ましくは10.5質量%以上である。酸素含有率が上記範囲内であると、燃焼性能が向上する。上限としては特に制限はなく、通常15.0質量%以下である。
本明細書において、酸素含有率は、JIS M8813:2006(石炭類及びコークス類-元素分析方法) 附属書5(酸素含有率の算出方法)に基づき算出される数値であり、全体100質量%から、上記の炭素含有率、水素含有率、窒素含有率、硫黄含有分及び灰分量を差し引いた数値である。
【0062】
(a13)総発熱量
動植物油の総発熱量は、好ましくは39,500(kJ/L)以上、より好ましくは40,000(kJ/L)以上、更に好ましくは40,500(kJ/L)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、動植物油の含有量、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、総発熱量が上記範囲内であると、燃料油組成物の使用量が低減するため燃費性能が向上する。
【0063】
(a14)実在セジメント(TSE)
動植物油の実在セジメント(TSE)は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。実在セジメント(TSE)が0.05質量%以下であると、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。下限について、実在セジメント(TSE)は少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
実在セジメント(TSE)は、ISO 10307-1に準拠して測定することができる。
【0064】
(a15)90容量%留出温度
動植物油の90容量%留出温度は、特に制限はないが、通常310℃以上380℃以下である。燃焼性能の向上の観点から、好ましくは315℃以上、より好ましくは320℃以上、更に好ましくは330℃以上であり、上限として好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下、更に好ましくは355℃以下である。
本明細書において、蒸留性状は、JIS K2254:1998(石油製品-蒸留試験方法-)に準じて測定される値である。
【0065】
(動植物油の含有量)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物において、動植物油の組成物全量基準の含有量は、15.0容量%以上35.0容量%以下である。動植物油の含有量が、上記範囲外となると、動植物油と組み合わせて用いられるエチレンボトム油との関係で、環境性能、燃焼性能、潤滑性能、通油性能及び貯蔵安定性能が低下する。環境性能、燃焼性能、潤滑性能、通油性能及び貯蔵安定性能の向上の観点から、動植物油の含有量は、好ましくは17.5容量%以上、より好ましくは20.0容量%以上、更に好ましくは25.0容量%以上であり、上限として好ましくは32.5容量%以下、より好ましくは30.0容量%以下である。
本実施形態において、動植物油は一種を単独で、又は複数種を組み合わせ用いることができる。複数種を組み合わせて用いる場合は、その合計量が上記含有量の範囲にあればよい。
【0066】
(エチレンボトム油)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油を含み、組成物全量基準の含有量として上記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上で含有する。
エチレンボトム油を上記含有量で含有しないと、エチレンボトム油の有効活用ができているとはいえなくなり、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、優れた貯蔵安定性能が得られない。また、優れた燃焼性能、環境性能及び潤滑性能が得られない場合もある。
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
【0067】
本実施形態で用いられるエチレンボトム油とは、ナフサ留分等の原料油を水蒸気とともに熱分解してエチレン、プロピレン等を製造するエチレン製造装置において生成される留分(ボトム油)のことであり、上記(b)~(b)をいずれも満足するものである。エチレンボトム油が有する性状である、下記(b)~(b)、さらには(b)~(b16)について、以下説明する。
【0068】
(b)硫黄分含有量
エチレンボトム油の硫黄分含有量は、0.30質量%以下である。エチレンボトム油の硫黄分含有量が0.30質量%を超えると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の環境性能が低下する。
環境性能の向上の観点から、エチレンボトム油の硫黄分含有量は、好ましくは0.28質量%以下、より好ましくは0.25質量%以下、更に好ましくは0.22質量%以下である。
【0069】
(b)50℃における動粘度
エチレンボトム油の50℃における動粘度は、10.0mm/s以上50.0mm/s以下以下である。エチレンボトム油の動粘度が上記範囲内にないと、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潤滑性能及び燃焼性能が低下し、また各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、取扱い性が低下しやすくなる。
潤滑性能及び燃焼性能の向上、各種機器の使用範囲への適合のしやすさ、取扱い性の向上を考慮すると、エチレンボトム油の50℃における動粘度は、好ましくは15.0mm/s以上、より好ましくは20.0mm/s以上、更に好ましくは25.0mm/s以上であり、上限として好ましくは45.0mm/s以下、より好ましくは40.0mm/s以下、更に好ましくは35.0mm/s以下である。
【0070】
(b)芳香族分含有量
エチレンボトム油の芳香族分含有量は、80.0容量%以上である。芳香族分含有量が上記範囲外にあると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、通油性能及び貯蔵安定性が低下する。
通油性能及び貯蔵安定性能の向上の観点から、エチレンボトム油の芳香族分含有量は、好ましくは83.0容量%以上、より好ましくは85.0容量%、更に好ましくは90.0容量%以上である。
【0071】
本明細書において、脱硫軽油留分、分解軽油留分、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分及び水素化分解軽油留分の芳香族分含有量、飽和分含有量及びオレフィン分含有量は、JPI-5S-49-2007に規定される、石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定される値である。
