(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081195
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230602BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194945
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 惇弘
(72)【発明者】
【氏名】横山 隆
(72)【発明者】
【氏名】末若 良太
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EJ02
4G077HA12
4G077PA06
4G077PF35
4G077PF42
(57)【要約】
【課題】結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の単結晶を製造することができる単結晶の製造方法を提案する。
【解決手段】磁場中立面の磁場中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、単結晶の原料の融液を収容する坩堝に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法により、単結晶の原料の融液を収容する坩堝に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造方法において、
磁場中立面の磁場中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、前記融液に対して前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げることを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記水平磁場の印加は、4個以上のコイルであって、前記4個以上のコイルの少なくとも1つのコイルの幅に対する高さの比が1を超えている、コイルと、前記4個以上のコイルの各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部とを備える磁石を用いて行う、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記コイルが矩形環状である、請求項2に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記コイルの高さが600mm以上である、請求項2または3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記単結晶はシリコン単結晶である、請求項1~4のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの基板としては、シリコンなどの半導体の単結晶で構成されたものが使用されている。こうした半導体の単結晶を製造する代表的な方法として、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法を挙げることができる。CZ法は、坩堝に半導体の原料を収容して溶融し、溶融した単結晶の原料に種結晶を着液して引き上げることによって、種結晶の下方に単結晶を育成して製造する方法である。
【0003】
上記単結晶の原料が収容される坩堝としては、一般に石英製のものが使用されている。そのため、坩堝に収容された単結晶の原料融液が速く対流すると、石英製の坩堝に含まれる酸素の溶解量が増加し、単結晶の酸素濃度が高くなる。そこで、坩堝内の原料融液に水平磁場を印加して原料融液の対流を抑制しながら単結晶を引き上げることによって、単結晶の酸素濃度を制御することが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図1は、水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示している。この図に示した単結晶の製造装置100は、チャンバー11内に、単結晶(例えば、シリコン)16の原料(例えば、多結晶シリコン)を収容する坩堝12と、該坩堝12内の原料を加熱して原料融液13とするヒーター14と、坩堝12の下部に設けられ、坩堝12を円周方向に回転させる坩堝回転機構15と、単結晶16を育成するための種結晶17を保持する種結晶保持器18と、該種結晶保持器18が先端に取り付けられているワイヤーロープ19と、該ワイヤーロープ19を回転させながら単結晶16、種結晶17および種結晶保持器18を回転させつつ引き上げる巻取り機構20と、を備える。また、チャンバー11の下部外側には、坩堝12中のシリコン融液13に水平磁場(横磁場)を印加する複数のコイル22を有する磁石21が配置されている。
【0005】
このような単結晶の製造装置10を用いて、以下のように単結晶16を製造することができる。すなわち、まず、坩堝12中に所定量の単結晶の原料を収容し、ヒーター14で加熱して原料融液13とするとともに、磁石21により、原料融液13に対して所定の水平磁場を印加する。
