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特開2023-80909空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080909
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システム
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/22 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
G03H1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194473
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 祐太
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雅人
(72)【発明者】
【氏名】東田 諒
(72)【発明者】
【氏名】青島 賢一
(72)【発明者】
【氏名】町田 賢司
【テーマコード(参考)】
2K008
【Fターム(参考)】
2K008CC03
2K008EE04
2K008FF27
2K008HH26
(57)【要約】
【課題】視域角を拡大することができる空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システムを提供する。
【解決手段】空間光変調器は、第1方向D1及び第1方向D1に直交する第2方向D2となる矩形格子状に画素列の画素の中心15が配列され、第1方向D1は、ホログラムの表示における水平方向DHに対して0度よりも大きく90度よりも小さい回転角φをなす。ホログラムデータ生成装置は、回転角と逆向きに回転角の大きさだけ複素振幅分布を回転させて標本化する。ホログラム表示システムは、ホログラムデータ生成装置によって生成されるホログラムデータを空間光変調器に表示させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向及び前記第1方向に直交する第2方向となる矩形格子状に画素列の画素の中心が配列され、ホログラムの表示に用いられる空間光変調器であって、
前記第1方向は、前記ホログラムの表示における水平方向に対して、0度よりも大きく90度よりも小さい回転角をなす空間光変調器。
【請求項2】
前記回転角は、前記水平方向に直交する垂直方向での直線上に、前記第1方向における隣の画素列の画素の中心が位置する角度である請求項1に記載の空間光変調器。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の空間光変調器若しくは前記第1方向が前記水平方向と前記回転角をなすように傾けた空間光変調器に表示させるホログラムデータを生成するホログラムデータ生成装置であって、
前記ホログラムデータを生成する対象となるデータの複素振幅分布を標本化する複素振幅入力部と、
前記標本化された複素振幅分布をフーリエ変換し、前記フーリエ変換の結果に対して空間周波数の範囲を選択する変換部と、
前記空間周波数の範囲を選択されたフーリエ変換の結果に対し、角スペクトル乗算および逆フーリエ変換によって光波の伝搬を計算する光波伝搬計算部と、
前記伝搬計算された光波と参照光との干渉計算を行いホログラムデータを生成するホログラム生成計算部と、を備え、
前記複素振幅入力部は、前記回転角と逆向きに前記回転角の大きさだけ前記複素振幅分布を回転させて標本化するホログラムデータ生成装置。
【請求項4】
前記複素振幅入力部は、オーバーサンプリングを行い、
前記ホログラム生成計算部は、前記オーバーサンプリングの係数の逆数を係数とするダウンサンプリングを行う請求項3に記載のホログラムデータ生成装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のホログラムデータ生成装置によって生成されるホログラムデータを請求項1又は請求項2に記載の空間光変調器若しくは前記第1方向が前記水平方向と前記回転角をなすように傾けた空間光変調器に表示させるホログラム表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムの表示に用いられる空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空間光変調器は、光の振幅や位相、偏光などを空間的、時間的に変調するデバイスであり、ホログラムの表示に用いられる。ホログラムは光の振幅と位相を干渉縞として記録したものであり、光源でこれを照明すると記録した光の振幅と位相を再生することができ、空間像を表示することが可能である。ホログラムによって再生した空間像を観察可能な範囲を視域と呼び、視域の広さを正面方向からの角度で表したものが視域角θである。空間光変調器を用いる空間像の再生では、視域角θは、空間光変調器の画素ピッチPと再生に用いる光源の波長λによって決まる。なお、θ=2sin-1(λ/2P)の関係がある。
