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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081490
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】MRI撮像用マーカー
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20230606BHJP
【FI】
A61B5/055 390
A61B5/055 383
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195239
(22)【出願日】2021-12-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・刊行物名 「第75回手術手技研究会プログラム・抄録集」 発行日 令和3年5月1日 ・研究集会名 第75回手術手技研究会 開催場所 三島市民文化会館 開催日 令和3年5月14日
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】大段 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
(72)【発明者】
【氏名】黒田 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA11
4C096AD19
4C096FA01
(57)【要約】
【課題】MRI画像中の位置の指標とすることができるMRI撮像用マーカーを実現する。
【解決手段】MRI撮像用マーカー(1)であって、非磁性体の容器(2)と、容器(2)が内包するMRI造影剤と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体の容器と、前記容器が内包するMRI造影剤と、を備えるMRI撮像用マーカー。
【請求項2】
前記MRI造影剤を含む造影領域と、前記MRI造影剤を含まない非造影領域とを有し、
少なくとも2つの前記造影領域が、少なくとも1つの前記非造影領域を挟む位置に形成されている、請求項1に記載のMRI撮像用マーカー。
【請求項3】
前記造影領域は、前記MRI造影剤を内包する、前記容器における2つ以上の筒状部分が並んで形成されており、
前記非造影領域は、少なくとも2つの前記筒状部分に挟まれた領域である、請求項2に記載のMRI撮像用マーカー。
【請求項4】
前記造影領域は、前記筒状部分が格子状に並んで形成されている、請求項3に記載のMRI撮像用マーカー。
【請求項5】
前記容器は可撓性を有する樹脂製である、請求項1から4の何れか1項に記載のMRI撮像用マーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病変部の位置を特定するためのMRI撮像用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、診断技術の進展により、体内の微小な病変部(小病変)を検出し、手術等の外科的治療を行うことができるようになっている。例えば、コンピュータ断層撮影法(CT;Computed Tomography)または核磁気共鳴画像法(MRI;Magnetic Resonance Imaging)等の画像診断法を用いて、小病変の位置を特定する方法が開発されている。非特許文献1には、術前に、CTガイド下で病変部近傍にマイクロコイルを設置し、当該マイクロコイルの位置に基づいて病変部を切除する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Mayo et al. Lung nodules: CT-guided placement of microcoils to direct video-assisted thoracoscopic surgical resection. Radiology. 2009;250:576-585.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CTおよびMRIによれば、超音波診断法では検出困難な小病変を検出可能である。しかしながら、これらの方法は、超音波診断法のようなリアルタイムでの画像診断が困難である。したがって、画像診断により小病変の位置を正確に把握した上で手術を行う必要があるが、例えば骨格に固定されていない肝臓等の臓器では、撮像時と手術時とで小病変の位置が変化しやすい。
【0005】
非特許文献1に記載の方法は、CTには適用可能だが、CTでは検出困難な小病変を検出可能なMRIには適用できない。マイクロコイルのような金属材料はMRIでは検出できず、また、MRIでは強い磁場が発生するため、金属製の機器を使用できない等の、手技における制限が多いためである。
【0006】
