(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081306
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】組成物及び膜
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20230602BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230602BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20230602BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C08L27/12
C08L101/00
C08K3/08
C08J5/18 CER
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178356
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021194149
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 俊輔
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AA33
4F071AA88
4F071AB07
4F071AD02
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4F071AH07
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4J002AA01X
4J002BB02X
4J002BB11X
4J002BB17X
4J002BC02X
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4J002CL01X
4J002CL03X
4J002DA076
4J002DA096
(57)【要約】 (修正有)
【課題】抗菌性及び/又は抗ウイルス性に優れる新規な組成物及び膜を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂A、重合体B及び金属元素Qを含む粉体Cを含む。重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成を有する。水溶液系における金属元素Qの標準電極電位E゜が-1.5V以上2.0V以下である。粉体Cのメディアン径D50が0.5~30μmである。樹脂Aと重合体Bとの合計100質量部に対して、樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、重合体Bの含有量は1~99質量部であり、粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、金属元素Qを含む粉体Cと、を含む組成物であって、
前記重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成単位を有し、
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が-1.5V以上2.0V以下であり、
前記粉体Cのレーザー回折法により測定されるメディアン径D50が0.5~30μmであり、
前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である、組成物。
【化1】
式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、である。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にハロゲン原子で置換されていてもよい。
【請求項2】
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が0V以上1.5V以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記粉体Cのメディアン径D50が1~25μmである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aが10~85質量部であり、前記重合体Bが15~90質量部である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記樹脂Aがアクリル系樹脂である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
樹脂Mと、金属元素Qを含む粉体Cと、を含む膜であって、
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が-1.5V以上2.0V以下であり、
前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域と、前記粉体Cの島領域とを有し、
前記膜の表面における、前記海領域及び前記島領域の合計面積に対する前記島領域の割合が0.05%以上49%未満である、膜。
【請求項7】
請求項6に記載の膜を外面の少なくとも一部に有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組成物及び膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂組成物に対して抗菌・抗ウイルス性を付与することが試みられている。
【0003】
特許公報1には、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)が50質量%以上95質量%以下と、ポリメチルメタアクリル酸樹脂(PMMA)が5質量%以上50質量%以下と、有機系抗菌剤0.05質量%以上5質量%以下、無機系抗菌剤0.05質量%以上5質量%以下、無機有機複合系抗菌剤0.05質量%以上5質量%以下を含むPVDF系抗菌フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、樹脂組成物に対して、抗菌性・抗ウイルス性を付与するために、有機系抗菌剤及び有機系抗ウイルス剤などの有機系添加物を添加しても、エタノールなどのアルコール成分でふき取られると抗菌性・抗ウイルス性に有効に働く成分が同時に除去されて、抗菌性・抗ウイルス性に有効に働く成分が徐々に減少してしまう。したがって、有機系添加物を添加した抗菌性の組成物は長期的に使用する用途には適用が困難であった。