特許文献1では、液晶を用いた空間光変調器において、1μm程度の狭い画素ピッチを実現することで、視域角の拡大を図っている。特許文献2では、非対称な結像倍率をもつアナモルフィック光学系により空間光変調器からの変調光を水平方向と垂直方向で異なる結像倍率で結像し、水平方向に対しては縮小結像することで画素ピッチを縮小し視域の拡大を実現している。また、特許文献3では、複数の空間光変調器によって再生した空間像を拡大結像系によってすき間なく接続し、空間的に接続された空間像を縮小光学系で縮小することで視域の拡大を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-136381号公報
【特許文献2】特許第5332032号公報
【特許文献3】特許第5975438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空間光変調器を用いる空間像の再生において、視域を拡大するためには、空間光変調器そのものの画素ピッチを縮小するか、空間光変調器に光学系等を組み合わせて実質的に画素ピッチを縮小する必要がある。空間光変調器そのものの画素ピッチを縮小するためには、例えば液晶を用いた空間光変調器では、隣接画素間に生じる電界クロストークが問題となる。また、空間光変調器に光学系等を組み合わせる場合は、装置全体の大型化や機械的動作に時間がかかるといった問題がある。
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、視域角を拡大することができる空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明に係る空間光変調器は、第1方向及び前記第1方向に直交する第2方向となる矩形格子状に画素列の画素の中心が配列され、ホログラムの表示に用いられる空間光変調器であって、前記第1方向は、前記ホログラムの表示における水平方向に対して0度よりも大きく90度よりも小さい回転角をなす。
【0006】
また、本発明に係るホログラムデータ生成装置は、本発明に係る空間光変調器又は前記第1方向が前記水平方向と前記回転角をなすように傾けた空間光変調器に表示させるホログラムデータを生成するホログラムデータ生成装置であって、前記ホログラムデータを生成する対象となるデータの複素振幅分布を標本化する複素振幅入力部と、前記標本化された複素振幅分布をフーリエ変換し、前記フーリエ変換の結果に対して空間周波数の範囲を選択する変換部と、前記空間周波数の範囲を選択されたフーリエ変換の結果に対し、角スペクトル乗算および逆フーリエ変換によって光波の伝搬を計算する光波伝搬計算部と、前記伝搬計算された光波と参照光との干渉計算を行いホログラムデータを生成するホログラム生成計算部と、を備え、前記複素振幅入力部は、前記回転角と逆向きに前記回転角の大きさだけ前記複素振幅分布を回転させて標本化する。
【0007】
また、本発明に係るホログラム表示システムは、本発明に係るホログラムデータ生成装置によって生成されるホログラムデータを本発明に係る空間光変調器又は前記第1方向が前記水平方向と前記回転角をなすように傾けた空間光変調器に表示させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、視域角を拡大することができる空間光変調器およびホログラムデータ生成装置並びにホログラム表示システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る空間光変調器が使用されている空間像の再生システムを例示する概略図である。
図2】本発明に係る空間光変調器の画素の配列を例示する概略図である。
図3A】本発明に係る空間光変調器における回転角の説明図である。
図3B】本発明に係る空間光変調器における回転角の説明図である。
図3C】本発明に係る空間光変調器における回転角の説明図である。
