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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083647
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】真空処理方法及び真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230609BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20230609BHJP
【FI】
C23C14/34 R
H05H1/46 A
H05H1/46 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197455
(22)【出願日】2021-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中畑 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 一義
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA04
2G084BB26
2G084CC25
2G084CC33
2G084DD14
2G084DD38
2G084DD55
2G084DD61
2G084HH22
2G084HH24
2G084HH27
4K029AA06
4K029AA08
4K029BA03
4K029BA44
4K029BA46
4K029CA05
4K029CA13
4K029DA12
4K029DC31
4K029DC35
4K029EA09
4K029FA05
(57)【要約】
【課題】安定した成膜性能を得る。
【解決手段】第1高周波電源から第1高周波電力を出力させて、第1電極と前記第2電極との間に放電プラズマが形成され、第2高周波電源から第2高周波電力を出力させるとともに位相調整器を操作して第1高周波電力の位相と第2高周波電力の位相とに位相差θが設けられ、第2高周波電源の出力インピーダンスと第2高周波電源に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での、位相差θに応じた、第2高周波電力の電圧値Vppと第1可変容量の容量値C1とを検出したデータが取得され、基板にスパッタリング膜を形成する前に、シャッタによって基板をスパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、第1電極と第2電極との間に放電プラズマを形成するとともに、位相差θの所定範囲における、電圧値Vppと容量値C1とを組み合わせ選択することによって第2高周波電源から第2電極に第2高周波電力が供給される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットを含む第1電極と、
前記第1電極に対向し、基板を支持することが可能な第2電極と、
前記第2電極に電気的に接続され、前記スパッタリングターゲットに対して前記基板を露出または遮蔽することが可能なシャッタと、
第1高周波電力を出力する第1高周波電源と、前記第1高周波電源と前記第1電極との間に接続された第1整合回路器とを含む第1電力供給源と、
前記第1高周波電力と同じ周期であって前記第1高周波電力よりも低い第2高周波電力を出力する第2高周波電源と、前記第2高周波電源と前記第2電極との間に接続され、前記第2高周波電源に接続された入力端、前記第2電極に接続された出力端、前記入力端と接地電位との間に接続された第1可変容量、及び前記入力端と前記出力端との間に直列接続された第2可変容量を含む第2整合回路器とを含む第2電力供給源と、
前記第1高周波電源から出力され前記第1整合回路器に入力される前記第1高周波電力及び前記第2高周波電源から出力され前記第2整合回路器に入力される前記第2高周波電力のそれぞれの位相を調整する位相調整器と
を具備する成膜装置を用いて、
前記第1高周波電源から前記第1高周波電力を出力させて、前記第1電極と前記第2電極との間に放電プラズマを形成し、
前記第2高周波電源から前記第2高周波電力を出力させるとともに前記位相調整器を操作して前記第1高周波電力の位相と前記第2高周波電力の位相とに位相差θを設け、
前記第2高周波電源の出力インピーダンスと前記第2高周波電源に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での、前記位相差θに応じた、前記第2高周波電力の電圧値Vppと前記第1可変容量の容量値C1とを検出したデータを取得し、
前記基板にスパッタリング膜を形成する前に、前記シャッタによって前記基板または前記第2電極を前記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、前記第1電極と前記第2電極との間に前記放電プラズマを形成するとともに、前記位相差θの所定範囲における、前記電圧値Vppと前記容量値C1とを組み合わせ選択することによって前記第2高周波電源から前記第2電極に前記第2高周波電力を供給する
真空処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載された真空処理方法であって、
前記データとして、
前記第1高周波電力の位相に対して前記第2高周波電力の位相を遅らせることによって前記位相差θを形成し、
前記位相差θを変化させることによって前記位相差θに応じた、前記電圧値Vppのプロファイル曲線及び前記容量値C1のプロファイル曲線を取得し、
前記シャッタによって前記基板または前記第2電極を前記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、前記位相差θを前記電圧値Vppのプロファイル曲線の前記電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲外で、前記電圧値Vppのプロファイル曲線の前記電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲外で、前記位相差θ2からマイナス50度からマイナス30度の範囲である第3範囲外の第4範囲に設定し、前記出力インピーダンスと前記負荷側インピーダンスとが整合した状態で前記第2高周波電源から前記第2電極に前記第2高周波電力を供給する
真空処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載された真空処理方法であって、
前記第4範囲は、前記位相差θ1からマイナス10度からプラス10度までの範囲である
真空処理方法。
【請求項4】
スパッタリングターゲットを含む第1電極と、
前記第1電極に対向し、基板を支持することが可能な第2電極と、
前記第2電極に電気的に接続され、前記スパッタリングターゲットに対して前記基板を露出または遮蔽することが可能なシャッタと、
第1高周波電力を出力する第1高周波電源と、前記第1高周波電源と前記第1電極との間に接続された第1整合回路器とを含む第1電力供給源と、
前記第1高周波電力と同じ周期であって前記第1高周波電力よりも低い第2高周波電力を出力する第2高周波電源と、前記第2高周波電源と前記第2電極との間に接続され、前記第2高周波電源に接続された入力端、前記第2電極に接続された出力端、前記入力端と接地電位との間に接続された第1可変容量、及び前記入力端と前記出力端との間に直列接続された第2可変容量を含む第2整合回路器とを含む第2電力供給源と、
前記第1高周波電源から出力され前記第1整合回路器に入力される前記第1高周波電力及び前記第2高周波電源から出力され前記第2整合回路器に入力される前記第2高周波電力のそれぞれの位相を調整する位相調整器と、
前記第1電力供給源、前記第2電力供給源、前記シャッタ、及び前記位相調整器を制御する制御装置と
を具備し、
前記制御装置には、
前記第1高周波電源から前記第1高周波電力を出力させて、前記第1電極と前記第2電極との間に放電プラズマを形成し、
前記第2高周波電源から前記第2高周波電力を出力させるとともに前記位相調整器を操作して前記第1高周波電力の位相と前記第2高周波電力の位相とに位相差θを設け、
