(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023083771
(43)【公開日】2023-06-16
(54)【発明の名称】アシロキシシラン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/04 20060101AFI20230609BHJP
B01J 31/10 20060101ALI20230609BHJP
B01J 29/08 20060101ALI20230609BHJP
C07F 7/18 20060101ALI20230609BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230609BHJP
【FI】
C07F7/04 M
C07F7/04 H
B01J31/10 Z
B01J29/08 Z
C07F7/18 B
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021197654
(22)【出願日】2021-12-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正安
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【テーマコード(参考)】
4G169
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA10A
4G169BA23A
4G169BA23B
4G169BA45A
4G169BE08A
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB25
4G169CB75
4G169CB80
4G169DA05
4G169ZA05B
4H039CA92
4H039CD40
4H039CD90
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ31
4H049VR21
4H049VR43
4H049VR44
4H049VS21
4H049VT08
4H049VT10
4H049VT22
4H049VT50
4H049VU36
4H049VV08
4H049VW02
4H049VW14
(57)【要約】
【課題】アシロキシシラン類をより効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】アルコキシシラン類とカルボン酸無水物とを、触媒及び添加物の存在下で反応させる反応工程を含み、前記触媒が固体酸触媒であり、前記添加物がカルボン酸である、アシロキシシラン類の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシシラン類とカルボン酸無水物とを、触媒及び添加物の存在下で反応させる反応工程を含み、
前記触媒が固体酸触媒であり、前記添加物がカルボン酸である、アシロキシシラン類の製造方法。
【請求項2】
前記アルコキシシラン類が、下記一般式(I)で表され、前記カルボン酸無水物が、下記一般式(II)で表され、前記アシロキシシラン類が、下記一般式(III)で表される、請求項1に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r) (I)
(式中、p、q、及びrは、それぞれ独立に0以上3以下の整数であり;p+q+rは、0以上3以下の整数であり;R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に炭素数1~24の炭化水素基又は水素原子であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよく;R4は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基である。)
(R5CO)2O (II)
(式中、R5は、炭素数1~24の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r+s)(OCOR5)s (III)
(式中、p、q、r、R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ前記と同義であり;sは、1以上4-(p+q+r)以下の整数である。)
【請求項3】
前記カルボン酸が、一般式(IV)で表される、請求項1又は2に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
R6CO2H (IV)
(式中、R6は、炭素数1~3の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記固体酸触媒が、有機系固体酸及び/又は無機系固体酸である、請求項1~3の何れか1項に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【請求項5】
前記有機系固体酸が、スルホ基及び/又はカルボキシ基を有する固体酸である、請求項4に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【請求項6】
前記無機系固体酸が、規則的細孔及び/又は層状構造を有する無機系固体酸である、請求項4に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【請求項7】
前記無機系固体酸が、ゼオライト及び/又はモンモリロナイトである、請求項4に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【請求項8】
前記反応工程が、フロー式反応システムを用いて行われる、請求項1~7の何れか1項に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシロキシシラン類等の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アシロキシシラン類は、医薬、農薬、電子材料等の精密合成用試薬、及びその合成中間体として利用される他、表面修飾剤、ゾル・ゲル材料、ナノ材料、有機無機ハイブリッド材料用の原料等として利用される機能性化学品である。
アシロキシシラン類の製造方法としてカルボン酸無水物を用いる方法としては、例えば(A)クロロシランとカルボン酸無水物を反応させる方法(特許文献1)、(B)シラノールとカルボン酸無水物を反応させる方法(非特許文献1)、(C)アルコキシシランとカルボン酸無水物を反応させる方法(非特許文献2)、及び(D)アルコキシシランとカルボン酸無水物を、固体酸、ルイス酸等の酸触媒存在下で反応させる方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許発明第882401号明細書
【特許文献2】国際公報第2016/143835号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 1946, 68, 11, 2282-2284
