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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083243
(43)【公開日】2023-06-15
(54)【発明の名称】フィルム及びフレキシブル表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20230608BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20230608BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230608BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08K5/19
C08J5/18 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022190539
(22)【出願日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2021197170
(32)【優先日】2021-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 豪大
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】増井 希望
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AB26
4F071AC10
4F071AC12
4F071AE05
4F071AE19
4F071AF15
4F071AF34Y
4F071AG28
4F071AG34
4F071AH12
4F071AH16
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4J002CM041
4J002DE216
4J002DF036
4J002DG046
4J002EF006
4J002EN006
4J002EN136
4J002EV186
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】高い降伏点歪及び降伏点応力を有するフィルムを提供する。
【解決手段】少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と、少なくとも1種のアミン化合物とを含む、フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と、少なくとも1種のアミン化合物とを含み、前記アミン化合物はアミン塩である、フィルム。
【請求項2】
アミン塩は、アミン塩酸塩、アミン硫酸塩、アミン硝酸塩、アミン炭酸塩及びアミンカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
アミン化合物は第三級アミン化合物の塩である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
アミン化合物は炭素数3~30の第三級アミン化合物の塩である、請求項3に記載のフィルム。
【請求項5】
アミン化合物は芳香族アミン化合物の塩及び脂肪族アミン化合物の塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
XYZ表色系におけるY値(D65)が80以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
フレキシブル表示装置の前面板用のフィルムである、請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のフィルムを備えるフレキシブル表示装置。
【請求項9】
タッチセンサをさらに備える、請求項8に記載のフレキシブル表示装置。
【請求項10】
偏光板をさらに備える、請求項8に記載のフレキシブル表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂と少なくとも1種のアミン化合物とを含むフィルム、及び該フィルムを備えるフレキシブル表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示装置や有機EL表示装置等の画像表示装置は、携帯電話やスマートウォッチといった種々の用途で広く活用されている。このような画像表示装置の前面板としてはガラスが用いられてきたが、ガラスは非常に剛直であり、割れやすいため、例えばフレキシブル表示装置の前面板材料としての利用は難しい。そのため、ガラスに代わる材料保護する材料の一つとして高分子材料の活用が検討され、例えばポリアミドイミド樹脂を用いる光学フィルムが検討されている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-119132号公報
【特許文献2】特開2019-210430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フレキシブル表示装置等のフレキシブル電子デバイスは、様々な環境下で使用される。フレキシブル電子デバイスは、使用時に折り畳み操作や巻き取り操作などを伴うため、該デバイスにおいて前面板等として使用されるポリアミドイミド樹脂フィルムも、様々な環境下で折り畳み等の操作が行われる可能性がある。そのため、このようなフィルムには、折り畳み等の操作が行われた場合であっても、破断、白化等が生じないことが要求される。そして、変形時の破断や白化は、過度の塑性変形に伴って生じることから、本発明者は、フィルムの塑性変形を生じにくくすること、例えば、フィルムの引張試験における降伏点歪(Yield Strainという。以下、YSと記載することがある。)と、降伏点応力(以下、耐力と記載することがある。)とを高めることで、折り畳み等の操作による、フィルムの破断、白化等の変化を抑制できると考えた。したがって、本発明は、高い降伏点歪及び耐力を有するフィルムを提供することを課題とする。
【発明が解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と少なくとも1種のアミン化合物とを含むフィルムによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の態様が含まれる。
〔1〕少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と、少なくとも1種のアミン化合物とを含み、前記アミン化合物はアミン塩である、フィルム。
〔2〕
アミン塩は、アミン塩酸塩、アミン硫酸塩、アミン硝酸塩、アミン炭酸塩及びアミンカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕アミン化合物は第三級アミン化合物の塩である、〔1〕又は〔2〕に記載のフィルム。
〔4〕アミン化合物は炭素数3~30の第三級アミン化合物の塩である、〔3〕に記載のフィルム。
〔5〕アミン化合物は芳香族アミン化合物の塩及び脂肪族アミン化合物の塩からなる群から選択される少なくとも1種である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のフィルム。
〔6〕XYZ表色系におけるY値(D65)が80以上である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のフィルム。
〔7〕フレキシブル表示装置の前面板用のフィルムである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のフィルム。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のフィルムを備えるフレキシブル表示装置。
〔9〕タッチセンサをさらに備える、〔8〕に記載のフレキシブル表示装置。
〔10〕偏光板をさらに備える、〔8〕又は〔9〕に記載のフレキシブル表示装置。
【0006】
本発明によれば、高い降伏点歪及び降伏点応力を有するフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0008】
本発明のフィルムは、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と少なくとも1種のアミン化合物とを含む。本発明のフィルムがポリアミドイミド樹脂とアミン化合物とを含有することによって、高いYS及び耐力を有するフィルムが得られる理由は明らかではなく、本発明は後述するメカニズムに何ら限定されないが、アミン化合物はポリアミドイミド樹脂に含まれるイミド結合及び/又はアミド結合と何らかの相互作用をしていると考えられる。その結果、本発明のフィルムに含まれるポリアミドイミド樹脂の鎖間での相互作用が強くなり、高いYS及び耐力をもたらしたと考えられる。
【0009】
本発明のフィルムに含まれる少なくとも1種のアミン化合物は、従来公知のアミン化合物を特に限定なく用いることができ、例えば、脂肪族アミン及び芳香族アミンのいずれであってもよく、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物第三級アミン化合物のいずれであってもよく、1つのアミノ基を有するモノアミン化合物であっても、2以上のアミノ基を有するポリアミン化合物であっても、複素環の環構成原子としての窒素原子を有する複素環式芳香族アミン化合物であってもよく、また、前記アミン化合物の塩の形態であるアミン塩であってもよい。
【0010】
本発明のフィルムに含まれる少なくとも1種のアミン化合物は、従来公知のアミン化合物を特に限定なく用いることができ、例えば、脂肪族アミン及び芳香族アミンのいずれであってもよく、第一級アミン化合物、第二級アミン化合物、第三級アミン化合物及びこれらの塩のいずれであってもよい。
ワニスの粘度上昇を抑制し、塗工性を高めやすい観点から、アミン化合物は、好ましくはモノアミン化合物またはその塩である。得られるフィルムのYS及び耐力を向上する観点から、アミン化合物は好ましくはアミン塩である。アミン塩は、一般にアミンと比べて、極性が高い傾向にあり溶解性が高いので、ポリアミドイミド樹脂とより相互作用しやすく、フィルムのYSや耐力をより高くすることが期待される。
【0011】
アミン塩としては、アミン塩酸塩、アミン硫酸塩、アミン硝酸塩、アミン炭酸塩、アミンカルボン酸塩、アミンスルホン酸塩、アミンリン酸塩、アミン臭化水素酸塩、アミンヨウ化水素酸塩等が挙げられる。アミン化合物は、より好ましくはアミン塩酸塩、アミン硫酸塩、アミン硝酸塩、アミン炭酸塩及びアミンカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはアミン塩酸塩、アミン炭酸塩及びアミンカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも1種である。
本発明のフィルムは1種類のアミン化合物を含んでいてもよいし、2種以上のアミン化合物を組合せて含んでいてもよい。
【0012】
