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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083080
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】無機硫化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20230608BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230608BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230608BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197206
(22)【出願日】2021-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田渕 光春
(72)【発明者】
【氏名】小島 敏勝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 由季子
(72)【発明者】
【氏名】浅井 健司
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE10
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM11
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ20
5H050AA06
5H050BA16
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】高容量な全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる、従来とは異なる固体電解質を提供する。
【解決手段】Li、P、S及びBrを含有し、且つ、格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相を有する、無機硫化物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、P、S及びBrを含有し、且つ、
格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相を有する、無機硫化物。
【請求項2】
前記立方晶LiPSBr型結晶相が、空間群:
【数1】
に帰属する、請求項1に記載の無機硫化物。
【請求項3】
前記立方晶LiPSBr型結晶相内の4a位置の臭素占有率が61.0%以下である、請求項1又は2に記載の無機硫化物。
【請求項4】
前記立方晶LiPSBr型結晶相内の4b位置のリン占有率が90.0%以上100%未満である、請求項1~3のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【請求項5】
前記無機硫化物の総量を100質量%として、前記立方晶LiPSBr型結晶相を70.0~100質量%含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【請求項6】
イオン伝導度が0.75~4.00mS/cmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物の製造方法であって、
LiS、LiBr及びPを含む原料粉末に対してミリング処理を施す工程
を備え、且つ、前記ミリング処理は、試料容器の回転を自転、ミル本体の回転を公転とし、自転及び公転の回転方向を逆方向として行う、製造方法。
【請求項8】
自公転比が-3~0である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料。
【請求項12】
請求項9に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質又は請求項10に記載の全固体リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料を含有する電解質層と、請求項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料を含有する電極との少なくとも1つを備える、全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機硫化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池と比較して高いエネルギー密度を有することから高エネルギー密度電池として注目され、携帯機器(小型民生用途)のみならず、車載用、社会インフラ等の定置用途にも用途が拡大している。これら大型リチウムイオン二次電池への要求の一つとして、性能を保持しつつ安全性を向上させることが挙げられる。