本発明の一態様は、MRI画像中の位置の指標とすることができるMRI撮像用マーカーを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るMRI撮像用マーカーは、非磁性体の容器と、前記容器が内包するMRI造影剤と、を備える。
【0008】
本発明の一態様に係るMRI撮像用マーカーは、前記MRI造影剤を含む造影領域と、前記MRI造影剤を含まない非造影領域とを有し、少なくとも2つの前記造影領域が、少なくとも1つの前記非造影領域を挟む位置に形成されていてもよい。
【0009】
本発明の一態様に係るMRI撮像用マーカーは、前記造影領域は、前記MRI造影剤を内包する、前記容器における2つ以上の筒状部分が並んで形成されており、前記非造影領域は、少なくとも2つの前記筒状部分に挟まれた領域であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係るMRI撮像用マーカーは、前記造影領域は、前記筒状部分が格子状に並んで形成されていてもよい。
【0011】
本発明の一態様に係るMRI撮像用マーカーは、前記容器は可撓性を有する樹脂製であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、MRI画像中の位置の指標とすることができるMRI撮像用マーカーを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るマーカーを示す図である。
図2】MRI造影剤の濃度を変更して撮像したMRI画像を示す図である。
図3図2の結果を折れ線グラフにより示す図である。
図4図1に示すマーカーを肝臓表面に設置した状態を示す図である。
図5図1に示すマーカーを設置した肝臓のMRI画像であって、水平断および冠状断を示す図である。
図6】小病変を切除した後の肝臓のMRI画像であって、水平断および冠状断を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0015】
〔1.本発明の概要〕
本発明の一実施形態は、MRI画像において病変の位置を特定するための指標となる、MRI撮像用マーカー等を提供するものである。なお、「MRI画像」とは、MRIによる撮像を行うことで得られる画像を示す。
【0016】
従来、体内の小病変を標的とする手術等の処置では、標的の位置を把握するために、(1)解剖学的な指標を頼りにする、(2)リアルタイムな画像診断が可能な超音波診断法を用いる、等の方法が用いられている。例えば肝腫瘍においては、超音波診断法の造影剤が開発され、その有用性から、手術中の超音波診断法の利用がますます重要となっている。
【0017】
一方、画像診断技術が著しく発展した現在、CTまたはMRI等の高感度な画像診断法によってのみ検出し得る小病変を治療対象とすべき局面が増えてきている。例えば、肝臓の小腫瘍に対する検出感度はMRIにおいて非常に高く、超音波診断法による検出力を上回るとされる。
【0018】
このような小病変の位置を、手術中、どのような方法で特定し、切除をはじめとする治療を行うかという問題に対して、決定的な解決法は未だ見出されていない。画像診断により病変を早期発見し、早期治療を行うことが望ましいことは明らかであるが、一方で、臨床での診断技術がこのような要請に追い付いていないというジレンマが生じているのが現状である。
【0019】
超音波診断法と異なり、リアルタイムな画像診断が難しいCTまたはMRIにより検出された病変に対して手術等の処置を行う際には、手術者は、病変の位置を正確に把握する必要がある。例えば、脳腫瘍または背髄腫瘍等のように、骨格に対する位置が変化しにくい臓器の病変に対しては、術前のCTまたはMRI撮像により得られた画像における骨格と病変との位置関係を頼りに、術中ナビゲーションシステムを用いて病変の位置を特定できる。
【0020】
しかし、肺または肝臓等の、骨格に対する位置が変化しやすい臓器の場合、術前評価時と病変の切除時とで、骨格に対する臓器の位置関係は保たれにくいため、このような術中ナビゲーションシステムを用いることは困難である。また、CTを用いる場合には、非特許文献1に示されるような、マイクロコイル等を位置マーカーとして用いる方法があるが、上述の通り、MRIでなければ検出困難な病変に対して、同様の手段を用いることはできない。
【0021】
MRIでなければ検出困難な、初期の肝腫瘍をはじめとする小病変に対して、術前または術中にマーキングを行うことによりその位置を明らかにし、小病変を正確に切除することができれば、病変の早期発見および早期治療に繋がる。また、患者のがん治療成績の向上等にも繋げることができると期待される。これにより、本発明の一実施形態は、持続可能な開発目標(SDGs)の、目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献できる。
【0022】