【非特許文献2】J. Org. Chem. 1940, 05, 4, 443-448
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、クロロシランを用いる方法では、(1)加水分解により腐食性の塩化水素を発生するクロロシランを使用するため、原料の取り扱いが容易でない(方法A)、(2)カルボン酸無水物との反応では、加水分解しやすく腐食性の塩化水素を発生しやすい塩化アシルが副生する(方法A)等の問題点がある。また、シラノールを用いる方法(方法B)では、ケイ素化合物等の入手が必ずしも容易でない、あるいは、高価である等の問題点がある。
一方、アルコキシシランを用いる方法(方法C)では、原料の混合物を高温の還流温度で長時間加熱する必要がある等の問題点がある。さらに、アルコキシシランとカルボン酸無水物とを酸性触媒存在下で反応させる方法(方法D)では、酸触媒として固体酸触媒を用いる場合、触媒の劣化のために活性が低下しやすい傾向がある等の問題点があり、工業的により有利な方法が求められている。
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、アシロキシシラン類をより効率的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アルコキシシラン類とカルボン酸無水物との固体酸触媒存在下での反応において、カルボン酸を添加剤として使用することにより、触媒の劣化が抑制され、アシロキシシラン類を効率よく与えることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の製造方法は、次のような特徴を有する。
(1)原料、触媒、及び添加剤が入手し易く、取り扱いが容易で安全性も高い。
(2)固体触媒を利用する反応系のため、触媒の分離、回収等も容易である。
(3)塩化アシルが副生しないため、反応容器等の腐食を抑制できる。
本発明の製造方法は、製造プロセスの低コスト化、高効率化を可能にするもので、従来技術に比べて経済性、環境負荷等の面で大きな利点を有すると考える。
【0008】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
<1>
アルコキシシラン類とカルボン酸無水物とを、触媒及び添加物の存在下で反応させる反応工程を含み、
前記触媒が固体酸触媒であり、前記添加物がカルボン酸である、アシロキシシラン類の製造方法。
<2>
前記アルコキシシラン類が、下記一般式(I)で表され、前記カルボン酸無水物が、下記一般式(II)で表され、前記アシロキシシラン類が、下記一般式(III)で表される、<1>に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r) (I)
(式中、p、q、及びrは、それぞれ独立に0以上3以下の整数であり;p+q+rは、0以上3以下の整数であり;R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に炭素数1~24の炭化水素基又は水素原子であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよく;R4は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基である。)
(R5CO)2O (II)
(式中、R5は、炭素数1~24の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r+s)(OCOR5)s (III)
(式中、p、q、r、R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ前記と同義であり;sは、1以上4-(p+q+r)以下の整数である。)
<3>
前記カルボン酸が、一般式(IV)で表される、<1>又は<2>に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
R6CO2H (IV)
(式中、R6は、炭素数1~3の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。)
<4>
前記固体酸触媒が、有機系固体酸及び/又は無機系固体酸である、<1>~<3>の何れかに記載のアシロキシシラン類の製造方法。
<5>
前記有機系固体酸が、スルホ基及び/又はカルボキシ基を有する固体酸である、<4>に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
<6>
前記無機系固体酸が、規則的細孔及び/又は層状構造を有する無機系固体酸である、<4>に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
<7>
前記無機系固体酸が、ゼオライト及び/又はモンモリロナイトである、<4>に記載のアシロキシシラン類の製造方法。
<8>
前記反応工程が、フロー式反応システムを用いて行われる、<1>~<7>の何れかに記載のアシロキシシラン類の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アシロキシシラン類を従来の方法に比べてより効率的に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、特段の記載がない限り、本明細書中のある式中の記号が他の式においても用いられる場合、同一の記号は同一の意味を示す。
本発明の一実施形態に係るアシロキシシラン類の製造方法は、アルコキシシラン類とカルボン酸無水物とを、触媒及び添加物の存在下で反応させる反応工程を含み、前記触媒は固体酸触媒であり、前記添加物はカルボン酸である。なお、本明細書において、「添加物」とは、反応工程の反応系に意図的に添加された物質を意味し、反応における副生成物(例えば、スキーム6において副生するカルボン酸)を意味するものではない。
【0011】
本実施形態において、原料として使用するアルコキシシラン類は、例えば下記一般式(I)で表される。
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r) (I)
一般式(I)において、p、q、及びrは、それぞれ独立に0以上3以下の整数であり;p+q+rは、0以上3以下の整数である。また、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立に炭素数1~24の炭化水素基又は水素原子であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。R4は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基である。
なお、本明細書において「反応に関与しない」とは、目的とする反応に反応物質として直接関与せず、また、当該反応を阻害しないことを意味する。