また、エチレンボトム油、直脱重油留分、分解重油留分、常圧蒸留残渣留分及び減圧蒸留残渣留分の芳香族分含有量、飽和分含有量、レジン分含有量及びアスファルテン分含有量は、IP-469(国際標準試験方法(IP Test Methods))に規定される、TLC/FID法により測定される値である。
【0072】
また、本実施形態で用いられるエチレンボトム油は、上記(b)~(b)の性状に加えて、更に以下(b)~(b16)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(b)~(b16)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0073】
(b)残留炭素分
エチレンボトム油の残留炭素分は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは8.8質量%以下であり、下限としては特に制限はなく、通常0.00質量%以上である。
残留炭素分が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、内燃機用燃料油組成物の燃焼性能が向上し、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、内燃機のより安定した運転が可能となる。
【0074】
(b)15℃における密度
エチレンボトム油の15℃における密度は、好ましくは0.9750g/cm以上、より好ましくは1.0000g/cm以上、更に好ましくは1.0250g/cm以上であり、上限として好ましくは1.1500g/cm以下、より好ましくは1.1000g/cm以下、更に好ましくは1.0750g/cm以下である。
15℃における密度が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等の前に前処理装置として付設される遠心分離装置によるスラッジの分離性能が向上し、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。また、総発熱量も向上する。
【0075】
(b)引火点
エチレンボトム油の引火点は、好ましくは70.0℃以上、より好ましくは80.0℃以上、更に好ましくは90.0℃以上である。
引火点が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、取扱い上の安全性が向上する。
【0076】
(b)流動点
エチレンボトム油の流動点は、好ましくは0.0℃以下、より好ましくは-5.0℃以下、更に好ましくは-10.0℃以下である。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-35.0℃以上程度である。
流動点が-0.0℃以下であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、低温時におけるタンク内、配管内等における燃料油組成物の流動性能が向上する。
【0077】
(b)水分含有率
エチレンボトム油の水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。
エチレンボトム油の水分含有率が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能の低下(アスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジ生成)を抑制し、スラッジによる閉塞を防止することができる。また、下限としては少なければ少ないほど好ましく、特に制限はなく、0.0容量%であってもよい。
【0078】
(b)灰分量
エチレンボトム油の灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。また、下限としては特に制限はなく、0.0質量%であってもよい。
灰分量が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能及び燃焼性能が向上し、またシリンダー、ノズル等の摩耗をより抑制することができ、排ガスによる環境負荷の低減を図ることができる。
【0079】
(b10)窒素含有率
エチレンボトム油の窒素含有率は、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。窒素含有率が0.20質量%以下であると、排気中の窒素酸化物等の窒素含有化合物の含有量が低減するため、環境性能が向上する。
また下限については、窒素含有率が少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
【0080】
(b11)炭素含有率
エチレンボトム油の炭素含有率は、特に制限なく、通常90.0質量%以上93.0質量%以下である。
【0081】
(b12)水素含有率
エチレンボトム油の水素含有率は、特に制限なく、通常7.0質量%以上10.0質量%以下である。
【0082】
(b13)酸素含有率
エチレンボトム油の酸素含有率は、通常0.1質量%以下である。また、0.0質量%であってもよい。
【0083】
(b14)総発熱量
エチレンボトム油の総発熱量は、好ましくは、好ましくは42,000(kJ/L)以上、より好ましくは43,000(kJ/L)以上、更に好ましくは44,000(kJ/L)以上である。
総発熱量が上記範囲内であると、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、総発熱量が上記範囲内であると、燃料油組成物の使用量が低減するため燃費性能が向上する。
【0084】
(b15)実在セジメント(TSE)
エチレンボトム油の実在セジメント(TSE)は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下、更に好ましくは0.02質量%以下である。
実在セジメント(TSE)が0.05質量%以下であると、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。下限について、実在セジメント(TSE)は少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
【0085】
(b16)飽和分含有量、レジン分含有量及びアスファルテン分含有量
