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特開2023-81211塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081211
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20230602BHJP
   C08K 5/3462 20060101ALI20230602BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20230602BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20230602BHJP
   B29C 41/18 20060101ALI20230602BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20230602BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20230602BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/3462
C08K5/07
C08K5/098
B29C41/18
B29C41/36
B32B5/18
B32B27/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194977
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 貴史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 崇倫
【テーマコード(参考)】
4F100
4F205
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AH02A
4F100AH03A
4F100AH08A
4F100AK15A
4F100AK51B
4F100AL05A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA04A
4F100DJ01B
4F100GB32
4F100JJ03
4F100JL10
4F100YY00A
4F205AA15
4F205AB07
4F205AC04
4F205AG06
4F205AH25
4F205GA12
4F205GB01
4F205GC04
4F205GF01
4F205GF02
4F205GN01
4F205GN13
4F205GN21
4F205GN29
4J002BD031
4J002EE048
4J002EG019
4J002EG039
4J002EU137
4J002FD026
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】成形温度の差による色調の変動が抑制された塩化ビニル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ウラシル化合物と、アセチルアセトン亜鉛と、アセチルアセトンカルシウムと、を含み、前記アセチルアセトンカルシウムの含有量が前記アセチルアセトン亜鉛の含有量の0.8倍以上である、塩化ビニル樹脂組成物。なお、塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、
可塑剤と、
ウラシル化合物と、
アセチルアセトン亜鉛と、
アセチルアセトンカルシウムと、を含み、
前記アセチルアセトンカルシウムの含有量が前記アセチルアセトン亜鉛の含有量の0.8倍以上である、塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ウラシル化合物が、下記式(I):
【化1】
〔式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または電子供与基を表し、
は水素原子またはアミノ基を表す。〕
で示される、請求項1に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ウラシル化合物が、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシルを含む、請求項1または2に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項4】
前記ウラシル化合物の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上である、請求項1~3のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項5】
前記アセチルアセトン亜鉛の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.06質量部以上である、請求項1~4のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項6】
前記アセチルアセトンカルシウムの含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.05質量部以上である、請求項1~5のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩を更に含む、請求項1~6のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
前記脂肪酸金属塩が、脂肪酸カルシウムを含有する、請求項7に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項9】
前記脂肪酸金属塩が、炭素数が6以上22以下である脂肪酸の金属塩を含有する、請求項7または8に記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項10】
粉体成形に用いられる、請求項1~9のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項11】
パウダースラッシュ成形に用いられる、請求項1~10のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる、塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項13】
自動車インスツルメントパネル表皮用である、請求項12に記載の塩化ビニル樹脂成形体。
【請求項14】
発泡ポリウレタン成形体と、請求項12または13に記載の塩化ビニル樹脂成形体とを有する、積層体。
【請求項15】
自動車インスツルメントパネル用である、請求項14に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル樹脂組成物、塩化ビニル樹脂成形体および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂は、一般に、耐寒性、耐熱性、耐油性などの特性に優れているため、種々の用途に用いられている。
具体的には、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品の形成には、塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮や塩化ビニル樹脂成形体からなる表皮に発泡ポリウレタン等の発泡体を裏打ちしてなる積層体などの自動車内装材が用いられている。
【0003】
そして、自動車インスツルメントパネル等の自動車内装部品の表皮を構成する塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形などの粉体成形の方法を用いて成形することにより製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、例えば特許文献1では、塩化ビニル樹脂粒子と、可塑剤と、ハイドロタルサイト系安定剤、ゼオライト系安定剤およびβ-ジケトン類などの添加剤とを含む塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形することにより、塩化ビニル樹脂成形体を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-279640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、塩化ビニル樹脂組成物を例えば粉体成形する際、使用する金型に温度分布が存在する場合、成形温度の差によって塩化ビニル樹脂組成物の色調に変動が生じることがある。そして、かかる色調の変動が生じると、形成される塩化ビニル樹脂成形体に色調のムラが発生し得る。そこで、塩化ビニル樹脂成形体の色調のムラを低減する観点から、塩化ビニル樹脂組成物においては、成形温度の差による色調の変動を抑制することが求められる。
【0007】
しかしながら、上記従来技術の塩化ビニル樹脂組成物には、成形温度の差による色調の変動を抑制する点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、成形温度の差による色調の変動が抑制された塩化ビニル樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、塩化ビニル樹脂組成物に、ウラシル化合物、アセチルアセトン亜鉛、およびアセチルアセトンカルシウムを添加し、アセチルアセトン亜鉛の含有量に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率を所定値以上とすれば、成形温度の差による色調の変動を抑制し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ウラシル化合物と、アセチルアセトン亜鉛と、アセチルアセトンカルシウムと、を含み、前記アセチルアセトンカルシウムの含有量が前記アセチルアセトン亜鉛の含有量の0.8倍以上であることを特徴とする。このように、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、ウラシル化合物と、アセチルアセトン亜鉛と、アセトンカルシウムとを含む塩化ビニル樹脂組成物において、アセチルアセトン亜鉛の含有量に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率を所定値以上とすれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を抑制することができる。
【0011】
ここで、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記ウラシル化合物が、下記式(I):
【化1】