通常のリチウムイオン二次電池(以後「非水系リチウムイオン二次電池」と言うこともある)には有機電解液が使用され、粘度低下剤として消防法危険物第4類の第二石油類に該当する可燃性の低沸点溶媒(炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル等)が大量に含まれるため、電池の発火、発煙の懸念がある。安全性の向上のための企業努力は行われているものの、構成部材の変更、つまり電解液をより可燃性の低い固体電解質に変更し、材料構成上、飛躍的な安全性向上が図れれば、安全性配慮のためのコスト及び部材低減がはかれ、産業上きわめて有用である。すなわち、安全性の抜本的解決法の一つが、可燃性溶媒を含む有機電解液を、難燃性の固体電解質に代替することである。
【0003】
固体電解質には高分子系と無機系があるが、高分子系は現状室温以下でのイオン伝導度が低く、60℃以上でないと非水系リチウムイオン二次電池に近い十分な電池作動が見込めない。一方、無機系としては、硫化リチウム(LiS)、硫化リン(P)、硫化ゲルマニウム(GeS)等を含む硫化物固体電解質は、室温においても有機電解液に迫る高いイオン伝導度を有するのみならず、粒界抵抗が酸化物固体電解質に比べて低いために最も有望な固体電解質の一つであり、β-LiPS相、Li10GeP12相、LiPSCl相、LiI相等が知られている。
【0004】
なかでも、LiPSCl相は特に有望な固体電解質材料として知られ(例えば、非特許文献1参照)、リチウムイオン二次電池に用いられている代表的な負極である炭素材料が適用可能なことから電池への応用に期待が高まっている。この材料は、従来固相反応法で作製されてきたが、最近本発明者らによって振動ミルと遊星ボールミルを組み合わせることにより、メカニカルミリングのみで構成結晶相の異なる物質が作製でき、その材料が高いイオン伝導度を有するのみならず優れた可塑性(低ヤング率)を有することがわかった(特許文献1参照)。しかしながら、その電池特性に対する要求特性はとどまるところがなく、材料選択の幅を広げるため、高容量なリチウムイオン二次電池を製造することができる、従来とは異なる固体電解質が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/096957号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Wang et al., J. Mater. Chem.,7,18612-18618 (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、高容量なリチウムイオン二次電池を製造することができる、従来とは異なる固体電解質を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相(以下、「LPSBr相」と略記することがある)を有することで、全固体リチウムイオン二次電池の充放電特性が、通常の固相反応法で得られるLPSBr相と比較して高容量化することを見出した。また、本発明者らは格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相を含むLPSBr相は、例えば、高加速度運転が可能な遊星ミリング装置(つまり、遊星ミル遠心加速度及び自公転比を変化させることが可能な遊星ミリング装置)を用いて試料合成を行うことで、従来より簡便に合成することができることも見出した。さらに本発明者らはミリング法で得られた立方晶LiPSBr型結晶相内のイオン分布が、焼成法で得られたそれと異なることも見いだした。本発明者らは、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.Li、P、S及びBrを含有し、且つ、
格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相を有する、無機硫化物。
【0010】
項2.前記立方晶LiPSBr型結晶相が、空間群:
【0011】
【数1】
に帰属する、項1に記載の無機硫化物。
【0012】
項3.前記立方晶LiPSBr型結晶相内の4a位置の臭素占有率が61.0%以下である、項1又は2に記載の無機硫化物。
【0013】
項4.前記立方晶LiPSBr型結晶相内の4b位置のリン占有率が90.0%以上100%未満である、項1~3のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【0014】
項5.前記無機硫化物の総量を100質量%として、前記立方晶LiPSBr型結晶相を70.0~100質量%含有する、項1~4のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【0015】
項6.イオン伝導度が0.75~4.00mS/cmである、項1~5のいずれか1項に記載の無機硫化物。
【0016】
項7.項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物の製造方法であって、
