(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023080920
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】ピッチ測定システム、ピッチ測定装置、ピッチ測定方法、ピッチ測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01B 15/00 20060101AFI20230602BHJP
【FI】
G01B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194497
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】堀 泰明
【テーマコード(参考)】
2F067
【Fターム(参考)】
2F067AA25
2F067BB01
2F067BB04
2F067BB21
2F067HH04
2F067JJ03
2F067KK09
2F067NN04
2F067PP13
2F067RR21
2F067RR32
2F067RR33
2F067RR36
2F067RR41
(57)【要約】
【課題】回折格子のピッチ測定における精度向上を実現するピッチ測定システム、ピッチ測定装置、ピッチ測定方法、ピッチ測定プログラムを提供する。
【解決手段】ピッチ測定システム100は、第1回転ステージ33の回転角度と第2回転ステージ35の回転角度との比が1:2の割合となるように回転させた状態で検出部32が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する回折信号取得部51と、回折信号に基づいて、θ/2θ法により回折格子80のピッチの補正前の値である補正前ピッチdmを演算するピッチ演算部52と、二次元座標系における回折X線の分布情報を次数毎に取得する分布情報取得部53と、分布情報に基づいて、補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求める補正用データ取得部54と、補正用データを用いて補正前ピッチdmを補正して補正後ピッチdを取得するピッチ補正部55とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の回折格子が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージと、
前記回折格子へX線を照射するX線源と、
前記回折格子により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部と、
前記検出部が取り付けられており、前記検出部とともに回転可能な第2回転ステージと、
前記第1回転ステージの回転角度と前記第2回転ステージの回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを連動させて回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する回折信号取得部と、
前記回折信号取得部が取得した前記回折信号に基づいて、θ/2θ法により前記回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するピッチ演算部と、
前記回折格子の回転角度の値を第1軸にとり、前記検出部の回転角度の値を第2軸にとったときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを個別に回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する分布情報取得部と、
前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求める補正用データ取得部と、
前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するピッチ補正部と、
を備えるピッチ測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のピッチ測定システムにおいて、
前記補正用データ取得部は、次数毎に取得した前記回折X線の分布情報を、前記第1軸に沿う方向である第1軸方向に対応する第1関数と、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向に対応する第2関数と、に分けて取得し、
前記ピッチ補正部は、前記第1関数と、前記第2関数と、を用いて前記補正後ピッチを演算する、ピッチ測定システム。
【請求項3】
請求項1に記載のピッチ測定システムにおいて、
前記補正用データ取得部は、前記回折X線の次数毎に、前記第1軸に沿う方向である第1軸方向における前記回折X線のピーク幅である第1ピーク幅と、第1軸方向における前記回折X線の極大点の位置である実位置と、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向における前記回折X線のピーク幅である第2ピーク幅と、を取得し、
前記ピッチ補正部は、前記第1ピーク幅と、前記実位置と、前記第2ピーク幅と、を用いて前記補正後ピッチを演算する、ピッチ測定システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のピッチ測定システムにおいて、
前記ピッチ補正部は、前記補正前ピッチと、前記ピッチ補正部が前記補正後ピッチを演算する過程で得られる補正途中の回折角と、当該演算の過程で得られる補正途中のピッチと、を含む演算式を、前記補正後ピッチについて数値的に解析することにより補正後ピッチを求めるものである、ピッチ測定システム。
【請求項5】
請求項4に記載のピッチ測定システムにおいて、
前記ピッチ補正部は、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向における前記回折X線の極大点の位置である実位置を、前記補正前ピッチとブラッグの条件式から求め、前記補正後ピッチの演算において、該補正前ピッチを補正する、ピッチ測定システム。
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のピッチ測定システムにおいて、
前記検出部は、前記回折格子で発生する前記回折X線を狭線化するアナライザを有する、ピッチ測定システム。
【請求項7】
測定対象の回折格子が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージと、
前記回折格子へX線を照射するX線源と、
前記回折格子により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部と、
前記検出部が取り付けられており、前記検出部とともに回転可能な第2回転ステージと、
前記第1回転ステージの回転角度と前記第2回転ステージの回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを連動させて回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する回折信号取得部と、
前記回折信号取得部が取得した前記回折信号に基づいて、θ/2θ法により前記回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するピッチ演算部と、
前記回折格子の回転角度の値を第1軸にとり、前記検出部の回転角度の値を第2軸にとったときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを個別に回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する分布情報取得部と、
前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求める補正用データ取得部と、
前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するピッチ補正部と、
を備えるピッチ測定装置。
【請求項8】
測定対象の回折格子が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージと、
前記回折格子へX線を照射するX線源と、
前記回折格子により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部と、
前記検出部が取り付けられており、前記検出部とともに回転可能な第2回転ステージと、
を備えるピッチ測定システム又はピッチ測定装置におけるピッチ測定方法であって、
回折信号取得部が、前記第1回転ステージの回転角度と前記第2回転ステージの回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを連動させて回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号を取得するステップと、
ピッチ演算部が、θ/2θ法により前記回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するステップと、
分布情報取得部が、前記回折格子の回転角度を第1軸とし、前記検出部の回転角度を第2軸としたときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを個別に回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得するステップと、
補正用データ取得部が、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求めるステップと、
ピッチ補正部が、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するステップと、
を備えるピッチ測定方法。
【請求項9】
測定対象の回折格子が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージと、
前記回折格子へX線を照射するX線源と、
前記回折格子により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部と、
前記検出部が取り付けられており、前記検出部とともに回転可能な第2回転ステージと、
を備えるピッチ測定システム又はピッチ測定装置に用いられるピッチ測定プログラムであって、
コンピュータに、
回折信号取得部が、前記第1回転ステージの回転角度と前記第2回転ステージの回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを連動させて回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号を取得するステップと、
