(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081004
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】単結晶引上装置及び単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/20 20060101AFI20230602BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C30B15/20
C30B29/06 502E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194638
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】坪田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】安部 吉亮
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG19
4G077EH06
4G077PF04
4G077PF13
4G077PF17
(57)【要約】
【課題】チョクラルスキー法により単結晶をシリコン融液から引き上げる際、単結晶の直径を目標値とするために、引上速度を一定とし、且つシリコン融液の加熱温度を制御し、単結晶の直径目標値に対するばらつきを抑制する。
【解決手段】シリコン融液Mを加熱するヒータ4と、前記ヒータに電力を供給するヒータ制御部4aと、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールド7と、引き上げる単結晶の直径を測定する直径測定装置16と、前記輻射シールドの内周面側の温度を測定する放射温度計17と、前記ヒータ制御部が前記ヒータに供給する電力を制御するコントローラ11と、を備え、前記コントローラは、前記直径測定装置により測定された単結晶の直径と、前記放射温度計により測定された前記輻射シールドの内周面側の温度とに基づき、前記ヒータ制御部によりヒータに供給する電力を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上装置において、
シリコン融液を加熱するヒータと、前記ヒータに電力を供給するヒータ制御部と、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドと、引き上げる単結晶の直径を測定する直径測定装置と、前記輻射シールドの内周面側の温度を測定する放射温度計と、前記ヒータ制御部が前記ヒータに供給する電力を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記直径測定装置により測定された単結晶の直径と、前記放射温度計により測定された前記輻射シールドの内周面側の温度とに基づき、前記ヒータ制御部により前記ヒータに供給する電力を制御することを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項2】
単結晶を引き上げるワイヤと、前記ワイヤを巻き上げ、育成される単結晶を引き上げる引き上げ機構と、を備え、
単結晶の直胴部の引き上げの際、前記引き上げ機構は、単結晶を一定の速度で引き上げるように前記ワイヤを巻き上げることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項3】
前記輻射シールドは、
上部開口と、前記上部開口からシリコン融液に向けて縮径するテーパ部と、前記テーパ部の下端から内方に向かって水平に延設され、環状に形成されたテラス部と、前記テラス部の内縁に形成された下部開口と、を有し、
前記放射温度計は、前記テラス部の上面の温度を測定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された単結晶引上装置。
【請求項4】
前記放射温度計は、前記テラス部の上面における前記テーパ部の下端近傍の温度を測定することを特徴とする請求項3に記載された単結晶引上装置。
【請求項5】
チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、
ヒータにより前記シリコン融液を加熱しつつ、単結晶の直胴部を形成する工程を備え、
単結晶の直胴部を形成する工程において、
直径測定装置により単結晶の直径を測定するステップと、
前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップと、
前記直径測定装置により測定された単結晶の直径と、前記放射温度計により測定された前記輻射シールドの内周面側の温度とに基づき、前記ヒータに供給する電力を制御するステップと、
を備えることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶の直胴部を形成する工程において、
前記単結晶を一定の速度で引き上げることを特徴とする請求項5に記載された単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップにおいて、
上部開口と、前記上部開口からシリコン融液に向けて縮径するテーパ部と、前記テーパ部の下端から内方に向かって水平に延設され、環状に形成されたテラス部と、前記テラス部の内縁に形成された下部開口とを有する前記輻射シールドを用い、
前記放射温度計により、前記テラス部の上面の温度を測定することを特徴とする請求項5または請求項6に記載された単結晶の製造方法。
【請求項8】
輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップにおいて、