前記第2高周波電源の出力インピーダンスと前記第2高周波電源に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での、前記位相差θに応じた、前記第2高周波電力の電圧値Vppと前記第1可変容量の容量値C1とを検出したデータが格納され、
前記制御装置は、前記基板にスパッタリング膜を形成する前に、前記シャッタによって前記基板または前記第2電極を前記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、前記第1電極と前記第2電極との間に前記放電プラズマを形成するとともに、前記位相差θの所定領域における、前記電圧値Vppと前記容量値C1とを組み合わせ選択することによって前記第2高周波電源から前記第2電極に前記第2高周波電力を供給する
真空処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載された真空処理装置であって、
前記制御装置には、前記データとして、
前記第1高周波電力の位相に対して前記第2高周波電力の位相を遅らせることによって前記位相差θを形成し、
前記位相差θを変化させることによって前記位相差θに応じた、前記電圧値Vppのプロファイル曲線及び前記容量値C1のプロファイル曲線が格納され、
前記制御装置は、
前記シャッタまたは前記第2電極によって前記基板を前記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、前記位相差θを前記電圧値Vppのプロファイル曲線の前記電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲外で、前記電圧値Vppのプロファイル曲線の前記電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲外で、前記位相差θ2からマイナス50度からマイナス30度の範囲である第3範囲外の第4範囲に設定し、前記出力インピーダンスと前記負荷側インピーダンスとが整合した状態で前記第2高周波電源から前記第2電極に前記第2高周波電力を供給する
真空処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載された真空処理装置であって、
前記第4範囲は、前記位相差θ1からマイナス10度からプラス10度までの範囲である
真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空処理方法及び真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
3D-NAND型フラッシュメモリに代表される電子デバイスでは、多層化が進み、その層数が益々増加する傾向にある。このため、その多層構造に含まれる被膜(例えば、絶縁層)についての成膜手法は、特に重要になる。
【0003】
被膜を形成する方法としては、成膜速度が比較的高く、良好な膜厚分布を示すスパッタリング法がある。この中でも、スパッタリングターゲット側と基板側とに高周波電力を供給し、それぞれの高周波電源の位相制御を行うことで、成膜速度、膜厚分布を向上させるスパッタリング法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、スパッタリング法では、基板への成膜を行う前に、プレスパッタリング等の予備放電が行われることがある(例えば、特許文献2参照)。この予備放電によって、スパッタリングターゲットに電力を供給する電源、及び、該電源に接続された整合回路(以下、電源等)のコンディショニングがなされる。
【0005】
このような予備放電を遂行する意義として、電源等を構成する、電子部品及び配線(以下、電子部品等)が通電すると、電子部品等にジュール熱が発生し、電子部品等の伸縮または温度変化によって通電前と通電後とで電源等のインピーダンスが変化することがあげられる。あるいは、予備放電を行うことで、成膜前にスパッタリングターゲットの表面クリーンニングがなされることも、その理由の1つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08-302467号公報
【特許文献2】特開2021-046577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
予備放電では、基板側に電力を供給しないことが好ましい。これは、予備放電中に、基板側に電力を供給すると、基板側に印加されるバイアス電位によって基板側の逆スパッタリングが発生し、基板側からが真空槽内にパーティクルが飛遊したり、該パーティクルが真空槽内の内壁、治具等に付着・剥離したりするためである。あるいは、バイアス電位の程度によっては、予備放電中に基板側で異常放電が起き得る。
【0008】
しかしながら、予備放電中に基板側のコンディショニングをしないことは、スパッタリング成膜前には基板側に電力を供給する電源等を通電させず、スパッタリング成膜が開始されてから基板側に電力を供給する電源等が通電することになる。従って、スパッタリング成膜を開始してからは、基板側に電力を供給する電源等において、この電源等を構成する電子部品等のインピーダンス変化が起き得る。この結果、スパッタリング成膜を開始させても、成膜性能が安定しない現象が起き得る。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる真空処理方法、該真空処理方法を実施する真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理方法では、
スパッタリングターゲットを含む第1電極と、
上記第1電極に対向し、基板を支持することが可能な第2電極と、
上記第2電極に電気的に接続され、上記スパッタリングターゲットに対して上記基板を露出または遮蔽することが可能なシャッタと、
第1高周波電力を出力する第1高周波電源と、上記第1高周波電源と上記第1電極との間に接続された第1整合回路器とを含む第1電力供給源と、
上記第1高周波電力と同じ周期であって上記第1高周波電力よりも低い第2高周波電力を出力する第2高周波電源と、上記第2高周波電源と上記第2電極との間に接続され、上記第2高周波電源に接続された入力端、上記第2電極に接続された出力端、上記入力端と接地電位との間に接続された第1可変容量、及び上記入力端と上記出力端との間に直列接続された第2可変容量を含む第2整合回路器とを含む第2電力供給源と、
上記第1高周波電源から出力され上記第1整合回路器に入力される上記第1高周波電力及び上記第2高周波電源から出力され上記第2整合回路器に入力される上記第2高周波電力のそれぞれの位相を調整する位相調整器と
を具備する成膜装置が用いられる。
上記第1高周波電源から上記第1高周波電力を出力させて、上記第1電極と上記第2電極との間に放電プラズマが形成され、
上記第2高周波電源から上記第2高周波電力を出力させるとともに上記位相調整器を操作して上記第1高周波電力の位相と上記第2高周波電力の位相とに位相差θが設けられ、
上記第2高周波電源の出力インピーダンスと上記第2高周波電源に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での、上記位相差θに応じた、上記第2高周波電力の電圧値Vppと上記第1可変容量の容量値C1とを検出したデータが取得され、
上記基板にスパッタリング膜を形成する前に、上記シャッタによって上記基板または上記第2電極を上記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、上記第1電極と上記第2電極との間に上記放電プラズマを形成するとともに、上記位相差θの所定範囲における、上記電圧値Vppと上記容量値C1とを組み合わせ選択することによって上記第2高周波電源から上記第2電極に上記第2高周波電力が供給される。
【0011】
このような真空処理方法であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【0012】
上記の真空処理方法においては、
上記データとして、
上記第1高周波電力の位相に対して上記第2高周波電力の位相を遅らせることによって上記位相差θを形成し、
上記位相差θを変化させることによって上記位相差θに応じた、上記電圧値Vppのプロファイル曲線及び上記容量値C1のプロファイル曲線を取得し、