【0006】
次に、原料融液13に対して水平磁場を印加した状態で、種結晶保持器18に保持された種結晶17を原料融液13に浸漬する。そして、坩堝回転機構15により坩堝12を所定の回転速度で回転させるとともに、種結晶17(すなわち単結晶16)を所定の回転速度で回転させながら巻き取り機構20で巻き取って、種結晶17および該種結晶17下に成長させた単結晶16を引き上げる。こうして、所定の直径を有する単結晶を製造することができる。
【0007】
ところで近年、半導体デバイスの微細化および高集積化に伴い、基板であるシリコンウェーハなどの半導体ウェーハには、grown-in欠陥がないこと、すなわち無欠陥であることが要求されている。grown-in欠陥は、空孔が凝集して形成されるボイド欠陥や、格子間原子が析出する格子間型転位クラスターなどを指し、製造された半導体ウェーハ中に残留して、半導体デバイスにおけるゲート酸化膜の劣化やリーク電流の原因となり得る。
【0008】
結晶中の空孔および格子間原子の挙動は、ボロンコフのモデルによって説明されており、固液界面近傍での単結晶インゴットの引き上げ方向の温度勾配Gに対する結晶の引き上げ速度vの比v/Gの値が臨界値(以下、「臨界v/G」とも言う。)よりも大きい場合には空孔優勢、臨界v/Gよりも小さい場合には格子間原子優勢となる(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】V.V.Voronkov,J.Crystal Growth,59,625(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記v/Gの値が臨界v/Gである場合には、無欠陥の単結晶が得られる。一般に、無欠陥の単結晶となる引き上げ速度vの幅(マージン)は極めて狭く、例えば臨界v/Gの±2%以内に制御する必要である。しかしながら、単結晶の引き上げ中、結晶の引き上げ速度vは、固液界面の温度の変動などによって変動し、結果としてv/Gの値が上記条件から外れて無欠陥の単結晶が得られない場合がある。
【0012】
また、原料融液に水平磁場を印加することにより、製造した単結晶に含まれる酸素濃度を大きく低減することができる。しかし、結晶引き上げ方向(すなわち、単結晶の軸方向)の酸素濃度が変動する問題がある。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の単結晶を製造することができる単結晶の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]チョクラルスキー法により、単結晶の原料の融液を収容する坩堝に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造方法において、
磁場中立面の磁場中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、前記融液に対して前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げることを特徴とする単結晶の製造方法。
【0015】
[2]前記水平磁場の印加は、4個以上のコイルであって、前記4個以上のコイルの少なくとも1つのコイルの幅に対する高さの比が1を超えている、コイルと、前記4個以上のコイルの各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部とを備える磁石を用いて行う、前記[1]に記載の単結晶の製造方法。
【0016】
[3]前記コイルが矩形環状である、前記[2]に記載の単結晶の製造方法。
【0017】
[4]前記コイルの高さが600mm以上である、前記[2]または[3]に記載の単結晶の製造方法。
【0018】
[5]前記単結晶はシリコン単結晶である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶の引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示す図である。
【
図2】本発明において磁束密度を制御する位置を説明する図であり、(a)は坩堝の上面図、(b)は坩堝の側面図である。
【
図3】本発明に用いることができる単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの好適な一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は下面図である。
【
図5】(a)に示したボビン型コイルの配置、および(b)に示した縦型矩形コイルの配置について、(c)x方向の磁束密度、(d)z方向の磁束密度を示す図である。
【
図6】(a)に示したボビン型コイルの配置、および(b)に示した縦型矩形コイルの配置について、(c)x方向の磁束密度、(d)z方向の磁束密度を示す図である。
【
