(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023081771
(43)【公開日】2023-06-13
(54)【発明の名称】酸化物ナノ粒子を混合した積層造形用金属粉末および積層造形体
(51)【国際特許分類】
B22F 1/105 20220101AFI20230606BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230606BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230606BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230606BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230606BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230606BHJP
C22C 38/48 20060101ALN20230606BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20230606BHJP
C22C 19/05 20060101ALN20230606BHJP
【FI】
B22F1/105
B22F1/00 M
B22F1/00 S
B22F10/28
B33Y70/00
B33Y80/00
B82Y30/00
C22C38/48
C22C38/00 302Z
C22C19/05 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021195748
(22)【出願日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(74)【代理人】
【識別番号】100101085
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 健至
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(72)【発明者】
【氏名】萩谷 透
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】相川 芳和
(72)【発明者】
【氏名】森口 裕樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA07
4K018AA33
4K018BA04
4K018BA17
4K018BB04
4K018BC28
(57)【要約】
【課題】 高温強度に優れた金属積層造形用の粉末と、この積層造形用粉末を用いて作製された高温強度に優れた積層造形物を提供すること。
【解決手段】 粉末表面に有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子が付着した合金粉末からなる積層造形用合金粉末材料。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末表面に有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子が付着した合金粉末からなる積層造形用合金粉末材料。
【請求項2】
合金粉末がNi基合金粉末であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項3】
合金粉末がFe基合金粉末であることを特徴とする請求項1に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項4】
前記の酸化物ナノ粒子は、その合金粉末材料表面に付着する酸化物ナノ粒子凝集部の面積率が0.1%~10%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項5】
前記酸化物ナノ粒子が合金粉末材料中に0.1~1.5質量%添加されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項6】
前記酸化物ナノ粒子は、その一次粒子径が1~100nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項7】