【0012】
R1、R2、及びR3で表される炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等が挙げられる。
炭化水素基がアルキル基の場合、アルキル基の炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~18、さらに好ましくは1~10、特に好ましくは1~4である。アルキル基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。
【0013】
反応に関与しない基としては、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のアルコキシカルボニル基、炭素数1~6のジアルキルアミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ハロゲン原子をより具体的に示せば、炭素数1~6のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、ヘキソキシ基等が挙げられ;炭素数1~6のアルコキシカルボニル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等が挙げられ;炭素数1~6のジアルキルアミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられ;ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0014】
反応に関与しない基で置換されていてもよいアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、2-メトキシエチル基、3-エトキシプロピル基、2-メトキシカルボニルエチル基、2-ジメチルアミノエチル基、2-シアノエチル基、トリフルオロメチル基、3-クロロプロピル基等が挙げられる。
【0015】
また、炭化水素基がアリール基の場合、前記アリール基としては、炭化水素環系又は複素環系の1価の芳香族有機基を使用できる。アリール基が炭化水素環系の1価の芳香族有機基である場合、その炭素数は、好ましくは6~22、より好ましくは6~14、さらに好ましくは6~10である。炭化水素環系の1価の芳香族有機基の具体例としては、フェ
ニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基等が挙げられる。また、アリール基が複素環系の1価の芳香族有機基である場合、複素環中のヘテロ原子は硫黄、酸素原子等である。また、複素環系の1価の芳香族有機基の炭素数は、好ましくは4~12、より好ましくは4~8である。複素環系の1価の芳香族有機基の具体例としては、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、フリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基等が挙げられる。
アリール基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部は、反応に関与しない基で置換されていてもよい。反応に関与しない基としては、上記のアルキル基に置換していてもよい反応に関与しない基として示したもの等を挙げることができる。また、その他の反応に関与しない基として、環上の2つの炭素原子を結合させる2価の基であるオキシエチレン基、オキシエチレンオキシ基等が挙げられる。
【0016】
反応に関与しない基で置換されていてもよいアリール基の具体例としては、メチルフェニル基、エチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ブトキシフェニル基、オクトキシフェニル基、メチル(メトキシ)フェニル基、フルオロ(メチル)フェニル基、クロロ(メトキシ)フェニル基、ブロモ(メトキシ)フェニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラニル基、1,4-ベンゾジオキサニル基等が挙げられる。
【0017】
さらに、炭化水素基がアラルキル基の場合には、アラルキル基の炭素数は、好ましくは7~23、より好ましくは7~16である。また、アラルキル基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。
反応に関与しない基としては、上記のアルキル基に置換していてもよい反応に関与しない基として示したもの等を挙げることができる。
【0018】
反応に関与しない基で置換されていてもよいアラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、2-ナフチルメチル基、9-アントリルメチル基、(4-クロロフェニル)メチル基、1-(4-メトキシフェニル)エチル基等が挙げられる。
【0019】
また、炭化水素基がアルケニル基の場合には、アルケニル基の炭素数は、好ましくは2~23、より好ましくは2~20、さらに好ましくは2~10である。また、アルケニル基の炭素原子に結合した炭素上の水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。
反応に関与しない基としては、上記のアルキル基に置換していてもよい反応に関与しない基として示したものの他、上記アリール基等を挙げることができる。
【0020】
反応に関与しない基で置換されていてもよいアルケニル基の具体例としては、ビニル基、2-プロペニル基、3-ブテニル基、5-ヘキセニル基、9-デセニル基、2-フェニルエテニル基、2-(メトキシフェニル)エテニル基、2-ナフチルエテニル基、2-アントリルエテニル基等が挙げられる。
【0021】
R4で表される炭素数1~6のアルキル基の炭素数は、好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
炭素数1~6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0022】
p+q+rは、0以上2以下の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
【0023】
一般式(I)で表されるアルコキシシラン類の具体例としては、トリメチル(メトキシ
)シラン(Me3Si(OMe))、トリメチル(エトキシ)シラン(Me3Si(OEt))、メチルフェニルジ(メトキシ)シラン(MePhSi(OMe)2)、ジメチルジ(メトキシ)シラン(Me2Si(OMe)2)、ジメチルジ(エトキシ)シラン(Me2Si(OEt)2)、ジ(エトキシ)(フェニル)ビニルシラン(PhViSi(OEt)2)、メチルトリ(メトキシ)シラン(MeSi(OMe)3)、メチルトリ(エトキシ)シラン(MeSi(OEt)3)、フェニルトリ(メトキシ)シラン(PhSi(OMe)3)、フェニルトリ(エトキシ)シラン(PhSi(OEt)3)、ビニルトリ(メトキシ)シラン(ViSi(OMe)3)、ビニルトリ(エトキシ)シラン(ViSi(OEt)3)、トリ(メトキシ)シラン(HSi(OMe)3)、トリ(エトキシ)シラン(HSi(OEt)3)、テトラ(メトキシ)シラン(Si(OMe)4)、テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)、テトラ(プロポキシ)シラン(Si(OPr)4)、テトラ(ブトキシ)シラン(Si(OBu)4)等を挙げることができる。