ピッチ演算部が、θ/2θ法により前記回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するステップと、
分布情報取得部が、前記回折格子の回転角度を第1軸とし、前記検出部の回転角度を第2軸としたときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージと前記第2回転ステージとを個別に回転させた状態で前記検出部が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得するステップと、
補正用データ取得部が、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求めるステップと、
ピッチ補正部が、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するステップと、
を実行させるためのピッチ測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、所定の演算処理により回折格子のピッチを求めるピッチ測定システム、ピッチ測定装置、ピッチ測定方法、ピッチ測定プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、表面に凹凸の周期構造を持つ光学素子であり、種々の波長が混ざった白色光等を波長ごとに分散させる分光素子として広く実用されている。また、回折格子は、その溝と溝との間隔(格子定数。以下ではピッチと記載する)が正確に値付けされた標準試料として、電子顕微鏡などの半導体検査機器のスケール校正・倍率校正に多く使用されている。回折格子のピッチは、AFM(Atomic Force Microscope)や光回折計によって測定される他、GI-SAXS(Glazing Incidence Small Angle X-ray Scattering:微小角入射X線小角散乱法)によっても測定される。
【0003】
GI-SAXSは、特に100nm以下の微小ピッチを高精度かつ高スループットに測定できる手法として広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のX線回折装置は、分析対象と検出部とを1:2の割合で回転させて回折信号を取得するθ/2θ法でのピッチ測定が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回折格子は、上記のとおり、半導体検査機器のスケール校正・倍率校正用の標準試料として多く用いられており、そのピッチの測定値には高い信頼性が求められる。GI-SAXSを用いた回折格子のピッチ測定では、各々の格子で発生する回折X線を用いてピッチを測定するが、格子底面と格子上面からの回折X線の干渉が、回折角の測定に誤差をもたらし、これによって、ピッチ測定にも誤差が現れるため、ピッチの測定精度が低下するという課題がある。
【0006】
本開示の課題は、回折格子のピッチ測定における精度向上を実現するピッチ測定システム、ピッチ測定装置、ピッチ測定方法、ピッチ測定プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本開示の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0008】
第1の開示は、測定対象の回折格子(80)が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージ(33)と、前記回折格子(80)へX線を照射するX線源(21)と、前記回折格子(80)により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部(32、32A)と、前記検出部(32、32A)が取り付けられており、前記検出部(32、32A)とともに回転可能な第2回転ステージ(35)と、前記第1回転ステージ(33)の回転角度と前記第2回転ステージ(35)の回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを連動させて回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する回折信号取得部(51)と、前記回折信号取得部(51)が取得した前記回折信号に基づいて、θ/2θ法により前記回折格子(80)のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するピッチ演算部(52)と、前記回折格子(80)の回転角度の値を第1軸にとり、前記検出部(32、32A)の回転角度の値を第2軸にとったときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを個別に回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する分布情報取得部(53)と、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求める補正用データ取得部(54)と、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するピッチ補正部(55)と、を備えるピッチ測定システム(100、100A)である。
【0009】
第2の開示は、第1の開示に記載のピッチ測定システム(100、100A)において、前記補正用データ取得部(54)は、次数毎に取得した前記回折X線の分布情報を、前記第1軸に沿う方向である第1軸方向に対応する第1関数と、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向に対応する第2関数と、に分けて取得し、前記ピッチ補正部(55)は、前記第1関数と、前記第2関数と、を用いて前記補正後ピッチを演算する、ピッチ測定システム(100、100A)である。
【0010】
第3の開示は、第1の開示に記載のピッチ測定システム(100、100A)において、前記補正用データ取得部(54)は、前記回折X線の次数毎に、前記第1軸に沿う方向である第1軸方向における前記回折X線のピーク幅である第1ピーク幅と、第1軸方向における前記回折X線の極大点の位置である実位置と、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向における前記回折X線のピーク幅である第2ピーク幅と、を取得し、前記ピッチ補正部(55)は、前記第1ピーク幅と、前記実位置と、前記第2ピーク幅と、を用いて前記補正後ピッチを演算する、ピッチ測定システム(100、100A)である。
【0011】
第4の開示は、第1の開示から第3の開示までのいずれかに記載のピッチ測定システム(100、100A)において、前記ピッチ補正部(55)は、前記補正前ピッチと、前記ピッチ補正部(55)が前記補正後ピッチを演算する過程で得られる補正途中の回折角と、当該演算の過程で得られる補正途中のピッチと、を含む演算式を、前記補正後ピッチについて数値的に解析することにより補正後ピッチを求めるものである、ピッチ測定システム(100、100A)である。
【0012】
第5の開示は、第4の開示に記載のピッチ測定システム(100、100A)において、前記ピッチ補正部(55)は、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向における前記回折X線の極大点の位置である実位置を、前記補正前ピッチとブラッグの条件式から求め、前記補正後ピッチの演算において、該補正前ピッチを補正する、ピッチ測定システム(100、100A)である。
【0013】
第6の開示は、第1の開示から第3の開示までのいずれかに記載のピッチ測定システム(100、100A)において、前記検出部(32、32A)は、前記回折格子(80)で発生する前記回折X線を狭線化するアナライザを有する、ピッチ測定システム(100、100A)である。
【0014】
第7の開示は、測定対象の回折格子(80)が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージ(33)と、前記回折格子(80)へX線を照射するX線源(21)と、前記回折格子(80)により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部(32、32A)と、前記検出部(32、32A)が取り付けられており、前記検出部(32、32A)とともに回転可能な第2回転ステージ(35)と、前記第1回転ステージ(33)の回転角度と前記第2回転ステージ(35)の回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを連動させて回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する回折信号取得部(51)と、前記回折信号取得部(51)が取得した前記回折信号に基づいて、θ/2θ法により前記回折格子(80)のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するピッチ演算部(52)と、前記回折格子(80)の回転角度の値を第1軸にとり、前記検出部(32、32A)の回転角度の値を第2軸にとったときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを個別に回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する分布情報取得部(53)と、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求める補正用データ取得部(54)と、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するピッチ補正部(55)と、を備えるピッチ測定装置(10、40)である。
【0015】
第8の開示は、測定対象の回折格子(80)が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージ(33)と、前記回折格子(80)へX線を照射するX線源(21)と、前記回折格子(80)により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部(32、32A)と、前記検出部(32、32A)が取り付けられており、前記検出部(32、32A)とともに回転可能な第2回転ステージ(35)と、を備えるピッチ測定システム(100、100A)又はピッチ測定装置(10、40)におけるピッチ測定方法であって、回折信号取得部(51)が、前記第1回転ステージ(33)の回転角度と前記第2回転ステージ(35)の回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを連動させて回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号を取得するステップと、ピッチ演算部(52)が、θ/2θ法により前記回折格子(80)のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するステップと、分布情報取得部(53)が、前記回折格子(80)の回転角度を第1軸とし、前記検出部(32、32A)の回転角度を第2軸としたときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを個別に回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得するステップと、補正用データ取得部(54)が、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求めるステップと、ピッチ補正部(55)が、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するステップと、を備えるピッチ測定方法である。
