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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000829
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20221222BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20221222BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
C23C14/34
C23C14/08
H01L21/203 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101865
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岩下 浩之
(72)【発明者】
【氏名】北田 亨
(72)【発明者】
【氏名】島田 篤史
【テーマコード(参考)】
4K029
5F103
【Fターム(参考)】
4K029AA24
4K029BA17
4K029BA35
4K029BA43
4K029BA46
4K029BA48
4K029CA06
4K029DC03
4K029DC39
4K029DC44
4K029JA01
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD27
(57)【要約】
【課題】屈折率が高い金属酸化膜を高い成膜速度で形成する。
【解決手段】基板上に金属酸化膜を形成する成膜装置であって、基板を支持する基板支持部と、前記基板支持部に支持された基板を加熱する加熱機構と、前記基板支持部が内部に設けられた処理容器と、前記処理容器内に金属材料のターゲットを保持し、電源に接続されるホルダと、前記処理容器内に酸素ガスを供給可能に構成されたガス供給部と、制御部と、を備え、前記制御部は、(A)前記処理容器内において金属モードでの反応性スパッタリングによって基板上に所定の膜を形成する工程と、(B)前記処理容器内において前記所定の膜と酸素ガスとを反応させ目的の金属酸化膜を形成する工程と、を交互に繰り返し実行するように、前記加熱機構、前記電源及び前記ガス供給部を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属酸化膜を形成する成膜装置であって、
基板を支持する基板支持部と、
前記基板支持部に支持された基板を加熱する加熱機構と、
前記基板支持部が内部に設けられた処理容器と、
前記処理容器内に金属材料のターゲットを保持し、電源に接続されるホルダと、
前記処理容器内に酸素ガスを供給可能に構成されたガス供給部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
(A)前記処理容器内において金属モードでの反応性スパッタリングによって基板上に所定の膜を形成する工程と、
(B)前記処理容器内において前記所定の膜と酸素ガスとを反応させ目的の金属酸化膜を形成する工程と、
を交互に繰り返し実行するように、前記加熱機構、前記電源及び前記ガス供給部を制御する、成膜装置。
【請求項2】
前記(A)工程では、前記電源から前記ホルダに電力を供給すると共に前記加熱機構により前記基板支持部に支持された基板を加熱し、
前記(B)工程では、前記電源から前記ホルダに電力を供給しない状態で前記基板支持部に支持された基板を加熱する、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
1回の前記(A)工程により厚さが2~4Åの前記所定の膜を形成する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記所定の膜は、前記目的の金属酸化膜より高い割合で金属を含む金属酸化膜である、請求項1~3のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記目的の金属酸化膜は、二酸化チタン膜、二酸化ケイ素膜またはチタンとケイ素の両方を含む酸化膜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記目的の金属酸化膜は、アナターゼ型の結晶構造の二酸化チタン膜である、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
基板上に金属酸化膜を形成する成膜方法であって、
(a)金属モードでの反応性スパッタリングによって基板上に所定の膜を形成する工程と、
