(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081220
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】樹脂体とゲル体との積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20230602BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230602BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230602BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
B32B27/00 101
C08J7/00 306
C08J7/00 CEW
C08J7/00 CFH
B32B27/20 Z
B32B27/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021194990
(22)【出願日】2021-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雄司
(72)【発明者】
【氏名】山村 和也
(72)【発明者】
【氏名】三宅 絵梨香
(72)【発明者】
【氏名】小松 出
【テーマコード(参考)】
4F073
4F100
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA15
4F073BA16
4F073BA33
4F073BA47
4F073BB01
4F073CA01
4F073CA62
4F073CA63
4F073CA69
4F100AA20B
4F100AK18A
4F100AK52B
4F100AL01A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DE01B
4F100EJ51A
4F100GB43
4F100JB13
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】フッ素系樹脂を含む樹脂体とシリコーンゲルとの接着性が高く、かつ、被着体に着脱して使用可能な積層体を提供する。
【解決手段】樹脂体とゲル体との積層体であって、前記樹脂体はフッ素系樹脂を含み、前記ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むことを特徴とする積層体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂体とゲル体との積層体であって、前記樹脂体はフッ素系樹脂を含み、前記ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むことを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記樹脂体と前記ゲル体との接着強度が0.4N/mm以上である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記親油性シリカ粒子の表面は、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、ポリシロキサン、アミノシラン、及びポリシラザンの少なくとも1種により表面改質されたシリカ粒子である請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記フッ素系樹脂が、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位、メチレン単位、エチレン単位、及びパーフルオロジオキソール単位の少なくとも1種とジフルオロメチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位の少なくとも1種との共重合体、又はポリテトラフルオロエチレンである請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂体の表面がプラズマ処理されている請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
樹脂体とゲル体との積層体を製造する方法であって、
前記樹脂体の表面近傍の酸素濃度を0.5体積%未満として、前記樹脂体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質された樹脂体を製造する工程と、
下記(I)又は(II)のいずれかの工程とを含み、
前記樹脂体はフッ素系樹脂を含み、前記ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
(I)加熱硬化した前記ゲル体の表面近傍の酸素濃度を1体積%以上として、前記ゲル体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質されたゲル体を製造した後、前記表面改質されたゲル体と前記表面改質された樹脂体とを積層する工程
(II)ゲル状物と前記表面改質された樹脂体とを積層し、その後、前記ゲル状物を加熱硬化して前記ゲル体とする工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂体とゲル体との積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータの小型化技術の進展によって、センサ、アクチュエータ、マイコンなどがIoT(Internet of Things)デバイスに組み込まれるようになった。IoTデバイスは、例えば、スピーカー・照明・空調機器などの家電製品、トンネルや橋や高層ビルなどの建築物、ヘルメットや生体などに付着するウェアラブル機器に設けられており、装置や人体などの状況を常時確認することができる。
【0003】
近年、IoTデバイスにおいて、より大容量のデータを高速で送受信することが求められているため、高周波帯域を使用して伝送情報容量を多くすることが注目されており、特にミリ波と呼ばれる30GHz以上の高周波の使用に注目が集まっている。しかし、高周波帯域を使用する場合、伝送情報容量が非常に多い反面、伝送経路における伝送損失が大きくなりやすい。伝送損失が大きくなると、電気信号のロスや信号の遅延時間が長くなるなどの不都合が生じてしまう。
【0004】
高周波帯域を使用する用途では、伝送損失を低減させるために、比誘電率が低い上に誘電正接も低いフッ素系樹脂を用いることが考えられ、IoTデバイス内のプリント配線板の樹脂基材としてフッ素系樹脂を使用し、高周波帯域を使用する場合にも対応しようとしている。
【0005】
例えば、特許文献1では、生体に関する情報を出力する生体情報測定デバイス又は生体を構成する人工臓器に用いられるフッ素樹脂基材が開示されており、該フッ素樹脂基材は、フッ素樹脂を主成分とし、外面の少なくとも一部の領域に改質層を有し、上記改質層は、シロキサン結合及び親水性有機官能基を含み、人の細胞との密着性がよいことが開示されている。