酸化物ナノ粒子が、Y2O3、ThO2、Al2O3、TiO2、SiO2のいずれかであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の積層造形用合金粉末材料。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の積層造形用合金粉末材料を用いて積層造形された金属積層造形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きさがナノメートル級の酸化物からなる粒子(以下、酸化物ナノ粒子という。)を混合した積層造形用金属粉末およびこの粉末を用いて積層造形した積層造形体に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末材料にレーザーや電子ビームを照射して三次元形状造形物を製造する方法(以下、粉末焼結積層法と呼ぶ) が知られている。金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成すると共に、焼結層を積層することで三次元形状造形物を得る金属光造形に用いられる金属光造形用金属粉末の製造方法が提案されている。金属積層造形法の代表的な方式にはパウダーベッド方式(粉末床溶融結合方式)やメタルデポジション方式(指向性エネルギー堆積方式)などがある。
【0003】
パウダーベッド方式では、レーザービームまたは電子ビームの照射によって、敷き詰められた粉末のうち照射された部位が溶融し凝固する。この溶融と凝固により、粉末粒子同士が結合する。照射は、金属粉末の一部に選択的になされ、照射がなされなかった部分は、溶融せず、照射がなされた部分のみにおいて、結合層が形成される。
【0004】
形成された結合層の上に、さらに新しい金属粉末が敷き詰められ、それらの金属粉末にレーザービームまたは電子ビームの照射が行われる。すると、照射により、金属粒子が溶融、凝固し、新たな結合層が形成される。また、新たな結合層は、既存の結合層とも結合される。
【0005】
照射による溶融・凝固が順次繰り返されていくことにより、結合層の集合体が徐々に成長する。この成長により、三次元形状を有する造形体が得られる。こうした積層造形法を用いると、複雑な形状の造形物が、容易に得られる。
【0006】
また、メタルデポジション方式(指向性エネルギー堆積方式)による積層造形法としては、例えば、金属粉末からなる粉末層に光ビームを照射して焼結層を形成し、三次元形状造形物を得る金属光造形用金属粉末として、「鉄系粉末」と、「ニッケル、ニッケル系合金、銅、銅系合金、及び黒鉛から成る群から選ばれる1種類以上の粉末」が混合された粉末の製造方法が提案されている。(特許文献1参照。)。
【0007】
このような金属積層造形においては、粉末を高い充填性で敷き詰めるために、粉末の流動性が重要とされる。こうした粉末の流動性を高める手段として、粉末の円形度を高める方法が最もよく知られている。
【0008】
また、Fe基合金の金属粒子に、流動性改善のために、有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子を混合し、金属粉末同士の付着力を下げる方法が提案されている(特許文献2参照。)。
もっとも、有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子を使用しているため、表面処理を施したナノ粒子に比べてナノ粒子が凝集してしやすい。そのため、さらにジェットミルを利用した分級工程を使って、ナノ粒子が凝集した部位(ナノ粒子凝集部という。)を含まない粉末材料を得るといった手順を要する。
【0009】
ところで高温強度に関しては、積層造形ではないが、金属原料と酸化物ナノ粒子を混合し、メカニカルアロイングした粉末材料を、HIPで固化成型することにより、金属組織中に微細な酸化物が分散させ優れた高温強度を示す材料を成型する手法が知られている(非特許文献1参照)。そして酸化物が分散したメカニカルアロイングの粉末として、Ni基合金ではMA6000、MA754、Fe基合金ではMA956などの粉末が実際に市販されている。もっとも、メカニカルアロイングの粉末は球形度が低く、流動性、充填性には必ずしも好適とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-81840号公報
【特許文献2】特開2021-75784号公報
【非特許文献1】海江田 義也「セラミック粒子分散強化型(ODS)耐熱合金の開発動向」、ターボ機械13巻 (1985)4号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属粉末を積層造形法で優れた高温強度の積層造形体を作製するためには、充填度が高くなる金属粉末であることが好適であるところ、通常のメカニカルアロイングでは所望の球形度を得られにくい。また、メカニカルアロイングでは、粒子の圧延と折り畳み、粒子同士の圧接と破砕が繰り返されながら合金化されることとなるので、必ずしも表面に酸化物が分散されるわけではない。
【0012】
そこで、本発明の解決しようとする課題は、高温強度に優れた金属積層造形用の粉末と、この積層造形用粉末を用いて作製された高温強度に優れた積層造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、表面に有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子を、粒子分散強化(ODS)を目的として、酸化物ナノ粒子凝集部が合金粉末粒子の表面に面積率で10%以下の割合で付着させた金属積層造形向けNi基またはFe基の合金粉末材料と、この粉末材料を使って、金属積層造形によって造形を行うことが、高温強度に優れることを見出した。