エチレンボトム油の飽和分含有量は、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下であり、アスファルテン分含有量は好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.0質量%以下である。これらの下限値としては特に制限はなく、通常0.1質量%以上である。
また、レジン分含有量は好ましくは3.0質量%以上10.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以上8.0質量%以下である。
エチレンボトム油の飽和分が上記範囲内であると燃焼性能が向上し、またレジン分及びアスファルテン分が上記範囲内であると、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞がより抑制されるので、通油性能及び貯蔵安定性能が向上し、また燃焼性能が向上する。
【0086】
(エチレンボトム油の含有量)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物に含まれるエチレンボトム油の含有量は、上記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上である。0.20倍未満になると、既述のようにエチレンボトム油の有効活用ができているとはいえなくなり、エチレンボトム油と組み合わせて用いられる動植物油及びその含有量との関係で、優れた貯蔵安定性能が得られない。また、優れた燃焼性能、環境性能及び潤滑性能が得られない場合もある。
エチレンボトム油をより有効に活用し、通油性能、貯蔵安定性能、また燃焼性能、環境性能及び潤滑性能の向上の観点から、エチレンボトム油の含有量は、上記動植物油の組成物全量基準の含有量の、好ましくは0.22倍以上、より好ましくは0.25倍以上、更に好ましくは0.30倍以上であり、上限として好ましくは2.5倍以下が好ましく、2.0倍以下がより好ましく、1.5倍以下が更に好ましく、1.1倍以下がより更に好ましい。
【0087】
また、エチレンボトム油の含有量は、上記動植物油の含有量との関係を満足すれば特に制限はないが、絶対値として、好ましくは6.0容量%以上、より好ましくは8.0容量%以上であり、上限として好ましくは28.0容量%以下、より好ましくは25.0容量%以下、更に好ましくは22.5容量%以下である。
【0088】
(直脱重油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(c)及び(c)をいずれも満足する直脱重油留分を、組成物全量基準の含有量として50.0容量%以上70.0容量%以下で含むことが好ましい。直脱重油留分とは、常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる重油留分のことである。
(c)硫黄分含有量が0.50質量%以上0.60質量%以下
(c)50℃における動粘度が100.0mm/s以上200.0mm/s以下
本実施形態の内燃機用燃料油組成物において、直脱重油留分を上記含有量で含むと、上記動植物油及びその含有量、並びにエチレンボトム油及びその含有量との関係で、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させることができる。
【0089】
(c)硫黄分含有量
直脱重油留分の硫黄分含有量は、好ましくは0.60質量%以下、より好ましくは0.58質量%以下、更に好ましくは0.56質量%以下である。直脱重油留分の硫黄分含有量が0.60質量%以下であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の環境性能を向上させやすくなる。
下限としては、環境性能の向上の観点では、少なければ少ないほど好ましいが、直接脱硫装置の能力、直脱重油留分の生産量及び品質、入手の容易性等を考慮すると、好ましくは0.50質量%以上、より好ましくは0.53質量%以上である。
【0090】
(c)50℃における動粘度
直脱重油留分の50℃における動粘度は、好ましくは100.0mm/s以上、より好ましくは110.0mm/s以上、更に好ましくは130.0mm/s以上であり、上限として好ましくは200.0mm/s以下、より好ましくは190.0mm/s以下、更に好ましくは180.0mm/s以下である。直脱重油留分の動粘度が上記範囲内にあると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の潤滑性能及び燃焼性能が向上し、また各種機器の使用範囲に適合しやすくなり、取扱い性が向上しやすくなる。
【0091】
また、本実施形態で好ましく用いられる直脱重油留分は、上記(c)及び(c)の性状に加えて、更に以下(c)~(c16)の性状から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(c)~(c16)の性状のいずれも満足することが好ましい。
【0092】
(c)芳香族分含有量
直脱重油留分の芳香族分含有量は、好ましくは50.0容量%以上、より好ましくは52.0容量%以上であり、上限として好ましくは65.0容量%以下、より好ましくは63.0容量%以下である。
直脱重油留分の芳香族含有量が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。また、入手がしやすくなる。
【0093】
(c)残留炭素分
直脱重油留分の残留炭素分は、好ましくは7.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、更に好ましくは5.0質量%以下であり、下限としては特に制限はなく、通常2.0質量%以上である。
残留炭素分が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の残留炭素分が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、内燃機用燃料油組成物の燃焼性能が向上し、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、内燃機のより安定した運転が可能となる。
【0094】
(c)15℃における密度
直脱重油留分の15℃における密度は、好ましくは0.9000g/cm以上、より好ましくは0.9050g/cm以上、更に好ましくは0.9100g/cm以上であり、上限として好ましくは0.9500g/cm以下、より好ましくは0.9400g/cm以下、更に好ましくは0.9350g/cm以下である。
15℃における密度が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等の前に前処理装置として付設される遠心分離装置によるスラッジの分離性能が向上し、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。また、総発熱量も向上する。