【0006】
特許文献2には、筐体と、筐体の内部に設けられた電子部品と、を備えた電子機器が開示されており、電子機器は、人又は物などに付着して使用されることが開示されており、上記筐体は、被着体へ接触する接触面を有する下面部と、第1空間を挟んで前記下面部から上下方向に離れた上面部と、前記第1空間の周りに設けられ、前記上面部及び前記下面部と接続された側面部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-122448号公報
【特許文献2】特開2020-161569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、IoTデバイスを被着体の特定の箇所に設置するだけではなく、IoTデバイスを人や物などの被着体に接着・脱離(着脱)を行い、目的に応じてIoTデバイスの設置場所を変更して用いることが考えられている。しかし、特許文献1にはフッ素樹脂基材を接着させることについては言及されているが、脱離させることや着脱させることについては想定されていなかった。
【0009】
特許文献2にも脱離させることや着脱させることについては開示されていないが、特許文献2では、上面部の材料の一つとしてテフロン(登録商標)が開示されており、被着体に付着させる下面部の材料としてシリコーンゲル、ウレタンゲル、アクリルゲルが開示されており、このような筐体(積層体)であれば、被着体に対して接着させることは一応可能である。しかし、テフロン(ポリテトラフルオロエチレン)などのフッ素系樹脂をシリコーンゲル、ウレタンゲル、アクリルゲルのいずれのゲルと接着させても接着強度が不十分であり、積層体を被着体から脱離したときに積層体が分離したり破壊してしまうおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、フッ素系樹脂を含む樹脂体とシリコーンゲルとの接着性が高く、かつ、被着体に着脱して使用可能な積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑みて、本発明の発明者らは鋭意検討を行った。その結果、本発明の発明者らは、ゲル体に親油性シリカ粒子を加えた上に、加熱硬化したゲル体の表面近傍の酸素濃度を1体積%以上として、ゲル体の表面にプラズマ処理を行う、又は、硬化前であるゲル状物と表面改質された樹脂体とを積層した後にゲル状物を加熱硬化してゲル体とすることによって、樹脂体とゲル体との接着強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]樹脂体とゲル体との積層体であって、前記樹脂体はフッ素系樹脂を含み、前記ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むことを特徴とする積層体。
[2]前記樹脂体と前記ゲル体との接着強度が0.4N/mm以上である前記[1]に記載の積層体。
[3]前記親油性シリカ粒子の表面は、ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、ポリシロキサン、アミノシラン、及びポリシラザンの少なくとも1種により表面改質されたシリカ粒子である前記[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記フッ素系樹脂が、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位、メチレン単位、エチレン単位、及びパーフルオロジオキソール単位の少なくとも1種とジフルオロメチレン単位との共重合体、又はポリテトラフルオロエチレンである前記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記樹脂体の表面がプラズマ処理されている前記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]樹脂体とゲル体との積層体を製造する方法であって、前記樹脂体の表面近傍の酸素濃度を0.5体積%未満として、前記樹脂体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質された樹脂体を製造する工程と、下記(I)又は(II)のいずれかの工程とを含み、前記樹脂体はフッ素系樹脂を含み、前記ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むことを特徴とする積層体の製造方法。
(I)加熱硬化した前記ゲル体の表面近傍の酸素濃度を1体積%以上として、前記ゲル体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質されたゲル体を製造した後、前記表面改質されたゲル体と前記表面改質された樹脂体とを積層する工程
(II)ゲル状物と前記表面改質された樹脂体とを積層し、その後、前記ゲル状物を加熱硬化して前記ゲル体とする工程
【発明の効果】
【0013】
ゲル体に親油性シリカ粒子を加えた上に、加熱硬化したゲル体の表面近傍の酸素濃度を1体積%以上として、ゲル体の表面にプラズマ処理を行う、又は、硬化前であるゲル状物と表面改質された樹脂体とを積層した後にゲル状物を加熱硬化してゲル体とすることによって、フッ素系樹脂を含む樹脂体とシリコーンゲルとの接着性が高く、かつ、被着体に着脱して使用可能な積層体とすることができる。本発明の積層体は被着体から脱離させても積層体が破壊されないため、積層体を被着体に自由に着脱可能であり、目的に応じて設置場所を自由に変更することができる。そして、設置場所を自由に変更できるため、高周波用IoTデバイスとして利用できるだけでなく、薬品の飛散を一時的に防止する場合や一時的に滑り性を向上させたい場合に着脱可能なフッ素系樹脂シートやマットとしても使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】大気圧プラズマ処理装置の概念図であり、(a)は全体側面図、(b)は棒状電極と基板との関係を示す平面図である。
【
図2】プラズマジェット処理装置におけるプラズマ照射ヘッドの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層体は、樹脂体とゲル体との積層体(以下、単に「積層体」ということがある)であって、樹脂体はフッ素系樹脂を含み、ゲル体はシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含む。なお、本明細書では、フッ素系樹脂とは、分子中にフッ素原子を含む樹脂のことを指す。
【0016】
<樹脂体>