前記放射温度計により、前記テラス部の上面における前記テーパ部の下端近傍の温度を測定することを特徴とする請求項7に記載された単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法を用いて単結晶の引上げを行う単結晶引上装置及び単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、
図6に示すようなチャンバ50内に設置した石英ルツボ51に、原料であるポリシリコンを充填し、石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液Mとした後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)Pを当該シリコン融液に浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
一般に、引上げ開始に先立ち、シリコン融液Mの温度が安定した後、種結晶Pをシリコン融液Mに接触させて種結晶Pの先端部を溶解するネッキングを行う。このネッキングによりネック部P1が形成される。
【0004】
また、引上げ開始後の工程としては、ネッキング終了後、直胴部直径にまで結晶を広げる肩部C1の形成工程、製品となる単結晶を育成する直胴部C2の形成工程、直胴部形成工程後の単結晶直径を徐々に小さくするテール部(図示せず)の形成工程が行われる。
【0005】
ところで、一般に無欠陥結晶と呼ばれる結晶は引上げ速度をv、固液界面における温度勾配をGとすると、v/Gがある一定値となるよう制御し、これを指標にして、欠陥密度が非常に少ない結晶を育成するようにしている。
また、引き上げる単結晶の直径も引き上げ速度vと温度勾配Gとにより制御される。具体的には、融液温度が低いほど、或いは引き上げ速度vが低速の場合には、単結晶の直径はより大きくなる。反対に、融液温度が高いほど、或いは引き上げ速度vが高速の場合には、単結晶の直径はより小さくなる。
【0006】
例えば、特許文献1に開示された単結晶引上装置では、炉の頂部に配置された2色温度計によりシリコン融液の温度を測定するとともに、炉の肩部に設けられた窓部からセンサにより単結晶の直径を測定し、それらの情報をコントローラに取り込んでいる。
コントローラは、単結晶の直径情報と測定した融液温度情報とを用いてPID制御することにより、引上げ速度とヒータの出力とを制御し単結晶の直径を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された単結晶引上装置のように、ヒータによるシリコン融液の加熱温度と、引き上げる単結晶の引上げ速度をフィードバック制御する場合、制御された結果に即時性がある(応答性が良好な)場合には精度良い結果を得ることができる。
例えば、引上げ速度の制御を行うには、単結晶を釣り上げるワイヤを巻き取るリールの回転速度を制御すればよく、一般に、リールの回転速度を即時に引上げ速度に反映させることができる。
【0009】
しかしながら、ヒータによるシリコン融液の加熱温度を制御する場合、ヒータの出力変化が、固液界面の温度変化に反映されるまでの時間に遅延(タイムラグ)が生じるため、即時性がなく(応答性が低い)、単結晶の直径制御の精度が低下するという課題があった。
【0010】
特許文献1に開示された単結晶引上装置の構成にあっては、二色温度計により、シリコン融液の液面温度を直接的に測定するものである。
しかしながら、その場合、逆光成分等の外乱が測定結果に取り入れられる虞が高く、シリコン融液の測定温度の精度が低下する虞があった。即ち、従来において、シリコン融液の温度を正確に測定することは困難であり、単結晶の直径制御の精度が低下し、直径のばらつきが大きくなったり、ハンチングしたりする原因になっていた。
【0011】
このような事情を鑑み、本願発明者は、シリコン融液の加熱制御を精度良く行い、引き上げる単結晶の直径のばらつきを抑制することについて鋭意研究を行い、本発明をするに至った。
【0012】
本発明の目的は、単結晶の直径のばらつきを抑制することのできる単結晶の引上装置及び単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上装置において、シリコン融液を加熱するヒータと、前記ヒータに電力を供給するヒータ制御部と、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドと、引き上げる単結晶の直径を測定する直径測定装置と、前記輻射シールドの内周面側の温度を測定する放射温度計と、前記ヒータ制御部が前記ヒータに供給する電力を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記直径測定装置により測定された単結晶の直径と、前記放射温度計により測定された前記輻射シールドの内周面側の温度とに基づき、前記ヒータ制御部により前記ヒータに供給する電力を制御することに特徴を有する。
【0014】
尚、前記単結晶を引き上げるワイヤと、前記ワイヤを巻き上げ、育成される単結晶を引き上げる引き上げ機構と、を備え、単結晶の直胴部の引き上げの際、前記引き上げ機構は、単結晶を一定の速度で引き上げるように前記ワイヤを巻き上げることが望ましい。
また、前記輻射シールドは、上部開口と、前記上部開口からシリコン融液に向けて縮径するテーパ部と、前記テーパ部の下端から内方に向かって水平に延設され、環状に形成されたテラス部と、前記テラス部の内縁に形成された下部開口と、を有し、前記放射温度計は、前記テラス部の上面の温度を測定することが望ましい。
また、前記放射温度計は、前記テラス部の上面における前記テーパ部の下端近傍の温度を測定することが望ましい。
【0015】
このような構成によれば、単結晶の直胴部の引上げにおいて、育成する単結晶の直径を直径測定センサにより測定するとともに、輻射シールドの内周面側の温度を放射温度計により測定する。そして、測定した結晶径と測定温度とを入力として、目標とする結晶径とするための固液界面温度を決定し、ヒータへ出力する供給電力量を制御する。