本発明において、アミン化合物として使用可能な第一級アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、ペンチルアミン、2-メトキシエチルアミン、2-エトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン等の脂肪族第一級アミン化合物;アニリン、о-トルイジン、アニシジン等の芳香族第一級アミン化合物;並びにこれらの塩が挙げられる。第二級アミン化合物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン等の脂肪族第二級アミン化合物;ジフェニルアミン、9,10-ジヒドロアクリジン、フェノキサジン、イミノスチルベン等の芳香族第二級アミン化合物;並びにこれらの塩が挙げられる。第三級アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルブチルアミン、トリイソペンチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ジアミノプロパン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン、N-メチルピロリジン、N-エチルピロリジン、N-ブチルピロリジン、1,4-ジメチルピペラジン、キヌクリジン等の脂肪族第三級アミン化合物;トリフェニルアミン、9,9-ジメチル-10-フェニル-9,10-ジヒドロアクリジン、N-メチルジフェニルアミン等の、アミノ基を有する芳香族第三級アミン化合物;ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピコリン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、フェナントリジン、ピロール、インドール、1-メチルピロール、1-フェニルピロール、1-メチルインドール、1-フェニルインドール等の複素環の環構成原子として第三級窒素原子を有する複素環式芳香族アミン化合物;並びにこれらの塩が挙げられる。
【0013】
アミン化合物は、フィルムのYS及び耐力の向上の観点から、好ましくは第3級アミン化合物及びその塩であり、より好ましくは炭素数3~30の第三級アミン化合物及びその塩、さらに好ましくは炭素数3~30の第三級アミン化合物の塩である。特に、炭素数3~30の第三級アミン化合物の塩は、上記効果が高いことに加え、揮発性が低く、取り扱いやすい。
【0014】
アミン化合物の炭素数は、アミン化合物の沸点及び分子サイズを好ましい範囲に調整しやすく、得られるフィルムのYS及び耐力を向上させやすい観点から、好ましくは3~30、より好ましくは4~20、さらに好ましくは4~15、とりわけ好ましくは5~10である。
【0015】
アミン化合物は、芳香族アミン化合物、脂肪族アミン化合物及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、例えば脂肪族第三級アミン化合物、第三級アミン基を有する芳香族アミン化合物、複素環の環構成原子として第三級窒素原子を有する複素環式芳香族アミン化合物及びそれらの塩等であってよい。
フィルムのYS及び耐力を向上させやすい観点から、アミン化合物は、より好ましくは脂肪族第三級アミン化合物、第三級アミン基を有する芳香族アミン化合物、複素環の環構成原子としての第三級窒素原子を有する複素環式芳香族化合物及びそれらの塩からなる群から選択され、さらにより好ましくは脂肪族第三級アミン化合物、第三級アミン基を有する芳香族アミン化合物及びそれらの塩からなる群から選択され、とりわけ好ましくは上記のような第三級アミン化合物の塩、とりわけより好ましくは炭素数3~30の第三級アミン化合物の塩である。
【0016】
アミン化合物は、ワニスの取り扱い及び塗工性、乾燥後のフィルム中の残留量の観点から、その1気圧における沸点が50℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましい。該沸点は、さらに好ましくは80℃以上であり、ことさら好ましくは85℃以上である。
【0017】
アミン化合物は、ワニスの取り扱い性及び塗工性、乾燥後のフィルム中の残留量の観点から、その分子量が50以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。また、溶解性の観点から、その1気圧における分子量が500以下であることが好ましく、400以下であることがより好ましい。該分子量は、さらに好ましくは75~300であり、ことさら好ましくは80~200である。
【0018】
本発明のフィルムに含まれるアミン化合物の含有量は、得られるフィルムのYS及び耐力を向上させやすい観点から、本発明のフィルムの総量に基づいて、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.15質量%以上、さらにより好ましくは0.20質量%以上であり、フィルムの透明性、耐屈曲性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0019】
本発明のフィルムに含まれるアミン化合物の含有量は、得られるフィルムのYS及び耐力の向上の観点から、本発明のフィルムに含まれるポリアミドイミド樹脂の総量に基づいて、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、フィルムの透明性、耐屈曲性の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0020】
<ポリアミドイミド樹脂>
本発明のフィルムは、上記のアミン化合物に加えて、少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂を含有する。本発明のフィルムは、1種類のポリアミドイミド樹脂を含有していてもよいし、2種以上のポリアミドイミド樹脂を含有していてもよい。
【0021】
本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、フィルムの透明性や耐屈曲性、YS及び耐力を向上させやすい観点から、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂であることが好ましい。以下において式(1)及び式(2)について説明する。
【0022】
【化1】
【0023】
式(1)で表される構成単位は、テトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位であり、式(2)で表される構成単位は、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位である。
【0024】
ポリアミドイミド樹脂が、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂である本発明の一態様において、式(1)中のYは、互いに独立に、4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表す。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施態様である上記ポリアミドイミド樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基;それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0025】
【化2】
【0026】
[式(20)~式(29)中、*は結合手を表し、
は、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。]
【0027】
式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の中でも、該ポリアミドイミド樹脂を含んでなるフィルムのYS、耐力、表面硬度及び柔軟性の観点から、式(26)、式(28)又は式(29)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、Wは、該ポリアミドイミド樹脂を含んでなるフィルムのYS、耐力、表面硬度や柔軟性の観点から、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-であることが好ましく、単結合、-O-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-であることがより好ましく、単結合、-O-、-C(CH-又は-C(CF-であることがさらに好ましく、-O-又は-C(CF-であることがことさら好ましい。
【0028】
上記態様において、式(1)中の複数のYの少なくとも一部は、式(5)で表される構成単位であることが好ましい。式(1)中の複数のYの少なくとも一部が式(5)で表される基であると、得られるフィルムは、高い透明性を発現しやすい。また、メチレン基部分の屈曲性骨格に由来して、該ポリアミドイミド樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ポリアミドイミド樹脂を含むワニスの粘度を低く抑制することができ、またフィルムの加工を容易にすることができる。
【0029】
【化3】
【0030】
[式(5)中、R18~R25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R18~R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
*は結合手を表す。]
【0031】
式(5)において、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数6~12のアリール基を表し、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として後述するものが挙げられる。ここで、R18~R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。R18~R25は、互いに独立に、該ポリアミドイミド樹脂を含んでなるフィルムの表面硬度や柔軟性の観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、特に好ましくは水素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0032】
本発明の好適な実施態様においては、式(5)で表される構成単位は、式(5’)で表される基であり、すなわち、複数のYの少なくとも一部は、式(5’)で表される構成単位である。この場合、該ポリアミドイミド樹脂を含んでなるフィルムは、高い透明性を有することができる。
【0033】
【化4】
【0034】
[式(5’)中、*は結合手を表す]
【0035】
本発明の好適な実施態様において、上記ポリアミドイミド樹脂中のYの、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(5)、特に式(5’)で表される。上記ポリアミドイミド樹脂における上記範囲内のYが式(5)、特に式(5’)で表されると、該ポリアミドイミド樹脂を含んでなるフィルムは高い透明性を有することができ、さらにフッ素元素を含有する骨格により該ポリアミドイミド樹脂の溶媒への溶解性が向上し、ポリアミドイミド樹脂を含むワニスの粘度を低く抑制することができる。また、フィルムの製造が容易となる。なお、好ましくは、上記ポリアミドイミド樹脂中のYの100モル%以下が式(5)、特に式(5’)で表される。上記ポリアミドイミド樹脂中のYは式(5)、特に式(5’)であってもよい。上記ポリアミドイミド樹脂中のYの式(5)で表される構成単位の含有率は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0036】
ポリアミドイミド樹脂が式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂である本発明の一態様において、式(2)中のZは、互いに独立に、2価の有機基を表す。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。前記2価の有機基は、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基を表す。前記有機基は、炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。Zの有機基としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基並びに炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示される。フィルムの光学特性を向上、例えばYI値を低減しやすい観点から、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)又は式(29)で表される基において、隣接しない2つの結合手が水素原子に置き換わった基が好ましい。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、Zとして1種類の有機基を含んでいてもよいし、2種類以上の有機基を含んでいてもよい。
