(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082428
(43)【公開日】2023-06-14
(54)【発明の名称】合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法
(51)【国際特許分類】
G01N 24/08 20060101AFI20230607BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20230607BHJP
【FI】
G01N24/08 510P
G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196194
(22)【出願日】2021-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】冨士田 公彦
(57)【要約】
【課題】合成樹脂におけるイソシアネート基を極微量であっても精度よく定量する。
【解決手段】末端にイソシアネート基を有する合成樹脂を準備する工程と、合成樹脂と1分子中に4以上のフッ素原子を有する含フッ素アルコールとを反応させ、イソシアネート基に含フッ素アルコールが結合した含フッ素誘導体を生成する工程と、含フッ素誘導体を核磁気共鳴分光法で測定し、測定により得られるスペクトルに基づき、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求める工程と、予め求めた、フッ素原子の濃度とフッ素原子核に由来するピークの積分値との相関を示す検量線を用いて、含フッ素誘導体についてのフッ素原子核に由来するピークの積分値から、含フッ素誘導体に含まれるフッ素原子の濃度を求める工程と、を有する、合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にイソシアネート基を有する合成樹脂を準備する工程と、
前記合成樹脂と1分子中に4以上のフッ素原子を有する含フッ素アルコールとを反応させ、前記イソシアネート基に前記含フッ素アルコールが結合した含フッ素誘導体を生成する工程と、
前記含フッ素誘導体を核磁気共鳴分光法で測定し、測定により得られるスペクトルに基づき、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求める工程と、
予め求めた、フッ素原子の濃度とフッ素原子核に由来するピークの積分値との相関を示す検量線を用いて、前記含フッ素誘導体についての前記フッ素原子核に由来するピークの積分値から、前記含フッ素誘導体に含まれるフッ素原子の濃度を求める工程と、を有する、
合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法。
【請求項2】
前記含フッ素アルコールがヘキサフルオロイソプロパノールである、
請求項1に記載の合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法。
【請求項3】
前記合成樹脂は、2種以上のモノマをイソシアネート化合物で架橋させた共重合体である、
請求項1又は2に記載の合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリウレタンやポリアミドイミドなどの合成樹脂は、架橋剤としてイソシアネート化合物を用いて製造される。これらの合成樹脂には、合成反応の際にイソシアネート化合物が反応しきれずに、未反応のイソシアネート基が末端に残存することがある。
【0003】
合成樹脂においては、反応条件によって、残存するイソシアネート基の量が異なることがある。イソシアネート基の量により合成樹脂の物性が変動し、合成樹脂から作製される製品の特性も大きく変動することがある。そのため、製品の特性を管理する観点から、合成樹脂におけるイソシアネート基の量を精度よく把握することが求められている。
【0004】
そこで、イソシアネート基を定量する方法として、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1では、合成樹脂にフルオロアルコールを反応させ、得られるフルオロアルコールウレタン誘導体を核磁気共鳴分光法で測定し、合成樹脂中の末端イソシアネート基を定量する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1の定量方法では、合成樹脂でも、イソシアネート基の含有量が極微量となる場合、感度が不十分となり、イソシアネート基を精度よく定量できないことがあった。具体的には、フルオロアルコールウレタン誘導体を核磁気共鳴分光法で測定しても、得られるスペクトルでは、フルオロアルコールウレタン誘導体に由来するフッ素核のピークは、その他の官能基のピークと比べて強度が小さく、その積分値から、フッ素原子の量、つまりイソシアネート基の量を精度よく定量できないことがあった。
【0007】
そこで、本発明は、合成樹脂におけるイソシアネート基を極微量であっても精度よく定量する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、
