IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石金属株式会社の特許一覧

特開2023-81688全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法
<>
  • 特開-全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081688
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20230606BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230606BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230606BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20230606BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230606BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195611
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029CJ22
5H029HJ08
5H050AA01
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA22
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】良好な電池特性を安定して有する全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法を提供する。
【解決手段】硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含み、正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成された、全固体リチウムイオン電池。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含み、
前記正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成された、全固体リチウムイオン電池。
【請求項2】
前記正極合材層が、正極活物質、硫化物系固体電解質で構成された固体電解質及び導電助剤を含む、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池。
【請求項3】
硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池において、
前記正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されているか否かを判定することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、全固体リチウムイオン電池の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。該電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。また、車載用等の動力源やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウム二次電池についても、高エネルギー密度、電池特性向上が求められている。
【0003】
ただ、リチウムイオン電池の場合は、電解液は有機化合物が大半であり、たとえ難燃性の化合物を用いたとしても火災に至る危険性が全くなくなるとは言いきれない。こうした液系リチウムイオン電池の代替候補として、電解質を固体とした全固体リチウムイオン電池が近年注目を集めている。その中でも、固体電解質としてLi2S-P25などの硫化物やそれにハロゲン化リチウムを添加した全固体リチウムイオン電池が主流となりつつある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society,164(2017)A2474.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硫化物系固体電解質を有する全固体リチウムイオン電池は、硫化物系固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む。これら各構成要素についは、電池特性の改善を狙い、従来種々の組成が開発・研究されている。一方で、当該全固体リチウムイオン電池における各構成要素の組成以外にも、電池特性を向上させる要因が考えられ、このような観点からも未だ開発の余地がある。
【0006】
また、所定の硫化物系固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池を作製し、その電池特性を評価する際に、当該全固体リチウムイオン電池の最も優れた電池特性を引き出すような構成に設計することが望まれるが、この点についても未だ開発の余地がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、良好な電池特性を安定して有する全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含み、前記正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成された、全固体リチウムイオン電池である。
【0009】
本発明の全固体リチウムイオン電池は一実施形態において、前記正極合材層が、正極活物質、硫化物系固体電解質で構成された固体電解質及び導電助剤を含む。
【0010】
本発明は別の一側面において、硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む全固体リチウムイオン電池において、前記正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されているか否かを判定することで、前記全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する、全固体リチウムイオン電池の評価方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好な電池特性を安定して有する全固体リチウムイオン電池及び全固体リチウムイオン電池の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
<全固体リチウムイオン電池>