図7】シリコン単結晶の軸方向の酸素濃度の変動を示す図であり、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。
【
図8】3次元流体シミュレーションによる固液界面の温度の時間変動を示す図であり、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法により、単結晶の原料の融液を収容する坩堝に水平磁場を印加しつつ上記単結晶を引き上げる単結晶の製造方法である。ここで、磁場中立面の磁場中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、上記融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0022】
本発明者らは、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶の引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の単結晶を製造することができる方途について鋭意検討した。その過程で、磁場中立面(磁石21を構成する各コイルの重心を全て含む面)と結晶引き上げ軸との交点である磁場中心Oを原点とした座標系において、特定の位置(点)での磁束密度と、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動および結晶の引き上げ速度の変動と密接に関連していることを見出した。
【0023】
すなわち、磁石21により坩堝12に磁場が印加されており、磁場中立面が原料融液13の表面と同じ位置に配置されている状態で(磁場中心Oは結晶が無い状態では、原料融液13の表面上に位置する。)、
図2(a)および(b)に示すように、磁場中心Oを原点、原点を通り、磁場の方向に平行な軸をy軸、磁場の方向に垂直な軸をx軸とし、原点を通り、磁場中立面に垂直な軸をz軸とする。このとき、本発明者は、結晶引き上げ開始時において、z軸上の坩堝12内側(内面)の点を点Aとしたときに、点Aでの磁束密度が、結晶引き上げ方向の単結晶の酸素濃度の変動に密接に関連していることを見出した。これは、坩堝12の底部での磁束密度が低い場合には、原料融液13の対流を制御するローレンツ力の強度が小さくなり、坩堝12の回転によるせん断力の影響が大きくなって原料融液13の流動分布の変動が大きくなり、これが酸素濃度の変動に影響するためと考えられる。
【0024】
また、本発明者らは、x軸上の坩堝12内側(内面)の点を点Bとしたときに、点Bでの磁束密度が、無欠陥の単結晶を引き上げる際の結晶引き上げ速度の変動に密接に関連していることを見出した。これは、シリコンなどの伝導体の原料融液13に水平磁場が印加されると水平磁場の方向の周りを回るロール状の対流が生じるが、点Bでの磁束密度が高い場合には、上記上昇流および下降流の制動性が高められ、固液界面の温度の変動が抑制されて、結晶引き上げ速度vの変動が抑制されるためと考えられる。
【0025】
このように、本発明者らは、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、無欠陥の単結晶を製造するためには、上記点Aおよび点Bでの磁束密度を所定の範囲に維持しながら行うことが肝要であることを見出したのである。そして、本発明者らは、磁場中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、上記融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることにより、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、無欠陥の単結晶を製造できることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0026】
上述のように、本発明においては、磁場中心Oでの磁束密度をMとした場合に、点Aでの磁束密度を0.58M以上とする。後述する実施例において示すように、点Aでの磁束密度を0.58M以上とするとすることにより、単結晶における結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制することができる。好ましくは、点Aでの磁束密度を0.64M以上とする。これにより、単結晶における結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動をさらに抑制することができる。
【0027】
また、本発明においては、磁場中心Oでの磁束密度をMとした場合に、点Bでの磁束密度を1.47M以上とする。後述する実施例において示すように、点Bでの磁束密度を1.47M以上とするとすることにより、無欠陥の単結晶の結晶引き上げ速度の変動を抑制することができる。好ましくは、点Bでの磁束密度を2.23M以上とする。これにより、無欠陥の単結晶の結晶引き上げ速度の変動をさらに抑制することができる。
【0028】
また、