フッ素系樹脂は、ヘキサフルオロプロピレン単位、パーフルオロアルキルビニルエーテル単位、メチレン単位、エチレン単位、及びパーフルオロジオキソール単位の少なくとも1種とジフルオロメチレン単位及びテトラフルオロエチレン単位の少なくとも1種との共重合体、又はポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。中でも、フッ素系樹脂はテトラフルオロエチレン単位を含むことがより好ましい。樹脂体中の全樹脂100モル%中、テトラフルオロエチレン単位は30モル%以上であることがより好ましく、テトラフルオロエチレン単位は50モル%以上であることがさらに好ましく、テトラフルオロエチレン単位は70モル%以上であることが特に好ましく、テトラフルオロエチレン単位は90モル%以上であることが最も好ましい。なお、テトラフルオロエチレン単位とはテトラフルオロエチレン由来の構成単位のことであり、他のモノマー単位も同様である。
【0017】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE)などが挙げられる。このうち、モノマー単位の炭素-フッ素結合数(フッ素原子の置換割合)の観点から、PTFE、PFA、ETFE、FEPの少なくとも1種であることが好ましく、PTFEであることが特に好ましい。フッ素系樹脂は、1種でもよいし、2種以上含んでいてもよい。本発明で用いられる樹脂体中の全樹脂100質量部中、フッ素系樹脂は50質量部超含まれており、80質量部以上含まれていることが好ましく、90質量部以上含まれていることがより好ましく、95質量部以上含まれていることがさらに好ましく、99質量部以上含まれていることが特に好ましく、100質量部である(フッ素系樹脂のみを含有する)ことが最も好ましい。
【0018】
本発明で用いられる樹脂体には、上述のフッ素系樹脂以外の樹脂が含まれていてもよい。フッ素系樹脂以外の樹脂として、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂等のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリイミド系樹脂;スチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂;芳香族ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン系樹脂;ポリアセタール系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ビスマレイミドトリアジン系樹脂;などが挙げられる。本発明で用いられる樹脂体の全樹脂100質量部中、フッ素系樹脂以外の樹脂は20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが特に好ましく、0質量部である(樹脂体はフッ素系樹脂以外の樹脂を含まない)ことが最も好ましい。
【0019】
本発明で用いることができる樹脂体の形態は、後述するプラズマ照射が可能な形状であれば、特に限定はなく、各種の形状、構造を有するものに適用できる。例えば、平面、曲面、屈曲面等の表面形状を有する、方形状、球形状、薄膜形状等が挙げられるが、これらに限定されない。また、樹脂体は、フッ素系樹脂の特性に応じて、射出成型、溶融押出成型、ペースト押出成型、圧縮成型、切削成型、キャスト成型、含浸成型等各種の成型方法により成型されたものでよい。また、樹脂体は、例えば通常の射出成型体のような樹脂が緻密な連続構造を有してもよいし、多孔質構造を有してもよいし、不織布状でもよいし、その他の構造でもよい。
【0020】
樹脂体の厚さは、1μm以上であることが好ましく、絶縁性や伝送損失低下の観点からは、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。樹脂体の厚さの上限は特に限定されないが、フレキシブルプリント配線板として利用する場合、樹脂体は薄い方が好ましく、例えば5mm以下である。
【0021】
なお、本発明では、樹脂体の表面をサンドペーパー等で粗面化する必要はなく、樹脂体の表面粗さRaが1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらに好ましい。表面粗さRaは、JIS B 0601に準拠して測定することによって求めることができ、後述の実施例に記載の積層体の表面粗さRaはいずれも0.3μm以下である。
【0022】
<ゲル体>
ゲル体は、シリコーンゲルを含む。シリコーンゲルは、特に限定されておらず、例えば、付加硬化型液状シリコーンゲル、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーンゲルなどが挙げられるが、付加硬化型液状シリコーンゲルであることが好ましい。
【0023】
ゲル体の針入度は小さい方が硬くて強いゲル体を得られるため好ましいが、針入度が比較的大きいゲル体(例えば針入度が30~50程度のゲル体)でもゲル体の厚さを厚くしたり、後述する親油性シリカ粒子を比較的多めに含有させることにより、硬くて強いゲル体とすることができ、その結果、積層体を被着体から脱離しようとしたときにゲル体が破壊するのを抑制することができる。ゲル体の針入度は50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。ゲル体の針入度の下限は特に限定されないが、例えば0以上であり、1以上が好ましく、3以上がより好ましい。針入度の測定方法は後述する。
【0024】
ゲル体は、さらに親油性シリカ粒子を含む。ゲル体において、シリコーンゲル100質量部に対し、親油性シリカ粒子は5~27質量部含まれていることが好ましく、10~25質量部含まれていることがより好ましく、15~25質量部含まれていることがさらに好ましい。親油性シリカ粒子を5質量部以上含むことにより、損失係数tanδが小さくなり、すなわち、粘性の寄与が小さくなり、硬くて強いゲル体とすることができ、その結果、積層体を被着体から脱離しようとしたときにゲル体が破壊するのを抑制することができる。一方で親油性シリカ粒子を27質量部より多く含むとゲル体を作製する際に気泡が大量に発生してしまい、ゲル体と樹脂体とを接着させることができないおそれがある。
【0025】
ゲル体の厚さは、1mm以上であることが好ましく、2mm以上であることがより好ましく、3mm以上であることがさらに好ましい。ゲル体の厚さを1mm以上とすることにより、ゲル体が容易に破壊しないようにすることができる。ゲル体の厚さの上限は特に限定されないが、コストおよび外観の見栄えの観点から、例えば、30mm以下である。
【0026】
ゲル体の損失係数tanδは、0.580以下であることが好ましく、0.560以下であることがより好ましい。損失係数tanδが0.580以下とすることにより、粘性の寄与が小さく、硬くて強いゲル体とすることができ、ゲル体が破壊するのを抑制することができる。損失係数tanδの測定方法は後述する。
【0027】
<親油性シリカ粒子>