LiS、LiBr及びPを含む原料粉末に対してミリング処理を施す工程
を備え、且つ、前記ミリング処理は、試料容器の回転を自転、ミル本体の回転を公転とし、自転及び公転の回転方向を逆方向として行う、製造方法。
【0017】
項8.自公転比が-3~0である、項7に記載の製造方法。
【0018】
項9.項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質。
【0019】
項10.項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料。
【0020】
項11.項1~6のいずれか1項に記載の無機硫化物を含有する、全固体リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料。
【0021】
項12.項9に記載の全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質又は項10に記載の全固体リチウムイオン二次電池の電解質層用バインダー材料を含有する電解質層と、項11に記載の全固体リチウムイオン二次電池の電極用バインダー材料を含有する電極との少なくとも1つを備える、全固体リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高容量な全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる、従来とは異なる固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相の結晶構造を示す。ハッチ部分は陽イオン周りに4つの陰イオンが配位した四面体を示す。
図2】実施例1で得られた試料のX線回折パターンを示す。+は実測パターンであり、実線は立方晶LiPSBr型結晶相の計算パターンであり、これらのフィッティング残差も下部に示している。
図3】実施例1及び比較例1で得られた試料を固体電解質材料として使用したNCA/In全固体リチウムイオン二次電池の30サイクルまでの充放電特性評価結果である。右上がりの曲線が充電曲線(添え字c)を示し、右下がりの曲線が放電曲線(添え字d)を示す。数字はサイクル数に相当する。
図4】比較例1で得られた試料のX線回折パターンを示す。+は実測パターンであり、実線は立方晶LiPSBr型結晶相の計算パターンであり、これらのフィッティング残差も下部に示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0025】
また、本明細書において、「A~B」との数値範囲の表記は、「A以上且つB以下」を意味する。
【0026】
さらに、本明細書において、「全固体リチウムイオン二次電池」は、リチウム金属を負極活物質とする全固体リチウム二次電池も包含する概念である。
【0027】
1.無機硫化物
本発明の無機硫化物は、Li、P、S及びBrを含有し、且つ、格子定数aが9.937~9.964Åである立方晶LiPSBr型結晶相を有する。
【0028】
このような本発明の無機硫化物は、イオン伝導度、リチウムイオン二次電池の容量、充放電サイクル特性等の観点から、具体的には、一般式(1):
LiBr (1)
[式中、x、y及びzは、5.0≦x≦7.0、0.7≦y≦1.3、3.0≦z≦7.0を示す。]
で表される組成を有することが好ましい。
【0029】
本発明の無機硫化物は、一般式(1)において、Liの含有量(後述する本発明の製造方法により製造する場合には、原料であるLiS及びLiBrの使用量に対応する)であるxは、5.0~7.0であることが好ましい。これは、以下の点に集約される。イオン伝導度は、電荷担体濃度と移動度の積に比例するため、Liの含有量を増大させると電荷担体(Liイオン)濃度を増大させてイオン伝導度を向上させやすくしつつ、容量及び充放電サイクル特性も向上させやすくすることができる。また、無機硫化物中に不純物としてLiSが残留し(LiSからなる結晶相が存在し)、硫化水素(HS)発生源となり得ることを抑制しやすくするため、xは5.0~7.0が好ましく、5.5~6.5がより好ましく、5.7~6.3がさらに好ましい。
【0030】
また、本発明の無機硫化物は、一般式(1)において、Pの含有量(後述する本発明の製造方法により製造する場合には、原料であるPの使用量に対応する)であるyは、0.7~1.3が好ましく、0.8~1.2がより好ましく、0.9~1.1がさらに好ましい。yを上記範囲とすることで、無機硫化物中に不純物としてLiSが残留しにくく(LiSからなる結晶相が存在しにくく)、硫化水素(HS)発生源となることを抑制しやすく、不純物としてPが残留しにくく(Pからなる結晶相が存在しにくく)、リチウムイオン濃度が下がることによるイオン伝導度の低下も抑制しやすい。
【0031】
また、本発明の無機硫化物は、一般式(1)において、Sの含有量であるzは、3.0~7.0が好ましく、3.5~6.5がより好ましく、4.0~6.0がさらに好ましい。zを上記範囲とすることで、目的物質とは異なる不純物(単体硫黄等)が生成しにくくなる。