【0095】
(c)引火点
直脱重油留分の引火点は、好ましくは100.0℃以上、より好ましくは150.0℃以上、更に好ましくは180.0℃以上である。
引火点が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の引火点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、取扱い上の安全性が向上する。
【0096】
(c)流動点
直脱重油留分の流動点は、好ましくは20.0℃以下、より好ましくは15.0℃以下、更に好ましくは10.0℃以下である。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-10.0℃以上程度である。
流動点が20.0℃以下であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の流動点が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、低温時におけるタンク内、配管内等における燃料油組成物の流動性能が向上する。
【0097】
(c)水分含有率
直脱重油留分の水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。直脱重油留分の水分含有率が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の水分含有率が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能の低下(アスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジ生成)を抑制し、スラッジによる閉塞を防止することができる。
また、下限としては少なければ少ないほど好ましく、特に制限はなく、0.0容量%であってもよい。
【0098】
(c)灰分量
直脱重油留分の灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。また、下限としては特に制限はなく、0.0質量%であってもよい。灰分量が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の灰分量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、貯蔵安定性能及び燃焼性能が向上し、またシリンダー、ノズル等の摩耗をより抑制することができ、排ガスによる環境負荷の低減を図ることができる。
【0099】
(c10)窒素含有率
直脱重油留分の窒素含有率は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。窒素含有率が0.3質量%以下であると、排気中の窒素酸化物等の窒素含有化合物の含有量が低減するため、環境性能が向上する。
また下限については、窒素含有率が少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
【0100】
(c11)炭素含有率
直脱重油留分の炭素含有率は、特に制限なく、通常86.0質量%以上91.0質量%以下である。
【0101】
(c12)水素含有率
直脱重油留分の水素含有率は、特に制限なく、通常11.0質量%以上14.0質量%以下である。
【0102】
(c13)酸素含有率
直脱重油留分の酸素含有率は、通常0.1質量%以下である。また、0.0質量%であってもよい。
【0103】
(c14)総発熱量
直脱重油留分の総発熱量は、好ましくは40,000(kJ/L)以上、より好ましくは40,500(kJ/L)以上、更に好ましくは41,000(kJ/L)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の総発熱量が上記の好ましい範囲になりやすくなる。その結果、総発熱量が上記範囲内であると、燃料油組成物の使用量が低減するため燃費性能が向上する。
【0104】
(c15)実在セジメント(TSE)
直脱重油留分の実在セジメント(TSE)は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。実在セジメント(TSE)が0.10質量%以下であると、通油性能及び貯蔵安定性能が向上する。
下限について、実在セジメント(TSE)は少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが、0.0質量%以上となる。
【0105】
(c16)飽和分含有量、レジン分含有量及びアスファルテン分含有量
直脱重油留分の飽和分含有量は、好ましくは20.0質量%以上50.0質量%以下、より好ましくは30.0質量%以上40.0質量%以下であり、レジン分含有量は好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以上7.0質量%以下、アスファルテン分含有量は好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下である。また、下限としては特に制限はなく、通常1.0質量%以上である。
飽和分が上記範囲内であると燃焼性能が向上し、またレジン分及びアスファルテン分が上記範囲内であると、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞がより抑制されるので、通油性能及び貯蔵安定性能が向上し、また燃焼性能が向上する。
【0106】
(直脱重油留分の含有量)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物に含まれる直脱重油留分の組成物全量基準の含有量は、好ましくは50.0容量%以上より好ましくは52.0容量%以上、更に好ましくは55.0容量%以上であり、上限として好ましくは70.0容量%以下、より好ましくは68.0容量%以下、更に好ましくは65.0容量%以下である。
直脱重油留分の含有量が上記範囲内であると、直脱重油留分と組み合わせて用いられる、動植物油及びその含有量、エチレンボトム油及びその含有量との関係で、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させることができる。
【0107】
(その他の留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記の動植物油及びエチレンボトム油、また好ましく用いられる直脱重油留分とともに他の留分を含有してもよい。他の留分としては、内燃機用燃料油組成物が上記(1)~(4)の組成及び性状を満足させるものであれば、特に制限はなくいかなる留分を用いることが可能である。通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させる観点から、以下の軽油留分、重油留分等が好ましく挙げられる。