図4】本発明に係るホログラムデータ生成装置の構成の一例を示すブロック図である。
図5】本発明に係るホログラムデータ生成装置によるホログラムデータ生成のフローチャートの一例である。
図6A】従来の空間光変調器の空間周波数分布の説明図である。
図6B】本発明に係る空間光変調器の空間周波数分布の説明図である。
図7A】複素振幅分布を回転させた場合の空間周波数分布の説明図である。
図7B】オーバーサンプリングを行った場合の空間周波数分布の説明図である。
図8】空間周波数分布におけるフィルタリングの説明図である。
図9】ホログラムデータにおいてエイリアシングが生じないことの説明図である。
図10】本発明に係るホログラム表示システムに使用することができる空間光変調器を例示する概略図である。
図11】従来の空間光変調器の画素の配列を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[空間光変調器]
本発明に係る空間光変調器1を図1乃至図3Cを参照して説明する。空間光変調器1は、ホログラフィにおける干渉縞(ホログラム)を表示することができる装置である。図1に示すように、空間光変調器1が表示するホログラム4に再生光210を照射することで空間像220を再生することができる。ここでは、ホログラム4は一例として矩形状を呈しており、矩形状の各辺の方向を水平方向DH及び水平方向DHに垂直な垂直方向DVに合わせて配置されている。
空間光変調器1は画素構造を有するものであればその実現方法は問わず、液晶を用いたもの、MEMSミラーを用いたもの、磁気光学効果を用いたものなどに適用できる。
【0011】
図2に示すように、空間光変調器1は、複数の画素10を有している。画素10は、光を変調する単位となる素子である。画素10の境界11は、ここでは短辺及び長辺を有する矩形状である。画素10は、画素の中心15が第1方向D1及び第1方向D1に直交する第2方向D2に矩形格子状に並ぶように二次元配列されている。第1方向D1は、例えば矩形状の境界11の短辺が連続する方向に取ることができる。
空間光変調器1は、第1方向D1が水平方向DHに平行ではなく傾いている。基準画素20を選択して説明すると、空間光変調器1は、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における隣りの画素22の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置するように傾いている。
【0012】
空間光変調器1において、第1方向D1が水平方向DHとなす角を回転角φとする。回転角φは向きを有する角であり、向きは水平方向DHから第1方向D1への向きとする。回転角φは、0度よりも大きく90度よりも小さい角に取ることができる。第2方向D2が垂直方向DVとなす角は、向きを含めて回転角φと同じである。すなわち、回転角φは、第1方向D1が水平方向DHとなす角としてもよく、第2方向D2が垂直方向DVとなす角としてもよい。
回転角φの大きさは、水平方向DHに直交する垂直方向DVでの直線上に、第1方向D1における隣の画素列の画素の中心が位置する角度である。ここでは、画素21の中心を通る垂直方向DVに平行な直線V1上に、第1方向D1における隣の画素列の画素22の中心が位置する角度である。
空間光変調器1の回転角φの大きさは、Nを正の整数として、φ=tan-1(P1/(N×P2))と表すことができる。ここではN=1である。また、回転角φは、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における隣りの画素22の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置する角度となっている。
【0013】
図11に一例を示す空間光変調器の従来例500では、画素ピッチは、矩形格子状の配列における隣接する画素の中心15同士の間隔である。従来例500では、第1方向D1は水平方向DHと平行であり、第2方向D2は垂直方向DVと平行である。このため、水平画素ピッチPHは水平方向DHにおいて隣接する画素の中心15同士の間隔P1であり、垂直画素ピッチPVは、垂直方向DVにおいて隣接する画素の中心15同士の間隔P2である。従来例500は、空間光変調器1と同様の画素10で構成されており、画素の中心15同士の間隔P1、P2は空間光変調器1と同じである。
