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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081307
(43)【公開日】2023-06-09
(54)【発明の名称】組成物及び膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20230602BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230602BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230602BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230602BHJP
【FI】
C08L27/12
C08L101/00
C08K3/36
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178360
(22)【出願日】2022-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021194150
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】千葉 俊輔
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA26
4F071AA33
4F071AA88
4F071AB26
4F071AD02
4F071AD06
4F071AF04Y
4F071AF10
4F071AH01
4F071AH03
4F071AH04
4F071AH07
4F071AH12
4F071AH16
4F071BB03
4F071BC01
4F071BC12
4J002AA01X
4J002BB02X
4J002BB11X
4J002BB17X
4J002BC02X
4J002BD03X
4J002BD12W
4J002BD14W
4J002BE02X
4J002BE06X
4J002BF02X
4J002BG06X
4J002CF04X
4J002CG01X
4J002CL01X
4J002CL03X
4J002DJ016
(57)【要約】      (修正有)
【課題】湿雪・乾雪の両方の雪質でともに滑雪性に優れる組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、粉体Cと、を含む。重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成単位を有し、特定の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、特定の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たし、前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、粉体Cと、を含む組成物であって、
前記重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成単位を有し、
下記の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、下記の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たし、
前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である、組成物。
【化1】

[式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、又は、アルキル基から選択される。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にハロゲン原子で置換されていてもよい。
処理条件(a):環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で粉体Cを17時間乾燥させたのち、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内に粉体Cを24時間保持する。
測定条件(b):加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【請求項2】
レーザー回折法により測定される前記粉体Cのメディアン径D50が0.05~30μmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記粉体Cが、シリカ粉、または、シリコーン粉である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
樹脂Mと、粉体Cとを含む膜であって、
前記膜の水平表面に2μLの水滴を滴下して測定した接触角が50~90°であり、
前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域、及び、前記粉体Cの島領域を有し、
前記海領域及び前記島領域の合計面積に対し、前記島領域の面積の割合が0.01~30%であり、
下記の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、下記の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たす、膜。
処理条件(a):環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で粉体Cを17時間乾燥させたのち、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内に粉体Cを24時間保持する。
測定条件(b):加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【請求項5】
請求項4に記載の膜を外面の少なくとも一部に有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び膜に関する。
【背景技術】
【0002】
豪雪地帯では、降雪による住環境部材への冠雪が問題となっている。例えば、冠雪による荷重の増加による構造部材の倒壊や、多量の冠雪が一度に落下することによる人身雪害、道路標識や交通信号機などの道路交通における安全指示板・装置の確認障害、太陽光パネルの発電効率の低下が挙げられる。
【0003】