【0024】
一方、上記アルコキシシラン類と反応させるカルボン酸無水物は、例えば下記一般式(II)で表される。
(R5CO)2O (II)
【0025】
一般式(II)において、R5は、炭素数1~24の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。
R5で表される炭化水素基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等が挙げられ、これらは、R1、R2、及びR3の説明において示したアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等と同様に定義される。また、反応に関与しない基としては、上記一般式(I)のR1、R2、及びR3の説明において示した反応に関与しない基等を挙げることができる。
炭化水素基中の炭素数に関しては、炭化水素基がアルキル基の場合には、好ましくは1~20、より好ましくは1~18、さらに好ましくは1~12、特に好ましくは1~6であり;炭化水素基がアリール基の場合には、好ましくは4~20、より好ましくは4~18であり;炭化水素基がアラルキル基の場合には、好ましくは5~21、より好ましくは5~19であり;炭化水素基がアルケニル基の場合には、好ましくは2~20、より好ましくは2~18である。
これらの炭化水素基の具体例としては、上記一般式(I)のR1、R2、及びR3の説明において示した炭化水素基等を挙げることができる。
【0026】
一般式(II)で表されるカルボン酸無水物の具体例としては、酢酸無水物(Ac2O)、プロピオン酸無水物((EtCO)2O)、酪酸無水物(PrCO)2O)、イソ酪酸無水物((iPr2CO)2O)、吉草酸無水物((BuCO)2O)、イソ吉草酸無水物((iPrCH2CO)2O)、ピバル酸無水物((tBuCO)2O)、ヘキサン酸無水物((PentCO)2O)、ヘプタン酸無水物((HexCO)2O)、シクロヘキサンカルボン酸無水物((cyc-HexCO)2O)、オクタン酸無水物((HeptCO)2O)、ノナン酸無水物((OctCO)2O)、デカン酸無水物([Me(CH2)8CO]2O)、ラウリン酸無水物([Me(CH2)9CO]2O)、ミリスチン酸無水物([Me(CH2)12CO]2O)、パルミチン酸無水物([Me(CH2)14CO]2O)、ステアリン酸無水物([Me(CH2)16CO]2O)、ジフルオロ酢酸無水物((CHF2CO)2O)、トリフルオロ酢酸無水物((CF3CO)2O)、トリクロロ酢酸無水物((CCl3CO)2O)、クロロジフルオロ酢酸無水物((CF2ClCO)2O)、安息香酸無水物((PhCO)2O)、トルイル酸無水物((MeC6H4CO)2O)、ナフトエ酸無水物((C10H7CO)2O)、フェニル酢酸無水物((PhCH2CO)2O)、クロトン酸無水物((MeCH=CHCO)2O)、オレイン酸無水物([OctCH=CH(CH2)7CO]2O)等が挙げられ、好ましくは酢酸無水物(Ac2O)及びトリフルオロ酢酸無水物((CF3CO)2O)である。
【0027】
アルコキシシラン類に対するカルボン酸無水物の比は任意に選ぶことができるが、アルコキシシラン類を基準としたアシロキシシラン類の収率を考慮すれば、モル比又は重量比では、通常0.4以上300以下であり、より好ましくは0.5以上200以下であり、さらに好ましくは0.5以上150以下であり、特に好ましくは0.5以上10以下である。
【0028】
本実施形態においては、上記一般式(I)で表されるアルコキシシラン類と、上記一般式(II)で表されるカルボン酸無水物との反応により、下記一般式(III)で表されるアシロキシシラン類を製造できる。
R1
pR2
qR3
rSi(OR4)4-(p+q+r+s)(OCOR5)s (III)
【0029】
一般式(III)中のp、q、r、R1、R2、R3、R4、及びR5は、それぞれ前記と同義であり、それらの具体例としては、上記一般式(I)及び(II)で示したもの等を挙げることができる。また、sは、1以上4-(p+q+r)以下の整数であり、好ましくは1又は2である。
【0030】
また、反応工程において、添加物として反応系内に加えるカルボン酸は、例えば下記一般式(IV)で表される。
R6CO2H (IV)
【0031】
一般式(IV)において、R6は、炭素数1~3の炭化水素基であり、前記炭化水素基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が反応に関与しない基で置換されていてもよい。
それら炭化水素基としては、アルキル基等が挙げられ、前記アルキル基は、R1、R2、及びR3の説明において示したアルキル基と同様に定義される。反応に関与しない基としては、上記一般式(I)のR1、R2、及びR3の説明において示した反応に関与しない基等を挙げることができる。
炭化水素基中の炭素数に関しては、炭化水素基がアルキル基の場合には、好ましくは1~2である。
これらの炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。
【0032】
一般式(IV)で表されるカルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、好ましくは酢酸及びトリフルオロ酢酸である。
【0033】
アルコキシシラン類に対するカルボン酸の比は任意に選ぶことができるが、モル比又は重量では、通常0.001以上10以下であり、より好ましくは0.005以上2以下であり、さらに好ましくは0.01以上1以下であり、特に好ましくは0.01以上0.5以下である。
【0034】
本実施形態における反応工程は、アルコキシ基を有する原料であるアルコキシシラン類に対するカルボン酸無水物による求核的置換反応を伴う。
したがって、前記一般式(I)で表されるアルコキシシラン類と前記一般式(II)で表されるカルボン酸無水物とを反応させる場合、カルボン酸エステルの脱離を伴う。その場合の反応工程は、下記スキーム1~4のように反応が進行すると考えられる。スキーム1~4は、それぞれ、アルコキシシラン類がモノアルコキシシラン類、ジアルコキシシラ
ン類、トリアルコキシシラン類、及びテトラアルコキシシラン類である場合のスキームである。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