本発明者らは、従来は生体へ投与することで用いられていたMRI撮像剤を、生体への投与とは異なる態様によりMRI撮像用マーカーとして用いるという、従来には無かった新規な発想に基づいて、鋭意検討の上で本発明の完成に至った。以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0023】
なお、本明細書において「生体」とは、ヒトの体であってもよく、ヒト以外の哺乳動物の体であってもよく、哺乳動物以外の動物の体であってもよい。
【0024】
〔2.マーカー〕
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るマーカー1(MRI撮像用マーカー)は、非磁性体の容器と、当該容器に内包されるMRI撮像剤と、を備えている。本実施形態において、マーカー1が備える容器は、複数のチューブ2(筒状部分)により構成されており、各チューブ2の腔内にそれぞれMRI撮像剤が封入されている。
【0025】
本実施形態において、チューブ2は、ポリ塩化ビニル製のネラトンカテーテルであり、各チューブ2の長さは約10cm、外径は10Fr(約3.3mm)である。マーカー1において、このようなチューブ2が12本、格子状に配置されている。チューブ2は、図1の紙面に向かって上下方向に6本、左右方向に6本、それぞれ2cm間隔となるよう平面状に並んで配置されることで、平面的な格子状の形状を形成している。
【0026】
それぞれのチューブ2は、非磁性体である合成樹脂製のシートにより形成された支持体3により支持されて、互いの位置関係が固定されている。支持体3は、図1の紙面に向かって上下方向および左右方向の長さがそれぞれ約11cmの、略正方形状のシートである。
【0027】
マーカー1がこのような支持体3を備えることで、複数のチューブ2を、格子状等の複雑な形状を成すように配置することが容易となる。また、マーカー1の強度が向上して取り扱いが容易となるため、臓器等のMRI撮像対象への設置および取り外しも容易となる。なお、マーカー1において、支持体3は必須ではない。
【0028】
マーカー1は、MRI撮像剤を含む造影領域10と、それ以外の、MRI撮像剤を含まない非造影領域11とを有している。具体的には、マーカー1において、MRI造影剤が封入されたチューブ2が配置されている領域が造影領域10であり、それ以外の領域が非造影領域11である。マーカー1をMRI撮像したMRI画像において、造影領域10は信号が検出される(造影される)領域であり、非造影領域11は信号が検出されない(造影されない)領域である。
【0029】
マーカー1は、複数のチューブ2が格子状に並んで形成されている。そのため、マーカー1が有する造影領域10もまた、格子状の領域として形成されている。このように、造影領域10の形状は、MRI造影剤を内包する容器の形状と同様となる。
【0030】
なお、MRI造影剤は、チューブ2の内腔を完全に満たしていなくてもよい。チューブ2の一部にMRI造影剤が封入されている場合、造影領域10は、チューブ2におけるMRI造影剤を内包する領域であり、チューブ2におけるその他の部分は非造影領域11となる。
【0031】
マーカー1において、非造影領域11は、少なくとも2つのチューブ2に挟まれて形成されている。言い換えれば、マーカー1において、少なくとも2つの造影領域10が、少なくとも1つの非造影領域11を挟む位置に形成されている。マーカー1における非造影領域11について例示すれば、図1において上下方向に延びる2本のチューブ2a、2bと、左右方向に延びる2本のチューブ2c、2dと、により囲まれた領域が挙げられる。当該非造影領域11は、2本のチューブ2a、2bが成す造影領域10に挟まれる領域であると共に、2本のチューブ2c、2dが成す造影領域10に挟まれる領域であるといえる。
【0032】
マーカー1において、非造影領域11は、格子状に配置されたチューブ2に区画された、5行5列の計25の領域として形成されている。また、支持体3の一部であって、平面視において上下方向および左右方向のそれぞれ最も外側のチューブ2よりも外側の領域も、非造影領域11である。このように、マーカー1が有する非造影領域11の少なくとも一部は、造影領域10に挟まれない領域であってもよい。
【0033】
マーカー1が備えるMRI造影剤は、MRI画像において信号が検出される(造影される)物質であれば特に限定されないが、例えば、水よりも当該信号が強く検出される物質であることが好ましい。マーカー1は、MRI造影剤としてガドテル酸メグルミン(マグネスコープ;登録商標)を含んでいるが、これに限られない。MRI造影剤としては、例えば、ガドキセト酸ナトリウム(プリモビスト;登録商標)等のガドリニウム製剤、クエン酸鉄アンモニウム(フェリセルツ;登録商標)および塩化マンガン四水和物(ボースデル;登録商標)等の、静脈注射または経口等による生体への投与が承認されているMRI造影剤が挙げられる。
【0034】