【0014】
本発明の課題を解決するための手段は、粉末表面に有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子が付着したNi基合金粉末、もしくはFe基合金粉末からなる積層造形用合金粉末材料である。
【0015】
前記の酸化物ナノ粒子は、合金粉末材料表面に付着する酸化物ナノ粒子凝集部の面積率が面積率10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは酸化物ナノ粒子凝集部の面積率が5%以下である。また、粒子分散強化(ODS)の観点からは0.1%以上であることが好ましい。
【0016】
前記酸化物ナノ粒子の添加量は、0.1~1.5質量%以下であることが好ましい。
【0017】
前記酸化物ナノ粒子の一次粒子径は、1~100nmの範囲内にあることが好ましい。
【0018】
前記酸化物ナノ粒子は、Y2O3、ThO2、Al2O3、TiO2、SiO2のいずれかであることが好ましく、より好ましくはY2O3、Al2O3であり、さらに好ましくはY2O3である。
【0019】
そして、これらの積層造形用合金粉末材料を用いて積層造形された金属積層造形体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の手段の積層造形用合金粉末を用いて積層造形すると、造形体中に酸化物が微細分散されることで優れた高温強度を示す造形体が得られる。
【0021】
酸化物ナノ粒子の添加量が増えると、混合粉末の表面に酸化物ナノ粒子凝集部が発生しやすくなる。そして、ナノ粒子凝集部は、レーザー溶融時にメルトプール中を拡散し、全体に分散されるとはいえども、ナノ粒子凝集部の面積割合が過度に大きくなると、ナノ粒子凝集部の一部が分散しきらずに、μmスケールの凝集酸化物として残存することとなる。こうしたμmスケールの酸化物の残存は、ナノ粒子凝集部の面積率が10%以上を超える際に発生する。
【0022】
本発明の手段のように積層造形用合金粉末の表面の酸化物ナノ粒子凝集部の面積率を10%以内に抑えると、積層造形で粉末を溶融させた際に、ナノ粒子酸化物の凝集が溶けることで数十から数百nmの微細な酸化物として分散されるため、積層造形体が粒子分散強化によって強化される。他方、10%を超えると溶融の際にナノ粒子の凝集が十分に解かされず、μmスケールの酸化物ナノ粒子凝集部が残存することとなりやすく、すると、このμmスケールの酸化物は、破壊の起点となってしまうため、強度を低下させてしまうものとなりやすい。
【0023】
酸化物ナノ粒子を金属粉末表面に付着させることで、金属粉末粒子と金属粉末粒子の間に酸化物ナノ粒子が位置し、その結果金属粉末粒子同士が直接接触しなくなってこれらの粒子間に働く付着力が低減するので、合金粉末材料の流動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の酸化物ナノ粒子が表面に付着したニッケル基合金粉末材料を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像した画像である。(a)はY
2O
3を0.01質量%添加した場合であり、(b)はY
2O
3を0.3質量%添加した場合である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[供試材のベースとなるアトマズ粉末の作製]
本発明の実施例及び比較例のための、ベース粉末として、ガスアトマイズ法により、下表1に示す成分組成の粉末材料を作製した。ガスアトマイズは、真空中にてアルミナ製坩堝で所定の配分となるよう配合した原料を高周波誘導加熱で溶解し、坩堝下の直径約5mmのノズルから溶融した合金を落下させ、これに高圧アルゴンまたは高圧窒素をガス噴霧することで作製した。また、その得られた粉末の平均粒径D50(μm)と、球形度を示す。ここでいう平均粒径は体積平均である。
【0026】
具体的には、インコネル718に相当するNi基合金として、
(No.A)Fe-52%Ni-20%Cr-0.05C-0.1Mn-0.2Si-3.0Mo-0.3Co-5.2Nb-0.5Al-0.9Ti-0.003B、
(No.B)Fe-52%Ni-20%Cr-0.05C-0.1Mn-0.2Si-3.0Mo-0.3Co-5.2Nb-0.5Al-0.9Ti-0.003B、
また、SUS630に相当するFe基合金として、
(No.C)Fe-16Cr-4Ni-4Cu-0.9Mn-0.4Nb-0.25Si-0.05Cの成分のアトマイズ粉末を作製した。
【0027】
【0028】
[金属粉末と酸化物ナノ粒子の混合]
酸化物ナノ粒子として、CIKナノテック株式会社のY2O3ナノ粒子(平均粒子径29nm)を使用した。表面に酸化物ナノ粒子が付着した合金粉末の作製のために、V型混合機を用いて機械的に混合した。粉末の混合は、金属粉末の表面に付着させる目的の範囲で、タンブラーミキサー、ボールミキサー、その他の道具によっても混合することができる。また、容器に入れて手作業で混合することも可能である。