すなわち、本実施形態に係る製造方法により得られるアシロキシシラン類は、モノアルコキシシラン類を原料とする場合は1種類であるが、ジアルコキシシラン類、トリアルコキシシラン類、テトラアルコキシシラン類を原料とする場合は、1種類のアシロキシシラン類に限られるものではない。例えばジアルコキシシラン類を原料とする場合、得られるアシロキシシラン類は、アルコキシ基が1つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が2つ置換されたアシロキシシラン類、又はこれらの混合物であってもよいことを意味する。さらにトリアルコキシシラン類を原料とする場合、得られるアシロキシシラン類は、アルコキシ基が1つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が2つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が3つ置換されたアシロキシシラン類、又はこれらの混合物であってもよい。加えてテトラアルコキシシラン類を原料とする場合、得られるアシロキシシラン類は、アルコキシ基が1つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が2つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が3つ置換されたアシロキシシラン類、アルコキシ基が4つ置換されたアシロキシシラン類、又はこれらの混合物であってもよいことを意味する。
【0040】
反応工程で使用する固体酸触媒は、例えば下記スキーム5のような反応形式で、アルコキシシラン類からのアシロキシシラン類の生成を促進していると考えられる。
【0041】
【0042】
すなわち、スキーム5では、(a)固体酸触媒による無水酢酸のカルボニル酸素のプロトン化、(b)カルボニル炭素に対するアルコキシシランの求核攻撃、及び(c)6員環状遷移状態を経由した、アシロキシシラン類とカルボン酸エステルの生成と固体酸触媒の再生、の経路が循環することによって、触媒反応が進行すると考えられる。
【0043】
一方、固体酸触媒の酸性部位(例えばスルホ基)は、下記スキーム6に示すように、本反応系で生成したアシロキシラン類との反応により、カルボン酸の放出を伴って、シリルエステルに変換される可能性がある。
【0044】
【0045】
このようなシリルエステル化反応が進行すると、固体酸触媒の酸性部位が減少し、触媒活性低下(不活性化)の原因となる。
このシリルエステル化ではカルボン酸が生成するため、反応系にカルボン酸を添加することにより、シリルエステル化を抑制できる可能性がある。反応工程におけるカルボン酸の添加は、そのようなシリルエステル化反応を抑えて、触媒活性の低下を抑制する効果があると考えられる。
【0046】
反応工程において使用する触媒としては、従来公知の各種の有機系固体酸触媒及び無機系固体酸触媒を使用できる。
有機系固体酸触媒は、酸性官能基を有するポリマー等である。酸性官能基の種類としては、スルホ基、カルボキシ基、ホスホリル基等が挙げられ、ポリマーの種類としては、パーフルオロ側鎖を有するテフロン(登録商標)骨格ポリマー、スチレン-ジビニルベンゼン共重合ポリマー等が挙げられる。
有機系固体酸触媒の具体例としては、スルホ基を有する、ナフィオン(NAFION(登録商標)、デュポン社より入手可能)、ダウエックス(DOWEX(登録商標)、ダウ・ケミカル社より入手可能)、アンバーライト(AMBERLITE(登録商標)、ローム&ハス社より入手可能)、アンバーリスト(AMBERLYST(登録商標)、ダウ・ケミカル社より入手可能)、ピュロライト(Purolite(登録商標)、ピュロライト社より入手可能)等が挙げられる。それらをより具体的に示せば、ナフィオンNR50、ダウエックス50WX2、ダウエックス50WX4、ダウエックス50WX8、アンバーライトIR120、アンバーライトIRP-64、アンバーリスト15、アンバーリスト36等を挙げることができる。
さらに、シリカ等の無機物にナフィオン等の有機系固体酸を担持した触媒(例えばナフィオンSAC-13等)を用いることもできる。
【0047】
一方、無機系固体酸触媒としては、金属塩、金属酸化物等の固体無機物等が挙げられる。それらをより具体的に示せば、プロトン性水素原子又は金属カチオン(アルミニウム、チタン、ガリウム、鉄、セリウム、スカンジウム等のカチオン)を有するゼオライト、メソポーラスシリカ、モンモリロナイト等の他、シリカゲル、ヘテロポリ酸、カーボン系素材等を担体とする無機系固体酸が挙げられる。
これらの中では、触媒活性及び生成物に対する選択性等の点で、規則的細孔及び/又は層状構造を有する無機系固体酸であるゼオライト、メソポーラスシリカ、及びモンモリロナイトから選択される固体酸が好ましく、ゼオライト及びモンモリロナイトから選択される固体酸がより好ましく使用される。無機系固体酸の規則的細孔及び/又は層状構造の種類にとくに制限はないが、反応する分子及び生成する分子の拡散のしやすさを考慮すると、細孔構造を有する固体酸触媒では、細孔径が通常0.2~20nm、好ましくは、0.3~15nm、より好ましくは0.3~10nmの範囲内のものである。また、層状構造を有する固体酸触媒では、層間距離が通常0.2~20nm、好ましくは、0.3~15nm、より好ましくは0.3~10nmの範囲内のものである。
【0048】
規則的細孔構造を有する無機系固体酸触媒としてゼオライトを使用する場合、その種類としては、Y型、ベータ型、ZSM-5型、モルデナイト型、SAPO型等の基本骨格を有する各種のゼオライトが使用可能である。また、Y型ゼオライト(Na-Y)を二次的処理して得られる、SUSY型(Super Ultrastable Y)、VUSY型(Very Ultrastable Y)、SDUSY型(Super dealuminated ultrastable Y)等として知られるUSY型(Ultrastable Y、超安定Y型)のものも好ましく使用できる(USY型については、例えば“Molecular Sieves”、Advances in Chemistry、Volume 121、American Chemical Society、1973、Chapter 9等を参照)。
【0049】
反応速度の点では、これらゼオライトの中では、USY型、ベータ型、Y型、ZSM-
5型、及びモルデナイト型が好ましく、USY型、ベータ型、及びY型がより好ましく、USY型及びベータ型がさらに好ましい。また、複数のアルコキシ基の一部又は全部を選択的にアシロキシ基に変換するためのゼオライトとしても、USY型及びベータ型が好ましい。
これらゼオライトにおいては、プロトン性水素原子を有するブレンステッド酸型のもの、金属カチオンを有するルイス酸型のもの等、各種のゼオライトを使用できる。この中で、プロトン性水素原子を有するプロトン型のものは、H-Y型、H-SDUSY型、H-SUSY型、H-ベータ型、H-モルデナイト型、H-ZSM-5型等で表される。また、アンモニウム型のものである、NH4-Y型、NH4-VUSY型、NH4-ベータ型、NH4-モルデナイト型、NH4-ZSM-5型等のゼオライトを焼成して、プロトン型に変換したものも使用することができる。