【0016】
第9の開示は、測定対象の回折格子(80)が取り付けられた状態で回転可能な第1回転ステージ(33)と、前記回折格子(80)へX線を照射するX線源(21)と、前記回折格子(80)により少なくとも回折された回折X線を検出する検出部(32、32A)と、前記検出部(32、32A)が取り付けられており、前記検出部(32、32A)とともに回転可能な第2回転ステージ(35)と、を備えるピッチ測定システム(100、100A)又はピッチ測定装置(10、40)に用いられるピッチ測定プログラムであって、コンピュータに、回折信号取得部(51)が、前記第1回転ステージ(33)の回転角度と前記第2回転ステージ(35)の回転角度との比が1:2の割合となるように前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを連動させて回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号を取得するステップと、ピッチ演算部(52)が、θ/2θ法により前記回折格子(80)のピッチの補正前の値である補正前ピッチを演算するステップと、分布情報取得部(53)が、前記回折格子(80)の回転角度を第1軸とし、前記検出部(32、32A)の回転角度を第2軸としたときの前記第1軸と前記第2軸との二次元座標系における前記回折X線の分布情報を、前記第1回転ステージ(33)と前記第2回転ステージ(35)とを個別に回転させた状態で前記検出部(32、32A)が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得するステップと、補正用データ取得部(54)が、前記分布情報に基づいて、前記補正前ピッチの補正に用いる補正用データを求めるステップと、ピッチ補正部(55)が、前記補正用データを用いて前記補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得するステップと、を実行させるためのピッチ測定プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、回折格子を回転させながら経時的に入力した回折信号と、検出部を回転させながら経時的に入力した回折信号とから求まる補正用データを用いて、θ/2θ法によるピッチの測定値である補正前ピッチに補正処理を施すことから、回折格子の表面で発生する干渉の影響が緩和された補正後ピッチを求めることができるため、回折格子のピッチ測定における精度向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態のピッチ測定システム100の全体を示す図である。
【
図2】ピッチ測定システム100の分析対象としての1次元回折格子にX線を入射する様子を例示した側面図である。
【
図3】ピッチ測定システム100の分析対象としての1次元回折格子にX線を入射する様子を例示した平面図である。
【
図4】第1回転機構と第2回転機構とを独立に駆動させて回折信号を取得した場合の強度分布を模式的に例示した説明図である。
【
図5】入射X線が回折格子の格子上面と格子底面とで散乱して出射する様子を例示した説明図である。
【
図6】X線が入射されている回折格子をプラス方向に回転させたときの回折スポットの動きを例示した説明図である。
【
図7】X線が入射されている回折格子をマイナス方向に回転させたときの回折スポットの動きを例示した説明図である。
【
図8】回折格子80側からみた各次数の回折スポットSの、回折格子80の回転に伴う上下移動を例示した説明図である。
【
図9】
図8で示した回折スポットが検出器32bによって検出される際の諸条件(回折スポット位置、θ
D、θ
S)を例示したグラフである。
【
図10】
図9の情報をθ
D-θ
S平面上の情報に変換した例を示す図である。
【
図11】
図10の情報に基づく、検出器32bの回転角度(θ
D)と回折信号の強度との関係による強度分布の例を示す図である。
【
図12】
図11の強度分布へのガウス近似の適用により抽出した各次数の極大点の位置を例示したデータを示す図である。
【
図13】干渉の影響を受けた回折信号の強度分布をθ
D-θ
S平面上の情報に変換した図である。
【
図14】
図13の強度分布を部分的に抜き出した部分拡大図である。
【
図15】
図13の強度分布に基づく、検出器32bの回転角度(θ
D)と回折信号の強度との関係による強度分布の例を示す図である。
【
図16】
図15の強度分布へのガウス近似の適用により抽出した各次数の極大点の位置を例示したグラフである。
【
図17】ピッチ演算装置40の機能的な構成を例示したブロック図である。
【
図18】
図14で示した極大点出現位置のずれを(θ
D,θ
S)座標値で具体的に示した図である。
【
図19】計算結果の一例をグラフ化したものである。
【
図20】θ
D軸方向とθ
S軸方向とに異なる関数を仮定した場合の動作例を示すフローチャートである。
【
図21】θ
D軸方向とθ
S軸方向とに同じ関数を仮定した場合の動作例を示すフローチャートである。
【
図22】第2実施形態のピッチ測定システム100Aの全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のピッチ測定システム100の全体を示す図である。
まず、
図1を参照して、本開示の実施の形態におけるピッチ測定システム100の全体的な構成例について説明する。
図1に示すように、ピッチ測定システム100は、X線回折装置10と、ピッチ演算装置40と、を備えている。本実施形態では、これらX線回折装置10とピッチ演算装置40とが組み合わせられてピッチ測定装置を構成している。X線回折装置10は、光学機構部20と、支持機構部30と、を有している。
【0021】
光学機構部20は、X線源21と、集光ミラー22と、モノクロメータ23と、を有している。X線源21は、X線を発生させる真空管を含み、回折格子80へX線を照射する。集光ミラー22は、X線源21から出射されるX線を、試料台31上に置かれた分析対象の表面へ集光するものである。モノクロメータ23は、X線源21から放射されるX線のうちの特性X線のみを切り出して単色化するために用いられる。
【0022】
支持機構部30は、試料台31と、検出部32と、第1回転ステージ33と、アーム部34と、第2回転ステージ35と、を有している。試料台31は、回折格子80などを分析対象として載置するものである。以下、ピッチ測定システム100による分析対象が回折格子80であることを前提に説明する。
【0023】
検出部32は、回折格子80で発生した回折X線を検出するためのものであり、スリット32aと、検出器32bと、を有している。スリット32aは、回折格子80で発生する回折X線を狭線化するものである。より具体的に、スリット32aは、回折格子80で発生した回折X線のうち、特定の空間情報を切り出すために用いられる。検出器32bは、例えばシンチレーション検出器により構成され、スリット32aを通過した回折X線の強度を検出し、検出結果である回折信号をピッチ演算装置40へ送信するものである。すなわち、検出器32bは、スリット32aを通過した回折X線を入力すると共に、その回折X線の強度を検出し、検出結果の情報である回折信号をピッチ演算装置40へ送信するものである。
【0024】
第1回転ステージ33は、回転軸Uを中心として試料台31を回転させる第1回転機構(図示せず)を有している。第1回転ステージ33は、ピッチ演算装置40による第1回転機構の制御により、試料台31に載置された回折格子80が取り付けられた状態で回転可能である。ここで、試料台31の回転角度、つまり回折格子80の回転角度を第1回転角度θSとする。第1回転ステージ33は、床面に直接固定されており、第2回転ステージ35とは独立に回転する。
【0025】
アーム部34は、検出部32が搭載されたアーム状の部材である。アーム部34は、第2回転ステージ35の動作に連動して回転駆動するよう構成されている。アーム部34は、第1回転ステージ33とは接触しておらず、第1回転ステージ33とは独立に回転する。
第2回転ステージ35は、回転軸Uを中心としてアーム部34を回転させる第2回転機構(図示せず)を有している。したがって、第2回転ステージ35には、アーム部34を介して検出部32が取り付けられており、検出部とともに回転可能である。第2回転ステージ35は、ピッチ演算装置40による第2回転機構の制御により、アーム部34に搭載された検出器32b及びスリット32aを回転させる。ここで、アーム部34の回転角度、つまり検出器32b及びスリット32aの回転角度を第2回転角度θDとする。第2回転ステージ35は、アーム部34を回転させるものであり、第1回転ステージ33とは独立に回転する。
【0026】
ピッチ演算装置40は、X線回折装置10の動作を制御することにより、分析対象の状態を管理する。ピッチ演算装置40は、コンピュータにコンピュータプログラムをインストールして構成されている。より具体的には、本実施形態のピッチ演算装置40は、ピッチ測定システム100の制御及びピッチ演算に用いられるコンピュータに、本開示の計測システム用のアプリケーションプログラム(例えば、後述するピッチ測定プログラム43p)をインストールしたものである。ピッチ測定システム100の制御及びピッチ演算に用いられるコンピュータは、汎用のスマートフォン、タブレット端末であってもよいし、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ノート型パーソナルコンピューター等であってもよいし、ピッチ測定システム100の制御及びピッチ演算に特化した専用のコンピュータであってもよい。本開示でいうコンピュータとは、制御部、記憶装置等を備えた情報処理装置をいう。
【0027】
なお、本実施形態では、ピッチ演算装置40は、X線回折装置10の近傍に配置されている例を例示したが、これに制限されない。例えば、ピッチ演算装置40をX線回折装置10から離れた位置に設置されたサーバ等に設けてもよい。