吉田らの報告(北海道立試験所報告299,13-17(2000))によれば、降雪する雪質には、水分の含有量が多い湿った湿雪と、水分の含有量が少ない乾雪があり、湿雪か乾雪かは降雪する際の環境温度によって定まり、環境温度が、氷点以上では湿雪が降雪しやすく、氷点以下では乾雪が降雪しやすく、降雪する雪質が湿雪であれば、冠雪する材料の表面性質は親水性の方がより落雪(滑雪)しやすく、降雪する雪質が乾雪であれば、冠雪する材料の表面性質は撥水性の方がより落雪(滑雪)しやすいことが記載されている。このように、親水性かつ撥水性という相反する性質が必要となるため、様々な雪質を滑雪させる有効な材料の表面性質の設計の報告が非常に少ない。
【0004】
特許文献1には、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂をマトリックス樹脂とし、セラミック系無機骨材と有機ポリマービーズとフッ素樹脂粉末を添加し、金属板上に形成された下塗り塗膜の上に塗布する上塗り塗料とし、耐傷付き性、耐塗膜かじり性、および滑雪性に優れたフッ化ビニリデン系フッ素樹脂塗装金属板が記載されている。
【0005】
特許文献2には、固体表面に、一方向に延びる溝を複数配設して2μm以上4mm以下の間隔で凹凸を形成し、該凹凸の凸部を水接触角で30°以下の親水性にし、凹部を水接触角で90°以上の撥水性にすることを特徴とする易滑雪性固体及びその作製技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-355671号公報
【特許文献2】特開2003-226867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、塗装加工や、表面切削などの表面加工や、シボ賦形加工などの特別な後加工の必要がなく、平滑な形状であっても、湿雪・乾雪の両方の雪質でともに滑雪性に優れる材料が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、塗装加工や、表面切削などの表面加工や、シボ賦形加工などの特別な後加工の必要がなく、平滑な形状であっても、湿雪・乾雪の両方の雪質でともに滑雪性に優れる組成物及び膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面に係る組成物は、熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、粉体Cと、を含む。前記重合体Bは式(1)又は式(2)で表される構成単位を有し、
下記の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、下記の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たし、
前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。
【化1】

式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、又は、アルキル基から選択される。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にハロゲン原子で置換されていてもよい。
処理条件(a):環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で粉体Cを17時間乾燥させたのち、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内に粉体Cを24時間保持する。
測定条件(b):加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【0010】
レーザー回折法により測定される前記粉体Cのメディアン径(D50)が0.05~30μmであることができる。
【0011】
前記粉体Cが、シリカ粉、または、シリコーン粉であることができる。
【0012】
本発明の一側面に係る膜は、樹脂Mと、粉体Cとを含む。前記膜の水平表面に2μLの水滴を滴下して測定した接触角が50~90°である。前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域、及び、前記粉体Cの島領域を有し、
前記海領域及び前記島領域の合計面積に対し、前記島領域の面積の割合が0.01~30%であり、
下記の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、下記の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たす、膜。
処理条件(a):環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で粉体Cを17時間乾燥させたのち、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内に粉体Cを24時間保持する。
測定条件(b):加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【0013】
本発明の一側面に係る物品は、上記の膜を外面の少なくとも一部に有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗装加工や、表面切削などの表面加工や、シボ賦形加工などの特別な後加工の必要がなく、平滑な形状であっても、湿雪・乾雪の両方の雪質でともに滑雪性に優れる膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る膜の表面の拡大模式図である。
図2図2は、一実施形態に係る膜の表面近傍の断面の拡大模式図である。
図3図3は、膜10の傾斜角度θを説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(組成物)
本実施形態の組成物は、熱可塑性樹脂Aと、重合体Bと、粉体Cと、を含む組成物であって、前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部であり、前記粉体Cの含有量は0.01~25質量部である。
【0018】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂の例は、オレフィン系重合体、スチレン系重合体、メタクリル系樹脂、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、アミド系樹脂、ビニル系重合体である。熱可塑性樹脂Aは、単独樹脂であってもよく、2種以上の樹脂の混合物であっても良よい。
【0019】
<オレフィン系重合体>