図1に、本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の模式図を示す。全固体リチウムイオン電池は、硫化物系固体電解質で構成された固体電解質層と、正極層と、負極層とを含む。
【0015】
(固体電解質層)
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の固体電解質層は、硫化物系固体電解質で構成されている。硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、公知のものを用いることができるが、電池特性をより向上させる観点から、アルジロダイト(Argyrodite)型構造を有する硫化物系固体電解質であるのが好ましい。硫化物系固体電解質が、アルジロダイト型構造を有していることは、例えば、CuKα線を用いたX線回折測定により確認できる。アルジロダイト型構造は、2θ=24.6±1.0°及び28.7±1.0°に強い回折ピークを有する。なお、アルジロダイト型構造の回折ピークは、例えば、2θ=15.0±1.0°、17.3±1.0°、30.0±1.0°、42.8±1.5°又は45.5±1.5°にも現れることがある。本実施形態の硫化物系固体電解質は、これらのピークを有していてもよい。また、アルジロダイト型構造を有する硫化物系固体電解質は、その一部に非晶質成分が含まれていてもよく、アルジロダイト型構造以外の構造や原料を含んでいてもよい。また、硫化物系固体電解質としては、Li3PS4ガラス(Li2S-PsS5系ガラス)、Li7311ガラスセラミックスやLGPS等であってもよい。
【0016】
本発明の実施形態に係る硫化物系固体電解質の平均粒径は特に限定されないが、0.01~100μmであってもよく、0.1~100μmであってもよく、0.1~50μmであってもよい。
【0017】
(正極層)
全固体リチウムイオン電池の正極層は、全固体リチウムイオン電池用正極活物質と、固体電解質層で用いた硫化物系固体電解質、または、固体電解質層で用いた硫化物系固体電解質と組成が異なる硫化物系固体電解質とを混合してなる正極合材の層である。
【0018】
正極合材は、さらに導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤としては、炭素材料、金属材料、または、これらの混合物を用いることができる。導電助剤は、例えば、炭素、ニッケル、銅、アルミニウム、インジウム、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、クロム、金、ルテニウム、白金、ベリリウム、イリジウム、モリブデン、ニオブ、オスニウム、ロジウム、タングステン及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含んでもよい。導電助剤は、好ましくは、導電性が高い炭素単体、炭素、ニッケル、銅、銀、コバルト、マグネシウム、リチウム、ルテニウム、金、白金、ニオブ、オスニウム又はロジウムを含む金属単体、混合物又は化合物である。炭素材料としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭等を用いることができる。
【0019】
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の正極層は、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されている。正極合材層の塗工密度が10mg/cm2以上であると、全固体リチウムイオン電池充電後抵抗の増大を抑制することができ、抵抗のばらつきが小さくなり、全固体リチウムイオン電池の電池特性の安定した測定が可能となる。正極合材層の塗工密度が25mg/cm2以下であると、固体電解質内のリチウムイオンの移動が律速になることを抑制することができるため、放電容量やレート特性が良好となる。このように、全固体リチウムイオン電池の正極層は、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されていることで、全固体リチウムイオン電池が、良好な放電容量、抵抗、レート特性、及び容量維持率を安定的に得ることができる。本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の正極層は、12~18mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されているのがより好ましい。
【0020】
正極合材層の塗工密度は、正極合材層の質量をその塗工面積で除することで得られる。
【0021】
全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。全固体リチウムイオン電池の正極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0022】
次に、全固体リチウムイオン電池の正極層の形成方法について説明する。正極層は正極合材層で構成するため、まず、正極合材を準備する。正極合材は、所望の組成を有するリチウムイオン電池用正極活物質、硫化物系固体電解質、導電助剤及びバインダーを所定の質量比で混合する。このとき、スラリーの固形分が50~80質量%となるように、溶媒を加えて正極合材スラリーとする。ここで、硫化物系固体電解質は、固体電解質層で用いた硫化物系固体電解質、または、固体電解質層で用いた硫化物系固体電解質と組成が異なる硫化物系固体電解質を用いることができる。溶媒は、アニソール、ヘプタン、テトラリン等の公知のものを用いることができる。
次に、正極合材スラリーを、後述の正極集電体の表面に塗工する。このとき、正極集電体の表面との間にギャップを300~600μm有するアプリケーターを用いて、5~50mm/sの速さで当該アプリケーターを移動させて、正極集電体の表面に正極合材スラリーを塗工する。
次に、正極合材スラリーを表面に塗工した正極集電体を乾燥させて溶媒を除去することで、正極集電体の表面に正極合材層を形成する。
【0023】
(負極層)
全固体リチウムイオン電池の負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質を層状に形成したものであってもよい。また、当該負極層は、公知の全固体リチウムイオン電池用負極活物質と、本発明の実施形態に係る硫化物系固体電解質または別の硫化物系固体電解質とを混合してなる負極合材を層状に形成したものであってもよい。
【0024】
負極層は、正極層と同様に、導電助剤を含んでもよい。当該導電助剤は、正極層において説明した材料と同じ材料を用いることができる。負極活物質としては、例えば、炭素材料、具体的には、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等、または、その混合物を用いることができる。また、負極材としては、例えば、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素等の金属自体や他の元素、化合物と組み合わせた合金を用いることができる。
