IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社SUMCOの特許一覧

特開2023-81196単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法
<>
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図1
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図2
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図3
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図4
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図5
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図6
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図7
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図8
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図9
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図10
  • 特開-単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081196
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20230602BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194947
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 惇弘
(72)【発明者】
【氏名】末若 良太
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG25
4G077EJ02
4G077HA12
4G077PA06
4G077RA03
(57)【要約】
【課題】単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置が制限される場合であっても、磁場分布の設計の自由度を高めることができる単結晶の製造装置用磁石を提供する。
【解決手段】坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において上記水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石1であって、4個以上のコイル2であって、上記記4個以上のコイル2の少なくとも1個のコイル2の幅Wiに対する高さHiの比が1を超えている、コイル2と、上記4個以上のコイル2の各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において前記水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石であって、
4個以上のコイルであって、前記4個以上のコイルの少なくとも1個のコイルの幅に対する高さの比が1を超えている、コイルと、
前記4個以上のコイルの各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部と、
を備えることを特徴とする単結晶の製造装置用磁石。
【請求項2】
前記コイルが矩形環状である、請求項1に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【請求項3】
前記高さが600mm以上である、請求項1または2に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【請求項4】
磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる、請求項1~3のいずれか一項に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【請求項5】
単結晶の原料の融液を収容する坩堝と、該坩堝の周囲に配置された、請求項1~4のいずれか一項に記載された磁石を備え、前記磁石によって前記融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載された単結晶の製造装置を用い、チョクラルスキー法により単結晶を製造する方法であって、
磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、前記磁石により前記融液に対して前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げる、単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記単結晶はシリコン単結晶である、請求項6に記載の単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶の製造装置用磁石、単結晶の製造装置および単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの基板としては、シリコンなどの半導体の単結晶で構成されたものが使用されている。こうした半導体の単結晶を製造する代表的な方法として、チョクラルスキー(Czochralski、CZ)法を挙げることができる。CZ法は、坩堝に半導体の原料を収容して溶融し、溶融した単結晶の原料に種結晶を着液して引き上げることによって、種結晶の下方に単結晶を育成して製造する方法である。
【0003】
上記単結晶の原料が収容される坩堝としては、一般に石英製のものが使用されている。そのため、坩堝に収容された単結晶の原料融液が速く対流すると、石英製の坩堝に含まれる酸素の溶解量が増加し、単結晶の酸素濃度が高くなる。そこで、坩堝内の原料融液に水平磁場を印加して原料融液の対流を抑制しながら単結晶を引き上げることによって、単結晶の酸素濃度を制御することが行われている。
【0004】
図1は、水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示している。この図に示した単結晶の製造装置100は、チャンバー11内に、単結晶(例えば、シリコン)16の原料(例えば、多結晶シリコン)を収容する坩堝12と、該坩堝12内の原料を加熱して原料融液13とするヒーター14と、坩堝12の下部に設けられ、坩堝12を円周方向に回転させる坩堝回転機構15と、単結晶16を育成するための種結晶17を保持する種結晶保持器18と、該種結晶保持器18が先端に取り付けられているワイヤーロープ19と、該ワイヤーロープ19を回転させながら単結晶16、種結晶17および種結晶保持器18を回転させつつ引き上げる巻取り機構20と、を備える。また、チャンバー11の下部外側には、坩堝12中のシリコン融液13に水平磁場(横磁場)を印加する複数のコイル22を有する磁石21が配置されている。
【0005】
このような単結晶の製造装置10を用いて、以下のように単結晶16を製造することができる。すなわち、まず、坩堝12中に所定量の単結晶の原料を収容し、ヒーター14で加熱して原料融液13とするとともに、磁石21により、原料融液13に対して所定の水平磁場を印加する。
【0006】
次に、原料融液13に対して水平磁場を印加した状態で、種結晶保持器18に保持された種結晶17を原料融液13に浸漬する。そして、坩堝回転機構15により坩堝12を所定の回転速度で回転させるとともに、種結晶17(すなわち単結晶16)を所定の回転速度で回転させながら巻き取り機構20で巻き取って、種結晶17および該種結晶17下に成長させた単結晶16を引き上げる。こうして、所定の直径を有する単結晶を製造することができる。
【0007】
上記磁石21を構成するコイル22としては、環状(ボビン型)のものが広く使用されてきた。例えば、特許文献1には、点対称に配置された偶数個の環状のコイルを備える磁場印加手段によって、半導体融液の表面から所定の高さ位置に磁場の集束密度が最大となる面(MGP)が位置するように磁場を形成し、坩堝内の所定の位置の半導体融液に所定の強度の磁場を印加することにより、高品質の半導体単結晶インゴットを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-173536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原料融液13に印加する磁場の分布は、コイルを適切な位置に配置することよって設計することができるが、装置構成上の制約によって、コイルを配置する位置が制限される場合がある。その場合、コイルが特許文献1に記載されたような環状であると、所望とする磁場分布を実現するために、コイルの幅、すなわち直径を小さくする必要がある。
【0010】
しかし、環状コイルの直径を小さくすると、同時にコイルの高さも小さくなるため、坩堝12に収容された原料融液13への高さ方向の磁場印加に影響を与えてしまう。このように、磁石21を構成するコイル22が環状である場合、原料融液13に印加する磁場分布の設計の自由度が低い問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置が制限される場合であっても、磁場分布の設計の自由度を高めることができる単結晶の製造装置用磁石を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において前記水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石であって、
4個以上のコイルであって、前記4個以上のコイルの少なくとも1個のコイルの幅に対する高さの比が1を超えている、コイルと、
前記4個以上のコイルの各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部と、
を備えることを特徴とする単結晶の製造装置用磁石。
【0013】
[2]前記コイルが矩形環状である、上記[1]に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【0014】