【0032】
本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相の結晶構造を図1に示す。
【0033】
この結晶構造は立方晶系に属し、空間群:
【0034】
【数2】
に帰属することができる。
【0035】
本構造においてすべての陽イオンは陰イオンと4配位結合していることが好ましい。また、BrイオンはSイオンとともに4a及び4c位置に存在し、48h位置の電荷担体として働くLiと結合することができる。また、4b位置に存在するPは隣接する16e位置のSと結合しPS 3-イオンとして存在することができる。
【0036】
なお、本明細書において、「A型結晶相」とは、組成がAから若干(例えば0.1~10%程度、特に0.2~5%程度)ずれることはあるものの、同じ結晶構造を維持していることを意味する。
【0037】
本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相は、格子定数aが9.937~9.964Å(0.9937nm~0.9964nm)、好ましくは9.940~9.955Å(0.9940~0.9955nm)、より好ましくは9.945~9.950Å(0.9945~0.9950nm)である。格子定数aが9.937Å(0.9937nm)未満では、イオン伝導度が低下し、リチウムイオン二次電池の容量も低下する。また、格子定数aが9.964Å(0.9964nm)より大きい範囲でも、イオン伝導度が低下し、リチウムイオン二次電池の容量も低下する。
【0038】
本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相は、イオン伝導度を向上させやすく、リチウムイオン二次電池の容量及び充放電サイクル特性を向上させやすい観点から、4a位置の臭素占有率が61.0%以下であることが好ましく、30.0~57.5%であることがより好ましく、45.0~55.0%であることがさらに好ましい。同様に、4c位置の臭素占有率が39%より大きいことが好ましく、42.5~70.0%であることがより好ましく、45.0~55.0%であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相は、イオン伝導度を向上させやすく、リチウムイオン二次電池の容量及び充放電サイクル特性を向上させやすい観点から、4b位置のリン占有率が90.0%以上100%未満であることが好ましく、90.0~97.5%であることがより好ましく、90.0~95.0%であることがさらに好ましい。
【0040】
このような本発明の無機硫化物は、立方晶LiPSBr型結晶相を含有するものであるが、後述する本発明の製造方法により製造する場合には、非晶質のガラス相は含まれない。これに対し、特許文献1の方法や固相反応では製造される無機硫化物は、LPSBr相に加えて非晶質相を含んでいることが多く、LPSBr相の格子定数aは9.937よりも小さく、又は9.964Åよりも大きい。この場合、イオン伝導度が十分ではないうえに、リチウムイオン二次電池の容量に劣る。
【0041】
本発明の無機硫化物が有する結晶相は、特に制限されないが、後述の製造方法における原料粉末であるLiS型結晶相、LiBr型結晶相、P型結晶相等は含まれないことが好ましい。特に、LiS型結晶相を含まないことにより、硫化水素の発生を抑制しやすいため、低湿度環境下においても取扱いのしやすい無機硫化物を得ることができる。
【0042】
本発明の無機硫化物において、結晶相及び元素の存在量(「元素の占有率」とも記載することがある。)は、X線回折パターンのリートベルト法による解析によって定量分析を行う。結晶相及び元素の存在量は、例えば、原料粉末の組成、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。
【0043】
本発明の無機硫化物においては、結晶相の総量を100質量%として、立方晶LiPSBr型結晶相の含有量(より詳細には、X線回折測定を行った場合に、明確に観測されるX線回折ピークのうち、立方晶LiPSBr型結晶相に由来すると判断されるピーク強度とガラス相のピークの割合から見積もられる前記立方晶LiPSBr型結晶相の存在比)は、80.0~100質量%以上が好ましく、85.0~100質量%がより好ましく、90.0~100質量%がさらに好ましい。
【0044】
本発明の無機硫化物は、このような立方晶LiPSBr型結晶相を有することにより、イオン伝導度(特にリチウムイオン伝導度)を高くすることができる。具体的には、本発明の無機硫化物のイオン伝導度を0.75~4.00mS/cm、特に1.00~3.00mS/cmとすることが可能である。イオン伝導度は、得られた粉末を錠剤成形後、交流インピーダンス法により測定する。なお、本発明の無機硫化物が後述のガラス相及び不純物相を含んでいる場合は、これら成分の割合だけイオン伝導度は下がり得るため、場合によっては、本発明の無機硫化物のイオン伝導度が上記の下限値より小さくなることもあり得る。