そこで、有機系添加物に替えて、樹脂に抗菌性・抗ウイルス性を付与できる新規な組成物及びまくが求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、抗菌性及び抗ウイルス性に優れる新規な組成物及び膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、金属元素Qを含む粉体Cと、を含む組成物であって、
前記重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成単位を有し、
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が-1.5V以上2.0V以下であり、
前記粉体Cのレーザー回折法により測定されるメディアン径D50が0.5~30μmであり、
前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。
【化1】
式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基、である。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にハロゲン原子で置換されていてもよい。
[2]水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が0V以上1.5V以下である[1]に記載の組成物。
[3]前記粉体Cのメディアン径D50が1~25μmである[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aが10~85質量部であり、前記重合体Bが15~90質量部である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]前記樹脂Aがアクリル系樹脂である[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6]樹脂Mと、金属元素Qを含む粉体Cと、を含む膜であって、
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が-1.5V以上2.0V以下である。
前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域と、前記粉体Cの島領域とを有する。
前記膜の表面における、前記海領域及び前記島領域の合計面積に対する前記島領域の割合が0.05%以上49%未満である。
[7]上記の膜を外面の少なくとも一部に有する物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗菌性及び抗ウイルス性に優れる新規な組成物及び膜が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る膜の表面の拡大模式図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る膜の表面近傍の断面の拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(組成物)
本実施形態の組成物は、熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、金属元素Qを含む粉体Cを含む組成物である。樹脂Aと重合体Bとの合計100質量部に対して、樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、重合体Bの含有量は1~99質量部であり、粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。
【0012】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂の例は、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、アミド系樹脂、ビニル系重合体である。熱可塑性樹脂Aは、単独樹脂であってもよく、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0013】
<オレフィン系重合体>
本発明のオレフィン系重合体とは、炭素原子数2~10のオレフィンに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体である(ただし、オレフィン系重合体の全量を100重量%とする)。炭素原子数2~10のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられ、任意の複数種を含んでいてもよい。
【0014】
また、オレフィン系重合体は、炭素原子数2~10のオレフィン以外の単量体に由来する構成単位を含有していてもよい。この炭素原子数2~10のオレフィン以外の単量体としては、例えば、スチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などの共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン;プロピレンが挙げられる。
【0015】
オレフィン系重合体は、他のモノマーに由来する構成単位を、2種以上有していてもよい。
【0016】
オレフィン系重合体は、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、及びブテン系重合体からなる群から選択される少なくとも1つであることができ、これらの内の任意の2種以上の組み合わせであってもよい。
【0017】
エチレン系共重合体とは、エチレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、エチレン単独重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、及び、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体である。エチレン系共重合体は、2以上のエチレン系共重合体の組み合わせであってもよい。
【0018】