また、マーカー1はMRI造影剤をチューブ2に内包して備えているため、MRI造影剤自体が生体と接触して影響を与えることは通常ない。そのため、生体への投与が承認されていない物質であっても、マーカー1が備えるMRI造影剤として適用し得る。ただし、手術器具等によるチューブ2の破損リスク等を考慮すれば、マーカー1が備えるMRI造影剤は、生体への投与が承認されており、安全性が確認されたMRI造影剤であることが好ましい。
【0035】
マーカー1が備えるMRI造影剤は、従来のように生体に投与するのではなく、チューブ2に内包した状態でMRI撮像対象に設置し、MRI撮像を行うためのものである。そのため、生体への投与が承認されているMRI造影剤を用いる場合、マーカー1が備えるMRI造影剤の濃度は、生体へ投与する場合とは異なる濃度とすることが好ましい場合がある。
【0036】
MRI造影剤の濃度は、生体へ投与する場合の濃度に対して1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましく、1/40以下であることがより好ましく、1/100以下であることが特に好ましい。また、MRI造影剤の濃度は、生体へ投与する場合の濃度に対して1/10000以上であることが好ましく、1/1000以上であることがより好ましく、1/500以上であることがより好ましく、1/200以上であることが特に好ましい。このような濃度であれば、MRI画像においてマーカー1の造影領域10を確認できる。
【0037】
MRI造影剤を希釈して濃度を調整する場合、希釈液は、マーカー1が備えるMRI造影剤よりもMRI画像における信号強度が小さい、非磁性の液体であれば特に限定されない。手術器具等によるチューブ2の破損リスクを考慮すれば、MRI造影剤の希釈液は、生体への投与を許容し得る液体であることが好ましい。このような液体としては、例えば、水、アルコール類、有機溶媒およびこれらの混合溶液が挙げられ、これらの液体は、塩化ナトリウム等の塩類を含有していてもよい。入手容易性および安全性の観点から、希釈液としては生理食塩水が好ましい。
【0038】
このように、MRI撮像剤を備えるマーカー1によれば、マーカー1の位置と、MRI画像により特定される病変の位置との対比により、骨格等の位置を指標とする場合と比較して、より正確に病変の位置を特定できる。例えば、手術下において、処置前に肝臓等の臓器にマーカー1を設置してMRI画像を撮像すれば、その後に臓器の位置が動いたとしても、マーカー1と臓器との位置関係は変化しにくい。したがって、マーカー1を指標として病変の位置を特定し、当該病変に対する手術等による処置を容易に実施できる。小病変であれば、位置の正確な特定が特に重要となることから、このようなマーカー1の有用性はさらに高まる。
【0039】
また、マーカー1には、複数のチューブ2により形成される格子状の造影領域10と、これらのチューブ2に挟まれた非造影領域11と、が形成されている。そのため、マーカー1を、MRI撮像対象の臓器等において病変が存在すると考えられる範囲を覆うように設置すれば、病変が、格子状の造影領域10におけるいずれの位置の近傍に存在するか、容易に認識できる。したがって、マーカー1を用いることで、MRI撮像対象の臓器等における病変の位置を、極めて正確に特定できる。
【0040】
また、チューブ2はポリ塩化ビニル製であり、可撓性を有する。そのため、マーカー1は、臓器等の表面形状に合わせて柔軟に撓み、三次元的な、臓器等の表面に良好に沿った形状となることができる。
【0041】
MRI撮像では通常、水平断、冠状断および矢状断のような、体の長軸に対してそれぞれ異なる方向から撮像した、断層状の複数のMRI画像が得られる。マーカー1が三次元的な形状となっていれば、いずれの方向から撮像されたMRI画像でも、造影領域10が検出されやすい。したがって、マーカー1によれば、平面のみならず、立体的な臓器等の撮像対象においても、病変の位置を正確に特定することが容易である。
【0042】
なお、MRI撮像における水平断とは、MRI画像の上下が生体の腹背方向に、左右が生体の左右方向に対応する断面を示す。また、冠状断とは、MRI画像の上下が生体の頭尾方向に、左右が生体の左右方向に対応する断面を示す。また、矢状断とは、MRI画像の上下が生体の頭尾方向に、左右が腹背方向に対応する断面を示す。
【0043】
(変形例)
マーカー1の構成は上述に限られず、種々の変更が可能である。例えば、マーカー1において、複数のチューブ2は格子状に配置されておらず、いずれか一方向にのみ並んだ、いわゆる柵状に配置されていてもよい。また、複数のチューブ2の間隔は一定であることを要さない。
【0044】
また、マーカー1が備える容器は、複数のチューブ2ではなく、単一のチューブ2が折れ曲がった形状であってもよい。この場合、単一のチューブ2は、屈曲部または湾曲部等の任意の位置を境界として、複数の筒状部分に分画されているとみなすことができる。例えば、単一のチューブ2において、屈曲部により分画された、対向する2つの筒状部分(2つの造影領域10)に挟まれた領域を、非造影領域11と定義できる。
【0045】