空間光変調器1では、垂直方向DVにおける隣の画素の中心15は、矩形格子状の配列における隣接する画素の中心15ではない。このような場合、水平画素ピッチPH及び垂直画素ピッチPVに替えて、等価水平画素ピッチPEH及び等価垂直画素ピッチPEVを導入することができる。等価水平画素ピッチPEHは、垂直方向DVに並んでいる画素の中心15を通る直線同士の間隔である。一方、等価垂直画素ピッチPEVは、垂直方向DVに並んでいる画素の中心15同士の間隔である。
【0014】
空間光変調器1の等価水平画素ピッチPEHは、従来例500の水平画素ピッチPHよりも小さくなっている。一方、空間光変調器1の等価垂直画素ピッチPEVは、従来例500の垂直画素ピッチPVよりも大きくなっている。
なお、画素の境界11は、長方形状でもよく正方形状でもよい。画素の中心15は、矩形格子状に並んでいてもよく、正方格子状に並んでいてもよい。
【0015】
図3A乃至図3Cは、空間光変調器の回転角φについて、一部の画素10を取り出して例示している。ここでは、画素の境界11は正方形状であるので、画素の中心15は正方格子状に配列されている。また、回転角φは、第2方向D2が垂直方向DVとなす角として示している。
図3Aに一部を例示する空間光変調器1Aは、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における隣りの画素22の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置するように傾いている。回転角φは、φ=tan-1(P1/(N×P2))の式においてN=1の場合に相当し、これをφ1と表記している。第1方向D1及び第2方向D2における隣り合う画素の中心15の間隔を1とすると、等価水平画素ピッチPEHは0.71である。また、回転角φ1の大きさは45度である。なお、空間光変調器1Aは、回転角φがφ=tan-1(P1/(N×P2))の式においてN=1の場合に相当する点で、図2に示す空間光変調器1と同じである。しかし、回転角φ1の大きさ及び等価水平画素ピッチPEHは、画素の境界11が短辺及び長辺を有する矩形状である空間光変調器1とは異なっている。
【0016】
図3Bに一部を例示する空間光変調器1Bは、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における2個隣りの画素23の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置するように傾いている。回転角φは、φ=tan-1(P1/(N×P2))の式においてN=2の場合に相当し、これをφ2と表記している。第1方向D1及び第2方向D2における隣り合う画素の中心15の間隔を1とすると、等価水平画素ピッチPEHは0.45である。また、回転角φ2の大きさは26.6度である。
【0017】
図3Cに一部を例示する空間光変調器1Cは、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における3個隣りの画素24の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置するように傾いている。回転角φは、φ=tan-1(P1/(N×P2))の式においてN=3の場合に相当し、これをφ3と表記している。第1方向D1及び第2方向D2における隣り合う画素の中心15の間隔を1とすると、等価水平画素ピッチPEHは0.32である。また、回転角φ3の大きさは18.4度である。
回転角φの大きさは、水平方向DHに直交する垂直方向DVでの直線上に、第1方向D1における隣の画素列の画素の中心が位置する角度となっている。例えば、画素21の中心を通る垂直方向DVに平行な直線V1上に、第1方向D1における隣の画素列の画素22、画素23又は画素24の中心が位置する角度となっている。
【0018】
本発明に係る空間光変調器1は、第1方向D1が水平方向DHと0度よりも大きく90度よりも小さい角をなすことで、画素10の大きさや間隔を変更することなく、等価的に画素ピッチを縮小することができる。
空間光変調器1は、回転角φの大きさが水平方向DHに直交する垂直方向DVでの直線上に、第1方向D1における隣の画素列の画素の中心が位置する角度であることで、物理的に画素ピッチPを縮小することなく、水平方向の視域角θを拡大することができる。
また、空間光変調器1は、回転角φが、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における隣りの画素22の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置する角度であることで、物理的に画素ピッチPを縮小することなく、水平方向の視域角θを拡大することができる。