上記シャッタによって上記基板または上記第2電極を上記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、上記位相差θを上記電圧値Vppのプロファイル曲線の上記電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲外で、上記電圧値Vppのプロファイル曲線の上記電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲外で、上記位相差θ2からマイナス50度からマイナス30度の範囲である第3範囲外の第4範囲に設定し、上記出力インピーダンスと上記負荷側インピーダンスとが整合した状態で上記第2高周波電源から上記第2電極に上記第2高周波電力を供給してもよい。
【0013】
このような真空処理方法であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【0014】
上記の真空処理方法においては、
上記第4範囲は、上記位相差θ1からマイナス10度からプラス10度までの範囲であってもよい。
【0015】
このような真空処理方法であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る真空処理装置は、
スパッタリングターゲットを含む第1電極と、
上記第1電極に対向し、基板を支持することが可能な第2電極と、
上記第2電極に電気的に接続され、上記スパッタリングターゲットに対して上記基板を露出または遮蔽することが可能なシャッタと、
第1高周波電力を出力する第1高周波電源と、上記第1高周波電源と上記第1電極との間に接続された第1整合回路器とを含む第1電力供給源と、
上記第1高周波電力と同じ周期であって上記第1高周波電力よりも低い第2高周波電力を出力する第2高周波電源と、上記第2高周波電源と上記第2電極との間に接続され、上記第2高周波電源に接続された入力端、上記第2電極に接続された出力端、上記入力端と接地電位との間に接続された第1可変容量、及び上記入力端と上記出力端との間に直列接続された第2可変容量を含む第2整合回路器とを含む第2電力供給源と、
上記第1高周波電源から出力され上記第1整合回路器に入力される上記第1高周波電力及び上記第2高周波電源から出力され上記第2整合回路器に入力される上記第2高周波電力のそれぞれの位相を調整する位相調整器と、
上記第1電力供給源、上記第2電力供給源、上記シャッタ、及び上記位相調整器を制御する制御装置とを具備する。
上記制御装置には、
上記第1高周波電源から上記第1高周波電力を出力させて、上記第1電極と上記第2電極との間に放電プラズマを形成し、
上記第2高周波電源から上記第2高周波電力を出力させるとともに上記位相調整器を操作して上記第1高周波電力の位相と上記第2高周波電力の位相とに位相差θを設け、
上記第2高周波電源の出力インピーダンスと上記第2高周波電源に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での、上記位相差θに応じた、上記第2高周波電力の電圧値Vppと上記第1可変容量の容量値C1とを検出したデータが格納され、
上記制御装置は、上記基板にスパッタリング膜を形成する前に、上記シャッタによって上記基板または上記第2電極を上記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、上記第1電極と上記第2電極との間に上記放電プラズマを形成するとともに、上記位相差θの所定領域における、上記電圧値Vppと上記容量値C1とを組み合わせ選択することによって上記第2高周波電源から上記第2電極に上記第2高周波電力を供給する。
【0017】
このような真空処理装置であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【0018】
上記の真空処理装置においては、
上記制御装置には、上記データとして、
上記第1高周波電力の位相に対して上記第2高周波電力の位相を遅らせることによって上記位相差θを形成し、
上記位相差θを変化させることによって上記位相差θに応じた、上記電圧値Vppのプロファイル曲線及び上記容量値C1のプロファイル曲線が格納されてもよく、
上記制御装置は、
上記シャッタによって上記基板または上記第2電極を上記スパッタリングターゲットに対し遮蔽しながら、上記位相差θを上記電圧値Vppのプロファイル曲線の上記電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲外で、上記電圧値Vppのプロファイル曲線の上記電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲外で、上記位相差θ2からマイナス50度からマイナス30度の範囲である第3範囲外の第4範囲に設定し、上記出力インピーダンスと上記負荷側インピーダンスとが整合した状態で上記第2高周波電源から上記第2電極に上記第2高周波電力を供給してもよい。
【0019】
このような真空処理装置であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【0020】
上記の真空処理装置においては、
上記第4範囲は、上記位相差θ1からマイナス10度からプラス10度までの範囲であってもよい。
【0021】
このような真空処理装置であれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、スパッタリング成膜前に基板側のコンディショニングを実施しても安定した成膜性能が得られる真空処理方法、該真空処理方法を実施する真空処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る成膜装置の一例を示す概略的ブロック構成図である。
図2】図(a)は、電圧値Vppのプロファイル曲線の一例を説明するグラフである。図(b)は、容量値C1のプロファイル曲線の一例を説明するグラフである。
図3】図(a)は、スパッタリング膜が形成される前の凹パターンの断面SEM像である。図(b)~図(e)は、凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。
図4】試験Aでの電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線である。
図5】凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。
図6】本実施形態に係る電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線の一例である。
図7】図(a)、(b)は、本実施形態に係る成膜方法の一例を示す模式的断面である。図(c)は、凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。
図8】本実施形態に係る電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線の一例である。
図9】本実施形態に係る容量値C2のプロファイル曲線の一例である。
図10】比較例と本実施形態との成膜性能を示すグラフである。
図11】比較例と本実施形態との成膜性能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。また、同一の部材または同一の機能を有する部材には同一の符号を付す場合があり、その部材を説明した後には適宜説明を省略する場合がある。また、以下に示す数値は例示であり、この例に限らない。
【0025】
(成膜装置)
【0026】
図1は、本実施形態に係る成膜装置の一例を示す概略的ブロック構成図である。
【0027】
真空処理装置の一例である成膜装置1は、電極11(第1電極)と、電極12(第2電極)と、シャッタ13と、電力供給源21(第1電力供給源)と、電力供給源22(第2電力供給源)と、位相調整器50と、制御装置60とを具備する。電極11と、電極12と、シャッタ13とは、真空槽(不図示)内に設けられる。真空槽の電位は、接地電位とされる。成膜装置1は、電極11と、電極12と、接地電位である真空槽とを備えた3極型の成膜装置である。成膜装置1は、基板1枚ごとにスパッタリング成膜可能な枚葉式の成膜装置である。
【0028】
電極11は、スパッタリングターゲット111と背面プレート(支持プレート)112とを含む。スパッタリングターゲット111は、基板121にスパッタリング成膜される被膜材料を含む。被膜材料としては、例えば、アルミナ、酸化シリコン等の絶縁物、アルミニウム等の金属があげられる。背面プレート112は、例えば、導電性金属で構成される。