本発明のオレフィン系重合体とは、炭素原子数2~10のオレフィンに由来する構造単位を51重量%以上含有する重合体である(ただし、オレフィン系重合体の全量を100重量%とする)。炭素原子数2~10のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1-プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられ、任意の複数種を含んでいてもよい。
【0020】
また、オレフィン系重合体は、炭素原子数2~10のオレフィン以外の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この炭素原子数2~10のオレフィン以外の単量体としては、例えば、スチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などの共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエン;プロピレンが挙げられる。
【0021】
オレフィン系重合体は、他のモノマーに由来する構造単位を、2種以上有していてもよい。
【0022】
オレフィン系重合体は、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、及びブテン系重合体からなる群から選択される少なくとも1つであることができ、これらの内の任意の2種以上の組み合わせであってもよい。
【0023】
エチレン系共重合体とは、エチレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、エチレン単独重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、及び、エチレン-1-ブテン-1-ヘキセン共重合体である。エチレン系共重合体は、2以上のエチレン系共重合体の組み合わせであってもよい。
【0024】
プロピレン系共重合体とは、プロピレンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、及び、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体である。プロピレン系共重合体は、2種以上のプロピレン系共重合体の組み合わせであってもよい。オレフィン系重合体がプロピレン系共重合体であることは好適である。
【0025】
ブテン系共重合体とは、1-ブテンに由来する構造単位を50質量%以上含有する重合体であり、その例は、1-ブテン単独重合体、1-ブテン-エチレン共重合体、1-ブテン-プロピレン共重合体、1-ブテン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-エチレン-プロピレン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、1-ブテン-エチレン-1-オクテン共重合体、1-ブテン-プロピレン-1-ヘキセン共重合体、及び、1-ブテン-プロピレン-1-オクテン共重合体である。ブテン系共重合体は、2種以上のブテン系共重合体の組み合わせであってもよい。
【0026】
<スチレン系重合体>
スチレン系重合体とは、スチレンもしくはスチレン誘導体に由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体である。スチレン誘導体としては、例えば、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メトキシスチレンを挙げることができる。スチレン重合体は、スチレンもしくはスチレン誘導体以外の単量体に由来する構成単位を含有していてもよく、例えば、炭素原子数2以上10以下のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸エステル;酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などの共役ジエン;ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどの非共役ジエンをあげることができる。
【0027】
<メタクリル系樹脂>
メタクリル系樹脂とは、メタクリル酸エステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0028】
<アクリル系樹脂>
アクリル系樹脂とは、アクリル酸エステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(アクリル酸ブチル)、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0029】
<エステル系樹脂>
エステル系樹脂とは、多価カルボン酸と多価アルコールとのエステルに由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリカルボナート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0030】
<アミド系樹脂>
アミド系樹脂とは、アミド結合で繰り返される構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ(ε-カプロラクタム)、ポリドデカンアミド、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)、ポリ(ヘキサメチレンドデカンアミド)、ポリ(p-フェニレンテレフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンテレフタルアミド)等が挙げられる。
【0031】
<ビニル系重合体>
本発明のビニル系重合体とは、ビニル基をもつ単量体に由来する構成単位を51重量%以上含有する重合体であり、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0032】
(熱可塑性樹脂AのTg)
熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、湿雪における滑雪性の観点から、0℃以上が好ましく、より好ましくは50℃以上、更により好ましくは80℃以上である。ガラス転移温度(Tg)が大きいほど、組成物の湿雪における滑雪性が優れる傾向にある。
【0033】
熱可塑性樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠した示差走査熱量計(DSC)測定により求められる値である。
【0034】
(熱可塑性樹脂AのMFR)