〔式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または電子供与基を表し、
は水素原子またはアミノ基を表す。〕で示されることが好ましい。ウラシル化合物が上記所定の式で示される化合物であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0012】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記ウラシル化合物が、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシルを含むことが好ましい。ウラシル化合物として、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシルを用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0013】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記ウラシル化合物の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中のウラシル化合物の含有量が上記所定値以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0014】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記アセチルアセトン亜鉛の含有量が、前記塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.06質量部以上であることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の塩化ビニル樹脂100質量部に対するアセチルアセトン亜鉛の含有量が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記アセチルアセトンカルシウムの含有量が、塩化ビニル樹脂100質量部に対して0.05質量部以上であることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の塩化ビニル樹脂100質量部に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩を更に含むことが好ましい。脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩を更に用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0017】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記脂肪酸金属塩が、脂肪酸カルシウムを含有することが好ましい。脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩として脂肪酸カルシウムを更に用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。
【0018】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、前記脂肪酸金属塩が、炭素数が6以上22以下である脂肪酸の金属塩を含有することが好ましい。脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩として、炭素数が上記所定の範囲内である脂肪酸の金属塩を用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。
【0019】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物を粉体成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体が容易に得られる。
【0020】
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、パウダースラッシュ成形に用いられることが好ましい。塩化ビニル樹脂組成物をパウダースラッシュ成形に用いれば、例えば、自動車インスツルメントパネル用表皮などの自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体がより容易に得られる。
【0021】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物のいずれかを成形してなることを特徴とする。このように、上述した塩化ビニル樹脂組成物を成形してなる塩化ビニル樹脂成形体は、色調のムラが低減され、外観に優れているため、自動車内装材として良好に使用することができる。
【0022】
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネル表皮用であることが好ましい。本発明の塩化ビニル樹脂成形体を自動車インスツルメントパネルの表皮に使用すれば、色調のムラが低減され、外観に優れた表皮を有する自動車インスツルメントパネルを製造することができる。
【0023】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述したいずれかの塩化ビニル樹脂成形体とを有することを特徴とする。発泡ポリウレタン成形体および上述した塩化ビニル樹脂成形体を有する積層体は、色調のムラが低減され、外観に優れた塩化ビニル樹脂成形体部分を備えている。
【0024】
そして、本発明の積層体は、自動車インスツルメントパネル用であることが好ましい。このように、本発明の積層体を自動車インスツルメントパネルに用いれば、製造される自動車インスツルメントパネルの表皮における色調のムラを低減し、外観を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、成形温度の差による色調の変動が抑制された塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品が備える表皮などの、自動車内装材として好適に用いることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、本発明の積層体を形成する際に用いることができる。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体を用いて形成した積層体は、例えば、自動車インスツルメントパネルおよびドアトリム等の自動車内装部品を製造する際に用いる自動車内装材として好適に用いることができる。
【0027】
(塩化ビニル樹脂組成物)
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ウラシル化合物と、(d)アセチルアセトン亜鉛と、(e)アセチルアセトンカルシウムと、を含み、(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値以上であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意で、アセチルアセトン亜鉛およびアセチルアセトンカルシウム以外のβ-ジケトン類(以下、「(f)その他のβ-ジケトン類」と称することがある。)を更に含み得る。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意で、(g)脂肪酸亜鉛を更に含み得る。
さらに、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、任意で、(h)脂肪酸亜鉛以外の脂肪酸金属塩(以下、「(h)その他の脂肪酸金属塩」と称することもある。)を更に含み得る。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、(c)ウラシル化合物、(d)アセチルアセトン亜鉛、(e)アセチルアセトンカルシウム、(f)その他のβ-ジケトン類、(g)脂肪酸亜鉛、および(h)その他の脂肪酸金属塩以外の添加剤を更に含んでいてもよい。
【0029】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、少なくとも、上記(a)塩化ビニル樹脂、(b)可塑剤、(c)ウラシル化合物、(d)アセチルアセトン亜鉛、および(e)アセチルアセトンカルシウムを含み、(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値以上であるため、成形温度の差による色調の変動を抑制することができる。
【0030】
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を使用すれば、色調のムラが低減され、外観に優れた自動車インスツルメントパネル用表皮およびドアトリム用表皮などの、自動車内装材として好適な塩化ビニル樹脂成形体を得ることができる。
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、270℃以上の高温で加熱された場合であっても、黄ばみ等の色調の変化を抑制することができる。
【0031】
なお、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて、自動車内装材として良好に使用し得る塩化ビニル樹脂成形体を容易に得る観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に用いられることが好ましく、パウダースラッシュ成形に用いられることがより好ましい。
【0032】
<(a)塩化ビニル樹脂>
(a)塩化ビニル樹脂としては、通常、粒子状の塩化ビニル樹脂を用いる。そして、(a)塩化ビニル樹脂としては、例えば、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂粒子を含有することができ、任意に、1種類または2種類以上の塩化ビニル樹脂微粒子を更に含有することができる。中でも、(a)塩化ビニル樹脂は、少なくとも塩化ビニル樹脂粒子を含有することが好ましく、塩化ビニル樹脂粒子および塩化ビニル樹脂微粒子を含有することがより好ましい。
そして、(a)塩化ビニル樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法など、従来から知られているいずれの製造法によっても製造し得る。
なお、本明細書において、「樹脂粒子」とは、粒子径が30μm以上の粒子を指し、「樹脂微粒子」とは、粒子径が30μm未満の粒子を指す。
【0033】
また、(a)塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単量体単位からなる単独重合体の他、塩化ビニル単量体単位を好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体が挙げられる。そして、塩化ビニル系共重合体を構成し得る、塩化ビニル単量体と共重合可能な単量体(共単量体)の具体例としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