プロピレン系共重合体とは、プロピレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、及び、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体である。プロピレン系共重合体は、2種以上のプロピレン系共重合体の組み合わせであってもよい。オレフィン系重合体がプロピレン系共重合体であることは好適である。
【0019】
ブテン系共重合体とは、1-ブテンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、1-ブテン単独重合体、1-ブテン-エチレン共重合体、1-ブテン-プロピレン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-エチレン-プロピレン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、及び、1-ブテン-プロピレン-1-オクテン共重合体である。ブテン系共重合体は、2種以上のブテン系共重合体の組み合わせであってもよい。
【0020】
<スチレン系重合体>
スチレン系重合体とは、スチレンもしくはスチレン誘導体に由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体である。スチレン誘導体としては、例えば、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレンを挙げることができる。スチレン重合体は、スチレンもしくはスチレン誘導体以外の単量体に由来する構成単位を含有していてもよく、例えば、炭素原子数2以上10以下のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などの共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエンをあげることができる。
【0021】
<メタクリル系樹脂>
メタクリル系樹脂とは、メタクリル酸エステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0022】
本発明のメタクリル系樹脂は、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル50~100重量%と、アクリル酸エステル0~50重量%と、これらに共重合可能な他の重合性モノマーの少なくとも1種の0~49重量%とからなる単量体の重合によって得られる。好ましくは、ガラス転移温度が40℃以上の熱可塑性重合体である。ここで、アクリル酸エステルは、より好ましくは0.1~50重量%の範囲で用いられ、メタクリル酸アルキルエステルのより好ましい共重合割合は、50~99.9重量%の範囲である。また、このメタクリル系樹脂のガラス転移温度は、より好ましくは60℃以上である。
【0023】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチルなどのようなアルキル基の炭素数が1~8であるメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4である。これらの中でも耐久性の観点から、特にメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。メタクリル酸アルキルエステルは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
メタクリル酸アルキルエステルに共重合可能な他の重合性モノマーとしては、従来、この分野で知られている各種単量体が挙げられる。このような単量体としては、例えば、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を1個有する単官能モノマー、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を少なくとも2個有する多官能モノマーなどが挙げられ、単官能モノマーが好ましく用いられる。単官能モノマーとしては、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ハロゲン化スチレン、ヒドロキシスチレンのようなスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルのようなシアン化ビニル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのような不飽和酸;N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドのようなマレイミド;メタリルアルコール、アリルアルコールのような不飽和アルコール;酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールのような他のモノマーなどが挙げられる。
これらメタクリル酸アルキルエステルに共重合可能な他の重合性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂とは、アクリル酸エステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(アクリル酸ブチル)、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0026】
アクリル酸エステルとしては、通常、アクリル酸アルキルエステルが用いられる。アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチルのようなアルキル基の炭素数が1~8であるアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~4である。アクリル酸エステルは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