熱可塑性樹脂Aの、温度190℃もしくは230℃及び荷重2.16kgfもしくは3.80kgf(37.3N)の条件で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は0.01g/10分以上であることができ、200g/10分以下であることができる。MFRの上限は、100g/10分、50g/10分、30g/10分であることができる。熱可塑性樹脂Aのメルトマスフローレイトが小さいほど、組成物の成形性が優れる傾向にある。
【0035】
上記の熱可塑性樹脂Aの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0036】
(重合体B)
本発明の重合体Bは、式(1)又は式(2)で表される構成単位を有する重合体である。
【0037】
【化2】

式中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、及び、アルキル基から選択される。ハロゲン原子の例は、F,Cl,Br,Iである。
【0038】
式(1)及び(2)のR~Rの、アルコキシ基、アルキル基の炭素数は、好ましくは、1以上15以下、より好ましくは1以上10以下、更により好ましくは1以上5以下である。R~Rのアルキル基及びアルコキシ基は、直鎖でも、分岐状でも、環状でもよいが、直鎖であることが好ましい。R~Rの各アルキル基及び各アルコキシ基の内の少なくとも1つの水素原子は、独立にフッ素などのハロゲン原子で置換されていてもよい。各アルキル基及び各アルコキシ基の内の全ての水素原子が、フッ素などのハロゲン原子で置換されていることが好適である。
【0039】
重合体Bは、(1)及び/又は(2)式の構成単位を51重量%以上含有する重合体が好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、パーフルオロアルコキシアルカン(例えば四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0040】
加工性の観点から、重合体Bとしてポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロアルコキシアルカン、が好ましい。
【0041】
重合体Bとしてフッ化ビニリデン系重合体を用いる場合は、フッ化ビニリデン単位を含む樹脂であればよく、例えば、フッ化ビニリデン単位のみからなる単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)や、フッ化ビニリデン単位を含む共重合体が挙げられる。フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデン単位の含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0042】
フッ化ビニリデンと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、三フッ化塩化エチレン、六フッ化プロピレン等のフッ素化されたビニル単量体;スチレン、エチレン、ブタジエン、プロピレン等のビニル単量体が挙げられる。
【0043】
上記の重合体Bの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0044】
(重合体BのTm)
重合体BのDSCにより求められる融点は、特に限定されるものではないが、加工性の観点から、好ましくは300℃未満であり、より好ましくは280℃未満、更により好ましくは、260℃未満である。
重合体BのDSCにより求められる融点(Tm)は、重合体B中に含まれる結晶相の融解温度であり、具体的には、重合体Bを昇温したときに得られるDSC曲線において、最も高温側の吸熱ピークにおけるピークトップ温度である。
【0045】
なお、この融点は、以下の条件で測定する。(i)重合体Bの約10mgを、窒素雰囲気下、220℃で5分間熱処理した後、降温速度10℃/分で50℃まで冷却する。(ii)次いで、50℃において1分間保温した後、50℃から180℃まで昇温速度10℃/分で加熱する。
【0046】
(重合体BのMFR)
重合体Bの、温度230℃、もしくは温度190℃、もしくは297℃、及び荷重2.16kgf又は5.0kgfの条件で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は0.01g/10分以上であることができ、200g/10分以下であることができる。MFRの上限は、100g/10分、50g/10分、30g/10分であることができる。重合体Bのメルトマスフローレイトが小さいほど、組成物の成形性が優れる傾向にある。
【0047】
上記の重合体Bの製造方法としては、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。
【0048】
(粉体C)
本発明における粉体Cは、100℃の温度でも固体粒子状の性質を示す粉体であることが好ましい。粉体の例は、半金属元素、金属元素、ハロゲン元素、炭素からなる群から選択されるいずれか又は複数を構成元素中に含む粉体であり、好ましくは半金属元素を構成元素に含む粉体である。これらの粉体は単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0049】
<半金属元素を構成元素に含む粉体C>
半金属元素を構成元素に含む粉体Cは、半金属元素として、B,Si,Ge,As,Sb,Te,Po,Atからなる群から選択される少なくとも1つを構成元素として含む粉体であり、好ましくは、B及びSiからなる群から選択される少なくとも1つを含む粉体であり、より好ましくは、Siを含む粉体である。
【0050】
半金属元素を構成元素に含む粉体は、半金属の単体の粉体でもよく、半金属の単体の混合物の粉体でもよく、半金属(単一種でも複数種でもよい)の酸化物、窒化物粉等の半金属の化合物の粉体でもよい。
【0051】
半金属元素を構成元素に含む粉体は、好ましくは、二酸化ケイ素粉(シリカ粉)である。
また、半金属元素を構成元素に含む粉体はシリコーン粉であってもよい。シリコーン粉は式(3)に示される構成単位を含む。
【化3】

[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキル基である。]
【0052】
及びRの、アルコキシ基、アルキル基の炭素数は、好ましくは、1以上15以下、より好ましくは1以上10以下、更により好ましくは1以上5以下である。アルキル基及びアルキル基は、直鎖でも、分岐状でも、環状でもよいが、直鎖であることが好ましい。
【0053】
<金属元素を構成元素に含む粉体>