また、マーカー1が備える容器は、一部にのみチューブ2のような筒状部分を備えていてもよく、筒状部分を備えていなくてもよい。筒状部分を備えていない容器の態様としては、例えば、複数の小さい球状(ドット状)の容器が、シート状の支持体3上に規則的または不規則的に配置された形状が考えられる。この場合、マーカー1には、複数のドット状の造影領域10と、これらの造影領域10に挟まれた非造影領域11と、が形成されるといえる。
【0046】
マーカー1がこのような形状の容器を備えている場合、MRI画像において、マーカー1に形成される複数のドット状の造影領域10の内、いずれの造影領域10の近傍に病変が存在するかを特定することが容易である。
【0047】
マーカー1が備える容器の材料は、非磁性体であれば特に限定されないが、樹脂製であることが好ましく、合成樹脂製であることがより好ましい。合成樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドおよびポリスチレンが挙げられる。また、ポリ乳酸等のバイオマス由来の高分子材料についても、合成樹脂の一例として挙げられる。「合成樹脂製」とは、容器の主な材料がこのような合成樹脂であればよく、一部に合成樹脂以外の材料を含んでいてもよい。また、マーカー1が備える容器は、合成樹脂以外の非磁性体である場合、例えば、チタン等の非磁性の金属材料製であってもよい。
【0048】
マーカー1が備える容器がこのような材料により形成されていれば、MRIにより生じる磁場の影響を受けにくいため、マーカー1をMRI撮像対象に設置した状態で、安全にMRI撮像を行うことができる。
【0049】
マーカー1が備える容器の材料は、可撓性を有することが好ましいが、その限りではない。例えば、マーカー1が備える容器は、可撓性は有さないものの、平面状ではなく三次元的な形状として形成されていてもよい。すなわち、マーカー1は、MRI撮像対象の形状に合わせた、三次元的な形状を有する容器を備えていてもよい。このような構成によれば、マーカー1が備える容器が可撓性を有していなくても、マーカー1は、MRI撮像対象の表面形状に沿うように良好に設置できる。
【0050】
マーカー1が備える支持体3の材料は、マーカー1が備える容器と同様に非磁性体であればよく、合成樹脂製であることが好ましい。また、支持体3はシート状であることを要さず、例えば、複数のチューブ2同士を固定するテープ状または糸状の部材であってもよい。
【0051】
〔3.マーカーの使用方法〕
マーカー1を用いた病変の診断方法およびマーカー1を用いた病変の手術方法についても、本発明の範囲に含まれる。
【0052】
具体的には、本発明の一実施形態に係る病変の診断方法は、非磁性体の容器と、前記容器が内包するMRI造影剤と、を備えるMRI撮像用マーカーを、病変を含み得るMRI撮像対象に設置する工程と、前記MRI撮像用マーカーを設置した前記MRI撮像対象のMRI画像を取得する工程と、前記MRI画像から、前記MRI撮像用マーカーの位置と前記病変の位置とに基づいて、前記撮像対象における前記病変の位置を特定する工程と、を含む。
【0053】
また、本発明の一実施形態に係る病変の手術方法は、非磁性体の容器と、前記容器が内包するMRI造影剤と、を備えるMRI撮像用マーカーを、病変を含み得るMRI撮像対象に設置する工程と、前記MRI撮像用マーカーを設置した前記MRI撮像対象のMRI画像を取得する工程と、前記MRI画像における前記MRI撮像用マーカーの位置と前記病変の位置とに基づいて特定した、前記撮像対象における前記病変の位置をマーキングする工程と、を含む。
【0054】
MRI撮像用マーカー(マーカー1)、および、MRI撮像用マーカーの位置と病変の位置とに基づいて、病変の位置を特定する方法については、上述の〔2.マーカー〕の記載を適宜援用することができる。また、MRI画像を取得する方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0055】
MRI撮像対象は、特に限定されないが、例えば、生体内の臓器が挙げられる。特に、骨格に対する位置が変動しやすい臓器は、マーカー1を用いた診断方法または手術方法に好適である。このような臓器は、骨格と臓器との位置関係が変動しやすく、MRI撮像後に、MRI画像に基づいて病変の位置を特定することが困難なためである。骨格に対する位置が変動しやすい臓器としては、例えば、心臓、肺、胃、十二指腸、肝臓、膵臓、腎臓、胆嚢、脾臓、小腸、大腸、子宮および前立腺等の、胸腔または腹腔内の臓器が挙げられる。
【0056】
MRI撮像対象にマーカー1を設置する方法は、特に限定されないが、例えば、MRI撮像対象にマーカー1を載置するだけでもよく、非磁性の針または糸等の固定具を用いて、MRI撮像対象にマーカー1を簡易的に固定してもよい。当該固定具は、マーカー1が備えていてもよいし、マーカー1とは独立であってもよい。
【0057】
MRI撮像対象における病変の位置をマーキングする方法は、特に限定されないが、例えば、病変またはその周囲に電気メス等で焼き目を付ける方法が挙げられる。