【0037】
Zの有機基としては、式(20’)、式(21’)、式(22’)、式(23’)、式(24’)、式(25’)、式(26’)、式(27’)、式(28’)及び式(29’):
【0038】
【化5】
【0039】
[式(20’)~式(29’)中、W及び*は、式(20)~式(29)において定義する通りである]
で表される2価の有機基がより好ましい。なお、式(20)~式(29)及び式(20’)~式(29’)における環上の水素原子は、炭素数1~8の炭化水素基、フッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基、炭素数1~6のアルコキシ基、フッ素置換された炭素数1~6のアルコキシ基で置換されていてもよい。
【0040】
ポリアミドイミド樹脂が、式(2)中のZが上記の式(20’)~式(29’)のいずれかで表される構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂は、該構成単位に加えて、次の式(d1):
【0041】
【化6】
【0042】
[式(d1)中、R24は、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R25は、R24又は-C(=O)-*を表し、*は結合手を表す]
で表されるカルボン酸由来の構成単位をさらに有することが、ワニスの粘度を低くしやすく、ワニスの成膜性を高めやすく、得られるフィルムの均一性を高めやすい観点から好ましい。
【0043】
24において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、後述する式(3)中のR~Rに関して例示のものが挙げられる。構成単位(d1)としては、具体的には、R24及びR25がいずれも水素原子である構成単位(ジカルボン酸化合物に由来する構成単位)、R24がいずれも水素原子であり、R25が-C(=O)-*を表す構成単位(トリカルボン酸化合物に由来する構成単位)等が挙げられる。
【0044】
本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。特に、得られるフィルムの表面硬度や光学特性を向上させやすい観点から、Zの少なくとも一部が、式(3a):
【0045】
【化7】
【0046】
[式(3a)中、R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
A、m及び*は式(3)中のA、m及び*と同じであり、
t及びuは互いに独立に0~4の整数を表す]
で表されることが好ましく、式(3):
【0047】
【化8】
【0048】
[式(3)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、Rは水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数を表し、
*は結合手を表す]
で表されることがより好ましい。
【0049】
式(3)及び式(3a)において、Aは、互いに独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、得られるフィルムの耐屈曲性の観点から、好ましくは-O-又は-S-を表し、より好ましくは-O-を表す。
、R、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。R及びRは、互いに独立に、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。本発明のフィルムの表面硬度及び柔軟性の観点から、R~Rは、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。ここで、R~R、R及びRに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。ポリアミドイミド樹脂は、複数種のAを含み得、複数種のAは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
【0050】
式(3a)中のt及びuは、互いに独立に、0~4の整数を表し、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらにより好ましくは0を表す。
【0051】
式(3)及び式(3a)において、mは、0~4の範囲の整数であり、mがこの範囲内であると、ワニスの安定性、及び、本発明のフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好になりやすい。また、式(3)及び式(3a)において、mは、好ましくは0~3の範囲の整数、より好ましくは0~2の範囲の整数、さらに好ましくは0又は1、さらにより好ましくは0である。mがこの範囲内であると、フィルムの耐屈曲性や弾性率を向上させやすい。
また、Zは、式(3)又は式(3a)で表される構成単位を1種又は2種類以上含んでいてもよく、フィルムの弾性率及び耐屈曲性の向上、YI値低減の観点、フィルムの経時的な黄変抑制の観点から、特にmの値が異なる2種類以上の構成単位、好ましくはmの値の異なる2種類又は3種類の構成単位を含んでいてもよい。その場合、本発明のフィルムの高い弾性率、耐屈曲性及び低いYI値を発現しやすい観点から、樹脂がZにおいて、mが0である式(3)又は式(3a)で表される構成単位を含有することが好ましく、該構成単位に加えてmが1である式(3)又は式(3a)で表される構成単位をさらに含有することがより好ましい。また、mが0である式(3)で表されるZを有する式(2)で表される構成単位に加えて、上記の式(d1)で表される構成単位をさらに有することも好ましい。
【0052】
本発明の好ましい一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、mが0であり、かつR~Rが水素原子である構成単位を有する。より好ましい本発明の一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、mが0であり、かつR~Rが水素原子である構成単位と、式(3’):
【0053】
【化9】
【0054】
で表される構成単位を有する。この場合、本発明のフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を向上させやすく、YI値を低減しやすい。
【0055】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、とりわけ好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、本発明のフィルムの表面硬度を高めやすく、かつ耐屈曲性や弾性率を高めやすい。式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。
【0056】
また、ポリアミドイミド樹脂がmが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは8モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、とりわけ好ましくは12モル%以下である。mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合が上記の下限以上であると、本発明のフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすい。mが1~4である式(3)又は式(3a)の構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお、式(1)、式(2)、式(3)又は式(3a)で表される構成単位の含有量は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0057】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは45モル%以上、さらにより好ましくは50モル%以上、とりわけ好ましくは70モル%以上が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位である。Zの上記の下限以上が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位であると、本発明のフィルムの表面硬度を高めやすいと共に、耐屈曲性及び弾性率も高めやすい。また、ポリアミドイミド樹脂中のZの100モル%以下が、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位であればよい。なお、樹脂中の、mが0~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0058】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは12モル%以上が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表される。ポリアミドイミド樹脂のZの上記の下限以上が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されると、本発明のフィルムの表面硬度を高めやすく、かつ耐屈曲性及び弾性率を高めやすい。また、Zの、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、さらにより好ましくは30モル%以下が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されることが好ましい。Zの上記の上限以下が、mが1~4である式(3)又は式(3a)で表されると、mが1~4である式(3)又は式(3a)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお樹脂中のmが1~4である式(3)又は式(3a)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0059】
式(1)及び式(2)において、Xは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の2価の有機基、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。Xとしては、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それらの式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0060】
【化10】
【0061】
[式(10)~式(18)中、*は結合手を表し、
、V及びVは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-CO-又は-N(Q)-を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。]
【0062】
炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、Rについて上記に述べた基が挙げられる。
1つの例は、V及びVが単結合、-O-又は-S-であり、かつ、Vが-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-SO-である。VとVとの各環に対する結合位置、及び、VとVとの各環に対する結合位置は、互いに独立に、好ましくは各環に対してメタ位又はパラ位であり、より好ましくはパラ位である。