【0045】
一方、本発明の無機硫化物は、上記の立方晶LiPSBr型結晶相のみならず、ガラス相も含有することができる。なお、本発明の無機硫化物は、ガラス相が存在せず、上記の結晶相のみからなる構成とすることもできる。ただし、本発明においては、立方晶LiPSBr型結晶相によりイオン伝導度及び容量を向上させるため、ガラス相の存在割合は低いことが好ましい。
【0046】
なお、本発明の無機硫化物において、ガラス相を含んでいる場合も、結晶相とガラス相との存在比は、X線回折パターンの両相のピークプロファイルフィッテングによる解析によって定量分析を行う。結晶相とガラス相との存在比は、例えば、後述する製造方法におけるミリングの条件、ミリング処理後の熱処理条件等によって変えることが可能である。なお、本発明の無機硫化物において、ガラス相を含んでいる場合、結晶相とガラス相との存在比は、主にガラス相が担う成形性と主に結晶相が担うイオン伝導度のバランスの観点から、70:30~100:0(質量比)が好ましく、80:20~100:0(質量比)がより好ましい。またガラス相の化学組成は結晶相のそれと同一でなくてもよい。
【0047】
つまり、本発明の無機硫化物において、立方晶LiPSBr型結晶相の含有量は、本発明の無機硫化物の総量を100質量%として、70.0~100質量%が好ましく、80.0~100質量%がより好ましい。
【0048】
また、本発明の無機硫化物において、非晶質のガラス相を含んでいる場合、非晶質のガラス相の含有量は、本発明の無機硫化物の総量を100質量%として、0~30.0質量%が好ましく、0~20.0質量%がより好ましい。
【0049】
本発明の無機硫化物は、上記の立方晶LiPSBr型結晶相を含んでいればよく、ガラス相を含むこともできるものであるが、充放電特性に重大な影響を及ぼさない範囲の他の不純物相を含んでいてもよい。このような不純物相としては、単体硫黄(S)、硫化リン(P)、臭化リチウム(LiBr)、硫化リチウム(LiS)等が挙げられる。ただし、本発明においては、特定の立方晶LiPSBr型結晶相によりイオン伝導度及び容量を向上させるため、不純物相の存在割合は低いことが好ましく、不純物相が存在しないことが最も好ましい。このような観点から、本発明の無機硫化物が不純物相を有する場合、通常、本発明の無機硫化物の総量を100質量%として、不純物相は0.1~10質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましい。不純物相の存在量はX線リートベルト解析法により定量する。
【0050】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物の形状は特に制限されず、例えば、粉末状、粒状、ペレット状、繊維状等の任意の形状を採用することができる。なお、後述の製造方法によれば、粉末状の無機硫化物が生成されやすい。
【0051】
以上のような条件を満たす本発明の無機硫化物は、イオン伝導度が高く、高容量の全固体リチウムイオン二次電池を製造することができる。このため、全固体リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質として有用であるし、全固体リチウムイオン二次電池用電解質層を構成する固体電解質用のバインダー材料としても有用である。また、全固体リチウムイオン二次電池の正負極用のバインダー材料としても有用である。
【0052】
2.無機硫化物の製造方法
本発明の無機硫化物は、例えば、LiS、LiBr及びPを含む原料粉末に対してミリング処理を施す工程を備え、且つ、前記ミリング処理は、遊星ミル遠心加速度及び自公転比を変化させることが可能な遊星ミリング装置を用いる製造方法により得ることができる。つまり、本発明の無機硫化物は、上記原料粉末に対して、高加速度運転が可能な遊星ミリング装置を用い、ミリング処理を施すことにより得ることが可能である。
【0053】
特許文献1においては、高速ミリング装置及び低速ミリング装置を併用して二段階のミリング処理を行っていたが、本発明においては、上記の遊星ミリング装置を用いることにより、一段階のミリング処理により本発明の無機硫化物を製造することが可能である。つまり、工程の単純化、収率の増大等の点で有用である。また、得られる本発明の無機硫化物は、上記のとおり、立方晶LiPSBr型結晶相を有することで、イオン伝導度が高く、高容量のリチウムイオン二次電池を製造することができるものである。
【0054】
原料粉末としては、最終的に得ようとする無機硫化物の組成に応じて適宜選択することができる。本発明では、LiPSBr組成を得ようとするため、LiS、LiBr及びPを使用することが好ましい。
【0055】
本発明の製造方法において使用する遊星ミル遠心加速度及び自公転比を変化させることが可能な遊星ミリング装置において、ミリング回転数は、ミルポット(試料容器)の回転を自転とし、ミル本体の回転を公転とし、これらの回転数(rpm)及び方向(時計回り又は反時計回り)を独立に制御することができる。