図2(a)に示すように、点Bと高さが同じであり、y軸上の坩堝12内側(内面)の点C(0mm,400mm,0mm)の磁束密度を点Bの磁束密度よりも小さくすることが好ましい。これにより、原料融液13の対流変動をさらに抑制することができる。
【0029】
点Aおよび点Bでの上記磁束密度への制御は、磁石21の構成に依存するものの、コイルを適切な位置に配置し、コイルに印加する電流の大きさおよび向きを調整することにより行うことができる。従来、磁石21を構成するコイル22としては、環状(ボビン型)のものが広く使用されてきた(例えば、特開2009-173536号公報参照)。
【0030】
ボビン型のコイルを適切な位置に配置し、コイルに印加する電流の大きさおよび向きを調整することにより、上記点Aおよび点Bでの磁束密度の制御を行うことができる。しかし、装置構成上の制約によって、コイルを配置する位置が制限される場合がある。その場合、ボビン型コイルであると、位置の制約を緩和するためには、コイルの幅、すなわち直径を小さくする必要がある。
【0031】
しかし、ボビン型コイルの直径を小さくすると、同時にコイルの高さも小さくなるため、坩堝12に収容された原料融液13への高さ方向の磁場印加に影響を与えてしまう。このように、磁石21を構成するコイル22がボビン型である場合、原料融液13に印加する磁場分布の設計の自由度が低い問題がある。
【0032】
本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した結果、磁石を構成するコイルを、その幅に対する高さの比が1を超えるように構成する、つまり縦型とすることに想到した。これにより、装置構成の制約によってコイルの配置が制限される場合にも、コイルの高さを変更せずに、コイルの幅のみを小さくすることで対処できる。このように、磁石を縦型のコイルで構成することにより、ボビン型コイルに比べて磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0033】
図3は、本発明による単結晶の製造方法に用いることができる単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの好適な一例を示しており、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は下面図をそれぞれ示している。
図3に示したコイル2は、その幅に対する高さの比が1を超えるように、すなわち縦型に構成されている。より具体的には、磁石1を構成するコイル2は、矩形環状であり、鉛直方向に延びる長手部材である2つの第1の部分3と、水平方向に延びる短手部材である2つの第2の部分4と、第1の部分3と第2の部分4とを接続する4個の接続部分5とを有する。
【0034】
上記コイル2において、第1の部分3の高さHiは、第2の部分4の長さWiよりも大きく構成されている。これにより、コイル2の高さについても、幅よりも大きくなり、幅に対する高さの比が1を超えている。なお、本発明において、「コイルの高さ」は、環状のコイルの開口部2aの上下方向(鉛直方向)の最も長い部分の長さ(
図3においては、第1の部分3の高さHi)を意味し、「コイルの幅」は、水平方向の開口部2aの最も長い部分の長さ(
図3においては、第2の部分4の長さWi)を意味する。なお、コイル2が
図3(d)に示すように外面2b側に湾曲している場合、コイル2の幅は、コイル2の内面2cに沿った長さである。
【0035】
上記磁石を構成するコイル2は、
図3に示したような矩形が好ましいが、それに限定されず、例えば楕円形とすることもできる。また、コイル2の全てが縦型であることが好ましく、また同じ形状であることが好ましい。これにより、対称性の高い磁場分布を形成することができる。
【0036】
このような構成を有するコイル2により、装置構成の制約によってコイル2の配置が制限される場合であっても、コイル2の高さを小さくせず、コイル2の幅のみを小さくすることができる。これにより、原料融液13への高さ方向の磁場印加への影響を抑制して、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0037】
上記コイル2の高さHiは、600mm以上とすることが好ましい。これにより、直径300mm以上(例えば、φ300mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径301~340mm、φ450mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径451~500mm)の単結晶を製造する際に、坩堝12に収容された溶融原料13に対して水平磁場を良好に印加することができる。また、コイル2の高さHiは、φ300mmウェーハ用のシリコン単結晶を製造する場合には750~1000mm、φ450mmウェーハ用のシリコン単結晶を製造する場合には1125~1500mmとすることがより好ましい。
【0038】
なお、コイル2は、