【0063】
式(10)~式(18)で表される基の中でも、本発明のフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすい観点から、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)及び式(17)で表される基が好ましく、式(14)、式(15)及び式(16)で表される基がより好ましい。また、V、V及びVは、互いに独立に、好ましくは単結合、-O-又は-S-、より好ましくは単結合又は-O-である。
【0064】
本発明の好ましい一実施形態において、式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部は、式(4):
【0065】
【化11】
【0066】
[式(4)中、R10~R17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R10~R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される構成単位である。式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部が式(4)で表される基であると、本発明のフィルムの表面硬度及び透明性を高めやすい。
【0067】
式(4)において、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基としては、式(3)における炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基として例示のものが挙げられる。R10~R17は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R10~R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R10~R17は、互いに独立に、フィルムの表面硬度、透明性及び耐屈曲性の観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基を表し、さらにより好ましくはR10、R12、R13、R14、R15及びR16が水素原子、R11及びR17が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基を表し、とりわけ好ましくはR11及びR17がメチル基又はトリフルオロメチル基を表す。
【0068】
本発明の好ましい一実施形態において、式(4)で表される構成単位は式(4’):
【0069】
【化12】
【0070】
で表される構成単位であり、すなわち、式(1)及び式(2)で表される複数の構成単位中の複数のXの少なくとも一部は、式(4’)で表される構成単位である。この場合、フッ素元素を含有する骨格によりポリアミドイミド樹脂の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、フィルムの加工性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、本発明のフィルムの光学特性を向上しやすい。
【0071】
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のXの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。ポリアミドイミド樹脂における上記範囲内のXが式(4)、とりわけ式(4’)で表されると、フッ素元素を含有する骨格によりポリアミドイミド樹脂の溶媒への溶解性を向上させやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、ワニスから得られるフィルムの加工性を向上しやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により、本発明のフィルムの光学特性も向上しやすい。なお、好ましくは、上記ポリアミドイミド樹脂中のXの100モル%以下が式(4)、とりわけ式(4’)で表される。上記ポリアミドイミド樹脂中のXは式(4)、とりわけ式(4’)であってもよい。上記樹脂中のXの式(4)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0072】
ポリアミドイミド樹脂は、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むことができ、式(1)及び式(2)で表される構成単位に、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むものであってもよい。
【0073】
【化13】
【0074】
式(30)において、Yは、互いに独立に、4価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基、それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基、並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0075】
式(31)において、Yは3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、及び3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0076】
式(30)及び式(31)において、X及びXは、互いに独立に、2価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。X及びXとしては、上記の式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それら式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
【0077】
本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、式(1)及び/又は式(2)で表される構成単位、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される構成単位からなる。また、本発明のフィルムの光学特性、表面硬度及び耐屈曲性の観点から、上記ポリアミドイミド樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び式(31)で表される全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。なお、ポリアミドイミド樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される全構成単位に基づいて、通常100%以下である。なお、上記割合は、例えば、H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0078】
本発明の一実施形態において、本発明のフィルム中におけるポリアミドイミド樹脂の含有量は、該フィルム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、好ましくは99.5質量部以下、より好ましくは95質量部以下である。ポリアミドイミド樹脂の含有量が上記範囲内であると、フィルムの光学特性及び弾性率を向上させやすい。
【0079】
ポリアミドイミド樹脂において、式(2)で表される構成単位の含有量は、式(1)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは1.0モル以上、さらにより好ましくは1.5モル以上であり、好ましくは6.0モル以下、より好ましくは5.0モル以下、さらに好ましくは4.5モル以下である。式(2)で表される構成単位の含有量が上記の下限以上であると、本発明のフィルムの表面硬度を高めやすい。また、式(2)で表される構成単位の含有量が上記の上限以下であると、式(2)中のアミド結合間の水素結合による増粘を抑制し、フィルムの加工性を向上させやすい。
【0080】
本発明の好ましい一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、例えば上記の含フッ素置換基等によって導入することができる、フッ素原子等のハロゲン原子を含んでよい。ポリアミドイミド樹脂がハロゲン原子を含む場合、該ポリアミドイミド樹脂を含むフィルムの弾性率を向上させ、かつYI値を低減させやすい。フィルムの弾性率が高いと、該フィルムを例えばフレキシブル表示装置において使用する際に、該フィルムにおける傷及びシワ等の発生を抑制しやすい。また、フィルムのYI値が低いと、該フィルムの透明性及び視認性を向上させやすくなる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。ポリアミドイミド樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0081】
ポリアミドイミド樹脂におけるハロゲン原子の含有量は、ポリアミドイミド樹脂の質量を基準として、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、該ポリアミドイミド樹脂を含むフィルムの弾性率をより向上させ、吸水率を下げ、YI値をより低減し、透明性及び視認性をより向上させやすい。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、樹脂の合成がしやすくなる。
【0082】
ポリアミドイミド樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは96%以上である。該ポリアミドイミド樹脂を含むフィルムの光学的均質性を高めやすい観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、ポリアミドイミド樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、ポリアミドイミド樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、ポリアミドイミド樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、ポリアミドイミド樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、ポリアミドイミド樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができ、例えば、NMR法においては、実施例に記載の方法により測定できる。
【0083】
本発明のフィルムに含まれるポリアミドイミド樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量(以下、Mwと記載することがある)は、フィルムのYS、耐力及び耐屈曲性を向上させやすい観点から、好ましくは200,000以上、より好ましくは250,000以上、さらに好ましくは300,000以上である。ポリアミドイミド樹脂のポリスチレン換算Mwは、ワニスの製造しやすさや、高分子材料を製造する際の成膜性の観点から、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、さらにより好ましくは450,000以下である。上記Mwは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー測定(以下、GPCと記載することがある)により測定される。測定条件としては、実施例に記載する条件を使用してよい。
【0084】
ポリアミドイミド樹脂は、市販品を使用してもよい。ポリアミドイミド樹脂の市販品としては、例えば東洋紡(株)製 Vylomax(登録商標)、三菱ケミカル(株)製 Duratron(登録商標)、Solvay社製 Torlon(登録商標)等が挙げられる。