(b)前記所定の膜と酸素ガスとを反応させ目的の金属酸化膜を形成する工程と、
を交互に繰り返し行う、成膜方法。
【請求項8】
前記(a)工程は、ターゲットを保持するホルダに電力を供給すると共に基板を加熱し、
前記(b)工程では、前記ホルダに電力を供給しない状態で基板を加熱する、請求項7に記載の成膜方法。
【請求項9】
1回の前記(a)工程により厚さが1~4×10-10mの前記所定の膜を形成する、請求項7または8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記所定の膜は、前記目的の金属酸化膜より高い割合で金属を含む金属酸化膜である、請求項7~9のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項11】
前記目的の金属酸化膜は、二酸化チタン膜、二酸化ケイ素膜またはチタンとケイ素の両方を含む酸化膜である、請求項7~10のいずれか1項に記載の成膜方法。
【請求項12】
前記目的の金属酸化膜は、アナターゼ型の結晶構造の二酸化チタン膜である、請求項11に記載の成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ターゲットに金属チタンを用い、アルゴンと酸素の混合ガスをスパッタリング装置への混入ガスとして用い、導入ガスのガス圧を10Torrより高くして、混合ガスプラズマによる反応性スパッタリングによりアナターゼ型結晶の酸化チタンの成膜を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-126613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示にかかる技術は、所望の金属酸化膜を高い成膜速度で形成する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、基板上に金属酸化膜を形成する成膜装置であって、基板を支持する基板支持部と、前記基板支持部に支持された基板を加熱する加熱機構と、前記基板支持部が内部に設けられた処理容器と、前記処理容器内に金属材料のターゲットを保持し、電源に接続されるホルダと、前記処理容器内に酸素ガスを供給可能に構成されたガス供給部と、制御部と、を備え、前記制御部は、(A)前記処理容器内において金属モードでの反応性スパッタリングによって基板上に所定の膜を形成する工程と、(B)前記処理容器内において前記所定の膜と酸素ガスとを反応させ目的の金属酸化膜を形成する工程と、を交互に繰り返し実行するように、前記加熱機構、前記電源及び前記ガス供給部を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、所望の金属酸化膜を高い成膜速度で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】反応性スパッタリング時の酸素ガスの流量と、成膜速度及び屈折率との関係を示す図である。
図2】本実施形態にかかる成膜装置1の構成の概略を示す縦断面図である。
図3】成膜処理中の処理容器内の様子を示す図である。
図4】成膜処理中の処理容器内の様子を示す図である。
図5】本実施形態にかかる成膜方法で実際に形成したTiO膜の屈折率と、その際の成膜速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
半導体デバイス等の製造プロセスにおいては、半導体ウェハ(以下、「ウェハ」という)等の基板に対して、金属酸化膜等の所望の膜を形成する成膜処理が行われる。成膜処理には反応性スパッタリングが用いられることがある。例えば反応性スパッタリングにより金属酸化膜としての酸化チタン膜の形成を行う場合、ターゲットから放出された金属粒子と反応性ガスとしての酸素ガスとが反応して基板上に酸化チタン膜が形成される。
【0009】
ところで、反応性スパッタリング時の酸素ガスの供給流量によって、形成される酸化チタン膜の特性、特に屈折率が異なってくる。具体的には、図1に示すように、反応性スパッタリングが、酸素ガスの供給流量が大きい反応モード(ポイズンモードともいう。)で行われた場合、酸素ガスの供給流量が小さい金属モード(メタルモードともいう。)で行われた場合に比べて、高屈折率の酸化チタン膜を得ることができる。しかし、反応モードでは、上述のように高屈折率の酸化チタン膜を得ることができるものの、金属モードに比べて成膜速度が低く、量産等のためには成膜速度を高くすることが求められる。この点は、他の金属酸化膜についても同様である。
【0010】
そこで、本開示にかかる技術は、高屈折率の金属酸化膜を高い成膜速度で形成する。
【0011】