アクリル酸アルキルエステルに共重合可能な他の重合性モノマーとしては、従来、この分野で知られている各種単量体が挙げられる。このような単量体としては、例えば、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を1個有する単官能モノマー、分子内に重合性の炭素-炭素二重結合を少なくとも2個有する多官能モノマーなどが挙げられ、単官能モノマーが好ましく用いられる。単官能モノマーとしては、具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ハロゲン化スチレン、ヒドロキシスチレンのようなスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルのようなシアン化ビニル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのような不飽和酸;N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミドのようなマレイミド;メタリルアルコール、アリルアルコールのような不飽和アルコール;酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、4-メチル-1-ペンテン、2-ヒドロキシメチル-1-ブテン、メチルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾールのような他のモノマーなどが挙げられる。
これらアクリル酸アルキルエステルに共重合可能な他の重合性モノマーとは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
<エステル系樹脂>
エステル系樹脂とは、多価カルボン酸と多価アルコールとのエステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリカルボナート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0029】
<アミド系樹脂>
アミド系樹脂とは、アミド結合で繰り返される構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(ε-カプロラクタム)、ポリドデカンアミド、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンドデカンアミド)、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンテレフタルアミド)等が挙げられる。
【0030】
<ビニル系重合体>
本発明のビニル系重合体とは、ビニル基をもつ単量体に由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0031】
なかでも、アクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂は透明性が高いことから好ましい。
【0032】
(熱可塑性樹脂AのTg)
熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、湿雪における滑雪性の観点から、0℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、更により好ましくは80℃以上である。ガラス転移温度(Tg)が大きいほど、組成物の湿雪における滑雪性が優れる傾向にある。
【0033】
熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0034】
(熱可塑性樹脂AのMFR)
熱可塑性樹脂Aの、温度190℃もしくは230℃、及び荷重2.16kgfもしくは3.80kgf(37.3N)の条件で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は0.01g/10分以上であることができ、200g/10分以下であることができる。MFRの上限は、100g/10分、50g/10分、30g/10分であることができる。熱可塑性樹脂Aのメルトマスフローレイトが小さいほど、組成物の成形性が優れる傾向にある。
【0035】
上記の熱可塑性樹脂Aの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0036】
(重合体B)
本発明の重合体Bは、式(1)又は式(2)で表される構成単位を有する重合体である。
【0037】
【化2】
式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、及び、アルキル基から選択される。ハロゲン原子の例は、F,Cl,Br,Iである。
【0038】
式(1)及び(2)のR1~R3の、アルコキシ基、アルキル基の炭素数は、好ましくは、1以上15以下、より好ましくは1以上10以下、更により好ましくは1以上5以下である。R1~R3のアルキル基及びアルコキシ基は、直鎖でも、分岐状でも、環状でもよいが、直鎖であることが好ましい。R1~R3の各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にフッ素などのハロゲン原子で置換されていてもよい。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の全ての水素原子が、フッ素などのハロゲン原子で置換されていることが好適である。
【0039】
重合体Bは、(1)及び/又は(2)式の構成単位を51重量%以上含有する重合体が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン(例えば四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0040】
加工性の観点から、重合体Bとしてポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、が好ましい。
【0041】
重合体Bとしてフッ化ビニリデン系重合体を用いる場合は、フッ化ビニリデン単位を含む樹脂であればよく、例えば、フッ化ビニリデン単位のみからなる単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)や、フッ化ビニリデン単位を含む共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデン単位の含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0042】
フッ化ビニリデンと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン等のフッ素化されたビニル単量体;スチレン、エチレン、ブタジエン、プロピレン等のビニル単量体が挙げられる。
【0043】
上記の重合体Bの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0044】
(重合体BのTm)