【0029】
[未付着酸化物ナノ粒子の除去]
これらの混合作業を経ても、金属粉末粒子に付着しないままの酸化物ナノ粒子が残存することがある。酸化物ナノ粒子は数μmから数百μmのサイズである。そこで、それらの未付着の酸化物ナノ粒子を、篩分級によって除去した。この除去工程を経ることで、より適切な混合粉末材料を得ることができる。
【0030】
[金属積層造形による引張、ラプチャー試験片の作製]
上記処理を経て表面にナノ粒子を付着させた粉末を用いて、次の2とおりの方法で、引張試験辺および、ラプチャー試験片を作製した。
(i) 表1のNo.AのNi基合金(31.2μm)および表1のNo.CのFe基合金(31.2μm)の混合粉末を使用し、レーザー粉末焼結積層造形(SLM)方式で金属積層造形することで試験片を作製した
(ii) 表1のNo.BのNi基合金(8.3μm)の混合粉末を使用し、バインダジェット方式で金属積層造形することで試験片を作製した。
なお、本発明の粉末を用いた積層造形方法はこれらの手法に限定されるものではないことはもちろんであって、電子ビーム粉末焼結積層造形(EBM)方式や、レーザーデポジション方式でも積層造形することができるが、ここでは上に記載の2通りの方式で作製した試験片を用いて評価することとする。
【0031】
[金属粉末の形態]
合金粉末サイズ:2μm≦D50≦150μm
合金粉末のサイズが2μm未満であると、過度の微粉化により粉末の流動性が著しく低下すること、他方、150μmを超えると粉末の充填率が低下し、造形体の密度が低下することから、合金粉末のサイズは2μm≦D50≦150μmとする。
【0032】
なお、積層造形の造形方式によって好適な粒度範囲は次のとおり異なっている。
これらの方法に応じて合金粉末のサイズを調整することで、積層造形体を適切に得ることができる。
・レーザー粉末焼結積層造形(SLM):10≦D50≦45μm
・レーザーデポジション方式、電子ビーム方式:45≦D50≦150μm
・バインダジェット方式:2≦D50≦25μm
【0033】
[酸化物ナノ粒子の形態]
酸化物ナノ粒子のサイズ:好ましくは一次粒子径で1~100nm
酸化物ナノ粒子としては、一次粒子径が1~100nmのサイズが好適である。粒径が小さいほど、積層造形された際の粒子分散強化(ODS)の効果が大きくなるので、酸化物ナノ粒子のサイズは、より好ましくは1~50nm、さらにより好ましくは1~30nmである。なお、酸化物ナノ粒子を付着させた混合粉末における一次粒子径は、混合前の酸化物ナノ粒子の一次粒子径と同様であり、一次粒子径は、ガス吸着法による比表面積測定に基づいて決定することができる。
【0034】
ナノ粒子添加量:0.1~1.5%
本発明の合金粉末へのナノ粒子の添加量としては、質量%で0.1~1.5%であれば適用できる。0.1%未満だと粒子分散強化(ODS)の効果が十分に得られない。1.5%以上だと、酸化物凝集部が発生しやすくなり、強度が低下する。ナノ粒子添加量は好ましくは0.2~1.5%であり、さらに好ましくは0.25~1.0%である。
【0035】
ナノ粒子の形状、製造法:
有機物による表面処理が施されていない酸化物ナノ粒子の製造法としては、たとえばフレームスプレー熱分解法(Flame Spray Pyrolysis法やPhysical Vapor Synthesis,FSP法)が挙げられる。酸化物ナノ粒子の過剰な凝集を抑えるために、球状度が高い酸化物ナノ粒子の使用が有効であることから、物理気相合成法(Physical Vapor Synthesis法)によって得られた酸化物ナノ粒子粉末の方が、FSP法よりも球状度が高く、好ましい粉体を得やすい。
【0036】
酸化物ナノ粒子の種類:
本発明の酸化物ナノ粒子としては、たとえばY2O3、ThO2、Al2O3、TiO2、SiO2などが適用できる。高温においてもマトリクスで安定に存在できる酸化物ナノ粒子であれば、これら例示の酸化物に限らず好適である。なかでも、Y2O3、Al2O3は、高温においてもマトリクスで安定に存在できるものであるから、好ましい。さらに好ましくはY2O3である。
なお、実施例では酸化物ナノ粒子として代表的にY2O3を用いて説明している。
【0037】
[酸化物ナノ粒子の凝集部の面積率]
本発明における合金粉末の表面に付着する酸化物ナノ粒子の凝集部の面積率は10%以下である。
ナノ粒子凝集部の面積率が10%以下であるならば、積層造形で粉末を溶融させた際に、ナノ粒子酸化物の凝集が溶けて数十μmから数百μmの微細な酸化物として分散されるため、積層造形体がODSで強化される。
一方で10%以上であると、溶融の際にナノ粒子の凝集が十分に解かれず、μmスケールの酸化物が残存する。このμmスケールの酸化物は、破壊の起点となり得るため、造形体の強度を低下させてしまう。
【0038】
流動性の改善目的であれば、ナノ粒子添加量は、0.01%以上0.1%未満で十分であるが、粒子分散強化(ODS)を図るためには、0.1%以上の酸化物ナノ粒子を添加する必要がある。ナノ粒子を添加量を0.1%以上に増やすと、不可避的に1μm以上の凝集部が発生する。