【0050】
さらに、ゼオライトのシリカ/アルミナ比(物質量比)については、反応条件に応じて各種の比を選択できるが、通常は3~1000であり、好ましくは3~800、より好ましくは5~600、さらに好ましくは5~400である。
【0051】
それらゼオライトとしては、市販品を含む各種のものを使用できる。市販品の具体例を示すと、USY型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCBV760、CBV780、CBV720、CBV712、CBV600等が挙げられ;Y型ゼオライトとしては、東ソー社より市販されているHSZ-360HOA、HSZ-320HOA等が挙げられる。また、ベータ型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCP811C、CP814N、CP7119、CP814E、CP7105、CP814CN、CP811TL、CP814T、CP814Q、CP811Q、CP811E-75、CP811E、CP811C-300等;東ソー社より市販されているHSZ-930HOA、HSZ-940HOA等;UOP社より市販されているUOP-Beta等;が挙げられる。さらに、モルデナイト型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCBV21A、CBV90A等;東ソー社より市販されているHSZ-660HOA、HSZ-620HOA、HSZ-690HOA等;が挙げられ、ZSM-5型ゼオライトとしては、ゼオリスト社より市販されているCBV5524G、CBV8020、CBV8014N等が挙げられる。
有機系固体酸触媒及び無機系固体酸触媒は、それぞれ単独で使用できるが、複数の固体酸触媒を任意の比率及び組み合わせで使用することもできる。
【0052】
原料に対する触媒量は、任意に決めることができるが、重量比では、通常0.0001~10程度で、好ましくは0.001~8程度、より好ましくは0.001~6程度である。
【0053】
反応工程おける反応は、反応温度、反応圧力等に応じて、液相又は気相状態で行うことができる。
反応温度は、通常は-20℃以上、好ましくは-10~300℃、より好ましくは、-10~200℃、さらに好ましくは0~150℃である。また、アルコールの反応性を制御するために、室温で反応を行う場合には、室温の温度範囲としては、通常0~40℃、好ましくは5~40℃、より好ましくは10~35℃である。
さらに、反応圧力は、通常0.1~100気圧で、好ましくは0.1~50気圧、より好ましくは0.1~10気圧である。
反応時間は、原料の量、触媒の量、反応温度、反応装置の形態等に依存するが、生産性及び効率を考慮すると、通常0.1~1200分、好ましくは0.1~600分、より好ましくは0.1~300分程度である。
【0054】
また、反応を液相系で行う場合、溶媒の有無にかかわらず実施できる。溶媒を用いる場
合、溶媒としては、デカリン(デカヒドロナフタレン)、デカン等の炭化水素;クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,3-ジクロロベンゼン、1,2-トリクロロベンゼン、1,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;tert-ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル;等のように、原料と反応しない各種の溶媒が使用可能である。溶媒は、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いることもできる。また、反応を気相で行う場合には、窒素等の不活性ガスを混合して反応を行うこともできる。
【0055】
反応工程は、マイクロ波照射下で行うこともできる。本反応系では、カルボン酸無水物、触媒等の誘電損失係数が比較的大きく、マイクロ波を効率よく吸収するため、マイクロ波照射下ではカルボン酸無水物、触媒等が活性化され、反応をより効率的に行うことができる。
【0056】
マイクロ波照射反応では、接触式又は非接触式の温度センサーを備えた各種の市販装置等を使用できる。また、マイクロ波照射の出力、キャビティの種類(マルチモード、シングルモード)、照射の形態(連続的、断続的)等は、反応のスケール、原料の種類、触媒の種類、添加物の種類等に応じて任意に決めることができる。マイクロ波の周波数としては、通常、0.3~30GHzである。その中で好ましいのは、産業分野、科学分野、医療分野等で使用するために割り当てられたIMS周波数帯で、さらにその中でも、2.45GHz帯、5.8GHz帯等がより好ましい。
【0057】
また、マイクロ波照射反応では、反応系をより効率よく加熱するために、マイクロ波を吸収して発熱する加熱材(サセプター)を反応系に添加することができる。加熱材の種類としては、活性炭、黒鉛、炭化ケイ素、炭化チタン等、従来公知の各種のものを使用できる。また、先に記載した触媒と加熱材の粉末を混合して、セピオライト、ホルマイト等の適当なバインダーを利用して焼成加工した成形触媒を用いることもできる。
【0058】
本実施形態における反応工程は、密閉系の反応装置でも進行するが、反応装置を開放系にして、反応生成物を反応系外に連続的に除去することにより、反応をより効率的に進行させることもできる。
【0059】
また、反応装置の形態としては、バッチ式、フロー式等、従来知られている各種形態で行うことができる。
フロー式反応システムは、反応のスケールアップに有効な製造方法であるが、前記スキーム6に示すような、酸性部位のシリル化による固体酸触媒の失活が生じた場合、生成するカルボン酸が反応系外に流出してしまうため、生成したカルボン酸が反応系内に留まるバッチ式反応システムに比べて、触媒の失活が早く起こりやすいという問題があった。
したがって、反応系にカルボン酸を添加して反応を行う本実施形態に係る製造方法は、フロー式反応システムにおいて、とくに効果的に実施できると考えられる。
なお、フロー式反応システムにおいては、送液ポンプとして、ペリスタルティックポンプ、プランジャーポンプ等、従来公知の各種の方式のポンプを使用できる。これらのポンプの中で、原料、生成物等の反応性が高く、それらの分解による汚染等を生じやすい場合には、ポンプ内流路、配管等の洗浄及び交換を行いやすいという点において、ペリスタルティックポンプが有利である。
また、フロー式反応システムでは、原料の混合液を、触媒を充填したカラムに1回だけ流す方式だけでなく、カラムからの流出液を原料の混合液に戻して、循環させながら反応を行う方式も効果的に利用できる。
【0060】
本実施形態に係る製造方法では、固体酸触媒を使用するため、バッチ式反応システムでも、反応後の触媒の分離及び回収は、濾過、遠心分離等の方法により容易に行うことがで
きる。
また、生成したアシロキシシラン類の精製も、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の有機化学上通常用いられる手段により容易に達せられる。