重合体BのDSCにより求められる融点は、特に限定されるものではないが、加工性の観点から、好ましくは300℃未満であり、より好ましくは280℃未満、更により好ましくは、260℃未満である。
重合体BのDSCにより求められる融点(Tm)は、重合体B中に含まれる結晶相の融解温度であり、具体的には、重合体Bを昇温したときに得られるDSC曲線において、最も高温側の吸熱ピークにおけるピークトップ温度である。
【0045】
なお、この融点は、以下の条件で測定する。(i)重合体Bの約10mgを、窒素雰囲気下、220℃で5分間熱処理した後、降温速度10℃/分で50℃まで冷却する。(ii)次いで、50℃において1分間保温した後、50℃から180℃まで昇温速度10℃/分で加熱する。
【0046】
(重合体BのMFR)
重合体Bの、温度230℃、もしくは温度190℃、もしくは300℃、及び荷重2.16kgf又は5kgfの条件で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は0.01g/10分以上であることができ、200g/10分以下であることができる。MFRの上限は、100g/10分、50g/10分、30g/10分であることができる。重合体Bのメルトマスフローレイトが小さいほど、組成物の成形性が優れる傾向にある。
【0047】
上記の重合体Bの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0048】
(金属元素を含む粉体C)
粉体Cは金属元素Qを含む。粉体Cは、金属元素Qを非イオンの状態(単体でも、合金のような混合物でもよい)で含んでいてもよく、イオンの状態(化合物も含む)で含んでいてもよい。
【0049】
(水溶液系における金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜)
水溶液系における金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜は-1.5V以上2.0V以下であり、0V以上1.5V以下でもよく、好ましくは0V以上1.0V以下である。
【0050】
標準電極電位E°は、1気圧及び25℃の環境下での標準水素電極を基準として表現される電位である。水溶液系における金属元素Qの単体の標準電極電位E゜とは、金属元素Qの単体と、当該金属元素の水和イオンとの間の電気化学反応に関する電極電位であり、金属元素Qのイオン化傾向に対応する。この値は、化学便覧基礎編改訂4版,丸善株式会社,II-464(1993)の12・2・1・fなどに記載されている。
【0051】
金属元素Q、E°、及び、金属元素Qの水和イオンの種類の組み合わせを以下に示す。例えば、Hg:0.8535V(Hg2+)、Ag:0.799V(Ag+)、Au:1.52V(Au3+)及び1.83V(Au+)、Pd:0.915V(Pd2+),、Pt:1.118V(Pt2+)、Cd:-0.4025V(Cd2+)、Co:-0.277V(Co2+)、Ni:-0.257V(Ni2+),Cu:0.340V(Cu2+)、Cu:0.520V(Cu+)、Zn:-0.7626V(Zn2+)、Ti:-1.63V(Ti2+)、Pb:-0.1263V(Pb2+)、Mn:-1.18V(Mn2+)である。なお、かっこ内は電極反応における水和イオンである。
【0052】
金属元素Qは、銀、又は、銅であることが好適である。
【0053】
粉体Cは、上記の金属元素Qを1種又は複数種含むことができる。
具体的には、粉体Cは、金属元素Qの単体又は合金の粉体であることができる。このような粉体Cの例は、銅粉、銀粉などである。
【0054】
また、粉体Cは、金属元素Qの化合物の粉体であることができる。化合物の例は、塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化物である。具体的な例は、CuF、CuI、AgCl、AgI等である。
【0055】
また、化合物の他の例は、酸化物である。酸化物の例は酸化銅(Cu2O,CuO)、酸化銀(Ag2O,AgO、Ag2O3)である。
【0056】
また、粉体Cは、マトリクス材料中に金属元素Qの単体、合金、及び/又は、イオン、或いは、金属元素Qの化合物が担持された形態であってもよい。
【0057】
マトリクス材料の例は、結晶性アルミノケイ酸塩、無定形アルミノケイ酸塩、シリカゲル、活性アルミナ、けいそう土、活性炭、リン酸ジルコニウム、ヒドロキシアパタイト、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、ガラス、シリコーン樹脂、炭素材料である。
【0058】
ガラスの例は、例えば元素ガラス、水素結合ガラス、酸化物ガラス、ケイ酸塩ガラス、ケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、フッ化物ガラス、塩化物ガラス、硫化物ガラス、炭酸塩ガラス、硝酸塩ガラス、硫酸塩ガラス、溶解性ガラス、結晶化ガラスである。特に、Ag、Cu等の金属イオンを担持したガラスが好適である。
ガラス等に金属元素Qを担持する方法の例は、溶融法、CDC法、ゾル・ゲル法、イオン交換法、イオン打ち込み法である。
シリコーン樹脂は式(3)に示される構成単位を含む。
【化3】
[式(3)中、R
4及びR
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基である。]
【0059】
R4及びR5の、アルコキシ基、アルキル基の炭素数は、好ましくは、1以上15以下、より好ましくは1以上10以下、更により好ましくは1以上5以下である。アルキル基及びアルキル基は、直鎖でも、分岐状でも、環状でもよいが、直鎖であることが好ましい。
【0060】
炭素材料のマトリクスの例は、熱硬化性樹脂、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレンなどである。
【0061】
(レーザー回折法により測定される粉体Cのメディアン径D50)
粉体Cのレーザー回折法により測定されるメディアン径D50は、抗菌性・抗ウイルス性の観点から、0.5μm以上であり、1μm以上であってよい。メディアン径D50は、30μm以下であり、25μm以下であってよく、20μm以下であってもよく、10μm以下であってよい。D50が大きすぎると、成形性が低下する傾向があり、粒子径が小さすぎると透明性が低下する傾向がある。
【0062】