<<塩化ビニル樹脂粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂粒子は、通常、マトリックス樹脂(基材)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂粒子は、懸濁重合法により製造することが好ましい。
【0035】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、800以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、5000以下であることが好ましく、3000以下であることがより好ましく、2800以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ、例えば、引張特性、特には引張伸びを向上させることができる。そして、引張伸びが良好な塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、エアバッグが膨張、展開した際に、破片が飛散することなく設計通りに割れる、延性に優れた自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。一方、塩化ビニル樹脂粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させることができる。
なお、本発明において「平均重合度」は、JIS K6720-2に準拠して測定することができる。
【0036】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径は、通常30μm以上であり、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させて、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠し、レーザー回折法により体積平均粒子径として測定することができる。
【0037】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%とすることができ、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を十分確保しつつ引張伸びを向上させることができる。一方、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。
【0038】
<<塩化ビニル樹脂微粒子>>
塩化ビニル樹脂組成物において、塩化ビニル樹脂微粒子は、通常、ダスティング剤(粉体流動性改良剤)として機能する。なお、塩化ビニル樹脂微粒子は、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0039】
[平均重合度]
そして、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度は、500以上が好ましく、700以上がより好ましく、2600以下が好ましく、2400以下がより好ましい。ダスティング剤としての塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させる共に、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張伸びを向上させることができる。また、塩化ビニル樹脂微粒子を構成する塩化ビニル樹脂の平均重合度が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させて、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
【0040】
[平均粒子径]
また、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径は、通常30μm未満であり、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記下限以上であれば、例えばダスティング剤としてのサイズを過度に小さくすることなく、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、塩化ビニル樹脂微粒子の平均粒子径が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の溶融性を向上させて、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面平滑性を向上させることができる。
【0041】
[含有割合]
そして、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合は、0質量%であってもよいが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。一方、(a)塩化ビニル樹脂中の塩化ビニル樹脂微粒子の含有割合が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成した塩化ビニル樹脂成形体の物理的強度を高めることができる。
【0042】
<(b)可塑剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は(b)可塑剤を含む。塩化ビニル樹脂組成物が(b)可塑剤を含むことにより、形成される塩化ビニル樹脂成形体は十分な柔軟性を発揮することができるため、例えば自動車内装材として好適に使用することができる。
【0043】
ここで、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量は、(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることが更に好ましく、80質量部以上であることが一層好ましく、90質量部以上であることがより一層好ましく、200質量部以下であることが好ましく、180質量部以下であることがより好ましく、160質量部以下であることが更に好ましく、140質量部以下であることが一層好ましく、120質量部以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量が(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の柔軟性を高めることができる。さらに、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に配合成分が析出(ブルーム)することを抑制することができる。即ち、塩化ビニル樹脂成形体の耐ブルーミング性を高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b)可塑剤の含有量が(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。
【0044】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(b)可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、(b1)ポリエステル、および(b2)トリメリット酸エステルを用いることが好ましい。なお、(b)可塑剤としては、(b1)ポリエステル、および(b2)トリメリット酸エステル以外の可塑剤(以下、「(b3)その他の可塑剤」と称することがある。)を用いてもよい。
【0045】
<<(b1)ポリエステル>>
(b)可塑剤は、(b1)ポリエステルを含むことが好ましい。(b)可塑剤が(b1)ポリエステルを含めば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を高めることができる。
【0046】
(b)可塑剤に含まれ得る(b1)ポリエステルとしては、特に限定されることはなく、例えば、アジピン酸由来の構造単位を含有するポリエステル(アジピン酸系ポリエステル)、セバシン酸由来の構造単位を含有するポリエステル(セバシン酸系ポリエステル)、およびフタル酸由来の構造単位を含有するポリエステル(フタル酸系ポリエステル)などのポリエステルを用いることができる。なお、これらのポリエステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
中でも、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を更に高める観点から、(b1)ポリエステルとしては、アジピン酸由来の構造単位を含有するポリエステルを用いることが好ましく、アジピン酸由来の構造単位と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位とを含有するポリエステルを用いることが特に好ましい。
【0047】
以下、説明の便宜上、アジピン酸由来の構造単位と、3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位とを含有するポリエステルを、「ポリエステルA」と称することにする。
ここで、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位以外の構造単位を有していてもよいが、アジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位の合計が、全構造単位の50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、繰り返し単位としてアジピン酸由来の構造単位および3-メチル-1,5-ペンタンジオール由来の構造単位のみを有することが好ましい。
【0048】
そして、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、特に限定されることなく、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを縮合重合することにより得ることができる。なお、上述した縮合重合は、触媒の存在下で実施することができる。また、上述した縮合重合は、末端停止成分としてアルコールおよび/または一塩基酸を用いて実施することができる。さらに、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとを縮合重合と、得られた縮合重合物と上記末端停止成分との停止反応とは、一括して行なってもよいし、別々に行なってもよいものとする。また、縮合重合および停止反応を経て得られる生成物には、蒸留等の後処理を施してもよい。そして、上述した単量体、触媒および末端停止成分の使用量などの縮合重合の反応条件としては、公知の条件を採用することができる。