【0028】
[回折格子の表面で発生する回折X線の干渉の影響]
図2は、ピッチ測定システム100の分析対象としての1次元回折格子にX線を入射する様子を例示した側面図である。
光学機構部20は、X線源21から射出されたX線を集光ミラー22で反射させ、モノクロメータ23で特性X線のみを抜き出し、抜き出した特性X線を、
図2に示すように、回折格子80の表面に対して臨界角付近で斜めに入射させる。以降では、X線源21から出射され、集光ミラー22及びモノクロメータ23を介して分析対象である回折格子80に入射されるX線を入射X線ともいう。なお、
図2に例示する入射X線の入射角はあくまで例示である。
【0029】
図3は、ピッチ測定システム100の分析対象としての1次元回折格子にX線を入射する様子を例示した平面図である。
図3は、
図2を別の角度から見た図であり、回折格子80を上から見た場合に相当する。回折格子80の表面に入射したX線は、左右にぶれずに真っ直ぐに進む反射X線と、回折格子80からの回折X線とに分かれる。この回折X線には、各々の格子の横方向の周期構造によって発生する回折に加えて、格子底面と格子上面からの回折X線の干渉の影響も含まれている。回折格子80の表面で発生した回折X線は、スリット32aを通過し、回折信号として検出器32bに検出される。
【0030】
図4は、第1回転機構と第2回転機構とを独立に駆動させて回折信号を取得した場合の強度分布を模式的に例示した説明図である。
図4では、第1回転ステージ33の第1回転機構と第2回転ステージ35の第2回転機構とを独立に駆動させ、第1回転角度θ
Sと第2回転角度θ
Dとを個別に変化させて回折信号を取得した場合の強度分布を、θ
D-θ
S平面上に模式的に示している。ここで、θ
D-θ
S平面とは、回折格子80の回転角度である第1回転角度θ
Sの値を第1軸にとり、検出部32の回転角度である第2回転角度θ
Dの値を第2軸にとった座標平面のことである。本実施形態の各図において、第1軸は縦軸に対応し、第2軸は横軸に対応しているが、第1軸が横軸に対応し、第2軸が縦軸に対応する座標平面を用いてもよい。
図4に示すように、θ
S=θ
D/2の一次元直線上(直線T)で回折信号が極大となる点のθ
D座標を仮想位置θ′
D0とし、θ
D-θ
Sの二次元平面上で回折信号が極大となる点のθ
D座標を実位置θ
D0とする。
【0031】
図4のθ
D-θ
S平面において、θ/2θ法によって第1回転角度θ
Sと第2回転角度θ
Dとが描く軌跡は、原理的には傾き1/2の直線(直線T)で描くことができ、その直線上の強度分布の情報がθ/2θ法によって得られる回折信号ということになる。θ/2θ法に基づいて、第1回転角度θ
Sと第2回転角度θ
Dを走査した場合の軌跡を、θ
D-θ
S平面上に描くと、
図4のような傾き1/2の直線Tとなる。θ/2θ法は、回折信号の大きさを、直線Tに沿って測定する方法で、理想的な条件での測定が行われた場合には、回折信号における二次元強度分布の極大点(信号が極大となる点)は、直線T上に存在することが知られている。以下、回折信号における二次元強度分布の極大点のことを「回折信号の極大点」ともいう。
【0032】
図5は、入射X線が回折格子の格子上面と格子底面とで散乱して出射する様子を例示した説明図である。
図5に示すように、入射X線は、回折格子80の凹凸における上側の面(格子上面)と底面(格子底面)からも回折されるため、格子上面で回折されたX線と格子底面で回折されたX線とが干渉する。この干渉の影響により、回折信号の極大点の位置にθ
S軸方向への位置ずれが生じる。そのため、実位置θ
D0と、θ/2θ法で得られる回折信号の極大点の位置である仮想位置θ′
D0との間に差が生じる。また、格子内の格子底面や格子上面間で多数回散乱されたX線が回折する場合もあり、格子上面及び格子底面における干渉と同様に格子の横方向の周期構造によって発生する回折X線との間で干渉し、この干渉の影響でも、実位置θ
D0と仮想位置θ′
D0との間に差が生じる。実位置θ
D0の位置ずれ、つまり実位置θ
D0と仮想位置θ′
D0との間に生じる差(
図4参照)は、回折格子80のピッチ測定における誤差の要因となる。以降では、回折格子80の上面と底面で散乱されたX線の干渉のことを「上下方向の回折X線の干渉」ともいう。また、回折格子80のピッチのことを単に「ピッチ」ともいう。
【0033】
なお、
図4では、回折信号の極大点を1つだけ例示しているが、回折信号には、干渉の影響により、θ
D-θ
S平面上の回折信号の極大点がθ
S軸方向に分離して複数の極大点となることがある。このような場合は、直線Tの最も近くに存在する極大点の周りにおいて、後述する補正用データ43nを取得すればよい。
【0034】
[θ/2θ法によるピッチの測定原理]
次に、θ/2θ法によってピッチを測定する手法について説明する。
まず、GI-SAXSにより発生するX線の回折について、三次元空間を用いて説明する。まず、回折格子80によって回折が発生する条件について、逆格子ベクトルにより構成される逆格子空間で考察する。
【0035】
図6は、X線が入射されている回折格子をプラス方向に回転させたときの回折スポットの動きを例示した説明図である。
図7は、X線が入射されている回折格子をマイナス方向に回転させたときの回折スポットの動きを例示した説明図である。
図6及び
図7において、k
iは入射X線の波数ベクトルであり、k
fは散乱X線の波数ベクトルであり、qは散乱ベクトルである。回折スポットSは、逆格子面F上の逆格子ロッドR(GTR:grating truncation rod)とエワルド球との交点に位置する。
図6及び
図7に示すように、回折格子80の表面に入射したX線が、該表面で回折され、光路差が波長の整数倍となるような位置にX線の強度が極大となる点(回折スポット)が発生する。この整数値は次数と呼ばれ、次数に応じて回折スポットが出現する位置は異なる。
【0036】
回折格子80が回転すると、逆格子面Fも回折格子80の回転角度と同じ角度だけ回転する。ここで、
図6の回転方向をプラス方向とし、
図7の回転方向をマイナス方向とする。
図6のように、回折格子80を+δ回転させると、逆格子面Fも+δ回転するため、反射X線が現れる位置Hを中心に、y軸負側の回折スポットSが下に動き、y軸正側の回折スポットSが上に動く。
図7のように、回折格子80を-δ回転させると、逆格子面Fも-δ回転するため、位置Hを中心に、y軸負側の回折スポットSが上に動き、y軸正側の回折スポットSが下に動く。
【0037】
図8は、回折格子80側からみた各次数の回折スポットSの、回折格子80の回転に伴う上下移動を例示した説明図である。
図8に示すように、回折格子80を+δ回転させると、各次数の回折スポットSをプロットした弧は、位置Hを中心として反時計回りに回転する。また、回折格子80を-δ回転させると、各次数の回折スポットSをプロットした弧は、位置Hを中心として時計回りに回転する。そして、回折格子80を回転させると、高次の回折スポットSほど速く動く。なお、符号「Y」で示す破線は、Yonedaバンドとも称され、回折信号の強度が最大となるラインである。つまり、回折信号は、位置Hと同じ高さで強度が最大となる。
【0038】
次に、
図9~
図12を参照し、θ/2θ法によるピッチの測定手法について説明する。
図9は、
図8で示した回折スポットが検出器32bによって検出される際の諸条件(回折スポット位置、θ
D、θ
S)を例示したグラフである。
図10は、
図9の情報をθ
D-θ
S平面上の情報に変換した例を示す図である。
図10では、検出器32bの回転角度(θ
D)を横軸にとり、回折格子80の回転角度(θ
S)を縦軸にとっている。
図11は、
図10の情報に基づく、検出器32bの回転角度(θ
D)と回折信号の強度との関係による強度分布の例を示す図である。
図11では、検出器32bの回転角度(θ
D)を横軸にとり、回折信号の強度を縦軸にとっている。
図12は、
図11の強度分布へのガウス近似の適用により抽出した各次数の極大点の位置を例示したデータを示す図である。
図12では、回折信号の次数を横軸にとり、検出器32bの回転角度(θ
D)を縦軸にとっている。
図9及び
図10は、θ/2θ法では原理的に「θ
S :θ
D =1:2」となる理由を説明するため、便宜的に例示した図であり、実際の演算で導出されるデータを示すものではない。
【0039】
まず、第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを1:2の角度比で回転させることにより、回折格子80と検出器32bとを1:2の角度比で回転させながら、X線回折装置10から回折格子80にX線を出射し、
図11のような回折信号の複数の極大点を検出器32bにより検出する。
【0040】
ここで、
図9を参照して、θ
S:θ
D=1:2となるように第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを回転させると回折信号(
図11)の強度が最大になる理由について説明する。
図9において、θ
S=φの円弧を見ると、+1次の回折スポットS(ハッチングを付した丸)がYonedaバンド上にある。このとき、θ
D=2φ(+1次の回折X線が発生する角度が2φ)であるため、θ
S:θ
D=1:2となっている。θ
S=2φの円弧を見ると、+2次の回折スポットS(ハッチングを付した四角)がYonedaバンド上にある。このとき、θ
D=4φであるため、やはりθ
S:θ
D =1:2となっている。θ
S=3φの円弧上の回折スポットS(ハッチングを付した菱形)についても同様である。つまり、Yonedaバンドと回折スポットSとが交わるとき、常にθ
S:θ
D=1:2という関係が満たされており、その条件で測定すると、回折信号(
図11)の強度が最大となる。なお、
図10は、
図9に基づく上記の内容をθ
D-θ
S平面上に描いたものである。
【0041】
次いで、
図11のような強度分布をガウス分布関数で近似することにより、各次数の極大点の位置を抽出し、
図12に示すように、次数-θ
D座標上に各次数の極大点をプロットし、プロットした各次数の極大点に基づく近似直線の傾きから回折角φを得ることができる。つまり、近似直線の傾きは2φとなるため、回折角φは、近似直線の傾きを2で除した値となる。
【0042】
そして、上記により求めた回折角φを、下記の式(1)に示すブラッグの条件式に適用することにより、ピッチ(d)を求めることができる。式(1)において、nは回折次数であり、λはX線の波長のことである。なお、ピッチ(d)を求める際、nは1とする。
【0043】
【0044】
[θ/2θ法による測定の実情]
次いで、
図13~
図16を参照して、格子上面と格子底面で散乱されたX線の干渉がθ/2θ法による測定データに及ぼす影響について説明する。
図13は、干渉の影響を受けた回折信号の強度分布をθ
D-θ
S平面上の情報に変換した図である。
図14は、
図13の強度分布を部分的に抜き出した部分拡大図である。
図15は、