【0056】
これら自転及び公転の両者の回転数を制御した結果として遊星ミル遠心加速度を算出することができる。また、自転及び公転の回転数の比である自公転比は、回転速度比R(自転回転速度/公転回転速度)に1を加えたもの(R+1)で定義される。
【0057】
また、遊星ミル遠心加速度と公転角速度ωとは以下の関係式:
遊星ミル遠心加速度(m/s)=ω (G+D(1+R))/2g
[式中、ωは公転角速度(1/s)を示す。Gは公転直径(m)を示す。Dはミルポット内径(m)を示す。Rは回転速度比を示す。gは重力加速度を示す。]
が成立している。
【0058】
公転角速度(1/s)は、公転回転速度(rpm)÷60(s)×2π(=回転速度×0.1047)で定義される。回転速度は、インバータ周波数60Hz時の実測値である。立方晶LiPSBr型結晶相を形成しやすく本発明の無機硫化物を得やすい観点から、回転速度は公転時、100~500rpmが好ましく、200~400rpmがより好ましい。また、立方晶LiPSBr型結晶相を形成しやすく本発明の無機硫化物を得やすい観点から、回転速度は自転時、500~1000rpmが好ましく、700~900rpmがより好ましい。
【0059】
また、自転及び公転の方向は、時計回りを+、反時計回りを-で定義する。つまり、自転及び公転の回転方向が同じである場合は、自公転比は正の値であり、自転及び公転の回転方向が異なり且つ回転速度比が1以上の場合は、自公転比は負の値である。回転速度比が1で且つ回転方向が逆方向の場合のみ自公転比がゼロとなる。本発明においては、立方晶LiPSBr型結晶相を形成しやすく得られる無機硫化物のイオン伝導度が高くリチウムイオン二次電池を製造すると容量及び充放電サイクル特性が高くなりやすい観点からは、自転及び公転の回転方向は逆方向であること、つまり、自公転比は負の値が好ましく、具体的には、-3~0が好ましく、-2.5~-0.5がより好ましい。以上から、本発明の製造方法は、試料容器の回転を自転、ミル本体の回転を公転とし、自転及び公転の回転方向を逆方向として行うミリング処理を行う方法とも言い換えることが可能である。
【0060】
本発明においては、上記原理のミリング装置を用いて、LiS等の不純物を抑制する観点から遊星ミル遠心加速度は20~60G(単位G=9.80665m/s)が好ましく、30~50Gがより好ましい。
【0061】
また、ミリング時間は特に制限されず、10~100時間が好ましく、20~80時間がより好ましい。またミリング温度も特に限定されず、0~70℃(例えば室温)で行うことができる。
【0062】
具体的な製造方法としては、まず、例えば、超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス、ドライルーム、オープンドライチャンバー等)において、上記原理のミリング装置の容器内に原料粉末を充填する。この際使用できる容器としては、特に制限はなく、メノウ、アルミナ、ジルコニア等のセラミック材料を金属容器の内壁にライニングすることにより、金属素材からのコンタミを防ぎやすくすることができる。この際の原料充填量は特に制限されず、ポット容積に依存するが、例えば、500cc容器の場合、10~100g程度、好ましくは30~80g程度とすることができる。好ましい充填形態の一例としては、ポット内容積の約1/3を原料、約1/3をビーズ等の粉砕メディアとすることである。この原料粉末に、必要に応じて粉砕メディア(ジルコニアビーズ等)を加えて密封後に外に取り出し、ミリング装置にセットすることが好ましい。ミリング処理後、生成物が容器に強く付着することがあるため、必要に応じて容器を例えば超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス等)に再度導入し、生成物を容器の壁から掻き落とした後、再度同じ処理を行うこともできる。処理後、生成物を例えば超低湿度(露点-60℃以下)環境下(グローブボックス等)内で取り出し、密閉容器で封入後、X線回折測定、イオン伝導度測定、充放電特性評価等の各種評価を行うことができる。
【0063】
このようにして本発明の無機硫化物が得られるが、この後、必要に応じて加熱処理を施すこともできる。これにより、結晶性をより向上させたり、結晶相をより多くしてイオン伝導度をより高めることができるため、要求特性に応じて結晶相とガラス相との存在比を調整することが可能である。この場合、加熱温度はミリング試料の特徴を生かすためできるだけ低くすることが好ましく、100~500℃が好ましく、200~400℃がより好ましい。また、加熱時間は特に制限はなく、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましい。
【0064】
3.リチウムイオン二次電池
本発明の無機硫化物を用いる全固体リチウムイオン二次電池は、公知の手法により製造することができる。
【0065】