なお、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAとしては、市販品を用いてもよい。
【0049】
縮合重合反応に用いる触媒としては、特に限定されることなく、例えば、ジブチル錫オキサイド、テトラアルキルチタネートなどが挙げられる。
【0050】
また、末端停止成分として使用し得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、ヘプタノール、イソヘプタノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、イソデカノール、ウンデカノール、イソウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、イソトリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、セロソルブ、カルビトール、フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコールおよびそれらの混合物が挙げられる。
さらに、末端停止成分として使用し得る一塩基酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、2-エチルヘキシル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、安息香酸およびそれらの混合物が挙げられる。
中でも、末端停止成分としては、2-エチルヘキサノールが好ましい。
【0051】
そして、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、数平均分子量が1000以上であることが好ましく、2000以上であることがより好ましく、10000以下であることが好ましく、7000以下であることがより好ましい。
なお、「数平均分子量」は、VPO(蒸気圧浸透圧)法にて測定することができる。
また、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、酸価が1以下であることが好ましい。
さらに、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、水酸基価が30以下であることが好ましい。
【0052】
さらに、上記所定の構造単位を含有するポリエステルAは、粘度が500mPa・s以上であることが好ましく、1000mPa・s以上であることがより好ましく、8000mPa・s以下であることが好ましく、5000mPa・s以下であることがより好ましい。
なお、「粘度」は、JIS Z8803に準拠し、温度23℃で測定することができる。
【0053】
(b)可塑剤中における(b1)ポリエステルの含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。(b)可塑剤中における(b1)ポリエステルの含有割合が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を更に高めることができる。一方、(b)可塑剤中における(b1)ポリエステルの含有割合が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を良好に維持することができる。
【0054】
そして、塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)ポリエステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、30質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましく、60質量部以上であることが一層好ましく、120質量部以下であることが好ましく、110質量部以下であることがより好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)ポリエステルの含有量が上記下限以上であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を更に高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b1)ポリエステルの含有量が上記上限以下であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を向上させることができる。
【0055】
<<(b2)トリメリット酸エステル>>
(b)可塑剤は、(b2)トリメリット酸エステルを含むことが好ましい。(b)可塑剤が(b2)トリメリット酸エステルを含めば、(b2)トリメリット酸エステルは上記(a)塩化ビニル樹脂に良好に吸収されるため、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を高めることができる。また、(b)可塑剤が(b2)トリメリット酸エステルを含めば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を高めることができる。
【0056】
(b)可塑剤中に含まれる(b2)トリメリット酸エステルは、好ましくは、トリメリット酸と一価アルコールとのエステル化合物である。
【0057】
上記一価アルコールの具体例としては、特に限定されることなく、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール等の脂肪族アルコールが挙げられる。中でも、一価アルコールとしては、炭素数6~18の脂肪族アルコールが好ましく、炭素数6~18の直鎖脂肪族アルコールがより好ましい。
【0058】
中でも、上記(b2)トリメリット酸エステルとしては、上述した一価アルコールによりトリメリット酸のカルボキシ基を実質的に全てエステル化したトリエステル化物が好ましい。トリエステル化物におけるアルコール残基部分は、同一のアルコール由来のものであってもよく、それぞれ異なるアルコール由来のものであってもよい。
上記(b2)トリメリット酸エステルは、単一の化合物からなるものであってもよいし、異なる化合物の混合物であってもよい。
【0059】
好適な(b2)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-n-ヘプチル、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリイソデシル、トリメリット酸トリ-n-ウンデシル、トリメリット酸トリ-n-ドデシル、トリメリット酸トリアルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、およびこれらの混合物等である。
より好ましい(b2)トリメリット酸エステルの具体例は、トリメリット酸トリ-n-オクチル、トリメリット酸トリ-(2-エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ-n-ノニル、トリメリット酸トリ-n-デシル、トリメリット酸トリ-n-アルキルエステル(炭素数が異なるアルキル基〔但し、炭素数は6~18である。〕を分子内に2種以上有するエステル)、およびこれらの混合物等である。
【0060】
(b)可塑剤中における(b2)トリメリット酸エステルの含有割合は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。(b)可塑剤中における(b2)トリメリット酸エステルの含有割合が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を更に高めると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を更に高めることができる。一方、(b)可塑剤中における(b2)トリメリット酸エステルの含有割合が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を高めることができる。
【0061】
そして、塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)トリメリット酸エステルの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、80質量部以下であることが好ましく、60質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)トリメリット酸エステルの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の粉体流動性を更に高めると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を更に高めることができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(b2)トリメリット酸エステルの含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐熱収縮性を高めることができる。
【0062】
<<(b3)その他の可塑剤>>
塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(b)可塑剤は、任意で、上述した(b1)ポリエステル、および(b2)トリメリット酸エステル以外の(b3)その他の可塑剤を含んでいてもよい。
【0063】
(b3)その他の可塑剤の具体例としては、国際公開第2016/098344号に記載の可塑剤のうち、上述した(b1)ポリエステル、および(b2)トリメリット酸エステル以外の可塑剤などが挙げられる。中でも、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を更に高める観点から、エポキシ化大豆油を用いることが好ましい。
【0064】
(b)可塑剤中における上記(b3)その他の可塑剤の含有割合は、特に限定されないが、0質量%以上15質量%以下であることが好ましい。(b)可塑剤中における(b3)その他の可塑剤の含有割合が上記範囲内であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の加熱後の低温での柔軟性を高めることができる。
【0065】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における上記(b3)その他の可塑剤の含有量は、特に限定されないが、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0質量部以上15質量部以下とすることができる。
なお、形成される塩化ビニル樹脂成形体の低温での柔軟性を更に高める観点から、(b3)その他の可塑剤として、エポキシ化大豆油などのエポキシ化植物油を、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して2質量部以上7質量部以下用いることが好ましい。