【0085】
<ポリアミドイミド樹脂の製造方法>
ポリアミドイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びジアミン化合物を主な原料として製造できる。ここで、ジカルボン酸化合物は少なくとも式(3”)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0086】
【化14】
【0087】
[式(3”)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R)-を表し、
は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、
mは0~4の整数であり、
31及びR32は、互いに独立に、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基又は塩素原子を表す。]
【0088】
本発明の好ましい一実施形態において、ジカルボン酸化合物は、mが0である、式(3”)で表される化合物である。ジカルボン酸化合物として、mが0である式(3”)で表される化合物に加えて、Aが酸素原子である式(3”)で表される化合物を使用することがより好ましい。また、別の好ましい一実施形態においては、ジカルボン酸化合物は、R31及びR32が塩素原子である、式(3”)で表される化合物である。また、ジアミン化合物に代えて、ジイソシアネート化合物を用いてもよい。
【0089】
樹脂の製造に使用されるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
【0090】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン及び4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0091】
芳香族ジアミンとしては、例えばp-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0092】
芳香族ジアミンは、好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、TFMB、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、TFMB、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0093】
上記ジアミン化合物の中でも、フィルムのYS及び耐力や、表面硬度、透明性、柔軟性、耐屈曲性等を高めやすく、着色性を低下させやすい観点から、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。TFMB、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、TFMBを用いることがよりさらに好ましい。
【0094】
樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0095】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0096】
これらの中でも、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、6FDA、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、6FDA、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0097】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0098】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、フィルムの表面硬度、透明性、柔軟性、耐屈曲性を高めやすい観点、及び低着色性の観点から、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、6FDA、並びにこれらの混合物が好ましく、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び6FDA、並びにこれらの混合物がより好ましく、6FDAがさらに好ましい。
【0099】
樹脂の製造に用いられるジカルボン酸化合物としては、好ましくはテレフタル酸、4,4’-オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物が用いられる。テレフタル酸や4,4’-オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物に加えて、他のジカルボン酸化合物が用いられてもよい。他のジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。具体例としては、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)、テレフタロイルクロリドが好ましく、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)とテレフタロイルクロリドとを組合せて用いることがさらに好ましい。
【0100】
なお、上記ポリアミドイミド樹脂は、フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記テトラカルボン酸化合物に加えて、テトラカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0101】
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
【0102】
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリド化合物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0103】
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物の使用量は、所望とするポリアミドイミド樹脂の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
【0104】
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の反応温度は、特に限定されないが、例えば5~350℃、好ましくは20~200℃、より好ましくは25~100℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分~10時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において反応を行ってよい。好ましい態様では、反応は、常圧及び/又は不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。また、反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(以下、DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
【0105】
ポリアミドイミド樹脂の製造におけるイミド化工程では、イミド化触媒の存在下で、イミド化することができる。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、及びN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2-メチルピリジン(2-ピコリン)、3-メチルピリジン(3-ピコリン)、4-メチルピリジン(4-ピコリン)、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸無水物等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
【0106】
ポリアミドイミド樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により分離精製して単離してもよく、好ましい態様では、透明ポリアミドイミド樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0107】
(フィラー)
本発明のフィルムは、ポリアミドイミド樹脂及びアミン化合物に加えて、少なくとも1種のフィラーを含んでよい。フィラーとしては、例えば有機粒子、無機粒子などが挙げられ、好ましくは無機粒子が挙げられる。無機粒子としては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITOと記載することがある)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物粒子、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物粒子などが挙げられ、これらの中でも、光学積層体の弾性率及び/又は引裂き強度を高め、耐衝撃性を向上しやすい観点から、好ましくはシリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子が挙げられる。これらのフィラーは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0108】
フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、とりわけ好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、さらに好ましくは80nm以下、さらにより好ましくは70nm以下、とりわけ好ましくは60nm以下、とりわけより好ましくは50nm以下、とりわけさらに好ましくは40nm以下である。フィラー、好ましくはシリカ粒子の平均一次粒子径が上記範囲内であると、フィラー、好ましくはシリカ粒子の凝集を抑制し、得られる光学積層体の光学特性を向上しやすい。フィラーの平均一次粒子径は、BET法により測定できる。なお、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の画像解析により、平均一次粒子径を測定してもよい。
【0109】
本発明のフィルムがフィラー、好ましくはシリカ粒子を含有する場合、フィラー、好ましくはシリカ粒子の含有率は、フィルムの総量に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上、とりわけ好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下である。フィラーの含有量が上記の下限以上であると、得られるフィルムの弾性率を向上しやすい。また、フィラーの含有量が上記の上限以下であると、ワニスの保管安定性が向上され、得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。
【0110】
(紫外線吸収剤)
本発明のフィルムは、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。本発明のフィルムが紫外線吸収剤を含有することにより、ポリアミドイミド樹脂の劣化が抑制されるため、フィルムの視認性を高めることができる。
なお、本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
【0111】
本発明のフィルムが紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有率は、フィルムの総量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。好適な含有率は用いる紫外線吸収剤により異なるが、400nmの光線透過率が20~60%程度になるように紫外線吸収剤の含有率を調節すると、フィルムの耐光性が高められるとともに、透明性の高いフィルムを得ることができる。