[3]前記高さが600mm以上である、上記[1]または[2]に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【0015】
[4]磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の単結晶の製造装置用磁石。
【0016】
[5]単結晶の原料の融液を収容する坩堝と、該坩堝の周囲に配置された、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載された磁石を備え、前記磁石によって前記融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置。
【0017】
[6]上記[5]に記載された単結晶の製造装置を用い、チョクラルスキー法により単結晶を製造する方法であって、
磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、前記磁石により前記融液に対して前記水平磁場を印加して単結晶を引き上げる、単結晶の製造方法。
【0018】
[7]前記単結晶はシリコン単結晶である、上記[6]に記載の単結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置が制限される場合であっても、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】水平磁場印加方式の単結晶の製造装置の一例を示す図である。
図2】本発明による磁石を構成するコイルの好適な一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は下面図である。
図3】磁石を構成する複数のコイルの配置例であり、(a)はコイルが4個、(b)はコイルが12個の場合に関するものである。
図4図3(a)に示したコイルの配置関係とコイルで囲まれた領域の磁束密度との関係を説明する図である。
図5】D<Dの場合に対するコイルで囲まれた領域の磁束密度を示す図であり、(b)はx軸方向、(c)はy軸方向にそれぞれ沿った磁束密度である。
図6】D>Dの場合に対するコイルで囲まれた領域の磁束密度を示す図であり、(b)はx軸方向、(c)はy軸方向にそれぞれ沿った磁束密度である。
図7図3(a)に示したコイルの出力関係とコイルで囲まれた領域の磁束密度との関係を説明する図であり、(b)はx軸方向、(c)はy軸方向にそれぞれ沿った磁束密度である。
図8】本発明による単結晶の製造装置の一例を示す図である。
図9】磁場中立面の中心O、点Bおよび点Cの位置を説明する図であり、(a)は坩堝を上方から見た図、(b)は坩堝を側方から見た図である。
図10】シリコン単結晶の軸方向の酸素濃度の変動を示す図であり、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。
図11】3次元流体シミュレーションによる固液界面の温度の時間変動を示す図であり、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による単結晶の製造装置用磁石は、坩堝に収容された単結晶の原料の融液に水平磁場を印加しつつ単結晶を引き上げる単結晶の製造装置において、水平磁場を印加するための単結晶の製造装置用磁石である。ここで、4個以上のコイルであって、上記4個以上のコイルの少なくとも1個のコイルの幅に対する高さの比が1を超えている、コイルと、上記4個以上のコイルの各々に対して、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部とを備えることを特徴とする。
【0022】
上述のように、単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置に制限がある場合、コイルがボビン型であると、坩堝内の原料融液に印加する磁場分布の設計の自由度が低い問題がある。本発明者らは、上記課題を解決する方途について鋭意検討した結果、磁石を構成するコイルを、その幅に対する高さの比が1を超えるように構成する、つまり縦型とすることに想到した。
【0023】
すなわち、コイルを縦型とすることにより、装置構成の制約によってコイルの配置が制限される場合には、コイルの高さを変更せずに、コイルの幅のみを小さくすることで対処することが可能となる。その結果、所望とする磁場分布を実現するようにコイル間の角度を調整する際に、原料融液への高さ方向の磁場印加への影響を抑制することができ、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0024】
ただし、本発明者らがさらに検討を進めた結果、単にコイルを縦型としただけでは、所望とする磁場分布を実現するには不十分であり、磁石が4個以上のコイルを備えて1個以上を縦型とし、かつ上記4個以上のコイルの各々が、互いに独立して磁場を発生させることができる制御部を設けることが肝要であることを見出し、本発明を完成させたのである。
【0025】
上記説明から明らかなように、本発明の単結晶の製造装置用の磁石は、その形状およびコイルを独立して磁場を発生させることができる制御部に特徴を有するものであり、その他の構成は限定されず、従来公知のものを適切に使用することができる。以下、本発明による磁石を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0026】