【0066】
<(c)ウラシル化合物>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(c)ウラシル化合物を含む。本発明の塩化ビニル樹脂組成物は(c)ウラシル化合物を含むことにより、成形温度の差による色調の変動を抑制することができる。
【0067】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物に含まれる(c)ウラシル化合物は、ウラシル骨格を有する化合物である。
そして、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制する観点から、(c)ウラシル化合物は下記式(I):
【化2】
〔式(I)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または電子供与基を表し、
は水素原子またはアミノ基を表す。〕
で示されることが好ましい。
【0068】
ここで、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制する観点から、上記式(I)中、RおよびRの少なくとも一方は電子供与基であることが好ましく、RおよびRの両方が電子供与基であることがより好ましい。
そして、上記式(I)中、Rおよび/またはRが電子供与基である場合、電子供与基としては、特に限定されないが、アルキル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基等を挙げることができる。中でも、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、電子供与基としては、アルキル基が好ましく、炭素数が6以下であるアルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
なお、上記式(I)中、RとRとは、同じであってもよいし、異なっていてもよいものとする。
【0069】
そして、上記式(I)で示される(c)ウラシル化合物の具体例としては、ウラシル、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシル、6-アミノ-1,3-ジエチルウラシル、6-アミノ-1,3-ジ-n-プロピルウラシル、6-アミノ-1,3-ジ-n-ブチルウラシル、6-アミノ-1,3-ジ-n-ペンチルウラシル、6-アミノ-1,3-ジ-n-へキシルウラシル等が挙げられる。中でも、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、(c)ウラシル化合物としては、6-アミノ-1,3-ジメチルウラシルを用いることが好ましい。なお、これらの(c)ウラシル化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0070】
そして、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.10質量部以上であることが好ましく、0.15質量部以上であることがより好ましく、0.20質量部以上であることが更に好ましく、0.25質量部以上であることが一層好ましく、3.00質量部以下であることが好ましく、2.00質量部以下であることがより好ましく、1.60質量部以下であることが更に好ましく、0.80質量部以下であることが一層好ましく、0.40質量部以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0071】
<(d)アセチルアセトン亜鉛>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(d)アセチルアセトン亜鉛を含む。本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(d)アセチルアセトン亜鉛を含むことにより、成形温度の差による色調の変動を抑制することができる。
なお、(d)アセチルアセトン亜鉛は、アセチルアセトンの共役塩基が亜鉛イオンと結合して形成される金属錯体である。
【0072】
塩化ビニル樹脂組成物中の(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.06質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましく、0.12質量部以上であることが更に好ましく、0.15質量部以上であることが一層好ましく、2.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以下であることがより好ましく、0.80質量部以下であることが更に好ましく、0.50質量部以下であることが一層好ましく、0.30質量部以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中の(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に、いわゆるジンクバーニング(Zinc burning)現象により茶色の斑点が発生することを抑制し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0073】
そして、塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量は、質量基準で、(上記c)ウラシル化合物の含有量の、0.2倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.4倍以上であることが更に好ましく、0.5倍以上であることが一層好ましく、0.6倍以上であることがより一層好ましく、3.0倍以下であることが好ましく、2.5倍以下であることがより好ましく、2.0倍以下であることが更に好ましく、1.5倍以下であることが一層好ましく、1.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0074】
<(e)アセチルアセトンカルシウム>
(e)アセチルアセトンカルシウムは、アセチルアセトンの共役塩基がカルシウムイオンと結合して形成される金属錯体である。
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上記(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対して所定の倍率以上の含有量の(e)アセチルアセトンカルシウムを含む。本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対して所定の倍率以上の含有量の(e)アセチルアセトンカルシウムを含むことにより、成形温度の差による色調の変動を抑制することができる。
【0075】
ここで、塩化ビニル樹脂組成物中における(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、質量基準で、上記(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の、0.8倍以上であることが必要であり、1.0倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましく、1.8倍以上であることが一層好ましく、2.0倍以上であることがより一層好ましく、2.3倍以上であることが更に一層好ましく、12.0倍以下であることが好ましく、8.0倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることが更に好ましく、4.0倍以下であることが一層好ましく、3.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を十分に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
なお、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、塩化ビニル樹脂組成物中における(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、質量基準で、(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の、3.0倍以上であってもよいし、4.0倍以上であってもよい。
【0076】
また、塩化ビニル樹脂組成物中の(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.12質量部以上であることがより好ましく、0.20質量部以上であることが更に好ましく、0.24質量部以上であることが一層好ましく、0.30質量部以上であることがより一層好ましく、4.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましく、1.00質量部以下であることが更に好ましく、0.80質量部以下であることが一層好ましく、0.55質量部以下であることが一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中の(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に確保することができる。
なお、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、塩化ビニル樹脂組成物中の(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.50質量部以上であってもよいし、0.60質量部以上であってもよいし、0.70質量部以上であってもよい。
【0077】
さらに、塩化ビニル樹脂組成物中における(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、質量基準で、上記(c)ウラシル化合物の含有量の、0.6倍以上であることが好ましく、0.8倍以上であることがより好ましく、1.0倍以上であることが更に好ましく、1.2倍以上であることが一層好ましく、1.5倍以上であることがより一層好ましく、8.0倍以下であることが好ましく、6.0倍以下であることがより好ましく、4.0倍以下であることが更に好ましく、3.0倍以下であることが一層好ましく、2.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
なお、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、塩化ビニル樹脂組成物中における(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量は、質量基準で、(c)ウラシル化合物の含有量の、2.0倍以上であってもよいし、3.0倍以上であってもよい。