【0112】
(他の添加剤)
本発明のフィルムは、フィラー、紫外線吸収剤以外の他の添加剤をさらに含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤、難燃剤、pH調整剤、シリカ分散剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤等が挙げられる。他の添加剤を含有する場合、その含有量は、光学積層体100質量部に対して、好ましくは0.001~20質量部、より好ましくは0.01~15質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部であってよい。
【0113】
〔フィルム〕
本発明のフィルムの厚さは、用途に応じて適宜調整されるが、通常10~1,000μm、好ましくは15~500μm、より好ましくは20~400μm、さらに好ましくは25~300μmである。なお、本発明において、厚さは接触式のデジマチックインジケーターによって測定することができる。
【0114】
本発明のフィルムのXYZ表色系におけるY(D65)値は、好ましくは80以上、より好ましくは81以上、さらにより好ましくは82以上である。フィルムのY値が上記の下限以上であると、フィルムを画像表示装置に組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、フィルムのY(D65)値の上限値は通常95以下である。なお、XYZ表色系におけるY(D65)値は、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計を用いて測定することができ、300~800nmの光に対する透過率測定を行った際の、D65光源における3刺激値のうちのY値である。
【0115】
本発明のフィルムの引張試験におけるYSは、引張試験機(試験条件;室温、チャック間距離50mm、引張速度10mm/分)を用いて測定でき、好ましくは1.65%以上、より好ましくは1.76%以上、更に好ましくは1.80%以上、より更に好ましくは1.83%以上、さらにより好ましくは1.85%以上であり、好ましくは3.0%以下である。YSが上記の範囲内であると、フィルムの屈曲により生じ得る破断、白化等の変化を低減しやすい。YSは、室温条件下、チャック間距離50mm、引張速度10mm/分の条件で引張試験機を用いて得た応力-歪曲線(以下、S-S曲線と記載することがある)において、6MPaに到達した点と21MPaに到達した点を結んだ直線を歪方向に0.2%平行移動し、実測のS-S曲線に交差した点における歪値をYSとした。なお、この時の応力を耐力とした。
【0116】
本発明のフィルムの引張試験における耐力は、上記のように測定でき、好ましくは80MPa以上、より好ましくは82MPa以上、さらに好ましくは84MPa以上であり、好ましくは200MPa以下である。耐力が上記の範囲内であると、本発明のフィルムを含むデバイスを使用する際の破断や白化をより低減しやすい。なお、耐力はフィルムに含まれるフィラーの量を添加することによっても高くすることができるが、フィラーの量は、耐屈曲性の観点から少ない方が良い場合もある。本発明によれば、フィラーの添加量が比較的少ない場合であっても、高い耐力を達成することができ、また、フィラーを添加する場合には、耐力をより高めることができる。本発明のフィルムの耐力は、例えばフィラーの含有量がフィルムの総量に基づいて10質量%以下と比較的少ない場合、好ましくは80MPa以上、より好ましくは82MPa以上、さらに好ましくは84MPa以上、さらにより好ましくは85MPa以上である。また、本発明のフィルムの耐力は、例えばフィラーの含有量がフィルムの総量に基づいて10質量%を超える場合、好ましくは90MPa以上、より好ましくは93MPa以上、さらに好ましくは95MPa以上である。
【0117】
本発明のフィルムの全光線透過率Ttは、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、さらにより好ましくは89%以上、とりわけ好ましくは90%以上である。フィルムの全光線透過率Ttが上記の下限以上であると、フィルムを画像表示装置に組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、フィルムの全光線透過率Ttの上限値は通常100%以下である。
【0118】
フィルムのヘーズは、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.8%以下、とりわけ好ましくは0.5%以下、とりわけより好ましくは0.3%以下である。フィルムのヘーズが上記の上限以下であると、フィルムを画像表示装置等のフレキシブル電子デバイスに組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、上記ヘーズの下限値は特に限定されず、0%以上であればよい。なお、全光線透過率及びヘーズは、JIS K 7105:1981に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定できる。
【0119】
本発明のフィルムのYI値は、好ましくは8以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは3以下、さらにより好ましくは2.8以下である。フィルムのYI値が上記の上限以下であると透明性が良好となり、例えば画像表示装置の前面板に使用した場合に、高い視認性に寄与することができる。またYI値は通常-5以上であり、好ましくは-2以上である。なお、YI値は紫外可視近赤外分光光度計を用いて300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求め、YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Yの式に基づいて算出できる。
【0120】
本発明のフィルムは、好ましくは優れた耐屈曲性を有する。本発明のフィルムの室温での耐屈曲回数は、室温、湿度50%で、R=1.5mmで測定して、好ましくは20万回以上、より好ましくは25万回以上、さらに好ましくは30万回以上である。耐屈曲回数が上記の下限以上であると、繰り返し折り曲げてもクラック、割れ、折り皺等の発生を有効に抑制できる。耐屈曲回数は、折り畳み試験機を用いて測定できる。
【0121】
〔本発明のフィルムの製造方法〕
本発明のフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の工程:
(a)前記ポリアミドイミド樹脂と、前記アミン化合物と、溶媒とを少なくとも含む樹脂組成物を調製するワニス調製工程、
(b)ワニスを支持材に塗布して塗膜を形成する塗布工程、及び
(c)前記塗膜を乾燥させてフィルムを形成するフィルム形成工程
を少なくとも含む製造方法であってよい。
【0122】
ワニス調製工程において、ポリアミドイミド樹脂を溶媒に溶解させ、アミン化合物と、必要に応じて、前記フィラー、紫外線吸収剤等の添加剤を添加して撹拌混合することによりワニスを調製する。なお、フィラーとしてシリカ粒子を用いる場合、シリカ粒子を含むシリカゾルの分散液を、前記樹脂が溶解可能な溶媒、例えば下記のワニスの調製に用いられる溶媒で置換したシリカゾルを樹脂に添加してもよい。
【0123】
ワニスの調製に用いる溶媒は、前記樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えば、DMAc、DMF等のアミド系溶媒;GBL、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せが挙げられる。これらの中でも、アミド系溶媒又はラクトン系溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。また、ワニスには水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、非環状エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが含まれてもよい。ワニスの固形分濃度は、好ましくは1~25質量%、より好ましくは5~20質量%、さらに好ましくは5~15質量%である。
【0124】
塗布工程において、公知の塗布方法により、支持材上にワニスを塗布して塗膜を形成する。公知の塗布方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング法、グラビアコーティング法等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、流涎成形法等が挙げられる。
【0125】
フィルム形成工程において、塗膜を乾燥し、支持材から剥離することによって、フィルムを形成することができる。剥離後にさらにフィルムを乾燥する工程を設けてもよい。塗膜の乾燥は、通常50~350℃の温度にて行うことができる。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において塗膜の乾燥を行ってよい。なお、得られるフィルムには、ワニスに含まれていた溶媒の一部がわずかに残存していてもよい。フィルムに含まれる溶媒の量は、フィルムの質量に対して、好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下、さらに好ましくは1.1%以下、さらにより好ましくは1.0%以下である。溶媒の量の下限は、好ましくは0%以上、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.1%以上、さらにより好ましくは0.3%以上である。
【0126】
支持材の例としては、金属系であれば、SUS板、樹脂系であればPETフィルム、PENフィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、他のポリアミドイミド樹脂フィルム、シクロオレフィン系ポリマーフィルム、アクリル系フィルム等が挙げられる。中でも、平滑性、耐熱性に優れる観点から、PETフィルム、シクロオレフィン系ポリマーフィルム等が好ましく、さらに本発明のフィルムとの密着性及びコストの観点から、PETフィルムがより好ましい。
【0127】
〔光学積層体〕
本発明のフィルムは、光学フィルムであってよく、該光学フィルムの少なくとも一方の面に1以上の機能層を積層して光学積層体を形成することもできる。機能層としては、例えば紫外線吸収層、ハードコート層、プライマー層、ガスバリア層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上を組合せて使用できる。
【0128】
紫外線吸収層は、紫外線吸収の機能を有する層であり、例えば、紫外線硬化型の透明樹脂、電子線硬化型の透明樹脂、及び熱硬化型の透明樹脂から選ばれる主材と、この主材に分散した紫外線吸収剤とから構成される。
【0129】
光学フィルムの少なくとも一方の面には、ハードコート層が設けられていてもよい。ハードコート層の厚さは特に限定されず、例えば、2~100μmであってもよい。前記ハードコート層の厚さが前記の範囲にあると、耐衝撃性を高めやすい。
【0130】
粘着層は、粘着性の機能を有する層であり、フィルムを他の部材に接着させる機能を有する。粘着層の形成材料としては、通常知られたものを用いることができる。例えば、熱硬化性樹脂組成物又は光硬化性樹脂組成物を用いることができる。この場合、事後的にエネルギーを供給することで樹脂組成物を高分子化し硬化させることができる。
【0131】
粘着層は、感圧型接着剤(Pressure Sensitive Adhesive、PSA)と呼ばれる、押圧により対象物に貼着される層であってもよい。
【0132】
色相調整層は、色相調整の機能を有する層であり、光学積層体を目的の色相に調整することができる層である。