シリカ粒子はシラノール基を有しているため、親水性であるが、シリカ粒子の表面に存在するシラノール基を化学的に変化させることにより親油性シリカ粒子とすることができる。なお、以下では、化学的に変化させる前のシリカ粒子を親水性シリカ粒子という。上記変化のために用いられる化合物は、親水性シリカ粒子中においてシラノール基の-OHと化学的に反応し親油性基(疎水性基)を導入できる化合物であれば特に限定されず、ジメチルジクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、ジエチルジブロモシランなどのジアルキルシラン;トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメチルブロモシラン、トリエチルブロモシランなどのトリアルキルシラン;ジメチルポリシロキサンなどのポリシロキサン;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノシラン;及び、ペルヒドロポリシラザン、メチルポリシラザン、ジメチルポリシラザン、フェニルポリシラザン、ビニルポリシラザンなどのポリシラザン;の少なくとも1種であることが好ましい。上記のような化合物により親水性シリカ粒子の表面改質を行い、シラノール基にアルキル基(特にメチル基)、アミノ基(特にNH2基)等の親油性基を導入し、親油性シリカ粒子とすることができる。
【0028】
<接着強度>
本発明の積層体において、樹脂体とゲル体との接着強度(以下、単に「接着強度」ということがある)は0.4N/mm以上であることが好ましく、0.6N/mm以上であることがより好ましく、0.8N/mm以上であることがさらに好ましく、1.0N/mm以上であることが特に好ましい。接着強度が0.4N/mm未満であると、積層体を被着体から脱離したときにゲル体が破壊したり、樹脂体とゲル体とが剥離してしまうおそれがある。接着強度の測定方法については後述する。
【0029】
<積層体の製造方法>
以下、本発明の積層体の製造方法を説明する。
【0030】
積層体の製造方法は、樹脂体の表面近傍の酸素濃度を0.5体積%未満として、前記樹脂体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質された樹脂体を製造する工程と、下記(I)又は(II)のいずれかの工程とを含む。
(I)加熱硬化した前記ゲル体の表面近傍の酸素濃度を1体積%以上として、前記ゲル体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質されたゲル体を製造した後、前記表面改質されたゲル体と前記表面改質された樹脂体とを積層する工程
(II)ゲル状物と前記表面改質された樹脂体とを積層し、その後、前記ゲル状物を加熱硬化して前記ゲル体とする工程
【0031】
1.樹脂体の表面にプラズマ処理する工程
樹脂体の表面にプラズマ処理して表面改質を行えばよく、樹脂体の表面温度を(フッ素系樹脂の融点-150℃)以上として、樹脂体の表面にプラズマ処理することが好ましい。このような表面温度にすることで、プラズマ照射の対象となる樹脂体表面の高分子化合物の高分子の運動性が高まることになる。そして、このような運動性の高い状態の高分子化合物にプラズマを照射すると、高分子化合物の炭素原子と炭素原子やそれ以外の原子との間の結合が切断された時に、各高分子内の結合が切断された炭素原子同士が架橋反応し、樹脂体表面に過酸化物ラジカルを十分に形成させることができる。特に樹脂体を構成するフッ素系樹脂がPTFEであるときには、樹脂体の表面温度が180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。樹脂体の表面温度の上限は特に限定されないが、例えば(融点+20)℃以下とすればよい。
樹脂体の表面近傍に極力酸素が存在しない状態で、樹脂体の表面にプラズマ処理を行い、樹脂体表面に過酸化物ラジカルを十分に形成させることにより、樹脂体の表面改質を行う。具体的には、樹脂体の表面近傍(プラズマ照射領域)の酸素濃度を0.5体積%未満として、樹脂体の表面にプラズマ処理を行い、表面改質された樹脂体を製造する。プラズマ処理については、例えば、樹脂体の表面温度を高めた状態で大気圧プラズマによる処理を行うことで、樹脂体の表面改質を行ってもよい。大気圧プラズマ処理を行うことで、プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、樹脂体表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成を誘起する。なお、大気圧とは、厳密に1013hPaである必要はなく、700~1300hPaの範囲であればよい。その後、大気に数分から10分程度曝すことによって、大気中の水成分と反応して、ダングリングボンドに過酸化物ラジカルをはじめ、水酸基、カルボニル基などの親水性官能基が自発的に形成される。
【0032】
本発明では、大気圧プラズマにより、樹脂体の表面を改質することが好ましい。この大気圧プラズマによる処理の条件は、樹脂体の表面温度を上記所定の範囲内とし、出力電力密度を後述の所定の範囲内とすることが好ましい。プラズマによる樹脂体の表面改質を行う技術分野において採用される、大気圧プラズマを発生させることが可能な条件を適宜採用することができる。
もっとも、本発明では、樹脂体の表面温度を、樹脂体表面のフッ素系樹脂の高分子の運動性を高めることが可能な所定の温度範囲にしつつ、大気圧プラズマによる処理を行うため、大気圧プラズマ処理による加熱効果のみにより表面温度を上昇させる場合は、加熱効果が得られる条件で、大気圧プラズマ処理を行うのが好ましい。
【0033】
大気圧プラズマの発生には、例えば、印加電圧の周波数が50Hz~2.45GHzの高周波電源を用いるとよい。プラズマ発生装置や樹脂体の構成材料等によるため一概にはいえないが、例えば、出力電力密度(単位面積当たりの出力電力)を15W/cm2以上とすればよく、上限は特に限定されないが、例えば40W/cm2以下であってもよい。
また、パルス出力を使用する場合は、1~50kHzのパルス変調周波数(好ましくは5~30kHz)、5~99%のパルスデューティ(好ましくは15~80%、より好ましくは25~70%)とするとよい。対向電極には、少なくとも片側が誘電体で被覆された円筒状又は平板状の金属を用いることができる。対向させた電極間の距離は、他の条件にもよるが、プラズマの発生と加熱の観点からは、5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは2mm以下、特に好ましくは1mm以下である。対向させた電極間の距離の下限は特に限定されないが、例えば0.5mm以上である。
【0034】
プラズマを発生させるために用いるガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの希ガス、酸素、窒素、水素などの反応性ガスを用いることができる。即ち、本発明で用いるガスとしては、非重合性ガスのみを用いるのが好ましい。