【0078】
<(f)その他のβ-ジケトン類>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した(d)アセチルアセトン亜鉛および(e)アセチルアセトンカルシウム以外の(f)その他のβ-ジケトン類を更に含むことが好ましい。上述した(d)アセチルアセトン亜鉛および(e)アセチルアセトンカルシウムに加えて、(f)その他のβ-ジケトン類を更に用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0079】
(f)その他のβ-ジケトン類としては、例えば、アセチルアセトン;アセチルアセトンマグネシウム、アセチルアセトンリチウム、アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトンニッケル等のアセチルアセトンの金属塩;並びに、アセチルアセトン以外のβ-ジケトン化合物およびその金属塩;などが挙げられる。なお、アセチルアセトン等のβ-ジケトン化合物の金属塩は、アセチルアセトン等のβ-ジケトン化合物の共役塩基が金属イオンと結合して形成される金属錯体である。
【0080】
そして、(f)その他のβ-ジケトン類としては、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制する観点から、ジベンゾイルメタン、ステアロイルベンゾイルメタン、パルミトイルベンゾイルメタン等のベンゾイル基を有するβ-ジケトン化合物を用いることが好ましく、ステアロイルベンゾイルメタンを用いることがより好ましい。
【0081】
塩化ビニル樹脂組成物中の(f)その他のβ-ジケトン類の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.40質量部以上であることが好ましく、0.50質量部以上であることがより好ましく、0.60質量部以上であることが更に好ましく、2.00質量部以下であることが好ましく、1.50質量部以下であることがより好ましく、1.20質量部以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の(f)その他のβ-ジケトン類の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中の(f)その他のβ-ジケトン類の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に確保することができる。
【0082】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(f)その他のβ-ジケトン類の含有量は、質量基準で、上記(c)ウラシル化合物の含有量の、1.0倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることが更に好ましく、2.5倍以上であることが一層好ましく、3.0倍以上であることがより一層好ましく、15.0倍以下であることが好ましく、10.0倍以下であることがより好ましく、8.0倍以下であることが更に好ましく、6.0倍以下であることが一層好ましく、5.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(f)その他のβ-ジケトン類の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(f)その他のβ-ジケトン類の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0083】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(f)その他のβ-ジケトン類の含有量は、質量基準で、上記(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の、1.0倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることが更に好ましく、3.0倍以上であることが一層好ましく、4.0倍以上であることがより一層好ましく、20.0倍以下であることが好ましく、15.0倍以下であることがより好ましく、10.0倍以下であることが更に好ましく、8.0倍以下であることが一層好ましく、6.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(f)その他のβ-ジケトン類の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(f)その他のβ-ジケトン類の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0084】
<(g)脂肪酸亜鉛>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(g)脂肪酸亜鉛を更に含むことが好ましい。本発明の塩化ビニル樹脂組成物が(g)脂肪酸亜鉛を更に含むことにより、成形温度の差による色調の変動を更に抑制することができる。
【0085】
(g)脂肪酸亜鉛の脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがより好ましく、22以下であることが好ましく、21以下であることがより好ましく、20以下であることが更に好ましい。(g)脂肪酸亜鉛として、炭素数が上記所定の範囲内である脂肪酸の亜鉛塩を用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。
そして、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動をより一層抑制する観点から、(g)脂肪酸亜鉛としては、ステアリン酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
なお、(g)脂肪酸亜鉛としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0086】
ここで、塩化ビニル樹脂組成物中における(g)脂肪酸亜鉛の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましく、0.15質量部以上であることが更に好ましく、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることが更に好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中の(g)脂肪酸亜鉛の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中の(g)脂肪酸亜鉛の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に確保することができる。
【0087】
また、塩化ビニル樹脂組成物中における(g)脂肪酸亜鉛の含有量は、質量基準で、上記(c)ウラシル化合物の含有量の、0.2倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.4倍以上であることが更に好ましく、0.5倍以上であることが一層好ましく、0.6倍以上であることがより一層好ましく、3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましく、1.5倍以下であることが更に好ましく、1.2倍以下であることが一層好ましく、1.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(g)脂肪酸亜鉛の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(g)脂肪酸亜鉛の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0088】
さらに、塩化ビニル樹脂組成物中における(g)脂肪酸亜鉛の含有量は、質量基準で、上記(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の、0.2倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.4倍以上であることが更に好ましく、0.6倍以上であることが一層好ましく、0.8倍以上であることがより一層好ましく、4.0倍以下であることが好ましく、3.0倍以下であることがより好ましく、2.0倍以下であることが更に好ましく、1.5倍以下であることが一層好ましく、1.2倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(g)脂肪酸亜鉛の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(g)脂肪酸亜鉛の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得ると共に、当該塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0089】
<(h)その他の脂肪酸金属塩>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した(g)脂肪酸亜鉛以外の(h)その他の脂肪酸金属塩を更に含んでいてもよい。(h)その他の脂肪酸金属塩は、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を抑制し得ると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得る成分である。
【0090】
したがって、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制する観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は(h)その他の脂肪酸金属塩を含むことが好ましい。
【0091】
ここで、(h)その他の脂肪酸金属塩が、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを抑制し得る理由は、明らかではないが、下記の通りに推察される。塩化ビニル樹脂組成物の成形の際に、上記(a)塩化ビニル樹脂の熱分解により発生した塩化水素が、(d)アセチルアセトン亜鉛と反応することにより、塩化亜鉛が生成すると考えられる。塩化亜鉛は、いわゆるジンクバーニング(Zinc burning)現象により、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点を発生させる原因となり得る。これに対して、(h)その他の脂肪酸金属塩が塩化亜鉛と反応することにより、ジンクバーニング現象による茶色の斑点の発生を抑制し得ると考えられる。
【0092】
