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特開2023-82847α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023082847
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/63 20060101AFI20230608BHJP
   C07C 49/80 20060101ALI20230608BHJP
   C07B 53/00 20060101ALN20230608BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230608BHJP
【FI】
C07C45/63
C07C49/80
C07B53/00 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021196820
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】522500321
【氏名又は名称】シンクレスト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米山 心
(72)【発明者】
【氏名】徐 鵬宇
(72)【発明者】
【氏名】有光 暁
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC30
4H006AC81
4H006BA51
4H006BB25
4H039CA51
4H039CD10
(57)【要約】
【課題】本発明は、高収率で、高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位に対するフッ素化反応を行い、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物を提供する事を目的とする。
【解決手段】有機溶媒中で、β,β-ジアリール置換型セリン、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の触媒の存在下、α-置換β-ジケトンとフッ素化剤とを混合し、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法であって、
有機溶媒中で、β,β-ジアリール置換型セリン、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の触媒の存在下、α-置換β-ジケトンとフッ素化剤とを混合し、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記フッ素化剤は、N-フルオロベンゼンスルホンイミド、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)、1-フルオロ-2,4,6-トリメチルピリジニウムテトラフルオロボレート、2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムテトラフルオロボレート、及び2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムトリフラートからなる群から選択される少なくとも一種のフッ素化剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び芳香族系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、キラル一級アミン触媒を用いて、α-分岐β-ケトカルボニル及びビニルケトンのエナンチオ選択的変換を開示している。
【0003】
特許文献2は、キラル一級アミン触媒を用いて、β-ケトカルボニルの不斉フッ素化の為のエナンチオ選択的変換を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】Acc. Chem. Res. 2015, 48, 986-997
【特許文献2】Chem. Sci., 2017, 8, 621-626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高収率で、高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位に対するフッ素化反応を行い、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、有機溶媒中で、β,β-ジアリールセリン等の触媒の存在下、α-置換β-ジケトンに、例えば、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)等のフッ素化剤を反応させる事に依り、高収率、及び高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化させる事が出来る事を見出した。
【0007】
本発明者は、係る知見に基づき、更に研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下のα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法を包含する。
【0009】
項1.
α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法であって、
有機溶媒中で、β,β-ジアリール置換型セリン、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の触媒の存在下、α-置換β-ジケトンとフッ素化剤とを混合し、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む、製造方法。
【0010】
項2.
前記フッ素化剤は、N-フルオロベンゼンスルホンイミド、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)、1-フルオロ-2,4,6-トリメチルピリジニウムテトラフルオロボレート、2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムテトラフルオロボレート、及び2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムトリフラートからなる群から選択される少なくとも一種のフッ素化剤である、前記項1に記載の製造方法。
【0011】
項3.
前記有機溶媒は、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び芳香族系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、高収率で、及び高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位に対するフッ素化反応を行い、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物を製造する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0014】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0015】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0016】
[1]α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法
本発明のα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも記す)は、液相で、触媒(例えば、β,β-ジアリールセリン(β,β-diaryl serine)等の一級アミン有機触媒)の存在下、α-置換β-ジケトンとフッ素化剤とを混合し、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む。
【0017】
本発明の製造方法に依り、原料化合物のα-置換β-ジケトンから、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物を、高収率(74%~99%収率)で、高エナンチオ選択的(75%ee~95%ee)に、製造する事が出来る。