【0029】
電極12は、電極11に対向する。電極12は、基板121を支持することが可能な支持台としても機能する。電極12が基板121を支持する支持面には、静電チャックが設けられてもよい。基板121は、半導体ウェーハ、シリコン酸化物層等を含む。基板121が電極11に対向する成膜面には、ライン・アンド・スペース、スルーホール等のパターンが形成されている。
【0030】
シャッタ13は、電極12に設置される。シャッタ13は、アルミナ、石英、ガラス等の絶縁体で構成されてよく、SUS、アルミニウム等の導電体で構成されてもよい。シャッタが絶縁体の場合は、その電位は浮遊電位である。また、シャッタ13が導電体で構成されている場合は、シャッタ13は電極12に電気的に接続され、その電位は電極12の電位と同じとされる。シャッタ13が開閉することにより、スパッタリングターゲット111に対して基板121が露出したり(開状態)、または、シャッタ13によって基板121がスパッタリングターゲット111に対して遮蔽されたり(閉状態)する。
【0031】
電力供給源21は、高周波電源31(第1高周波電源)と、整合回路器41(第1整合回路器)とを含む。高周波電源31は、第1高周波電力を出力する。第1高周波電力は、典型的には、13.56MHzのRF電力であり、例えば、100W~5000Wを出力することができる。
【0032】
整合回路器41は、高周波電源31と電極11との間に接続される。整合回路器41は、入力端415、出力端416、可変容量411、可変容量412、及びインダクタンス413を含む。入力端415は、高周波電源31に接続される。出力端416は、電極11に接続される。可変容量411は、入力端415と接地電位との間に接続される。可変容量412は、入力端415と出力端416との間に直列的に接続される。インダクタンス413は、入力端415と出力端416との間で可変容量412に直列的に接続される。整合回路器41は、制御装置60によって、可変容量411及び可変容量412のそれぞれが駆動して、高周波電源31の出力インピーダンスと、高周波電源31に接続された負荷側インピーダンス(電極11側インピーダンス)とが整合する自動整合を行う。
【0033】
高周波電源31に接続された負荷側インピーダンスとは、電極11、電極11と整合回路器41との間のケーブル、放電プラズマ、電極11、12を収容する真空チャンバ(不図示)等を含む。
【0034】
電力供給源22は、高周波電源32(第2高周波電源)と整合回路器42(第2整合回路器)とを含む。高周波電源32は、第1高周波電力と同じ周期であって第1高周波電力よりも低い第2高周波電力を出力する。第2高周波電力は、典型的には、13.56MHzのRF電力であって、50W~500Wを出力することができる。なお、高周波電力は、同じ周波数帯であればこの例に限らない。
【0035】
整合回路器42は、高周波電源32と電極12との間に接続される。整合回路器42は、入力端425、出力端426、可変容量421(第1可変容量)、可変容量422(第2可変容量)、及びインダクタンス423を含む。入力端425は、高周波電源32に接続される。出力端426は、電極12に接続される。可変容量421は、入力端425と接地電位との間に接続される。可変容量422は、入力端425と出力端426との間に直列接続される。インダクタンス423は、入力端425と出力端426との間で可変容量422に直列接続される。整合回路器42は、制御装置60によって、可変容量421及び可変容量422のそれぞれが駆動して、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンス(電極12側インピーダンス)とが整合する自動整合を行う。
【0036】
高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとは、電極12、電極12と整合回路器42との間のケーブル、放電プラズマ、電極11、12を収容する真空チャンバ(不図示)等を含む。
【0037】
ここで、可変容量421の容量は、容量値C1(最大1000pF)で表され、可変容量422の容量(最大500pF)は、容量値C2で表される。また、整合回路器42には、整合回路器42内の高周波電力の電圧値Vpp(Voltage peak to peak)、電圧値Vdc(Voltage direct current)を出力端426で検出するセンサ424が搭載されている。電圧値Vppは、交流電圧の最大電圧と最小電圧の差を意味する。電圧値Vdcは、電極12に印加される電圧値Vppの電圧が全体的に一定の電圧で浮遊した状態でVppの最大値と最小値の中間点となる電圧を意味する。電圧値Vdcは、オフセット電圧、バイアス電圧とも呼称される。RF放電の場合、一般的に電圧値Vdcは、プラズマ電位(Vp)に対して低い電位である。例えば、プラズマ電位が正電位ならば、電圧値Vdcは、この正電位よりも低い電位か、または、負電位である。
【0038】
なお、整合回路器42においては、可変容量421が主に高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとの整合に適用され、可変容量422が主に電圧波の位相と電流波の位相との整合に適用される。従って、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態であっても、可変容量421の容量値C1によっては、第2高周波電力が入力端425から優先的に出力端426に供給されたり、第2高周波電力の一部が接地電位へ放出されたり、あるいは、出力端426には届かず、接地電位へ放出されたりする。例えば、可変容量421の容量値C1が相対的に大きくなるほど、第2高周波電力は入力端425から、より優先的に出力端426に供給される。
【0039】
電力供給源22において、高周波電源32は表示部を有し、電圧値Vpp、電圧値Vdc、容量値C1、及び容量値C2は、この表示部において表される。また、これらの値は、制御装置60に送られ、制御装置60内の記憶部(不図示)に格納される。なお、このようなセンサ424は、整合回路器41にも搭載されてもよい。
【0040】
位相調整器50は、高周波電源31から出力され、整合回路器41に入力される第1高周波電力の位相を調整することができる。位相調整器50は、高周波電源32から出力され、整合回路器42に入力される第2高周波電力の位相を調整することができる。位相調整器50は、第1高周波電力の位相と第2高周波電力の位相との位相差θを設けることができる。
【0041】
制御装置60は、電力供給源21、電力供給源22、位相調整器50、及びシャッタ13(シャッタ開閉)を制御する。制御装置60は、電力供給源21、電力供給源22、及び位相調整器50から独立して設けられてもよく、その一部が電力供給源21、電力供給源22、及び位相調整器50のいずれかに組み込まれてもよい。制御装置60は、データを記憶する記憶部、データを演算処理する演算部等を有する。
【0042】
(成膜方法)
【0043】
本実施形態では、データとして、予め、位相差θを変化させることによって位相差θに応じた、電圧値Vpp及び容量値C1のそれぞれのプロファイル曲線が取得される。このプロファイル曲線を取得する段階では、基板121としてダミー基板を用いてもよい。
【0044】
まず、高周波電源31から第1高周波電力を出力させて、電極11と電極12との間に放電プラズマが形成される。放電ガスとしては、例えば、アルゴンが適用される。高周波電源31の出力インピーダンスと、高周波電源31に接続された負荷側インピーダンス(電極11側インピーダンス)とは、整合回路器41によって整合される。
【0045】
次に、高周波電源32から第2高周波電力を出力させるとともに、位相調整器50を操作することによって、第1高周波電力の位相と第2高周波電力の位相とに位相差θを設ける。ここで、第1高周波電力及び第2高周波電力のそれぞれは、変化させることはなく、それぞれの電力は固定値とされる。また、第2高周波電力は、第1高周波電力よりも低く、例えば、第1高周波電力の1/10~1/2に設定される。
【0046】