金属元素を構成元素に含む粉体は、金属元素として、周期表第1族~第12族からなる群から選択される少なくとも1つの元素を構成元素として含む粉体、又は、第13族~第16族までの卑金属成分(Al等)からなる群から選択される少なくとも1つの元素を構成元素として含む粉体であり、好ましくは、第2族~第12族からなる群から選択される少なくとも1つの元素を構成元素として含む粉体であり、より好ましくは、Mg,Ca,Ti,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag,Au,Osからなる群から選択される少なくとも1つを構成元素として含む粉体である。
金属元素を構成元素に含む粉体は、金属(合金含む)粉であってもよく、金属化合物粉であってもよい。
金属化合物粉の一例は、金属酸化物粉である。金属酸化物粉の例は、アルミナ粉である。
金属化合物粉の他の例は金属ハロゲン化物粉である。金属ハロゲン化物粉の例は、金属フッ化物粉、金属塩化物粉、金属臭化物粉、及び、金属ヨウ化物粉であり、金属ハロゲン化物粉は、複数種のハロゲン元素を含む金属ハロゲン化粉であってもよい。金属ハロゲン化物粉の具体例は、ヨウ化銅粉、塩化銅粉である。
【0054】
<炭素原子を構成元素に含む粉体>
炭素原子を構成元素に含む粉体は、炭素原子を構成元素に含む100℃の温度でも固体の性質を示す粉体であり、好ましくは熱硬化性樹脂、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレンなどであり、より好ましくは熱硬化性樹脂である。
【0055】
これらの粉体Cは、多孔質粉でもよい。多孔質粉であると、粉体の吸湿性を高めやすい。
【0056】
(粉体Cの粒径:レーザー回折法により測定されるメディアン径D50)
粉体Cのメディアン径D50は、滑雪性の観点から、30μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。D50が大きすぎると、分散性が低下し、成形不良を起こしやすくなる。粉体Cのメディアン径D50は、滑雪性の観点から、15μm以下であってよく、13μm以下であってよく、10μm以下であってよく、7μm以下であってよく、6μm以下であってよい。
粉体Cのメディアン径D50は、製造時の取り扱いの容易さの観点から、0.05μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、3μm以上であってよく、5μm以上であってよい。
【0057】
メディアン径D50は、レーザー回折法粒度分布測定機を用いて、JISR1629に従って重量基準の粒度分布を測定し、得られた粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値から求めることができる。レーザー回折法粒度分布測定機としては、例えば、日機装株式会社MT-3300EX-IIが挙げられる。
【0058】
(粉体Cの吸湿性)
下記の処理条件(a)で粉体Cを処理した後に、下記の測定条件(b)で測定した粉体Cの水分量は、1000~5000000質量ppmとなる必要がある。粉体Cがこのような吸湿性(親水性)を示すようにするには、粉体Cの組成、粉体Cの表面の凹凸(多孔質性)等を適宜調節すればよい。
処理条件(a)
まず、環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機内で粉体Cを17時間乾燥させる。ついで、粉体Cを、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内で24時間放置する。
測定条件(b)
処理条件(a)で処理した粉体Cに含まれる水分を、加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【0059】
処理条件(a)及び測定条件(b)により測定される粉体Cの水分量は、好ましくは5000質量ppm~4500000質量ppm、より好ましくは10000質量ppm~4000000質量ppmである。水分量は、20000重量ppm以上でもよく、50000重量ppm以上でもよい。粉体Cの水分量は、100000質量ppm以上であってよく、200000質量ppm以上であってもよい。粉体Cの水分量は、4000000質量ppm以下であってよく、3000000質量ppm以下であってよく、2000000質量ppm以下であってよく、1000000質量ppm以下であってよく、700000質量ppm以下であってもよく、500000質量ppm以下であってもよい。当該水分量が低すぎる粉体Cを使用すると、成形体の滑雪性を高くしにくい傾向がある。当該水分量が高すぎる粉体Cを使用すると、成形体の強度が低下する傾向がある。
【0060】
上記の粉体Cの製造方法としては、公知のPVD法やCVD法などの気相法、共沈法やアルコキシド法やゾルゲル法や水熱合成法や重合法や噴霧乾燥法や凍結乾燥法などの液相法、樹脂混練や各種粉砕法やメカニカルアロイング法などの機械的手法を用いてもよい。
【0061】
<組成物>
本発明の組成物は、前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、前記樹脂Aの含有量は1~99質量部であり、前記重合体Bの含有量は1~99質量部である。組成物において、前記樹脂Aの含有量は10~90質量部であり、前記重合体Bの含有量は10~90質量部であることが好適であり、前記樹脂Aの含有量は10~80質量部であり、前記重合体Bの含有量は20~90質量部であることがより好適であり、前記樹脂Aの含有量は10~70質量部であり、前記重合体Bの含有量は30~90質量部であることがさらにより好適であり、前記樹脂Aの含有量は20~70質量部であり、前記重合体Bの含有量は30~80質量部であることがさらにより更に一層好適である。
【0062】
本発明の組成物において、前記樹脂Aと前記重合体Bとの合計100質量部に対して、粉体Cの含有量は、0.01~25質量部である。組成物において、粉体Cの含有量は0.01~20質量部であることが好適であり、粉体Cの含有量は0.01~15質量部であることがより好適であり、粉体Cの含有量は0.01~10質量部であることが更により好適であり、粉体Cの含有量は0.5~10質量部であることが更により一層好適である。粉体Cの含有量は7質量部以下であってよく、5質量部以下であってもよい。
【0063】
(ガラス転移温度のピーク数)
本発明の組成物のガラス転移温度のピーク数は、好ましくは単峰である。言い換えると、熱可塑性樹脂Aと重合体Bとは、完全相溶であることが好ましい。
【0064】