また、空間光変調器1は、回転角φが、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における2個隣りの画素23の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置する角度であることで、水平方向の視域角θをより拡大することができる。
また、空間光変調器1は、回転角φが、基準画素20の第1方向D1における隣りの画素21の中心と、基準画素20の第2方向D2における3個隣りの画素24の中心と、が水平方向DHに垂直な直線上に並んで位置する角度であることで、水平方向の視域角θをさらに拡大することができる。
なお、空間光変調器1において、水平視域角及び垂直視域角はトレードオフの関係となるが、立体知覚では水平方向DHの視域角θが支配的とされている。空間光変調器1は、等価水平画素ピッチPEHを小さくすることによって立体知覚を効果的に改善することができる。
【0019】
[ホログラムデータ生成装置]
次に、本発明に係るホログラムデータ生成装置2を図4乃至図10を参照して説明する。ホログラムデータ生成装置2は、空間光変調器1にホログラムを表示させるためのデータを生成する装置である。また、ホログラムデータ生成装置2は、第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器にホログラムを表示させるためのデータを生成することができる。
第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器とは、図10に示すように、例えば、外周に配列されている画素の中心15が、第1方向D1及び第2方向D2の何れかに沿って並んでいる空間光変調器を第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように回転させたものである。例えば、図11に一例を示す空間光変調器の従来例500を第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように回転させてもよい。なお、図10において、図2に示す空間光変調器1の外形との対応の一例を2点鎖線で示している。
【0020】
ホログラムデータ生成装置2は、角スペクトル法によってホログラムデータの生成を行う。図4に示すように、ホログラムデータ生成装置2は、複素振幅入力部30と、変換部40と、光波伝搬計算部50と、ホログラム生成計算部60と、を備えている。図5は、ホログラムデータ生成装置2が行うホログラムデータ生成におけるフローチャートの一例を示している。なお、ここでは、画素の境界11が正方形状であり、画素の中心15が正方格子状に並んでいる例で説明する。また、空間光変調器1の場合で説明しているが、第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器にホログラムを表示させるためのデータも、空間光変調器1の場合と同様に作成することができる。
【0021】
(複素振幅入力部)
複素振幅入力部30は、光波の複素振幅分布を標本化(サンプリング)する手段を備える。複素振幅入力部30は、サンプリングした結果を変換部40に送る。また、複素振幅入力部30は、ホログラムデータ生成装置2の外部に対する入力インターフェイスを有しており、ホログラムの表示対象とする画像等のデータが外部から入力される。画像等のデータは、撮影等されたものでもよく、計算等によって作成されたものでもよい。
【0022】
複素振幅入力部30は、サンプリングの後にゼロパディングを行うことができる。ゼロパディングは、変換部40で行われる高速フーリエ変換および光波伝搬計算部50で行われる逆高速フーリエ変換がいずれも循環畳み込み演算であることに起因して生じるエイリアシングの発生を防ぐため、サンプリングした複素振幅分布の外周に、複素振幅分布が存在しない領域を均等に付加し、複素振幅分布のサイズをもとの2倍とする。
【0023】
図6A図6Bは、複素振幅入力部30に入力される画像等のデータu及び空間光変調器の空間周波数帯域F[u]の例を示している。空間光変調器は、画素10の配列によって決まる空間周波数帯域幅を有している。