例えば、本発明の無機硫化物を正極のバインダー材料として使用する場合には、正極材料として公知のリチウムニッケルコバルトマンガン系又はリチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により正極を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFEやPVDF等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、正極を作製することができる。また全固体リチウムイオン二次電池においては、公知のように上記酸化物正極活物質表面にリチウムイオン導電体であるLiNbO又はLiTi12等の酸化物材料を所定量(例えば0.5mol%)コートしてもよい。
【0066】
また、本発明の無機硫化物を負極のバインダー材料として使用する場合には、負極材料として公知の金属インジウム、金属リチウム、炭素系材料(活性炭、黒鉛等)、ケイ素、酸化ケイ素、Si-SiO系材料、リチウムチタン酸化物等を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により負極を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFEやPVDF等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、負極を作製することができる。
【0067】
また、本発明の無機硫化物を電解質層の固体電解質として使用する場合は、本発明の無機硫化物を常法により層状に成形し、電解質層として使用することができる。本発明の無機硫化物を電解質層のバインダー材料として使用する場合には、固体電解質として各種固体電解質を用い、本発明の無機硫化物をバインダー材料として用いて、公知の手法により電解質層を製造することができる。つまり、バインダー材料として通常使用されているPTFE等の代替材料として本発明の無機硫化物を用い、電解質層を作製することができる。
【0068】
さらに、その他の公知の電池構成要素を使用して、常法に従って、全固体リチウムイオン二次電池を組立てることができる。
【実施例0069】
以下、実施例および比較例を示し、本発明の特徴とするところを一層明確にするが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1及び参考例1]
グローブボックス内にて、ジルコニアライニングした500ccの金属容器に、20mm径ジルコニアビーズを17粒入れた後、LiPSBr組成(LiS:LiBr:Pモル比=5:2:1;LiSは14.6864g、LiBrは11.1042g、Pは14.2094gである)に調整した原料粉末を秤量後ポットに投入した。投入した原料粉末総量は40gとしている。ポットを密封後グローブボックスより取り出し、遊星ミル遠心加速度及び自公転比を変化させることが可能な遊星ミリング装置(株式会社栗本鐵工所製のハイジーBX382)にセットし、公転回転数357rpm、自転回転数842rpm、自転公転方向は逆方向とし、自公転比は-1.359であった。ミル遠心加速度は40.1Gとして64時間ミリング処理を行った。ミリング処理後試料容器を再びグローブボックスに入れ、開封して試料を回収した。収率は約95%であった。
【0071】
得られた試料のX線回折パターンを図2に示す。ガラス相の定量のためにX線回折パターンのプロファイルフィッティング(2θ=27~34°)を行ったところ、特許文献1の実施例16より得られるLiPSBr組成(参考例1と表記)でも見られる非晶質ガラス相は検出されず空間群:
【0072】
【数3】
に帰属される立方晶LiPSBr型結晶相のみであった。このため、立方晶LiPSBr型結晶相の含有量は100質量%と見積もられる。またX線回折図上に不純物相がないことから仕込み組成通りの物質が得られたものと解釈できる。
【0073】
X線回折パターンのピーク位置から求められる格子定数aの値は、9.9454(8)Å(0.99454(8)nm)であった。特許文献1の実施例16より得られるLiPSBr組成(参考例)の格子定数aは9.9365(9)Å(0.99365(9)nm)であったことと比較すると、本発明の無機硫化物が有する立方晶LiPSBr型結晶相は、従来の立方晶LiPSBr型結晶相と比較して格子定数aが大きいことが明らかである。また後述する比較例試料の格子定数値(9.96472(17)Å(0.996472(17)nm))よりも小さいことも明らかである。
【0074】
構造モデルは図1のLiPSBr構造より、すべての陽イオン及び陰イオンの等方性熱振動因子値を1に固定し、占有率を求めた。48h位置のリチウム(Li)占有率は0.5に固定し、4b位置のリン(P)占有率も1を初期値として可変させた。臭素(Br)の占有率は4a位置と4c位置との占有率の和が1となるように線形束縛条件をかけた。4a位置と4c位置においては、硫黄(S)と臭素(Br)の占有率の和が1となるように線形束縛条件をかけた。16e位置においても、硫黄(S)と臭素(Br)の占有率の和が1となるように線形束縛条件をかけた。このようにして得られた各格子位置における各元素の占有率を表1に示す。なお、比較として参考例1として特許文献1の実施例16より得られるLiPSBr組成試料も実施例1及び比較例1と同一の構造モデルを適用して示す。各格子位置で占有率が1を超えた場合、無意味な値となるので1に固定した。