メディアン径D50は、レーザー回折法粒度分布測定機を用いて、JISR1629に従って重量基準の粒度分布を測定し、得られた粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値から求めることができる。レーザー回折法粒度分布測定機としては、例えば、日機装株式会社MT-3300EX-IIが挙げられる。
【0063】
本発明における粉体Cは、100℃の温度でも固体粒子状の性質を示すことが好ましい。
【0064】
上記の無機化合物の製造方法としては特限定されず、公知のPVD法やCVD法などの気相法、共沈法やアルコキシド法やゾル・ゲル法や水熱合成法や重合法や噴霧乾燥法や凍結乾燥法などの液相法、樹脂混練や各種粉砕法やメカニカルアロイング法などを適用できる。
【0065】
<組成物>
本発明の組成物は、熱可塑性樹脂Aと、式(1)又は式(2)で表される構成単位を有する重合体Bと、粉体Cと、を含む組成物であって、樹脂Aと重合体Bとの合計100質量部に対して、樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、重合体Bの含有量は1~99質量部である。組成物において、樹脂Aの含有量は10~90質量部であり、重合体Bの含有量は10~90質量部であることが好適であり、樹脂Aの含有量は10~85質量部であり、重合体Bの含有量は15~90質量部であることがより好適であり、樹脂Aの含有量は10~80質量部であり、重合体Bの含有量は20~90質量部であることがより好適であり、樹脂Aの含有量は10~70質量部であり、重合体Bの含有量は30~90質量部であることがさらにより好適であり、樹脂Aの含有量は20~70質量部であり、重合体Bの含有量は30~80質量部であることがさらにより更に一層好適である。
【0066】
本発明の組成物において、樹脂Aと重合体Bとの合計100質量部に対して、粉体Cは、0.01~25質量部である。組成物において、粉体Cの含有量は0.01~20質量部であることが好適であり、粉体Cの含有量は0.01~15質量部であることがより好適であり、粉体Cの含有量は0.01~10質量部であることが更により好適であり、粉体Cの含有量は0.5~10質量部であることが更により一層好適である。
【0067】
(ガラス転移温度のピーク数)
本発明の組成物のガラス転移温度のピーク数は、好ましくは単峰である。言い換えると、熱可塑性樹脂Aと重合体Bとは、完全相溶であることが好ましい。
【0068】
組成物は、必要に応じて、熱可塑性樹脂A、重合体B、及び、粉体C以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、可塑剤、難燃剤、粘着付与剤、着色剤、金属粉末、無機繊維、有機繊維、複合繊維、無機ウィスカー、充填剤が挙げられ、前記安定剤としては、例えば、滑剤、老化防止剤、熱安定剤、耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤が挙げられる。耐光剤としては、ヒンダードアミン系耐光剤が挙げられ、着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック及び有機顔料が挙げられ、金属粉末としては、フェライトが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、金属繊維が挙げられ、有機繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維が挙げられ、無機ウィスカーとしては、チタン酸カリウムウィスカーが挙げられ、充填剤としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、セルロースパウダー、木粉が挙げられる。添加剤は、1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。添加剤は、樹脂Aの分散相に含まれていてよく、重合体Bの分散相に含まれていてもよく、樹脂Aと重合体Bが別の分散相を形成していてもよい。
【0069】
(組成物の製造方法)
本発明に係る組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとを溶融混練する方法、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとの存在下、熱可塑性樹脂Aと重合体Bを構成する各種モノマー成分を重合する方法が挙げられる。加工性の観点から、好ましくは熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとを溶融混練する方法である。
【0070】
上記に記載の溶融混練は、公知の装置を用いて公知の方法により行うことができる。例えば、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとを、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー等の混合装置を用いて混合した後、更に溶融混練する方法や、定量供給機を用いて、一定の割合で、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cと、必要に応じて各種添加剤とをそれぞれ連続的に供給して混合物を得た後、該混合物を単軸又は二軸以上の押出機、バンバリーミキサー、ロール式混練機等を用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0071】
上記の溶融混練の温度は、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは、100℃~300℃であり、より好ましくは、120℃~280℃であり、さらに好ましくは、140℃~260℃である。
(作用)
本実施形態に係る組成物によれば、熱可塑性樹脂Aに加えて、Fを含む重合体Bを有しているので、組成物を溶融して成形することで、当該組成物の成形体の表面に所定の金属元素Qを含む粉体Cを選択的に配置することができる。したがって、後述する特定の表面を有する種々の膜などの物品を好適に成形することができる。当該膜の表面には、抗菌性及び/又は抗ウイルス性を付与しやすい。
【0072】
(膜)
本発明の一実施形態に係る膜は、樹脂Mと、金属元素Qを含む粉体Cと、を含む膜であって、
水溶液系における前記金属元素Qの単体の25℃の標準電極電位E゜の値が-1.5V以上2.0V以下であり、
前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域と、前記粉体Cの島領域とを有し、