図6Aは、回転角φが0度、すなわち第1方向D1が水平方向DHと平行である従来の空間光変調器であり、比較のために示している。第1方向D1が水平方向DHと平行である場合、空間光変調器の空間周波数帯域幅は、水平画素ピッチPH及び垂直画素ピッチPVによって決まり、水平方向および垂直方向について、それぞれ1/PHおよび1/PVである。PH=PVであるため、空間周波数帯域幅は正方形で表示されている。なお、空間周波数軸ν、νは、水平画素ピッチPH及び垂直画素ピッチPVに対応する方向を示している。
【0024】
図6Bは、一例として回転角φが45度の場合であり、例えば空間光変調器1Aに対応している。等価水平画素ピッチPEHは、回転角φが0度の場合の水平画素ピッチPHよりも小さく、等価垂直画素ピッチPEVは、回転角φが0度の場合の垂直画素ピッチPVよりも大きい。また、等価水平画素ピッチPEHは、等価垂直画素ピッチPEVよりも小さい。
第1方向D1が水平方向DHと平行でない場合、空間光変調器の空間周波数帯域幅は、等価水平画素ピッチPEH及び等価垂直画素ピッチPEVによって決まり、水平方向及び垂直方向について、それぞれ1/PEHおよび1/PEVである。空間周波数帯域幅は、水平方向で広く、垂直方向で狭い矩形で表示されている。
回転角φが45度の場合について、回転角φが0度である場合と比較すると、1/PEH=√2/PH、1/PEV=1/(√2PV)である。なお、空間周波数軸ν´、ν´は、等価水平画素ピッチPEH及び等価垂直画素ピッチPEVに対応する方向を示している。
【0025】
図7Aに示すように、複素振幅入力部30は、複素振幅分布を回転角φと逆向きに回転角φの大きさだけ、すなわち-φ回転させてサンプリングするのが好ましい。図7Aは、回転角φが45度の場合を一例として示している。複素振幅分布を-φ回転させることで、変換部40において高速フーリエ変換あるいは離散フーリエ変換が実行可能となり、空間光変調器1にホログラムを正しい向きで表示させることができる。ただし、-φ回転させた複素振幅分布uをフーリエ変換すると、水平方向および垂直方向の空間周波数帯域幅は、それぞれ1/PHおよび1/PVであり、回転角φが45度の空間光変調器の空間周波数帯域幅を表現できない。サンプリングは、空間光変調器の空間周波数帯域幅を超えるレートで行うのが好ましい。
そこで、複素振幅入力部30は、オーバーサンプリングした複素振幅分布u2оを作成し、空間周波数帯域幅を拡大することができる。オーバーサンプリングの係数は、空間光変調器1の空間周波数分布の広がりに応じて決定する。図7Bの空間周波数分布F[u2о]は、オーバーサンプリングの係数が2、すなわち2倍オーバーサンプリングの例である。水平方向および垂直方向の空間周波数帯域幅は、それぞれ2/PHおよび2/PVとなり、回転角φが45度で、空間周波数帯域幅が1/PEH=√2/PHである空間光変調器1に対応したサンプリングとすることができる。
【0026】
複素振幅入力部30は、サンプリングの結果に対してランダム位相付加を行い、ランダム位相付加の結果を変換部40に送ることができる。ランダム位相付加は、複素振幅分布の振幅項を維持したまま、位相項にランダムな位相を加える処理であり、複素振幅分布の各所から出射する光を偏りなくホログラムに記録するために行う。
【0027】
(変換部)
変換部40は、標本化された複素振幅分布をフーリエ変換し、フーリエ変換の結果に対して空間周波数の範囲を選択するフィルタリングを行う手段を備える。変換部40は、サンプリングされた複素振幅分布を複素振幅入力部30から受け取る。また、変換部40は、フィルタリングの結果を光波伝搬計算部50に送る。
フーリエ変換は、ここでは高速フーリエ変換である。図7Bに示すように、変換部40は、オーバーサンプリングされた複素振幅分布u2о(x,y)をフーリエ変換し、空間周波数分布F[u2о(x,y)]を得る。そして、図8に示すように、変換部40は、水平方向について1/PEH、垂直方向について1/PEVの空間周波数帯域幅を有する空間光変調器1に対応するフィルタR1によって異方性のある空間周波数フィルタリングを行う。
【0028】
(光波伝搬計算部)
光波伝搬計算部50は、角スペクトル乗算および逆フーリエ変換によって光波の伝搬を計算する手段を備える。光波伝搬計算部50は、フーリエ変換及びフィルタリングされた結果を変換部40から受け取る。また、光波伝搬計算部50は、伝搬計算の結果をホログラム生成計算部60に送る。
光波伝搬計算部50は、変換部40によるフーリエ変換の結果F[u2о(x、y)]に対し、角スペクトル乗算を行う。すなわち、F[u2о(x、y)]exp(i2πz√(1/λ-ν -ν ))を計算する。なお、ここでは、λは伝搬計算に用いる光の波長である。また、zは光の伝搬距離である。