【0133】
屈折率調整層は、屈折率調整の機能を有する層であり、例えばフィルムとは異なる屈折率を有し、光学積層体に所定の屈折率を付与することができる層である。
【0134】
光学積層体は、保護フィルムをさらに含んでいてもよい。保護フィルムは、光学フィルムの片面又は両面に積層されていてもよい。光学フィルムの片面に機能層を有する場合には、保護フィルムは、光学フィルム側の表面又は機能層側の表面に積層されていてもよく、光学フィルム側と機能層側の両方に積層されていてもよい。
【0135】
保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常、10~100μm、好ましくは10~80μm、より好ましくは10~50μmである。光学積層体が保護フィルムを2つ有する場合、各保護フィルムの厚さは同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0136】
本発明の一実施態様において、本発明のフィルム及び該フィルムを含む積層体は、巻芯にロール状に巻回された形態であってもよく、該形態を積層体フィルムロールと称する。
【0137】
上記のフィルムは、紫外線吸収層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層等の機能層、ハードコート層を備えてもよい。
【0138】
本発明のフィルムは、好ましくは光学フィルムであり、より好ましくは画像表示装置の前面板用のフィルムであり、中でもフレキシブルディスプレイ、特にローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイの前面板用のフィルムであるウィンドウフィルムとして非常に有用である。上記のフィルムは、画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイの視認側表面に前面板として配置することができる。この前面板は、フレキシブルディスプレイ内の画像表示素子を保護する機能を有する。上記の光学フィルムを備える画像表示装置は、高い柔軟性及び耐屈曲性を有すると同時に、高い表面硬度を有するため、屈曲した際に他の部材を損傷することがなく、また光学フィルム自体にも折り皺が生じ難く、さらに表面の傷つきを有利に抑制できる。
【0139】
〔画像表示装置〕
本発明のフィルムは、優れたYS及び耐力を有するため、画像表示装置のウィンドウフィルムとして好適に使用できる。本発明のフィルムは、画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイの視認側表面に前面板として配置することができる。該前面板は、フレキシブルディスプレイ内の画像表示素子を保護する機能を有する。画像表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブルディスプレイとしては、フレキシブル特性を有する画像表示装置、例えばテレビ、スマートフォン、携帯電話、スマートウォッチ等が挙げられる。
【0140】
本発明の一実施態様において、画像表示装置は、本発明のフィルム、並びに、偏光板、タッチセンサ及び表示パネルからなる群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。例えば、該光学フィルムの片面に、透明接着剤又は透明粘着剤を介するか、若しくは透明接着剤又は透明粘着剤を介さずに、偏光板、タッチセンサ及び表示パネルが積層された画像表示装置であってもよい。なお、該光学フィルムは、上記光学積層体として画像表示装置に組み込まれていてもよく、以下、画像表示装置に含まれるフィルムは本発明のフィルムである。
【0141】
本発明の一実施態様において、画像表示装置は、本発明のフィルム又は前記偏光板の少なくとも一面に、枠を取り囲んで印刷された有色の遮光パターンを具備することができ、該遮光パターンは単層又は複層の形態であってもよい。前記偏光板は前記非表示領域又はベゼル部にかけて連続的に延長することができ、ポリビニルアルコール系偏光子及び前記ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一面に積層又は貼合された保護層を含む通常の偏光板であってもよい。
【0142】
本発明の一実施態様では、前記フィルムの一面に偏光板及びタッチセンサが一体化された構造において、偏光板及びタッチセンサの配置順序は限定されず、本発明のフィルム、偏光板、タッチセンサ及び表示パネルの順に配置することもでき、フィルム、タッチセンサ、偏光板及び表示パネルの順に配置することもできる。フィルム、偏光板、タッチセンサ及び表示パネルの順に配置した場合は、画像表示装置を視認側から見た際にタッチセンサが偏光板の下側に存在するので、タッチセンサのパターンが視認されにくい長所がある。このような場合、タッチセンサの基板は正面位相差が±2.5nm以下であることが好ましい。該基板の素材としては無延伸フィルムとして、例えば、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン、シクロオレフィン共重合体、ポリノルボルネン共重合体などの素材からなる群から選択された1以上の素材のフィルムであってもよい。一方、タッチセンサの基板なしにパターンのみ光学フィルム及び偏光板に転写した構造を有することができる。
【0143】
前記偏光板及びタッチセンサは、透明粘着剤層又は透明接着剤層によって光学フィルムと表示パネルの間に配置することができるが、透明粘着剤層が好適である。光学フィルム、偏光板、タッチセンサ及び表示パネルの順に配置された場合は、光学フィルムと偏光板の間、タッチセンサと表示パネルの間に透明粘着層が位置することができる。光学フィルム、タッチセンサ、偏光板及び表示パネルの順に配置された場合は、本発明のフィルムとタッチセンサの間、タッチセンサと偏光板の間、偏光板と表示パネルの間に透明粘着剤層を配置することができる。
【0144】
<偏光板>
前記偏光板は、例えば、偏光子、並びに、必要に応じて、支持体、配向膜、位相差コーティング層、接着剤層、粘着剤層及び保護層から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0145】
前記偏光子は、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤、染色、架橋、延伸、水洗、乾燥するなどの段階を含む工程によって製造された当分野で通常使用されるフィルム型偏光子であってもよく、重合性液晶及び二色性染料を含む偏光コーティング層形成組成物を塗布して形成される塗布型偏光子(以下、偏光コーティング層と記載することがある)であってもよい。
【0146】
(偏光コーティング層)
前記偏光コーティング層は、偏光コーティング層形成組成物を塗布して形成することができる。具体的には、偏光コーティング層形成組成物は二色性色素に加えてホスト化合物となる1以上の重合性液晶(以下、重合性液晶(B)と記載することがある)を含む重合性液晶組成物(以下、重合性液晶組成物Bと記載することがある)である。
【0147】
「二色性色素」とは、分子の長軸方向における吸光度と短軸方向における吸光度が異なる性質を有する色素を意味する。このような性質を有するものであれば、二色性色素は制限がなく、染料でもよく、顔料でもよい。2種以上の染料を組合せて用いてもよく、2種以上の顔料を組合せて用いてもよく、染料と顔料を組合せて用いてもよい。
【0148】
二色性色素は、300~700nmの範囲に極大吸収波長(λMAX)を有することが好ましい。このような二色性色素としては、アクリジン色素、オキサジン色素、シアニン色素、ナフタレン色素、アゾ色素及びアントラキノン色素が挙げられ、好ましくはアゾ色素が挙げられる。アゾ色素としては、モノアゾ色素、ビスアゾ色素、トリスアゾ色素、テトラキスアゾ色素及びスチルベンアゾ色素が挙げられ、好ましくはビスアゾ色素及びトリスアゾ色素が挙げられる。
【0149】
偏光コーティング層は通常、偏光コーティング層形成組成物を配向処理が施された支持体上に塗布し、得られた塗布膜中の重合性液晶を重合させることで形成される。前記偏光コーティング層形成組成物を塗布する方法は限定されない。配向処理としては先に例示したものを挙げることができる。偏光コーティング層形成組成物を塗布し、得られた塗布膜中に含まれる重合性液晶が重合しない条件で溶剤を乾燥除去することで乾燥被膜が形成される。乾燥方法としては、自然乾燥法、通風乾燥法、加熱乾燥及び減圧乾燥法を挙げることができる。
【0150】
(位相差コーティング層)
前記偏光板は、位相差コーティング層(以下、単に位相差層と記載することがある)を含んでいてもよい。位相差コーティング層は、光学特性に応じて、λ/2層、λ/4層、ポジティブC層等と総称する。位相差コーティング層は、例えば、表面に配向膜が形成された支持体の配向膜上に液晶化合物を含む位相差コーティング層形成組成物を塗布して液晶コーティング層を形成した後、該液晶コーティング層を、接着層を介して偏光層と貼り付けてから支持体を剥離することで形成することができるが、この方法に制限されるものではない。支持体として、保護フィルムとして上記に例示した高分子フィルムを使用することができ、配向膜及び位相差層が形成される側の支持体面には、配向膜を形成する前に表面処理を施すこともできる。前記配向膜形成組成物及びその塗布及び乾燥方法などは、偏光コーティング層で説明したものと同様である。位相差コーティング層形成組成物の組成は、二色性染料を含んでいないことを除いては、前記偏光コーティング層で説明したものと同様である。また、位相差コーティング層形成組成物の塗布、乾燥及び硬化方法なども、前記偏光コーティング層で説明したものと同様である。
【0151】
(接着剤層及び粘着剤層)
前記偏光板は接着剤層及び/又は粘着剤層を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、偏光コーティング層と第1位相差コーティング層、又は第1位相差コーティング層と第2位相差コーティング層は、粘着剤又は接着剤を介して貼合することができる。接着剤層を形成する接着剤としては、水系接着剤、活性エネルギー線硬化性接着剤又は熱硬化性接着剤を用いることができ、好ましくは水系接着剤、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いることができる。粘着剤層としては後述のものが使用できる。
【0152】
水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる接着剤、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤等が挙げられる。中でもポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる水系接着剤が好適に用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるポリビニルアルコール系共重合体、又はそれらの水酸基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体等を用いることができる。水系接着剤は、グリオキザール等のアルデヒド化合物、エポキシ化合物、メラミン系化合物、メチロール化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、多価金属塩等の架橋剤を含むことができる。
【0153】
粘着剤層の厚さは、特に制限されず、例えば、1~100μm程度、好ましくは2~50μm、より好ましくは3~30μmである。
【0154】
(保護層)
前記偏光板は、保護層を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、偏光板は少なくとも一以上の保護層を有する形態であってもよく、偏光板をなしている偏光子の一面、又は偏光子が位相差層を有する場合は、位相差層の偏光子と反対の面に位置することができる。
【0155】