以下、本実施形態にかかる成膜装置及び成膜方法を、図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<成膜装置>
図2は、本実施形態にかかる成膜装置1の構成の概略を示す縦断面図である。
【0013】
図2の成膜装置1は、基板としてのウェハW上に、金属酸化膜を形成するものである。成膜装置1が形成する金属酸化膜は、例えば、二酸化チタン(TiO)膜や二酸化ケイ素(SiO)膜、TiSiO膜である。以下では、TiO膜を形成する例で成膜装置1を説明する。
【0014】
成膜装置1は、処理容器10を備える。処理容器10は、減圧可能に構成され、ウェハWを収容するものであり、例えばアルミニウムから形成され、接地電位に接続されている。処理容器10の底部には、当該処理容器10内の空間K1を減圧するための排気装置11が接続されている。排気装置11は、真空ポンプ(図示せず)等を有しており、例えば、APCバルブ12を介して処理容器10に接続される。
【0015】
また、処理容器10の一方側(図のX方向正側)の側壁には、ウェハWの搬出入口13が形成されており、この搬出入口13には当該搬出入口13を開閉するためのゲートバルブ13aが設けられている。
【0016】
処理容器10内には、基板支持部としての載置台14が設けられている。載置台14は、当該載置台14に載置されたウェハWを支持する。載置台14には、具体的には、ウェハWが、後述のシールド部30によって画成される処理空間K2に面するように、水平に載置される。載置台14は、静電チャック14a、加熱機構としてのヒータ14b及びベース部14cを有する。
【0017】
静電チャック14aは、例えば、誘電体膜と、当該誘電体膜の内層として設けられた電極と、を有し、ベース部14c上に設けられている。静電チャック14aの電極には、直流電源(図示せず)が接続されている。静電チャック14a上に載置されたウェハWは、直流電源からの直流電圧を電極に印加することにより生じる静電吸着力によって、静電チャック14aに吸着保持される。
【0018】
ヒータ14bは、載置台14に支持されたウェハWを加熱する。ヒータ14bは、載置台14(具体的には静電チャック14a)を加熱することにより、載置台(具体的には静電チャック14a)に支持されたウェハWを加熱する。
ヒータ14bには、例えば抵抗加熱式のヒータを用いることができる。また、ヒータ14bは、例えば静電チャック14aに設けられる。
【0019】
ベース部14cは、例えば、アルミニウムを用いて円板状に形成されている。ヒータ14bの種類等によっては、ヒータ14bをベース部14cに設けてもよい。
【0020】
なお、載置台14は、当該載置台14に載置されたウェハWを冷却するための冷却機構が設けられていてもよい。
【0021】
さらに、載置台14は、回転・移動機構15に接続されている。回転・移動機構15は、例えば支軸15a及び駆動部15bを有する。
支軸15aは、処理容器10の底壁を貫通するように、上下方向に延在する。この支軸15aと処理容器10の底壁との間には、封止部材SL1が設けられている。封止部材SL1は、支軸15aが回転及び上下動可能であるように、処理容器10の底壁と支軸15aとの間の空間を封止する部材であり、例えば、磁性流体シールである。支軸15aの上端は、載置台14の下面中央に接続されており、下端は駆動部15bに接続されている。
駆動部15bは、例えばモータ等の駆動源を有し、支軸15aを回転及び上下動させるための駆動力を発生する。支軸15aがその軸線AX1を中心に回転することに伴って、載置台14が上記軸線AX1を中心に回転し、支軸15aが上下動することに伴って、載置台14が上下動する。
【0022】
載置台14の上方には、金属材料のターゲット20を保持する、導電性材料で形成されたホルダ20aが設けられている。ホルダ20aは、処理容器10内にターゲット20が位置するよう当該ターゲット20を保持する。このホルダ20aは、処理容器10の天井部に取り付けられている。処理容器10におけるホルダ20aの取り付け位置には、貫通口が形成されている。また、上記貫通口を囲うように処理容器10の内壁面に絶縁部材10aが設けられている。ホルダ20aは、上記貫通口を塞ぐように、絶縁部材10aを介して処理容器10に取り付けられている。
【0023】
ホルダ20aは、ターゲット20が載置台14に向くように、当該ターゲット20を正面に保持する。
ターゲット20は、成膜しようとする金属酸化膜の構成元素である金属から成る。本例のターゲット20は、TiO膜の構成元素であるチタン(Ti)から成る。
また、ホルダ20aには、電源21が接続され、当該電源21から、負の直流電圧が印加される。負の直流電圧に代えて、交流電圧が印加されるようにしてもよい。