【0075】
【表1】
【0076】
表1から、実施例試料は4a位置の臭素占有率(g4a,Br)が0.533(4)であり、後述する比較例試料(0.690(3))及び参考例試料(0.616(4))と比較して低いことが明らかである。また、実施例試料は4b位置のリン占有率(g4b,P)が0.912(6)であり、後述する比較例試料(1)より小さく、参考例試料(0.889(6))と比較して大きいことが明らかである。以上から、本発明の無機硫化物は、従来と異なる新規な結晶構造及び元素分布を有することがわかる。
【0077】
また、交流インピーダンス法により求めたイオン伝導度は1.33mS/cmであり、参考例1の0.48mS/cmより高く、固体電解質として十分な性質を有していた。
【0078】
次に、得られた試料30.1mgと0.5mol%LiNbOコートしたリチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物正極活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05;以下、「LiNbOコートNCA又は単にNCA」と表記することもある)70.1mgをグローブボックス内で混合し、正極合材を作製した。電解質層として得られた試料79.5mgをポリエチレンテレフタレート(PET)管内に入れ、144MPaで圧縮後、上記正極合材10.1mgを加えて360MPaで圧縮した。正極層の反対側に10mmφのIn箔(厚み0.05mm)をつけて144MPaで圧縮し電池素子を作製した。この素子を全固体電池内に仕込み、素子上下より圧力をかけて、電流密度64μA/cm、室温にて充電開始で2.1-3.7Vの電位範囲で充放電試験を30回行った。その結果を比較例1の結果とともに図3に示す。
【0079】
図3に示されるように、実施例1で得られた試料は比較例1の試料と比較して、初回から30サイクルまで充放電容量が大きく(実施例1試料の初期及び5サイクル後放電容量がそれぞれ164及び139mAh/g程度である)、リチウムイオン二次電池の電解質材料として好適に利用可能なことがわかった。また、特許文献1の実施例16の図20に示されている参考例1試料の充放電特性においては、初期及び5サイクル後放電容量がそれぞれ112及び91mAh/g程度と実施例1試料と比較して劣っており、実施例1試料は参考例1試料に対しても充放電特性に優れることがわかった。
【0080】
[比較例1]
グローブボックス内で原料粉末であるLiSを0.7348g、LiBrを0.5551g、Pを0.7105g、(総量2g;LiS:LiBr:Pモル比=5:2:1)を秤量し、ジルコニア容器内にジルコニアボールとともに入れて密封し、グローブボックス外に取り出した後、遊星型ボールミルにて500rpmで20時間粉砕した。粉砕後再びグローブボックス内にポットを導入し、粉を回収して128MPaでプレスして15mmΦのペレットを作製し、電気炉にセットして真空中550℃2時間熱処理を行った。収率は約73%であった。得られた試料のX線回折パターンのフィッティング結果を図4に示す。比較例1で得られた試料について、実施例1と同様の方法でガラス相の定量を行ったところ、非晶質ガラス相は検出されなかった。
【0081】
リートベルト解析により得られる格子定数aの値は、9.96472(17)Å(0.996472(17)nm))であり、実施例1試料より大きいことが明らかである。陽イオン及び陰イオン占有率は表1に示されている。表1から、比較例1試料は実施例1試料と異なる格子定数a、4b位置のリン占有率(g4b,P)及び4a位置の臭素占有率(g4a,Br)を有することが明らかである。
【0082】
また実施例1と同一条件で作製した、比較例1試料を用いたリチウム二次電池の充放電特性(図3)より、比較例1試料を用いたリチウム二次電池は、実施例1試料を用いたリチウム二次電池と比較して30サイクルまで低充放電容量であることが明らかである。比較例1のイオン伝導度の値2.51mS/cmは、前述の実施例1の値より高いが、充放電特性に劣ることから、イオン伝導度が高いだけでは、充放電容量の向上は得られないことが分かった。
【0083】
以上のことから特異な結晶構造及び元素分布を有する結晶相を含む本発明の無機硫化物を用いたリチウム二次電池が優れた充放電特性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の無機硫化物は、例えば、安全性が要求される車載用、定置用等の大型全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質、固体電解質用のバインダー材料、固体電池電極用のバインダー材料等として利用可能である。
図1
図2
図3
図4