図3(d)に示すように、第2の部分4がコイル2の外面2b側に湾曲していることが好ましい。これにより、コイル2をチャンバー11の外壁に沿って配置することができ、コイル2の配置に必要なスペースを節約して磁石1全体をコンパクトにすることができるが、第2の部分4を直線状に構成して平坦なコイル2としてもよい。
【0039】
コイル2の外形の幅Wo(すなわち、第2の部分4+2つの接続部分5の長さ)は、磁石1の円周Lの1/4以下とし、磁石1の円周Lの1/6以下であることがより好ましく、1/8以下であることがさらに好ましく、1/12以下であることが最も好ましい。コイル2の外形の幅Woを磁石の円周Lに対して小さくすることにより、より多くのコイル2を配置して、コイル2間の粗密の自由度を高めて、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0040】
なお、コイル2が
図3(d)に示すように外面2b側に湾曲している場合、コイル2の外形の幅Woは、
図3(d)に示すように、コイル2の内面2cに沿った長さである。コイル2の外形の幅Woを磁石の円周Lに対して小さくすることにより、より多くのコイル2を配置して、コイル2間の粗密の自由度を高めて、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。また、「磁石の円周」は、コイル2がその外面2b側に湾曲しており、かつ4個以上のコイル2の内面2cが円を構成する場合には、磁石1を上面視した際に、コイル2の内面2cで構成される円の円周の長さを指す。また、コイル2が平坦であるか、コイル2の内面2cが円を構成しない場合には、「磁石の円周」は、磁石1を上面視した際に、コイル2の内面2cの中心(内面2cに対応する線分の中点)で構成される円(4個の中点を通る円)の円周の長さを指す。
【0041】
上記コイル2の幅Woと磁石1の円周Lとの関係に関連して、コイル2の個数は、4個以上とし、その少なくとも1つを縦型とすることが好ましい。コイル2の個数を4個以上とすることにより、坩堝12に収容された原料融液13に印加する磁場分布の設計の十分な自由度を確保することができる。コイル2の個数は2の倍数とすることが好ましい。コイル2の個数を2の倍数とすることにより、コイル2を高い対称性で配置することができる。コイル2の個数は6個以上であることがより好ましく、8個であることがさらに好ましく、12個であることが最も好ましい。また、コイル2の個数は、40個以下が好ましい。これにより、磁場設計が複雑になるのを回避しつつ磁場設計を高い自由度で行うことができ、また磁石1のコストを抑制することができる。さらに、コイル2は、全てのコイル2の重心が同じ高さに位置するように配置し、磁場中立面を水平面とすることが好ましい。
【0042】
コイル2は、
図3に示した環状の支持体を用意し、
図3(b)に示すように平面視した際に、支持体の外形を画定する外周面2d、または支持体の開口部を画定する内周面2eに凹部を設け、巻線を上記凹部に収容して巻き回して構成することができる。また、コイル2は、支持体を設けずに、
図3に示した形状に巻き回して樹脂で固めて構成することもできる。
【0043】
また、巻線を支持体の外周面2dまたは内周面2eに巻き回す場合、コイル2を構成する接続部分5の外周面2dまたは内周面2eは、コイル2を構成する巻線を円滑に巻き回せるように、その角部がアール(丸み)を有していることが好ましい。また、巻線を支持体に巻き回さない場合、接続部分5に対応する部分では、アールを付けて巻き回すことが好ましい。
【0044】
また、上記のコイル2を用いて所望とする磁場分布を実現するためには、上記4個以上の各コイルに流れる電流値を独立して制御できる制御システムとし、互いに独立して磁場を発生させることができるように構成することも必要である。
【0045】
4個以上のコイル2は、磁石1を上面視した際に、磁石1の中心を通り鉛直方向に延びる軸に対して垂直な軸に対して、対称に配置されていることが好ましい。これにより、対称性を有する磁場分布を形成することができる。
【0046】
4個以上のコイルについて、コイル角度θを90°以上とし、原料融液13の表面と磁場中立面とを一致させて単結晶を引き上げることにより、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶の引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の単結晶を製造することができる。なお、コイル角度θは、
図4に示すように、磁場中心の磁束線を挟む2つのコイル2間の角度である。
【0047】
図5は、(a)に示したボビン型コイルの配置、および(b)に示した縦型矩形コイルの配置について、(c)x方向の磁束密度、(d)z方向(鉛直上下方向)の磁束密度を示している。なお、
図5(a)および
図5(b)における円は、チャンバー11を示しているが、コイル22、2とチャンバー11とが接していることに技術的に意味はない。
図5(d)に示すように、
図5(a)に示したボビン型コイルおよび
図5(b)に示した縦型矩形コイルのいずれについても、点Aでの磁束密度を0.58M以上とすることはできる。しかしながら、