図2は、本発明による単結晶の製造装置用の磁石を構成するコイルの好適な一例を示しており、(a)は全体図、(b)は正面図、(c)は側面図、(d)は下面図をそれぞれ示している。図2に示したコイル2は、その幅に対する高さの比が1を超えるように、すなわち縦型に構成されている。より具体的には、本発明による磁石1を構成するコイル2は、矩形環状であり、鉛直方向に延びる長手部材である2つの第1の部分3と、水平方向に延びる短手部材である2つの第2の部分4と、第1の部分3と第2の部分4とを接続する4つの接続部分5とを有する。
【0027】
上記コイル2において、第1の部分3の長さHiは、第2の部分4の長さWiよりも大きく構成されている。これにより、コイル2の高さについても、幅よりも大きくなり、幅に対する高さの比が1を超えている。なお、本発明において、「コイルの高さ」は、環状のコイルの開口部2aの上下方向(鉛直方向)の最も長い部分の長さ(図2においては、第1の部分3の長さHi)を意味し、「コイルの幅」は、開口部2aの水平方向の最も長い部分の長さ(図2においては、第2の部分4の長さWi)を意味する。なお、コイル2が図2(d)に示すように外面2b側に湾曲している場合、コイル2の幅は、コイル2の内面2cに沿った長さである。
【0028】
本発明による磁石1を構成するコイル2は、図2に示したような矩形が好ましいが、それに限定されず、例えば楕円形とすることもできる。また、コイル2の全てが縦型であることが好ましく、また同じ形状であることが好ましい。これにより、対称性の高い磁場分布を形成することができる。
【0029】
このような構成を有するコイル2により、装置構成の制約によってコイル2の配置が制限される場合であっても、コイル2の高さを小さくせず、コイル2の幅のみを小さくすることができ、原料融液13への高さ方向の磁場印加への影響を抑制して、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0030】
上記コイル2の高さは、600mm以上とすることが好ましい。これにより、直径300mm以上(例えば、φ300mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径301~340mm、φ450mmウェーハ用のシリコン単結晶の場合には直径451~500mm)の単結晶を製造する際に、坩堝12に収容された溶融原料13に対して水平磁場を良好に印加することができる。また、コイル2の高さは、φ300mmウェーハ用のシリコン単結晶を製造する場合には750~1000mm、φ450mmウェーハ用のシリコン単結晶を製造する場合には1125~1500mmとすることがより好ましい。
【0031】
なお、コイル2は、図2(d)に示すように、第2の部分4がコイル2の外面2b側に湾曲していることが好ましい。これにより、コイル2をチャンバー11の外壁に沿って配置することができ、コイル2の配置に必要なスペースを節約して磁石1全体をコンパクトにすることができるが、第2の部分4を直線状に構成して平坦なコイル2としてもよい。
【0032】
コイル2の外形の幅Wo(すなわち、第2の部分4+2つの接続部分5の長さ)は、磁石1の円周Lの1/4以下とし、磁石1の円周Lの1/6以下であることがより好ましく、1/8以下であることがさらに好ましく、1/12以下であることが最も好ましい。コイル2の外形の幅Woを磁石の円周Lに対して小さくすることにより、より多くのコイル2を配置して、コイル2間の粗密の自由度を高めて、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。
【0033】
なお、コイル2が図2(d)に示すように外面2b側に湾曲している場合、コイル2の外形の幅Woは、図2(d)に示すように、コイル2の内面2cに沿った長さである。コイル2の外形の幅Woを磁石の円周Lに対して小さくすることにより、より多くのコイル2を配置して、コイル2間の粗密の自由度を高めて、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。また、「磁石の円周」は、コイル2がその外面2b側に湾曲しており、かつ4個以上のコイル2の内面2cが円を構成する場合には、磁石1を上面視した際に、コイル2の内面2cで構成される円の円周の長さを指す。また、コイル2が平坦であるか、コイル2の内面2cが円を構成しない場合には、「磁石の円周」は、磁石1を上面視した際に、コイル2の内面2cの中心(内面2cに対応する線分の中点)で構成される円(4つの中点を通る円)の円周の長さを指す。
【0034】
上記コイル2の幅Woと磁石1の円周Lとの関係に関連して、コイル2の個数は、4個以上とする。コイル2の個数を4個以上とすることにより、坩堝12に収容された原料融液13に印加する磁場分布の設計の十分な自由度を確保することができる。コイル2の個数は2の倍数とすることが好ましい。コイル2の個数を2の倍数とすることにより、コイル2を高い対称性で配置することができる。コイル2の個数は6個以上であることがより好ましく、8個であることがさらに好ましく、12個であることが最も好ましい。また、コイル2の個数は、40個以下が好ましい。これにより、磁場設計が複雑になるのを回避しつつ磁場設計を高い自由度で行うことができ、また磁石1のコストを抑制することができる。