【0024】
さらに、ホルダ20aの背面側であって、処理容器10の外側となる位置にマグネットユニット22が設けられている。マグネットユニット22は、ホルダ20aに保持されたターゲット20の正面側に漏洩する磁場を形成するものである。
【0025】
マグネットユニット22は、移動機構23に接続されている。移動機構23は、マグネットユニット22をホルダ20aの背面に沿って装置奥行き方向(図2のY方向)に揺動させるものであり、例えば、装置奥行き方向(図2のY方向)に沿って延在するレール23aと、モータ等を含む駆動部23bとを有する。駆動部23bが発生する駆動力によって、マグネットユニット22が、レール23aに沿って、装置奥行き方向(図2のY方向)に移動する。より具体的には、駆動部23bが発生する駆動力により、マグネットユニット22が、ターゲット20の装置奥行き方向一端(図2のY方向負側端)と他端(図2のY方向正側端)との間で往復運動を行うように移動する。駆動部23bは後述の制御部Uにより制御される。
移動機構23によってマグネットユニット22を揺動させることにより、ターゲット20の略全体を利用することが可能になる。
【0026】
さらに、成膜装置1は、処理容器10内に処理空間K2を形成するシールド部30を有する。シールド部30は、処理容器10内に設けられている。
【0027】
シールド部30は、第1シールド部材31と、第2シールド部材32とを有する。第1シールド部材31及び第2シールド部材32は、例えばアルミニウムから形成される。
【0028】
第1シールド部材31は、上部が開口した鍋状部材であり、載置台14に載置されたウェハWに対して処理空間K2を露出させるための孔31aを底面に有する。第1シールド部材31は、例えば、支持部材(図示せず)を介して処理容器10内に支持される。
【0029】
第2シールド部材32は、第1シールド部材31の上部の開口を塞ぐ蓋部材であり、平面視における中央部分が上方に突出するように形成されている。第2シールド部材32は、開口32aを有する。開口32aを介して、ホルダ20aに保持されたターゲット20からのスパッタ粒子が処理空間K2に供給される。
【0030】
また、第2シールド部材32は、上面視における中心を通る中心軸を中心に回転可能に構成されている。第2シールド部材32が回転することにより、第2シールド部材32の開口32aを、ホルダ20aに保持されたターゲット20と対向させたり、第2シールド部材32の開口32aが形成されていない部分を、ターゲット20と対向させたりすることができる。
【0031】
さらに、成膜装置1は、処理容器10内にガスを供給するガス供給部40を備えている。ガス供給部40は、スパッタリングガスである、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス等の不活性ガスを処理容器10内に供給する。また、ガス供給部40は、酸素(O)ガスを処理容器10内に供給する。
【0032】
ガス供給部40は、例えば、ガスソース41、42、マスフローコントローラ等の流量制御器43、44及びガス導入部45を有する。ガスソース41は上述のArガス等の不活性ガスを貯留している。ガスソース42はOガスを貯留している。ガスソース41、42はそれぞれ、流量制御器43、44を介してガス導入部45に接続されている。ガス導入部45は、ガスソース41、42からのガスを処理容器10内に導入する部材である。
【0033】
成膜装置1は図2に示すようにさらに制御部Uを備える。制御部Uは、例えばCPUやメモリ等を備えたコンピュータにより構成され、プログラム格納部(図示せず)を有している。プログラム格納部には、ヒータ14b、電源21、ガス供給部40等を制御して、成膜装置1における後述の成膜処理を実現するためのプログラムが格納されている。なお、上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、当該記憶媒体から制御部Uにインストールされたものであってもよい。上記記憶媒体は、一時なものであっても非一時的なものであってもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェア(回路基板)で実現してもよい。
【0034】
<成膜処理>
次に、成膜装置1を用いた成膜処理の一例について図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4はそれぞれ成膜処理中の処理容器10内の様子を示す図である。なお、以下の処理は制御部Uの制御の下で行われる。
【0035】
(S1:搬入)
まず、処理容器10内にウェハWが搬入される。