【実施例0058】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0059】
〔A.MRI造影剤の濃度検討〕
マーカー1に封入するMRI造影剤の最適な濃度を検討した。MRI造影剤としては、ガドテル酸メグルミンの38%水溶液(マグネスコープ静注38%シリンジ、ゲルべ・ジャパン株式会社)を原液として用いた。図2に、MRI造影剤を生理食塩水により段階的に希釈したサンプルを並べて撮像した、明視野画像およびMRI画像を示す。MRI撮像は、術中MRI装置(富士フィルムヘルスケアシステムズ株式会社、LUCENT-J)を用いて行った。術中MRI装置における磁場強度は、0.4T(テスラ)とした。
【0060】
図2に示すように、用いたサンプルは、生理食塩水(MRI造影剤を含まない)であるサンプルA、および、MRI造影剤を生理食塩水により段階的に希釈したサンプルB~Gである。サンプルB~GにおけるMRI造影剤の希釈倍率(原液に対する濃度比率)はそれぞれ、B:5倍(1/5)、C:10倍(1/10)、D:20倍(1/20)、E:40倍(1/40)、F:100倍(1/100)、G:200倍(1/200)である。
【0061】
図3に、得られたMRI画像における各サンプルの信号強度を、折れ線グラフにより示す。MRI画像における信号強度の定量化は、反転回復法(Inversion recovery)を用いてT1緩和曲線を作成し、T1値を求めることで行った。
【0062】
図3に示すように、MRI造影剤の希釈倍率は、100倍(濃度が原液の1/100)の場合が最も信号強度が強かった。また、図2のMRI画像から、MRI造影剤の希釈倍率が20倍以上(濃度が原液の1/20以下)であれば、生理食塩水よりも信号強度が強いことが示された。以下に示すマーカー1を用いた手術例ではいずれも、最も高い信号強度の希釈濃度(希釈倍率100倍、原液の1/100)により調製したMRI造影剤をマーカー1に封入して実施した。
【0063】
〔B.マーカーを用いた手術例〕
図1に示すマーカー1を用いて、MRI下において肝細胞癌の切除手術を行った。本手術は、MRI下肝切除についての疫学研究として、広島大学疫学研究倫理審査委員会により許可を受けた内容に基づき実施した(許可番号:第E-1600号、許可日:令和元年5月10日)。
【0064】
図4は、マーカー1を用いた肝細胞癌の切除手術の一症例において、マーカー1を肝臓Lに設置した状態を示す図である。具体的には、全身麻酔下で開腹後に、肝臓Lの表面において、肝細胞癌が存在するおおよその範囲を覆うようにマーカー1を載置し、MRI撮像を行った。
【0065】
図5は、MRI撮像により得られた水平断および冠状断のMRI画像を示す図である。図5において、肝細胞癌の病変部を矢印により、マーカー1が造影された位置を矢頭によりそれぞれ示す。このように、マーカー1は非造影領域11を挟んで複数の造影領域10を備えているため、立体的な臓器の断面を示すMRI画像でも、マーカー1の位置を確認しやすい。
【0066】
手術者は、MRI画像を用いて、マーカー1の位置と病変部の位置とを対比することで病変部の位置を特定し、電気メスにより病変部のマーキングを行った。その後、マーカー1を肝臓Lの表面から取り外し、病変部を中心に約2cmの切除マージンを取って切除を行った。
【0067】
図6は、切除後に再度MRI撮像を行って得られた水平断および冠状断のMRI画像を示す図である。図6において、肝臓Lにおける肝細胞癌の病変部が存在していた位置を矢印により示す。図6に示すように、病変部を中心とした肝臓Lの一部が適切に切除されることで、肝細胞癌が完全に取り除かれていることが確認できた。このように、MRI画像により切除完遂を確認後、閉腹して手術を完了した。
【0068】
以下表1に、マーカー1を用いて行った、MRI下での肝細胞癌の切除手術12例の結果を示す。また、以下表2に、マーカー1の発明前でありマーカー1を用いずに行った、MRI下での肝細胞癌または転移性肝腫瘍の切除手術3例の結果を示す。これらの手術は、2019年7月から2021年10月にかけて実施した。
【0069】
マーカー1を用いることで、手術者は確実に病変部の特定および切除が行える利点が得られつつ、従来法と比較しても、手術時間または出血量等について特筆すべき増大は見られなかった。すなわち、マーカー1によれば、従来法と比較して手術に与える大きなデメリットはなく、病変部の位置が特定困難な難易度の高い症例に対しても、良好な手術成績を得られることが示された。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、例えば手術下でのMRI撮像に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 マーカー(MRI撮像用マーカー)
2 チューブ(容器、筒状部分)
3 支持体
10 造影領域
11 非造影領域
L 肝臓
図1
図2
図3
図4
図5
図6