次に、放電プラズマが電極11と電極12との間に形成されたまま、整合回路器42によって、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンス(電極12側インピーダンス)とが整合した状態での、位相差θに応じた、第2高周波電力の電圧値Vppと可変容量421の容量値C1とが検出される。そして、位相差θを変化させることによって、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとが整合した状態での位相差θに応じた電圧値Vppのプロファイル曲線(図2(a))と、位相差θに応じた容量値C1のプロファイル曲線(図2(b))とが取得される。
【0047】
ここで、位相差θは、位相調整器50によって第1高周波電力の位相に対して第2高周波電力の位相を遅らせることによって形成され、0度~360度の範囲において適宜変更される。例えば、位相差θを0度から変更する場合は、0度から所定の間隔、例えば、10度おきに、10度、20度・・・、360度と変更される。そして、変更した位相差θの所定範囲における、電圧値Vppと容量値C1とを組み合わせを選択することによって基板121にスパッタリング膜が形成される。ここで、基板121にスパッタリング膜を形成とは、基板121に形成された凹パターン(ライン・アンド・スペース、スルーホール等)にスパッタリング膜を埋め込み、凹パターン外の基板121の表面にスパッタリング膜を形成することを意味する。凹パターン外の基板121の表面に成膜されたスパッタリング膜については、スパッタリング膜を形成後、必要に応じて余剰部分として化学的機械研磨(CMP)等の手法によって除去してもよい。
【0048】
上述したように、図2(a)は、電圧値Vppのプロファイル曲線の一例を説明するグラフである。図2(b)は、容量値C1のプロファイル曲線の一例を説明するグラフである。図2(a)において、横軸は、位相差θであり、縦軸は、電圧値Vppである。図2(b)において、横軸は、位相差θであり、縦軸は、容量値C1である。高周波電源31から出力される第1高周波電力は、4000Wで、高周波電源32から出力される第2高周波電力は、400Wである。また、減圧雰囲気は、アルゴンガスの使用で0.1~4.0Paである。スパッタリングターゲット/基板の間の距離は、50~90mmである。なお、グラフに示されるVdcは、高くなるほど電極12に印加されるバイアス電位が負バイアス側に強くなることを意味する。
【0049】
例えば、図2(a)には、試験Aと試験Bとの2つの試験での電圧値Vppのプロファイル曲線が表されている。試験Aは、高周波電源32として、高周波電源31から出力される第1高周波電力の位相と位相が同期する第2高周波電力を出力する高周波電源を用いた場合のプロファイル曲線である。
【0050】
一方、試験Bは、高周波電源32として、高周波電源31から出力される第1高周波電力の位相に対して、位相が50度進んだ第2高周波電力を出力する高周波電源を用いた場合のプロファイル曲線である。これは、成膜装置1のメンテナンス等によって高周波電源32と整合回路器42との間のケーブルの長さが位相差として50度分長くなったことと同じ意味である。なお、試験Bでは、試験Aとは異なる成膜室で電圧値Vpp及び容量値C1のプロファイル曲線が取得されている。
【0051】
試験Aでは、位相差θが0度付近では、電圧値Vppが高く、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に下がる傾向にある。そして、位相差θが60度において電圧値Vppが最低値となり、その後、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に上昇する傾向にある。一方、試験Bでも、位相差θが60度付近では、電圧値Vppが高く、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に下がる傾向にある。そして、位相差θが110度において電圧値Vppが最低値となり、その後、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に上昇する傾向にある。
【0052】
このように、試験A及び試験Bのそれぞれの電圧値Vppのプロファイル曲線では、いずれも下に凸となる曲線を描いている。
【0053】
また、図2(b)には、試験A及び試験Bの容量値C1のpのプロファイル曲線が示されている。試験Aでは、位相差θが0度付近では、容量値C1が低く、その後、位相差θが増すにつれ容量値C1が徐々に上昇する傾向にある。一方、試験Bでも、位相差θが60度付近では、容量値C1が低く、その後、位相差θが増すにつれ容量値C1が徐々に上昇する傾向にある。
【0054】
本実施形態では、これらのプロファイル曲線が利用されて、位相差θが電圧値Vppのプロファイル曲線の電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲に設定されて、基板121にスパッタリング膜が形成される。
【0055】
例えば、試験Aでは、電圧値Vppが最低となる位相差θ1は、50度となり、第1範囲は、80度~100度の範囲になる。また、試験Bでは、電圧値Vppが最低となる位相差θ1は、100度となり、第1範囲は、130度~150度の範囲になる。本実施形態では、このような第1範囲に属す、電圧値Vppと容量値C1とが適用されて、基板121にスパッタリング膜が形成される。
【0056】
第1範囲に属す、電圧値Vppと容量値C1とが適用された場合のスパッタリング膜と、第1範囲に属さない、電圧値Vppと容量値C1とが適用された場合のスパッタリング膜との違いについて説明する。
【0057】
図3(a)~図3(e)は、断面SEM像であり、図3(a)は、スパッタリング膜が形成される前の凹パターンの断面SEM像である。図3(a)には、シリコン酸化物で構成された、深さ240nm、アスペクト比1.0の凹パターンが示されている。矢印Aで示された部分は、凹パターンの底部と側壁とが略90度に交差する端部であり、矢印Bで示された部分は、側壁の最上端である。また、図3(b)~図3(e)は、凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。図3(b)~図3(e)には、この凹パターンにスパッタリング膜としてのアルミナ膜が埋め込まれた後の状態が示されている。
【0058】
例えば、第1範囲に属さない位相差θを適用した場合のスパッタリング膜として、図3(b)に、試験Bでの位相差60度(電圧値Vppのプロファイル曲線の最低値を基準とした場合、最低値より左側の位相差θ)のSEM像、図3(c)に、試験Bでの位相差100度(電圧値Vppのプロファイル曲線の最低値)のSEM像が示される。これらのアルミナ膜では、矢印Aで示される端部への回り込みが優れず、端部においてアルミナ膜が鋭角状に凹む現象が現れた。このような傾向は、試験Aでも見られた。また、矢印Cで示される開口部が狭くなり、継続して成膜を続けると上部で膜が閉じ、空孔を形成させてしまうことが確認された。
【0059】
一方、第1範囲に属す位相差θを適用した場合のスパッタリング膜として、図3(d)に、試験Aでの位相差100度のSEM像、図3(e)に、試験Bでの位相差140度のSEM像が示される。これらのアルミナ膜においては、端部においてアルミナ膜が鋭角状に凹むことなく、該端部において段差被覆性に優れたアルミナ膜が形成されることが分かった。また、凹パターンのアスペクト比が0.2~1.0場合でも第1範囲に属さない位相差θを適用した場合、矢印Aで示される端部への回り込みが優れず、一方、第1範囲に属す位相差θを適用することで、段差被覆性に優れたアルミナ膜が形成されることが分かった。
【0060】
換言すれば、電圧値Vppのプロファイル曲線は、下に凸となることから、第1範囲に属す電圧値Vppと同じ電圧値が第1範囲外にも存在することになるが、この第1範囲外の電圧値Vppを選択するのでなく、同じ値の電圧値Vppであっても、第1範囲に属す、電圧値Vppと、相対的に高い容量値となる容量値C1とを組み合わせ選択することで段差被覆性に優れたアルミナ膜が形成される。ここで、第1範囲においては、容量値C1は、容量値C2よりも大きく設定される。
【0061】
次に、試験Aを利用して位相差θを100度からさらに増加させた場合の結果を説明する。
【0062】