本発明の塩化ビニル樹脂組成物が(h)その他の脂肪酸金属塩を含む場合、塩化ビニル樹脂組成物中の(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量は、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましく、0.20質量部以上であることが更に好ましく、0.30質量部以上であることが一層好ましく、0.40質量部以上であることがより一層好ましく、4.0質量部以下であることが好ましく、2.0質量部以下であることがより好ましく、1.00質量部以下であることが更に好ましく、0.60質量部以下であることが一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0093】
なお、形成される塩化ビニル樹脂成形体の耐ブルーミング性を十分に高く確保する観点からは、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、(h)その他の脂肪酸金属塩を含まないことが好ましい。
【0094】
(h)その他の脂肪酸金属塩の脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、10以上であることがより好ましく、22以下であることが好ましく、21以下であることがより好ましく、20以下であることが更に好ましい。(h)その他の脂肪酸金属塩として、炭素数が上記所定の範囲内である脂肪酸の金属塩を用いれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を更に抑制し得ると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを更に抑制することができる。
そして、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制しつつ、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを一層抑制する観点から、(h)その他の脂肪酸金属塩の脂肪酸は、ステアリン酸であることが特に好ましい。
【0095】
(h)その他の脂肪酸金属塩の金属としては、亜鉛以外であれば、特に限定されないが、例えば、カルシウムおよびバリウムなどが挙げられる。そして、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制し得ると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを一層抑制する観点から、(h)その他の脂肪酸金属塩としては、脂肪酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0096】
なお、(h)その他の脂肪酸金属塩としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0097】
塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量は、質量基準で、上記(c)ウラシル化合物の含有量の、0.8倍以上であることが好ましく、1.0倍以上であることがより好ましく、1.2倍以上であることが更に好ましく、1.4倍以上であることが一層好ましく、1.6倍以上であることがより一層好ましく、10.0倍以下であることが好ましく、8.0倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることが更に好ましく、4.0倍以下であることが一層好ましく、3.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(c)ウラシル化合物の含有量に対する(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0098】
塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量は、質量基準で、上記(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量の、0.8倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましく、1.5倍以上であることが更に好ましく、1.8倍以上であることが一層好ましく、2.0倍以上であることがより一層好ましく、12.0倍以下であることが好ましく、8.0倍以下であることがより好ましく、6.0倍以下であることが更に好ましく、4.0倍以下であることが一層好ましく、3.0倍以下であることがより一層好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量の倍率が上記下限以上であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを更に抑制することができる。一方、塩化ビニル樹脂組成物中における(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(h)その他の脂肪酸金属塩の含有量の倍率が上記上限以下であれば、形成される塩化ビニル樹脂成形体の引張特性(特に引張伸び)および耐ブルーミング性を十分に高く確保することができる。
【0099】
塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩と上記(g)脂肪酸亜鉛との質量比((h)その他の脂肪酸金属塩/(g)脂肪酸亜鉛)は、1/1以上であることが好ましく、3/2以上であることがより好ましく、2/1以上であることが更に好ましく、20/1以下であることが好ましく、15/1以下であることがより好ましく、10/1以下であることが更に好ましい。塩化ビニル樹脂組成物中における(h)その他の脂肪酸金属塩と(g)脂肪酸亜鉛との質量比((h)その他の脂肪酸金属塩/(g)脂肪酸亜鉛)が上記所定の範囲内であれば、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動を一層抑制すると共に、形成される塩化ビニル樹脂成形体の表面に茶色の斑点が発生することを更に抑制することができる。
【0100】
<添加剤>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分以外に、各種添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、特に限定されることなく、滑剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト、ゼオライトなどの安定剤;離型剤;上記塩化ビニル樹脂微粒子以外のその他のダスティング剤;耐衝撃性改良剤;過塩素酸処理ハイドロタルサイト以外の過塩素酸化合物(過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等);酸化防止剤;防カビ剤;難燃剤;帯電防止剤;充填剤;光安定剤;発泡剤;顔料;などが挙げられる。
【0101】
そして、本発明の塩化ビニル樹脂組成物が含み得る上述した添加剤としては、例えば、国際公開第2016/098344号に記載のものを使用することができ、その好適含有量も国際公開第2016/098344号の記載と同様とすることができる。
【0102】
また、本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、シリコーンオイルを含んでいてもよい。
なお、塩化ビニル樹脂組成物が含み得るシリコーンオイルとしては、例えば、特開2018-35304号公報に記載のシリコーンオイルなどが挙げられる。
そして、塩化ビニル樹脂組成物中におけるシリコーンオイルの含有量は、特に限定されないが、上記(a)塩化ビニル樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、1質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以下であることがより好ましい。
【0103】
<塩化ビニル樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩化ビニル樹脂組成物は、上述した成分を混合して調製することができる。
ここで、上記(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ウラシル化合物と、(d)アセチルアセトン亜鉛と、(e)アセチルアセトンカルシウムと、必要に応じて更に配合される(f)その他のβ-ジケトン類、(g)脂肪酸亜鉛、(h)その他の脂肪酸金属塩および各種添加剤との混合方法としては、特に限定されることなく、例えば、ダスティング剤(塩化ビニル樹脂微粒子を含む)を除く成分をドライブレンドにより混合し、その後、ダスティング剤を添加、混合する方法が挙げられる。ここで、ドライブレンドには、ヘンシェルミキサーの使用が好ましい。また、ドライブレンド時の温度は、特に制限されることなく、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましい。
【0104】
<塩化ビニル樹脂組成物の用途>
そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物は、粉体成形に好適に用いることができ、パウダースラッシュ成形により好適に用いることができる。
【0105】
(塩化ビニル樹脂成形体)
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を、任意の方法で成形することにより得られることを特徴とする。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、上述した塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成されているため、通常、少なくとも、(a)塩化ビニル樹脂と、(b)可塑剤と、(c)ウラシル化合物と、(d)アセチルアセトン亜鉛と、(e)アセチルアセトンカルシウムとを含み、(d)アセチルアセトン亜鉛の含有量に対する(e)アセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値以上である。そして、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、色調のムラが低減され、外観に優れている。
また、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、例えば、270℃以上の高温で加熱された場合であっても、黄ばみ等の色調の変化を抑制することができる。
したがって、本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、自動車インスツルメントパネルの表皮などの自動車内装材として好適に用いることができる。
【0106】