また、これらのガスは、1種又は2種以上の希ガスのみを用いてもよいし、1種又は2種以上の希ガスと適量の1種又は2種以上の反応性ガスの混合ガスを用いてもよい。
プラズマの発生は、チャンバーを用いて上述のガス雰囲気を制御した条件で行ってもよいし、例えば希ガスを電極部にフローさせる形態をとる完全大気開放条件で行ってもよい。
【0035】
なお、本発明では、樹脂体の、プラズマ照射面と反対側の面には、プラズマ処理の影響はほとんどない(プラズマ照射面よりも硬さ向上等の影響が小さい)ため、フッ素系樹脂が元来有する諸特性(例えば、耐薬品性、耐候性、耐熱性、電気絶縁性など)は損なわれることなく、十分に発揮される。
【0036】
以下では、本発明で用いられる樹脂体の製造方法に適用可能な大気圧プラズマ処理の実施形態の一例を、主に、樹脂体がPTFE製のシート形状(厚さ:0.2mm)である場合を例にして、
図1を参照しつつ説明するが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得ることは勿論である。
【0037】
図1は、本発明において使用可能な大気圧プラズマ処理装置の一例である容量結合型大気圧プラズマ処理装置の概念図を示したものである。
図1(a)に示す大気圧プラズマ処理装置Aは、高周波電源10、マッチングユニット11、チャンバー12、真空排気系13、電極14、電極昇降機構15、接地された円柱型回転ステージおよび試料ホルダー16、回転ステージ制御部(図示せず)から構成されている。回転ステージ16は、電極14と対向するように配置されている。円柱型回転ステージおよび試料ホルダー16としては、例えばアルミ合金製のものを用いることができる。電極14としては、
図1(b)に示すように、棒状の形状を有し、例えば銅製の内管18の表面を、例えば酸化アルミニウム(Al
2O
3)の外管19で被覆した構造を有するものを用いることができる。
【0038】
図1に示す大気圧プラズマ処理装置Aを用いた樹脂体の表面改質方法は以下のとおりである。先ず、樹脂体を必要に応じてアセトン等の有機溶媒や超純水等の水で洗浄した後、
図1(a)に示すように、チャンバー12内の試料ホルダー16にシート形状の試料(フッ素樹脂を含む樹脂体)20を配置した後、図示しない吸引装置により、真空排気系13からチャンバー12内の空気を吸引して減圧し、プラズマを発生させるガスをチャンバー12内に供給し(
図1(a)矢印参照)、チャンバー12内を大気圧にする。なお、試料20は、
図1(a)では図示しておらず、後述する
図1(b)のみに図示している。
【0039】
図1(a)のような装置であれば、樹脂体の表面近傍(プラズマ照射領域)の酸素濃度を0.5体積%未満として、プラズマ処理を行うことができる。
【0040】
次に、電極昇降機構15の高さ(
図1(a)の上下方向)を調整し、電極14を所望の位置に移動させる。電極昇降機構15の高さを調整することで、電極14と試料20の表面(上面)との距離を調整することができる。電極14と試料20表面間の距離は、5mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。特に、プラズマ処理による自然昇温により、樹脂体表面温度を特定の範囲にする場合は、その距離は1.0mm以下であるのが特に好ましい。尚、試料20を回転ステージ16の回転により移動させるため、電極14と試料20を接触させてはならないのは勿論のことである。
また、回転ステージ16を回転させることで、樹脂体表面の所望の部分にプラズマを照射することができる。例えば、回転ステージ16の回転速度は、1~3mm/秒が好ましいが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではない。尚、試料20へのプラズマ照射時間は、例えば、回転ステージ16の回転速度を可変させることや回転ステージ16を所望回数反復回転させることで調整することができる。
【0041】
回転ステージ16を移動させることで試料20を移動させつつ、高周波電源10を作動させることで、電極14と回転ステージ16との間にプラズマを発生させ、試料20の表面の所望の範囲にプラズマを照射する。この時、高周波電源10として、例えば上述のような印加電圧の周波数や出力電力密度のものを用い、例えばアルミナ被覆銅製電極とアルミ合金製試料ホルダーを用いることで、誘電体バリア放電条件下でのグロー放電を実現することができる。そのため、樹脂体表面に安定して過酸化物ラジカルを生成させることができる。過酸化物ラジカルの導入は、プラズマ中に含まれるラジカル、電子、イオン等により、PTFEシート表面の脱フッ素によるダングリングボンドの形成が誘起され、チャンバー内に残存していた空気あるいはプラズマ処理後に清浄な空気にさらすことで空気中の水成分等と反応することで行われる。また、ダングリングボンドには、過酸化物ラジカルの他、水酸基、カルボニル基などの親水性官能基が自発的に形成され得る。
【0042】
樹脂体表面に照射するプラズマの強度は、上述の高周波電源の各種パラメータ、電極14と樹脂体表面間の距離等により、適宜調整することができる。なお、上記した大気プラズマ発生の好ましい条件(印加電圧の周波数、出力電力密度、パルス変調周波数、パルスデューティ等)は、特に樹脂体がPTFE製のシート形状である場合について有効である。また、出力電力密度に応じて、樹脂体表面に対する積算の照射時間を調整することで、樹脂体表面を特定の温度範囲にすることも可能である。例えば、印加電圧の周波数が5~30MHz、電極14と樹脂体表面間の距離が0.5~2.0mm、出力電力密度が15~30W/cm2である場合、樹脂体表面に対する積算の照射時間を50秒~3300秒とするのが好ましく、250秒~3300秒とするのがより好ましく、550秒~2400秒とするのが特に好ましい。特にPTFE製のシート形状の樹脂体の表面温度を210~327℃とし、照射時間を600~1200秒とすることが好ましい。照射時間が長すぎる場合は、加熱による影響が表れる傾向にある。なお、プラズマ照射時間とは、樹脂体表面にプラズマが照射されている積算時間を意味し、プラズマ照射時間の少なくとも一部で樹脂体表面温度が(融点-150)℃以上となっていればよく、例えばプラズマ照射時間のうちの1/2以上(好ましくは2/3以上)で樹脂体表面温度が(融点-150)℃以上となっていればよい。いずれの態様においても、樹脂体の表面温度を上記範囲とすることで、樹脂体表面のPTFE分子の運動性を向上させ、プラズマにより切断されたPTFE分子の炭素-フッ素結合のうちの炭素原子が、同様にして生じた他のPTFE分子の炭素原子と結合して炭素-炭素結合が生じる確率が格段に向上し、表面硬さを向上させることができる。
【0043】
また、試料20を加熱するための加熱手段を別途設けることができる。