組成物は、必要に応じて、熱可塑性樹脂A、重合体B、及び、粉体C以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、安定剤、防菌剤、防黴剤、分散剤、可塑剤、難燃剤、粘着付与剤、着色剤、金属粉末、無機繊維、有機繊維、複合繊維、無機ウィスカー、充填剤が挙げられ、前記安定剤としては、例えば、滑剤、老化防止剤、熱安定剤、耐光剤、耐候剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、光安定剤、銅害防止剤が挙げられる。耐光剤としては、ヒンダードアミン系耐光剤が挙げられ、着色剤としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック及び有機顔料が挙げられ、金属粉末としては、フェライトが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、金属繊維が挙げられ、有機繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維が挙げられ、無機ウィスカーとしては、チタン酸カリウムウィスカーが挙げられ、充填剤としては、ガラスビーズ、ガラスバルーン、ガラスフレーク、アスベスト、マイカ、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、カオリン、けい藻土、グラファイト、軽石、エボ粉、コットンフロック、コルク粉、硫酸バリウム、フッ素樹脂、セルロースパウダー、木粉が挙げられる。添加剤は、1種のみ含んでもよく、2種以上含んでもよい。添加剤は、熱可塑性樹脂Aの分散相に含まれていてよく、重合体Bの分散相に含まれていてもよく、熱可塑性樹脂Aと重合体Bが別の分散相を形成していてもよい。
【0065】
(組成物の製造方法)
本発明に係る組成物の製造方法としては、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとを溶融混練する方法、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとの存在下、熱可塑性樹脂Aと重合体Bを構成する各種モノマー成分を重合する方法が挙げられる。加工性の観点から、好ましくは熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cとを溶融混練する方法である。
【0066】
上記に記載の溶融混練は、公知の装置を用いて公知の方法により行うことができる。例えば、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cを、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブルミキサー等の混合装置を用いて混合した後、更に溶融混練する方法や、定量供給機を用いて、一定の割合で、熱可塑性樹脂Aと重合体Bと粉体Cと、必要に応じて各種添加剤とをそれぞれ連続的に供給して混合物を得た後、該混合物を単軸又は二軸以上の押出機、バンバリーミキサー、ロール式混練機等を用いて溶融混練する方法が挙げられる。
【0067】
上記の溶融混練の温度は、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは、100℃~300℃であり、より好ましくは、120℃~280℃であり、さらに好ましくは、140℃~260℃である。
(作用)
本実施形態に係る組成物によれば、熱可塑性樹脂Aに加えて、フッ素原子を含む重合体Bを有しているので、組成物を溶融して成形することで、当該組成物の成形体の表面に吸湿性を有する粉体Cを選択的に配置することができる。したがって、後述する特定の表面を有する種々の膜などの物品を好適に成形することができる。当該膜の表面は、低温条件および高温条件の両方での滑雪性を付与しやすい。
【0068】
(膜)
本発明の一実施形態に係る膜は、樹脂Mと、粉体Cとを含む膜であって、
前記膜の水平表面(水平面に対して0°の傾斜角度θに静置:図3参照)に2μLの水滴を滴下して測定した接触角が50°以上90°以下であり、
前記膜の表面は、前記樹脂Mの海領域、及び、前記粉体Cの島領域を有し、
前記海領域及び前記島領域の合計面積に対し、前記島領域の面積の割合が0.01~30%であり、
下記の処理条件(a)で処理した粉体C中の水分量は、下記の測定条件(b)で測定すると1000質量ppm~5000000質量ppmを満たす。
処理条件(a):環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で粉体Cを17時間乾燥させたのち、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機内に粉体Cを24時間保持する。
測定条件(b):加熱温度190℃、保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて測定する。
【0069】
<樹脂M>
樹脂Mは、表面において、上述の範囲の水との接触角を付与できる疎水性があれば、特に限定されない。樹脂Mは、上記の組成物における熱可塑性樹脂A及び重合体Bの混合物であってよい。
【0070】
<膜の表面の水接触角>
膜の表面の接触角は、膜の水平な表面に2μLの水滴を滴下して、θ/2法にて測定される。接触角の測定は23℃でおこなう。接触角の測定は、JIS R 3257:1999にしたがって行う。
膜の表面の接触角は、好ましくは60°以上90°以下であり、より好ましくは70°以上90°以下であり、更により好ましくは70°以上85°以下である。
【0071】
<膜の表面の海島構造>
図1に示すように、膜10の表面は、樹脂Mの海領域Sと、粉体Cの島領域Iとを有する。粉体Cは上述のような吸水性を示すので島領域Iは親水性領域であり、樹脂Mの海領域は疎水性領域である。すなわち、膜の表面では、疎水性の海領域S中に親水性の多数の島領域Iが分散している。
【0072】
図2の膜の断面図に示すように、膜の表面において樹脂Mから粉体Cが突出していることが好適である。表面において、樹脂Mにより海領域Sが、粉体Cにより島領域Iが形成される。
【0073】
(表面における島領域Iの面積の割合)
膜の表面における、海領域S及び島領域Iの合計に対する、島領域Iの面積の割合は、滑雪性の観点から、0.01%以上30%以下であり、好ましくは0.05%以上15%以下であり、より好ましくは0.05%以上10%以下であり、より一層好ましくは0.05%以上5%以下である。
膜の表面の島領域Iの面積は、表面に垂直な方向から撮影した画像に基づいて計算される。例えば、SEM-EDSなどの元素分析により、島領域Iと、海領域Sとを分離し、面積を求めることができる。