図4には、試験Aでの電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線が示されている。図4において、横軸は、位相差θであり、左側縦軸として、電圧値Vppと、電圧値Vppのほか電圧値Vdcが示されている。また、右側縦軸として、容量値C1が示されている。また、図4には、上述した位相差θが0度~110度の場合のプロファイル曲線も示されている
【0063】
位相差θが100度を超えて110度~240度になると、容量値C1が最大容量値1000pFを振り切れ、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとの整合が取れなくなる現象が起きた。この非整合領域(110~240度)では、電圧値Vpp、電圧値Vdcがともに不安定になった。
【0064】
一方、位相差θが240度を超えて250度になると、高周波電源32の出力インピーダンスと、高周波電源32に接続された負荷側インピーダンスとが再び整合した。その後、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に上がり、位相差θが300度において電圧値Vppが最大値となり、その後、位相差θが増すにつれ電圧値Vppが徐々に減少した。また、位相差θが250度付近では、容量値C1が高く、その後、位相差θが増すにつれ容量値C1が徐々に減少することが分かった。なお、電圧値Vdcは、電圧値Vppが上昇する240度~290度の範囲において徐々に減少することが分かった。
【0065】
このように、位相差θが250度~360度では、電圧値Vppのプロファイル曲線が上に凸となる曲線を描くことが分かった。
【0066】
このように、電極11に供給される高周波電圧の波形の位相と、電極12に供給される高周波電圧の波形とが一致する位相差θの領域(同位相領域(in-phase region)と呼称)では、電圧値Vppが下に凸、容量値C1が右上がりになるのに対して、電極12に供給される高周波電圧の波形とがずれる位相差θの領域(非同位相領域(anti-phase region)と呼称)では、電圧値Vppが上に凸、容量値C1が右下がりになることが確認された。
【0067】
本実施形態では、位相差θが250度~360度となる領域では、位相差θを電圧値Vppのプロファイル曲線の電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲に設定し、基板121にスパッタリング膜を形成する。例えば、電圧値Vppが最大となる位相差θ2は、300度となり、第2範囲は、290度~310度の範囲になる。ここで、第2範囲においては、容量値C1は、容量値C2よりも大きく設定される。
【0068】
このような第2範囲に属す、電圧値Vppと容量値C1とが適用された場合のスパッタリング膜と、第2範囲に属さない、電圧値Vppと容量値C1とが適用された場合のスパッタリング膜との違いについて説明する。
【0069】
図5(a)、(b)は、図3(a)に示す凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。
【0070】
例えば、第1範囲及び第2範囲に属さないスパッタリング膜の例として、位相差260度の条件で空の凹パターンに成膜を開始した場合の例を示す。図5(a)には、位相差260度のSEM像が示される。この場合、電圧値Vdcが50(V)よりも大きくなり矢印Bで示された凹パターンの最上端がエッチングされて、この最上端においてアルミナ膜がファセット(facet)状になることが確認された。
【0071】
一方、第2範囲に属すスパッタリング膜の例として、図5(b)に、位相差300度のSEM像が示される。このアルミナ膜においては、端部への回り込みが良好になり、端部においてアルミナ膜が鋭角状に凹むことなく、該端部において段差被覆性に優れたアルミナ膜が形成されることが分かった。なお、位相差θが310度を超えると、端部においてアルミナ膜が鋭角状に凹むことが確認された。
【0072】
このように、高周波電源31から出力される第1高周波電力及び高周波電源32から出力される第2高周波電力がともに固定電力であったとしても、位相差θを操作することによって、凹パターンに対するスパッタリング膜の埋め込み特性が変わることが分かった。特に、電圧値Vppのプロファイル曲線が最小値となる位相差θ1から位相差θをプラス30度からプラス50度までの第1範囲に設定することで、優れた段差被覆性を示すスパッタリング膜が形成されることが分かった。あるいは、電圧値Vppのプロファイル曲線が最大値となる位相差θ2から位相差θをプラス10度、マイナス10度の第2範囲に設定することで、優れた段差被覆性を示すスパッタリング膜が形成されることが分かった。
【0073】
なお、電極11と整合回路器41との間であって電極11の直上の位置418(図1)及び、電極12と整合回路器42との間であって電極12の直下の位置428での高周波電力の波形のオシロスコープ観察を行ったところ、0度~110度では、電極11に供給される高周波電圧の波形の位相と、電極12に供給される高周波電圧の波形とが一致し、250度~360度では、電極11に供給される高周波電圧の波形の位相と、電極12に供給される高周波電圧の波形とがずれることが確認された。
【0074】
制御装置60には、予め取得された、電圧値Vppと容量値C1とのプロファイル曲線のデータが格納されている。制御装置60は、位相差θの所定領域における、電圧値Vppと容量値C1とを組み合わせ選択することによって基板121にスパッタリング膜を形成する。
【0075】
例えば、制御装置60は、位相調整器50を制御することによって、位相差θを電圧値Vppのプロファイル曲線の電圧値Vppが最低となる位相差θ1からプラス30度からプラス50度までの第1範囲(電圧値Vpp:80~130(V))、容量値C1:600pF以上)に設定するか、または、位相差θを電圧値Vppのプロファイル曲線の電圧値Vppが最大となる位相差θ2からプラス10度、マイナス10度までの第2範囲(電圧値Vpp:260~280(V))、容量値C1:600~900(pF)、Vdc:50(V)以下)に設定し、高周波電源32出力インピーダンスと負荷側インピーダンスとが整合した状態で基板121にスパッタリング膜を形成する。
【0076】
これにより、凹パターンに対して優れた段差被覆性を示すスパッタリング膜が形成される。
【0077】
第1範囲または第2範囲においては、位相差θを段階的に変化させて、基板121にスパッタリング膜を形成してもよい。位相差θを段階的に変化させる際、高周波電源31から出力される第1高周波電力は同じ電力を維持させる。例えば、容量値C1の増加に応じて、電圧値Vdcは増加する傾向にある。そして、電圧値Vdcが大きくなるほど、スパッタリング膜の下地である凹パターンはスパッタリング粒子によってダメージを受けやすくなる。
【0078】
従って、スパッタリング成膜の開始直後は、電圧値Vdcが低くなる位相差θに設定して、凹パターンにスパッタリング膜を形成し、所定の厚みのスパッタリング膜が凹パターンに埋め込まれたら、位相差θを変更して、例えば、成膜速度がより早くなる位相差θに設定してスパッタリング成膜を行ってもよい。
【0079】
図6は、本実施形態に係る電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線の一例である。この例では、位相差θの範囲として、第1及び第2範囲のほか、第3範囲が付加されている。
【0080】
図5(b)の例のように、位相差260度の条件で空の凹パターンに成膜を開始する場合は、凹パターンの最上端がエッチングされる。しかし、位相差θを段階的に変化させるプロセスを採用する場合、位相差θとして位相差260度を含む第3範囲での成膜を段階的ステップの後半のステップで採用することで、優れた段差被覆性を得ることができる。
【0081】
例えば、第1範囲または第2範囲において、基板121にスパッタリング膜を形成した後、第3範囲で基板121にスパッタリング膜を形成する。ここで、第3範囲とは、位相差θが第2範囲よりも小さく第1範囲よりも大きい範囲である。例えば、第3範囲は、位相差θ2から、マイナス50度からマイナス30度の範囲である。第3範囲での容量値C1は、875pF~1000pFである。なお、第1範囲または第2範囲の成膜から第3範囲の成膜に切り替える際、高周波電源31から出力される第1高周波電力は同じ電力を維持させる。
【0082】