図1(b)に示すように樹脂体の表面を直接加熱するためにハロゲンヒーター17などの熱線照射装置を電極14の近傍部に配置してもよいし、チャンバー12内の環境温度を昇温するために、チャンバー12内の上述のガスを加熱する加熱装置と、加熱されたガスをチャンバー12内に循環させる撹拌翼等を備えた循環装置をチャンバー12内に配置してもよいし、試料20を下面側から加熱するために、回転ステージ16に加熱手段を配置してもよいし、これらを組み合わせてもよい。加熱手段による加熱温度は、樹脂体を構成するフッ素系樹脂の特性、成型体の形状、プラズマ処理による加熱効果等を考慮して、適宜設定、制御するとよい。また、プラズマ照射時に所望の温度になるように、高周波電源10を作動させる前に、成型体を予備加熱しておくのが好ましい。
【0044】
また、プラズマ処理時の成型体の表面温度は、
図1(b)に示すように放射温度計21を用いたり、温度測定シールを用いたりすることによって測定することができる。
【0045】
2.ゲル体の表面にプラズマ処理する工程
ゲル体と樹脂体との接着性を高めるためにゲル体の表面改質を行うことが考えられるが、樹脂体と同様に上述の
図1に記載の装置を用いて大気圧プラズマ処理を行うとゲル体と樹脂体との接着性を高めることができなかった。ところが、ゲル体の表面近傍(プラズマ照射領域)の酸素濃度を1体積%以上としてプラズマ処理を行い、表面改質されたゲル体を製造することによりゲル体と樹脂体との接着性を高めることができることがわかった。ゲル体の表面に対する大気圧プラズマ処理の方法は特に限定されないが、プラズマジェット処理であることが好ましい。なお、2.及び後述の3.ではゲル体の表面にプラズマ処理する工程(上記(I)の工程)の説明を行い、ゲル体の表面にプラズマ処理を行わずにゲル体と樹脂体との接着性を高める方法(上記(II)の工程)については後述の4.にて説明を行う。
【0046】
ゲル体の表面近傍の酸素濃度は3体積%以上とすることが好ましく、5体積%以上とすることがより好ましく、7体積%以上とすることがさらに好ましく、10体積%以上とすることが特に好ましい。
【0047】
以下では、本発明で用いられるゲル体に適用可能なプラズマジェット処理の実施形態の一例を、図を参照しつつ説明するが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得ることは勿論である。
【0048】
図2は、本発明において使用可能なプラズマジェット処理装置におけるプラズマ照射ヘッドの概念図を示したものである。プラズマ照射ヘッド31では、反応室33内で生成したプラズマを、プラズマ照射ヘッド31の外に配された処理対象物(試料38)に向けて吹き出しており、いわゆるリモート式のプラズマ処理装置となっている。プラズマ照射ヘッド31には一対の電極32、32が相対向して配置されており、両電極32、32のうちの一方が電源に接続され、他方が電気的に接地されており(電源、接地は図示せず)、反応室33内にガスを流入させた状態で電源から電圧を供給すればプラズマの生成が可能となる。プラズマ照射ヘッド31においては、ガス供給装置34から流入路(ガス導入口)35に処理用のガスGを導入してプラズマ(即ちプラズマ化された処理用ガス)を生成し、そのプラズマを躯体36に形成されたガス吹き出し口37から吹き出し、ガス吹き出し口37の下方にある試料(ゲル体)38の表面に吹き付けるようにしている。ガス吹き出し口37の下方は密閉されていないため、大気が流入しており、試料38近傍の酸素濃度は流入路35近傍のガスG中の酸素濃度に比べて高くなっている。ガスGとしては、窒素及び空気からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。また、ガス吹き出し口37と試料38表面間の距離は、50mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。
ステージ39を上下左右に移動させることにより、試料38の所望の部分にプラズマを照射することができる。例えば、ステージ39の移動速度は、0.5~10mm/秒が好ましいが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではない。尚、試料38へのプラズマ照射時間は、例えば、ステージ39の移動速度を可変させることやステージ39を所望回数往復させることで調整することができる。
【0049】
3.樹脂体とゲル体の接触及び接着工程
表面改質された樹脂体の改質された表面と表面改質されたゲル体の改質された表面とを接触させた状態で熱圧着(加熱及び加圧)すると、両者を直接接合できる。これにより、樹脂体とゲル体との接合体が得られる。熱圧着は、ゲルが熱圧着中に破壊されなければ特に限定されず、例えば、加熱温度を120~200℃、圧力を0.3~10MPaとして、5~40分間程度加熱及び加圧処理すればよい。
【0050】
樹脂体とゲル体とが接合(接着)し、良好な接着強度が実現できるメカニズムは以下のように考えられるが、下記メカニズムに限定されない。
樹脂体の表面に高電力でプラズマ処理を行うことにより、樹脂体表面に導入された過酸化物ラジカルに起因してC-OH基やCOOH基(カルボキシル基)が低電力でプラズマ処理を行う場合と比べて多く形成されることとなる。一方、ゲル体の表面にプラズマ処理を行うことにより、ゲル体表面にC-OH基やCOOH基(カルボキシル基)が形成される。このように樹脂体及びゲル体の表面を改質することにより、樹脂体とゲル体との接着性を向上させることができる。また、ゲル体も親油性シリカ粒子を含むと、上述のとおり、硬くて強いゲル体となるため、ゲルの機械的強度を増加することができ、その結果、積層体を被着体から脱離する際にゲル体が破壊するのを抑制でき、被着体に着脱して使用可能な積層体となる。
【0051】
樹脂体において、樹脂体及びゲル体の表面がプラズマ処理されており、プラズマ処理された樹脂体の表面とプラズマ処理されたゲル体の表面とが直接接合されたものであることが好ましい。上記プラズマ処理を行うことにより、プラズマ処理以外の表面改質を行う必要がなく、接着強度に優れた積層体を得ることができる。また、樹脂体とゲル体との間に他の層を積層することなく、樹脂体とゲル体とを直接接合(積層)することができる。
【0052】
4.ゲル体の表面にプラズマ処理を行わずに本発明の積層体を作製する方法
上記2.及び3.の工程に代えて、硬化されていないゲル状物と表面改質された樹脂体とを積層し、その後、ゲル状物を加熱硬化してゲル体とすることでも、接着強度を高めることができる。例えば、枠型に表面改質された樹脂体をセットし、表面改質された樹脂体の上にシリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むゲル状物を充填し、その後加熱硬化してゲル体とすることにより積層体を作製する方法や、シリコーンゲル及び親油性シリカ粒子を含むゲル状物を枠型に充填し、ゲル状物の上に表面改質された樹脂体を積層した後に加熱硬化してゲル体とすることにより積層体を作製する方法などが挙げられる。上記加熱硬化を行うことによりゲル体表面にシラノール基が生成され、プラズマ処理した樹脂体の表面近傍に存在する含酸素官能基やC-O-O*(過酸化物ラジカル)と相互作用(化学結合または水素結合)するため、上記(I)の工程(上記2.及び3.の工程)に代えて上記(II)の工程で積層体を作製しても接着強度を0.4N/mm以上とすることができると推測される。