【0108】
(重油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、その他の留分の重油留分として、例えば、常圧蒸留残渣油留分、減圧蒸留残渣油留分、分解重油留分を含有することができる。
・常圧蒸留残渣油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる残渣油)
・減圧蒸留残渣油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる残渣油)
・分解重油留分(直脱重油留分を流動接触分解して得られる重油留分)
【0109】
(その他の重油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記の重油留分が有する性状としては、例えば下記の性状を有していることが好ましい。重油留分が下記の性状を有することで、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させることができる。
硫黄分含有量は、好ましくは1.20質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下、更に好ましくは0.85質量%以下である。また下限値としては通常0.30質量%以上である。
50℃における動粘度は、好ましくは30.00mm/s以上、より好ましくは50.00mm/s以上、更に好ましくは100.0mm/s以上であり、上限として好ましくは200.0mm/s以下、より好ましくは195.0mm/s以下、更に好ましくは190.0mm/s以下である。
残留炭素分は、好ましくは10.0質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは7.5質量%以下であり、下限としては通常2.0質量%以上である。
15℃における密度は、好ましくは1.3000g/cm以下、より好ましくは1.2000g/cm以下、更に好ましくは1.1000g/cm以下、より更に好ましくは1.0000g/cm以下であり、下限としては通常0.9000g/cm以上である。
引火点は、好ましくは140.0℃以上、より好ましくは150.0℃以上、更に好ましくは160.0℃以上である。
流動点は、好ましくは25.0℃以下、より好ましくは20.0℃以下、更に好ましくは17.5℃以下、より更に好ましくは15.0℃以下である。
水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。
灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。
窒素含有率は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、炭素含有率は、通常85.0質量%以上91.0質量%以下、好ましくは90.0質量%以下であり、水素含有率は、通常9.0質量%以上14.0質量%以下である。また、酸素含有率は、通常0.1質量%以下であり、0.0質量%であってもよい。
総発熱量は、好ましくは39,000(kJ/L)以上、より好ましくは39,500(kJ/L)以上、更に好ましくは40,000(kJ/L)以上である。
実在セジメント(TSE)は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.07質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下である。
芳香族分含有量は、好ましくは50.0質量%以上、より好ましくは55.0質量%以上であり、上限としては特に制限はないが、例えば75.0質量%以下、好ましくは65.0質量%以下である。
飽和分含有量は、好ましくは15.0質量%以上45.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以上40.0質量%以下であり、レジン分含有量は好ましくは2.0質量%以上10.0質量%以下、より好ましくは3.5質量%以上6.5質量%以下、アスファルテン分含有量は好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下である。また、下限としては特に制限はなく、通常1.0質量%以上である。
【0110】
上記のその他の留分の重油留分を用いる場合、その組成物全量基準の含有量は、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させる観点から、好ましくは1.0容量%以上、より好ましくは3.0容量%以上であり、上限として好ましくは15.0容量%以下、より好ましくは10.0容量%以下、更に好ましくは9.0容量%以下である。なお、重油留分を二種以上含む場合は、重油留分の合計含有量が上記範囲内にあるとよい。
【0111】
(軽油留分)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、その他の留分の軽油留分として、例えば、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分、水素化分解軽油留分等の軽油留分を含有することができる。
・直留軽油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる軽油留分)
・減圧軽油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる軽油留分)
・脱硫軽油留分(直留軽油留分、直脱軽油留分及び/又は減圧軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・分解軽油留分(直脱重油留分及び/又は減圧脱硫軽油留分を流動接触分解して得られる軽油留分)
・脱硫分解軽油留分(分解軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・直脱軽油留分(常圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる軽油留分)
・水素化分解軽油留分(減圧軽油留分を水素化分解装置で水素化分解して得られる軽油留分)
【0112】