【0025】
全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の平均厚みは、例えば、1μm~100μmであってもよく、1μm~10μmであってもよい。
【0026】
全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の負極層の形成方法としては、例えば、負極活物質のターゲット材料を用いたスパッタリング、または、負極活物質を圧縮成形する方法、負極活物質を蒸着する方法などが挙げられる。
【0027】
本発明の実施形態に係る硫化物系固体電解質によって形成された全固体リチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みについては特に限定されず、目的に応じて適宜設計することができる。全固体リチウムイオン電池の固体電解質層の平均厚みは、例えば、1μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0028】
全固体リチウムイオン電池の固体電解質層の形成方法については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。全固体リチウムイオン電池の固体電解質層の形成方法としては、例えば、固体電解質のターゲット材料を用いたスパッタリング、または、固体電解質を圧縮成形する方法などが挙げられる。
【0029】
全固体リチウムイオン電池を構成するその他の部材については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、正極集電体、負極集電体、及び、電池ケースなどが挙げられる。全固体リチウムイオン電池の形態については、特に限定されないが、例えば、正極集電体/正極層/固体電解質/負極層/負極集電体の順に積層された構成を有してもよく、さらにこれらを電池ケースで囲んだ構成を有していてもよい。
【0030】
正極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
正極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン合金、銅、金、ニッケルなどが挙げられる。
正極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
正極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0031】
負極集電体の大きさ及び構造については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
負極集電体の材質としては、例えば、ダイス鋼、金、インジウム、ニッケル、銅、ステンレス鋼などが挙げられる。
負極集電体の形状としては、例えば、箔状、板状、メッシュ状などが挙げられる。
負極集電体の平均厚みとしては、例えば、10μm~500μmであってもよく、50μm~100μmであってもよい。
【0032】
電池ケースについては特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、従来の全固体電池で使用可能な公知のラミネートフィルムなどが挙げられる。ラミネートフィルムとしては、例えば、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムなどが挙げられる。
電池の形状については特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、扁平型などが挙げられる。
【0033】
<全固体リチウムイオン電池の評価方法>
本発明の実施形態に係る全固体リチウムイオン電池の評価方法は、全固体リチウムイオン電池を作製した後、正極層が10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されているか否かを判定し、当該判定結果に基づいて、全固体リチウムイオン電池の電池特性を評価する。正極層が10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されている場合は、電池特性が良好であると評価し、正極層が10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されていない場合は、電池特性が良好ではないと評価することができる。このような構成によれば、全固体リチウムイオン電池の電池特性の評価が簡便化するため、電池評価を効率的に実施することができる。なお、全固体リチウムイオン電池の電池特性としては放電容量、抵抗、レート特性、及び容量維持率が挙げられ、それぞれ確認のために、以下のように評価することができる。
【0034】
(放電容量の評価)
全固体リチウムイオン電池の放電容量は、初回充電後にインピーダンスを測定し抵抗を求め、続いて放電することで、30℃初回放電容量として評価することができる。
【0035】
(抵抗の評価)
全固体リチウムイオン電池の抵抗は、交流インピーダンス測定を0.1Hz~1MHzまで行い、得られたCole-Coleプロットを解析することで初回充電後抵抗として評価することができる。
【0036】
(レート特性の評価)
全固体リチウムイオン電池のレート特性(%)は、放電レート0.05Cで得られた初期容量(30℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:3.7V)を測定し、次に放電レート0.2Cで得られた高率容量(30℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:3.7V)を測定し、(高率容量)/(初期容量)の比を百分率として評価することができる。
【0037】
(容量維持率の評価)
全固体リチウムイオン電池の容量維持率は、30℃で0.2Cの放電電流で得られた初期放電容量で、10サイクル後の放電容量を除することで、10サイクル容量維持率として評価することができる。
【実施例0038】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0039】
(実施例1)
正極活物質(Li(Ni0.82Co0.15Mn0.03)O2)と硫化物系固体電解質(75Li2S-25P25)とアセチレンブラックとバインダーとをこの順で60:35:5:1.5の質量比で混合し、スラリーの固形分が65質量%となるようにアニソールを溶媒として加え、マゼルスターで400秒混合して正極合材スラリーとし、これを正極集電体である厚さ0.03mmのアルミニウム箔の表面に塗工した。このとき、ギャップが300μmのアプリケーターを使用して15mm/sの移動速度でアプリケーターを移動させることで当該正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工した。