図13の強度分布に基づく、検出器32bの回転角度(θ
D)と回折信号の強度との関係による強度分布の例を示す図である。
図16は、
図15の強度分布へのガウス近似の適用により抽出した各次数の極大点の位置を例示したグラフである。
【0045】
図9のように次数ごとに現れる回折信号は、上下方向の回折X線の干渉の影響を受けているため、この回折信号をθ
D-θ
S平面上にプロットすると、
図13及び
図14の例のように回折信号の極大点の位置がずれる。
図13では、-2次及び+2次の回折強度分布の極大点がずれた例を示している。従来のθ/2θ法による測定では、傾き1/2の直線上での測定を行うため、-2次及び+2次の二次元的な強度分布の極大点である実ピークJは検出できず、仮想ピークKが検出される。
【0046】
上下方向の回折X線の干渉の影響を受けない理想的な場合のピークを理想ピークRとし、実ピークJと、仮想ピークKとの位置関係を表すと、
図14のようになる。上下方向の回折X線の干渉の影響が無ければ、極大点は理想ピークRの位置に現れるはずだが、回折信号の干渉の影響を受けた結果、信号強度は実ピークJの位置で極大となるため、このような状態で、θ/2θ法に基づく傾き1/2の直線Tに沿った測定を行った場合は、信号強度の極大は仮想ピークKの位置で検出される事になる。よって、検出器32bの回転角度(θ
D)に対する回折信号の強度をグラフ化すると、
図15のように理想からずれた強度分布が描かれる。
【0047】
図13および
図15は、-2次及び+2次の回折強度分布の極大点がずれた場合の一例を示した図であり、-3次の実ピークJと-2次の仮想ピークKとの間のθ
D軸方向の距離P1が、-2次の仮想ピークKと-1次の実ピークJとの間のθ
D軸方向の距離P2よりも短くなり、+3次と+2次についてもこれと同様に短くなった例を示している。
【0048】
図15のような強度分布をガウス分布関数で近似すると、-2次の極大点及び+2次の極大点の位置がずれ、
図16のように、抽出された各次数の極大点に基づく近似直線は、正しい近似直線(理想直線)からずれた直線となる。
図16では、
図13及び
図15のように、θ
D軸方向の極大点の間隔がずれた場合を示しており(図中「Q1<Q2」参照)、これによって、近似直線の傾きは理想的な場合の直線の傾きよりも大きくなっている。
【0049】
上述したとおり、θ/2θ法でピッチ(d)を求める場合は、近似直線の傾きから回折角φを求め、求めた回折角φをブラッグの条件式に適用する。つまり、θ/2θ法により導出される近似直線の理想直線からのずれは、近似直線の傾きが理想からずれることを意味し、ピッチ測定における誤差の要因となる。より具体的には、
図16のように、導出された近似直線の傾きが、理想直線の傾きよりも大きくなると、ピッチの測定結果が参照値よりも小さくなる。そこで、本実施形態におけるピッチ演算装置40は、θ/2θ法により求められたピッチの値である補正前ピッチdmに補正処理を施すことにより、上下方向の回折X線の干渉の影響が緩和されたピッチの値である補正後ピッチdを求めるようになっている。補正後ピッチdは、補正前ピッチdmが含んでいる上下方向の回折X線の干渉による誤差を低減させるよう補正された値であり、ピッチの値として、補正前ピッチdmよりも正確な値である。
【0050】
図17~
図19を参照して、ピッチ演算装置40の機能的な構成例と共に、ピッチ演算装置40によるピッチの演算手法について説明する。
図17は、ピッチ演算装置40の機能的な構成を例示したブロック図である。
ピッチ演算装置40は、通信部41と、記憶部43と、入力部44と、表示部45と、制御部50と、を有している。
通信部41は、制御部50がX線回折装置10などの外部機器との間で有線又は無線により通信を行うためのインタフェースである。
【0051】
記憶部43には、ピッチ測定プログラム43pなどの制御部50の動作プログラムの他、種々の情報が記憶される。記憶部43は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のPROM(Programmable ROM)、又はHDD(Hard Disk Drive)等により構成することができる。
入力部44は、例えば、キーボードと、マウス又はトラックボールなどのポインティングデバイスと、を含んで構成される。入力部44は、ユーザによる入力操作を受け付け、入力操作の内容に応じた操作信号を制御部50へ送信する。
表示部45は、例えば液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)からなり、制御部50からの指示により種々の情報を表示する。
なお、ピッチ演算装置40は、入力部44及び表示部45の代わりに、文字又は画像等を表示する表示パネルと、この表示パネルに積層されてタッチ操作を検出する検出手段と、を含むタッチパネルを有していてもよい。ピッチ演算装置40は、タッチパネルとマウス又はキーボード等を併せ持つものであってもよい。
【0052】
制御部50は、後述のピッチ測定プログラム43pに従い、ピッチ測定システム100の全体の動作を統括的に制御する。制御部50は、回折信号取得部51と、ピッチ演算部52と、分布情報取得部53と、補正用データ取得部54と、ピッチ補正部55とを備えている。
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置と、こうした演算装置と協働して上記の各種機能を実現させるピッチ測定プログラム43pとにより構成することができる。すなわち、ピッチ測定プログラム43pは、コンピュータとしての制御部50及び記憶部43を、回折信号取得部51、ピッチ演算部52、分布情報取得部53、補正用データ取得部54、ピッチ補正部55として機能させるためのプログラムである。
【0053】
ここで、回折スポットとその周辺の二次元強度分布を発生させる主因は、回折格子を構成する各々の格子から散乱されるX線の干渉である。しかし、θ
S軸方向に発生する現象は、回折格子の上面と底面で散乱されたX線の干渉(上下方向の回折X線の干渉)による影響も含むため、θ
D軸方向の強度分布を表す関数とθ
S軸方向の強度分布を表す関数とは厳密には異なる(
図4は、このような様子を図示したもので、θ
D軸・θ
S軸方向の強度分布を、それぞれ異なる関数f
D(θ
D)f
S(θ
S)で表している)。ただし、経験的に、ガウス関数等の関数をθ
D軸方向及びθ
S軸方向のいずれにも適用できる場合もある。そこで以下では、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに異なる関数の仮定が必要になるような場合でも適用可能な普遍的な手法と、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに同じ関数を仮定できるような特別な場合の処理手法とを分けて説明する。また、以下では、θ
D軸方向を「第2軸方向」と呼び、θ
S軸方向は「第1軸方向」とも呼ぶ。
【0054】
[仮定する関数に関わらず共通する処理]
先ず、θD軸方向とθS軸方向とに異なる関数を仮定する場合、同じ関数を仮定する場合に共通する処理について概説する。
【0055】
回折信号取得部51は、第1回転ステージ33の回転角度と第2回転ステージ35の回転角度との比が1:2の割合となるように第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを連動させて回転させた状態で検出部32が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する。
より具体的には、回折信号取得部51は、第1回転ステージ33の駆動に連動して回転する回折格子80の表面で散乱されたX線の信号を、第1回転ステージ33とは独立に動作する第2回転ステージ35の駆動に連動して回転する検出部32を介して、取得する。なお、回折格子80は、試料台31に置かれた状態で、第1回転ステージ33の駆動に連動して回転する。検出部32は、アーム部34に載置されているため、第2回転ステージ35の駆動に伴って回転するアーム部34の動作に連動して回転する。
【0056】
ピッチ演算部52は、回折信号取得部51が取得した回折信号に基づいて、θ/2θ法により回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチdmを演算する。
より具体的には、ユーザによる入力操作に応じて、回折信号取得部51に制御されてX線回折装置10が回折格子80にX線を出射し、第1回転ステージ33を回転させ、第2回転ステージ35を回転させる。その際、回折信号取得部51は、第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とが1:2の角度比で回転するように制御する。その際、回折信号取得部51は、検出器32bから回折信号の複数の極大点を取得する。すなわち、回折信号取得部51は、
図11のような強度分布を取得してガウス分布関数等で近似し、各次数の極大点の位置を抽出する。
【0057】
次いで、ピッチ演算部52は、
図12に示すように、次数-θ
D座標上に各次数の極大点をプロットし、プロットした各次数の極大点に基づく近似直線の傾きから回折角φを取得する。そして、ピッチ演算部52は、式(1)について、dを「dm」とし、回折次数nを「1」として変形した式(2)に基づく演算により補正前ピッチdmを求める。ピッチ演算部52が求める補正前ピッチdmには、上下方向の回折X線の干渉による誤差が含まれる。ピッチ演算部52は、求めた補正前ピッチdmを記憶部43に記憶させる。
【0058】
【0059】
次に、θ/2θ法に基づき求めた補正前ピッチdmに補正処理を行い、上下方向の回折X線の干渉の影響が緩和された補正後ピッチdを求める方法について述べる。
図14に例示した通り、理想的な場合の回折信号極大点の出現位置を理想ピークRとすると、この極大点位置は、上下方向の回折X線の干渉によりずれる。回折信号は、極大点の周りで二次元的な強度分布を持っている。よって、極大点が実ピークJの位置にずれた状態で、θ/2θ法の測定が行われると、傾き1/2の直線上で回折信号が極大となる点、つまり仮想ピークKが検出される。しかし、理想ピークRとは異なる位置となるため、各次数での回折信号のピークが例えば
図15中の破線の様にずれる。その結果として、次数-θ
D座標上の各次数の極大点の直線フィッティング結果も
図16中の破線のようにずれる。これにより、当該直線の傾きから求められる回折角は理想値からずれて、補正前ピッチdmは誤差を含んだ結果となる。つまり、補正前ピッチdmの誤差は、理想ピークRから実ピークJへの極大点出現位置のずれ、および、二次元的な強度分布の広がり方に依存する。
【0060】
図18は、
図14で示した極大点出現位置のずれを(θ
D,θ
S)座標値で具体的に示した図である。
図18では、実ピークJ、理想ピークR、仮想ピークKの座標はそれぞれ(θ
DО,θ
SО)、(θ
DО,1/2(θ