具体的には、ゲートバルブ13aが開かれ、排気装置11により所望の圧力に調整された処理容器10に隣接する真空雰囲気の搬送室(図示せず)から搬出入口13を介して、ウェハWを保持した搬送機構(図示せず)が処理容器10内に挿入される。そして、ウェハWが、ヒータ14bにより所定の温度に加熱された載置台14の上方に搬送される。次いで、上昇した支持ピン(図示せず)の上にウェハWが受け渡され、その後、上記搬送機構は処理容器10から抜き出され、ゲートバルブ13aが閉じられる。それと共に、上記支持ピンの下降が行われ、ウェハWが、載置台14上に載置され、静電チャック14aの静電吸着力により吸着保持される。また、載置台14の上昇が行われ、シールド部30の孔31aの直下にウェハWが移動する。
【0036】
(S2:所定の膜の形成)
次いで、処理容器10内において金属モードでの反応性スパッタリングによってウェハW上に所定の膜が形成される。所定の膜とは、具体的には、成膜しようとする目的の酸化チタン膜であるTiO膜よりも高い割合で金属(具体的にはTi)を含む、金属酸化膜すなわち一酸化チタン(TiO)膜である。
【0037】
本工程では、例えば、図3に示すように、処理容器10の処理空間K2内に、ガス供給部40(図2参照)からスパッタリングガスであるArガスとOガスが供給される。Arガスの流量は例えば20sccm~80sccmである。また、Oガスの流量は、予め行われた試験等の結果に基づいて定められる、金属モードでの反応性スパッタリングが行われる流量であり、例えば1sccm~40sccmである。なお、Arガスの流量(すなわち分圧)の範囲を上記より高く(または広く)した場合は、Oガスの流量(すなわち分圧)の範囲は上記より高く(または広く)設定される。本工程では、Arガス及びOガスの供給と共に、電源21からターゲット20に電力が供給され、また、マグネットユニット22が、ターゲット20の上方を装置奥行き方向(図2のY方向)に沿って、繰り返し往復運動するように、すなわち揺動するように、移動機構23によって移動される。電源21からの電力により、処理容器10内のArガスが電離し、電離によって生じた電子が、マグネットユニット22がターゲット20の正面に形成した磁場(すなわち漏洩磁場)によってドリフト運動し、高密度なプラズマが生じる。このプラズマ中に生じたArイオンによって、ターゲット20の表面がスパッタリングされ、Tiのスパッタ粒子が放出される。ターゲット20から放出されたTiのスパッタ粒子は、Oガスとして反応し、ヒータ14bにより所定の温度に加熱された載置台14上のウェハWの表面に、酸化チタン膜が形成される。この際、Oガスの流量が上述のように金属モードでの反応性スパッタリングによる成膜が行われる流量であるため、Tiのスパッタ粒子とOガスが反応して生成される酸化チタンは、目的の酸化チタンであるTiOよりTiの金属の割合が高いTiOであり、ウェハW上にはTiO膜が形成される。
【0038】
本工程は、例えば2秒~10秒に亘って行われ、ウェハW上には、原子レベルの厚さのTiO膜、具体的には、厚さが1~4×10-10mのTiO膜がウェハW上に形成される。また、本工程における載置台14の温度は80℃以上である。
【0039】
なお、本明細書において、反応モード及び金属モードとは以下のようなモードである。
反応モードは、反応性スパッタリングで金属酸化物膜をウェハW上に成膜する場合に、化学量論に近い目的の金属酸化物膜が形成されるモードであり、ターゲット20の表面にOガスの原子が付着して成膜速度が遅くなったモードである。一方、金属モードは、反応性スパッタリングで金属酸化物膜をウェハW上に成膜する場合に、膜中に含まれる金属の割合が大きい膜が形成されるモードであり、ターゲット20の表面にOガスの原子が付着せずにターゲット金属が剥き出しになっており成膜速度が速いモードである。
【0040】
(S3:目的の酸化チタン膜形成)
ステップS2に続いて、処理容器10内において上記所定の膜とOガスとが反応し、成膜しようとする目的の酸化チタン膜が形成される。上記目的の酸化チタン膜とは、上述のようにTiO膜であり、より具体的には、アナターゼ型の結晶構造のTiO膜である。
【0041】
本工程では、例えば、ガス供給部40から処理容器10の処理空間K2内へのArガスの供給、電源21からターゲット20への電力供給及びマグネットユニット22の揺動が停止される一方で、図4に示すように、ガス供給部40から処理容器10の処理空間K2内へのOガスの供給及びヒータ14bによる載置台14の加熱は継続される。例えば、Oガスの流量及び載置台14の温度はステップS2とステップS3とで共通である。
載置台14上のウェハWに形成されたTiO膜は、加熱された載置台14からの熱により、活性化した状態にある。そのため、上記TiO膜は、処理空間K2内にOガスに暴露されることにより、当該Oガスと反応して、TiO膜化する。