ここで、放射温度計は、輻射シールドの内周面側の温度を測定するため、シリコン融液の映り込みや迷光の影響を受けず、単結晶の引き上げ工程の間、安定した温度測定を行うことができる。
その結果、補正すべき固液界面の設定温度の精度を高めることができ、ヒータ出力を制御して、単結晶の直径のばらつきを抑制することができる。
【0016】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶の製造方法は、チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶の製造方法であって、ヒータにより前記シリコン融液を加熱しつつ、単結晶の直胴部を形成する工程を備え、単結晶の直胴部を形成する工程において、直径測定装置により単結晶の直径を測定するステップと、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップと、前記直径測定装置により測定された単結晶の直径と、前記放射温度計により測定された前記輻射シールドの内周面側の温度とに基づき、前記ヒータに供給する電力を制御するステップと、を備えることに特徴を有する。
【0017】
尚、前記単結晶の直胴部を形成する工程において、前記単結晶を一定の速度で引き上げることが望ましい。
また、前記輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップにおいて、上部開口と、前記上部開口からシリコン融液に向けて縮径するテーパ部と、前記テーパ部の下端から内方に向かって水平に延設され、環状に形成されたテラス部と、前記テラス部の内縁に形成された下部開口とを有する前記輻射シールドを用い、前記放射温度計により、前記テラス部の上面の温度を測定することが望ましい。
また、輻射シールドの内周面側の温度を、放射温度計により測定するステップにおいて、前記放射温度計により、前記テラス部の上面における前記テーパ部の下端近傍の温度を測定することが望ましい。
【0018】
このような方法によれば、単結晶の直胴部の引上げにおいて、育成する単結晶の直径を直径測定センサにより測定するとともに、輻射シールドの内周面側の温度を放射温度計により測定する。そして、測定した結晶径と測定温度とを入力として、ヒータへ出力する供給電力量を制御する。
ここで、放射温度計は、輻射シールドの内周面側の温度を測定するため、シリコン融液表面の温度を直接測定する場合に比べてシリコン融液の映り込みや迷光の影響を受けにくく、単結晶の引き上げ工程の間、安定した温度測定を行うことができる。
その結果、ヒータ出力を制御して、単結晶の直径の目標値に対するばらつきを抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、単結晶の直径のばらつきを抑制することのできる単結晶の引上装置及び単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明に係る単結晶引上装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の単結晶引上装置が備える輻射シールドの一部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る単結晶の製造方法のフロー図である。
【
図4】
図4は、実施例1の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、比較例1の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、チョクラルスキー法による単結晶引き上げを説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る単結晶引上装置及び単結晶の製造方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係る単結晶引上装置の断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンルツボ(或いは黒鉛ルツボ)2と、カーボンルツボ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンルツボ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0022】
また、カーボンルツボ2の下方には、このカーボンルツボ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンルツボ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0023】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を加熱溶融してシリコン融液Mとするための抵抗加熱式または高周波誘導加熱方式によるヒータ4を備えている。
また、本実施形態において、ヒータ4に電力供給するヒータ制御部4aには、例えばパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)電力制御方式が適用される。即ち、オンオフを繰り返すスイッチング周期のパルス幅(ON期間)によって出力電圧の大きさ(供給電力量)を制御する。
【0024】
また、単結晶引上装置1は、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9を備えている。引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
【0025】
また、ルツボ3内に形成されるシリコン融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するサイドヒータ4やシリコン融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