図7(a)、(b)は、本実施形態に係る成膜方法の一例を示す模式的断面である。また、図7(c)は、凹パターンにスパッタリング膜が形成された後のスパッタリング膜の断面SEM像である。図7(c)に示す凹パターン122のアスペクト比は、図3(a)に示す凹パターンのアスペクト比と同じである。
【0083】
例えば、図7(a)に示すように、最初のステップとして、シリコン酸化物で構成された凹パターン122に、アルミナ膜等のスパッタリング膜125が位相差θが第1範囲または第2範囲の条件で形成される。これにより、凹パターン122内には、スパッタリング膜125が形成される。最初のステップでは、凹パターン122の内部の全てにスパッタリング膜125を埋め込むのではなく、凹パターン122内に未充填部分が残ったままスパッタリング膜125が埋められる。例えば、最初のステップでの狙い膜厚は、凹パターン122が形成されていない部分(フィールド部分)に堆積されるスパッタリング膜125の膜厚が凹パターン122の開口幅の40%~60%に設定される。ここで、開口幅とは、凹パターン122がライン・アンド・スペースの場合は、ライン・アンド・スペースが並設される方向に凹パターン122を切断した場合の凹パターン122の最上端での開口幅であり、スルーホールの場合は、スルーホールの最上端での最大径を意味する。また、最初のステップでは、凹パターン122の最上端122cがスパッタリング膜125によって被覆(保護)される。
【0084】
ここで、凹パターン122においては、凹パターン122の底部からスパッタリング膜125が堆積するとともに、凹パターン122の側壁からもスパッタリング膜125が堆積する。従って、凹パターン122内に形成されたスパッタリング膜125においては、スパッタリング膜125の中央付近でスパッタリング膜125が凹んだ凹部125bが形成される。
【0085】
位相差θを段階的に変化させないプロセスを採用した場合、換言すれば、位相差θが第1範囲または第2範囲のまま、成膜を継続する場合、凹部125bがなくなるまで凹パターン122をスパッタリング膜125で埋め尽くすには、凹パターン122の深さ以上の厚みのスパッタリング膜125を基板121に成膜する必要がある。しかしながら、基板121に成膜されるスパッタリング膜125の厚みが増すほど、後工程でのCMP処理の負担になる。また、凹部125bは、凹パターンのアスペクト比が高くなるほど形成され易く、第1範囲または第2範囲のまま、成膜を継続すると、スパッタリング膜125には、凹部125bがボイドとして残存する現象が起き得る。
【0086】
そこで、本実施形態では、第1範囲または第2範囲の成膜を図7(a)の状態で停止し、次のステップとして、位相差θが第3範囲でスパッタリング成膜を行う。例えば、スパッタリング膜125を形成した後、スパッタリング膜125の上に位相差θが第3範囲の条件でスパッタリング膜126を形成する。この状態を図7(b)に示す。
【0087】
第3範囲では、容量値C1の増加に応じて、第2高周波電力がより優先的に出力端426を介して電極12に供給され、第1範囲及び第2範囲よりも電圧値Vdcが増加する傾向にある。従って、スパッタリング粒子の基板121上への堆積と同時に、基板121に印加されたバイアス電位によって基板121にイオン(例えば、正イオン)粒子が引き込まれ、イオン粒子によるスパッタリング膜の物理エッチングも起きる。ここで、スパッタリング粒子の基板121上への堆積がイオン粒子によるスパッタリング膜の物理エッチングよりも優位に働くときは、スパッタリング膜が物理エッチングされながら、基板121にスパッタリング膜が形成される。
【0088】
これにより、第3範囲でのスパッタリング成膜では、凹部125bの幅がエッチング効果によってより広がる。また、凹パターン122の最上端122cを被覆するスパッタリング膜125においては、エッチング効果によって、所謂、膜減り(膜厚が薄くなる現象)が起きる。凹部125bの幅がより広がることから、凹部125bへのスパッタリング膜の埋め込みは、より容易になる。さらに、凹パターン122の最上端122cは、スパッタリング膜125によって保護されていることから、最上端122cはエッチングされることなく原形を維持する。
【0089】
従って、凹パターン122が高アスペクト比であっても、スパッタリング膜126を形成した後においては、スパッタリング膜125と、スパッタリング膜125を覆うスパッタリング膜126とによって、内部にボイドがないスパッタリング膜127が凹パターン122内に形成される。内部にボイドがないスパッタリング膜127によって凹パターン122が良好に埋め込まれることは、図7(c)に示す断面SEM像によっても確認されている。
【0090】
本実施形態においては、位相差θが第1範囲での成膜を行った後、位相差θが第3範囲での成膜を行ってもよく、位相差θが第2範囲での成膜を行った後、位相差θが第3範囲での成膜を行ってもよい。
【0091】
ここで、第1範囲の位相差θから第3範囲の位相差θに切り替えるには、位相差θを第1範囲から第3範囲にまで増加させればよい。但し、位相差θを第1範囲から第3範囲に移行する場合は、位相差θを第3範囲の手前で非整合領域を通過させなければならない。このため、この手法では第1範囲での成膜を行った後に、プラズマ放電を一旦停止して、第1範囲の位相差θから第3範囲の位相差θに切り替える成膜処理を採用する必要がある。
【0092】
一方、第2範囲の位相差θから第3範囲の位相差θに切り替えるには、位相差θを第2範囲から第3範囲にまで減少させればよい。この場合、位相差θを第2範囲から第3範囲に移行させても、第2範囲と第3範囲との間に非整合領域がないことから非整合領域を通過することを要しない。このため、第2範囲での成膜を行った後、プラズマ放電を停止させることなく位相差θを連続的に変化させて第3範囲に切り替えることが可能になる。
【0093】
また、本実施形態では、基板121にスパッタリング膜を形成する前に、予備放電を行いながら、電極12に第2高周波電力を供給してもよい。例えば、スパッタリング膜を形成する前にシャッタ13によって基板121または電極12をスパッタリングターゲット111に対し遮蔽しながら、予備放電として電極11と電極12との間に第1高周波電力によって放電プラズマを形成するとともに、高周波電源32から電極12に第2高周波電力を供給してもよい。この際、位相差θは、所定範囲における、電圧値Vppと容量値C1とを組み合わせて選択される。
【0094】
ここで、予備放電中に、位相差θを考慮することなく無作為に電極12に第2高周波電力を供給する方策もある。しかし、このような方策では、予備放電中に基板121としてダミー基板を用いた場合、電極12に印加されるバイアス電位の程度によっては、ダミー基板またはシャッタ13の逆スパッタリングが起き得る。そして、このような逆スパッタリングが発生すると、ダミー基板またはシャッタ13からパーティクル、フレーク等の異物が発し、この異物が真空槽内を飛遊したり、真空槽内の内壁、真空槽内の治具等に付着したりする。この結果、スパッタリング成膜開始後のスパッタリング膜に異物が混入する等の不具合が起きる。あるいは、バイアス電位の程度によっては、予備放電中に電極12側で異常放電が起き、ダミー基板ばかりか、電極12またはシャッタ13の破損が起き得る。
【0095】
しかしながら、予備放電と並行して、電極12に第2高周波電力を供給しないことは、電力供給源22(高周波電源32、整合回路器42)を通電させないままの状態でスパッタリング成膜が開始されることになる。従って、電力供給源22においては、スパッタリング成膜を開始すると、電力供給源22を構成する電子部品等の熱伸縮によって、電力供給源22のインピーダンスが変化する現象が起き得る。この結果、スパッタリング成膜を開始させても、成膜速度、成膜分布、膜質等の成膜性能が安定しない現象が起きる。
【0096】
シャッタ13の逆スパッタリングを抑える方法として、シャッタ13を接地電位に設定する方法が考えられる。この場合、シャッタ13にはバイアス電位が印加されないことから、シャッタ13の逆スパッタリングが抑えられる。また、電極12はシャッタ13によって遮蔽される。しかし、この方法では、シャッタ13と電極12との間で所定の電圧がかかってしまい、シャッタ13と電極12との間で放電が起きる可能性がある。この場合、結局のところ、シャッタ13または電極12から異物が発生することになる。
【0097】