図5(c)に示すように、
図5(b)に示した縦型矩形コイルについては、点Bでの磁束密度を2.23M以上とできるものの、
図5(a)に示したボビン型コイルについてはできない。
【0048】
図6は、(a)に示したボビン型コイルの配置、および(b)に示した縦型矩形コイルの配置について、(c)x方向の磁束密度、(d)z方向(鉛直上下方向)の磁束密度を示している。
図6(c)に示すように、
図6(a)に示したボビン型コイルおよび
図6(b)に示した縦型矩形コイルのいずれについても、点Bでの磁束密度を2.23M以上とすることはできる。しかしながら、
図6(d)に示すように、
図6(b)に示した縦型矩形コイルについては、点Aでの磁束密度を0.58M以上とできるものの、
図6(a)に示したボビン型コイルについてはできない。
【0049】
このように、ボビン型コイルでは、本発明による点Aおよび点Bでの磁束密度を実現できない一方、縦型矩形コイルを用いることにより、本発明による点Aおよび点Bでの磁束密度を実現できる。しかし、本発明に用いる単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの形状は、縦型矩形コイルに限定されず、上記点Aおよび点Bでの磁束密度の要件を満たす磁場分布を発生できるものであれば、どのようなコイルでもよい。
【0050】
本発明により製造する単結晶は、CZ法により製造できるものであれば特に限定されないが、酸素濃度の変動が小さなシリコンの単結晶を好適に製造することができる。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0052】
(発明例1)
図3に示した縦型の矩形環状コイルを有する磁石を備える単結晶の製造装置を用いて、直径310mmのシリコン単結晶の製造を行った。矩形環状型コイルは、磁場中立面の高さを
図2(b)における点Aと同一なるように構成し、4個のコイルをコイル角度60°で配置した。なお、各コイルは縦型であり同じ形状とし、磁場中立面は水平面となるように構成した。そして、コイルに流す電流の大きさおよび向きを調整して、点Aでの磁束密度が0.58M、点Bでの磁束密度が1.43Mとなる磁場分布を発生させた。このような状態で坩堝に収容したシリコン原料である多結晶シリコンを溶融して種結晶を溶融シリコンに着液して引き上げ、種結晶の下方にシリコン単結晶を育成した。
【0053】
(発明例2)
発明例1と同様に、シリコン単結晶を製造した。ただし、磁場中立面の点Aに対する高さを変更して、点Aでの磁束密度を磁場中心Oの磁束密度Mの0.64倍、点Bでの磁束密度を2.23倍とした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0054】
(比較例)
発明例1と同様に、シリコン単結晶を製造した。ただし、磁場中立面の点Aに対する高さを変更して、点Aでの磁束密度を磁場中心Oの磁束密度Mの0.53倍、点Bでの磁束密度を1.03倍とした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0055】
<単結晶の軸方向の酸素濃度>
図7は、シリコン単結晶の軸方向の酸素濃度の変動を示しており、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。なお、
図7において、単結晶の軸方向の位置および酸素濃度は、それぞれ所定の値で規格化されたものである。
図7(a)に示した比較例については、単結晶軸方向の酸素濃度の変動が大きく、規定の酸素濃度範囲に入っていなかった。一方、
図7(b)および(c)に示した発明例1および発明例2については、比較例と比べて酸素濃度の変動は低減され、特に発明例2については、酸素濃度の変動は、比較例と比べて1/5程度まで減少した。
【0056】
図8は、3次元流体シミュレーションによる固液界面の温度の時間変動を示しており、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。なお、
図8において、時間および固液界面の温度は、それぞれ所定の値で規格化されたものである。
図8(a)に示した比較例については、固液界面の温度の時間変動が大きく、この温度の変動により、結晶引き上げ速度の変動が大きく、無欠陥のシリコン単結晶が得られないことが分かった。一方、
図8(b)および(c)に示した発明例1および発明例2については、比較例と比べて固液界面の温度の時間変動は低減されて結晶引き上げ速度の変動は小さく、いずれも無欠陥のシリコン単結晶が得られることが分かった。特に発明例2については、固液界面の温度の時間変動は、比較例と比べて1/50程度まで減少した。
本発明によれば、結晶引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制しつつ、結晶の引き上げ速度の変動を抑制して無欠陥の半導体用シリコン単結晶製造することができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。