【0053】
<その他>
原子間力顕微鏡(AFM)の表面形態観察機能と赤外分光法(IR)の官能基特定機能を組み合わせたAFM-IRという装置は、10nm程度の非常に高い空間分解能を持ち、表面形態に関する情報だけでなく、表面に存在する官能基の分布も明らかにすることが可能である。本発明の積層体(例えば、後述の実施例に記載のPTFEシートとシリコーンゲルシートとの積層体など)の断面をAFM-IRを用いて分析すれば、積層体を構成する材料の特定はもちろんプラズマ処理による表面改質深さ(100nm以下)や界面粗さ(200nm以下)を特定できるため、リバースエンジニアリングが可能である。そのため、上記装置を用いて得られる複数のデータに基づき総合的に判断することによって、樹脂体において、ゲル体が積層される側の面ではプラズマ処理以外の表面改質が行われていないことを特定することができる。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
(実施例1)
以下のようにして、PTFEシート及びシリコーンゲルシートをそれぞれ準備した。
【0056】
<PTFEシート>
(A-1)洗浄
日東電工株式会社にて厚さ0.2mmに切削されたPTFEシート(ニトフロンNo.900UL)を一定の大きさ(幅:4.5cm×長さ:7cm)に切り分けたものを準備した。この樹脂体をアセトン中で1分間超音波洗浄した後、純水中で1分間超音波洗浄した。その後、PTFEシートに付着した純水は、エアガンにより窒素ガス(純度:99%以上)を吹付け除去した。
【0057】
(A-2)高温プラズマ処理
図1に示す構成を有するプラズマ発生装置(明昌機工株式会社製、製品名K2X02L023)を用いて、上記(A-1)の洗浄を行ったPTFEシートの表面をプラズマにより改質した。
プラズマ発生装置の高周波電源として、印加電圧の周波数が13.56MHzのものを用いた。電極としては、内径1.8mm、外径3mm、長さ165mmの銅管を外径5mm、厚さ1mm、長さ145mmのアルミナ管で被覆した構造のものを用いた。試料ホルダーとしては、アルミ合金製で直径:50mm、幅:3.4cmの円柱状のものを用いた。試料ホルダーの上面に、PTFEシートを載せ、樹脂体表面と電極との距離が1.0mmになるように設定した。
チャンバーを密閉し、ロータリーポンプにより10Paになるまで減圧した後、大気圧(1013hPa)になるまでヘリウムガスを導入した。その後、出力電力密度が19.1W/cm
2になるように高周波電源を設定するとともに、走査ステージを、移動速度が2mm/秒で、電極が通過する長さが樹脂体の長さ方向に30mm分移動するように設定した。その後、高周波電源を作動させ、走査ステージを移動させ、幅:1.0cm×長さ:3.4cmの範囲内でプラズマ照射を行った。プラズマの照射時間は、走査ステージの長さ方向への30mmの移動を60回行う(60回往復させる)時間とした。また、PTFEシート表面近傍(プラズマ照射領域)における酸素濃度を東レエンジニアリング株式会社製ジルコニア式酸素濃度計LC-300を用いて測定したところ、25.7ppmであり、0.5体積%を大きく下回っていた。そして、プラズマ処理時の樹脂体の表面温度を、放射温度計(FT-H40KおよびFT-50A、株式会社キーエンス製)により測定したところ、203℃であった。
【0058】
<シリコーンゲルシート>
(B-1)シリコーンゲルシートの作製
2液付加硬化型熱硬化性液状シリコーンゲルであるWACKER社製SILGEL612と親油性シリカ粒子である東ソー・シリカ株式会社製Nipsil(登録商標)SS-30Pとを添加した後に混合し、その後80℃で60分加熱硬化させて、幅:4.8cm、長さ:10cm、厚さ:13mmのシリコーンゲルシートを作製した。なお、2成分系であるSILGEL612の成分Aと成分Bを成分A100質量部に対して成分B63.4質量部を配合させており、SILGEL612を100g、SS-30Pを15g添加させた。
【0059】
シリコーンゲルの針入度を株式会社離合社製の装置(型式:840I-01)を用いてJIS K2220に準拠して測定した。内径48mmのガラス容器内に高さ40mm以上となるように液状(硬化前)のゲルを注入し、80℃で60分間加熱してゲルを硬化した。その後、9.38gの1/4円錐治具(コーン)を使用し、コーンの針の先端を試料表面に合わせた後、自由落下によりコーンを試料中に侵入させ、5秒後のコーンの試料表面からの侵入距離を測定した。侵入距離については3回測定を行いその平均値をミリ単位で算出し、上記平均値の10倍の数値を針入度とした(0.1mmを針入度1として換算した)。上記「(B-1)シリコーンゲルシートの作製」で作製されたシリコーンゲルシートの針入度は10であった。なお、針入度の測定はシリカ粒子を添加せずに測定を行った。
【0060】
(B-2)プラズマジェット処理
図2に示す構成を有する超高密度大気圧プラズマユニット(株式会社FUJI製Tough Plasma FPE20)を用いて、上記(B-1)で得られたシリコーンゲルシートの表面をプラズマジェット処理により改質した。
プラズマ照射領域への窒素ガスの流量を29.7L/min、空気の流量を0.3L/minとし、すなわち窒素ガス及び空気の合計流量を100%とすると空気の割合が1.0%、酸素の割合が0.2%となるようにしたが、密閉式の装置ではなく、シリコーンゲル体の近傍には大気が流入しているため、プラズマ照射領域における酸素濃度を東レエンジニアリング株式会社製ジルコニア式酸素濃度計LC-300を用いて測定したところ11.3体積%であった。プラズマ吹き出し口とシリコーンゲルとの距離を20mmとし、ステージの移動速度を8mm/秒とし、ステージを往復させることなく1回だけプラズマジェット処理した。
【0061】
(C)積層体の作製
PTFEシートのプラズマ処理した表面とシリコーンゲルシートのプラズマ処理した表面とを接触させ、接合範囲が20mm×30mm、未接合範囲(掴みしろ)が10mm×30mmとなるように、温度140℃、圧力0.5MPaで10分間、加熱及び加圧処理し、PTFEシートとシリコーンゲルシートとの積層体を作製した。
【0062】
デジタルフォースゲージ(ZP-200N,株式会社イマダ製作所製)と電動スタンド(MX-500N,株式会社イマダ製作所製)を組み合わせて用いて、掴みしろをチャックにはさみ、PTFEシートとシリコーンゲルシートとを180度の方向に引張り、T字はく離試験を行い、PTFEシートとシリコーンゲルシートとの接着強度を測定した。ロードセルは1kN、引張速度は60mm/minとした。接着強度は1.12N/mmであった。なお、後述する比較例3、4以外の全ての実施例及び比較例において、接着強度の測定時にシリコーンゲルシート内で材料破壊が生じており、PTFEシートとシリコーンゲルシートとの界面の破壊(剥離)は生じていなかった。