DО))、(θ′
DО,1/2(θ′
DО))で示されている。
図4、
図18は、回折信号の二次元分布の広がり方を(θ
D,θ
S)座標値を使って具体的に示した図で、分布の広がり方に関する2種類の表現方法が示されている。1つは、二次元強度分布の広がり方をθ
D軸、θ
S軸に対する関数で表す方法で、それぞれの関数はf
D(θ
D)f
S(θ
S)で表される。もう1つは、二次元強度分布の広がり方を、θ
D方向、および、θ
S方向の極大点周りの半値幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を使って表す方法で、それぞれの半値幅は、Δθ
D,Δθ
Sで表される。
【0061】
なお、上記では回折信号の次数について特段規定せず議論したが、以降では回折次数をnの添え字で表す事とする。これにより、n次の次数の回折信号の実ピークJ、理想ピークR、仮想ピークKの座標は、それぞれ(θDО,n,θSО,n)、(θDО,n,1/2(θDО,n))、(θ′DО,n,1/2(θ′DО,n))で表され、n次の次数の回折信号の二次元強度分布の広がり方は、θD軸、θS軸に対する関数で表した場合にはfD,n(θD)fS,n(θS)、半値幅で表した場合にはΔθD,n,ΔθS,nとなる。
【0062】
上記の通り、補正前ピッチdmは、上下方向の回折X線の干渉に伴う回折信号の極大点のずれと、回折信号の二次元強度分布の広がりの影響を受けており、補正後ピッチdの導出に当たっては、これらの影響を低減する必要がある。補正前ピッチdm内に含まれるこれら回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響を、低減あるいは除去して補正後ピッチdを求める処理が最も自然な方法だが、後に述べるように、この方法では精度が上げられない場合がある。よって、本手法では、これら回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響を加えて計算すると補正前ピッチdmが求まるような回折格子のピッチを補正後ピッチdとして採用するという逆のアプローチによって、補正後ピッチdを決定する。
【0063】
最初に、補正後ピッチdが満たすべき関係について述べる。上記の通り、補正後ピッチdは回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響が低減あるいは除去された値である。そのため、次数nを1とした場合の式(1)を変形する事で、回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響が低減あるいは除去された回折角φを求めることが出来て、以下の通りとなる。
【0064】
【0065】
なお、上記の通り、本手法では、補正後ピッチdから計算される諸量に、回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響を加味して計算した結果が、補正前ピッチdmとなるよう、補正後ピッチdを補正するという逆のアプローチを取っている。よって、補正後ピッチdから補正前ピッチdmを逆計算する過程で導かれる諸量の多くは補正後ピッチdの関数となる。このような理由から、回折角も補正後ピッチdの関数として扱われ、上式ではφ(d)と表されている。
【0066】
先に
図9を用いて説明した事項、及び、
図10、
図11を参照しつつ、上記回折角φ(d)を使うと、回折信号の極大点ずれと二次元強度分布の影響が低減あるいは除去されたθ/2θ法測定の結果を模擬する事が可能で、回折信号が極大となる各次数での検出器回転角度θ
DО,n(d)は以下の通り求められる。
【0067】
【0068】
次に,回折信号が極大となる各次数での回折格子回転角度θSО,nおよび、回折信号の二次元的な強度分布の評価方法について述べる。回折信号が極大となる各次数での検出器回転角度θDО,n(d)は、上記の通り、理論に基づいて補正後ピッチdから計算された。これに対して、回折信号が極大となる各次数での回折格子回転角度θSО,n、および、二次元的な強度分布は、補正前ピッチdmを求めた時と同じ回折格子を用いて、以下の手順で実験的に測定される。なお、測定の際には補正前ピッチdmを求めた時と同じピッチ測定システムを使う事が望ましいが、補正前ピッチdmを求めた時に使用した該システムと仕様が同じであれば、異なるピッチ測定システムを使って、この測定を行ってもよい。
【0069】
分布情報取得部53は、回折格子の回転角度の値を第1軸にとり、検出部32の回転角度の値を第2軸にとったときの第1軸と第2軸との二次元座標系における回折X線の分布情報を、第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを個別に回転させた状態で検出部32が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する。すなわち、分布情報取得部53は、補正前ピッチdmを求めた際の各次数の回折信号の極大点周辺で、θ
S軸方向とθ
D軸方向とを独立にスキャンし、回折信号が極大となる各次数での回折格子回転角度θ
SО,n、検出器回転角度θ
DО,nおよび、各次数での二次元的な強度分布を取得する。具体的には、分布情報取得部53は、補正前ピッチdmを求めた際の各次数の回折信号の極大点位置から、θ
S軸方向のみの角度スキャンをすることにより、θ
S軸上での回折信号の極大点を決定する。ただし、
図4,
図14に示す通り、補正前ピッチdmを求めた際のある次数nでの回折信号の極大点は、仮想ピークKで示される白丸の位置にあり、仮想ピークKを基準点としたθ
S軸方向への角度スキャンでは、実ピークJの黒丸上を通らない。そのため、例えば、分布情報取得部53は、
図14の仮想ピークKの白丸からθ
S軸方向へ一次元スキャンしてその直線上の極大点を求め、そこからθ
D軸方向へ一次元スキャンすることにより、実ピークJの黒丸のθ
D・θ
S座標を求め、該当する次数の実ピークJのθ
D・θ
S座標を(θ
DО,n,θ
SО,n)とする。
なお、上記はあくまでも一例であり、黒丸の極大点を求める手法は、上記に限定されない。分布情報取得部53は、上記の一次元スキャンの順序を入れ替えて実行してもよく、θ
S-θ
D平面における二次元スキャンによって求めてもよい。
【0070】
次に、このようにして決定された、ある次数nの実ピークJのθD・θS座標(θDО,n,θSО,n)を中心に、θD・θS軸方向への角度スキャンを行って、二次元強度分布の広がり方に関わるデータを取得する。上記の通り、二次元強度分布の広がり方を表す方法は、θD軸、θS軸に対する関数で表す方法と半値幅で表す方法の2種類あるが、必要に応じてこの内の少なくとも1つのデータを取得すればよく、前者の場合は、実ピークJを中心に、θD・θS軸方向への角度スキャンを行って、θS軸上の強度分布fS(θS)、θD軸上の強度分布fD(θD)を求め、後者の場合は、実ピークJを中心に、θD・θS軸方向への角度スキャンを行って、信号強度が実ピークJの信号強度の半分となるθD・θS座標点を決定し、ここから半値幅ΔθD、ΔθSを決定する。
【0071】
なお、実ピークJの決定の際に、上記の、実ピークJを通るθS軸方向の角度スキャン、あるいは、θD軸方向の角度スキャンを既に行っているような場合は、θS・θD軸方向への角度スキャン両方を新たに行う必要はなく、スキャン済の軸上でのデータ不足分、及び、スキャンを行っていない軸上でのスキャンのみを追加で行う事で、fS(θS)、fD(θD)やΔθD、ΔθSを決定してもよい。
また、θS軸上の強度分布fS(θS)、θD軸上の強度分布fD(θD)を決定する際の、θS軸方向、θD軸方向の角度スキャンのステップが粗い場合などは、スキャン結果をもとに、関数フィッティング、補間等を行って、fS(θS)、fD(θD)を決定してもよい。
【0072】
上記の処理を、各次数で行うことにより、各次数での回折信号の二次元的な強度分布の広がり方を評価する。具体的には、二次元強度分布の広がり方を、θD軸、θS軸に対する半値幅で表す場合は、上記で求めた半値幅ΔθD、ΔθSに、該当する次数nの添え字を付けて、ΔθD,n、ΔθS,nとし、これを各次数での回折信号の二次元的な強度分布の広がり方を表すパラメータとする。二次元強度分布の広がり方を、θD軸、θS軸に対する関数で表す場合は、上記で求めた強度分布関数fD(θD)、fS(θS)に、該当する次数nの添え字を付け、fD,n(θD)、fS,n(θS)とすると共に、θD座標のみに対する関数となっているfD,n(θD)を、実ピークJのθD座標値θDО,n、および、実ピークJのθD座標値θDО,nに対する相対座標θD-θDО,nの関数となるよう変換して、fD,n(θDО,n,θD-θDО,n)とし、θS座標のみに対する関数となっているfS,n(θS)も同様に変換してfS,n(θSО,n,θS-θSО,n)とし、両者の関数の積fD,n(θDО,n,θD-θDО,n)×fS,n(θSО,n,θS-θSО,n)を二次元強度分布の広がり方を示す関数とする。
【0073】
上記の処理では、実ピークJのθ
D・θ
S座標(θ
DО,n,θ
SО,n)が実験的に決定されており、原理に照らせば、このθ
DО,nは、上下方向の回折X線の干渉がない理想的な場合の、各次数の回折信号ピークが検出される検出器回転角度θ
Dと等しい。よって、θ
DО,nを各次数に対して
図12のようにプロットし、直線フィッティングして当該直線の傾きからφを求め、式(1)のブラッグの条件式に代入して、ピッチdを求めることにより、dの高精度評価が可能になるはずである。しかし、残念ながらこのようにして決定されたθ
DО,nを使っても実際のピッチdの測定精度は必ずしも向上しない。
【0074】
本願発明者は、補正後ピッチdから補正前ピッチdmを逆計算した結果が、実測値に基づく補正前ピッチdmと等しくなるように、補正後ピッチdを補正し、このようにして決められた補正後ピッチdを回折格子のピッチとして求めると、回折格子のピッチ測定精度が向上することを新たに見出した。この処理のポイントは、実ピークJでの検出器回転角度の実測値θDО,nの代わりに、補正後ピッチdから前出の式(2-2)を使って計算されるθDО,n(d)を使うという処理である。これによって、実ピークJのθD・θS座標の実測値(θDО,n,θSО,n)は補正後ピッチdから逆計算されたθD座標値を含んだ座標値(θDО,n(d),θSО,n)に置き換えられ、次数nの二次元強度分布の広がり方を示す関数Inは、以下の式(2-3)となる。
【0075】
【0076】
補正前ピッチdmを逆計算できるように補正後ピッチdを設定できれば、これから計算されるθDО,n(d)によって、上下方向の回折X線の干渉による影響が除かれた回折信号のθD座標極大点をより高精度に再現できる。これと、実測により決定された実ピークJのθS座標θSО,nの組で決定される(θDО,n(d),θSО,n)の座標点を、あらたに実ピークJの座標点とする。この実ピークJ周りの回折信号の二次元分布関数に、実測された実ピークJ周りの回折信号の一次元分布関数fD,n、fS,nを利用すれば、上記式(2-3)の右辺の関数Inによって、上下方向の回折X線の干渉による影響も模擬された回折信号の二次元強度分布を、高い精度で再現する事が可能となる。