【実施例0061】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例で使用した主な分析装置等は、以下の通りである。
・核磁気共鳴スペクトル分析(以下、NMRと称する場合がある。):ブルカー製 AVANCE III HD 600MHz(クライオプローブ装着)
・ガスクロマトグラフ分析(以下、GCと称する場合がある。):島津製作所製 GC-2014
・ガスクロマトグラフ質量分析(以下、GC-MSと称する場合がある。):島津製作所製 GCMS-QP2010Plus
【0062】
本発明の反応は、密閉型のバッチ式反応システム、開放型のフロー式反応システム、いずれの形式で行うこともできる。
まず、バッチ式反応システムの実施例を次に示す。
【0063】
(実施例1)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)2.0mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)1.8mmol、酢酸(AcOH)0.4mmol、及びアンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)4mgの混合物を、密閉型の反応容器中、約25℃(室温)で30分攪拌した。生成物をGC、GC-MS、及びNMRで分析し、生成物の収率をNMRで算出した結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)が、それぞれ、41%及び5%の収率(合計収率は46%)で生成したことがわかった(表1-1、表2参照)。
【0064】
(実施例2~36)
反応条件(原料、触媒、時間等)を表1-1~表1-4に示す通りに変えた他は実施例1と同様に反応及び分析を行い、生成物の収率をNMRで算出した。結果を表1-1~表1-4に示す。また、生成物のNMR及びGC-MSの測定結果を表2に示す。
【0065】
(比較例1~36)
添加物を使用しない他は実施例1~36と同じ条件で反応を行った。反応及び分析を行い、生成物の収率をNMRで算出した。結果を表1-5~表1-8に示す。
なお、比較例6、7、16、17、及び18は、それぞれ比較例4、5、13、14、及び15と同一の実験例である。
【0066】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【0067】
表1-1~表1-8中の注釈を以下に示す。
1) 反応は、室温(約25℃)で、密閉系容器を用いて行った。
2) Si(OEt)4:テトラ(エトキシ)シラン
Si(OMe)4:テトラ(メトキシ)シラン
MeSi(OEt)3:メチルトリ(エトキシ)シラン
PhSi(OEt)3:フェニルトリ(エトキシ)シラン
ViSi(OEt)3:ビニルトリ(エトキシ)シラン
3) Ac2O:酢酸無水物
(CF3CO)2O:トリフルオロ酢酸無水物
4) Amberlyst15:スルホ基含有ポリマーAmberlyst15(ダウ・ケミカル社製)
Purolite CT175:スルホ基含有ポリマーPurolite CT175(ピュロライト社製)
CBV780:H-SDUSY型ゼオライトCBV780(ゼオリスト社製、500℃で焼成後に使用)
5) AcOH:酢酸
CF3CO2H:トリフルオロ酢酸
6) 括弧内の数字は、アルコキシ基がアシロキシ基で置換された複数の生成物に関して、それらの割合を示す。
Si(OEt)3(OAc):(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン
Si(OEt)2(OAc)2:ジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン
Si(OMe)3(OAc):(アセトキシ)トリ(メトキシ)シラン
Si(OMe)2(OAc)2:ジ(アセトキシ)ジ(メトキシ)シラン
Si(OEt)3(OCOCF3):トリ(エトキシ)(トリフルオロアセトキシ)シラン
Si(OEt)2(OCOCF3)2:ジ(エトキシ)ビス(トリフルオロアセトキシ)シラン
Si(OMe)3(OCOCF3):トリ(メトキシ)(トリフルオロアセトキシ)シラン
Si(OMe)2(OCOCF3)2:ジ(メトキシ)ビス(トリフルオロアセトキシ)シラン
MeSi(OEt)2(OAc):(アセトキシ)ジ(エトキシ)メチルシラン
MeSi(OEt)(OAc)2:ジ(アセトキシ)(エトキシ)メチルシラン
PhSi(OEt)2(OAc):(アセトキシ)ジ(エトキシ)フェニルシラン
PhSi(OEt)(OAc)2:ジ(アセトキシ)(エトキシ)フェニルシラン
ViSi(OEt)2(OAc):(アセトキシ)ジ(エトキシ)ビニルシラン
ViSi(OEt)(OAc)2:ジ(アセトキシ)(エトキシ)ビニルシラン
7) アシロキシシランの収率は、1H又は29Si NMRにおける生成物の積分比より算出した。複数のアシロキシシランが生成する場合は、それらの合計収率を示す。なお、カルボン酸無水物/アルコキシシランのモル比が1未満の場合は、原料のアルコキシシランに対する収率をカルボン酸無水物の仕込み比で補正した収率を示した。
8) 収率の比、1置換体収率の比、及び、2置換体収率の比は、カルボン酸を添加して反応を行った場合の収率、1置換体収率、及び、2置換体収率を、カルボン酸無添加で反応を行った場合のそれぞれの収率で割って得られた数値である。それらの数値が1より大きい場合、カルボン酸の添加によりそれらの収率が上昇したことを示す。
【0068】
【0069】
表2中の注釈を以下に示す。
1) アシロキシシランの名称は、表1-1~表1-8、注6参照。
2) 重クロロホルム中の測定値。
3) GC-MS (EI, 70eV)。
【0070】
表1-1より、酢酸を添加した実施例1では、酢酸を添加しなかった比較例1と比べて、合計収率が1.5倍、1置換体収率が1.4倍、2置換体収率が1.7倍になることがわかった。
【0071】
表1-1~表1-8の結果は、複数のアルコキシ基を有する原料を用いた反応系において、カルボン酸を添加した反応系では、カルボン酸を添加しなかった反応系に比べて、1置換体と2置換体の合計収率及び1置換収率において最大で2.5倍程度、2置換体収率において最大で3倍程度、それらの数値が上昇することを示している。
また、1置換体と2置換体の生成に対する影響を比較すると、とくに2置換体生成において、カルボン酸の添加効果が大きいと考えられる。
【0072】
次に、フロー式反応システムの実施例を以下に示す。
(実施例37)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)40mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)44mmol、及び酢酸(AcOH)2mmolの混合液を、ペリスタルティックポンプを用いて、約0.55mL/minの流速で、アンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)0.31gを充填したガラスカラムに流して、反応液を分取した。分取量が10%まで、10~20%まで、及び20~35%までの各分取試料をNMRで分析し、生成物の収率を算出した。