【0018】
[1-1]α-置換β-ジケトン(基質)
本発明の製造方法は、基質として、α-置換β-ジケトンを用い、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む。
【0019】
前記α-置換β-ジケトンは、好ましくは、次の一般式(1)で表される構造を有する。
【0020】
【化1】
【0021】
式(1)中、R1は、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等であり、より好ましくは、アルキル基、アリール基等である。
【0022】
式(1)中、R2(2位の部分)は、好ましくは、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基等である。
【0023】
式(1)中、R3は、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等であり、より好ましくは、アルキル基、アリール基等である。
【0024】
前記アルキル基は、好ましくは、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-エチルプロピル等の炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基;n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、イソヘキシル、3-メチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、5-プロピルノニル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等を加えた炭素数1~18の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の炭素数3~8の環状アルキル基等である。
【0025】
前記アルコキシ基は、好ましくは、直鎖状、分岐状又は環状のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロピルオキシ、n-ブチルオキシ、イソブチルオキシ、sec-ブチルオキシ、tert-ブチルオキシ、1-エチルプロピルオキシ等の炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基;n-ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、3-メチルペンチルオキシ、n-ヘプチルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキシ、n-ウンデシルオキシ、n-ドデシルオキシ、5-プロピルノニルオキシ、n-トリデシルオキシ、n-テトラデシルオキシ、n-ペンタデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、ヘプタデシルオキシ、オクタデシルオキシ等を加えた炭素数1~18の直鎖状又は分岐状アルコキシ基;シクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、シクロヘプチルオキシ、シクロオクチルオキシ等の炭素数3~8の環状アルコキシ基等である。
【0026】
前記アリール基は、好ましくは、フェニル、ビフェニル、ナフチル、ジヒドロインデニル、9H-フルオレニル基等である。
【0027】
前記アラルキル基は、好ましくは、ベンジル、フェネチル、トリチル、1-ナフチルメチル、2-(1-ナフチル)エチル、2-(2-ナフチル)エチル基等である。
【0028】
前記アルケニル基は、好ましくは、エテニル基(ビニル基)、2-プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、tert-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクチニル基、イソオクチニル基、ノネニル基等である。
【0029】
前記アルキニル基は、好ましくは、エチニル基、プロピニル基、イソプロピニル基、ブチニル基、イソブチニル基、tert-ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、オクチニル基、ノニニル基である。
【0030】
[1-2]有機溶媒
本発明の製造方法では、有機溶媒中で、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む。
【0031】
前記有機溶媒は、好ましくは、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び芳香族系溶媒からなる群から選択される少なくとも一種の有機溶媒である。
【0032】
前記ハロゲン系溶媒は、好ましくは、ジクロロメタン(CH2Cl2)、トリクロロメタン(CHCl3)等である。
【0033】
前記エーテル系溶媒は、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル(Et2O)、イソプロピルエーテル(IPE)等である。
【0034】
前記エステル系溶媒は、好ましくは、酢酸エチル(AcOEt)等である。
【0035】
前記炭化水素系溶媒は、好ましくは、n-ヘキサン等である。
【0036】
前記芳香族系溶媒は、好ましくは、トルエン等である。
【0037】
前記有機溶媒は、より好ましくは、THF、ジオキサン、ジエチルエーテル等、エーテル系溶媒(極性溶媒)である。
【0038】
前記有機溶媒の使用量は、α-置換β-ジケトン(基質)の濃度(M(mol/L))が、好ましくは、0.005M~5Mの濃度に、より好ましくは、0.05M~2Mの濃度に成る様に調整する。
【0039】
[1-3]β,β-ジアリール置換型セリン、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の触媒
本発明の製造方法では、β,β-ジアリールセリン等のβ,β-ジアリール置換型セリン、及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも一種の触媒の存在下、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む。
【0040】
前記触媒は、好ましくは、次の一般式(2)で表される構造を有する。
【0041】
【化2】
式(2)中、Arは、アリール基を表す。
【0042】
本発明の製造方法では、特に、β,β-ジアリールセリンのCO2H基が、高エナンチオ選択性に寄与している。
【0043】
前記触媒は、好ましくは、β,β-ジフェニルセリン(C6)、β,β-ジ(4-フルオロフェニル)セリン(C7)、β,β-ジ(3,4,5-トリフルオロフェニル)セリン(C8)、β,β-ジ(3,5-ジトリフルオロメチルフェニル)セリン(C9)β,β-ジ(3,5-ジメチルフェニル)セリン(C10)、β,β-ジ(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)セリン(C11)、β,β-ビス(3,5-ジメチル-4-メトキシフェニル)セリン(C12)、β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)であり、より好ましくは、β,β-ジ(3,5-ジメチルフェニル)セリン(C10)、β,β-ジ(3,5-ジ-t-ブチルフェニル)セリン(C11)、β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)であり、更に好ましくは、β,β-ジ(3,5-ジメチルフェニル)セリン(C10)、β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)であり、特に好ましくは、β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)である。
【0044】
β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)は、次の構造である。
【0045】
【化3】
【0046】
フッ素化反応における触媒の使用量は、α-置換β-ジケトン(基質)に対する濃度として(基質を100モル%とする時に)、モル比で、好ましくは、5モル%~40モル%であり、より好ましくは、10モル%~30モル%であり、更に好ましくは、15モル%~25モル%である。