保護層としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性などに優れたフィルムなら特に制限はない。具体的に、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系フィルム;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロースなどのセルロース系フィルム;ポリカーボネート系フィルム;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系フィルム;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体などのスチレン系フィルム;シクロオレフィン、シクロオレフィン共重合体、ポリノルボルネン、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合体などのポリオレフィン系フィルム;塩化ビニル系フィルム;ナイロン、芳香族ポリアミドなどのポリアミド系フィルム;イミド系フィルム;スルホン系フィルム;ポリエーテルケトン系フィルム;硫化ポリフェニレン系フィルム;ビニルアルコール系フィルム;塩化ビニリデン系フィルム;ビニルブチラール系フィルム;アリレート系フィルム;ポリオキシメチレン系フィルム;ウレタン系フィルム;エポキシ系フィルム;シリコーン系フィルムなどを挙げることができる。これらの中でも特にアルカリなどによって鹸化された表面を有するセルロース系フィルムが偏光特性又は耐久性を考慮すると好ましい。また、保護層は位相差機能のような光学補償機能を兼ね備えたものであってもよい。
【0156】
<タッチセンサ>
前記画像表示装置は、タッチセンサを含んでいてもよい。タッチセンサは、支持体、支持体上に設けられた下部電極、下部電極に対向する上部電極、下部電極と上部電極とに挟持された絶縁層を有する。
【0157】
支持体は、光透過性を有する可撓性の樹脂フィルムであれば、種々のものを採用することができる。支持体としては、例えば、保護層として上記に例示のフィルムが挙げられる。
【0158】
下部電極は、例えば平面視で正方形状の複数の小電極を有する。複数の小電極は、マトリクス状に配列している。
【0159】
上部電極は、例えば平面視で正方形状の複数の小電極を有する。複数の小電極は、平面視で下部電極が配置されていない位置に、相補的にマトリクス状に配列している。すなわち、上部電極と下部電極とは、平面視で隙間なく配置されている。
【0160】
絶縁層は、下部電極と上部電極とを絶縁している。絶縁層の形成材料は、タッチセンサの絶縁層の材料として通常知られた材料を使用可能である。
【0161】
なお、本実施形態においては、タッチセンサが、いわゆる投影型静電容量方式のタッチセンサであることとして説明したが、発明の効果を損なわない範囲において、膜抵抗方式など、他の方式のタッチセンサを採用することもできる。
【0162】
[フレキシブル表示装置]
本発明は、本発明のフィルムを備えるフレキシブル表示装置も提供する。本発明のフィルムは、好ましくはフレキシブル表示装置において前面板として用いられる。フレキシブル表示装置は、フレキシブル表示装置用積層体と、有機EL表示パネルとからなり、有機EL表示パネルに対して視認側にフレキシブル表示装置用積層体が配置され、折り曲げ可能に構成されている。フレキシブル表示装置用積層体は、ウィンドウフィルムとして本発明の光学フィルム、円偏光板、タッチセンサを含有していてもよく、それらの積層順は任意であるが、視認側からウィンドウフィルム、円偏光板、タッチセンサ又はウィンドウフィルム、タッチセンサ、円偏光板の順に積層されていることが好ましい。タッチセンサの視認側に円偏光板が存在すると、タッチセンサのパターンが視認されにくくなり表示画像の視認性が良くなるので好ましい。それぞれの部材は接着剤、粘着剤等を用いて積層することができる。また、ウィンドウフィルム、円偏光板、タッチセンサのいずれかの層の少なくとも一面に形成された遮光パターンを具備することができる。
【0163】
[偏光板]
本発明のフレキシブル表示装置は、偏光板、好ましくは円偏光板をさらに備えていてもよい。円偏光板は、直線偏光板にλ/4位相差板を積層することにより右円偏光成分若しくは左円偏光成分のみを透過させる機能を有する機能層である。
【0164】
[タッチセンサ]
本発明のフレキシブル表示装置は、タッチセンサをさらに備えていてもよい。タッチセンサは入力手段として用いられる。タッチセンサとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等様々な様式が提案されており、いずれの方式でも構わない。中でも静電容量方式が好ましい。
【0165】
[接着層]
前記フレキシブル表示装置用積層体を形成する、ウィンドウフィルム、偏光板、タッチセンサなどの各層並びに各層を構成する、直線偏光板、λ/4位相差板等のフィルム部材は接着剤によって接着することができる。接着剤としては、水系接着剤、有機溶剤系接着剤、無溶剤系接着剤、固体接着剤、溶剤揮散型接着剤、湿気硬化型接着剤、加熱硬化型接着剤、嫌気硬化型接着剤、水系溶剤揮散型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、硬化剤混合型接着剤、熱溶融型接着剤、感圧型接着剤、感圧型粘着剤、再湿型接着剤等、汎用に使用されているものが使用できる。中でも水系溶剤揮散型接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、感圧型粘着剤がよく用いられる。接着層の厚さは、求められる接着力等に応じて適宜調節することができ、例えば0.01~500μm、好ましくは0.1~300μmである。接着層は、前記フレキシブル画像表示装置用積層体には複数存在してよいが、それぞれの厚さ及び用いられる接着剤の種類は同一であっても異なっていてもよい。
【実施例0166】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、質量%及び質量部を意味する。
【0167】
(樹脂の合成)
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた1Lセパラブルフラスコに、DMAc 313.57gを加えた。次いでTFMB 18.36g(57.33mmol)を加え、室温で撹拌しながらTFMBをDMAcに溶解させた。次に、フラスコに6FDA 7.72g(17.38mmol)を添加し、10℃に冷却し、16時間撹拌した。その後、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド) 1.71g(5.81mmol)、次いでテレフタロイルクロリド(TPCと記載することがある) 6.35g(31.28mmol)をフラスコに加え、10℃で30分間撹拌した。次いで、DMAc 313.57gを加え、10分間撹拌した後、さらにTPC 0.71g(3.48mmоl)をフラスコに加え、2時間撹拌した。次いで、フラスコにジイソプロピルエチルアミン 5.24g(40.54mmоl)と4-メチルピリジン 3.78g(40.54mmol)、無水酢酸 12.42g(121.65mmol)とを加え、10℃で30分間撹拌した。その後、オイルバスを用いて10℃から75℃まで1時間かけて段階的に昇温し、さらに75℃で3時間撹拌して反応液を得た。
得られた反応液を室温まで冷却し、大量のメタノール中に糸状に投入し、析出した沈殿物を取り出し、メタノールで6時間浸漬後、大過剰量のメタノールで洗浄した後、減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂(1)を得た。
【0168】
(シリカゾルの溶媒置換)
1Lのフラスコにメタノール分散シリカゾル(平均一次粒子径:27nm、シリカ固形分30質量%) 300g及びGBL(三菱ケミカル(株)製) 210gを入れ、真空エバポレータを用いて、45℃の湯浴下に、400hPaで1時間、続いて250hPaで1時間、メタノールを蒸発させた。さらに250hPa下で70℃まで昇温して30分間加熱して、固形分30質量%のGBL分散シリカゾル(1)を得た。
【0169】
〔実施例1〕
(ワニスの調製)
GBL分散シリカゾル(1)とGBLとを混合し、ブルーイング剤であるスミプラスト(登録商標) Violet B(住化ケムテックス(株)製、以下、VBと記載することがある)と、紫外線吸収剤であるスミソーブ(登録商標) 340(住化ケムテックス(株)製、以下、SS340と記載することがある)に対して加えて、これらを溶解させた。次いで、ポリアミドイミド樹脂(1)を加えて、さらに、ジイソプロピルエチルアミン塩酸塩(以下、DIEAと記載することがある)をポリアミドイミド樹脂(1)の質量に対して0.2質量%加えて溶解させて、ワニス(1)を得た。ポリアミドイミド樹脂とシリカ固形分の合計質量に対して、VBの量は35ppmであり、SS340の量は5.7質量%であった。また、ワニス(1)中のポリアミドイミドとシリカとの固形分の質量比は8:2であり、ワニス全体に対するポリアミドイミドとシリカの固形分の合計濃度は10.5質量%であった。
(製膜)
得られたワニス(1)をポリエステル基材(東洋紡(株)製、コスモシャイン(登録商標) A4100)の平滑面上にアプリケーターを用いて塗工し、50℃30分間、次いで140℃15分間乾燥し、自立膜を得た。自立膜を金枠に固定し、40分かけて200℃まで昇温し、200℃で20分間維持して乾燥し、フィルムを得た。得られたフィルムの平均厚さは50μmであった。
【0170】
〔実施例2~7、比較例1及び2〕
実施例1におけるシリカの量と、DIEAの量を、表1に記載の比率に変更して、ワニスを調製し、得られたワニスを用いて実施例1と同様にしてフィルムを製造した。なお、表1中のシリカの量は、ワニス全体に対するシリカの固形分濃度であり、DIEAの量はポリアミドイミド樹脂(1)の質量に対するDIEAの量である。
【0171】
<Y(D65)の測定>
フィルムのY(D65)値を、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-750)を用いて測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、フィルムをサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、D65光源における3刺激値のうち、Y値を求めた。
【0172】
<フィルムの厚さの測定>
フィルムの厚さは、デジマチックインジケーター((株)ミツトヨ製、ID-C112XBS)を用いて、10点以上のフィルムの厚さを測定し、その平均値を算出した。
【0173】
<YSと耐力の測定>
実施例及び比較例において得られたポリアミドイミドフィルムのYSと耐力とを精密万能試験機((株)島津製作所製、オートグラフAG-IS)を用いて測定した。縦横10mm幅のフィルムを作製し、チャック間距離50mm、引張速度10mm/分の条件でS-S曲線を測定した。得られたS-S曲線において、6MPaに到達した点と21MPaに到達した点を結んだ直線を歪方向に0.2%平行移動し、実測のS-S曲線に交差した点における歪値をYSとし、この時の応力を耐力とした。
また、シリカゾルの添加量が等しい群で比較して、アミン化合物を添加しない場合の耐力を100%として、アミン化合物を添加することによって耐力がどの程度向上するかを、耐力向上率[%]として計算した。具体的には、比較例1の耐力を基準として、実施例1~4の耐力を評価し、比較例2の耐力を基準として、実施例5~7の耐力を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0174】
【表1】
【0175】
少なくとも1種のポリアミドイミド樹脂と、少なくとも1種のアミン化合物とを含む、本発明のフィルムは、高い降伏点歪及び降伏点応力を有することが確認された。また、アミン化合物を添加することによって、アミン化合物を添加しない場合と比較して、耐力が向上することも確認された。