前記膜の表面における、前記海領域及び前記島領域の合計面積に対する前記島領域の割合が0.05%以上49%未満である。
【0073】
<樹脂M>
樹脂Mは特に限定されない。樹脂Mは、上記の組成物における熱可塑性樹脂A及び重合体Bの混合物であってよい。
【0074】
<膜の表面の海島構造>
図1に示すように、膜10の表面は、樹脂Mの海領域Sと、粉体Cの島領域Iとを有する。すなわち、膜の表面では、樹脂の海領域S中に多数の粉体Cの島領域Iが分散している。
【0075】
図2の膜の断面図に示すように、膜の表面において樹脂Mから粉体Cが突出していることが好適である。表面において、樹脂Mにより海領域Sが、粉体Cにより島領域Iが形成される。
【0076】
(表面における島領域Iの面積の割合)
膜の表面における、海領域S及び島領域Iの合計に対する、島領域Iの面積の割合は、抗菌性及び抗ウイルス性を高める観点から、0.05%以上49%未満である。この割合は、好ましくは0.05%以上15%以下であり、より好ましくは0.05%以上10%以下であり、より一層好ましくは0.05%以上5%以下である。面積の割合の下限は0.07%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%であることができる。
膜の表面の島領域Iの面積は、表面に垂直な方向から撮影した画像に基づいて計算される。例えば、SEM-EDSなどの元素分析により、島領域Iと、海領域Sとを分離し、面積を求めることができる。
【0077】
<島領域Iの大きさ>
島領域の平均の円相当径は0.001~25μmであることができる。
【0078】
<膜の厚み>
膜の厚みに限定はないが、例えば、1μm以上であることができる。上限も特にないが150mmであることができる。
【0079】
(膜の製造方法)
本実施形態の膜は、上記の組成物を溶融して成形することで得ることができる。成形方法の例は、押出成形、圧縮成形、射出成形である。押出成形法としては、例えば、Tダイ成形法もしくは、インフレーション成形法による単層押出成形法や、Tダイ成形法もしくは、インフレーション成形法による単層押出成形法による多層押出成形法、紡糸押出法が挙げられる。多層押出成形法としてはフィードブロック方式やマルチマニホールド方式などの公知の方法が挙げられる。射出成形法としては、例えば、一般的な射出成形法、射出発泡成形法、超臨界射出発泡成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、サンドイッチ成形法、サンドイッチ発泡成形法、インサート・アウトサート成形法等が挙げられる。
【0080】
上記の成形体として、抗菌性・抗ウイルス性の観点から、好ましいのは押出成形、圧縮成形である。
【0081】
(膜を用いた物品の態様)
本発明の膜は、単独で使用してもよく、または、他の樹脂部材、金属部材、紙、皮革等と張り合わせを行い、多層の物品としてもよい。
【0082】
本発明の膜の表面には、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、エンボス処理、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の方法が挙げられる。
【0083】
本発明の膜の具体例としては、透明系光学用途部材、繊維材、農業資材、外構部材、家具及び室内装飾部材、家部材、玩具部材、園芸部材、自動車部材、包装材が挙げられる。透明系光学部材として、太陽光パネル用部材、レンズ部材などが挙げられ、繊維材として、例えば、衣料用ファブリック部材、インテリア用ファブリック部材、産業用繊維部材などが挙げられ、農業資材として、マルチ用フィルム部材、ハウス部材、ネット部材が挙げられ、外構部材として、例えば、カーポート部材、フェンス部材、門扉部材、門柱部材、ポスト部材、サイクルポート部材、デッキ部材、サンルーム部材、屋根部材、テラス部材、手すり部材、シェード部材、オーニング部材などが挙げられ、家具及び室内装飾部材として、例えば、ソファ部材、テーブル部材、チェア部材、ベッド部材、タンス部材、キャブネット部材、ドレッサー部材などが挙げられ、家電部材として、例えば、時計用部材、携帯電話部材、白物家電部材、などが挙げられ、玩具部材として、例えば、プラモデル部材、ジオラマ部材、ビデオゲーム本体部材などが挙げられ、園芸部材として、例えば、プランター部材、花瓶部材、植木鉢用部材などが挙げられ、自動車部材として、例えば、バンパー材、インパネ材などが挙げられ、包装材としては、例えば、食品用包装材、繊維用包装材、雑貨用包装材などが挙げられる。さらに、その他の用途としては、例えば、モニター用部材、オフィスオートメーション(OA)用機器部材、医療用部材、排水パン、トイレタリー部材、ボトル、コンテナー、除雪用品部材、各種建築用部材などが挙げられる。
【0084】
(作用)
本実施形態に係る膜の表面は、表面において樹脂の海領域S内に金属元素Qを含む粉体Cの島領域Iが好適な面積割合で分散しているため、表面の抗菌性又は抗ウイルス性に優れる。
【実施例0085】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて説明する。実施例及び比較例で使用した熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cを下記に示す。
【0086】
(1)熱可塑性樹脂A
(A-1)ポリメタクリル酸メチル
(商品名)スミペックス LG(住友化学製)
MFR(230℃ 3.80kgf(37.3N)):10.0g/10分
【0087】
(2)重合体B
(B-1)ポリフッ化ビニリデン
(商品名)クレハKFポリマー#1300(クレハ製)
MFR(230℃ 2.16kgf(21.2N)):0.2g/10分
【0088】
(B-2)ポリテトラフルオロエチレン
(商品名)Fluon CB-8015X(AGC製)
MFR(300℃ 5.0kgf(49.0N)):1.0g/10分
【0089】
(3)粉体C
(C-1)Cu粉
(商品名)Cu-HWQ 5μm(福田金属箔粉工業製)
メディアン径D50:8.9μm
Cu単体の水溶液系の25℃標準電極電位E゜:0.340V
(C-2)Ag粉
(商品名)Ag-HWQ 5μm(福田金属箔粉工業製)
メディアン径D50:7.1μm
Ag単体の水溶液系の25℃標準電極電位E゜:0.799V
(C-3)Al粉
(商品名)Al-PTBBA(ジャパンケムテックス製)
メディアン径D50:1μm
Al単体の水溶液系の25℃標準電極電位E゜:-1.662V