末端にイソシアネート基を有する合成樹脂を準備する工程と、
前記合成樹脂と1分子中に4以上のフッ素原子を有する含フッ素アルコールとを反応させ、前記イソシアネート基に前記含フッ素アルコールが結合した含フッ素誘導体を生成する工程と、
前記含フッ素誘導体を核磁気共鳴分光法で測定し、測定により得られるスペクトルに基づき、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求める工程と、
予め求めた、フッ素原子の濃度とフッ素原子核に由来するピークの積分値との相関を示す検量線を用いて、前記含フッ素誘導体についての前記フッ素原子核に由来するピークの積分値から、前記含フッ素誘導体に含まれるフッ素原子の濃度を求める工程と、を有する、
合成樹脂中のイソシアネート基の定量方法が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記含フッ素アルコールがヘキサフルオロイソプロパノールである。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記合成樹脂は、2種以上のモノマをイソシアネート化合物で架橋させた共重合体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、合成樹脂におけるイソシアネート基を極微量であっても精度よく定量することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者等は、上述した課題を解決すべく、さらに検討を行った。例えば特許文献1では、含フッ素アルコールとして、フッ素原子の数が3であるトリフルオロエタノールなどが使用されていた。ただ、本発明者等の検討によると、トリフルオロエタノールなどでは、極微量のイソシアネート基を精度よく定量できないことが確認された。
【0013】
フッ素原子核に由来するピーク強度を高める観点からは、フッ素原子数のより多い含フッ素アルコールを用いることが考えられる。ただし、フッ素原子数が増えると、立体障害が大きくなり、含フッ素アルコールのイソシアネート基への反応性が阻害されるおそれがる。この点につき、本発明者等がさらに検討した結果、フッ素原子数が増えることで立体障害が大きくなるものの、むしろ含フッ素アルコールとイソシアネート基との過度な反応を抑制し、その反応性のハンドリングを向上できることが分かった。しかも、フッ素原子数が増えることで、酸性度が高くなり、反応性のハンドリングをより向上できることが分かった。この結果、合成樹脂における末端のイソシアネート基に対して含フッ素アルコールをより確実に結合できるとともに、核磁気共鳴分光法で測定したときに検出感度を向上でき、イソシアネート基をより精度よく定量できることが分かった。
【0014】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態にかかる、合成樹脂におけるイソシアネート基の定量方法について説明する。
【0015】
まず、定量対象となる合成樹脂を準備する。
【0016】
合成樹脂は、モノマと架橋剤としてイソシアネート化合物とを合成して得られるものである。合成樹脂の合成反応の際、イソシアネート化合物が反応しきれずに残存することがあり、合成樹脂は、残存するイソシアネート基を末端に有することがある。合成樹脂としては、例えばポリウレタンやポリアミドイミドなどが挙げられる。
【0017】
続いて、合成樹脂と反応させる含フッ素アルコールを準備する。
【0018】
含フッ素アルコールは、1分子中に、少なくとも水酸基(OH基)と4つ以上のフッ素原子を有するフルオロアルコールである。含フッ素アルコールは、水酸基により、合成樹脂におけるイソシアネート基と反応することができ、含フッ素誘導体を形成することができる。含フッ素誘導体によれば、後述するように、核磁気共鳴分光法で測定したときに、得られるスペクトルにおいて、フッ素原子核に由来するピークと、それ以外の官能基に由来するピークとを分けて検出することができる。このとき、含フッ素アルコールにおけるフッ素原子の数を4以上とすることにより、フッ素原子核に由来するピークの強度を向上させることができ、感度を高めることができる。例えば、含フッ素アルコールとして、フッ素原子の数が6の化合物を使用する場合、フッ素原子の数が3の化合物を使用する場合と比較して、ピーク強度を2倍以上とすることができる。
【0019】
含フッ素アルコールとしては、フッ素原子の数が4以上であって、イソシアネート基と反応できるものであれば特に限定されない。合成樹脂との反応性や感度の向上の観点からは、フッ素原子の数は6以上であることが好ましい。フッ素原子の数を上記範囲とすることにより、適度な立体障害を導入でき、イソシアネート基との反応性を過度に低減させることなく、ハンドリングをより向上させることができる。
【0020】
含フッ素アルコールとしては、具体的には、ペンタフルオロエチル-エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールなどを用いることができる。この中でも、反応性の観点からは、ヘキサフルオロイソプロパノールが好ましい。