(その他の軽油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記の軽油留分が有する性状としては、例えば下記の性状を有していることが好ましい。軽油留分が下記の性状を有することで、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させることができる。
硫黄分含有量は、通常0.50質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以下であり、下限値としては通常0.01質量%以上である。
50℃における動粘度は、好ましくは5.00mm/s以下、より好ましくは3.00mm/s以下、更に好ましくは2.50mm/s以下であり、下限としては通常1.00mm/s以上、好ましくは1.50mm/s以上である。
残留炭素分は、好ましくは0.10質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、更に好ましくは0.02質量%以下であり、下限としては特に制限はなく、通常0.00質量%以上である。
15℃における密度は、好ましくは0.8000g/cm以上、より好ましくは0.8200g/cm以上、更に好ましくは0.8300g/cm以上であり、上限として好ましくは0.9400g/cm以下、より好ましくは0.9300g/cm以下、更に好ましくは0.9200g/cm以下である。
引火点は、好ましくは60.0℃以上、より好ましくは65.0℃以上である。
流動点は、好ましくは0.0℃以下、より好ましくは-2.5℃以下、更に好ましくは-5.0℃以下である。また下限については、流動点が低ければ低いほど好ましく、特に制限はないが、通常-30.0℃以上程度である。
水分含有率は、好ましくは0.20容量%以下、より好ましくは0.15容量%以下、更に好ましくは0.10容量%以下である。
灰分量は、好ましくは0.020質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下、更に好ましくは0.010質量%以下である。
窒素含有率は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下であり、炭素含有率は、通常85.0質量%以上91.0質量%以下であり、水素含有率は、通常9.0質量%以上14.0質量%以下である。また、酸素含有率は、通常0.1質量%以下であり、0.0質量%であってもよい。
総発熱量は、好ましくは38,000(kJ/L)以上、より好ましくは39,000(kJ/L)以上、更に好ましくは39,500(kJ/L)以上である。
実在セジメント(TSE)は、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以下である。
芳香族分含有量は、好ましくは15.0質量%以上、より好ましくは20.0質量%以上であり、上限としては特に制限はないが、例えば75.0質量%以下である。
オレフィン分含有量は、好ましくは10.0容量%以下、より好ましくは5.0容量%以下であり、下限としては特に制限はなく、小さければ小さいほど好ましく、0質量%であってもよい。また、飽和分含有量は、好ましくは15.0容量%以上、より好ましくは20.0容量%以上であり、上限として好ましくは80.0容量%以下、より好ましくは77.0容量%以下である。
90容量%留出温度は、特に制限はないが、通常300℃以上360℃以下であり、好ましくは315℃以上、より好ましくは320℃以上であり、上限として好ましくは350℃以下、より好ましくは345℃以下である。
【0113】
上記のその他の留分の軽油留分を用いる場合、その組成物全量基準の含有量は、通油性能及び貯蔵安定性能に加えて、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をバランスよく向上させる観点から、好ましくは1.0容量%以上、より好ましくは3.0容量%以上であり、上限として好ましくは15.0容量%以下、より好ましくは10.0容量%以下、更に好ましくは9.0容量%以下である。なお、軽油留分を二種以上含む場合は、軽油留分の合計含有量が上記範囲内にあるとよい。
【0114】
(各種添加剤)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物には、上記の諸性状を維持しうる範囲で、必要に応じ、各種添加剤として、酸化防止剤、低温流動性向上剤、潤滑性向上剤、セタン価向上剤、燃焼促進剤、清浄剤、スラッジ分散剤、防カビ剤等の各種添加剤を適宜選択して配合することができる。また、軽油引取税の観点よりクマリンを配合してもよい。
【0115】
(用途)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、極めて厳しい通油性能及び貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をも満足する燃料油組成物である。そのため、内燃機用の燃料油組成物として用いられ、特に前処理装置として遠心分離機を装備した大型船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機等に好適に用いられる。
【0116】
〔内燃機用燃料油組成物の製造方法〕
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の製造方法は、
下記(a)及び(a)をいずれも満足する動植物油と、
下記(b)~(b)をいずれも満足するエチレンボトム油と、を、
前記動植物油の組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下となり、
前記エチレンボトム油の組成物全量基準の含有量が、前記動植物油の組成物全量基準の含有量の0.20倍以上となるように混合する、
下記(1)~(4)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法である。
(a)硫黄分含有量が0.02質量%以下
(a)50℃における動粘度が20.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.30質量%以下
(b)50℃における動粘度が10.0mm/s以上50.0mm/s以下
(b)芳香族分含有量が80.0容量%以上
(1)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(2)50℃における動粘度が50.0mm/s以上100.0mm/s以下
(3)CCAIが835以下
(4)潜在セジメントが0.10質量%以下
【0117】
本実施形態の製造方法における、動植物油及びエチレンボトム油は、本実施形態の内燃機用燃料油組成物に含まれるものとして説明した動植物油及びエチレンボトム油と同じものであり、これらの動植物油及びエチレンボトム油の含有量も同じである。また、直脱重油留分を用いることが好ましいこと、その他の留分である各種重油留分、各種軽油留分を用い得ることも同じである。