【0077】
以下では、二次元強度分布の広がり方をθD軸、θS軸に対する関数で表す場合について最初に述べた後に、二次元強度分布の広がり方を、θD方向、θS方向の半値幅を使って表す場合の処理について述べる。なお、上記でも述べた通り、前者は、θD軸方向とθS軸方向とに異なる関数の仮定が必要になるような場合でも適用可能な普遍的な手法である。後者は、θD軸方向とθS軸方向とに同じ関数を仮定できるような特別な場合の処理手法である。
【0078】
[θD軸方向とθS軸方向とに異なる関数を仮定する場合(個別関数仮定ケース)]
この場合は、上記の式(2-3)の右辺のfD,n、fS,nに特定の関数形を仮定せず、各次数での実ピークJ周りの回折信号の二次元強度分布関数が、式(2-3)の通り模擬されているとして、このような回折信号の二次元強度分布関数に対して、θ/2θ法に従った角度スキャンが行われた場合の各次数での極大点を計算する。
【0079】
θ/2θ法では、θS=θD/2の角度条件を保ったスキャンが行われる事から、θ/2θ法を行った場合の検出器回転角度θDに対する回折信号は、式(2-3)を変形して、以下の式(2-4)となる。
【0080】
【0081】
上記の式(2-4)の極大値を、勾配法などの数値的解法を利用して求めると、θ/2θ法に従った角度スキャンを行った場合の検出器回転角度θ
Dに対する回折信号のグラフを描くことが出来る。例えば、
図15の破線のように、上下方向の回折X線の干渉を受け、極大点の検出位置がずれた状態を模擬したグラフが描かれる。この破線が示す極大点各々の検出器回転角度θ
Dは、補正後ピッチdと実測値を使って、上下方向の回折X線の干渉に伴う回折信号の極大点のずれを模擬したものである。この破線が示す極大点各々の検出器回転角度θ
Dは、
図14の仮想ピークKのθ
D座標相当、つまり
図4のθ′
DО相当の量で、dの関数となるため、θ′
DО,n(d)として、これを各次数でのnに対する次数-θ
Dグラフにプロットすると、
図16のようになる。この
図16において、各次数のデータ点の直線フィッティング結果は、実線のように、上下方向の回折X線の干渉の影響を模擬したものになる。この直線の次数に対する傾きの1/2は先に述べた回折角φに相当する量だが、上記の通り、dと相関している。しかしながら、式(2-1)で定義した関数φ(d)とは異なるので、以下では区別のため、異なる関数表記を使い、φ′(d)とする。
【0082】
次に、上記で求められた回折角(補正後ピッチを演算する過程で得られる補正途中の回折角)φ′(d)から求められる回折格子のピッチ(補正後ピッチを演算する過程で得られる補正途中のピッチ)をdm′とすると、以下の式(2-5)が導かれる。
【0083】
【0084】
先に述べた通り、補正前ピッチdmを逆計算できるような補正後ピッチdが求めるべき解である。このためには、上記式(2-5)の左辺dm′をdmと置き換えた時のdを求めればよく、数式的には以下の式(2-6)を解けばよい。
【0085】
【0086】
しかしながら、上でも述べた通り、φ′(d)の導出には各次数でのデータの直線近似等が含まれ、φ′(d)の逆関数を解析的に求める事は不可能なため、例えば以下のような数値的な方法で補正後ピッチdを導出する。なお、下記はあくまでも例であり、これ以外の手法で補正後ピッチdを導出してもよい。
【0087】
ここでは二分法によって、補正後ピッチdを数値的に求める方法について例示する。
(1):まず、θ/2θ法に基づき求めた補正前ピッチdmをそのまま補正後ピッチdとし、上述したdm′を求める処理を行ってdm′を求め、dm′-dmを計算する。
【0088】
(2):(1)の結果がdm′-dm=0ならd=dmとして、補正後ピッチdの計算を終了する。
【0089】
(3):(1)の結果がdm′-dm<0なら、補正後ピッチの1番目の候補d1をd1=dm′とする。また、補正後ピッチの2番目の候補d2をd2=dm-(dm′-dm)とし、d2に対して上述したdm′を求める処理を行い、対応するdm′を求める。dm′-dm<0ならば、d2-(dm′-dm)を新たな補正後ピッチの2番目の候補d2として設定し、dm′-dm>0となるまでd2に対する処理を繰り返す。なお、この計算の途中でdm′-dm=0となった場合は、d=dmとして、補正後ピッチdの計算を終了する。
【0090】
(4):(1)の結果がdm′-dm>0なら、補正後ピッチの2番目の候補d2をd2=dm′とする。また、補正後ピッチの1番目の候補d1をd1=dm-(dm′-dm)とし、d1に対して上述したdm′を求める処理を行い、対応するdm′を求め、dm′-dm>0ならば、d1-(dm′-dm)を新たな補正後ピッチの2番目の候補d2として設定し、dm′-dm<0となるまでd1に対する処理を繰り返す。なお、この計算の途中でdm′-dm=0となった場合は、d=dmとして、補正後ピッチdの計算を終了する。
【0091】
(5):d1とd2の中間点d3=1/2(d1+d2)を計算し、d3に対して上述したdm′を求める処理を行って対応するdm′を求め、dm′-dm>0ならば、d3を新たな補正後ピッチの2番目の候補d2として設定し、dm′-dm<0ならば、d3を新たな補正後ピッチの1番目の候補d1として設定する。なお、dm′-dm=0の場合は、d=dmとして、補正後ピッチdの計算を終了する。
【0092】
(6):dm′-dm=0となるまで(5)のステップを繰り返し、ステップ終了時のdmを使ってd=dmとし、補正後ピッチdの計算を終了する。
なお、上記の(3)、(4)では補正後ピッチの1番目の候補d1、2番目の候補d2の求め方について述べたが、あくまでも一例であって、d1<dm<d2の条件が満たされるのであれば、選び方はどのような方法に基づくものであってもよい。また、(2)、(3)、(4)、(6)では、補正後ピッチdの計算を終了する条件を、dm′-dm=0としたが、これはあくまでも理想で、計算資源や計算時間上の負担を勘案すると、補正後ピッチdの決定精度の求めに応じた終了条件とするのが望ましく、補正後ピッチdの決定精度をd±Δdとするような場合であれば、終了条件は|dm′-dm|<Δdとしてもよい。
【0093】
補正後ピッチdを数値的に求めるに当たっては、上記の二分法以外の方法を採用しても良く、例えば、補正前ピッチdmを内包する区間内に、補正後ピッチdの決定精度Δdのステップで、補正後ピッチdの候補値を多数規定し、上述したdm′を求める処理を使って、各々の候補値に対するdm′を計算、dmに最も近いdm′を選んでこれに対応する補正後ピッチdの候補値を補正後ピッチdの計算結果として採用する方法を使ってもよい。
【0094】
図19は、計算結果の一例をグラフ化したものである。
図19では、多数規定された補正後ピッチdの候補値、各候補値に対するdm′のそれぞれを横軸・縦軸座標としてプロットすると、図中の斜めの実線が得られる事を示している。この場合の、補正前ピッチdmは99.27[nm]であり、これに該当する補正後ピッチdは99.90[nm]と計算されたが、測定対象とした回折格子のピッチの基準値は99.98[nm]であり、本手法の処理によって、ピッチの測定値の精度が向上していることがわかる。なお、上記で述べた二分法の方法でも同じ補正後ピッチd=99.90[nm]が得られている。
【0095】
[θS軸方向とθD軸方向とに同じ関数を仮定する場合(同一関数仮定ケース)]
以下ではθS軸方向とθD軸方向とに同じ関数を仮定できるような特別な場合の処理手法について述べる。この方法で前提としているのは、回折信号の二次元強度分布が該強度分布の極大位置を中心にθS軸方向とθD軸方向とで対称な場合で、この場合の回折信号の二次元強度分布は、θS軸方向、θD軸方向の半値幅ΔθS、ΔθDで表せる。補正用データ取得部54は、このθS方向の半値幅(第1ピーク幅)ΔθSと、実位置θS0と、θD方向の半値幅(第2ピーク幅)ΔθDとを、補正用データとして取得する。
【0096】
上記の条件を満たす関数の1つはガウス関数であり、以下ではθD軸方向とθS軸方向の回折信号の強度分布がガウス関数となる場合について例示する。この場合、式(2-3)の関数fD,n(θDО,n,θD-θDО,n)およびfS,n(θSО,n,θS-θSО,n)は、以下のように定義される。
【0097】
【0098】
【0099】
上記を式(2-3)に代入して、次数nの二次元強度分布の広がり方を示す関数Inを規定し、θ/2θ法での測定を行う際の検出器回転角度θDと回折格子回転角度θSの角度条件、θS=θD/2を代入すると、θ/2θ法に従った角度スキャンが行われた場合の検出器信号強度の検出器回転角度θD依存性を示す式(2-4)相当の式が導かれる。
【0100】
θ
D軸方向とθ
S軸方向とに異なる関数を仮定する場合の解析では、勾配法などの数値的解法を利用してθ/2θ法測定で検出器信号強度が極大となる各次数での検出器回転角度θ′
DО,n(d)を計算したが、上記のガウス関数のように、回折信号の二次元強度分布が該強度分布の極大位置を中心にθ
D軸方向とθ
S軸方向とで対称で、二次元強度分布のθ
D方向、θ
S方向の半値幅Δθ
D、Δθ
Sとなる場合は、回折信号の二次元強度分布の等高線は、補正後ピッチdと実測値を使って、上下方向の回折X線の干渉に伴う回折信号の極大点のずれを模擬する事で導出された実ピークJの座標点(θ
DО,n(d),θ
SО,n)を中心とし、そのθ
S方向、θ
D方向それぞれの径の長さが各々の半値幅Δθ
D、Δθ
Sに比例する楕円となる。等高線がこのような楕円となる場合は、
図14の仮想ピークKのθ
D座標相当、つまり
図4のθ′
DО相当の量であるθ′
DО,n(d)は以下の式から計算できる。
【0101】
【0102】
上記で求められたθ′
DО,n(d)は、上下方向の回折X線の干渉に伴う回折信号の極大点のずれを模擬したものであり、
図14の仮想ピークKのθ
D座標相当、つまり
図4のθ′
DО相当の量である。そのため、これを各次数でのnに対する次数-θ
Dグラフにプロットすると、
図16のようになり、各次数のデータ点の直線フィッティング結果は、実線のように、上下方向の回折X線の干渉の影響を模擬したものになる。この直線の次数に対する傾きの1/2は
図12を用いて説明した回折角φに相当する量で、式(2-5)で示されたφ′(d)に該当する。
【0103】
上記φ′(d)を使って、補正後ピッチdが求められるが、その際に使われる数値的な処理については、先に説明した二分法、又は、二分法以外の数値的な解法を用いて個別関数仮定ケースの場合と同様に行う。
【0104】