その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)の収率は、分取量が10%までの成分では49%と20%(合計69%)、分取量が10~20%までの成分では49%と17%(合計66%)、分取量が20~35%までの成分では47%と12%(合計59%)と算出されることがわかった。
【0073】
(比較例37)
酢酸を添加しない他は実施例37と同じ条件で反応を行った。その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シランとジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シランの収率は、分取量が10%までの成分では45%と17%(合計62%)、分取量が10~20%までの成分では39%と9%(合計48%)、分取量が20~35%までの成分では30%と6%(合計36%)と算出された。
【0074】
実施例37及び比較例37より、酢酸を添加した場合は、添加しなかった場合に比べて、分取量が10%まで、10~20%、及び20~30%までの各分取試料において、合計収率がそれぞれ、1.1倍、1.4倍、及び1.6倍、上昇することがわかった。酢酸を添加して実施したフロー式反応における合計収率の上昇は、酢酸の添加により触媒活性の低下を抑制できたためと考えられる。
【0075】
また、カルボン酸の添加量、カルボン酸無水物の仕込み量等を変えて、同様にフロー式反応システムで反応を行った実施例を次に示す。
【0076】
(実施例38)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)40mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)44mmol、及び酢酸(AcOH)6mmolの混合液を、ペリスタルティ
ックポンプを用いて、約0.55mL/minの流速で、アンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)0.31gを充填したガラスカラムに流して、反応液を分取した。分取量が10%まで、10~20%まで、及び20~35%までの各分取試料をNMRで分析し、生成物の収率を算出した。
その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)の収率は、分取量が10%までの成分では51%と21%(合計72%)、分取量が10~20%までの成分では49%と19%(合計68%)、分取量が20~35%までの成分では47%と16%(合計63%)と算出された。
【0077】
(実施例39)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)80mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)72mmol、及び酢酸(AcOH)8mmolの混合液を、ペリスタルティックポンプを用いて、約0.55mL/minの流速で、アンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)0.33gを充填したガラスカラムに流して、反応液を分取した。分取量が10%まで、10~20%まで、及び20~35%までの各分取試料をNMRで分析し、生成物の収率を算出した。
その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)の収率は、分取量が10%までの成分では52%と15%(合計67%)、分取量が10~20%までの成分では48%と15%(合計63%)、分取量が20~35%までの成分では46%と14%(合計60%)と算出された。
【0078】
(実施例40)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)80mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)72mmol、及び酢酸(AcOH)8mmolの混合液を、ペリスタルティックポンプを用いて、約0.35mL/minの流速で、アンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)0.33gを充填したガラスカラムに流して、反応液を分取した。分取量が10%まで、10~20%まで、及び20~35%までの各分取試料をNMRで分析し、生成物の収率を算出した。
その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)の収率は、分取量が10%までの成分では54%と19%(合計73%)、分取量が10~20%までの成分では50%と18%(合計68%)、分取量が20~35%までの成分では48%と15%(合計63%)と算出された。
【0079】
さらに、フロー式反応システムにおいて、触媒カラムからの流出液を原料の混合液の容器に戻して、反応液を循環させる方式で反応を行った実施例を次に示す。
【0080】
(実施例41)
テトラ(エトキシ)シラン(Si(OEt)4)80mmol、酢酸無水物((MeCO)2O)72mmol、及び酢酸(AcOH)8mmolの混合液を、ペリスタルティックポンプを用いて、約1.1mL/minの流速で、アンバーリスト15(Amberlyst15、ダウ・ケミカル社製)0.56gを充填したガラスカラムに流し、カラムから流出した反応液を原料の混合液に戻して反応液を循環させた。触媒カラムからの流出液の一部を、0.5時間後、1時間後、1.5時間後、及び2時間後に採取して、流出液の成分をNMRで分析し、生成物の収率を算出した。
その結果、(アセトキシ)トリ(エトキシ)シラン(Si(OEt)3(OAc)、1置換体生成物)とジ(アセトキシ)ジ(エトキシ)シラン(Si(OEt)2(OAc)2、2置換体生成物)の収率は、0.5時間後の流出液では39%と7%(合計46%)
、1時間後の流出液では51%と10%(合計61%)、1.5時間後の流出液では58%と12%(合計70%)、2時間後の流出液では60%と13%(合計73%)と算出された。また、酢酸無水物の転化率は、0.5時間後の流出液では59%、1時間後の流出液では79%、1.5時間後の流出液では91%、2時間後の流出液では96%と算出された。したがって、本実施例の条件では、循環方式で約2時間程度反応を行うことにより、反応をほぼ終了(酢酸無水物の転化率≧95%)にできることがわかった。
本発明の製造方法により、機能性化学品として有用なアシロキシシラン類をより効率的かつ安全に製造できるため、本発明の利用価値は高く、その工業的意義は多大である。