【0074】
<島領域I間の平均距離>
膜の表面における、島領域I間の平均距離は、滑雪性の観点から、好ましくは5μm以上60μm以下であり、より好ましくは10μm以上55μm以下であり、更により好ましくは15μm以上50μm以下である。
島領域I間の平均距離は、隣り合う島領域I間の最短距離をそれぞれ求め、算術平均することにより得られる。
【0075】
<島領域I間の距離の分散度>
膜の表面において、島領域I間の距離の分散度は、0.450以上であることが好ましく、0.500以上であることがより好ましく、0.550以上であることがさらに好ましい。島領域I間の距離の分散度は以下の式で定義される。
島領域間の距離の分散度=島領域間の距離の平均偏差/島領域間の平均距離 …(4)
【0076】
<島領域Iの大きさ>
島領域の平均の円相当径は0.001~30μmであることができる。
【0077】
<粉体Cの吸水量>
粉体Cの吸水量は、上述の通りである。
【0078】
<膜の厚み>
膜の厚みに限定はないが、例えば、1μm以上であることができる。上限も特にないが150mmであることができる。
【0079】
(膜の製造方法)
本実施形態の膜は、上記の組成物を溶融して成形することで得ることができる。成形方法の例は、押出成形、圧縮成形、射出成形である。押出成形法としては、例えば、Tダイ成形法もしくは、インフレーション成形法による単層押出成形法や、Tダイ成形法もしくは、インフレーション成形法による単層押出成形法による多層押出成形法、紡糸押出法が挙げられる。多層押出成形法としてはフィードブロック方式やマルチマニホールド方式などの公知の方法が挙げられる。射出成形法としては、例えば、一般的な射出成形法、射出発泡成形法、超臨界射出発泡成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、サンドイッチ成形法、サンドイッチ発泡成形法、インサート・アウトサート成形法等が挙げられる。
【0080】
成形方法として、滑雪性の観点から、好ましいのは押出成形、圧縮成形である。
【0081】
(膜を用いた物品の態様)
本発明の膜は、単独で使用してもよく、または、他の樹脂部材、金属部材、紙、皮革等と張り合わせを行い、多層の物品としてもよい。
【0082】
本発明の膜の表面には、表面処理を施してもよい。表面処理の方法としては、エンボス処理、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の方法が挙げられる。
【0083】
本発明の膜の具体例としては、透明系光学用途部材、繊維材、農業資材、外構部材、家具及び室内装飾部材、家部材、玩具部材、園芸部材、自動車部材、包装材が挙げられる。透明系光学部材として、太陽光パネル用部材、レンズ部材などが挙げられ、繊維材として、例えば、衣料用ファブリック部材、インテリア用ファブリック部材、産業用繊維部材などが挙げられ、農業資材として、マルチ用フィルム部材、ハウス部材、ネット部材が挙げられ、外構部材として、例えば、カーポート部材、フェンス部材、門扉部材、門柱部材、ポスト部材、サイクルポート部材、デッキ部材、サンルーム部材、屋根部材、テラス部材、手すり部材、シェード部材、オーニング部材などが挙げられ、家具及び室内装飾部材として、例えば、ソファ部材、テーブル部材、チェア部材、ベッド部材、タンス部材、キャブネット部材、ドレッサー部材などが挙げられ、家電部材として、例えば、時計用部材、携帯電話部材、白物家電部材、などが挙げられ、玩具部材として、例えば、プラモデル部材、ジオラマ部材、ビデオゲーム本体部材などが挙げられ、園芸部材として、例えば、プランター部材、花瓶部材、植木鉢用部材などが挙げられ、自動車部材として、例えば、バンパー材、インパネ材などが挙げられ、包装材としては、例えば、食品用包装材、繊維用包装材、雑貨用包装材などが挙げられる。さらに、その他の用途としては、例えば、モニター用部材、オフィスオートメーション(OA)用機器部材、医療用部材、排水パン、トイレタリー部材、ボトル、コンテナー、除雪用品部材、各種建築用部材などが挙げられる。
【0084】
(作用)
本実施形態に係る膜の表面は、所定の水に対する接触角を有して撥水性を有するので、乾雪条件(-3℃未満)での滑雪性に優れる上に、表面において樹脂の海領域S内に親水性の粉体Cの島領域Iが好適な面積割合で分散しているため、湿雪条件(-3℃以上)での滑雪性にも優れる。島領域の面積割合が高くなりすぎると、親水性が強くなりすぎて乾雪の滑雪性が低下する傾向がある。
【実施例0085】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて説明する。実施例及び比較例で使用した熱可塑性樹脂A、重合体B、及び、粉体Cを下記に示す。
【0086】
(1)熱可塑性樹脂A
(A-1)ポリメタクリル酸メチル
(商品名)スミペックス LG(住友化学製)
MFR(230℃ 3.80kgf(37.3N)):10.0g/10分
【0087】
(2)重合体B
(B-1)ポリフッ化ビニリデン
(商品名)クレハKFポリマー#1300(クレハ製)
MFR(230℃ 2.16kg(21.2N):0.2g/10分
【0088】
(B-1)ポリフッ化ビニリデン
(商品名)Solef 460S(ソルベイジャパン製)
MFR(230℃ 2.16kg(21.2N):0.1g/10分
【0089】
(3)粉体C
(C-1)SiO(シリカ)粉
(商品名)サンスフェア H-51(AGCエスアイテック製)
メディアン径D50:5.4μm
水分量:225350ppm
【0090】
(C-2)SiO(シリカ)粉
(商品名)AEROSIL RY200S(AEROSIL製)
メディアン径D50:103.1μm
水分量:380ppm
【0091】
(C-3)SiO(シリカ)粉
(商品名)サンスフェア H-31(AGCエスアイテック製)
メディアン径D50:3.0μm
水分量:493330ppm
【0092】
(C-4)SiO(シリカ)粉
(商品名)サンスフェア H-121(AGCエスアイテック製)
メディアン径D50:12.0μm
水分量:468980ppm
【0093】
各熱可塑樹脂、各重合体、各成分、組成物の物性は下記に示した方法に従って測定した。
【0094】
(1)メルトマスフローレイト(MFR、単位:g/10分)
JIS K7210-2014に規定された方法に従って測定した。測定温度は230℃、荷重は2.16kgf又は3.80kgfとした。
【0095】
(2)メディアン径D50(単位:μm)