【0021】
続いて、合成樹脂を含フッ素アルコールと反応させ、イソシアネート基に含フッ素アルコールを結合させて、合成樹脂の含フッ素誘導体を得る。含フッ素誘導体は、イソシアネート基と水酸基との反応により含フッ素ウレタン誘導体となる。なお、含フッ素アルコールとの反応条件は特に限定されないが、室温(25℃)から80℃の任意の温度で5分から30分反応させるとよい。
【0022】
このときの反応は下記式(1)で示される。
-N=C=O+HO-CXHYFZ→-NH-(C=O)-O-CXHYFZ・・・(1)
なお、式(1)中、xおよびyは任意の整数であり、zは4以上の整数である。
【0023】
含フッ素アルコールとして、例えばヘキサフルオロイソプロパノールを用いた場合の反応は下記式(2)で示される。
-N=C=O+HO-CH(CF3)2→-NH-(C=O)-O-CH(CF3)2・・・(2)
【0024】
続いて、含フッ素誘導体を、例えば貧溶媒である水とアセトニトリルの混合溶媒に滴下して沈殿し、真空乾燥する。
【0025】
続いて、真空乾燥により得られる乾固物を例えば重水素化溶媒に溶解し、測定溶液を得る。
【0026】
続いて、得られた測定溶液を核磁気共鳴分光法で測定し、スペクトルを得る。得られるスペクトルでは、フッ素原子核に由来するピークが、その他の官能基に由来するピークと分けて検出される。しかも、含フッ素誘導体に導入されるフッ素原子数が4以上となっているので、ピークの強度が大きく検出される。
【0027】
続いて、得られたスペクトルに基づき、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求める。そして、予め求めた、フッ素原子核に由来するピークの積分値とフッ素原子の濃度との相関を示す検量線に基づき、含フッ素誘導体についてのフッ素原子核に由来するピークの積分値から、含フッ素誘導体に含まれるフッ素原子の濃度を定量する。この定量値を、合成樹脂における末端のイソシアネート基量に換算する。
【0028】
なお、検量線は以下のように作成するとよい。例えば、構造が既知であるイソシアネート化合物と含フッ素アルコールとを反応させ、標準物質としてのフルオロアルコールウレタンを生成する。この標準物質を上記と同様に貧溶媒に滴下して再沈させ、真空乾燥により乾固物を形成する。その後、この乾固物を重水素化溶媒に溶解し、核磁気共鳴分光法で測定し、スベクトルを得る。このスペクトルから、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求める。そして、イソシアネート化合物の濃度を適宜変更し、上記と同様に、フッ素原子核に由来するピークの積分値を求め、フッ素原子の濃度とフッ素原子核に由来するピークの積分値との相関を示す検量線を得る。
【0029】
以上により、合成樹脂における末端のイソシアネート基の量を精度よく定量することができる。
【0030】
合成樹脂をそのまま核磁気共鳴分光法で測定する場合、イソシアネート基に由来するピークとその他の官能基に由来するピークとが明確に分かれて検出されないため、イソシアネート基に由来するピークを特定し、それを精度よく定量することが困難となる。これに対して、本実施形態では、合成樹脂の末端にあるイソシアネート基に含フッ素アルコールを結合させ、生成される含フッ素誘導体を核磁気共鳴分光法で測定している。これにより、フッ素原子核に由来するピークを、その他の官能基に由来するピークと分けて検出することができる。このとき、含フッ素アルコールとして、1分子中に4以上のフッ素原子を有する化合物を使用しているので、フッ素原子核に由来するピークの強度を高め、感度を向上させることができる。この結果、含フッ素誘導体におけるフッ素原子の濃度を精度よく定量でき、含フッ素アルコールが結合するイソシアネート基を精度よく定量することができる。
【0031】
また、本実施形態によれば、イソシアネート基の量が極微量である合成樹脂であっても、精度よく定量することができる。例えば、合成樹脂として、2種類以上のモノマとイソシアネート化合物とを共重合させ、イソシアネート基の量が極微量である共重合体であっても、末端のイソシアネート基を精度よく定量することができる。そのため、例えば、金属ペーストに用いられる合成樹脂について、そのイソシアネート基を精度よく定量できる。
【0032】
また、1分子中に4以上のフッ素原子を有する含フッ素アルコールによれば、立体障害が比較的大きく、かつ酸性度が高いため、合成樹脂におけるイソシアネート基との過度な反応を抑制し、この反応のハンドリングを向上させることができる。これにより、イソシアネート基に対して含フッ素アルコールをより確実に結合することができ、イソシアネート基をより精度よく定量することができる。
【0033】
以上のように、本実施形態の定量方法によれば、合成樹脂のイソシアネート基を精度よく定量することができる。これにより、例えば、金属ペーストに含まれる合成樹脂のイソシアネート基の量から合成樹脂の分子量などの物性を把握することができ、金属ペーストの品質を管理することができる。