本実施形態では、浮遊電位または電極12と同電位のシャッタ13によって、基板121または電極12をスパッタリングターゲット111に対し遮蔽しながら、位相差θを第1範囲外であって、第2範囲外であって、且つ、第3範囲外の第4範囲に設定し、高周波電源32の出力インピーダンスと負荷側インピーダンスとが整合した状態で高周波電源32から電極12に第2高周波電力が供給される。ここで、「シャッタ13によって基板121または電極12をスパッタリングターゲット111に対し遮蔽する」とは、電極12上にウェーハ基板またはダミー基板が載置された状態でシャッタ13が基板121を遮蔽するほか、電極12上に基板が載置されていない状態でシャッタ13が電極12を遮蔽することを含む。
【0098】
図8は、本実施形態に係る電圧値Vpp、容量値C1のプロファイル曲線の一例である。図9は、本実施形態に係る容量値C2のプロファイル曲線の一例である。これらの例では、試験Aでの位相差θの範囲として、第1~第3範囲のほか、第4範囲が付加されている。
【0099】
第4範囲は、第1範囲外であって、第2範囲外であって、且つ、第3範囲外の位相差θの範囲に定められる。例えば、第4範囲は、位相差θ1からマイナス10度からプラス10度までの範囲である。第4範囲では、容量値C1は、500pF以下であるまた、第4範囲では、バイアス電位(Vdc)は、略0(V)である。また、図9に示すように、第4範囲での容量値C2は、300pF以上である。
【0100】
本実施形態では、位相差θを第4範囲に設定し、シャッタ13によって基板121または電極12を遮蔽しながら、高周波電源32の出力インピーダンスと負荷側インピーダンスとが整合した状態で高周波電源32から電極12に第2高周波電力が供給される。ここで、シャッタ13によって電極12を遮蔽する場合は、電極12上に基板121が載置されてなくてもよいとする。さらに、高周波電源31の出力インピーダンスと負荷側インピーダンスとが整合した状態で高周波電源31から電極11に第1高周波電力を供給され、電極11と電極12との間に放電プラズマが形成される。これにより、スパッタリング成膜前の予備放電で電力供給源21、22の双方のコンディショニングが行われる。
【0101】
電力供給源21、22のコンディショニング時には、シャッタ13を開状態にして複数のダミー基板に対して仮のスパッタリング成膜を行ってもよい。また、スパッタリングターゲット材と、シャッタ13の材料が同じ場合には(例えば、アルミナ)、スパッタリングターゲット111からのスパッタリング粒子がシャッタ13に堆積してもスパッタリングターゲット材と、シャッタ13の材料が同じであるため、シャッタ13から堆積した膜がパーティクルまたはフレークとなって飛遊することもない。
【0102】
電力供給源21、22のコンディショニング時に、位相差θを第4範囲に設定することによって、電極11には、第1高周波電力が供給されて電極11と電極12との間に放電プラズマが形成される。この際、高周波電源32から出力された第2高周波電力は、整合回路器42の可変容量422によってブロックされ、可変容量421を介してグランドに流れ易くなる。これにより、高周波電源32及び整合回路器42は、予備放電から作動する。すなわち、予備放電で電力供給源21、22の双方のコンディショニングがなされる。
【0103】
特に、電力供給源22のコンディショニングをせずにスパッタリング成膜を開始してしまうと、スパッタリング成膜から目的値に設定した位相差θが実際には目的値からずれた状態でスパッタリング成膜が開始される場合がある。この結果、スパッタリング成膜を開始しても、成膜速度、成膜分布、膜質等の成膜性能が安定しない現象が起きる。
【0104】
これに対して、本実施形態では、スパッタリング成膜を開始する前に、電力供給源21、22の双方のコンディショニングがなされているため、この後のスパッタリング成膜では、1枚目の基板121に対するスパッタリング成膜から優れた成膜性能が得られる。
【0105】
電力供給源21、22のコンディショニング後においては、位相差θを第1範囲に設定してスパッタリング成膜を開始してもよく、位相差θを第2範囲に設定してスパッタリング成膜を開始してもよく、位相差θを第1範囲または第2範囲に設定して、さらに第3範囲に設定してスパッタリング成膜を開始してもよい。
【0106】
スパッタリング成膜では、予備放電で電極12、基板121、またはシャッタ13に印加されるバイアス電位が抑えられ、電極12、基板121、またはシャッタ13にはバイアス電位が印加されにくくなっていたため、電極12、基板121、またはシャッタ13から異物が発生しにくくなる。これにより、スパッタリング膜への異物の混入が抑えられる。
【0107】
図10(a)~図11(b)は、比較例の成膜性能と本実施形態の成膜性能とを示すグラフである。比較例及び本実施形態において、同じ成膜装置1を用いている。比較例では、予備放電時に電力供給源21のみのコンディショニングを行い、電力供給源22のコンディショニングを行っていない。これに対し、本実施形態では、予備放電時に電力供給源21、22の双方のコンディショニングを行っている。
【0108】
図10(a)の横軸は、スパッタリング成膜の回数であり、基板の番号で示されている。すなわち、基板1枚ごとにスパッタリング成膜が行われる(以下同じ)。図10(a)の縦軸は、スパッタリング成膜を行った場合のスパッタリング膜の厚みの面内平均値(nm)である。スパッタリング時間は、どの回数でも同じである。基板121としては、シリコンウェーハを用いる。
【0109】
比較例では、4回目以降で膜厚が安定するものの、初回から3回目にかけて急激に膜厚が減少する。これに対し、本実施形態では、初回から膜厚が安定している。最大膜厚から最小膜厚を差し引いた値は、比較例では、Δ3.05nmであるのに対し、本実施形態では、Δ1.31nmであった。
【0110】
図10(b)の横軸は、スパッタリング成膜の回数であり、基板の番号で示されている。図10(b)の縦軸は、基板内における厚みの面内分布(1σ(標準偏差)%)である。
【0111】
比較例では、初回から3回目にかけて急激に面内分布が増加し、それ以降で膜厚が安定するのが分かる。これに対し、本実施形態では、初回から面内分布が安定している。
【0112】
図11(a)の横軸は、スパッタリング成膜の回数であり、基板の番号で示されている。図11(b)の縦軸は、スパッタリング膜の屈折率の面内平均値(n)である。
【0113】
比較例では、初回から3回目にかけて急激に屈折率が低下し、それ以降で屈折率が安定する。これに対し、本実施形態では、初回から屈折率が安定している。
【0114】
図11(b)の横軸は、スパッタリング成膜の回数であり、基板の番号で示されている。図11(b)の縦軸は、基板内におけるパーティクルの数である。パーティクルとしては、粒径が0.034μm以上のものがカウントされている。
【0115】
図11(b)に示すように、予備放電時に電力供給源22のコンディショニングを行なっていない比較例と、予備放電時に電力供給源22のコンディショニングを行っている本実施形態とのパーティクル数は、同程度である。例えば、パーティクル数の平均値は、比較例が24pcs(個)、本実施形態が15pcs(個)となり、いずれも25pcs(個)以下となった。すなわち、本実施形態では、電力供給源22のコンディショニングを行っているにもかかわらず、電極12のバイアス電位は、電極12にバイアス電位が印加されていない比較例と同程度となり、シャッタ13、基板12、またはダミー基板からのパーティクル放出が抑えられることが分かった。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上述したコンディショニングは、成膜装置1のほか、3極型のドライエッチング装置にも適用可能である。各実施形態は、独立の形態とは限らず、技術的に可能な限り複合することができる。
【符号の説明】
【0117】
1…成膜装置
11…電極
111…スパッタリングターゲット
112…背面プレート
12…電極
121…基板
122c…最上端
122…凹パターン
125、126、127…スパッタリング膜
125b…凹部
13…シャッタ
21、22…電力供給源
31、32…高周波電源
41、42…整合回路器
411、412、421、422…可変容量
413、423…インダクタンス
415、425…入力端
416、426…出力端
424…センサ
50…位相調整器
60…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11