【0039】
[造形体の熱処理]
造形後の試験片に対して以下の熱処理を行った。
(Ni基合金)
溶体化:980℃で1時間保持した後、空冷した。
時効処理:720℃で8時間保持した後、(2時間で)620℃まで炉冷し、620℃で8時間保持後、空冷した。
(Fe基合金)
溶体化:1040℃で1時間保持した後、水冷した。
時効処理:480℃で2時間保持した後、空冷した。
【0040】
[ナノ粒子の凝集部の面積率の評価]
走査型電子顕微鏡(SEM)にて、酸化物ナノ粒子の付着した合金粉末材料の粒子を30個観察する。
次いで、エネルギー分散型X線分析(EDS)により金属であるか酸化物であるかを特定する。
面積から換算した粒径が1μmを超える部分を酸化物ナノ粒子凝集部と定義し、ナノ粒子凝集部の面積率は、次の式で求める。
酸化物ナノ粒子凝集部の面積率=(合金粉末1粒子の中で観測された酸化物ナノ粒子凝集部の面積の合計)/(粉末1粒子の面積)
ここで(粉末1粒子の面積)は、SEM画像で見える部分のみをカウントする(重なって見えない部分はカウントしない。)。
そして上この計算を、粉末粒子30個に対して行い、その平均値を酸化物ナノ粒子凝集部の面積率とする。
【0041】
[D50の測定方法]
平均粒子径D50の測定は、粉末の全体積が100%とされて、累積カーブが求められる。このカーブ上の、累積体積が50%である点の粒子径が、D50である。粒子直径D50は、レーザー回折散乱法によって測定される。この測定に適した装置として、日機装社のレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3000」が挙げられる。この装置のセル内に、粉末が純水と共に流し込まれ、粒子の光散乱情報に基づいて、粒子径が検出される。
【0042】
[ハウスナー比]
ハウスナー比は、タップ密度/見かけ密度で定義される指標である。このハウスナー比が低いほど、流動性に優れた粉末である。
タップ密度は、約50gの粉末を、容積100cm3のシリンダーに充填し、落下高さ10mm、タップ回数200回の時の充填密度で評価した。
【0043】
[高温引張強度]
合金粉末材料を用いて積層造形法(SLMもしくはバインダジェット方式)によって、日本産業規格JIS G0567(2020)の表A-3に記載の6型試験片(φ6×GL30mm)を作製した。これらの試験片を用いて、引張試験中に加わった最大引張応力σを引張強さ(σ=測定荷重F/断面積S)として算出した。引張試験は649℃の環境下で実施した。
【0044】
[ラプチャー試験]
平行部が直径6mmのクリープラプチャー試験片を作製し、以下の条件でクリープラプチャー試験片を作製した。以下の条件でラプチャー試験(破断試験)を行った。
・Ni基合金:649℃、690MPa
・Fe基合金:482℃、665MPa
【0045】
表2、表3に示すように、表1に記載のNi基合金No.AおよびNo.B、Fe基合金No.Cに対して、酸化物ナノ粒子の添加量を変えつつ、混合粉末材料となる実施例No.1~7、比較例No.1~7を作製し、これらを積層造形し、それぞれの特性を上述の手法にて評価した。結果を表2、表3に示す。表1のいずれの粉末を用いたかの組み合わせは、表2のD50に示すとおりで、表1のNi基合金No.Bを用いているのは、表2の実施例No.2と表3の比較例No.2である。
なお、実施例、比較例で用いた酸化物ナノ粒子はすべてY2O3である。
【0046】
【0047】
【0048】
図1に示すように、0.3質量%のY
2O
3ナノ粒子を添加したものでは、ナノ粒子凝集部が発生していることが確認された。
【0049】
そして、実施例のNi基合金粉末からなる積層造形体は、いずれも比較例Ni基合金粉末からなる積層造形体に比べて引張強度が高く破断しにくいものとなっており、優れた高温強度を示した。実施例のNi基合金粉末からなる積層造形体は、いずれも比較例Ni基合金粉末からなる積層造形体に比べて引張強度が高く破断しにくいものとなっており、優れた高温強度を示した。実施例のFe基合金粉末からなる積層造形体は、いずれも比較例Fe基合金粉末からなる積層造形体に比べて引張強度が高く破断しにくいものとなっており、優れた高温強度を示した。
【0050】
また、実施例ではハウスナー比も低く優れた流動性を示しており、積層造形用合金粉末材料として好適であることも確認された。
【0051】
比較例のNi基合金No.2および比較例のFe基合金No.6は、いずれも流動性が悪く流れなかったため、見かけ密度が測定できず、ハウスナー比が評価できなかった。このように従来は積層造形用合金粉末材料として適さないものが、本発明のように酸化物ナノ粒子の添加をすることで、積層造形用の用途が確保されたものとなり、高温強度も優れたものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の合金粉末材料は、メタルデポジション方式、パウダーベッド方式をはじめ、電子ビーム方式、バインダジェット方式の積層造形向けの金属粉末に適している。また、積層造形体は耐熱部品に適している。