【0042】
本工程は、例えば5秒~10秒に亘って行われる。
【0043】
上記のステップS2及びステップS3は、ウェハW上に所望の厚さのTiO膜が形成されるまで交互に繰り返し行われる。例えば、上記のステップS3及びステップS3は、350~750サイクル(回)繰り返し行われ、総時間5000~10000秒で100nm程度の膜が形成される。
なお、ステップS2及びステップS3において、ウェハWが載置された載置台14を回転させてもよい。また、ステップS3では、ステップS2に引き続いて、第2シールド部材32の開口を、ホルダ20aに保持されたターゲット20と対向させた状態のままとしてもよい。
【0044】
(搬出)
その後、処理容器10からウェハWが搬出される。具体的には、搬入時と逆の動作で、ウェハWが処理容器10の外に搬出される。
そして、前述の搬入工程に戻り、次の成膜対象のウェハWが同様に処理される。
【0045】
<本実施形態の主な効果>
以上のように、本実施形態にかかる成膜方法では、
(a)金属モードでの反応性スパッタリングによってウェハW上に所定の膜を形成する工程と、
(b)上記所定の膜とOガスとを反応させ目的の酸化チタン膜すなわちTiO膜を形成する工程と、
を交互に繰り返し行う。これにより、所望の厚さのTiO膜を形成している。
上記(a)工程における金属モードでウェハW上に形成される上記所定の膜は、反応モードで形成されるTiO膜より金属の割合が大きい膜(例えばTiO膜)であり屈折率は低いが、上記(a)工程における金属モードでの成膜速度は、反応モードでの成膜速度よりも20倍以上高い(図1参照)。そして、上記(a)工程で形成されるTiO膜は、その後に行われる上記(b)工程によりTiO膜化される。また、上記(b)工程に要する時間は、上記(a)工程に要する時間と同程度である。そのため、上記(a)工程及び上記(b)工程でTiO膜を形成する場合、反応モードでTiO膜を形成する場合に比べて、同じ厚さのTiO膜を形成するのに要する時間が短くて済む。したがって、上記(a)工程と上記(b)工程を繰り返すことで、所望の厚さの高屈折率のTiO膜を高い成膜速度で形成することができる。
【0046】
なお、本実施形態と異なり、TiO膜の最終的な目標の膜厚と同等の厚さのTi膜を一度に形成し酸化炉で酸化することで目標の膜厚のTiO膜を形成する方法では、酸化炉にて例えば500℃以上にする必要がある。本実施形態にかかる方法では、上述の酸化炉を用いる方法に比べて、250℃等の低温のプロセスでTiO膜を形成することができる。
【0047】
図5は、上述の本実施形態にかかる成膜方法で実際に形成したTiO膜の(波長520の光に対する)屈折率と、その際の成膜速度を示す図である。このTiO膜を形成したときの主な条件は以下の通りである。
上記(a)工程時のターゲット20への電力:直流電力500W
上記(a)工程時の不活性ガス:Arガス
載置台14の温度:250℃
上記(a)工程時のArガス流量:30sccm
ガス流量:20sccm
1サイクルでのTiO膜の厚さ:2-4Å
上記(b)工程の時間:5~10秒
サイクル数(繰り返し回数):350
TiO膜の最終膜厚:100nm
【0048】
図5から明らかな通り、本実施形態にかかる成膜方法で形成したTiO膜の屈折率は、2.5以上と高く、図1に示した、反応モードでの反応性スパッタリングにより形成したTiO膜と同程度であった。また、反応モードでの反応性スパッタリングによる、屈折率が2.6程度のTiO膜の成膜速度は、図1に示すように、0.02Å/s程度であった。それに対し、本実施形態にかかる成膜方法によるTiO膜の成膜速度は、0.12Å/s~0.2Å/s程度であり、反応モードでの反応性スパッタリングによる成膜速度に比べて5~10倍以上速かった。
【0049】
また、本発明者らが試験したところによれば、上述の条件で本実施形態にかかる成膜方法により成膜したTiO膜の消衰係数は0.00以下と低かった。つまり、本実施形態によれば、高屈折率且つ低消衰係数という、透明膜の光学特性を満たすアナターゼ結晶構造のTiO膜を、生産性のある成膜速度でウェハW上に形成することができる。
【0050】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。上記の実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 成膜装置
10 処理容器
14 載置台
14b ヒータ
20 ターゲット
20a ホルダ
21 電源
40 ガス供給部
U 制御部
W ウェハ
図1
図2
図3
図4
図5