輻射シールド7の形状について、詳細に説明すると、
図2に示すように輻射シールド7は、上部開口7aからシリコン融液Mに向けて(下方に向けて)縮径するテーパ部7bと、テーパ部7b下端から内方に向かって水平に延設され、これが環状に形成されたテラス部7cとを有する。テラス部7cの内縁に形成された下部開口7dと上部開口7aとを通るように単結晶が引き上げられることになる。
【0026】
尚、テラス部7cの径方向の長さ(幅)は、テーパ部7b下端近傍7c1においてシリコン融液Mの反射や迷光が届かないように、例えば10~150mmに形成されている。また、輻射シールド7の下部開口7d(下端)と融液面との間のギャップは、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を一定(例えば50mm)に維持するよう制御される。
【0027】
また、単結晶引上装置1は、育成中の単結晶の直径を測定するためのCCDカメラ等の光学式の直径測定センサ(直径測定装置)16を備える。メインチャンバ10aの上面部には、観測用の小窓10a1が設けられており、この小窓10a1の外側から固液界面における結晶端(破線矢印で示す位置)の位置変化を検出するようになされている。
【0028】
また、単結晶引上装置1は、育成する単結晶とシリコン融液との境界、即ち固液界面の温度に近い温度を安定して測定するための放射温度計17を備える。この放射温度計17は、
図2に示すように輻射シールド7の内面の温度、より具体的には、テラス部7c上面における、テーパ部7bの下端近傍7c1の温度を測定するよう配置されている。メインチャンバ10aの上面部には、小窓10a1とは別の小窓10a2が設けられており、この小窓10a2の外側から輻射シールド7の内面の温度を測定するようになされている。尚、放射温度計17の放射率は、輻射シールド7の伝熱シミュレーションを予め行い、その結果に基づき設定することができる。
【0029】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコントローラ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、回転駆動制御部9a、直径測定センサ16、放射温度計17は、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0030】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径305mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。
即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば460kg)を装填し、コントローラ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0031】
先ず、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされる。例えば、炉内圧65torr、アルゴンガス流量90l/minの炉内雰囲気が形成される。
そして、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で所定方向に回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、ヒータ4による加熱によって溶融され、シリコン融液Mとされる(
図3のステップS1)。
【0032】
また、ヒータ4への初期供給電力や、引き上げ速度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、種結晶Pが軸回りに所定の回転速度で回転開始される。回転方向はルツボ3の回転方向とは逆方向になされる。そして、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pがシリコン融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部P1が形成される(
図3のステップS2)。
【0033】
そして、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成される(
図3のステップS3)。
また、コントローラ11は、昇降駆動制御部15aにより昇降駆動部15を駆動制御し、引上げ速度を例えば0.55mm/minに一定とし(
図3のステップS4)、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(
図3のステップS5)。
【0034】
また、コントローラ11は、直径測定センサ16により検出した固液界面における結晶端の位置変化を結晶径として換算するとともに、放射温度計17により検出される輻射シールド7内周面の温度を取得し(
図3のステップS6)、結晶径の値が目標の範囲から外れた場合には(
図3のステップS7)、結晶径の測定値が目標範囲に収まるように、ヒータ4へ出力する供給電力量をPID制御により決定し、ヒータ制御部4aを動作制御する(
図3のステップS8)。
【0035】
例えば、測定した結晶径の値が、目標範囲よりも小さい場合には、ヒータ4による加熱温度を低くするために、輻射シールド7の内周面の温度を入力として、PID制御によりヒータ制御部4aによる供給電力量がより小さい値に決定される。反対に、測定した結晶径の値が、目標範囲よりも大きい場合には、ヒータ4による加熱温度を高くするために、輻射シールド7の内周面の温度を入力として、PID制御によりヒータ制御部4aによる供給電力量がより大きい値に決定される。ここで、ヒータ制御部4aは、まず始めに供給電力量に応じて一時的に所定時間・高電圧のパルス性の電圧を印加する。その後に、決定された供給電力量に応じた電圧を印加する。このようにすることで、短時間でシリコン融液Mの温度を上げることが可能となり、温度制御性を良好とすることができる。