【0035】
コイル2は、図2に示した環状の支持体を用意し、図2(b)に示すように平面視した際に、支持体の外形を画定する外周面2d、または支持体の開口部を画定する内周面2eに凹部を設け、巻線を上記凹部に収容して巻き回して構成することができる。また、コイル2は、支持体を設けずに、図2に示した形状に巻き回して樹脂で固めて構成することもできる。
【0036】
また、巻線を支持体の外周面2dまたは内周面2eに巻き回す場合、コイル2を構成する接続部分5の外周面2dまたは内周面2eは、コイル2を構成する巻線を円滑に巻き回せるように、その角部がアール(丸み)を有していることが好ましい。また、巻線を支持体に巻き回さない場合、接続部分5に対応する部分では、アールを付けて巻き回すことが好ましい。
【0037】
上述のように、本発明による磁石1は、コイル2を4個以上備えている。そして、4個以上のコイル2の各々は制御部(図示せず)に接続されており、各コイル2の電流値を独立して制御できる。これにより、各コイル2から異なる強さおよび向きの磁場を発生させることができる。
【0038】
複数のコイル2は、磁石1を上面視した際に、磁石1の中心を通り鉛直方向に延びる軸に対して垂直な軸に対して、対称に配置されていることが好ましい。これにより、対称性を有する磁場分布を形成することができる。
【0039】
図3は、本発明による磁石1を構成する複数のコイル2の配置例を示しており、(a)は4個、(b)は12個のコイル2を配置した例をそれぞれ示している。なお、図中における矢印は、水平磁場の方向を示している。
【0040】
例えば、図3(a)に示したように、磁石1が4つのコイル2を備えている場合、図4に示すように、2つのコイル2間の距離D(すなわち、xz面を挟まない2つのコイル2間の距離)およびD(xz面を挟む2つのコイル2間の距離)をそれぞれパラメータとして調整することにより、任意の磁場分布を設定することができる。すなわち、距離Dを短くすると、図4に示した領域Aの磁束密度が上昇する一方、領域Bの磁束密度が低下する。具体的には、図5(a)に示すように、D<Dの場合、磁場中心Oからx軸方向に沿って磁束密度が小さくなる(図5(b))一方、y軸方向に沿って磁束密度が大きくなる(図5(c))。
【0041】
反対に、距離Dを短くすると、図4に示した領域Bの磁束密度が上昇する一方、領域Aの磁束密度が低下する。具体的には、図6(a)に示すように、D>Dの場合、磁場中心Oからx軸方向に沿って磁束密度が大きくなる(図6(b))一方、y軸方向に沿って磁束密度が小さくなる(図6(c))。このように、2つのコイル2間の距離DおよびDをそれぞれパラメータとして、任意の磁場分布を設定することができる。
【0042】
また、図3(b)に示したように、磁石1が12個のコイル2を備えている場合、コイル2の形状、コイル2に流れる電流値、コイル2を構成する巻線の巻き数を変更することによって、任意の磁場分布を設定することができる。
【0043】
具体的には、図7(a)に示すように、12個のコイル2のうち、コイル2、2、2、2、2、2、2、2の出力を相対的に大きくするとともに、コイル2、2、2、2の出力を相対的に小さくすることにより、x軸方向に沿った磁束密度(図7(b))およびy軸方向に沿った磁束密度(図7(c))を調整して、任意の磁場分布を設定することができる。
【0044】
図7(a)に示した12個のコイル2について、制御部は、隣接する6つのコイル2(コイル2、2、2、2、2、2)で構成された第1のコイル群と、残りの隣接する6つのコイル2(コイル2、2、2、2、2、2)で構成された第2のコイル群とで、コイル2に流す電流の向きを逆にするように構成されていることが好ましい。これにより、xz面を挟んで向かい合ったコイル2の磁力線が打ち消し合わず、原料融液13に対して効率的に磁場を印加することができる。なお、図7(a)は、コイル数が12個の場合について記載しているが、他のコイル数の場合でも同様に、第1のコイル群(第1象限と第2象限に配置されたコイル群)と第2のコイル群(第3象限と第4象限に配置されたコイル群)とで、コイル2に流す電流の向きを逆にするように構成されていることが好ましい。
【0045】
また、図7(a)に示した12個のコイル2について、制御部は、2、2、2および2のグループ、2、2、2および2のグループ、2、2、2および2のグループの3つのグループを、上記の順に電流値を小さくするように構成されていることが好ましい。これにより、原料融液13の対流変動を抑制することができる。なお、図7(a)はコイル数が12個の場合について記載しているが、他の6個以上のコイル数の場合でも同様に、xz面を挟んで隣接するコイル2に流す電流値を他のコイル2に比べて大きくするように構成されていることが好ましい。
【0046】
また、図7(a)に示した12個のコイル2について、コイル2とコイル2との間、およびコイル2とコイル2との間の距離を、隣接する他のコイル2間の距離よりも短く構成されていることが好ましい。これにより、上記コイル2付近の磁束密度勾配を大きくでき、対流変動の抑制効果を向上させることができる。なお、図7(a)は、コイル数が12個の場合について記載しているが、他のコイル数の場合でも同様に、xz面を挟んで隣接するコイル2間の距離を、隣接する他のコイル2間の距離よりも短く構成されていることが好ましい。