<塩化ビニル樹脂成形体の形成方法>
ここで、パウダースラッシュ成形により塩化ビニル樹脂成形体を形成する場合、パウダースラッシュ成形時の金型温度は、特に制限されることなく、200℃以上とすることが好ましく、220℃以上とすることがより好ましく、300℃以下とすることが好ましく、280℃以下とすることがより好ましい。
なお、例えばパウダースラッシュ成形時の金型に温度分布が存在する場合であっても、上述した本発明の塩化ビニル樹脂組成物を成形に用いているため、形成される本発明の塩化ビニル樹脂成形体は色調のムラが低減されている。
【0107】
そして、塩化ビニル樹脂成形体を製造する際には、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、上記温度範囲の金型に本発明の塩化ビニル樹脂組成物を振りかけて、5秒以上30秒以下の間放置した後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とし、さらに、任意の温度下、30秒以上3分以下の間放置する。その後、金型を10℃以上60℃以下に冷却し、得られた本発明の塩化ビニル樹脂成形体を金型から脱型する。そして、金型の形状をかたどったシート状の成形体を得る。
【0108】
(積層体)
本発明の積層体は、発泡ポリウレタン成形体と、上述した塩化ビニル樹脂成形体とを有する。なお、塩化ビニル樹脂成形体は、通常、積層体の一方の表面を構成する。
そして、本発明の積層体は、例えば、本発明の塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成され、色調のムラが低減され、外観に優れた塩化ビニル樹脂成形体を有しているため、自動車内装部品、特に、自動車インスツルメントパネルを形成する自動車内装材として好適に用いられる。
また、本発明の積層体は、例えば270℃以上の高温で加熱された場合であっても、塩化ビニル樹脂成形体部分の黄ばみ等の色調の変化を抑制することができる。
【0109】
ここで、発泡ポリウレタン成形体と塩化ビニル樹脂成形体との積層方法は、特に限定されることなく、例えば、以下の方法を用いることができる。即ち、(1)発泡ポリウレタン成形体と、塩化ビニル樹脂成形体とを別途準備した後に、熱融着、熱接着、または、公知の接着剤などを用いることにより貼り合わせる方法;(2)塩化ビニル樹脂成形体上で発泡ポリウレタン成形体の原料となるイソシアネート類とポリオール類などとを反応させて重合を行うと共に、公知の方法によりポリウレタンの発泡を行うことにより、塩化ビニル樹脂成形体上に発泡ポリウレタン成形体を直接形成する方法;などが挙げられる。中でも、工程が簡素である点、および、種々の形状の積層体を得る場合においても塩化ビニル樹脂成形体と発泡ポリウレタン成形体とを強固に接着し易い点から、後者の方法(2)が好適である。
【実施例0110】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、塩化ビニル樹脂組成物の成形温度の差による色調の変動は、下記の方法で測定および評価した。
【0111】
<成形温度の差による色調の変動>
各実施例および比較例で得られた塩化ビニル樹脂組成物を、温度230℃に加熱したシボ付き金型に振りかけ、任意の時間放置して溶融させた後、余剰の塩化ビニル樹脂組成物を振り落とした。その後、当該塩化ビニル樹脂組成物を振りかけたシボ付き金型を、温度200℃に設定したオーブン内に静置し、静置から60秒経過した時点で当該シボ付き金型を冷却水で冷却した。金型温度が40℃まで冷却された時点で、塩化ビニル樹脂成形体としての、150mm×200mm×1mmの塩化ビニル樹脂成形シートを金型から脱型した。
また、金型の温度(即ち、成形温度)を230℃から270℃に上げたこと以外は上記と同じ操作にて成形を行った。
さらに、金型の温度(即ち、成形温度)を230℃から280℃に上げたこと以外は上記と同じ操作にて成形を行った。
230℃、270℃および280℃の各々の成形温度で成形して得られた塩化ビニル樹脂成形シートの色調を分光測色計(コニカミノルタ製「CM-700d」)により測色した。なお、各成形温度で成形して得られた塩化ビニル樹脂成形シートにつき、当該塩化ビニル樹脂成形シートのシボ付き面を9分割したマスのそれぞれの中央点を合計で9点測色し、bの値の平均値を求めた。
そして、成形温度270℃におけるbの値の平均値から、成形温度230℃におけるbの値の平均値を差し引くことにより、成形温度の差が230℃~270℃の場合におけるΔbの値を算出した。
また、同様に、成形温度280℃におけるbの値の平均値から、成形温度230℃におけるbの値の平均値を差し引くことにより、成形温度の差が230℃~280℃の場合におけるΔbの値を算出した。
なお、Δbの値の値が小さいほど、塩化ビニル樹脂組成物は成形温度の差による色調の変動が抑制されていることを示す。
【0112】
(製造例)
実施例および比較例で使用したポリエステルは、以下のようにして調製した。
<ポリエステルA>
多価カルボン酸としてのアジピン酸、多価アルコールとしての3-メチル-1,5-ペンタンジオール、およびストッパー(末端停止成分)としての2-エチルヘキサノールを反応容器に仕込み、触媒としてテトライソプロピルチタネートを加え、適宜溶剤を添加し、攪拌しながら昇温した。副生する水は常圧および減圧で除去し、最終的に220~230℃まで温度を上げて脱水縮合反応を完結させ、末端が2-エチルヘキソキシ基からなるポリエステルA(粘度:3600mPa・s、数平均分子量:5300、酸価:0.32、水酸基価:12.7)を得た。
【0113】
(実施例1)
<塩化ビニル樹脂組成物の調製>
表1に示す配合成分のうち、可塑剤(トリメリット酸エステル、ポリエステルA、およびエポキシ化大豆油)と、ダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子とを除く成分をヘンシェルミキサーに入れて混合した。そして、混合物の温度が80℃に上昇した時点で上記可塑剤を全て添加し、ドライアップ(可塑剤が、塩化ビニル樹脂である塩化ビニル樹脂粒子に吸収されて、上記混合物がさらさらになった状態をいう。)させた。その後、ドライアップさせた混合物が温度70℃以下に冷却された時点でダスティング剤である塩化ビニル樹脂微粒子を添加し、塩化ビニル樹脂組成物を調製した。
得られた塩化ビニル樹脂組成物を用いて、成形温度の差による色調の変動を評価した。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例2~8、比較例1~6)
配合組成を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、塩化ビニル樹脂組成物を作製した。そして、得られた塩化ビニル樹脂組成物を用いて、成形温度の差による色調の変動を評価した。結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
1)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST(登録商標)1700ZI」(懸濁重合法で調製、平均重合度:1700、平均粒子径:130μm)
2)新第一塩ビ社製、製品名「ZEST PQLTX」(乳化重合法で調製、平均重合度:800、平均粒子径:1.8μm)
3)花王社製、製品名「トリメックスN-08」
4)ADEKA社製、製品名「アデカサイザー O-130S」
5)協和化学工業社製、製品名「アルカマイザー(登録商標)5」
6)水澤化学工業社製、製品名「MIZUKALIZER DS」
7)昭和電工社製、製品名「カレンズDK-1」
8)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LA-63P」
9)堺化学工業社、製品名「SAKAI SZ2000」
10)ADEKA社製、製品名「アデカスタブ LS-12」
11)信越シリコーン社製、製品名「KF-96H-30万cs」(未変性シリコーンオイル(ポリジメチルシロキサン)、粘度:30×10cs)
12)大日精化社製、製品名「DA P-1050ホワイト」
13)大日精化社製、製品名「DA PX 1720(A)ブラック」
14)大日精化社製、製品名「DA PX-1446イエロー」
【0117】
表1より、ウラシル化合物と、アセチルアセトン亜鉛と、アセチルアセトンカルシウムとを含み、アセチルアセトン亜鉛の含有量に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値以上である実施例1~8の塩化ビニル樹脂組成物は、成形温度の差による色調の変動が十分に抑制されていることが分かる。
一方、ウラシル化合物、アセチルアセトン亜鉛、および、アセチルアセトンカルシウムのいずれも含まない比較例1の塩化ビニル樹脂組成物では、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
また、ウラシル化合物を含むが、アセチルアセトン亜鉛およびアセチルアセトンカルシウムのいずれも含まない比較例2の塩化ビニル樹脂組成物においても、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
さらに、ウラシル化合物およびアセチルアセトン亜鉛を含むが、アセチルアセトンカルシウムを含まない比較例3の塩化ビニル樹脂組成物においても、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
また、ウラシル化合物およびアセチルアセトンカルシウムを含むが、アセチルアセトン亜鉛を含まない比較例4の塩化ビニル樹脂組成物においても、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
さらに、アセチルアセトン亜鉛およびアセチルアセトンカルシウムを含み、アセチルアセトン亜鉛の含有量に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値以上であるが、ウラシル化合物を含まない比較例5の塩化ビニル樹脂組成物においても、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
また、ウラシル化合物と、アセチルアセトン亜鉛と、アセチルアセトンカルシウムとを含むが、アセチルアセトン亜鉛の含有量に対するアセチルアセトンカルシウムの含有量の倍率が所定値未満である比較例6の塩化ビニル樹脂組成物においても、成形温度の差による色調の変動を十分に抑制できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、成形温度の差による色調の変動が抑制された塩化ビニル樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂組成物を用いて形成された塩化ビニル樹脂成形体を提供することができる。
さらに、本発明によれば、当該塩化ビニル樹脂成形体を備える積層体を提供することができる。