次に、正極合材スラリーを表面に塗工した正極集電体を室温で1週間放置することで乾燥させて溶媒を除去することで、正極集電体の表面に正極合材層を形成した。ここで、正極合材層の質量(9.3mg)をその塗工面積(0.785cm2)で除すると、正極合材層の塗工密度は11.8mg/cm2であった。なお、上述のように正極合材スラリーを室温で放置することで乾燥させたが、より早く乾燥させるために、乾燥機を用いて乾燥させてもよい。
次に、正極合材層の作製の際に用いた硫化物系固体電解質と同組成の硫化物系固体電解質の上に上述の正極合材層を載せて、333MPaでプレスして、固体電解質層/正極合材層/正極集電体の積層体を作製した。
次に、固体電解質層の負極側に、金属Inを37MPaで圧着して負極層とした。このように作製した積層体をSUS304製の電池試験セルに入れて拘束圧をかけて全固体二次電池とした。また、当該拘束圧をかけて全固体二次電池としたものについて、大気を遮断するために密閉容器に入れた。
【0040】
(実施例2)
ギャップが400μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を13.7mg、塗工密度を17.5mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0041】
(実施例3)
ギャップが500μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を17.8mg、塗工密度を22.6mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0042】
(実施例4)
ギャップが600μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を17.2mg、塗工密度を22.0mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0043】
(比較例1)
ギャップが100μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を2.7mg、塗工密度を3.4mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0044】
(比較例2)
ギャップが200μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を6.3mg、塗工密度を8.0mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0045】
(比較例3)
ギャップが700μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を29.4mg、塗工密度を37.5mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0046】
(比較例4)
ギャップが800μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を25.3mg、塗工密度を32.2mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0047】
(比較例5)
ギャップが1000μmのアプリケーターを使用して正極合材スラリーを正極集電体表面に塗工することで、正極合材層の質量を38.3mg、塗工密度を48.7mg/cm2とした以外は、実施例1と同様にして全固体リチウムイオン電池を作製した。
【0048】
(放電容量の評価)
上述のようにして作製したサンプル(全固体リチウムイオン電池)について、初回充電後にインピーダンスを測定し抵抗を求めた。次に、放電して30℃初回放電容量を得た。
【0049】
(抵抗の評価)
上述のようにして作製したサンプル(全固体リチウムイオン電池)について、交流インピーダンス測定を0.1Hz~1MHzまで行い、得られたCole-Coleプロットを解析して、初回充電後抵抗を求めた。当該初回充電後抵抗の大きさにより、全固体リチウムイオン電池充電後抵抗の増大を抑制することができているかを評価した。
【0050】
(レート特性の評価)
上述のようにして作製したサンプル(全固体リチウムイオン電池)について、放電レート0.05Cで得られた初期容量(30℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:3.7V)を測定し、次に放電レート0.2Cで得られた高率容量(30℃、充電上限電圧:4.55V、放電下限電圧:3.7V)を測定し、(高率容量)/(初期容量)の比を百分率としてレート特性(%)とした。
【0051】
(容量維持率の評価)
上述のようにして作製したサンプル(全固体リチウムイオン電池)について、30℃で0.2Cの放電電流で得られた初期放電容量で、10サイクル後の放電容量を除することで、10サイクル容量維持率を測定した。
試験結果を表1に示す。なお、表1の「正極合材層量」及び「塗工密度」の数値は、いずれも小数点以下第2位を四捨五入した数値を示している。
【0052】
【表1】
【0053】
(評価結果)
実施例1~4は、いずれも正極層が、10~25mg/cm2の塗工密度の正極合材層で構成されていたため、初回放電容量、初回充電後抵抗、レート特性及び10サイクル容量維持率のいずれにおいても良好な特性を示した。
また、実施例1~4では、正極合材層の正極活物質としてLi(Ni0.82Co0.15Mn0.03)O2の組成を有する正極活物質を、また、正極合材層の硫化物系固体電解質として75Li2S-25P25の組成を有する硫化物系固体電解質を使用したが、正極合材層の正極活物質及び硫化物系固体電解質については、それらの組成によらず、正極合材層の塗工密度を10~25mg/cm2に制御することによって初回放電容量、初回充電後抵抗、レート特性及び10サイクル容量維持率という電池特性を向上させることができる。これは、正極合材層の塗工密度が10mg/cm2以上であると、その組成によらず、全固体リチウムイオン電池充電後抵抗の増大を抑制することができ、抵抗のばらつきが小さくなり、全固体リチウムイオン電池の電池特性の安定した測定が可能となるためである。また、正極合材層の塗工密度が25mg/cm2以下であると、その組成によらず、固体電解質内のリチウムイオンの移動が律速になることを抑制することができ、放電容量やレート特性が良好となるためである。
比較例1及び2は、正極合材層の塗工密度が10mg/cm2未満であるため、初回充電後抵抗が不良であった。
比較例3~5は、正極合材層の塗工密度が25mg/cm2を超えているため、初回放電容量、レート特性及び10サイクル容量維持率の少なくともいずれかが不良であった。
図1