【0090】
各熱可塑樹脂、各重合体、各成分、組成物の物性は下記に示した方法に従って測定した。
【0091】
(1)メルトマスフローレイト(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210-2014に規定された方法に従って測定した。測定温度は230℃又は300℃、荷重は2.16kgf又は3.80kgf又は5.00kgfとした。
【0092】
(2)メディアン径D50(単位:μm)
レーザー回折法により測定されるメディアン径D50は、以下の方法で求めた。ホモジナイザを用いてエタノール中に分散させた試料を、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製「MT-3300EXII」)を用いて、JIS R1629に従って測定し、得られた粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値よりD50を求めた。
【0093】
(3)SEM-EDS解析
SEM-EDS解析は、試料表面に4nmの厚みのオスミウムをコートし、オスミウムがコートされた試料を、日本電子社製JSM-7900Fを用いて、加速電圧3.5kV、観察倍率×1000にて、試料表面をEDS分析して測定した。観察領域は1.3mm2とした。
得られた分析画像を、旭エンジニアリング社製画像解析ソフトA像君を用いて2値化し、得られた2値化像から島部の面積割合を評価した。
【0094】
(5)抗菌活性値(R)
試験菌として、大腸菌(NBRC3972)を用いて、JIS Z 2801:2010に準じて測定された結果に基づき、下記式(E2)により抗菌活性値(R)を評価した。
抗菌活性値(R)=[培養24時間後の、粉体C及び重合体Bを含有しない樹脂A-1の対照試験片上の生菌数]-[培養24時間後の、各実施例又は比較例の組成物を用いた試験片上の生菌数]…(E2)
抗菌活性値(R)が0.1以上を示すと抗菌活性があると理解される。抗菌活性値(R)が高くなるほど、抗菌性に優れる。
【0095】
(6)抗ウイルス活性値(R)
A型インフルエンザウイルス(A/Hong Kong/8/68;TC adapted)(ATCC VR-1679)を用いて、ISO21702に準じて測定された結果に基づき、下記式(E3)により得られる抗ウイルス活性値(R)を評価した。
抗ウイルス活性値(R)=[培養24時間後の、粉体C及び重合体Bを含有しない樹脂A-1の対照試験片の残存ウイルス数]-[培養24時間後の、各実施例又は比較例の組成物を用いた試験片の残存ウイルス数]…(E3)
抗ウイルス活性値(R)が0.1以上を示すと抗ウイルス活性があると理解される。抗ウイルス活性値(R)が高くなるほど、抗ウイルス性に優れる。
【0096】
(実施例α1)
30質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、70質量部の重合体(B-1)、3質量部の粉体(C-1)を均一に混合し、内径15mmの二軸混練機(テクノベル社製KZW15-45MG、内径:15mm、L/D=45)にて設定温度:210℃、スクリュー回転数500rpmで加熱溶融混練し、組成物を得た。前記組成物を、内径20mmφの単軸押出機(田辺プラスチックス社製VS20-14)を用い、設定温度210℃で厚み50μmのシート形状に賦形された押出成形体としての膜を得た。得られた膜の抗菌活性値と抗ウイルス活性値を評価した。
【0097】
(実施例α2)
70質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、30質量部の重合体(B-1)、3質量部の粉体(C-1)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0098】
(実施例α3)
0.5質量部の粉体(C-1)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0099】
(実施例α4)
5質量部の粉体(C-1)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0100】
(実施例α5)
粉体(C-1)に代えて、3質量部の粉体(C-2)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0101】
(比較例α1)
100質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、3質量部の粉体(C-1)とを用い、重合体Bを添加しなかった以外は実施例α1と同様にした。
【0102】
(比較例α2)
30質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、70質量部の重合体(B-1)とを用い、粉体Cを添加しなかった以外は実施例α1と同様にした。
条件及び結果を表1に示す。
【0103】
(比較例α3)
粉体(C-1)に代えて、3質量部の粉体(C-3)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0104】
【表1】
所定の組成の組成物により、抗菌及び/又は抗ウイルス性に優れる成形体が得られることが確認された。
【0105】
(実施例β1)
30質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、70質量部の重合体(B-1)と、0.5質量部の粉体(C-1)を均一に混合し、内径15mmの二軸混練機(テクノベル社製KZW15-45MG、内径:15mm、L/D=45)にて設定温度:210℃、スクリュー回転数500rpmで加熱溶融混練し、組成物を得た。前記組成物を、内径20mmφの単軸押出機(田辺プラスチックス社製VS20-14)を用い、設定温度210℃で厚み50μmのシート形状に賦形され、膜の表面における粉体Cの島領域の面積割合が0.5%の膜状の押出成形体を得た。前記成形体の抗菌活性値と抗ウイルス活性値を評価した。
【0106】
(実施例β2)
粉体(C-1)の量を3質量部とする以外は実施例β1と同様とした。膜の表面における粉体Cの面積割合は2%となった。
【0107】
(比較例β1)
樹脂Aを100質量部とし、重合体Bを添加しない以外は実施例β2と同様とした。膜の表面における粉体Cの面積割合は0%となった。
【0108】
【0109】
所定の表面構造を有する膜では、抗菌性及び/又は抗ウイルス性が向上することが確認された。