光波伝搬計算部50は、角スペクトル乗算の結果を逆フーリエ変換して複素振幅分布u3о(x,y)を得る。逆フーリエ変換は、ここでは逆高速フーリエ変換である。なお、u3о(x,y)=F-1[F[u2о(x、y)]exp(i2πz√(1/λ-ν -ν ))]である。
【0029】
(ホログラム生成計算部)
ホログラム生成計算部60は、伝搬計算された光波と参照光との干渉計算を行う手段を備える。ホログラム生成計算部60は、光波伝搬計算部50から逆フーリエ変換の結果を受け取る。また、ホログラム生成計算部60は、ホログラムデータ生成装置2の外部に対する出力インターフェイスを有しており、生成したホログラムデータを外部へ出力する。ホログラムデータは、空間光変調器1の各画素10に対応するデータとして作成及び出力される。
【0030】
ホログラム生成計算部60は、逆フーリエ変換の結果に対して、複素振幅入力部30で行ったオーバーサンプリングの係数の逆数を係数とするダウンサンプリングを行う。例えば、複素振幅入力部30で2倍のオーバーサンプリングを行った場合には、1/2倍のダウンサンプリングを行う。
変換部40において、水平画素ピッチPHおよび垂直画素ピッチPVで決まる空間周波数帯域を超える空間周波数成分を取り出すフィルタリングを行ったため、ダウンサンプリングを行うとエイリアシングを生じることが予想される。しかし、図9に示すように、エイリアシングは、エイリアシング成分M1、M2、M3、M4によって、ダウンサンプリングで失われる空間周波数成分L1、L2、L3、L4が補完されるように現れる。このため、ホログラムデータには実質的にはエイリアシングが生じない。
ホログラム生成計算部60は、ゼロパディング削除を行うことができる。ゼロパディング削除は、エイリアシング防止のためにゼロパディングで付加された複素振幅分布外周の領域を削除し、生成されたホログラムのサイズを複素振幅入力部30に入力された複素振幅分布のサイズに戻す。
ホログラム生成計算部60は、ダウンサンプリングおよびゼロパディング削除を行った逆フーリエ変換の結果に対して、参照光との干渉計算を実行する。干渉計算の結果、空間光変調器の各画素10に対応するデータとして得られた干渉縞がホログラムデータとなる。
【0031】
本発明に係るホログラムデータ生成装置2は、ホログラムデータを生成する対象となるデータの複素振幅分布を標本化する複素振幅入力部と、標本化された複素振幅分布をフーリエ変換し、フーリエ変換の結果に対して空間周波数の範囲を選択する変換部40と、角スペクトル乗算および逆フーリエ変換を行う光波伝搬計算部50と、光波と参照光との干渉計算を行いホログラムデータを生成するホログラム生成計算部60と、を有することで、角スペクトル法によるホログラムデータの生成を行うことができる。
ホログラムデータ生成装置2は、複素振幅入力部30が、回転角φと逆向きに回転角φの大きさだけ複素振幅分布を回転させて標本化することで、離散フーリエ変換の計算を実行可能にすると共に、生成するホログラムデータを空間光変調器1に正しい向きに表示させることができる。
【0032】
ホログラムデータ生成装置2は、複素振幅入力部30がオーバーサンプリングを行うことで、等価水平画素ピッチPEHが縮小されたことによる空間光変調器1の空間周波数帯域の拡大に対応することができる。また、ホログラム生成計算部60がオーバーサンプリングの係数の逆数を係数とするダウンサンプリングを行うことで、実質的にエイリアシングを生じさせずに空間光変調器1に適合するホログラムデータを生成するこができる。
また、ホログラムデータ生成装置2は、第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器に表示させるホログラムデータを生成することができる。これにより、例えば従来の空間光変調器をそのまま回転させて使用する場合であってもホログラムデータを生成することができる。
【0033】
[ホログラム表示システム]
次に、本発明に係るホログラム表示システム3について説明する。図1に示すように、ホログラム表示システム3は、ホログラムデータ生成装置2によって生成されるホログラムデータ5を空間光変調器1に表示させるシステムである。ホログラムデータ5は、有線や無線による通信、半導体メモリ等の記憶媒体、ネットワーク等を介して空間光変調器1に送ることができる。空間光変調器1は、ホログラムデータ5に基づいてホログラム4を表示する。