レーザー回折法により測定されるメディアン径D50は、以下の方法で求めた。ホモジナイザを用いてエタノール中に分散させた試料を、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製「MT-3300EXII」)を用いて、JIS R1629に従って測定し、得られた粒度累積分布曲線から読みとった累積量50重量%の粒径値よりD50を求めた。
【0096】
(3)水分量(単位:ppm)
まず、環境温度80℃、真空度0.08MPaの条件に設定した真空乾燥機で17時間粉体Cを乾燥させた。つぎに、粉体Cを、環境温度50℃、環境湿度95%RHの条件に設定した恒温恒湿機で24時間保持した。その後、加熱温度190℃、当該加熱温度での保持時間10分の水分気化条件でカールフィッシャー水分計を用いて粉体Cの水分量を測定した。
【0097】
(4)接触角(単位:°)
接触角は、協和界面科学社製DM-501を用いて、θ/2法にて、膜の水平静置表面に対する純水の接触角を測定した。液滴量は2μLとした。
【0098】
(5)SEM-EDS解析
SEM-EDS解析は、膜の表面に4nmの厚みのオスミウムをコートし、オスミウムがコートされた試料を、日本電子社製JSM-7900Fを用いて、加速電圧3.5kV、観察倍率×1000にて、試料表面をEDS分析して測定した。観察領域は1.3mmとした。
得られた分析画像を、旭エンジニアリング社製画像解析ソフトA像君を用いて2値化し、得られた2値化像から島部の面積割合を評価した。また、2値化像から、近接する島領域の外周(エッジ部)間の最短距離をもとめ、算術平均値及び分散度を求めた。
【0099】
(7)湿雪における滑雪性(mm/秒)
150mm角としたエタノールで事前に脱脂しかつ、水平面となす角θ(図3参照)が19°となるように傾斜して静置した膜の表面に、環境温度15℃で、中部コーポレーション社製キューブ氷用かき氷機HC-77Bを用いて、270gの人工雪を、205mm位置の高さから15秒間降雪し、30mmの標線間を冠雪した人工雪が落下するのに要する時間を計測した。
湿雪における滑雪は、湿雪が冠雪する条件で発生する落雪現象であり、膜などの試験片上で冠雪が落雪する速度が高いほど、湿雪における滑雪性に優れる。
【0100】
(8)乾雪における滑雪性(°)
150mm角としたエタノールで事前に脱脂し、かつ、水平面となす角θ(図3参照)が0°となるように水平に静置した膜の表面に、環境温度-5℃で、中部コーポレーション社製キューブ氷用かき氷機HC-77Bを用いて製造し、メッシュサイズ5.6mm/1.66mmを通過する人工雪を250g降雪し、徐々に試験片の水平面となす角θを0から90°まで変更し、落雪が開始された角θを角度計で計測した。
乾雪における滑雪は、乾雪が冠雪する条件で発生する落雪現象であり、膜などの試験片上の冠雪が落雪するのに必要な傾斜角度θ(図3参照)が低いほど、乾雪における滑雪に優れる。
なお、「滑雪せず」とは、「試験片の水平面となす角θを90°にしても雪が滑り落ちない状態」である。
【0101】
(実施例α1)
20質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、80質量部の重合体(B-1)と、3質量部の粉体(C-1)と、を均一に混合し、内径15mmの二軸混練機(テクノベル社製KZW15-45MG、内径:15mm、L/D=45)にて設定温度:210℃、スクリュー回転数500rpmで加熱溶融混練し、組成物を得た。前記組成物を、新藤金属工業所圧縮成形機(P-37)を用い、温度210℃で5分間樹脂を予熱した後、温度210℃・圧力10MPa・5分間の条件で加圧し、幅150mm、長さ150mm、厚み2mmの形状に賦形された成形体としての膜を得た。得られた膜の湿雪における滑雪と乾雪における滑雪性を評価した。
【0102】
(実施例α2)
80質量部の重合体(B-1)に代えて、80質量部の重合体(B-2)と、3質量部の粉体(C-1)に代えて、3質量部の粉体(C-3)を用いた以外は、実施例α1と同様にした。
【0103】
(実施例α3)
80質量部の重合体(B-1)に代えて、80質量部の重合体(B-2)と、3質量部の粉体(C-1)に代えて、3質量部の粉体(C-4)を用いた以外は、実施例α1と同様にした。
【0104】
(比較例α1)
3質量部の粉体(C-1)に代えて、1質量部の粉体(C-2)を用いる以外は実施例α1と同様にした。
【0105】
(比較例α2)
3質量部の粉体(C-1)に代えて、3質量部の粉体(C-2)を用いる以外は実施例α1と同様にした。
【0106】
(比較例α3)
3質量部の粉体(C-1)に代えて、5質量部の粉体(C-2)を用いる以外は実施例α1と同様にした。
【0107】
(比較例α4)
粉体Cを添加しない以外は実施例α1と同様にした。
【0108】
(比較例α5)
重合体Bを添加せず、100質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、5質量部の粉体(C-1)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
【0109】
(比較例α6)
熱可塑性樹脂Aを添加せず、100質量部の重合体(B-1)と、5質量部の粉体(C-1)を用いた以外は実施例α1と同様にした。
条件及び結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

所定の組成の組成物により、湿雪及び乾雪の両方において滑雪性に優れる成形体が得られることが確認された。
【0111】
(実施例β1)
20質量部の熱可塑性樹脂(A-1)と、80質量部の重合体(B-1)と、3質量部の粉体(C-1)を均一に混合し、内径15mmの二軸混練機(テクノベル社製KZW15-45MG、内径:15mm、L/D=45)にて設定温度:210℃、スクリュー回転数500rpmで加熱溶融混練し、組成物を得た。前記組成物を、新藤金属工業所圧縮成形機(P-37)を用い、温度210℃で5分間樹脂を予熱した後、温度210℃・圧力10MPa・5分間の条件で加圧し、幅150mm、長さ150mm、厚み2mmの膜の形状に賦形された成形体を得た。膜の表面の接触角は81.0°、粉体Cの親水性の島領域の面積割合は2.3%、粉体C(親水領域)の水分量は225350ppmであった。この成形体の表面における湿雪における滑雪と乾雪における滑雪を評価した。
【0112】
(比較例β1)
粉体Cの添加量を30質量部に増やした以外は実施例β1と同様とした。得られた成形体の表面における接触角は83.8°、親水領域の面積割合は35%であった。
【0113】
条件及び結果を表2に示す。
【表2】
【0114】
所定の表面構造を有する膜では、湿雪及び乾雪の両方において滑雪性に優れることが確認された。
【符号の説明】
【0115】
10…膜、I…島領域,S…海領域、M…樹脂、C…粉体。
図1
図2
図3