【0036】
また、放射温度計17により検出される温度は、輻射シールド7内周面の温度であり、厳密には固液界面の温度ではない。しかしながら、固液界面の温度を放射温度計により直接測定した場合には、シリコン融液Mの映り込みや迷光の影響が測定値に反映される。本発明の構成のように輻射シールド7の内周面、より具体的には、テラス部7cにおけるテーパ部7b下端近傍の温度を測定することにより、シリコン融液Mの映り込みや迷光の影響を受けにくくすることで、単結晶の引き上げ工程の間、安定した温度測定を行うことができる。また、この測定温度と、測定した結晶径とを入力値としたPID制御により、ヒータ制御部4aによるヒータ4への供給電力にフィードバックすることで、結晶径のばらつきを抑制することが可能となる。
【0037】
所定の長さまで直胴部C2が形成されると(
図3のステップS9)、最終のテール部工程に移行する(
図3のステップS10)。このテール部工程においては、結晶下端とシリコン融液Mとの接触面積が徐々に小さくなり、単結晶Cとシリコン融液Mとが切り離され、シリコン単結晶が製造される。
【0038】
以上のように、本実施の形態によれば、単結晶の直胴部C2の引上げにおいて、引上げ速度を一定とし、育成する単結晶Cの直径を直径測定センサ16により測定するとともに、輻射シールド7の内周面側の温度を放射温度計17により測定する。そして、測定した結晶径と測定温度とを入力として、PID制御により目標とする結晶径とするための固液界面温度を決定し、ヒータ4へ出力する供給電力量を制御する。
ここで、放射温度計17は、輻射シールド7のテラス部7cにおけるテーパ部7b下端近傍の温度を測定するため、シリコン融液Mの映り込みや迷光の影響を受けず、単結晶の引き上げ工程の間、安定した温度測定を行うことができる。また、始めに一時的に所定時間・高電圧のパルス性の電圧を印加することにより、ヒータ出力の変動に対する固液界面の温度変化のタイムラグを小さくすることができる。
その結果、単結晶の直径目標値に対するばらつきを抑制することができる。
【0039】
尚、上記実施の形態においては、放射温度計17により輻射シールド7のテラス部7c上面におけるテーパ部7b下端近傍の温度を測定するものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。例えば、放射温度計17によりテラス部7c上面のどの部位の温度を測定してもよく、或いは、テラス部7c上面に限定せず、テーパ部7bの内周面のいずれの部位の温度を測定してもよい(即ち、輻射シールド7の内周面側の温度を測定するものであればよい)。
また、上記実施の形態において引上げ速度は一定としてあるが、引上げ速度について一定とせずに変動させても良い。
【実施例0040】
本発明に係る単結晶引上装置及び単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0041】
(実施例1)
実施例1では、直径32インチの石英ルツボ内にシリコン原料を充填して溶融した。また、引き上げ速度を直胴部形成中は0.6mm/minで一定とし、結晶回転数7rpm、ルツボ回転数1rpmで7本のP型単結晶を連続して引き上げた。
結晶径の目標値は305mmとし、
図1に示した構成で、単結晶の直径を測定し、放射温度計により輻射シールド内周側(テラス部におけるテーパ部下端近傍)の温度を測定した。放射温度計の放射率は、事前に行った輻射シールドの伝熱シミュレーションの結果に基づき設定した。直胴部の育成中において、輻射シールド内周側の測定温度と、測定した結晶径とを入力として、PID制御を行い、測定した結晶径が目標範囲から外れた場合に、ヒータ出力を変更した。
【0042】
図4のグラフに、温度測定結果に対する直径変動を示す。
図4のグラフにおいて、横軸は測定した輻射シールド内周側の温度(℃)であり、縦軸は測定した結晶径(mm)である。このグラフに示すように直径変動は±1mm以内に収めることができた。
また、引き上げた単結晶の評価として、Seccoエッチングによる欠陥有無検査を行った。微小ボイドとして19nm以上のLPD(Light Point Defect)を観察した。
表1に示すように、実施例1では、結晶の全長に対して95%の無欠陥結晶が得られた。また、単結晶の直径の発散、ハンチングは発生しなかった。
【0043】
【0044】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に直径32インチの石英ルツボ内にシリコン原料を充填して溶融した。また、引き上げ速度を直胴部形成中は0.6mm/minで一定とし、結晶回転数7rpm、ルツボ回転数1rpmで7本のP型単結晶を連続して引き上げた。
結晶径の目標値は310mmとし、実施例1と同様の構成で、単結晶の直径を測定した。また、放射温度計によりヒータの周囲に位置するヒータ部材の温度を測定した。直胴部の育成中において、ヒータ部材の測定温度と、測定した結晶径とを入力として、PID制御を行い、測定した結晶径が目標範囲から外れた場合に、ヒータ出力を変更した。
【0045】
図5のグラフに、温度測定結果に対する直径変動を示す。
図5のグラフにおいて、横軸は測定したヒータ部材の温度(℃)であり、縦軸は測定した結晶径(mm)である。このグラフに示すように直径変動は±5mmと大きい幅となった。
また、引き上げた単結晶の評価として、Seccoエッチングによる欠陥有無検査を行った。微小ボイドとして19nm以上のLPD(Light Point Defect)を観察した。
表1に示すように、比較例1では、結晶の全長に対して80%の無欠陥結晶が得られたが、実施例1より低い取得率となった。また、単結晶の直径の発散、ハンチングが3回発生した。
【0046】
以上の実施例の結果から、本発明によれば、単結晶の直径のばらつきを小さく抑えることができることを確認した。