また、ホログラム表示システム3は、第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器にホログラムデータ5を表示させることができる。空間光変調器は、図10に一例を示すように、外周に配列されている画素の中心15が、第1方向D1及び第2方向D2の何れかに沿って並んでいる空間光変調器を第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように回転させたものでもよい。例えば、図11に一例を示す空間光変調器の従来例500を第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように回転させたものでもよい。
【0034】
本発明に係るホログラム表示システム3は、ホログラムデータ生成装置2によって生成されるホログラムデータ5を空間光変調器1に表示させることで、視域角を拡大できるホログラムを効率よく表示させることができる。
ホログラム表示システム3は、第1方向D1が水平方向DHと回転角φをなすように傾けた空間光変調器にホログラムを表示させることができ、例えば従来の空間光変調器をそのまま回転させて使用することができる。このため、ホログラム表示システム3は、画素10の配列等を変更した空間光変調器を製造等することなく、視域角を拡大できるホログラムを実現することができる。
【0035】
[実施例]
本発明の効果を検証するため、2値の振幅型計算機合成ホログラムを本発明のホログラムデータ生成装置2を用いて生成し、これをガラス基板上に製膜した金属薄膜上に描画して、表示パターンが固定された反射型の空間光変調器1の実施例を作製した。実施例は、画素10を1μm×1μmの正方形とし、回転角φを45度として、計算機上に構成したホログラムデータ生成装置2により2値の振幅ホログラムデータを生成した。このとき、等価水平画素ピッチPEHは0.71μmとなり、参照光および再生光の波長を532nmとすると視域角θの計算値は44.1度となる。ホログラムのサイズは16k×16k画素とした。生成したホログラムを、ガラス基板上に製膜した金属薄膜に電子線描画によって描画した。作製した空間光変調器1の実施例を再生光で照明して光学再生を行い、水平方向DHについて測定したところ40度の視域角θを確認することができた。比較例として、同一の画素サイズで本発明を適用せずに同様の手順で作製した空間光変調器は、視域角θは22度であった。この結果から、本発明により視域角θを大きく拡大できることが確認された。
【0036】
なお、ホログラムデータ生成装置2において、ゼロパディングは、複素振幅入力部30ではなくゼロパディング部を設ける等して行ってもよい。ランダム位相付加工程は、複素振幅入力部30ではなく変換部40で行ってもよい。空間周波数フィルタリングは、光波伝搬計算部50で行ってもよい。ゼロパディング削除は、ホログラム生成計算部60ではなくゼロパディング削除部を設ける等して行ってもよい。
【0037】
ホログラムデータ生成装置2は、独立したハードウエアで構成してもよく、その機能の全部又は一部をコンピュータに実行させてもよい。
入出力インターフェイス、CPU等の演算装置、ハードディスクやROM、RAM等の記憶装置、通信装置等を備えるコンピュータは、ホログラムデータ生成装置2として機能させることができる。また、ホログラムデータ生成装置2として機能させるコンピュータと空間光変調器1とを組み合わせてホログラム表示システムとしてもよい。
コンピュータをホログラムデータ生成装置2として機能させるために、上記した内容に基づいてホログラム生成プログラムを作成することができる。ホログラムデータ生成プログラムは、コンピュータが備える入出力インターフェイス、CPU等の演算装置、ハードディスクやROM、RAM等の記憶装置及び通信装置といったハードウエア資源と協働することによって、コンピュータをホログラムデータ生成装置2として機能させることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 空間光変調器
2 ホログラムデータ生成装置
3 ホログラム表示システム
4 ホログラム
5 ホログラムデータ
10 画素
11 境界
15 中心(画素)
20 基準画素
30 複素振幅入力部
40 変換部
50 光波伝搬計算部
60 ホログラム生成計算部
DH 水平方向
DV 垂直方向
D1 第1方向
D2 第2方向
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11