上述したように、補正後ピッチdを求める手法として、同一関数仮定ケースと個別関数仮定ケースとが実行可能である。制御部50は、同一関数仮定ケースと個別関数仮定ケースとの双方の演算処理を選択的に実行可能な構成としてもよく、同一関数仮定ケース及び個別関数仮定ケースのうちの何れか一方の演算処理のみを実行する構成としてもよい。前者の構成を採る場合、各演算処理の選択は、ユーザが行えるようにしてもよい。
【0105】
次に、
図20のフローチャートを参照して、本実施形態に係るピッチ演算方法のうち、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに異なる関数を仮定した場合の動作例について説明する。
図20は、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに異なる関数を仮定した場合の動作例を示すフローチャートである。
【0106】
ステップ(以下、Sとする)11では、回折信号取得部51が、第1回転ステージ33の回転角度と第2回転ステージ35の回転角度との比が1:2の割合となるように第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを連動させて回転させた状態で検出部32が検出した回折X線に基づく回折信号を取得する。そして、ピッチ演算部52が、回折信号取得部51が取得した回折信号に基づいて、θ/2θ法により回折格子のピッチの補正前の値である補正前ピッチdmを演算する。
【0107】
S12では、分布情報取得部53が、回折格子の回転角度の値を第1軸にとり、検出部32の回転角度の値を第2軸にとったときの第1軸と第2軸との二次元座標系における回折X線の分布情報を、第1回転ステージ33と第2回転ステージ35とを個別に回転させた状態で検出部32が検出した回折X線に基づく回折信号に基づき、次数毎に取得する。
【0108】
S13では、補正用データ取得部54が、次数毎に取得した回折X線の分布情報を、第1軸に沿う方向である第1軸方向に対応する第1関数と、前記第2軸に沿う方向である第2軸方向に対応する第2関数と、に分けて取得する。すなわち、補正用データ取得部54が、回折信号のθS軸方向及びθD軸方向の強度分布を生成し、補正用データ43nとして、第1関数fS(θS)と第2関数をfD(θD,d)とを取得する。
例えば、この個別関数仮定ケースの場合、補正用データ取得部54は、式(2-3)右辺にある「fD,n(θDО,n(d),θD-θDО,n(d))」と「fS,n(θSО,n,θS-θSО,n))」の2つを取得するが、得られる具体的な関数は場合により異なる。
【0109】
S14では、ピッチ補正部55が、各次数の回折信号について、式(2-4)が最大となる第2回転角度θDを仮想位置θ′D0として求める。
【0110】
S15では、ピッチ補正部55が、次数と仮想位置θ′D0とを対応づけた座標平面上に、各次数の仮想位置θ′D0をプロットして直線近似し、その直線近似により得た近似直線の傾きに対応する回折角φ’を補正後ピッチdの関数として求める。
【0111】
S16では、ピッチ補正部55が、求めた回折角φ’(d)とS11で求められた補正前ピッチdmとを適用した式(2-5)を数値的に解くことにより補正後ピッチdを求める。
【0112】
次に、
図21のフローチャートを参照して、本実施形態のピッチ演算方法のうち、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに同じ関数を仮定した場合の動作例について説明する。
図21は、θ
D軸方向とθ
S軸方向とに同じ関数を仮定した場合の動作例を示すフローチャートである。
【0113】
S21、及び、S22では、それぞれ、
図20におけるS11、及び、S12と同様な処理を行う。
S23では、S22で取得した分布情報を用いて、補正用データ取得部54が、第1回転角度θ
Sと第2回転角度θ
Dとの双方に関連づけられた各次数についての補正用データ43nを求める。より具体的には、補正用データ取得部54が、各次数の回折信号についての補正用データ43nとして、第1ピーク幅Δθ
Sと実位置θ
S0と第2ピーク幅Δθ
Dとを補正用データ43nとして求める。
【0114】
S24では、上述した式(3)により、各次数についての仮想位置θ′
D0を補正後ピッチdの関数として求める。
S25、及び、S26では、それぞれ、
図20におけるS15、及び、S16と同様な処理を行う。
【0115】
以上説明したように、本実施形態によれば、ピッチ測定システム100は、回折X線の分布情報を分布情報取得部が取得し、この分布情報に基づいて補正用データ取得部が補正用データを求め、ピッチ補正部が、この補正用データを用いて補正前ピッチを補正して補正後ピッチを取得する構成とした。これにより、ピッチ測定システム100は、干渉の影響が緩和された、より精度の高い回折格子のピッチ測定を行うことができる。
回折格子80は、半導体検査機器のスケール校正・倍率校正用の標準試料として多く用いられている。この点、本実施形態のピッチ測定システム100によれば、補正用データ43nを用いた補正処理により、回折格子80のピッチの高精度な測定値を求めることができる。よって、従来のθ/2θ法よりも正確なピッチ測定を実現することができるため、信頼性の向上を図ると共に、ユーザの安心感を高めることができる。
【0116】
(第2実施形態)
図22は、第2実施形態のピッチ測定システム100Aの全体を示す図である。
図22では、ピッチ測定システム100Aの各構成部材につき、
図1のピッチ測定システム100と同等の構成部材には同一の符号を用いて説明は省略する。
【0117】
本実施形態におけるX線回折装置10Aは、検出部32Aが、アナライザ132aと検出器32bとにより構成されている。アナライザ132aは、回折格子80で発生する回折X線を狭線化するものである(例えば、Ge(220) 4-bounce channel-cut analyzer)。アナライザ132aは、ゲルマニウム等の単結晶でできており、アナライザ132aの結晶表面での反射(=回折)が発生する角度は、X線波長によって一意に決まる。
【0118】
ここで、回折X線がある空間的な幅を持つ平行光として発生する場合、上述した検出部32における検出器32bは、その幅の情報を含んだ回折X線をスリット32aを介して検出する。すなわち、検出器32bが検出する回折X線は、前面にスリット32aがあるとはいえ、該回折X線の幅分の太さを持つことになる。よって、検出器32bによる回折スポットの測定結果は、検出器回転角度θDに対して当該スリット幅に相当する分だけ太くなる。
このように、スリット32aは、回折X線の空間的な幅の影響を受ける。
【0119】
これに対し、アナライザ132aを用いた検出部32Aは、回折X線の空間的な幅の影響を受けないため、検出器32bは、検出した回折X線から回折角の情報だけを検出することができる。よって、検出器32bによる回折X線に基づく回折信号は、相対的に細くなる。
【0120】
本実施形態において、回折格子80から発生した回折信号は、アナライザ132aを通過し、検出器32bにて検出される。検出器32bは、アナライザ132aを通過した回折X線の強度を検出し、検出結果を示す回折信号をピッチ演算装置40へ送信するものである。すなわち、検出器32bは、アナライザ132aを通過した回折X線を入力すると共に、その回折X線の強度を検出し、検出結果の情報である回折信号をピッチ演算装置40へ送信するものである。回折格子80の表面に入射したX線は、左右にぶれず真っ直ぐに進む反射X線と、回折格子80の凹凸に起因して発生する回折X線とに分かれる。回折格子80の表面で発生した回折X線は、アナライザ132aを通過し、回折信号として検出器32bに検出される。
【0121】
以上説明したように、本実施形態における検出部32Aは、回折格子80で発生する回折X線を狭線化するアナライザ132aと、アナライザ132aを通過した回折X線の強度を検出し、検出結果である回折信号をピッチ演算装置40へ送信する検出器32bと、を有している。よって、検出器32bは、回折X線の幅の影響が緩和された回折信号をピッチ演算装置40へ送信することができるため、演算精度の向上を図ることができる。
【0122】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本開示の範囲内である。
【0123】
(1)各実施形態において、光学機構部20は、X線回折装置10の外部構成としてもよい。つまり、X線回折装置10は、光学機構部20を含めず、支持機構部30だけで構成してもよい。
【0124】
(2)各実施形態において、ピッチ演算装置40は、制御部50が補正対象となる補正前ピッチdmを外部から取得するように構成し、制御部50にピッチ演算部52を設けなくてもよい。ただし、補正前ピッチdmと補正用データ43nの基となる分布情報とは同一の条件で測定する必要がある点に留意すべきである。実際のところ、ピッチ演算装置40での補正用データ43nの測定時と同一の条件で、外部の装置によって補正前ピッチdmを測定することは容易ではない。したがって、
図17のように、制御部50にピッチ演算部52を設け、同一の条件下で第1回転ステージ33、第2回転ステージ35、及び検出器32bを動作させて、補正前ピッチdmと分布情報との双方をピッチ演算装置40が求める構成の方が好ましい。なお、補正前ピッチdmを測定するタイミングと、分布情報を測定するタイミングとの間隔は、任意に変更可能である。上記では、第1ピーク幅Δθ
S及び第2ピーク幅Δθ
Dを求める際に、半値幅法を用いる例を示したが、これに限らず、ピッチ演算装置40は、接線法や面積高さ法などの手法により第1ピーク幅Δθ
S及び第2ピーク幅Δθ
Dを求めてもよい。すなわち、ピーク幅は半値幅に限定されない。
【0125】
(3)各実施形態において、ピッチ演算方法における各処理の順序は、適宜変更することができる。例えば、同一関数仮定ケースにおいて、補正用データ43nの各要素を求める際、第1ピーク幅ΔθS及び実位置θS0を先に求めてもよく、第2ピーク幅ΔθDを先に求めてもよい。また、個別関数仮定ケースにおいて、補正用データ43nの各要素を求める際、第1関数を先に求めてもよく、第2関数を先に求めてもよい。
【0126】
なお、各実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本開示は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0127】
10 X線回折装置
10A X線回折装置
20 光学機構部
21 X線源
22 集光ミラー
23 モノクロメータ
30 支持機構部
31 試料台
32、32A 検出部
32a スリット
32b 検出器
33 第1回転ステージ
34 アーム部
35 第2回転ステージ
40 ピッチ演算装置
41 通信部
43 記憶部
43n 補正用データ
43p ピッチ測定プログラム
44 入力部
45 表示部
50 制御部
51 回折信号取得部
52 ピッチ演算部
53 分布情報取得部
54 補正用データ取得部
55 ピッチ補正部
80 回折格子
100、100A ピッチ測定システム
132a アナライザ