【0118】
動植物油、エチレンボトム油、また好ましく用いられる直脱重油留分、その他の各種軽油留分、重油留分、また各種添加剤の配合順序は特に制限はなく、例えば、動植物油にエチレンボトム油、直脱重油留分、その他の各種軽油留分、重油留分、さらに各種添加剤を逐次添加して混合してもよいし、各種添加剤を予め混合した後、動植物油と、エチレンボトム油と、直脱重油留分と、その他の各種軽油留分、重油留分と、を混合してもよいし、またその他の各種軽油留分、重油留分を予め混合した後、動植物油と、エチレンボトム油と、直脱重油留分と、各種添加剤と、を混合してもよい。
【実施例0119】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、各基材の性状は、上記のとおり、下記の方法に従って求めた。
【0120】
〔性状の測定〕
実施例及び比較例で使用した動植物油(パーム油、菜種油)、エチレンボトム油、直脱重油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分及び分解重油留分の各種基材の性状、実施例及び比較例の燃料油組成物の性状は、以下の方法により測定した。各種基材の性状を第1表に示す。また、燃料油組成物の性状を第2表及び第3表に示す。
・硫黄分含有量:JIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法に準じて測定した。
・50℃における動粘度:JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定した。
・CCAI:ISO 8217-2012のAnnex F記載の計算式より算出した。
・潜在セジメント:試料(本実施形態の内燃機用燃料油組成物)を、ISO10307-2A(Thermal Aging)に準じて、100℃で24時間放置し、濾紙を通して得られる濾紙に残存するスラッジ量とした。
・残留炭素分:JIS K 2270-1:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第1部:コンラドソン法)に準じて測定した。
・15℃における密度:JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定した。
・引火点:JIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定した。
・流動点:分解軽油留分はJIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定した。
・水分含有率:JIS K 2275-3:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第3部:カールフィッシャー式電量滴定法)に準じて測定した。
・灰分量:JIS K 2272:1998(原油及び石油製品-灰分及び硫酸灰分試験方法-)に準じて測定した。
・総発熱量:動植物油(パーム油、菜種油)、脱硫軽油留分、分解軽油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定される原油、灯油、軽油、A重油及びB重油の場合の計算式により推定)した。また、燃料油組成物、エチレンボトム油、直脱重油留分、分解重油留分については、JIS K2279:2003(原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるC重油の場合の計算式により推定)した。
・窒素含有率、炭素含有率及び水素含有率:窒素含有率、炭素含有率及び水素含有率は、CHNコーダー法により、炭素・水素・窒素同時定量装置等の元素分析装置を用いて測定した。
・酸素含有率:JIS M8813:2006(石炭類及びコークス類-元素分析方法) 附属書5(酸素含有率の算出方法)に基づき算出される数値であり、全体100質量%から、上記の炭素含有率、水素含有率、窒素含有率、硫黄含有分及び灰分量を差し引いた数値とした。
・実在セジメント(TSE):ISO 10307-1に準拠して測定した。
・90%留出温度:蒸留性状における90%留出温度は、JIS K2254:1998(石油製品-蒸留試験方法-)に準じて測定される値である。
・芳香族分含有量、飽和分含有量及びオレフィン分含有量:脱硫軽油留分、分解軽油留分、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留及び水素化分解軽油留分については、JPI-5S-49-2007に規定される、石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定した。
・芳香族分含有量、飽和分含有量、レジン分含有量及びアスファルテン分含有量:エチレンボトム油、直脱重油留分、分解重油留分、常圧蒸留残渣留分及び減圧蒸留残渣留分については、IP-469(国際標準試験方法(IP Test Methods))に規定される、TLC/FID法により測定した。
【0121】
〔性能の評価基準〕
以下の1~5の各性能の評価を行い、一番悪い評価を総合評価として評価した。C評価であれば不合格である。各性能の評価を、第2表に示す。
【0122】
1.通油性能
各実施例及び比較例の燃料油組成物の通油性能について、以下の方法でろ過時間の傾き(Tn)を算出し、以下の基準で評価した。
A:ろ過時間の傾き(Tn)が0.07以下であった。
B:ろ過時間の傾き(Tn)が0.07超0.12以下であった。
C:ろ過時間の傾き(Tn)が0.12超であった。
【0123】
(ろ過時間の傾きの算出方法)
燃料油組成物について、以下の方法に基づき、ろ過時間の傾きを算出した。
(i)測定試料を「JIS K2601:1998-原油試験方法- 14.水でい分試験方法 14.2水でい分試験器」(以下、「水でい分試験器」とも称する。)で使用される目盛試験管3本に、各々100mLの標線まで採取した。その後、水でい分試験器で使用される遠心分離機を用い、60℃、相対遠心力600の条件で55分間遠心分離を行う。
(ii)50mLビーカーを3個用意し、遠心分離をかけた目盛試験管3本の試料の上部50mLを、各50mLビーカーに分取する。分取後のビーカーを0.1mg単位で秤量し、秤量した質量をM(g)とする。そして、85±1℃に保った恒温槽で、分取した試料を15分間加熱した。