【0047】
本発明の製造方法では、フッ素化反応を進める際に、上記触媒を用いる事に依り、高収率で、高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造する事が出来る。
【0048】
[1-4]フッ素化剤
本発明の製造方法は、α-置換β-ジケトンとフッ素化剤とを混合し、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程を含む。
【0049】
前記フッ素化剤は、好ましくは、N-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)(Selectfluor(R))、1-フルオロ-2,4,6-トリメチルピリジニウムテトラフルオロボレート、2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムテトラフルオロボレート、及び2,6-ジクロロ-1-フルオロピリジニウムトリフラートからなる群から選択される少なくとも一種のフッ素化剤であり、より好ましくは、N-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)であり、特に好ましくは、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)である。
【0050】
1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)は、次の構造を有する。
【0051】
【化4】
【0052】
フッ素化反応における触媒の使用量は、α-置換β-ジケトン(基質)に対する当量として(基質を1当量とする時に)、モル比で、好ましくは、0.1当量~20当量であり、より好ましくは、0.9当量~5当量であり、更に好ましくは、1当量~3当量である。
【0053】
本発明の製造方法では、フッ素化反応を進める際に、上記フッ素化剤を用いる事に依り、高収率で、高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造する事が出来る。
【0054】
[1-5]α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応する工程
本発明の製造方法に依り、原料化合物のα-置換β-ジケトンから、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物を、高収率(74%~99%収率)で、高エナンチオ選択的(75%ee~95%ee)に製造する事が出来る。
【0055】
【化5】
【0056】
フッ素化反応する工程の反応温度は、好ましくは、0℃~90℃であり、好ましくは、0℃~60℃であり、更に好ましくは、10~35℃である。
【0057】
フッ素化反応する工程の反応時間は、好ましくは、0.5時間~70時間であり、好ましくは、10時間~60時間であり、更に好ましくは、20時間~50時間である。
【0058】
[2]応用例
本発明の製造方法の応用例として、本発明の製造方法に依り調製されるα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物から、更に、ジオール化合物、アルドール化合物、アリル化合物等を、高エナンチオ選択的に、製造する事が出来る。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0060】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明する。
【0061】
本発明がこれらに限定されるものではない。
【0062】
[1]フッ素化反応条件の検討
スキーム1及び表1に表す通り、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化反応させる条件の最適化を検討した。
有機溶媒:基質濃度0.5M/テトラヒドロフラン(THF)
触媒: 20モル%/基質
フッ素化剤:1.5当量/基質
反応条件:室温、48時間
【0063】
比較例1~5及び実施例1~5では、フッ素化剤(F+ reagent)として、N-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI、F1化合物)を使用し、様々な触媒(Catalyst)の存在下で、β-ジケトン1a化合物(前記式(1)中、R1はメチル基であり、R2はメチル基であり、R3はフェニル基である化合物)をフッ素化反応した。
【0064】
【化6】
【0065】
比較例1~5(触媒C1~C5)
触媒C1~C5を用いて、β-ジケトン1a化合物のフッ素化反応を行うと、目的のα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物(フッ素化化合物2a)の生成は認められないか、低収率に止まり、取得できた化合物のエナンチオ選択性も低いものであった。
【0066】
実施例1~3(触媒C6~C8)
触媒として、β,β-ジフェニルセリン(触媒C6)を用いて、α-置換β-ジケトンのα位をフッ素化する反応を行った。触媒として、フェニル置換基を持つβ,β-ジアリールセリンの塩基性触媒である触媒C6を用いて、β-ジケトン1a化合物のフッ素化反応を行うと、フッ素化化合物2aの収率は改善され、良好なエナンチオ選択性(71%ee)を示した。
【0067】
触媒として、β,β-ジ(4-フルオロフェニル)セリン(C7)、及びβ,β-ジ(3,4,5-トリフルオロフェニル)セリン(C8)を用いた反応系においても、フッ素化化合物2aの収率は改善され、良好なエナンチオ選択性を示した。
【0068】
実施例4及び5(触媒C10及びC13)
触媒として、様々な置換基を持つβ,β-ジアリールセリン(β,β-ジ(3,5-ジメチルフェニル)セリン(C10)、及びβ,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13))のスクリーニングを検討した。いずれも高いエナンチオ選択性を示した。
【0069】
実施例6(触媒C13とフッ素化剤F3との組み合わせ)
触媒として、β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)を用い、フッ素化剤として、1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)(Selectfluor(R)、F3化合物)を用いると、フッ素化反応の反応時間は短縮され、フッ素化化合物2aを、より高収率で、より高エナンチオ選択的(94%ee)に、製造する事が出来た。
【0070】
【表1】
【0071】
[2]スキーム2:基質の検討
スキーム2に示すα-置換β-ジケトンの基質の範囲を検討した。
有機溶媒:基質濃度0.5M/テトラヒドロフラン(THF)
触媒:β,β-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-メトキシフェニル)セリン(C13)、20モル%/基質
フッ素化剤:1-クロロメチル-4-フルオロ-1,4-ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンビス(テトラフルオロボラート)(Selectfluor(R)、F3化合物)、2当量/基質
反応条件:40℃、17時間~48時間
【0072】
【化7】
【0073】
基質として、基質2a化合物~2n化合物に表されるα-置換β-ジケトンを用いても、α-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物のエナンチオ選択性は高く、優れた収率で、フッ素化化合物を製造する事が出来た。
【0074】
[3]スキーム3:参考例
本発明のフッ素化反応を用いて製造したフッ素化化合物の合成用途の参考例を以下に示す。
【0075】
【化8】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物の製造方法に依れば、区別が困難なα-置換β-ジケトンを、高収率で、及び高エナンチオ選択的に、α-置換β-ジケトンのフッ素化反応を行う事が出来る。
【0077】
本発明の製造方法に依り得られるα-置換β-ジケトンのα位がフッ素化された化合物は、特殊フッ素化アミノ酸へ誘導化する事が可能であり、幅広い工業応用を期待する事が出来る。