【0063】
また、実施例1の積層体をアルミニウム基板(株式会社UACJ製、A1050)に接着させてすぐに脱離させる着脱を10回連続で行ったが、10回着脱後も樹脂体とゲル体との界面の剥離やシリコーンゲルシート内で材料破壊は生じておらず、10回着脱後においても着脱開始前の積層体と変化はなかった。後述する実施例2~5でも実施例1と同様の着脱を行ったが実施例1と同様の結果が得られた。
【0064】
(実施例2)
シリコーンゲルシートの厚さを3.5mmに代えた以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.84N/mmであった。なお、実施例1以外の実施例や比較例でも上述の接着強度の測定方法で測定した。
【0065】
(比較例1)
親油性シリカ粒子を添加しない以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.34N/mmであった。
【0066】
(比較例2)
親油性シリカ粒子を添加しない以外は、実施例2と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.21N/mmであった。
【0067】
(実施例3)
「(B-1)シリコーンゲルシートの作製」を以下の「(B-1’)シリコーンゲルシートの作製」に記載の製造方法に変更した以外は実施例1と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.52N/mmであった。なお、後述する(B-1’)シリコーンゲルシートの作製で作製されたシリコーンゲルシートについて上述の方法により針入度を算出したところ40であった。
【0068】
(B-1’)シリコーンゲルシートの作製
枠型に付加硬化型熱硬化性液状シリコーンゲル(信越化学工業株式会社製KE-1062、23℃での粘度:700mPa・s、Pt触媒を含む)を100g、親油性シリカ粒子として東ソー・シリカ株式会社製Nipsil(登録商標)SS-30Pを15g添加した後にこれらを1分間撹拌した。その後、シリコーンゲル等が充填された枠型をオーブンにて120℃で30分間加熱し、幅:4.8cm、長さ:10cm、厚さ:13mmのシリコーンゲルシートを作製した。
【0069】
(実施例4)
上記(B-1’)において、親油性シリカ粒子を25g添加し、シリコーンゲルシートにおいて、シリコーンゲル100質量部に対し、親油性シリカ粒子を25質量部となるように添加した以外は、実施例3と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は1.06N/mmであった。
【0070】
(比較例3)
上記(B-1’)において、シリコーンゲル100質量部に対し、親油性シリカ粒子を30質量部となるように添加した以外は、実施例3と同様に積層体を作製しようとしたところ、シリコーンゲルシート内で気泡が大量に発生してしまい、シリコーンゲルシートをPTFEシートに接着させることができなかった。
【0071】
(比較例4)
実施例4において、上記(B-2)のプラズマジェット処理を行わなかった以外は、実施例4と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.02N/mmであった。なお、比較例4は、接着強度の測定時にPTFEシートとシリコーンゲルシートとの界面の破壊(剥離)が生じており、シリコーンゲルシートの材料破壊は生じていなかった。
【0072】
(比較例5)
実施例4において、親油性シリカ粒子に代えて、親水性シリカ粒子である東ソー・シリカ株式会社製Nipsil(登録商標)VN3を用いた以外は、実施例4と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。シリコーンゲルにオイルが含まれているため、親水性シリカがシリコーンゲルになじまず、シリコーンゲルシートを作製する工程において、親水性シリカとシリコーンゲルとを撹拌したときに気泡が発生し、時間が経過しても気泡が消失しなかった。そして、シリコーンゲルシート中に気泡が存在するため、接着強度は0.09N/mmと低くなってしまった。
【0073】
(比較例6)
実施例4において、親油性シリカ粒子を添加しない以外は、実施例4と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.06N/mmであった。
【0074】
(比較例7)
比較例6において、シリコーンゲルシートの厚さを3.5mmに代えた以外は、比較例6と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。接着強度は0.04N/mmであった。
【0075】
(実施例5)
「(B-1)シリコーンゲルシートの作製」~「(C)積層体の作製」の工程を、以下の「(D)シリコーンゲルシート及び積層体の作製」に記載の製造方法に変更した以外は実施例3と同様に積層体を作製し、接着強度を測定した。実施例5の接着強度は0.49N/mmであり、実施例5とは製造方法のみが異なる実施例3と同程度の接着強度であり、上記(I)の製造方法を上記(II)の製造方法に変更しても同程度の接着強度となることがわかった。
【0076】
(D)シリコーンゲルシート及び積層体の作製
付加硬化型熱硬化性液状シリコーンゲル(信越化学工業株式会社製KE-1062、23℃での粘度:700mPa・s、Pt触媒を含む)を100g、親油性シリカ粒子として東ソー・シリカ株式会社製Nipsil(登録商標)SS-30Pを15g添加した後にこれらを1分間撹拌した。上記(A-1)及び(A-2)の製造方法で準備したプラズマ処理されたPTFEシートを枠型にあらかじめ敷いておき、その上からシリコーンゲルを充填した。その後、PTFEシートとシリコーンゲル等が充填された枠型をオーブンにて120℃で30分間加熱し、PTFEシートと幅:4.8cm、長さ:10cm、厚さ:13mmのシリコーンゲルとの積層体を作製した。
【0077】
実施例1~5及び比較例1~7の積層体の組成及び物性を表1に記載した。なお、製造方法の欄に記載した(I)及び(II)の番号は、本発明の積層体の製造方法を説明した箇所において記載した番号を用いている。
【0078】
【0079】
また、親油性シリカ粒子が25質量%添加されている実施例4、親油性シリカ粒子が15質量%添加されている以外は実施例4と同じである実施例3、親油性シリカ粒子が添加されていない以外は実施例4と同じである比較例6において損失係数tanδを測定したところ、実施例4の損失係数tanδは0.465、実施例3の損失係数tanδは0.549、比較例6の損失係数tanδは0.592であった。よって、親油性シリカ粒子の添加量が多いほど粘性の寄与が小さくなり、硬くて強いゲル体となることがわかった。損失係数tanδは株式会社ユービーエム製の型番:Rheogel-E4000を使用し、圧縮測定モードで歪み量20μm、周波数10Hz、測定時間5分の条件で測定した。