【0047】
磁石1は、電磁石(常伝導)とすることができるし、超伝導電磁石とすることができるが、より強い磁場を形成できることから、超伝導電磁石とすることが好ましい。磁石1を超伝導電磁石として構成する場合には、コイル2を構成する巻線をニオブ系合金などの超伝導材料で構成する。そして、4個以上のコイル2を円筒型の真空容器内(図示せず)に収容して、例えば2個のコイル2が対向するように配置する。そして、例えばコイル2の周囲を冷却溶媒で満たし、冷却装置によりコイル2を転移温度まで冷却できるように構成する。
【0048】
(単結晶の製造装置)
本発明による単結晶の製造装置は、単結晶の原料の融液を収容する坩堝と、該坩堝の周囲に配置された、上述した本発明による磁石とを備え、上記磁石は4個以上のコイルを有し、上記磁石によって上記融液に水平磁場を印加しつつ前記単結晶を引き上げる単結晶の製造装置である。
【0049】
図8は、本発明による単結晶の製造装置の一例を示している。なお、図1に示した単結晶の製造装置100と同じ構成には同じ符号が付されている。図8に示した単結晶の製造装置10においては、図1に示した単結晶の製造装置100における磁石21に代えて、上述した本発明による磁石1を備えている。上述したように、磁石1は、幅に対する高さの比が1を超える4個以上のコイル2を備え、4個以上のコイル2の各々は、制御部により、互いに独立して磁場を発生させることができるように構成されている。これにより、単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置が制限される場合であっても、磁場分布の設計の自由度を高めることができる。こうした磁石1を備える単結晶の製造装置10は、原料融液13に所望とする磁場分布で磁場を印加して、所望とする特性を有する単結晶、例えば、無欠陥の単結晶を製造することができる。
【0050】
また、図9に示すように、本発明による磁石1は、磁場中立面の中心O(0mm、0mm、0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm、0mm、-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm、0mm、0mm)での磁束密度が1.47×M以上となる磁石であることが好ましい。これにより、単結晶の引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制できるとともに、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制して、無欠陥の単結晶を製造できる。点A、点B、磁場中立面の詳細については、後に詳述する。
【0051】
(単結晶の製造方法)
本発明による単結晶の製造方法は、上述した本発明による単結晶の製造装置を用い、チョクラルスキー法により単結晶を製造する方法であって、磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、上記磁石により原料の融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることを特徴とする。
【0052】
上述のように、本発明による単結晶の製造装置10を用いることにより、原料融液13に所望とする磁場分布で磁場を印加して、所望とする特性を有する単結晶を製造することができる。本発明者らは、上記製造装置10を用いて適切な磁場分布を原料融液13に印加することによって、酸素濃度の変動の小さな単結晶を製造できることを見出した。
【0053】
すなわち、本発明者らは、図9に示すように、磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)での磁束密度をMとしたときに、点A(0mm,0mm,-400mm)での磁束密度が0.58×M以上、かつ点B(400mm,0mm,0mm)での磁束密度が1.47×M以上となるように、磁石1により原料の融液に対して水平磁場を印加して単結晶を引き上げることにより、単結晶の引き上げ方向の酸素濃度の変動を抑制できるとともに、単結晶の引き上げ速度の変動を抑制して、無欠陥の単結晶を製造できることを見出した。
【0054】
なお、上記「磁場中立面」とは、磁石1を構成する各コイル2の重心を全て含む面であり、「磁場中立面の中心」とは、磁場中立面と結晶回転軸とが交わる点である。コイル2は、全てのコイル2の重心の高さ位置が同じとなり、磁場中立面が水平面となるように配置することが好ましい。
【0055】
なお、磁石1を単結晶の製造装置10に設置して、水平磁場を印加しながら単結晶を製造する場合、一般的に磁石1の中心軸は結晶回転軸と一致する。すなわち、本発明による磁石1の中心を通り鉛直方向に延びる軸は、結晶回転軸と同じであるとみなしてよい。そのため、一般的に磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)は、磁場中立面と、磁石1の中心を通り鉛直方向に延びる軸とが交わる点と言い換えることができる。特に、磁石1が単結晶の製造装置から外されている場合、すなわち磁石1単体の場合には、磁場中立面の中心O(0mm,0mm,0mm)は、磁場中立面と、磁石1の中心を通り鉛直方向に延びる軸、すなわち磁石1の中心軸とが交わる点である。