(iii)110℃の乾燥機で20分間、予め乾燥させておいた細孔20~25μmのろ紙(Whatman No.4(55mmφ))を、JPI-5S-60-2000の実在セジメント試験方法に定めるろ過装置(以下、ろ過装置)に配置する。さらに上部漏斗を重ね、試料の漏れ込みが無いよう固定する。この際、直径28mmの孔を開けたパッキンを重ね、ろ過面の直径を28mmに調節する。その後、減圧瓶の他端には、排気速度12L/分で吸引できる真空ポンプを取り付ける。また、上部漏斗も試料と同様に85±1℃となるよう加熱する。
(iv)加熱した試料のうち1つ目を、漏斗内壁に試料がつかないようにろ紙中央に注ぎ込む。ろ紙を注ぎ始めてから1分後に真空ポンプを起動させ、ろ過を開始する。ろ過開始時から、試料がろ過されろ紙が全面露出(内径28mmのろ過面部のみでよい)までに要した時間を測定し、測定したろ過に要した時間をt(秒)とする。また、使用後のビーカーを秤量し、秤量した質量をM(g)とした。
(v)真空ポンプ停止後、2つ目、3つ目の試料に対し、上記の1つ目の試料と同じ操作を繰り返し実施する。この間は、試験機取り外しや機器洗浄など、測定条件が変わる動作をしないこととする。また、ろ紙の閉塞によって試料がろ過されなくなった場合は、ろ過作業を終了し次工程に進む。具体的には、ろ過を開始してから6分経過しても、ろ過が完了しない場合、ろ過作業を終了する。ろ紙が閉塞した場合は、残試料をトルエンで溶解しピペット等で取り除く。そして、漏斗及びろ紙をn-ヘプタンで洗浄後、上部漏斗を取り外し、ろ紙の縁を確認する。ろ紙の縁まで着色していたら、試料が漏れているため、再試験を行うこととする。
(vi)下記式(1)より、それぞれの測定回数の燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間を算出した。
=t/(M/d) (1)
(vii)上記式(1)において、nは測定回数であり、3回である。また、Tはn回目の測定のろ過に要した時間から算出した燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間(秒/cm)、tはn回目の測定のろ過に要した時間(秒)、Mはろ過した燃料油組成物の質量(M-M)(g)、dは15℃における燃料油組成物の密度(g/cm)である。なお、ろ紙の閉塞によりろ過できなかった場合は、「計算不可」とする。
縦軸を燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間とし、横軸をろ過に要した時間の測定回数としてプロットした点から、最小二乗法で近似直線の傾きを算出し、これをろ過時間の傾き(秒/cm)とする。
【0124】
2.貯蔵安定性能
各実施例及び比較例の燃料油組成物の貯蔵安定性能について、上記の方法により測定した潜在セジメントに基づき以下の基準で評価した。
A.潜在セジメントが0.08質量%以下であった。
B.潜在セジメントが0.08質量%超0.10質量%以下であった。
C.潜在セジメントが0.10質量%超であった。
3.燃焼性能
各実施例及び比較例の燃料油組成物の燃焼性能について、上記の方法により測定したCCAIに基づき以下の基準で評価した。
A.CCAIが825以下であり、かつ残留炭素分が5.0質量%以下及び50℃における動粘度が90.0mm/s以下であった。
B.CCAIが835以下であり、かつ残留炭素分が5.0質量%以下及び50℃における動粘度が100.0mm/s以下であった。
C.CCAIが835超、残留炭素分が5.0質量%超、又は50℃における動粘度が100.0mm/s超であった。
4.環境性能
実施例及び比較例の燃料油組成物の環境性能について、硫黄分含有量に基づき以下の基準で評価した。
A.硫黄分含有量が0.38質量%以下であった。
B.硫黄分含有量が0.38質量%超0.40質量%以下であった。
C.硫黄分含有量が0.40質量%超であった。
5.潤滑性能
実施例及び比較例の燃料油組成物の粘度適性について、50℃における動粘度に基づき以下の基準で評価した。
A.50℃における動粘度が60.0mm/s以上であった。
B.50℃における動粘度が50.0mm/s以上60.0mm/s未満であった。
C.50℃における動粘度が50.0mm/s未満であった。
【0125】
【表1】
【0126】
〔実施例1~8、比較例1~9〕
第1表に示す性状及び組成を有する各種基材を、第2表及び第3表に示す割合で混合し、実施例1~8及び比較例1~9の燃料油組成物を調製した。
得られた各燃料油組成物について、上記の方法により測定した組成及び性状を第2表及び第3表に示す。また、得られた各燃料油組成物について、通油性能、貯蔵安定性能、燃焼性能、環境性能及び粘度適性を上記方法により評価した。その結果を第2表及び第3表に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
【表3】
【0129】
第2表に示されるように、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、エチレンボトム油を有効活用しながら、通油性能、貯蔵安定性能、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能の評価がいずれも良好であることが確認された。また貯蔵安定性能がA評価であることから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機、中でも前処理装置として遠心分離装置を装備する大型船舶等の各種船舶のディーゼルエンジン等への使用にも耐え得る極めて厳しい貯蔵安定性能への要求にも満足し得るものであることが分かる。
一方、第3表に示されるように、動植物油を含むものの含有量が15.0~35.0容量%の範囲外である比較例1及び3の燃料油組成物は、各々燃焼性能及び貯蔵安定性に劣るものであることが確認された。また動植物油を35.0容量%で含むものの、エチレンボトム油を動植物油との比率で0.14倍の含有量と、0.20倍以上で含まない比較例2の燃料油組成物は、貯蔵安定性に劣るものであることが確認された。
また、植物油を15.0~35.0容量%の含有量で含むものの、エチレンボトム油を含まない比較例4~9の燃料油組成物は、貯蔵安定性能、燃焼性能、環境性能及び潤滑性能の少なくともいずれかの性能に劣るものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、エチレンボトム油を有効活用し、極めて厳しい通油性能及び貯蔵安定性能への要求に対応しつつ、他の性能、すなわち燃焼性能、環境性能及び潤滑性能をも満足する燃料油組成物であり、内燃機関、特に船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機に好適に用いられ、中でも前処理装置として遠心分離装置を装備する大型船舶等の船舶用のディーゼルエンジン等に好適に用いられるものである。