【0056】
また、点AおよびBは、磁場中立面において、磁場中立面の中心である磁場中心を原点O、原点Oを通り、磁場の方向に平行な軸をy軸,磁場の方向に垂直な軸をx軸とし、原点Oを通り、磁場中立面に垂直な軸をz軸とし、結晶引き上げ開始時において、z軸上の坩堝12内側(内面)の点が点A、x軸上の坩堝12内側(内面)の点が点Bである。なお、磁場中立面が水平面である場合、z軸と結晶回転軸は一致する。
【0057】
上記点Aおよび点Bでの磁束密度の要件は、磁場中立面と原料融液13の表面との高さを同一にし、コイル2間の角度を90°以上とすることにより、達成することができる。
【0058】
また、点Bと高さが同じであり、y軸上の坩堝12内側(内面)の点C(0mm,400mm,0mm)の磁束密度を点Bの磁束密度よりも小さくすることが好ましい。これにより、原料融液13の対流変動をさらに抑制することができる。
【0059】
上記単結晶16は、CZ法により製造できるものであれば特に限定されないが、酸素濃度の変動が小さな半導体用シリコンの単結晶を好適に製造することができる。
【実施例0060】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0061】
(発明例1)
図2に示した縦型の矩形環状コイルを有する磁石を備える単結晶の製造装置を用いて、直径310mmのシリコン単結晶の製造を行った。矩形環状型コイルは、磁場中立面の高さを図9(b)における点Aと同一なるように構成し、4個のコイルをコイル角度60°で配置した。なお、各コイルは縦型であり同じ形状とし、磁場中立面は水平面となるように構成した。そして、コイルに流す電流の大きさおよび向きを調整して、点Aでの磁束密度が0.58M、点Bでの磁束密度が1.43Mとなる磁場分布を発生させた。このような状態で坩堝に収容したシリコン原料である多結晶シリコンを溶融して種結晶を溶融シリコンに着液して引き上げ、種結晶の下方にシリコン単結晶を育成した。
【0062】
(発明例2)
発明例1と同様に、シリコン単結晶を製造した。ただし、磁場中立面の点Aに対する高さを変更して、点Aでの磁束密度を磁場中心Oの磁束密度Mの0.64倍、点Bでの磁束密度を2.23倍とした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0063】
(比較例)
発明例1と同様に、シリコン単結晶を製造した。ただし、磁場中立面の点Aに対する高さを変更して、点Aでの磁束密度を磁場中心Oの磁束密度Mの0.53倍、点Bでの磁束密度を1.03倍とした。その他の条件は、発明例1と全て同じである。
【0064】
<単結晶の軸方向の酸素濃度>
図10は、シリコン単結晶の軸方向の酸素濃度の変動を示しており、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。なお、図10において、単結晶の軸方向の位置および酸素濃度は、それぞれ所定の値で規格化されたものである。図10(a)に示した比較例については、単結晶軸方向の酸素濃度の変動が大きく、規定の酸素濃度範囲に入っていなかった。一方、図10(b)および(c)に示した発明例1および発明例2については、比較例と比べて酸素濃度の変動は低減され、特に発明例2については、酸素濃度の変動は、比較例と比べて1/5程度まで減少した。
【0065】
<固液界面の温度の時間変動>
図11は、3次元流体シミュレーションによる固液界面の温度の時間変動を示しており、(a)は比較例、(b)は発明例1、(c)は発明例2に関するものである。なお、図11において、時間および固液界面の温度は、それぞれ所定の値で規格化されたものである。図11(a)に示した比較例については、固液界面の温度の時間変動が大きく、この温度の変動により、結晶引き上げ速度の変動が大きく、無欠陥のシリコン単結晶が得られないことが分かった。一方、図11(b)および(c)に示した発明例1および発明例2については、比較例と比べて固液界面の温度の時間変動は低減されて結晶引き上げ速度の変動は小さく、いずれも無欠陥のシリコン単結晶が得られることが分かった。特に発明例2については、固液界面の温度の時間変動は、比較例と比べて1/50程度まで減少した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、単結晶の製造装置の磁石を構成するコイルの配置が制限される場合であっても、磁場分布の設計の自由度を高めることができるため、半導体ウェーハ製造業において有用である。
【符号の説明】
【0067】
1,21 磁石
2,22 コイル
2a 開口部
2b 外面
2c 内面
2d 外周面
2e 内周面
3 第1の部分
4 第2の部分
5 接続部分
10,100 単結晶の製造装置
11 チャンバー
12 坩堝
13 原料融液
14 ヒーター
15 坩堝回転機構
16 単結晶
17 種結晶
18 種結晶保持器
19 ワイヤーロープ
20 巻き取り機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11